説明

光制御フィルム

【課題】入射角依存性、及び偏角散乱性を有し、所望方向に中心角を有する散乱光を出射させることにより観察に寄与する光の利用効率を高めることができる光制御フィルムを提供すること。
【解決手段】本発明の複数枚の散乱フィルム32、34が積層された光制御フィルム30は、散乱フィルムが光重合性組成物の硬化物からなる板状のマトリックスとマトリックス中に配設されマトリックスと屈折率が異なる複数の柱状構造体とを備え、同一の散乱フィルム内では、各柱状構造体が、散乱フィルムの法線方向に対し一定角度(θ1、θ2)で傾斜し略平行に配向され、傾斜角度が、一方の散乱フィルムから他方の散乱フィルムに向けて段階的に変化し、光制御フィルムへの光の入射角と、散乱光の出射角度範囲とが異なることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光制御フィルムに関し、詳細には、光の入射角度に応じて散乱特性が異なる特性(入射角依存性)と、入射光の入射角度とは異なる方向に中心を有する散乱光を生じさせる特性(偏角散乱性)とを有する光制御フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置、透過/反射型プロジェクションスクリーン、プラズマディスプレイ(PDP)、エレクトロルミネッセンス(EL)などの表示装置では、視野角を確保する(すなわち、前方側の広い範囲から表示画像が明るく見えるようにする)、表示画面の全面に亘って均一な明るさで表示画像が見えるようにする等の目的で、装置前面に光散乱フィルムを設けることが行なわれている。
【0003】
このような光散乱フィルムとして、表面をマット状に加工した樹脂フィルムや、内部に拡散材を含む樹脂フィルムなどが用いられている。
【0004】
また、特定の角度範囲で入射した光を選択的に散乱させるフィルムが知られている。例えば、透明なマトリックス中に、屈折率がこのマトリックスと異なる複数の構造体が形成された光制御フィルムが提案されている(特許文献1)。このフィルムを適切な配置で表示装置に適用することで、不要な散乱光が生じさせず表示のコントラストを向上させることができる。
【0005】
また、フィルム内部に、屈折率の異なる複数の帯状の部分が、フィルムの主面に対して傾斜して積層状態に配置され、その傾斜角度がフィルムの厚さ方向において徐々に変化した構成を有する散乱フィルムが提案されている(特許文献2)。
この散乱フィルムは、特定の範囲の角度で入射した光を散乱させ、入射角とは異なる角度に光軸の中心を持つ散乱光として出射させ、それ以外の角度で入射する光については光散乱を生じさせずに透過させる入射角依存性および偏角散乱性を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2691543号公報
【特許文献2】特開2002−189105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、表面をマット状に加工した樹脂フィルム、内部に拡散材を含む樹脂フィルムなどの公知の散乱フィルムは、入射角依存性を有していないため、表示装置に使用した際に不要な散乱光が生じ、表示の明るさやコントラストの低下、あるいは表示画像のぼけを招くという問題点があった。
【0008】
また、表面をマット状に加工した散乱フィルムは、材料のフィルムの表面に、サンドブラスター処理のような物理的加工、または酸性またはアルカリ性の溶液による溶解処理のような化学的加工を施すことによって表面をマット面としている。
【0009】
散乱フィルムでは、マット面の凹凸の形状を制御することにより、散乱光の出射角度範囲を制御することは可能であるが、散乱フィルムに入射角依存性、及び偏角散乱性を持たせることはできなかった。
【0010】
また、内部に拡散材を含む散乱フィルムの場合も、拡散材の屈折率、大きさ、形状などの制御により、散乱光の出射角度範囲を制御することは可能であるが、散乱フィルムに入射角依存性、及び偏角散乱性を持たせることはできなかった。
【0011】
さらに、特許文献1に記載のフィルムは、偏角散乱性がなく、表示装置に使用しても、表示装置の最表面からの照り返しによる方向(正反射方向)や、表示画像の観察に不適切な方向に不要な散乱光を生じ、表示の明るさやコントラストの低下、あるいは表示画像のぼけを招くという問題点があった。
【0012】
また、透過型/反射型プロジェクションスクリーン、内部光源を備えず外光(日光や室内照明光など)を表示用の光として利用する「反射型液晶表示装置」などでは、必ずしも表示装置の法線方向(表面に直交する方向)から外光が入射するとは限らず、表示装置の法線方向に対して傾斜した方向から外光が入射する場合があるため、使用される散乱に、傾斜方向から入射した光を法線方向に中心を有する散乱光を生じさせる偏角散乱性が求められる。
【0013】
特許文献2の散乱フィルムは、内部に設けられた屈折率が異なる部分の傾斜角度を厚さ方向に徐々に変化させて、大幅な偏角機能を実現する構成である。この散乱フィルムは、フィルム状の感光材料にレーザ光を照射することによって、フィルム状の感光材料内部に、屈折率変化したスペックルパターンを傾斜状態で形成し、この屈折率変化パターンが記録されたフィルムの厚さLを増加させることによって製造される。
【0014】
この製造工程を、特許文献2の記載に基づき、デュポン社製ホログラム用感光材料「HRFフィルム」を用いた場合を例に、説明する。
HRFフィルムは、ホログラムの露光記録後に、同じデュポン社製「CTFフィルム」をラミネートし、所定の処理(加熱及びUV露光定着)により、感光材料自身の厚みを変化させて、ホログラムの再生色を変化させられる特性を持っている。また、その処理工程により、厚みの変動を制御することが可能である。
【0015】
CTFとHRFをラミネートすると、CTF中のモノマーがHRFフィルム中へ拡散していき、HRFの厚みを増加させることが可能であるとされている。CTFとHRFをラミネートした後のモノマーの拡散時間を制御することで、HRFの厚みが、CTFに面した側では大きく増加し、反対側ではそれほど増加しないように制御が可能である。
【0016】
この現象を利用して、HRFフィルムにレーザ光を照射してスペックルパターンを生じさせた後、CTFフィルムをラミネートし、一定時間加熱放置してからUV露光定着を行うことで、フィルム厚を増大させ、フィルム表面近傍と裏面近傍でスペックルパターンの傾斜角度が異なる構造が形成される。
【0017】
しかし、上述した特許文献2の散乱フィルム製造方法では、スペックルパターンの傾斜角度を精密に制御することは難しい。
また、散乱フィルムの表面と裏面でのスペックルパターンの傾斜角度の差を大きくするためには、散乱フィルムの厚さを大きくする必要があるが、一定の厚さより厚いフィルムを製造することができないという問題がある。
【0018】
特定の角度で入射する光を、特定の方向に偏角散乱させるには、フィルム表面近傍及び裏面近傍における傾斜角度を正確に設定する必要がある。また、フィルム表面と裏面での傾斜角度の差が大きいほど偏角機能に優れた散乱フィルムとなる。そのため、傾斜角度及びフィルム表面から裏面に渡る傾斜角度の変化度合いを、より簡便かつ精密に制御する方法が求められていた。
【0019】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、入射角依存性、及び偏角散乱性を有し、所望方向に中心角を有する散乱光を出射させることにより観察に寄与する光の利用効率を高めることができる光制御フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明によれば、
複数枚の散乱フィルムが積層された光制御フィルムであって、
前記散乱フィルムは、光重合性組成物の硬化物からなる板状のマトリックスと該マトリックス中に配設され該マトリックスと屈折率が異なる複数の柱状構造体とを備え、
同一の散乱フィルム内では、前記各柱状構造体が、該散乱フィルムの法線方向に対し一定角度で傾斜し略平行に配向され、
前記傾斜角度が、一方の散乱フィルムから他方の散乱フィルムに向けて段階的に変化し、
前記光制御フィルムへの光の入射角と、散乱光の出射角度範囲の中心角とが異なる、
ことを特徴とする光制御フィルムが提供される。
【0021】
このような構成を有する光制御フィルムは、入射角依存性、及び偏角散乱性を有し、所望方向に中心角を有する散乱光を出射させることにより観察に寄与する光の利用効率を高めることができる。
【0022】
本発明の他の好ましい態様によれば、
前記各散乱フィルムは、単独重合して得られる単独重合体の屈折率に差がある少なくとも2種類の光重合可能なモノマー又はオリゴマーを含有する組成物に光を照射して硬化させたものである。
【0023】
本発明の好ましい態様によれば、
前記いずれかの光制御フィルムを備えている、ことを特徴とするスクリーンが提供される。
【0024】
本発明の好ましい態様によれば、
前記スクリーンと、前記スクリーンに対して斜め下方向もしくは斜め上方向からレーザ光を投射するレーザ光源とを備えていることを特徴とするレーザーディスプレイが提供される。
【0025】
本発明の好ましい態様によれば、
前記スクリーンと、前記スクリーンに対して斜め下方向または斜め上方向から映像光を投射する投影光学系とを備えていることを特徴とするプロジェクションディスプレイシステムが提供される。
【0026】
本発明の好ましい態様によれば、
一次光源と、該一次光源から発せられた光が入射する入射端面を有し入射した光を導光し更に導光された光の少なくとも一部が出射する光出射面を有する導光体と、前記光出射面に隣接して配置された上記光制御フィルムと、を備えていることを特徴とするバックライトシステムが提供される。
【発明の効果】
【0027】
このような構成を有する本発明によれば、入射角依存性、及び偏角散乱性を有し、所望方向に中心角を有する散乱光を出射させることにより観察に寄与する光の利用効率を高めることができる光制御フィルムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の好ましい実施形態の光制御フィルムを構成する散乱フィルムの内部構造を透視した模式的な斜視図である。
【図2】散乱フィルムの偏角散乱機能を模式的に説明するための図である。
【図3】本発明の好ましい実施形態の光制御フィルムを構成する散乱フィルムの一の製造方法を説明する模式的な図である。
【図4】本発明の好ましい実施形態の光制御フィルムを構成する散乱フィルムの製造方法を説明する模式的な図である。
【図5】本発明の好ましい実施形態の光制御フィルムを構成する散乱フィルムの一の製造方法を説明する模式的な図である。
【図6】本発明の好ましい実施形態の光制御フィルムを構成する散乱フィルムの製造方法を説明する模式的な図である。
【図7】本発明の好ましい実施形態の光制御フィルムの構成を示す模式的な図面である。
【図8】本発明の好ましい実施形態の実施形態の光制御フィルムの作用を説明するための分解図である。
【図9】本発明の好ましい実施形態の実施形態の光制御フィルムを使用したレーザーディスプレイ装置の構成を示す模式的な図面である。
【図10】本発明の好ましい実施形態の実施形態の光制御フィルムを使用したプロジェクションディスプレイシステムの構成を模式的に示す概略図である。
【図11】本発明の好ましい実施形態の実施形態の光制御フィルムを使用したバックライトシステムの構成を模式的に示す概略図である。
【図12】出射角度範囲の測定方法を説明する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面に沿って、本発明の好ましい実施形態の光制御フィルムについて詳細に説明する。
本実施形態の光制御フィルムは、複数枚の散乱フィルムが積層された構成を備えている。先ず、光制御フィルムを構成する散乱フィルムについて説明する。
【0030】
図1は、本発明の好ましい実施形態の光制御フィルムを構成する散乱フィルム1の内部構造を透視した模式的な斜視図である。図1に示されているように、本実施形態の散乱フィルム1は、基質であり薄板(フィルム)状の透明なマトリックス2と、マトリックス2を厚さ方向に貫通して延びるようにマトリックス中に配置された多数の透明な柱状構造体4とを備えた相分離構造を有し、20〜1000μmの略均一な厚さを有する板状の形状を有している。
【0031】
図1に示されているように、各柱状構造体4は、散乱フィルム1の表面から裏面までマトリックス2の厚さ方向に傾斜して互いに略平行に延びるように配置されている。すなわち、各柱状構造体4は、長手方向軸線(A)が、散乱フィルム1の法線(X)(表面に直交する)方向に対し一定角度傾斜(α)をなすように配向されている。
【0032】
柱状構造体4の傾斜角度(α)は、フィルムの法線方向に平行な場合を0°とすると、0〜85°の範囲にあることが好ましい。
また、フィルム作製の観点からは、0〜40°の範囲であることがより好ましい。これは、光重合性組成物に対し光を照射して硬化させ光制御フィルムを作成する際、屈折によって光の照射角度が変化するので、通常の照射方法で41°以上の傾斜角度を設けることは困難なためである。
なお、本願において、柱状構造体4の傾斜角度とは、柱状構造体4の軸線がフィルムの法線方向となす角度のことを指す。
【0033】
各柱状構造体4は、マトリックス2とは異なった屈折率を有している。ここで、マトリックス2と柱状構造体4との屈折率の差異が、小さすぎると散乱フィルム1の散乱性が悪くなり、逆に大きすぎるとどのような角度で光が入射しても散乱が生じてしまうことになる。そのため、相間の屈折率差だけでは散乱が生じず、厚みがあることで十分な散乱性を持つような最適な屈折率差である必要がある。このため、本実施形態の散乱フィルム1では、屈折率差は0.001〜0.2の範囲で適宜選択されている。好ましい範囲としては、0.001〜0.04の範囲内である。
【0034】
また、散乱性に影響を与える散乱フィルム1の厚さ(即ちマトリックス2の厚さ)は、屈折率差に応じて20〜1000μmの範囲で適宜選択される。
【0035】
マトリックス2と柱状構造体4との屈折率差は、フィルムの作製方法や、散乱フィルムの材料となる光重合性組成物の組成などの影響を受ける。
このため、マトリックス2と柱状構造体4との屈折率差が大きな場合はフィルムを薄くし、マトリックス2と柱状構造体4との屈折率差が小さい場合にはフィルムを厚くすることによって、所望の散乱性を有する散乱フィルム1を得ている。
【0036】
柱状構造体4の横断面の直径(多角形の場合は外接円の長軸の長さ)6は、0.1〜15μmの範囲にあるのが好ましく、0.5〜15μmの範囲にあるのがより好ましい。また、柱状構造体4の配列周期(間隔すなわちピッチ)8は、0.1〜15μmの範囲にあるのが好ましく、0.5〜15μmの範囲にあるのが好ましい。
【0037】
さらに、配列周期8は一定の値ではなく、上記範囲内で変化するのが好ましい。すなわち、配列周期8は、0.1〜15μmの範囲で変化するのが好ましく、0.5〜15μmの範囲で変化するのがより好ましい。
【0038】
柱状構造体4の断面の直径6、および配列周期8を、上記範囲内に設定し、さらに、散乱フィルム1の厚さ(即ちマトリックス2の厚さ)を20〜1000μmとすることによって、散乱フィルム1は、360〜830nmの波長範囲の光、いわゆる可視光線に対する干渉効果を十分に発現することができ、高度な光制御が可能となる。
【0039】
すなわち、散乱フィルム1は、図2に示すように、入射光の光軸αに対し、出射光の光軸βがずれて出射する機能(偏角散乱性)を発揮する。なお、図2においては、散乱フィルム中の柱状構造体4の記載を省略し、長手方向軸線のみを実線(A’)で示している。
【0040】
次に、本発明の好ましい実施形態の散乱フィルム1による散乱について詳細に説明する。
本実施形態の散乱フィルム1により散乱した光の出射角は構造体の配列周期8に依存し、格子入射角αと光の格子出射角βとは、次式(1)で表される関係を有する。

d(sinα±sinβ)=nλ ・・・(1)

上記の式(1)中、dは配列周期8であり、nは次数、λは入射光の波長である。また、格子入射角αは、柱状構造体4の配向軸線(長手方向軸線)Aと入射光の光軸とがなす角度であり、格子出射角βは、柱状構造体4の配向軸(長手方向軸線)Aと出射光の光軸とがなす角度である。
【0041】
配列周期dと入射光の波長λが定まった散乱フィルム1では、ブラックの反射条件を満たす入射角αで入射光が入射したとき、入射光に対する作用が最大となり、入射光は回折される。
本実施形態の散乱フィルム1では、柱状構造体4の傾斜角度に一致しない角度で入射する光については、入射角と出射角度範囲の中心角とが異なる偏角散乱が生じる。
なお、本願では、散乱フィルムFに特定の角度から光を入射させたとき、出射光が観測される角度範囲を、本明細書では「出射角度範囲」と定義する(図12)。
【0042】
さらに、本実施形態の散乱フィルム1は、配列周期8がある範囲内に分布しているため波長依存性が小さく、白色光の分光をほとんど生じない。
【0043】
次に、本発明の好ましい実施形態の散乱フィルム1の製造方法について説明する。
【0044】
本実施形態の散乱フィルム1の製造方法では、板状に配置された未硬化の光重合性組成物10に平行光Lを照射して光重合硬化させ、散乱フィルム1を得ている。
【0045】
光重合性組成物10を板状に配置する方法としては、光重合性組成物10を基材上に塗布することによって配置する方法(図3)、光重合性組成物10を基材間で液密に封入することによって配置する方法(図4)などが挙げられる。
【0046】
基材上に塗布する方法(図3)では、例えば、光重合性組成物10を基材12の一方の面に、均一な厚さで、塗膜表面が平滑となるように、バーコーター、スリットダイコーター、スピンコーター、円コーター、グラビアコーター、CAPコーターなどの既知の方法によって塗布する。
【0047】
また、基材間で液密に封入する方法(図4)では、例えば、下方基材14と上方基材16とに挟まれた空間の周囲にスペーサ18を配置して液密空間20を形成し、この液密空間20内に液体状の未硬化の光重合性組成物10を充填する。
【0048】
上方基材16は、光重合性組成物10を光重合させるときに使用する照射光Lが透過する側であるので、この照射光を吸収しない材料で構成される必要がある。このような材料として、パイレックス(登録商標)ガラスや石英ガラス、フッ素化(メタ)アクリル樹脂や光学グレードのPETなどの透明プラスチック材料などがある。
【0049】
基材12上に塗布あるいは液密空間20内に充填される光重合性組成物10の厚さは、20〜1000μmが好ましく、20〜300μmがより好ましい。光重合性組成物10の厚さが20μm以下であると柱状構造体4を形成させることが困難となり、1000μm以上であると柱状構造体4を厚さ方向に成長させることが困難となるためである。
【0050】
以下、光重合性組成物10について詳細に説明する。
光重合性組成物10には、多官能モノマーが含まれることが好ましい。このような多官能モノマーとしては、(メタ)アクリロイル基を含む(メタ)アクリルモノマーや、ビニル基、アリル基などを含有するものが特に好ましい。
【0051】
多官能モノマーの具体例としては、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、水添ジシクロペンタジエニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、多官能のエポキシ(メタ)アクリレート、多官能のウレタン(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルトリメリテート、ジアリルクロレンデート、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、ジアリルフタレートなどが挙げられ、これらを単独であるいは2種以上の混合物として使用することができる。
【0052】
多官能モノマーは架橋構造を有するため重合度の違いにより密度差が形成されやすく、単独でも柱状構造体4が形成されるが、マトリックス2と柱状構造体4に、より大きな屈折率差をつけるためには、2種以上の多官能モノマーか、後述する単官能モノマー、ポリマー、低分子化合物などとの混合物を用いることが好ましい。
【0053】
光重合性組成物10として2種以上の多官能モノマーあるいはそのオリゴマーを使用する場合には、それぞれの単独重合体としたときに互いに屈折率が異なるものを使用することが好ましく、その屈折率差が大きいものを組み合わせることがより好ましい。
【0054】
回折、偏向、拡散などの機能を高効率で得られるようにする為には屈折率差を大きくすることが必要であり、その屈折率差が0.01以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましい。また、重合過程でモノマーが拡散することにより分布が形成され、屈折率差が大きくなるので、拡散定数の差が大きい組み合わせが好ましい。
【0055】
なお、3種以上の多官能モノマーあるいはオリゴマーを使用する場合は、それぞれの単独重合体の少なくともいずれか2つの屈折率差が上記範囲内となるようにすればよい。また、単独重合体の屈折率差が最も大きい2つのモノマーあるいはオリゴマーは、高効率な回折、偏向、拡散などの機能を得る為に、重量比で10:90〜90:10の割合で用いることが好ましい。
【0056】
また、光重合性組成物10には、上記のような多官能モノマーあるいはオリゴマーとともに、分子内に1個の重合性炭素−炭素二重結合を有する単官能モノマーあるいはオリゴマーを使用してもよい。このような単官能モノマーあるいはオリゴマーとしては、(メタ)アクリロイル基を含む(メタ)アクリルモノマーや、ビニル基、アリル基などを含有するものが特に好ましい。
【0057】
単官能モノマーの具体例としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、フェニルカルビトール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチルサクシネート、(メタ)アクリロイルオキシエチルフタレート、フェニル(メタ)アクリレート、シアノエチル(メタ)アクリレート、トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、トリブロモフェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、p−ブロモベンジル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート化合物;スチレン、p−クロロスチレン、ビニルアセテート、アクリロニトリル、N−ビニルピロリドン、ビニルナフタレンなどのビニル化合物;エチレングリコールビスアリルカーボネート、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレートなどのアリル化合物などが挙げられる。
【0058】
これら単官能モノマーあるいはオリゴマーは、上述したようにマトリックス2と柱状構造体4に、より大きな屈折率差をつけるため、又は散乱フィルム1に柔軟性を付与するために用いられ、その使用量は多官能モノマーあるいはオリゴマーとの合計量のうち10〜99質量%の範囲が好ましく、10〜50質量%の範囲がより好ましい。
【0059】
また、光重合性組成物10には、前記多官能モノマーあるいはオリゴマーと重合性炭素−炭素二重結合を持たない化合物を含む均一溶解混合物を用いることもできる。
【0060】
重合性炭素−炭素二重結合を持たない化合物としては、例えば、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ナイロン等のポリマー類、トルエン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルアルコール、エチルアルコール、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランのような低分子化合物、有機ハロゲン化合物、有機ケイ素化合物、可塑剤、安定剤のような添加剤等が挙げられる。
【0061】
これら重合性炭素−炭素二重結合を持たない化合物は、光重合性組成物の粘度を調節し取り扱い性を良くする為に用いられ、その使用量は多官能モノマーあるいはオリゴマーとの合計量のうち1〜99質量%の範囲とすることが好ましく、取り扱い性も良くしつつ規則的な配列を持った柱状構造体を形成させる為には1〜50質量%の範囲がより好ましい。
【0062】
光重合性組成物10に使用する光重合開始剤は、紫外線などの活性エネルギー線を照射して重合を行う通常の光重合で用いられるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、ベンゾフェノン、ベンジル、ミヒラーズケトン、2−クロロチオキサントン、ベンゾインエチルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、p−t−ブチルトリクロロアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピルフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、ジベンゾスベロンなどが挙げられる。
【0063】
これら光重合開始剤の使用量は、光重合性の材料の総量に対して0.001〜10質量%の範囲とする事が好ましく、散乱フィルム1の透明性を落とさないようにするためには0.01〜5質量%とすることがより好ましい。
【0064】
また、光重合性組成物10には、紫外線吸収剤を配合することができる。紫外線吸収剤を配合することにより、高ヘイズ化することができる。一方で、光重合性組成物10の硬化は、紫外線照射により行われるため、紫外線吸収剤の量は、光重合性組成物10の硬化性を満足させるために制限を受ける。そこで紫外線吸収剤の添加量は、光重合性組成物10、すなわち、光重合性組成物10の合計100質量%に対して、0.01〜2質量%の範囲とする。光重合性組成物10の硬化性と得られる散乱フィルム1の光学特性の両方を満足させるには、光重合性組成物10が100質量%あたり紫外線吸収剤の量を0.01質量%以上とするのが好ましい。また、硬化性を重視する場合には、光重合性組成物10が100質量%あたり紫外線吸収剤の量を2質量%以下とするのが好ましい。紫外線吸収剤の量が少ないと、光学特性面での添加効果が弱くなり、一方、その量が多くなると光重合性組成物10の硬化性が低下し、特に光重合性組成物10が100質量%あたり2質量%を超える場合には、光硬化性が極端に低下する。ここで用いる紫外線吸収剤は、紫外線域に吸収を有する化合物であって、例えば、ベンゾフェノン系のもの、フェニルベンゾトリアゾール系のもの、ヒドロキシベンゾエート系のものなどがある。ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクチロキシベンゾフェノンなどが、フェニルベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−3−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5−メチルフェニル〕ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−4−オクチロキシフェニル)ベンゾトリアゾールなどが、またヒドロキシベンゾエート系紫外線吸収剤としては、例えば、2,4−ジ−tert−ブチルフェニル 3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエートなどが、それぞれ挙げられる。
【0065】
本実施形態の散乱フィルムの製造方法では、板状に配置された光重合性組成物10を、照射光源からの平行光Lで、照射し、光重合性組成物10を光重合硬化させ、マトリックス2内に多数の柱状構造体4が形成された薄膜状の散乱フィルム1を得る。
【0066】
照射光源は、平行光Lを照射可能であることに加えて、照射する平行光Lの進行方向に対する垂直断面内で、平行光Lの光強度分布が略一定であるものを用いる。具体的には、点光源や棒状光源からの光を、ミラーやレンズなどにより光強度分布が略一定(ハット型分布)の平行光Lとしたもの、あるいはVCSELなどの面状光源などを使用することができる。柱状構造体4は平行光Lの進行方向に成長して形成されるため、平行光Lの広がり角(平行度)は±0.03rad以下であるものが好ましい。なお、レーザ光線は平行度の点では好ましい光源であるが、その光強度分布がガウス型の分布を有しているため、適当なフィルタなどを用いて光強度分布を略一定にして使用することが好ましい。
【0067】
照射光源は、照射エリアを複数の領域に分割して(例えば9領域)、各領域の光強度を測定し、式(3)で与えられる照度分布の値が、2%以下であるものを用いている。より好ましくは、1%以下であるものを用いている。

照度分布=(最大値−最小値)/(最大値+最小値)×100 ・・・(3)

照射強度は0.01〜100mW/cm2の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.1〜20mW/cm2の範囲である。照度が0.01mW/cm2以下であると重合が完了せず、100mW/cm2以上であると柱状構造体4が形成されずに重合が完了してしまう。
【0068】
さらに、本実施形態の散乱フィルムの製造方法では、平行光Lは、板状に配置された光重合性組成物10の表面に直交する方向(法線方向)対して所定角度、傾斜した状態で光重合性組成物10の表面に照射される。このような照射によって、重合硬化した光重合性組成物である散乱フィルム1中では、各柱状構造体4が、その長手方向軸線が照射光(平行光L)の光軸と一致する方向に延びるように形成されている。
【0069】
したがって、照射光の照射角度を変更することによって、散乱フィルム1中での柱状構造体4の傾斜角度を調整することが可能となる。
例えば、平行光Lの入射角度の調整は、図5に示すように、光重合性組成物を所定の角度傾けた状態で、真上から光照射する方法でもよいし、図6に示すように、光重合成組成物を水平に固定した状態で、照射光源を傾斜させて平行光を斜め方向から照射する方法でもよい。
【0070】
この際、空気から光重合性組成物10に平行光Lを入射した場合に屈折が生じるため、平行光Lと光重合性組成物10がなす角度と柱状構造体4の傾斜角度が異なることに注意する必要がある。
【0071】
光重合性組成物10を基板12上に板状に配置する方法(図3)では、酸素による重合阻害を防ぐため、光照射は不活性ガス雰囲気下で行うことが望ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素などが用いられる。ただし、不活性ガスを用いる目的は酸素を追い出すことであり、酸素を含まない組成の気体であれば他の気体でもよい。
【0072】
このようにして得られた散乱フィルム1は、基質であり板状の透明なマトリックス2と、このマトリックス2中に配置された多数の透明な柱状構造体4とを備えた相分離構造を有しており、複数の柱状構造体4は、フィルム法線(フィルム表面に直交する方向)に対し、照射光の照射角度に応じた角度だけ、傾斜して略同一方向に配向され、柱状構造体4の傾斜角度と異なる角度で入射する光については、入射角と出射角度範囲の中心角とが異なる偏角散乱性を有する。
【0073】
したがって、照射光の照射角度を変更することによって、柱状構造体4の傾斜角度が異なった散乱フィルム1を製造することができる。
【0074】
次に、上述したような構成を有する散乱フィルムを積層することによって構成されている、本発明の好ましい実施形態の光制御フィルムについて説明する。
【0075】
図7は、本発明の好ましい実施形態の光制御フィルムの構成を示す模式的な図面である。図7において、(a)の光制御フィルム30は2枚の散乱フィルム32、34を積層した構成である、(b)の光制御フィルム36は3枚の散乱フィルム38、40、42を積層した構成である。図7においても、図2と同様に、散乱フィルム中の柱状構造体4の記載を省略し、長手方向軸線のみを実線(A’)で示している。
【0076】
同一散乱フィルム内では、柱状構造体は、全て散乱フィルムの法線方向に対し一定角度傾斜した状態で配向され、各散乱フィルム中の柱状構造体の傾斜角度が、光入射面側(一方の側)のフィルムから、出射面側(他方の側)のフィルムに向けて段階的に変化している。
【0077】
即ち、本実施形態の光制御フィルム30では、柱状構造体の傾斜角度がθ1の散乱フィルム32と、柱状構造体の傾斜角度がθ2の散乱フィルム34とが、散乱フィルム32、34中の柱状構造体の傾斜角度が光入射面側から出射面側に向けて段階的に変化するように、積層されている。
【0078】
また、本実施形態の光制御フィルム36では、柱状構造体の傾斜角度がθ1の散乱フィルム38と、柱状構造体の傾斜角度がθ2の散乱フィルム40と、柱状構造体の傾斜角度がθ3の散乱フィルム42とが、散乱フィルム38、40、42中の柱状構造体の傾斜角度が光入射面側から出射面側に向けて段階的に変化するように、積層されている。
【0079】
このように、本実施形態の光制御フィルムでは、光制御フィルムを構成する散乱フィルム内の柱状構造体の傾斜角度が、光制御フィルムの厚さ方向にわたって段階的に変化していく構成、詳細には、柱状構造体の傾斜が、光入射面(散乱フィルム32、または38)側すなわち一方の側から、光出射面(散乱フィルム34、または42)側すなわち他方の側に向けて段階的に減少する構成となっている。
この結果、光入射面の散乱フィルム32、または38に傾斜角度θ1に概ね近い角度で入射した光を、光出射面の散乱フィルム34、または42から傾斜角度θ3に概ね近い角度で出射させることができる。
【0080】
次に、本実施形態の光制御フィルムの作用について、3枚の散乱フィルムを積層した光制御フィルム36を例に、図8に沿って説明する。図8は、光制御フィルム36の分解図である。
【0081】
図8に示すように、光入射面側である散乱フィルム38の内部の柱状構造体の傾斜角度θ1より大きい角度αで入射した光は、偏角散乱性によって内部の柱状構造体に沿った方向に強く散乱され、入射光とは異なる角度βを中心に出射散乱される。このとき、α>βとなる。
【0082】
散乱フィルム38によって偏角散乱された光は、角度βを中心に散乱フィルム40に入射する。このとき、角度βで入射した光は、散乱フィルム40の偏角散乱性によって、角度γを中心に出射される。このとき、β>γである。
【0083】
散乱フィルム40の柱状構造体の傾斜角度θ2は、散乱フィルム38から角度βを中心に出射される出射光を散乱フィルム40の柱状構造体が偏角散乱させて出射するように、選定される。
【0084】
すなわち、本実施形態の光制御フィルムに用いられる散乱フィルムは入射角依存性を有し、入射光の入射角度が柱状構造体の傾斜角度に概ね近い場合、広域に入射光を散乱させることができる。そのため、所定の角度で散乱フィルム38に入射し、角度βを中心に出射した出射光が、散乱フィルム40によって偏角散乱されるように、角度βの値に応じてθ2が調整される。
【0085】
散乱フィルム42の柱状構造体の傾斜角度θ3は、散乱フィルム40から角度γを中心に出射される出射光を散乱フィルム42の柱状構造体が偏角散乱させて出射するように、選定される。
【0086】
このように、偏角散乱性を有する複数枚の散乱フィルムを、柱状構造体の傾斜角が段階的に変化するように積層することによって、散乱フィルム単体では達成困難な大きな偏角散乱性を発現させることができる。
【0087】
散乱フィルム間の柱状構造体の傾斜角度の角度差Δθ(θ1−θ2)は、各散乱フィルムの光学特性に応じて適宜、選択される。また、θ1の値は、偏角散乱させたい入射光の入射角度に応じて適宜、選択される。θ2の値は、一枚目の散乱フィルム38によって偏角散乱された光の出射角度に応じて適宜、選択される。
【0088】
具体的には、1枚目の散乱フィルム38の出射角度範囲の中心角が、2枚目の散乱シート40が変更散乱させることができる入射角範囲内になるように、θ2が設定される。このように構成することで、1枚目の散乱フィルム38の一番強度の強い0次回折光を、2枚目の散乱フィルム40で効率的に偏角散乱できる。
【0089】
角度差Δθが大きい方が、より偏角機能が高い光制御フィルムとなって有利であるので、偏角散乱の機能を考慮すると角度差Δθは可能な限り大きくすることが好ましい。
【0090】
ここで角度差Δθが小さいと、1枚目の散乱フィルム38の出射角度範囲と2枚目の散乱シート40が偏角散乱させることができる入射角範囲とが重なる範囲も広いが、Δθが大きくなると、Δθがある値のときに、1枚目の散乱フィルム38の出射角度範囲と、2枚目の散乱フィルム40の入射角度範囲が、重ならなくなる。この重ならなくなるΔθが、実施形態の散乱フィルムだとΔθ=15〜20度程度である。
【0091】
このように、角度差Δθが20度よりも大きいと、入射面側の散乱フィルムにより偏角された光が、隣接して配置された散乱フィルムによって偏角されず、所望の方向に出射光を偏角できなくなる等の問題が生じる。
一方、角度差Δθが5度以下であると、入射光の偏角が小さく、入射光を所望角度の偏角が行えない、積層枚数が増えることで光制御フィルムが必要以上に分厚くなる等の問題が生じるためである。
【0092】
1枚目の散乱フィルム38の出射角度範囲と2枚目の散乱フィルム40の入射角度範囲との関係、並びに偏角散乱の効率を勘案すると、標準的な散乱フィルムの場合、角度差Δθは5〜20度の範囲であることが好ましく、より好ましくは10〜15度の範囲である。
【0093】
なお、3枚目の散乱フィルム42を併せて使用する場合、Δθ=θ2−θ3についても角度差が5〜20度の範囲であることが好ましく、より好ましくは10〜15度の範囲である。
【0094】
散乱フィルムの積層枚数が多いほど、偏角散乱性が高い光制御フィルムが得られ有利である。ただし、積層枚数が増えるに従い、偏角機能は高まるが全光線透過率は減少するので、表示装置に用いた場合、観察に適した方向に届く光量は減少する。そのため、積層枚数は2〜3枚程度が好ましい。各散乱フィルムの厚さは、散乱フィルムの製造の簡便性の観点から、20μm〜1000μmとすることが好ましく、50μm〜300μmとすることがより好ましい。
【0095】
上述した通り、本実施形態に用いる散乱フィルムは、全て入射角依存性を有しているため、これら散乱フィルムを積層して形成した本実施形態の光制御フィルムも入射角依存性を有している。
【0096】
本実施形態の光制御フィルムは、上述したような散乱フィルムを複数枚、積層することにより得られる。散乱フィルムを積層する方法としては、例えば、別々に作製した散乱フィルムを、透明な接着剤、両面接着フィルム等の媒体を介在させて積層する方法がある。また、このような媒体を介在させない方法としては、例えば、1枚目の散乱フィルムを基材として、その上に光重合性組成物を膜状に形成し、そこに特定方向から光を照射して硬化させることにより、一枚目の散乱フィルム上に直接、2枚目の散乱フィルム1に形成する方法がある。
【0097】
以下、本実施形態の光制御フィルム30、36の用途について説明する。
次に、図9に沿って、本実施形態の光制御フィルム30、36を用いたレーザーディスプレイ装置50について詳細に述べる。
【0098】
図9は、レーザーディスプレイ装置50の構成を示す模式的な図面である。レーザディスプレイ装置50は、赤、緑、青の波長の光をそれぞれ出射する単色レーザ光源R、G、Bと、これら単色レーザ光源R、G、Bのそれぞれから出射された単色光を合成する光合成光学系52と、合成光学系52で合成された光を走査する光走査ユニット54と、光走査ユニットからの光が投影されるスクリーン56とを備えている。
【0099】
光走査ユニット54は、光を水平、垂直それぞれに走査するミラーを備え、走査された光がスクリーン56に投射される。
【0100】
本実施形態のレーザディスプレイ装置50では、単色レーザ光源R、G、Bと、合成光学系52と、光走査ユニット54とによって構成されるレーザ光源装置によって、スクリーン56に対して斜め下方向からレーザ光が投射される。なお、レーザ光が斜め上方からスクリーン56に投射される構成でもよい。
【0101】
レーザーディスプレイ装置50の奥行きは、レーザ光の投射角度によって決まるため、薄型化を図るためには、投射角度を大きくする必要がある。投射角度(仰角または俯角)は約30〜85度である。視聴者は、スクリーン56に対して、水平方向に対し上下±10度方向からスクリーン56を眺めることになるため、スクリーン56には、レーザ光の投射方向(約30〜85度)から観察方向(約10度)まで、光を偏角散乱させる機能が求められる。
【0102】
本実施形態のレーザーディスプレイ装置50では、スクリーン56に、上記実施形態の光制御フィルム30または36を使用し、レーザ光を、その投射方向(約30〜85度)から観察方向(約10度)まで散乱させ、観察角度内で鮮明な映像を得ることができる。
【0103】
具体的には、レーザーディスプレイ装置50では、レーザ光の投射角度が仰角30度であり、スクリーン56として、スクリーンの法線角度に対して10度の傾斜角度を有する光制御フィルが用いられ、投射されたレーザ光をスクリーンの法線方向±10度の範囲へ効率よく偏角散乱させている。
【0104】
次に、図10に沿って、本実施形態の光制御フィルム30、36を用いたプロジェクションディスプレイシステム60について詳細に述べる。図10は、プロジェクションディスプレイシステム60の構成を模式的に示す概略図である。
【0105】
プロジェクションディスプレイ60は、所謂リアプロジェクションシステムであり、プロジェクションスクリーン62と、このプロジェクションスクリーン62の背面側斜め下方から画像を投影する短焦点プロジェクター(投射光学系)64との組合せからなる。
【0106】
プロジェクションスクリーン62は、上記実施形態の光制御フィルム30または36を備え、短焦点プロジェクター64からの投影光を光制御フィルム30または36で偏角散乱させている。
【0107】
プロジェクションスクリーン62への投影光は、スクリーンの法線方向に対して傾斜した方向(斜め上方または斜め下方等)から入射するため、スクリーンの拡散板には傾斜方向から入射した光を法線方向に偏角散乱させる機能が要求される。
【0108】
プロジェクションスクリーン62では、短焦点プロジェクター64を使用して、非常に短い投射距離からスクリーンに投影しているが、スクリーンに対する投射距離が短くなれば、スクリーンに対する投影光の入射角度は大きくなる。したがって、プロジェクションスクリーン62では、スクリーンに、投影角度から観察角度まで光を偏角散乱させる機能が求められる。
【0109】
このため、プロジェクションスクリーン62では、光制御フィルム30または36を用いることによって、投射光を偏角拡散させ、観察角度内で鮮明な映像を得ている。
【0110】
具体的には、プロジェクションディスプレイ60では、投射光学系として投射角度がスクリーンの法線に対して30度の短焦点プロジェクター64を使用し、スクリーン56として10度の傾斜角度を有する光制御フィルムを使用することによって、投射されたレーザ光をスクリーンの法線方向±10度の範囲へ効率よく偏角散乱させている。
【0111】
また、光制御フィルムの光入射側とは逆側に反射版を配置して、反射型プロジェクションスクリーンとしてもよい。
【0112】
次に、図11に沿って、本実施形態の光制御フィルム30、36を用いたバックライトシステム70について詳細に述べる。図11は、バックライトシステム70の構成を模式的に示す概略図である。
【0113】
バックライトシステム70は、携帯用ノートパソコン、デスクトップパソコンのモニター、携帯用テレビあるいはビデオ一体型テレビ等の画像表示手段として使用されるカラー液晶表示装置等のためのバックライトシステムである。
【0114】
バックライトシステム70は、LED、CCFL等の光源72と、光源72に一端面が隣接するように配置された導光板74と、導光板の上方の配置された上記実施形態の光制御フィルム30を備えている。光制御フィルム30は、従来のバックライトシステムにおけるプリズムシートに代えて配置されている。
【0115】
光源72から光は、一端面から導光板74に入射し、導光板74内を伝搬しながら、導光板74の上面の出射面74aから角度δで出射される。この角度δで出射された光は、光制御フィルム30によって法線方向に偏角散乱される。
【0116】
このようなバックライトシステムでは、部材点数が削減され、プリズムシート特有の課題であるモアレ、スティッキング等のノイズが発生しないため、画像品位の向上にも寄与することができる。
【0117】
さらに、上記実施形態の光制御フィルムを用いることで、バックライトの視野角特性の制御、例えば視野角の拡大や、法線方向ではない特定の方向に偏角散乱させることによる視野角の制御が可能である。
【0118】
本発明は、前記実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内で種々の変更、変形が可能である。
【実施例】
【0119】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0120】
(散乱フィルムの作製)
単官能モノマーとしてベンジルアクリレートを、多官能モノマーとして分子量が536のポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)を用いた。開始剤種としては、Irgacure 369(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を用いた。また、照射波長はバンドパスフィルタを使用して365nmにピークを持つ波長を用いた。
【0121】
ベンジルメタクリレート20質量%とPEGDMA80質量%の混合物に対し開始剤を1.0質量%加え、光重合性組成物を得た。得られた光重合成組成物に紫外線を照射した。スライドガラスとカバーガラスの間に0.2mmのシリコン製スペーサを配置し、前記光重合性組成物をスペーサ内部に封入させ、カバーガラスの上部にバンドパスフィルタを設置した。続いて、水銀キセノンランプからの平行光をカバーガラス側から照射し、光重合性組成物を重合させてフィルムを得た。柱状構造体の配列周期の平均値は5μm、柱状構造体のアスペクト比の平均値は40であった。
【0122】
平行光を照射する際、前記重合性組成物を平行光に対して傾斜させて照射することで、入射角度を調製して内部の柱状構造体を傾斜させて作製することができる。入射角度を変えて内部構造の傾斜角度を以下の6段階に制御し、サンプルi〜viとした。このサンプルi〜viのフィルムの法線方向に対する傾斜角度を表1に示す。
【表1】

【0123】
上記サンプルi〜vi中の2、または3種を組み合わせて積層し、光制御フィルムを作製した。
(実施例1)
散乱フィルム1にサンプルi、散乱フィルム2にサンプルiiを使用して積層し、光制御フィルムを作製した。
【0124】
(実施例2)
散乱フィルム1にサンプルi、散乱フィルム2にサンプルiiiを使用して積層し、光制御フィルムを作製した。
【0125】
(実施例3)
散乱フィルム1にサンプルi、散乱フィルム2にサンプルivを使用して積層し、光制御フィルムを作製した。
【0126】
(実施例4)
散乱フィルム1にサンプルi、散乱フィルム2にサンプルiii、散乱フィルム3にサンプルvを使用して積層し、光制御フィルムを作製した。
【0127】
(実施例5)
散乱フィルム1にサンプルi、散乱フィルム2にサンプルiii、散乱フィルム3にサンプルviを使用して積層し、光制御フィルムを作製した。
【0128】
前記実施例1〜5の光制御フィルムについて、散乱フィルム1と散乱フィルム2との傾斜角度差及び、散乱フィルム2と散乱フィルム3との傾斜角度差を表2に示す。
【表2】

【0129】
(評価法及び評価結果)
前記実施例1〜5について、ゴニオフォトメータGP−200((株)村上色彩技術研究所製)を用いて、入射角度が50°のときの散乱光分布を測定した。散乱光分布のグラフから、各々のサンプルの出射角度範囲を求めた。比較例として、サンプルi単体の出射角度範囲も測定した。測定方法を図12に示す。結果を表3に示す。
【0130】
【表3】

【0131】
表3に示すように、実施例1〜5及び比較例の光制御フィルムは、その出射角度範囲の中心が入射角度50度とは異なることが分かる。比較例の光制御フィルムは、出射角度範囲の中心が入射角度に対し5度程度の差であるのに対し、実施例1〜5の光制御フィルムは、出射角度範囲の中心が入射角度に対し10度以上の差を有していることが分かる。
【0132】
以上、実施例からも明らかなように、積層する散乱フィルムの傾斜角度の差を好ましい範囲内に設定することで、偏角性に優れた光制御フィルムを提供することができた。
【符号の説明】
【0133】
1:散乱フィルム
2:マトリックス
4:柱状構造体
30、36:光制御フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の散乱フィルムが積層された光制御フィルムであって、
前記散乱フィルムは、光重合性組成物の硬化物からなる板状のマトリックスと該マトリックス中に配設され該マトリックスと屈折率が異なる複数の柱状構造体とを備え、
同一の散乱フィルム内では、前記各柱状構造体が、該散乱フィルムの法線方向に対し一定角度で傾斜し略平行に配向され、
前記傾斜角度が、一方の散乱フィルムから他方の散乱フィルムに向けて段階的に変化し、
前記光制御フィルムへの光の入射角と、散乱光の出射角度範囲とが異なる、
ことを特徴とする光制御フィルム。
【請求項2】
前記各散乱フィルムは、単独重合して得られる単独重合体の屈折率に差がある少なくとも2種類の光重合可能なモノマー又はオリゴマーを含有する組成物に光を照射して硬化させたものである、
請求項1に記載の光制御フィルム。
【請求項3】
請求項1ないし2のいずれかに記載の光制御フィルムを備えている、
ことを特徴とするスクリーン。
【請求項4】
請求項3に記載のスクリーンと、前記スクリーンに対して斜め下方向もしくは斜め上方向からレーザ光を投射するレーザ光源装置とを備えている、
ことを特徴とするレーザーディスプレイ。
【請求項5】
請求項3に記載のスクリーンと、前記スクリーンに対して斜め下方向または斜め上方向から映像光を投射する投影光学系とを備えている、
ことを特徴とするプロジェクションディスプレイシステム。
【請求項6】
一次光源と、該一次光源から発せられた光が入射する入射端面を有し入射した光を導光し更に導光された光の少なくとも一部が出射する光出射面を有する導光体と、前記光出射面に隣接して配置された請求項1ないし2のいずれかに記載の光制御フィルムと、を備えている、
ことを特徴とするバックライトシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−19988(P2013−19988A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151720(P2011−151720)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】