説明

光ファイバケーブル及び配線方法

【課題】本発明の課題は、光配線作業を迅速に行って施工効率を向上させることでき、あらゆる長さの配線においても効率的である光ファイバケーブルを提供することにある。
【解決手段】本発明は、外被シース31により単数もしくは複数本の光ファイバ32をテンションメンバ33と一体に被覆した光ファイバケーブルであって、前記テンションメンバ33もしくは外被シース31の少なくとも一方が、ケーブル軸方向に弾性機能を有する記憶形状の形状記憶材料を用いて構成されたことを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋外及び屋内における光ファイバを利用した情報配線の構成物品である光ファイバケーブル及びその光ファイバケーブルを用いた配線方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、FTTH(Fiber To The Home)の進展により、戸建て住宅及び集合住宅への光ファイバケーブルの引き込み配線が一般的となってきている。このような光配線においては、光ドロップケーブル、インドアケーブル、ターミネーションケーブルが用いられている。
【0003】
図4は従来の光ドロップケーブルを示す断面図である。図4に示すように、光ファイバ11、繊維強化プラスティック(FRP)よりなるテンションメンバ12、鋼線よりなる支持線13が難燃性ポリエチレンよりなる外被シース14により一体に被覆され、前記外被シース14にはノッチ15が設けられている。すなわち、ケーブルに加わる曲げや張力から、光ファイバ11の光損失増加や破断を防止するために補強材となるテンションメンバ12と光ファイバ11が一体となった構造を有している。これまで光ドロップケーブルを引き込み配線する際には、非特許文献1に記載されているように、屋外光キャビネット内の心線収容トレイに光ファイバ余長を所定の曲げ半径にて巻き取って収容するのが一般的であった。
【0004】
一方、近年、光ファイバに関する研究開発は大幅に進展し、大容量のデータを高速に伝送するため、種々の光ファイバ構造及び光ファイバシステムの提案が行われている。
【0005】
図5は従来のフォトニック結晶ファイバを示し断面図である。図5に示すように、石英ガラスよりなるクラッド21の中心部には石英ガラスまたはゲルマニウムを添加した石英ガラスよりなるコア22が設けられ、前記コア22の近傍には多数個の空孔23が設けられる。すなわち、光ファイバの中心部付近に多数個の空孔23を設け、等価的にコア22よりも屈折率を下げることでコア22に光を閉じ込め導波させるフォトニック結晶ファイバと呼ばれる光ファイバが提案されている。この光ファイバは、光ファイバの零分散波長が幅広く変化するため可視領域での零分散、光ファイバを曲げたときの光損失増加を大幅に抑制できるなどのこれまでの光ファイバと異なった大きな特徴を有している。
【0006】
図6は従来のフォトニック結晶ファイバの曲げによる光損失増加特性を従来の光ファイバと比較して示す特性図である。すなわち、光ファイバ中心部に6個の空孔を設けたフォトニック結晶ファイバと従来の他の光ファイバの曲げによる光損失増加特性を示し、これにより、光ファイバ中心部に空孔を設けることで光の閉じ込め効果が増大し、光ファイバを曲げ半径5mm程度まで曲げても光損失が増加しないことがわかる。
【0007】
また非特許文献2に示すように、光ファイバを用いた光カールコードが販売されている。これは、両端コネクタ付の光コードの中央部に直径16mmのカール部を設け伸縮性を持たせたもので、任意の2点間を効率的に配線することができ、また、機械の可動部分に沿って配線することもできる。
【0008】
【非特許文献1】青山 浩 他著 「FTTHの即応化・経済化を実現する宅内光配線技術」NTT技術ジャーナル Vol.17 No.2 2005年2月 p.42−45
【非特許文献2】日本電信電話株式会社 「News Release」[online] 2005年5月31日検索 インターネット<URL:http://www.ntt-at.co.jp/news/2005/release02.html
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の光ドロップケーブル、インドアケーブル、ターミネーションケーブルを利用した光配線においては、光ファイバケーブルを配線長に厳密にあわせて切断し、光ファイバの接続作業を行い、ケーブルの余長部分を収納するといった作業が必要となり、配線作業が繁雑で時間がかかるという問題があげられる。さらに、光ファイバが曲げによる光損失が増加しないように、決められた曲げ半径に余長を収納する作業が繁雑で時間がかかるという問題があげられる。また、伸縮させることができる前記光カールコードを用いた場合においても、個々の現場における所望の配線長は大きく分布するために、非常に長い光ファイバをカール状にして用いることはコストが高いという課題がある。さらに、全体をカールにするのではなく、コードの端部近傍のみをカール状にするという方法も考えられるが、個々の現場で必要となる配線長全てに対応可能な光カールコードを製造時に用意するのは事実上、困難であるという課題がある。
【0010】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、光ファイバケーブルのテンションメンバもしくは外被シースの少なくとも一方が、ケーブル軸方向に弾性機能を有する記憶形状の形状記憶材料を用いて構成することにより、光配線作業を迅速に行って施工効率を向上させることでき、あらゆる長さの配線においても効率的である光ファイバケーブル及び配線方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明は、外被シースにより単数もしくは複数本の光ファイバをテンションメンバと一体に被覆した光ファイバケーブルであって、前記テンションメンバもしくは外被シースの少なくとも一方が、ケーブル軸方向に弾性機能を有する記憶形状の形状記憶材料を用いて構成されたことを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の光ファイバケーブルは、光ファイバとして、フォトニック結晶ファイバを用いたことを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の光ファイバケーブルは、形状記憶材料の記憶形状が、コイル状であることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の光ファイバケーブルは、形状記憶材料が、加熱により記憶形状に変形することを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の光ファイバケーブルは、外被シースを円柱状に形成し、光ファイバを中心軸部に配置し、前記光ファイバを挟んで対向した位置にテンションメンバを配置し、さらに、前記外被シースの外周面の前記テンションメンバがない対向した位置に、軸方向に溝状のノッチを設けたことを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の配線方法は、前記光ファイバケーブルを所定の長さに切断する第1のステップと、第1のステップの後、前記光ファイバケーブルの所定の部分を加熱してケーブル軸方向に弾性機能を有する記憶形状に変形する第2のステップと、第2のステップの後、前記光ファイバケーブルの接続作業を行う第3のステップとよりなることを特徴とする。
【0017】
本発明は、光配線時に光ファイバケーブル自体に余長処理機能を持たせることができるように、例えばコイルばね状に変形可能な光ファイバケーブルによって光配線作業の施工効率を向上させる。具体的には、テンションメンバまたは外被シースの少なくとも一方に、形状記憶合金または形状記憶プラスティックなどの形状記憶材料を用い、光配線時に熱などを変形させたい部分に付与することによって、所望のコイル径で例えばコイルばねに変形させた後に、コイルばねの伸縮を利用して光配線作業を行うことができる特徴を有する光ファイバケーブルである。特に、小径の曲げが加えられても曲げによる光損失が生じないというフォトニック結晶ファイバを実装することで、前記コイル径をより一層小さくすることが可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、光ファイバケーブル自体が伸縮可能となり、配線長に合わせて厳密に光ファイバケーブルを切断する必要がなく、おおまかに光ファイバケーブル長を決めることができるため、光配線作業を迅速に行うことが可能であり、施工効率を向上させることが可能である。また、光カールコードを用いた配線と比較しても、配線長に近い長さの光ファイバを用いることができるため、コスト的にメリットがある。特に、光ドロップケーブルのように、個々の現場で所望される配線長が大きく分布している場合、光カールコードでは、全てに対応できる長さを用意するのは困難であるのに対して、本発明は現場で必要な部分だけを伸縮自在にできるため、あらゆる長さの配線においても効率的である。さらに、ケーブルの余長を収納する際には、コイル状に変形した部分を縮めてコンパクトに収納することが可能である。またケーブルの余長を収納しなくても、接続部だけ固定すれば、コイル状に変形した部分を露出したまま使用することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下図面を参照して本発明の実施の形態例を詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態例に係る光ドロップケーブルを示す断面図である。図1に示すように、難燃性形状記憶材料またはポリエチレン樹脂よりなる外被シース31により、単数(もしくは複数本)の例えばフォトニック結晶ファイバ等よりなる光ファイバ32を形状記憶材料または繊維強化プラスティック(FRP)よりなるテンションメンバ33と一体に被覆した光ファイバケーブルであり、前記テンションメンバ33もしくは外被シース31の少なくとも一方が、ケーブル軸方向に弾性機能を有する例えばコイル状の記憶形状よりなる形状記憶材料を用いて構成される。前記外被シース31は円柱状に形成され、光ファイバ32が中心軸部に配置され、前記光ファイバ32を挟んで対向した位置にテンションメンバ33が配置され、さらに、前記外被シース31の外周面の前記テンションメンバ33がない対向した位置に、軸方向に溝状のノッチ34が設けられる。
【0020】
本発明の実施形態例に係る光ドロップケーブルは、断面形状が円形状であり、コイル形状に変形する際の曲げ剛性をなるべく均一にすることができる。また、テンションメンバ33を形状記憶材料にする代わりに、外被シース31に形状記憶材料を適用することも可能である。形状記憶材料については、形状記憶合金または形状記憶プラスティックが挙げられる。形状記憶合金については、Ni−Ti合金、Ni−Ti−X三元合金、Cu−Al−Mn合金などを使用することができる。また形状記憶プラスティックについては、形状記憶性バイオプラスティックなどを使用することができる。前記形状記憶材料は、ストレートにされ、テンションメンバ33または外被シース31として光ファイバケーブルに用いられる。そして、何らかの加熱源によって所定の材料温度に達した時、予め記憶された所望の曲率を持つコイル形状に戻ることを特徴とする。加熱源としては、例えば形状記憶性バイオプラスティックの場合、約60℃程度の加熱によって元の記憶形状に戻すことが可能であり、ドライヤーなど携帯可能な加熱源を利用することが可能である。また、本発明の実施形態例は単数または複数本の光ファイバを実装した光ドロップケーブル、インドアケーブル、ターミネーションケーブルとして用いることが可能であり、光ファイバケーブルの両端または片端の光コネクタの有無は問わない。また、各ケーブルの構造は、形状記憶材料が大きな形状回復力を有している場合については、従来構造においてテンションメンバまたは外被シースの少なくとも一方を形状記憶材料に置き換えただけでもよい。
【0021】
図2(a),(b),(c)は本発明の実施形態例に係る光ファイバケーブルを用いた光配線作業の工程例を示す説明図である。図2(a)に示すように、本発明の実施形態例に係る直線状の光ファイバケーブル41を配線長より若干長く切断する。次に、図2(b)に示すように、光ファイバケーブル41の接続部近傍の支持線を分離した後に、光ファイバケーブル41の伸縮させたい部分にヒータ等の加熱源42より熱を一定時間付与することで、図2(c)に示すように、光ファイバケーブル41にコイル状に変形させた伸縮部43を形成し、その後、接続作業を行う。尚、接続作業においては、融着接続およびコネクタ接続、メカニカルスプライス接続などの接続方法の種類は問わない。
【0022】
図3(a),(b),(c)は本発明の実施形態例に係る記憶形状の例を示す説明図である。本発明の実施形態例に係る光ファイバケーブルのテンションメンバまたは外被シースの少なくとも一方に用いる形状記憶材料の記憶形状は、図3(a)に示すような立体形状のコイル状、図3(b)に示すような平面形状のループ状、図3(c)に示すような平面形状の波状であってもよい。
【0023】
以上説明したように、本発明の実施形態例によれば、光ファイバケーブルを所要の配線長に厳密に合わせて切断することなく、おおまかに配線長よりも若干長く切断しておき、光配線時に光ファイバケーブルを前述のように変形させ、例えばコイル状に変形した部分を伸縮させて配線することで、作業の迅速化が可能である。
【0024】
なお、本発明は、上記実施形態例そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態例に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態例に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態例に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態例に係る光ドロップケーブルを示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態例に係る光ファイバケーブルを用いた光配線作業の工程例を示す説明図である。
【図3】本発明の実施形態例に係る記憶形状の例を示す説明図である。
【図4】従来の光ドロップケーブルを示す断面図である。
【図5】従来のフォトニック結晶ファイバを示し断面図である。
【図6】従来のフォトニック結晶ファイバの曲げによる光損失増加特性を従来の光ファイバと比較して示す特性図である。
【符号の説明】
【0026】
31…外被シース、32…光ファイバ、33…テンションメンバ、34…ノッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外被シースにより単数もしくは複数本の光ファイバをテンションメンバと一体に被覆した光ファイバケーブルであって、
前記テンションメンバもしくは外被シースの少なくとも一方が、ケーブル軸方向に弾性機能を有する記憶形状の形状記憶材料を用いて構成されたことを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項2】
光ファイバとして、フォトニック結晶ファイバを用いたことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバケーブル。
【請求項3】
形状記憶材料の記憶形状が、コイル状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光ファイバケーブル。
【請求項4】
形状記憶材料が、加熱により記憶形状に変形することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の光ファイバケーブル。
【請求項5】
外被シースを円柱状に形成し、光ファイバを中心軸部に配置し、前記光ファイバを挟んで対向した位置にテンションメンバを配置し、さらに、前記外被シースの外周面の前記テンションメンバがない対向した位置に、軸方向に溝状のノッチを設けたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の光ファイバケーブル。
【請求項6】
請求項4に記載の光ファイバケーブルを所定の長さに切断する第1のステップと、
第1のステップの後、前記光ファイバケーブルの所定の部分を加熱してケーブル軸方向に弾性機能を有する記憶形状に変形する第2のステップと、
第2のステップの後、前記光ファイバケーブルの接続作業を行う第3のステップと
よりなることを特徴とする配線方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−41208(P2007−41208A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−224197(P2005−224197)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】