説明

光伝導基板およびこれを用いた電磁波発生検出装置

【課題】テラヘルツ電磁波の検出または発生が効率良く行われ、S/N比を向上させることができる光伝導基板およびこれを用いた電磁波発生検出装置を提供する。
【解決手段】基板3と、基板3上に積層された半導体積層群5と、を備え、半導体積層群5は、第1化合物半導体層51と、第1化合物半導体層51上に、第1化合物半導体層51と屈折率が異なると共に励起光の表面反射を低減できる層厚で成長させた第2化合物半導体層52と、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ電磁波の検出または発生等に用いることができる光伝導基板およびこれを用いた電磁波発生検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体単結晶基板と、半導体単結晶基板上にエピタキシャル成長させ、表面に向かうに従ってIII族原子の濃度に対するV族原子の濃度の割合を増加させ、表面近傍においてV族原子の濃度をIII族原子の濃度より高くしたIII−V族化合物半導体層と、を備えた光伝導基板が知られている(特許文献1参照)。
この光伝導基板では、表面近傍におけるV族原子クラスターが光励起キャリア捕捉に大きく寄与することを利用して、フェムト秒レーザパルスの照射によって素子内に発生する光励起キャリアのキャリア寿命を短寿命化している。これにより、ノイズとなる残留キャリアにより、テラヘルツ電磁波の検出または発生のS/N比が低下することを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4095486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような光伝導基板では、フェムト秒レーザパルス(励起光)の吸収(励起光の強度)を大きくすることで、テラヘルツ電磁波の検出または発生のS/N比が大きくなることは周知の事実である。
【0005】
しかし、従来の光伝導基板では、単層のIII−V族化合物半導体層に照射した励起光が表面反射するため、III−V族化合物半導体層の内部に侵入(吸収)する励起光の強度が減少する。このため、テラヘルツ電磁波の検出または発生が効率良く行われず、S/N比の向上が阻害されていた。
【0006】
この場合、III−V族化合物半導体層の上に、化合物半導体材料とは異なる材料からなる反射防止膜を追加して設けることで、照射した励起光の表面反射を防止することができる。しかし、このような反射防止膜は、光伝導基板の生成装置とは別の成膜装置により成膜しなければならず、光伝導基板の製造工程の増加やコストの増加という問題があった。
【0007】
本発明は、テラヘルツ電磁波の検出または発生が効率良く行われ、S/N比を向上させることができる光伝導基板およびこれを用いた電磁波発生検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光伝導基板は、基板と、基板上に積層された半導体積層群と、を備え、半導体積層群は、第1化合物半導体層と、第1化合物半導体層上に、第1化合物半導体層と屈折率が異なると共に励起光の表面反射を低減できる層厚で成長させた第2化合物半導体層と、を有していることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、半導体積層群が互いに屈折率の異なる複数の層(第1化合物半導体層および第2化合物半導体層)を有していると共に、励起光の入射面である第2化合物半導体層が、励起光の表面反射を低減できる層厚で形成されている。このため、半導体積層群上に照射された励起光は、表面における反射が抑えられ、半導体積層群に効率良く吸収される。これにより、より多くの光励起キャリアを発生させることができるため、テラヘルツ電磁波の検出または発生が効率良く行われ、S/N比を向上させることができる。なお、「励起光の表面反射を低減できる層厚」は、励起光の波長、第1化合物半導体層の屈折率および第2化合物半導体層の屈折率等から計算される。
【0010】
この場合、半導体積層群は、第2化合物半導体層上に、第2化合物半導体層と屈折率が異なると共に励起光の表面反射を低減できる層厚で成長させた第3化合物半導体層を、更に備え、第2化合物半導体層と第3化合物半導体層とが交互に少なくとも1組以上積層されていることが好ましい。
【0011】
この場合、第3化合物半導体層は、第1化合物半導体層と同一の屈折率を有していることが好ましい。
【0012】
これらの構成によれば、第1化合物半導体層上に、互いに屈折率の異なる第2化合物半導体層と第3化合物半導体層とが交互に1組以上積層されている。また、第2化合物半導体層および第3化合物半導体層は、それぞれ励起光の表面反射を低減できる層厚で形成されている。これにより、半導体積層群の表面における励起光の反射を、さらに有効に低減させることができる。なお、第2化合物半導体層および第3化合物半導体層の積層数(組数)を増加させることで、反射低減効果がより大きくなる。またなお、「励起光の表面反射を低減できる層厚」は、励起光の波長、第2化合物半導体層および第3化合物半導体層の積層数、第1化合物半導体層、第2化合物半導体層および第3化合物半導体層の屈折率等から計算される。
【0013】
この場合、第1化合物半導体層および第2化合物半導体層は、III−V族化合物をエピタキシャル成長させてなることが好ましい。
【0014】
また、この場合、第1化合物半導体層、第2化合物半導体層および第3化合物半導体層は、III−V族化合物をエピタキシャル成長させてなることが好ましい。
【0015】
これらの構成によれば、励起光の反射を低減させるための層と、励起光により光励起キャリアを発生させる層と、を同様のIII−V族化合物を材料として形成することができる。このため、励起光の反射を低減させるための層(第2化合物半導体層および第3化合物半導体層)からも、光励起キャリアが発生する。これにより、光励起キャリアを更に効率良く発生させることができる。また、化合物半導体と異なる材料を用いて反射防止膜を追加して設ける必要がなく、第1化合物半導体層、第2化合物半導体層および第3化合物半導体層は、同一の装置で形成することができ、各層の形成に要する工程を簡易化することができる。なお、各層は、例えば、MBE(分子線エピタキシー)装置を用いて低温成長させたLT−GaAs層であることが好ましい。またなお、第1化合物半導体層および第2化合物半導体層は、例えば、MBE装置を用いて成長させたLT-GaAs層およびLT-AlGaAs層であることが好ましい。これにより、LT−GaAs層を積層した場合より、互いの層の屈折率の差が大きくなるので、励起光の表面反射低減効果がより大きくなる。したがって、積層数を減らすこともできる。
【0016】
この場合、第1化合物半導体層および第2化合物半導体層は、GaAsからなり、第2化合物半導体層は、第1化合物半導体層と異なる温度でエピタキシャル成長させることが好ましい。
【0017】
この場合、第1化合物半導体層、第2化合物半導体層および第3化合物半導体層は、GaAsからなり、第1化合物半導体層、第2化合物半導体層および第3化合物半導体層は、それぞれ異なる温度でエピタキシャル成長させることが好ましい。
【0018】
また、この場合、第1化合物半導体層、第2化合物半導体層および第3化合物半導体層は、GaAsからなり、第2化合物半導体層は、第1化合物半導体層と異なる温度でエピタキシャル成長させ、第3化合物半導体層は、第1化合物半導体層と同一の温度でエピタキシャル成長させることが好ましい。
【0019】
エピタキシャル成長させたGaAs層(膜)は、成長時の温度によって、励起光の屈折率が異なるものとなる。したがって、これらの構成によれば、異なる温度でエピタキシャル成長させた、第1化合物半導体層、第2化合物半導体層および第3化合物半導体層は、それぞれが互いに隣り合う層と異なる屈折率を有することとなる。これにより、材料の変更を行うことなく、簡易な工程で各層を成膜することができる。
【0020】
本発明の電磁波発生検出装置は、上記のいずれかの光伝導基板と、半導体積層群上に形成されたアンテナと、を備えたことを特徴とする。
【0021】
また、本発明の電磁波発生検出装置は、上記のいずれかの光伝導基板と、半導体積層群の側面に沿って形成されたアンテナと、を備えたことを特徴とする。
【0022】
これらの構成によれば、半導体積層群は、励起光の表面反射を低減しつつ、励起光を効率良く吸収する。これにより、光励起キャリアを効率良く発生させることができるため、テラヘルツ電磁波の検出または発生が効率良く行われ、S/N比を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施形態に係る電磁波発生検出装置を模式的に示した斜視図である。
【図2】第1実施形態に係る電磁波発生検出装置を模式的に示した側面図である。
【図3】GaAs(LT−GaAs)の成長温度と屈折率の関係を示した図(グラフ)である。
【図4】電磁波発生検出装置を応用した時間領域分光装置を示した概略図である。
【図5】第2実施形態に係る電磁波発生検出装置を模式的に示した側面図である。
【図6】発生するテラヘルツ電磁波のS/N(強度/ノイズ)の比較を示した図(グラフ)である。
【図7】(a)は、第3実施形態に係る電磁波発生検出装置を模式的に示した側面図であり、(b)は、その変形例を模式的に示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付の図面を参照して、本発明の第1実施形態に係る光伝導基板を用いた電磁波発生検出装置について説明する。
【0025】
図1は、第1実施形態に係る電磁波発生検出装置1を模式的に示した斜視図である。図2は、第1実施形態に係る電磁波発生検出装置1を模式的に示した側面図である。図1および図2に示すように、電磁波発生検出装置1は、光伝導材料の薄膜を積層した光伝導基板2と、光伝導基板2上に形成されたアンテナ6と、を備えている。
【0026】
光伝導基板2は、基板3と、基板3上に形成されたバッファ層4と、バッファ層4上に形成された半導体積層群5と、を備えている。
【0027】
基板3は、単結晶のGaAs(ガリウム砒素)により構成されている。なお、基板3の材料としては、GaAsに限定されるものではなく、例えば、SiやInP等の任意の単結晶半導体を用いることができる。
【0028】
バッファ層4は、半導体積層群5の結晶性を高くするために設けられる薄膜であり、GaAsにより構成されている。なお、バッファ層4の材料は、GaAsに限定されるものではなく、基板3および半導体積層群5の材料に応じて適切な材料が選択される。また、バッファ層4の層厚も、半導体積層群5の結晶性を考慮して任意に設定される。したがって、基板3と半導体積層群5との格子定数差が小さく、基板3上に適切に半導体積層群5を積層できるのであればバッファ層4を省略してもよい。
【0029】
半導体積層群5は、基板3上にIII−V族化合物をエピタキシャル成長させた第1化合物半導体層51と、第1化合物半導体層51上にIII−V族化合物をエピタキシャル成長させた第2化合物半導体層52と、を有している。
【0030】
第1化合物半導体層51および第2化合物半導体層52は、それぞれ低温成長させたガリウム砒素(LT−GaAs)により形成されている。励起光(フェムト秒パルスレーザ等)は、第2化合物半導体層52の表面側から照射され、第2化合物半導体層52を通過して第1化合物半導体層51に入射する。これにより、第1化合物半導体層51および第2化合物半導体層52において光励起キャリアが発生する。
【0031】
第2化合物半導体層52は、第1化合物半導体層51と屈折率が異なると共に励起光の表面反射を低減できる層厚で、第1化合物半導体層51上に積層されている。
【0032】
詳細は後述するが、エピタキシャル成長させたGaAs層(膜)は、成長時の温度によって、入射した励起光の屈折率が異なるものとなる。そこで、本実施形態では、第2化合物半導体層52を、第1化合物半導体層51とは異なる温度で成長させることにより、第1化合物半導体層51の屈折率とは異なる屈折率を有する第2化合物半導体層52が形成される。したがって、半導体積層群5は、屈折率の異なる層が互いに隣り合って形成される。
【0033】
励起光は、第2化合物半導体層52の表面に対し垂直に入射する。入射した励起光は、第2化合物半導体層52の表面における表面反射光と、第2化合物半導体層52の底面(第1化合物半導体層51と第2化合物半導体層52との界面)における界面反射光と、に分かれる。この2つの反射光は、所定の条件(後述する。)を満たす場合に、互いに逆位相の関係となり、重なり合って打ち消し合う。これにより、第2化合物半導体層52の表面における励起光の表面反射を低減することができる。
【0034】
第2化合物半導体層52の層厚は、励起光の波長や第2化合物半導体層52の屈折率等から計算される。具体的には、第2化合物半導体層52の屈折率(N1)、第2化合物半導体層52の層厚(d)および第1化合物半導体層51の屈折率(N2)が、下記の式1および式2を満たす場合、波長λ(nm)の励起光の反射率が0%となる。なお、下記の式1および式2を完全に満たさない場合でも、反射低減効果を有する層厚の第2化合物半導体層52を形成することは可能である。
【0035】
N1=N2 ・・・(式1)
N1×d=λ/4 ・・・(式2)
【0036】
このように、本実施形態の光伝導基板2には、反射低減のための構造が光伝導材料により形成されている。したがって、光励起キャリアを発生させるために設けられた第1化合物半導体層51のみならず、励起光の反射を低減させるために設けられた第2化合物半導体層52からも、光励起キャリアが発生する。これにより、光励起キャリアを効率良く発生させることができるため、テラヘルツ電磁波の検出または発生が効率良く行われる。そして、結果としてS/N比が向上する。
【0037】
なお、第1化合物半導体層51の材料および第2化合物半導体層52の材料は、LT−GaAsに限定されるものではなく、例えば、AlGaAs(LT-AlGaAs)、InGaP、AlAs等の光伝導性を有する任意の化合物半導体を用いることができる。この場合、材料となる化合物半導体は、各層51,52の屈折率が異なるように選択すればよいため、各層51,52を同一の化合物半導体で構成してもよいし、異なる化合物半導体を組み合わせてもよい。一例として、第1化合物半導体層51をLT−GaAs、第2化合物半導体層52をLT−AlGaAsにより形成することが考えられる。
【0038】
また、基板3にInPを用いた場合、第1化合物半導体層51の材料および第2化合物半導体層52の材料としては、例えば、InP、InAlAs、InGaAs(LT-InGaAs)、InGaAsP、GaAsSb等の光伝導性を有する任意の半導体を用いることができる。さらにまた、その他の材料の基板3を用いた場合、第1化合物半導体層51の材料および第2化合物半導体層52の材料としては、InAs(LT-InAs)、InSb等の光伝導性を有する任意の半導体を用いることができる。これらの場合も、材料となる化合物半導体の組み合わせは任意である。
【0039】
アンテナ6は、第2化合物半導体層52上に配設されている。アンテナ6は、一対の電極部61と、一対のアンテナ本体62と、からなるダイポールアンテナである。一対の電極部61には、ケーブルを介して電源や電流増幅器等が接続される。一対のアンテナ本体62は、所定の間隔(ギャップ部63)を有して配置されている。なお、アンテナ6は、ダイポールアンテナに限らず、ボウタイ型アンテナ若しくはストリップライン型アンテナまたはスパイラル型アンテナ等を任意に選択し用いることができる。
【0040】
一対のアンテナ本体62に電圧を印加した状態で、ギャップ部63にフェムト秒パルスレーザ等の励起光を照射すると、光励起キャリアが発生する。そして、一対のアンテナ本体62の間(ギャップ部63)にパルス状の電流が流れ、この電流によってテラヘルツ電磁波が発生する。また、この電磁波発生検出装置1は、テラヘルツ電磁波を受けたときに一対のアンテナ本体62間に電流が発生するため、検出(受信)素子としても用いることができる。この場合、電流(テラヘルツ電磁波)を検出するための電流増幅器等を、一対の電極部61に接続しておく。
【0041】
電磁波発生検出装置1の製造工程について説明する。先ず、MBE(分子線エピタキシー)装置に基板3をセットし、基板3上にバッファ層4を形成する。具体的には、基板3の温度を500〜600℃、成長速度を約1μm/h、Ga分子線強度に対するAs分子線強度の比(As/Ga供給比)を約5〜30に設定して、バッファ層4を、0.1〜0.5μm程度の層厚(膜厚)にエピタキシャル成長させる。
【0042】
次に、MBE装置にセットした基板3の温度を400℃以下(本実施形態では300℃)まで降温させ、第1化合物半導体層51を1〜2μm程度エピタキシャル成長(低温成長)させる。なお、成長速度はバッファ層4の成長条件と同様である。As/Ga供給比はバッファ層4の供給比率以上に設定している。
【0043】
次に、MBE装置にセットした基板3の温度を更に降温(本実施形態では200℃)させ、第2化合物半導体層52を1〜100nm程度(本実施形態では54nm)エピタキシャル成長(低温成長)させる。
【0044】
図3は、GaAs(LT−GaAs)の成長温度と屈折率の関係を示したものである。図3に示すように、780nmの励起光を入射した場合に、300℃で成長させた第1化合物半導体層51の屈折率は約3.64であるのに対し、200℃で成長させた第2化合物半導体層52の屈折率は約3.61である。このように、同一の製造装置で、同一の材料を用いて、成長条件(温度)を制御するだけの簡易な工程で、互いに屈折率の異なる第1化合物半導体層51および第2化合物半導体層52を成膜することができる。
【0045】
なお、化合物半導体(材料)の種類を変更して、第1化合物半導体層51の屈折率と異なる第2化合物半導体層52を成長させる場合は、MBE装置のソース(材料)の種類および成長条件を変更して、励起光の表面反射が低減可能な膜厚で成長させる。
【0046】
このような工程を経て形成された光伝導基板2に、アンテナ6が形成されて、電磁波発生検出装置1が完成する。アンテナ6は、フォトリソグラフィ法(エッチング処理含む。)等の公知の技術を用いて、第2化合物半導体層52の上に形成される。
【0047】
なお、本実施形態とは逆に、第1化合物半導体層51の成長温度を、第2化合物半導体層52の成長温度より低くしてもよい。しかし、MBE装置において基板3の温度が安定する時間を考慮すると、本実施形態のように、各層を積層して行くにしたがって成長温度を下げて行くことが好ましい。これにより、MBE装置による光伝導基板2の製造を効率良く短時間で行うことができる。
【0048】
以上の構成によれば、半導体積層群5が互いに屈折率の異なる第1化合物半導体層51および第2化合物半導体層52を有していると共に、第2化合物半導体層52が、励起光の表面反射を低減できる層厚で形成されている。このため、励起光は、第2化合物半導体層52の表面における反射が抑えられ、半導体積層群5に効率良く吸収される。これにより、光励起キャリアを効率良く発生させることができるため、テラヘルツ電磁波の検出または発生が効率良く行われ、S/N比を向上させることができる。
【0049】
続いて、図4を参照して、電磁波発生検出装置1の応用例として時間領域分光装置7について簡単に説明する。図4は、電磁波発生検出装置1を応用した時間領域分光装置7を示した概略図である。時間領域分光装置7は、テラヘルツ電磁波が伝播する経路中に測定したい測定試料Sを置き、透過したテラヘルツ電磁波の時間波形と、測定試料Sの無い状態でのテラヘルツ電磁波の時間波形と、をフーリエ変換して、テラヘルツ電磁波の振幅と位相の情報を得る。これにより、測定試料Sの複素屈折率や複素誘電率などの細かい物性測定を行うものである。
【0050】
時間領域分光装置7は、フェムト秒レーザ(励起光)を発生するレーザ照射装置71と、フェムト秒レーザを分離するビームスプリッター72と、電磁波発生装置1aおよび電磁波検出装置1bと、電磁波検出装置1bに入射するフェムト秒レーザを遅延させる遅延光学系73と、フェムト秒レーザを反射・集光する各種光学系と、入力信号を処理する信号処理装置74と、を備えている。また、その他、時間領域分光装置7として一般的な構成を有している。各種光学系には、電磁波発生装置1aおよび電磁波検出装置1bに接して取り付けられ、テラヘルツ電磁波が効率良く取り出されるSi等からなる第1レンズ76および第2レンズ77が含まれている。なお、電磁波検出装置1bおよび電磁波発生装置1aは、上述した電磁波発生検出装置1と同一のものである。
【0051】
まず、レーザ照射装置71から発せられたフェムト秒レーザ(波長780nm)は、ビームスプリッター72により、ポンプ光とプローブ光とに分けられる。そして、ポンプ光は、振幅変調を掛けた状態で電磁波発生装置1aに入射する。このとき一対のアンテナ本体62間に電圧を印加しておくことで、電磁波発生装置1aからテラヘルツ電磁波が発生する。このテラヘルツ電磁波は、第1レンズ76を通過し第1放物面鏡75で反射され、測定試料Sに照射される。測定試料Sを透過したテラヘルツ電磁波は、第2放物面鏡78および第2レンズ77を介して電磁波検出装置1bに入射する。
【0052】
一方、ビームスプリッター72により分けられたプローブ光は、複数の反射鏡79によって、遅延光学系73に照射され、時間遅延を与えられて電磁波検出装置1bに入射する。電磁波検出装置1bで検出された信号は、信号処理装置74に入力される。信号処理装置74は、測定試料Sを透過したテラヘルツ電磁波の時間波形および測定試料Sが無い状態でのテラヘルツ電磁波の時間波形を各々時系列データとして記憶し、これをフーリエ変換処理して周波数空間に変換する。こうして、測定試料Sからのテラヘルツ電磁波の強度振幅や位相の分光スペクトルを得ることで、測定試料Sの物性等を調べることができる。
【0053】
以上の構成によれば、S/N比が向上したテラヘルツ電磁波を用いることにより、物質(測定試料S)の複素屈折率や複素誘電率などの細かな物質の物性測定等を、より明確に行うことができる。
【0054】
(第2実施形態)
図5および図6を参照して、第2実施形態に係る電磁波発生検出装置1について説明する。図5は、第2実施形態に係る電磁波発生検出装置1を模式的に示した側面図である。図6は、発生するテラヘルツ電磁波のS/N(強度/ノイズ)の比較を示したグラフである。なお、第1実施形態に係るものと同様の説明は省略する。
【0055】
第2実施形態に係る電磁波発生検出装置1は、光伝導基板2の半導体積層群5に第3化合物半導体層53を、更に備えている。詳細には、第2化合物半導体層52と第3化合物半導体層53とが交互に複数組(図5では3.5組のみ図示)積層されている。そして、最表層の第2化合物半導体層52上にアンテナ6が形成されている。なお、第2化合物半導体層52と第3化合物半導体層53との積層組数は3.5組に限定されるものではなく、各層52,53が、交互に少なくとも1組以上積層されていればよい。
【0056】
第3化合物半導体層53は、第2化合物半導体層52と屈折率が異なると共に励起光の表面反射を低減できる層厚で、第2化合物半導体層52上に積層されている。第3化合物半導体層53の屈折率を、第2化合物半導体層52の屈折率と異なるものとするには、第1実施形態で説明したように、各層51,52,53の成長温度を制御(変更)したり、各層51,52,53の材料を適宜選択(組み合わせ)したりする。また、製造工程も、第1実施形態で説明したものと同様である。
【0057】
ここで、照射された励起光の表面反射を低減するためには、隣接する層同士が互いに異なる屈折率を有していればよい。したがって、第1化合物半導体層51、第2化合物半導体層52および第3化合物半導体層53は、それぞれ屈折率が異なっていてもよいし、第1化合物半導体層51および第3化合物半導体層53の屈折率を同一(成長温度同一または材料同一)として、第2化合物半導体層52だけを各層51,53と異なる屈折率としてもよい。
【0058】
一例として、第2化合物半導体層52と第3化合物半導体層53と(各層厚約54nm)を3.5組積層した光伝導基板2(材料:GaAs(LT−GaAs),第1化合物半導体層51および第3化合物半導体層53:成長温度300℃,第2化合物半導体層52:成長温度200℃)について励起光の吸収率を計算した。上記の光伝導基板2は、半導体積層群5を第1化合物半導体層51(成長温度300℃)のみで構成した光伝導基板2と比較して、励起光の吸収率が約2%向上するという結果を得ることができた。
【0059】
また、図6は、縦軸にS/N比をとり、半導体積層群5を第1化合物半導体層51のみで構成する電磁波発生検出装置1のS/N比(2THz付近)を1とした場合に、上述した本実施形態に係る電磁波発生検出装置1のS/N比(2THz付近)を示している。この結果は、上述した時間領域分光装置7において測定試料Sない状態で測定したものである。なお、アンテナ6の形状は、一対の電極部61間の距離が約20μm、各アンテナ本体62の幅は約10μm、ギャップ部63の間隔は約5μmである。
【0060】
図6に示すように、本実施形態に係る電磁波発生検出装置1は、単層の電磁波発生検出装置1に比べて、発生するテラヘルツ電磁波の強度が増加していることが確認することができた。これは、第2化合物半導体層52とは屈折率の異なる第3化合物半導体層53を設けることにより、励起光の表面反射が減少し、第1化合物半導体層51、第2化合物半導体層52および第3化合物半導体層53に吸収される励起光が増加したためであると考えられる。
【0061】
なお、励起光の反射を防止し、半導体積層群5への吸収を効率良く行うためには、第2化合物半導体層52と第3化合物半導体層53との屈折率の差を大きくすることが有効である。したがって、第2化合物半導体層52および第3化合物半導体層53は、例えば、AlGaAs(LT−AlGaAs)、InGaP、InAs(LT−InAs)等の化合物半導体材料を適宜組み合わせて、互いの屈折率差を大きくすることが好ましい。
【0062】
以上のように、第2化合物半導体層52および第3化合物半導体層53を交互に複数組積層することによって、半導体積層群5の表面における励起光の反射を、更に有効に低減させることができる。
【0063】
なお、第2化合物半導体層52および第3化合物半導体層53の積層組数を増加させることで、反射低減効果がより大きくなると考えられる。しかし、光伝導基板2の製造工数(時間)が増加するため、積層組数はタクトタイムを考慮して適宜設計されると考えられる。また、本実施形態では、アンテナ6が形成される最表層が第2化合物半導体層52となっているが、その第2化合物半導体層52を省略して、第3化合物半導体層53を最表層としてもよい。
【0064】
(第3実施形態)
図7を参照して、第3実施形態に係る電磁波発生検出装置1について説明する。図7は、第3実施形態に係る電磁波発生検出装置1を模式的に示した側面図である。なお、第1実施形態に係るものと同様の説明は省略する。
【0065】
図7(a)に示すように、電磁波発生検出装置1は、アンテナ6が、半導体積層群5の側面に沿って設けられている。詳細には、アンテナ6の一対のアンテナ本体62が、半導体積層群5およびバッファ層4を挟み込むように両端面に沿って配設されている。また、アンテナ6の一対の電極部61は、基板3上に配設されている。すなわち、一対のアンテナ本体62に挟み込まれた半導体積層群5の上面全体がギャップ部63となっている。したがって、半導体積層群5の表面から励起光を入射させることで一対のアンテナ本体62の間にパルス状の電流が流れ、テラヘルツ電磁波が発生する。なお、本実施形態のアンテナ6は、フォトリソグラフィ法(エッチング処理含む。)等の公知の技術を用いて形成される。
【0066】
なお、第3実施形態に係る電磁波発生検出装置1の変形例として、図7(b)に示すように、一対のアンテナ本体62を、半導体積層群5の両端面に沿って配設し、一対の電極部61を、バッファ層4上に配設してもよい。
【0067】
以上の構成によれば、第1実施形態に係る電磁波発生検出装置1と同様に、半導体積層群5が励起光の表面反射を低減しつつ、励起光を効率良く吸収することができる。これにより、テラヘルツ電磁波の検出または発生に係るS/N比を向上させることができる。
【0068】
なお、本発明は、上述した各実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施し得るものである。
【符号の説明】
【0069】
1:電磁波発生検出装置、2:光伝導基板、3:基板、4:バッファ層、5:半導体積層群、6:アンテナ、51:第1化合物半導体層、52:第2化合物半導体層、53:第3化合物半導体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に積層された半導体積層群と、を備え、
前記半導体積層群は、
第1化合物半導体層と、
前記第1化合物半導体層上に、前記第1化合物半導体層と屈折率が異なると共に励起光の表面反射を低減できる層厚で成長させた第2化合物半導体層と、を有していることを特徴とする光伝導基板。
【請求項2】
前記半導体積層群は、
前記第2化合物半導体層上に、前記第2化合物半導体層と屈折率が異なると共に励起光の表面反射を低減できる層厚で成長させた第3化合物半導体層を、更に備え、
前記第2化合物半導体層と前記第3化合物半導体層とが交互に少なくとも1組以上積層されていることを特徴とする請求項1に記載の光伝導基板。
【請求項3】
前記第3化合物半導体層は、前記第1化合物半導体層と同一の屈折率を有していることを特徴とする請求項2に記載の光伝導基板。
【請求項4】
前記第1化合物半導体層および前記第2化合物半導体層は、III−V族化合物をエピタキシャル成長させてなることを特徴とする請求項1に記載の光伝導基板。
【請求項5】
前記第1化合物半導体層、前記第2化合物半導体層および前記第3化合物半導体層は、III−V族化合物をエピタキシャル成長させてなることを特徴とする請求項2に記載の光伝導基板。
【請求項6】
前記第1化合物半導体層および前記第2化合物半導体層は、GaAsからなり、
前記第2化合物半導体層は、前記第1化合物半導体層と異なる温度で前記エピタキシャル成長させることを特徴とする請求項4に記載の光伝導基板。
【請求項7】
前記第1化合物半導体層、前記第2化合物半導体層および前記第3化合物半導体層は、GaAsからなり、
前記第1化合物半導体層、前記第2化合物半導体層および前記第3化合物半導体層は、それぞれ異なる温度で前記エピタキシャル成長させることを特徴とする請求項5に記載の光伝導基板。
【請求項8】
前記第1化合物半導体層、前記第2化合物半導体層および前記第3化合物半導体層は、GaAsからなり、
前記第2化合物半導体層は、前記第1化合物半導体層と異なる温度で前記エピタキシャル成長させ、
前記第3化合物半導体層は、前記第1化合物半導体層と同一の温度で前記エピタキシャル成長させることを特徴とする請求項5に記載の光伝導基板。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の光伝導基板と、
前記半導体積層群上に形成されたアンテナと、を備えたことを特徴とする電磁波発生検出装置。
【請求項10】
請求項1ないし8のいずれかに記載の光伝導基板と、
前記半導体積層群の側面に沿って形成されたアンテナと、を備えたことを特徴とする電磁波発生検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−2994(P2013−2994A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135138(P2011−135138)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】