説明

光ファイバーケーブル用止水テープ

【課題】 ドライタイプルーズチューブ光ケーブルにおいて、海水を使用した場合でも前記の防水性能の規格を満足する止水テープを提供すること。
【解決手段】 海水を自重の20倍以上吸収する海水吸水性樹脂粉末と純粋を自重の200倍以上吸収する純水吸水性樹脂粉末を混合した吸水性樹脂粉末100重量部と、合成樹脂又は合成ゴムよりなる有機バインダー10〜50重量部、及び有機溶剤からなる吸水性組成物7を、合成繊維の織布又は不織布からなる基材8の片面又は両面に塗布乾燥させ、テープ状に裁断する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光通信に用いられるルーズチューブ光ファイバーケーブルにおいて、ケーブル内に海水等のイオン濃度の高い水が侵入した際、該ケーブルの長手方向へ水が走水するのを防止するための止水テープに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、ルーズチューブ光ファイバーケーブルの防水対策としては、ジェリーを充填する方法が採用されている。
【0003】しかしながら、ジェリーを充填したケーブルは、該ケーブルを接続する際、ジェリーを除去する必要があり、この時、ジェリーがべたつく為にその除去に時間を要し、作業効率が極めて悪いと言う難点がある。
【0004】この為、近年、ケーブルを接続する際の作業効率を改善することを目的として、ケーブルの長さ方向への走水防止対策に、ジェリーを充填する替わりに、不織布に吸水性樹脂粉末を保持させた吸水性の止水テープを巻く方法が採用されている。ジェリーを充填したケーブルは、ジェリーが粘性を持った液体であることから湿式構造であるのに対し、止水テープを使用したケーブルは乾式構造であることから、止水テープを使用したケーブルは一般にドライタイプルーズチューブ光ケーブルと称されている。このドライタイプルーズチューブ光ケーブルの断面を図1に示す。図中、1は抗張力体、2は吸水面を外にして巻かれた止水テープ、3は光ファイバー、4はバッファールーズチューブ、5は吸水面を内にして巻かれた止水テープ、6はポリエチレン製外被である。
【0005】ところで、ドライタイブルーズチューブ光ケーブルに要求される防水性能の規格は、ケーブルの端末に高さ1mから水を注入した場合に、24時間後の走水距離が1m以内であることと規定されている。
【0006】ここで、上記規格の試験に供される水は水道水である。この為、一般に、ドライタイプルーズチューブ光ケーブル用の止水テープには、ポリアクリル酸塩架橋体のように、純水や低イオン水での吸水膨脹倍率の大きな吸水性樹脂粉末を使用した止水テープが使われている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】ところが、実際にケーブルが敷設される環境の水は、必ずしも水道水のように内部に含まれる金属イオンの濃度が低い低イオン水ばかりとは限らない。例えば、海底ケーブル等の敷設の場合は、海水のように金属イオンの濃度が極めて高い高イオン水の場合がケーブル内に侵入することもありうる。
【0008】このことから、現在、ケーブル内に海水が侵入した場合でも、前記の防水性能の規格を満たすことのできる止水テープが望まれている。
【0009】しかしながら、前記の、ポリアクリル酸塩架橋体のように、純水吸水性樹脂粉末を使用した止水テープの場合、規格試験に供される水が水道水の時には走水距離が数十センチメートルであり防水性能の規格を満たすことができるが、海水の場合には、純水吸水性樹脂粉末の吸水膨脹倍率が著しく低くなる為、流水してしまう。
【0010】一方、特開平1−240547や特開平1−304145の公報には、海水を目重の20倍以上吸水する海水吸水性樹脂粉末を使用した止水テープが開示されているが、これらの止水テープは初期の吸水速度が遅く、この為前記の防水性能の規格を満たすことができない。
【0011】本発明の目的は、ドライタイプルーズチューブ光ケーブルにおいて、海水を使用した場合でも前記の防水性能の規格を満足する止水テープを提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】我々は、前記目的を達成する為鋭意検討した結果、海水吸水性樹脂粉末と純水吸水性樹脂粉末を適宜混合して得た止水テープは、それぞれ単独の止水テープよりも、ケーブル内に侵入した海水の走水距離が著しく短くなることを発見し、本発明に到達した。更に、吸水性樹脂粉末の粒子径や、有機バインダーの種類及び吸水性樹脂粉末と有機バインダーの配合比を適宜選択すると、より一層海水の走水距離が短くなることを見いだした。
【0013】海水吸水性樹脂粉末と純水吸水性樹脂粉末を混合した場合に、何故海水の走水距離が短くなるかは定かではないが、恐らく、海水吸水性樹脂粉末には海水中の金属イオンを吸着する性質があることから、ケーブル中を走水する海水はその中に含まれる金属イオンが海水吸水性樹脂に吸着され取り除かれて徐々に純水に近くなり、この時、同時に混合されている純水吸水性樹脂粉末が著しく大きく吸水膨脹してケーブル内の空間を埋めることにより止水し、走水距離が短くなるものと推定される。
【0014】本発明の止水テープは、海水吸水性樹脂粉末と純水吸水性樹脂粉末を混合した吸水性樹脂粉末と、合成樹脂又は合成ゴムよりなる有機バインダー、及び有機溶剤からなる吸水性組成物の溶液を、合成繊維の織布又は不織布からなる基材の片面又は両面に塗布乾燥させ、テープ状に裁断されてなることを特徴とする。
【0015】本発明において、海水吸水性樹脂の海水吸水倍率を自重の20倍以上としたのは、海水吸水倍率が20倍未満の海水吸水性樹脂の場合には、海水中の金属イオンを吸着する能力が低く、併用された純水吸水性樹脂が充分吸水膨脹できない為か、走水距離が長くなるからである。ここで言う吸水倍率とは、後述するティーバック法で測定される吸水倍率である。
【0016】海水を自重の20倍以上吸水する海水吸水性樹脂としては、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体架橋物やスルホアルキルアクリレート−アクリル酸共重合体架橋物及び架橋ポリN−ビニルアセトアミドなどが挙げられ、これらの中から1種を単独で、又は2種以上を混合して使用できる。
【0017】一方、純水吸水性樹脂の純水吸水倍率を自重の200倍以上としたのは、純水吸水倍率が200倍未満の吸水性樹脂では、海水中の金属イオンが充分除去されたとしても、吸水膨脹能力が不足するためケーブル内の空間を完全に埋めることができず走水してしまうからである。純水を自重の200倍以上吸水する純水吸水性樹脂としては、ポリアクリル酸塩架橋体、ポリアクリルニトリル架橋体加水分解物、ポリエチレンオキサイド架橋重合物、ポリビニルアルコール架橋重合物、ポリアクリルアミド架橋重合物などの中から単独で、又は2種以上混合して使用できる。
【0018】本発明における海水吸水性樹脂粉末と純水吸水性樹脂粉末の混合比率は、重量比で1/9〜9/1の範囲である必要があり、2/8〜8/2の範囲がより好ましい。前記混合比率が1/9未満又は9/1より大きい場合は、海水を1m以内で止水できない。
【0019】また、吸水性樹脂粉末の大きさは、その平均粒子径が50〜200ミクロンの範囲内であることが望ましい。平均粒子径が50ミクロン未満では粒子がバインダーに完全に覆われる数が多くなり吸水速度が低下し、この為、走水距離が長くなる。一方、平均粒子径が200ミクロンを越えると、基材へ固定できず、止水テープの製造時やケーブル製造時に吸水性樹脂がテープから脱落して作業環境を汚してしまうと言う問題がある。
【0020】本発明における合成樹脂又は合成ゴムよりなる有機バインダーは、上記吸水性樹脂粉末を合成繊維の織布又は不織布に固定させる作用を有する。ここで、合成樹脂又は合成ゴムとしては、特に、アクリル系樹脂、ポリウレタン樹脂、飽和ポリエステル樹脂、エチレン共重合体樹脂、ポリアマイド樹脂、ポリイソブチレンゴム、ブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体ゴム、アクリルゴムなどが使用できる。
【0021】また、有機バインダーの配合量は吸水性樹脂100重量部に対し10〜50重量部が好ましい。前記有機バインダーの配合量が50重量部を越えると吸水性樹脂の吸水速度が遅くなり止水効果が阻害され、一方10重量部未満では吸水性樹脂を基材へ固定する力が不足して止水テープの製造時やケーブル製造時に吸水性樹脂がテープから脱落して作業環境を汚してしまうおそれがある。
【0022】本発明において、吸水性樹脂組成物を塗布する基材は合成繊維の織布又は不織布が好ましい。前記基材が天然繊維製の場合は微生物によって分解されて光ファイバーにとって有害な水素ガスを発生する恐れがある。
【0023】更に、本発明において、吸水性樹脂組成物の上に薄手不織布のカバー材を貼り合わせたのは、吸水性樹脂の脱落や吸湿時のべタツキを改善し、止水テープの製造時やケーブル製造時の作業性を良くするためである。
【0024】また、本発明の吸水性樹脂組成物には、初期の吸水速度をより一層速くするための界面活性剤や、有機バインダーの老化を防ぐための老化防止剤、及び、ケーブルの外被下に金属のコルゲートが施される場合に金属の腐食を防ぐための防錆剤などが添加されることが好ましい。
【0025】
【発明の実施の形態】本発明における吸水性樹詣の吸水倍率とは、下記方法(ティーバック法)で測定されたものである。
【0026】すなわち、ポリエステルネットに入れた試料を20℃の水中に一定時間浸漬し、試料をネットから取り出して重量を測定する。この時の重量をAとして次式により吸水倍率を求める。ただし、式中のBは80℃に調整した熱風乾燥機中で、重量の変化がなくなるまで乾燥した後の試料の重量を示す。
【0027】
【式】


図2に本発明の止水テープの構造例を示す。図中、7は海水吸水性樹脂粉末と純水吸水性樹脂粉末が混合された吸水性樹脂粉末と合成樹脂又は合成ゴムのバインダー、界面活性剤、老化防止剤、防錆剤からなる吸水性樹脂組成物であり、8は合成繊維の織布又は不織布からなる基材である。図2(a)は基材8の片面に吸水性樹脂組成物7を塗布乾燥して得られた止水テープの拡大断面構造であり、図2(b)は図2(a)の止水テープにおいて、吸水性樹脂組成物7の表面に薄手不織布のカバー材9を貼着した止水テープの拡大断面構造である。
【0028】
【実施例】以下、実施例によって、本発明の実施の形態を詳細に説明する。ただし、本発明を実施例に限定するものでは決してない。
【0029】実施例1:海水吸水性樹脂粉末として、平均粒径100ミクロン、海水吸水倍率が30倍のスルホアルキルアクリレート−アクリル酸共重合体架橋物を、また純水吸水性樹脂粉末として、平均粒径100ミクロン、純水吸水倍率が350倍のポリアクリル酸塩架橋体を使用し、海水吸水性樹脂粉末と純水吸水性樹脂粉末の混合比率が2/8であるところの吸水性樹脂粉末100重量部と、エチレン・プロピレンゴム20重量部、界面活性剤2重量部、老化防止剤1重量部、防錆剤1重量部をトルエンに溶解分散させた後、ポリエステルスパンボンド不織布(目付け40g/m2)の片面に塗布乾燥し、30mm幅に裁断して、単位質量100g/m2の止水テープを得た。
【0030】実施例2:実施例1において、海水吸水性樹脂粉末と純水吸水性樹脂粉末の混合比率を5/5とした以外は、実施例1と同様にして止水テープを作製した。
【0031】実施例3:実施例1において、海水吸水性樹脂粉末と純水吸水性樹脂粉末の混合比率を8/2とした以外は、実施例1と同様にして止水テープを作製した。
【0032】比較例1:実施例1において、吸水性樹脂成分を全て純水吸水性樹脂粉末とした以外は、実施例1と同様にして止水テープを作製した。
【0033】比較例2:実施例1において、吸水性樹脂成分を全て海水吸水性樹脂粉末とした以外は、実施例1と同様にして止水テープを作製した。
【0034】比較例3:実施例1において、各吸水性樹脂粉末の平均粒径を30ミクロンとした以外は実施例1と同様にして止水テープを作製した。
【0035】比較例4:実施例1において、エチレン・プロピレンゴムを100重量部とした以外は実施例1と同様にして止水テープを作製した。
【0036】前記実施例及び比較例で得られた止水テープを用いて、下記テスト方法で止水テストを行った。結果を表1に示す。
【0037】止水テスト方法:直径7mmのステンレス棒に、止水テープを吸水剤塗布面を外側にして重なり幅2mmで巻き付ける。次に、その周りに直径3mmのステンレス棒11本を配置し、250デニールの糸を20mm間隔で巻き付けて固定する。その上に止水テープを吸水剤塗布面を内側にして重なり幅2mmで巻き付ける。更にその上に、水が漏れないようにビニールテープを2重に巻いて止水テスト用の模擬ケーブルを作製する。
【0038】模擬ケーブルの片端を水が漏れないようにシールした後、シールした端から25mmの位置に、25mmの幅でビニールテープと止水テープをはぎ取りステンレス棒を露出させた後T字型のプラスチック製の注水口を取り付ける。この注水口に内径15mm長さ1mのビニールホースを取付け、垂直に保つ。
【0039】一方、水平に置いた模擬ケーブルから1mの高さ迄ビニールチューブ内に人工海水(アクアマリン、八洲薬品社製)を満たし、24時間後の模擬ケーブル内への人工海水の侵入長さを測定する。
【0040】ここで、止水テスト装置の概略図を図3に示す。図中10は前記方法で作製した模擬ケーブル、11はプラスチック製の注水口、12はビニールチューブ、13はビニールチューブ12内に注入された人工海水である。
【0041】
【表1】


表1から分るように、本発明の止水テープは海水に対する止水効果が格段に優れている。
【0042】
【発明の効果】(1)本発明の止水テープは海水に対する止水効果が格段に優れている。
【0043】(2)本発明の止水テープを使用したケーブルは、海水のような高イオン水であっても止水効果が高いために、純水吸水性樹脂の止水テーブを使用したケーブルのように敷設場所が限定されることなく、海底等のあらゆる場所に敷設することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 ドライタイプルーズチューブ光ファイバーケーブルの断面図。
【図2】 (a)及び(b)は本発明の止水テープの各態様を示す断面図。
【図3】 止水テスト装置の側面図。
1・・・抗張力体、 2・・・止水テープ、3・・・光ファイバー、4・・・バッファールーズチューブケーブル、5・・・止水テープ、6・・・外被、7・・・吸水性樹脂組成物、8・・・基材、9・・・カバー材、10・・・模擬ケーブル、11・・・プラスチック製注水口、12・・・ビニールチューブ,13・・・人工海水

【特許請求の範囲】
【請求項1】 海水を自重の20倍以上吸水する海水吸水性樹脂粉末と、純水を自重の200倍以上吸水する純水吸水性樹脂粉末との混合物よりなる吸水性樹脂粉末100重量部、合成樹脂又は合成ゴムよりなる有機バインダー10〜50重量部、及び有機溶剤からなる吸水性樹脂組成物を、合成繊維の織布又は不織布からなる基材の片面又は両面に塗布乾燥し、テープ状に裁断したことを特徴とする止水テープ。
【請求項2】 海水を自重の20倍以上吸水する前記海水吸水性樹脂粉末と純水を自重の200倍以上吸水する前記純水吸水性樹脂粉末の混合比率が重量比で1/9〜9/1の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の止水テープ。
【請求項3】 前記吸水性樹脂が粉末又は粒子状であり、その平均粒子径が50〜200ミクロンであることを特徴とする請求項1に記載の止水テーブ。
【請求項4】 海水を自重の20倍以上吸水する前記海水吸水性樹脂粉末が、イソブチレン・無水マレイン酸共重合体架橋物、スルホアルキルアクリレート−アクリル酸共重合体架橋物、又は架橋ポリN−ビニルアセトアミドの中から選ばれる1種又は、それらの中から選ばれる2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1に記載の止水テープ。
【請求項5】 前記吸水性樹脂組成物の上に薄手不織布よりなるカバー材が貼り合わされたことを特徴とする請求項1に記載の止水テープ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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