光ファイバジャイロの偏波安定化方法及びその装置
【課題】共振器内の偏波変動によって正確な回転速度の測定が損なわれるのを抑制する。
【解決手段】R−FOG1に備えた共振器11は、ファイバレーザFLからの光波を時計方向(CW)と反時計方向(CCW)に伝搬させるループ状の導波路としてPMF12を有し、このPMF12中に偏波軸を90°回転させる偶数個のスプライス箇所13,14を設けて構成される。この共振器11からの出力によって、被測定対象の回転速度を測定する。共振器11の偏波変動を抑制するためのフィードバック制御を行なう制御手段として、信号入力部21,FPGA22,及び信号出力部23を備える。
【解決手段】R−FOG1に備えた共振器11は、ファイバレーザFLからの光波を時計方向(CW)と反時計方向(CCW)に伝搬させるループ状の導波路としてPMF12を有し、このPMF12中に偏波軸を90°回転させる偶数個のスプライス箇所13,14を設けて構成される。この共振器11からの出力によって、被測定対象の回転速度を測定する。共振器11の偏波変動を抑制するためのフィードバック制御を行なう制御手段として、信号入力部21,FPGA22,及び信号出力部23を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転センサである光ファイバジャイロに関するもので、特に光ファイバジャイロの偏波安定性を向上させるための偏波安定化方法及び偏波安定化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ジャイロは、測定対象の回転速度を検出するのに用いられており、基本的な光ファイバジャイロ(FOG:fiber optic gyro)は、光源と、光位相変調器と、光結合器と、その光結合器に接続され、光ファイバを環状に囲んでなるコイルと、光検出器とを含んでいる。とりわけ共振型の光ファイバジャイロ(R−FOG:Resonator fiber optic gyro)において、各光波はコイル内を時計方向(CW)と反時計方向(CCW)に伝搬する。位相変調器はそれらの反対に伝搬する各光線の周波数を周波数変調して、CWおよびCCWの各通路の共振周波数を観測できるようにする。このときの各通路の共振周波数は、各光路において光線が連続的に再循環することで強め合う干渉に基づいており、コイルが回転することにより、CWとCCWとの間で異なる光路長を生じさせ、回転速度に比例して共振コイルの各共振周波数にシフトを生じさせるようになっている。さらにこのR−FOGは、時間によって変化するコイル周辺の温度分布が引き起こすシュッペ効果を減少させるような、5〜10m程度の短い光ファイバを備えており、慣性航法装置(INS)の要求(10−7rad/s)を満足することが期待されている。
【0003】
一般に、R−FOGによる回転検出の精度は、ノイズを誘発させる偏波変動によって限定され、共振器中を一周すると元に戻る偏波状態(SOPs)は、固有偏波状態(ESOP:Eigen states of polarization)と呼ばれる。従来の偏波保持ファイバ(PMF:Polarization maintaining fiber)によるR−FOGでは、2つのESOPが同時に発生する。図12は、温度を変化させたときの、スキャンした光波の中心周波数に対する信号強度の度合いを示したものであるが、偏波保持ファイバ内の複屈折は温度に敏感であるため、コイル周辺の温度が変動するようなことがあれば、共振曲線において第二のピークあるいは窪みとして生じる不要なESOPが、望ましいESOPの間でドリフトする。図12では、温度が変化するのに伴い、一方の望ましいESOP(符号X1)を横切るようにして、他方の不要なESOP(符号X2)がドリフトしていることが判る。非特許文献1によれば、そうした偏波変動は、強度と干渉の各タイプで2種類の誤差を生じさせることが知られている。
【0004】
こうした誤差を減らすために、非特許文献2では、共振器内において偏波軸を90°回転させる一つのスプライス(融着)箇所を設けることが提案されており、その案では2つのESOPがお互いに、πずつの位相に、自由スペクトル領域(FSR:Free spectral range)の半分に分離して生成される。この方法は、オフ共振(Off-Resonance)の強度を通じて、不要なESOPが引き起こす強度タイプの誤差を抑制するのに効果的である。しかし、90°回転させたスプライスが完璧でない場合や、共振器内に偏波依存性の損失がある場合に、2つのESOPが互いに直交しなくなると、この方法では干渉タイプの誤差を十分に減らすことができない(非特許文献3を参照)。
【0005】
別な方法として、偏波軸を90°回転させる双対のスプライスを共振器の内部に適用して、一方のESOPと他方のESOPとの間の位相がπずつ分離している時、すなわち偏波軸を90°回転させる2つのスプライス点において、その間のファイバセグメントの光路差(Δl)が、PMFの半ビート長(B/2)になっている時に、単一のESOPだけを発生させるものが、非特許文献4や非特許文献5に提案されている。このビート長Bは、PMFの縦偏波と横偏波の伝搬定数の差に起因する値で、縦偏波と横偏波の位相差が2πになり、PMF内で入射した状態の直線偏光になるまでの距離である。すなわち、ビート長BはPMF内の複屈折率をΔβとすると、縦偏波と横偏波の位相差が2πとなるような光路差であり以下の式で定義される。
【0006】
【数1】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】瀧口、保立(K. Takiguchi and K. Hotate),偏波保持ファイバ共振器における偏波軸ずれによって生じる光パッシブリング共振方式ジャイロのバイアス(Bias of optical passive ring-resonator gyro caused by the misalignment of the polarization axis in the polarization-maintaining fiber resonator),ジャーナル オブ ライトウェーブ テクノロジー(J. Lightwave Technol),1992年4月,第10巻,第4号,pp.514-522
【非特許文献2】エル.ケー.ストランドヨルド、 ジー.エイ.サンダース(L. K. Strandjord and G. A. Sanders),偏波回転を行なう共振器を用いた共振方式光ファイバジャイロ(Resonator fiber optic gyro employing a polarization-rotating resonator),SPIE1585会報(Proc. SPIE 1585),1992年2月,pp.163-172
【非特許文献3】ジー.エイ.サンダース、 アール.ビー.スミス、 ジー.エフ.ローゼ(G. A. Sanders, R. B. Smith, and G. F. Rouse),回転感知アプリケーション用の新規な偏波回転ファイバ共振器(Novel polarization-rotating fiber resonator for rotation sensing applications),SPIE1169会報(Proc. SPIE 1169),1989年,pp.373-381
【非特許文献4】保立、日坂(K. Hotate and H. Nissaka),共振方式光ファイバジャイロの偏波変動によって誘発されるバイアスドリフトを減少させる方法の分析(Analysis of a method to reduce polarization fluctuation-induced bias drift in resonator fiber-optic gyros),IEICE マイクロ波テクニカルレポート(IEICE Technical Report of Microwave),2001年6月,第101巻,第137号,pp.13-18
【非特許文献5】王、何、保立(X. Wang, Z. He and K. Hotate),偏波軸を90°回転させる双対のスプライスを有する共振器によって、共振方式光ファイバジャイロ内のドリフトをもたらす偏波変動を低減させる方法(Reduction of polarization-fluctuation induced drift in resonator fiber optic gyro by a resonator with twin 90°polarization-axis rotated splices),オプティカル エクスプレス(Optical express),2010年,第18巻,第2号,pp.1677-1683
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来技術において、偏波変動を抑制するのに望ましいESOPだけを発生させるには、2つのスプライス点間におけるファイバセグメントの光路差Δlが、PMFの半ビート長B/2と等しい(Δl=B/2+nB)という条件を満足する必要がある。しかし、共振コイル周辺の温度変動によって、光路差Δlが最適な状態から逸れる場合があり得る。したがって、バイアス安定性を長期間維持するためには、光路差Δlの変動を監視し、それによって偏波変動を抑制できる手法が必要とされる。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑み、共振器内の偏波変動によって正確な回転速度の測定が損なわれるのを抑制できる光ファイバジャイロの偏波安定化方法及びその装置を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、上記目的を達成するために、光源からの光波を伝搬させる導波路を有し、この導波路中に偏波軸を回転させるスプライス点を偶数箇所設けた共振器を備え、前記共振器からの出力により回転速度を測定する光ファイバジャイロにおいて、前記共振器の偏波変動を抑制するためのフィードバック制御を行なう光ファイバジャイロの偏波安定化方法を提案する。
【0011】
この場合、前記導波路として偏波保持ファイバが用いられ、前記フィードバック制御は、二箇所の前記スプライス点で区切られた前記偏波保持ファイバの各区分における長さの差Δlと、前記偏波保持ファイバのビート長Bとの関係を、Δl=B/2+nB(但し、nは整数)に調整して、望ましい固有偏波状態にのみ入力電界を突出させることが望ましい。
【0012】
また、前記共振器の出力から分岐した一方のポートにポラライザを挿入し、前記ポラライザからの誤差信号で前記フィードバック制御を行なうようにしてもよい。
【0013】
さらに前記共振器は、二箇所の前記スプライス点で区切られた前記導波路の一方の区分が、この一方の区分の長さを変位させる調整器に巻回される一方で、前記導波路の他方の区分が、一定の外形を有する固定体に巻回される。
【0014】
この場合、前記導波路として偏波保持ファイバが用いられ、前記共振器の出力から分岐した一方のポートにポラライザを挿入し、二箇所の前記スプライス点で区切られた前記偏波保持ファイバの各区分における長さの差Δlと、前記偏波保持ファイバのビート長Bとの関係が、Δl=B/2+nB(但し、nは整数)であるときに、前記ポラライザからの誤差信号を減少させ、この誤差信号に基づき生成される電圧によって、前記調整器の外形を制御するのが望ましい。
【0015】
さらに本発明では、上記目的を達成するために、光源からの光波を伝搬させる導波路を有し、この導波路中に偏波軸を回転させるスプライス点を偶数箇所設けた共振器を備え、前記共振器からの出力により回転速度を測定する光ファイバジャイロにおいて、前記共振器の偏波変動を抑制するためのフィードバック制御を行なう制御手段を備えた光ファイバジャイロの偏波安定化装置を提案する。
【0016】
この場合、前記導波路は偏波保持ファイバからなり、前記制御手段は、二箇所の前記スプライス点で区切られた前記偏波保持ファイバの各区分における長さの差Δlと、前記偏波保持ファイバのビート長Bとの関係を、Δl=B/2+nB(但し、nは整数)に調整して、望ましい固有偏波状態にのみ入力電界を突出させることが望ましい。
【0017】
また、前記共振器の出力から分岐した一方のポートにポラライザを挿入し、前記制御手段は、前記ポラライザからの誤差信号で前記フィードバック制御を行なう構成を有するようにしてもよい。
【0018】
さらに前記共振器は、二箇所の前記スプライス点で区切られた前記導波路の一方の区分が、この一方の区分の長さを変位させる調整器に巻回される一方で、前記導波路の他方の区分が、一定の外形を有する固定体に巻回される。
【0019】
この場合、前記導波路は偏波保持ファイバからなり、前記共振器の出力から分岐した一方のポートにポラライザを挿入し、二箇所の前記スプライス点で区切られた前記偏波保持ファイバの各区分における長さの差Δlと、前記偏波保持ファイバのビート長Bとの関係が、Δl=B/2+nB(但し、nは整数)であるときに、前記ポラライザからの前記誤差信号を減少させ、この誤差信号に基づき生成される電圧によって、前記制御手段が前記調整器の外形を制御するように構成するのが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
請求項1及び請求項6に係る発明では、共振器を構成する導波路中に偶数箇所のスプライス点を設けた光ファイバジャイロに対して、フィードバック制御を施すことで、共振器内の偏波変動を抑制することができ、光ファイバジャイロによる正確な回転速度の測定が可能になる。
【0021】
請求項2及び請求項7に係る発明では、偏波保持ファイバのビート長Bに対して、偏波保持ファイバの各区分における長さの差Δlが自動的にB/2+nBなる関係に保たれるので、望ましいESOPにのみ入力電界を突出させて、共振器内の偏波変動を確実に抑制することが可能になる。
【0022】
請求項3及び請求項8に係る発明では、ポラライザを通して出力される特定の偏波成分を誤差信号として、共振器内の偏波変動を抑制し得るフィードバック制御を行なうことが可能になる。
【0023】
請求項4及び請求項9に係る発明では、共振器を構成する導波路の一方の区分を調整器に巻回する一方で、導波路の他方の区分を固定体に巻回するだけで、共振器内の偏波変動を抑制するように、導波路の一方の区分を変位させることが可能になる。
【0024】
請求項5及び請求項10に係る発明では、ポラライザを通して出力される特定の偏波成分を誤差信号として、共振器内の偏波変動を抑制し得るフィードバック制御を行なうことが可能になる。また、偏波保持ファイバの各区分における長さの差Δlと、偏波保持ファイバのビート長Bとの関係が、Δl=B/2+nBであるときに、ポラライザの誤差信号が減少することから、これを利用して共振器内の偏波変動を抑制するように、調整器の外形を制御することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施例で提案する偏波変動抑制のフィードバック制御部を備えたR−FOGの数学的なモデルを示す説明図である。
【図2】同上、光路差ΔlをB/8ずつ増加させたときのESOPの形状をそれぞれ示す図である。
【図3】同上、偏波変動を抑制するフィードバック制御の原理を示す説明図である。
【図4】同上、様々な光路差Δlに対して、フォトダイオードPD2,PD3で検出される共振出力のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図5】同上、フォトダイオードPD3で検出される電気信号を用いた復調曲線のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図6】同上、光源の中心周波数をCW側の共振周波数にロックしたときの光路差Δlの関数として、復調曲線のシミュレーション結果を示す図であり、(b)は(a)の点線で囲んだ部分を拡大したものである。
【図7】同上、本実施例で提案した方法を具現化する実験組立装置の概略図である。
【図8】同上、ファイバレーザFLからの光波中心周波数を鋸波形で走査することにより、CW側のポート1から観測した共振特性と、それに対応して、ポート2から観測した復調曲線の実験結果を、種々の光路差Δlについて示したグラフである。
【図9】同上、光路差Δlに対するロックイン増幅器LIA5出力の実験結果を示すグラフである。
【図10】同上、単一のESOPだけ発生され、信号P4が0の場合において、共振特性の実験結果を示すグラフである。
【図11】偏波変動制御ループが有る場合と無い場合のバイアスドリフトを比較した実験結果のグラフである。
【図12】従来のPMFによるR−FOGの偏波変動問題に関し、温度を変化させたときのスキャンした光波中心周波数と強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照しながら、本発明で提案する光ファイバジャイロの偏波安定化方法とその装置について、その好適な実施例を説明する。
【実施例1】
【0027】
本実施例では、前述したΔl=B/2の関係を保つことで、偏波変動を自動的に抑制するフィードバックシステムを提案する。図1は、そうしたシステムに対応する共振型光ファイバジャイロ(R−FOG)1の数学的なモデルを示している。
【0028】
このモデル図において、R−FOG1は環状の導波路を有する共振器11を備えており、Ej,iは入力電界、Ej,oは出力電界を示している。また添え字j=CWは、共振器11において時計方向(CW)に回る電界を示し、添え字j=CCWは反時計方向(CCW)に回る電界を示している。共振器11の入射側には第1のカプラC1が取り付けられ、出射側には第2のカプラC2が取り付けられる。光結合器として用いられるこれらのカプラC1,C2は、それぞれが強度損失係数ri,jと結合定数Κi,jとを有する(但し、i=x,yであり、j=1,2である)。これにより、一方の入力電界ECW,iは、ポラライザP1を通してカプラC1に入射され、他方の入力電界ECCW,iは、別なポラライザP2を通してカプラC1に入射され、互いに対向して共振器11内の導波路を周回伝搬する。そして、カプラC2を通して出力電界ECW,oと出力電界ECCW,oが各々出射され、CCW側出力は光検出器としてのフォトダイオードPD1に導かれる。
【0029】
前記共振器11は、導波路の偏波軸を90°捩って融着させたスプライス箇所13,14が2つ設けられる。この導波路には、縦及び横の各偏波軸に沿って光波を伝搬させ、偏波保持特性を有する偏波保持ファイバ(PMF)が用いられ、各々Lu(u=1〜4)の長さを有する4つのファイバセグメントが、各偏波軸の間でθv(v=1,2)の角度を有して結合される。したがってスプライス箇所13では、L1の長さのファイバセグメントとL2の長さのファイバセグメントが、θ1=90°の角度で結合され、スプライス箇所14では、L3の長さのファイバセグメントとL4の長さのファイバセグメントが、θ2=90°の角度で結合される。
【0030】
さらにここでのR−FOG1は、カプラC2からのCW側出力を、2つの分岐部に分割する第3のカプラC3が設けられる。一方の分岐部は第2の受光器であるフォトダイオードPD2に結合され、CW側の共振周波数に対して光波の中心周波数をロックするのに用いられる。他方の分岐部は、y軸方向の直線偏波のみを透過させるポラライザP3に結合され、フィードバックループの誤差信号を生成して、2つのスプライス点間におけるファイバセグメントの光路差Δlを調整する。
【0031】
図2(a)〜(i)は、光路差ΔlをB/8ずつ増加させたときのESOPの形状(偏波状態)をそれぞれ算出して示したものである。スプライス箇所13,14間におけるファイバセグメントの光路差Δlは、次の式で表される。
【0032】
【数2】
【0033】
スプライス箇所13,14における角度差がθ1=θ2=90°で、各カプラC1,C2内部の結合クロストークが存在しない理想状態では、PMFの偏波軸と一致して、2つのESOPが水平及び垂直の直交した実線で示される。一方、前記角度差がθ1=91°,θ2=80°で、20dBのクロストークを有する理想よりもずれた状態では、2つのESOPは点線と一点鎖線でそれぞれ示されるように、光路差Δlが0からB/2に変化すると、円から直線になり、その後に光路差ΔlがB/2からBに変化すると、直線から再び円になる。最先端のスプライシング機では、スプライス点における角度の調整ずれを±0.5°以内とすることができるので、各ESOPの偏波状態は、Δl=B/2のときにPMFの偏波軸により近づくことになる。
【0034】
図3は、本実施例において前記偏波変動を抑制するフィードバック制御の原理を示したものである。図3(a)は、Δl=B/2の理想状態を表わしたもので、y軸に偏波された入力光が共振器11に入射すると、(偏波軸を90°回転させることによる影響を受けて、)出力光はx軸に沿って偏波された望ましいESOPだけが選択的に発生し、望ましくないESOPに突出する電界は存在しない。したがって、この場合は前記ポラライザP3の出力から発生するフィードバックループの誤差信号が最小の0になる。なお、図中X1は望ましいESOPを示し、X2は望ましくないESOPを示している。
【0035】
図3(b)は、Δl=0という別の極端な例を示しているが、この場合はエネルギーの半分が望ましくないESOPに突出して、ポラライザP3から大きな誤差信号が出力する。Δlがそれ以外の値である場合は、誤差信号が上記2つの極端な例の間で出力する。本実施例で提案するフィードバック処理は、前記誤差信号が0、すなわち望ましいESOPだけが発生するまで継続する。それにより、単独に発生したESOPの状態が常に保証される。
【0036】
偏波変動を抑制するフィードバックループの効果を示すために、鋸波形状を用いて光波の中心周波数を走査することで、前記フォトダイオードPD2,PD3から取得した様々な光路差Δlに対する強度出力を最初に比較する。図4は、その比較結果を示したものであり、点線はフォトダイオードPD2で検出した共振曲線に相当し、実線はフォトダイオードPD3で検出した共振曲線に相当する。また図4(a)〜(e)の各グラフは、光路差Δlが0.1B,0.35B,0.5B,0.7B,0.89Bの場合をそれぞれ示している。同図で明らかなように、共振器11は(図中、点線の位相0と2πにおける)ESOP1の共振周波数近辺でピーク強度を有すると共に、光路差Δlが0またはBに近づくと、フォトダイオードPD3で検出した強度は大きな出力となり、光路差Δlが0.5Bに近づくと、フォトダイオードPD3で検出した強度は小さな出力となる。ここで留意すべきは、図4(c)に示すように、光路差Δlが0.5BのときにフォトダイオードPD3で検出される小さなピークは、偏波軸を回転させるスプライス箇所13,14の調整ずれが原因である、ということである。
【0037】
ところで、ここでは本光ファイバジャイロにより回転を抽出するために、2πを振幅とする段階的な鋸波形での変調であるデジタルセロダイン変調によって、光波信号を位相変調することを前提としている。こうした位相変調の詳細は、「王、何、保立(X. Wang, Z. He and K. Hotate),デジタルフィードバックスキームを備えた共振方式光ファイバジャイロにおけるバイアス安定性の測定実験(Experiment on bias stability measurement of resonator fiber optic gyro with digital feedback scheme),第20回光ファイバセンサ国際会議会報(Proc. 20th International Conference on Optical Fiber Sensors(OFS20)),2009年10月,英国エディンバラ,paper 7503-144」の文献を参照されたい。
【0038】
共振器11の後段で(フォトダイオードPD2から)直接的に取得される信号のように、フォトダイオードPD3からの電気信号が、ロックイン増幅器(LIA5)によって復調できることも示すために、図5(a)〜(e)には、光源の中心周波数を走査することで得た出力が、前記図4における光路差Δlと同じ条件で表わされている。
【0039】
さらに、偏波変動抑制フィードバックループの誤差信号として、フォトダイオードPD3からの同期検出信号が利用できることを確認するために、その同期検出信号と光路差Δlとの関係を検査した結果を図6に示す。前述の図5は、x軸が光波の中心周波数を示しており、そのx軸が走査されたときの位相での同期検出出力を示している。これに対して図6では、CW側の共振周波数に光源の中心周波数をロックさせながら、フォトダイオードPD3後段の同期検出出力を提示しており、ここでのX軸は光路差Δlの変動に相当する。図6における別なパラメータは、入力する直線偏波のPMFの偏波軸に対する角度であり、ここでは90.0°,90.1°,90.3°,90.5°,91.0°についてそれぞれ示している。同様に、これは共振器の入射側前段に挿入されるポラライザ(図1に示す符号P1,P2)の消光比の影響を予測するのに利用できる。
【0040】
図6(a)は、光路差Δlを−0.25Bから1.25Bに変化させたときの同期検出出力を示し、また図6(b)は、特に光路差Δlが0.4B〜0.6Bの範囲にある場合の出力を拡大して示している(図6(a)の点線で囲んだ部分)。これらの各結果に示すように、フォトダイオードPD3からの同期検出信号は、光路差Δlと共に周期的に変化する。さらにその信号の出力は、光路差Δlが0.4B〜0.6Bの範囲内で、当該光路差Δlとリニアな関係にあって、これは最も重要なΔl=0.5Bの場合を含んでいる。しかも、Δl=0.5Bである特別な場合には、フォトダイオードPD3からの同期検出信号が小さくなり、入力電界と無関係になる。したがって、光路差Δlの変動ひいてはR−FOG1における偏波変動を抑制する誤差信号として、この同期検出信号を利用することが可能になる。
【0041】
図7は、前記R−FOG1にノイズをもたらす偏波変動を自動的に抑制する偏波安定化装置2を組み込んだシステムのセットアップ構成を示している。
【0042】
同図において、回転速度の測定器に相当するR−FOG1は、光源としての分布帰還型(DFB)ファイバレーザFLと、光を一方向にだけに伝えて反射光を阻止するアイソレータISO1,ISO2,ISO3と、一乃至複数の入射光を結合または分配する光結合器としてのカプラC1,C2,C3,C4と、y軸方向の直線偏波のみを透過させる偏光子としてのポラライザY-POL1,Y-POL2,Y-POL3と、入射光を位相変調させる位相変調器PM1,PM2と、光検出器としてのフォトダイオードPD1,PD2,PD3と、前記カプラC2,C3の間に接続される共振器11を備えて構成される。特に共振器11は、偏波保持特性を有する偏波保持ファイバ(PMF)12を用い、これをカプラC2,C3の間に環状に配置して構成される。
【0043】
なお、前記図1に示すポラライザP1,P2,P3は、図7に示すポラライザY-POL1,Y-POL2,Y-POL3にそれぞれ対応し、図1に示すカプラC1,C2,C3は、図7に示すカプラC2,C3,C4にそれぞれ対応する。その他の符号は、図1と図7で共通している。
【0044】
共振器11の途中には、PMF12の偏波軸を90°捩って融着させたスプライス箇所13,14が2つ設けられる。このスプライス箇所13,14は、2つ以上の偶数個であれば共振器11として実施が可能である。また共振器11には、何れも外形が円筒状をなすピエゾ変換素子(PZT)15とコイル16がそれぞれ設けられ、外部からの信号Q4に応じて直径が変位するPZT15に、スプライス箇所13,14から出射側のカプラC3に至るPMF12の半部分が巻回される一方、一定の直径を有する筒体としてのコイル16に、入射側のカプラC2からスプライス箇所13,14に至る残りのPMF12の半部分が巻回される。図示してあるように、信号Q4を印加していない状態でのPZT15の直径と、コイル16の直径は、何れも10cmであるが、この数値はあくまでも一例にすぎない。
【0045】
ここで、一方のカプラC2と一方のスプライス箇所13との間の長さをL1とし、スプライス箇所13と他方のカプラC3との間の長さをL2とし、カプラC3と他方のスプライス箇所14との間の長さをL3とし、スプライス箇所14とカプラC2との間の長さをL4とすると、前記PMF12における一方の半部分の長さ(L1+L4)と、他方の半部分の長さ(L2+L3)との差が、ファイバセグメントの光路差Δlとなる。
【0046】
PZT15は、光路差Δlの調整器として共振器11に設けられているが、例えば図7に示すPZT15に代えてコイルを配設し、共振器11に2個のコイルを設けて、一方のコイルの下に加熱手段としてのホットプレートを敷いて温度差を作ったり、或いはPMF12と共に一方のコイルに発熱体を巻いて、当該発熱体からの熱によりPMF12の一方の半部分と他方の半部分の屈折率に差をつけたりして、光路差Δlを調整しても良い。また、PZT15以外でも力学的にPMF12に引張り力を加えられれば、どのような構成のものでも良く、引張り力の加え方は、PMF12の部分に対してでも全体に対してでも良い。
【0047】
R−FOG1の回転検出原理は、共振器11が角速度Ωで回転すると、時計方向(CW)に回る光波と反時計方向(CCW)に回る光波の光路長にサニャック効果による光路差が生じ、これによりCW光とCCW光の共振周波数に差を生じさせることに基づいている。このときの共振周波数差Δνsは、共振器11が囲む面積Sと角速度Ωに比例し、ファイバレーザFLの発振波長λLに反比例することから、面積Sと発振波長λLが判っていれば、一方の光波の共振点を基準とし、他方の光波の共振点を観測して、前記共振周波数差Δνsを測定することで、角速度Ωを得ることができる。
【0048】
上記R−FOG1において、ファイバレーザFL(スペクトル線幅≦10kHz)を出射した光は、アイソレータISO1を通過した後、カプラC1により50:50の割合で均等に分離される。カプラC1からの分岐光は、一方が位相変調器PM1とポラライザY-POL1を順に通り、他方が別な位相変調器PM2とポラライザY-POL2を順に通り、それぞれ光ファイバに導かれてカプラC2に入射する。カプラC2により共振器11に入射した光は、CWとCCWでそれぞれループ内を伝搬する。ここでの共振器11は、偏波軸を90°回転させる双対のスプライス箇所13,14を備えているが、CWおよびCCWの両光波は、共振器11に入射する前に、いわゆるデジタルセロダイン変調方式で変調される。この変調は共振点を検出することを目的として、位相変調器PM1,PM2によって行われるが、本実施例のような段階状の鋸波ではなく、例えば滑らかなスロープを有する鋸波によるアナログセロダイン位相変調で各光波の周波数をシフトさせてもよい。また、共振器11の入射側には、2つのy軸に向けられたポラライザY-POL1,Y-POL2が配置される。
【0049】
共振器11のループ内で定在波となるような光の周波数は共振を生じ、CCW光の共振特性は、カプラC3からISO2を通してフォトダイオードPD1で検出され、CW光の共振特性は、カプラC3からISO3とカプラC4を順に通してフォトダイオードPD2で検出される。カプラC4はカプラC3から出射されるCW光を2つのポートに分岐して、一方のポート1をそのままフォトダイオードPD2に導くと共に、他方のポート2をポラライザY-POL3に通過させ、そこからy軸方向の偏波成分のみを有するCW光を、別なフォトダイオードPD3に導く構成となっている。
【0050】
一方、偏波安定化装置2は、フォトダイオードPD1,PD2,PD3の各検出出力から、第1〜第5のロックイン増幅器LIA1〜LIA5を通して必要な信号P1〜P5をそれぞれ抽出する信号入力部21と、この信号入力部21で得られた各信号P1〜P5に基づいて、R−FOG1内における偏波変動を自動的に抑制し得るフィードバック信号などの制御信号Q1〜Q4を生成し出力すると共に、共振器11の角速度Ωに対応した出力信号Outputを生成し出力するFPGA(Field Programmable Gate Array)22と、前記制御信号Q1〜Q4を、ファイバレーザFLや、ファンクションジェネレータFG-1,FG2や、PZT15を駆動する信号に変換する信号出力部23と、を備えて構成される。
【0051】
前記信号入力部21において、フォトダイオードPD1の検出出力は、第1のロックイン増幅器LIA1に送出され、ここでファンクションジェネレータFG-1で生成される周波数frp,ccwの成分だけが抽出され、第1の信号P1としてFPGA22に送出される。フォトダイオードPD1の検出出力は、他に第2のロックイン増幅器LIA2にも送出され、ここでファンクションジェネレータFG-1で生成される周波数Δfccwの成分だけが抽出され、第2の信号P2としてFPGA22に送出される。
【0052】
また、フォトダイオードPD2の検出出力は、第3のロックイン増幅器LIA3に送出され、ここでファンクションジェネレータFG-2で生成される周波数frp,cwの成分だけが抽出され、第5の信号P5としてFPGA22に送出される。フォトダイオードPD2の検出出力は、他に第4のロックイン増幅器LIA4にも送出され、ここでファンクションジェネレータFG-2で生成される周波数Δfcwの成分だけが抽出され、第3の信号P3としてFPGA22に送出される。
【0053】
さらに、フォトダイオードPD3の検出出力は、第5のロックイン増幅器LIA5に送出され、ここでファンクションジェネレータFG-2で生成される周波数frp,cwの成分だけが抽出され、第4の信号P4としてFPGA22に送出される。
【0054】
FPGA22は、ユーザが独自の論理回路を書き込むことのできるホームメイドのデジタル処理器で、ロックイン増幅器LIA1からの信号P1は、FPGA22により計算された制御信号Q1で、これによりファイバレーザFLは、FPGA22からの制御信号Q1に基づく中心周波数のレーザ光を出射する。また、前記ロックイン増幅器LIA2からの信号P2と、ロックイン増幅器LIA3からの信号P3は、それぞれファンクションジェネレータFG-1に出力される制御信号Q2と、ファンクションジェネレータFG-2に出力される制御信号Q3に対応して、デジタルセロダイン変調信号の振幅を制御するための誤差信号として提供される。
【0055】
これを受けてファンクションジェネレータFG1は、制御信号Q2に基づく振幅を有し、且つその振幅が周波数Δfccwで段階的に変動し、さらに各鋸波形の段階状スロープの増加を繰り返す区間と減少を繰り返す区間が、周波数frp,ccwで繰り返されるようなデジタルセロダイン変調信号を、位相変調器PM1に送出すると共に、ファンクションジェネレータFG2は、制御信号Q3に基づく振幅を有し、且つその振幅が周波数Δfcwで段階的に変動し、さらに各鋸波形の段階状スロープの増加を繰り返す区間と減少を繰り返す区間が、周波数frp,cwで繰り返されるようなデジタルセロダイン変調信号を、位相変調器PM2に送出する。カプラC1で分岐したファイバレーザFLからの光は、それぞれのデジタルセロダイン変調信号で位相変調される。
【0056】
共振器11のCW側出力から取り出されたy軸の偏波成分は、ロックイン増幅器LIA5によって同期検波された信号P4となり、ファイバセグメントの長さL2+L3を調整するために、PZT15に印加される電圧(信号Q4)に用いられる。FPGA22は、ロックイン増幅器LIA5からの信号P4を受けて、Δl=B/2の関係が保たれるよう制御信号Q4を、PZT15に送出する。すなわちここでは、カプラC4で分岐したCW側出力光から、ポラライザY-POL3によって水平偏波成分を除去したものをフォトダイオードPD3で電気信号に変換し、その電気信号について、ファンクションジェネレータFG2で生成された周波数frp,cwの信号を参照して、ロックイン増幅器LIA5で同期検波した制御信号Q4をPZT15に与えることで、R−FOG1の偏波変動を自動的に抑制する制御ループ31が形成される。
【0057】
また、R−FOG1の出力信号Outputは、ロックイン増幅器LIA3によって決まる信号P5から、前記信号P1を引くことにより算出される。そしてこの出力信号Outputによって、回転する共振器11の角速度Ωを得ることができる。
【0058】
なお、前記光路差ΔlとPMF12のビート長Bとの関係は、Δl=B/2+nB(n:整数)であってもよい。また別な変形例として、図7では共振器11に対して、y軸成分を望ましいESOPとして入射させ、x軸成分を望ましいESOPとして出射させているが(すなわち、望ましくないESOPは入力側がx軸成分,出力側がy軸成分となる)、x軸成分を望ましいESOPとして入射させ、y軸成分を望ましいESOPとして出射させても良い。その場合、図7に示すポラライザY-POL1,Y-POL2,Y-POL3に代えて、何れもx軸方向の直線偏波のみを透過させるポラライザX-POL1,X-POL2,X-POL3を適用する。
【0059】
また、カプラC3はスプライス箇所13,14の後側(図7に示す共振器11の右側)にではなく、例えばスプライス箇所13,14の前側、すなわち入射側のカプラC2とスプライス箇所13,14との間に取り付けるなどしてもよい。但し、この場合はスプライス箇所13,14で偏波軸を90°回転させる前の部位にカプラC3が設けられるため、図7に示すポラライザY-POL3をポラライザX-POL3とする必要がある。
【0060】
また、スプライス箇所13,14は、周回するPMF12に偶数個設けることが可能である。したがって、図7に示すような2個のスプライス箇所13,14に限定されない。
【0061】
図8(a)〜(d)は、光波中心周波数を鋸波形で走査することにより、ポート1から観測したCW側共振特性と、それに対応して、ポート2から観測した復調曲線の実験結果を、0.1B,0.35B,0.7B,0.89Bの各光路差Δlについてそれぞれ示している。ここでは、(1)光路差Δlが0およびBに近づくと、ロックイン増幅器LIA5からの出力が大きくなる、(2)望ましいESOP1の共振周波数を境として、信号P4の符号が変わる(光路差Δlが0に近づくと正、光路差ΔlがBに近づくと負)、ということが明確になる。この特性は、フィードバックループを構成して、光路差Δlを制御する可能性を示すものである。つまり制御ループ31は、ロックイン増幅器LIA5で同期検波した信号P4の符号が正負どちらであるかによって、光路差Δlをどちら側に向けて調整するのかを判断できる。これは、図4に示すフォトダイオードPD3の検出出力に含まれる共振曲線について、光路差Δlが0.5よりも小さい場合と、光路差Δlが0.5よりも大きい場合で、2つのピークの高低の順番が異なるのを、ロックイン増幅器LIA5が符号の変化として出力できることに起因している(例えばΔl=0.1Bの場合、フォトダイオードPD3で検出する共振曲線の2つのピークは、横軸である位相の走査に伴い低→高の順にあらわれるが、Δl=0.89Bの場合、そのピークは逆に高→低の順にあらわれる)。
【0062】
図9は、実験で得た光路差Δlとロックイン増幅器LIA5からの出力との間の線形な関係を示している。ロックイン増幅器LIA5の出力は、Δl=B/2において0になり、光路差Δlがそれよりも大きい場合と小さい場合で符号が反転する。
【0063】
図10は、ロックイン増幅器LIA5からの出力が0の場合のCW側共振特性を示している。この時点では、CW側共振特性に望ましいESOP1だけが発生し、望ましくないESOP2があらわれていないことに注目されたい。
【0064】
さらに図11は、偏波変動フィードバックをオンまたはオフにしたときの静止状態(無回転状態)で検出される角速度に相当するバイアスドリフトの比較を示しており、それぞれの標準的な偏差は3×10−4rad/sと1×10−4rad/sである。このバイアスドリフトの低減は、本実施例で提案する偏波変動を抑制する制御ループ31の有効性を示している。
【0065】
以上のように本実施例では、レーザ光源であるファイバレーザFLからの光波をCWとCCWにそれぞれ伝搬させるループ状の導波路として、偏波保持特性を有するPMF12を有し、このPMF12中に偏波軸を90°回転させるスプライス箇所13,14を複数箇所設けた共振器11を備え、この共振器11からの出力によって被測定対象の回転速度を測定する光ファイバジャイロとしてのR−FOG1において、共振器11の偏波変動を抑制するためのフィードバック制御を行なう方法と、これを実現する偏波安定化装置2としての制御手段(信号入力部21,FPGA22,信号出力部23)を特に提案している。
【0066】
この場合、共振器11を構成するPMF12中に偶数個のスプライス箇所13,14を設けたR−FOG1に対してフィードバック制御を施すことで、共振器11内の偏波変動を抑制することができ、R−FOG1による正確な回転速度の測定が可能になる。
【0067】
また、ここでのフィードバック制御は、二つの前記スプライス箇所13,14で区切られたPMF12の各区分における長さの差である光路差Δlと、PMF12のビート長Bとの関係を、Δl=B/2+nB(但し、nは整数)に調整して、望ましいESOPにのみ入力電界を突出させるようにしており、またそのようなフィードバック制御を実現する制御手段を備えている。
【0068】
この場合、PMF12のビート長Bに対して、光路差Δlが自動的にB/2+nBなる関係に保たれるので、望ましいESOPにのみ入力電界を突出させて、共振器11内の偏波変動を確実に抑制することが可能になる。
【0069】
また図7に示すように、共振器11の出力から分岐した一方のポートであるポート2に、特定の偏波成分のみを取り出すポラライザY-POL3を挿入し、このポラライザY-POL3からの誤差信号でフィードバック制御を行なう方法と、そうしたフィードバック制御を実現する制御手段の構成を提案している。
【0070】
こうすると、ポラライザY-POL3を通して出力される特定の偏波成分を誤差信号として、共振器11内の偏波変動を抑制し得るフィードバック制御を行なうことが可能になる。
【0071】
本実施例の共振器11は、二つのスプライス箇所13,14で区切られた導波路としてのPMF12の一方の区分が、この一方の区分の長さを変位させる調整器であるPZT15に巻回される一方で、PMF12の他方の区分が、一定の外形を有する固定体としてのコイル16に巻回される。
【0072】
この場合、共振器11を構成するPMF12の一方の区分を、例えばPZT15などの調整器に巻回する一方で、PMF12の他方の区分を、例えばコイル16などの固定体に巻回するだけで、共振器11内の偏波変動を抑制するように、PMF12の一方の区分を変位させることが可能になる。
【0073】
またここでは、前記光路差Δlとビート長Bとの関係が、Δl=B/2+nB(但し、nは整数)であるときに、前記ポラライザY-POL3からの誤差信号を減少させ、この誤差信号に基づき生成される電圧によって、PZT15の外形を制御する方法と、そうした制御を実現する制御手段の構成を提案している。
【0074】
これにより、ポラライザY-POL3を通して出力される特定の偏波成分を誤差信号として、共振器11内の偏波変動を抑制し得るフィードバック制御を行なうことが可能になる他に、PMF12の光路差Δlとビート長Bとの関係が、Δl=B/2+nBであるときに、ポラライザY-POL3の誤差信号が減少して最小になることから、これを利用して共振器11内の偏波変動を抑制するように、PZT15の外形を制御することが可能になる。
【0075】
なお本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、図7に示す例で、FPGA22以外の各種デジタル処理器を用いても構わない。また、PZT15やコイル16の外形が円筒形である必要はなく、PZT15で光路差Δlを変位する一方で、コイル16のような外形が変形しない固定体で、PMF12の一部の長さを固定できればよい。
【符号の説明】
【0076】
FL ファイバレーザ(光源)
P3,X-POL3,Y-POL3 ポラライザ
1 R−FOG(光ファイバジャイロ)
2 偏波安定化装置
11 共振器
12 PMF(導波路)
13,14 スプライス点(スプライス箇所)
15 PZT(調整器)
16 コイル(固定体)
21 信号入力部(制御手段)
22 FPGA(制御手段)
23 信号出力部(制御手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転センサである光ファイバジャイロに関するもので、特に光ファイバジャイロの偏波安定性を向上させるための偏波安定化方法及び偏波安定化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ジャイロは、測定対象の回転速度を検出するのに用いられており、基本的な光ファイバジャイロ(FOG:fiber optic gyro)は、光源と、光位相変調器と、光結合器と、その光結合器に接続され、光ファイバを環状に囲んでなるコイルと、光検出器とを含んでいる。とりわけ共振型の光ファイバジャイロ(R−FOG:Resonator fiber optic gyro)において、各光波はコイル内を時計方向(CW)と反時計方向(CCW)に伝搬する。位相変調器はそれらの反対に伝搬する各光線の周波数を周波数変調して、CWおよびCCWの各通路の共振周波数を観測できるようにする。このときの各通路の共振周波数は、各光路において光線が連続的に再循環することで強め合う干渉に基づいており、コイルが回転することにより、CWとCCWとの間で異なる光路長を生じさせ、回転速度に比例して共振コイルの各共振周波数にシフトを生じさせるようになっている。さらにこのR−FOGは、時間によって変化するコイル周辺の温度分布が引き起こすシュッペ効果を減少させるような、5〜10m程度の短い光ファイバを備えており、慣性航法装置(INS)の要求(10−7rad/s)を満足することが期待されている。
【0003】
一般に、R−FOGによる回転検出の精度は、ノイズを誘発させる偏波変動によって限定され、共振器中を一周すると元に戻る偏波状態(SOPs)は、固有偏波状態(ESOP:Eigen states of polarization)と呼ばれる。従来の偏波保持ファイバ(PMF:Polarization maintaining fiber)によるR−FOGでは、2つのESOPが同時に発生する。図12は、温度を変化させたときの、スキャンした光波の中心周波数に対する信号強度の度合いを示したものであるが、偏波保持ファイバ内の複屈折は温度に敏感であるため、コイル周辺の温度が変動するようなことがあれば、共振曲線において第二のピークあるいは窪みとして生じる不要なESOPが、望ましいESOPの間でドリフトする。図12では、温度が変化するのに伴い、一方の望ましいESOP(符号X1)を横切るようにして、他方の不要なESOP(符号X2)がドリフトしていることが判る。非特許文献1によれば、そうした偏波変動は、強度と干渉の各タイプで2種類の誤差を生じさせることが知られている。
【0004】
こうした誤差を減らすために、非特許文献2では、共振器内において偏波軸を90°回転させる一つのスプライス(融着)箇所を設けることが提案されており、その案では2つのESOPがお互いに、πずつの位相に、自由スペクトル領域(FSR:Free spectral range)の半分に分離して生成される。この方法は、オフ共振(Off-Resonance)の強度を通じて、不要なESOPが引き起こす強度タイプの誤差を抑制するのに効果的である。しかし、90°回転させたスプライスが完璧でない場合や、共振器内に偏波依存性の損失がある場合に、2つのESOPが互いに直交しなくなると、この方法では干渉タイプの誤差を十分に減らすことができない(非特許文献3を参照)。
【0005】
別な方法として、偏波軸を90°回転させる双対のスプライスを共振器の内部に適用して、一方のESOPと他方のESOPとの間の位相がπずつ分離している時、すなわち偏波軸を90°回転させる2つのスプライス点において、その間のファイバセグメントの光路差(Δl)が、PMFの半ビート長(B/2)になっている時に、単一のESOPだけを発生させるものが、非特許文献4や非特許文献5に提案されている。このビート長Bは、PMFの縦偏波と横偏波の伝搬定数の差に起因する値で、縦偏波と横偏波の位相差が2πになり、PMF内で入射した状態の直線偏光になるまでの距離である。すなわち、ビート長BはPMF内の複屈折率をΔβとすると、縦偏波と横偏波の位相差が2πとなるような光路差であり以下の式で定義される。
【0006】
【数1】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】瀧口、保立(K. Takiguchi and K. Hotate),偏波保持ファイバ共振器における偏波軸ずれによって生じる光パッシブリング共振方式ジャイロのバイアス(Bias of optical passive ring-resonator gyro caused by the misalignment of the polarization axis in the polarization-maintaining fiber resonator),ジャーナル オブ ライトウェーブ テクノロジー(J. Lightwave Technol),1992年4月,第10巻,第4号,pp.514-522
【非特許文献2】エル.ケー.ストランドヨルド、 ジー.エイ.サンダース(L. K. Strandjord and G. A. Sanders),偏波回転を行なう共振器を用いた共振方式光ファイバジャイロ(Resonator fiber optic gyro employing a polarization-rotating resonator),SPIE1585会報(Proc. SPIE 1585),1992年2月,pp.163-172
【非特許文献3】ジー.エイ.サンダース、 アール.ビー.スミス、 ジー.エフ.ローゼ(G. A. Sanders, R. B. Smith, and G. F. Rouse),回転感知アプリケーション用の新規な偏波回転ファイバ共振器(Novel polarization-rotating fiber resonator for rotation sensing applications),SPIE1169会報(Proc. SPIE 1169),1989年,pp.373-381
【非特許文献4】保立、日坂(K. Hotate and H. Nissaka),共振方式光ファイバジャイロの偏波変動によって誘発されるバイアスドリフトを減少させる方法の分析(Analysis of a method to reduce polarization fluctuation-induced bias drift in resonator fiber-optic gyros),IEICE マイクロ波テクニカルレポート(IEICE Technical Report of Microwave),2001年6月,第101巻,第137号,pp.13-18
【非特許文献5】王、何、保立(X. Wang, Z. He and K. Hotate),偏波軸を90°回転させる双対のスプライスを有する共振器によって、共振方式光ファイバジャイロ内のドリフトをもたらす偏波変動を低減させる方法(Reduction of polarization-fluctuation induced drift in resonator fiber optic gyro by a resonator with twin 90°polarization-axis rotated splices),オプティカル エクスプレス(Optical express),2010年,第18巻,第2号,pp.1677-1683
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来技術において、偏波変動を抑制するのに望ましいESOPだけを発生させるには、2つのスプライス点間におけるファイバセグメントの光路差Δlが、PMFの半ビート長B/2と等しい(Δl=B/2+nB)という条件を満足する必要がある。しかし、共振コイル周辺の温度変動によって、光路差Δlが最適な状態から逸れる場合があり得る。したがって、バイアス安定性を長期間維持するためには、光路差Δlの変動を監視し、それによって偏波変動を抑制できる手法が必要とされる。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑み、共振器内の偏波変動によって正確な回転速度の測定が損なわれるのを抑制できる光ファイバジャイロの偏波安定化方法及びその装置を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、上記目的を達成するために、光源からの光波を伝搬させる導波路を有し、この導波路中に偏波軸を回転させるスプライス点を偶数箇所設けた共振器を備え、前記共振器からの出力により回転速度を測定する光ファイバジャイロにおいて、前記共振器の偏波変動を抑制するためのフィードバック制御を行なう光ファイバジャイロの偏波安定化方法を提案する。
【0011】
この場合、前記導波路として偏波保持ファイバが用いられ、前記フィードバック制御は、二箇所の前記スプライス点で区切られた前記偏波保持ファイバの各区分における長さの差Δlと、前記偏波保持ファイバのビート長Bとの関係を、Δl=B/2+nB(但し、nは整数)に調整して、望ましい固有偏波状態にのみ入力電界を突出させることが望ましい。
【0012】
また、前記共振器の出力から分岐した一方のポートにポラライザを挿入し、前記ポラライザからの誤差信号で前記フィードバック制御を行なうようにしてもよい。
【0013】
さらに前記共振器は、二箇所の前記スプライス点で区切られた前記導波路の一方の区分が、この一方の区分の長さを変位させる調整器に巻回される一方で、前記導波路の他方の区分が、一定の外形を有する固定体に巻回される。
【0014】
この場合、前記導波路として偏波保持ファイバが用いられ、前記共振器の出力から分岐した一方のポートにポラライザを挿入し、二箇所の前記スプライス点で区切られた前記偏波保持ファイバの各区分における長さの差Δlと、前記偏波保持ファイバのビート長Bとの関係が、Δl=B/2+nB(但し、nは整数)であるときに、前記ポラライザからの誤差信号を減少させ、この誤差信号に基づき生成される電圧によって、前記調整器の外形を制御するのが望ましい。
【0015】
さらに本発明では、上記目的を達成するために、光源からの光波を伝搬させる導波路を有し、この導波路中に偏波軸を回転させるスプライス点を偶数箇所設けた共振器を備え、前記共振器からの出力により回転速度を測定する光ファイバジャイロにおいて、前記共振器の偏波変動を抑制するためのフィードバック制御を行なう制御手段を備えた光ファイバジャイロの偏波安定化装置を提案する。
【0016】
この場合、前記導波路は偏波保持ファイバからなり、前記制御手段は、二箇所の前記スプライス点で区切られた前記偏波保持ファイバの各区分における長さの差Δlと、前記偏波保持ファイバのビート長Bとの関係を、Δl=B/2+nB(但し、nは整数)に調整して、望ましい固有偏波状態にのみ入力電界を突出させることが望ましい。
【0017】
また、前記共振器の出力から分岐した一方のポートにポラライザを挿入し、前記制御手段は、前記ポラライザからの誤差信号で前記フィードバック制御を行なう構成を有するようにしてもよい。
【0018】
さらに前記共振器は、二箇所の前記スプライス点で区切られた前記導波路の一方の区分が、この一方の区分の長さを変位させる調整器に巻回される一方で、前記導波路の他方の区分が、一定の外形を有する固定体に巻回される。
【0019】
この場合、前記導波路は偏波保持ファイバからなり、前記共振器の出力から分岐した一方のポートにポラライザを挿入し、二箇所の前記スプライス点で区切られた前記偏波保持ファイバの各区分における長さの差Δlと、前記偏波保持ファイバのビート長Bとの関係が、Δl=B/2+nB(但し、nは整数)であるときに、前記ポラライザからの前記誤差信号を減少させ、この誤差信号に基づき生成される電圧によって、前記制御手段が前記調整器の外形を制御するように構成するのが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
請求項1及び請求項6に係る発明では、共振器を構成する導波路中に偶数箇所のスプライス点を設けた光ファイバジャイロに対して、フィードバック制御を施すことで、共振器内の偏波変動を抑制することができ、光ファイバジャイロによる正確な回転速度の測定が可能になる。
【0021】
請求項2及び請求項7に係る発明では、偏波保持ファイバのビート長Bに対して、偏波保持ファイバの各区分における長さの差Δlが自動的にB/2+nBなる関係に保たれるので、望ましいESOPにのみ入力電界を突出させて、共振器内の偏波変動を確実に抑制することが可能になる。
【0022】
請求項3及び請求項8に係る発明では、ポラライザを通して出力される特定の偏波成分を誤差信号として、共振器内の偏波変動を抑制し得るフィードバック制御を行なうことが可能になる。
【0023】
請求項4及び請求項9に係る発明では、共振器を構成する導波路の一方の区分を調整器に巻回する一方で、導波路の他方の区分を固定体に巻回するだけで、共振器内の偏波変動を抑制するように、導波路の一方の区分を変位させることが可能になる。
【0024】
請求項5及び請求項10に係る発明では、ポラライザを通して出力される特定の偏波成分を誤差信号として、共振器内の偏波変動を抑制し得るフィードバック制御を行なうことが可能になる。また、偏波保持ファイバの各区分における長さの差Δlと、偏波保持ファイバのビート長Bとの関係が、Δl=B/2+nBであるときに、ポラライザの誤差信号が減少することから、これを利用して共振器内の偏波変動を抑制するように、調整器の外形を制御することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施例で提案する偏波変動抑制のフィードバック制御部を備えたR−FOGの数学的なモデルを示す説明図である。
【図2】同上、光路差ΔlをB/8ずつ増加させたときのESOPの形状をそれぞれ示す図である。
【図3】同上、偏波変動を抑制するフィードバック制御の原理を示す説明図である。
【図4】同上、様々な光路差Δlに対して、フォトダイオードPD2,PD3で検出される共振出力のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図5】同上、フォトダイオードPD3で検出される電気信号を用いた復調曲線のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図6】同上、光源の中心周波数をCW側の共振周波数にロックしたときの光路差Δlの関数として、復調曲線のシミュレーション結果を示す図であり、(b)は(a)の点線で囲んだ部分を拡大したものである。
【図7】同上、本実施例で提案した方法を具現化する実験組立装置の概略図である。
【図8】同上、ファイバレーザFLからの光波中心周波数を鋸波形で走査することにより、CW側のポート1から観測した共振特性と、それに対応して、ポート2から観測した復調曲線の実験結果を、種々の光路差Δlについて示したグラフである。
【図9】同上、光路差Δlに対するロックイン増幅器LIA5出力の実験結果を示すグラフである。
【図10】同上、単一のESOPだけ発生され、信号P4が0の場合において、共振特性の実験結果を示すグラフである。
【図11】偏波変動制御ループが有る場合と無い場合のバイアスドリフトを比較した実験結果のグラフである。
【図12】従来のPMFによるR−FOGの偏波変動問題に関し、温度を変化させたときのスキャンした光波中心周波数と強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照しながら、本発明で提案する光ファイバジャイロの偏波安定化方法とその装置について、その好適な実施例を説明する。
【実施例1】
【0027】
本実施例では、前述したΔl=B/2の関係を保つことで、偏波変動を自動的に抑制するフィードバックシステムを提案する。図1は、そうしたシステムに対応する共振型光ファイバジャイロ(R−FOG)1の数学的なモデルを示している。
【0028】
このモデル図において、R−FOG1は環状の導波路を有する共振器11を備えており、Ej,iは入力電界、Ej,oは出力電界を示している。また添え字j=CWは、共振器11において時計方向(CW)に回る電界を示し、添え字j=CCWは反時計方向(CCW)に回る電界を示している。共振器11の入射側には第1のカプラC1が取り付けられ、出射側には第2のカプラC2が取り付けられる。光結合器として用いられるこれらのカプラC1,C2は、それぞれが強度損失係数ri,jと結合定数Κi,jとを有する(但し、i=x,yであり、j=1,2である)。これにより、一方の入力電界ECW,iは、ポラライザP1を通してカプラC1に入射され、他方の入力電界ECCW,iは、別なポラライザP2を通してカプラC1に入射され、互いに対向して共振器11内の導波路を周回伝搬する。そして、カプラC2を通して出力電界ECW,oと出力電界ECCW,oが各々出射され、CCW側出力は光検出器としてのフォトダイオードPD1に導かれる。
【0029】
前記共振器11は、導波路の偏波軸を90°捩って融着させたスプライス箇所13,14が2つ設けられる。この導波路には、縦及び横の各偏波軸に沿って光波を伝搬させ、偏波保持特性を有する偏波保持ファイバ(PMF)が用いられ、各々Lu(u=1〜4)の長さを有する4つのファイバセグメントが、各偏波軸の間でθv(v=1,2)の角度を有して結合される。したがってスプライス箇所13では、L1の長さのファイバセグメントとL2の長さのファイバセグメントが、θ1=90°の角度で結合され、スプライス箇所14では、L3の長さのファイバセグメントとL4の長さのファイバセグメントが、θ2=90°の角度で結合される。
【0030】
さらにここでのR−FOG1は、カプラC2からのCW側出力を、2つの分岐部に分割する第3のカプラC3が設けられる。一方の分岐部は第2の受光器であるフォトダイオードPD2に結合され、CW側の共振周波数に対して光波の中心周波数をロックするのに用いられる。他方の分岐部は、y軸方向の直線偏波のみを透過させるポラライザP3に結合され、フィードバックループの誤差信号を生成して、2つのスプライス点間におけるファイバセグメントの光路差Δlを調整する。
【0031】
図2(a)〜(i)は、光路差ΔlをB/8ずつ増加させたときのESOPの形状(偏波状態)をそれぞれ算出して示したものである。スプライス箇所13,14間におけるファイバセグメントの光路差Δlは、次の式で表される。
【0032】
【数2】
【0033】
スプライス箇所13,14における角度差がθ1=θ2=90°で、各カプラC1,C2内部の結合クロストークが存在しない理想状態では、PMFの偏波軸と一致して、2つのESOPが水平及び垂直の直交した実線で示される。一方、前記角度差がθ1=91°,θ2=80°で、20dBのクロストークを有する理想よりもずれた状態では、2つのESOPは点線と一点鎖線でそれぞれ示されるように、光路差Δlが0からB/2に変化すると、円から直線になり、その後に光路差ΔlがB/2からBに変化すると、直線から再び円になる。最先端のスプライシング機では、スプライス点における角度の調整ずれを±0.5°以内とすることができるので、各ESOPの偏波状態は、Δl=B/2のときにPMFの偏波軸により近づくことになる。
【0034】
図3は、本実施例において前記偏波変動を抑制するフィードバック制御の原理を示したものである。図3(a)は、Δl=B/2の理想状態を表わしたもので、y軸に偏波された入力光が共振器11に入射すると、(偏波軸を90°回転させることによる影響を受けて、)出力光はx軸に沿って偏波された望ましいESOPだけが選択的に発生し、望ましくないESOPに突出する電界は存在しない。したがって、この場合は前記ポラライザP3の出力から発生するフィードバックループの誤差信号が最小の0になる。なお、図中X1は望ましいESOPを示し、X2は望ましくないESOPを示している。
【0035】
図3(b)は、Δl=0という別の極端な例を示しているが、この場合はエネルギーの半分が望ましくないESOPに突出して、ポラライザP3から大きな誤差信号が出力する。Δlがそれ以外の値である場合は、誤差信号が上記2つの極端な例の間で出力する。本実施例で提案するフィードバック処理は、前記誤差信号が0、すなわち望ましいESOPだけが発生するまで継続する。それにより、単独に発生したESOPの状態が常に保証される。
【0036】
偏波変動を抑制するフィードバックループの効果を示すために、鋸波形状を用いて光波の中心周波数を走査することで、前記フォトダイオードPD2,PD3から取得した様々な光路差Δlに対する強度出力を最初に比較する。図4は、その比較結果を示したものであり、点線はフォトダイオードPD2で検出した共振曲線に相当し、実線はフォトダイオードPD3で検出した共振曲線に相当する。また図4(a)〜(e)の各グラフは、光路差Δlが0.1B,0.35B,0.5B,0.7B,0.89Bの場合をそれぞれ示している。同図で明らかなように、共振器11は(図中、点線の位相0と2πにおける)ESOP1の共振周波数近辺でピーク強度を有すると共に、光路差Δlが0またはBに近づくと、フォトダイオードPD3で検出した強度は大きな出力となり、光路差Δlが0.5Bに近づくと、フォトダイオードPD3で検出した強度は小さな出力となる。ここで留意すべきは、図4(c)に示すように、光路差Δlが0.5BのときにフォトダイオードPD3で検出される小さなピークは、偏波軸を回転させるスプライス箇所13,14の調整ずれが原因である、ということである。
【0037】
ところで、ここでは本光ファイバジャイロにより回転を抽出するために、2πを振幅とする段階的な鋸波形での変調であるデジタルセロダイン変調によって、光波信号を位相変調することを前提としている。こうした位相変調の詳細は、「王、何、保立(X. Wang, Z. He and K. Hotate),デジタルフィードバックスキームを備えた共振方式光ファイバジャイロにおけるバイアス安定性の測定実験(Experiment on bias stability measurement of resonator fiber optic gyro with digital feedback scheme),第20回光ファイバセンサ国際会議会報(Proc. 20th International Conference on Optical Fiber Sensors(OFS20)),2009年10月,英国エディンバラ,paper 7503-144」の文献を参照されたい。
【0038】
共振器11の後段で(フォトダイオードPD2から)直接的に取得される信号のように、フォトダイオードPD3からの電気信号が、ロックイン増幅器(LIA5)によって復調できることも示すために、図5(a)〜(e)には、光源の中心周波数を走査することで得た出力が、前記図4における光路差Δlと同じ条件で表わされている。
【0039】
さらに、偏波変動抑制フィードバックループの誤差信号として、フォトダイオードPD3からの同期検出信号が利用できることを確認するために、その同期検出信号と光路差Δlとの関係を検査した結果を図6に示す。前述の図5は、x軸が光波の中心周波数を示しており、そのx軸が走査されたときの位相での同期検出出力を示している。これに対して図6では、CW側の共振周波数に光源の中心周波数をロックさせながら、フォトダイオードPD3後段の同期検出出力を提示しており、ここでのX軸は光路差Δlの変動に相当する。図6における別なパラメータは、入力する直線偏波のPMFの偏波軸に対する角度であり、ここでは90.0°,90.1°,90.3°,90.5°,91.0°についてそれぞれ示している。同様に、これは共振器の入射側前段に挿入されるポラライザ(図1に示す符号P1,P2)の消光比の影響を予測するのに利用できる。
【0040】
図6(a)は、光路差Δlを−0.25Bから1.25Bに変化させたときの同期検出出力を示し、また図6(b)は、特に光路差Δlが0.4B〜0.6Bの範囲にある場合の出力を拡大して示している(図6(a)の点線で囲んだ部分)。これらの各結果に示すように、フォトダイオードPD3からの同期検出信号は、光路差Δlと共に周期的に変化する。さらにその信号の出力は、光路差Δlが0.4B〜0.6Bの範囲内で、当該光路差Δlとリニアな関係にあって、これは最も重要なΔl=0.5Bの場合を含んでいる。しかも、Δl=0.5Bである特別な場合には、フォトダイオードPD3からの同期検出信号が小さくなり、入力電界と無関係になる。したがって、光路差Δlの変動ひいてはR−FOG1における偏波変動を抑制する誤差信号として、この同期検出信号を利用することが可能になる。
【0041】
図7は、前記R−FOG1にノイズをもたらす偏波変動を自動的に抑制する偏波安定化装置2を組み込んだシステムのセットアップ構成を示している。
【0042】
同図において、回転速度の測定器に相当するR−FOG1は、光源としての分布帰還型(DFB)ファイバレーザFLと、光を一方向にだけに伝えて反射光を阻止するアイソレータISO1,ISO2,ISO3と、一乃至複数の入射光を結合または分配する光結合器としてのカプラC1,C2,C3,C4と、y軸方向の直線偏波のみを透過させる偏光子としてのポラライザY-POL1,Y-POL2,Y-POL3と、入射光を位相変調させる位相変調器PM1,PM2と、光検出器としてのフォトダイオードPD1,PD2,PD3と、前記カプラC2,C3の間に接続される共振器11を備えて構成される。特に共振器11は、偏波保持特性を有する偏波保持ファイバ(PMF)12を用い、これをカプラC2,C3の間に環状に配置して構成される。
【0043】
なお、前記図1に示すポラライザP1,P2,P3は、図7に示すポラライザY-POL1,Y-POL2,Y-POL3にそれぞれ対応し、図1に示すカプラC1,C2,C3は、図7に示すカプラC2,C3,C4にそれぞれ対応する。その他の符号は、図1と図7で共通している。
【0044】
共振器11の途中には、PMF12の偏波軸を90°捩って融着させたスプライス箇所13,14が2つ設けられる。このスプライス箇所13,14は、2つ以上の偶数個であれば共振器11として実施が可能である。また共振器11には、何れも外形が円筒状をなすピエゾ変換素子(PZT)15とコイル16がそれぞれ設けられ、外部からの信号Q4に応じて直径が変位するPZT15に、スプライス箇所13,14から出射側のカプラC3に至るPMF12の半部分が巻回される一方、一定の直径を有する筒体としてのコイル16に、入射側のカプラC2からスプライス箇所13,14に至る残りのPMF12の半部分が巻回される。図示してあるように、信号Q4を印加していない状態でのPZT15の直径と、コイル16の直径は、何れも10cmであるが、この数値はあくまでも一例にすぎない。
【0045】
ここで、一方のカプラC2と一方のスプライス箇所13との間の長さをL1とし、スプライス箇所13と他方のカプラC3との間の長さをL2とし、カプラC3と他方のスプライス箇所14との間の長さをL3とし、スプライス箇所14とカプラC2との間の長さをL4とすると、前記PMF12における一方の半部分の長さ(L1+L4)と、他方の半部分の長さ(L2+L3)との差が、ファイバセグメントの光路差Δlとなる。
【0046】
PZT15は、光路差Δlの調整器として共振器11に設けられているが、例えば図7に示すPZT15に代えてコイルを配設し、共振器11に2個のコイルを設けて、一方のコイルの下に加熱手段としてのホットプレートを敷いて温度差を作ったり、或いはPMF12と共に一方のコイルに発熱体を巻いて、当該発熱体からの熱によりPMF12の一方の半部分と他方の半部分の屈折率に差をつけたりして、光路差Δlを調整しても良い。また、PZT15以外でも力学的にPMF12に引張り力を加えられれば、どのような構成のものでも良く、引張り力の加え方は、PMF12の部分に対してでも全体に対してでも良い。
【0047】
R−FOG1の回転検出原理は、共振器11が角速度Ωで回転すると、時計方向(CW)に回る光波と反時計方向(CCW)に回る光波の光路長にサニャック効果による光路差が生じ、これによりCW光とCCW光の共振周波数に差を生じさせることに基づいている。このときの共振周波数差Δνsは、共振器11が囲む面積Sと角速度Ωに比例し、ファイバレーザFLの発振波長λLに反比例することから、面積Sと発振波長λLが判っていれば、一方の光波の共振点を基準とし、他方の光波の共振点を観測して、前記共振周波数差Δνsを測定することで、角速度Ωを得ることができる。
【0048】
上記R−FOG1において、ファイバレーザFL(スペクトル線幅≦10kHz)を出射した光は、アイソレータISO1を通過した後、カプラC1により50:50の割合で均等に分離される。カプラC1からの分岐光は、一方が位相変調器PM1とポラライザY-POL1を順に通り、他方が別な位相変調器PM2とポラライザY-POL2を順に通り、それぞれ光ファイバに導かれてカプラC2に入射する。カプラC2により共振器11に入射した光は、CWとCCWでそれぞれループ内を伝搬する。ここでの共振器11は、偏波軸を90°回転させる双対のスプライス箇所13,14を備えているが、CWおよびCCWの両光波は、共振器11に入射する前に、いわゆるデジタルセロダイン変調方式で変調される。この変調は共振点を検出することを目的として、位相変調器PM1,PM2によって行われるが、本実施例のような段階状の鋸波ではなく、例えば滑らかなスロープを有する鋸波によるアナログセロダイン位相変調で各光波の周波数をシフトさせてもよい。また、共振器11の入射側には、2つのy軸に向けられたポラライザY-POL1,Y-POL2が配置される。
【0049】
共振器11のループ内で定在波となるような光の周波数は共振を生じ、CCW光の共振特性は、カプラC3からISO2を通してフォトダイオードPD1で検出され、CW光の共振特性は、カプラC3からISO3とカプラC4を順に通してフォトダイオードPD2で検出される。カプラC4はカプラC3から出射されるCW光を2つのポートに分岐して、一方のポート1をそのままフォトダイオードPD2に導くと共に、他方のポート2をポラライザY-POL3に通過させ、そこからy軸方向の偏波成分のみを有するCW光を、別なフォトダイオードPD3に導く構成となっている。
【0050】
一方、偏波安定化装置2は、フォトダイオードPD1,PD2,PD3の各検出出力から、第1〜第5のロックイン増幅器LIA1〜LIA5を通して必要な信号P1〜P5をそれぞれ抽出する信号入力部21と、この信号入力部21で得られた各信号P1〜P5に基づいて、R−FOG1内における偏波変動を自動的に抑制し得るフィードバック信号などの制御信号Q1〜Q4を生成し出力すると共に、共振器11の角速度Ωに対応した出力信号Outputを生成し出力するFPGA(Field Programmable Gate Array)22と、前記制御信号Q1〜Q4を、ファイバレーザFLや、ファンクションジェネレータFG-1,FG2や、PZT15を駆動する信号に変換する信号出力部23と、を備えて構成される。
【0051】
前記信号入力部21において、フォトダイオードPD1の検出出力は、第1のロックイン増幅器LIA1に送出され、ここでファンクションジェネレータFG-1で生成される周波数frp,ccwの成分だけが抽出され、第1の信号P1としてFPGA22に送出される。フォトダイオードPD1の検出出力は、他に第2のロックイン増幅器LIA2にも送出され、ここでファンクションジェネレータFG-1で生成される周波数Δfccwの成分だけが抽出され、第2の信号P2としてFPGA22に送出される。
【0052】
また、フォトダイオードPD2の検出出力は、第3のロックイン増幅器LIA3に送出され、ここでファンクションジェネレータFG-2で生成される周波数frp,cwの成分だけが抽出され、第5の信号P5としてFPGA22に送出される。フォトダイオードPD2の検出出力は、他に第4のロックイン増幅器LIA4にも送出され、ここでファンクションジェネレータFG-2で生成される周波数Δfcwの成分だけが抽出され、第3の信号P3としてFPGA22に送出される。
【0053】
さらに、フォトダイオードPD3の検出出力は、第5のロックイン増幅器LIA5に送出され、ここでファンクションジェネレータFG-2で生成される周波数frp,cwの成分だけが抽出され、第4の信号P4としてFPGA22に送出される。
【0054】
FPGA22は、ユーザが独自の論理回路を書き込むことのできるホームメイドのデジタル処理器で、ロックイン増幅器LIA1からの信号P1は、FPGA22により計算された制御信号Q1で、これによりファイバレーザFLは、FPGA22からの制御信号Q1に基づく中心周波数のレーザ光を出射する。また、前記ロックイン増幅器LIA2からの信号P2と、ロックイン増幅器LIA3からの信号P3は、それぞれファンクションジェネレータFG-1に出力される制御信号Q2と、ファンクションジェネレータFG-2に出力される制御信号Q3に対応して、デジタルセロダイン変調信号の振幅を制御するための誤差信号として提供される。
【0055】
これを受けてファンクションジェネレータFG1は、制御信号Q2に基づく振幅を有し、且つその振幅が周波数Δfccwで段階的に変動し、さらに各鋸波形の段階状スロープの増加を繰り返す区間と減少を繰り返す区間が、周波数frp,ccwで繰り返されるようなデジタルセロダイン変調信号を、位相変調器PM1に送出すると共に、ファンクションジェネレータFG2は、制御信号Q3に基づく振幅を有し、且つその振幅が周波数Δfcwで段階的に変動し、さらに各鋸波形の段階状スロープの増加を繰り返す区間と減少を繰り返す区間が、周波数frp,cwで繰り返されるようなデジタルセロダイン変調信号を、位相変調器PM2に送出する。カプラC1で分岐したファイバレーザFLからの光は、それぞれのデジタルセロダイン変調信号で位相変調される。
【0056】
共振器11のCW側出力から取り出されたy軸の偏波成分は、ロックイン増幅器LIA5によって同期検波された信号P4となり、ファイバセグメントの長さL2+L3を調整するために、PZT15に印加される電圧(信号Q4)に用いられる。FPGA22は、ロックイン増幅器LIA5からの信号P4を受けて、Δl=B/2の関係が保たれるよう制御信号Q4を、PZT15に送出する。すなわちここでは、カプラC4で分岐したCW側出力光から、ポラライザY-POL3によって水平偏波成分を除去したものをフォトダイオードPD3で電気信号に変換し、その電気信号について、ファンクションジェネレータFG2で生成された周波数frp,cwの信号を参照して、ロックイン増幅器LIA5で同期検波した制御信号Q4をPZT15に与えることで、R−FOG1の偏波変動を自動的に抑制する制御ループ31が形成される。
【0057】
また、R−FOG1の出力信号Outputは、ロックイン増幅器LIA3によって決まる信号P5から、前記信号P1を引くことにより算出される。そしてこの出力信号Outputによって、回転する共振器11の角速度Ωを得ることができる。
【0058】
なお、前記光路差ΔlとPMF12のビート長Bとの関係は、Δl=B/2+nB(n:整数)であってもよい。また別な変形例として、図7では共振器11に対して、y軸成分を望ましいESOPとして入射させ、x軸成分を望ましいESOPとして出射させているが(すなわち、望ましくないESOPは入力側がx軸成分,出力側がy軸成分となる)、x軸成分を望ましいESOPとして入射させ、y軸成分を望ましいESOPとして出射させても良い。その場合、図7に示すポラライザY-POL1,Y-POL2,Y-POL3に代えて、何れもx軸方向の直線偏波のみを透過させるポラライザX-POL1,X-POL2,X-POL3を適用する。
【0059】
また、カプラC3はスプライス箇所13,14の後側(図7に示す共振器11の右側)にではなく、例えばスプライス箇所13,14の前側、すなわち入射側のカプラC2とスプライス箇所13,14との間に取り付けるなどしてもよい。但し、この場合はスプライス箇所13,14で偏波軸を90°回転させる前の部位にカプラC3が設けられるため、図7に示すポラライザY-POL3をポラライザX-POL3とする必要がある。
【0060】
また、スプライス箇所13,14は、周回するPMF12に偶数個設けることが可能である。したがって、図7に示すような2個のスプライス箇所13,14に限定されない。
【0061】
図8(a)〜(d)は、光波中心周波数を鋸波形で走査することにより、ポート1から観測したCW側共振特性と、それに対応して、ポート2から観測した復調曲線の実験結果を、0.1B,0.35B,0.7B,0.89Bの各光路差Δlについてそれぞれ示している。ここでは、(1)光路差Δlが0およびBに近づくと、ロックイン増幅器LIA5からの出力が大きくなる、(2)望ましいESOP1の共振周波数を境として、信号P4の符号が変わる(光路差Δlが0に近づくと正、光路差ΔlがBに近づくと負)、ということが明確になる。この特性は、フィードバックループを構成して、光路差Δlを制御する可能性を示すものである。つまり制御ループ31は、ロックイン増幅器LIA5で同期検波した信号P4の符号が正負どちらであるかによって、光路差Δlをどちら側に向けて調整するのかを判断できる。これは、図4に示すフォトダイオードPD3の検出出力に含まれる共振曲線について、光路差Δlが0.5よりも小さい場合と、光路差Δlが0.5よりも大きい場合で、2つのピークの高低の順番が異なるのを、ロックイン増幅器LIA5が符号の変化として出力できることに起因している(例えばΔl=0.1Bの場合、フォトダイオードPD3で検出する共振曲線の2つのピークは、横軸である位相の走査に伴い低→高の順にあらわれるが、Δl=0.89Bの場合、そのピークは逆に高→低の順にあらわれる)。
【0062】
図9は、実験で得た光路差Δlとロックイン増幅器LIA5からの出力との間の線形な関係を示している。ロックイン増幅器LIA5の出力は、Δl=B/2において0になり、光路差Δlがそれよりも大きい場合と小さい場合で符号が反転する。
【0063】
図10は、ロックイン増幅器LIA5からの出力が0の場合のCW側共振特性を示している。この時点では、CW側共振特性に望ましいESOP1だけが発生し、望ましくないESOP2があらわれていないことに注目されたい。
【0064】
さらに図11は、偏波変動フィードバックをオンまたはオフにしたときの静止状態(無回転状態)で検出される角速度に相当するバイアスドリフトの比較を示しており、それぞれの標準的な偏差は3×10−4rad/sと1×10−4rad/sである。このバイアスドリフトの低減は、本実施例で提案する偏波変動を抑制する制御ループ31の有効性を示している。
【0065】
以上のように本実施例では、レーザ光源であるファイバレーザFLからの光波をCWとCCWにそれぞれ伝搬させるループ状の導波路として、偏波保持特性を有するPMF12を有し、このPMF12中に偏波軸を90°回転させるスプライス箇所13,14を複数箇所設けた共振器11を備え、この共振器11からの出力によって被測定対象の回転速度を測定する光ファイバジャイロとしてのR−FOG1において、共振器11の偏波変動を抑制するためのフィードバック制御を行なう方法と、これを実現する偏波安定化装置2としての制御手段(信号入力部21,FPGA22,信号出力部23)を特に提案している。
【0066】
この場合、共振器11を構成するPMF12中に偶数個のスプライス箇所13,14を設けたR−FOG1に対してフィードバック制御を施すことで、共振器11内の偏波変動を抑制することができ、R−FOG1による正確な回転速度の測定が可能になる。
【0067】
また、ここでのフィードバック制御は、二つの前記スプライス箇所13,14で区切られたPMF12の各区分における長さの差である光路差Δlと、PMF12のビート長Bとの関係を、Δl=B/2+nB(但し、nは整数)に調整して、望ましいESOPにのみ入力電界を突出させるようにしており、またそのようなフィードバック制御を実現する制御手段を備えている。
【0068】
この場合、PMF12のビート長Bに対して、光路差Δlが自動的にB/2+nBなる関係に保たれるので、望ましいESOPにのみ入力電界を突出させて、共振器11内の偏波変動を確実に抑制することが可能になる。
【0069】
また図7に示すように、共振器11の出力から分岐した一方のポートであるポート2に、特定の偏波成分のみを取り出すポラライザY-POL3を挿入し、このポラライザY-POL3からの誤差信号でフィードバック制御を行なう方法と、そうしたフィードバック制御を実現する制御手段の構成を提案している。
【0070】
こうすると、ポラライザY-POL3を通して出力される特定の偏波成分を誤差信号として、共振器11内の偏波変動を抑制し得るフィードバック制御を行なうことが可能になる。
【0071】
本実施例の共振器11は、二つのスプライス箇所13,14で区切られた導波路としてのPMF12の一方の区分が、この一方の区分の長さを変位させる調整器であるPZT15に巻回される一方で、PMF12の他方の区分が、一定の外形を有する固定体としてのコイル16に巻回される。
【0072】
この場合、共振器11を構成するPMF12の一方の区分を、例えばPZT15などの調整器に巻回する一方で、PMF12の他方の区分を、例えばコイル16などの固定体に巻回するだけで、共振器11内の偏波変動を抑制するように、PMF12の一方の区分を変位させることが可能になる。
【0073】
またここでは、前記光路差Δlとビート長Bとの関係が、Δl=B/2+nB(但し、nは整数)であるときに、前記ポラライザY-POL3からの誤差信号を減少させ、この誤差信号に基づき生成される電圧によって、PZT15の外形を制御する方法と、そうした制御を実現する制御手段の構成を提案している。
【0074】
これにより、ポラライザY-POL3を通して出力される特定の偏波成分を誤差信号として、共振器11内の偏波変動を抑制し得るフィードバック制御を行なうことが可能になる他に、PMF12の光路差Δlとビート長Bとの関係が、Δl=B/2+nBであるときに、ポラライザY-POL3の誤差信号が減少して最小になることから、これを利用して共振器11内の偏波変動を抑制するように、PZT15の外形を制御することが可能になる。
【0075】
なお本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、図7に示す例で、FPGA22以外の各種デジタル処理器を用いても構わない。また、PZT15やコイル16の外形が円筒形である必要はなく、PZT15で光路差Δlを変位する一方で、コイル16のような外形が変形しない固定体で、PMF12の一部の長さを固定できればよい。
【符号の説明】
【0076】
FL ファイバレーザ(光源)
P3,X-POL3,Y-POL3 ポラライザ
1 R−FOG(光ファイバジャイロ)
2 偏波安定化装置
11 共振器
12 PMF(導波路)
13,14 スプライス点(スプライス箇所)
15 PZT(調整器)
16 コイル(固定体)
21 信号入力部(制御手段)
22 FPGA(制御手段)
23 信号出力部(制御手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの光波を伝搬させる導波路を有し、この導波路中に偏波軸を回転させるスプライス点を偶数箇所設けた共振器を備え、前記共振器からの出力により回転速度を測定する光ファイバジャイロにおいて、
前記共振器の偏波変動を抑制するためのフィードバック制御を行なうことを特徴とする光ファイバジャイロの偏波安定化方法。
【請求項2】
前記導波路として偏波保持ファイバが用いられ、
前記フィードバック制御は、二箇所の前記スプライス点で区切られた前記偏波保持ファイバの各区分における長さの差Δlと、前記偏波保持ファイバのビート長Bとの関係を、Δl=B/2+nB(但し、nは整数)に調整して、望ましい固有偏波状態にのみ入力電界を突出させることを特徴とする請求項1記載の光ファイバジャイロの偏波安定化方法。
【請求項3】
前記共振器の出力から分岐した一方のポートにポラライザを挿入し、前記ポラライザからの誤差信号で前記フィードバック制御を行なうことを特徴とする請求項1または2記載の光ファイバジャイロの偏波安定化方法。
【請求項4】
前記共振器は、二箇所の前記スプライス点で区切られた前記導波路の一方の区分が、この一方の区分の長さを変位させる調整器に巻回される一方で、前記導波路の他方の区分が、一定の外形を有する固定体に巻回されることを特徴とする請求項1記載の光ファイバジャイロの偏波安定化方法。
【請求項5】
前記導波路として偏波保持ファイバが用いられ、
前記共振器の出力から分岐した一方の出力ポートにポラライザを挿入し、
二箇所の前記スプライス点で区切られた前記偏波保持ファイバの各区分における長さの差Δlと、前記偏波保持ファイバのビート長Bとの関係が、Δl=B/2+nB(但し、nは整数)であるときに、前記ポラライザからの誤差信号を減少させ、この誤差信号に基づき生成される電圧によって、前記調整器の外形を制御することを特徴とする請求項4記載の光ファイバジャイロの偏波安定化方法。
【請求項6】
光源からの光波を伝搬させる導波路を有し、この導波路中に偏波軸を回転させるスプライス点を偶数箇所設けた共振器を備え、前記共振器からの出力により回転速度を測定する光ファイバジャイロにおいて、
前記共振器の偏波変動を抑制するためのフィードバック制御を行なう制御手段を備えたことを特徴とする光ファイバジャイロの偏波安定化装置。
【請求項7】
前記導波路は偏波保持ファイバからなり、
前記制御手段は、二箇所の前記スプライス点で区切られた前記偏波保持ファイバの各区分における長さの差Δlと、前記偏波保持ファイバのビート長Bとの関係を、Δl=B/2+nB(但し、nは整数)に調整して、望ましい固有偏波状態にのみ入力電界を突出させるものであることを特徴とする請求項6記載の光ファイバジャイロの偏波安定化装置。
【請求項8】
前記共振器の出力から分岐した一方のポートにポラライザを挿入し、前記制御手段は、前記ポラライザからの誤差信号で前記フィードバック制御を行なう構成を有することを特徴とする請求項6または7記載の光ファイバジャイロの偏波安定化装置。
【請求項9】
前記共振器は、二箇所の前記スプライス点で区切られた前記導波路の一方の区分が、この一方の区分の長さを変位させる調整器に巻回される一方で、前記導波路の他方の区分が、一定の外形を有する固定体に巻回されることを特徴とする請求項6記載の光ファイバジャイロの偏波安定化装置。
【請求項10】
前記導波路は偏波保持ファイバからなり、
前記共振器の出力から分岐した一方のポートにポラライザを挿入し、
二箇所の前記スプライス点で区切られた前記偏波保持ファイバの各区分における長さの差Δlと、前記偏波保持ファイバのビート長Bとの関係が、Δl=B/2+nB(但し、nは整数)であるときに、前記ポラライザからの前記誤差信号を減少させ、この誤差信号に基づき生成される電圧によって、前記制御手段が前記調整器の外形を制御するように構成することを特徴とする請求項9記載の光ファイバジャイロの偏波安定化装置。
【請求項1】
光源からの光波を伝搬させる導波路を有し、この導波路中に偏波軸を回転させるスプライス点を偶数箇所設けた共振器を備え、前記共振器からの出力により回転速度を測定する光ファイバジャイロにおいて、
前記共振器の偏波変動を抑制するためのフィードバック制御を行なうことを特徴とする光ファイバジャイロの偏波安定化方法。
【請求項2】
前記導波路として偏波保持ファイバが用いられ、
前記フィードバック制御は、二箇所の前記スプライス点で区切られた前記偏波保持ファイバの各区分における長さの差Δlと、前記偏波保持ファイバのビート長Bとの関係を、Δl=B/2+nB(但し、nは整数)に調整して、望ましい固有偏波状態にのみ入力電界を突出させることを特徴とする請求項1記載の光ファイバジャイロの偏波安定化方法。
【請求項3】
前記共振器の出力から分岐した一方のポートにポラライザを挿入し、前記ポラライザからの誤差信号で前記フィードバック制御を行なうことを特徴とする請求項1または2記載の光ファイバジャイロの偏波安定化方法。
【請求項4】
前記共振器は、二箇所の前記スプライス点で区切られた前記導波路の一方の区分が、この一方の区分の長さを変位させる調整器に巻回される一方で、前記導波路の他方の区分が、一定の外形を有する固定体に巻回されることを特徴とする請求項1記載の光ファイバジャイロの偏波安定化方法。
【請求項5】
前記導波路として偏波保持ファイバが用いられ、
前記共振器の出力から分岐した一方の出力ポートにポラライザを挿入し、
二箇所の前記スプライス点で区切られた前記偏波保持ファイバの各区分における長さの差Δlと、前記偏波保持ファイバのビート長Bとの関係が、Δl=B/2+nB(但し、nは整数)であるときに、前記ポラライザからの誤差信号を減少させ、この誤差信号に基づき生成される電圧によって、前記調整器の外形を制御することを特徴とする請求項4記載の光ファイバジャイロの偏波安定化方法。
【請求項6】
光源からの光波を伝搬させる導波路を有し、この導波路中に偏波軸を回転させるスプライス点を偶数箇所設けた共振器を備え、前記共振器からの出力により回転速度を測定する光ファイバジャイロにおいて、
前記共振器の偏波変動を抑制するためのフィードバック制御を行なう制御手段を備えたことを特徴とする光ファイバジャイロの偏波安定化装置。
【請求項7】
前記導波路は偏波保持ファイバからなり、
前記制御手段は、二箇所の前記スプライス点で区切られた前記偏波保持ファイバの各区分における長さの差Δlと、前記偏波保持ファイバのビート長Bとの関係を、Δl=B/2+nB(但し、nは整数)に調整して、望ましい固有偏波状態にのみ入力電界を突出させるものであることを特徴とする請求項6記載の光ファイバジャイロの偏波安定化装置。
【請求項8】
前記共振器の出力から分岐した一方のポートにポラライザを挿入し、前記制御手段は、前記ポラライザからの誤差信号で前記フィードバック制御を行なう構成を有することを特徴とする請求項6または7記載の光ファイバジャイロの偏波安定化装置。
【請求項9】
前記共振器は、二箇所の前記スプライス点で区切られた前記導波路の一方の区分が、この一方の区分の長さを変位させる調整器に巻回される一方で、前記導波路の他方の区分が、一定の外形を有する固定体に巻回されることを特徴とする請求項6記載の光ファイバジャイロの偏波安定化装置。
【請求項10】
前記導波路は偏波保持ファイバからなり、
前記共振器の出力から分岐した一方のポートにポラライザを挿入し、
二箇所の前記スプライス点で区切られた前記偏波保持ファイバの各区分における長さの差Δlと、前記偏波保持ファイバのビート長Bとの関係が、Δl=B/2+nB(但し、nは整数)であるときに、前記ポラライザからの前記誤差信号を減少させ、この誤差信号に基づき生成される電圧によって、前記制御手段が前記調整器の外形を制御するように構成することを特徴とする請求項9記載の光ファイバジャイロの偏波安定化装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図6】
【公開番号】特開2011−242173(P2011−242173A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112501(P2010−112501)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔刊行物名〕 電子情報通信学会技術研究報告 〔発行所〕 社団法人電子情報通信学会 〔発行日〕 平成22年1月14日
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔刊行物名〕 電子情報通信学会技術研究報告 〔発行所〕 社団法人電子情報通信学会 〔発行日〕 平成22年1月14日
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
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