説明

光フアイバ用母材の製造方法

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は長距離・低損失・大容量な光フアイバ伝送系として用いるのに最適な石英系であり広い波長域に亘り波長分散が低く、しかも低損失な広波長域低分散光フアイバ用母材の製造方法に関するものである。
〔従来の技術〕
広波長域低分散光フアイバとは、ある波長域例えば1.3〜1.6μmにわたつて低分散であることから、この範囲内の複数の波長の光を同時に(波長多重方式)、しかも大量に伝送することのできる光フアイバである。ここで低分散とは光による信号伝送容量上問題のないとされる±3ps/Km/nm以下の分散をいう。
このような広波長域低分散光フアイバとして第1図に示すようなW型屈折率分布構造のものが提案されている。同図において横軸は径方向長さ、縦軸は屈折率を示し、1はコア、2は第1クラツド、3は第2クラツドであり、コア,第2クラツド,第1クラツドの順に屈折率が小さくなる構造である。このようなW型屈折率分布構造を形成できるガラス材の組合せとしては、コア/第1クラツド/第2クラツドが純粋石英(純粋SiO2)/フツ素添加石英(F−SiO2)/フツ素添加石英(F−SiO2)の組合せ、或いはGeO2添加石英(GeO2−SiO2)/F−SiO2/F−SiO2の組合せ、GeO2−SiO2/F−SiO2/純粋SiO2の組合せ等が挙げられる。特に好ましくは第2クラツド材として純粋SiO2を用いた構造で、第1クラツド材が純粋SiO2より低屈折率の例えばF−SiO2,コアが純粋SiO2より高屈折率の例えばGeO2−SiO2からなるものである。
また広い波長域で波長分散を低くするためには、フアイバのプロフアイル、すなわち屈折率差、コア,第1クラツド,第2クラツドの径比等を設計通りに正確に実現することが不可欠であり、特にコアと第1クラツドの径比は重要で、波長1.3〜1.6μmの範囲で分散を±3ps/nm/Km以下とするには、コア径/第1クラツド径の径比を設計値に対し±0.03の精度で製造する必要があることが判つてきた。ところで、光フアイバ用母材の製造方法の一つとしてVAD法(気相軸付法)はよく知られた方法であり、低損失な光フアイバ用母材を得られる、生産性が非常に高い、一本のバーナーによつてGeO2を添加したガラス体を製造するときにその屈折率分布の制御性に優れる、等の多くの利点を持つている。
このVAD法による広波長域、低分散光フアイバ用母材の製造方法として、従来、1本のコア合成用バーナーと、複数本のクラツド合成用バーナーを用いてコア部スート体の外周にクラツド部スート体を形成してゆき、コア部及びクラツド部からなるスート体を作製し、該スート体を加熱して脱水・透明化し、コア部及びクラツド部からなる透明ガラス母材を作製する方法が知られている(特開昭62−116902号公報)。
〔発明が解決しようとする課題〕
しかしながら、上記従来法のようにVAD法により複数のバーナを用いて、複数の屈折率分布を得ることはかなり困難であつた。例えば、第1図に示すW型屈折率分布を得ようとしても、コアと第1クラツド、第1クラツドと第2クラツドとの境界が階段状にならず、裾を引く為に設計指示通りに正確にコア径/第1クラツド径比などを得ることが非常に困難であつた。前記のように、広波長域・低分散を実現するためには、特にその屈折率分布を設計通りに正確に実現する必要があるので、この難点の早急な解消が望まれているのが現状である。
本発明の目的は、上述した従来法の欠点を除去し、例えば1.3μm〜1.6μmの広い波長域で低分散であり、この波長域の少なくとも2つの波長で波長分散が零であり、かつ低損失なシングルモードフアイバを製造しうる光フアイバ用母材の改良された製造方法を提供することにある。
〔課題を解決するための手段〕
本発明は前記従来法のように複数バーナを用いてコア部スート体とクラツド部スート体を同時に作製してゆく方法にかえて、コア部,第1クラツド部,第2クラツド部をそれぞれ別個に従来公知のVAD法によりスート体を作製しこれを透明化する方法で用意しておき、次にガラスロツドとガラスパイプを加熱一体化する、いわゆるロツドインチユーブ法を利用してコア,第1クラツド,第2クラツドからなる第1図の屈折率分布構造を設計値通りに実現する方法であり、詳しくはコア用ロツドと第1クラツド用パイプを従来公知のロツドインチユーブ法で一体化しておき、第1クラツド用材の外周部を穿孔又は研削により除去し、エツチングして、コア径と第1クラツド径比を精密に調製して所定値とするのである。また第1クラツド材と第2クラツド用パイプは加熱溶着後その倍率(第2クラツド外径/第1クラツド外径)が3〜6倍となるように第2回目のロツドインチユーブ法を実施することにより、その目的を達成できるものである。
すなわち本発明は、コア用ガラス材を、パイプ状で該コア用ガラス材の屈折率より低い屈折率を有する第1クラツド用ガラス材に挿入して加熱溶着し、第1クラツド外径より大きい外径を有するガラス棒とする工程、その後、該ガラス棒の第1クラツド用ガラス材部分の外周部を除去することにより第1クラツド外径としたコア・第1クラツド母材とする工程、次に該コア・第1クラツド母材をパイプ状でその屈折率が前記コア用ガラス材のそれより低くかつ前記第1クラツド用ガラス材のそれより高い第2クラツド用ガラス材に挿入して加熱溶着により一体化して第2クラツド外径/第1クラツド外径の比が3〜6倍であるコア・第1,第2クラツド母材とする工程を有することを特徴とするW型屈折率分布を有し光伝送に用いる波長域において低分散でかつ少なくとも2つの波長で波長分散が零である広波長域低分散光フアイバ用母材の製造方法に関する。上記本発明における外周部の除去は研削又はくり抜きとこれに続くエツチング処理により行なうことが特に好ましい。
本発明においてW型屈折率分布を実現するためのコア/第1クラツド/第2クラツドのガラスの組み合せとしては、例えば純粋石英/フツ素添加石英/フツ素添加石英の組合せ、GeO2添加石英/フツ素添加石英/フツ素添加石英の組合せ、GeO2添加石英/フツ素添加石英/純粋石英の組合せ等が挙げられるが、コアの屈折率が最も高く、第1クラツドの屈折率が最も低く、第2クラツドのそれが両者の中間となるような組合せであればよく、以上の例示に限定されるところはない。また、前記のように、コア側からGeO2添加石英/フツ素添加石英/純粋石英である組合せは、本発明においても特に好ましいものである。
以下に本発明の光フアイバ母材の製造方法を具体的に説明するが、各部分材用のガラスロツド,ガラスパイプの製造は例えばVAD法等の従来公知の技術によればよく、次の説明の方法に限定されるものではない。
■ コア用ガラス材の作製 従来のVAD法を用いて、屈折率を上げるべくGeO2を含有するSiO2からなるスート体を形成し、該スート体を加熱脱水処理、及び焼結することにより、コア用透明ガラス材を得る。スート合成用バーナに供給する原料ガスとしては、例えばSiCl4とGeCl4を、燃焼ガスとしてはH2を、助燃ガスとしては例えばO2を用いる。GeO2の添加量はコアと第1クラツドの屈折率比により決定するが、例えば5.7〜17.0重量%程度の範囲である。得られたGeO2−SiO2スート体は例えば塩素又は塩素化合物ガスと不活性ガスとからなる雰囲気下約1000℃に保持することにより脱水し、続いて不活性ガス雰囲気下1600〜1700℃に加熱して焼結してGeO2−SiO2ガラスからなるコア用透明ガラス体を得、これを好ましくは電気抵抗炉等の水素原子を含まない雰囲気中で加熱軟化させ、所定径に延伸されたロツド状のコア用ガラス体を得る。
■ パイプ状第1クラツド用ガラス材の作製 VAD法で純粋SiO2からなるスート体を作製し、該スート体をSiF4等のフツ素及び塩素系ガスを含む不活性ガス雰囲気下、約1100〜1200℃で加熱して該スート体を脱水すると共にフツ素添加し、次に約1600℃といつたより高温に加熱して透明化し、F−SiO2からなる第1クラツド用ガラス体を得る。この時のフツ素添加量はコアとの屈折率差に応じ決定される。該ガラス体の中央に穿孔機等により穴を明けてパイプ状とし、必要に応じて延伸した後に、SF6等のフツ素化合物ガスを流しつつ該パイプの外部より加熱することによりパイプ内表面をエツチングして平滑化し、F−SiO2からなるパイプ状第1クラツド用ガラス材を得る。
■ コア用ガラス材とパイプ状第1クラツド用ガラス材の加熱・溶着 上記■で得たコア用ガラス材を、■で得たパイプ状第1クラツド用ガラス材に挿入して公知技術により両者を加熱・溶着するが、溶着できた時点でのコア径に対する第1クラツド用ガラス材の外径の比(倍率という)が好ましくは3倍以上となるように加熱溶着する。3倍より小で溶着する場合には、第1クラツド用材の肉厚が薄いために、コアの近傍にOH基やその他の不純物が侵入し易く、低損失化の妨げとなり好ましくない。倍率上限は6倍前後がコア径の変動による倍率への影響が小さく好ましいが、外周除去を行なうのでこの点は厳密でなくてもよい。
■ コア径/第1クラツド外径(比)の調整(第1クラツド母材の作製)
前記■で得られたコア材と第1クラツド用材からなるガラス棒の外周部分を除去し、設計値のコア径/第1クラツド外径となるようにする。具体的手段としては該ガラス棒の中央部を穿孔機によりくり抜く、又は外周を研削することによる。次に得られたロツド材を弗酸溶液等に浸してより精密に所定の径比を実現するようエツチングする。これは外周の機械的除去によりロツド材表面が粗くなり、次工程での第2クラツド用パイプとの加熱一体化後も界面が不均一でロス増を招くのを予防すると共に、この除去工程により汚染されたロツド材表面を取り除くためである。ただし、高濃度の弗酸で長時間にわたり分厚くエツチングすると、ロツド材表面が不均一に削り取られ逆効果となる。そこで、5〜20%の弗酸溶液を用いて、0.1〜1mm程度エツチングすることが最も適当であることが判つた。以上によりコア・第1クラツド母材が得られる。
■ 第2クラツド層の形成 VAD法を用いて純SiO2からなるスート体を形成し、前記■と同様にガラス化して、得られたガラス材を加工しパイプ状の第2クラツド用材を得る。該第2クラツド用ガラス材に前記し■で得たコア・第1クラツド用母材を挿入し、前記■と同様にして加熱・溶着するが、このとき溶着後のコア・第1,第2クラツド母材の第2クラツド外径/第1クラツド外径(比)、すなわち倍率が3〜6倍の範囲内となるようにする。3倍以上とする理由は前記と同様であり、6倍を越える倍率ではコア径の変動が倍率に大きく影警して、分散,カツトオフ波長に悪影響を及ぼすため好ましくないからである。また、設計値が6倍以上を要求する場合には、3〜6倍内で第2クラツド部を形成した後、さらに第2クラツド部分をVAD法によるスート付け又はロツドインチユーブ法等で増径すればよい。
以上の工程により、第1図に示したW型屈折率分布を精密に実現した光フアイバ用母材を作製することができる。さらに本発明による母材を線引きすることにより、広波長域,低分散シングルモードフアイバが得られることができた。なお、コアがGeO2添加石英、第1クラツドがF添加石英、第2クラツドが純粋石英の例で説明したが、この組合せに限定されるものではないことは、すでに説明のとおりである。
〔作用〕
本発明は、コア材,第1クラツド材,第2クラツド材の各部分はVAD法により高品質なものを製造してゆき、次にこれらを順次ロツドインチユーブ法で加熱溶着して一体化するもので、特にコア材と第1クラツド材は一体化した後、その外周を研削し、エツチングすることで非常に精密に第1クラツド外径/コア径比(倍率)を設計どおりに実現しうる。第2クラツド層形成も同様であり、しかもロツドインチユーブ倍率を3倍以上又は3〜6倍の範囲とすることで、コア径の変動による設計倍率への影響を小さくすることができる。
これはコア径をd、外径をDとするとき倍率はD/dで表される。コアに△dの変動があるとき倍率D/d+△dは、Dが大である程下記(1)式のように大きく変動するからである。


そして本発明者らの検討により、波長1.3μm〜1.6μmの範囲で分散を±3ps/nm/Kmとするには、コア径と第1クラツド径の比を±0.03以下の精度で実現する必要があり、このためには上記ロツドインチユーブでの倍率が3〜6倍の範囲内であることが必要であるとの結論を得たのである。
〔実施例〕
実施例1 本発明により第2図(A)に示す構造の広波長域低分散光フアイバ用母材を作製した。GeO2−SiO2(△=0.59%)からなり、外径3.3mmφのコア用ロツドを、F−SiO2(△=0.39%)からなり外径18.1mmφ、内径4mmφの第1クラツド用パイプ内に挿入して外部から加熱し溶着一体化した。この時の倍率は5.5倍である。得られたガラス体を穿孔機を用いて中央部をくりぬき10%弗酸溶液中でエツチングして外径が5.8mmφのコア・第1クラツド母材を得た。該母材のコア径/第1クラツド径=0.57である。次に該コア・第1クラツド母材を外径25mmφ、内径8.1mmφの純粋SiO2からなる第2クラツド用パイプと加熱・溶着一体化させて外径24.4mmφのコア・第1,第2クラツド母材を得た。この時の倍率は4.2倍である。さらに得られたガラス母材を外径17.8mmφに延伸した後、VAD装置を用いてこのガラス母材外周に純粋SiO2からなるスート材を堆積させ、前記■と同様の条件で脱水・焼結して外径55mmφのガラス母材を得、このガラス母材を延伸して外径25mmφでコア径1.44mmφ、第1クラツド径2.54mmφの第2図(A)の構造の光フアイバ用母材を得た。
次に、該光フアイバ用母材を線引きして外径125μmの第2図(B)に示す構造の光フアイバを得た。なお、第2図(A),(B)において横軸は径方向長さであり、縦軸は純石英に対する比屈折率差(△n)である。この光フアイバの伝送損失特性を第3図に示すが波長1.55μmで0.24dB/Kmと低損失であることがわかる。同図において横軸は波長(μm)、縦軸は伝送損失(dB/Km)である。また該光フアイバの伝送損失特性を横軸に波長(μm)、縦軸に分散(ps/nm/Km)にとつて第4図に実線で示すが、波長1.3〜1.6μmの範囲で±ps/nm/Km以下と非常に広い波長域で低分散であり、しかも2箇所で分散が零であることが確認できた。さらにこの値は、第4図に破線で示す、屈折率分布パラメータから理論的に算出した波長分散特性理論値と非常によく一致することが判り、本発明の製造方法が設計時に要求した波長分散特性を正確に実現できることが確認できた。
〔発明の効果〕
従来、単なるVAD法では第1図のようなW−型屈折率分布を有する広波長域低損失光フアイバを得ることは困難であつた。本発明はコア部,第1クラツド部,第2クラツド部をそれぞれ別個にVAD法等により作製してから、設計通りの構造となるようにコアにまず第1クラツド部を一体化し、さらに第2クラツド部を一体化することにより、所期の屈折率差、サイズのW型屈折率分布構造光フアイバ用母材を得ることができるので、設計時に予想される波長分散特性を正確に実現し、しかも伝送損失特性も優れる広波長域低分散光フアイバを効率よく製造できる優れた方法である。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明に係わる広波長域低損失光フアイバの屈折率分布を示す図、第2図乃至第4図は本発明の実施例で製造された光フアイバ用母材とこれから得た広波長域低分散光フアイバの構造と特性を示す図であつて、第2図(A)は光フアイバ用母材のサイズと屈折率分布を示す図、第2図(B)は光フアイバのサイズと屈折率分布を示す図、第3図は光フアイバの伝送損失特性を示す図、第4図は光フアイバの波長分散特性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】コア用ガラス材を、パイプ状で該コア用ガラス材の屈折率より低い屈折率を有する第1クラツド用ガラス材に挿入して加熱溶着し、第1クラツド外径より大きい外径を有するガラス棒とする工程、その後、該ガラス棒の第1クラツド用ガラス材部分の外周部を除去することにより第1クラツド外径としたコア・第1クラツド母材とする工程、次に該コア・第1クラツド母材をパイプ状でその屈折率が前記コア用ガラス材のそれより低くかつ前記第1クラツド用ガラス材のそれより高い第2クラツド用ガラス材に挿入して加熱溶着により一体化して第2クラツド外径/第1クラツド外径の比が3〜6倍であるコア・第1,第2クラツド母材とする工程を有することを特徴とするW型屈折率分布を有し光伝送に用いる波長域において低分散でかつ少なくとも2つの波長で波長分散が零である広波長域低分散光フアイバ用母材の製造方法。
【請求項2】外周部の除去は研削又はくり抜きとこれに続くエツチング処理により行なうことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の光フアイバ母材の製造方法。

【第3図】
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【第1図】
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【第2図(A)】
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【第2図(B)】
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【第4図】
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【特許番号】第2645717号
【登録日】平成9年(1997)5月9日
【発行日】平成9年(1997)8月25日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭63−31944
【出願日】昭和63年(1988)2月16日
【公開番号】特開平1−208337
【公開日】平成1年(1989)8月22日
【出願人】(999999999)住友電気工業株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭62−162639(JP,A)
【文献】特開 昭62−36035(JP,A)
【文献】特開 昭62−3032(JP,A)