説明

光偏向素子および光偏向モジュール

【課題】偏向方位分解能の向上、偏向角の拡大、搭載自由度の向上、および構造の簡略化を実現する
【解決手段】光偏向素子1は、内部を光が導波する光ガイド層13と、光ガイド層13の上面および下面に形成されたDBR14およびDBR12とを備え(以下、光ガイド層13とDBR12,14とをまとめて「導波路」という)、さらに、DBR14の両面のうち導波路と非接触となる側の面に形成された光入射口26と、光入射口26から入射して導波路内を導波する光を出射させるための光出射口27とを備える。そして、光入射口26から導波路内に光が入射すると、導波路内の光は、光ガイド層13の上面および下面に設けられたDBR12,14で反射しながら光導波層内を導波し(矢印D1を参照)、その後、光出射口27から出射する(矢印D2を参照)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光偏向素子、および光偏向素子を備えた光偏向モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体レーザのレーザ光を偏向しスキャンするデバイスについて、種々の構造が提案されている。
例えば、機械的駆動を必要とすることなく光ビームを高速で大きく偏向するために、DBR型波長可変レーザとフォトニック結晶とを備え、波長可変レーザからの光の波長を微小量可変することにより出射ビームの偏向位置を制御する光ビーム偏向機構が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
また、波長多重通信における可変波長フィルタを実現する方法として、回折格子からなる2つのビーム偏向器とその中間に傾けて載置されるバンドパスフィルタからなるフィルタ装置が知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【0004】
また、ガルバノミラーまたはポリゴンミラーを用いてレーザ光をスキャンする装置が知られている(例えば、特許文献3,4を参照)。
また、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を利用したミラースキャナが知られている(例えば、特許文献5を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−13439号公報
【特許文献2】特開2003−172912号公報
【特許文献3】特開平11−267873号公報
【特許文献4】特開2007−114518号公報
【特許文献5】特開2006−10715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の技術では、フォトニック結晶母材(特許文献1では酸化シリコン)に対して配置する異種材料(特許文献1では円柱状シリコン)の配列パターンによって決まる光学的バンドの損失の低い方向が、偏向したい光ビーム方向と必ずしも一致するとは限らず、結果として高い偏向方位分解能を得ることができないという課題がある。
【0007】
また、特許文献2に記載の技術では、偏向機能に着目した場合に、予め定めたピッチの要素格子(回折格子)と波長によって偏向角度が決まる。偏向角度を変えてビームスキャンを行うためには波長を変化させる必要があるが、波長を数十nm程度変化させた場合は数度程度の小さな偏向角度の変化しか得られないという課題がある(波長1500nm前後での概算)。
【0008】
また、特許文献3,4に記載の技術では、機械的可動部を有するために半導体デバイスに比べてサイズおよび重量が大きくなり、搭載自由度に劣るという課題がある。また、いずれも1軸周りの回転機構をスキャン動作に用いているため、ガルバノミラーでは1次元スキャンのみ、ポリゴンミラーでも各面の角度を変えることでわずか数面分の2次元スキャンしか実現できないという課題がある。
【0009】
また、特許文献5に記載の技術では、MEMSミラー単独により2次元スキャンの実現を図る場合に、MEMSミラーの構造が複雑になり、搭載環境の振動にロバストでなくなるという課題がある。
【0010】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、偏向方位分解能の向上、偏向角の拡大、搭載自由度の向上、および構造の簡略化を実現する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するためになされた請求項1に記載の光偏向素子は、内部を光が導波する光導波層と、光導波層の上面および下面から放出される光を反射するために光導波層の上面および下面それぞれに形成された第1分布ブラッグ反射鏡とを備える導波路と、導波路内に光を入射させるための光入射口と、光入射口から入射して導波路内を導波する光を出射させるために、前記導波路の表面に形成された光出射口とを備えることを特徴とする。
【0012】
このように構成された光偏向素子では、光入射口から導波路内に光が入射すると、導波路内の光は、光導波層の上面および下面に設けられた第1分布ブラッグ反射鏡で反射しながら光導波層内を導波し、その後、光出射口から出射する。
【0013】
そして、導波路中における内部の伝搬角θiは、下式(1)で近似的に表される。なお式(1)において、λは入射光の波長、λcは導波路のカットオフ波長である。
【0014】
【数1】

したがって、スネルの法則から、光偏向素子からの偏向角θrは、下式(2)で表される。なお式(2)において、n は導波路の平均的な屈折率である。
【0015】
【数2】

図2は、入射光の波長と、光偏向素子からの偏向角θrとの関係を示す数値計算結果である。ここで、カットオフ波長は982nm と仮定している。
【0016】
図2に示すように、波長を約50nm 変えると、80°に及ぶ巨大な偏向角の変化が得られることがわかる。
図3は、光偏向素子における電磁界分布の電磁界シミュレータによる計算結果を色々な波長(950,960,970,980nm)に対して示したものである。上部が光偏向素子からの出射光の電界を示しており、濃淡の直線が偏向光の波面を示している。波長を変化させることで、波面(すなわち偏向角)が大きく変化することがわかる。
【0017】
したがって、請求項1に記載の光偏向素子によれば、入射光の波長を変化させることで、広い偏向角範囲にわたって光を偏向させることができる。
また、出射光の広がり角Δθdivは、下式(3)で表される。なお式(3)において、Lは、光出射口における光導波方向の長さ(以下、光出射口長という)である。
【0018】
【数3】

したがって、請求項1に記載の光偏向素子によれば、光出射口長を長くするほど、偏向方位分解能を向上させることができる。
【0019】
図4は、光偏向素子の光出射口長と広がり角および解像点数との関係を示す図である。
図4に示すように、光出射口長を長くなるほど広がり角が小さく(偏向方位分解能が高く)なるとともに解像点数が大きくなる。例えば、光出射口長を10mm程度まで長くすることによって、解像点数1,000以上を実現することができる。
【0020】
また、請求項1に記載の光偏向素子によれば、機械的可動部を備えないために構造の簡略化が可能になるとともに、半導体デバイスの製造プロセスを適用して作製することができるために小型化が可能となり搭載自由度を向上させることができる。
【0021】
また、請求項1に記載の光偏向素子において、請求項2に記載のように、光導波層は、電流が注入されることにより、光入射口から入射する光を増幅する第1活性層を備え、当該光偏向素子は、第1活性層に電流を注入するための第1電流注入用電極を備えるようにしてもよい。
【0022】
このように構成された光偏向素子では、第1電流注入用電極を介した第1活性層への注入電流量に応じて、第1活性層の増幅率を変化させることができる。このため、光入射口から入射した光が導波路内を導波する過程で減衰した場合であっても、第1活性層での増幅によりこの減衰分の光強度を補うことができる。これにより、光出射口から出射する光の強度の低下を抑制することができる。また、第1分布ブラッグ反射鏡の反射率と、第1活性層の増幅率を調整することで、光出射口から出射する光の強度を伝搬方向に対して一定にすることができる。これによって、同時に光出射口長を長くすることで、偏向方位分解能を向上させることができる。
【0023】
なお、入射光の波長を変えた場合に、ブラッグ反射鏡で構成される光導波路における垂直方向の定在波分布は一定のため、導波路を伝搬する光の伝搬角は変化する。また、光出射口から放射される光の波長は、入射光の波長と同一である。
【0024】
また、請求項1または請求項2に記載の光偏向素子において、請求項3に記載のように、光が導波する導波方向に沿って、光出射口が形成されている領域を挟んで光入射口が形成されている領域とは反対側において光導波層に隣接して配置され、光導波層を導波する光を吸収する光吸収層を備えるようにしてもよい。
【0025】
このように構成された光偏向素子では、光入射口から入射した光が、導波路内を導波方向に沿って導波し、光導波層と光吸収層との境界に到達すると、この光が光吸収層で吸収される。これにより、光吸収層に到達した光が反射して光入射口側に戻って光の伝搬が不安定になるという状況の発生を抑制することができる。
【0026】
また、請求項4に記載の光偏向モジュールは、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の光偏向素子と、光入射口に入射する光の波長を予め設定された第1波長範囲内で変化させることができる第1波長可変手段とを備えることを特徴とする。
【0027】
このように構成された光偏向モジュールは、第1波長可変手段が、光入射口に入射する光の波長を変化させることにより、光偏向素子から出射する光の出射角を波長に応じて変えることができ、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の光偏向素子と同様の効果を得ることができる。
【0028】
また、請求項4に記載の光偏向モジュールにおいて、請求項5に記載のように、第1波長可変手段は、電流が注入されることにより光を発生させる第2活性層と、第2活性層で発生した光を反射するために第2活性層の下面に形成された下側第2分布ブラッグ反射鏡と、第2活性層の上方において、空隙を介して第2活性層と対向するように配置され、第2活性層で増幅される光を反射する反射層と、反射層を移動させることにより、反射層と第2活性層との間の距離を予め設定された移動範囲内で変化させることができる反射層移動手段とを備える波長可変面発光レーザであるようにしてもよい。
【0029】
このように構成された光偏向モジュールでは、反射層移動手段が、反射層を移動させることにより、反射層と第2活性層との間の距離を予め設定された移動範囲内で変化させることにより、上記距離に応じた波長のレーザ光を発光する波長可変面発光レーザを備える。そして、波長可変面発光レーザは、端面発光レーザと異なり、基板表面に対して垂直方向にレーザ光を照射することができるため、光偏向素子と同一の基板上に作製することができる。これにより、光偏向素子とレーザとを別々に作製した後に結合する必要がなく、製造工程を簡略化することができる。
【0030】
また、請求項5に記載の光偏向モジュールにおいて、請求項6に記載のように、第2活性層の周囲には酸化層が形成されているようにしてもよい。これにより、第2活性層に注入電流を狭搾し、周囲における不要な発光を抑制することができる。
【0031】
なお、請求項5または請求項6に記載の光偏向モジュールにおいて、反射層と上側第2分布ブラッグ反射鏡との間の距離を予め設定された移動範囲内で変化させるために、具体的には、請求項7に記載のように、反射層移動手段が、反射層上に積層され反射層と熱膨張率が異なる材料で構成された層である異膨張率層と、異膨張率層を加熱する加熱手段とから構成され、異膨張率層の温度を変化させるようにしてもよいし、請求項8に記載のように、反射層と第2活性層との間に印加される電圧を変化させることにより反射層を移動させるようにしてもよい。
【0032】
また、請求項4〜請求項8の何れか1項に記載の光偏向モジュールにおいて、請求項9に記載のように、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の光偏向素子から出射された光を平行光に変換して照射するコリメートレンズと、コリメートレンズから照射された光を、光偏向素子の光偏向方向と直交する光走査方向に走査する1軸MEMSミラーとを備えるようにしてもよい。
【0033】
このように構成された光偏向モジュールでは、光を2次元走査する場合において、上記光偏向方向の走査を光偏向素子が行い、これにより、上記光偏向方向の走査について機械的可動部が不要となるため、その分、2次元走査機構の構造を簡略化することができる。
【0034】
また、請求項4〜請求項9の何れか1項に記載の光偏向モジュールにおいて、請求項10に記載のように、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の光偏向素子は、導波路内に光を入射させるために、光出射口を挟んで光入射口とは反対側から光を入射可能になるように構成され、反対側から入射する光の波長を予め設定された第2波長範囲内で変化させることができる第2波長可変手段を備えるようにしてもよい。
【0035】
このように構成された光偏向モジュールでは、光出射口の両側から光を入射して、その光を光出射口から出射することができる。このため、光入射口から入射して光出射口から出射する光の出射方向と、その反対側から入射して光出射口から出射する光の出射方向とが逆になる。このため、光入射口とその反対側とに光を入射させることにより、光出射口から出射する光の出射角範囲を拡げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】光偏向素子1の断面図および平面図である。
【図2】入射光の波長と偏向角との関係を示す数値計算結果である。
【図3】光偏向素子における電磁界分布の計算結果である。
【図4】光出射口長と広がり角および解像点数との関係を示す図である。
【図5】光偏向素子51の断面図および平面図である。
【図6】光偏向モジュール101の断面図である。
【図7】光偏向モジュール151の構成を示す図である。
【図8】光偏向モジュール201の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
(第1実施形態)
以下に本発明の第1実施形態について図面とともに説明する。
図1(a)は本発明が適用された光偏向素子1の断面図、図1(b)は光偏向素子1の平面図である。
【0038】
光偏向素子1は、図1(a)に示すように、半導体層2と、半導体層2の上面に形成された電極3とを備える。
これらのうち半導体層2は、GaAs基板11上に、AlAs/GaAsからなる分布ブラッグ反射鏡(Distributed Bragg Reflector)12(以下、DBR12という)、GaAsからなる光ガイド層13、およびAlAs/GaAsからなる分布ブラッグ反射鏡14(以下、DBR14という)が順次積層されて構成されている。
【0039】
そしてDBR12,14は、AlAsからなる第1層とGaAsからなる第2層とを交互に積層して構成されている。なお、DBR14は、DBR12よりも反射率が低くなるように、DBR12よりも多層膜の層数が少なくなるように形成されている。本実施形態では、DBR14は、AlAs/GaAsを一組とした層を一例として20組積層して構成されているのに対し、DBR12は、40組積層して構成されている。
【0040】
また電極3は、DBR14上に、GaAsからなるコンタクト層21、およびAu系の金属からなる金属膜22が順次積層されて構成されている。
そして図1(a),(b)に示すように、電極3には、光ビームを半導体層2内に入射させるための光入射口26と、光ビームを半導体層2から出射させるための光出射口27とが電極3を貫通して形成されている。また光出射口27は、矩形状に形成されている。そして光出射口27は、その長手方向の辺が予め設定されたビーム入射方向D1に沿うように、且つ、短手方向の辺が光入射口26と対向するように配置される。
【0041】
さらに、半導体層2のDBR14において、光入射口26が形成されている領域には、その他の領域と比較して層数が少なくなるように凹部28が形成されている。
このように構成された光偏向素子1は、内部を光が導波する光ガイド層13と、光ガイド層13の上面および下面から放出される光を反射するために光ガイド層13の上面および下面それぞれに形成されたDBR14およびDBR12とを備え(以下、光ガイド層13とDBR12,14とをまとめて「導波路」という)、さらに、導波路内に光を入射させるための光入射口26と、光入射口26から入射して導波路内を導波する光を出射させるために、導波路の表面に形成された光出射口27とを備える。
【0042】
そして、このような光偏向素子1では、光入射口26から導波路内に光が入射すると、導波路内の光は、光ガイド層13の上面および下面に設けられたDBR12,14で反射しながら光導波層内を導波し(図1(a)の矢印D1を参照)、その後、光出射口27から出射する(図1(a)の矢印D2を参照)。
【0043】
そして、導波路中における内部の伝搬角θiは、下式(1)で近似的に表される。なお式(1)において、λは入射光の波長、λcは導波路のカットオフ波長である。
【0044】
【数1】

したがって、スネルの法則から、光偏向素子1からの偏向角θrは、下式(2)で表される。なお式(2)において、nは導波路の平均的な屈折率である。
【0045】
【数2】

図2は、入射光の波長と、光偏向素子1からの偏向角θrとの関係を示す数値計算結果である。ここで、カットオフ波長は982nm と仮定している。
【0046】
図2に示すように、波長を約50nm 変えると、80°に及ぶ巨大な偏向角の変化が得られることがわかる。
図3は、光偏向素子1における電磁界分布の電磁界シミュレータによる計算結果を色々な波長(950,960,970,980nm)に対して示したものである。上部が光偏向素子1からの出射光の電界を示しており、濃淡の直線が偏向光の波面を示している。波長を変化させることで、波面(すなわち偏向角)が大きく変化することがわかる。
【0047】
したがって、光偏向素子1によれば、入射光の波長を変化させることで、広い偏向角範囲にわたって光を偏向させることができる。
また、出射光の広がり角Δθdivは、下式(3)で表される。なお式(3)において、Lは、光出射口27における光導波方向の長さ(以下、光出射口長という)である。
【0048】
【数3】

したがって、光偏向素子1によれば、光出射口長を長くするほど、偏向方位分解能を向上させることができる。
【0049】
図4は、光偏向素子1の光出射口長と広がり角および解像点数との関係を示す図である。
図4に示すように、光出射口長を長くなるほど広がり角が小さく(偏向方位分解能が高く)なるとともに解像点数が大きくなる。例えば、光出射口長を10mm程度まで長くすることによって、解像点数1,000以上を実現することができる。
【0050】
また、光偏向素子1によれば、機械的可動部を備えないために構造の簡略化が可能になるとともに、半導体デバイスの製造プロセスを適用して作製することができるために小型化が可能となり搭載自由度を向上させることができる。
【0051】
なお、光入射口26でのDBR14の反射率を低下させることで、光入射口26に入射する光を高効率に導波路に結合することができる。
以上説明した実施形態において、光ガイド層13は本発明における光導波層、DBR12,14は本発明における第1分布ブラッグ反射鏡である。
【0052】
(第2実施形態)
以下に本発明の第2実施形態について図面とともに説明する。
図5(a)は本発明が適用された光偏向素子51の断面図、図5(b)は光偏向素子51の平面図である。
【0053】
光偏向素子51は、図5(a)に示すように、半導体層52と、半導体層52の上面に形成された電極53と、半導体層2の下面に形成された電極54とを備える。
これらのうち半導体層52は、n−GaAs基板61上に、AlAs/GaAsからなるDBR62、GaAsからなる光ガイド層63、InGaAs/AlGaAsからなる活性層64、GaAsからなる光ガイド層65、およびAlAs/GaAsからなるDBR66が順次積層されて構成されている。
【0054】
また電極53は、DBR66上に、p−GaAsからなるp型コンタクト層71、およびTi/Pt/Auからなる金属膜72が順次積層されて構成されるp型電極である。
また電極54は、Au―Ge/Ni/Auからなるn型電極であり、n−GaAs基板61の下面、すなわち半導体層52の下面の全面にわたって形成される。
【0055】
そして図5(a),(b)に示すように、電極53には、光ビームを半導体層52内に入射させるための光入射口76と、光ビームを半導体層52から出射させるための光出射口77とが電極53を貫通して形成されている。また光出射口77は、矩形状に形成されている。そして光出射口77は、その長手方向の辺が予め設定されたビーム入射方向D51に沿うように、且つ、短手方向の辺が光入射口76と対向するように配置される。
【0056】
また電極53には、光入射口76および光出射口77が存在する領域53aと、光入射口76および光出射口77が存在しない領域53bとに電極53を分断するようにビーム入射方向D51に直交する方向に沿って延びる分断口79が電極53を貫通して形成されている。
【0057】
そして、電極53の領域53aおよび領域53bのうち、領域53aのみに、活性層64へ電流を注入するための電圧が印加される。そして、領域53aと領域53bとは分断口79を介して分断されているために、領域53bには電圧が印加されない。このため、活性層64のうち、領域53bと対向する領域は、活性層64内を導波する光を吸収する領域(図5の光吸収層64aを参照)となる。なお本実施形態では、光吸収層64aの反射率は約1%以下である。
【0058】
さらに、半導体層52のDBR66において、光入射口76が形成されている領域には、その他の領域と比較して膜厚が薄くなるように凹部78が形成されている。
このように構成された光偏向素子51では、電極53,54を介した活性層64への注入電流量に応じて、活性層64の増幅率を変化させることができる。このため、光入射口76から入射した光が導波路内を導波する過程で減衰した場合であっても、活性層64での増幅によりこの減衰分の光強度を補うことができる。これにより、光出射口77から出射する光の強度の低下を抑制することができる。また、DBR62,66の反射率と、活性層64の増幅率を調整することで、光出射口77から出射する光の強度を伝搬方向に対して一定にすることができる。これによって、同時に光出射口長を長くすることで、偏向方位分解能を向上させることができる。
【0059】
なお、入射光の波長を変えた場合に、DBR62,66で構成される導波路における垂直方向の定在波分布は一定のため、導波路を伝搬する光の伝搬角は変化する。また、光出射口77から放射される光の波長は、入射光の波長と同一である。
【0060】
また、光が導波する導波方向に沿って、光出射口77が形成されている領域を挟んで光入射口76が形成されている領域とは反対側において活性層64に隣接して配置され、活性層64を導波する光を吸収する光吸収層64aを備える。これにより、光入射口76から入射した光が、導波路内を導波方向に沿って導波し、活性層64と光吸収層64aとの境界に到達すると、この光が光吸収層64aで吸収される。これにより、光吸収層64aに到達した光が反射して光入射口76側に戻って光の伝搬が不安定になるという状況の発生を抑制することができる。
【0061】
なお、DBR66の反射率と活性層64への注入電流を制御することで、光出射口77から出射する光の強度とその伝搬方向の強度分布を制御することができる。
以上説明した実施形態において、活性層64は本発明における第1活性層、DBR62,66は本発明における第1分布ブラッグ反射鏡、電極53,54は本発明における第1電流注入用電極である。
【0062】
(第3実施形態)
以下に本発明の第3実施形態について図面とともに説明する。
図6は本発明が適用された光偏向モジュール101の断面図である。
【0063】
光偏向モジュール101は、図6に示すように、第2実施形態の光偏向素子51と、光偏向素子51に隣接するようにして光偏向素子51と同一のn−GaAs基板61上に形成された波長可変面発光レーザ110とから構成されている。
【0064】
波長可変面発光レーザ110は、光を放出する光放出部111と、光放出部111からの光の波長を予め設定された波長範囲内における所望の値に調整する波長調整部112とから構成される。
【0065】
光放出部111は、n−GaAs基板61上に、AlAs/GaAsからなるDBR62、GaAsからなる光ガイド層63、InGaAs/AlGaAsからなる活性層64、GaAsからなる光ガイド層65、AlAs/GaAsからなるDBR66、およびTi/Pt/Auからなるp型電極121が順次積層されて構成されている。
【0066】
なお、光放出部111の活性層64と光偏向素子51の活性層64との間には、InGaAs/AlGaAsが酸化した酸化層122が形成されるとともに、光放出部111の活性層64を挟んで酸化層122とは反対側に、InGaAs/AlGaAsが酸化した酸化層123が形成される。これにより、波長可変面発光レーザ110内の活性層64において、酸化されていない所望の領域のみで光を発生させることができる。
【0067】
またp型電極121は、光ガイド層65上において、活性層64の一部と対向するように形成される。
波長調整部112は、空気層ALを挟んで光放出部111と対向するように配置されるカンチレバー131と、カンチレバー131と光ガイド層65との間に配置されてカンチレバー131を支持する支持部132とから構成される。
【0068】
カンチレバー131は、光放出部111に近い側から、光偏向素子51のp型コンタクト層71と同じ材料で構成された層141、AlAs/GaAsからなるDBR142、およびDBR142と膨張率が異なる材料で構成された層143が順次積層されるとともに、層143上にDBR144とヒータ145が積層されて構成されている。
【0069】
なおDBR144は、層143上において、光放出部111の活性層64と対向するように形成される。
またヒータは、不図示の電極から電圧供給を受けて発熱して層143を加熱するものであり、層143上においてDBR144が形成されていない領域に形成される。
【0070】
支持部132は、光ガイド層65上に積層されたDBR66について、支持部132に対応する領域以外をエッチングすることにより形成される。したがって、光偏向素子51のDBR66と波長可変面発光レーザ110の支持部132との間でDBR66がエッチングされた領域が空気層ALとなる。
【0071】
このように構成された光偏向モジュール101では、ヒータ145によりカンチレバー131の層143を加熱することにより、DBR142と光偏向素子51の活性層64との間の距離を予め設定された移動範囲内で変化させることにより(図6中の破線で記載されたカンチレバー131を参照)、上記距離に応じた波長のレーザ光を発光する波長可変面発光レーザ110を備える。そして、波長可変面発光レーザ110内で発生した光は、狭い酸化層122を介して、その一部が横方向に漏れることで、波長可変面発光レーザ110からのレーザ光を光偏向素子51の導波路内に導く(図6中の矢印D101を参照)。
【0072】
この波長可変面発光レーザ110は、端面発光レーザと異なり、基板表面に対して垂直方向にレーザ光を照射することができるため、光偏向素子51と同一の基板上に作製することができる。これにより、光偏向素子51とレーザとを別々に作製した後に結合する必要がなく、製造工程を簡略化することができる。
【0073】
また、波長可変面発光レーザ110の活性層64の周囲には酸化層122,123が形成されている。これにより、注入電流を活性領域に狭搾し、波長可変面発光レーザ110の活性層64周囲における不要な発光を抑制することができる。
【0074】
また、光吸収層64aを備えるため、入射した光が、導波路内を導波方向に沿って導波し、活性層64と光吸収層64aとの境界に到達すると、この光が光吸収層64aで吸収される。これにより、光吸収層64aに到達した光が反射して波長可変面発光レーザ110側に戻って、波長可変面発光レーザ110の発振が不安定になるという状況の発生を抑制することができる。
【0075】
以上説明した実施形態において、波長可変面発光レーザ110は本発明における第1波長可変手段、波長可変面発光レーザ110の活性層64は本発明における第2活性層、波長可変面発光レーザ110のDBR62は本発明における下側第2分布ブラッグ反射鏡、DBR142は本発明における反射層、層143およびヒータ145は本発明における反射層移動手段、酸化層122,123は本発明における酸化層である。
【0076】
また、層143は本発明における異膨張率層、ヒータ145は本発明における加熱手段である。
(第4実施形態)
以下に本発明の第4実施形態について図面とともに説明する。
【0077】
図7は本発明が適用された光偏向モジュール151の構成を示す図である。
光偏向モジュール151は、図7に示すように、第3実施形態の光偏向モジュール101と、コリメートレンズ161と、1軸MEMS(Micro Electro Mechanical System)ミラー162を備える。
【0078】
コリメートレンズ161は、光偏向モジュール101から照射された光ビームを平行光に変換して、1軸MEMSミラー162に向けて照射する。
1軸MEMSミラー162は、コリメートレンズ161から照射された光ビームを、光偏向モジュール101の光ビーム偏向方向D151と直交する光走査方向D152に走査する。
【0079】
このように構成された光偏向モジュール151では、光を2次元走査する場合において、光ビーム偏向方向D151の走査を光偏向モジュール101の光偏向素子51が行い、これにより、光ビーム偏向方向D151の走査について機械的可動部が不要となるため、その分、2次元走査機構の構造を簡略化することができる。
【0080】
(第5実施形態)
以下に本発明の第5実施形態について図面とともに説明する。
図8は本発明が適用された光偏向モジュール201の断面図である。
【0081】
光偏向モジュール201は、図8に示すように、第3実施形態の光偏向モジュール101と、光偏向モジュール101の光偏向素子51に隣接するようにして光偏向素子51と同一のn−GaAs基板61上に形成された波長可変面発光レーザ211とから構成されている。
【0082】
このように構成された光偏向モジュール201では、光出射口77の両側から光を入射して、その光を光出射口77から出射することができる。このため、光出射口77の一端側から入射して光出射口77から出射する光の出射方向と、その反対側から入射して光出射口77から出射する光の出射方向とが逆になる。このため、光出射口77の一端側とその反対側とに光を入射させることにより、光出射口77から出射する光の出射角範囲を拡げることができる。例えば、波長可変面発光レーザ110と波長可変面発光レーザ211が同じ波長範囲でレーザ光の波長を変化させるともに、波長可変面発光レーザ110と波長可変面発光レーザ211とが交互に光を入射するようにすれば、光偏向モジュール101と比較して2倍の出射角範囲を実現することができる。
【0083】
以上説明した実施形態において、波長可変面発光レーザ211は本発明における第2波長可変手段である。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採ることができる。
【0084】
例えば上記第3実施形態においては、DBR142と膨張率が異なる材料で構成された層143とヒータ145とを用いてカンチレバー131を移動させるものを示したが、カンチレバー131と光放出部111との間に印加される電圧を変化させることによりカンチレバー131を移動させるようにしてもよい。
【0085】
また、光出射口に薄膜プリズムを形成することで、偏向角の中心角度を制御するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1…光偏向素子、2…半導体層、3…電極、11…GaAs基板、12,14…DBR、13…光ガイド層、21…コンタクト層、22…金属膜、26…光入射口、27…光出射口、28…凹部、51…光偏向素子、52…半導体層、53,54…電極、61…n−GaAs基板、62,66…DBR、63,65…光ガイド層、64…活性層、64a…光吸収層、71…p型コンタクト層、72…金属膜、76…光入射口、77…光出射口、78…凹部、79…分断口、101…光偏向モジュール、110…波長可変面発光レーザ、111…光放出部、112…波長調整部、121…p型電極、122,123…酸化層、131…カンチレバー、132…支持部、141…層、142,144…DBR、143…層、145…ヒータ、151…光偏向モジュール、161…コリメートレンズ、162…1軸MEMSミラー、201…光偏向モジュール、211…波長可変面発光レーザ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を光が導波する光導波層と、前記光導波層の上面および下面から放出される光を反射するために前記光導波層の上面および下面それぞれに形成された第1分布ブラッグ反射鏡とを備える導波路と、
前記導波路内に光を入射させるための光入射口と、
前記光入射口から入射して前記導波路内を導波する光を出射させるために、前記導波路の表面に形成された光出射口とを備える
ことを特徴とする光偏向素子。
【請求項2】
前記光導波層は、
電流が注入されることにより、前記光入射口から入射する光を増幅する第1活性層を備え、
当該光偏向素子は、
前記第1活性層に電流を注入するための第1電流注入用電極を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の光偏向素子。
【請求項3】
光が導波する導波方向に沿って、前記光出射口が形成されている領域を挟んで前記光入射口が形成されている領域とは反対側において前記光導波層に隣接して配置され、前記光導波層を導波する光を吸収する光吸収層を備える
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光偏向素子。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の光偏向素子と、
前記光入射口に入射する光の波長を予め設定された第1波長範囲内で変化させることができる第1波長可変手段とを備える
ことを特徴とする光偏向モジュール。
【請求項5】
前記第1波長可変手段は、
電流が注入されることにより光を発生させる第2活性層と、
前記第2活性層で発生した光を反射するために前記第2活性層の下面に形成された下側第2分布ブラッグ反射鏡と、
前記第2活性層の上方において、空隙を介して前記第2活性層と対向するように配置され、前記第2活性層で増幅される光を反射する反射層と、
前記反射層を移動させることにより、前記反射層と前記第2活性層との間の距離を予め設定された移動範囲内で変化させることができる反射層移動手段と
を備える波長可変面発光レーザである
ことを特徴とする請求項4に記載の光偏向モジュール。
【請求項6】
前記第2活性層の周囲には酸化層が形成されている
ことを特徴とする請求項5に記載の光偏向モジュール。
【請求項7】
前記反射層移動手段は、
前記反射層上に積層され前記反射層と熱膨張率が異なる材料で構成された層である異膨張率層と、
前記異膨張率層を加熱する加熱手段とから構成され、
前記異膨張率層の温度を変化させることにより前記反射層を移動させる
ことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の光偏向モジュール。
【請求項8】
前記反射層移動手段は、
前記反射層と前記第2活性層との間に印加される電圧を変化させることにより前記反射層を移動させる
ことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の光偏向モジュール。
【請求項9】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の光偏向素子から出射された光を平行光に変換して照射するコリメートレンズと、
前記コリメートレンズから照射された光を、前記光偏向素子の光偏向方向と直交する光走査方向に走査する1軸MEMSミラーとを備える
ことを特徴とする請求項4〜請求項8の何れか1項に記載の光偏向モジュール。
【請求項10】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の光偏向素子は、前記導波路内に光を入射させるために、前記光出射口を挟んで前記光入射口とは反対側から光を入射可能になるように構成され、
前記反対側から入射する光の波長を予め設定された第2波長範囲内で変化させることができる第2波長可変手段を備える
ことを特徴とする請求項4〜請求項9の何れか1項に記載の光偏向モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−16591(P2013−16591A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147517(P2011−147517)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】