説明

光ファイバジャイロ用センシングコイル及びその製造方法

【課題】光ファイバの巻付け作業を簡単にし、且つ巻付けを起因とするクロストークの発生も低減することができ、温度感度の影響を低減した光ファイバジャイロ用センシングコイルとする。
【解決手段】コイル本体13が、同一張力及び同一送り速度で光ファイバを整列巻付けしてポッティング材料16でカプセル化した2個のポッティングコイル12、12からなる。各ポッティングコイルの側端面12b、12b同士がポッティング材料16で接着し重ね合わされて、各ポッティングコイル12の最外層から導出される光ファイバ14の巻き終わり部分(余長部12c)の端部同士が融着接続されることで、コイル本体13は1つの回転方向を持つ連続した光ファイバから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐環境性に優れ、その製造を簡単にすることができる光ファイバジャイロ用センシングコイル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本来、光ファイバジャイロ用センシングコイルは、温度、振動といった環境要因の影響を受けやすく、耐環境性に劣るという問題がある。
【0003】
例えば、光ファイバジャイロ用センシングコイルに温度変動が印加された場合、センシングコイルを通過する左右回り光が、この温度変動を異なるタイミングで受けるために、左右回り光の間に検出するべきサニャック位相差以外の位相差が発生してしまうという問題がある。この温度変動によって生じる誤差は、温度微分感度(またはシュープ効果)と呼ばれている。
【0004】
このような温度微分感度の影響を低減するために、従来、センシングコイルへの光ファイバの巻付け方法について様々な提案がなされている。
【0005】
代表的な巻付け方法として、図12(a)(b)に示す2重極巻き及び4重極巻きが知られている。これらは、対称巻付け法と呼ばれ、いずれも長尺の光ファイバの中点から相反方向に等距離にある光ファイバの部分が近接するように光ファイバを巻付けていく方法である。
【0006】
具体的な作業としては、長尺の光ファイバを2つの予備巻きボビンに巻回しておき、その中点を予め出しておき、製品用ボビンの最内層に中点を固定し、供給側の予備巻きボビンを交互に交換しながら、光ファイバを製品用ボビンに巻付けていく。
【0007】
2重極巻きの場合には一層毎に供給側の予備巻きボビンを交換して、中点から見て右回り方向の巻付け(例えば図12(a)における白丸)と、左回り方向の巻付け(例えば図12(a)における黒丸)とが、一層毎に交代するようにする。また、4重極巻きの場合には二層毎に供給側の予備巻きボビンを交換して、中点から見て右回り方向の巻付け(例えば図12(b)における白丸)と、左回り方向の巻付け(例えば図12(b)における黒丸)とが、二層毎に交代するようにする。
【0008】
この対称巻付け法は、光ファイバの中点から相反方向に等距離にある2点での温度変動をなるべく等しくすることにより、左右回りの光がそれぞれ受ける位相誤差量を等しくして、相殺させて、相反性を確保しようとするものである。
【0009】
しかしながら、対称巻付け法では、光ファイバ中点から相反方向に等距離の光ファイバ部分が異なる層に位置することになるため、各層で温度変動が一様でないと、発生する位相誤差を完全に相殺することができないという問題がある。
【0010】
そのため、特許文献1〜2では、図12(c)に示すような別の巻付け法が提案されている。
【0011】
特許文献1で提案する巻付け法は、ベース取付部に関して、光ファイバの中点から見て右回り方向の巻付け(例えば図12(c)における白丸)と左回り方向の巻付け(例えば図12(c)における黒丸)が上下対称構造となるようにして、中点から相反方向に等距離にある2点が同一層の上下対称位置に位置付けられ全体として一定方向になるように光ファイバを巻付けていく方法である。特許文献2でも同様な巻付け法が開示される。
【0012】
具体的な作業としては、長尺の光ファイバを2つの予備巻きボビンに巻回しておき、その中点を予め出しておき、製品用ボビンの最内層に中点を固定し、供給側の予備巻きボビンを交互に交換しながら、光ファイバを製品用ボビンに巻付けていく点で、対称巻付け法と同じである。
【0013】
また、特許文献3では、2つの予備巻きボビンに光ファイバをL/2ずつ巻回し、光ファイバの中点を出し、その中点で光ファイバを折り返して2本1組として、製品用ボビンのフランジ孔より外部に導出し、予備巻きボビンを交換しながら光ファイバを対称巻付けし、巻付け完了後、光ファイバの端末同士を融着接続し、製品用ボビンのフランジ孔より外部に導出した光ファイバの折り返し点を切断している。
【0014】
また、振動の影響に対して、光ファイバの各層を構成する複数のターンをポッタリング材料でカプセル化することにより、振動の影響を低減させることが特許文献4及び5で提案されている。このポッタリング材料の弾性率は、高いもの即ち硬い材料を用いることがよく、その一方で熱応力に晒されないようにするために、弾性率の適切な範囲としては、1000psi(7MPa)から20000psi(138MPa)の間にあることが提案される(特許文献4)。さらに、動作温度範囲において、ポッタリング材料の弾性率の急な変化を避けるべく、動作温度範囲外である−55℃以下のガラス遷移温度を持つシリコン混合物とし、さらに、シリコン材料だけでは、弾性率が上記範囲よりも小さいために、カーボンブラック充填材を含めることで、硬さを持たせることが提案される(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平2−212712号公報
【特許文献2】特開平4−198903号公報
【特許文献3】特開平9−53945号公報
【特許文献4】特許第3002095号公報
【特許文献5】特許第2708370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、特許文献1〜3で示される巻付け法においては、いずれもその巻付け作業にほぼ同じような作業を要し、予備巻きボビンを交互に交換しながら1つの製品用ボビンに巻付けていくために、その交換作業が大変であり、自動化するには巻取機が複雑な構造となり、手動で行うには作業工数が多く作業時間がかかるという問題がある。
【0017】
さらに、対称巻付け法では、中点から見て右回り方向の巻付けと、左回り方向の巻付けを交互に重ねていくために、互いに互いを飛び越すための飛び越し(2重極巻付けの場合は1層分に相当する1段飛び、4重極巻付けの場合は2層分に相当する2段飛び)が起こり、交差点が発生する。この交差点での応力の影響で光ファイバ中の伝搬光の反射や損失、加えて伝搬光が偏光である場合には偏光クロストークが発生して、誤差の原因になるという問題がある。
【0018】
一方、特許文献4及び5で示される巻付け法では、単純な整列巻付けとなっているために、温度変動によって生じる誤差が大きいという問題がある。
【0019】
本発明はかかる課題に鑑みなされたもので、光ファイバの巻付け作業を簡単にすることができ、作業工数を低減して、低コストで製造することができ、且つ巻付けを起因とするクロストークの発生も低減することができ、温度感度及び振動の影響を低減した高精度な光ファイバジャイロ用センシングコイル及びその製造方法を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、光ファイバジャイロ用センシングコイルにおいて、
同一張力及び同一送り速度で光ファイバを整列巻付けしポッティング材料でカプセル化した2個のポッティングコイルからなるコイル本体を有し、
該コイル本体は、各ポッティングコイルの側端面同士が前記ポッティング材料で接着し重ね合わされてなり、前記各ポッティングコイルの一方のファイバ端同士が融着接続されて、1つの回転方向を持つ連続した光ファイバから構成される、ことを特徴とする。
【0021】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のものにおいて、前記2個のポッティングコイルは、接着面である側端面を中心としてそのコイルの巻きが対称である、ことを特徴とする。
【0022】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載のものにおいて、前記2個のポッティングコイルの最外層から導出される光ファイバ同士が融着され、2個のポッティングコイルの最内層から導出される光ファイバ部分が、センシングコイルの一端部と他端部となる、ことを特徴とする。
【0023】
請求項4記載の発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のものにおいて、コイル本体は、支持体に対してその一側面のみが断熱スペーサを介して片持ち弾性支持されている、ことを特徴とする。
【0024】
請求項5記載の発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のものにおいて、前記コイル本体は、多重金属ケース内に配置され、多重金属ケースは、内側ケースが外側ケース内に包囲されて構成され、ポッティングコイルと最内側ケース間、及び内側ケースと外側ケースとの間は、対流を生じない程度の空隙となっている、ことを特徴とする。
【0025】
請求項6記載の発明は、請求項5記載のものにおいて、前記多重金属ケースのうち、内側ケースは、外側ケースよりも熱伝導率が高い材料で構成される、ことを特徴とする。
【0026】
請求項7記載の発明は、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のものにおいて、前記ポッティング材料は、常温硬化型の柔軟性接着剤である、ことを特徴とする。
【0027】
請求項8記載の発明は、請求項1ないし7のいずれか1項に記載のものにおいて、前記ポッティング材料は、ガラス転移温度以上で弾性率が0.1MPa〜5MPaであり、ガラス転移温度以下で、弾性率が0.1MPaから3GPaである、ことを特徴とする。
【0028】
請求項9記載の発明は、請求項8記載のものにおいて、前記ポッティング材料は、ガラス転移温度が常温に存在する、ことを特徴とする。
【0029】
請求項10記載の発明は、請求項1ないし9のいずれか1項に記載のものにおいて、前記ポッティング材料は、柔軟性エポキシ系接着剤である、ことを特徴とする。
【0030】
請求項11記載の発明は、光ファイバジャイロ用センシングコイルの製造方法であって、
ポッティング材料が塗布された光ファイバを治具に整列巻付けし、
ポッティング材料硬化後に治具から取り外して、ポッティング材料でカプセル化されたポッティングコイルを2個作製し、
2個のポッティングコイルの側端面同士を重ね合わせてポッティング材料で接着し、その際に、接着面である側端面を中心としてコイルの巻きが対称になるようにし、
各ポッティングコイルの一方のファイバ端同士を融着して、
1つの回転方向を持つ連続した光ファイバからなるコイル本体を作製する、
光ファイバジャイロ用センシングコイルの製造方法である。
【0031】
請求項12記載の発明は、請求項11記載の製造方法において、各ポッティングコイルの一方のファイバ端同士の融着は、2個のポッティングコイルの最外層から導出される光ファイバ同士を融着することを含む。
【0032】
請求項13記載の発明は、請求項12記載の製造方法において、各ポッティングコイルの一方のファイバ端同士の融着は、2個のポッティングコイルの最外層から融着部までの長さが、2個のポッティングコイルで異なるように融着することを含む。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、整列巻付けしたファイバコイルをポッティング材料でカプセル化した2個のポッティングコイルを接着して重ね合わせるために、従来の巻付けのような複雑な工程を要することなく、簡単に巻付け作業を行うことができる。従って、自動化を可能とし、手動で作業を行う場合でも、作業工数を低減して低コストで製造することができる。また、巻乱れの起こる可能性も低減させることができる。中点から相反方向に等距離にある2点を、それぞれのコイルの同一層に、且つ2つのコイルの結合中心面に関して対称位置にすることができて、温度対称性を確保し、左右回りの光がそれぞれ受ける位相誤差量を等しくして、位相誤差量を相殺させることができる。
【0034】
さらに、従来の2重極巻付けまたは4重極巻付けのような飛び越しがないために、交差点が発生せず、周期的な応力集中箇所の発生を低減させることができ、この応力の影響で起こる光ファイバ中の伝搬光の反射や損失、加えて伝搬光が偏光である場合の偏光クロストークの発生を抑制して誤差の発生を低減させることができて、高精度なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明による光ファイバジャイロ用センシングコイルのコイル本体の斜視図である。
【図2】(a)は、コイル本体を構成する1つのポッティングコイルの半断面図であり、(b)はコイル本体の半断面図である。
【図3】本発明による光ファイバジャイロ用センシングコイルを製造する製造装置を表す説明図である。
【図4】本発明による光ファイバジャイロ用センシングコイルを製造するための治具の側面図である。
【図5】本発明による光ファイバジャイロ用センシングコイルの製造手順を表す説明図である。
【図6】図5に続く光ファイバジャイロ用センシングコイルの製造手順を表す説明図である。
【図7】図6に続く光ファイバジャイロ用センシングコイルの製造手順を表す説明図である。
【図8】(a)は図7に続く光ファイバジャイロ用センシングコイルの製造により製造されたコイル本体の側面図、(b)は平面図である。
【図9】本発明による光ファイバジャイロ用センシングコイルの断面図である。
【図10】好適なポッティング材料の弾性率−温度特性を表すグラフである。
【図11】本発明の光ファイバジャイロ用センシングコイルを用いた場合の補正後のバイアス特性である。
【図12】従来の光ファイバの巻付け方法による光ファイバジャイロ用センシングコイルの要部断面図である。
【図13】非柔軟性ポッティング材を用いた場合の温度特性である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0037】
図1及び図2は、本発明による光ファイバジャイロ用センシングコイルのコイル本体を表している。
【0038】
光ファイバジャイロ用センシングコイル10のコイル本体13は、2個のポッティングコイル12、12を有している。
【0039】
各ポッティングコイル12は、図2に示したように、同一張力及び同一送り速度で光ファイバ14を整列巻付けしたものからなり、ポッティング材料16で隣接する光ファイバ14同士が接着されることで、カプセル化されている。光ファイバ14はシングルモードファイバ(SMファイバ)または偏波保持ファイバ(PMファイバ)とすることができる。
【0040】
ポッティング材料16は、常温硬化型の柔軟性接着剤からなる。柔軟性は、可撓性を持つ程度とし、その硬度は、ショアA硬度で50〜80度程度で、弾性率(ヤング率)は、常温(例えば20℃〜25℃)で7MPa未満、好ましくは5MPa以下となっているとよい。また、ガラス転移温度は、常温(例えば20℃〜25℃)に存在しているとよく、ガラス転移温度以上で弾性率(ヤング率)が0.1MPaから5MPaの間にあり、ガラス転移温度以下で弾性率が0.1MPaから3GPaの間にあるとよい。ポッティング材料16の具体例としては、柔軟性エポキシ系接着剤とすることができ、そのガラス転移温度は22℃程度で、その弾性率の温度特性は図10に示す曲線に従っている。
【0041】
このようなカプセル化されたポッティングコイル12は、図3に示すような製造装置100で作製することができる。製造装置100は、光ファイバ14が予め巻付けられた予備巻きスプール102がセットされた巻解軸104aを持つ巻解機104と、巻解機104に対向して配置されて巻取軸106aを持つ巻取機106と、巻解機104と巻取機106との間に配置された張力付与部108と、張力付与部108と巻取機106との間に配置された接着剤塗布装置110と、ガイド部112とを備える。巻取軸106aは図示しない駆動源に連結される。
【0042】
巻取機106の巻取軸106aには、巻取治具120がセットされる。巻取治具120は、図4に示すように、離型性が良く寸法安定性に優れる材質(例えば、PTFE等)からなる一対の鍔部120a及び一対の鍔部120aの間を連結する胴軸120bと、鍔部120aの内側と胴軸120bの表面に被覆された樹脂パッキン120cと、から構成される。胴軸120bと少なくとも一方の鍔部120aは脱着可能に連結されている。また、胴軸120bまたは鍔部120aには、光ファイバ14の巻始め部分を引き出すことができる貫通孔、溝、または切込み120dが設けられている。胴軸120b内には巻取軸106aが挿入されて、回転駆動可能となっている。
【0043】
接着剤塗布装置110は、液体状のポッティング材料16である接着剤が収容されるタンク116と、タンク116に底部が浸漬されて回転自在となった塗布ローラ118と、を備える。
【0044】
ガイド部112は、巻解軸104a及び巻取軸106aに対して平行な方向に往復動可能となっている。
【0045】
巻解機104にセットされた予備巻きスプール102から巻き解かれた光ファイバ14の端部の巻き始め部分を、張力付与部108及び接着剤塗布装置110を経由して巻取機106にセットされた巻取治具120の貫通孔、溝または切込み120dに誘導しておき、巻取軸106aを回転駆動し、ガイド部112を巻解軸104a及び巻取軸106aに対して平行な方向に往復動させることで、予備巻きスプール102から巻き解かれ、途中で接着剤塗布装置110によって接着剤が塗布された光ファイバ14が、胴軸120bに整列密着巻付け(ソレノイド巻線)される。即ち、光ファイバ14は、巻取治具120において、一層ずつ巻付けられ、ある層が完成すると折り返して、その上側に次の層を形成していく。こうして、決められた回数、巻取軸106aの回転を行うことで、巻取治具120に所定数の光ファイバの層が巻付けられる。
【0046】
好ましくは、図5に示すように、巻解軸104aに2個の予備巻きスプール102を並べてセットし、巻取軸106aに2個の巻取治具120を並べてセットし、接着剤塗布装置110を並列に2個配置し、巻取軸106aを駆動する同軸同時巻線方式をとるとよい。これによって、2個の巻取治具120に光ファイバ14を同時に且つ同じ張力付与部108によって同じ張力を印加しながら巻き取ることによって、同一張力及び同一送り速度で巻き取られ、同じ巻取特性を持ち、等しい長さの同じ方向に巻付けられた2個のファイバコイルを自動的に製造することができる。
【0047】
巻取後に常温硬化させた後、図6に示すように、巻取治具120の鍔部120aと胴軸120bとを分解して、ポッティング材料16によって固化されてカプセル化されたポッティングコイル12、12を得ることができる。
【0048】
カプセル化された各ポッティングコイル12は、2つの側端面12a、12bを持つ。図7に示すように、2個のポッティングコイル12のうちの一方のポッティングコイル12を他方のポッティングコイル12に対してコイル中心軸に垂直な軸周りに180°回転させ、一方のポッティングコイル12の側端面12bと他方のポッティングコイル12の側端面12bとを同じポッティング材料16によって接着して常温硬化させて一体化する。一方のポッティングコイル12を180°回転させることによって、接着面となった側端面12b、12bを中心として、2個のポッティングコイル12は、コイルの巻きが対称となっている。
【0049】
次に、図8に示すように、2個のポッティングコイル12の最外層から導出される光ファイバ14の巻き終わり部分(余長部12cという)の端部同士を融着する。このとき、2つのポッティングコイル12の余長部12cの長さは等しくせずに、反射光による変動やクロストークによるスプリアス誤差を避けるために、光源の特性で決まるコヒーレント長の1/2以上の長さの差をつけるようにする。つまり、融着部13aは、対称点とせずに、対称点からずれた位置になるようにする。尚、光ファイバ14が偏波保持ファイバ(PMファイバ)の場合には余長部12cの端部を融着する際に、各光ファイバ14同士の偏波軸を合わせて融着するようにする。
【0050】
そして、融着後の余長部12cは、ポッティングコイル12の側端面12aに重ねて接着剤16で接着して常温硬化させる。こうして、接着されて一体化された2個のポッティングコイル12、12がコイル本体13となる。最内層から導出される光ファイバ14の巻始め部分がコイル本体13の一端部13bと他端部13cとなり干渉計に接続される。
【0051】
図9に示すように、コイル本体13は、支持体としての金属ケース18内に配置されるとよい。金属ケース18は、多重金属ケースとなっているとよく、少なくとも内側ケース20と、外側ケース22とを有する二重金属ケースとなっており、内側ケース20は、外側ケース22によって完全に四方が包囲されている。但し、金属ケースは、さらに三重以上の多重金属ケースとすることも可能である。
【0052】
内側金属ケース20及び外側金属ケース22は、それぞれドーナツ形状をなしており、底板20a、22a、内側板20b、22b、外側板20c、22c、上板20d、22dを備える。
【0053】
コイル本体13は、その下面に等配角度で3箇所以上に設けられた断熱材からなるスペーサ24を介して内側ケース20の底板20aに固定される。
【0054】
スペーサ24の材料は、好ましくは、その線膨張係数がポッティング材16と同程度とし、しかしながら、ポッティング材16よりも硬く弾性率の高いものが選択される。例えば、合成樹脂またはセラミックスとすることができ、具体的にはガラスエポキシ樹脂等が使用可能である。スペーサ24とコイル本体13及びスペーサ24と内側ケース20の底板20aとの間は、ポッティング材16と同じ接着剤で固定されるとよい。
【0055】
コイル本体13は、その一側面のみが内側ケース20の底板20aに取り付けられており、従って、片持ち支持となっている。コイル本体13と内側ケース20の上板20d、内側板20b、外側板20cとの間には僅かな空隙が保持されている。これによって、コイル本体13は、その熱膨張及び熱収縮によって比較的自由に動くことが可能になっており、熱応力が発生することを防いでいる。その一方で、空隙を対流が生じない程度の僅かな空隙とすることで、内側ケース20内部の温度の均一化を図ることができる。また、断熱材からなるスペーサ24を介することで、内側ケース20からの熱の直接の伝達を防ぎ、コイル本体13における温度の均一化を図ることができる。
【0056】
更に、内側ケース20は、その下板20aと上板20dに等配角度で3箇所以上に設けられた断熱材からなるスペーサ24を介して外側ケース22の底板22aと上板22dにそれぞれ固定される。内側ケース20と外側ケース22においては、上側と下側の両側で堅固に固定する。外側ケース22の底板22aと上板22dは、スペーサ27とビス25によって互いに離間して固定される。
【0057】
内側ケース20と外側ケース22とは、同じ金属材料で構成することができるが、異なる金属材料とすることもでき、その場合に、好ましくは、内側ケース20の方が外側ケース22よりも高い熱伝導性を持つように、換言すれば、外側ケース22の方が内側ケース20よりも高い断熱性を持つようにするとよい。これによって、外側ケース22によって外乱の熱の影響が内部に伝わることを防ぐ一方で、内側ケース20によって、内側ケース20内の温度勾配をなくし、温度を均一化する効果が得られる。
【0058】
内側ケース20の上板20d及び外側ケース22の上板22dには、それぞれ切欠(図示略)が形成されており、最内層から導出されるコイル本体13の一端部13bと他端部13cが切欠を通り抜ける。切欠は、アルミテープなどの熱伝導性の良い金属テープで光ファイバごと固定して封止するとよい。
【0059】
金属ケース18の上側には、光学部品収納ケース26が設けられる。光学部品収納ケース26は、金属ケース18の外側ケース22と同じ材料で構成され、光学部品収納ケース26は、外側板26aと、上板26bとを有し、その底板は、外側ケース22の上板22dが兼用している。但し、光学部品収納ケース26は金属ケース18の下側とすることも可能である。
【0060】
光学部品収納ケース26内には、カプラ30、デポライザ32、IOC34、偏光子36等の部品が配設されて、切欠を通り抜けた最内層から導出されるコイル本体13の一端部13bと他端部13cが接続される。光ファイバ14がシングルモードファイバ(SMファイバ)の場合には、偏波変動の影響を抑制するためのデポラライザ32も光学部品収納ケース26内に配置される。デポラライザ32は結晶タイプ、ファイバタイプのいずれタイプとすることもでき、ファイバタイプのデポラライザ32とした場合には、光学部品収納ケース26内に配置する代わりに、コイル本体13と一体にすることも可能である。
【0061】
また、金属ケースの内側ケース20内には、温度センサ(図示略)が配置されて、コイル本体13の温度を測定している。
【0062】
以上のように構成される光ファイバジャイロ用センシングコイル10においては、前述のように、コイル本体13の中点は、2つの余長部12c、12cを合わせた長さの中点となり(尚、前述のように、中点は融着部13aから離れている)、中点から相反方向に等距離にある地点は、対応するポッティングコイル12、12の同一層にあり且つ2個のポッティングコイル12の接着面から等距離に位置するために、熱分布の対称性によって、同じ温度変動を受けることが期待できる。こうして、温度対称性を確保することができる。
【0063】
特に、2個のポッティングコイル12、12はコイル本体13の中央となる接着面で互いに密着しているため、接着面を中心とする温度対称性を確実に達成することができる。具体的には、図2(b)に点線で示すように、温度変動時の温度分布を接着面を中心とする略同心円状とすることで温度対称性を達成して、シュープ誤差のキャンセル残差を低減することができる。
【0064】
各ポッティングコイル12、12は単純な整列巻付けであるために、従来の巻付けのような複雑な工程を要することなく、簡単に巻付け作業を行うことができ、また、巻乱れの起こる可能性も低減させることができる。さらには、従来の2重極巻付けまたは4重極巻付けのような飛び越しがないために、交差点が発生せず、周期的な応力集中箇所の発生を低減させることができ、この応力の影響で起こる光ファイバ中の伝搬光の反射や損失、加えて伝搬光が偏光である場合の偏光クロストークの発生を抑制して誤差の発生を低減させることができる。
【0065】
また、周知のようにコイル本体13の一端部13bと他端部13cは温度微分感度が最も高いが、これら一端部13bと他端部13cが、ポッティングコイル12の最内側に位置し、周囲温度変化の影響を最も受けない位置にあるために、センシングコイル10として温度の影響を受けにくい構成とすることができる。
【0066】
また、光ファイバ単体と比較して信頼性が低く応力にも敏感な融着部13aを応力フリーとなるコイルの最外層に配置することができるので、信頼性・性能安定性が向上する。
【0067】
さらに、各ポッティングコイル12において、光ファイバ14が柔軟性のあるポッティング材料16によって固定されることにより、光ファイバ14にかかる熱膨張、熱収縮を緩和して、バイアス温度特性におけるバイアススパイクノイズの発生を防ぐことができる。
【0068】
図11は、周囲温度が−20℃〜+80℃で、温度変化率が0.75℃/分の温度環境条件下での、図10の弾性率−温度特性を持つ柔軟性ポッティング材を用いた場合の本発明による光ファイバジャイロ用センシングコイルによる補正後のバイアス温度特性を示している。バイアススパイクが発生せず、バイアス不安定性が0.018°/h(1σ)以下、ランダムウォークが0.0047°/√hの性能が得られた。
【0069】
図13は、弾性率が3GPa一定となった非柔軟性エポキシ系接着剤をポッティング材料として用いた場合の補正後のバイアス変化である。この場合、温度が下降していく時に多数のスパイクが出る傾向があり、これは、温度下降時に光ファイバ14内で発生する熱膨張、熱収縮を非柔軟性ポッティング材料では十分に緩和することができないことが要因と考えられる。
【0070】
これに対して、スパイクの発生しない柔軟性ポッティング材料では、30℃で弾性率が1.5MPaとなっており、この値は、特許文献4または5で提案される弾性率の高い(7MPa〜138MPa)ポッティング材料よりも遥かに低い値である。また、ポッティング材料16を常温硬化型とすることで、常温付近で熱応力を少なくし、常温以下及び常温以上での熱応力を均等配分することができ、温度下降時に発生しやすいバイアススパイクノイズの原因となる光ファイバへの熱応力を低減することができる。
【0071】
また、コイル本体13は、金属ケースの中で、金属に直接接触することなく、且つ一側面のみが断熱性スペーサ24によって片持ち弾性支持されているとよく、これによって、バイアス温度特性を安定させることができる。さらに、コイル本体13は、一重金属ケースよりも多重金属ケース内に配置するとよく、これによって、バイアス温度特性をより一層安定させることができる。
【0072】
さらに、図10に示す弾性率−温度特性を持つ柔軟性ポッティング材を用いた場合の振動特性に関しては、20分間で 2G 0〜100Hzの振動を掃引して振動試験を行った結果、振動印加中のジャイロ出力から推定される方位誤差換算は0.35°secλ以下(λ:緯度)であり、実用上十分であることが分かった。従って、ポッティング材料16を柔軟性のあるものとしても、特許文献4または5に示されるような振動の影響はないことが示され、本発明による光ファイバジャイロ用センシングコイル10は、温度、振動といった環境要因の影響を受けにくいことが分かった。
【符号の説明】
【0073】
10 光ファイバジャイロ用センシングコイル
12 ポッティングコイル
12b 側端面
12c 余長部
13 コイル本体
13a 融着部
13b 一端部
13c 他端部
14 光ファイバ
16 ポッティング材料
18 金属ケース
20 内側ケース
22 外側ケース
24 スペーサ
120 巻取治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバジャイロ用センシングコイルにおいて、
同一張力及び同一送り速度で光ファイバを整列巻付けしポッティング材料でカプセル化した2個のポッティングコイルからなるコイル本体を有し、
該コイル本体は、各ポッティングコイルの側端面同士が前記ポッティング材料で接着し重ね合わされてなり、前記各ポッティングコイルの一方のファイバ端同士が融着接続されて、1つの回転方向を持つ連続した光ファイバから構成される、ことを特徴とする光ファイバジャイロ用センシングコイル。
【請求項2】
前記2個のポッティングコイルは、接着面である側端面を中心としてそのコイルの巻きが対称である、ことを特徴とする請求項1記載の光ファイバジャイロ用センシングコイル。
【請求項3】
前記2個のポッティングコイルの最外層から導出される光ファイバ同士が融着され、2個のポッティングコイルの最内層から導出される光ファイバ部分が、センシングコイルの一端部と他端部となる、ことを特徴とする請求項1または2記載の光ファイバジャイロ用センシングコイル。
【請求項4】
コイル本体は、支持体に対してその一側面のみが断熱スペーサを介して片持ち弾性支持されている、ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光ファイバジャイロ用センシングコイル。
【請求項5】
前記コイル本体は、多重金属ケース内に配置され、多重金属ケースは、内側ケースが外側ケース内に包囲されて構成され、ポッティングコイルと最内側ケース間、及び内側ケースと外側ケースとの間は、対流を生じない程度の空隙となっている、ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光ファイバジャイロ用センシングコイル。
【請求項6】
前記多重金属ケースのうち、内側ケースは、外側ケースよりも熱伝導率が高い材料で構成される、ことを特徴とする請求項5記載の光ファイバジャイロ用センシングコイル。
【請求項7】
前記ポッティング材料は、常温硬化型の柔軟性接着剤である、ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の光ファイバジャイロ用センシングコイル。
【請求項8】
前記ポッティング材料は、ガラス転移温度以上で弾性率が0.1MPa〜5MPaであり、ガラス転移温度以下で、弾性率が0.1MPaから3GPaである、ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の光ファイバジャイロ用センシングコイル。
【請求項9】
前記ポッティング材料は、ガラス転移温度が常温に存在する、ことを特徴とする請求項8記載の光ファイバジャイロ用センシングコイル。
【請求項10】
前記ポッティング材料は、柔軟性エポキシ系接着剤である、ことを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の光ファイバジャイロ用センシングコイル。
【請求項11】
光ファイバジャイロ用センシングコイルの製造方法であって、
ポッティング材料が塗布された光ファイバを治具に整列巻付けし、
ポッティング材料硬化後に治具から取り外して、ポッティング材料でカプセル化されたポッティングコイルを2個作製し、
2個のポッティングコイルの側端面同士を重ね合わせてポッティング材料で接着し、その際に、接着面である側端面を中心としてコイルの巻きが対称になるようにし、
各ポッティングコイルの一方のファイバ端同士を融着して、
1つの回転方向を持つ連続した光ファイバからなるコイル本体を作製する、
光ファイバジャイロ用センシングコイルの製造方法。
【請求項12】
各ポッティングコイルの一方のファイバ端同士の融着は、2個のポッティングコイルの最外層から導出される光ファイバ同士を融着することを含む請求項11記載の光ファイバジャイロ用センシングコイルの製造方法。
【請求項13】
各ポッティングコイルの一方のファイバ端同士の融着は、2個のポッティングコイルの最外層から融着部までの長さが、2個のポッティングコイルで異なるように融着することを含む請求項12記載の光ファイバジャイロ用センシングコイルの製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図1】
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【図2】
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【図12】
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【図13】
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