光ファイバー式水素センサ、水素濃度計測装置、水素濃度表示装置及び光ファイバー式水素センサの製造方法
【課題】広範囲なエリアに対して水素センシングが可能であり、かつ高温化で水蒸気が発生する様な環境下でも、これらに影響を受けることなく水素を計測できる水素センサを提供する。
【解決手段】図1は本発明の光ファイバー式水素センサの一例を示す図である。光ファイバーのクラッド2の外周にパラジウムをコーティングしてパラジウム層3を形成し、その外周に第1樹脂層4及び第2樹脂層5をコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させた光ファイバー式水素センサである。
【解決手段】図1は本発明の光ファイバー式水素センサの一例を示す図である。光ファイバーのクラッド2の外周にパラジウムをコーティングしてパラジウム層3を形成し、その外周に第1樹脂層4及び第2樹脂層5をコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させた光ファイバー式水素センサである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素センサ、水素濃度表示装置、水素濃度計測及び光ファイバー式水素センサの製造方法に関し、特に、原子力プラントなどの建屋内の水素を測定するのに好適な水素センサ、水素濃度計測装置、水素濃度表示装置及び光ファイバー式水素センサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントなどの建屋内の水素を測定する水素センサは、広範囲なエリアの水素計測になるために、光ファイバーを利用した水素センサが考えられるが、例えば、原子力プラントの建屋内において、水素が発生する場合には同時に水蒸気、ヨウ素が発生するケースがあり、これらの影響を抑制した水素センサが必要になる。例えば〔特許文献1〕には、ファイバクラッドにブラッグ格子を作り込み、周囲に水素吸蔵材としてパラジウムを取り付け、水蒸気、アンモニア、メタン、一酸化炭素などによる汚染防止のためにパラジウムの外周にゼオライト膜を施すことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−271525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
〔特許文献1〕に記載の従来の技術では、光ファイバーのクラッドに作り込まれたブラッグ格子部で光の減衰が発生するために、このブラック格子部分を光ファイバー全長において多数設置して水素を検出しようとすると、光ファイバー内を伝搬する光の強度が低下し、水素吸蔵によって発生する歪みに対する光強度の変化を正しく計測することが困難になり、結果として建屋内全体に亘り広範囲に水素を検出するということができなくなる。また、この従来例においては、パラジウムの外周にゼオライト膜を設けているが、ゼオライト膜は物理吸着であり吸着力が弱く、水蒸気が発生する様な高温下では水蒸気などの吸着能力が低下し、水蒸気がパラジウムに影響を与えて、パラジウムの水素吸蔵特性を低下させ、水素を正しく計測することができないという問題がある。また、水素濃度を検出する機能はない。
【0005】
本発明の目的は、例えば、原子力プラントにおける原子炉建屋及び格納容器内等の広範囲なエリアに対して水素センシングが可能であり、かつ高温下で水蒸気が発生する様な過酷な環境下でも、これらに影響を受けることなく水素を計測できる光ファイバー式水素センサ、水素濃度計測装置、水素濃度表示装置及び光ファイバー式水素センサの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、コアと、前記コアの外周に設けられたクラッドと、前記クラッドの外周に設けられたパラジウム層と、前記パラジウム層の外周に設けられ、硬化処理された樹脂層を有するように構成した。
【0007】
また、光ファイバーのクラッド外周にパラジウムをコーティングしてパラジウム層を形成し、その外周に第1樹脂層及び第2樹脂層をコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させるように構成した。
【0008】
さらに、光ファイバーのクラッド外周にナノ粒子をドープしたパラジウムをコーティングしパラジウム層を形成し、その外周に第1樹脂層及び第2樹脂層をコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させるように構成した。
【0009】
また、本発明の他の光ファイバー式水素センサは、光ファイバーのクラッド外周にパラジウムを、前記光ファイバーの長手方向に非連続的にコーティングし焼成してなるパラジウム層を形成し、前記クラッドの外周に第1樹脂層及び第2樹脂層を、前記光ファイバーの長手方向に連続的にコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させるように構成した。
【0010】
さらに、好ましくは、パラジウム層にドープするナノ粒子は銀、ニッケル、あるいはクロムである。
【0011】
また、好ましくは、第2樹脂層にフッ素をドープあるいはコーティングした。
【0012】
さらに、上記光ファイバー式水素センサに光源から特定波長の光を出力し、パラジウム層の水素吸蔵によって光ファイバーに歪みが発生し、これによって発生するブリルアン散乱光を入力し、特定波長の光を出力した時刻からブリルアン散乱光を入力するまでの時間を計測し、この経過時間で水素吸蔵位置を特定し、入力したブリルアン散乱光が出力する特定波長の光からの波長シフト量、或いは周波数シフト量を評価し、この評価結果と特定した水素吸蔵位置により計測点の水素濃度を特定するように構成した。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水蒸気の浸透が阻止され、水素吸蔵素子に水蒸気が吸着されることがなくなり、水蒸気が存在する空間でも水素を正しくセンシングすることが可能となる。
【0014】
より具体的な構成によれば、光ファイバーのクラッド外周にパラジウムをコーティングしてパラジウム層を形成し、その外周に第1樹脂層及び第2樹脂層をコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させたものであり、紫外線照射処理により硬化された第1樹脂層及び第2樹脂層により水蒸気の浸透が阻止され、水素吸蔵素子に水蒸気が吸着されることがなくなり、水蒸気が存在する空間でも水素を正しくセンシングすることが可能となる。
【0015】
また、光ファイバーのクラッド外周にナノ粒子をドープしたパラジウムをコーティングしパラジウム層を形成し、その外周に第1樹脂層及び第2樹脂層をコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させ、ナノ粒子を銀、ニッケル、あるいはクロムとすることにより、高濃度水素下での不可逆的な物質特性変化を抑制できるために、パラジウム単体では高濃度水素下で不可逆的な物質特性変化が発生して水素を吸蔵し続け、光ファイバー式水素センサ周辺に水素がなくなってもその状態を正しく検出することができなくなるが、このような問題が発生することはない。
【0016】
また、第2樹脂層にフッ素をドープ或いはコーティングすることにより同じハロゲンのヨウ素がパラジウムに吸蔵されることがなく、ヨウ素が存在する環境下でも、水素を正しくセンシングすることが可能となる。
【0017】
さらに、上記光ファイバー式水素センサに光源から特定波長の光を出力し、パラジウム層の水素吸蔵によって光ファイバーに歪みが発生し、これによって上記特定波長の光から波長がシフトされたブリルアン散乱光を検出し、特定波長の光を出力した時刻からブリルアン散乱光を検出するまでの時間を計測し、この経過時間で水素吸蔵位置を特定し、検出したブリルアン散乱光が出力する特定波長の光からの波長シフト量、或いは周波数シフト量を評価し、この評価結果と特定した水素吸蔵位置により、水素濃度及びその分布の計測が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第一の実施形態である光ファイバー式水素センサの一構成図である。
【図2】本発明の第二の実施形態である光ファイバー式水素センサの一構成図である。
【図3】第一の光ファイバー式水素センサ製造設備の構成を示す構成図である。
【図4】本発明の第三の実施形態である光ファイバー式水素センサの一構成図である。
【図5】本発明の第四の実施形態である光ファイバー式水素センサの一構成図である。
【図6】第二の光ファイバー式水素センサ製造設備の構成を示す構成図である。
【図7】本発明の水素濃度計測装置の一構成図である。
【図8】ブリルアン散乱光を説明するための図である。
【図9】原子力発電所への光ファイバー式水素センサ及び水素濃度計測装置の適用構成例である。
【図10】中央制御室39の運転監視システムの一構成例である。
【図11】大画面可変情報表示装置の一表示例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照して本発明を詳細に説明する。図1は本発明の光ファイバー式水素センサの一例を示す図である。図1に示す光ファイバー式水素センサ6は、光ファイバー100のコア1の外周にクラッド2があり、この外周にパラジウムをコーティングして焼成してなるパラジウム層3を形成し、その外周に第1樹脂層4及び第2樹脂層5をコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させたものである。紫外線照射処理により硬化された第1樹脂層及び第2樹脂層により水蒸気の浸透が阻止され、水素吸蔵素子に水蒸気が吸着されることがなくなり、水蒸気が存在する空間でも水素を正しくセンシングすることが可能となる。水素は水蒸気に比べ分子が小さく、第1樹脂層4及び第2樹脂層5を通過し、パラジウム層3に到達する。パラジウム層3のパラジウムは水素を吸蔵し、パラジウム自体の体積が膨張し、光ファイバーのクラッド2に歪みを与え、後述するが、この歪みによって発生するブリルアン散乱光を測定して水素を検出することが可能になる。
【0020】
本発明の他の光ファイバー式水素センサを図2に示す。光ファイバー式水素センサ7は光ファイバーのクラッド2の外周にパラジウムを、その光ファイバーの長手方向に非連続的にコーティングし焼成してなるパラジウム層3を形成し、クラッド2の外周に第1樹脂層4及び第2樹脂層5を、その光ファイバーの長手方向に連続的にコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させたものである。この光ファイバー式水素センサ7はパラジウム層3が離散的に形成されているので、水素を離散的なエリアで検出することが可能である。図2の光ファイバー式水素センサ7はパラジウム層3が離散的に形成しているために、図1の光ファイバー式水素センサ6と比べ、材料が少なく安価にすることができる。
【0021】
図1及び図2の光ファイバー式水素センサは図3の光ファイバー式水素センサ製造設備によって製造することができる。光ファイバー母材8は、例えば石英母材であり、加熱炉9により溶融され、線引きされる。その後、パラジウムペーストをパラジウム層用ダイス10でダイスコートし、焼成炉11で焼成される。その後、第1樹脂層用ダイス12により第1の樹脂がダイスコートされ、紫外線照射機13により第1の樹脂が硬化される。さらに第2樹脂層用ダイス14により第2の樹脂がダイスコートされ、紫外線照射機15により第2の樹脂が硬化される。巻取りドラムはキャプスタン16を利用し光ファイバー式水素センサ6或いは7を巻き上げる。第2樹脂層は第1樹脂層より弾性率が高くなるように、樹脂成分が調合されており、光ファイバー式水素センサ6或いは7に可撓をもたせるようにしている。これは、光ファイバー式水素センサ6或いは7の取扱い作業や敷設作業を容易にするためである。さらに、本発明の光ファイバー式水素センサは、光ファイバーのクラッド外周にパラジウムをコーティングしてパラジウム層を形成し、その外周に第1樹脂層及び第2樹脂層をコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させているために、水蒸気の浸透が阻止され、水素吸蔵素子に水蒸気が吸着されることがなくなり、水蒸気が存在する空間でも水素を正しくセンシングすることが可能となる。しかも高温下での使用が可能である。特に、原子力発電所において異常時に水素が発生する場合には、高温環境下でありかつ水蒸気も発生することが多く、このような状況下において水素を正しくセンシングでき、適用効果が大きい。
【0022】
また、図3の光ファイバー式水素センサ製造設備において、第2樹脂層用ダイス14には、樹脂材にフッ素をドープして、第2樹脂層を形成することにより、フッ素ドープの第2樹脂層が形成できるために、同じハロゲンのヨウ素が第2樹脂層のフッ素にトラップされ、パラジウム層3に侵入することを防止できる。パラジウム層3にヨウ素が入り込むと、パラジウムとヨウ素の化学変化によりパラジウムの水素吸蔵性能が低下し、光ファイバー式水素センサは水素を正しく検出することが困難になる。第2樹脂層にフッ素を入れているために、光ファイバー式水素センサ6、7はこの問題を解決することが可能になる。
この結果、パラジウムにヨウ素が吸蔵されることがなく、ヨウ素が存在する環境下でも、水素を正しくセンシングすることが可能となる。特に原子力発電所において、ヨウ素が発生する様な環境下においても、水素を正しくセンシングでき、適用効果が大きい。
【0023】
図4及び図5の光ファイバー式水素センサは、図1及び図2の光ファイバー式水素センサにおいて、水素吸蔵部材のパラジウム層の最外周にフッ素コート層18を形成したものである。これにより、ヨウ素がフッ素コート層18でトラップされ、パラジウム層3に侵入することがなく、結果としてパラジウムにヨウ素が侵入することがないために、ヨウ素が存在する環境下でも、水素を正しくセンシングすることが可能となる。特に原子力発電所において、ヨウ素が発生するような環境下において、水素を正しくセンシングでき、図4及び図5の光ファイバー式水素センサの適用効果が大きい。
【0024】
図4及び図5の光ファイバー式水素センサは図6の光ファイバー式水素センサ製造設備によって製造することができる。図3と異なる部分は、紫外線照射機15とキャプスタン16間にフッ素コート用ダイス19、焼成炉20を備えている点である。紫外線照射機15により第2の樹脂が硬化された後、フッ素コート用ダイス19によりフッ素材がダイスコートされ、焼成炉20で焼成される。これにより、水素吸蔵部材のパラジウム層の最外周にフッ素コート層18を形成することができる。フッ素コート層18を焼成処理で形成しているために、この光ファイバー式水素センサは高温下での使用が可能である。
【0025】
光ファイバーのクラッド外周にナノ粒子をドープしたパラジウムをコーティングしパラジウム層を形成し、その外周に第1樹脂層及び第2樹脂層をコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させた光ファイバー式水素センサは、ナノ粒子を銀、ニッケル、あるいはクロムとすることにより、高濃度水素下での不可逆的な物質特性変化を抑制できるために、パラジウム単体では高濃度水素下で不可逆的な物質特性変化が発生して水素を吸蔵し続け、光ファイバー式水素センサ周辺に水素がなくなってもその状態を正しく検出することができなくなるが、このような問題が発生することはない。
【0026】
図7に示す水素濃度計測装置21の計測原理は以下のようになっている。光ファイバー式水素センサ6に光源24から特定波長の光を出力し、光ファイバー式水素センサ6のパラジウム層3の水素吸蔵による歪みによって上記特定波長の光から波長がシフトされたブリルアン散乱光を検出し、特定波長の光を出力した時刻からブリルアン散乱光を検出するまでの時間を計測し、この経過時間で水素検出位置を特定し、検出したブリルアン散乱光が上記の特定波長の光からの波長シフト量、或いは周波数シフト量を評価し、水素検出位置(パラジウム層3が水素を吸蔵した位置)での水素濃度を計測する。パラジウム層3は光ファイバー式水素センサ6の長手方向に連続的に形成されているために、連続的な水素濃度分布を計測することが可能になる。光ファイバー式水素センサ7を用いた場合には、離散的な水素濃度分布の計測が可能になる。
【0027】
以下、水素濃度計測装置21の構成について説明する。光ファイバー式水素センサ6を例に説明するが、光ファイバー式水素センサ7についても同様であり。異なる点は光ファイバー式水素センサの長手方向に連続的に水素濃度が計測できるか、離散的に測定できるかの違いである。光源24から特定波長の光を光ファイバー式水素センサ6に出力する。
22は光ファイバー式水素センサ6用のコネクタである。駆動回路25は光源24から特定波長の光を出力するための指令信号を光源24に出力すると共に、サンプリング処理回路29にサンプリング開始タイミングを指令するために該指令信号を出力する。光ファイバー式水素センサ6のパラジウム層3の水素吸蔵に伴うパラジウム層3の体積膨張によって歪みが発生し、これにより光ファイバー式水素センサ6の光ファイバー100が歪み、図8に示すように光ファイバー式水素センサ6に入射された入射光に対してブリルアン散乱光が発生する。ブリルアン散乱光は入射光に対して波長(周波数と言う場合がある)がシフトしており、この波長シフト量(周波数シフト量と言う場合がある)が上記水素吸蔵による歪みに対応する。このブリルアン散乱光はミラー22によりフィルタ26に導かれる。フィルタ26により入射光のフィルタリングがなされ、計測対象外の不要な光を除去する。フィルタ26から出力される光は光電変換器27に出力され、電気信号に変換される。変換された電気信号はアンプ28で増幅され、サンプリング処理回路29に出力される。
【0028】
サンプリング処理回路29は前記の指令信号が入力された後、一定サンプリングで入力信号をサンプリングし、ブリルアン散乱光が光ファイバー式水素センサ6に入射された光(入射光)からの経過時間を計測する。計測された経過時間は、換算演算処理を実施してどの位置で水素を検出したかを示す水素検出位置信号に変換される。水素検出位置信号は波長シフト検出回路30を介して水素濃度変換器31に出力される。サンプリング処理回路29でサンプリングされた検出信号は波長シフト検出回路30に出力され、波長シフト量(周波数シフト量ともいう)を計測する。計測された波長シフト量は水素濃度変換器31に出力され、換算演算処理を実施して水素濃度信号に換算される。水素濃度変換器31は水素検出位置信号と水素濃度信号も入力されており、これらを表示器32と水素濃度表示装置33に出力する。この結果、表示器32と水素濃度表示装置33は、計測点ごとの水素濃度、つまり計測エリアに対する水素濃度分布を表示することができる。光ファイバー式水素センサ7を用いた場合には、離散的な水素濃度分布を表示することができる。
【0029】
光ファイバー式水素センサ6を代表例として、原子力発電所への光ファイバー式水素センサの適用例を図9に示す。原子力発電所において大きな事故が発生して水素が発生する可能性が高いのは、原子炉建屋内と格納容器内である。このため、原子炉建屋34内の上部の広いエリアに、光ファイバー式水素センサ6を設置し、原子炉建屋34内設置される格納容器35内の上部に光ファイバー式水素センサ6と同一の光ファイバー式水素センサ37を設置する。格納容器は原子炉圧力容器36を格納している。原子炉圧力容器36内にある燃料棒が破損し、燃料被覆金属のジルコニウムと水との反応により水素が発生し、水素は軽いために格納容器内や原子炉建屋内の上層部に溜るようになる。このようなプラント状態では、水素発生と共に、水蒸気、ヨウ素が発生する可能性が高い。しかも高温下となる。このため、原子炉建屋34内や格納容器35内の上層部に光ファイバー式水素センサ6、37を設置して、発生する水素の濃度を検出することが重要になる。水素濃度計測装置21、38は中央制御室39に設置され、中央制御室39で水素濃度を監視できる。中央制御室39で原子力発電所の運転状態、機器状態と共に水素濃度が監視可能になるために、運転員が原子力発電所の安全性を即座に理解することが可能となり、水素爆発防止のために窒素を充填したり、水素をベントしたりするための判断や操作が短時間で実行できるという効果がある。
【0030】
中央制御室39の運転監視システムの構成を図10に示す。図10に示す運転監視システム51は、操作盤43、大画面表示装置41、大画面可変情報表示装置40、42、制御装置48、49、プロセス計算機50、水素濃度計測装置21、38、当直用専用コンソール45、各装置間のデータ伝送を行うネットワーク47を備えている。水素濃度計測装置21、38には光ファイバー式水素センサが接続されるが、これについては図示していない。44が運転員であり、45が当直長である。当直長45は運転員44に対するスーパーバイザーである。大画面表示装置41は、プラントの系統とそれに係わる機器の状態、主要パラメータ等が表示されており、プラント運転状態が容易にわかるようになっている。
【0031】
運転員44或いは当直長の操作により、大画面可変表示装置に水素濃度計測装置で計測した水素濃度が表示される。建屋構成図に関連づけて水素濃度を表示することで、運転員や当直長、図示していないが保守員等に対して視認性が高くなるようにしている。図11に表示状態の詳細を示すが、具体的には、水素濃度計測装置によって計測される水素濃度を計測するエリアに対応させて原子炉建屋及び格納容器の建屋構成図上に水素濃度分布を表示し、かつ両エリアにおける最大水素濃度を示している。このように表示することで、建屋内の水素濃度分布とその最大水素濃度が容易に分かり、安全処置判断をタイムリーに行うことが可能になる。
【0032】
このように、水蒸気、ヨウ素が発生する環境下においても、発生する水素濃度を正しく検出、かつ広範囲なエリアに対して水素濃度分布を計測することが可能であり、原子力発電所、水素スタンド建屋、水素を燃料とする車両やロケット等に適用し、その工業的価値は極めて高い。
【符号の説明】
【0033】
1 コア
2 クラッド
3 パラジウム層
4 第1樹脂層
5 第2樹脂層
6、7、37 光ファイバー式水素センサ
12 第1樹脂層用ダイス
13、15 紫外線照射機
14 第2樹脂層用ダイス
18 フッ素コート層
19 フッ素コート用ダイス
21、38 水素濃度計測装置
42 大画面可変情報表示装置
100 光ファイバー
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素センサ、水素濃度表示装置、水素濃度計測及び光ファイバー式水素センサの製造方法に関し、特に、原子力プラントなどの建屋内の水素を測定するのに好適な水素センサ、水素濃度計測装置、水素濃度表示装置及び光ファイバー式水素センサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントなどの建屋内の水素を測定する水素センサは、広範囲なエリアの水素計測になるために、光ファイバーを利用した水素センサが考えられるが、例えば、原子力プラントの建屋内において、水素が発生する場合には同時に水蒸気、ヨウ素が発生するケースがあり、これらの影響を抑制した水素センサが必要になる。例えば〔特許文献1〕には、ファイバクラッドにブラッグ格子を作り込み、周囲に水素吸蔵材としてパラジウムを取り付け、水蒸気、アンモニア、メタン、一酸化炭素などによる汚染防止のためにパラジウムの外周にゼオライト膜を施すことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−271525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
〔特許文献1〕に記載の従来の技術では、光ファイバーのクラッドに作り込まれたブラッグ格子部で光の減衰が発生するために、このブラック格子部分を光ファイバー全長において多数設置して水素を検出しようとすると、光ファイバー内を伝搬する光の強度が低下し、水素吸蔵によって発生する歪みに対する光強度の変化を正しく計測することが困難になり、結果として建屋内全体に亘り広範囲に水素を検出するということができなくなる。また、この従来例においては、パラジウムの外周にゼオライト膜を設けているが、ゼオライト膜は物理吸着であり吸着力が弱く、水蒸気が発生する様な高温下では水蒸気などの吸着能力が低下し、水蒸気がパラジウムに影響を与えて、パラジウムの水素吸蔵特性を低下させ、水素を正しく計測することができないという問題がある。また、水素濃度を検出する機能はない。
【0005】
本発明の目的は、例えば、原子力プラントにおける原子炉建屋及び格納容器内等の広範囲なエリアに対して水素センシングが可能であり、かつ高温下で水蒸気が発生する様な過酷な環境下でも、これらに影響を受けることなく水素を計測できる光ファイバー式水素センサ、水素濃度計測装置、水素濃度表示装置及び光ファイバー式水素センサの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、コアと、前記コアの外周に設けられたクラッドと、前記クラッドの外周に設けられたパラジウム層と、前記パラジウム層の外周に設けられ、硬化処理された樹脂層を有するように構成した。
【0007】
また、光ファイバーのクラッド外周にパラジウムをコーティングしてパラジウム層を形成し、その外周に第1樹脂層及び第2樹脂層をコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させるように構成した。
【0008】
さらに、光ファイバーのクラッド外周にナノ粒子をドープしたパラジウムをコーティングしパラジウム層を形成し、その外周に第1樹脂層及び第2樹脂層をコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させるように構成した。
【0009】
また、本発明の他の光ファイバー式水素センサは、光ファイバーのクラッド外周にパラジウムを、前記光ファイバーの長手方向に非連続的にコーティングし焼成してなるパラジウム層を形成し、前記クラッドの外周に第1樹脂層及び第2樹脂層を、前記光ファイバーの長手方向に連続的にコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させるように構成した。
【0010】
さらに、好ましくは、パラジウム層にドープするナノ粒子は銀、ニッケル、あるいはクロムである。
【0011】
また、好ましくは、第2樹脂層にフッ素をドープあるいはコーティングした。
【0012】
さらに、上記光ファイバー式水素センサに光源から特定波長の光を出力し、パラジウム層の水素吸蔵によって光ファイバーに歪みが発生し、これによって発生するブリルアン散乱光を入力し、特定波長の光を出力した時刻からブリルアン散乱光を入力するまでの時間を計測し、この経過時間で水素吸蔵位置を特定し、入力したブリルアン散乱光が出力する特定波長の光からの波長シフト量、或いは周波数シフト量を評価し、この評価結果と特定した水素吸蔵位置により計測点の水素濃度を特定するように構成した。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水蒸気の浸透が阻止され、水素吸蔵素子に水蒸気が吸着されることがなくなり、水蒸気が存在する空間でも水素を正しくセンシングすることが可能となる。
【0014】
より具体的な構成によれば、光ファイバーのクラッド外周にパラジウムをコーティングしてパラジウム層を形成し、その外周に第1樹脂層及び第2樹脂層をコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させたものであり、紫外線照射処理により硬化された第1樹脂層及び第2樹脂層により水蒸気の浸透が阻止され、水素吸蔵素子に水蒸気が吸着されることがなくなり、水蒸気が存在する空間でも水素を正しくセンシングすることが可能となる。
【0015】
また、光ファイバーのクラッド外周にナノ粒子をドープしたパラジウムをコーティングしパラジウム層を形成し、その外周に第1樹脂層及び第2樹脂層をコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させ、ナノ粒子を銀、ニッケル、あるいはクロムとすることにより、高濃度水素下での不可逆的な物質特性変化を抑制できるために、パラジウム単体では高濃度水素下で不可逆的な物質特性変化が発生して水素を吸蔵し続け、光ファイバー式水素センサ周辺に水素がなくなってもその状態を正しく検出することができなくなるが、このような問題が発生することはない。
【0016】
また、第2樹脂層にフッ素をドープ或いはコーティングすることにより同じハロゲンのヨウ素がパラジウムに吸蔵されることがなく、ヨウ素が存在する環境下でも、水素を正しくセンシングすることが可能となる。
【0017】
さらに、上記光ファイバー式水素センサに光源から特定波長の光を出力し、パラジウム層の水素吸蔵によって光ファイバーに歪みが発生し、これによって上記特定波長の光から波長がシフトされたブリルアン散乱光を検出し、特定波長の光を出力した時刻からブリルアン散乱光を検出するまでの時間を計測し、この経過時間で水素吸蔵位置を特定し、検出したブリルアン散乱光が出力する特定波長の光からの波長シフト量、或いは周波数シフト量を評価し、この評価結果と特定した水素吸蔵位置により、水素濃度及びその分布の計測が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第一の実施形態である光ファイバー式水素センサの一構成図である。
【図2】本発明の第二の実施形態である光ファイバー式水素センサの一構成図である。
【図3】第一の光ファイバー式水素センサ製造設備の構成を示す構成図である。
【図4】本発明の第三の実施形態である光ファイバー式水素センサの一構成図である。
【図5】本発明の第四の実施形態である光ファイバー式水素センサの一構成図である。
【図6】第二の光ファイバー式水素センサ製造設備の構成を示す構成図である。
【図7】本発明の水素濃度計測装置の一構成図である。
【図8】ブリルアン散乱光を説明するための図である。
【図9】原子力発電所への光ファイバー式水素センサ及び水素濃度計測装置の適用構成例である。
【図10】中央制御室39の運転監視システムの一構成例である。
【図11】大画面可変情報表示装置の一表示例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照して本発明を詳細に説明する。図1は本発明の光ファイバー式水素センサの一例を示す図である。図1に示す光ファイバー式水素センサ6は、光ファイバー100のコア1の外周にクラッド2があり、この外周にパラジウムをコーティングして焼成してなるパラジウム層3を形成し、その外周に第1樹脂層4及び第2樹脂層5をコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させたものである。紫外線照射処理により硬化された第1樹脂層及び第2樹脂層により水蒸気の浸透が阻止され、水素吸蔵素子に水蒸気が吸着されることがなくなり、水蒸気が存在する空間でも水素を正しくセンシングすることが可能となる。水素は水蒸気に比べ分子が小さく、第1樹脂層4及び第2樹脂層5を通過し、パラジウム層3に到達する。パラジウム層3のパラジウムは水素を吸蔵し、パラジウム自体の体積が膨張し、光ファイバーのクラッド2に歪みを与え、後述するが、この歪みによって発生するブリルアン散乱光を測定して水素を検出することが可能になる。
【0020】
本発明の他の光ファイバー式水素センサを図2に示す。光ファイバー式水素センサ7は光ファイバーのクラッド2の外周にパラジウムを、その光ファイバーの長手方向に非連続的にコーティングし焼成してなるパラジウム層3を形成し、クラッド2の外周に第1樹脂層4及び第2樹脂層5を、その光ファイバーの長手方向に連続的にコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させたものである。この光ファイバー式水素センサ7はパラジウム層3が離散的に形成されているので、水素を離散的なエリアで検出することが可能である。図2の光ファイバー式水素センサ7はパラジウム層3が離散的に形成しているために、図1の光ファイバー式水素センサ6と比べ、材料が少なく安価にすることができる。
【0021】
図1及び図2の光ファイバー式水素センサは図3の光ファイバー式水素センサ製造設備によって製造することができる。光ファイバー母材8は、例えば石英母材であり、加熱炉9により溶融され、線引きされる。その後、パラジウムペーストをパラジウム層用ダイス10でダイスコートし、焼成炉11で焼成される。その後、第1樹脂層用ダイス12により第1の樹脂がダイスコートされ、紫外線照射機13により第1の樹脂が硬化される。さらに第2樹脂層用ダイス14により第2の樹脂がダイスコートされ、紫外線照射機15により第2の樹脂が硬化される。巻取りドラムはキャプスタン16を利用し光ファイバー式水素センサ6或いは7を巻き上げる。第2樹脂層は第1樹脂層より弾性率が高くなるように、樹脂成分が調合されており、光ファイバー式水素センサ6或いは7に可撓をもたせるようにしている。これは、光ファイバー式水素センサ6或いは7の取扱い作業や敷設作業を容易にするためである。さらに、本発明の光ファイバー式水素センサは、光ファイバーのクラッド外周にパラジウムをコーティングしてパラジウム層を形成し、その外周に第1樹脂層及び第2樹脂層をコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させているために、水蒸気の浸透が阻止され、水素吸蔵素子に水蒸気が吸着されることがなくなり、水蒸気が存在する空間でも水素を正しくセンシングすることが可能となる。しかも高温下での使用が可能である。特に、原子力発電所において異常時に水素が発生する場合には、高温環境下でありかつ水蒸気も発生することが多く、このような状況下において水素を正しくセンシングでき、適用効果が大きい。
【0022】
また、図3の光ファイバー式水素センサ製造設備において、第2樹脂層用ダイス14には、樹脂材にフッ素をドープして、第2樹脂層を形成することにより、フッ素ドープの第2樹脂層が形成できるために、同じハロゲンのヨウ素が第2樹脂層のフッ素にトラップされ、パラジウム層3に侵入することを防止できる。パラジウム層3にヨウ素が入り込むと、パラジウムとヨウ素の化学変化によりパラジウムの水素吸蔵性能が低下し、光ファイバー式水素センサは水素を正しく検出することが困難になる。第2樹脂層にフッ素を入れているために、光ファイバー式水素センサ6、7はこの問題を解決することが可能になる。
この結果、パラジウムにヨウ素が吸蔵されることがなく、ヨウ素が存在する環境下でも、水素を正しくセンシングすることが可能となる。特に原子力発電所において、ヨウ素が発生する様な環境下においても、水素を正しくセンシングでき、適用効果が大きい。
【0023】
図4及び図5の光ファイバー式水素センサは、図1及び図2の光ファイバー式水素センサにおいて、水素吸蔵部材のパラジウム層の最外周にフッ素コート層18を形成したものである。これにより、ヨウ素がフッ素コート層18でトラップされ、パラジウム層3に侵入することがなく、結果としてパラジウムにヨウ素が侵入することがないために、ヨウ素が存在する環境下でも、水素を正しくセンシングすることが可能となる。特に原子力発電所において、ヨウ素が発生するような環境下において、水素を正しくセンシングでき、図4及び図5の光ファイバー式水素センサの適用効果が大きい。
【0024】
図4及び図5の光ファイバー式水素センサは図6の光ファイバー式水素センサ製造設備によって製造することができる。図3と異なる部分は、紫外線照射機15とキャプスタン16間にフッ素コート用ダイス19、焼成炉20を備えている点である。紫外線照射機15により第2の樹脂が硬化された後、フッ素コート用ダイス19によりフッ素材がダイスコートされ、焼成炉20で焼成される。これにより、水素吸蔵部材のパラジウム層の最外周にフッ素コート層18を形成することができる。フッ素コート層18を焼成処理で形成しているために、この光ファイバー式水素センサは高温下での使用が可能である。
【0025】
光ファイバーのクラッド外周にナノ粒子をドープしたパラジウムをコーティングしパラジウム層を形成し、その外周に第1樹脂層及び第2樹脂層をコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させた光ファイバー式水素センサは、ナノ粒子を銀、ニッケル、あるいはクロムとすることにより、高濃度水素下での不可逆的な物質特性変化を抑制できるために、パラジウム単体では高濃度水素下で不可逆的な物質特性変化が発生して水素を吸蔵し続け、光ファイバー式水素センサ周辺に水素がなくなってもその状態を正しく検出することができなくなるが、このような問題が発生することはない。
【0026】
図7に示す水素濃度計測装置21の計測原理は以下のようになっている。光ファイバー式水素センサ6に光源24から特定波長の光を出力し、光ファイバー式水素センサ6のパラジウム層3の水素吸蔵による歪みによって上記特定波長の光から波長がシフトされたブリルアン散乱光を検出し、特定波長の光を出力した時刻からブリルアン散乱光を検出するまでの時間を計測し、この経過時間で水素検出位置を特定し、検出したブリルアン散乱光が上記の特定波長の光からの波長シフト量、或いは周波数シフト量を評価し、水素検出位置(パラジウム層3が水素を吸蔵した位置)での水素濃度を計測する。パラジウム層3は光ファイバー式水素センサ6の長手方向に連続的に形成されているために、連続的な水素濃度分布を計測することが可能になる。光ファイバー式水素センサ7を用いた場合には、離散的な水素濃度分布の計測が可能になる。
【0027】
以下、水素濃度計測装置21の構成について説明する。光ファイバー式水素センサ6を例に説明するが、光ファイバー式水素センサ7についても同様であり。異なる点は光ファイバー式水素センサの長手方向に連続的に水素濃度が計測できるか、離散的に測定できるかの違いである。光源24から特定波長の光を光ファイバー式水素センサ6に出力する。
22は光ファイバー式水素センサ6用のコネクタである。駆動回路25は光源24から特定波長の光を出力するための指令信号を光源24に出力すると共に、サンプリング処理回路29にサンプリング開始タイミングを指令するために該指令信号を出力する。光ファイバー式水素センサ6のパラジウム層3の水素吸蔵に伴うパラジウム層3の体積膨張によって歪みが発生し、これにより光ファイバー式水素センサ6の光ファイバー100が歪み、図8に示すように光ファイバー式水素センサ6に入射された入射光に対してブリルアン散乱光が発生する。ブリルアン散乱光は入射光に対して波長(周波数と言う場合がある)がシフトしており、この波長シフト量(周波数シフト量と言う場合がある)が上記水素吸蔵による歪みに対応する。このブリルアン散乱光はミラー22によりフィルタ26に導かれる。フィルタ26により入射光のフィルタリングがなされ、計測対象外の不要な光を除去する。フィルタ26から出力される光は光電変換器27に出力され、電気信号に変換される。変換された電気信号はアンプ28で増幅され、サンプリング処理回路29に出力される。
【0028】
サンプリング処理回路29は前記の指令信号が入力された後、一定サンプリングで入力信号をサンプリングし、ブリルアン散乱光が光ファイバー式水素センサ6に入射された光(入射光)からの経過時間を計測する。計測された経過時間は、換算演算処理を実施してどの位置で水素を検出したかを示す水素検出位置信号に変換される。水素検出位置信号は波長シフト検出回路30を介して水素濃度変換器31に出力される。サンプリング処理回路29でサンプリングされた検出信号は波長シフト検出回路30に出力され、波長シフト量(周波数シフト量ともいう)を計測する。計測された波長シフト量は水素濃度変換器31に出力され、換算演算処理を実施して水素濃度信号に換算される。水素濃度変換器31は水素検出位置信号と水素濃度信号も入力されており、これらを表示器32と水素濃度表示装置33に出力する。この結果、表示器32と水素濃度表示装置33は、計測点ごとの水素濃度、つまり計測エリアに対する水素濃度分布を表示することができる。光ファイバー式水素センサ7を用いた場合には、離散的な水素濃度分布を表示することができる。
【0029】
光ファイバー式水素センサ6を代表例として、原子力発電所への光ファイバー式水素センサの適用例を図9に示す。原子力発電所において大きな事故が発生して水素が発生する可能性が高いのは、原子炉建屋内と格納容器内である。このため、原子炉建屋34内の上部の広いエリアに、光ファイバー式水素センサ6を設置し、原子炉建屋34内設置される格納容器35内の上部に光ファイバー式水素センサ6と同一の光ファイバー式水素センサ37を設置する。格納容器は原子炉圧力容器36を格納している。原子炉圧力容器36内にある燃料棒が破損し、燃料被覆金属のジルコニウムと水との反応により水素が発生し、水素は軽いために格納容器内や原子炉建屋内の上層部に溜るようになる。このようなプラント状態では、水素発生と共に、水蒸気、ヨウ素が発生する可能性が高い。しかも高温下となる。このため、原子炉建屋34内や格納容器35内の上層部に光ファイバー式水素センサ6、37を設置して、発生する水素の濃度を検出することが重要になる。水素濃度計測装置21、38は中央制御室39に設置され、中央制御室39で水素濃度を監視できる。中央制御室39で原子力発電所の運転状態、機器状態と共に水素濃度が監視可能になるために、運転員が原子力発電所の安全性を即座に理解することが可能となり、水素爆発防止のために窒素を充填したり、水素をベントしたりするための判断や操作が短時間で実行できるという効果がある。
【0030】
中央制御室39の運転監視システムの構成を図10に示す。図10に示す運転監視システム51は、操作盤43、大画面表示装置41、大画面可変情報表示装置40、42、制御装置48、49、プロセス計算機50、水素濃度計測装置21、38、当直用専用コンソール45、各装置間のデータ伝送を行うネットワーク47を備えている。水素濃度計測装置21、38には光ファイバー式水素センサが接続されるが、これについては図示していない。44が運転員であり、45が当直長である。当直長45は運転員44に対するスーパーバイザーである。大画面表示装置41は、プラントの系統とそれに係わる機器の状態、主要パラメータ等が表示されており、プラント運転状態が容易にわかるようになっている。
【0031】
運転員44或いは当直長の操作により、大画面可変表示装置に水素濃度計測装置で計測した水素濃度が表示される。建屋構成図に関連づけて水素濃度を表示することで、運転員や当直長、図示していないが保守員等に対して視認性が高くなるようにしている。図11に表示状態の詳細を示すが、具体的には、水素濃度計測装置によって計測される水素濃度を計測するエリアに対応させて原子炉建屋及び格納容器の建屋構成図上に水素濃度分布を表示し、かつ両エリアにおける最大水素濃度を示している。このように表示することで、建屋内の水素濃度分布とその最大水素濃度が容易に分かり、安全処置判断をタイムリーに行うことが可能になる。
【0032】
このように、水蒸気、ヨウ素が発生する環境下においても、発生する水素濃度を正しく検出、かつ広範囲なエリアに対して水素濃度分布を計測することが可能であり、原子力発電所、水素スタンド建屋、水素を燃料とする車両やロケット等に適用し、その工業的価値は極めて高い。
【符号の説明】
【0033】
1 コア
2 クラッド
3 パラジウム層
4 第1樹脂層
5 第2樹脂層
6、7、37 光ファイバー式水素センサ
12 第1樹脂層用ダイス
13、15 紫外線照射機
14 第2樹脂層用ダイス
18 フッ素コート層
19 フッ素コート用ダイス
21、38 水素濃度計測装置
42 大画面可変情報表示装置
100 光ファイバー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、前記コアの外周に設けられたクラッドと、前記クラッドの外周に設けられたパラジウム層と、前記パラジウム層の外周に設けられ、硬化処理された樹脂層を有することを特徴とする光ファイバー式水素センサ。
【請求項2】
請求項1において、前記樹脂層は、紫外線照射処理により硬化して形成されたことを特徴とする光ファイバー式水素センサ。
【請求項3】
請求項2において、前記樹脂層の外周に、さらに、第2の樹脂層が設けられたことを特徴とする光ファイバー式水素センサ。
【請求項4】
請求項1において、前記パラジウム層は、光ファイバーのクラッド外周にナノ粒子をドープしたパラジウムをコーティングして形成されることを特徴とする光ファイバー式水素センサ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、最外周の樹脂層にフッ素がドープあるいはコーティングで形成されることを特徴とする光ファイバー式水素センサ。
【請求項6】
請求項4において、前記パラジウム層に銀、ニッケル、あるいはクロムであるナノ粒子をドープすることを特徴とする光ファイバー式水素センサ。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、前記パラジウム層と前記樹脂層はダイスにより形成することを特徴とする光ファイバー式水素センサ。
【請求項8】
コアと、前記コアの外周に設けられたクラッドと、前記クラッドの外周に設けられたパラジウム層と、前記パラジウム層の外周に設けられ、硬化処理された樹脂層を有する光ファイバー式水素センサに、光源から特定波長の光を出力し、前記パラジウム層の水素吸蔵による歪みによって上記特定波長の光から波長がシフトされたブリルアン散乱光を検出し、特定波長の光を出力した時刻からブリルアン散乱光を検出するまでの時間を計測し、この経過時間で水素吸蔵位置を特定し、検出したブリルアン散乱光が上記の特定波長の光からの波長シフト量、或いは周波数シフト量を評価し、水素吸蔵位置の水素濃度を計測する水素濃度計測装置。
【請求項9】
コアと、前記コアの外周に設けられたクラッドと、前記クラッドの外周に設けられたパラジウム層と、前記パラジウム層の外周に設けられ、硬化処理された樹脂層を有する光ファイバー式水素センサに、光源から特定波長の光を出力し、前記パラジウム層の水素吸蔵による歪みによって上記特定波長の光から波長がシフトされたブリルアン散乱光を検出し、特定波長の光を出力した時刻からブリルアン散乱光を検出するまでの時間を計測し、この経過時間で水素吸蔵位置を特定し、検出したブリルアン散乱光が上記の特定波長の光からの波長シフト量、或いは周波数シフト量を評価し、水素吸蔵位置の水素濃度を計測する水素濃度計測装置によって計測された水素濃度を計測したエリアに対応させて建屋構成図上に表示することを特徴とする水素濃度表示装置。
【請求項10】
光ファイバーのクラッド外周にパラジウムをコーティングしてパラジウム層を形成し、その外周に樹脂層をコーティングして、該樹脂層を紫外線照射処理により硬化させて光ファイバー式水素センサを製造する光ファイバー式水素センサの製造方法。
【請求項11】
光ファイバーのクラッド外周にパラジウムをコーティングしてパラジウム層を形成し、その外周に第1樹脂層及び第2樹脂層をコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させて光ファイバー式水素センサを製造する光ファイバー式水素センサの製造方法。
【請求項12】
光ファイバーのクラッド外周にナノ粒子をドープしたパラジウムをコーティングしパラジウム層を形成し、その外周に第1樹脂層及び第2樹脂層をコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させて光ファイバー式水素センサを製造する光ファイバー式水素センサの製造方法。
【請求項13】
光ファイバーのクラッド外周にパラジウムを、前記光ファイバーの長手方向に非連続的にコーティングし、前記クラッドの外周に第1樹脂層及び第2樹脂層を、前記光ファイバーの長手方向に連続的にコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させて光ファイバー式水素センサを製造する光ファイバー式水素センサの製造方法。
【請求項14】
光ファイバーのクラッド外周にナノ粒子をドープしたパラジウムを、前記光ファイバーの長手方向に非連続的にコーティングし、前記クラッドの外周に第1樹脂層及び第2樹脂層を、前記光ファイバーの長手方向に連続的にコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させて光ファイバー式水素センサを製造する光ファイバー式水素センサの製造方法。
【請求項1】
コアと、前記コアの外周に設けられたクラッドと、前記クラッドの外周に設けられたパラジウム層と、前記パラジウム層の外周に設けられ、硬化処理された樹脂層を有することを特徴とする光ファイバー式水素センサ。
【請求項2】
請求項1において、前記樹脂層は、紫外線照射処理により硬化して形成されたことを特徴とする光ファイバー式水素センサ。
【請求項3】
請求項2において、前記樹脂層の外周に、さらに、第2の樹脂層が設けられたことを特徴とする光ファイバー式水素センサ。
【請求項4】
請求項1において、前記パラジウム層は、光ファイバーのクラッド外周にナノ粒子をドープしたパラジウムをコーティングして形成されることを特徴とする光ファイバー式水素センサ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、最外周の樹脂層にフッ素がドープあるいはコーティングで形成されることを特徴とする光ファイバー式水素センサ。
【請求項6】
請求項4において、前記パラジウム層に銀、ニッケル、あるいはクロムであるナノ粒子をドープすることを特徴とする光ファイバー式水素センサ。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、前記パラジウム層と前記樹脂層はダイスにより形成することを特徴とする光ファイバー式水素センサ。
【請求項8】
コアと、前記コアの外周に設けられたクラッドと、前記クラッドの外周に設けられたパラジウム層と、前記パラジウム層の外周に設けられ、硬化処理された樹脂層を有する光ファイバー式水素センサに、光源から特定波長の光を出力し、前記パラジウム層の水素吸蔵による歪みによって上記特定波長の光から波長がシフトされたブリルアン散乱光を検出し、特定波長の光を出力した時刻からブリルアン散乱光を検出するまでの時間を計測し、この経過時間で水素吸蔵位置を特定し、検出したブリルアン散乱光が上記の特定波長の光からの波長シフト量、或いは周波数シフト量を評価し、水素吸蔵位置の水素濃度を計測する水素濃度計測装置。
【請求項9】
コアと、前記コアの外周に設けられたクラッドと、前記クラッドの外周に設けられたパラジウム層と、前記パラジウム層の外周に設けられ、硬化処理された樹脂層を有する光ファイバー式水素センサに、光源から特定波長の光を出力し、前記パラジウム層の水素吸蔵による歪みによって上記特定波長の光から波長がシフトされたブリルアン散乱光を検出し、特定波長の光を出力した時刻からブリルアン散乱光を検出するまでの時間を計測し、この経過時間で水素吸蔵位置を特定し、検出したブリルアン散乱光が上記の特定波長の光からの波長シフト量、或いは周波数シフト量を評価し、水素吸蔵位置の水素濃度を計測する水素濃度計測装置によって計測された水素濃度を計測したエリアに対応させて建屋構成図上に表示することを特徴とする水素濃度表示装置。
【請求項10】
光ファイバーのクラッド外周にパラジウムをコーティングしてパラジウム層を形成し、その外周に樹脂層をコーティングして、該樹脂層を紫外線照射処理により硬化させて光ファイバー式水素センサを製造する光ファイバー式水素センサの製造方法。
【請求項11】
光ファイバーのクラッド外周にパラジウムをコーティングしてパラジウム層を形成し、その外周に第1樹脂層及び第2樹脂層をコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させて光ファイバー式水素センサを製造する光ファイバー式水素センサの製造方法。
【請求項12】
光ファイバーのクラッド外周にナノ粒子をドープしたパラジウムをコーティングしパラジウム層を形成し、その外周に第1樹脂層及び第2樹脂層をコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させて光ファイバー式水素センサを製造する光ファイバー式水素センサの製造方法。
【請求項13】
光ファイバーのクラッド外周にパラジウムを、前記光ファイバーの長手方向に非連続的にコーティングし、前記クラッドの外周に第1樹脂層及び第2樹脂層を、前記光ファイバーの長手方向に連続的にコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させて光ファイバー式水素センサを製造する光ファイバー式水素センサの製造方法。
【請求項14】
光ファイバーのクラッド外周にナノ粒子をドープしたパラジウムを、前記光ファイバーの長手方向に非連続的にコーティングし、前記クラッドの外周に第1樹脂層及び第2樹脂層を、前記光ファイバーの長手方向に連続的にコーティングして、該両樹脂層を紫外線照射処理により硬化させて光ファイバー式水素センサを製造する光ファイバー式水素センサの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−76599(P2013−76599A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215899(P2011−215899)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]