説明

光ファイバーケーブル

【課題】伝送ロス増加を防止し得るシース厚を確保しつつ、引き裂き紐によってケーブルが捻れることなく直線的に引き裂けるようにし、且つ突条部上の印字を認識し得る光ファイバーケーブルを提供する。
【解決手段】シース2に設けたファイバ収納部3に複数本の光ファイバ心線4を収納した中空構造の光ファイバーケーブル1。シースには、ファイバ収納部近傍位置にケーブル長手方向に埋設された引き裂き紐9と、引き裂き紐9及びケーブル中心軸を結ぶ直線X上の該引き裂き紐9と対応する部位に、表面が平坦な引き裂き面12及びこの引き裂き面12の両側縁12a,12bに該引き裂き紐9を引き裂いた時の位置ずれを防止する引き裂き位置ずれ防止部13を有した突条部11を設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引き裂き紐を引っ張って外被を引き裂く構造の光ファイバーケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、光ファイバ心線をシース(外被)で直接被覆した中空構造の光ファイバーケーブルでは、中間後分岐作業を容易にするために、シース内に引き裂き紐(リップコードとも称される)をケーブル長手方向に埋設している(例えば、特許文献1、2、3等に記載)。
【0003】
そして、シースには、光ファイバーケーブルから光ファイバ心線を取り出す際の引き裂き紐の位置を示す目印機能及びケーブル上におもりを落とす衝撃試験時にシース厚さ不足による伝送ロス増加を防ぐ機能をする突条部が形成されている。
【0004】
前記突条部は、断面形状を半円形状としてケーブル長手方向に形成されている。この突条部は、引き裂き紐上のシース厚が厚いほど耐衝撃性に優れるが、引き裂き紐によるシースの引き裂き力が大きくなり引き裂き性が低下し作業性が悪くなる。そのため、突条部は、両者を満足する厚みに形成する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−343569号公報
【特許文献2】特開2002−98868号公報
【特許文献3】特開2002−341212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、半円形状とした突条部の下にある引き裂き紐を取り出してケーブル長手方向に引き裂いた場合、引き裂き途中で突条部とケーブルの境目から引き裂き紐が出てくることによってケーブルが捻れる。そのため、ケーブルを握っている手首が捻られることで、手首に負担が掛かり作業性が悪くなる。
【0007】
また、光ファイバーケーブルには、種類や社名の識別、レングスを示すために印字を施している。主な印字方法には、ホットスタンプ印刷、インクジェット印刷がある。ホットスタンプ印刷は、加熱した凸版の刻印でインクリボンを介して打刻してケーブルに熱転写させるもので、識別性、摩擦、摩耗、耐候性に優れるが、ケーブル表面に凸凹があると文字欠けが発生し易い。インクジェット印刷は、インクをケーブルに吹き付けるため、ケーブル表面が凸凹であっても影響を受けにくい。また、インクジェット印刷は、ケーブル品種ごとに刻印を用意する必要がないので、コスト低減に優れる。しかし、インクジェット印刷は、ケーブルを布設する場合に擦れ等でホットスタンプ印刷に比較して摩滅しやすいという特徴がある。一般的には、用途や仕様により印字方法が選択される。
【0008】
特許文献1〜3の光ファイバーケーブルでは 何れも外被の対向位置に凸部(突条部)があり、その凸部直下が引き裂き紐となっている。また、この光ファイバーケーブルでは、ケーブルを中心としてリップコードの位置を90度回転させた位置に抗張力体が設けられ、ケーブルの中心部に光ファイバを配置した構造となっている。抗張力体は、例えば鋼線から形成されるため、引っ張り、圧縮に抗力が生じる。そのため、ケーブルを曲げる場合、2本の抗張力体を結んだ線の方向には曲がらず、2本のリップコードを結んだ線の方向にのみ曲げることが可能である。
【0009】
前記光ファイバーケーブルをドラムに巻き付ける場合には、2本の引き裂き紐を結んだ線の方向にしか曲がらないので、その直上にある突条部がケーブルの表面に見えることになる。一方、光ファイバーケーブルがドラムに巻かれた状態のとき、ケーブルの識別や残長管理のため印刷が確認できることは重要であることから、ケーブルの突条部上に印刷することになる。
【0010】
しかし、突条部上にホットスタンプで印刷する場合、その凸形状によりから印字が欠け易く識別性に問題が生じる。
そこで、本発明は、伝送ロス増加を防止し得るシース厚を確保しつつ、引き裂き紐によってケーブルが捻れることなく直線的に引き裂けるようにし、且つ突条部上の印字を認識し得る光ファイバーケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の発明は、シースに設けたファイバ収納部に複数本の光ファイバ心線を収納した中空構造の光ファイバーケーブルにおいて、前記シースには、ケーブル長手方向に埋設された抗張力体と、前記ファイバ収納部近傍位置にケーブル長手方向に埋設された引き裂き紐と、前記引き裂き紐及びケーブル中心軸を結ぶ線上の該引き裂き紐と対応する部位に、表面が平坦な引き裂き面及びこの引き裂き面の両側縁に該引き裂き紐を引っ張ってシースを引き裂いた時の位置ずれを防止する引き裂き位置ずれ防止部を有した突条部とが設けられていることを特徴としている。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の光ファイバユニットであって、前記突条部は、前記引き裂き面を上底とした台形状とされ、上底をL1とし下底をL2とした場合に、L1+0.5<L2<L1+1.5であることを特徴としている。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の光ファイバユニットであって、前記引き裂き面に、V字溝を設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、引き裂き紐上の突条部に、引き裂き紐を引き裂いた時の位置ずれを防止する位置ずれ防止部を設けたので、この位置ずれ防止部によって引き裂き位置のずれが防止され、引き裂き紐を引き裂き面において直線的に引き裂くことができる。したがって、ケーブルが捻れることがないことから、ケーブルを握る手首に負担が掛からずに作業性を容易なものとすることができる。また、突条部の表面が平坦な引き裂き面とされているため、この引き裂き面のホットスタンプによる印字が鮮明で識別性が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は本実施形態の光ファイバーケーブルの断面図である。
【図2】図2は図1に示す光ファイバーケーブルの突条部の要部拡大断面図である。
【図3】図3は突条部表面に印字された印字例を示す図である。
【図4】図4は本実施形態の光ファイバーケーブルの引き裂き状態を示す模式的な図である。
【図5】図5は本発明の比較例における半円形状の突条部の要部拡大断面図である。
【図6】図6は本発明の比較例である半円形状の突条部とした光ファイバーケーブルを引き裂く場合の例を示し、(A)はその断面図、(B)はその引き裂き位置がずれた状態を示す図である。
【図7】図7は本実施形態の光ファイバーケーブルに対しておもりを落とす衝撃試験を示す図である。
【図8】図8は本実施形態の別形態を示す光ファイバーケーブルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1には、本発明を適用したスロットレスの自己支持型構造の光ファイバーケーブルの例を示す。この光ファイバーケーブル1は、スロットコアを持たずに、シース2に設けたファイバ収納部3に複数本の光ファイバ心線4を収納した中空構造となっている。
【0018】
具体的には、前記光ファイバーケーブル1は、図1に示すように、ケーブル部5と支持線部6とこれらを連結する首部7とから構成されている。ケーブル部5は、複数本の光ファイバ心線4をファイバ収納部3に収納し、その周囲をシース2で被覆することで形成されている。
【0019】
ケーブル部5には、2本の抗張力体8と、同じく2本の引き裂き紐9がシース2にそれぞれ埋設されてケーブル長手方向に設けられている。抗張力体8と引き裂き紐9は、ケーブル中心を軸として90度回転させた位置に、それぞれ対向して2本ずつ配置されている。支持線部6には、支持線10がケーブル長手方向に設けられてその周囲を覆うようにシース2で被覆されている。支持線10は、例えば中心に1本配置されると共にその回りに円形をなすように複数本配置された構造となっている。首部7は、ケーブル部5と支持線部6とを連結しており、これらケーブル部5及び支持線部6を構成する同じシース(外被)2で形成されている。
【0020】
光ファイバ心線4としては、例えば中心に設けられる石英ガラスファイバと、その石英ガラスファイバの周囲に紫外線硬化型樹脂及び着色層を被覆して形成される着色光ファイバ素線が挙げられる。この他、着色光ファイバ素線や着色光ファイバ素線を複数本並べて紫外線硬化型樹脂で一括被覆した光ファイバテープ心線、或いは互いに隣接する光ファイバ素線間を間欠的に固定した光ファイバテープ心線等の光ファイバ心線4をファイバ収納部3に収納される。
【0021】
抗張力体8は、ケーブル部5の中心(ケーブル中心軸)と支持線部6の中心(支持線中心軸)を結ぶ直線Y上であって、ファイバ収納部3を挟んでその両側にそれぞれ1本ずつ設けられている。引き裂き紐9は、ケーブル部5の中心(ケーブル中心軸)を通り、前記直線Yと直交する直線X上にファイバ収納部3を挟んでその両側にそれぞれ1本ずつ設けられている。また、引き裂き紐9は、ファイバ収納3にその一部を露出させるか或いは接近させて配置されている。
【0022】
引き裂き紐9及びケーブル部5の中心(ケーブル中心軸)を結ぶ直線X上の該引き裂き紐9と対応する部位には、引き裂き紐位置を示す目印機能と衝撃試験時にシース厚さ不足による伝送ロス増加を防ぐ機能をする突条部11が設けられている。突条部11は、図2に示すように、表面が平坦な引き裂き面12と、この引き裂き面12の両側縁12a、12bに該引き裂き紐9を引き裂いた時の位置ずれを防止する引き裂き位置ずれ防止部13を有している。引き裂き位置ずれ防止部13は、引き裂き面12の両側縁12a、12bから裾拡がりに傾斜する傾斜面14で囲まれた傾斜部分とされている(図2の斜線部分)。引き裂き面12には、図3に示すように、ケーブル長さを示す印字Mがホットスタンプ方式にて印されている。図3では、01125mと印字Mされている。
【0023】
突条部11は、引き裂き面12を上底とした台形状とされ、上底の長さをL1とし下底の長さをL2とした場合に、L1+0.5<L2<L1+1.5(以下、関係式と称する)であることが望ましい。下底の長さL2は、傾斜面14と円形状のシース2との交点14a、14b間の距離とする。
【0024】
上底と下底の関係式が望ましい理由について述べる。引き裂き紐9から引き裂き面12に垂直に下ろした直線X上の距離をS1、引き裂き紐9から引き裂き面12の両側縁12a、12bまでの距離をS2、引き裂き紐9から前記交点14a、14bまでの距離をS3とする。また、引き裂き紐9から引き裂き面12へ垂直に下ろした線と、引き裂き紐9と引き裂き面12の両側縁12a、12bを結ぶ線とのなす角度をθとする。これらの条件の下、S2とS1の関係は、S2=S1/cosθとしている。また、前記角度θは、0<θ<90°としている。このため、S2とS1は、S2>S1なる関係としている。
【0025】
これらの条件の下で、引き裂き紐9上のシース(外被)2を削る等により除去して引き裂き紐9を露出させ、ペンチ等で引き裂き紐9を掴んでケーブル部5のシース2を引き裂くと、傾斜面14方向へは引き裂き紐9が移動し難くなる。S3は、S2と同じ長さであれば引き裂き紐9の移動を抑制できるが、突条部11の識別性が低下することから、S3の長さは、L1+1.5mmより小さい方が突条部11の認識性が向上する。また、L2≒L1であると、引き裂き紐9が引き裂き面12を超えて傾斜面14へと移動してしまう。そのため、L2は、L1+0.5mmより大きい方が引き裂き紐9の移動を防止することが可能となる。以上より、L2は、L1+0.5<L2<L1+1.5なる関係であることが望ましい。
【0026】
図4に示すように、本実施形態の光ファイバーケーブル1を手15で握って引き裂き紐9を引き出して外被を引き裂くと、引き裂き紐9は引き裂き面12からはみ出ることなくケーブル長手方向に直線的に引っ張ることができる。
【0027】
この一方、図5に示すように、S1>S2>S3なる関係とされた突条部11を有した光ファイバーケーブルでは、引き裂き紐9の引き出し開始時は突条部11の頂点位置であるが、徐々に引き裂き紐9から突条部11までの距離S2、S3が短くなる方向へ移動する。そのため、図6に示すように、引き裂き途中で突条部11とケーブル部5の境目16から引き裂き紐9が出てくることによってケーブルが矢印Aで示す方向に捻れ、光ファイバーケーブル1を手15で支えている手首15Aに負担が掛かり、作業性が悪くなる。また、突条部11の表面が半円形状であるため、この表面の印字が欠け易く識別性が悪い。
【0028】
また、光ファイバーケーブル1には、図7に示すように、ケーブル部5におもり17を落下させる衝撃試験を行った際の伝送ロス増加防止が求められる。この衝撃試験による伝送ロス増加を防止するには、ケーブル部5のシース(外被)2の厚みTを厚くすれば良いが、厚すぎると引き裂き紐9による外被の引き裂き力が大きくなり引き裂き性が低下する。本実施形態では、引き裂き紐9上の外被の厚みTを、引き裂き性を考慮して2.3mm程度としている。
【実施例】
【0029】
以下に、台形状とした突条部11の上底の長さL1と下底の長さL2を変化させた時の突条部11の識別性と引き裂き紐9の引き裂き作業性及び印字識別性を調べた。印字Mの高さは、サンプルA〜Dの全てにおいて1.5mmとした。引き裂きは、図6で説明したように光ファイバーケーブル1を手15で握り、突条部11をカッター等で削って引き裂き紐9を取り出し、この引き裂き紐9を引っ張って外被を引き裂いた。これらの結果を表1に示す。
【表1】

【0030】
表1の結果から判るように、サンプルB及びCの場合には、凸部識別性、引き裂き作業性、印字識別性の何れも良好(○印)であるという結果が得られた。この結果から判るように、台形状とした突条部11は、L1+0.5<L2<L1+1.5であることが望ましい。突条部11は、例えば数値で表すと上底の長さL1は2.0〜3.5mm、下底の長さL2は3.0〜4.5mmであることが望ましい。
【0031】
以上のように、本実施形態によれば、引き裂き紐9上の突条部11に、引き裂き紐9を引き裂いた時の位置ずれを防止する位置ずれ防止部13を設けたので、この位置ずれ防止部13によって引き裂き位置のずれが防止され、引き裂き紐9を直線的に引き裂くことができる。その結果、ケーブルが捻れることがないことから、ケーブルを握る手首15Aに負担が掛からずに作業性を容易なものとすることができる。また、突条部11の表面が平坦な引き裂き面12とされているため、この引き裂き面12のホットスタンプによる印字が鮮明で識別性が高くなる。
【0032】
また、本実施形態によれば、突条部11の形状を、引き裂き面12を上底とした台形状とし、上底の長さをL1、下底の長さをL2とした場合にL1+0.5<L2<L1+1.5としたので、ケーブルが捻れることなく直線的に外被を引き裂くことができると共に、突条部11の識別性並びに印字識別性が向上する。
【0033】
以上、本発明を適用した具体的な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に制限されることなく種々の変更が可能である。例えば、上述の実施形態では、引き裂き面12にホットスタンプ方式で印字Mを形成したが、インクジェットプリンタで印刷を行う場合は、印字面に多少の凹凸があっても識別性に影響を受け難いので、引き裂き紐9による引き裂き力を更に低減するために、図8に示すように引き裂き面12にV字溝18を形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、引き裂き紐を引っ張って外被を引き裂く構造の光ファイバーケーブルに利用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1…光ファイバーケーブル
2…シース(外被)
3…ファイバ収納部
4…光ファイバ心線
5…ケーブル部
6…支持線部
7…首部
8…抗張力体
9…引き裂き紐
10…支持線
11…突条部
12…引き裂き面
13…位置ずれ防止部
18…V字溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シースに設けたファイバ収納部に複数本の光ファイバ心線を収納した中空構造の光ファイバーケーブルにおいて、
前記シースには、
ケーブル長手方向に埋設された抗張力体と、
前記ファイバ収納部近傍位置にケーブル長手方向に埋設された引き裂き紐と、
前記引き裂き紐及びケーブル中心軸を結ぶ線上の該引き裂き紐と対応する部位に、表面が平坦な引き裂き面及びこの引き裂き面の両側縁に該引き裂き紐を引っ張ってシースを引き裂いた時の位置ずれを防止する引き裂き位置ずれ防止部を有した突条部とが設けられている
ことを特徴とする光ファイバーケーブル。
【請求項2】
請求項1に記載の光ファイバーケーブルであって、
前記突条部は、前記引き裂き面を上底とした台形状とされ、上底の長さをL1とし下底の長さをL2とした場合に、L1+0.5<L2<L1+1.5である
ことを特徴とする光ファイバーケーブル。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光ファイバーケーブルであって、
前記引き裂き面に、V字溝を設けた
ことを特徴とする光ファイバーケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−45038(P2013−45038A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184395(P2011−184395)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】