説明

光ファイバコイル用ボビン

【課題】直交配置される3つの光ファイバコイルを一体化することができ、寸法精度および機械的強度に優れた光ファイバコイル用ボビンを提供する。
【解決手段】ボビン10は、立方体の中実ブロックからなり、その外表面11が、互いに直交する一対の第1平面部12,12と、一対の第2平面部13,13と、一対の第3平面部14,14と、から構成されている。外表面11には、光ファイバを巻回するための3つの巻線溝15,16,17が形成されている。3つの巻線溝15,16,17は、いずれも外表面11において開放され、第1平面部12、第2平面部13、および第3平面部14に対してそれぞれ平行に周回している。そして、3つの巻線溝15,16,17は、それぞれの中心を中実ブロックの中心点Cに一致させ、かつ、互いに半径が異なる円形を形成するように周回している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバを使用して角速度を検出する光ジャイロ(光ファイバジャイロ)に用いられる光ファイバコイル用ボビンに関し、詳しくは、多軸の角速度を検出する多軸型光ファイバジャイロに適した光ファイバコイル用ボビンに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバループ内を互いに反対方向に周回する2つの光にサニャック効果がもたらす位相の変化から、移動体の角速度を計測する干渉型光ファイバジャイロ(光ファイバジャイロの一形態)が、航空機やロケットなどの分野を中心に古くから実用化されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、近年では、直交する3軸方向の角速度を検出する3軸型の光ファイバジャイロの需要が増え、その低価格化および小型化が求められている。例えば、図7に示す従来の多軸ファイバジャイロ50は、基本的には、3基のいわゆる位相変調方式の干渉型光ファイバジャイロを配設して構成されているが、位相変調器51および受光素子52を共通化または一体化することにより、コストおよび重量・体積の低減化が図られている(特許文献2参照)。
【0004】
特許文献2には、位相変調器51および受光素子52以外に光源53を共通化した構成についても開示されているが、比較的大きなスペースを要する光ファイバループ(光ファイバコイル)54を一体化させた構成に関しては開示されていない。通常の単軸型の光ファイバループは、円筒状のボビンに光ファイバを糸巻き状に巻回して構成される。したがって、3軸型の光ファイバジャイロでは、光ファイバが巻回された3つのボビンを、位置決め用もしくは固定用の部材または冶具を別途用意して、互いに直交配置させるのが一般的である。
【0005】
これに対して、3つのボビンを同心状に配置して一体化させてなる多軸型のボビンが提案されている。図8に、従来の一体化させた多軸型ボビンの構成例として、特許文献3が開示する3軸ボビン70を示す。3軸ボビン70は、リング状の3つの単位ボビン71,72,73から構成されている。この3つの単位ボビン71,72,73の外周側面には、光ファイバを巻回する溝が周方向に沿って形成されている。そして、単位ボビン71の中に単位ボビン72が、単位ボビン72の中に単位ボビン73が、それぞれ直交するように組み合わされ、全体として中空の球状をなしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−74775号公報
【特許文献2】特開2008−309695号公報
【特許文献3】特開昭61−266911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、3軸ボビン70は、互いに直交する3つのリング状のボビンを同心状に配置して一体化されていることから、ボビンの小型化を図ることができる。しかしながら、互いに径の異なる3種類の単位ボビンを組み合わせて構成する必要があることから、部品点数および組み立て工数が多く、低コスト化の促進が困難である。また、単位ボビン同士を接合する部分の領域が小さいことから、3種類の単位ボビンを精度よく直交配置させることが困難である。
【0008】
また、3軸ボビン70は、全体として球状に形成されていることから、3軸型の光ファイバジャイロに取り付ける際には、位置決め用もしくは固定用の部材または冶具が別途必要になり、装置の組み立て工程が煩雑になる。
【0009】
また、3軸ボビン70は中空であり、さらに単位ボビン71,72,73の各々が比較的幅の狭い梁状に構成されていることから、機械的強度が不足するおそれがある。機械的強度が不足すると、ボビンに加わった外力が光ファイバループに伝わり、光ファイバを伝播する光の位相が変化し易くなる。このため、3軸ボビン70を使用した光ファイバジャイロの測定精度が低下することが懸念される。
【0010】
そこで、本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、部品点数が少なく作製が容易でありながら、機械的強度および複数の巻線溝の位置精度に優れた、多軸型光ファイバジャイロに用いられる光ファイバコイル用ボビンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、上記課題を解決するために、本発明の特徴は、光ファイバを使用しサニャック効果に基づき移動体の角速度を検出する光ジャイロに用いられる光ファイバコイル用ボビンであって、少なくとも一つの平面部と、光ファイバを巻回するための互いに直交する2つまたは3つの巻線溝と、を外表面に有する中実ブロックからなり、少なくとも前記巻線溝の一つが、前記平面部のいずれかに対して平行に周回していることである。
【0012】
また、本発明の好ましい態様は、前記ブロックが六面体であることである。
【0013】
また、本発明の好ましい他の態様は、前記巻線溝の各々の周回面積が互いに等しいことである。
【発明の効果】
【0014】
かかる発明によれば、1つの中実ブロックに、2つまたは3つの光ファイバを巻回するための巻線溝が形成されているため、従来の多軸用ボビンと比べて、部品点数および組み立て工数を低減することができる。また、ボビンが中実ブロックから構成されているため、機械的強度に優れる。また、ボビンが少なくとも一つの平面部を有しているため、平面部を載置面としてボビンを光ファイバジャイロに安定して搭載できる。さらに、その平面部を加工基準面にして、巻線溝を精度よく形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る光ファイバコイル用ボビンの全体構成を示す斜視図である。
【図2】同光ファイバコイル用ボビンに光ファイバを巻回した状態を示すY−Z断面図である。
【図3】同光ファイバコイル用ボビンに光ファイバを巻回した状態を示すX−Z断面図である。
【図4】同光ファイバコイル用ボビンに光ファイバを巻回した状態を示すX−Y断面図である。
【図5】光ファイバを使用した半導体リングレーザジャイロを説明するための概念図である。
【図6】本発明のその他の実施形態に係る光ファイバコイル用ボビンであり、(a)は全体構成を示す斜視図であり、(b)はX−Z断面図である。
【図7】従来の多軸型光ファイバジャイロを示す構成図である。
【図8】従来の3軸用ボビンを示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る光ファイバコイル用ボビンの好ましい実施形態の一例として、ボビン10を図面を参照して説明する。なお、ボビン10の構成を説明するにあたり、図1に示すように、互いに直交するX軸,Y軸,Z軸からなるXYZ座標系を想定する。
【0017】
ボビン10は、同図に示すように、全体として立方体(正六面体)の中実ブロック(本実施形態では、アルミニウム製のブロック)から形成されている。すなわち、ボビン10の外表面11は、全体として正方形をした同一形状の6つの平面部12〜14から構成されている。具体的に説明すると、外表面11は、X軸に垂直な一対の第1平面部12と、Y軸に垂直な一対の第2平面部13と、Z軸に垂直な一対の第3平面部14と、から構成されている。そして、3組の一対の平面部12〜14は、互いに直交している。
【0018】
このように構成されたボビン10の外表面11には、光ファイバを巻回するための3つの巻線溝15,16,17(第1巻線溝15、第2巻線溝16、第3巻線溝17)が形成されている。3つの巻線溝15,16,17は、互いに直交し、かつ、3組の一対の平面部12〜14のうち2組の一対の平面部を周回するように形成されている。このため、6つの平面部12〜14の各々は、実際には3つの巻線溝15,16,17のうち2つの巻線溝によって4分割されている。
【0019】
次に、3つの巻線溝15,16,17について、図2ないし図4を参照して詳しく説明する。図2ないし図4は、それぞれY−Z面(X軸に直交する面),X−Z面(Y軸に直交する面),およびX−Y面(Z軸に直交する面)に平行で、ボビン10の中心点Cを通る断面図である。なお、図2ないし図4には、巻線溝15,16,17の底面に沿って光ファイバを巻回してなる3つの光ファイバコイル18,19,20(第1光ファイバコイル18,第2光ファイバコイル19,第3光ファイバコイル20)を模式的に示してある。
【0020】
まず、第1巻線溝15は、図2に示すように、第1平面部12(Y−Z面)に対して平行に周回しており、その周回形状がボビン10の中心点Cを中心とする円形状に形成されている。なお、巻線溝15の周回形状とは、基本的には巻線溝15の底面(の中心)が囲う形状であるが、巻線溝17により底面が分断されている部分については外挿した形状(巻線溝17が存在しないと仮定した形状)である。すなわち、巻線溝15の周回形状とは、光ファイバコイル18の周回形状である。
【0021】
次に、第2巻線溝16は、図3に示すように、第2平面部13(X−Z面)に対して平行に周回しており、その周回形状がボビン10の中心点Cを中心とする円形状に形成されている。そして、第3巻線溝17は、図4に示すように、第3平面部14(X−Y面)に対して平行に周回しており、その周回形状がボビン10の中心点Cを中心とする円形状に形成されている。
【0022】
すなわち、3つの巻線溝15,16,17は、ボビン10の中心点Cを回転中心として同心状に形成されている。また、3つの巻線溝15,16,17は、その幅方向の断面形状が、外表面11を開放する矩形形状に形成されている。
【0023】
また、3つの巻線溝15,16,17は、その周回形状の半径(中心点Cと巻線溝の底面間の最短距離)をそれぞれR1,R2,R3とすると、R1>R2>R3の関係になるように形成されている。
【0024】
そして、第1巻線溝15における半径R1と第2巻線溝16における半径R2との差(R1−R2)が、少なくとも第2巻線溝16に装着される第2光ファイバコイル19の断面厚よりも大きく設定されている。また、第2巻線溝16における半径R2と第3巻線溝17における半径R3との差(R2−R3)が、少なくとも第3巻線溝17に装着される第3光ファイバコイル20の断面厚よりも大きく設定されている。要するに、3つの巻線溝15,16,17は、光ファイバコイル18,19,20間の干渉(接触)がない状態を確保できるように、半径R1,R2,R3がそれぞれ設定されている。
【0025】
次に、以上のように構成されたボビン10の従来技術に対する優位性について説明する。
【0026】
ボビン10は、1つの中実ブロックから形成されることから、従来技術のように3つのボビンを組み付ける作業が不要となり、製造工程を簡略化することができる。また、ボビン10が中実ブロックから形成されていることから、ボビン10全体の堅牢性を向上させることができる。このため、ボビン10に加わった外力の光ファイバコイルへの伝達が抑制される。この結果、ボビン10を使用した光ファイバジャイロの測定精度が外力の影響を受けることがなくなり安定することが期待できる。
【0027】
また、ボビン10は、全体として立方体に形成され、外表面11が6つの平面部12〜14から構成されていることから、いずれかの平面部12〜14を載置面として、ボビン10を光ファイバジャイロに安定して搭載できる。これにより、ボビンを光ファイバジャイロに取り付ける作業が容易になる。
【0028】
また、ボビン10は、互いに直交する3つの巻線溝15,16,17の各々が、外表面11を構成し互いに直交する3組の一対の平面部12〜14のいずれかに平行に形成されている。このため、3組の一対の平面部12〜14(または、3つの平面部12,13,14)を加工基準面として、3つの巻線溝15,16,17を、例えば切削加工により形成することができる。これにより、各巻線溝15,16,17を互いに精度よく直交配置させることができる。
【0029】
以上、本発明の好ましい実施形態の一例について説明したが、実施の形態については上記に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0030】
例えば、ボビン10の全体形状を立方体としたが、これに代えて、直方体(六面体)としてもよいし、円柱としてもよい。円柱の場合には、加工精度の観点で立方体および直方体ほどの効果は期待できないが、円柱の軸方向両端の一対の平面部(または1つの平面部)を加工基準面とすることにより、一定の効果が期待できる。要するに、少なくとも1つの平面部を有する中実ブロックによりボビンが形成されていれば一定の効果が期待できる。
【0031】
また、上記実施形態では、ボビン10に形成される巻線溝の数を3つとしたが、これに代えて、2つとしてもよい。
【0032】
また、上記実施形態では、各巻線溝15,16,17の周回形状を円形状としたが、これに代えて、例えば楕円または矩形形状としてもよい。周回形状を楕円または矩形形状とすることにより、巻線溝の加工および光ファイバの巻き付け作業が困難になる可能性があるが、各巻線溝の周回面積を同一にすることが可能となる。なお、周回面積とは、各巻線溝に装着された光ファイバコイルによって囲まれる領域の面積である。
【0033】
ところで、光ファイバを使用した半導体リングレーザジャイロ(光ファイバジャイロの一形態)では、特願2008−210260(本出願時点では未公開)に開示されているように、光ファイバコイルによって囲まれる領域の面積によって角速度の測定性能が異なることが本発明者等により明らかにされている。したがって、各巻線溝の周回面積を同一にした多軸用ボビンは、軸ごとの測定性能を一致させることができることから、半導体リングレーザジャイロの多軸用ボビンとして有効である。
【0034】
なお、半導体リングレーザジャイロとは、半導体レーザの両端面から出射した2つの光の波長がサニャック効果によって互いに異なることにより発生するビート信号から角速度を検出する方式の光ジャイロである。このため、半導体リングレーザジャイロは、図5に示すように、両端面から光を出射させる半導体レーザ21と、半導体レーザ21とともにレーザ共振回路を構成する光ファイバからなる光ファイバリング22と、光ファイバリング22内に配置される光ファイバコイル23と、光ファイバリング22内を互いに逆方向に周回する光(CW光およびCCW光)の一部を分岐させる光分岐器24と、光分岐器24から分岐したCW光およびCCW光を重ね合わせることにより発生するビート信号の周波数から角速度を検出するための光検出器25と、を備えている。
【0035】
また、上記実施形態では、3つの巻線溝15,16,17が同心状に形成されているが、必ずしも同心状に形成する必要はない。例えば、図6(a)(b)に示すボビン10Aのように、3つの巻線溝15A,16A,17Aの回転中心を互いにずらすことによって、円形状の周回形状であっても、3つの光ファイバコイル間に干渉を生じさせることのない条件下で、周回面積を互いに一致(半径Rを一致)させることができる。(なお、各巻線溝15A,16A,17Aの回転中心をずらしても、角速度の測定値は変化しない。)また、3つの巻線溝15A,16A,17Aの周回形状を円形状とすることにより、巻線溝の加工工程および光ファイバの巻き付け工程の作業性が向上する。なお、同図に示すように、ボビン10Aの全体形状を直方体としたが、直方体に代えて、例えば立方体とすることもできる。
【0036】
さらに、本発明に係るボビンは、干渉型光ファイバジャイロおよび半導体リングレーザジャイロに限定されることなく、光ファイバを使用するあらゆるタイプの光ジャイロに適用できる。
【符号の説明】
【0037】
10,10A ボビン(光ファイバコイル用ボビン)
11 外表面
12 第1平面部
13 第2平面部
14 第3平面部
15,15A 第1巻線溝
16,16A 第2巻線溝
17,17A 第3巻線溝
18 第1光ファイバコイル
19 第2光ファイバコイル
20 第3光ファイバコイル
21 半導体レーザ
22 光ファイバリング
23 光ファイバコイル
24 光分岐器
25 光検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバを使用しサニャック効果に基づき移動体の角速度を検出する光ジャイロに用いられる光ファイバコイル用ボビンであって、
少なくとも一つの平面部と、
光ファイバを巻回するための互いに直交する2つまたは3つの巻線溝と、を外表面に有する中実ブロックからなり、
少なくとも前記巻線溝の一つが、前記平面部のいずれかに対して平行に周回していることを特徴とする光ファイバコイル用ボビン。
【請求項2】
前記中実ブロックが六面体である請求項1に記載の光ファイバコイル用ボビン。
【請求項3】
前記巻線溝の各々の周回面積が互いに等しい請求項1または2に記載の光ファイバコイル用ボビン。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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