説明

光ファイバコード

【課題】本発明の課題は、心線対照時に光ファイバコードを湾曲する際に、同一光ファイバコード内に存在する複数の光ファイバが重なり合って光ファイバが破断したり、心線対照用漏光のパワー不足となることを回避することにある。
【解決手段】本発明は、ホーリファイバ素線もしくは心線22及び充実型ファイバ素線もしくは心線24が内蔵された光ファイバコードであって、ホーリファイバ素線もしくは心線22及び充実型ファイバ素線もしくは心線24の断面形状が1つの円へ外部の一点から2接線を引いて得られる形状であることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の光ファイバ素線もしくは光ファイバ心線が内蔵された光ファイバコードに関するものである。
【0002】
また本発明では、「光ファイバ」はコアおよびクラッド構造を有するガラスファイバ、「光ファイバ素線」は光ファイバをUV樹脂等で被覆したもの、「光ファイバ心線」は光ファイバ素線をUV樹脂もしくはナイロン繊維等で被覆したもの、「光ファイバコード」は光ファイバ素線もしくは光ファイバ心線をアラミド繊維等の高抗張力繊維とポリイミド樹脂等の外被覆で被覆したもの、として定義する。なお本発明では光ファイバを心線化せず素線状態で光ファイバコード内に設置するケースも含むので光ファイバ素線もしくは光ファイバ心線と併記して説明する。
【背景技術】
【0003】
近年光ファイバは、光ファイバ通信の急速な浸透に伴い、局内だけでなく一般の宅内まで普及しつつある。宅内では光ファイバコードを壁に沿って配線することにより急峻な曲げが発生し曲げ損失が増加し通信に影響を与える可能性があるため、光ファイバコードに内包される光ファイバとして、曲げ損失特性に優れるホールアシストファイバ(HAF: Hole Assisted Fiber)が採用されている。今後宅内だけでなく様々な分野へ導入されることが期待されるが、高密度配線されたところでは個々の配線の判別が難しくなるため、所望の光ファイバを特定する心線対照技術が期待されている。
【0004】
従来のシングルモードファイバでは信号波長帯より長波長の対照光を光ファイバに入力し、光ファイバを湾曲させ、漏光する対照光をモニタすることで心線対照が可能である(例えば、非特許文献1参照。)。しかしホーリファイバ(HAF、フォトニッククリスタルファイバ、フォトニックバンドギャップファイバ)は曲げ損失が発生し難い構造のため対照光が漏光せず、心線対照が困難であった。同様の課題はホーリファイバだけでなくその他低曲げ損失の光ファイバにも存在すると思われる。
【0005】
図2(a),(b)は従来の2心型光ファイバコードの断面構造と湾曲時の光ファイバ素線もしくは心線の状況を示す。図2において、11はホーリファイバ素線もしくは心線、12は充実型ファイバ素線もしくは心線、13はチューブ、14はアラミド繊維、15は外被覆である。
【0006】
図2(a),(b)に示すように、ホーリファイバ素線もしくは心線11を用いた光ファイバコードにおいて、心線対照用の光ファイバ素線もしくは心線としてホーリファイバ素線もしくは心線11より伝搬光を漏洩しやすい、例えば充実型ファイバ素線もしくは心線12を追加することで心線対照を実現する。
【0007】
しかしながら、心線対照の際に光ファイバコードを上下方向に湾曲させると、光ファイバコード内のホーリファイバ素線もしくは心線11と充実型ファイバ素線もしくは心線12が重なりあい湾曲半径がその状態により(光ファイバ素線もしくは心線の上下で)異なるため、湾曲が過剰に大きくなる場合(湾曲大)にはホーリファイバ素線もしくは心線11の破断、逆に湾曲が過剰に小さくなる場合(湾曲小)には充実型ファイバ素線もしくは心線12からの心線対照用漏光のパワー不足(漏光小)等の課題が発生する可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】有居正仁, 東裕司, 榎本圭高, 鈴木勝晶, 荒木則幸, 宇留野重則, 渡邉常一著, 「拡大する光アクセス網を支える光媒体網運用技術」, NTT技術ジャーナル, vol. 18, no. 12, 2006年12月 pp. 58−61
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、心線対照時に光ファイバコードを湾曲する際に、同一光ファイバコード内に存在する複数の光ファイバが重なり合って光ファイバが破断したり、心線対照用漏光のパワー不足となることを回避することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために本発明は、複数の光ファイバ素線もしくは光ファイバ心線が内蔵された光ファイバコードであって、少なくとも1本以上の光ファイバ素線もしくは光ファイバ心線の断面形状が1つの円へ外部の一点から2接線を引いて得られる形状であることを特徴とするものである。
【0011】
また本発明は、前記光ファイバコードにおいて、複数の光ファイバ素線もしくは光ファイバ心線の配置が光ファイバ素線もしくは光ファイバ心線の断面形状の頂点部分が反対方向を向く位置関係であることを特徴とするものである。
【0012】
また本発明は、前記光ファイバコードにおいて、少なくとも1本以上の光ファイバ素線もしくは光ファイバ心線内の光ファイバのクラッド径が100μm以下であることを特徴とするものである。
【0013】
また本発明は、前記光ファイバコードにおいて、複数の光ファイバ素線もしくは光ファイバ心線が伸縮機能のあるチューブに収められていることを特徴とするものである。
【0014】
また本発明は、前記光ファイバコードにおいて、複数の光ファイバ素線もしくは光ファイバ心線として、少なくとも1つ以上のホーリファイバ(ホールアシストファイバ、フォトニッククリスタルファイバ、フォトニックバンドギャップファイバ)もしくはトレンチ構造を有する光ファイバと少なくとも1つ以上の充実型ファイバを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明はホーリファイバ等の小径の曲げにおいても曲げ損失が殆ど発生しない光ファイバを用いた光ファイバコードにおいて、同光ファイバコード内に心線対照用の充実型ファイバを追加することで、心線対照を可能にする。
【0016】
しかしながら、2本の光ファイバが同一コード内に存在すると心線対照時の湾曲の際に2つの光ファイバが重なりあい光ファイバの破断や心線対照用漏光パワーの不安定性が懸念されるが、光ファイバ素線形状を特殊化することで回避する。更に、光ファイバのクラッド径を細径化することで曲げに対する機械的強度を向上させ、光ファイバ破断を大幅に減少させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係り、(a)は光ファイバコードを示す横断面図、(b)は光ファイバ素線もしくは心線を示す側面図である。
【図2】(a)は従来の光ファイバコードを示す横断面図、(b)は従来の光ファイバ素線もしくは心線を示す側面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係り、(a)は光ファイバコードを示す横断面図、(b)は光ファイバ素線もしくは心線を示す側面図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係る光ファイバコードを示す横断面図である。
【図5】本発明の第4の実施形態に係る光ファイバコードを示す横断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る光ファイバコードの心線対照を10000回行ったときの光ファイバの破断数を従来の光ファイバコードと比較して示す説明図である。
【図7】HAFの故障率のクラッド径依存性を示す特性図である。
【図8】本発明の実施形態に係る光ファイバコードの心線対照器受光パワーのヒストグラムを従来と比較して示す特性図である。
【図9】本発明の実施形態に係る光ファイバコードの光ファイバ破断率および心線対照器受光パワー偏差のチューブ伸縮応力依存性を示す特性図である。
【図10】本発明の実施形態に係る光ファイバコードのコネクタ構造を示す構成説明図である。
【図11】光ファイバコードの心線対照装置を示す構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1(a),(b)は本発明の第1の実施形態に係る2心型光ファイバコードの湾曲時の重なりを回避する特殊形状の光ファイバ素線もしくは心線と湾曲時の光ファイバ素線もしくは心線の状況を示し、21はホーリファイバ(ホールアシストファイバ、フォトニッククリスタルファイバ、フォトニックバンドギャップファイバ)、22はホーリファイバ素線もしくは心線、23は充実型ファイバ、24は充実型ファイバ素線もしくは心線、25はチューブ、26はアラミド繊維、27は外被覆である。
【0019】
図1(a),(b)に示すように、1本の信号光用ホーリファイバ21を用いた光ファイバコードにおいて、心線対照用の光ファイバとしてホーリファイバ21より伝搬光を漏洩しやすい、例えば1本の対照光用充実型ファイバ23を追加することで心線対照を実現する。
【0020】
図1(a)に示すように、ホーリファイバ素線もしくは心線22及び充実型ファイバ素線もしくは心線24の断面形状はそれぞれ1つの円へ外部の一点から2接線を引いて得られる形状をしている。ホーリファイバ素線もしくは心線22及び充実型ファイバ素線もしくは心線24の2本が伸縮性のあるチューブ13内に収められている。この場合、ホーリファイバ素線もしくは心線22及び充実型ファイバ素線もしくは心線24は断面形状の頂点部分が反対方向を向く位置関係に配置される。また、ホーリファイバ素線もしくは心線22及び充実型ファイバ素線もしくは心線24内の光ファイバのクラッド径は100μm以下にある。さらに、チューブ25は伸縮機能のあるチューブが用いられる。
【0021】
この状態において、光ファイバコードを上下方向に湾曲させた場合に、ホーリファイバ素線もしくは心線22及び充実型ファイバ素線もしくは心線24の上下方向に圧縮応力が掛かると、1つの円へ外部の一点から2接線を引いて得られる形状である非対称かつ平滑な面が斜め方向に接触しているため、ホーリファイバ素線もしくは心線22及び充実型ファイバ素線もしくは心線24の位置が上下に重なり合う位置から斜め方向に微小にずれ、湾曲半径の差が小さくなる。その結果光ファイバ破断を回避したり、心線対照用漏光のパワーのバラつきを抑えることが可能となる。
【0022】
尚、光ファイバコードを左右方向やその他の方向に湾曲させる場合については同一の湾曲面(湾曲動径方向の面)内に複数の光ファイバが存在することは無いため、上記課題は発生し難くなる。また、本実施形態の方法により湾曲面の間隔は光ファイバのクラッド外径以上にすることが可能である。光ファイバは硬度が高い石英ガラスが主体であるので湾曲面の間隔が光ファイバのクラッド径以上になるずれが発生すれば、光ファイバ素線もしくは心線同士で一部重なり合っていても柔軟性の高い光ファイバ素線もしくは心線の被覆部分が変形して湾曲半径を同じくらいにすることが出来る。
【0023】
図3(a),(b)は本発明の第2の実施形態に係る2心型光ファイバコードの湾曲時の光ファイバの重なりを回避する特殊形状の光ファイバ素線もしくは心線と湾曲時の光ファイバ素線もしくは心線の状況を示し、31はホーリファイバ、32はホーリファイバ素線もしくは心線(円形型)、33は充実型ファイバ、34は充実型ファイバ素線もしくは心線(非円形型)、35はチューブ、36はアラミド繊維、37は外被覆である。
【0024】
図3(a),(b)に示すように、充実型ファイバ素線もしくは心線34の断面形状は1つの円へ外部の一点から2接線を引いて得られる形状をしている。ホーリファイバ素線もしくは心線32及び充実型ファイバ素線もしくは心線34の2本が伸縮性のあるチューブ35内に収められている。
【0025】
この状態において、光ファイバコードを上下方向に湾曲させた場合に、ホーリファイバ素線もしくは心線32及び充実型ファイバ素線もしくは心線34の上下方向に圧縮応力が掛かると、充実型ファイバ素線もしくは心線34の1つの円へ外部の一点から2接線を引いて得られる形状である斜め方向の面がホーリファイバ素線もしくは心線32の円弧の面に接触しているため、充実型ファイバ素線もしくは心線34の位置が上下に重なり合う位置から斜め方向に微小にずれ、湾曲半径の差が小さくなる。その結果ファイバ破断を回避したり、心線対照用漏光のパワーのバラつきを抑えることが可能となる。
【0026】
本実施形態では2つの湾曲面の接触面積が小さく滑りにくい点、非円形の充実型ファイバ素線もしくは心線34の平面部分でないところが円形のホーリファイバ素線もしくは心線32との接点となりうる点等から、接線湾曲面が一致してしまう可能性があるため、図1の光ファイバコードよりも信頼性は劣る。しかしながら、図2の光ファイバコードよりは信頼性は高い。
【0027】
図4は本発明の第3の実施形態に係る3心型光ファイバコードの湾曲時の光ファイバの重なりを回避する特殊形状の光ファイバ素線もしくは心線と湾曲時の光ファイバ素線もしくは心線の状況を示し、41はホーリファイバ、42はホーリファイバ素線もしくは心線(非円形型)、43は充実型ファイバ、44は充実型ファイバ素線もしくは心線(非円形型)、45はホーリファイバ、46はホーリファイバ素線もしくは心線(円形型)、47はチューブ、48はアラミド繊維、49は外被覆である。
【0028】
図4に示すように、ホーリファイバ素線もしくは心線42及び充実型ファイバ素線もしくは心線44は図1の22,24と同じあり、同一の機能をする。ホーリファイバ素線もしくは心線46は断面形状が円形となっている。
【0029】
このような3心型光ファイバコードを上下方向に湾曲する場合には3本のホーリファイバ素線もしくは心線42,46及び充実型ファイバ素線もしくは心線44は異なる湾曲面へ移動するため、同一光ファイバコード内に存在する複数の光ファイバが重なり合って光ファイバが破断したり、心線対照用漏光のパワー不足となることを回避することができる。
【0030】
また、3心型光ファイバコードを左右方向に湾曲する場合やその他の方向に湾曲する場合も同様に同一湾曲面とならないため、同一光ファイバコード内に存在する複数の光ファイバが重なり合って光ファイバが破断したり、心線対照用漏光のパワー不足となることを回避することができる。
【0031】
図5は本発明の第4の実施形態に係る4心型光ファイバコードの湾曲時の光ファイバの重なりを回避する特殊形状の光ファイバ素線もしくは心線と湾曲時の光ファイバ素線もしくは心線の状況を示し、51はホーリファイバ、52はホーリファイバ素線もしくは心線(非円形型)、53は充実型ファイバ、54は充実型ファイバ素線もしくは心線(非円形型)、55はホーリファイバ、56はホーリファイバ素線もしくは心線(円形型)、57はホーリファイバ、58はホーリファイバ素線もしくは心線(円形型)、59はチューブ、60はアラミド繊維、61は外被覆である。
【0032】
図5に示すように、ホーリファイバ素線もしくは心線52及び充実型ファイバ素線もしくは心線54は図1の22,24と同じあり、同一の機能をする。ホーリファイバ素線もしくは心線56,58は断面形状が円形となっている。上下に配置されたホーリファイバ素線もしくは心線52及び充実型ファイバ素線もしくは心線54を挟むようにして、ホーリファイバ素線もしくは心線56,58が左右に配置されている。
【0033】
このような4心型光ファイバコードを上下方向に湾曲する場合には3本のホーリファイバ素線もしくは心線52,56,58及び充実型ファイバ素線もしくは心線54は異なる湾曲面へ移動するため、同一光ファイバコード内に存在する複数の光ファイバが重なり合って光ファイバが破断したり、心線対照用漏光のパワー不足となることを回避することができる。
【0034】
また、4心型光ファイバコードを左右方向(非円形のホーリファイバ素線もしくは心線52及び充実型ファイバ素線もしくは心線54の頂点が重ならない範囲)に湾曲する場合やその他の方向に湾曲する場合も同様に同一湾曲面とならずある程度の間隔を保つことが可能であるため、同一光ファイバコード内に存在する複数の光ファイバが重なり合って光ファイバが破断したり、心線対照用漏光のパワー不足となることを回避することができる。
【0035】
尚、4心型光ファイバコードの左右方向への湾曲時については、非円形のホーリファイバ素線もしくは心線52及び充実型ファイバ素線もしくは心線54の頂点が重ならない範囲であれば、その2つホーリファイバ素線もしくは心線52及び充実型ファイバ素線もしくは心線54が合わさって形成される左右の窪みは上下方向へずれるため左右にある円形のホーリファイバ素線もしくは心線56,58は同一湾曲面にはならない。
【0036】
図6は図1〜図5に示した光ファイバコードの構成において、湾曲型の心線対照器を用いて10000回心線対照を行った時に通常の光ファイバのクラッド径である125μm径と細径の80μm径の光ファイバ破断数の結果を示す。
【0037】
図11は光ファイバコードの心線対照装置を示し、71は被測定光ファイバコード、72は湾曲型の心線対照器、73は受光部、74は充実型ファイバ素線もしくは心線、75はホーリファイバ素線もしくは心線である。すなわち、配線された被測定光ファイバコード71のホーリファイバ素線もしくは心線75に信号光を入射すると共に充実型ファイバ素線もしくは心線74に対照光を入射し、被測定光ファイバコード71の中間部を湾曲させて対照光を漏光させ、漏光させた対照光を受光部73で受光することにより心線対照を行う。
【0038】
図6に示すように、光ファイバのクラッド径125μmにおいて図2の光ファイバコードの構成で光ファイバ破断が30以上発生したが、図1,4,5の光ファイバコードの構成を採用することで光ファイバ破断が0〜2となり大幅な改善が見られた。更に光ファイバのクラッド径80μm時の場合に大幅な改善が見られ、図1,4,5の光ファイバコードでは光ファイバ破断数が全て0になった。図3の光ファイバコードに関しては光ファイバのクラッド径が80μm、125μmいずれにおいても図1,4,5に及ばないものの図2の光ファイバコードより改善が見られた。
【0039】
以上のことから本発明の構成要件である光ファイバ素線もしくは心線の特殊断面形状と光ファイバの細径化を採用することで信頼性の高い心線対照が可能になることが分かった。
【0040】
図7はHAFを半径2mmの丸棒に1回転巻いた時の故障率のクラッド径依存性の実験結果を表した図である。図7から分かるようにクラッド径100μm付近から急速に故障率が減少しており、100μm以下のクラッド径にするのが望ましい。しかしHAFには空孔があるためクラッド径50μm付近でHAFの製造不能域となるため、クラッド径を50〜100μmに設定するのが望ましい。
【0041】
図8は図1と図2の光ファイバコードの構成について100回心線対照(波長:1650nm, 入力信号光パワー:0dBm,コード長5m、クラッド径:80μm)を行った時(実験系は図11)の心線対照器の受光パワーのヒストグラムを示す。
【0042】
図8から分かるように図2の光ファイバコードの構成の場合には全体的に受光パワーが低く、さらに受光パワーのバラツキが大きいため、低パワーの領域では心線対照器が対照光をモニタできない可能性がある。一方、図1の光ファイバコードの構成では高い受光パワーで且つ20dBの偏差内に収まっており、高精度の心線対照が可能である。また光ファイバ素線もしくは心線を内包するチューブの伸縮性もファイバ破断や漏光パワーの安定性に影響を与える。
【0043】
図9は図1の光ファイバコードについて、光ファイバ破断率と心線対照器の受光パワーの偏差に対するチューブの伸縮応力をプロットした図である。図9から分かるように、チューブの伸縮応力がある程度低い領域では、伸縮応力が高くなるに従い、光ファイバ破断率と心線対照器の受光パワーの偏差は小さくなる傾向にある。これは光ファイバコードに湾曲を加えるとチューブの伸縮性により内部の光ファイバ素線もしくは心線に応力がかかり、図1で示した光ファイバ素線もしくは心線の移動が発生することに起因する。光ファイバ素線もしくは心線にかかる応力の方向は湾曲面の方向と一致する。
【0044】
しかしながら、図9に示すように、チューブの伸縮応力が高くなりすぎると、湾曲面に直交方向の伸縮応力も大きくなるため、逆に光ファイバ素線もしくは心線の自由度が失われ、光ファイバ破断と漏光パワーの不安定性が発生する。従ってチューブの伸縮性を最適化する必要がある。チューブの伸縮性の最適化については、チューブの素材、チューブの厚み、チューブの構造(網目等)を変えることで可能である。
【0045】
図10(a),(b),(c)は本発明の実施形態に係る光ファイバコードへの信号光と対照光の光導入部であるコネクタの構造を示す。図10(a),(b),(c)において、81はコネクタ、82はフェルール、83は心線対照用光ファイバ素線、84は信号光伝搬用光ファイバ素線、85は光ファイバコードの外被覆、86は心線対照光迂回路である。
【0046】
図10(a)では対照光がコネクタ81の側面より心線対照用光ファイバ素線83へ入出力される構造になっている。図10(b)ではコネクタ81の端面に対照光及び信号光が心線対照用光ファイバ素線83及び信号光伝搬用光ファイバ素線84へそれぞれ対応して入出力される入出力口を備えている。図10(c)では図10(a)で示した構造の光コネクタ付き光ファイバコード2本を接続時に、コネクタ81側面の心線対照用光ファイバ素線83より出射される対照光を、心線対照光迂回路86を通して他方のコネクタ81側面の心線対照用光ファイバ素線83の対照光入力口へ入射する。
【0047】
本発明の実施形態では、光ファイバ素線もしくは心線の特殊な被覆形状として、断面形状が1つの円へ外部の一点から2接線を引いて得られる形状としたが、同様の機能が得られる構造も含む。例えば断面形状の頂点部分が若干丸みを帯びている場合や光ファイバ素線もしくは心線が接触する平面部分が若干丸みを帯びたもの等である。また、光ファイバ素線もしくは心線の表面素材は可能な限り滑りやすいものが望ましい。
【0048】
さらに、最大4心型の光ファイバコードを示したがそれ以上の多心型の光ファイバコードであっても適用できることは言うまでもない。また、信号光伝搬用の低曲げ損失光ファイバとしてホーリファイバを用いたが、同様の効果を有するトレンチ構造の光ファイバに置き換えることも可能である。
【0049】
さらに、対照光として赤外光のみではなく幅広い波長の光を利用可能であり、可視光を用いる場合には心線対照器等の器具を用いずに視認により心線対照可能になる。また、コネクタに対照光の出射口がある場合にはコネクタを光らせて判別することも出来る。また、上記に示した結果は、限られた条件での結果であり、本発明の範囲はこれらの結果に制約されるものではない。
【0050】
なお、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0051】
21…ホーリファイバ、22…ホーリファイバ素線もしくは心線、23…充実型ファイバ、24…充実型ファイバ素線もしくは心線、25…チューブ、26…アラミド繊維、27…外被覆。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の光ファイバ素線もしくは光ファイバ心線が内蔵された光ファイバコードであって、
少なくとも1本以上の光ファイバ素線もしくは光ファイバ心線の断面形状が1つの円へ外部の一点から2接線を引いて得られる形状であることを特徴とする光ファイバコード。
【請求項2】
複数の光ファイバ素線もしくは光ファイバ心線の配置が光ファイバ素線もしくは光ファイバ心線の断面形状の頂点部分が反対方向を向く位置関係であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバコード。
【請求項3】
少なくとも1本以上の光ファイバ素線もしくは光ファイバ心線内の光ファイバのクラッド径が100μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光ファイバコード。
【請求項4】
複数の光ファイバ素線もしくは光ファイバ心線が伸縮機能のあるチューブに収められていることを特徴する請求項1、2又は3に記載の光ファイバコード。
【請求項5】
複数の光ファイバ素線もしくは光ファイバ心線として、少なくとも1つ以上のホーリファイバ(ホールアシストファイバ、フォトニッククリスタルファイバ、フォトニックバンドギャップファイバ)もしくはトレンチ構造を有する光ファイバと少なくとも1つ以上の充実型ファイバを含むことを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載の光ファイバコード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−243712(P2010−243712A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91126(P2009−91126)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】