説明

光ファイバコードの保持装置及び保持方法並びに光ファイバ接続装置

【課題】光ファイバコードの保持装置において、部品点数を削減できるとともに、かしめ工具等の専用工具を用いることなく手作業で容易に光ファイバコードを保持する。
【解決手段】保持装置10は、光ファイバコード1を支持する支持部材12と、支持部材12に光ファイバコード1を固定する固定部材14とを備える。支持部材12は、ジャケット外部に露出した抗張力体3がジャケット4の外面上に折り返された形態の光ファイバコード1のジャケット端部5を、光ファイバコード1の少なくとも自重による支持部材12からの脱落を阻止するように係止する係止部16を備える。固定部材14は、ジャケット端部5を係止した係止部16を押圧力により変形させて、係止部16とジャケット端部5とを互いに密着させる押圧部18を備える。押圧部18は、係止部16と押圧部18との寸法差に依存して生じる押圧力により、係止部16を圧縮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバコードの保持装置及び保持方法に関する。本発明はまた、光ファイバコードの保持装置を備えた光ファイバ接続装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光接続の技術分野において、光ファイバ心線及び抗張力体をジャケットに収容してなる光ファイバコード(ジャケット付光ケーブルとも称する)を固定的に保持するための、様々な保持装置が知られている。
例えば特許文献1は、光ファイバ及び強化部材を含む光ファイバコードを成端する光コネクタに使用される支持部材であって、光ファイバコードの端部に圧着可能な圧着部と、光ファイバコードの強化部材を保持する強化部材保持部とを有する支持部材を開示する。支持部材は、圧着部が光ファイバコードの端部に圧着されるとともに強化部材保持部に光ファイバコードの強化部材を保持した状態で、光コネクタのハウジングに当接される。この状態で、光ファイバがフェルールに接着固定され、強化部材が、ハウジングに設けた強化部材固定部上に置かれる。次いで、別部材としての圧着スリーブを、強化部材固定部上に置かれた強化部材に重ねて配置し、圧着スリーブの外面から圧着かしめを行うことにより、強化部材が光コネクタのハウジングに固定される。
【0003】
また、特許文献2は、光ファイバコードのジャケット端を光コネクタに接続する用途に適した端末保持具であって、外部に突出した内筒を有する光コネクタと、チューブ受け入れ孔を有する止め具とから成る端末保持具を開示する。内筒には、その先端外周部に凸部が形成され、長手中間部に凹部が形成される。止め具には、チューブ受け入れ孔の内面に、止め具装着状態で内筒の凹部の直上に置かれる凸部が形成される。光ファイバコードのジャケット及び補強繊維の内側に内筒を差込み、止め具をその外側に圧入してジャケット及び補強繊維を内筒と止め具との間に挾むことにより、ジャケット端が光コネクタに固定される。
【0004】
【特許文献1】特開平11−231171号公報
【特許文献2】特開2000−65271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光ファイバコードの保持装置や同保持装置を備えた光ファイバ接続装置においては、かしめ工具等の専用工具を使用する必要性を排除すること、及び装置の部品点数を削減することが望まれている。
【0006】
本発明の目的は、光ファイバコードの保持装置において、部品点数を削減できるとともに、専用工具を用いることなく手作業で容易に光ファイバコードを保持することができる保持装置を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、光ファイバコードの保持方法において、作業工数を削減できるとともに、専用工具を用いることなく手作業で容易に光ファイバコードを保持することができる保持方法を提供することにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、光ファイバコードの保持装置を備えた光ファイバ接続装置において、部品点数を削減できるとともに、専用工具を用いることなく手作業で容易に光ファイバコードを保持装置に保持することができ、現場組立に適した光ファイバ接続装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、光ファイバ心線及び抗張力体をジャケットに収容してなる光ファイバコードを、固定的に保持する保持装置において、光ファイバコードを支持する支持部材と、支持部材に光ファイバコードを固定する固定部材とを具備し、支持部材は、露出した抗張力体がジャケットの外面上に折り返された形態のジャケット端部を、光ファイバコードの少なくとも自重による支持部材からの脱落を阻止するように係止する係止部を備え、固定部材は、ジャケット端部を係止した係止部を押圧力により変形させて、係止部とジャケット端部とを互いに密着させる押圧部を備えること、を特徴とする保持装置を提供する。
【0010】
本発明は他の態様として、上記構成を有する保持装置を備えた光ファイバ接続装置を提供する。
【0011】
本発明はさらに他の態様として、光ファイバ心線及び抗張力体をジャケットに収容してなる光ファイバコードを、固定的に保持する保持方法において、光ファイバコードを支持する支持部材を用意し、支持部材に光ファイバコードを固定する固定部材を用意し、露出した抗張力体がジャケットの外面上に折り返された形態のジャケット端部を、光ファイバコードの少なくとも自重による脱落が阻止されるように係止した状態で、支持部材に支持し、ジャケット端部を支持した支持部材に固定部材を係合させて、固定部材が及ぼす押圧力により支持部材を変形させ、支持部材とジャケット端部とを互いに密着させること、を特徴とする保持方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様に係る保持装置によれば、光ファイバコードのジャケット端部を、支持部材の係止部に係止する第1段階と、ジャケット端部を係止した係止部を、固定部材の押圧部から加わる押圧力により変形させて、係止部とジャケット端部とを互いに密着させる第2段階との、2段階の作業で、光ファイバコードを固定的に保持することができる。この保持作業の間、圧着かしめ工法を行わないから、専用のかしめ工具が不要になり、また圧着かしめ工法を採用した従来の保持装置に比べて、部品点数が削減される。しかも、第1段階の作業は、支持部材の係止部にジャケット端部を仮止め程度の保持強度で係止するものであるから、作業者が比較的小さい力で手作業により遂行できる。また第2段階の作業は、固定部材の押圧部を支持部材の係止部の外面に係合させて、可撓性を有する筒状構造の係止部を中心方向へ圧縮するものであるから、作業者の力に頼らない比較的簡易な作業により、係止部にジャケット端部を固定できる。
【0013】
本発明の他の態様に係る光ファイバ接続装置は、部品点数を削減できるとともに、かしめ工具等の専用工具を用いることなく手作業で容易に光ファイバコードを保持装置に保持することが可能な、現場組立に適したものとなる。
【0014】
本発明のさらに他の態様に係る光ファイバコードの保持方法によれば、作業工数を削減できるとともに、かしめ工具等の専用工具を用いることなく手作業で容易に光ファイバコードを保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
図1は、本発明の一実施形態による保持装置10を、光ファイバコード(ジャケット付光ケーブルとも称する)1の一部分と共に示す図、図2は、保持装置10の一構成要素である支持部材12を、光ファイバコード1を支持した状態で示す図、図3は、光ファイバコード1を支持した支持部材12の断面図である。保持装置10は、1本又は複数本の光ファイバ心線2と多数の抗張力体(例えばアラミド繊維)3とを、可撓性を有する管状のジャケット4に収容してなる単心又は多心(図では単心)の光ファイバコード1を、その接続対象物(例えば光コネクタ等)の上で、引張力等の外力に抗して固定的に保持するものである。
【0016】
保持装置10は、光ファイバコード1を支持する支持部材12と、支持部材12に光ファイバコード1を固定する固定部材14とを備える。支持部材12は、ジャケット外部に露出した抗張力体3がジャケット4の外面上に折り返された形態の光ファイバコード1のジャケット端部5を、光ファイバコード1の少なくとも自重による支持部材12からの脱落を阻止するように係止する係止部16を備える。固定部材14は、ジャケット端部5を係止した係止部16を押圧力により変形させて、係止部16とジャケット端部5とを互いに密着させる押圧部18を備える。
【0017】
保持装置10によって光ファイバコード1を保持する際には、光ファイバコード1を光コネクタ等の接続対象物に接続するための準備作業として、光ファイバコード1の末端の予め定めた長さ領域で、ジャケット4を除去して光ファイバ心線2及び抗張力体3をジャケット外部に露出させ、さらに抗張力体3の露出部分を予め定めた長さに切断する作業が行われる。この抗張力体3の露出部分を、ジャケット4の外面上に折り返すことにより、ジャケット端部5が形成される。
【0018】
支持部材12の係止部16は、光ファイバコード1のジャケット端部5を全周に渡って包囲する筒状構造(図2)を有し、その内周面に、ジャケット4に食い込んでジャケット端部5を摩擦力により係止する鋸刃状の複数の突条20が形成される(図3)。係止部16は、固定部材14の押圧部18から受ける押圧力により弾性変形可能な適度な可撓性を全体として有する一方、各突条20をその尖端でジャケット4に食い込ませることができる程度の剛性を有する。
【0019】
図示実施形態では、筒状構造の係止部16は、略矩形断面の略直方体状の外形を有し、ジャケット端部5を受容する貫通穴を画定する対向2面のそれぞれに、複数の突条20が互いに対応する配置で形成されている。この場合、互いに対向する突条20の尖端同士の間隔は、保持対象の光ファイバコード1のジャケット4の外径よりも幾分小さく設定される(図3)。なお、係止部16の形状は図示実施形態に限定されず、例えば、円筒状、多角柱状等の外形を有してもよいし、突条20を光ファイバコード1の外周の全体或いは一部分のみに係合可能な配置で形成してもよい。
【0020】
係止部16は、光ファイバコード1のジャケット端部5が置かれる板状の第1部分22と、第1部分22に組み合わされ、第1部分22に置かれたジャケット端部5を受容する受容溝24を有する第2部分26とを備え、第2部分26の受容溝24に複数の突条20が形成される(図1)。第1部分22と第2部分26とは、相対移動可能であって、第1及び第2部分22、26を適正に組み合わせることにより、第2部分26の一側面に開放されている受容溝24が当該側面で第1部分22により閉じられて、中空筒状の係止部16が形成される。この構成によれば、第1部分22に置かれたジャケット端部5に対し、第2部分26の受容溝24の開放端を側方から押し付けることで、受容溝24にジャケット端部5を適正に受容できるので、筒状構造の係止部16によるジャケット端部5の係止作業が容易になる。
【0021】
図示実施形態では、第1部分22と第2部分26とは、連結部分28を介して互いに回動可能に連結される。この場合、第1部分22と第2部分26とを、連結部分28と共に合成樹脂材料から互いに一体に形成して、第1及び第2部分22、26が連結部分28の変形を伴いながら相対回動するように構成できる。この構成によれば、係止部16の構造を簡略化して、支持部材12の製造工数を削減できる。
【0022】
支持部材12はさらに、係止部16に隣接して、光ファイバコード1の末端で露出した光ファイバ心線2を心出し状態で案内する心線案内部30と、心線案内部30から係止部16とは反対側に延設される延長部32とを備える(図3)。心線案内部30は、係止部16に係止したジャケット端部5に隣接する位置で光ファイバ心線2をがたつき無く支持する支持溝34を有する。図示実施形態では、係止部16の第2部分26に隣接して、支持溝34を有する内壁36が設けられるとともに、係止部16の第1部分22に隣接して、支持溝34に嵌入可能な突起38(図1)が設けられる。係止部16の第1及び第2部分22、26を前述したように適正に組み合わせることにより、突起38が支持溝34に嵌入して、支持溝34上での光ファイバ心線2の心ずれを低減する。延長部32は、心線案内部30によって案内された光ファイバ心線2を、所定長さに渡り隙間を介して実質的に囲繞する筒状構造を有する。なお、好ましくは支持部材12は、係止部16、心線案内部30及び延長部32を含む全体が、適当な合成樹脂材料から例えば射出成形工程により一体成形される。
【0023】
固定部材14の押圧部18は、支持部材12の係止部16の外面に係合して、筒状構造の係止部16を中心方向へ圧縮できるような構造を有する。特に押圧部18は、係止部16と押圧部18との外形の寸法差に依存して生じる押圧力により、可撓性を有する係止部16を圧縮できるように構成される。押圧部18はまた、それ自体が実質的に変形することなく係止部16を弾性変形させることができる剛性を有する。
【0024】
押圧部18は、支持部材12の係止部16を圧力下で挟持する一対の腕部分40を備える(図1)。それら腕部分40は、各々の一端で、略矩形平板状の基部42の外縁(矩形輪郭の一辺)に一体に連結され、基部42に略直交する方向へ互いに平行に延設される。両腕部分40は、それらの間の空所に支持部材12の係止部16を受容して、それぞれの対向側面40aで係止部16の両側面16aに係合する(図5)。ここで支持部材12及び固定部材14は、いずれも変形の無い平常状態で、両腕部分40の間隔d1が係止部16の厚みd2よりも僅かに小さくなるように構成されている(図5)。このような構成により、両腕部分40から係止部16へ、d1及びd2の寸法差によって決まる押圧力を、容易かつ適正に加えることができる。
【0025】
固定部材14はさらに、一対の腕部分40に対向して配置される一対の補助腕44を備える(図1に1つの補助腕44のみ示す)。それら補助腕44は、各々の一端で基部42の外縁の、腕部分40との連結部位に対向する部位(矩形輪郭の一辺)に一体に連結され、基部42に略直交する方向へ互いに平行に延設される。そして、前述した腕部分40と係止部16との寸法関係及び相互作用と同様の寸法関係及び相互作用の下で、両補助腕44は、それらの間の空所に支持部材12の筒状の延長部32を受容して、それぞれの対向側面で延長部32の両側面に係合する。
【0026】
固定部材14はさらに、両腕部分40及び両補助腕44とは異なる位置に、一対の案内片46を備える(図1)。それら案内片46は、各々の一端で基部42の外縁の、腕部分40及び補助腕44との連結部位の間に相当する部位(矩形輪郭の対向二辺)に一体に連結され、基部42に略直交する方向へ互いに平行に延設される。案内片46の作用については後述する。なお、好ましくは固定部材14は、押圧部18(両腕部分40)、基部42、両補助腕44及び両案内片46を含む全体が、適当な板金材料から例えばプレス工程により一体成形される。
【0027】
上記構成を有する保持装置10では、接続準備作業を施した光ファイバコード1のジャケット端部5を、支持部材12の係止部16に係止する第1段階と、ジャケット端部5を係止した係止部16を、固定部材14の押圧部18から加わる押圧力により変形させて、係止部16とジャケット端部5とを互いに密着させる第2段階との、2段階の作業で、光ファイバコード1を固定的に保持することができる。この保持作業の間、圧着かしめ工法を行わないから、専用のかしめ工具が不要になり、また圧着かしめ工法を採用した従来の保持装置に比べて、部品点数が削減される。しかも保持装置10では、第1段階の作業は、支持部材12の係止部16にジャケット端部5を仮止め程度(つまり引張力等の外力により強制的にジャケット端部5を移動させることができる程度)の保持強度で係止するものであるから、作業者が比較的小さい力で手作業により遂行できる。また第2段階の作業は、固定部材14の押圧部18を支持部材12の係止部16の外面に係合させて、押圧部18と係止部16との寸法差に依存して生じる押圧力により、可撓性を有する筒状構造の係止部16を中心方向へ圧縮するものであるから、作業者の力に頼らない比較的簡易な作業により、係止部16にジャケット端部5を固定できる。
【0028】
このように、保持装置10によれば、部品点数を削減できるとともに、かしめ工具等の専用工具を用いることなく手作業で容易に光ファイバコード1を保持することができる。また、保持装置10を用いて実施される光ファイバコード1の保持方法によれば、作業工数を削減できるとともに、かしめ工具等の専用工具を用いることなく手作業で容易に光ファイバコード1を保持することができる。
【0029】
特に、支持部材12の係止部16が第1部分22と第2部分26とを有する図示構成によれば、前述したように、第2部分26の受容溝24にジャケット端部5を容易かつ適正に受容できるから、上記した第1段階の作業が、作業者の熟練を要さないものとなる。しかもこのとき、作業者が直接にジャケット端部5に触れることなく、第1部分22と第2部分26とを互いに押し付けることで受容溝24にジャケット端部5を受容できるので、ジャケット端部5内の光ファイバ心線2を損傷する危惧が低減される。また、固定部材14の押圧部18が基部42から延設される一対の腕部分40を有する図示構成によれば、前述したように、両腕部分40の間の空所に係止部16を受容することで所定の押圧力を係止部16に容易かつ適正に加えることができるから、上記した第2段階の作業が、作業者の熟練を要さないものとなり、必要に応じてプライヤー等の汎用手工具を用いることにより作業者の労力を著しく軽減できる。
【0030】
図4に示すように、保持装置10は、支持部材12を収容するハウジング48をさらに備えることができる。ハウジング48は、係止部16、心線案内部30及び延長部32を含む支持部材12の略全体を収容可能な空洞部50を有する。空洞部50は、ハウジング48を一方向へ貫通する貫通穴であり、略直方体状の外形を有するハウジング48の4つの側壁48a〜48dによって画定される。光ファイバコード1のジャケット端部5を支持した支持部材12は、露出した光ファイバ心線2の先端からハウジング48の空洞部50に挿入され、さらに軸線方向へ移動することで、延長部32から係止部16までが順次、空洞部50に受容される。
【0031】
ハウジング48は、1つの側壁48aに、空洞部50の両端開口のそれぞれに近接して壁厚方向へ貫通形成される一対のスリット52、54を有するとともに、側壁48aに直交する2つの側壁48b、48cの各々に、両スリット52、54の間に相当する位置で外面に凹設される案内溝56を有する。固定部材14は、押圧部18の両腕部分40と両補助腕44とをそれぞれ、ハウジング48の一対のスリット52、54に挿入するとともに、両案内片46を、ハウジング48の一対の案内溝56に摺動式に嵌入することにより、ハウジング48に相対移動可能に組み込まれる。なお、ハウジング48の側壁48bは、空洞部50を部分的に開放するように2つに分断されているが、この構成は必須ではない。
【0032】
上記構成を有する保持装置10における光ファイバコード1の保持作業を、図5を参照して説明する。まず、前述した第2段階の前に、固定部材14をハウジング48上で、両腕部分40(押圧部18)と両補助腕44とが空洞部50内に突出しない準備位置に配置する(図4、図5(a))。この状態で、前述した第1段階を経て光ファイバコード1を支持した支持部材12を、光ファイバ心線2の先端からハウジング48の空洞部50に挿入し、さらに軸線方向へ移動させて、延長部32から係止部16までを空洞部50に嵌入する(図5(a))。
【0033】
次に、固定部材14の基部42をハウジング48に接近する方向へ力Fで押し付けて、両案内片46と両案内溝56との相互案内作用の下で固定部材14を移動させ、両腕部分40と両補助腕44とを空洞部50内に突出させる(図5は腕部分40のみ示す)。そして、ハウジング48の空洞部50に収容した支持部材12に、両腕部分40(押圧部18)と両補助腕44とを係合させる(図5(b))。このとき、両腕部分40はそれぞれの対向側面40aで、係止部16の両側面16aに、間隔d1及び厚みd2(図5(a))の寸法差によって決まる押圧力を加えながら、摺動式に係合する。その結果、係止部16が押圧力下で圧縮されて弾性変形し、その受容溝24に受容されて係止された光ファイバコード1のジャケット端部5(特にジャケット4)が、係止部16の変形に伴い弾性変形する。また同時に、両補助腕44がそれぞれの対向側面で、支持部材12の延長部32の両側面に、同様に押圧力を加えながら摺動係合する。
【0034】
さらに継続して固定部材14をハウジング48に押し付けることにより、押圧部18の一対の腕部分40の間の空所に、支持部材12の係止部16が完全に受容され、両腕部分40から係止部16に中心方向への十分な押圧力が加わる(図5(c))。その結果、係止部16が押圧力下で一様に圧縮されて弾性変形し、光ファイバコード1のジャケット端部5(特にジャケット4)が受容溝24の形状に追従するようにさらに弾性変形して、ジャケット端部5と受容溝24との間の隙間が実質的に排除される。この圧縮完了状態は、押圧部18と係止部14との間の摩擦力、及び押圧部18の押圧力と係止部16の弾性復元力との協働により、自動的に維持される。
【0035】
このようにして、固定部材14は、押圧部18の押圧力により支持部材12の係止部16をジャケット端部5に密着させて、光ファイバコード1を支持部材12に強固に固定する。さらに固定部材14は、両腕部分40が係止部16に押圧力下で係合すると同時に、両補助腕44が延長部32に押圧力下で係合することにより、支持部材12をハウジング48に安定して強固に固定する。なお、図示実施形態では、固定部材14をハウジング48上で、準備位置(図5(a))と圧縮完了位置(図5(c))とのそれぞれに仮留めするために、固定部材14の両案内片46の先端近傍に係止孔58が設けられるとともに、ハウジング48の両案内溝56に一対の係止爪60が設けられる(図4)。
【0036】
上記構成を有する保持装置10によれば、光ファイバコード1の保持作業の前述した第2段階(つまり、ジャケット端部5を係止した支持部材12の係止部16を固定部材14の押圧部18から加わる押圧力により変形させる段階)を遂行する際に、ハウジング48の空洞部50内で所定の姿勢に固定的に支持された支持部材12に対し、固定部材14を、ハウジング48が奏する案内作用の下で正確に平行移動させて、押圧部18を係止部16に適正な相対位置関係で容易に係合させることができる。その結果、作業者の力Fを固定部材14に無駄なく作用させて、所要の押圧力を押圧部18から係止部16に正確に加えることができ、係止部16とジャケット端部5とを再現性良く安定して密着させることができる。したがって、作業者の力や熟練に頼ることなく、光ファイバコード1を容易かつ正確に保持することができる。なお、図5に示す構成では、支持部材12と固定部材14とは、それらの相互係合時に、係止部16の受容溝24に設けた突条20(図1)の延長方向と押圧部18の腕部分40の延長方向とが互いに略直交する相対位置関係を有している。しかしこの構成に限らず、支持部材12と固定部材14との相互係合時の相対位置関係が、突条20(図1)と腕部分40とが互いに略平行する位置関係である場合にも、固定部材14は同様に、押圧部18の押圧力により係止部16をジャケット端部5に密着させて、光ファイバコード1を支持部材12に強固に固定することができる。
【0037】
図6及び図7に示すように、保持装置10の支持部材12は、光ファイバコード1を挿通可能な開口62を有する案内部64を、係止部16に隣接して備えることができる。案内部64の開口62は、光ファイバコード1のジャケット端部5の外径寸法よりも僅かに大きな内径寸法を有する。この構成では、光ファイバコード1の保持作業の前述した第1段階(つまり、ジャケット端部5を支持部材12の係止部16に係止する段階)を遂行する際に、ジャケット4を所定長さに渡り除去して光ファイバ心線2及び抗張力体3を露出させた光ファイバコード1の先端部分(図6)を、案内部64の開口62に挿通することにより、光ファイバ心線2の周りで拘束されていない抗張力体3の露出部分が、案内部64に衝突してジャケット4の外面上に自動的に折り返される。したがって、抗張力体3の露出部分の全体が案内部64を通り抜ける直前まで、光ファイバコード1の先端部分を開口62に挿通することにより、ジャケット端部5が自動的に形成されて係止部16に配置されることになる(図7)。このような構成により、前述した第1段階の作業を簡易かつ迅速化することができる。
【0038】
上記構成において、支持部材12の案内部64は、支持部材12に支持された光ファイバコード1のための応力緩和ブーツ66を有することができる。図示実施形態では、案内部64の全体が、応力緩和ブーツ66の形状を有して、係止部16に一体に形成されており、応力緩和ブーツ66の内腔が開口62を構成している。応力緩和ブーツ66は、十分な可撓性を有する筒状要素であり、光ファイバコード1の、支持部材12に隣接する領域を収容して、光ファイバコード1に曲げ等によって生じる内部応力を緩和する。この構成によれば、別部材としての応力緩和ブーツを要する必要が無いから、保持装置10の部品点数及び組立工数が削減される。また、例えば現場組立作業に際し、保持装置10によって光ファイバコード1を保持する前に、別部材としての応力緩和ブーツを光ファイバコード1に装着し忘れることが防止される。
【0039】
支持部材12の案内部64は、応力緩和ブーツ66とは別の構成要素とすることもできる。この場合、係止部16に隣接して、Oリング状、Cリング状等の、抗張力体3の露出部分をジャケット4の外面上に自動的に折り返すことができる種々の形状を有する案内部64を形成できる。
【0040】
図8は、上記した保持装置10を備えた本発明の一実施形態による光ファイバ接続装置70を示す。
光ファイバ接続装置70は、フェルール(図示せず)及びスプライス部72を本体74の先端側に配置して備える光コネクタの構成を有する。光ファイバ接続装置70では、フェルールに予め固定支持された所定長さの組込光ファイバ素線と、本体74の後端側から導入された光ファイバコード1の光ファイバ素線(光ファイバ心線2の被覆を除去したもの)とが、スプライス部72によって、先端同士を突き合わせた状態で強固に固定されて相互接続される。この構成は、いわゆる現場組立型の光コネクタとして公知のものである。
【0041】
光ファイバ接続装置70は、本体74の後端に、保持装置10のハウジング48が取り付けられた構成を有する。ハウジング48には予め、固定部材14が前述した要領で取り付けられている。光ファイバコード1は、ジャケット端部5(図1)が支持部材12に支持された状態で、光ファイバ心線2の先端の所定長さ領域に渡り被覆が除去されて光ファイバ素線が露出される。この状態で、支持部材12を前述した要領でハウジング48の空洞部50に嵌入し、スプライス部72を操作して光ファイバコード1の光ファイバ素線をフェルールの組込光ファイバ素線に接続する。その後、固定部材14を支持部材12に係合させて、保持装置10により光ファイバコード1を固定的に保持する。
【0042】
上記構成を有する光ファイバ接続装置70は、保持装置10を備えたことにより、部品点数を削減できるとともに、かしめ工具等の専用工具を用いることなく手作業で容易に光ファイバコード1を保持装置10に保持することができ、現場組立に適したものとなる。なお、本発明に係る光ファイバ接続装置は、図示の光コネクタに限らず、他の構造を有する光コネクタや、光ファイバの中継部に設置される接続箱等の、様々な構成を採用できる。いずれの構成においても、光ファイバ接続装置と光ファイバコードとのインタフェース部に、保持装置10を設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態による保持装置を、光ファイバコードの一部分と共に示す分解斜視図である。
【図2】図1の保持装置の支持部材を、光ファイバコードを支持した状態で示す斜視図である。
【図3】図2の支持部材を、光ファイバコードを支持した状態で示す断面図である。
【図4】保持装置の固定部材及びハウジングを示す拡大斜視図である。
【図5】保持装置による保持作業を説明する段面図で、(a)固定部材が準備位置にある状態、(b)固定部材が移動している状態、(c)固定部材が圧縮完了位置にある状態を、それぞれ示す。
【図6】支持部材を、光ファイバコードに取り付ける前の状態で示す斜視図である。
【図7】支持部材を、所定位置に配置した光ファイバコードを支持する直前の状態で示す斜視図である。
【図8】本発明の一実施形態による光ファイバ接続装置を、光ファイバコードと共に示す分解斜視図である。
【符号の説明】
【0044】
1 光ファイバコード
5 ジャケット端部
10 保持装置
12 支持部材
14 固定部材
16 係止部
18 押圧部
22 第1部分
24 受容溝
26 第2部分
30 心線案内部
32 延長部
40 腕部分
48 ハウジング
50 空洞部
62 開口
64 案内部
66 応力緩和ブーツ
70 光ファイバ接続装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ心線及び抗張力体をジャケットに収容してなる光ファイバコードを、固定的に保持する保持装置において、
光ファイバコードを支持する支持部材と、
前記支持部材に光ファイバコードを固定する固定部材とを具備し、
前記支持部材は、露出した抗張力体がジャケットの外面上に折り返された形態のジャケット端部を、光ファイバコードの少なくとも自重による該支持部材からの脱落を阻止するように係止する係止部を備え、
前記固定部材は、前記ジャケット端部を係止した前記係止部を押圧力により変形させて、前記係止部と前記ジャケット端部とを互いに密着させる押圧部を備えること、
を特徴とする保持装置。
【請求項2】
前記固定部材は、前記係止部と前記押圧部との寸法差に依存して前記押圧力を生じる、請求項1に記載の保持装置。
【請求項3】
前記支持部材の前記係止部は、光ファイバコードの前記ジャケット端部が置かれる第1部分と、該第1部分に組み合わされ、該第1部分に置かれた前記ジャケット端部を受容して摩擦力により係止する受容溝を有する第2部分とを備える、請求項1又は2に記載の保持装置。
【請求項4】
前記支持部材は、光ファイバコードを挿通可能な開口を有する案内部を、前記係止部に隣接して備え、光ファイバ心線及び抗張力体を露出させた光ファイバコードの末端領域を該案内部の該開口に挿通することにより、前記ジャケット端部が自動的に形成されて前記係止部に配置される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の保持装置。
【請求項5】
前記支持部材の前記案内部は、前記支持部材に支持された光ファイバコードのための応力緩和ブーツを有する、請求項4に記載の保持装置。
【請求項6】
前記固定部材の前記押圧部は、前記支持部材の前記係止部を圧力下で挟持する一対の腕部分を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の保持装置。
【請求項7】
前記支持部材を収容するハウジングをさらに具備し、前記固定部材は、該ハウジングに相対移動可能に組み込まれ、該ハウジングに収容した前記支持部材の前記係止部に前記押圧部を係合させることにより、前記支持部材に光ファイバコードを固定すると同時に、該ハウジングに前記支持部材を固定する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の保持装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の保持装置を備えた光ファイバ接続装置。
【請求項9】
光ファイバ心線及び抗張力体をジャケットに収容してなる光ファイバコードを、固定的に保持する保持方法において、
光ファイバコードを支持する支持部材を用意し、
前記支持部材に光ファイバコードを固定する固定部材を用意し、
露出した抗張力体がジャケットの外面上に折り返された形態のジャケット端部を、光ファイバコードの少なくとも自重による脱落が阻止されるように係止した状態で、前記支持部材に支持し、
前記ジャケット端部を支持した前記支持部材に前記固定部材を係合させて、前記固定部材が及ぼす押圧力により前記支持部材を変形させ、前記支持部材と前記ジャケット端部とを互いに密着させること、
を特徴とする保持方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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