説明

光ファイバ用母材及びその製造方法

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は光フアイバ用母材の製造方法に関し、詳しくはシングルモードフアイバ、特に1.55μm波長帯で零分散となる分散シフト型シングルモードフアイバ用母材の製造方法に関するものである。
〔従来の技術〕
従来の光フアイバ製造技術の一つに、第2図に示すようにコア用ガラスロツド4をクラツド用ガラスパイプ5の中空部に挿入した状態で、これを加熱により溶着一体化(コラツプスと称する)して、コア/クラツドからなる構成体7を作製し、該構成体7を高温炉を用いて線引きし光フアイバとする方法があり、ロツドインチユーブ法として知られている。
近年、分散シフト型等のシングルモードフアイバの開発が進んでいるが、この種のフアイバは、コアとクラツドの屈折率差が大きく、コア径が小さく、しかもクラツド径/コア径(比)が大きいという構造が要求される。
前記したロツドインチユーブ法により、コア径が小さく、クラツド径/コア径比の大きなシングルモードフアイバ母材を作製するには、コラツプスまでの操作を繰返す或は第3図に示すようにコア/クラツドからなる構成体7の外周に、更にバーナ9の火炎中に合成したガラス微粒子(スート)10を堆積してクラツド用スート体8を形成する方法(例えば特願昭61-72433号公報)等が知られている。
〔発明が解決しようとする問題点〕
しかしながら、上記した従来技術によつてシングルモードフアイバ、特にフアイバ断面の屈折率分布が第1図(a)又は(b)に示す構造で、コア1が純粋石英(SiO2)ガラスからなり、クラツド2がフツ素含有石英(F-SiO2)ガラスからなり、コアとクラツドの比屈折率差が0.5%以上となる分散シフト型シングルモードフアイバを作製すると、伝送損失の小さなフアイバが得られないという問題があつた。
本発明はシングルモードフアイバ、特にコアがSiO2ガラス、クラツドがF-SiO2ガラスからなり、1.55μmで零分散となる分散シフト型シングルモードフアイバであつて、伝送損失の小さなフアイバを、ロツドインチユーブ法を利用した方法で製造すること及びこれによる光フアイバ用母材を目的としてなされたものである。
〔問題点を解決するための手段及び作用〕
本発明はSiO2ガラスからなるコア用ロツドをその比屈折率差がSiO2ガラスよりも0.5%以上小さいクラツド用パイプの中空部内に挿入して加熱することにより両者を溶着一体化する工程を有する光フアイバ用母材の製造方法において、上記クラツド用パイプとして外径50mm以下のフツ素含有SiO2ガラスパイプを用い、かつ溶着一体化した後のコア径Aおよびクラツド径Bが

の上記条件を満足するようにコア用ロツド及びクラツド用パイプのサイズを決め、コアガラス表面が滑らかになるように水素を含む火炎を加熱源として用いて加熱し一体化することを特徴とする光フアイバ用母材の製造方法、及びSiO2ガラスからなるコア用ロツドをその比屈折率差がSiO2ガラスよりも0.5%以上小さく外径50mm以下のクラツド用フツ素含有SiO2ガラスパイプの中空部内に挿入し溶着一体化してなる光フアイバ用母材において、溶着一体化した後のコア径Aおよびクラツド径BがA≧2mmB/A≧61/2(B−A)≧7mmの上記条件を満足するものであることを特徴とする光フアイバ用母材であり、これにより伝送特性に優れた1.55μm帯零分散シフトシングルモードフアイバを効率の良いロツドインチユーブ法を利用して製造することを実現するものである。
以下に本発明に到達した経緯から始めて、本発明を詳細に説明する。
コアがSiO2、クラツドがF-SiO2ガラスからなり第1図(a)又は(b)に示す屈折率分布構造であつて、分散シフト型等のコア・クラツドの比屈折率差が0.5以上と大きく、かつコア径が5μm程度と小さなフアイバを作製しようとすると、クラツドへのフツ素(F)添加量を大きくとる必要があり、また、クラツド径/コア径比を大きく形成する必要がある。
ところでSiO2にフツ素(F)を添加してF-SiO2とすると、その物性がSiO2とは異つてくるが、特に粘性において大きく変化し、Fの添加によつてSiO2の粘性は大巾に低下する。F添加量の多いシングルモードフアイバではこれが特に顕著になる。
コラツプス法で本発明の目的とする細径SiO2コア、太径のF-SiO2クラツドからなる構造体の作製を試みると、加熱の際にクラツドガラスがより軟かくなるため、このクラツドガラスがコアガラスにより低温状態で溶着してしまい、コアガラス表面が充分な加熱による滑らかな状態(アレのない状態)となる以前に一体化してしまう。そのためにコア−クラツド界面にはアレが残る度合が大きくなり、これがフアイバの伝送損失の劣下を招く大きな要因となつていた。
また、F-SiO2ガラスにおいては、SiO2ガラスに比して、金属イオン等の拡散速度が高温下で大きく、特にF濃度の高いガラスでは、コラツプスまたは線引等の加熱工程において、外部から混入する、光フアイバの伝送特性に有害な金属やOH基等の不純物が、コア近辺に拡散する度合が高くなる。これによつても光フアイバの伝送損失が大きく劣下する。
そこで本発明者らは、上記の物性差による影響ができるだけ小さくなるような、加熱工程での加熱源、そのときのコアとクラツドのサイズ等を求めて、詳細に検討し実験を重ねた。
この結果、クラツドとなるF-SiO2ガラスパイプとして、屈折率値がSiO2ガラスに比べ比屈折率差で0.5%以上小さな場合、パイプの外径が50mmより小さいパイプを用いて、加熱源として水素を含む火炎を用いてコラツプスを行ない、さらにコラツプス後のコア径をA、クラツド径をBとするとき、下記のA≧2mm、B/A≧6、(B−A)≧7mmの条件を満せば、うまくコラツプスでき、また不純物、特に残留水分の影響も、実用フアイバとしては無視できる程小さなSiO2コアの分散シフトシングルモードフアイバが得られることが判つた。
本発明に用いるF-SiO2ガラスからなるクラツド用のパイプは、例えば特願昭53-137659号明細書、同58-195209号明細書、同60-103997号明細書等に提案される方法により、径方向に比較的均一にFが添加された高純度な石英ガラス母材を作製することができるので、該母材中央に機械的に穿孔することにより所望のパイプを得ることができる。該クラツドパイプの外径は50mm以下、肉厚は20mm以下が好ましい。これらの値を越えるとコア部表面を充分に高温とすることが難かしくなるからである。
コアのSiO2ガラスロツドは、原料ガス中にGeO2等のドーパントを導入しない条件でSiO2スート体を作製し、これをCl2等の塩素系ガスで充分に脱水処理した後、さらに加熱して透明化することにより所望のガラスロツドを作製できる。
以上のようなクラツド用F-SiO2パイプの中空部にコア用SiO2ロツドを挿入した状態で、水素を含む火炎で該パイプの外側から加熱しコラツプスする。
本発明に用いられる水素を含む火炎としては、例えばH2/O2炎、天然ガス/O2炎、メタン/O2やプロパン/O2等の炭化水素/O2炎等が手軽で強い火力が得られる点で好ましい。
コラツプス後のコア径Aとクラツド径Bについては、まずA≧2mmが好ましく、これはこの径よりも細くなると、コラツプス過程にてコアが蛇行し易くなり、コア周辺に気泡を巻き込んだり、コアの偏心が大きなものとなつたりして良好なコラツプス体が得られないからである。
またB/A≧6及び(B−A)≧7mmという条件は、いずれも得られるフアイバの伝送損失に大きな影響を与える残留水分量を所定の値に制限するという理由による。
コアとクラツドの比屈折率差が0.5%で、コア径が5μm、フアイバ外径が125μmの第1図(a)の構造のフアイバを、H2/O2炎によるコラツプスと、第3図に示すスート堆積法を組合せて合成した。このとき、コラツプス後のBを24mmと一定値にしてコア用ロツド外径Aの値を主に変えて、クラツド径/コア径すなわちB/Aを変化させた場合の、光フアイバの1.38μmにおける伝送ロスの変化を調べた。1.38μmでの伝送ロスは残留OH量を推定できる。この結果は第4図のグラフに示すとおりであつて、本発明の範囲のB/Aが6以上で伝送ロスが急激に低下していることが判る。
〔実施例〕
実施例及び比較例 VAD法により高純度なSiO2ガラスロツドを合成し、これをヒータがカーボンである抵抗炉を用いて、所定の外径に延伸した。一方、比屈折率差でSiO2ガラスに比べ0.7%低い屈折率のF含有SiO2ガラスロツドをVAD法により合成し、これらの中央を穿孔し、次に延伸して所定サイズのクラツド用パイプを作製した。表1にロツドとパイプの組合せを示す。No.1〜No.3が本発明品(実施例)であり、No.4〜No.6は比較品(比較例)である。
以上のガラスロツドをクラツド用ガラスパイプの中空部に挿入し、両者の界面にCl2 300cc/分及びSF6 500cc/分を導入しながら、H2/O2炎バーナにより約1800℃に加熱し、パイプの一端より該パイプを収縮させることにより、上記コアロツドとクラツドパイプとを溶着一体化させた(第2図参照)。得られた構成体を延伸し、この延伸体の外周部に第3図の構成のVAD法によりSiO2スートを堆積させた。SiO2スート層の厚さは、これをフツ素添加及び透明化して線引用プリフオームとした後、外径125μmのフアイバに線引きしたとき、コア径が5μmとなるような所定厚さとした。該スート体を表1の第1ステツプの条件で脱水し、第2ステツプの条件でフツ素添加し、第3ステツプの条件で透明化してフアイバ母材とし、線引きし、外径125μm、コア5μmのフアイバを得た。
得られた各フアイバの波長1.38μmにおける損失(α1.38)を測定した。これ等の結果を表2に示す。
表2の結果からコア径Aおよびクラツド径Bが本発明の限定する範囲、条件を満足する場合に伝送損失特性が優れたシングルモードフアイバとなつていることが明らかに判る。




〔発明の効果〕
以上の説明及び実施例、比較例の結果から明らかなように、本発明の製法及び本発明による光フアイバ用母材は、従来のロツドインチユーブ・コラツプスを利用した方法では伝送損失の小さなフアイバが得られなかつた、SiO2コア/F-SiO2クラツドで第1図(a)、(b)に示す屈折率分布のシングルモードフアイバで伝送損失が小さいものの製造を可能とし、特にこの種の分散シフト型シングルモードフアイバで伝送損失の小さなものを実現できる点で、非常に有利である。
【図面の簡単な説明】
第1図(a)及び(b)は本発明に係わるシングルモードフアイバの屈折率分布構造及びガラス組成を説明する図である。
第2図及び第3図は本発明の実施態様の説明図であつて、第2図はコラツプス工程を、第3図はスート堆積工程を示す。
第4図はクラツド径/コア径比:B/Aと波長1.38μmにおける伝送ロス(dB/Km)の関係を示す図表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】SiO2ガラスからなるコア用ロツドをその比屈折率差がSiO2ガラスよりも0.5%以上小さいクラツド用パイプの中空部内に挿入して加熱することにより両者を溶着一体化する工程を有する光フアイバ用母材の製造方法において、上記クラツド用パイプとして外径50mm以下のフツ素含有SiO2ガラスパイプを用い、かつ溶着一体化した後のコア径Aおよびクラツド径BがA≧2mmB/A≧61/2(B−A)≧7mmの上記条件を満足するようにコア用ロツド及びクラツド用パイプのサイズを決め、コアガラス表面が滑らかになるように水素を含む火炎を加熱源として用いて加熱し一体化することを特徴とする光フアイバ用母材の製造方法。
【請求項2】SiO2ガラスからなるコア用ロツドをその比屈折率差がSiO2ガラスよりも0.5%以上小さく外径50mm以下のクラツド用フツ素含有SiO2ガラスパイプの中空部内に挿入し溶着一体化してなる光フアイバ用母材において、溶着一体化した後のコア径Aおよびクラツド径BがA≧2mmB/A≧61/2(B−A)≧7mmの上記条件を満足するものであることを特徴とする光フアイバ用母材。

【第1図】
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【第2図】
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【第3図】
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【第4図】
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【特許番号】第2645709号
【登録日】平成9年(1997)5月9日
【発行日】平成9年(1997)8月25日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭62−248088
【出願日】昭和62年(1987)10月2日
【公開番号】特開平1−93433
【公開日】平成1年(1989)4月12日
【出願人】(999999999)住友電気工業株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭60−239334(JP,A)
【文献】特開 昭59−202401(JP,A)
【文献】特開 昭62−167235(JP,A)