説明

光ファイバドロップケーブル

【課題】光ファイバの接続を必要とせずに心線対照や障害点検出機能を有し、かつ通線性を有するインドアケーブルに変更可能とするドロップケーブル。
【解決手段】1本以上の光ファイバ3と、光ファイバ3の長手方向に直交した2方向のうちの一方向に平行で、かつ光ファイバ3の中心を通る直線上の光ファイバ3の両側に配置した一対の抗張力体5と、光ファイバ3と一対の抗張力体5との外周上を一体的に被覆した摩擦係数が0.10〜0.40で、デュロメータ硬度(HDD)が55〜70の非黒色の樹脂からなる内層外被7と、からなる内層ケーブル11と、内層外被7の外周上を被覆した摩擦係数が0.40〜2.00で、デュロメータ硬度(HDD)が36〜53である樹脂からなる外層外被13と、内層、外層外被7、13が融着しておらず分離可能であり、内層ケーブル11がインドアケーブルとして機能する2層構造である。また、内層、外層外被7、13の各表面にノッチが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光ファイバドロップケーブルに関し、特に1本以上の例えば光ファイバ心線などからなる光ファイバを小規模ビル或いは一般家庭に引き込む際の電柱間に架設する少心架空光ファイバケーブルと、小規模ビル或いは一般家庭に引き込みためのインドアケーブルとを兼ね備えた光ファイバドロップケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、FTTH(Fiber to the Home)すなわち、家庭またはオフィスでも超高速データ等の高速広帯域情報を送受できるようにするために、電話局から延線されたアクセス系の光ファイバケーブルから、ビルあるいは一般住宅などの加入者宅へ例えば光ファイバ心線などからなる光ファイバが引き落とされて、これを配線するために光ファイバドロップケーブルが用いられている。つまり、光ファイバドロップケーブルは電柱上の幹線ケーブルの分岐クロージャから家庭内へ光ファイバを引き込む際に用いられ、主に、光ファイバドロップケーブル(屋外線)や、より長い布設径間長に適用するために支持線サイズをUPした少心光架空ケーブルが使用されている。このケーブルは、支持線部とケーブル本体祁が首部を介して繋がっている自己支持構造である。
【0003】
また、加入者宅内、ビル或いはマンション等の構内に用いられる光ファイバケーブルは、支持線部分が付かずケーブル本体部のみの構造が用いられている。外被には、ノンハロゲン難燃外被を被覆している。
【0004】
図7を参照するに、従来の光ファイバドロップケーブル101としては、例えば光ファイバ心線などからなる光ファイバ103と、この光ファイバ103の長手方向(図7において紙面に対して直交する方向)に直交した2方向のうちの一方向に平行で、かつ前記光ファイバ103の中心を通る直線上の前記光ファイバ103の両側に前記光ファイバ103の長手方向と同方向へ延伸して配置した例えばアラミド繊維FRPなどからなる一対の抗張力体105と、前記光ファイバ103と一対の抗張力体105との外周上を被覆した例えば断面形状が矩形形状で低摩擦性、耐磨耗性を有する高強度の樹脂からなる外被107と、からなる長尺の光エレメント部109を構成している。
【0005】
この光エレメント部109において、前記光ファイバ103の上、下の前記外被107の表面にはノッチ部111が形成されている。
【0006】
前記長尺の光エレメント部109と、この光エレメント部109における前記外技107の図7において左側に首部113を介して例えば鋼線などからなる支持線115を被覆した樹脂からなる外被117で一体化された支持線部119と、で長尺の光ファイバドロップケーブル101が構成されている。
【0007】
前記外被107が低摩擦性、耐磨耗性を有する高強度の樹脂からなっていることにより、産卵管が外被107に刺さらないように対策を講じたものである。
【0008】
また、従来の光ファイバケーブルとしては、特許文献1〜特許文献3に示されるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4040633号公報
【特許文献2】特開2004−205979号公報
【特許文献3】特開2004−272069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
現在では、クロージャから引き落とされた光ファイバドロップケーブル101(以下、単に「ドロップケーブル」という)は、そのまま直接エアコンダクトなどを通して宅内まで引き込まれる。その後、光ファイバインドアケーブル(以下、単に「インドアケーブル」という)と接続されるか、もしくは家の壁等に設置されたキャビネットでインドアケーブルと接続され、同様にONU(終端装置)まで引き込まれる。
【0011】
なお、インドアケーブルが単体である場合は、外被材の耐候性や耐寒性がドロップケーブル101の外被107と比較して劣ることから屋外配線はできない。したがって、この際にはドロップケーブル101からインドアケーブルヘの接続が必須となり、この接続箇所で接続損失が発生する。また、接続のためのコネクタ取り付けが必要となる。そのためにコネクタ付けに作業時間が必要となる。
【0012】
また、ドロップケーブル101は、耐候性を付与するためにカーボンブラックが外被107の樹脂中に配合されるために黒色であるので、敷設時の景観が損なわれる。また、外被107が黒色であるために光が吸収されるので、インドアケーブルのようにIDテスタによる心線対照ができない。
【0013】
さらに、近年、クマゼミによるドロップケーブル101ヘの産卵による光ファイバ断線被害が多発しており、既存の構造および樹脂であると被害を抑えることができないことが確認されている。また、そのセミ対策として外被107の材料に高硬度の樹脂を被覆する方法が検討されているものの、コネクタ付けの際に高硬度樹脂がコネクタ部材に食い込まなくなり、コネクタからの引抜力を確保できなくなる問題がある。
【0014】
さらに、エアコンダクトのみならず、加入者宅内、ビル或いはマンション等の構内に用いられる光ファイバケ−ブルは合成樹脂可とう管など電線用配管内に通線されることが多い。しかし、これらの管内には既設のメタルケーブル並びに光ケーブルが多く導入され、これらが電線用配管内をほぼ占有している状態で追加敷設が困難な状況である。このような状況で追加敷設を行うためには、外被が低摩擦なケーブルであることが有効となる。ただし、ケーブルの外被の材料が低摩擦となると、ドロップ・インドアのように束巻き形状で出荷して使用されるケーブルにおいて束の巻き崩れが発生する。
【0015】
特許文献1では、単心光ファイバ心線と、この単心光ファイバ心線の両側に間隔をおいて並行配置された第1、第2の抗張力体と、これらを一括被覆する外被とを備えた光ケーブルであり、前記外被は非黒色樹脂からなる内側被覆と該内側被覆から剥離可能な黒色樹脂からなる外側被覆の2層構造である。しかし、内側被覆と外側被覆の2層間の密着力の記載がない。つまり、前記2層間の密着力が高いと内部のケーブル(内側被覆)が取り出せないという問題が生じる。また、この密着規定がないことはコネクタ把持特性に不具合が生じる可能性がある。
【0016】
また、内側被覆及び外側被覆の摩擦係数が記載されておらず、通線性や束巻き性を考慮していない。また、内側被覆及び外側被覆の硬度が記載されていないので、耐クマゼミ特性については積極的に考慮されていない。
【0017】
また、外側被覆に設けたノッチが前記単心光ファイバ心線と第1、第2の抗張力体とほぼ直線になるように配置され、ノッチ位置が通常品と異なるため、デタッチャ等の汎用の工具を用いた引裂きができない。
【0018】
特許文献2では、外被が特許文献1とほぼ同様の2層構造となっているが、内層と外層を分離する記載が無く、2層間の密着力の記載がない。つまり、前記2層間の密着力が高いと内部のケーブル(内側被覆)が取り出せないという問題が生じる。また、この密着規定がないことはコネクタ把持特性に不具合が生じる可能性がある。
【0019】
また、内層及び外層の摩擦係数が記載されておらず、通線性や束巻き性を考慮していない。また、内層及び外層の硬度が記載されていないので、耐クマゼミ特性については積極的に考慮されていない。また、心線対照や景観や束巻き特性については考慮されていない。
【0020】
特許文献3では、図7と同様の1層構造であり、耐候性を確保するためにカーボンブラックの配合が必要であることから、外被色が黒色であるためIDテスタによる心線対照や障害点検出ができない。また、外被が低摩擦係数であるので通線性は良好であるが、記載されている摩擦係数では束崩れが生じるので、束巻き特性は良好ではない。また、外被が低摩擦係数であるので、外被把持時にすべりが生じるためにコネクタ把持特性に不具合が生じる。また、ドロップケーブルを単純に細径化すると、既存クロージャ、キャビネット、コネクタとの整合が取れなくなる。
【0021】
この発明は、耐候性・耐寒性、耐セミ性を備えた屋外のドロップケーブルで、かつ光ファイバの接続を必要とせずに心線対照や障害点検出機能を有し、かつ通線性を有するインドアケーブルに変更可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記の課題を解決するために、この発明の光ファイバドロップケーブルは、中心部に配置した1本以上の光ファイバと、
この光ファイバの長手方向に直交した2方向のうちの一方向に平行で、かつ前記光ファイバの中心を通る直線上の前記光ファイバの両側に前記光ファイバの長手方向と同方向へ延伸して配置した一対の抗張力体と、
前記光ファイバと一対の抗張力体との外周上を一体的に被覆した摩擦係数が0.10以上で、かつ0.40以下であり、デュロメータ硬度(HDD)が55以上で、かつ70未満の非黒色の樹脂からなる内層外被と、
前記2方向のうちの他方向に平行で、かつ前記光ファイバの中心を通る直線の前記内層外被の上、下の表面に形成された内層外被用ノッチ部と、から構成する長尺の内層ケーブルと、
この内層ケーブルの前記内層外被の外周上を被覆した摩擦係数が0.40以上で、かつ2.00以下であり、デュロメータ硬度(HDD)が36〜53である樹脂からなる外層外被と、
前記2方向のうちの他方向に平行で、かつ前記光ファイバの中心を通る直線の前記外層外被の上、下の表面に形成された外層外被用ノッチ部と、
前記内層外被と外層外被が融着しておらず分離可能であり、前記内層ケーブルがインドアケーブルとして機能する2層構造を構成する光エレメント部と、
この光エレメント部の前記外層外被に、支持線を外被で被覆した長尺の支持線部が互いに平行に一体化されていることを特徴とするものである。
【0023】
また、この発明の光ファイバドロップケーブルは、前記光ファイバドロップケーブルにおいて、前記内層外被用ノッチ部と前記外層外被用ノッチ部がほぼ光ファイバを通る線上に一列に並ぶことが好ましい。
【0024】
また、この発明の光ファイバドロップケーブルは、前記光ファイバドロップケーブルにおいて、前記外層外被から前記内層ケーブルを引き抜く引抜力が、30N/20mm以上で、かつ500N/20mm以下であることが好ましい。
【0025】
また、この発明の光ファイバドロップケーブルは、前記光ファイバドロップケーブルにおいて、前記内層外被はポリオレフィン系樹脂からなり、前記外層外被はポリオレフィン系樹脂又はポリウレタン樹脂からなることが好ましい。
【0026】
また、この発明の光ファイバドロップケーブルは、前記光ファイバドロップケーブルにおいて、前記外層外被は、JIS K7216に準じた脆化試験においてF(0)が−30°C以下の耐寒性を持つ樹脂からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
以上のごとき課題を解決するための手段から理解されるように、この発明によれば、外層外被と内層外被を融着しない分離可能な2層構造としたので、外層外被を引裂いて内層ケーブルのみをインドアケーブルとして宅内へ引き込むことができる。その結果、インドアケーブルとの接続の必要がなくなるため、コネクタ付けの作業がなくなる。また、光ファイバ同士の接続部が減るので接続損の発生箇所を減らすことができる。
【0028】
また、非黒色の内層外被を備えた内層ケーブルのみを取り出せるので、内層ケーブルの心線対照ができ、障害点確認もできる。
【0029】
デュロメータ硬度(HDD)55〜70の高強度の内層外被で光ファイバを保護するので、クマゼミによる断線被害を回避することができる。耐セミ性を有した信頼性の高いケーブルとなる。
【0030】
また、低摩擦・耐磨耗特性を有する内層ケーブルを実装し、かつ、この内層ケーブルを容易に取り出せるので、細径、低摩擦により配管内への通線性が向上する。これにより、作業性が優れ、作業時間の短縮を図ることができる。また、耐摩耗性であるので他のケーブルによる磨耗の影響を低減することができる。
【0031】
また、外層外被の摩擦係数が0.4以上であるので、束巻き状態での運用ができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の実施の形態の光ファイバドロップケーブルの断面図である。
【図2】図1のケーブルの配線状態を示す概略説明図である。
【図3】図1のケーブルの光エレメント部の口出し作業を示す概略説明図である。
【図4】図3において内層ケーブルを口出しした光ファイバドロップケーブルの平面図である。
【図5】外層外被から内層ケーブルを引き抜く引抜力を測定する概略説明図である。
【図6】ケーブルの束巻きの状態を示す斜視図である。
【図7】従来の光ファイバドロップケーブルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0034】
図1を参照するに、光ファイバドロップケーブル1としては、中心部に配置した1本以上の例えば光ファイバ心線などからなる光ファイバ3と、この光ファイバ3の長手方向(図1において紙面に対して直交する方向)に直交した2方向のうちの一方向(図1において左右方向)に平行で、かつ前記光ファイバ3の中心を通る直線(X軸)上の光ファイバ3の両側に前記光ファイバ3の長手方向と同方向へ延伸して配置した例えばアラミド繊維FRPなどからなる一対の抗張力体5と、前記光ファイバ3と一対の抗張力体5との外周上一体的に被覆した内層外被7と、前記2方向のうちの他方向に平行で、かつ前記光ファイバ3の中心を通る直線(Y軸)の前記内層外被7の上、下の表面に形成された内層外被用ノッチ部9と、からなる長尺の内層ケーブル11が構成されている。
【0035】
なお、前記内層外被7は、JIS K7125に準じた摩擦係数が0.10以上で、かつ0.40以下であり、デュロメータ硬度(HDD)が55以上で、かつ70未満の非黒色の樹脂から構成されている。前記内層外被7の樹脂には、例えば、低摩擦・難燃性耐磨耗特性を有するポリオレフィン系樹脂が使用される。
【0036】
さらに加えて、上記の内層ケーブル11の内層外被7の外周上を被覆した外層外被13と、前記2方向のうちの他方向(図1において上下方向)に平行で、かつ前記光ファイバ3の中心を通る直線の前記外層外被13の上、下の表面に形成された外層外被用ノッチ部15と、前記内層外被7と外層外被13が融着しておらず分離可能であり、前記内層ケーブル11がインドアケーブルとして機能する2層構造からなる光エレメント部17を構成している。
【0037】
なお、上記の外層外被13は、JIS K7125に準じた摩擦係数が0.40以上で、かつ2.00以下であり、デュロメータ硬度(HDD)が36〜53で、かつJIS K7216に準じた脆化試験においてF(0)が−30°C以下の耐寒性を持つ樹脂から構成されている。上記の−30°C以下とは、寒冷地での使用を考慮したものである。
【0038】
また、外層外被13の樹脂には、例えば、耐寒性・耐候性を有するポリオレフィン系樹脂が使用される。しかし、このポリオレフィン系樹脂のみならず、ポリウレタン系樹脂の被覆も可能である。なお、外層外被13と内層外被7が融着しないという観点では、内層外被7のポリオレフィン樹脂と相溶しにくいポリウレタン系樹脂を外層外被13に用いることが好ましい。
【0039】
また、上記の外層外被13から分離された長尺の内層ケーブル11の単体は、メタルケーブルや同ケーブルを損傷させない耐磨耗性を有し、さらに単体でJIS C3005の傾斜燃焼試験をクリアするものである。
【0040】
さらに加えて、前記外層外被13には、首部19を介して例えば鋼線などからなる支持線21を外被23で被覆した長尺の支持線部25が互いに平行に一体化されている。なお、この実施の形態では前記外被23は前記外層外被13の材料と同じものが使用されている。
【0041】
なお、前述したように、内層外被7と外層外被13はその長手方向に融着が無いものであり、外層外被13から内層ケーブル11を引き抜く引抜力は、30N/20mm以上で、かつ500N/20mm以下である。
【0042】
さらに、前記内層外被用ノッチ部9と外層外被用ノッチ部15がほぼ光ファイバ3を通るY軸の線上に一列に並ぶことが望ましい。これにより、前記内層外被用ノッチ部9と外層外被用ノッチ部15から2層を一括、もしくは外層外被13のみのどちらでも引き裂くことができ、光ファイバ3もしくはインドアケーブルとしての内層ケーブル11を取り出すことができる。また、内層ケーブル11の内層外被7は、非黒色の樹脂から構成されているので、IDテスタによる心線対照が可能である。
【0043】
なお、この実施の形態では、内層外被用ノッチ部9の下の光ファイバ3までの内層外被7の厚さは0.3mmとしている。
【0044】
上記構成により、光ファイバドロップケーブル1は、図2に示されているように端部の首部19を一部切り裂いて外層外被13と支持線部25とが分離され、この分離された一方の支持線部25の端部25Aが電柱27の屋外線引き留め具29に固定され、他方の端部25Bが家屋の一部に引き留め具29を介して固定される。
【0045】
そして、前記エレメント部17(内層ケーブル11及び外層外被13)の一方の端部17Aは切り裂かれて内層ケーブル11の内部から光ファイバ3を取り出し、この光ファイバ3が電柱27上の分岐クロージャ31に接続される。この分岐クロージャ31では、電柱27上のアクセス系の光ファイバケーブル33から分岐された図示しない光ファイバと上記のエレメント部17の端部17Aから取り出された光ファイバ3が接続される。
【0046】
一方、前記エレメント部17の他方の端部17Bの側は、図3に示されているように、デタッチャなどの工具35A、35Bで外層外被用ノッチ部15から外層外被13を図3の左右方向に引き裂くと、図4に示されているように、前記外層外被13が内層外被7(内層ケーブル11)から分離して引き裂かれることになる。そのまま、外層外被13を引き裂いて内層ケーブル11が露出し、引き裂かれた外層外被13が除去される。なお、図4において、IDテスタTにより心線対照が行われる。
【0047】
その結果、図2に示されているように、内層ケーブル11がインドアケーブルとなって屋内に配線される。その後、その内層ケーブル11(インドアケーブル)の端部は内層外被7が内層外被用ノッチ部9から切り裂かれ、内層外被7の内部から光ファイバ3が取り出され、この光ファイバ3が屋内のOE変換器又は終端装置37(ONU)に接続される。
【0048】
次に、この実施の形態の光ファイバドロップケーブル1の効果性を示すために、内層外被7及び外層外被13のそれぞれの樹脂のデュロメータ硬度(HDD)(デュロメータ硬度JIS K7215)を変えて試験ケーブルを作製し、各試験ケーブルの耐セミ特性、コネクタ把持特性、デタッチャの口出し性について評価を実施したところ、表1のようになった。
【0049】
なお、耐セミ特性とは、西日本に表1のデュロメータ硬度(HDD)の組み合わせの試験ケーブルを100m敷設し、セミの産卵被害箇所の深さが0.2mm以下である場合を○とし、0.2mmより深い場合を×とした。
【0050】
また、コネクタ把持特性とは、試験ケーブルの端末にコネクタを取り付け、そのコネクタ先端部に1kgの荷重を1分間、加えた際のコネクタの脱落の有無を調査した。その脱落が生じない場合を○とし、前記脱落が生じた場合を×とした。
【0051】
また、口出し性とは、ケーブル端末部並びに中間部をデタッチャ等の工具35A、35Bで引裂き、外層外被13のみを引き裂いて内層ケーブル11が取り出せること、かつ、内層外被7と外層外被13を一括で引裂き、もしくは外層外被13を引き裂いた後に内層ケーブル11を引き裂いて内部の光ファイバ3を取り出せる場合を○とし、内層ケーブル11や光ファイバ3を取り出せない場合を×とした。
【表1】

【0052】
評価の結果、表1から分かるように、内層外被7のデュロメータ硬度(HDD)が53以下である場合は、耐セミ特性が×となる。また、外層外被13のデュロメータ硬度(HDD)が55以上である場合は、コネクタ把持特性が×となる。また、口出し性についてはすべて良好(○)であり、従来の特許文献と異なる結果であった。これは、内層外被7と外層外被13との密着性が起因している。
【0053】
次に、この実施の形態の光ファイバドロップケーブル1の内層外被7と外層外被13との密着性について評価したところ、表2に示す通りとなった。
【0054】
なお、その評価方法としては、図5に示されているように、一方のチャック39Aでドロップケーブル1の支持線部25を固定し、外層外被13から口出しした内層ケーブル11を他方のチャック39Bで把持して引き抜いて、その引抜力を測定する方法により密着性の評価を実施した。また、引き抜いた内層ケーブル11と外層外被13の融着の有無を目視で確認した。なお、密着性の変化は押出成形時のダイスからのニップルバック量(スペーシング量)により調整を行った。
【0055】
また、コネクタ屈曲特性についても調査した。このコネクタ屈曲特性は、試験ケーブルの先端に外被把持コネクタを取り付け、500gの荷重を印加し、±90°×10cycの屈曲試験を実施した際の損失変動を測定した。試験前後の損失変動が0.2dB以下を○とし、0.2dBより大きい場合を×とした。
【表2】

【0056】
評価の結果、表2から分かるように、ニップルバック量(スペーシング量)を大きくとって密着力をあげて500N/20mmを超えると、内層外被7と外層外被13に融着の発生が確認された。また、密着力を下げて30N/20mm未満とすると、コネクタ取り付け後の屈曲試験において試験ケ−ブルを曲げたときに内層ケーブル11が引き込まれ、0.2dB以上の損失変動が発生することが確認された。
【0057】
次に、この実施の形態の光ファイバドロップケーブル1の外層外被13の摩擦係数が与える影響について評価したところ、表3に示す通りとなった。
【0058】
なお、その評価方法としては、外層外被13の摩擦係数を測定し、束巻き特性について評価を実施した。その理由は、外層外被13の摩擦係数が低いと、ケーブルの束崩れが発生しやすく、また、製造時の巻き不良も増加する。一方、摩擦係数が高くてケーブル同士が滑らないと、束取りができない。
【0059】
このとき、外層外被13の摩擦係数の測定は、プレス成型した外層外被材シートを用い、JIS K7125に準拠して行った。また、束巻き特性としては、ケーブル製造時の巻き不良の発生頻度が3%/ロット以上である場合、もしくは図6に示されているように束巻き製品41をストレッチフィルム43で3箇所固定してダンボールに入れ、そのダンボールをトラックに積載し、300kmを往復後に巻き崩れが発生した場合を×とした。
【表3】

【0060】
評価の結果、表3から分かるように、束巻き特性を良好にするためには、外層外被13の摩擦係数は0.4以上である必要が確認された。さらに、外層摩擦係数が0.3以下であると、束巻き以外にも、外被把持コネクタを取り付けた後の耐引張特性が劣化することが確認されている。一方、外層外被13の摩擦係数が2.0を超えると、ケーブル同士が程良く滑らないために束取りができない。
【0061】
次に、この実施の形態の光ファイバドロップケーブル1の内層外被7の摩擦係数が与える影響について評価したところ、表4に示す通りとなった。なお、その評価方法としては、内層外被7の摩擦係数を測定し、エアダクトへの通線について評価を実施した。
【0062】
このとき、内層外被7の摩擦係数の測定は、プレス成型した内層外被材シートを用い、JIS K7125に準拠して行った。また、エアコンダクトへの通線性としては、長さ3mで、90°の曲率半径R60mmの直角曲がり2箇所のエアコンダクトを用い、内層ケーブル11の引き込みを行った。なお、エアコンダクト内にはPVCを被覆したφ10mmのメタルケーブル5本を残置状態で試験ケーブルの引き込みを実施した。
【0063】
引き込み荷重の平均値が500gf以下を○とし、500gfより大きい場合を×とした。△は500gf以下であるが、通線時に若干の引っかかりを感じた場合とした。
【表4】

【0064】
評価の結果、表4から分かるように、摩擦係数が0.4以下であると500gf以下の通線性となることが確認された。一方、摩擦係数が0.1未満である場合は、内層外被7の材料に相当量の滑材の添加が必要であり、その添加によるブリードアウトによって周辺を汚してしまうので良くない。
【0065】
以上のことに基づいて、この実施の形態の光ファイバドロップケーブル1の良好な特性についてまとめると、表5に示す通りである。
【0066】
なお、伝送損失としては、500m長のケーブルを用い、OTDRにより伝送損失を測定した。磨耗性としては、内層ケーブル11の単体を用い、JIS C6851に規定する光ファイバ3のマーキングの耐摩耗性の項目において、鋼針部にPVCメタルケーブルを取り付け、内層ケーブル11と摩耗を行った(荷重3kg、250cycの往復を実施した)。メタルケーブルからの銅線の露出、もしくは内層ケーブル11の抗張力体の露出がない場合を良とした。
【0067】
耐クマゼミ性としては、10mの試験ケーブルを西日本の50箇所に6月〜10月の間に敷設し、試験ケーブルを撤去後に目視し、並びにOTDRを用いて断線の有無を確認した。
【0068】
耐寒性としては、外層外被13材並びに内層外被7材の各々についてJIS C3005の耐寒性試験を実施し、各温度で亀裂発生の有無を確認した。
【表5】

【0069】
表5から分かるように、この実施の形態の光ファイバドロップケーブル1は、ケーブル本体(ドロップケーブル1の全体)と内層ケーブル11(インドアケーブル)における伝送損失、難燃性、摩耗性、デタッチャ口出し性、耐クマゼミ特性、耐寒性が、表5に示されているように良好な結果を示している。
【0070】
以上のことから、この実施の形態の光ファイバドロップケーブル1は下記の効果を奏する。
【0071】
(1)外層外被13と内層外被7を融着しない分離可能な2層構造とし、外層外被13を引裂き、内層ケーブル11のみをインドアケーブルとして宅内へ引き込むので、従来のドロップケーブルのようにインドアケーブルとの接続の必要がなくなるため、コネクタ付けの作業がなくなる。また、光ファイバ3同士の接続部が1箇所減ることから接続損の発生箇所が減る。
【0072】
(2)非黒色の内層外被7を備えた内層ケーブル11を実装し、かつ内層ケーブル11のみを取り出せるので、その内層ケーブル11をデタッチャ等の工具で露出させることで、図4の点線で囲んだ箇所で示した内層ケーブル11のIDテスタによる心線対照が可能である。これにより、心線対照のみならず障害点確認も可能となる。
【0073】
(3)デュロメータ硬度(HDD)55〜70の高強度の内層外被7で光ファイバ3を保護するので、クマゼミによる断線被害を回避可能となる。
【0074】
(4)低摩擦・耐磨耗特性を有する内層ケーブル11を実装し、かつ、この内層ケーブル11を容易に取り出せるので、細径、低摩擦により配管内への通線性が向上する。また、耐摩耗性であるので他のケーブルによる磨耗の影響を低減することができる。
【0075】
(5)外層外被13の摩擦係数を0.4以上とするので、束巻き状態での運用が可能となる。
【符号の説明】
【0076】
1 光ファイバドロップケーブル
3 光ファイバ
5 抗張力体
7 内層外被
9 内層外被用ノッチ部
11 内層ケーブル
13 外層外被
15 外層外被用ノッチ部
17 光エレメント部
17A、17B 端部
19 首部
21 支持線
23 外被
25 支持線部
25A、25B 端部
27 電柱
29 屋外線引き留め具
31 分岐クロージャ
33 アクセス系の光ファイバケーブル
35A、35B 工具
37 終端装置(ONU)
39A、39B チャック
41 束巻き製品
43 ストレッチフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心部に配置した1本以上の光ファイバと、
この光ファイバの長手方向に直交した2方向のうちの一方向に平行で、かつ前記光ファイバの中心を通る直線上の前記光ファイバの両側に前記光ファイバの長手方向と同方向へ延伸して配置した一対の抗張力体と、
前記光ファイバと一対の抗張力体との外周上を一体的に被覆した摩擦係数が0.10以上で、かつ0.40以下であり、デュロメータ硬度(HDD)が55以上で、かつ70未満の非黒色の樹脂からなる内層外被と、
前記2方向のうちの他方向に平行で、かつ前記光ファイバの中心を通る直線の前記内層外被の上、下の表面に形成された内層外被用ノッチ部と、から構成する長尺の内層ケーブルと、
この内層ケーブルの前記内層外被の外周上を被覆した摩擦係数が0.40以上で、かつ2.00以下であり、デュロメータ硬度(HDD)が36〜53である樹脂からなる外層外被と、
前記2方向のうちの他方向に平行で、かつ前記光ファイバの中心を通る直線の前記外層外被の上、下の表面に形成された外層外被用ノッチ部と、
前記内層外被と外層外被が融着しておらず分離可能であり、前記内層ケーブルがインドアケーブルとして機能する2層構造を構成する光エレメント部と、
この光エレメント部の前記外層外被に、支持線を外被で被覆した長尺の支持線部が互いに平行に一体化されていることを特徴とする光ファイバドロップケーブル。
【請求項2】
前記内層外被用ノッチ部と前記外層外被用ノッチ部がほぼ光ファイバを通る線上に一列に並ぶことを特徴とする請求項1記載の光ファイバドロップケーブル。
【請求項3】
前記外層外被から前記内層ケーブルを引き抜く引抜力が、30N/20mm以上で、かつ500N/20mm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の光ファイバドロップケーブル。
【請求項4】
前記内層外被はポリオレフィン系樹脂からなり、前記外層外被はポリオレフィン系樹脂又はポリウレタン樹脂からなることを特徴とする請求項1、2又は3記載の光ファイバドロップケーブル。
【請求項5】
前記外層外被は、JIS K7216に準じた脆化試験においてF(0)が−30°C以下の耐寒性を持つ樹脂からなることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の光ファイバドロップケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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