説明

光ファイバ・ジャイロスコープにおける変調歪みによる回転検知エラーを抑制するための最適変調振幅の判定方法

【課題】回転検知のために行われる変調による歪みを低減する。
【解決手段】共振型光ファイバ・ジャイロスコープ200は、時計回り(CW)及び反時計回り(CCW)系統それぞれに、エラー制御回路210、220を備え、これらエラー制御回路のAMSHG部は、CW及びCCW変調生成器20、30によって生成された共振追尾変調信号の第2高調波での変調信号と共振追尾変調と調和関係にない周波数で変調された振幅を出力する。これらの出力信号は、CW及びCCW変調生成器20、30で生成された信号と共に、MC部の利得素子によって増幅され、かつCW及びCCW光検出器18、28からの信号と器26、36によって加算される。これら加算機の出力により、CW及びCCWレーザ周波数制御部38、40が制御され、これにより歪みを低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ・ジャイロスコープにおける変調歪みによる回転検知エラーを抑制するための最適変調振幅の判定に関する。
【背景技術】
【0002】
共振型光ファイバ・ジャイロスコープ(RFOG)は、高性能でありながら小型で低コストであるため、ジャイロ及び慣性航法の多くの市場におけるニーズを満たす潜在性を有している。図1は従来型のRFOG10を示しており、時計回り(右回り:CW)のレーザ12、反時計回り(左回り:CCW)のレーザ14、光ファイバ共振器16、及び少なくとも共振結合及び共振追尾(又は共振検出)の機能を提供する電子回路(「電子装置」)を備える。CWレーザ12から共振器16に光を入射すると、CW光検出器18により共振器16のCW出力が検出される。
【0003】
CW光検出器18の下流にある電子装置には、CW変調生成器20、CW復調器22、CW積分器24、及び加算器26が含まれており、該電子装置は、CWレーザ周波数を共振器16の共振周波数に制御する。共振周波数は、CW変調生成器20を用いてfでレーザ周波数を変調し、次にCW復調器22を用いてfでCW光検出器18の出力を復調することによって検出される。共振周波数では、CW光検出器18のf信号は、ゼロ振幅を通過する。CW積分器24は、CWレーザ・ドライバ38を介したレーザ周波数を、CW復調器22の出力がゼロになるまで調節することによって、共振周波数に制御する。fにおける変調は、加算器26によって、CW積分器24の出力と電子的に加算される。CCWレーザ14も同様の様式でCCW共振周波数に制御される。ただし、共振器16における伝播の特定方向からの光が不測にも別の方向の光に結合してしまう場合に生じるエラーを除去するために、変調周波数fはfと相違するのが通常である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
RFOGの性能の主な制約の1つは、回転検知のために必要な変調による歪みに由来する。IFOG(干渉型光ファイバ・ジャイロスコープ)は固有周波数(eigenfrequency)と称される固有の特性を有しており、この固有周波数では、変調の歪みによる回転検知器のエラーはゼロに低減される。RFOGはこのような固有振動数を有していない。超低歪みの電子回路が有用ではあるが、歪み限度の要件を満たすに至らないのが通常である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態における、基本共振周波数で第1共振検出変調信号を生成するよう構成された第1波生成器を有する共振型光ファイバ・ジャイロスコープ(RFOG)で実施可能な方法には、少なくとも1つの第2波生成器を用いて、第1変調信号の偶数高調波で第2変調信号を生成するステップが含まれる。第2信号は、第1信号と調和関係にない周波数で振幅(AM)変調される。加算器によって第1信号が第2信号に加えられ、共振出力バイアス・エラー信号が生成される。エラー信号によって、最適振幅が求められる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】従来例のRFOGを示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係るRFOGを示す図である。
【図3】図2のRFOGの構成要素を示す図である。
【図4】本発明の代替的な一実施形態に係るRFOGを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
一実施形態では、共振追尾変調を、変調歪みによる回転検知エラーがゼロに低減されるように特別すなわち最適な振幅に設定できる。以下の解析的導出式が、本発明の原理を論じるために提供される。共振関数は多項式で単純化されるが、完全にシンメトリックな共振関数は、偶数次のみの多項式であると想定される。式(1)で示されるように、マイナス符号付の4次の項は、符号を変更する第2の導関数(derivative)を有する共振関数の近似値を得るためである。
【数1】

【0008】
基本周波数及び第2高調波での変調によって、以下が生じる。
【数2】

基本周波数で振動する成分yは、式(3)で求められる。これは共振器の基本周波数での出力信号であり、正弦波復調を仮定としている。
【数3】

式(3)で表される信号は、バイアス・エラーであり、これは、変調が共振周波数がセンターとなるように設定されているからである。変調の振幅が以下の式で表される場合、バイアス・エラーはゼロになる。
【数4】

【0009】
式(4)は、最適振幅を表している。最適振幅は第2高調波への依存度が低い。しかしながら、第2高調波変調振幅は、基本周波数での変調振幅と比べて極めて微小にできる。微小な第2高調波変調振幅に関して、次の式は極めて有効な近似式である。
【数5】

しかしながら、時間の経過と共に、環境の変化及びジャイロ部品の経年劣化によって、この最適振幅はドリフトする。通常のジャイロ操作時の最適振幅を求めて、変調振幅が最適振幅で維持されるようにする必要性がある。
【0010】
本発明の一実施形態では、所定の変調処理及び復調処理を行うことで、歪みによる回転エラーをゼロにするための最適共振追尾変調振幅からの逸脱を示すエラー信号が生成される。そしてエラー信号は、共振追尾変調振幅を最適値に制御する等のために、サーボによって用いられる。
【0011】
本発明の一実施形態では、主(一次)共振追尾変調信号に加えて、該主変調信号の偶数高調波である振幅変調された信号が含まれる。これによって、振幅変調の周波数及び共振追尾変調振幅からの逸脱を示す振幅を有するジャイロのレート出力内に、エラー信号が生成される。サーボはエラー信号を使用して、エラー信号をゼロにするように制御することによって、共振追尾変調の振幅を最適振幅に制御する。
【0012】
本発明の実施形態は、プログラム・モジュール等の1又は複数のコンピュータ・プロセッサあるいは別のデバイスによって実行される、コンピュータにより実行可能なインストラクションの一般的なコンテキストに記述される。プログラム・モジュールには、ルーティン、プログラム、オブジェクト、コンポーネント、データ構造等が通常は含まれ、特定のタスクの実行、又は特定の抽象データ型の実装をする。プログラム・モジュールの機能は、多様な実施形態において所望のように組み合わせ又は分割されるのが通常である。
【0013】
図2は、本発明の一実施形態に係るRFOG200を示している。図2に示されるRFOG200の素子で、図1に示されたものと同様又は同一の素子は、同じ参照番号で示されている。図2で示されるRFOGは、少なくとも何らかの形式のコンピュータ読取可能媒体を含んでいるか、ないしは別の方法でそれを使用しており、該コンピュータ読取可能媒体は、1又は複数のプロセッサ及び/又はメモリ・デバイスを伴っている。
【0014】
コンピュータ読取可能媒体は、上述の動作環境の1又は複数のコンポーネントによってアクセス可能な、任意の利用可能な媒体である。例示すると、コンピュータ読取可能媒体にはコンピュータ記憶媒体及び通信媒体が含まれるが、これに限定するものではない。コンピュータ記憶媒体には、コンピュータ可読インストラクション、データ構造、プログラム・モジュール又は別のデータ等の、情報を記憶するための任意の方法及び技術で実現される、揮発性及び不揮発性の取り外し可能及び不可能の媒体が含まれる。コンピュータ記憶媒体には、RAM、ROM、EEPROM、フラッシュメモリ又は別のメモリ技術、CD−ROM、デジタル多用途ディスク(DVD)又は別の光学式記憶装置、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスク記憶装置又は別の磁気記憶デバイス、あるいは所望の情報を格納するために使用可能で、且つ上述の動作環境の1又は複数のコンポーネントによってアクセス可能な、任意の別の媒体が含まれる。通信媒体は通常、コンピュータ可読インストラクション、データ構造、プログラムモジュール、又は搬送波又は別の搬送メカニズム等の変調されたデータ信号内の別のデータを記憶し、且つ任意の情報配送媒体を含んでいる。「変調されたデータ信号」という用語は、信号内の情報を符号化するような様式で設定あるいは変更された特性の内、1又は複数を有する信号を意味する。例示すると、通信媒体には有線ネットワークすなわち直接有線接続等の有線媒体と、音響、RF、赤外線及び別のワイヤレス媒体等のワイヤレス媒体とが含まれるが、これに限定するものではない。上記の任意の組み合わせもまた、コンピュータ可読媒体の範囲に含まれるべきである。
【0015】
図2及び図3を参照すると、一実施形態には、RFOG200のCW経路及びCCW経路で使用されている各々のエラー制御回路210、220が含まれている。各回路には、歪み検知及びサーボ(DD&S又はDDS)部310、変調制御(MC)部320、振幅変調第2高調波生成器(AMSHG)部330が含まれる。
【0016】
説明を簡略化するために、以下においては、図2で説明されるCW経路及びその構成素子に関して説明する。同一あるいは同様の原理が、図2で説明されるCCW経路及び図4で説明されるCCW回路に対しても一様に適用される。図3で最適に説明されているが、AMSHG部330は、CW変調生成器20によって生成された共振追尾変調信号の第2高調波での微小な変調信号及び、共振追尾変調と調和関係にない周波数で変調された振幅を出力するよう構成される。出力される信号の各成分を提供するために、AMSHG部330には独立した生成素子360、370が含まれている。この注入された信号は、CW変調生成器20で生成された信号と共に、MC部320の利得素子によって増幅され、且つ加算器26によって合算される。結果として生じる信号は式(6)で与えられる。
【数6】

【0017】
式(6)において、右辺の第1項は、基本周波数fでの意図された変調であり、第2項は、基本周波数の第2高調波での不所望の変調であり、また第3項は、第2高調波での意図されたAM変調信号である。
基本周波数でのみ振動する成分yは、式(7)で与えられる。これは、基本周波数での共振出力信号(バイアス・エラー)である。
【数7】

【0018】
CWレーザ12の周波数が実際の共振状態であり、且つCW積分器24の出力を加算器26への対応する入力から切り離すことによって共振追尾フィードバック・ループがオープンである場合、CW復調器22は、式(7)で示される信号の振幅と比例するDC信号を出力することになる。そして、CW積分器24の出力を加算器26へ接続することにより共振追尾ループがクローズである場合、積分器はCWレーザがわずかに共振からはずれるよう制御する信号を生成することになる。これにより、共振ピークの一方の側に渡る意図された共振追尾変調によって、式(7)に示される振幅値と同等で逆方向の振幅を有する信号が生成されて、式(7)に示される信号を相殺することができ、結果的に復調器22の出力が無効になる。共振周波数からの周波数の逸脱は、式(7)で示される信号の振幅と比例するレート・バイアス・エラーを生じさせることになる。
【0019】
AMSHG部330によって加えられた振幅変調の第2高調波変調信号は、変調制御部320における共振追尾変調信号と結合されて、加算器26を通過し、CWレーザCW周波数制御部38に至り、そこでレーザ周波数が変調される。レーザ周波数は、振幅変調の第2高調波周波数変調での変調成分を有している。この周波数変調成分を有するレーザ光が共振器を通過することで、共振器の光出力信号が生成される。この光出力信号は、角周波数coでの振幅変調による共振追尾変調周波数で生じる。CW光検出器18は共振器の光出力を、復調器22によって復調される電圧信号に変換する。意図的に振幅変調された第2高調波信号、意図しない第2高調波歪み変調、及び変調周波数で振動し且つAM周波数で変調される振幅である共振追尾変調の結合から生じる復調器22への入力信号は、以下の式で表される。
【数8】

【0020】
式(8)により表される信号は、最初にCW復調器22によって共振追尾変調周波数で復調され、次にDDS部310のAM復調器340によってAM周波数で再び復調される。第2の復調器340の出力信号は、式(8)で示される信号の振幅と比例するDC信号になる。
意図しない及び意図された第2高調波変調の振幅が、共振追尾変調の振幅に比べて極微小であると想定される場合、高次項は無視されるので、これら第2高調波の振幅は、以下のように表すことができる。
【数9】

【0021】
式(9)は意図しない第2高調波変調からのバイアス・エラーを表し、式(10)は意図的な第2高調波変調からのバイアス・エラーを表している。
2つのバイアス・エラー信号は、同じ共振追尾変調振幅(すなわち最適振幅)でゼロになる。
【数10】

【0022】
DDS部310のサーボ素子350は、式(10)で表現されるエラー関数からこの最適振幅を求め、且つ共振追尾信号の振幅をこの最適振幅に設定するよう構成される。すなわち、サーボ素子350は、AM(振幅)第2高調波変調によるエラー信号をゼロに制御することによって共振追尾変調の振幅を制御するよう機能し、それによって、意図しない第2高調波変調によるバイアス・エラーがゼロに制御される。
【0023】
図4は、代替的な一実施形態であるRFOG400の説明であり、図2で説明されたRFOG200にCCW経路が1つ追加されたものであるが、それ以外に変更はない。RFOG400はエラー制御回路210、220、230を含むが、これらは図2で説明された機能と同様又は同一であり、各々がRFOG400のCW及びCCW経路にも組み入れられている。図4で示される構成に関して、バックスキャター・エラーを排除するためのスキームを実装するために、第3のレーザが追加されている。このスキームの詳細は米国特許番号7372574に記載されており、本明細書には参照によってこれを援用する。
【0024】
本発明の好適な一実施形態が説明及び記載されたが、上述のように、本発明の精神及び範囲を逸脱しない限りは、多くの変更が可能である。従って、本発明の範囲は好適な実施形態の開示によって制限されるものではない。本発明は、以下に記載の特許請求の範囲によってのみ規定されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本周波数で第1共振検出変調信号を生成するよう構成された第1波信号生成器(20)を有する共振型光ファイバ・ジャイロスコープ(RFOG)で実施される方法であって、
少なくとも第2波信号生成器(30)を用いて、第1変調信号の偶数高調波で第2変調信号を生成するステップと、
加算素子(36)を用いて、第1変調信号を第2変調信号に加えて共振出力バイアス・エラー信号を生成するステップと、
エラー信号から最適振幅を決定するステップと、
第1変調信号の振幅を最適振幅に設定するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
基本周波数で第1共振検出変調信号を生成するよう構成される第1波信号生成器(20)を含む共振型光ファイバ・ジャイロスコープ(RFOG)(200、400)で実現されるエラー制御回路(210、220、310、320)であって、
第1変調信号の偶数高調波で第2変調信号を生成し、且つ第2変調信号を第1変調信号及び第2変調信号を加算するよう構成された加算素子(36)に提供する少なくとも1つの第2波信号生成器(30)であって、第2変調信号は第1変調信号と調和関係にない周波数で振幅(AM)変調されている、第2波信号生成器(30)と、
加算された第1及び第2変調信号によって生成されたエラー信号から最適振幅を求めるよう構成されたサーボ素子(350)と
を備えていることを特徴とする回路。
【請求項3】
請求項2記載の回路において、エラー信号は最適振幅が求められる前に第1変調信号の周波数で復調され、且つ該回路はさらに、
最適振幅が求められる前に、第2信号周波数でエラー信号を復調するよう構成されたAM復調素子(32)
を備えていることを特徴とする回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−230673(P2010−230673A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−69886(P2010−69886)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】