説明

光ファイバコネクタ

【課題】キャピラリを樹脂成型品で構成してもファイバ孔の拡径を最低限に抑えることのできる光ファイバコネクタを提供する。
【解決手段】接続される一対の光ファイバ10の各端部を挿通し突き合わせ保持するファイバ孔2を樹脂成型品からなるキャピラリ1に有してなり、キャピラリ1は光ファイバ10の挿入方向に沿ってファイバ孔2と連通するスリット部3を有し、スリット部3はファイバ孔2と連続し深さ方向に厚みを有する第1スリット部20と、第1スリット部20より外周側の第2スリット部21とからなり、第2スリット部21は第1スリット部20よりも幅広に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2本の光ファイバを突き合わせた状態で保持することのできる光ファイバコネクタに関し、特に樹脂成型品からなるキャピラリに光ファイバを挿通するファイバ孔に連通するスリット部を形成してなる光ファイバコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光通信装置などにおいて光ファイバ同士を接続するために、光ファイバコネクタが用いられている。簡易に光ファイバ同士を突き合わせ保持する光ファイバコネクタとしては、光ファイバを挿通するファイバ孔を備えたキャピラリを有するものが知られている。キャピラリに設けられるファイバ孔は、光ファイバの径と同等の内径を有してなり、突き合わされる各光ファイバは、中心軸位置が略一致した状態でキャピラリに保持される。キャピラリは、高精度な形状を有することが求められるため、主に石英ガラスやセラミックス、あるいは金属材などが用いられていた。
【0003】
また、キャピラリには、光ファイバが突き合わされる位置にファイバ孔と連通するスリット部が形成されている。スリット部は、光ファイバがファイバ孔に挿入される際において、空気抜きの孔として機能する他、光ファイバの挿入時において用いられるシリコンオイルを充填するために用いられる。また、光ファイバの接続確認にも用いられる。このようなキャピラリを有した光ファイバコネクタとしては、例えば特許文献1に挙げるようなものがある。
【特許文献1】特開2005−115269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
キャピラリのスリット部は、細幅とする必要があり、キャピラリを外周からファイバ孔に到達するまで削って形成していた。一方、光ファイバコネクタをコストダウンするため、石英ガラス等に代えて樹脂の成型品によりキャピラリを形成することが試みられている。ここで、樹脂材を削ってスリット部を形成すると、バリが生じて光ファイバの接続に支障をきたすという問題があり、したがって金型にスリット部の成形部分を設けておき、射出成型の段階でスリット部を形成しておく必要がある。
【0005】
しかし、従来と同様の形状のスリット部を形成しようとした場合、ファイバ孔のうちスリット部を構成する開口部分の肉厚が薄く、射出成形時に熱収縮によりスリット部が開く方向に変形して、ファイバ孔が光ファイバの接続部分において拡径されてしまうという問題があった。ファイバ孔の径が大きくなると、光ファイバの位置決め精度が低下し、接続される光ファイバ間における伝送効率が低下するという問題があった。
【0006】
本発明は前記課題を鑑みてなされたものであり、キャピラリを樹脂成型品で構成してもファイバ孔の拡径を最低限に抑えることのできる光ファイバコネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明に係る光ファイバコネクタは、接続される一対の光ファイバの各端部を挿通し突き合わせ保持するファイバ孔を樹脂成型品からなるキャピラリに有してなる光ファイバコネクタにおいて、
前記キャピラリは前記光ファイバの挿入方向に沿って前記ファイバ孔と連通するスリット部を有し、該スリット部は前記ファイバ孔と連続し深さ方向に厚みを有する第1スリット部と、該第1スリット部より外周側の第2スリット部とからなり、該第2スリット部は前記第1スリット部よりも幅広に形成されることを特徴として構成されている。
【0008】
また、本発明に係る光ファイバコネクタは、前記第2スリット部は対向する2つの側壁と底壁とからなり、前記側壁は外周側に向かって広開する傾斜面に形成されると共に、前記底壁は前記ファイバ孔の直径の5倍以上の幅を有することを特徴として構成されている。
【0009】
さらに、本発明に係る光ファイバコネクタは、前記第1スリット部の深さ方向の厚みは前記ファイバ孔の直径の0.2倍より大きく、かつ0.04mm以上0.06mm以下であることを特徴として構成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る光ファイバコネクタによれば、キャピラリは光ファイバの挿入方向に沿ってファイバ孔と連通するスリット部を有し、スリット部はファイバ孔と連続し深さ方向に厚みを有する第1スリット部と、第1スリット部より外周側の第2スリット部とからなり、第2スリット部は第1スリット部よりも幅広に形成されることにより、金型を用いた射出成形によりキャピラリを成形する際に、第1スリット部の部分が変形しにくく、したがってファイバ孔が拡径することを防止することができる。
【0011】
また、本発明に係る光ファイバコネクタによれば、第2スリット部は対向する2つの側壁と底壁とからなり、側壁は外周側に向かって広開する傾斜面に形成されると共に、底壁はファイバ孔の直径の5倍以上の幅を有することにより、射出成型の際に第1スリット部の形成部分に樹脂材を横方向から流入させて第1スリット部を確実に成形することができると共に、離型も容易にすることができる。
【0012】
さらに、本発明に係る光ファイバコネクタによれば、第1スリット部の深さ方向の厚みはファイバ孔の直径の0.2倍より大きく、かつ0.04mm以上0.06mm以下であることにより、第1スリット部により確実にファイバ孔の拡径を防止しつつ、射出成型の際に樹脂材の圧力が大きくなり過ぎることによる第1スリット部の閉塞を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施形態について、図面に沿って詳細に説明する。本実施形態における光ファイバコネクタは、樹脂成型品からなるキャピラリ1を備え、キャピラリ1は円筒状のハウジング(図示しない)に覆われる。図1には、本実施形態における光ファイバコネクタを構成するキャピラリの断面図を示している。この図に示すように、キャピラリ1はファイバ孔2が長手方向に沿って貫通状に形成され、またキャピラリ1の中央部にはファイバ孔2と連通するスリット部3が形成されて構成されている。
【0014】
キャピラリ1は、細長いピース状の部材として射出成形により形成されている。ファイバ孔2は、中央部が小径に形成され、両端部側がそれぞれ中央部よりも大径に形成されている。ファイバ孔2の両方の開口部2a、2aからは、それぞれ光ファイバ10が挿入される。
【0015】
ファイバ孔2がこのように構成されていることで、光ファイバ10はファイバ孔2の内壁に沿ってガイドされ、ファイバ孔2の中央部付近の小径部分に納められる。そして、2本の光ファイバ10、10は、ファイバ孔2の中央部において互いに突き合わされ、位置決めされることで接続される。
【0016】
次に、スリット部3の構成について詳細に説明する。図2には、図1のA−A断面図を示している。この図に示すように、ファイバ孔2は断面形状が略円形に形成されており、スリット部3はファイバ孔2と連通すると共に、キャピラリ1の外周面に至るまで形成されていて、外方に向かって開口状となるように形成されている。
【0017】
スリット部3は、ファイバ孔2と連続する第1スリット部20と、第1スリット部20よりも外周側部分を構成する第2スリット部21とで、2段構成を有している。第1スリット部20は幅狭に、第2スリット部21は第1スリット部20よりも幅広に形成されており、これによってスリット部3が段差状をなすようにしている。
【0018】
第1スリット部20は、ファイバ孔2を構成する壁面から連続し互いに対向する2つの側壁20a、20aからなり、深さ方向にある程度の厚みを有するように形成されている。2つの側壁20a、20a間の距離であるスリット幅は、ファイバ孔2の直径よりは小さく形成されている。本実施形態では、第1スリット部20のスリット幅は、ファイバ孔2の直径の0.8倍よりも小さくなるようにしている。また、第1スリット部20の深さ方向の厚みは、ファイバ孔2の直径の0.2倍よりも大きくなるようにしている。第1スリット部20の深さ方向厚みについては、後でさらに詳しく説明する。
【0019】
第2スリット部21は、第1スリット部20の外周側開口部から連続し、外周側に向かって面する底壁21bと、底壁21bの両端部から立ち上がってキャピラリ1の外周面に至る互いに対向する2つの側壁21a、21aにより、凹状をなすように形成されている。第2スリット部21を構成する側壁21aは、外周側に向かって若干広開する傾斜面として形成されている。また、底壁21bは、ファイバ孔2の直径の5倍以上の幅を有する幅広状に形成されている。
【0020】
このように、ファイバ孔2と連通する第1スリット部20が、深さ方向に厚みを有するように形成され、第2スリット部21は第1スリット部20よりも幅広状に形成されていることにより、金型を用いた射出成形によりキャピラリ1を成形する際に、第1スリット部20の部分が変形しにくく、したがってファイバ孔2が拡径することを防止することができる。
【0021】
次に、厚みを有した第1スリット部20を設けることによるファイバ孔2の形状誤差の変化について説明する。図3には、実際に成形を行った場合における、第1スリット部20の厚みに対するファイバ孔2の径の誤差を表したグラフを示している。この図において、第1スリット部20の厚みが0であるのは、第2スリット部21がファイバ孔2を構成する円周と連通した状態を表し、第1スリット部20の厚みがマイナスであるのは、第2スリット部21がファイバ孔2の内周側に至るまで深く形成されていることを表している。なお、この図においてファイバ孔2の所定の径は、125.3μmである。
【0022】
図3に示す第1スリット部20の厚みが−10μmの場合、ファイバ孔2の形状誤差は非常に大きく、光ファイバ10の位置決めに支障をきたして光学性能を大きく損ねることとなる。第1スリット部20の厚みを大きくしていくと、ファイバ孔2の形状誤差は小さくなっていく。
【0023】
第1スリット部20は、ある程度の厚みを有することが必要であるが、一方で厚みが大きいと、射出成型の際に第1スリット部20が塞がってしまう場合がある。射出成型の際には、ファイバ孔2を形成する部分に丸棒状のピンが配置され、スリット部3の形状を有した金型がピンに当接した状態となる。そこに軟化した樹脂材が注入されると、第1スリット部20を構成する側壁20aに向かって第2スリット部21の底壁21bに沿った樹脂材の流動が生じ、金型のうち第1スリット部20を形成する部分には両側から圧力がかかる。第1スリット部20を厚く形成しようとすると、金型のうち第1スリット部20を形成する部分にかかる力が大きくなり、当該部分が変形あるいはピンから僅かに離れることが起こり得る。そうすると、樹脂材がピンと金型の間に入り込んで第1スリット部20を塞いでしまうこととなる。
【0024】
したがって、第1スリット部20の厚みは、ファイバ孔2が拡径することを防止できる大きさとし、かつ射出成型の際に第1スリット部20が樹脂材により塞がれない大きさとする必要がある。実際にキャピラリ1を射出成型した場合、図3に示すように第1スリット部20の厚みが40μm以上あれば、形状誤差を十分小さくすることができ、かつ60μm以下であれば第1スリット部20が塞がることを確実に防止することができることがわかった。したがって、第1スリット部20の厚みは40μm以上60μm以下の範囲に設定することが望ましい。
【0025】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の適用は本実施形態には限られず、その技術的思想の範囲内において様々に適用されうるものである。例えば、光ファイバ10は先端部の直径が125.3μmのものについて示したが、これ以外の直径を有する光ファイバ10を保持する光ファイバコネクタにも、本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態における光ファイバコネクタを構成するキャピラリの断面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】第1スリット部の厚みに対するファイバ孔の径の誤差を表したグラフである。
【符号の説明】
【0027】
1 キャピラリ
2 ファイバ孔
2a 開口部
3 スリット部
10 光ファイバ
20 第1スリット部
20a 側壁
21 第2スリット部
21a 側壁
21b 底壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接続される一対の光ファイバの各端部を挿通し突き合わせ保持するファイバ孔を樹脂成型品からなるキャピラリに有してなる光ファイバコネクタにおいて、
前記キャピラリは前記光ファイバの挿入方向に沿って前記ファイバ孔と連通するスリット部を有し、該スリット部は前記ファイバ孔と連続し深さ方向に厚みを有する第1スリット部と、該第1スリット部より外周側の第2スリット部とからなり、該第2スリット部は前記第1スリット部よりも幅広に形成されることを特徴とする光ファイバコネクタ。
【請求項2】
前記第2スリット部は対向する2つの側壁と底壁とからなり、前記側壁は外周側に向かって広開する傾斜面に形成されると共に、前記底壁は前記ファイバ孔の直径の5倍以上の幅を有することを特徴とする請求項1記載の光ファイバコネクタ。
【請求項3】
前記第1スリット部の深さ方向の厚みは前記ファイバ孔の直径の0.2倍より大きく、かつ0.04mm以上0.06mm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の光ファイバコネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−122408(P2010−122408A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295139(P2008−295139)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】