説明

光共振器

【課題】 理論値に近いレーザ出力が得られるようにした光共振器を提供する。
【解決手段】 光共振器10は、レーザ媒質3の片側にトリプルアクシコンミラー1を配設するとともに他方の側にハーフミラーによる出力ミラー2を配設し、出力ミラー2とトリプルアクシコンミラー1との間の光路をZ形状に形成するための第一及び第二の2つの中継ミラー4,5が上記光路の折り返し位置に配設されている。トリプルアクシコンミラー1は、どの方向から来た入射光も正確に同じ方向に反射させる構造を有するレトロリフレクタである。そして、第一の中継ミラー4が凸面鏡の場合は第二の中継ミラー5は凹面鏡であり、第一の中継ミラー4が凹面鏡の場合は第二の中継ミラー5は凸面鏡であり、第一の中継ミラー4の反射面と第二の中継ミラー5の反射面絶対値が同じで符号が逆の曲率半径を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工機等に用いられるレーザ光を発生させるためのレーザ発振器における光共振器、特に、s偏光とp偏光の反射率の違いを利用して光電場の振動方向が共振モードの重心から半径方向に平行な直線偏光(ラジアル偏光)または共振モード重心を中心に持つ同心円に平行な直線偏光(アジマス偏光)を選択的に発振するトリプルアクシコンミラーを用いた光共振器の回折損失の改善を図った光共振器に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工機によるレーザ切断は、細く絞ったレーザビームを切断対象物に照射し、溶融・蒸発した材料をアシストガスで除去することで切り進むことによって行われる。このとき、必然的にレーザビームは材料に対して非常に浅い角度で当たる。光学ではこれは「入射角が90°に近い」と定義される。一方、金属をはじめとする多くの材料に対しては、光吸収率は入射角の関数で、特に入射角が90°に近いところで急峻に変化する。更に、その変化はレーザ光の光電場が切断フロントに平行なs偏光と、フロントにほぼ垂直なp偏光では全く異なる。入射角が90°に近いところではs偏光はほとんど吸収されないのに対してp偏光は固相で40%、液相に至っては80%もの吸収を示す。したがって、レーザビームが材料に対してs偏光であるか、p偏光であるかによりレーザ加工の性能は大きく異なることになる。
【0003】
一方、レーザの偏光は切断方向に合わせて任意に変えられる様なものではなく、現在、市販されているほとんどのレーザ加工機は妥協策として「円偏光」のビームを利用している。円偏光の光とは、光電場が振動する代わりに回転するもので、電波領域では衛星放送の電波などに利用されている「偏光が無い電磁波」としての利用価値があるものである。円偏光は、直交した偏波の2つの直線偏光を互いに90°の位相差を与えて合成することにより得られるため、市販レーザ加工機の多くはレーザを直線偏光で発振させ、その後λ/4位相板と呼ばれる反射鏡で折り返すことにより円偏光を得る。
【0004】
しかし、こうして得られた円偏光のレーザは、その代償として材料に対して常に半分の時間はs偏光、半分の時間はp偏光として当たっていることになり、レーザパワーのうち半分しか有効に吸収されないことになる。ところが、最近、光電場がビーム重心から放射状に振動する「ラジアル偏光」、ビーム重心を中心とする同心円に沿った方向に振動する「アジマス偏光」のレーザ加工への利用が注目されている。これらの偏光はいずれも電場振動がビーム重心を軸に対称であるため「軸対称偏光」と呼ばれている。しかしながら、直線偏光のレーザからラジアル偏光・アジマス偏光を得るにはλ/4位相板の様な単純な素子では不可能で、従来は複雑かつ耐パワー強度の低い変換光学系を用いる必要があり、限られた分野でしか利用されていなかった。しかし、2000年にNiziev等が「ラジアル偏光をレーザ加工に利用すれば円偏光に比べ2倍の切断速度になる」という可能性を理論計算により示した後は、レーザ加工に使える大パワーでの軸対称偏光発生が盛んに研究されるようになった。ここで、レーザ加工機等に用いる光共振器(cavity)のレーザ光がラジアル偏光であれば、どの方向に掃引しても必ずp偏光で材料へあたることから材料の吸収は2倍になり、これによって加工性能を約2倍にし得ることは、例えば、非特許文献1にも示されている。
【0005】
このように、直感的にも,理論的にもそのレーザ加工への有用性が明らかなラジアル偏光・アジマス偏光ビームだが、レーザ加工に使われるほどの大パワーに耐える変換光学系は存在しなかったため、実験的研究はほとんど行われていなかったが、ドイツのIFSWのAhmedらにより、光共振器のミラーのうち1枚を同心円状に導波路を刻んだ特殊な構造とすることで、ラジアル偏光のみが選択的に発振することが報告された。
【0006】
上記報告に基づいてラジアル偏光で発振させるミラーを組み込んだレーザ加工機が開発中であると言われている。しかしながら、回折格子技術は多層構造のためハイパワー耐性が良くなく、干渉を使うためある特定の波長だけに効果があるという問題がある。
【0007】
これに対して、本発明者らは、それとは全く異なる原理により軸対称偏光を得る方法を開発した。すなわち、本発明者らはトリプルアクシコン(axicon:又は「コニカル」とも言われる。)ミラーを用いたアジマス偏光光共振器を開発した。この光共振器は、出力ミラー(Output Coupler)とトリプルアクシコンミラーとを平行に配置し、出力ミラーとトリプルアクシコンミラーとの間の光路をレーザ媒質(Gain medium)で覆うようにして構成されている。トリプルアクシコンミラーは、アクシコンミラーとWアクシコンミラーを互いに正確に嵌め合わせたものであり(図7参照)、6回反射のレトロリフレクタとして機能する。レトロリフレクタとは、どの方向から来た入射光も正確に同じ方向にはね返す反射構造を指す。このように、レトロリフレクタは無調整で光を180°方向に反射させるという優れた特徴がある。
【0008】
このように、本発明者らは、斜面に対するs偏光とp偏光の反射率の違いを利用して共振モード光電場の振動方向が共振モードの重心から半径方向に平行な直線偏光(ラジアル偏光)または共振モード重心を中心に持つ同心円に平行な直線偏光(アジマス偏光)を選択的に得ることが可能なトリプルアクシコンミラーを開発した。このトリプルアクシコンミラーを用いた光共振器の構成を図6に示す。図示された光共振器100は、トリプルアクシコンミラー101と、平面鏡からなる中継ミラー103と、中継ミラー103と同様に平面鏡からなる中継ミラー104と、ハーフミラーからなる出力ミラー105とを備えて構成され、トリプルアクシコンミラー101,中継ミラー103,104、出力ミラー105の間を往復する光路にはレーザ媒質102(利得媒体)が配置されている。そして、中継ミラー103と及び中継ミラー104を斜めに傾斜するようにして配置することにより出力ミラー105と、中継ミラー103と、中継ミラー104と、トリプルアクシコンミラー101を結ぶ光路がZ形状となるように構成されている。
【0009】
トリプルアクシコンミラー101は、斜面に対するs偏光とp偏光の反射率の違いを利用して共振モードの光電場の振動方向が共振モード重心から半径方向に平行な直線偏光(ラジアル偏光)又は共振モード重心を中心に持つ同心円に平行な直線偏光(アジマス偏光)が得られるものである(例えば、非特許文献1,2)。
【0010】
レーザ媒質102は、図示しない方法、たとえば放電により励起状態にさせられた誘導放出可能な気体(例えば、CO等)である。このレーザ媒質102は、例えば、対向配置された正電極及び負電極を有するガラス容器に循環するようにして供給される。
【0011】
図6に示す光共振器100の動作を説明すると、COをレーザ媒質102に用いれば炭酸ガスレーザとなり、正電極と負電極との間に高電圧を印加することによりガラス容器内に生じた放電によってCOの分子が励起し、その分子の振動及び回転運動に伴うエネルギー準位によって、例えば波長10μm帯の発振が生じる。この発振による光は、トリプルアクシコンミラー101と出力ミラー105との間を往復することによって光の定在波が生じ、これにより光共振が生じる。この際、トリプルアクシコンミラー101は入射した光を6回反射(図7参照)して入射側に戻すように動作し、各反射面に施す誘電体多層膜コーティングを選ぶことによってラジアル偏光を生じさせることができる。上記光共振器100によって得られたレーザ光は出力ミラー105から出射し、図示しない偏光板、反射鏡、レンズ等を介して被加工物に照射される。この被加工物に照射されるレーザ光はラジアル偏光であるため、一般のレーザ加工機に用いられている円偏光に比べて被加工物への光吸収率が高められ、したがって、加工性能を高めることができる。
【0012】
ここで、出力ミラーである部分反射鏡と全反射鏡との間の光路をレーザ媒質を介挿した状態でZ形状に形成し、光路途中の2カ所の光路折り返し位置にミラーを置いた構成のレーザ発振装置にあって、光共振器内のミラーの角度を調整する調整部材、ミラーを冷却する熱絶縁部材、及び上記調整部材が取り付けられると共に上記熱絶縁部材が挿入される貫通孔部を有する光学基板を備え、レーザ光のポインティングの安定化を図ることを目的としたものが特許文献1に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第2862032号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】「Laser Focus World Japan」2008.4 60〜62頁
【非特許文献2】M.Endo,“Azimuthally po1arized 1kW C02 1aser with a triple-axicon Retroreflector optical reresonator, ”Opt.Lett.33,pp.1771-1773,2008.
【非特許文献3】M.Endo,“Numerical simulation of an optical resonator for generation of a doughnut-like laser beam, “Opt. Express 12pp.1959-1965(2004).
【非特許文献4】M.Endo,“Doughnut Like Beam generation by a W-Axicon resonator with Variable Geometry,” Jpn.J.App1.Phys.46、pp.593-596(2007)。
【非特許文献5】M. Endo, “Development of an optical resonator with conical retroreflector for generation of radially polarized optical beam,” Photonics West 08 Laser Resonators and Beam Control X (San Jose, CA), Jan. 2008, Proc. SPIE 6872-07 (10pp)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、上記したトリプルアクシコンミラーを用いた光共振器は、ラジアル偏光は得られたものの、トリプルアクシコンミラーの表面切削の際の機械的歪みによって反射面に歪みが生じた場合、共振モードの光電場が広がり(すなわち回折損失が生じ)、レーザ出力が理論値よりもかなり低い値にとどまるという問題があった。これは、切削装置によってトリプルアクシコンミラーの表面切削を行った場合、ミラー固定用のネジを締めて切削装置に固定した際に加わる荷重により表面に僅かに変形(1μm程度の歪み)するので、正確な切削が行われたとしても切削後におけるチャックからの取り外しによってトリプルアクシコンミラーに加わっていた荷重が開放されてミラー表面に歪みが残ってしまうのが原因である。その他にも、切削誤差によるミラーの歪みもある。トリプルアクシコンミラーのミラー形状は本来円対称であるため、歪みのあるトリプルアクシコンミラーを使用した光共振器では本来の性能を発揮することができない。また、歪みのないトリプルアクシコンミラーを得るための歩留まりが悪くなるという問題があった。
【0016】
そこで、本発明は、かかる問題点に鑑みなされたもので、トリプルアクシコンミラーの加工精度が低く、歪みや切削誤差があっても光共振器の回折損失を補正することによって、理論値に近いレーザ出力が得られるようにした光共振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために請求項1に記載の発明は、第一、第二及び第三の光軸のそれぞれがレーザ媒質を通過すると共に全体としてZ形状を成すようにして光路が形成され、光路の折り返し位置には第一及び第二の中継ミラーがそれぞれ配設され、レーザ媒質を介して第一の中継ミラーと対向するようにしてハーフミラーが第一の光軸上に配置され、レーザ媒質を介して第二の中継ミラーと対向するようにして全反射ミラーが第三の光軸上に配置され、さらに、レーザ媒質を介して第一の中継ミラーと第二の中継ミラーとを結ぶ光路が第二の光軸とされた光共振器において、全反射ミラーは、トリプルアクシコンミラーであり、第一の中継ミラーは、反射面が凸面をした凸面鏡であり、第二の中継ミラーは、反射面が凹面をした凹面鏡であり、第一の中継ミラーの反射面と第二の中継ミラーの反射面とは絶対値が同じで符号が逆の曲率半径を有して形成されていることを特徴とする。
【0018】
上記課題を解決するために請求項2に記載の本発明は、第一、第二及び第三の光軸のそれぞれがレーザ媒質を通過すると共に全体としてZ形状を成すようにして光路が形成され、光路の折り返し位置には第一及び第二の中継ミラーがそれぞれ配設され、レーザ媒質を介して第一の中継ミラーと対向するようにしてハーフミラーが第一の光軸上に配置され、レーザ媒質を介して第二の中継ミラーと対向するようにして全反射ミラーが第三の光軸上に配置され、さらに、レーザ媒質を介して第一の中継ミラーと第二の中継ミラーとを結ぶ光路が前記第二の光軸とされた光共振器において、全反射ミラーは、トリプルアクシコンミラーであり、第一の中継ミラーは、反射面が凹面をした凹面鏡であり、第二の中継ミラーは、反射面が凸面をした凸面鏡であり、第一の中継ミラーの反射面と第二の中継ミラーの反射面とは絶対値が同じで符号が逆の曲率半径を有して形成されていることを特徴とする。
【0019】
上記課題を解決するために請求項3に記載の本発明は、請求項1又は2に記載の光共振器において、トリプルアクシコンミラーは、内面が45°の角度を持った反射面とされた円錐形の第一の凹部を有するアクシコンミラーと、第一の凹部に対向するようにして配置され、内面が45°の角度を持った反射面とされた円錐形の第二の凹部及び45°の反射面を有して第二の凹部の中心部に立設された円錐ミラーとを有するダブルアクシコンミラーとを備え、アクシコンミラーとダブルアクシコンミラーは、第一の凹部と第二の凹部を対向させた状態で一体化されていることを特徴とする。
【0020】
上記課題を解決するために請求項4に記載の本発明は、請求項2又は3に記載の光共振器において、トリプルアクシコンミラーは、第一の凹部、第二の凹部及び円錐ミラーの反射面が、s偏光の反射率をRs、p偏光の反射率をRpとするとき、Rp>Rsとなるコーティングが施されていることを特徴とする。
【0021】
上記課題を解決するために請求項5に記載の本発明は、請求項1、3又は4のいずれか1項に記載の光共振器において、共振長が5.1mで、トリプルアクシコンミラーの円錐形をした第一の凹部の曲率半径が無限大で、トリプルアクシコンミラーの円錐形をした第二の凹部の曲率半径が−50mであるとき、トリプルアクシコンミラーの円錐形をした第二の凹部の高さ1/2に位置する反射面の中心位置からの第二の凹部の凸曲面の頂点(Vertex)の位置ズレに対しては、第二の凹部の凸曲面の頂点(Vertex)と反射面の中心位置との半径方向の距離Dvとした場合、第一中継ミラーの曲率半径は−240/[Dv]m〜−200/[Dv]mであり、第二の中継ミラーの曲率半径は240/[Dv]m〜200/[Dv]mであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る光共振器によれば、トリプルアクシコンミラーに歪みや切削誤差があっても光共振器の回折損失を補正することによって理論値に近いレーザ出力を得ることができるので、歪みや切削誤差があるトリプルアクシコンミラーを再度修正したり廃棄することなく光共振器に使用することができ、トリプルアクシコンミラー製造の歩留まりを向上させることができるという効果がある。これにより、本発明に係る光共振器を用いたレーザ加工機のコストを抑えることができるので高機能なレーザ加工機を安価に提供することができるという効果がある。
また、トリプルアクシコンミラーの切削加工の精度が多少低くても回折損失が起こらない光共振器を提供することができるので切削コストの削減を図ることもできることからトリプルアクシコンミラーの製造コストの面からも高機能なレーザ加工機を安価に提供することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る光共振器の好ましい一実施形態を示す構成図である。
【図2】図1に示すトリプルアクシコンミラーを分解した状態で示した断面図である。
【図3】本発明に係る光共振器の回折損失の低減を確認するために行った数値シミュレーションの結果を示す特性図である。
【図4】市販のレーザ発生装置を無改造のまま測定したレーザ出力の特性図である。
【図5】市販のレーザ発生装置に図1に示した構成の光共振器を取り付けて測定したレーザ出力の特性図である。
【図6】トリプルアクシコンミラーを使用した従来の光共振器の構成図である。
【図7】トリプルアクシコンミラーの説明図である。
【図8】第二の凹部の凸曲面の位置ズレを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る光共振器について、好ましい一実施形態に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明に係る光共振器の好ましい一実施形態を示す構成図である。なお、図1においては、ミラー類を断面図で示している。
【0025】
[光共振器の構成]
図示された光共振器10は、概略として、共振長の一端に配設されたトリプルアクシコンミラー1と、共振長の他端に配設されたハーフミラーによる出力ミラー2と、共振長の途中に介在するレーザ媒質3と、凸面鏡である第一の中継ミラー4と、凹面鏡である第二の中継ミラー5とを備えて構成されている。ここで、出力ミラー2と第一の中継ミラー4との間にはレーザ媒質3の図1における上部側を通過する第一の光軸6が形成され、第一の中継ミラー4と第二の中継ミラー5との間には図1に示されたレーザ媒質3の中央部を斜めに通過する第二の光軸7が形成され、第二の中継ミラー5とトリプルアクシコンミラー1との間にはレーザ媒質3の図1における下部を通過する第三の光軸8が形成されており、Z形状の光路が形成されている。そして、凸面鏡である第一の中継ミラー4と、凹面鏡である第二の中継ミラー5の曲面はそれぞれ同一の曲率半径を有して形成されている。例えば、トリプルアクシコンミラー1と出力ミラー2との間の距離が1.7m(共振長は5.1m)の場合に、第一の中継ミラー4の曲率半径が−30m(曲率半径の正負は凹面がプラス、凸面がマイナスとする。)で、第二の中継ミラー5の曲率半径は+30mのようにである。つまり、第一の中継ミラー4と第二の中継ミラー5は符号が互いに逆の同じ曲率半径を有している。尚、トリプルアクシコンミラー1の直前には熱対策のためにφ20mmの径サイズを備えた円形の図示しないアパーチャが配置されているが、形状及びサイズ等はこれに限るものではなく適宜のものを採用することができる。
【0026】
図1に示す光共振器10は、具体的には、株式会社アマダ製のCOレーザ発生装置、型名「OLC−420H」に適用されている。「OLC−420H」の仕様は、設計上の最大レーザ出力が約2kW、共振長が5.1m、レーザビームの直径が20mmとなっている。ここで、光共振器10内で光ビームを何度も折り返しているのは、光ビームが何度もレーザ媒質3中を通過するように構成することによって光ビームがレーザ媒質3内をまんべんなく通過するようにし、それによって誘導放出による光ビームの増幅を図るためである。例えば、共振長が5.1mであると、出力ミラー2からトリプルアクシコンミラー1までの距離は5.1mとなり、出力ミラー2と第一の中継ミラー4との間の距離、及び第二の中継ミラー5とトリプルアクシコンミラー1との間の距離(第一,第三の光軸6,8の長さ)は、共に約1.7m(5.1÷3=1.7m)となる。
【0027】
トリプルアクシコンミラー1は、どの方向から来た入射光も正確に同じ方向に反射させる構造を有するレトロリフレクタ(Retroreflector)であると共に、レーザ媒質3に対するリアミラーユニットともなっている。なお、レトロリフレクタとは、光が入射した方向へ出射光を戻す特性を有するものをいう。このトリプルアクシコンミラー1は、図2に示すように、アクシコン(axicon)ミラー11とダブルアクシコン(W−axicon)ミラー12の2つのミラーを組み合わせることによって構成されており、入射した光を6回反射(図7参照)して入射側に戻すように動作する。
【0028】
アクシコンミラー11は、内面に45°の角度を持つ円錐形の凹部11aを有したミラーである。また、ダブルアクシコンミラー12は、第一の凹部11aに対向する45°の内面角度を持つ円錐形の第二の凹部12aと、45°の反射面12bを有して第二の凹部12aの中心部に立設された円錐ミラー12cとを有している。アクシコンミラー11とダブルアクシコンミラー12は、第一の凹部11aと第二の凹部12aを対向させた状態で図1に示すように嵌め合わせて一体化される。なお、上記「OLC−420H」の直径20mmのレーザビームが回折損失しないように、ここでは第一の凹部11a及び第二の凹部12aの最大径を約50mmにした。
【0029】
アクシコンミラー11及びダブルアクシコンミラー12は、例えば金属製、具体的には銅製又銅合金であり、第一の凹部11aと第二の凹部12a並びに円錐ミラー12cのそれぞれの表面には、多層膜コーティングが施されている。このコーティングは、ラジアル偏光を生じさせるためにはs偏光の反射率Rsよりもp偏光の反射率Rpが大きくなる(Rp>Rs)ように施す必要がある。なお、RpとRsの差は1%程度あれば完全なラジアル偏光が生じることが非特許文献1に示されている。
【0030】
また、トリプルアクシコンミラー1の第二の凹部12aの反射面は平坦ではなく、それぞれが凸の曲率半径(例えば、−50m)を有しており、これによって波面が設計意図になるようにしている。更に、凸曲面の頂点(Vertex)の位置を反射面のどこに置くかによりトリプルアクシコンミラーの特性は大きく異なることが非特許文献5に示されており、最大のレーザ出力を得るためにはその位置を1mm程度の精度で正確に決める必要がある。ここで、凸曲面の頂点(Vertex)とはミラー表面をなす凸曲面のうち角度45°とする基準平面の表面から最も離れた位置をいう。そして、第二の中継ミラー5に対し、その曲率半径(例えば、+30m)とは逆の曲率半径(例えば、−30m)を有する第一の中継ミラー4を設けることにより、光共振器10全体としての第一の中継ミラー4及び第二の中継ミラー5からなる組み合わせは、図6に示した従来の平面鏡による中継ミラー103と中継ミラー104からなる組み合わせと等価になる。
【0031】
本発明においては、光共振器10の主たる構成が工場出荷時のままであるので、共振モードの断面積Aは変化しない。また、出力ミラー2の透過率T及びレーザ媒質3の性質である小信号利得γと飽和強度Isを変えずに計算を行ったので、レーザ出力の向上は主に光共振器10の回折損失の低減によって得られたことは、後述する数式(1)から明らかである。
【0032】
[光共振器10の動作]
次に、上述した光共振器10の動作について説明する。ここではレーザ媒質3にCOを主とした気体を用い、このレーザ媒質3を正電極と負電極が設けられた金属(例えば、アルミ合金)製容器(図示せず)内に導入した。正電極と負電極との間に高電圧が印加されることによってガラス容器内に放電が発生し、この放電によってCOの分子が励起され、その分子の振動及び回転運動に伴うエネルギー準位によって例えば波長10μm帯の発振が生じる。この発振による光が第一〜第三の光軸6〜8を経由してトリプルアクシコンミラー1と出力ミラー2との間を往復することにより、光の定在波が生じて光共振が生じる。また、光が出力ミラー2とトリプルアクシコンミラー1との間を第一〜第三の光軸6〜8を介して往復することにより光の増幅が行われる。
【0033】
仮に、トリプルアクシコンミラー1の反射面の波面が設計意図とは異なる方向に傾いている場合であっても、波面が第二の中継ミラー5の曲率半径によって補正される。第二の中継ミラー5によるトリプルアクシコンミラー1及び第一の中継ミラー4への反射光は、第二の中継ミラー5が凹面鏡であれば集光が期待できると共に共振モードの回折損失を低減することができる。この場合、第一の中継ミラー4は凸面鏡なので、第二の中継ミラー5からの光は光拡散となる。凸面鏡と凹面鏡による第一中継ミラー4及び第二の中継ミラー5は、図6に示した平面鏡による中継ミラー103,104と等価の状態になる。したがって、光共振器10の共振モードは従来の光共振器100と同じになる。そして、光共振器10によって得られたレーザ光は、出力ミラー2から出射し、図示しない光学デバイスを介して被加工物に照射される。
【0034】
[光共振器10の数値シミュレーション]
ところで、本発明者らは、光共振器10の回折損失が低減できることを数値シミュレーションで確かめた。この数値シミュレーションは、Fresnel-Kirchhoffの回折積分により光共振器内部の光電場形成を数値的に計算するものである。尚、この計算方法の詳細については非特許文献3に示されており、計算結果が実験と一致すること、すなわち、シュミレーションモデルは正しいことについては非特許文献4に示されている。計算条件は、出力ミラー2(又は、第二の中継ミラー5)とトリプルアクシコンミラー1との間の距離=1.7mの条件で行った。
【0035】
図3は、数値シミュレーションによる曲率半径−レーザ出力特性図である。図3において、横軸は第二の中継ミラー5の曲率半径を示し、縦軸は予想されるレーザ出力を示している。図3から明らかなように、第二の中継ミラー5の曲率半径が無限大の場合(すなわち平面鏡と等価なとき)が従来の光共振器100に相当する。そして、図3から明らかなように、第二の中継ミラー5の曲率半径が25〜30mのときに、光共振器10のレーザ出力は、従来の光共振器100の出力1.55kW(=曲率半径が∞のとき)から1.85kW(=曲率半径が30mのとき)まで向上すると予測される。
【0036】
レーザ媒質3の小信号利得をγ、レーザ媒質3の飽和強度をIs、共振モードの断面積をA、出力ミラー透過率をT、光共振器10の回折損失をLとすれば、光共振器10のレーザ出力Pは以下の式で表される。
【0037】
【数1】

【0038】
発明者らが把握しているデータは、γ=3.5[m−1]、Is=5.0×10[W/m]、A=3.0×10−4[m]、T=0.65、回折損失L=0.10である。これらの値に基づいてレーザ出力Pを算出したところ、P=1.8(kW)であった。これにより、光共振器10の回折損失Lを低減することによってレーザ出力向上が達成できることがわかる。
【0039】
[実施形態の効果]
以上のように本実施形態に係る光共振器10によれば、凸面鏡である第一の中継ミラー4と凹面鏡である第二の中継ミラー5の曲面の曲率半径を等しく、且つ符号が互いに逆になるようにしたため、その光学的効果、すなわち集光効果及び拡散効果が相殺される。したがって、光共振器10の共振モードは従来の光共振器100と同一になる。その一方で、第二の中継ミラー5は凹面鏡であるため、トリプルアクシコンミラー1に向かう光ビームに集光効果が生じ、共振モードの回折損失を低減できるという効果がある。本発明者らの検討による一例をあげれば、レーザ出力を従来より38%向上させることができた。
【実施例】
【0040】
本発明者らは、本発明の効果を実証するため、実際に本発明を市販のレーザ発生装置に適用し、その性能を測定した。用いたレーザ発生装置は、株式会社アマダ製の炭酸ガスレーザ、「OLC−420H」である。まず、上記レーザ発生装置「OLC−420H」を工場出荷時の構成のまま、そのレーザ出力を測定した。次いで、「OLC−420H」の光共振器の全反射ミラーをトリプルアクシコンミラー1に交換した。この構成による光共振器は図6に示す従来の光共振器100に相当する。この状態で光共振器のレーザ出力を測定したところ、図4に示す結果が得られた。図4において、横軸は「OLC−420H」に付与した電気入力(任意単位)、縦軸はレーザ出力[W]である。なお、電気入力とは、「OLC−420H」のレーザ出力を増減させる指示器の単なる数値であってレーザ出力の絶対値を示すものではない。
【0041】
図4を参照すると、従来の光共振器100は、メーカ出荷時の状態(original mirror)のレーザ出力に対して60〜70%(出力比0.6〜0.7)にとどまっている。なお、入力の増大につれてレーザ出力比が減っているのは、回折損失により失われるパワーが入力を増やすほど顕著になることを示している。また、レーザ媒質3の小信号利得γ及び飽和強度Isは、電気入力の値が“2000”のときに図3に示された計算条件と一致した。このときに得られた実際のレーザ出力(Triple-axicon)は約1.3kWであり、計算で予測された値よりも若干低い値であった。
【0042】
次に、「OLC−420H」の光共振器に代えて図1に示した構成の光共振器10を取り付け、上記した光共振器100の場合と同様にしてレーザ出力を測定したところ、図5に示す結果が得られた。図5において、横軸は「OLC−420H」に与えた電気入力値(任意単位)、縦軸はレーザ出力[W]である。図5と図4を比べて明らかなように、図5のレーザ出力は図4の従来構成に比べて顕著に向上しており、得られた実際のレーザ出力は約1.8kWであり、計算で予測された値に一致した。
【0043】
ところで、本発明はトリプルアクシコンミラー1の歪みによる回折損失を是正するためになされたものであるが、第二の凹部12aの凸曲面の頂点(Vertex)が第二の凹部12aの高さHに対して1/2に位置する反射面の中心位置(第二の凹部12aの反射面の中央)にあるとき、ドーナツ状の反射ビームの中央に波面の変曲点が来る。一方、第二の凹部12aの凸曲面の頂点(Vertex)が光軸に対して半径方向に外側(具体的にはアクシコンミラー11側)にあると波面の変曲点はドーナツの内側に移動する。これに対して第二の凹部12aの凸曲面の頂点(Vertex)が光軸に対して半径方向に内側(外側方向とは反対方向)にあると波面の変曲点はドーナツの外側に移動する。そして、上記実施例は、具体的には、共振長が5.1mで、トリプルアクシコンミラー10の円錐形をした第一の凹部11aの曲率半径が無限大で、トリプルアクシコンミラー10の円錐形をした第二の凹部12aの曲率半径が−50mであるとき、トリプルアクシコンミラー1の第二の凹部12aの凸曲面の頂点(Vertex)の外側方向の位置ズレを第一の中継ミラー103と第二の中継ミラー104の曲率によって補正したものである。そこで、上記結果からみて、トリプルアクシコンミラー1の円錐形をした第二の凹部12aの高さHに対して1/2に位置する反射面の中心位置からの第二の凹部12aの凸曲面の頂点(Vertex)の外側方向の位置ズレを正(プラス)、内側方向(外側方向と反対方向)の位置ズレを負(マイナス)として、第二の凹部12aの凸曲面の頂点と反射面の中心位置との半径方向の距離Dvとすれば、第一中継ミラー103の曲率半径を−240/[Dv]m〜−200/[Dv]mとし、前記第二の中継ミラー104の曲率半径を240/[Dv]m〜200/[Dv]mとすることで第二の凹部12aの凸曲面の頂点の位置ズレによるトリプルアクシコンミラー1の回折損失の是正を図ることができると考えられる(図8参照)。
【0044】
[他の実施形態]
なお、本発明は、上記各実施例に限定されず、本発明の技術思想を逸脱あるいは変更しない範囲内で種々な変形が可能である。例えば、レーザ媒質3はCOに限定されるものではなく、CO以外の他のレーザ媒体を用途等に応じて選択することができる。
【0045】
以上のように、好ましい実施形態について説明したが、本発明に係る光共振器10は、Z形状の光路を2つ以上の中継ミラーによって形成され、使用目的がレーザ加工用以外で且つラジアル偏光を必要とするレーザ発生装置に対しても採用可能である。
【0046】
また、上記実施形態においては、光共振器10の光路を3つの光軸6,7,8によってZ形状にしたが、更に多くの光軸を用いてジグザグ形等の光路を形成し、扁平な方形状レーザ媒質からラジアル偏光を取り出す光共振器に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 トリプルアクシコンミラー
2 出力ミラー
3 レーザ媒質
4 第一の中継ミラー
5 第二の中継ミラー
6 光軸
7 光軸
8 光軸
10 光共振器
11 アクシコンミラー
11a 第一の凹部
12 ダブルアクシコンミラー
12a 第二の凹部
12b 反射面
12c 円錐ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一、第二及び第三の光軸のそれぞれがレーザ媒質を通過すると共に全体としてZ形状を成すようにして光路が形成され、前記光路の折り返し位置には第一及び第二の中継ミラーがそれぞれ配設され、前記レーザ媒質を介して前記第一の中継ミラーと対向するようにしてハーフミラーが前記第一の光軸上に配置され、前記レーザ媒質を介して前記第二の中継ミラーと対向するようにして全反射ミラーが前記第三の光軸上に配置され、さらに、前記レーザ媒質を介して前記第一の中継ミラーと前記第二の中継ミラーとを結ぶ光路が前記第二の光軸とされた光共振器において、
前記全反射ミラーは、トリプルアクシコンミラーであり、
前記第一の中継ミラーは、反射面が凸面をした凸面鏡であり、
前記第二の中継ミラーは、反射面が凹面をした凹面鏡であり、
前記第一の中継ミラーの反射面と前記第二の中継ミラーの反射面とは絶対値が同じで符号が逆の曲率半径を有して形成されていることを特徴とする光共振器。
【請求項2】
第一、第二及び第三の光軸のそれぞれがレーザ媒質を通過すると共に全体としてZ形状を成すようにして光路が形成され、前記光路の折り返し位置には第一及び第二の中継ミラーがそれぞれ配設され、前記レーザ媒質を介して前記第一の中継ミラーと対向するようにしてハーフミラーが前記第一の光軸上に配置され、前記レーザ媒質を介して前記第二の中継ミラーと対向するようにして全反射ミラーが前記第三の光軸上に配置され、さらに、前記レーザ媒質を介して前記第一の中継ミラーと前記第二の中継ミラーとを結ぶ光路が前記第二の光軸とされた光共振器において、
前記全反射ミラーは、トリプルアクシコンミラーであり、
前記第一の中継ミラーは、反射面が凹面をした凹面鏡であり、
前記第二の中継ミラーは、反射面が凸面をした凸面鏡であり、
前記第一の中継ミラーの反射面と前記第二の中継ミラーの反射面とは絶対値が同じで符号が逆の曲率半径を有して形成されていることを特徴とする光共振器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光共振器において、
前記トリプルアクシコンミラーは、
内面が45°の角度を持った反射面とされた円錐形の第一の凹部を有するアクシコンミラーと、
前記第一の凹部に対向するようにして配置され、内面が45°の角度を持った反射面とされた円錐形の第二の凹部及び45°の反射面を有して前記第二の凹部の中心部に立設された円錐ミラーとを有するダブルアクシコンミラーとを備え、
前記アクシコンミラーと前記ダブルアクシコンミラーは、前記第一の凹部と前記第二の凹部を対向させた状態で一体化されていることを特徴とする光共振器。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の光共振器において、
前記トリプルアクシコンミラーは、前記第一の凹部、前記第二の凹部及び円錐ミラーの反射面が、s偏光の反射率をRs、p偏光の反射率をRpとするとき、Rp>Rsとなるコーティングが施されていることを特徴とする光共振器。
【請求項5】
請求項1、3又は4のいずれか1項に記載の光共振器において、
共振長が5.1mで、前記トリプルアクシコンミラーの円錐形をした前記第一の凹部の曲率半径が無限大で、前記トリプルアクシコンミラーの円錐形をした第二の凹部の曲率半径が−50mであるとき、前記トリプルアクシコンミラーの円錐形をした前記第二の凹部の高さ1/2に位置する反射面の中心位置からの当該第二の凹部の凸曲面の頂点(Vertex)の位置ズレに対しては、前記第二の凹部の凸曲面の頂点(Vertex)と前記反射面の中心位置との半径方向の距離Dvとした場合、前記第一中継ミラーの曲率半径は−240/[Dv]m〜−200/[Dv]mであり、前記第二の中継ミラーの前記曲率半径は240/[Dv]m〜200/[Dv]mであることを特徴とする光共振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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