光位相変調器
【課題】光位相変調器においてビット遷移時に発生する周波数チャープを抑制する。
【解決手段】入射された光信号を2つに分岐する分岐部(120)と、第1の位相シフタ(132)を有する第1の変調器アーム(130)と、第2の位相シフタ(142)を有する第2の変調器アーム(140)と、第1の変調器アームを伝搬した第1の光信号と第2の変調器アームを伝搬した第2の光信号とを合波して出射する結合部(150)とを備えた光位相変調器(100)において、損失調整部(A)を設け、第1の位相シフタ(132)による第1の光信号の位相のシフトに依存しない第1の変調器アーム(130)の伝搬損失と、第2の位相シフタ(142)による第2の光信号の位相のシフトに依存しない第2の変調器アーム(140)の伝搬損失とを互いに異ならせた。
【解決手段】入射された光信号を2つに分岐する分岐部(120)と、第1の位相シフタ(132)を有する第1の変調器アーム(130)と、第2の位相シフタ(142)を有する第2の変調器アーム(140)と、第1の変調器アームを伝搬した第1の光信号と第2の変調器アームを伝搬した第2の光信号とを合波して出射する結合部(150)とを備えた光位相変調器(100)において、損失調整部(A)を設け、第1の位相シフタ(132)による第1の光信号の位相のシフトに依存しない第1の変調器アーム(130)の伝搬損失と、第2の位相シフタ(142)による第2の光信号の位相のシフトに依存しない第2の変調器アーム(140)の伝搬損失とを互いに異ならせた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光位相変調器に関し、特にマッハツェンダ干渉型の光位相変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超長距離光通信において、更なる伝送容量拡大や周波数利用効率向上に向けて様々な変調フォーマットが研究開発の対象とされている。
位相変調を組み合わせた変調フォーマットは、多値化やコヒーレント検波化を可能にして、伝送の容量と品質の双方に対して大きな変革をもたらすことが期待されており、現実に従来から使用されてきた強度変調から位相変調へシフトがすでに始まっている。
【0003】
従来の光位相変調器の一例として、図6にマッハツェンダ干渉型位相変調器の構成例を示す。光位相変調器600は、2本の変調器アーム630、640と、入力導波路610から入力される光を分岐して2本の変調器アーム630、640に入力する分岐器620と、これら2本の変調器アーム630、640から入力される光を合波して出力導波路660に出力する結合器650とから構成される。第1の変調器アーム(以下、「上側アーム」ということがある。)630は、直列に接続された導波路631と、位相シフタ632と、導波路633とからなる。同様に、第2の変調器アーム(以下、「下側アーム」ということがある。)640は、直列に接続された導波路641と、位相シフタ642と、導波路643とからなる。
【0004】
この位相変調器600では、入力導波路610に入射された光は分岐器620で2本の光に等分されて2本の変調器アームに入力される。上側アーム630に入力された光は、導波路631を伝搬し、位相シフタ632で屈折率変化を受けたのち、導波路633を伝搬して結合器650に入射される。同様に、下側アーム640に入力された光は、導波路641を伝搬し、位相シフタ642で屈折率変化を受けたのち、導波路643を伝搬して結合器650に入射される。
このとき、位相シフタ632は屈折率増加、位相シフタ642は屈折率が減少するように電圧を印加すると(このような動作は「プッシュプル動作」と呼ばれる。)、2つの変調器アーム630、640から、強度は一定で、位相が互いにπ(180°)異なる出力光を出力することができる。このように位相が互いに逆方向に変化する2つの光は、結合器650において干渉し、出力導波路660から光信号として出力される。
【0005】
図7は、上述したマッハツェンダ干渉型位相変調器の光信号出力が信号“0”(703)と信号“1”(704)との間で遷移している間の、各変調器アームから結合器650に入射される光の強度と位相の変化をIQ平面に表したビット遷移図である。
光信号出力が信号“0”と信号“1”間で遷移している間の各変調器アームにおける光の位相の変化は、第1の変調器アーム111において位相シフトされる光の位相は時計回りに進み、第2の変調器アーム112において位相シフトされる光の位相は反時計回りに進むようにする。すなわち、位相シフタ632によって変調される光信号の軌跡701は反時計回りに0度から180度変化し、位相シフタ642によって変調される光信号の軌跡702は時計回りに0度から180度変化する。
【0006】
例えば、一般的にLiNbO3 変調器などで利用される電気光学効果(ポッケルス効果)を使用した場合、2つの変調器アームの損失は互いに等しいので、位相変調された光信号における信号“0”(703)と信号“1”(704)間の遷移はI軸上のみにおいて行われる。したがって、このようなマッハツェンダ干渉型位相変調器では、ビット遷移時の周波数チャープを抑制できる。
なお、周波数チャープに関する先行技術文献としては、非特許文献1、非特許文献2等がある。
【0007】
上述した位相変調は、伝送の容量と品質の双方に対して大きな変革をもたらすことが期待される一方で、同時に、高度な変調フォーマットに対応した送受信器がデバイスやシステムの大型化や複雑化、高コスト化につながるおそれがあり、新しい変調フォーマットの実用化へ向けて大きな懸念事項となっている。
【0008】
そこで、シリコンに代表されるIV族半導体材料を用いた光・電子デバイスの大規模モノリシック集積技術が注目されている。この技術は、大量生産が可能で、かつ小型化が容易であるなど、優れた利点を有することから、チップ間光インターコネクションに代表される極短距離光通信から中・長距離光通信まで幅広い応用が期待されている。
【0009】
例えば、シリコン材料を用いて上述したようなマッハツェンダ干渉型光位相変調器を構成することによって、光位相変調器の小型化を図ることが可能となる。
シリコン材料からマッハツェンダ干渉型光位相変調器を構成する場合、位相シフタ632、642は、軸線方向に沿ってPN接合が形成されたシリコン細線導波路と、このシリコン細線導波路の近傍に設けられ、PN接合にバイアスを与える電極とから構成される。この電極に外部から制御電圧を印加して導波路中のキャリア密度を変化させると、キャリアプラズマ分散効果によって、シリコン細線導波路の屈折率が変化し、通過する光の位相をシフトさせることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】A. H. Gnauck, P. J. Winzer, Journal of Lightwave Technology, Vol.23, No.1, pp.115-130 (2005)
【非特許文献2】F. Koyama, K. Iga, Journal of Lightwave Technology, Vol.6, No.1, pp. 87-93 (1988)
【非特許文献3】David J. Lockwood, Lorenzo Pavesi (Eds.), Silicon Photonics II -Components and Integration-, Springer (2010)
【非特許文献4】G. T. Reed, G. Mashanovich, F. Y. Gardes & D. J. Thomson” Silicon optical modulators ” Nature Photonics, August 2010, Volume 4, No 8, pp518 - 526
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、キャリア密度を変調すると、キャリアプラズマ分散効果によって屈折率変化と吸収率変化とが同時に変調されてしまう。
例えば、シリコン光変調器では、波長1.55 μmにおけるキャリアプラズマ分散効果による屈折率変化と吸収率変化は、キャリア密度の変化に対する屈折率変化と吸収率変化として、経験的に次の式(1)と式(2)でそれぞれ表される(非特許文献4参照)。
【0012】
【数1】
【0013】
ただし、Δnは屈折率変化、Δαは吸収率変化、ΔNeは電子キャリア密度変化、ΔNhは正孔キャリア密度変化である。
【0014】
一方、屈折率変化Δnに伴う位相シフトΔφは次の式(3)によって表される。
【0015】
【数2】
【0016】
ただし、Lは位相シフタの導波路長、λは波長である。
【0017】
一方、吸収率変化は、光伝搬損失変化となって表れる(以下、本明細書においては、「光伝搬損失」および「光伝搬損失変化」をそれぞれ「伝搬損失」および「伝搬損失変化」という。)。
なお、本明細書においては、特に断らない限り、「伝搬損失」および「伝搬損失変化」とは、それぞれ単位長さ当たりの伝搬損失および単位長さ当たりの伝搬損失変化を意味するものとする。
【0018】
上述したように、電気光学効果を利用する従来のマッハツェンダ干渉型光位相変調器においては、ビット遷移時においても2つの変調器アームの伝搬損失は等しい。しかしながら、キャリアプラズマ分散効果を利用するマッハツェンダ干渉型光位相変調器においては、プッシュプル動作を行うべく、一方の位相シフタを順バイアスとし他方の位相シフタを逆バイアスとすると、2つの位相シフタにおけるキャリア密度の変化は、その符号が互いに逆となり、かつその値も不等となる。したがって、ビット遷移時には、式(1)および式(2)に示すように、屈折率変化Δnのみならず伝搬損失変化Δαplasmaまでもが同時に変調されてしまい、しかも、このときの上側アームの伝搬損失変化Δα1,plasmaの変化の方向と、下側アームの伝搬損失変化Δα2,plasmaの変化の方向とは、式(4)および式(5)に表されるように、互いに逆向きとなる。
【0019】
【数3】
【0020】
ただし、α1 は上側アームの全伝搬損失、α2 は下側アームの全伝搬損失、α1,prop はキャリアプラズマ分散効果の影響を受けていない状態での上側アームの伝搬損失変化、α2,prop はキャリアプラズマ分散効果の影響を受けていない状態での下側アームの伝搬損失変化、Δα1,plasma は上側アームのキャリアプラズマ分散効果による伝搬損失変化、Δα2,plasma は下側アームのキャリアプラズマ分散効果による伝搬損失変化をそれぞれ示す。
【0021】
なお、一般的には上側アームと下側アームとは対称に形成されるので、キャリアプラズマ分散効果の影響を受けていない状態での伝搬損失α1,prop 、α2,prop は、上側アームと下側アームとの間で等しくなり、α1,prop = α2,prop = αprop と表すことができる。
【0022】
2つの位相シフタを有するマッハツェンダ干渉型光位相変調器の出力光の複素電界振幅は次の式(6)で表される。
【0023】
【数4】
【0024】
ただし、Eout は出力複素電界振幅、aは入力光分岐比率、b は出力光結合比率、Aは入力光電界振幅、Δφ1(t) は上側アームによる位相シフト(第1の位相シフタによる位相シフト)、Δφ2(t) は下側アームによる位相シフト(第2の位相シフタによる位相シフト)、α1(t) は上側アームの伝搬損失、α2(t) は下側アームの伝搬損失、t は時間、L は導波路長である。
なお、キャリアプラズマ分散効果の影響を受けて変化する位相シフトΔφ1(t) 、Δφ2(t) 、および伝搬損失α1(t) 、α2(t) は、時間の関数となるが、本明細書においては、簡単のため、Δφ1 、Δφ2 、α1 、α2 と表す。
【0025】
ここで、キャリアプラズマ分散効果を利用するマッハツェンダ干渉型位相変調器について、ビット遷移時に各変調器アームからそれぞれ出力される光信号の強度および位相の変化をIQ平面におけるビット遷移図を図8Aに示す。すると、位相シフタ632によって変調され第1の変調器アーム630から出力される光信号の位相が、軌跡801に示すように、反時計回りに0度から180度変化し、位相シフタ642によって変調され第2の変調器アーム640から出力される光信号の位相が、軌跡802に示すように、時計回りに0度から180度変化するようにしても、式(2)ならびに式(4)および式(5)からもわかるように、位相シフタ632では伝搬損失α1 が減少するために第1の変調器アーム630から出力される光信号の振幅は大きくなり(軌跡801)、位相シフタ642では伝搬損失α2 が増加するために第2の変調器アーム640から出力される光信号の振幅は小さくなる(軌跡802)。
【0026】
したがって、位相変調された光信号における信号“0”(803)と信号“1”(804)間の遷移はI軸とQ軸の双方にまたがることがわかる。図8Bに示す数値計算結果も、ビット遷移時にQ軸成分が生じることを示している。
このように、キャリアプラズマ分散効果を利用して光位相変調を行えば、光位相変調器の光信号出力の信号“0”(803)と信号“1”(804)との間のビット遷移時に周波数変化が連続的に発生する。その結果、この周波数変化がいわゆる周波数チャープとして残存し、特に長距離伝送時においては位相変調特性の劣化の原因となる。
【0027】
そこで、本発明は、光位相変調器においてビット遷移時に発生する周波数チャープを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上述した目的を達成するために、本発明に係る光位相変調器は、入射された光信号を2つに分岐する分岐部と、この分岐部によって分岐された第1の光信号を伝搬する第1の光導波路と、前記分岐部によって分岐された第2の光信号を伝搬する第2の光導波路と、前記第1の光導波路に設けられ、前記第1の光信号の位相をシフトする第1の位相変調部と、前記第2の光導波路に設けられ、前記第2の光信号の位相をシフトする第2の位相変調部と、前記第1の光導波路を伝搬した前記第1の光信号と前記第2の光導波路を伝搬した前記第2の光信号とを合波して出射する結合部とを備え、前記第1の位相変調部による前記第1の光信号の位相のシフトに依存しない前記第1の光導波路の伝搬損失と、前記第2の位相変調部による前記第2の光信号の位相のシフトに依存しない前記第2の光導波路の伝搬損失とが互いに異なることを特徴とする。
【0029】
本発明において、第1の位相変調部による第1の光信号の位相のシフトに依存しない第1の光導波路の伝搬損失と、第2の位相変調部による第2の光信号の位相のシフトに依存しない第2の光導波路の伝搬損失とを互いに異ならせるにあたっては、例えば、前記第1の光導波路および前記第2の光導波路の少なくとも1つに、当該光導波路の伝搬損失を調整する損失調整部を設けてもよいし、前記第1の光導波路および前記第2の光導波路の光信号の伝搬方向に垂直な断面の面積および形状の少なくとも1つを、互いに異なるようにしてもよい。
【0030】
ここで損失調整部を設ける場合は、損失調整部は、例えば、前記第1の光導波路または前記第2の光導波路の部分であって、光信号の伝搬方向に垂直な当該光導波路の断面の面積および形状の少なくとも1つが前記伝搬方向に沿って変化する部分としてもよいし、また、前記第1の光導波路または前記第2の光導波路の一部に形成され、当該光導波路を所定の曲率半径で屈曲させた屈曲部としてもよい。
【0031】
本発明に係る光位相変調器において、前記第1の光導波路および前記第2の光導波路は、それぞれ半導体からなるコアを有し、前記第1の位相変調部および前記第2の位相変調部は、それぞれ前記コアに注入されるキャリアの供給源となるn型半導体およびp型半導体の少なくとも1つと、前記コアへのキャリアの注入を制御する電極とを備え、キャリアプラズマ分散効果により光信号の位相をシフトするものであってもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、第1の位相変調部における位相のシフトに依存しない第1の光導波路の伝搬損失と、第2の位相変調部における位相のシフトに依存しない第2の光導波路の伝搬損失とが互いに異なるように損失調整を行うことによって、第1、第2の位相変調部によって位相シフトされる各光導波路の光信号の軌跡を独立に調整できるので、第1の位相変調部において第1の光信号の位相を第1の方向にシフトすることによって生じる光伝搬損失の変化と、第2の位相変調部において第2の光信号の位相を第2の方向にシフトすることによって生じる光伝搬損失の変化とが互いに異なっても、ビット間遷移時の周波数チャープを緩和することができる。
すなわち、第1の光導波路の伝搬損失のうちの第1の位相変調部における位相のシフトに依存しない伝搬損失と、第2の光導波路の伝搬損失のうちの第2の位相変調部における位相のシフトに依存しない伝搬損失とを互いに異ならせることによって、位相変調に伴う吸収率変化(伝搬損失変化)の影響を相殺して、光位相変調における信号“0”と信号“1”との間のビット遷移時に発生する周波数チャープを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1A】図1Aは、本発明の第1の実施の形態に係る光位相変調器の構成を示す平面図である。
【図1B】図1Bは、本発明の第1の実施の形態に係る光位相変調器の位相シフタの構成を示す断面図である。
【図1C】図1Cは、本発明の第1の実施の形態に係る光位相変調器の損失調整部の構成を示す平面図である。
【図1D】図1Dは、本発明の第1の実施の形態に係る光位相変調器の損失調整部の構成を示す断面図である。
【図2】図2は、シリコン導波路のコア幅の変化に対する伝搬損失の依存性を示す図である。
【図3A】図3Aは、本発明の第1の実施の形態に係る光位相変調器による周波数チャープ抑制時のIQ平面におけるビット遷移図(概要)である。
【図3B】図3Bは、本発明の第1の実施の形態に係る光位相変調器による周波数チャープ抑制時のIQ平面におけるビット遷移図(数値計算結果)である。
【図4A】図4Aは、本発明の第2の実施の形態に係る光位相変調器の構成を示す平面図である。
【図4B】図4Bは、本発明の第2の実施の形態に係る光位相変調器の損失調整部の構成を示す平面図である。
【図5】図5は、シリコン導波路の曲げ半径に対する挿入損失の依存性を示す図である。
【図6】図6は、従来のマッハツェンダ干渉型光位相変調器の構成例を示す図である。
【図7】図7は、周波数チャープ抑制時のIQ平面におけるビット遷移図である。
【図8A】図8Aは、周波数チャープ未抑制時のIQ平面におけるビット遷移図(概要)である。
【図8B】図8Bは、数値計算による周波数チャープ未抑制時のIQ平面におけるビット遷移図(数値計算結果)である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態に係る光位相変調器は、マッハツェンダ干渉型光位相変調器であって、変調器アームの伝搬損失を調整する手段として、導波路の断面構造または形状を調整して、2つの変調器アーム間に非対称性を設けるものである。
【0035】
<基本的な考え方>
本発明の実施の形態に係る光位相変調器は、2つの変調器アームの伝搬損失のうち、光信号の位相のシフトに依存しない伝搬損失、すなわち、屈折率と吸収率(伝搬損失)間におけるKramers−Kronig関係とは独立した、導波路の構造に由来する伝搬損失を調整し、2つの変調器アーム間に非対称性を設けるものである。
【0036】
このとき、2つの変調器アームの伝搬損失は、式(4)および式(5)においてキャリアプラズマ分散効果の影響による伝搬損失変化を補正するために新たな損失調整項をそれぞれ加えた式(7)および式(8)のように表すことができる。
【0037】
【数5】
【0038】
ただし、α1 は上側アームの全伝搬損失、α2 は下側アームの全伝搬損失、αprop(=α1,prop =α2,prop) はキャリアプラズマ分散効果の影響を受けていない状態での上側アームおよび下側アームの伝搬損失、Δα1,plasma は上側アームのキャリアプラズマ分散効果による伝搬損失変化、Δα2,plasma は下側アームのキャリアプラズマ分散効果による伝搬損失変化、Δα1,adjust は上側アームの構造調整による伝搬損失変化、Δα2,adjust は下側アームの構造調整による伝搬損失変化を示す。
【0039】
<光位相変調器の構成>
図1A乃至図1Dに本実施の形態に係る光位相変調器の構成を示す。光位相変調器100は、入力導波路110より入射された光信号を2つに分岐する分岐部(分波器)120と、分岐部120によって分岐された第1の光信号を伝搬する第1の光導波路(以下、「第1の変調器アーム」または「上側アーム」という。)130と、分岐部120によって分岐された第2の光信号を伝搬する第2の光導波路(以下、「第2の変調器アーム」または「下側アーム」という。)140と、上側アーム130を伝搬した第1の光信号と下側アーム140を伝搬した第2の光信号とを合波して出力導波路160に出射する結合部(合波器)150とから構成されている。これらは、SOI基板上に形成されたシリコン導波路である。このうち、上側アーム130と下側アーム140の光路長は等しくなるように形成されている。また、上側アーム130と下側アーム140の光導波路コアの光信号の伝搬方向に垂直な断面の形状および大きさも、後述する損失調整部141’の部分を除き、互いに等しく形成されている。
【0040】
上側アーム130には、上側アーム130を伝搬する第1の光信号の位相をシフトする第1の位相シフタ(第1の位相変調部)132が設けられている。この位相シフタ132は、光導波路131および光導波路133を介して、分岐部120および結合部150にそれぞれ接続されている。同様に、下側アーム140には、下側アーム140を伝搬する第2の光信号の位相をシフトする第2の位相シフタ(第2の位相変調部)142が設けられている。この位相変調部142は、光導波路141および光導波路143を介して、分岐部120および結合部150にそれぞれ接続されている。
以下、第1の位相シフタ132および第2の位相シフタ142を単に「位相シフタ」と総称することがある。
【0041】
図1Bに、第1の位相シフタ132のI−I線(図1A参照。)における断面図を示す。第1の位相シフタ132は、シリコン層171および酸化シリコン層172からなるSOI基板上に形成されたシリコン導波路コア175と、このコア175に注入されるキャリアの供給源となるキャリア供給源となる不純物領域173a、173bと、これらの不純物領域173a、173bにそれぞれ電気的に接続された第1の電極176および第2の電極177を備えている。
【0042】
シリコン導波路コア175は、酸化シリコン層172上に形成されたシリコン層173の厚さをステップ状に変化させることによって形成され、このシリコン導波路コア175を含むシリコン層173は、酸化シリコンからなるオーバークラッド層174に覆われている。
【0043】
また、キャリア供給源となる不純物領域173a、173bは、シリコン導波路コア175の近傍のシリコン層173内に形成されている。本実施の形態においては、シリコン導波路コア175の一方の片側にn+型領域173aが、他方の片側にp+型領域173bが形成されている。クラッド層174に形成されたビアホールが形成され、そのビアホール内に形成された第1の電極176および第2の電極177が、それぞれn+領域173aおよびp+領域173bにそれぞれ電気的に接続されている。
位相シフタ142もまた、位相シフタ132と同様に構成されている。
【0044】
位相シフタ132、142は、第1、第2の電極間に外部から制御バイアスを加えることによって、シリコン導波路コア175内のキャリア濃度を変調し、光信号の位相をシフトさせることができる。本実施の形態において、シリコン導波路コア175にキャリアを注入する際には、位相シフタ132と位相シフタ142とはそれぞれは順バイアスと逆バイアスとなるよに制御電圧が印加される。
【0045】
なお、本実施の形態において、位相シフタ132、142は、いわゆるPIN構造を有するものとして説明したが、本発明において、位相変調部の構成は、シリコン導波路コア175内にキャリアを注入できれば、PIN構造に限定されるものではなく、例えば、PN接合を形成してもよいし、シリコン導波路コア175近傍にn型シリコン領域またはp型シリコン領域の少なくともいずれか一方を形成してもよい。特にチャープ抑制が重要となる位相変調部の構成は、高速動作が可能なPN接合構造(逆バイアスを掛けキャリアを引き抜く空乏型)であり、例えば、P+型/P型/N型/N+型のような構造である。
また、位相シフタの構成例については、非特許文献4にも開示されている。
【0046】
本実施の形態に係るマッハツェンダ干渉型光位相変調器100においては、下側アーム140に、下側アーム140の伝搬損失を調整する損失調整部141’が設けられている。図1Cおよび図1Dは、それぞれ損失調整部141’を拡大した平面図および断面図である。図1Cに示すように、損失調整部141’は、下側アーム140のシリコン導波路141のコア幅を部分的に広くしたものである。このとき、導波路コア断面積の急激な変化は光の反射や散乱を招くため、図1Cに示すように、損失調整部141’の導波路コアの幅は、連続的(断面の屈折率変化を可能な限り抑えるよう)に変化するものとする。
【0047】
上述したような損失調整部141’は、シリコン導波路に代表される高屈折率差構造による強閉じ込め系であるゆえ、断面形状や寸法の調整により精密かつ再現性良く伝搬損失を調整することが可能である。
例えば、電子線露光または紫外線露光を用いることにより、分解能が10nm以下の導波路コアの幅の調整は可能であり、その再現性についても確認されている。
【0048】
図1Dに示すような構造を有する光導波路は、SOI層を公知のエッチング手法を用いて選択的にエッチングしてシリコンコアを形成すればよい。更にシリコンコアの上に酸化シリコン層を製膜することでオーバークラッドを形成してもよい。また、SOI基板上の酸化シリコン層(BOX層)をアンダークラッドとしてもよい。
なお、本実施の形態においては、シリコン導波路141のコアの高さは、その長さ方向にわたって一定である。
【0049】
図2は、シリコン導波路コア高さを200nmと固定したときの、コア幅(Core width)に対する伝搬損失(Propagation loss)の依存性を示す図であり、非特許文献3から引用したものである。図2からもわかるように、コア幅が大きくなると、伝搬損失は減少する。
【0050】
この特徴を活用すれば、変調器アームの片方または両方の導波路コア断面積を縮小または拡大することによって伝搬損失を調整し、2つの変調器アームの伝搬損失に非対称性を与えることができる。本実施の形態に係る光位相変調器は、一方のアームの導波路コアの断面積を一部拡大することで伝搬損失を調整し、周波数チャープの発生を抑制するものである。すなわち、損失調整部141’としてシリコン導波路141のコア幅を部分的に広く形成することによって、下側アーム140の伝搬損失は上側アーム130の伝搬損失よりも小さくなり、上側アーム130と下側アーム140との間に伝搬損失の非対称性を与えることとなる。
【0051】
本実施の形態では、構造の簡略化を図ることに加えて、過剰損失を防ぐために導波路コア断面積の縮小を行わず、下側アーム140において導波路幅調整によるコア断面積の拡大のみ行っている。これは、式(7)におけるΔα1,adjust を0とし、式(8)におけるΔα2,adjust のみを追加するものである。
【0052】
<光位相変調器の動作>
次に、本実施の形態に係る光位相変調器100の動作について説明する。
この位相変調器100では、入力導波路110に入射された光は分岐器120で2本の光に等分される。上側アーム130において、光は導波路131を伝搬して位相シフタ132に入射し、導波路133を伝搬して結合部150に至る。一方、下側アーム140においては、導波路141の損失調整領域141’を経て位相シフタ142によって屈折率変化による位相シフトを受けたのち、導波路143を伝搬して結合部150に至る。このようにして上側の変調アーム130から入射された光信号と下側の変調アーム140から入射された光信号とは、結合部150内で干渉し、光信号出力として出力導波路160を介して出力される。
【0053】
このようなマッハツェンダ干渉型光位相変調器において、光信号出力の信号“0”と信号“1”との間を遷移する際には、プッシュプル動作により、一方の位相シフタ132を順バイアスとし、他方の位相シフタ142を逆バイアスとすると、式(1)および式(2)に示すように、キャリアプラズマ分散効果によって屈折率変化Δnと伝搬損失変化Δαplasma が同時に変調され、このときの上側アームの伝搬損失変化Δα1,plasmaの変化の方向と、下側アームの伝搬損失変化Δα2,plasmaの変化の方向とは、式(7)および式(8)に示すように、互いに逆向きとなる。しかしながら、導波路141に損失調整部141’を設けたことによって、下側アーム140の伝搬損失α2 は、上側アーム130の伝搬損失α1 よりも低減されている。
【0054】
このときのIQ平面におけるビット遷移図を図3Aおよび図3Bに示す。
例えば、光位相変調器100の光信号出力が信号“0”(303)から信号“1”(304)に遷移する場合に、上側アーム130を伝搬する光信号の位相は位相シフタ132によって変調されて反時計回りに0度から180度変化する(軌跡301)一方、下側アーム140を伝搬する光信号の位相は位相シフタ142によって変調されて、時計回りに0度から180度変化する(軌跡302)。
【0055】
このとき、下側アーム140に損失調整部141’を設けて、−Δα2,adjustを追加したので(式(8)参照。)、Δα2,plasmaがΔα2,ADJUST によって相殺されて、下側アームの全伝搬損失α2 に対するΔα2,plasmaの影響を相対的に小さくなるので、下側アーム140を伝搬する光信号の強度と位相の軌跡302は、Q軸方向(図3Aの下側方向)に膨らむ。その結果、上側アーム130から結合部150に入射される光信号と下側アーム140から結合部150に入射される光信号とが干渉することによって得られる光信号出力の信号“0”(303)と信号“1”(304)との間のビット遷移時において、光信号出力のI軸からQ軸に沿って離れる成分を小さくすることができる。
【0056】
例えば、α1 =α2 とすればよく、式(7)および式(8)より、上側アームの伝搬損失変化や下側アーム140の損失調整部141’による伝搬損失変化を望ましくは、Δα1,adjust +Δα2,adjust =Δα1,plasma +Δα2,plasma と設定することで、ビット遷移における光信号出力の軌跡は、ほぼI軸上のみと見なすことが可能である。ただし、キャリア密度やその他条件によっては、位相が0とπにおける電界振幅比が大きく異なる場合もあるため、伝搬損失変化は、それらの条件も考慮し、設定されるべきである。
【0057】
より具体的な例として、正孔キャリアを用いたシリコン変調器の伝搬損失制御によるチャープ抑制方法の数値解析結果を図3Bおよび図8Bに示す。なお、図8Bは損失調整部の付与前、図3Bは損失付与後にそれぞれ対応する。
ここでは、入力分岐比率a=(0.5)1/2、出力分岐比率b=(0.5)1/2、波長λ=1.550nm、位相シフタの導波路長L=10mmのとき、下側アームの構造調整による伝搬損失変化Δα2,adjust=0.6dB/cmとすることで、図3Bに示すように、周波数チャープはほぼI軸上を遷移した。この結果、周波数チャープを持った光強度は1/6以下に抑えることができることが理解される。
なお、正孔キャリアではなく電子キャリア密度変化を利用した変調器、もしくは、両キャリア密度変化を利用した変調器では、式(1)と式(2)の関係により更に顕著なチャープ抑制効果が予想される。
【0058】
以上のように、本実施の形態に係る光位相変調器によれば、一方の変調器アームのみ導波路断面積を増やす構造とし、各変調器アームの軌跡を独立に調整することで、変調器の挿入損失が低減することから過剰損失を増加させることなく周波数チャープが抑制できる。
すなわち、一方の変調器アーム(下側アーム)140に、そのシリコン導波路の一部のコア幅を変化させることによって損失調整部141’を設け、キャリアプラズマ分散効果の影響により変調される下側アーム140の変調器142の伝搬損失変化Δα2,plasmaの影響を相対的に低減することによって、ビット遷移の際の下側アームから結合部150に入射される光信号のIQ平面上での軌跡は、図3Aに示すように下方に膨らむので、上側アーム130から結合部150に入射される光信号と下側アーム140から結合部150に入射される光信号とが干渉することによって得られる光信号出力のビット遷移時の周波数チャープを抑制できる。
【0059】
<第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態について、図4A、図4B、図5を参照して説明する。なお、上述した第1の実施の形態と共通する構成要素については、同一の名称および同一の参照符号を用い、その説明は省略する。
【0060】
<光位相変調器の構成>
第2の実施の形態に係る光位相変調器は、損失調整を行う手段として、マッハツェンダ干渉型位相変調器の変調器アームのシリコン導波路に屈曲部を設けたものである。すなわち、伝搬損失変化Δαadjust の調整は、シリコン導波路の曲げ半径を調整し、曲げ損失を増加または減少させることによって実現される。
【0061】
図4Aは、本実施の形態に係る非対称マッハツェンダ干渉型シリコン位相変調器の概要を示す図である。光位相変調器200は、入力導波路110より入射された光信号を2つに分岐する分岐部120と、分岐部120によって分岐された第1の光信号を伝搬する第1の変調器アーム(または上側アーム)130と、分岐部120によって分岐された第2の光信号を伝搬する第2の変調器アーム(または下側アーム)240と、上側アーム130を伝搬した第1の光信号と下側アーム240を伝搬した第2の光信号とを合波して出力導波路160に出射する結合部150とから構成されている。これらは、SOI基板上に形成されたシリコン導波路である。
このうち、第2の変調器アーム240を構成するシリコン導波路コア241には、損失調整部として屈曲部Bが設けられている。
【0062】
図4Bは、屈曲部Bの拡大図である。図4Bに示すように、屈曲部Bでは、導波路コア241に数μmオーダーの曲げ半径rが付与されて略90°屈曲されている。
【0063】
図5は、シリコン導波路の曲げ半径に対する挿入損失の依存性を示す図であり、非特許文献3より引用した。図5によれば、シリコン導波路の曲げ半径が小さくなればなるほど損失が大きくなることが理解される。この特徴を活用し、2本の変調器アームのうち、一方または両方のアームの導波路曲げ損失を曲げ半径の縮小または拡大によって調整し、周波数チャープの発生を抑制することができる。
【0064】
シリコン導波路を電子線露光もしくは紫外線露光を用いて作製することにより、100nmより小さい分解能で曲げ半径rを調整することが現実的に可能である。したがって、シリコン導波路は高屈折率差構造による強閉じ込め系であるゆえ、曲げ半径rを変化させることにより、精密かつ再現性良く損失を調整することが可能である。
【0065】
本実施の形態では、構造を簡略化するため、下側アーム240において、シリコン導波路コア241に屈曲部を設け、曲げ半径調整による曲げ損失を付与した。すなわち、式(7)におけるΔα1,adjust を0とし、式(8)におけるΔα2,adjust を設定した。
なお、本実施の形態においては、伝搬損失の調整に用いる曲げ損失が、その構造上、シリコン導波路の屈曲部において生じるものであるため、上述した式(7)、式(8)との整合をとるため、伝搬損失変化Δα2,adjust は、屈曲部の曲げ半径を調整することによって生じる損失変化を変調器の導波路の長さLによって平均化された値とする。
なお、上側アーム130と下側アーム240の光路長は等しくなるように形成されている。また、シリコン導波路コアの断面形状は上述した第1の実施の形態と同一である。
【0066】
<光位相変調器の動作>
本実施の形態に係る位相変調器200では、入力導波路110に入射された光は分岐器120で2本の光に等分される。上側アーム130において、光信号は導波路131を伝搬し、位相シフタ132によって屈折率変化による位相シフトを受けたのち、導波路133を伝搬し、結合部150に入射する。一方、下側アーム240では、光信号は、曲げ損失を付与した導波路コア241を伝搬し、位相シフタ142で位相シフトを受けたのち、導波路143を伝搬して、結合部150に入射する。
第2の変調器アーム240の損失α2 は、屈曲部の曲げ損失を調整したことによって生じた伝搬損失変化Δα2,adjust を含む。したがって、屈曲部の導波路曲げ損失を曲げ半径の縮小と拡大によって調整して、キャリアプラズマ分散効果の影響により変調される下側アーム240の変調器142の伝搬損失変化Δα2,plasmaの影響を相対的に低減することによって、ビット遷移時の周波数チャープの発生を抑制することができる。
【0067】
本実施の形態によれば、導波路コアの曲げ半径を制御することによって伝搬損失を調整するので、導波路コアの幅を制御する第1の実施の形態に較べると、作製プロセス上の精度が緩和されるという利点がある。
【0068】
<その他の実施の形態>
上述した実施の形態においては、シリコン導波路からなるマッハツェンダ干渉型位相変調器を例に説明したが、本発明では、屈折率と独立して損失を調整できる機構であれば、位相変調器の材料と干渉構造に依存しない。
【0069】
また、上述した2つの実施の形態では、それぞれシリコン導波路コアの幅を変えることや、シリコン導波路コアの曲げ半径を制御することによって、伝搬損失を調整するものとして説明したが、本発明における損失調整の手段は、これらの実施の形態に限定されるものではない。
例えば、損失調整部として、少なくとも一方のシリコン導波路コアの少なくとも一部に、不純物をドーピングした不純物導入部を形成してもよい。シリコンは不純物濃度に応じて光吸収を調整することができるので、このような不純物導入部を設けることによって、変調器アームの伝搬損失を調整することができる。このような不純物導入部は、位相シフタ(位相変調部)を形成するプロセスにおいて、シリコン層の所定の領域に不純物を導入した後にシリコン導波路コアを形成することによって、同時に作製することができる。
【0070】
更には、本発明では、第1の変調器アームにおける光信号の位相のシフトに依存しない伝搬損失と、第2の変調器アームにおける光信号の位相のシフトに依存しない伝搬損失とが互いに異なっていればよく、すなわち、2つの変調器アームの間で位相シフトに依存しない伝搬損失に非対称性を持たせることができればよい。したがって、上述した実施の形態のように、導波路の一部に損失調整部を設けてもよいし、2つの変調器アームの間で、導波路コアの形状またはサイズ(光信号の伝搬方向に垂直な断面の面積および形状の少なくとも1つ)に違いを持たせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、光通信および光通信デバイスの分野に利用することができる。
【符号の説明】
【0072】
110…入力導波路、120…分岐部、130、140、240…変調器アーム、131、133、141、143、241…光導波路(コア)、132、142…位相シフタ、141’、241’…損失調整部、150…結合部、160…出力導波路。
【技術分野】
【0001】
本発明は、光位相変調器に関し、特にマッハツェンダ干渉型の光位相変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超長距離光通信において、更なる伝送容量拡大や周波数利用効率向上に向けて様々な変調フォーマットが研究開発の対象とされている。
位相変調を組み合わせた変調フォーマットは、多値化やコヒーレント検波化を可能にして、伝送の容量と品質の双方に対して大きな変革をもたらすことが期待されており、現実に従来から使用されてきた強度変調から位相変調へシフトがすでに始まっている。
【0003】
従来の光位相変調器の一例として、図6にマッハツェンダ干渉型位相変調器の構成例を示す。光位相変調器600は、2本の変調器アーム630、640と、入力導波路610から入力される光を分岐して2本の変調器アーム630、640に入力する分岐器620と、これら2本の変調器アーム630、640から入力される光を合波して出力導波路660に出力する結合器650とから構成される。第1の変調器アーム(以下、「上側アーム」ということがある。)630は、直列に接続された導波路631と、位相シフタ632と、導波路633とからなる。同様に、第2の変調器アーム(以下、「下側アーム」ということがある。)640は、直列に接続された導波路641と、位相シフタ642と、導波路643とからなる。
【0004】
この位相変調器600では、入力導波路610に入射された光は分岐器620で2本の光に等分されて2本の変調器アームに入力される。上側アーム630に入力された光は、導波路631を伝搬し、位相シフタ632で屈折率変化を受けたのち、導波路633を伝搬して結合器650に入射される。同様に、下側アーム640に入力された光は、導波路641を伝搬し、位相シフタ642で屈折率変化を受けたのち、導波路643を伝搬して結合器650に入射される。
このとき、位相シフタ632は屈折率増加、位相シフタ642は屈折率が減少するように電圧を印加すると(このような動作は「プッシュプル動作」と呼ばれる。)、2つの変調器アーム630、640から、強度は一定で、位相が互いにπ(180°)異なる出力光を出力することができる。このように位相が互いに逆方向に変化する2つの光は、結合器650において干渉し、出力導波路660から光信号として出力される。
【0005】
図7は、上述したマッハツェンダ干渉型位相変調器の光信号出力が信号“0”(703)と信号“1”(704)との間で遷移している間の、各変調器アームから結合器650に入射される光の強度と位相の変化をIQ平面に表したビット遷移図である。
光信号出力が信号“0”と信号“1”間で遷移している間の各変調器アームにおける光の位相の変化は、第1の変調器アーム111において位相シフトされる光の位相は時計回りに進み、第2の変調器アーム112において位相シフトされる光の位相は反時計回りに進むようにする。すなわち、位相シフタ632によって変調される光信号の軌跡701は反時計回りに0度から180度変化し、位相シフタ642によって変調される光信号の軌跡702は時計回りに0度から180度変化する。
【0006】
例えば、一般的にLiNbO3 変調器などで利用される電気光学効果(ポッケルス効果)を使用した場合、2つの変調器アームの損失は互いに等しいので、位相変調された光信号における信号“0”(703)と信号“1”(704)間の遷移はI軸上のみにおいて行われる。したがって、このようなマッハツェンダ干渉型位相変調器では、ビット遷移時の周波数チャープを抑制できる。
なお、周波数チャープに関する先行技術文献としては、非特許文献1、非特許文献2等がある。
【0007】
上述した位相変調は、伝送の容量と品質の双方に対して大きな変革をもたらすことが期待される一方で、同時に、高度な変調フォーマットに対応した送受信器がデバイスやシステムの大型化や複雑化、高コスト化につながるおそれがあり、新しい変調フォーマットの実用化へ向けて大きな懸念事項となっている。
【0008】
そこで、シリコンに代表されるIV族半導体材料を用いた光・電子デバイスの大規模モノリシック集積技術が注目されている。この技術は、大量生産が可能で、かつ小型化が容易であるなど、優れた利点を有することから、チップ間光インターコネクションに代表される極短距離光通信から中・長距離光通信まで幅広い応用が期待されている。
【0009】
例えば、シリコン材料を用いて上述したようなマッハツェンダ干渉型光位相変調器を構成することによって、光位相変調器の小型化を図ることが可能となる。
シリコン材料からマッハツェンダ干渉型光位相変調器を構成する場合、位相シフタ632、642は、軸線方向に沿ってPN接合が形成されたシリコン細線導波路と、このシリコン細線導波路の近傍に設けられ、PN接合にバイアスを与える電極とから構成される。この電極に外部から制御電圧を印加して導波路中のキャリア密度を変化させると、キャリアプラズマ分散効果によって、シリコン細線導波路の屈折率が変化し、通過する光の位相をシフトさせることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】A. H. Gnauck, P. J. Winzer, Journal of Lightwave Technology, Vol.23, No.1, pp.115-130 (2005)
【非特許文献2】F. Koyama, K. Iga, Journal of Lightwave Technology, Vol.6, No.1, pp. 87-93 (1988)
【非特許文献3】David J. Lockwood, Lorenzo Pavesi (Eds.), Silicon Photonics II -Components and Integration-, Springer (2010)
【非特許文献4】G. T. Reed, G. Mashanovich, F. Y. Gardes & D. J. Thomson” Silicon optical modulators ” Nature Photonics, August 2010, Volume 4, No 8, pp518 - 526
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、キャリア密度を変調すると、キャリアプラズマ分散効果によって屈折率変化と吸収率変化とが同時に変調されてしまう。
例えば、シリコン光変調器では、波長1.55 μmにおけるキャリアプラズマ分散効果による屈折率変化と吸収率変化は、キャリア密度の変化に対する屈折率変化と吸収率変化として、経験的に次の式(1)と式(2)でそれぞれ表される(非特許文献4参照)。
【0012】
【数1】
【0013】
ただし、Δnは屈折率変化、Δαは吸収率変化、ΔNeは電子キャリア密度変化、ΔNhは正孔キャリア密度変化である。
【0014】
一方、屈折率変化Δnに伴う位相シフトΔφは次の式(3)によって表される。
【0015】
【数2】
【0016】
ただし、Lは位相シフタの導波路長、λは波長である。
【0017】
一方、吸収率変化は、光伝搬損失変化となって表れる(以下、本明細書においては、「光伝搬損失」および「光伝搬損失変化」をそれぞれ「伝搬損失」および「伝搬損失変化」という。)。
なお、本明細書においては、特に断らない限り、「伝搬損失」および「伝搬損失変化」とは、それぞれ単位長さ当たりの伝搬損失および単位長さ当たりの伝搬損失変化を意味するものとする。
【0018】
上述したように、電気光学効果を利用する従来のマッハツェンダ干渉型光位相変調器においては、ビット遷移時においても2つの変調器アームの伝搬損失は等しい。しかしながら、キャリアプラズマ分散効果を利用するマッハツェンダ干渉型光位相変調器においては、プッシュプル動作を行うべく、一方の位相シフタを順バイアスとし他方の位相シフタを逆バイアスとすると、2つの位相シフタにおけるキャリア密度の変化は、その符号が互いに逆となり、かつその値も不等となる。したがって、ビット遷移時には、式(1)および式(2)に示すように、屈折率変化Δnのみならず伝搬損失変化Δαplasmaまでもが同時に変調されてしまい、しかも、このときの上側アームの伝搬損失変化Δα1,plasmaの変化の方向と、下側アームの伝搬損失変化Δα2,plasmaの変化の方向とは、式(4)および式(5)に表されるように、互いに逆向きとなる。
【0019】
【数3】
【0020】
ただし、α1 は上側アームの全伝搬損失、α2 は下側アームの全伝搬損失、α1,prop はキャリアプラズマ分散効果の影響を受けていない状態での上側アームの伝搬損失変化、α2,prop はキャリアプラズマ分散効果の影響を受けていない状態での下側アームの伝搬損失変化、Δα1,plasma は上側アームのキャリアプラズマ分散効果による伝搬損失変化、Δα2,plasma は下側アームのキャリアプラズマ分散効果による伝搬損失変化をそれぞれ示す。
【0021】
なお、一般的には上側アームと下側アームとは対称に形成されるので、キャリアプラズマ分散効果の影響を受けていない状態での伝搬損失α1,prop 、α2,prop は、上側アームと下側アームとの間で等しくなり、α1,prop = α2,prop = αprop と表すことができる。
【0022】
2つの位相シフタを有するマッハツェンダ干渉型光位相変調器の出力光の複素電界振幅は次の式(6)で表される。
【0023】
【数4】
【0024】
ただし、Eout は出力複素電界振幅、aは入力光分岐比率、b は出力光結合比率、Aは入力光電界振幅、Δφ1(t) は上側アームによる位相シフト(第1の位相シフタによる位相シフト)、Δφ2(t) は下側アームによる位相シフト(第2の位相シフタによる位相シフト)、α1(t) は上側アームの伝搬損失、α2(t) は下側アームの伝搬損失、t は時間、L は導波路長である。
なお、キャリアプラズマ分散効果の影響を受けて変化する位相シフトΔφ1(t) 、Δφ2(t) 、および伝搬損失α1(t) 、α2(t) は、時間の関数となるが、本明細書においては、簡単のため、Δφ1 、Δφ2 、α1 、α2 と表す。
【0025】
ここで、キャリアプラズマ分散効果を利用するマッハツェンダ干渉型位相変調器について、ビット遷移時に各変調器アームからそれぞれ出力される光信号の強度および位相の変化をIQ平面におけるビット遷移図を図8Aに示す。すると、位相シフタ632によって変調され第1の変調器アーム630から出力される光信号の位相が、軌跡801に示すように、反時計回りに0度から180度変化し、位相シフタ642によって変調され第2の変調器アーム640から出力される光信号の位相が、軌跡802に示すように、時計回りに0度から180度変化するようにしても、式(2)ならびに式(4)および式(5)からもわかるように、位相シフタ632では伝搬損失α1 が減少するために第1の変調器アーム630から出力される光信号の振幅は大きくなり(軌跡801)、位相シフタ642では伝搬損失α2 が増加するために第2の変調器アーム640から出力される光信号の振幅は小さくなる(軌跡802)。
【0026】
したがって、位相変調された光信号における信号“0”(803)と信号“1”(804)間の遷移はI軸とQ軸の双方にまたがることがわかる。図8Bに示す数値計算結果も、ビット遷移時にQ軸成分が生じることを示している。
このように、キャリアプラズマ分散効果を利用して光位相変調を行えば、光位相変調器の光信号出力の信号“0”(803)と信号“1”(804)との間のビット遷移時に周波数変化が連続的に発生する。その結果、この周波数変化がいわゆる周波数チャープとして残存し、特に長距離伝送時においては位相変調特性の劣化の原因となる。
【0027】
そこで、本発明は、光位相変調器においてビット遷移時に発生する周波数チャープを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上述した目的を達成するために、本発明に係る光位相変調器は、入射された光信号を2つに分岐する分岐部と、この分岐部によって分岐された第1の光信号を伝搬する第1の光導波路と、前記分岐部によって分岐された第2の光信号を伝搬する第2の光導波路と、前記第1の光導波路に設けられ、前記第1の光信号の位相をシフトする第1の位相変調部と、前記第2の光導波路に設けられ、前記第2の光信号の位相をシフトする第2の位相変調部と、前記第1の光導波路を伝搬した前記第1の光信号と前記第2の光導波路を伝搬した前記第2の光信号とを合波して出射する結合部とを備え、前記第1の位相変調部による前記第1の光信号の位相のシフトに依存しない前記第1の光導波路の伝搬損失と、前記第2の位相変調部による前記第2の光信号の位相のシフトに依存しない前記第2の光導波路の伝搬損失とが互いに異なることを特徴とする。
【0029】
本発明において、第1の位相変調部による第1の光信号の位相のシフトに依存しない第1の光導波路の伝搬損失と、第2の位相変調部による第2の光信号の位相のシフトに依存しない第2の光導波路の伝搬損失とを互いに異ならせるにあたっては、例えば、前記第1の光導波路および前記第2の光導波路の少なくとも1つに、当該光導波路の伝搬損失を調整する損失調整部を設けてもよいし、前記第1の光導波路および前記第2の光導波路の光信号の伝搬方向に垂直な断面の面積および形状の少なくとも1つを、互いに異なるようにしてもよい。
【0030】
ここで損失調整部を設ける場合は、損失調整部は、例えば、前記第1の光導波路または前記第2の光導波路の部分であって、光信号の伝搬方向に垂直な当該光導波路の断面の面積および形状の少なくとも1つが前記伝搬方向に沿って変化する部分としてもよいし、また、前記第1の光導波路または前記第2の光導波路の一部に形成され、当該光導波路を所定の曲率半径で屈曲させた屈曲部としてもよい。
【0031】
本発明に係る光位相変調器において、前記第1の光導波路および前記第2の光導波路は、それぞれ半導体からなるコアを有し、前記第1の位相変調部および前記第2の位相変調部は、それぞれ前記コアに注入されるキャリアの供給源となるn型半導体およびp型半導体の少なくとも1つと、前記コアへのキャリアの注入を制御する電極とを備え、キャリアプラズマ分散効果により光信号の位相をシフトするものであってもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、第1の位相変調部における位相のシフトに依存しない第1の光導波路の伝搬損失と、第2の位相変調部における位相のシフトに依存しない第2の光導波路の伝搬損失とが互いに異なるように損失調整を行うことによって、第1、第2の位相変調部によって位相シフトされる各光導波路の光信号の軌跡を独立に調整できるので、第1の位相変調部において第1の光信号の位相を第1の方向にシフトすることによって生じる光伝搬損失の変化と、第2の位相変調部において第2の光信号の位相を第2の方向にシフトすることによって生じる光伝搬損失の変化とが互いに異なっても、ビット間遷移時の周波数チャープを緩和することができる。
すなわち、第1の光導波路の伝搬損失のうちの第1の位相変調部における位相のシフトに依存しない伝搬損失と、第2の光導波路の伝搬損失のうちの第2の位相変調部における位相のシフトに依存しない伝搬損失とを互いに異ならせることによって、位相変調に伴う吸収率変化(伝搬損失変化)の影響を相殺して、光位相変調における信号“0”と信号“1”との間のビット遷移時に発生する周波数チャープを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1A】図1Aは、本発明の第1の実施の形態に係る光位相変調器の構成を示す平面図である。
【図1B】図1Bは、本発明の第1の実施の形態に係る光位相変調器の位相シフタの構成を示す断面図である。
【図1C】図1Cは、本発明の第1の実施の形態に係る光位相変調器の損失調整部の構成を示す平面図である。
【図1D】図1Dは、本発明の第1の実施の形態に係る光位相変調器の損失調整部の構成を示す断面図である。
【図2】図2は、シリコン導波路のコア幅の変化に対する伝搬損失の依存性を示す図である。
【図3A】図3Aは、本発明の第1の実施の形態に係る光位相変調器による周波数チャープ抑制時のIQ平面におけるビット遷移図(概要)である。
【図3B】図3Bは、本発明の第1の実施の形態に係る光位相変調器による周波数チャープ抑制時のIQ平面におけるビット遷移図(数値計算結果)である。
【図4A】図4Aは、本発明の第2の実施の形態に係る光位相変調器の構成を示す平面図である。
【図4B】図4Bは、本発明の第2の実施の形態に係る光位相変調器の損失調整部の構成を示す平面図である。
【図5】図5は、シリコン導波路の曲げ半径に対する挿入損失の依存性を示す図である。
【図6】図6は、従来のマッハツェンダ干渉型光位相変調器の構成例を示す図である。
【図7】図7は、周波数チャープ抑制時のIQ平面におけるビット遷移図である。
【図8A】図8Aは、周波数チャープ未抑制時のIQ平面におけるビット遷移図(概要)である。
【図8B】図8Bは、数値計算による周波数チャープ未抑制時のIQ平面におけるビット遷移図(数値計算結果)である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態に係る光位相変調器は、マッハツェンダ干渉型光位相変調器であって、変調器アームの伝搬損失を調整する手段として、導波路の断面構造または形状を調整して、2つの変調器アーム間に非対称性を設けるものである。
【0035】
<基本的な考え方>
本発明の実施の形態に係る光位相変調器は、2つの変調器アームの伝搬損失のうち、光信号の位相のシフトに依存しない伝搬損失、すなわち、屈折率と吸収率(伝搬損失)間におけるKramers−Kronig関係とは独立した、導波路の構造に由来する伝搬損失を調整し、2つの変調器アーム間に非対称性を設けるものである。
【0036】
このとき、2つの変調器アームの伝搬損失は、式(4)および式(5)においてキャリアプラズマ分散効果の影響による伝搬損失変化を補正するために新たな損失調整項をそれぞれ加えた式(7)および式(8)のように表すことができる。
【0037】
【数5】
【0038】
ただし、α1 は上側アームの全伝搬損失、α2 は下側アームの全伝搬損失、αprop(=α1,prop =α2,prop) はキャリアプラズマ分散効果の影響を受けていない状態での上側アームおよび下側アームの伝搬損失、Δα1,plasma は上側アームのキャリアプラズマ分散効果による伝搬損失変化、Δα2,plasma は下側アームのキャリアプラズマ分散効果による伝搬損失変化、Δα1,adjust は上側アームの構造調整による伝搬損失変化、Δα2,adjust は下側アームの構造調整による伝搬損失変化を示す。
【0039】
<光位相変調器の構成>
図1A乃至図1Dに本実施の形態に係る光位相変調器の構成を示す。光位相変調器100は、入力導波路110より入射された光信号を2つに分岐する分岐部(分波器)120と、分岐部120によって分岐された第1の光信号を伝搬する第1の光導波路(以下、「第1の変調器アーム」または「上側アーム」という。)130と、分岐部120によって分岐された第2の光信号を伝搬する第2の光導波路(以下、「第2の変調器アーム」または「下側アーム」という。)140と、上側アーム130を伝搬した第1の光信号と下側アーム140を伝搬した第2の光信号とを合波して出力導波路160に出射する結合部(合波器)150とから構成されている。これらは、SOI基板上に形成されたシリコン導波路である。このうち、上側アーム130と下側アーム140の光路長は等しくなるように形成されている。また、上側アーム130と下側アーム140の光導波路コアの光信号の伝搬方向に垂直な断面の形状および大きさも、後述する損失調整部141’の部分を除き、互いに等しく形成されている。
【0040】
上側アーム130には、上側アーム130を伝搬する第1の光信号の位相をシフトする第1の位相シフタ(第1の位相変調部)132が設けられている。この位相シフタ132は、光導波路131および光導波路133を介して、分岐部120および結合部150にそれぞれ接続されている。同様に、下側アーム140には、下側アーム140を伝搬する第2の光信号の位相をシフトする第2の位相シフタ(第2の位相変調部)142が設けられている。この位相変調部142は、光導波路141および光導波路143を介して、分岐部120および結合部150にそれぞれ接続されている。
以下、第1の位相シフタ132および第2の位相シフタ142を単に「位相シフタ」と総称することがある。
【0041】
図1Bに、第1の位相シフタ132のI−I線(図1A参照。)における断面図を示す。第1の位相シフタ132は、シリコン層171および酸化シリコン層172からなるSOI基板上に形成されたシリコン導波路コア175と、このコア175に注入されるキャリアの供給源となるキャリア供給源となる不純物領域173a、173bと、これらの不純物領域173a、173bにそれぞれ電気的に接続された第1の電極176および第2の電極177を備えている。
【0042】
シリコン導波路コア175は、酸化シリコン層172上に形成されたシリコン層173の厚さをステップ状に変化させることによって形成され、このシリコン導波路コア175を含むシリコン層173は、酸化シリコンからなるオーバークラッド層174に覆われている。
【0043】
また、キャリア供給源となる不純物領域173a、173bは、シリコン導波路コア175の近傍のシリコン層173内に形成されている。本実施の形態においては、シリコン導波路コア175の一方の片側にn+型領域173aが、他方の片側にp+型領域173bが形成されている。クラッド層174に形成されたビアホールが形成され、そのビアホール内に形成された第1の電極176および第2の電極177が、それぞれn+領域173aおよびp+領域173bにそれぞれ電気的に接続されている。
位相シフタ142もまた、位相シフタ132と同様に構成されている。
【0044】
位相シフタ132、142は、第1、第2の電極間に外部から制御バイアスを加えることによって、シリコン導波路コア175内のキャリア濃度を変調し、光信号の位相をシフトさせることができる。本実施の形態において、シリコン導波路コア175にキャリアを注入する際には、位相シフタ132と位相シフタ142とはそれぞれは順バイアスと逆バイアスとなるよに制御電圧が印加される。
【0045】
なお、本実施の形態において、位相シフタ132、142は、いわゆるPIN構造を有するものとして説明したが、本発明において、位相変調部の構成は、シリコン導波路コア175内にキャリアを注入できれば、PIN構造に限定されるものではなく、例えば、PN接合を形成してもよいし、シリコン導波路コア175近傍にn型シリコン領域またはp型シリコン領域の少なくともいずれか一方を形成してもよい。特にチャープ抑制が重要となる位相変調部の構成は、高速動作が可能なPN接合構造(逆バイアスを掛けキャリアを引き抜く空乏型)であり、例えば、P+型/P型/N型/N+型のような構造である。
また、位相シフタの構成例については、非特許文献4にも開示されている。
【0046】
本実施の形態に係るマッハツェンダ干渉型光位相変調器100においては、下側アーム140に、下側アーム140の伝搬損失を調整する損失調整部141’が設けられている。図1Cおよび図1Dは、それぞれ損失調整部141’を拡大した平面図および断面図である。図1Cに示すように、損失調整部141’は、下側アーム140のシリコン導波路141のコア幅を部分的に広くしたものである。このとき、導波路コア断面積の急激な変化は光の反射や散乱を招くため、図1Cに示すように、損失調整部141’の導波路コアの幅は、連続的(断面の屈折率変化を可能な限り抑えるよう)に変化するものとする。
【0047】
上述したような損失調整部141’は、シリコン導波路に代表される高屈折率差構造による強閉じ込め系であるゆえ、断面形状や寸法の調整により精密かつ再現性良く伝搬損失を調整することが可能である。
例えば、電子線露光または紫外線露光を用いることにより、分解能が10nm以下の導波路コアの幅の調整は可能であり、その再現性についても確認されている。
【0048】
図1Dに示すような構造を有する光導波路は、SOI層を公知のエッチング手法を用いて選択的にエッチングしてシリコンコアを形成すればよい。更にシリコンコアの上に酸化シリコン層を製膜することでオーバークラッドを形成してもよい。また、SOI基板上の酸化シリコン層(BOX層)をアンダークラッドとしてもよい。
なお、本実施の形態においては、シリコン導波路141のコアの高さは、その長さ方向にわたって一定である。
【0049】
図2は、シリコン導波路コア高さを200nmと固定したときの、コア幅(Core width)に対する伝搬損失(Propagation loss)の依存性を示す図であり、非特許文献3から引用したものである。図2からもわかるように、コア幅が大きくなると、伝搬損失は減少する。
【0050】
この特徴を活用すれば、変調器アームの片方または両方の導波路コア断面積を縮小または拡大することによって伝搬損失を調整し、2つの変調器アームの伝搬損失に非対称性を与えることができる。本実施の形態に係る光位相変調器は、一方のアームの導波路コアの断面積を一部拡大することで伝搬損失を調整し、周波数チャープの発生を抑制するものである。すなわち、損失調整部141’としてシリコン導波路141のコア幅を部分的に広く形成することによって、下側アーム140の伝搬損失は上側アーム130の伝搬損失よりも小さくなり、上側アーム130と下側アーム140との間に伝搬損失の非対称性を与えることとなる。
【0051】
本実施の形態では、構造の簡略化を図ることに加えて、過剰損失を防ぐために導波路コア断面積の縮小を行わず、下側アーム140において導波路幅調整によるコア断面積の拡大のみ行っている。これは、式(7)におけるΔα1,adjust を0とし、式(8)におけるΔα2,adjust のみを追加するものである。
【0052】
<光位相変調器の動作>
次に、本実施の形態に係る光位相変調器100の動作について説明する。
この位相変調器100では、入力導波路110に入射された光は分岐器120で2本の光に等分される。上側アーム130において、光は導波路131を伝搬して位相シフタ132に入射し、導波路133を伝搬して結合部150に至る。一方、下側アーム140においては、導波路141の損失調整領域141’を経て位相シフタ142によって屈折率変化による位相シフトを受けたのち、導波路143を伝搬して結合部150に至る。このようにして上側の変調アーム130から入射された光信号と下側の変調アーム140から入射された光信号とは、結合部150内で干渉し、光信号出力として出力導波路160を介して出力される。
【0053】
このようなマッハツェンダ干渉型光位相変調器において、光信号出力の信号“0”と信号“1”との間を遷移する際には、プッシュプル動作により、一方の位相シフタ132を順バイアスとし、他方の位相シフタ142を逆バイアスとすると、式(1)および式(2)に示すように、キャリアプラズマ分散効果によって屈折率変化Δnと伝搬損失変化Δαplasma が同時に変調され、このときの上側アームの伝搬損失変化Δα1,plasmaの変化の方向と、下側アームの伝搬損失変化Δα2,plasmaの変化の方向とは、式(7)および式(8)に示すように、互いに逆向きとなる。しかしながら、導波路141に損失調整部141’を設けたことによって、下側アーム140の伝搬損失α2 は、上側アーム130の伝搬損失α1 よりも低減されている。
【0054】
このときのIQ平面におけるビット遷移図を図3Aおよび図3Bに示す。
例えば、光位相変調器100の光信号出力が信号“0”(303)から信号“1”(304)に遷移する場合に、上側アーム130を伝搬する光信号の位相は位相シフタ132によって変調されて反時計回りに0度から180度変化する(軌跡301)一方、下側アーム140を伝搬する光信号の位相は位相シフタ142によって変調されて、時計回りに0度から180度変化する(軌跡302)。
【0055】
このとき、下側アーム140に損失調整部141’を設けて、−Δα2,adjustを追加したので(式(8)参照。)、Δα2,plasmaがΔα2,ADJUST によって相殺されて、下側アームの全伝搬損失α2 に対するΔα2,plasmaの影響を相対的に小さくなるので、下側アーム140を伝搬する光信号の強度と位相の軌跡302は、Q軸方向(図3Aの下側方向)に膨らむ。その結果、上側アーム130から結合部150に入射される光信号と下側アーム140から結合部150に入射される光信号とが干渉することによって得られる光信号出力の信号“0”(303)と信号“1”(304)との間のビット遷移時において、光信号出力のI軸からQ軸に沿って離れる成分を小さくすることができる。
【0056】
例えば、α1 =α2 とすればよく、式(7)および式(8)より、上側アームの伝搬損失変化や下側アーム140の損失調整部141’による伝搬損失変化を望ましくは、Δα1,adjust +Δα2,adjust =Δα1,plasma +Δα2,plasma と設定することで、ビット遷移における光信号出力の軌跡は、ほぼI軸上のみと見なすことが可能である。ただし、キャリア密度やその他条件によっては、位相が0とπにおける電界振幅比が大きく異なる場合もあるため、伝搬損失変化は、それらの条件も考慮し、設定されるべきである。
【0057】
より具体的な例として、正孔キャリアを用いたシリコン変調器の伝搬損失制御によるチャープ抑制方法の数値解析結果を図3Bおよび図8Bに示す。なお、図8Bは損失調整部の付与前、図3Bは損失付与後にそれぞれ対応する。
ここでは、入力分岐比率a=(0.5)1/2、出力分岐比率b=(0.5)1/2、波長λ=1.550nm、位相シフタの導波路長L=10mmのとき、下側アームの構造調整による伝搬損失変化Δα2,adjust=0.6dB/cmとすることで、図3Bに示すように、周波数チャープはほぼI軸上を遷移した。この結果、周波数チャープを持った光強度は1/6以下に抑えることができることが理解される。
なお、正孔キャリアではなく電子キャリア密度変化を利用した変調器、もしくは、両キャリア密度変化を利用した変調器では、式(1)と式(2)の関係により更に顕著なチャープ抑制効果が予想される。
【0058】
以上のように、本実施の形態に係る光位相変調器によれば、一方の変調器アームのみ導波路断面積を増やす構造とし、各変調器アームの軌跡を独立に調整することで、変調器の挿入損失が低減することから過剰損失を増加させることなく周波数チャープが抑制できる。
すなわち、一方の変調器アーム(下側アーム)140に、そのシリコン導波路の一部のコア幅を変化させることによって損失調整部141’を設け、キャリアプラズマ分散効果の影響により変調される下側アーム140の変調器142の伝搬損失変化Δα2,plasmaの影響を相対的に低減することによって、ビット遷移の際の下側アームから結合部150に入射される光信号のIQ平面上での軌跡は、図3Aに示すように下方に膨らむので、上側アーム130から結合部150に入射される光信号と下側アーム140から結合部150に入射される光信号とが干渉することによって得られる光信号出力のビット遷移時の周波数チャープを抑制できる。
【0059】
<第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態について、図4A、図4B、図5を参照して説明する。なお、上述した第1の実施の形態と共通する構成要素については、同一の名称および同一の参照符号を用い、その説明は省略する。
【0060】
<光位相変調器の構成>
第2の実施の形態に係る光位相変調器は、損失調整を行う手段として、マッハツェンダ干渉型位相変調器の変調器アームのシリコン導波路に屈曲部を設けたものである。すなわち、伝搬損失変化Δαadjust の調整は、シリコン導波路の曲げ半径を調整し、曲げ損失を増加または減少させることによって実現される。
【0061】
図4Aは、本実施の形態に係る非対称マッハツェンダ干渉型シリコン位相変調器の概要を示す図である。光位相変調器200は、入力導波路110より入射された光信号を2つに分岐する分岐部120と、分岐部120によって分岐された第1の光信号を伝搬する第1の変調器アーム(または上側アーム)130と、分岐部120によって分岐された第2の光信号を伝搬する第2の変調器アーム(または下側アーム)240と、上側アーム130を伝搬した第1の光信号と下側アーム240を伝搬した第2の光信号とを合波して出力導波路160に出射する結合部150とから構成されている。これらは、SOI基板上に形成されたシリコン導波路である。
このうち、第2の変調器アーム240を構成するシリコン導波路コア241には、損失調整部として屈曲部Bが設けられている。
【0062】
図4Bは、屈曲部Bの拡大図である。図4Bに示すように、屈曲部Bでは、導波路コア241に数μmオーダーの曲げ半径rが付与されて略90°屈曲されている。
【0063】
図5は、シリコン導波路の曲げ半径に対する挿入損失の依存性を示す図であり、非特許文献3より引用した。図5によれば、シリコン導波路の曲げ半径が小さくなればなるほど損失が大きくなることが理解される。この特徴を活用し、2本の変調器アームのうち、一方または両方のアームの導波路曲げ損失を曲げ半径の縮小または拡大によって調整し、周波数チャープの発生を抑制することができる。
【0064】
シリコン導波路を電子線露光もしくは紫外線露光を用いて作製することにより、100nmより小さい分解能で曲げ半径rを調整することが現実的に可能である。したがって、シリコン導波路は高屈折率差構造による強閉じ込め系であるゆえ、曲げ半径rを変化させることにより、精密かつ再現性良く損失を調整することが可能である。
【0065】
本実施の形態では、構造を簡略化するため、下側アーム240において、シリコン導波路コア241に屈曲部を設け、曲げ半径調整による曲げ損失を付与した。すなわち、式(7)におけるΔα1,adjust を0とし、式(8)におけるΔα2,adjust を設定した。
なお、本実施の形態においては、伝搬損失の調整に用いる曲げ損失が、その構造上、シリコン導波路の屈曲部において生じるものであるため、上述した式(7)、式(8)との整合をとるため、伝搬損失変化Δα2,adjust は、屈曲部の曲げ半径を調整することによって生じる損失変化を変調器の導波路の長さLによって平均化された値とする。
なお、上側アーム130と下側アーム240の光路長は等しくなるように形成されている。また、シリコン導波路コアの断面形状は上述した第1の実施の形態と同一である。
【0066】
<光位相変調器の動作>
本実施の形態に係る位相変調器200では、入力導波路110に入射された光は分岐器120で2本の光に等分される。上側アーム130において、光信号は導波路131を伝搬し、位相シフタ132によって屈折率変化による位相シフトを受けたのち、導波路133を伝搬し、結合部150に入射する。一方、下側アーム240では、光信号は、曲げ損失を付与した導波路コア241を伝搬し、位相シフタ142で位相シフトを受けたのち、導波路143を伝搬して、結合部150に入射する。
第2の変調器アーム240の損失α2 は、屈曲部の曲げ損失を調整したことによって生じた伝搬損失変化Δα2,adjust を含む。したがって、屈曲部の導波路曲げ損失を曲げ半径の縮小と拡大によって調整して、キャリアプラズマ分散効果の影響により変調される下側アーム240の変調器142の伝搬損失変化Δα2,plasmaの影響を相対的に低減することによって、ビット遷移時の周波数チャープの発生を抑制することができる。
【0067】
本実施の形態によれば、導波路コアの曲げ半径を制御することによって伝搬損失を調整するので、導波路コアの幅を制御する第1の実施の形態に較べると、作製プロセス上の精度が緩和されるという利点がある。
【0068】
<その他の実施の形態>
上述した実施の形態においては、シリコン導波路からなるマッハツェンダ干渉型位相変調器を例に説明したが、本発明では、屈折率と独立して損失を調整できる機構であれば、位相変調器の材料と干渉構造に依存しない。
【0069】
また、上述した2つの実施の形態では、それぞれシリコン導波路コアの幅を変えることや、シリコン導波路コアの曲げ半径を制御することによって、伝搬損失を調整するものとして説明したが、本発明における損失調整の手段は、これらの実施の形態に限定されるものではない。
例えば、損失調整部として、少なくとも一方のシリコン導波路コアの少なくとも一部に、不純物をドーピングした不純物導入部を形成してもよい。シリコンは不純物濃度に応じて光吸収を調整することができるので、このような不純物導入部を設けることによって、変調器アームの伝搬損失を調整することができる。このような不純物導入部は、位相シフタ(位相変調部)を形成するプロセスにおいて、シリコン層の所定の領域に不純物を導入した後にシリコン導波路コアを形成することによって、同時に作製することができる。
【0070】
更には、本発明では、第1の変調器アームにおける光信号の位相のシフトに依存しない伝搬損失と、第2の変調器アームにおける光信号の位相のシフトに依存しない伝搬損失とが互いに異なっていればよく、すなわち、2つの変調器アームの間で位相シフトに依存しない伝搬損失に非対称性を持たせることができればよい。したがって、上述した実施の形態のように、導波路の一部に損失調整部を設けてもよいし、2つの変調器アームの間で、導波路コアの形状またはサイズ(光信号の伝搬方向に垂直な断面の面積および形状の少なくとも1つ)に違いを持たせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、光通信および光通信デバイスの分野に利用することができる。
【符号の説明】
【0072】
110…入力導波路、120…分岐部、130、140、240…変調器アーム、131、133、141、143、241…光導波路(コア)、132、142…位相シフタ、141’、241’…損失調整部、150…結合部、160…出力導波路。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射された光信号を2つに分岐する分岐部と、
この分岐部によって分岐された第1の光信号を伝搬する第1の光導波路と、
前記分岐部によって分岐された第2の光信号を伝搬する第2の光導波路と、
前記第1の光導波路に設けられ、前記第1の光信号の位相をシフトする第1の位相変調部と、
前記第2の光導波路に設けられ、前記第2の光信号の位相をシフトする第2の位相変調部と、
前記第1の光導波路を伝搬した前記第1の光信号と前記第2の光導波路を伝搬した前記第2の光信号とを合波して出射する結合部と
を備え、
前記第1の位相変調部による前記第1の光信号の位相のシフトに依存しない前記第1の光導波路の光伝搬損失と、前記第2の位相変調部による前記第2の光信号の位相のシフトに依存しない前記第2の光導波路の光伝搬損失とが互いに異なる
ことを特徴とする光位相変調器。
【請求項2】
請求項1に記載された光位相変調器において、
前記第1の光導波路および前記第2の光導波路の少なくとも1つは、当該光導波路の光伝搬損失を調整する損失調整部を備える
ことを特徴とする光位相変調器。
【請求項3】
請求項2に記載された光位相変調器において、
前記損失調整部は、
前記第1の光導波路または前記第2の光導波路の部分であって、光信号の伝搬方向に垂直な当該光導波路の断面の面積および形状の少なくとも一つが前記伝搬方向に沿って変化する部分である
ことを特徴とする光位相変調器。
【請求項4】
請求項2に記載された光位相変調器において、
前記損失調整部は、
前記第1の光導波路または前記第2の光導波路の一部に形成され、当該光導波路を所定の曲率半径で屈曲させた屈曲部である
ことを特徴とする光位相変調器。
【請求項5】
請求項2に記載された光位相変調器において、
前記第1の光導波路および前記第2の光導波路は、シリコンからなるコアを有し、
前記損失調整部は、
前記第1の光導波路または前記第2の光導波路の前記コアの少なくとも一部に不純物が導入された不純物導入部である
ことを特徴とする光位相変調器。
【請求項6】
請求項1に記載された光位相変調器において、
前記第1の光導波路および前記第2の光導波路の光信号の伝搬方向に垂直な断面の面積および形状の少なくとも一つは、互いに異なる
ことを特徴とする光位相変調器。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一つに記載された光位相変調器において、
前記第1の光導波路および前記第2の光導波路は、それぞれ半導体からなるコアを有し、
前記第1の位相変調部および前記第2の位相変調部は、それぞれ前記コアに注入されるキャリアの供給源となるn型半導体およびp型半導体の少なくとも一つと、前記コアへのキャリアの注入を制御する電極とを備え、キャリアプラズマ分散効果により光信号の位相をシフトする
ことを特徴とする光位相変調器。
【請求項1】
入射された光信号を2つに分岐する分岐部と、
この分岐部によって分岐された第1の光信号を伝搬する第1の光導波路と、
前記分岐部によって分岐された第2の光信号を伝搬する第2の光導波路と、
前記第1の光導波路に設けられ、前記第1の光信号の位相をシフトする第1の位相変調部と、
前記第2の光導波路に設けられ、前記第2の光信号の位相をシフトする第2の位相変調部と、
前記第1の光導波路を伝搬した前記第1の光信号と前記第2の光導波路を伝搬した前記第2の光信号とを合波して出射する結合部と
を備え、
前記第1の位相変調部による前記第1の光信号の位相のシフトに依存しない前記第1の光導波路の光伝搬損失と、前記第2の位相変調部による前記第2の光信号の位相のシフトに依存しない前記第2の光導波路の光伝搬損失とが互いに異なる
ことを特徴とする光位相変調器。
【請求項2】
請求項1に記載された光位相変調器において、
前記第1の光導波路および前記第2の光導波路の少なくとも1つは、当該光導波路の光伝搬損失を調整する損失調整部を備える
ことを特徴とする光位相変調器。
【請求項3】
請求項2に記載された光位相変調器において、
前記損失調整部は、
前記第1の光導波路または前記第2の光導波路の部分であって、光信号の伝搬方向に垂直な当該光導波路の断面の面積および形状の少なくとも一つが前記伝搬方向に沿って変化する部分である
ことを特徴とする光位相変調器。
【請求項4】
請求項2に記載された光位相変調器において、
前記損失調整部は、
前記第1の光導波路または前記第2の光導波路の一部に形成され、当該光導波路を所定の曲率半径で屈曲させた屈曲部である
ことを特徴とする光位相変調器。
【請求項5】
請求項2に記載された光位相変調器において、
前記第1の光導波路および前記第2の光導波路は、シリコンからなるコアを有し、
前記損失調整部は、
前記第1の光導波路または前記第2の光導波路の前記コアの少なくとも一部に不純物が導入された不純物導入部である
ことを特徴とする光位相変調器。
【請求項6】
請求項1に記載された光位相変調器において、
前記第1の光導波路および前記第2の光導波路の光信号の伝搬方向に垂直な断面の面積および形状の少なくとも一つは、互いに異なる
ことを特徴とする光位相変調器。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一つに記載された光位相変調器において、
前記第1の光導波路および前記第2の光導波路は、それぞれ半導体からなるコアを有し、
前記第1の位相変調部および前記第2の位相変調部は、それぞれ前記コアに注入されるキャリアの供給源となるn型半導体およびp型半導体の少なくとも一つと、前記コアへのキャリアの注入を制御する電極とを備え、キャリアプラズマ分散効果により光信号の位相をシフトする
ことを特徴とする光位相変調器。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図3A】
【図3B】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図3A】
【図3B】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【公開番号】特開2013−3236(P2013−3236A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131993(P2011−131993)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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