説明

光伝送路接続システム及び光伝送路接続方法

【課題】 コネクタを使用せずに光伝送路同士の接続を効率的に行う。
【解決手段】 光伝送路接続システム1は、レーザ光を出力する光源部2と、光源部2が出力したレーザ光を、一方の光伝送路3Aの一端3aを介して他方の光伝送路3Bの一端3bからポンプ光として入射させるポンプ光生成部5と、他方の光伝送路3B内からの反射光に含まれる非線形散乱成分を観測する測定部6と、測定部6が観測した非線形散乱成分のスペクトルを評価して、一方の光伝送路3Aの一端3aと他方の光伝送路3Bの一端3bとの光軸の位置を制御する制御部7とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光伝送路同士を突合わせ接合する光伝送路接続システム及び光伝送路接続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光伝送路の一例である光ファイバ端にコネクタ(FC、SC、LC等)が付いている場合には、そのコネクタに対応したアダプタを使用することで、容易に高精度なコア中心の位置合わせが可能となる。しかし、光ファイバ端にコネクタが付いていない場合には、例えば光ファイバを多軸可動ステージに固定し、その位置を調整する、すなわち、突合わせ接合する必要がある。コネクタを使用せずに光ファイバ同士の接続を効率的に行うためには、両者のコア中心の高精度な位置合わせが重要となる。
【0003】
従来の一般的な手法では、接続先の光ファイバ端からの出力光をモニタリングし、それが最大となるように位置を調整する。しかし、必ずしもこの手法が有効ではない場合がある。
【0004】
例えば、接続先の光ファイバが光ファイバセンサのセンシングヘッドとして材料や構造物に埋め込まれている場合が挙げられる。また、接続先の光ファイバ端がきわめて遠くに位置している場合が挙げられる。さらに、接続先の光ファイバ中での光の減衰が極めて大きく、出力光が観測できない場合が挙げられる。特に、近年では、光減衰の低いシリカファイバだけでなく、光減衰こそ高いものの高機能なポリマー光ファイバ(プラスチック光ファイバ)を中心とするマルチモードファイバを光ファイバセンサのセンシングヘッドとして用いる研究が盛んになっている。高機能なポリマー光ファイバとは、例えば、丈夫であったり安価であったり扱いやすかったり、特殊な散乱光が強かったり、歪や温度などの環境に対して極めて大きく(あるいは小さく)反応したりするものをいう。
【0005】
これらの場合には、接続先の光ファイバ端からの出力光をモニタリングし、それが最大となるように位置を調整する手法が有効ではない場合があるので、接続先の光ファイバ端の入射側だけで位置合わせを最適化する必要がある。
【0006】
接続先の光ファイバ端の入射側だけで位置合わせをする従来技術としては、例えば、CCDカメラを用いて視覚的に位置を調整する技術が知られている(特許文献1を参照)。
【0007】
しかしながら、このように接続先の光ファイバ端の入射側だけで位置合わせをするための装置は、一般的に高価であり大掛りである。また、接続先の光ファイバ端の入射側だけで位置合わせをする技術は、接続条件を予めプログラミングしておく必要があり、新規の材料や構造(特にコアのサイズ)を有する光ファイバとの接続には適用することができないことが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−189770公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、コネクタを使用せずに光伝送路同士の接続を効率的に行うことができる光伝送路接続システム及び光伝送路接続方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、二つの光伝送路を突合わせ接合する光伝送路接続システムにおいて、レーザ光を出力する光源部と、光源部が出力したレーザ光を、一方の光伝送路の一端を介して他方の光伝送路の一端からポンプ光として入射させるポンプ光生成部と、他方の光伝送路内からポンプ光の反射光が入射され、反射光に含まれる非線形散乱成分を観測する測定部と、測定部が観測した非線形散乱成分のスペクトルを評価して、一方の光伝送路の一端と他方の光伝送路の一端との光軸の位置を制御する制御部とを備える。
【0011】
本発明は、二つの光伝送路を突合わせ接合する光伝送路接続方法において、光源部がレーザ光を出力する出力ステップと、出力ステップで出力されたレーザ光を、一方の光伝送路の一端を介して他方の光伝送路の一端からポンプ光として入射させるポンプ光生成ステップと、他方の光伝送路内から上記ポンプ光の反射光が入射され、反射光に含まれる非線形散乱成分を観測する観測ステップと、観測ステップで観測した非線形散乱成分のスペクトルを評価して、一方の光伝送路の一端と他方の光伝送路の一端との光軸の位置を制御する制御ステップとを有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、接続先の光伝送路端の入射側だけで位置合わせを最適化して光伝送路のコア中心同士を高精度に位置合わせすることができるので、コネクタを使用せずに光伝送路同士の接続を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】光伝送路接続システムの構成例を示すブロック図である。
【図2】光伝送路を模式的に示す図である。
【図3】光伝送路接続システムの構成例を示すブロック図である。
【図4】光伝送路接続システムの構成例を示すブロック図である。
【図5】光伝送路接続方法を説明するためのフローチャートである。
【図6】接続ステップを説明するためのフローチャートである。
【図7】光伝送路接続方法を説明するためのフローチャートである。
【図8】ブリルアンゲインスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図9】x軸方向の最適位置からの距離とブリルアン散乱による反射光のパワーとの関係を示すグラフである。
【図10】x軸方向の最適位置からの距離とブリルアン周波数シフトとの関係を示すグラフである。
【図11】ブリルアンゲインスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図12】x軸方向の最適位置からの距離とブリルアン散乱による反射光のパワーとの関係を示すグラフである。
【図13】ブリルアンゲインスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図14】ブリルアンゲインスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図15】x軸方向の最適位置からの距離とブリルアン散乱による反射光のパワーとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を適用した光伝送路接続システム及び光伝送路接続方法の具体的な実施の形態の一例について詳細に説明する。
1.光伝送路接続システム
2.光伝送路接続方法
3.実施例
【0015】
<1.光伝送路接続システム>
(1−1.第1の実施の形態)
図1に示す光伝送路接続システム1は、光源部2と、レーザ光を一方の光伝送路3Aの一端3aを介して他方の光伝送路3Bの一端3bからポンプ光として入射させるポンプ光生成部5と、光伝送路3B内からの反射光に含まれる非線形散乱成分を観測する測定部6と、非線形散乱成分のスペクトルを評価して光伝送路3Aの一端3aと光伝送路3Bの一端3bとの光軸の位置を制御する制御部7とを備える。
【0016】
光源部2は、例えば半導体レーザと直流電流源とから構成されており、レーザ光を出力する。半導体レーザとしては、例えば小型でスペクトル幅の狭いレーザ光を出射する分布帰還型レーザダイオード(DFB LD)を用いることができる。
【0017】
光伝送路3は、コアを有しており、光源部2が出力したレーザ光が入射される。光伝送路3は、例えば、板状やシート状の光導波路、光ファイバで構成されている。光伝送路3は、例えば、無機系素材や有機系素材で構成されている。無機系素材としては石英ガラスやシリコン、有機系素材としては高純度ポリイミド系樹脂・ポリアミド系樹脂・ポリエーテル系樹脂が挙げられる。光伝送路3A、3Bは、同一の素材で構成されていてもよく、異なる素材で構成されていてもよい。
【0018】
ポンプ光生成部5は、光分岐器、サーキュレータ、ビームスプリッタ、ハーフミラー等で構成されており、光源部2が出力したレーザ光を、光伝送路3Aの一端3aを介して光伝送路3Bの一端3bからポンプ光として入射させる。また、ポンプ光生成部5は、光伝送路3B内で反射されたポンプ光の反射光(ストークス光)を測定部6に入射させる。
【0019】
測定部6は、例えば光スペクトラムアナライザで構成され、ポンプ光生成部5を介して光伝送路3B内からポンプ光の反射光が入射され、この反射光に含まれる非線形散乱成分の強度や周波数シフトの変動を観測する。ここで、測定部6においては、周波数変化を伴わないレイリー散乱による強度、すなわち、単なる反射光の強度を観測するだけでは、光伝送路3Bの一端3bにおける不安定なフレネル反射光が混合してしまうので、安定した位置合わせを実現することが困難となる。そこで、測定部6は、非線形散乱成分として、反射時に周波数変化を伴う(反射時に周波数が下がる)ラマン散乱又はブリルアン散乱を観測する。これにより、測定部6では、フレネル反射成分に関係なく反射光の強度を観測することができるので、安定した位置合わせを実現することができる。
【0020】
非線形散乱成分としては、原理的には、ラマン散乱成分及びブリルアン散乱成分のうちどちらの散乱成分を測定してもよいが、特に、ブリルアン散乱成分を観測することが好ましい。
【0021】
ブリルアン散乱は、ラマン散乱よりも誘導閾値が低い、すなわち、同じ入射パワーであれば散乱強度が強い。また、ブリルアン散乱は、ラマン散乱よりも周波数のダウンシフト量が小さい。ここで、反射光のピークパワーの周波数(中心周波数)は、入射光であるポンプ光の中心周波数νに対してダウンシフトする。この周波数シフトの量は、ブリルアン周波数シフト(ν)と呼ばれる。反射光の中心周波数は、ポンプ光の中心周波数νよりも、ブリルアン周波数シフトν下がることになる(ν−ν)。周波数のダウンシフト量は、光伝送路材料に大きく依存するが、例えば、シリカファイバにおいて、ブリルアン周波数シフトは、11GHz程度であり、ラマン周波数シフトは13THz程度である。さらに、ブリルアン散乱は、ラマン散乱よりも線幅が小さい。具体的には、ブリルアン散乱の場合には、線幅が数10MHzであり、ラマン散乱の場合には、線幅がTHzオーダである。以上の理由から、測定部6では、非線形散乱成分としてブリルアン散乱成分を観測することが好ましい。
【0022】
制御部7は、例えばパーソナルコンピュータで構成されており、測定部6で観測した光伝送路3Bからの反射光に含まれる非線形散乱成分のスペクトルを評価して、光伝送路3Aの一端3aと光伝送路3Bの一端3bとの光軸の位置を制御する。
【0023】
例えば図2に示すように、制御部7は、光伝送路3A又は光伝送路3Bのうち一方が、X軸とY軸とZ軸とに稼働する多軸可動ステージ(図示せず)に固定された状態で、測定部6で観測した非線形散乱成分の強度が最大となるように、実時間でフィードバックをかけながら、多軸可動ステージに固定されていない他方の光伝送路3の位置をX軸方向及びY軸方向に調整する。
【0024】
光伝送路接続システム1では、コネクタを使用せずに、光伝送路3Aのコア4Aの中心と光伝送路3Bのコア4Bの中心とを高精度に位置合わせすることができるので、光伝送路3Aと光伝送路3Bとの接続を効率的に行うことができる。
【0025】
(1−2.第2の実施の形態)
図3に示す光伝送路接続システム10は、上述した光伝送路接続システム1よりも分解能を高くするために、以下の点で光伝送路接続システム1とは構成が異なる。まず、光伝送路接続システム10は、参照光生成部11と検出部12と光カプラ13とを備える。また、光伝送路接続システム10は、測定部14において検出部12が検出した干渉信号に含まれる非線形散乱成分を観測する。さらに、光伝送路接続システム10は、制御部7において測定部6で観測した干渉信号の非線形散乱成分の強度が最大となるように、光伝送路3Aの一端3aと光伝送路3Bの一端3bとの光軸の位置を制御する。なお、光伝送路接続システム10の構成において、上述した光伝送路接続システム1と同じ構成には同一の符号を付し、その構成の詳細な説明を省略する。
【0026】
参照光生成部11は、例えば光分岐器で構成されており、光源部2が出力したレーザ光から参照光(Reference)を生成する。
【0027】
検出部12は、例えば、フォトダイオードなどの検波部からなる光ヘテロダイン方式の検出手段で構成されており、参照光生成部11からの参照光と、光伝送路3Bからの反射光、すなわちストークス光(Stokes)とをそれぞれ検出する。検出部12は、周波数の異なる参照光と反射光とを干渉させ(重ね合わせ)、反射光と参照光との差の周波数成分を有する干渉信号、すなわち、参照光と反射光との周波数差に等しい電気的なビート信号を生成する。
【0028】
測定部14は、例えば、検出部12から出力されたビート信号の周波数特性を観測する周波数分析手段としての電気スペクトラムアナライザ(ESA:electrical spectrum analyzer)で構成されている。測定部14は、ブリルアン周波数シフトの変動を、検出部12からの干渉信号のピーク周波数変動として観測する。測定部14での測定結果は、観測データとして制御部7に出力される。
【0029】
制御部7には、測定部14での測定結果が入力される。制御部7は、上述した光伝送路接続システム1の場合と同様に、測定部14で観測した干渉信号の非線形散乱成分の強度(あるいは強度に比例するパワー)が最大となるように、光伝送路3Aの一端3aと光伝送路3Bの一端3bとの光軸の位置を制御する。
【0030】
光伝送路接続システム10では、コネクタを使用せずに、光伝送路3Aのコア4Aの中心と光伝送路3Bのコア4Bの中心とを高精度に位置合わせすることができるので、光伝送路3Aと光伝送路3Bとの接続を効率的に行うことができる。
【0031】
光伝送路接続システム10では、以上のように、ヘテロダイン検波のための参照光路を設け、光ビート信号を電気信号に変換する光検出器としての検出部12を導入し、測定部として電気スペクトラムアナライザを用いている。これにより、光スペクトラムアナライザの性能(周波数分解能など)が十分でない場合には、ブリルアン周波数シフトが小さい材料で構成される光伝送路3にも適用することができる。したがって、光伝送路接続システム10では、上述した光伝送路接続システム1の場合よりも分解能を高くすることができるので、光伝送路3Aと光伝送路3Bとの接続をより高効率に行うことができる。
【0032】
(1−3.第3の実施の形態)
また、上述した光伝送路3B内からの反射光に含まれる非線形散乱成分が十分に大きくない場合には、図4に示す光伝送路接続システム20を用いることが好ましい。光伝送路接続システム20は、上述した光伝送路接続システム10の構成に加えて、さらに光アイソレータ21と光増幅器22と偏波コントローラ23A,23Bと周波数シフタ24と発振器25とプリアンプ26とを備える。
【0033】
光アイソレータ21は、光源部2からのレーザ光を通過させ、光源部2への不必要な戻り光が発生して光源部2の動作が不安定になるのを防止する。
【0034】
光増幅器22は、例えばエルビウム添加光増幅器(EDFA)で構成されており、参照光生成部11からのポンプ光を増幅して出力する。
【0035】
偏波コントローラ23Aは、光増幅器22からのポンプ光の偏波状態を調整する。また、偏波コントローラ23Bは、参照光生成部11で生成された参照光の偏波状態を調整する。
【0036】
周波数シフタ24は、発振器25から出力された周波数によって、検出部12が検出した干渉信号の周波数をシフトさせ、周波数がシフトされた干渉信号をプリアンプ26に出力する。
【0037】
プリアンプ26は、周波数シフタ24で周波数がシフトされた干渉信号を増幅し、増幅した干渉信号を測定部6に出力する。
【0038】
このような光伝送路接続システム20によれば、光伝送路3B内からの反射光に含まれる非線形散乱成分が十分に大きくない場合であっても、光伝送路3Aのコア4Aの中心と光伝送路3Bのコア4Bの中心とを高精度に位置合わせすることができるので、光伝送路3Aと光伝送路3Bとを高効率に接続することができる。
【0039】
<2.光伝送路接続方法>
図5は、光伝送路接続システム1を用いた光伝送路接続方法の処理の一例を説明するためのフローチャートである。光伝送路接続方法は、出力ステップS1と、ポンプ光生成ステップS2と、測定ステップS3と、制御ステップS4とを有する。
【0040】
出力ステップS1では、光源部2がレーザ光を出力する。ポンプ光生成ステップS2では、ポンプ光生成部5が、出力ステップS1で出力されたレーザ光を、光伝送路3Aの一端3aを介して光伝送路3Bの一端3bからポンプ光として入射させる。測定ステップS3では、測定部6が、光伝送路3B内からの反射光に含まれる非線形散乱成分を観測する。制御ステップS4では、制御部7が、測定ステップS3で測定された非線形散乱成分の強度が最大となるように、光伝送路3Aの一端3aと光伝送路3Bの一端3bとの光軸の位置を制御する。
【0041】
図6は、接続ステップS4の処理の一例を説明するためのフローチャートである。制御ステップS4は、z軸方向調整ステップS10と、x軸方向調整ステップS11と、y軸方向調整ステップS12とを有する。以下では、図2に示す光伝送路3Aが多軸可動ステージに固定されており、光伝送路3Bが多軸可動ステージに固定されていない場合を例に挙げて説明する。
【0042】
z軸方向調整ステップS10では、制御部7が、光伝送路3Bの位置をz軸方向に調整して、光伝送路3Aの一端3aと光伝送路3Bの一端3bとを近づける。
【0043】
x軸方向調整ステップS11では、制御部7が、光伝送路3Aが多軸可動ステージに固定された状態で、測定部6で観測した非線形散乱成分の強度が最大となるように、実時間でフィードバックをかけながら、多軸可動ステージに固定されていない光伝送路3Bの位置をx軸方向に調整する。
【0044】
y軸方向調整ステップS12では、制御部7が、測定部6で観測した非線形散乱成分の強度が最大となるように、実時間でフィードバックをかけながら、光伝送路3Bの位置をy軸方向に調整する。
【0045】
光伝送路接続システム1を用いた光伝送路接続方法によれば、コネクタを使用せずに、光伝送路3Aのコア4Aの中心と光伝送路3Bのコア4Bの中心とを高精度に位置合わせすることができるので、光伝送路3Aと光伝送路3Bとの接続を効率的に行うことができる。
【0046】
図7は、光伝送路接続システム10を用いた光伝送路接続方法の処理の一例を説明するためのフローチャートである。この光伝送路接続方法は、出力ステップS20と、参照光生成ステップS21と、ポンプ光生成ステップS22と、検出ステップS23と、測定ステップS24と、制御ステップS25とを有する。
【0047】
出力ステップS20では、光源部2がレーザ光を出力する。参照光生成ステップS21では、光源部2からのレーザ光を二分し、一つをポンプ光とし、もう一つを参照光とする。ポンプ光生成ステップS22では、ポンプ光生成部5が、出力ステップS1で出力されたレーザ光を、光伝送路3Aの一端3aを介して光伝送路3Bの一端3bからポンプ光として入射させる。検出ステップS23では、検出部12が、光伝送路3B内の非線形散乱により生じた反射光と参照光とを干渉させ、反射光と参照光との差の周波数成分を有する干渉信号を検出する。測定ステップS24では、測定部6が、光伝送路3B内からの反射光に含まれる非線形散乱成分を観測する。制御ステップS25では、制御部7が、測定ステップS3で測定された非線形散乱成分の強度が最大となるように、光伝送路3Aの一端3aと光伝送路3Bの一端3bとの光軸の位置を制御する。
【0048】
光伝送路接続システム10を用いた光伝送路接続方法によれば、上述した光伝送路接続システム1の場合よりも分解能を高くすることができるので、光伝送路3Aと光伝送路3Bとをより高効率に接続することができる。
【0049】
なお、上述した説明では、非線形散乱成分のスペクトルの強度が最大となるように光伝送路3Aの一端3aと光伝送路3Bの一端3bとの光軸の位置を制御するものとしたが、本発明は、この例に限定されるものではない。例えば、制御部7において、非線形散乱成分のスペクトルの周波数のシフト量を評価して、光伝送路3Aの一端3aと光伝送路3Bの一端3bとの光軸の位置を制御するようにしてもよい。また、制御部7において、非線形散乱成分のスペクトルの線幅を評価して、光伝送路3Aの一端3aと光伝送路3Bの一端3bとの光軸の位置を制御するようにしてもよい。
【0050】
また、上述した光伝送路接続方法の説明では、光伝送路3Aが多軸可動ステージに固定されており、光伝送路3Bが多軸可動ステージに固定されていない場合について説明したが、この例に限定されるものではない。例えば、光伝送路3A及び光伝送路3Bを多軸可動ステージに固定して光伝送路3A及び光伝送路3Bの光軸の位置を制御するようにしてもよい。また、図6に示す接続ステップS4の処理は、上述した例に限定されず、例えばz軸方向調整ステップS10の処理を最後に実行するようにしてもよい。
<3.実施例>
【実施例】
【0051】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、下記のいずれかの実施例に本発明の範囲が限定されるものではない。
【0052】
本実施例では、測定系として、図4に示す光伝送路接続システムを用いた。光源部としては、1552nmの分布帰還型レーザダイオード(DFBレーザ)を用いた。光伝送路としては、シリカの単一モードファイバ(Silica SMF 以下、「SMF」と呼ぶ。)と、コア径が異なる三種類の屈折率傾斜型多モードファイバ(Silica GI-MMF、PFGI-POF(A)、PFGI-POF(B))とを用いた。Silica GI-MMFは、シリカで構成されており、PFGI-POF(A)及びPFGI-POF(B)は、全フッ素化ポリマーで構成されている。増幅器としては、エルビウム添加光増幅器(EDFA)を用いた。検出部としては、フォトディテクタを用いた。測定部としては、電気スペクトルアナライザ(ESA)を用いた。
【0053】
本実施例では、SMFと屈折率傾斜型多モードファイバとを突合わせ接合する実験を行った。SMF及び屈折率傾斜型多モードファイバの材料及び構造定数を以下の表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1において、dはコアの直径(μm)、neffはコアの有効屈折率、NAは開口数、αは伝搬損失(dB/km)、Lは光ファイバの長さ(m)を示す。
【0056】
(実施例1)
SMFの位置を固定し、GI−MMFを3軸位置決めステージに取り付けた。ここで、3軸位置決めステージにおけるx軸、y軸、z軸は、図2に示すように規定した。光ファイバの位置合わせは、次のように行った。まず、突合わせ接合する各光ファイバの相対的な角度を調整した。続いて、各光ファイバの一端のエアーギャップを満たすとともにフレネル反射を抑制するために、屈折率整合油(n=1.46)を各光ファイバの一端に塗布した。続いて、各光ファイバの一端の間隔がほぼ0となるようにz軸を調整した。最後に、以下に説明する方法でGI−MMFのx軸方向及びy軸方向の位置を調整した。これにより、SMFとGI−MMFとを突合わせ接合させた。
【0057】
分布帰還型レーザダイオードからの出力光を参照光生成部で二分し、一つの出力光をポンプ光とし、もう一つの出力光を参照光とした。ポンプ光は、エルビウム添加光増幅器で増幅し、偏波コントローラで偏波状態を調整した後、突合わせ接合を介してGI−MMFに入射させた。GI−MMFからの反射光は、参照光と合波させ、反射光と参照光との差の周波数成分を有する干渉信号(ビート信号)をフォトディテクタで電気信号にした。検出部で検出した干渉信号は、9GHzの周波数シフタで周波数をシフトさせた後、プリアンプで23dB増幅させてから電気スペクトルアナライザで観測した。制御部は、電気スペクトルアナライザで観測した干渉信号に含まれるブリルアン散乱成分の強度が最大となるように、実時間でフィードバックをかけながら3軸位置決めステージに取付けたGI−MMFのx軸方向及びy軸方向の位置を制御した。
【0058】
(実施例2)
実施例2は、GI−MMFの代わりにPFGI−POF(A)を3軸位置決めステージに取り付けたこと、周波数シフタを導入しなかったこと以外は、実施例1と同様である。
【0059】
(実施例3)
実施例3は、GI−MMFの代わりにPFGI−POF(B)を3軸位置決めステージに取り付けたこと、周波数シフタを導入しなかったこと以外は、実施例1と同様である。
【0060】
<実験結果>
(実施例1)
図8は、実施例1において、電気スペクトルアナライザで得られたブリルアンゲインスペクトルの測定結果を示すグラフである。具体的には、3軸位置決めステージに取付けたGI−MMFをy軸0μmの位置で固定し、x軸が0μm(符号a)、−10μm(符号b)、−20μm(符号c)、−30μm(符号d)の位置で観測したブリルアンゲインスペクトルを示す。SMFの一端における光学的パワー(Pin)は、15dBmに固定した。
【0061】
図8に示すように、ブリルアンゲインスペクトルには、10.5GHz付近と10.92GHz付近にそれぞれピークが観察された。10.5GHz付近のピークは、GI−MMFのブリルアンストークス信号(ブリルアン散乱成分)である。10.92GHz付近のピークは、SMFのブリルアンストークス信号である。xの絶対値(|x|)が増大するにつれて、GI−MMFのブリルアンストークス信号の最大出力が大幅に減少していることが分かった。
【0062】
図9は、x軸方向の最適位置からの距離とブリルアン散乱による反射光のパワーとの関係を示すグラフである。図9の横軸は、GI−MMFのx軸方向の最適位置(GI−MMFのコア中心)からの距離を示している。また、図9の縦軸は、GI−MMFにおけるブリルアンストークス信号のパワーを示す。図9の横軸の破線は、その内側が、GI−MMFのコア内部を表す。
【0063】
図9に示すように、xが0μmのときに、ブリルアンストークス信号のパワーが最大となり、xの絶対値が増大するにつれてブリルアンストークス信号のパワーが減少することが分かった。また、GI−MMFのコア領域の範囲外、すなわち、|x|>25μmにおいて、ブリルアンストークス信号がノイズよりも小さくなった。この挙動は、ガウス分布によく適合した。これらの結果から、GI−MMFのブリルアンストークス信号のパワーを観測することによって、コネクタを使用せずに、SMFのコア中心とGI−MMFのコア中心とを高効率に突合わせ接合することができることが分かった。
【0064】
図10は、x軸方向の最適位置からの距離とブリルアン周波数シフトとの関係を示すグラフである。図10に示すように、ブリルアンストークス信号のパワーだけでなく、周波数シフト量もxに依存していることが分かった。すなわち、xの絶対値の平方に比例してGI−MMFの周波数シフトが変化することが分かった。この結果から、ブリルアン周波数シフト量の観測によっても、SMFのコア中心とGI−MMFのコア中心との突合わせ接合を効率的に行う目的を達成できる可能性があることが明らかとなった。
【0065】
(実施例2)
図11は、実施例2において、電気スペクトルアナライザで得られたブリルアンゲインスペクトルの分布測定結果を示すグラフである。具体的には、3軸位置決めステージに取付けたPFGI−POF(A)をy軸0μmの位置で固定し、x軸が0μm(符号a)、−15μm(符号b)、−20μm(符号c)、−30μm(符号d)の位置で観測したブリルアンゲインスペクトルを示す。SMFの一端における光学的パワー(Pin)は、12dBmに固定した。
【0066】
図11に示すように、PFGI−POF(A)のブリルアンゲインスペクトルを2.5〜3.0GHzの範囲に一つだけ観察することができた。
【0067】
図12は、x軸方向の最適位置からの距離とブリルアン散乱による反射光のパワーとの関係を示すグラフである。図12の横軸は、PFGI−POF(A)のx軸方向の最適位置(PFGI−POF(A)のコア中心)からの距離を示している。また、図12の縦軸は、PFGI−POF(A)におけるブリルアンストークス信号のパワーを示す。図12の横軸の破線は、その内側が、PFGI−POF(A)のコア内部を表す。
【0068】
図12に示すように、xに対するブリルアンストークス信号のパワーの結果が、図9に示す実施例1の場合と同様であった。この結果から、実施例2のように、異材質で構成される光ファイバ(SMFとPFGI−POF)同士を突合わせ接合した場合にも接続を効率的に行うことができることが分かった。
【0069】
(実施例3)
図13、図14は、実施例3において、電気スペクトルアナライザで得られたブリルアンゲインスペクトルの分布測定結果を示すグラフである。具体的には、3軸位置決めステージに取付けたPFGI−POF(B)をy軸0μmの位置で固定し、x軸が0μm(符号a)、20μm(符号b)、40μm(符号c)、60μm(符号d)の位置で観測したブリルアンゲインスペクトル(図13)、x軸が0μm(符号e)、−20μm(符号f)、−30μm(符号g)、−40μm(符号h)、−60μm(符号i)の位置で観測したブリルアンゲインスペクトル(図14)をそれぞれ示す。SMFの一端における光学的パワー(Pin)は、15dBmに固定した。
【0070】
図13、図14に示すように、PFGI−POF(B)のブリルアンゲインスペクトルを2.5〜3.0GHzの範囲に一つだけ観察することができた。また、図14に示す結果から、xが−40〜−30μmの範囲においてブリルアンストークス信号のパワーがほとんど変化しないことが分かった。この挙動は、PFGI−POF(B)末端の比較的粗い表面によるものであることが、光ファイバ顕微鏡を用いて調べることにより確認することができた。
【0071】
図15は、x軸方向の最適位置からの距離とブリルアン散乱による反射光のパワーとの関係を示すグラフである。図15の横軸は、PFGI−POF(B)のx軸方向の最適位置(PFGI−POF(B)のコア中心)からの距離を示している。また、図15の縦軸は、PFGI−POF(B)におけるブリルアンストークス信号のパワーを示す。図15の横軸の破線は、その内側が、PFGI−POF(B)のコア内部を表す。図15に示すように、xに対するブリルアンストークス信号のパワーの結果が、実施例1及び実施例2の場合と同様であった。この結果から、コネクタを使用せずに、光伝送路であるSMFとPFGI−POF(B)との接続を効率的に行うことができることが分かった。
【符号の説明】
【0072】
1,10,20 光伝送路接続システム、2 光源部、3,3A,3B 光伝送路、4A,4B コア、5 ポンプ光生成部、6,14 測定部、7 制御部、11 参照光生成部、12 検出部、13 光カプラ、21 光アイソレータ、22 光増幅器、23A,23B 偏波コントローラ、24 周波数シフタ、25 発振器、26 プリアンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの光伝送路を突合わせ接合する光伝送路接続システムにおいて、
レーザ光を出力する光源部と、
上記光源部が出力したレーザ光を、一方の上記光伝送路の一端を介して他方の上記光伝送路の一端からポンプ光として入射させるポンプ光生成部と、
上記他方の光伝送路内から上記ポンプ光の反射光が入射され、該反射光に含まれる非線形散乱成分を観測する測定部と、
上記測定部が観測した非線形散乱成分のスペクトルを評価して、上記一方の光伝送路の一端と他方の光伝送路の一端との光軸の位置を制御する制御部と
を備える光伝送路接続システム。
【請求項2】
上記光源部が出力したレーザ光から、参照光と上記ポンプ光とを生成する参照光生成部と、
上記他方の光伝送路内からの反射光と上記参照光とを干渉させ、該反射光と該参照光との差の周波数成分を有する干渉信号を検出する検出部とを備え、
上記測定部は、上記検出部が検出した干渉信号に含まれる非線形散乱成分を観測し、
上記制御部は、上記測定部が観測した干渉信号の非線形散乱成分のスペクトルを評価して、上記一方の光伝送路の一端と他方の光伝送路の一端との光軸の位置を制御する請求項1記載の光伝送路接続システム。
【請求項3】
上記測定部は、上記非線形散乱成分として上記干渉信号に含まれるブリルアン散乱成分を観測し、
上記制御部は、上記測定部で観測したブリルアン散乱成分のスペクトルを評価して、上記一方の光伝送路の一端と他方の光伝送路の一端との光軸の位置を制御する請求項2記載の光伝送路接続システム。
【請求項4】
上記制御部は、上記ブリルアン散乱成分の強度が最大となるように、上記一方の光伝送路の一端と他方の光伝送路の一端との光軸の位置を制御する請求項3記載の光伝送路接続システム。
【請求項5】
二つの光伝送路を突合わせ接合する光伝送路接続方法において、
レーザ光を出力する出力ステップと、
上記出力ステップで出力されたレーザ光を、一方の上記光伝送路の一端を介して他方の上記光伝送路の一端からポンプ光として入射させるポンプ光生成ステップと、
上記他方の光伝送路内から上記ポンプ光の反射光が入射され、該反射光に含まれる非線形散乱成分を観測する観測ステップと、
上記観測ステップで観測した非線形散乱成分のスペクトルを評価して、上記一方の光伝送路の一端と他方の光伝送路の一端との光軸の位置を制御する制御ステップとを有する光伝送路接続方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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