説明

光ファイバテープ心線の製造方法、光ファイバテープ心線の製造装置および光ファイバテープ心線

【課題】 高速での製造にも対応が可能であり、また、接着強度にも優れる間欠接着型の光ファイバテープ心線の製造方法等を提供する。
【解決手段】 供給部11a、11b、11c、11dから繰り出された光ファイバ素線3a、3b、3c、3dは、それぞれ塗布ロール13a、13b、13c、13dに送られる。塗布ロール13a、13b、13c、13dを通過した光ファイバ素線3a、3b、3c、3dは、整列部19で同一平面上に互いに隣り合うように並列される。塗布ロール13cは、光ファイバ素線3cの進行方向に対して略垂直な回転軸を有するロールである。塗布ロール13cの外周面の一部には、接着部材保持部23が形成される。接着部材保持部23は接着部材を保持し、接触する光ファイバ素線3cの側面に接着部材を塗布する部位である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の光ファイバ素線が並列に接着された光ファイバテープ心線の製造方法、光ファイバテープ心線の製造装置および光ファイバテープ心線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多量のデータを高速で伝送するための光ファイバとして、ケーブルへの収納や作業の簡易化のため、複数本の光ファイバ素線が並列に配置されて接着された光ファイバテープ心線が用いられている。光ファイバテープ心線は、並列した光ファイバ素線を全長にわたって樹脂で固着されたものが用いられている他、光ファイバ素線同士が間欠的に接着されたものがある。光ファイバ素線同士の間欠的な接着は、集線密度の向上や曲げによる伝送ロスの低減、単心化をしやすくするなどの特徴を持つ。
【0003】
光ファイバ素線同士を間欠的に接着するための接着部材の塗布手段としては、ディスペンサによって吐出して付着させるもの(例えば特許文献1)や、シャッター機構を用いたもの(例えば特許文献2)などか考案されている。また、塗布後の樹脂を部分的に硬化させ、間欠的な接着部を得るものなどが考案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−264604号公報
【特許文献2】特開2010−33010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光ファイバ素線同士が任意の間隔で間欠的に接着された光ファイバテープ心線を得るためには、光ファイバ素線の線速と、光ファイバ素線への樹脂塗布の動作を同期させる必要がある。そのため、樹脂塗布の有無の切り替え速度が製造可能な線速を決定する大きな要素となる。このため、高速で光ファイバテープ心線を製造するためには、上記切り替えの高速化が必要である。
【0006】
しかし、特許文献1のような方法では、樹脂は圧力がかけられている間にファイバ素線上へと押し出されるが、ディスペンサによる加圧の有無の切り替え動作には限界の速さがあり、線速を上げていくとディスペンサの動作が追従できない領域に達する。したがって本特許では線速は15〜100m/minに限定されている。
【0007】
また、テープ化に使用する樹脂は、温度が等しければ、樹脂の粘度が高いほど、圧力の変化に対する流動の時間的応答性は悪くなる。そのため、樹脂をファイバ素線表面へ押し出す方式で高粘度の樹脂を用いた場合、流路内の樹脂への加圧が停止されてから、樹脂が流動を終えるまでの時間差は大きくなり、加圧時間に対して実際にファイバ素線上へ樹脂が塗布される時間は長くなる。すなわち、樹脂が高粘度になるほど、樹脂を短い時間に区切って吐出することは困難となる。
【0008】
また同様に、特許文献2に示されるようなシャッター機構を用いた場合においても、その線速はシャッターの動作速度により制限されてしまう。
【0009】
また、例えば特許文献1のような方法で、並列面に対して垂直な1方向から樹脂の塗布を行った場合、樹脂は並列した複数の光ファイバ素線が作る凹部に塗布される。しかし、このような場合、テープ心線として扱うためには接着面積が十分ではなく、接着強度が不足してしまう。このため、樹脂の増加などを行う必要がある。
【0010】
このように、並列したファイバ素線に樹脂を塗布する方式では、十分な接着面積を確保することが困難であり、テープ心線となった際の断面積を小さく抑えつつ接着強度を高めることが困難であるという問題がある。これに対し、高密度の実装という目的から、光ファイバテープ心線の断面積は小さいことが望ましい。
【0011】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、高速での製造にも対応が可能であり、また、接着強度にも優れる間欠接着型の光ファイバテープ心線の製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した目的を達するために第1の発明は、複数の光ファイバ素線を長手方向に間欠的に接着する光ファイバテープ心線の製造方法であって、外周の一部に接着部材を保持可能な接着部材保持部を有し、接着部材を間欠的に塗布可能な複数の塗布ロールと、複数の光ファイバ素線を集合させて並列する整列部と、を有する光ファイバテープ心線製造装置を用い、複数の光ファイバ素線を、それぞれの塗布ロールに接触させて、少なくとも前記光ファイバ素線の側面に接着部材を間欠的に塗布し、前記整列部で、側面に接着部材が塗布された前記光ファイバ素線の側面同士が接触するように整列し、前記接着部材で前記光ファイバ素線同士を接着することを特徴とする光ファイバテープ心線の製造方法である。
【0013】
前記塗布ロールは、前記接着部材保持部の外径が、接着部材保持部以外の部位の外径よりも大きく、整列される一方の端部の前記光ファイバ素線に接触する前記塗布ロールは、ダミーの塗布ロールであり、一方の端部の前記光ファイバ素線には接着部材を塗布しないことが望ましい。
【0014】
光ファイバ素線の長手方向の接着部材の塗布間隔をP、任意の光ファイバ素線に対して接触する前記塗布ロールと前記整列部までの距離をL1、当該光ファイバ素線と隣り合う光ファイバ素線に対して接触する前記塗布ロールと前記整列部までの距離をL2、nを整数とすると、L1とL2との差が、P×(n+0.5)であることが望ましい。
【0015】
前記接着部材は紫外線硬化樹脂であり、前記整列部で前記光ファイバ素線を整列させた後、紫外線を照射して前記接着部材を硬化させてもよい。
【0016】
前記光ファイバ素線が、前記塗布ロールの外周の所定の周長に接触可能なように、前記塗布ロールの前後にガイドロールが設けられてもよい。
【0017】
前記接着部材の粘度が0.001Pa・sから10Pa・sであってもよい。
【0018】
第1の発明によれば、接着部材を塗布ロールによって塗布するため、光ファイバ素線の線速との同期を取るのが容易である。
【0019】
また、塗布ロールは、光ファイバ素線の側面に接着部材を塗布するため、光ファイバ素線の側面同士の接触時に、接触部の上下方向に接着部材が押し出される。このため、整列後の光ファイバ素線が形成する一対の溝の双方に樹脂が存在し、光ファイバ素線の上下で接着することができる。したがって、一方からのみ塗布する場合と比較して、光ファイバ素線同士の接着強度に優れる。すなわち接着に用いる接着部材の塗布量が少量でも従来技術による接着と同等の接着強度を得ることができる。
【0020】
また、加圧による接着部材の流動を利用することなく、接着部材を塗布ロールから光ファイバ素線上へ塗布することができる。このため、接着部材の粘度によらず、高速での製造が可能となる。
【0021】
また、塗布ロールの接着部材保持部の外径が、接着部材保持部以外の部位の外径よりも大きいため、確実に光ファイバ素線に接着部材を塗布可能である。また、整列される一方の端部の光ファイバ素線には、接着部材を塗布する必要がないが、接触する前記塗布ロールをダミーの塗布ロールとするため、全てのファイバ素線に対して、外径の大きな接着部材保持部と接触させることができる。このため、全ての光ファイバ素線に対して、外径の変化に伴う同一の脈動を与えることができる。
【0022】
また、隣り合う光ファイバ素線同士の塗布ロールから整列部までの距離の差を、P×(n+0.5)とすることで、光ファイバ素線同士の接着部を千鳥状に配置できる。また、この際、全ての光ファイバ素線に対して、同一のタイミングで接着部材保持部と接触させることができる。このため、これに伴う脈動を同一のタイミングで付与することができる。
【0023】
また、接着部材として紫外線硬化樹脂を用い、整列部で光ファイバ素線同士整列後に紫外線を照射して接着部材を硬化させることで確実に光ファイバ素線同士を接着させることができる。
【0024】
また、光ファイバ素線が、塗布ロールの外周の所定の周長に接触可能なように、塗布ロールの前後にガイドロールを設けることで、光ファイバ素線の移動によって塗布ロールを回転させることができる。すなわち、進行する光ファイバ素線との摩擦により動力を得る塗布ロールを用いることで、製造時の線速は樹脂塗布機構の追従性による制限を受けず、高速での製造が可能となる。
【0025】
また、接着部材の粘度が0.001Pa・sから10Pa・sであれば、接着剤保持部で接着剤を確実に保持し、塗布することができるとともに、前述したガイドロールの効果とも相まって、より確実に光ファイバ素線によって塗布ロールを回転させることができる。
【0026】
第2の発明は、複数の光ファイバ素線を長手方向に間欠的に接着する光ファイバテープの製造装置であって、外周の一部に接着部材を保持可能な接着部材保持部を有し、接着部材を間欠的に塗布可能な複数の塗布ロールと、複数の光ファイバ素線を集合させて並列する整列部と、を具備し、前記塗布ロールは、前記接着部材保持部の外径が、接着部材保持部以外の部位の外径よりも大きく、整列される一方の端部の光ファイバ素線に接触する塗布ロールは、接着部材を塗布しないダミー塗布ロールであり、前記ダミー塗布ロール以外の前記塗布ロールは、接触する光ファイバ素線の少なくとも側面に接着部材を間欠的に塗布することが可能であり、光ファイバ素線の長手方向の接着部材の塗布間隔をP、任意の光ファイバ素線に対して接触する前記塗布ロールと前記整列部までの距離をL1、当該光ファイバ素線と隣り合う光ファイバ素線に対して接触する前記塗布ロールと前記整列部までの距離をL2、nを整数とすると、L1とL2との差が、P×(n+0.5)であることを特徴とする光ファイバテープ心線の製造装置である。
【0027】
第2の発明によれば、高速で光ファイバテープ心線を製造可能であり、間欠で千鳥状に接着部を形成するとともに、高い接着強度で光ファイバ素線同士を接着することができる。
【0028】
第3の発明は、第1の発明にかかる光ファイバテープ心線の製造方法で製造された光ファイバテープ心線であって、隣り合う光ファイバ素線同士の接着部が千鳥状に形成され、前記接着部において、光ファイバテープ心線の上面側および下面側の両側に接着部材が設けられることを特徴とする光ファイバテープ心線である。
【0029】
第3の発明によれば、高い接着強度で光ファイバ同士が接着されているため、テープ心線となった際の断面積が小さく抑えられた光ファイバテープ心線を得ることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、高速での製造にも対応が可能であり、また、接着強度にも優れる間欠接着型の光ファイバテープ心線の製造方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】光ファイバテープ心線1を示す斜視図。
【図2】光ファイバテープ心線1を示す図で、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線断面図。
【図3】光ファイバテープ心線製造装置10の構成を示す概略図。
【図4】各塗布ロールと整列部19との距離を示す図。
【図5】(a)は図3のD部拡大図、(b)は(a)のM−M線断面図。
【図6】(a)は図5のJ部拡大図、(b)は図5のK部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。図1は、光ファイバテープ心線1を示す斜視図である。また、図2は、光ファイバテープ心線1を示す図で、図2(a)は平面図、図2(b)は図2(a)のA−A線断面図である。光ファイバテープ心線1は、複数の光ファイバ素線3a、3b、3c、3dが並列に接着されて構成される。なお、以下の説明において、4本の光ファイバ素線3a、3b、3c、3dにより構成される例を示すが、本発明はこれに限られず、複数の光ファイバ素線からなる光ファイバテープ心線であれば適用可能である。
【0033】
光ファイバテープ心線1は、隣り合う光ファイバ素線3a、3b、3c、3d同士が所定の間隔をあけて間欠で接着部材5により接着される。隣り合う光ファイバ素線同士の接着部は、光ファイバテープ心線1の長手方向に対して千鳥状に配置される。
【0034】
すなわち、図2(a)に示すように、光ファイバテープ心線1の長手方向に対するファイバ素線3b、3c間の接着位置は、隣り合うファイバ素線3a、3b間およびファイバ素線3c、3d間の接着位置に対して、略半ピッチずれて、同一ピッチで形成される。したがって、ファイバ素線3a、3b間の接着位置と、ファイバ素線3c、3d間の接着位置とは同一位置となる。
【0035】
ここで、接着部材5が塗布されている長手方向の長さをBとし、接着部材5の長手方向における塗布ピッチをPとすると、全ての隣り合う光ファイバ素線3a、3b、3c、3d間は、BおよびPは同じであり、前述の通り、隣り合う接着部材5の位置のみが半ピッチずれて形成される。塗布長さBとしては、例えば50mm程度であり、塗布ピッチPは150mm程度であればよい。したがって、この場合の非塗布長さは100mm程度となる。
【0036】
また、図2(b)に示すように、接着部材5は光ファイバ素線同士の接触部の上下の溝部に露出する。すなわち、隣り合う光ファイバ素線3a、3b、3c、3d同士は、光ファイバテープ心線1の上下面において接着される。
【0037】
次に、光ファイバテープ心線1の製造方法について説明する。図3は、光ファイバテープ心線製造装置10の構成を示す概略図である。光ファイバテープ心線製造装置10は、主に、供給部11a、11b、11c、11d、塗布ロール13a、13b、13c、13d、整列部19、紫外線照射部21等から構成される。なお、光ファイバ素線3a、3b、3c、3dが適正な進路を通るように、適宜図示を省略したガイド等を設置してもよい。
【0038】
供給部11a、11b、11c、11dは、それぞれ光ファイバ素線3a、3b、3c、3dを供給する部位である。供給部11a、11b、11c、11dは、例えばボビンである。光ファイバ素線3a、3b、3c、3dが巻かれたボビンを回転させながら光ファイバ素線3a、3b、3c、3dが所定の張力で繰り出される。
【0039】
供給部11a、11b、11c、11dから繰り出された光ファイバ素線3a、3b、3c、3dは、それぞれ塗布ロール13a、13b、13c、13dに送られる。塗布ロール13a、13b、13c、13dの詳細については後述する。
【0040】
塗布ロール13a、13b、13c、13dを通過した光ファイバ素線3a、3b、3c、3dは、整列部19で同一平面上に互いに隣り合うように並列される。整列部19は、例えば金属製のダイスが適用可能である。整列部19の内部には光ファイバ素線3a、3b、3c、3dの導入側から集線部に向けて狭くなるようテーパ部が形成される。集線部で、光ファイバ素線3a、3b、3c、3d間の距離が20μm程度とすればよい。
【0041】
なお、後述する接着部材の塗布量が一定であるとすると、整列部19の集線部での光ファイバ素線3a、3b、3c、3d間の距離を変更することによって、光ファイバ素線3a、3b、3c、3d間の接着面積を調整でき、接着強度を変更することができる。
【0042】
さらに、接着部材として紫外線硬化樹脂を用いた場合には、紫外線照射部21により、塗布ロールで塗布された接着部材が硬化する。以上により製造された光ファイバテープ心線1が図示を省略した巻き取り手段等によって巻き取られる。なお、ファイバテープ心線1の線速としては、例えば50〜500m/min程度とすればよい。
【0043】
図4は、塗布ロール13a、13b、13c、13dと整列部19との配置について示す図である。塗布ロール13a、13b、13c、13dから整列部19までのそれぞれの距離をL1〜L4とすると、隣り合う光ファイバ素線3a、3b、3c、3dに対応する塗布ロールから整列部までの距離の差は、塗布ピッチP×(n+0.5)(nは整数)で構成される。すなわち、L1とL2との長さの差(またはL2とL3の長さの差またはL3とL4の長さの差)は、塗布ピッチP×(n+0.5)だけ異なるように配置される。
【0044】
図5は、塗布ロール近傍を示す図であり、図3のD部拡大図である。なお、以下の説明では、塗布ロール13c近傍の例についての構成を説明するが、他の塗布ロールについても、特に記載がない限り同一の構成である。
【0045】
塗布ロール13cは、光ファイバ素線3cの進行方向に対して略垂直な回転軸を有するロールである。塗布ロール13cの外周面の一部には、接着部材保持部23が形成される。接着部材保持部23は接着部材を保持し、接触する光ファイバ素線3cの側面に接着部材を塗布する部位である。
【0046】
すなわち、塗布ロール13cにおける接着部材保持部23の周長が、接着部材の塗布長さB(図2(a))と略一致する。また、塗布ロール13cにおける接着部材保持部23の設置ピッチが塗布ピッチP(図2(a))と略一致する。このため、塗布ロール13cの外周長は、塗布ピッチPの整数倍(図は2倍の例)となるように設定される。例えば、前述の例では、50mmの周長の接着部材保持部23が100mmの間隔をあけて形成されれば良い。
【0047】
接着部材保持部23は、接着部材を保持しやすいフェルト、ゴム、スポンジなどを用いることが望ましく、例えばウレタンゴムを用いることができる。
【0048】
なお、塗布ロール13cの外周面において、接着部材保持部23は、他の部位よりも径方向に突出して形成される。すなわち、接着部材保持部23における外径は、接着部材保持部23以外における外径よりも大きい。
【0049】
塗布ロール13cの側方(光ファイバ素線3cの進行方向の前後)には、一対のガイドロール17が設けられる。ガイドロール17は、塗布ロール13cと同一の軸方向の回転軸を有するロールである。ガイドロール17の位置によって、塗布ロール13cに対する光ファイバ素線3cの抱き角(接触長)を調整することができる。
【0050】
ここで、塗布ロール13cおよびガイドロール17は、独立した回転駆動機構を有さない。したがって、塗布ロール13cは、光ファイバ素線3cとの接触によって生じる摩擦力で、光ファイバ素線3cの移動を駆動力として回転する(図中矢印F方向)。したがって、光ファイバ素線3cと塗布ロール13cとの接触面積が小さすぎると、光ファイバ素線3cに対して塗布ロール13cが滑り、光ファイバ素線3cへの接着部材の塗布が設定通りに行われなくなる。このため、所定以上の光ファイバ素線3cと塗布ロール13cとの接触面積が得られるように、ガイドロール17によって塗布ロール13cに対する光ファイバ素線3cの抱き角(接触長)が調整される。
【0051】
なお、塗布ロール13cが回転するための力を、接着部材を介して、進行する光ファイバ素線3c(図中矢印E、I方向)から接着部材保持部23で得るとすると、接着部材保持部23と光ファイバ素線3cの間に発生する力Fは、接着部材の粘度η、接着部材保持部23に対する光ファイバ素線3cの対向する面積(以下端に接触面積と呼ぶ)をS、接着部材保持部23の表面と光ファイバ素線3c表面の相対速度をv、接着部材保持部23と光ファイバ素線3cの間の接着部材の厚さwを用いて、F=ηSv/wで表わすことができる。
【0052】
ここで、相対速度vが大きくなるほど(滑りが大きくなるほど)、接着部材の塗布ピッチが設計値よりも大きくなる。このため、vには許容できる値vmaxが存在する。一定線速における光ファイバテープ心線1の製造では、塗布ロール13cを回転させるのに必要な力Fは、ロール質量や軸受け抵抗などの装置の構成によって定まり、接着部材厚wが一定であるとすると、特定の粘度の接着部材を用いる際に最低限必要となる接触面積Sminは、Smin=F・w/ηvmaxと表わされる。
【0053】
すなわち、接着部材保持部23と光ファイバ素線3cとの必要な接触面積は、使用する接着部材の粘度によって変化する。本実施形態では、ガイドロール17の位置によって塗布ロール13cへの光ファイバ素線の抱き角r(塗布ロール13cの中心に対して、光ファイバ素線3cが接触している角度)を適宜調整することができる。なお、抱き角rとしては120°以上とすることが望ましい。後述する使用可能な範囲の接着部材を用いた場合において、必要な接触面積を確保し、光ファイバ素線3cの滑りを抑制するためである。
【0054】
また、塗布ロール13cが、主に接着部材保持部23から回転力を得る場合、接着部材保持部23と光ファイバ素線3cの接触面積を常に確保することが望ましい。すなわち、抱き角r(rad)、非塗布部をCとし、塗布ロール13cの外周長をLとすると、r/2π>C/Lとなることが望ましい。
【0055】
例えば、本実施例では、C=100mm(P=150mm、B=50mm(図2(a)))であり、塗布ロール13cに2箇所の接着部材保持部23が設けられるため、抱き角が120°より大の範囲で接触面が常に確保される。このように、常に接着部材保持部23と光ファイバ素線3cとが接触するように、塗布ロール13cへの接着部材保持部23の繰り返し数や抱き角等を設定することが望ましい。
【0056】
塗布ロール13cの近傍には、接着部材供給部15が配置される。接着部材供給部15は、塗布ロール13cの接着部材保持部23に接着部材を供給する部位である。接着部材供給部15には、塗布ロール13cの回転軸と同一の軸方向の回転軸を有する接着部材供給ロール25が設けられる。
【0057】
接着部材供給ロール25の外周面は、塗布ロール13cの接着部材保持部23とのみ接触するように配置される。したがって、接着部材供給ロール25は、接着部材保持部23との接触により回転する(図中矢印G方向)。すなわち、接着部材供給ロール25の外周に付着した接着部材は、塗布ロール13cの接着部材保持部23にのみ転写され、接着部材保持部23以外の部位には接着部材が付着することがない。
【0058】
なお、硬化前の接着部材のJIS Z 8803による粘度は0.001〜10Pa・sとすることが望ましい。接着部材の粘度が0.001Pa・sより小さいと、光ファイバ素線への転写量が少なくなり接着強度が大幅に低下する。また、接着部材の粘度が10Pa・sより大きい場合には、粘度が高すぎるため、塗布ロールから光ファイバ素線へ接着部材が転写されず接着が不可能となる。
【0059】
なお、前述の通り、接着部材としては紫外線硬化樹脂を用いることができるが、他の接着剤や樹脂等を用いることもできる。本実施形態では、接着部材として紫外線硬化樹脂を用いる例を説明する。
【0060】
以上のように、供給部11c(図3)より供給された光ファイバ素線3cは(図中矢印E方向)、ガイドロール17を介して塗布ロール13cの外周に所定の抱き角で接触する。この際、接着部材保持部23と接触する部位の光ファイバ素線3cの側面には接着部材5が塗布される。
【0061】
接着部材5が塗布された光ファイバ素線3cは、塗布ロール13cから離れ、ガイドロール17を介して整列部方向に移動する(図中矢印I方向)。
【0062】
図5(b)は図5(a)のM−M線断面図である。塗布ロール13cから塗布される接着部材5は、光ファイバ素線3cの一方の側面に付着する。この状態で隣り合う光ファイバ素線同士の側面を接触させることで、接着部材5が並列する光ファイバ素線同士の上下の溝部に押し出される。したがって、ファイバ素線同士の上下面に接着部材を付着させることができる。
なお、図5(c)に示すように、光ファイバ素線3cの両側面に接着部材5が付着するように塗布してもよい。この場合には、塗布ロール13cと接触する側の光ファイバ素線3cの側面とは反対側の側面と接触するような塗布ロールを、光ファイバ素線3cの経路上にさらに設ければよい。この場合、両側に光ファイバ素線が接着される光ファイバ素線3b、3cに対して、両側面に接着部材5を塗布し、両端の光ファイバ素線3a、3dは、隣り合う光ファイバ素線と接着される側にのみ接着部材5を塗布してもよい。
【0063】
図6(a)は、図5(a)のJ部拡大図である。前述の通り、接着部材供給ロール25は、塗布ロール13cの接着部材保持部23とのみ接触する。接着部材供給ロール25の外周面には、所定量の接着部材が常に供給される(図中矢印H方向)。このため、接着部材供給ロール25は、接着部材保持部23と接触しながら回転し、自らの外周面に付着した接着部材を接着部材保持部23に転写する。
【0064】
ここで、塗布ロール13b、13c、13dには、このような接着部材供給ロール25(接着部材供給部15)が設けられ、それぞれ接着部材が供給されるが、一番端部の光ファイバ素線3aに対応する塗布ロール13aには、接着部材供給ロール25(接着部材供給部15)が設けられない。したがって、塗布ロール13aには、接着部材保持部23は形成されるが、接着部材自体は供給されず、ダミーの接着部材の塗布ロールとなる。
【0065】
図6(b)は、図5(a)のK部拡大図である。前述の通り、塗布ロール13cは、光ファイバ素線3cと接触し、光ファイバ素線3cの移動によって回転する(図中矢印F方向)。この際、所定の張力が付与された光ファイバ素線3cの側面は、塗布ロール13cの外周面に押し付けられた状態となるが、接着部材保持部23の位置の外径が他の位置の外径よりも大きいため、光ファイバ素線3cと塗布ロール13cの接触面には、接着部材保持部23と他の部位との境界部に段差29が形成される。
【0066】
したがって、塗布ロール13cの外周に接する光ファイバ素線3cは、定期的に段差29を乗り越える。このため、光ファイバ素線3cの進行方向に対して、定期的な脈動が生じる。
【0067】
このような脈動の発生が各ファイバ素線に対してバラバラに生じると、後方の整列部19および紫外線照射部21において、各ファイバ素線同士の間に微小なずれを生じる恐れがある。
【0068】
これに対し、本発明では、本来不要である最端部の光ファイバ素線3aに対しても、ダミーの塗布ロール13aを接触させる。このため、接着部材の不要な光ファイバ素線3aに対しても、塗布ロール13aによる脈動を与えることができる。
【0069】
また、隣り合うそれぞれの塗布ロール13a、13b、13c、13dと整列部19との距離の差が塗布ピッチP×(n+0.5)(nは整数)となるように設定される。このため、長手方向に千鳥状に半ピッチずらして接着部を形成したとしても、それぞれの塗布ロール位置が半ピッチずれているため、各ファイバ素線に生じる脈動のタイミングを合わせることができる。
【0070】
以上、本発明によれば、光ファイバ素線によって塗布ロールを回転させるため、光ファイバ素線の線速との同期を取るのが容易であり、高速の線速にも対応が可能である。また、塗布ロールは、光ファイバ素線の側面に接着部材を塗布するため、隣り合う光ファイバ素線の上下で接着することができる。
【0071】
また、ガイドロールを設けることで、塗布ロールと光ファイバ素線との接触面積を十分に取ることができる。このため、光ファイバ素線が塗布ロールに対して滑ることがない。
【0072】
また、整列される一方の端部の光ファイバ素線には、接着部材を塗布する必要がないが、接触する前記塗布ロールをダミーの塗布ロールとするため、全てのファイバ素線に対して、同一の脈動を与えることができる。このため、脈動の有無によるずれの恐れがない。
【0073】
また、隣り合う光ファイバ素線同士の塗布ロールから整列部までの距離を、P×(n+0.5)とすることで、光ファイバ素線同士の接着部を千鳥状に配置できるとともに、前述した脈動の発生のタイミングを揃えることができる。
【0074】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0075】
1………光ファイバテープ心線
3a、3b、3c、3d………光ファイバ素線
5………接着部材
10………光ファイバテープ心線製造装置
11a、11b、11c、11d………供給部
13a、13b、13c、13d………塗布ロール
15………接着部材供給部
17………ガイドロール
19………整列部
21………紫外線照射部
23………接着部材保持部
25………接着部材供給ロール
29………段差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の光ファイバ素線を長手方向に間欠的に接着する光ファイバテープ心線の製造方法であって、
外周の一部に接着部材を保持可能な接着部材保持部を有し、接着部材を間欠的に塗布可能な複数の塗布ロールと、
複数の光ファイバ素線を集合させて並列する整列部と、
を有する光ファイバテープ心線製造装置を用い、
複数の光ファイバ素線を、それぞれの塗布ロールに接触させて、少なくとも前記光ファイバ素線の側面に接着部材を間欠的に塗布し、
前記整列部で、側面に接着部材が塗布された前記光ファイバ素線の側面同士が接触するように整列し、
前記接着部材で前記光ファイバ素線同士を接着することを特徴とする光ファイバテープ心線の製造方法。
【請求項2】
前記塗布ロールは、前記接着部材保持部の外径が、接着部材保持部以外の部位の外径よりも大きく、
整列される一方の端部の前記光ファイバ素線に接触する前記塗布ロールは、ダミーの塗布ロールであり、一方の端部の前記光ファイバ素線には接着部材を塗布しないことを特徴とする請求項1記載の光ファイバテープ心線の製造方法。
【請求項3】
光ファイバ素線の長手方向の接着部材の塗布間隔をP、任意の光ファイバ素線に対して接触する前記塗布ロールと前記整列部までの距離をL1、当該光ファイバ素線と隣り合う光ファイバ素線に対して接触する前記塗布ロールと前記整列部までの距離をL2、nを整数とすると、
L1とL2との差が、P×(n+0.5)であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光ファイバテープ心線の製造方法。
【請求項4】
前記接着部材は紫外線硬化樹脂であり、前記整列部で前記光ファイバ素線を整列させた後、紫外線を照射して前記接着部材を硬化させることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の光ファイバテープ心線の製造方法。
【請求項5】
前記光ファイバ素線が、前記塗布ロールの外周の所定の周長に接触可能なように、前記塗布ロールの前後にガイドロールが設けられることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の光ファイバテープ心線の製造方法。
【請求項6】
前記接着部材の粘度が0.001Pa・sから10Pa・sであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の光ファイバテープ心線の製造方法。
【請求項7】
複数の光ファイバ素線を長手方向に間欠的に接着する光ファイバテープの製造装置であって、
外周の一部に接着部材を保持可能な接着部材保持部を有し、接着部材を間欠的に塗布可能な複数の塗布ロールと、
複数の光ファイバ素線を集合させて並列する整列部と、
を具備し、
前記塗布ロールは、前記接着部材保持部の外径が、接着部材保持部以外の部位の外径よりも大きく、
整列される一方の端部の光ファイバ素線に接触する塗布ロールは、接着部材を塗布しないダミー塗布ロールであり、
前記ダミー塗布ロール以外の前記塗布ロールは、接触する光ファイバ素線の少なくとも側面に接着部材を間欠的に塗布することが可能であり、
光ファイバ素線の長手方向の接着部材の塗布間隔をP、任意の光ファイバ素線に対して接触する前記塗布ロールと前記整列部までの距離をL1、当該光ファイバ素線と隣り合う光ファイバ素線に対して接触する前記塗布ロールと前記整列部までの距離をL2、nを整数とすると、
L1とL2との差が、P×(n+0.5)であることを特徴とする光ファイバテープ心線の製造装置。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の光ファイバテープ心線の製造方法で製造された光ファイバテープ心線であって、隣り合う光ファイバ素線同士の接着部が千鳥状に形成され、前記接着部において、光ファイバテープ心線の上面側および下面側の両側に接着部材が設けられることを特徴とする光ファイバテープ心線。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−3516(P2013−3516A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137438(P2011−137438)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】