説明

光再生可能な吸着材及びその利用

【課題】種々のガス成分(特に低級アルデヒド類)の吸着効率と再生(吸着能力回復)機能の向上を実現した吸着材を提供すること。
【解決手段】本発明によって提供される吸着材は、少なくとも一種のガス種を吸着可能な多孔質基材を備え、少なくとも1種のアルカリ金属化合物と少なくとも1種の光触媒とが互いに混在した状態で前記多孔質基材に担持されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中に存在する臭い成分その他の汚染ガス成分を吸着して除去する吸着材とその利用に関し、さらには当該吸着材を好適に製造する製造方法に関する。詳しくは、光触媒作用によりガス吸着能力を再生(回復)可能な吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中(例えば工場内における閉鎖された作業雰囲気や一般家庭内の区画された室内雰囲気を包含する。以下同じ。)から不快な臭い成分や健康に有害な成分となり得る汚染ガスを除去する目的に種々の内容の吸着材が利用されている。例えば、種々のガス種を吸着・除去する目的に適する多孔質体、例えば活性炭、シリカゲル、活性アルミナ、ゼオライトその他の鉱物系多孔質体が、吸着材として古くから利用されている。
また、近年、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等の低級アルデヒドガスや酢酸、プロピオン酸等の酸性ガスの吸着性能を向上させるため、上記多孔質体にアルカリ金属を担持した吸着材の開発が行われている(例えば特許文献1)。
或いはまた、酸化チタン等の光触媒を上記多孔質体に担持することによって、多孔質体の吸着作用に加えて光触媒作用によるガス成分の分解除去を行うことのできる吸着材が開発されている(例えば特許文献2)。かかる構成の吸着材では、多孔質体に吸着されたガス成分が光照射時の光触媒作用で分解されることにより、結果、当該多孔質体の吸着活性を吸着前の初期状態に戻すこと、即ち再生(回復)することができる(特許文献2)。
この種の吸着材のその他の従来技術として、例えば以下の特許文献3〜6に記載される技術が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−275292号公報
【特許文献2】特開平6−170220号公報
【特許文献3】特開2006−007156号公報
【特許文献4】特開2005−170687号公報
【特許文献5】特開2003−199810号公報
【特許文献6】特開2000−312809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したような従来の吸着材は、種々のガス成分の吸着効率に関しまだまだ改善の余地があり十分なものとはいえない。特にアルデヒド(例えばホルムアルデヒドのような人体に有害な低級アルデヒド)等の健康上好ましくないガス成分の除去効率の向上が望まれる。また、ガス成分の吸着処理後の吸着材の再生(吸着能力回復)の程度を高めることに関しても改善の余地がある。
本発明は、かかる課題を解決すべく創出されたものであり、従来よりも種々のガス成分の吸着効率(特に低級アルデヒド類)の向上を実現する吸着材の提供を目的とする。また、対象とするガス成分を吸着した後の再生(吸着能力回復)効率の向上を実現する吸着材の提供を他の目的とする。また、ここで開示される吸着材を好適に製造し得る製造方法の提供を他の目的とする。また、ここで開示される吸着材を用いて空気を清浄する方法を提供することを他の目的とする。また、そのような吸着材を用いて空気を清浄する方法を実行する空気清浄装置の提供を他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、吸着材を構成する要素について様々な角度から検討を加え、上記目的を実現することのできる本発明を創出するに至った。
即ち、ここで開示される一つの吸着材は、少なくとも一種のガス種を吸着可能な多孔質基材を備える吸着材であって、少なくとも1種のアルカリ金属化合物と少なくとも1種の光触媒とが互いに混在した状態で当該多孔質基材に担持されていることを特徴とする。
かかる構成の吸着材では、アルカリ金属化合物と光触媒とが互いに混在した状態(即ち、互いに分画されることなく入り交じって存在している状態)で多孔質基材の外表面及び/又は細孔内壁面に担持されている。かかる構成によると、アルカリ金属化合物(以下「アルカリ金属成分」ともいう。)に吸着された物質(例えばホルムアルデヒドのような低級アルデヒド分子)を当該アルカリ金属成分に接して存在する光触媒によって効率よく分解・除去することができる。このため、ここで開示される吸着材によると、当該アルカリ金属成分の吸着効果を効果的に再生し、高い吸着能力(特に低級アルデヒドや酢酸等のアルカリ金属成分に吸着され易いガス種に対する吸着能力)を長期にわたって維持することができる。
【0006】
ここで開示される吸着材の好ましい一態様では、上記担持されている光触媒は、平均粒子径(典型的には光散乱法によって求められる平均粒子径。以下同じ。)が100nm以下の酸化チタン粒子である。
このようなナノメートルサイズの酸化チタン粒子を光触媒として採用することにより、多孔質基材の外表面及び/又は細孔内壁面に好適に分散配置(担持)させることができる。従って、本構成の吸着材は、好適な光触媒活性を発揮することができる。また、ナノ粒子を用いることにより単位質量あたりの表面積がマイクロメートルサイズの粒子よりも大きくなり、結果、多孔質基材の単位容積あたりの光触媒活性を向上させることができる。
【0007】
ここで開示される吸着材の好ましい一態様では、上記担持されているアルカリ金属化合物は、不揮発性のアルカリ成分として存在する。
このようなアルカリ成分を含むことにより、当該アルカリ金属成分の揮発による吸着材の光触媒性能劣化を防止し、吸着材の性能及び耐久性を向上させることができる。
【0008】
ここで開示される吸着材の好ましい一態様では、上記担持されているアルカリ金属化合物は、ナトリウム及び/又はカリウムの水酸化物、炭酸水素塩、炭酸塩若しくはケイ酸塩である。
このようなアルカリ金属化合物は、不揮発成分であり、水溶液の形態で多孔質基材の外表面や細孔内に容易に供給され得る。従って、本構成の吸着材では、多孔質基材の外表面及び/又は細孔内壁面の広範囲にわたって均質にアルカリ金属成分が配置され、当該アルカリ金属成分によって効率よく捕捉対象のガス成分(例えば酸性ガス)を吸着することができる。
【0009】
ここで開示される吸着材の好ましい一態様では、上記多孔質基材の質量を100質量%としたときのアルカリ金属化合物の含有割合が少なくとも1質量%(より好適には少なくとも2質量%)であり、且つ、該多孔質基材の質量を100質量%としたときの光触媒の含有割合が0.2〜2質量%である。
このような含有割合でアルカリ金属化合物(アルカリ金属成分)と光触媒(例えば酸化チタン)とを多孔質基材の外表面及び/又は細孔内に含ませることにより、当該多孔質基材のガス吸着性能を好適レベルに維持しつつ、アルカリ金属成分によるガス吸着性能と光触媒による光触媒活性を効果的に発揮させることができる。
【0010】
ここで開示される吸着材の好ましい一態様では、上記多孔質基材がBET法に基づく比表面積が900m/g以上の活性炭である。
このような表面積の大きい多孔質基材を用いることにより、より高性能なガス吸着を実現することができる。
【0011】
また、ここで開示される吸着材の好ましい他の一態様では、低級アルデヒドガスを吸着する他の少なくとも1種の吸着用物質(以下「アルデヒド吸着用物質」ともいう。)をさらに備える。
上述した構成(多孔質基材、アルカリ金属成分、光触媒)に加え、アルデヒド吸着用物質をさらに備えることにより、より効率よくホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等の低級アルデヒドを吸着・除去することができる。
この場合において、アルカリ金属化合物と光触媒とが担持されている多孔質基材と、上記アルデヒド吸着用物質が担持されている多孔質基材とを別個に用意し、適当な比率で両者を混合させて成る吸着材がより好適である。
【0012】
本発明は上記目的を実現するため、吸着材の製造方法を提供する。即ち、ここで開示される製造方法は、少なくとも一種のガス種を吸着可能な多孔質基材を備える吸着材を製造する方法である。そして、上記多孔質基材に少なくとも1種のアルカリ金属化合物と少なくとも1種の光触媒とが混在する状態の混合材料を供給すること、および、上記供給した混合材料中の上記アルカリ金属化合物及び上記光触媒を上記多孔質基材の外表面及び/又は細孔内壁面(典型的には外表面と細孔内壁面の両方)に担持させること、を包含する吸着材製造方法である。
かかる構成の製造方法によって、上述した作用効果を奏する本発明の吸着材を好適に製造することができる。
【0013】
ここで開示される吸着材製造方法において、好ましくは、上記混合材料として水溶性アルカリ金属化合物(典型的にはナトリウム及び/又はカリウムを構成元素とする水溶性化合物)を含む水溶液に光触媒から成る粒子を分散させて成るゾルを使用する。
かかるゾル(即ちアルカリ水溶液に光触媒粒子が分散したコロイド状態の混合材料)を多孔質基材の外表面や細孔内に供給することにより、多孔質基材の外表面及び/又は細孔内壁面に光触媒とアルカリ金属成分とをよく混在させた状態で容易にほぼ均質に分散配置(担持)することができる。
さらに好ましくは、上記光触媒の平均粒子径は100nm以下、より好ましくは5〜80nmである。そのような平均粒子径の酸化チタン粒子を使用することが特に好ましい。このようなナノメートルサイズの粒子(ナノ粒子)を使用することにより、より好ましい形態のゾルを調製することができ、多孔質基材の外表面や細孔内壁面にほぼ均質に光触媒を分散配置(担持)することがさらに容易になる。また、ナノ粒子を用いることにより単位質量あたりの表面積がマイクロメートルサイズの粒子よりも大きくなり、結果、多孔質基材の単位容積あたりの光触媒活性を向上させることができる。
【0014】
また、ここで開示される吸着材製造方法において、好ましくは、多孔質基材の質量を100質量%としたときのアルカリ金属化合物の含有割合が少なくとも1質量%(より好適には少なくとも2質量%)となり且つ該多孔質基材の質量を100質量%としたときの光触媒の含有割合が0.2〜2質量%となるように、上記混合材料を多孔質基材の外表面及び/又は細孔内に供給する。
このような含有率でアルカリ金属化合物(アルカリ金属成分)と光触媒(例えば酸化チタン)とを多孔質基材に含ませることにより、当該多孔質基材のガス吸着性能を好適レベルに維持しつつアルカリ金属成分によるガス吸着性能と光触媒による光触媒活性を効果的に発揮させ得る吸着材を製造することができる。
好ましくは、多孔質基材としてBET法に基づく比表面積が900m/g以上(例えば900〜2000m/g程度)である活性炭を使用する。このような表面積の大きい基材は本発明の目的を実現するうえで特に好ましい。
【0015】
また、ここで開示される吸着材製造方法において、好ましくは、上記アルカリ金属化合物及び光触媒を担持している多孔質基材の外表面及び/又は細孔内に、若しくは該アルカリ金属化合物及び光触媒を担持していない多孔質基材の外表面及び/又は細孔内に、該アルカリ金属化合物以外の低級アルデヒドガスを吸着し得る少なくとも1種の吸着用物質(アルデヒド吸着用物質)を供給すること、をさらに包含する。
かかる構成の製造方法によると、アルカリ金属化合物及び光触媒を担持させた多孔質基材の外表面や細孔内に更にアルデヒド吸着用物質(例えばp−アミノ安息香酸塩やアニリン、p-アミノベンゼンスルホン酸)を供給することによって、或いは、当該アルカリ金属化合物及び光触媒を担持している多孔質基材と、該アルカリ金属化合物及び光触媒を担持させていない多孔質基材の外表面及び/又は細孔内壁面にアルデヒド吸着用物質を担持させた多孔質基材とを組み合わせることによって、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等の低級アルデヒドを吸着・除去する能力により優れる吸着材を製造することができる。
【0016】
また、本発明は、ここで開示される何れかの吸着材、若しくはここで開示される製造方法により製造される吸着材を備える空気清浄装置(空気清浄機)を提供する。
かかる構成の空気清浄装置によると、目的とするガス成分、特に吸着材を構成する上記多孔質基材(例えば活性炭)に担持されるアルカリ金属成分によって吸着されるガス種(例えばNOx、SOx等の酸化物、酢酸等の酸性ガス)を好適に吸着・除去し、さらに光触媒作用によって多孔質基材内に吸着されたガス成分(分子)を分解・除去することにより、多孔質基材自体や該基材に担持されるアルカリ金属化合物のガス吸着能力を再生する(復帰させる)ことができる。このため、高耐久性(高寿命)を実現することができる。
また、本発明は、ここで開示されるいずれかの吸着材(典型的にはここで開示される製造方法により製造されるいずれかの吸着材)に、処理対象の空気を導入する(流通させる)ことを特徴とする空気清浄方法を提供する。例えば、少なくとも低級アルデヒドガス若しくは酸性ガスを含む空気を吸着材に導入することにより、当該ガス成分を好適に吸着・除去して空気の清浄を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】一実施形態に係る空気清浄装置の大まかな構成を模式的に説明する図である。
【図2】一実施例に係る吸着材の紫外光(UV)照射前後のアセトアルデヒドガス除去率(%)の変化を示すグラフである。
【図3】アルカリ金属成分を含んでいない吸着材の酸化チタン担持量(横軸:%)と光再生能(縦軸:回復度合、即ち後述するUV照射直後のアセトアルデヒド除去率(%)からUV照射前(劣化処理後)のアセトアルデヒド除去率(%)を単純に差し引いた数値)との関係を示すグラフである。
【図4】アルカリ金属成分を添加した吸着材の酸化チタン担持量(横軸:%)と光再生能(縦軸:回復度合(%))との関係を示すグラフである。
【図5】吸着材のアルカリ金属化合物担持量(横軸:%)と光再生能(縦軸:回復度合(%))との関係を示すグラフである。
【図6】幾つかの実施例に係る吸着材と比較例に係る吸着材との間での光再生能(縦軸:回復度合(%))の違いを示すグラフである。
【図7】一実施例に係る吸着材と一比較例に係る吸着材との間での光触媒効果による耐久性能の違いを示すグラフであり、縦軸に日本電機工業会規格(JEM1467)に基づく除去率(たばこ5本分からの総合除去率)を示し、横軸にJEM1467に基づくガス吸着処理のサイクル(繰り返し)数を示す。
【図8】複数の実施例に係る吸着材のガス吸着性能と、酸化チタン含有率との関係を示すグラフであり、縦軸に日本電機工業会規格(JEM1467)に基づく総合除去率(%)を示し、横軸に吸着材全体に対する酸化チタン含有率(質量%)を示す。
【図9】複数の実施例に係る吸着材の光再生能(縦軸:回復度合(%))と酸化チタン含有率(横軸:質量%)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば吸着材の組成や吸着物質の種類)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、空気清浄装置の構造や組立方法に関するような一般的事項)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
ここで開示される吸着材は、上述した構成のとおり、少なくとも一種のガス種を吸着可能な多孔質基材と、その多孔質基材の外表面及び/又は細孔内壁面(典型的には外表面と細孔内壁面の両方)に少なくとも1種のアルカリ金属化合物と少なくとも1種の光触媒とが互いに混在した状態(即ち相互に区分けされておらず互いに入り交じって存在する状態)で担持されていることで特徴付けられる吸着材である。
【0019】
かかる吸着材の主体となる多孔質基材としては、目的とするガス成分(ガス種を構成する分子)を吸着できる多孔質体であって、その細孔内壁面(典型的には細孔内に加えて多孔質体の外表面)にアルカリ金属成分と光触媒(典型的にはナノ粒子状の光触媒)を担持可能な材質であれば特に制限無く種々の性状の基材を用いることができる。
例えば、活性炭、ゼオライトその他の鉱物系多孔質体が、ここで開示される吸着材を構成する多孔質基材として好ましい。なかでも活性炭は非常に大きい比表面積(例えばBET法に基づく比表面積値が500m/g以上)を有するため特に好ましい基材である。例えば、BET法に基づく比表面積が900m/g以上、例えば900〜2000m/g程度である活性炭が好ましい。例えばヤシ殻活性炭は、このような大きい比表面積を有し、更に硬度も高いため好ましい材料である。或いは、比表面積自体はヤシ殻活性炭よりもやや低い(例えば500〜900m/g)ものの、孔サイズが概ね2nm未満のようなミクロ孔のほかに、それよりも孔サイズが大きいメソ孔(例えば孔サイズが2nm以上50nm未満)やマクロ孔(例えば孔サイズが50nm以上のもの)を高率に有する石炭活性炭は、細孔内に光触媒粒子やアルカリ金属化合物を容易に供給(導入)させることができるという観点から好ましい。
なお、使用する活性炭その他の多孔質基材の形状は、目的に応じて異ならせればよく特に制限はない。例えば、粉末状(顆粒状)、粒状、ペレット状、シート状、ハニカム構造体等の形状の多孔質基材を用いることができる。
【0020】
また、多孔質基材の外表面及び/又は細孔内壁面に担持させるアルカリ金属化合物としては、酸性ガスや低級アルデヒド等のガスを吸着する性能を有する限りにおいて、種々の組成のものを用いることができる。例えば、取り扱いが比較的容易で且つ安価であるナトリウム化合物やカリウム化合物が好適である。特にナトリウム化合物が好ましい。
化合物の種類は特に限定されないが、光触媒と混在した状態の混合材料を容易に形成することが可能であり、且つ、当該混合材料を活性炭等の多孔質基材の外表面や細孔内に容易に供給し得るという観点からは、水溶性の化合物が好ましい。例えば、ナトリウム及び/又はカリウムを構成金属元素とする水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、ケイ酸塩等が好ましい。特に水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのようなアルカリ金属の水酸化物が好適である。この種の水溶性化合物を用いることにより溶液のpHを中性域からアルカリ性域(例えばpH8以上、典型的にはpH8〜13、例えばpH8〜11程度)にシフトさせることができる。このようなpHが中性域からアルカリ性域となる混合材料(例えば上記のゾル)を用いることにより、多孔質基材に担持される光触媒の光触媒活性を向上させることができる。
【0021】
一方、ここで開示される吸着材を構成するのに使用される光触媒は、従来から光触媒として認められている物質であれば特に制限なく用いることができるが、好ましい光触媒としては酸化チタン(二酸化チタンともいう:TiO)が挙げられる。特にアナターゼ型結晶構造の酸化チタンを高割合で使用することが光触媒活性を向上させ得るので好ましい。ただしルチル型結晶構造の酸化チタンの使用を否定するものではない。全体の質量の50%以上がアナターゼ型結晶構造であることが好ましく、全体の70〜100%がアナターゼ型であることが特に好ましい。
また、使用する光触媒としては、平均粒子径が小さい所謂ナノサイズの超微粒子(ナノ粒子)形状のものが好ましい。このような光触媒粒子を適当な媒体(典型的には水)に分散して成るゾル(コロイド)の利用が多孔質基材の特に細孔内に光触媒を供給するという観点から好ましい。
例えばレーザ回折式の粒度測定装置のような光散乱法に基づく測定により求められる平均粒子径が100nm以下(より好ましくは5〜80nm)の酸化チタンその他の光触媒の使用(典型的にはゾルとしての使用)が好ましい。
【0022】
上記のような材料を用いて吸着材を製造することができる。好ましくは、適当な光触媒とアルカリ金属化合物とを含む混合材料を調製し、当該混合材料を対象とする多孔質基材(活性炭等)に供給する。
供給の形態は多孔質基材の組成や形状に応じて異なり得るため特に限定しないが、好ましい供給形態として、例えば、平均粒子径100nm以下の光触媒粒子を水等の媒体に分散して成るコロイドの形態が挙げられ、上記ゾルの形態、若しくはスラリーを使用する形態が挙げられる。例えば、水酸化ナトリウム等の水溶性化合物を使用して予めアルカリ金属イオンが含まれる水溶液を調製しておき、当該水溶液に適当なサイズの粒状光触媒を添加することによりゾル若しくはスラリーを調製する。或いは、予め調製された光触媒のゾル若しくはスラリーに水溶性のアルカリ金属化合物(例えばナトリウムやカリウムの水酸化物、炭酸水素塩、炭酸塩、ケイ酸塩)を添加してもよい。
このようにしてpHが中性域からアルカリ性域(例えばpH8以上、典型的にはpH8〜13、例えばpH8〜10)となった水系光触媒ゾル若しくはスラリーを調製することができる。このような高pHの混合材料を使用することにより、pHが7以下の酸性域の材料と比較して、多孔質基材に担持された光触媒の光触媒活性を向上させることができる。
【0023】
而して、調製した混合材料を、対象とする多孔質基材に供給する工程を行う。供給方法としては特に制限はないが、一般的なスプレー噴霧による供給に加え、基材の細孔内にも十分に混合材料(即ち光触媒とアルカリ金属化合物)が行き渡る方法が好ましい。例えば、多孔質基材の細孔内部を負圧状態とし、当該基材に所定量のゾル若しくはスラリーを供給することにより、効率よく、多孔質基材の外表面及び細孔内に水系媒体とともに光触媒とアルカリ金属化合物(典型的にはイオン形態)を供給することができる。或いは、調製したスラリーやゾル中に多孔質基材を浸漬し、毛細管現象等により細孔内に導入してもよい。かかる供給手段自体は特に限定されるものではなく、混合材料や多孔質基材の性状、あるいは使用量等に応じて適宜選択し決定することができる。
供給量は、特に限定するものでないが、供給対象である多孔質基材の質量を100質量%としたときのアルカリ金属化合物の含有割合は、少なくとも1質量%(例えば概ね1〜10質量%)が適当であり、好ましくは少なくとも2質量%(例えば概ね2〜10質量%、より好ましくは2〜5質量%)である。また、多孔質基材の質量を100質量%としたときの光触媒の含有割合は、概ね0.1〜5質量%が適当であり、好ましくは概ね0.2〜2質量%となるように、上記混合材料を多孔質基材の細孔内に供給するとよい。
【0024】
上記混合材料の供給工程終了後、多孔質基材を乾燥させて混合材料中に含まれていた水分を除く処理を行う。かかる乾燥工程の過程において、光触媒ならびにアルカリ金属化合物(典型的にはナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属成分)が多孔質基材の外表面や細孔内壁面に担持(固定)される。乾燥工程は、使用する多孔質基材の性状に応じて、室温条件で行ってもよいし或いは加熱(典型的には50〜150℃程度、例えば100〜130℃)して行ってもよい。活性炭やゼオライト等の鉱物系の多孔質基材を用いる場合は、加熱乾燥することにより強固な担持が実現され得るので好ましい。
【0025】
また、好ましくは、ガス吸着性能を向上させるべく、他の少なくとも1種の吸着用物質を加えてもよい。例えば、多孔質基材に担持させたアルカリ金属成分とともに、低級アルデヒド(典型的には炭素原子数が5以下のアルデヒド類をいう。)、例えばホルムアルデヒドやアセトアルデヒドを効果的に吸着し得る物質(アルデヒド吸着用物質)を備えることが好ましい。
この種の物質としては、p−アミノ安息香酸、アニリン、アジピン酸ジヒドラジド、エタノールアミンやメチルアミン塩酸塩等のアミン系物質、炭酸グアニジンやリン酸グアニジン等のグアニジン化合物、ヒドラジン、ヒドロキノン、p-アミノベンゼンスルホン酸又はそのアンモニウム塩、等が好適例として挙げられる。
このような付加的な吸着物質(典型的には上記アルデヒド吸着用物質)は、上述のようにしてアルカリ金属化合物及び光触媒を既に担持している多孔質基材の外表面及び/又は細孔内に、同様のプロセスによって供給・担持することができる。例えばアルデヒド吸着用物質を含む溶液若しくは分散液を当該多孔質基材に供給し、乾燥処理を行うことにより当該基材の外表面及び/又は細孔内壁面に担持することができる。或いは、アルカリ金属化合物及び光触媒を含む混合材料にアルデヒド吸着用物質その他の付加的な吸着物質を予め混合させておいてもよい。アルデヒド吸着用物質その他の付加的な吸着物質の担持量は特に限定されず、目的に応じて或いは使用する物質の性状に応じて適宜決定することができる。
【0026】
或いはまた、アルカリ金属化合物及び光触媒を担持していない多孔質基材を別途用意しておき、該基材の外表面及び/又は細孔内にアルデヒド吸着用物質その他の付加的な吸着物質を含む溶液若しくは分散液を供給し、乾燥処理を行うことにより当該基材の外表面及び/又は細孔内壁面にアルデヒド吸着用物質その他の付加的な吸着物質を担持させてもよい。この場合には、アルカリ金属化合物と光触媒とが担持されている多孔質基材と、上記アルデヒド吸着用物質その他の付加的な吸着物質が担持されている多孔質基材とを所定の割合で混合することにより、好適な吸着材を製造することができる。このように、アルカリ金属化合物と光触媒とが担持されている多孔質基材と、上記アルデヒド吸着用物質その他の付加的な吸着物質が担持されている多孔質基材とを別個に製造して所定の割合で混合する態様は、アルデヒド吸着用物質その他の付加的な吸着物質と光触媒とが互いに反応することを防止し、アルデヒド吸着用物質その他の付加的な吸着物質の吸着性能に及ぼす光触媒の影響を未然に回避して当該吸着物質の吸着性能を良好に維持することができるために特に好ましい。
この場合において、アルカリ金属化合物と光触媒とが担持されている多孔質基材と、上記アルデヒド吸着用物質その他の付加的な吸着物質が担持されている多孔質基材との混合比は特に限定されない。例えば、特に粉末状、粒状若しくは繊維状の多孔質基材(活性炭等)を使用するような場合には、種々の混合比で両者を混合することができる。好ましくは、アルカリ金属化合物と光触媒とが担持されている多孔質基材は、上記アルデヒド吸着用物質その他の付加的な吸着物質が担持されている多孔質基材との混合により供給される吸着材全体に対して、全体の10質量%以上、典型的には10質量%〜90質量%(例えば10質量%〜50質量%又はそれ以上)に相当する量を配合することができる。
また、光触媒の含有量(含有割合)は、上記混合により供給される吸着材全体に対して0.03質量%以上1.8質量%以下(好ましくは0.04質量%以上1質量%以下、例えば0.05質量%以上0.8質量%以下)とすることが望ましい。さらに、アルカリ金属化合物の含有量(含有割合)は、上記混合後の吸着材全体に対して0.05質量%以上(例えば0.05質量%以上3質量%以下、好ましくは0.1質量%以上2質量%以下)とすることが望ましい。光触媒、及びアルカリ金属化合物の含有量を上記範囲とすることにより、アルカリ金属成分及び光触媒によるガス吸着性能と、アルデヒド吸着用物質その他の付加的な吸着物質によるガス吸着性能のバランスが取れ、種々の臭い成分その他の汚染ガス成分(例えば、低級アルデヒド、酢酸など。)を効率よく浄化することができる。さらに上記範囲とすることにより、UV光照射による高いガス吸着性能回復能力を示す。
【0027】
ここで開示される吸着材は、種々の環境中、例えば家庭内、工場内、各種の実験を行っている研究施設内等において種々の形態で使用することができる。
例えば図1に模式的に示すように、空気清浄装置1におけるガス成分除去部4を構成する材料として使用することができる。即ち、図1に示す空気清浄装置1では、筐体(ケーシング)2の内部に設けられた送風用ファン8の作用により筐体2の前方部に設けられた集塵フィルター(例えばHEPAフィルター)3を通過して筐体2内に導入された空気がガス成分除去部4に導入される。かかるガス成分除去部4に例えば粉末状の本発明の吸着材を充填しておくことにより導入空気中の有害なガス成分を吸着・除去することができる。そしてガス成分除去部4を通過した空気(浄化空気)は、送風用ファン8の作用により筐体2の後方に設けられた排出部2Aから外部に放出される。
ここで、図示されるように、ガス成分除去部4に近接する部位において光触媒を励起させるための光エネルギーを放出するランプ(典型的には紫外光を放射するUVランプ)7Aを備えた光源部7が設けられている。かかる光源部7のランプ7Aから照射された光(典型的にはUV光)により、ガス成分除去部4に充填された吸着材に含まれる光触媒が励起され、当該吸着材中の多孔質基材に吸着されているガス成分(例えば低級アルデヒド)を分解除去することができる。このため、図1に示すような空気清浄装置1では、所定時間の空気浄化運転を行った後に、ランプを点灯し、捕捉(吸着)したガス成分を分解することによって、吸着材のガス吸着能力の機能を再生(回復)することができる。
なお、図1には本発明の技術的内容(技術思想)とは直接関係のない電源回路や本装置を適切に運転させるための制御部(マイコン部、ガスセンサ部等)を示していないが、かかる電源回路や適切な制御部を備え得ることは従来の空気清浄装置と変わりがない。
【0028】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0029】
<吸着材の製造例(1)>
光触媒としては、市販のアナターゼ型酸化チタン微粒子(光散乱法に基づく平均粒子径が5〜50nm程度のナノ粒子)を濃度10〜45質量%で含有する溶媒が水系のゾルを使用した。具体的には、濃度30質量%で酸化チタンナノ粒子を含むゾルを使用した。
多孔質基材としては、市販の粒状ヤシ殻活性炭(粒度:4〜8メッシュ)を使用した。 また、アルカリ金属成分としては水酸化ナトリウム(NaOH)を使用した。
本実施例では、使用するヤシ殻活性炭量を100質量%として、該活性炭に含有(担持)させる水酸化ナトリウムの含有量(含有割合)をヤシ殻活性炭使用量の2質量%に相当する量と設定した。また、使用するヤシ殻活性炭量を100質量%として、該活性炭に含有(担持)させる酸化チタンの含有量(含有割合)をヤシ殻活性炭使用量の0.6質量%に相当する量と設定した。
【0030】
具体的には、ヤシ殻活性炭100質量部に対して、上記ゾル2質量部(即ち酸化チタン0.6質量部)と試薬特級レベルの水酸化ナトリウム2質量部とが供給されるように、当該質量部に相当する量のゾルと水酸化ナトリウムとを水で希釈してpHが概ね10〜14となる混合材料を調製した。
次いで、得られた混合材料の全量を100質量部のヤシ殻活性炭に吸引することにより、上記質量比で光触媒(酸化チタン)と水酸化ナトリウムとをアルカリ性条件下(高pH条件下)において活性炭外表面及び/又は細孔内に供給した。
その後、活性炭を110℃のオーブン内で乾燥し、供給された光触媒とアルカリ金属成分(Naイオン)を活性炭に担持させた。
上記の一連のプロセスにより製造された吸着材を実施例1の吸着材とする。
【0031】
また、比較対象として、水酸化ナトリウムを添加しないこと以外は上記実施例1と同様のプロセスと質量比により、アルカリ金属成分を含まない吸着材(比較例1)を製造した。
また、異なる比較対象として、上記ゾルを使用しないこと以外は上記実施例1と同様のプロセスと質量比により、ヤシ殻活性炭100質量部に対して2質量部の水酸化ナトリウムを担持して成る吸着材(比較例2)を製造した。即ち、比較例2に係る吸着材は、アルカリ金属成分(水酸化ナトリウム)のみが担持された吸着材である。
【0032】
<性能評価試験(1)>
上記のようにして製造した実施例1ならびに比較例1及び2の吸着材を用い、光触媒とアルカリ金属成分とが互いに混在した状態で活性炭に担持されたことを特徴とする実施例1に係る吸着材の紫外光(UV)照射によるガス吸着性能回復能力を評価した。
即ち、所定サイズの円筒形カラムに実施例1、比較例1若しくは比較例2の吸着材を充填した。そして、空気に10ppmのアセトアルデヒドガスを混入させた試験用ガスを、室温条件下で上記カラムに通し、ガスクロマトグラフ装置による分析値に基づいてアセトアルデヒドガス除去率(%)が40〜45%になるまで各吸着材の性能を劣化させた。
次いで、各カラムから吸着材を取り出し、酸化チタンを励起させ得る波長域のUV光を該吸着材に対して6時間照射した。
かかるUV光照射処理後、再び、カラムに吸着材を戻し、上記試験ガスをカラムに導入し、室温条件下でのアセトアルデヒドガスの除去率をガスクロマトグラフ装置により求めた。結果を表1及び図2に示す。なお、表1中の回復度合は、UV照射直後のアセトアルデヒド除去率(%)からUV照射前(上記劣化処理後)のアセトアルデヒド除去率(%)を単純に差し引いた数値である。
【0033】
【表1】

【0034】
表1及び図2に示す結果から明らかなように、実施例1に係る吸着材は上記UV光照射後にアセトアルデヒド除去率が94%まで回復した。一方、比較例1及び比較例2に係る吸着材では、このような高い回復は認められなかった。このことは、光触媒とアルカリ金属成分とが互いに混在した状態で活性炭に担持された実施例1の吸着材では、吸着されたアセトアルデヒドがアルカリ金属成分と光触媒によって分解され、アルカリ金属成分の吸着活性が再生されたことを示すものである。従って、ここで開示される吸着材によると、優れた耐久性(長寿命性)を実現することができる。
【0035】
<参考例>
次に、参考試験として、上記比較例1と同様の製造プロセス(即ち水酸化ナトリウム等のアルカリ金属化合物は未添加)により、酸化チタンの担持量が異なる複数の吸着材を製造した。
具体的には、使用するヤシ殻活性炭量を100質量%としたときの該活性炭に担持させる酸化チタン量を、ヤシ殻活性炭使用量の0.2質量%(比較例3)、0.6質量%(比較例4、即ち比較例1と同じ)、1.2質量%(比較例5)、ならびに2.0質量%(比較例6)相当量とした計4種類の吸着材を製造した。あわせて酸化チタンを担持させていない活性炭のみである吸着材を製造した(比較例7)。
而して、かかる5種類の吸着材(比較例3〜7)を用いて上記性能評価試験(1)と同じ試験を行った。結果を表2及び図3に示す。
表2及び図3に示す結果から明らかなように、活性炭量を100質量%としたときの好適な光触媒担持量(含有割合)は、該活性炭使用量の概ね0.2〜2.0質量%に相当する量であることがわかる。本参考例において特に好ましくは0.4〜1.2質量%(例えば0.6〜0.8質量%程度)であった。
【0036】
【表2】

【0037】
<性能評価試験(2)>
次に、所定の含有率でアルカリ金属成分を含む活性炭について、添加する酸化チタン量を変化させたときのガス吸着性能回復能力の変化を調べた。即ち、上記実施例1と同様の製造プロセスにおいて、上記活性炭量に対する酸化チタンの担持量が異なる複数の吸着材を製造した。このとき、該製造プロセスにおいて光触媒と同時に担持させるアルカリ金属成分については、該活性炭量に対するアルカリ金属成分の担持量を一定とした。
具体的には、使用するヤシ殻活性炭量を100質量%としたときの該活性炭に担持させるアルカリ金属成分(Naイオン)量を1.9〜2.1質量%相当量の範囲となるように設定し、該活性炭に担持させる酸化チタン量を0.2質量%(実施例2)、0.6質量%(即ち上述の実施例1)、1.2質量%(実施例3)、2.0質量%(実施例4)、ならびに2.3質量%(実施例5)相当量とした計5種類の吸着材を製造した。
かかる5種類の吸着材を用いて上記性能評価試験(1)と同じ試験を行った。結果を表3及び図4に示す。
表3及び図4に示す結果から明らかなように、活性炭に光触媒及びアルカリ金属成分を担持させた吸着材に関して、該活性炭量を100質量%としたとき2.0質量%に相当するアルカリ金属成分を担持させた場合における好適な光触媒担持量(含有割合)は、該活性炭使用量の概ね0.2〜2.0質量%に相当する量であることがわかる。本試験結果において特に好ましくは0.4〜1.2質量%(例えば0.6〜1.2質量%程度)であった。
【0038】
【表3】

【0039】
<性能評価試験(3)>
次に、所定の含有率で酸化チタンを含有する活性炭について、添加するアルカリ金属化合物量を変化させたときのガス吸着性能回復能力の変化を調べた。即ち、上記実施例1と同様の製造プロセスにおいて、使用する所定量のヤシ殻活性炭に対するアルカリ金属成分の担持量が異なる複数の吸着材を製造した。このとき、上記製造プロセスにおいてアルカリ金属成分と同時に担持させる酸化チタンについては、所定活性炭量に対する酸化チタン担持量を一定とした。
具体的には、使用するヤシ殻活性炭量を100質量%としたときの該活性炭に担持させる酸化チタン量を0.6質量%相当量と設定し、該活性炭に担持させるアルカリ金属成分を1.0質量%(実施例6)、2.0質量%(即ち上記実施例1)、3.0質量%(実施例7)、4.0質量%(実施例8)、ならびに6.0質量%(実施例9)相当量とした計5種類の吸着材を製造した。また、あわせてアルカリ金属成分を担持させていない吸着材(即ち上述の比較例1)を比較対象とした。
かかる6種類の吸着材を用いて上記性能評価試験(1)と同じ試験を行った。結果を表4及び図5に示す。
表4及び図5に示す結果から明らかなように、活性炭に光触媒及びアルカリ金属成分を担持させた吸着材に関し、該活性炭量を100質量%としたとき0.6質量%に相当する酸化チタンを担持させた場合、該活性炭量に対してアルカリ金属成分担持量が1質量%以上の範囲であれば回復度合はほぼ一定となり、十分な光再生能力を維持する。よって、当該場合における好適なアルカリ金属成分担持量(含有割合)は、該活性炭使用量の概ね1質量%以上であることがわかる。
【0040】
【表4】

【0041】
<性能評価試験(4)>
さらに、活性炭に光触媒及びアルカリ成分を担持させたときの、アルカリ成分の違いによるガス吸着性能回復能力の違いを調べた。即ち上記実施例1と同様の製造プロセスにおいて、アルカリ成分として複数の塩基性の異なるアルカリ金属化合物、又はアルカリ金属化合物ではない揮発性アルカリ成分など種々の性質が異なるアルカリ成分を選択し、複数の吸着材を製造した。
具体的には、実施例1における製造プロセスにおいてアルカリ金属成分として用いた水酸化ナトリウムの代わりに、水酸化カリウム(実施例10)、炭酸カリウム(実施例11)、炭酸水素カリウム(実施例12)を用い、当該アルカリ金属成分の種類を変更したこと以外は実施例1と同様の製造プロセス及び質量比により、光触媒とアルカリ金属成分が担持した吸着材を製造した。また、あわせて実施例1に係る吸着材を製造した。
さらに、上記実施例1に係る製造プロセスにおいて、水酸化ナトリウムの代わりにアンモニア水(比較例8)を用い、当該アルカリ成分の種類を変更したこと以外は実施例1と同様の製造プロセス及び質量比により、光触媒とアルカリ成分(アンモニア)が担持した吸着材を製造した。
これらの場合において、酸化チタン担持量及びアルカリ成分担持量は活性炭量を100重量%としたとき、0.6質量%及び2.0質量%相当量となるように調製した。また比較のため、なんらアルカリ成分を加えないで、その他は実施例1と同様の製造プロセスにより製造した吸着材(即ち上述する比較例1)を製造した。
かかる6種類の吸着材を用いて上記性能評価試験(1)と同じ試験を行った。結果を表5及び図6に示す。
表5及び図6に示す結果から明らかなように、アルカリ成分としてアルカリ金属化合物を選択した場合、即ち水酸化ナトリウム(実施例1)、水酸化カリウム(実施例10)、炭酸カリウム(実施例11)、及び炭酸水素カリウム(実施例12)を使用した場合は、アルカリ成分を含有しない吸着材(比較例1)及びアルカリ成分としてアンモニア水を使用した吸着材(比較例8)と比較し、顕著に高い回復性能を示した。このことから、本発明の実施に採用されるアルカリ成分としては塩基性の強さ、即ち強アルカリ化合物であるか、あるいは弱アルカリ化合物であるかに関わらず、アルカリ金属化合物が挙げられ、何れか一種のアルカリ金属化合物であれば十分な回復効果を発揮することができる。例えば好適なアルカリ成分として、ナトリウム又はカリウムの水酸化物、炭酸水素塩、炭酸塩若しくはケイ酸塩などのアルカリ金属化合物が挙げられる。また、これらアルカリ金属化合物を使用した場合、アンモニア水を使用した場合(比較例8)よりも回復性能が優れていることから、より好適なアルカリ成分は不揮発性のアルカリ成分である。
【0042】
【表5】

【0043】
<吸着材の製造例(2)>
次に、光触媒とアルカリ金属成分に加え、さらにアルデヒド吸着用物質を備える吸着材を製造した。
即ち、アルデヒド吸着用物質としてのp−アミノ安息香酸塩を全体の概ね4質量%相当になる量を上記活性炭に浸漬法により担持させ、p−アミノ安息香酸担持活性炭を製造した。次いで、かかるp−アミノ安息香酸担持活性炭(A)と実施例1に係る吸着材(B)とを質量比A:Bが7:3となるように混合し、実施例13に係る吸着材を製造した。
また、比較対象として、上記実施例1に係る吸着材に代えて上記比較例2に係る吸着材(即ち光触媒である酸化チタンが担持されていない吸着材)を使用して上記と同じ質量比でp−アミノ安息香酸担持活性炭と混合し、比較例9に係る吸着材を製造した。
【0044】
<性能評価試験(5)>
上記のようにして製造した実施例13ならびに比較例9の吸着材を用い、紫外光(UV)照射によるガス吸着性能回復能力を評価した。
即ち、本試験では、供試吸着材40gを平板状のフィルターケースに充填し、簡易フィルターを作製した。かかる簡易フィルターを1m容積のチャンバーボックスに収容し、社団法人日本電機工業会のJEM1467に準じてガス吸着性能(除去率)を測定した。
具体的には、チャンバーボックス内に所定量のタバコ煙を含むガスを注入し、ファンでよく攪拌させた後にチャンバーボックス内のガス濃度を測定し、タバコ5本分の煙に含まれているガス成分に換算して総合除去率として算出した。かかる処理を12回繰り返すことにより、各吸着材(実施例13,比較例9)の劣化の程度を調べた。この繰り返しの過程において、かかる処理を3回(サイクル数3)繰り返した後(換算タバコ本数が5×3=15本)、6回(サイクル数6)繰り返した後(換算タバコ本数:30本)ならびに9回(サイクル数9)繰り返した後(換算タバコ本数:45本)の時点で、酸化チタンを励起させ得る波長域のUV光を吸着材に対して6時間照射した。かかる照射後のガス吸着処理(即ち、サイクル数4,7,10)の結果を図7に示す。
図7に示すグラフから明らかなように、比較例9に係る吸着材はUV光照射に影響されることなく徐々にガス吸着能が低下し、10サイクル後には55%程度にまで除去率が低下した。
他方、光再生機能を有する実施例13に係る吸着材は、UV光照射により顕著にガス吸着能力が回復し、長寿命を実現した。即ち、10サイクル後にも70〜75%の除去率を維持していた。
【0045】
<性能評価試験(6)>
さらに、アルカリ金属成分と光触媒とが担持されている多孔質基材と、アルデヒド吸着用物質が担持されている多孔質基材と、の配合比を種々に変化させて吸着材を製造し、ガス吸着性能及び、UV光照射によるガス吸着性能回復能力を評価した。
即ち、上記実施例13と同様の製造プロセス(吸着材の製造例(2))において、上記p−アミノ安息香酸担持活性炭(A)と実施例1に係る吸着材(B)を、質量比A:Bが9:1(実施例14)、7:3(即ち上記実施例13)、1:9(実施例15)となるように混合することにより、合計3種類の吸着材(実施例13〜15)を製造した。
また、上記p−アミノ安息香酸担持活性炭(A)と上記実施例4に係る吸着材(C)とを混合した吸着材についても製造した。
即ち、上記実施例13に係る製造プロセスにおいて調製した上記p−アミノ安息香酸担持活性炭(A)と、実施例4に係る吸着材(C)を、質量比A:Cが9:1(実施例16)、5:5(実施例17)、1:9(実施例18)となるように混合することにより、合計3種類の吸着材(実施例16〜18)を製造した。また比較のため、上記p−アミノ安息香酸担持活性炭(A)を混合していない、実施例4に係る吸着材を製造した。
得られた各吸着材(実施例4、13〜18)におけるp−アミノ安息香酸担持活性炭(A)、及び実施例1または4に係る吸着材(B又はC)の配合比(質量%)を表6に示す。合わせて、吸着材全体(即ち、A+B、又はA+C)に対する酸化チタン含有率(質量%)及びアルカリ金属成分含有率(質量%)についても表6に示す。
【0046】
【表6】

【0047】
而して、かかる7種類の吸着材(実施例4、13〜18)を用いて上記性能評価試験(5)と同様に、社団法人日本電機工業会のJEM1467に準じてガス吸着性能(除去率)を測定した。
具体的には、上記性能評価試験(5)と同様の評価装置内に各吸着材(実施例4、13〜18)を設置し、該評価装置内に所定量のタバコ煙を含むガスを注入することにより、吸着材に該ガスを吸着させる処理を3回(サイクル数3)繰り返した(換算タバコ本数:15本)。その後、評価装置内のガス濃度を測定し、上記性能評価試験(5)と同様の方法により、総合除去率(%)を算出した。かかるサイクル数3の総合浄化率の結果を表7に示すとともに、該結果と吸着材全体に対する酸化チタン含有率(%)との関係を図8に示す。
【0048】
【表7】

【0049】
図8に示す結果から明らかなように、アルカリ金属成分及び光触媒を担持させた多孔質基材と、アルデヒド吸着用物質が担持された多孔質基材と、の混合により作製した吸着材に関して、優れたガス吸着性能を示すために好適な酸化チタン含有率は、0.03質量%以上1.8質量%以下であることがわかる。上記酸化チタン含有率が1.8質量%より多すぎる場合は、相対的に吸着材におけるアルデヒド吸着用物質の絶対量が不足し、アルデヒド除去率が低下したことにより総合除去率が低下したと考えられる。また、上記酸化チタン含有率が0.03質量%より少なすぎる場合、酸化チタンと併せてアルカリ金属成分の含有率も低下するため、酢酸ガスなどの酸性ガス除去率が低下したことにより総合除去率が低下したと考えられる。
【0050】
次に、UV光照射による吸着材のガス吸着性能回復能力を評価するために、各吸着材(実施例4、13〜18)のUV光照射後のガス吸着性能を測定した。
具体的には、上記性能評価試験におけるサイクル数3(換算タバコ本数:15本)のガス吸着後の各吸着材(実施例4、13〜18)に対し、酸化チタンを励起させ得る波長域のUV光を6時間照射し、かかる照射後の吸着材について再びガス吸着処理(即ち、サイクル数4)を行い、総合除去率(%)を算出した。上記試験により算出したUV光照射後の総合除去率(%)(即ち、サイクル数4の除去率)から、UV光照射前の総合除去率(%)(即ち、サイクル数3の除去率)を単純に差し引いた数値を回復度合(%)として算出した。かかる回復度合の結果を表7、及び図9に示す。
図9に示す結果から明らかなように、アルカリ金属成分及び光触媒を担持させた多孔質基材と、アルデヒド吸着用物質が担持された多孔質基材と、の混合により作製した吸着材に関して、酸化チタン含有率が概ね0.06質量%以上で良好な回復度合を示すことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上に説明したように、ここで開示される吸着材は、アルカリ金属化合物(アルカリ金属成分)と光触媒とが互いに混在した状態で多孔質基材の外表面及び/又は細孔内壁面に担持されていることにより、吸着されたガス種、特にホルムアルデヒドのような低級アルデヒドを当該アルカリ金属成分に接して存在する光触媒によって効率よく分解・除去することができる。このため、長期にわたって高い吸着能力(特に低級アルデヒド、酸性ガス等のアルカリ金属成分に吸着され易いガス種に対する吸着能力)を維持することができる。このため、かかる吸着材を使用することによって、長期にわたって高いガス吸着能力を維持し得る空気清浄装置(ガス吸着装置)を提供することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 空気清浄装置
2 筐体
2A 排出部
3 集塵フィルター
4 ガス成分除去部
7 光源部
7A ランプ
8 送風用ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種のガス種を吸着可能な多孔質基材を備える吸着材であって、
少なくとも1種のアルカリ金属化合物と少なくとも1種の光触媒とが、互いに混在した状態で前記多孔質基材に担持されていることを特徴とする、吸着材。
【請求項2】
前記担持されている光触媒は、平均粒子径が100nm以下の酸化チタン粒子である、請求項1に記載の吸着材。
【請求項3】
前記担持されているアルカリ金属化合物は、不揮発性のアルカリ成分として存在する、請求項1又は2に記載の吸着材。
【請求項4】
前記担持されているアルカリ金属化合物は、ナトリウム及び/又はカリウムの水酸化物、炭酸水素塩、炭酸塩若しくはケイ酸塩である、請求項1〜3のいずれかに記載の吸着材。
【請求項5】
前記アルカリ金属化合物とは異なる低級アルデヒドガスを吸着する他の少なくとも1種の吸着用物質をさらに備える、請求項1〜4のいずれかに記載の吸着材。
【請求項6】
少なくとも一種のガス種を吸着可能な多孔質基材に少なくとも1種のアルカリ金属化合物と少なくとも1種の光触媒とが混在する状態の混合材料を供給すること、
前記供給した混合材料中の前記アルカリ金属化合物及び前記光触媒を前記多孔質基材の外表面及び/又は細孔内壁面に担持させること、
を包含する、前記アルカリ金属化合物と光触媒とが互いに混在した状態で前記多孔質基材に担持された吸着材を製造する方法。
【請求項7】
前記混合材料として、水溶性アルカリ金属化合物を含む水溶液に光触媒から成る粒子を分散させて成るゾルを使用し、該ゾルを前記多孔質基材の細孔内に供給する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記光触媒として、平均粒子径が100nm以下の酸化チタン粒子を使用する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記多孔質基材の質量を100質量%としたときの前記アルカリ金属化合物の含有割合が少なくとも1質量%となり、且つ、該多孔質基材の質量を100質量%としたときの前記光触媒の含有割合が0.2〜2質量%となるように、前記混合材料を前記多孔質基材の細孔内に供給する、請求項6〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記多孔質基材として、BET法に基づく比表面積が900m/g以上の活性炭を使用する、請求項6〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記アルカリ金属化合物及び光触媒を担持している多孔質基材の外表面及び/又は細孔内に、若しくは前記アルカリ金属化合物及び光触媒を担持していない多孔質基材の外表面及び/又は細孔内に、該アルカリ金属化合物以外の低級アルデヒドガスを吸着し得る少なくとも1種の吸着用物質を供給すること、
をさらに包含する、請求項6〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれかに記載の吸着材または請求項6〜11のいずれかに記載の方法によって製造された吸着材を備えることを特徴とする、空気清浄装置。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれかに記載の吸着材または請求項6〜11のいずれかに記載の方法によって製造された吸着材に、処理対象の空気を導入することを特徴とする、空気清浄方法。
【請求項14】
少なくとも低級アルデヒドガス若しくは酸性ガスを含む空気を前記吸着材に導入する、請求項13に記載の空気清浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−200857(P2011−200857A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32453(P2011−32453)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000104607)株式会社キャタラー (161)
【Fターム(参考)】