説明

光ラインヘッド

【課題】 光学素子により、被照射面における結像位置を調整する光ラインヘッドを提供すること。
【解決手段】 基板62の副走査方向に2列以上に配列されたライン状のアレイ光源72、73からの出射光を正立等倍の光学系を用いて被照射面に結像させる光ラインヘッド。前記2列以上に配列されたアレイ光源の各列に対して、副走査方向の断面において、水平面62aに対して光射出面の角度が光入射面とは異なる傾斜面2a、2bを形成したプリズム状の光学素子を配置し、被照射面上では前記各列のアレイ光源から放射された光が結像して形成されるスポットの副走査方向の間隔が、前記アレイ光源の間隔よりも小さくなるように設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子により光源の副走査間隔よりも狭い間隔で被照射面に結像させる、光ラインヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光書込みを行う画像形成装置においては、露光装置として走査光学系を設ける方式と、発光素子アレイを用いる光ラインヘッド方式が知られている。例えば特許文献1には、露光装置に光ラインヘッドを用いる方式が記載されている。この例では、光源には千鳥状に配置したLEDを使用し、光源と感光体との間に屈折率分布型ロッドレンズアレイ(商品名セルフォックレンズアレイ、以下、SLAと略記する)を設けている。
【0003】
ライン状光源の各発光部の光パワーを確保するためにはある程度の光源の面積(直径D)が必要となる。そのため1列に光源を配置することができずに、千鳥状の配置となる。特に有機EL素子のように単位面積当たりの光パワーが小さい発光素子において、高速化に対応するために大きな光パワーを得るためには千鳥状の配置は必須となる。
【0004】
ライン状光源の像を被照射面に結像させるために、屈折率分布型ロッドレンズアレイ(商品名:セルフォックレンズアレイ[SLA]、日本板硝子(株)製)が用いられている。このレンズアレイは等倍、正立の光学系であるので、発光素子の配置がそのまま被走査面上に投影される。このような光源を千鳥状に配置するラインヘッドを用いて、感光体上に光書込みを行う画像形成装置が構成される。
【0005】
図12において、光ラインヘッド20には、リード線21、22に接続される光源の発光素子23a、23bが千鳥状に配置されている。Dは光源の直径、Pは各発光素子ライン間の距離である。この例では、副走査方向に2Pの間隔で発光素子ラインが配列されている。ライン状に配列された光源の各発光素子の露光に要する光パワーを確保するためには、ある程度の光源の面積(すなわち各発光素子の直径D)が必要となる。
【0006】
光源の面積を拡張した上で、すなわち、発光素子の直径を大きくした上で主走査方向に1列に光源をライン状に配置すると、隣の発光素子と干渉してしまう。このため、主走査方向に複数の発光素子を配列した発光素子ラインを副走査方向に複数列設け、各発光素子ラインの発光素子を千鳥状に配置することで、隣接する発光素子の干渉を避けることができる。
【0007】
図12のように2ラインの発光素子ラインが2Pだけ隔たって配置されていると、像担持体の被照射面上でも2Pだけ結像点がプロセス進行方向に隔たって配置される。仮に結像点を主走査方向に一列に並べて、横方向の線を露光する場合、一列に結像点を整列させるためには、2ラインの各々の発光素子ラインの位置に応じて、発光タイミングを変える必要がある。
【0008】
図12において、Pは画像形成装置における画素ピッチで、ページプリンターでは1インチ当り600画素、すなわちP=42.33μmになる。上記の例では、奇数画素と偶数画素で2ライン分のずれがあるので、奇数ドットがあるラインのデータを出力している場合には、偶数ドットは2ライン先のデータを出力する必要がある。
【0009】
この点について、図15の説明図により説明する。図15において、40は像担持体のような被照射面、62はガラス基板、72は奇数ラインの発光素子ライン(L1)、73は偶数ラインの発光素子ライン(L2)、65はSLAとする。なお、各発光素子ライン72、73は、アレイ光源として形成されている。この場合には、奇数ラインの発光素子ライン(L1)による像は、被照射面の光軸上の位置41に結像し、また、偶数ラインの発光素子ライン(L2)による像は、被照射面の光軸上の位置42に結像する。このため、L2の像をL1の像に重ねるためには、2ライン先のデータを出力するようなデータ処理が必要になる。また、被照射面上で各列のアレイ光源から放射された光が結像して形成されるスポットの副走査方向の間隔が、前記アレイ光源の間隔よりも小さくなるように設定する際にも、複雑なデータ処理が必要になる。
【0010】
このような処理を行うためには、(1)印字すべき画像を画像メモリに書込む際に奇数ドットと偶数ドットのずらしを行うか、(2)画像メモリから呼び出す際にアドレスを切り換えるか、(3)あるいは画像メモリへのアクセスは通常通りに行って、書込みヘッドに至る間にバッファメモリを挿入して、データの転送順序を変更する方法、のいずれかの方法が考えられる。
【0011】
ところで、発光部の大きさによっては、発光素子ラインを図12に示したように副走査方向に2列に配列することに代えて、発光素子ラインを3列配置せざるを得ない場合もある。図13は、副走査方向に発光素子ラインを3列配列する例の説明図である。図13において、光ラインヘッド20aには、リード線21、22に接続される光源の発光素子23、24、リード線26に接続される光源の発光素子25が千鳥状に配置されている。Dは光源の直径、Pは各光源間の距離である。この例では、副走査方向に2Pの間隔で発光素子ラインが3列配列されている。
【0012】
また、LEDアレイのように複数の発光素子がチップ状に複数形成されていて、当該チップを複数配列する場合がある。このような構成においても、チップの端部まで発光素子を配列するのが難しい場合には、チップ毎に千鳥状に配列することがある。図14は、かかる構成の光ラインヘッドの例を示す説明図である。図14において、光ラインヘッド30は、主走査方向にチップ31、33、35・・・が千鳥状に配列されている。各チップ31、33、35には、それぞれ発光素子ライン32、34、36が設けられている。
【0013】
図14に示したような複数の発光素子が集積されたチップを千鳥状に配置する場合にも、回路構成が複雑になるという課題があった。そこで、特許文献2には、このような課題を解決するために複数のレンズアレイを用いる例が記載されている。また、特許文献3には、光学素子としてハーフミラーを用いて、90°に角度を持った2列の光源からの光を1列に重ねる例が記載されている。
【0014】
【特許文献1】特開平2−147259号公報
【特許文献2】特開平10−211731号公報
【特許文献3】特開昭56−28869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前記(1)〜(3)のいずれの方法であっても、回路構成が複雑になりコストアップになるという問題があった。さらに、(1)、(2)では画像処理が複雑になり、またヘッドの発光部の配置が変わる度に画像処理の内容を変えなくてはならないという課題があり、(3)では画像処理部分には汎用性があるが余分な回路とメモリが必要なるという問題があった。なお、先に示した図12のように発光部の径Dがそのピッチに比べてさらに大きい場合には、3列に配置せざるを得なくなる。この場合には6ライン分のメモリが必要となるので、よりコスト的に不利になるという問題があった。
【0016】
特許文献2、3に記載の方法でも、光学素子の数が増えて構造が複雑化し、ラインヘッドが大型化するという問題があった。また、場合によっては、2列の光源からの光の結像スポットが被照射面において正確に1列になるように光学系の調整が必要となり、その操作が煩雑になるという問題があった。
【0017】
本発明は従来技術のこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、回路構成を複雑にすることなく、また光学系の煩雑な調整を要することなく被照射面における結像位置を調整できる、光ラインヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明の光ラインヘッドは、基板の副走査方向に2列以上に配列されたライン状のアレイ光源からの出射光を正立等倍の光学系を用いて被照射面に結像させる光ラインヘッドにおいて、前記2列以上に配列されたアレイ光源の各列に対して、副走査方向の断面において、水平面に対して光射出面の角度が光入射面とは異なるプリズム状の光学素子を配置し、被照射面上で前記各列のアレイ光源から放射された光が結像して形成されるスポットの副走査方向の間隔が、前記アレイ光源の間隔よりも小さくなるように設定されることを特徴とする。このように、本発明の実施形態においては、被照射面(結像面)上において各光源の光が結像してできるスポットの副走査方向の間隔が縮小される。このため、各光源の点灯タイミングをずらす量を小さくでき、一時的にデータを貯えるバッファメモリの容量を小さくできる。また、被照射面のスポット結像位置の副走査方向の間隔を、アレイ光源の副走査方向の間隔よりも狭くするという調整が、固定されているプリズム状の光学素子により行えるので、制御部の構成を簡略化できる。
【0019】
また、本発明の光ラインヘッドは、前記光学素子は、副走査方向の断面において同一平面の光入射面と、水平面を基準として角度が異なる複数の光射出面とを有してプリズム状に一体に形成されていることを特徴とする。この実施形態は、図1に記載されているプリズム2が対応する。プリズム2は、水平面62a(ガラス基板62の表面)を基準にすると、同一平面の光入射面2cと、角度が異なる複数の光射出面2a、2bとを有して一体に形成されている。この構成によれば、矩形状の基材から、光射出面2a、2bをカッテング加工するだけなので、プリズムの形状が単純であり製造が容易になる。
【0020】
また、本発明の光ラインヘッドは、前記副走査方向の断面において、平面の光入射面と平面の光射出面を有し、楔型の形状で複数に分離して配置したプリズム状の光学素子が、前記副走査方向に複数列配列された各アレイ光源に対応して設けられていることを特徴とする。この実施形態は、図2に記載されているプリズムが対応する。プリズム3、4は、楔状に形成されている。この構成によれば、プリズムを2つに分離することにより、複数の発光素子ラインの出射光を明確に分離することができ、クロストークを防止することができる。
【0021】
また、本発明の光ラインヘッドは、前記アレイ光源は、ガラス基板上で主走査方向にライン状に形成されており、前記アレイ光源からの出射光ビームがガラス基板を透過して射出されることを特徴とする。この実施形態は、図6、図7に記載されているプリズム5、6が対応する。この構成によれば、ガラス基板のアレイ光源を設ける面とプリズムを設ける面が異なる。図6ではプリズムとガラス基板とが一体であり、また、図7ではプリズムとガラス基板に可及的に接近した位置に設置できる。このため、プリズムを設置した際に、プリズムとガラス基板との間隔が大きくなることに起因する光損失の発生を抑制できる。
【0022】
また、本発明の光ラインヘッドは、前記プリズム状の光学素子は、前記ガラス基板上に形成されたアレイ光源とは対向する面に、前記ガラス基板と一体に形成されていることを特徴とする。この実施形態は、図6に記載されているプリズム5が対応する。この構成によれば、ガラス基板そのものを加工してプリズムを形成しているので、別部材でプリズムを構成する必要がなく、部品数が減少し、コストを低減することができる。
【0023】
また、本発明の光ラインヘッドは、前記プリズム状の光学素子は、前記ガラス基板に溝を設けて接着されていることを特徴とする。この実施形態は、図7に記載されているプリズム6が対応する。この構成によれば、プリズムをガラス基板に直接固定しているので、別途プリズムを固定する部材が不要となり、光ラインヘッドの構成を簡略化することができる。また、接着剤の屈折率を選択して発光部とプリズムの入射面の間に充填することにより、プリズムの入射面の反射を防止できる。
【0024】
また、本発明の光ラインヘッドは、前記アレイ光源を副走査方向に3列以上配列することを特徴とする。この実施形態は、図8に示した発光素子ラインL1〜L3を設けた構成が対応する。この構成によれば、被照射面に対する光パワーを増大することができる。
【0025】
また、本発明の光ラインヘッドは、前記アレイ光源を千鳥状に配列することを特徴とする。この実施形態は、図4に示した発光素子ライン72、73が対応する。この構成によれば、主走査方向の長さを短縮した光ラインヘッドにおいて、被照射面のスポット結像位置の副走査方向の間隔を、アレイ光源の副走査方向の間隔よりも狭くするという調整が、固定されているプリズム状の光学素子により行うことができる。
【0026】
また、本発明の光ラインヘッドは、前記アレイ光源を格子状に配列することを特徴とする。この実施形態は、図9に示した発光素子ライン75、76により、被照射面のスポット結像位置の副走査方向の間隔を、アレイ光源の副走査方向の間隔よりも狭くする構成が対応する。この構成によれば、アレイ光源を格子状に配列した場合に、被照射面(結像面)上において各光源の光が結像してできるスポットの副走査方向の間隔が縮小されるので、各光源の点灯タイミングをずらす量を小さくでき、一時的にデータを貯えるバッファメモリの容量を小さくできる。
【0027】
また、本発明の光ラインヘッドは、アレイ光源が配列されたチップを、主走査方向に複数個配置してなることを特徴とする。この実施形態は、図14に示したようにチップ31、33、35を、主走査方向に複数個配置した構成が対応する。この構成によれば、チップ状の光源を用いた場合に、被照射面のスポット結像位置の副走査方向の間隔を、アレイ光源の副走査方向の間隔よりも狭くするという調整が、固定されているプリズム状の光学素子により行うことができる。
【0028】
また、本発明の光ラインヘッドは、前記チップを千鳥状に配列することを特徴とする。この実施形態は、図14に示したようにチップ31、33、35を、千鳥状に配列した構成が対応する。この構成によれば、光源がチップで構成され主走査方向の長さを短縮した、光ラインヘッドにおいて、被照射面(結像面)上において各光源の光が結像してできるスポットの副走査方向の間隔が縮小されるので、各光源の点灯タイミングをずらす量を小さくでき、一時的にデータを貯えるバッファメモリの容量を小さくできる。
【0029】
また、本発明の光ラインヘッドは、前記光源の発光素子が有機EL素子であることを特徴とする。この実施形態は、図1〜図14の構成において、発光素子ラインの光源として有機EL素子を用いるものに対応する。この構成によれば、ガラス基板上にTFTプロセスで形成したドライバと有機EL発光素子を組み合わせることが可能となり、ガラス基板上にドライバと発光部を一体に形成できる。
【0030】
また、本発明の光ラインヘッドは、前記アレイ光源の発光素子がLEDであることを特徴とする。この実施形態は、図1〜図14の構成において、発光素子ラインの光源としてLEDを用いるものに対応する。この構成によれば、LEDを用いた光ラインヘッドにおいて、被照射面(結像面)上において各光源の光が結像してできるスポットの副走査方向の間隔が縮小される。このため、各光源の点灯タイミングをずらす量を小さくでき、一時的にデータを貯えるバッファメモリの容量を小さくできる。また、被照射面のスポット結像位置の副走査方向の間隔を、アレイ光源の副走査方向の間隔よりも狭くするという調整が、固定されているプリズム状の光学素子により行えるので、制御部の構成を簡略化できる。
【0031】
また、本発明の光ラインヘッドは、ホルダーに溝を形成して前記光学系素子を装着すると共に、前記ガラス基板を前記ホルダーの前記光学系素子の入射面と対向する面に設けることを特徴とする。この実施形態は、図11の構成が対応する。この構成によれば、ホルダーに光学系素子と発光素子ラインが形成されたガラス基板とを装着しているので、コンパクトな構成とすることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明においては、被照射面(結像面)上において各光源の光が結像してできるスポットの間隔が縮小されるので、各光源の点灯タイミングをずらす量を小さくでき、一時的にデータを貯えるバッファメモリが小さくて済むという利点がある。また、被照射面のスポット結像位置の副走査方向の間隔を、アレイ光源の副走査方向の間隔よりも狭くするという調整が、固定されている光学素子により行えるので、制御部の構成を簡略化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図を参照して本発明を説明する。図10は、本発明の実施形態にかかる光ラインヘッド50を拡大して示す概略の斜視図である。この光ラインヘッド50は、フルカラーの画像形成装置に用いる場合には、各色毎に4本設置される。図10において、有機EL素子アレイ61は、長尺のハウジング60中に保持されている。長尺のハウジング60の両端に設けた位置決めピン69を、図示を省略したケースの対向する位置決め穴に嵌入させると共に、長尺のハウジング60の両端に設けたねじ挿入孔68を通して固定ねじをケースのねじ穴にねじ込んで固定することにより、各光ラインヘッド50が所定位置に固定される。
【0034】
光ラインヘッド50は、ガラス基板62上に、例えば有機EL素子アレイ61の発光部63を副走査方向に複数列載置し、同じガラス基板62上に形成されたTFT71により駆動する。SLA(屈折率分布型ロッドレンズアレイ)65は、結像光学系を構成し発光部63の前面にロッドレンズを俵積みして配置される。60はハウジング、66はカバー、67は固定板バネである。なお、本発明においては、発光素子ラインの配列について、副走査方向には「列」、主走査方向には「ライン(行)」と表記する。
【0035】
ハウジング60は、ガラス基板62の周囲を覆い、像担持体20に面した側は開放する。発光部63を駆動し、SLAのファイバー面70から、図示を省略した被照射面の像担持体に向けて光線を射出する。ハウジング60のガラス基板62の端面と対向する面には、不要光を吸収するための光吸収性の部材(塗料)が設けられている。
【0036】
図11は、SLA65およびガラス基板62の取り付けの例を示す概略の分解斜視図である。鍔部52を有するホルダー51に溝部54を形成する。この溝54内にSLA65を収納して、接着材などの適宜の手段で固定する。発光部63が形成されているガラス基板62は、ホルダー51の底面53に取り付けられる。ホルダー51の溝54は開口部が形成されており、発光部63の出力光はSLA65のファイバー面に入射し、像担持体に結像する。図11の例では、ホルダー51に光学系素子(SLA65)と発光素子ラインが形成されたガラス基板62とを装着しているので、光ラインヘッドをコンパクトな構成とすることができる。なお、図10及び図11においては、簡単のため、本発明の特徴であるプリズム状の光学素子は記載していない。
【0037】
図1は、本発明の光ラインヘッド1の例を示す説明図である。図15で説明した従来の構成と同じところには同一の符号を付しており、詳細な説明は省略する。図1の例では、発光素子の表面に近接させて谷型のプリズム2を配置する。このような谷型のプリズム2を配置することにより、発光素子ラインL1とL2の像は、被照射面40上の43の位置に重なって形成される。
【0038】
図1の構成では、発光素子ラインL1とL2の像を被照射面40上の43の位置に重ねて形成させるために、プリズム2の中心位置と、2ラインの発光素子ラインL1とL2の中心線の位置を一致させる必要がある。プリズムの角度θは、プリズム2の厚さ、2ラインの発光素子ラインL1とL2の間隔から決定される。
【0039】
図1に示したプリズム2は、水平面62a(ガラス基板62の表面)を基準にすると、同一平面の光入射面2cと、光入射面2cとは角度が異なる複数の光射出面2a、2bとを有して一体に形成されている。図1の例では、光射出面2a、2bを谷状に形成しているが、この構成によれば、矩形状の基材から、光射出面2a、2bをカッテング加工するだけで所定形状のプリズムが得られ、プリズムの形状が単純であり製造が容易になる。なお、発光素子ライン72、73は、透明なガラス基板62に形成することに代えて、半透明の基板など、他の形態の基板に形成することもできる。
【0040】
図1の例では、δが0、すなわち、プリズム2を射出するビームの光軸の交点Pと、発光部の高さが一致することが望ましい。この高さが一致しないと、像担持体の被走査面でのピント位置と2つの像(L1、L2)が重なる位置がずれることになってしまう。しかしながら、プリズム2を用いることにより、2ラインの像が同じラインに形成されない場合でも、L1、L2の結像の副走査方向の間隔は、光源の間隔より狭くすることが可能となる。
【0041】
また、プリズム2の角度θを小さくすると(平行に対して大きな角度にする)、臨界角に達した射出光は、プリズム2で全反射してしまい外部に取り出すことができなくなる。このように、発光部から放射される光の指向特性(放射角特性)が広い場合には、出射光のロスが大きいことになる。
【0042】
プリズム2の厚みが厚いと、一方の発光素子ラインの発光素子からの光は、他方の発光素子ラインの発光部からの光も拾ってしまうことになり、2ラインの発光素子の像が明確に分離できない(クロストーク)ことになる。このような場合には、以下に述べるように、プリズムを2つに分離してクロストークを防止すればよい。
【0043】
図2は、前記のようなクロストークを防止するための構成の例を示す説明図である。図2において、プリズムをプリズム3とプリズム4の2つに分離する。このプリズム3、4は、それぞれ副走査方向の断面において、平面の光入射面と平面の光射出面を有し、楔型の形状で複数に分離して形成されている。このようにプリズムを2つに分離することにより、発光素子ラインL1とL2の出射光を明確に分離することができ、クロストークが防止される。なお、図1に示したような谷型のプリズムの加工が困難な場合にも、図2で示したような楔形のプリズムを2個組み合わせてもよい。
【0044】
図2のように、2つのプリズム3、4に分離した場合、2つのプリズム3、4の接する面(F面)に光が反射すると、本来の光とは異なる経路を通るため、被照射面では本体のスポット位置とは別の位置に結像してしまう。すなわち、被照射面にはゴースト像が発生してしまうことになる。したがって、この境界面Fは、不要な反射を抑えるために梨地面などを形成する。また、梨地面を黒く塗ることで、さらに散乱光の影響を低減することができる。
【0045】
図3は、プリズムの角度や寸法を設定する例を説明する説明図である。
図3において、プリズム4の屈折率をnとすると、スネルの屈折の法則により、n・sinθ1=sinθ2である(ただし、雰囲気の空気の屈折率は1としている)。よって、見かけ上の発光点の移動量dは、d=H・tan(θ2−θ1)で表わされる。
【0046】
例えば、プリズム4に代表的な光学材料BK7(SCHOTT社の型番)を使用すると、n=1.5168(d線波長にて)なので、θ1を30°とすると、θ2は49.32°となる。プリズムの厚さHを120μmとすると、発光部の見かけ上の位置の移動量dは、約42μmとなる。よって、2ラインの発光素子ラインの発光部が2P、すなわち42.33μmの2倍だけ隔たっている場合には、ちょうど2つ発光部が見かけ上重なることになるので、結像するスポットも重なることになる。
【0047】
図4は、本発明の実施形態を示す説明図である。図4において、72、73は2ラインの発光素子ラインである。この場合に、図1〜図3で説明したようなプリズム2、または3、4を使用することにより、被照射面には44、45のように像が結像される。この結像44、45の副走査方向の間隔は、光源の副走査方向の間隔よりも狭められている。
【0048】
図4に示したように、本発明の実施形態においては、プリズムによって、2ラインの光源の像は、副走査方向に間隔を狭められている。すなわち、発光素子ライン72の像は、矢視Xaのように副走査方向に移動した被照射面に44の位置に結像される。また、発光素子ライン73の像は、矢視Xbのように副走査方向に移動した被照射面に45の位置に結像される。
【0049】
このように、図4の実施形態においては、2ラインの光源の像は、副走査方向に間隔を狭められて形成されるので、2ラインの光源を点灯させるタイミングをずらす量も小さくすることでできる。このため、データを一時的に保持するためのバッファメモリの容量も少なくて済み、制御部のコストを低減できる。
【0050】
図5は、本発明の他の実施形態を示す説明図である。発光素子ライン72、73により被照射面に形成される結像の副走査方向の間隔は、本来は2ライン分となる。図5の例では、プリズムの使用により被照射面に形成される結像46は1ラインに重なるように設定している。すなわち、発光素子ライン72の像は、矢視Yaのように副走査方向に移動した被照射面の46の位置に結像される。
【0051】
また、発光素子ライン73の像は、矢視Ybのように副走査方向に移動した、同じ被照射面46の位置に結像される。このように、図5の例では、2ラインの光源の像が1ラインに重なるように設定されており、ベストモードの構成となっている。
【0052】
本発明の実施形態において、被照射面における結像の副走査方向の間隔を、光源の副走査方向の間隔よりも狭め、または1ラインに重ねるために使用されるプリズムの固定は、機械的な固定でもよいし、光学用途の接着剤を用いてもよい。接着剤の屈折率を注意深く選んで発光部とプリズムの入射面の間に充填することにより、プリズムの入射面の反射を防止できる。
【0053】
図6は、本発明の他の実施形態を示す説明図である。図6の例では、ガラス基板62上に形成された発光素子ライン72、73から背面側、すなわちガラス基板62を通して被照射面に放射するような素子において、ガラス基板62に一体にプリズム5を形成する。このプリズム5は、発光素子ライン72、73の背面側のガラス基板62に傾斜面を形成するものである。図6の構成によれば、ガラス基板62そのものを加工してプリズム5を形成しているので、別部材でプリズムを構成する必要がなく、部品数が減少し、コストを低減することができる。
【0054】
図7は、本発明の他の実施形態を示す説明図である。図7の例では、図6と同様に発光素子ライン72、73が形成されている側の背面側のガラス基板62に矩形の溝62aを形成する。プリズム6をこの溝62aに挿入して接着し、ガラス基板62に固定する。図7の構成によれば、プリズム6をガラス基板62に直接固定しているので、別途プリズムを固定する部材が不要となり、光ラインヘッドの構成を簡略化することができる。
【0055】
図6、図7においては、ガラス基板62上の主走査方向にライン状に形成された発光素子ラインL1、L2(アレイ光源)を有しており、前記アレイ光源からの出射光ビームがガラス基板62を透過して射出される。この構成は、ガラス基板62のアレイ光源を設ける面と、プリズムを設ける面が異なる。図6ではプリズム5とガラス基板62とが一体であり、また、図7ではプリズム6をガラス基板62に可及的に接近した位置に設置できる。このため、光ラインヘッドにプリズムを設置した際に、プリズムとガラス基板との間隔が大きくなることに起因する光損失の発生を抑制できる。
【0056】
図8は、本発明の他の実施形態を示す説明図である。図8の例では、光源として、発光素子ライン72、73、74と副走査方向に3列配列したものである。この場合には、プリズム7は、各発光素子ライン72、73、74に対応した3つの部分7a〜7cで形成する。このように、本発明は、光源を副走査方向に3列以上配列した場合にも適用できる。
【0057】
本発明においては、副走査方向において同じ列にある発光素子からの光を重ね合わせてもよい。図9は、このような本発明の実施形態を示す説明図である。図9の構成では、発光素子ライン75、76からなる光源は、千鳥配列ではなく格子状配列としている。発光素子ライン75の像は、矢視Zaの方向に移動した47の位置に結像する。
【0058】
また、発光素子ライン76の像も、矢視Zbの方向に移動した同じ47の位置に結像する。このような、図9に示したような光源の配置においては、主走査方向の解像度は変らないが、2つの発光部からの光パワーを1個所のライン47に重ねることができるので、光源の光パワーが不十分な場合に有効である。
【0059】
この場合にも、被照射面に結像したスポットが1ラインに重なっていれば、光源が2ラインになっているにもかかわらず、副走査方向に各2個の光源を全く同じタイミングで点灯/消灯を制御すればよい。よって、1つのドライバに2つの発光部を接続することができ、制御部の構成が簡略化される。図9のように格子状に光源を配列した例において、被照射面の結像を1ラインに重ねることに代えて、図4で説明したように光源の副走査方向の間隔よりも狭く2ラインに結像を形成することもできる。
【0060】
この場合には、格子状に光源を配列した例において、被照射面(結像面)上に各光源の光が結像してできるスポットの副走査方向の間隔が縮小される。このため、各光源の点灯タイミングをずらす量を小さくでき、一時的にデータを貯えるバッファメモリの容量を小さくできる。また、被照射面のスポット結像位置の副走査方向の間隔を、アレイ光源の副走査方向の間隔よりも狭くするという調整が、固定されているプリズム状の光学素子により行えるので、制御部の構成を簡略化できる。
【0061】
なお、図14で説明したように、複数の発光素子を1列に配置したチップ31、33、35が千鳥状に配置されている場合でも、図9の例と同様な効果が得られる。この場合には、千鳥状に配置されているチップ31、33、35の発光素子からの出射光により、被照射面に結像したスポットを1ラインに重ねることにより、制御部の構成が簡略になる。
【0062】
本発明の実施形態は、また、屈折率分布型ロッドレンズアレイ(SLA)以外の正立等倍レンズアレイ、例えばルーフミラーレンズアレイを用いることもできる。さらに、レンズアレイではなく、単一のレンズ系からなる投影光学系を用いる場合にも適用できる。
【0063】
本発明の実施形態において、光源の半導体発光素子としてLEDを用いているが、光源としては他に、蛍光管(FL)やEL発光素子(有機または無機)などを組み合わせてもよい。このように、本発明は、LEDや有機EL素子など光源の種別によらず、広く光ラインヘッドに応用可能である。例えば、ガラス基板上にTFTプロセスで形成したドライバと有機EL発光素子を組み合わせると、ガラス基板上にドライバと発光部を一体に形成できる。
【0064】
以上、本発明の光ラインヘッドをいくつかの実施例に基づいて説明したが、本発明はこれら実施例に限定されず種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の光ラインヘッドの説明図である。
【図2】本発明の他の実施形態にかかる説明図である。
【図3】プリズムの説明図である。
【図4】本発明の実施形態にかかる説明図である。
【図5】本発明の他の実施形態にかかる説明図である。
【図6】本発明の他の実施形態にかかる説明図である。
【図7】本発明の他の実施形態にかかる説明図である。
【図8】本発明の他の実施形態にかかる説明図である。
【図9】本発明の他の実施形態にかかる説明図である。
【図10】本発明の光ラインヘッドの例を示す斜視図である。
【図11】本発明の光ラインヘッドの分解斜視図である。
【図12】千鳥配置の例を示す説明図である。
【図13】3ラインの千鳥配置の例を示す説明図である。
【図14】チップを千鳥配置した例を示す説明図である。
【図15】被照射面への結像の例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0066】
1・・・光ラインヘッド、2・・・プリズム、3、4・・・2つに分離した楔状のプリズム、5・・・ガラス基板上に形成されたプリズム、6・・・ガラス基板の溝に挿入されたプリズム、7・・・3ラインの発光素子ラインに対応するプリズム、9、10・・・カソードドライバ、13・・・アノード制御線、40・・・被照射面(像担持体)、44〜46・・・結像スポット位置、61・・・有機EL素子アレイ、62・・・ガラス基板、63・・・発光部、64・・・カバーガラス、65…屈折率分布型ロッドレンズアレイ(SLA)、70・・・ファイバー、72〜76・・・発光素子ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の副走査方向に2列以上に配列されたライン状のアレイ光源からの出射光を正立等倍の光学系を用いて被照射面に結像させる光ラインヘッドにおいて、前記2列以上に配列されたアレイ光源の各列に対して、副走査方向の断面において、水平面に対して光射出面の角度が光入射面とは異なるプリズム状の光学素子を配置し、被照射面上で前記各列のアレイ光源から放射された光が結像して形成されるスポットの副走査方向の間隔が、前記アレイ光源の間隔よりも小さくなるように設定されることを特徴とする、光ラインヘッド。
【請求項2】
前記光学素子は、副走査方向の断面において同一平面の光入射面と、水平面を基準として角度が異なる複数の光射出面とを有してプリズム状に一体に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の光ラインヘッド。
【請求項3】
前記副走査方向の断面において、平面の光入射面と平面の光射出面を有し、楔型の形状で複数に分離して配置したプリズム状の光学素子が、前記副走査方向に複数列配列された各アレイ光源に対応して設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の光ラインヘッド。
【請求項4】
前記アレイ光源は、ガラス基板上で主走査方向にライン状に形成されており、前記アレイ光源からの出射光ビームがガラス基板を透過して射出されることを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の光ラインヘッド。
【請求項5】
前記プリズム状の光学素子は、前記ガラス基板上に形成されたアレイ光源とは対向する面に、前記ガラス基板と一体に形成されていることを特徴とする、請求項4に記載の光ラインヘッド。
【請求項6】
前記プリズム状の光学素子は、前記ガラス基板に溝を設けて接着されていることを特徴とする、請求項4に記載の光ラインヘッド。
【請求項7】
前記アレイ光源を副走査方向に3列以上配列することを特徴とする、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の光ラインヘッド。
【請求項8】
前記アレイ光源を千鳥状に配列することを特徴とする、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の光ラインヘッド。
【請求項9】
前記アレイ光源を格子状に配列することを特徴とする、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の光ラインヘッド。
【請求項10】
アレイ光源が配列されたチップを、主走査方向に複数個配置してなることを特徴とする、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の光ラインヘッド。
【請求項11】
前記チップを千鳥状に配列することを特徴とする、請求項10に記載の光ラインヘッド。
【請求項12】
前記アレイ光源の発光素子が有機EL素子であることを特徴とする、請求項1ないし請求項11のいずれかに記載の光ラインヘッド。
【請求項13】
前記アレイ光源の発光素子がLEDであることを特徴とする、請求項1ないし請求項11のいずれかに記載の光ラインヘッド。
【請求項14】
ホルダーに溝を形成して前記光学系素子を装着すると共に、前記ガラス基板を前記ホルダーの前記光学系素子の入射面と対向する面に設けることを特徴とする、請求項1ないし請求項13のいずれかに記載の光ラインヘッド。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−142541(P2006−142541A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−332692(P2004−332692)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】