説明

光ラジカル硬化性樹脂組成物及び該組成物の製造方法

【課題】
低光量の紫外線発光ダイオード光源の照射により、良好な表面硬化性と深部硬化性を有する光ラジカル硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】
下記式(3)で示されるシリコーン変性イソシアヌレート。
【化1】


(式中、Rは互いに独立に、水素原子またはメチル基であり、Rは互いに独立に、メチル基またはフェニル基であり、nは2〜1000の整数であり、kは0〜2の数である)
及び、
(A)上記式(3)で示されるシリコーン変性イソシアヌレート、
(B)光ラジカル開始剤、及び
(C)ラジカル連鎖移動剤
を含有する光ラジカル硬化性樹脂組成物及び、該組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低光量の紫外線発光ダイオードを硬化用光源として硬化する樹脂組成物に関し、詳細には、優れた硬化性、リペア性を持つ光ラジカル硬化性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紫外光照射により硬化を行う付加重合反応としては重合活性種がラジカルのものと、カチオンの2種類に大別される。この中で光ラジカル硬化性樹脂は、無溶媒、即時硬化性などの特性から環境安全性や生産性の点で優れており、コーティング材料や光造形用途に用いられてきた。これらの硬化用紫外光源として長らく水銀灯が用いられてきたが、短寿命で消費電力が大きい上に、環境負荷物質を使用していることから代替光源の登場が待たれていた。
【0003】
近年、高圧水銀灯やキセノンランプ等の既存の光源に代えて、低環境負荷の紫外光源として紫外線発光ダイオードが実用化され、光硬化樹脂材料用の硬化用光源として注目を受けている。しかしながら、高圧水銀灯やキセノンランプ光源が幅広い波長領域の紫外発光スペクトルを有し高い樹脂硬化性を示すのに比べ、紫外線発光ダイオードは220〜370nm内に発光波長を持つ準単色の光源であり照射光強度が弱く、十分に紫外線硬化性樹脂の硬化反応を起こすことができない。従って、紫外線発光ダイオードを光源として光ラジカル硬化性樹脂組成物に紫外線照射してこれらの樹脂を硬化させると、表面硬化不良が起こり、かつ特に深部の硬化性不良が発生するという問題が生じていた。さらに、空気中など酸素が存在すると、酸素が重合禁止剤として働くことから表面硬化不良が更に顕著となる傾向がある。従ってこれらの問題点を解決すべく、紫外線照射により硬化する光硬化性樹脂組成物が報告されている(特許文献1、2)。
【0004】
本発明者らは先に、ラジカル連鎖移動剤を含有する光ラジカル硬化性樹脂組成物が、紫外線発光ダイオード光源を用いた硬化条件下において良好な硬化性を有することを見出した(特許文献3)。しかし、該光ラジカル硬化性樹脂組成物は、低光量の紫外線発光ダイオード光源を用いた硬化では表面硬化性及び深部硬化性が十分ではなく、さらなる改良が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−022228号公報
【特許文献2】特開平06−264033号公報
【特許文献3】特開2008−163183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記要求に応えるべく、低光量の紫外線発光ダイオード光源の照射により、良好な表面硬化性と深部硬化性を有する光ラジカル硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、光ラジカル重合性化合物としてアクリル基及び/又はメタクリル基を含有するシリコーン変性イソシアヌレートを用いることにより、照射光強度が弱い硬化条件下でも、高い表面硬化性と深部硬化性を両立した硬化物を提供することができることを見出し、本発明に至った。
【0008】
即ち、本発明は、
下記式(3)で示されるシリコーン変性イソシアヌレート
【化1】

(式中、Rは互いに独立に、水素原子またはメチル基であり、Rは互いに独立に、メチル基またはフェニル基であり、nは2〜1000の整数であり、kは0〜2の数である)
に関する。
さらに本発明は、
(A)上記式(3)で示されるシリコーン変性イソシアヌレート、
(B)光ラジカル開始剤、及び
(C)ラジカル連鎖移動剤
を含有する光ラジカル硬化性樹脂組成物及び、該組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光ラジカル硬化性樹脂組成物は、照射光強度が弱い硬化条件下でも良好に硬化し、高い表面硬化性と深部硬化性を有する硬化物を提供することができるため、低光量の紫外線発光ダイオードを硬化用光源とする光ラジカル硬化性樹脂材料として有用に使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1で調製した化合物のH−NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
(A)シリコーン変性イソシアヌレート
本発明のシリコーン変性イソシアヌレートは光ラジカル重合性化合物であり、紫外線発光ダイオード光源に対する感度が高いため、低光量の紫外線照射条件でも良好に硬化することができる。該シリコーン変性イソシアヌレートは、RSiOで示されるシロキサン繰り返し単位が2〜1000、好ましくは2〜100、より好ましくは2〜20であるシリコーン鎖を含有するのがよい。
【0012】
本発明のシリコーン変性イソシアヌレートは、特許第3704169号公報に開示されている方法に基づき、下記式(1)で示されるトリ(メタ)アクリルイソシアヌルレートと、下記式(2)で示される直鎖オルガノハイドロジェンポリシロキサンを、ロジウム触媒の存在下でヒドロシリル化することにより得られる。下記式(1)で示されるトリ(メタ)アクリルイソシアヌルレートは、イソシアヌルレートを(メタ)アクリル酸エステル残基で変性した化合物である。
【0013】
【化2】

(Rは、互いに独立に、水素原子またはメチル基である)
【化3】

(式中、nは2〜1000、好ましくは2〜100、より好ましくは2〜20の整数であり、Rは互いに独立に、メチル基またはフェニル基である)
【0014】
例えば、トリ(メタ)アクリルイソシアヌレート、及び該トリ(メタ)アクリルイソシアヌレートと下記のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの合計質量あたりロジウム相当量が5〜200ppmとなる量のロジウム触媒、酸化防止剤としてトリ(メタ)アクリルイソシアヌレートに対して200〜5000ppmとなる量のBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)、溶媒としてトリ(メタ)アクリルイソシアヌレートと同量のトルエンを60〜130℃、好ましくは80℃〜110℃で攪拌しながら加熱した中に、オルガノハイドロジェンポリシロキサンを、トリ(メタ)アクリルイソシアヌレート:オルガノハイドロジェンポリシロキサン=1:0.25〜1:1(モル比)、好ましくは1:0.5〜1:0.7(モル比)となる量で攪拌しながら滴下する。その後、前記温度下で3〜5時間攪拌した後、減圧ストリップによってトルエンを除去し、目的とするシリコーン変性イソシアヌレートを得ることができる。
【0015】
ヒドロシリル化に用いるロジウム触媒としては、例えば、RhCl(PhP)、RhCl・3HO、[RhClEt、[RhCl(シクロオクタジエン)]が挙げられる(但し、Phはフェニル基、Etはエチル基である)。
【0016】
上記方法により、下記式(3)に示すシリコーン変性イソシアヌレートを得ることができる。
【化4】

(式中、kは0〜2の数であり、n、R、Rは上述の通り)
【0017】
中でも、下記式(4)に示されるシリコーン変性イソシアヌレートが好ましい。
【化5】

(式中、n、R、Rは上述の通り)
【0018】
(A)成分は、光ラジカル硬化性樹脂組成物中に30〜99質量%、好ましくは70〜98質量%となる量で配合するのがよい。これにより紫外線発光ダイオード光源に対して高感度となり硬化速度、深部硬化性が向上する。なお、上記反応においてトリ(メタ)アクリルイソシアヌレートが未反応で残存する場合、あるいは、上記式(3)で示される化合物の側鎖(メタ)アクリル基とオルガノハイドロジェンポリシロキサンが反応した化合物が生成する場合があるが、除去することなく光ラジカル硬化樹脂組成物中に含有されていてもよい。
【0019】
(B)光ラジカル開始剤
光ラジカル開始剤としては、紫外線発光ダイオードによる光照射により重合活性種を発生するいずれの化合物も使用することができるが、特に
(B1)ケトン化合物、
(B2)アシルホスフィン化合物、
(B3)チオキサントン化合物、
から選ばれる1種又は2種以上が用いられる。
【0020】
(B1)ケトン化合物としては、光ラジカル開始剤として用いることのできるものを際限無く使用することができ、具体的にはα−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−イソプロピルフェニル)プロパノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−ドデシルフェニル)プロパノン、及び、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパノン、ベンゾフェノン、2−メチルベンゾフェノン、3−メチルベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、4−メトキシベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4−ブロモベンゾフェノン、2−カルボキシベンゾフェノン、2−エトキシカルボニルベンゾフェノン、ベンゾフェノンテトラカルボン酸又はそのテトラメチルエステル、4,4’−ビス(ジアルキルアミノ)ベンゾフェノン類(例えば4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジシクロヘキシルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジヒドロキシエチルアミノ)ベンゾフェノン、4−メトキシ−4’−ジメチルアミノベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4−ジメチルアミノベンゾフェノン、4−ジメチルアミノアセトフェノン、ベンジル、アントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、2−メチルアントラキノン、フェナントラキノン、フルオレノン、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−1−ブタノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−1−プロパノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノールオリゴマー、ベンゾイン、ベンゾインエーテル類(例えばベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル、ベンジルジメチルケタール)、アクリドン、クロロアクリドン、N−メチルアクリドン、N−ブチルアクリドン、N−ブチル−クロロアクリドン等が挙げられる。
【0021】
(B2)アシルホスフィン化合物としては、光ラジカル開始剤として用いることのできるものを際限無く使用することができ、具体的には2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジ−(2,6−ジメチルフェニル)ホスホネートなどが挙げられる。ビスアシルフォスフィンオキサイド類としては、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、(2,5,6−トリメチルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドが挙げられる。
【0022】
(B3)チオキサントン化合物としては、光ラジカル開始剤として用いることのできるものを際限無く使用することができ、具体的には、2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントンなどが挙げられる。
【0023】
上記(B1)〜(B3)の光重合開始剤は、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。(B)成分は(B1)〜(B3)の合計質量が光ラジカル硬化性樹脂組成物中に0.05〜15質量%、好ましくは0.5〜6質量%となる量で配合する。
【0024】
(C)ラジカル連鎖移動剤
ラジカル連鎖移動剤は、酸素等の不活性なラジカル補足剤にトラップされた重合活性種を再活性化させる為に用い、このような機能を持つ化合物であれば特に制限されるものではないが、例えば、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−エチルアニリン、N,N−ジメチル−4−イソプロピルアニリン、N,N−ジメチル−4−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチル−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−エチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸メチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸2−(メタクリロイルオキシ)エチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノン、[4−(メチルフェニルチオ)フェニル]フェニルメタノン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−ラウリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N−メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N−エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート等が挙げられる。特に好適な連鎖移動剤としては、2−エチルへキシル−4−ジメチルアミノベンゾエート、[4−(メチルフェニルチオ)フェニル]フェニルメタノンが挙げられる。これらのラジカル連鎖移動剤は、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
ラジカル連鎖移動剤(C)は光ラジカル硬化性樹脂組成物中に0.01〜10質量%、好ましくは0.4〜5質量%となる量で配合する。
【0026】
なお、本発明の光ラジカル硬化性樹脂組成物に用いる成分として、上述した(A)、(B)、(C)の各成分の機能が一つもしくは複数の化合物に付与されていてもよい。
【0027】
光ラジカル硬化性樹脂組成物の硬化物の接着性を向上させるために、本発明の光ラジカル硬化性樹脂組成物にさらに接着助剤を添加することができる。具体的には、メチルシアノアクリレート、エチルシアノアクリレート、プロピルシアノアクリレート、ブチルシアノアクリレート等のシアノアクリル酸のアルキルエステルなどのシアノアクリレート骨格を有する化合物、β−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、δ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、δ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリメトキシシラン等に代表されるエポキシ官能基含有アルコキシシラン、またはこれらの部分加水分解縮合物であるシランカップリング剤などを挙げることができる。上記接着助剤の骨格が化学結合により複数種類組み合わされているものであってもよい。接着助剤の配合量は、光ラジカル硬化性樹脂組成物中に0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜5質量%で配合するのがよい。
【0028】
更に、本発明の光ラジカル硬化性樹脂組成物には必要により溶媒を配合することができる。溶媒としては、例えばn−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、イソオクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン等の炭素原子数5〜15の非極性炭化水素系溶媒が好ましい。また、含ヘテロ溶媒(即ち、炭素、水素以外のヘテロ原子を含有する溶媒)を使用してもよく、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエーテル系、エステル系溶媒、ヘキサメチルジシラン、ヘキサメチルジシロキサン等のシラン系、シロキサン系溶媒が使用できる。また、フルオロアルカン、フルオロアルキルエーテル等の含フッ素系溶媒を使用することもできる。溶剤の配合量は、光ラジカル硬化性樹脂組成物中に0.1〜60質量%、好ましくは30〜50質量%となる量で添加すると光ラジカル開始剤の溶解性を向上させることができるため好ましい。
【0029】
光ラジカル硬化性樹脂組成物の製造方法
本発明の光ラジカル硬化性樹脂組成物は、(B)光ラジカル開始剤及び(C)ラジカル連鎖移動剤をあらかじめ50〜150℃、好ましくは100〜150℃の高温で混合し、加熱溶解することにより均一化した混合物と、(A)シリコーン変性イソシアヌレートとを5℃〜45℃、好ましくは10℃〜40℃で混合することによって製造する。(B)光ラジカル開始剤と(C)ラジカル連鎖移動剤を先に混合し、均一化することにより、室温でも光ラジカル開始剤およびラジカル連鎖移動剤が析出しない安定な混合物となるため、(A)シリコーン変性イソシアヌレートとの混合を室温で行うことが可能になる。また、前記方法により製造することで、光ラジカル硬化性樹脂組成物中での光ラジカル開始剤及びラジカル連鎖移動剤の再結晶化を抑制することができる。
【0030】
光ラジカル硬化性樹脂組成物の硬化
本発明の光ラジカル硬化性樹脂組成物の硬化には、公知の方法を用いることができる。特に、本発明の光ラジカル硬化性樹脂組成物は、高圧水銀灯やキセノンランプ等の既存の光源でなくとも、220〜370nm内に一つの発光波長を持つ紫外線発光ダイオードの照射条件下においても短時間で硬化を行うことができ、かつ、高い表面硬化性と深部硬化性を提供することができる。特に、365nmに発光波長を持つ紫外線発光ダイオード光源による硬化により、高い硬化性を有する硬化物を提供することができる。なお、紫外線発光ダイオードの照射は、酸素含有雰囲気下、窒素、アルゴン等の不活性ガスなどの非酸素雰囲気下、減圧下等のいずれの雰囲気下でも良好に行うことができ、常温(例えば25℃)で行うことができる。
【0031】
本発明の光ラジカル硬化性樹脂組成物は、照射光量が少ない条件下でも極めて短時間で硬化することが可能であり、高い表面硬化性と深部硬化性を有する硬化物を提供することができる。特に、30〜150mJ/cm、中でも、50〜150mJ/cmの光量で良好に硬化し、表面硬化性及び深部硬化性に優れた硬化物を与える。さらに、本発明の光ラジカル硬化性樹脂組成物はリペア性に優れるため、基板に接着された段階では容易に脱落しないが、検査工程等の中間段階で基板から容易に取り除くことができる。従って、本発明の光ラジカル硬化樹脂組成物は、低光量の紫外線発光ダイオードを光源とする光ラジカル硬化性樹脂材料として好適に使用することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下の記載において部は質量部を意味し、MはRHSiO1/2単位を、DはRSiO単位を意味する。
【0033】
[実施例1]
シリコーン変性イソシアヌレートの調製
撹拌機、滴定漏斗、温度計および還流冷却器を備えたセパラブルフラスコ中に、トリアクリルイソシアヌレート582.6g、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)([RhCl(PhCl(PhP)])0.2g(ロジウム相当量:ポリジメチルシロキサンおよびトリアクリルイソシアヌレートに対して20ppm)、BHT1.17g(トリアクリルイソシアヌレートに対して2000ppm)、及びトルエン582.6gを仕込み、撹拌しながら80℃に加熱した。前記フラスコ中に、Mで示されるポリジメチルシロキサン500g(トリアクリルイソシアヌレート:ポリジメチルシロキサン=2:1(モル比))を10g/分以下の滴下速度で攪拌しながら滴下した。滴下終了後、80℃で3時間攪拌し、その後減圧ストリップによってトルエンを除去し、液状の生成物1028gを得た(10%未満の未反応トリアクリルイソシアヌレートが含まれる事をGPCにより確認した)。
【0034】
H−NMRおよびGPCによる測定の結果、得られた生成物は下記式(5)で示されるシリコーン変性イソシアヌレートであった。H−NMRの測定結果を図1に示す。尚、測定は以下の装置を使用して行った。
H−NMR:AVANCE3400型(ブルカー・バイオスピン社製)
GPC:SC−8020(東ソー社製)

【化6】

(k≒1、R=CH
【0035】
[実施例2]
光ラジカル硬化性樹脂組成物の調製
(C)ラジカル連鎖移動剤として[4−(メチルフェニルチオ)フェニル]フェニルメタノン(日本化薬製、商品名 KAYARAS BMS)を0.5部、(B)光ラジカル開始剤として2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−1−プロパノン(チバスペシャリティケミカルズ、商品名 IRUGACURE 907)2部を混合した上で、100℃10分間で加熱溶解した。この液体を室温に冷却し、上記式(5)で示されるシリコーン変性イソシアヌレート100部に加え、攪拌及び脱泡操作により光ラジカル硬化性樹脂組成物を得た。
【0036】
[実施例3]
実施例1において、Mで示されるポリジメチルシロキサンに変えて、Mで示されるポリジメチルシロキサンを用いた他は、実施例1と同様の方法でシリコーン変性イソシアヌレートを調製した。H−NMRおよびGPCによる測定の結果、得られた生成物は下記式(6)で示されるシリコーン変性イソシアヌレートであった(10%未満の未反応トリアクリルイソシアヌレートが含まれる事をGPCにより確認した)。該化合物を用い、実施例2と同様に光ラジカル硬化性樹脂組成物を調製した。
【化7】

(k≒1.5、R=CH
【0037】
[実施例4]
実施例1において、Mで示されるポリジメチルシロキサンに変えて、M18で示されるポリジメチルシロキサンを用いた他は、実施例1と同様の方法でシリコーン変性イソシアヌレートを調製した。H−NMRおよびGPCによる測定の結果、得られた生成物は下記式(7)で示されるシリコーン変性イソシアヌレートであった(10%未満の未反応トリアクリルイソシアヌレートが含まれる事をGPCにより確認した)。該化合物を用い、実施例2と同様に光ラジカル硬化性樹脂組成物を調製した。
【化8】

(k≒1、R=CH
【0038】
[実施例5]
(B)光ラジカル開始剤として、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−1−プロパノン(チバスペシャリティケミカルズ、商品名 IRUGACURE 907)2.0部に加え、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドと1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの1対3混合物(チバスペシャリティケミカルズ製、商品名 IRGACURE1800)2.0部を使用した他は実施例2と同様に光ラジカル硬化性樹脂組成物を調製した。
【0039】
[比較例1]
上記式(5)で示されるシリコーン変性イソシアヌレート100部に替えて、下記式(8)で表わされる特開2008−163183に開示されているアクリル変性シリコーン100部を使用した他は、実施例2と同様に光ラジカル硬化性樹脂組成物を調製した。
【化9】

(式中、Meはメチル基、Phはフェニル基、L=700〜850の整数、M=150〜350の整数である)
【0040】
[比較例2]
(B)光ラジカル開始剤として2−ジメチルアミノ−2−(4−メチルベンジル)−1−(4−モルフォリン−4−イル−フェニル)−ブタン−1−オン(チバスペシャリティケミカルズ製、商品名 IRGACURE 379)1.5部、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(チバスペシャリティケミカルズ製、商品名 DAROCURE 1173)1部、2,4−ジエチルチオキサントン(日本化薬製、商品名 DETX−S)0.1部、(C)ラジカル連鎖移動剤として2−エチルへキシル−4−ジメチルアミノベンゾエート(チバスペシャリティケミカルズ製、商品名 DAROCURE EHA)1部を混合し、100℃、15分間で加熱溶解した。この液体を室温に冷却し、上記式(8)で表わされるアクリル変性シリコーン100部に加え、攪拌及び脱泡操作により光ラジカル硬化樹脂組成物を得た。
【0041】
各樹脂組成物について下記の通り、大気中、常温(25℃)下にて、紫外線発光ダイオード光源で照射した際の硬化物の表面硬化性及び深部硬化性を評価した。硬化は、紫外線発光ダイオード照射装置として松下電器産業製アイキュア(スポットタイプ、ANUJ−5010、波長365nm)を二灯、10mm間隔で連結したものを用い、全光量150mJ/cm、焦点距離10mmで、走査速度80mm/sの照射条件で行った。結果を表1に示す。
【0042】
[表面硬化性の評価]
ガラス板上に溝をつけて形成した長さ5cm、幅1mm、厚み600μmの型枠内に光ラジカル硬化性樹脂組成物を流し込み、線状の硬化試料を作製した。続いて上記条件を用いて紫外線発光ダイオードによる光硬化反応を行った。紫外線照射直後の硬化物表面の未硬化物を顕微鏡による目視で確認し、さらにゴム手袋で触ってべたつきを評価した後に、接触部位を黒色ポリプロピレン板に押し当て、板への移行物の有無により表面硬化性を評価した。評価指標を以下に示す。
×:硬化物の表面にべたつきがあり、痕跡量の移行物がある。
○:硬化物の表面に僅かなべたつきがあり、板への僅かな移行物がある。
◎:硬化物の表面にべたつきがなく、移行物なし。
【0043】
[深部硬化性の評価]
上記光硬化物を、紫外線照射直後にガラス板から剥離し、ガラス板上に残留した液状未硬化物の量を顕微鏡による目視で確認し深部硬化性を評価した。評価指標を以下に示す。
×:硬化物剥離後のガラス板上に未硬化物がある。
○:硬化物剥離後のガラス板上に未硬化物が僅かにある。
◎:硬化物剥離後のガラス板上に未硬化物が存在しない。
【0044】
【表1】

【0045】
各樹脂組成物について全光量を50mJ/cmとした他は、上記と同様の硬化条件で紫外線照射し、硬化物の表面硬化性及び深部硬化性を顕微鏡による目視で確認し評価した。結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
更に、各樹脂組成物のリペア性を評価した。硬化は、紫外線発光ダイオード照射装置として松下電器産業製アイキュア(スポットタイプ、ANUJ−5010、波長365nm)を二灯、10mm間隔で連結したものを用い、全光量50mJ/cm、焦点距離10mmで、走査速度80mm/sの照射条件で行った。評価結果を表3に示す。
【0048】
[リペア性の評価]
ガラス板上に溝をつけて形成した長さ5cm、幅1mm、厚み300μmの型枠内に光ラジカル硬化性樹脂組成物を流し込み、線状の硬化試料を作製した。続いて上記条件を用いて紫外線発光ダイオードによる光硬化反応を行った。紫外線照射直後の硬化物をピンセットで剥離し、ガラス表面の残存物の有無を評価した。評価指標を以下に示す。
×:ガラスの表面に硬化物が残存している。
○:ガラスの表面に硬化物がやや残存している。
◎:ガラスの表面に硬化物が全く残存していない。
【0049】
【表3】

【0050】
表1より、本発明の光ラジカル硬化性樹脂組成物は、全光量150mJ/cmの紫外線発光ダイオードを使用した硬化条件下で優れた硬化性を示し、かつ、全光量50mJ/cmの低光量照射条件下でも高い表面硬化性及び深部硬化性を有する硬化物を提供する。また、該硬化物はリペア性にも優れている。これに対し、特開2008−163183に開示されているアクリル変性シリコーンを用いた比較例1及び比較例2の光ラジカル硬化性樹脂組成物は表面硬化性及び深部硬化性が悪くリペア性にも劣る。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の光ラジカル硬化性樹脂組成物は、低光量の紫外線発光ダイオードを用いた照射条件でも極めて良好に硬化し、高い表面硬化性と深部硬化性を有する硬化物を提供することができる。さらに本発明の光ラジカル硬化性樹脂組成物はリペア性に優れるため、低光量の紫外線発光ダイオードを硬化用光源とする光ラジカル硬化性樹脂材料として好適に使用することができ、
例えば保護被覆膜、絶縁被覆膜、剥離塗料、更には、微細加工用フォトレジスト等の材料として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(3)で示されるシリコーン変性イソシアヌレート。
【化1】

(式中、Rは互いに独立に、水素原子またはメチル基であり、Rは互いに独立に、メチル基またはフェニル基であり、nは2〜1000の整数であり、kは0〜2の数である)
【請求項2】
下記式(4)で示される請求項1に記載のシリコーン変性イソシアヌレート。
【化2】

(式中、n、R、Rは上述のとおり)
【請求項3】
下記(A)〜(C)成分を含有する光ラジカル硬化性樹脂組成物。
(A)下記式(3)で示されるシリコーン変性イソシアヌレート
【化3】

(式中、Rは互いに独立に、水素原子またはメチル基であり、Rは互いに独立に、メチル基またはフェニル基であり、nは2〜1000の整数であり、kは0〜2の数である)
(B)光ラジカル開始剤、及び
(C)ラジカル連鎖移動剤
【請求項4】
(A)成分が下記式(4)で示されるシリコーン変性イソシアヌレートである、請求項3に記載の光ラジカル硬化性樹脂組成物。
【化4】

(式中、n、R、Rは上述のとおり)
【請求項5】
(B)光ラジカル開始剤が、
(B1)ケトン化合物、
(B2)アシルホスフィン化合物、
(B3)チオキサントン化合物、
から選ばれる1種又は2種以上である請求項3または4に記載の光ラジカル硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
(A)成分を30〜99質量%、(B)成分を0.05〜15質量%、及び(C)成分を0.01〜10質量%で含有する請求項3〜5のいずれか1項に記載の光ラジカル硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
(B)光ラジカル開始剤と(C)ラジカル連鎖移動剤を均一に混合した混合物と、(A)シリコーン変性イソシアヌレートとを混合する工程を含む請求項3〜6のいずれか1項に記載の光ラジカル硬化性樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−241278(P2011−241278A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113615(P2010−113615)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】