説明

光力学的治療法に使用するための光増感剤組成物

【課題】経口投与によって選択的に癌組織へ蓄積され、貯蔵時および投与時安定な、5−アミノレブリン酸を含む光力学的治療法に使用するための光増感剤組成物を提供する。
【解決手段】経口投与に適した液体担体中(特に、生理食塩水)に、平均一次粒子径50nm以下の酸化チタン微粒子に担持させた5−アミノレブリン酸を溶解してなる癌の光力学的治療法に使用するための光増感剤組成物。励起波長としては、635nm、405nmが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光力学的治療法に使用するための光増感剤組成物に関する。詳しくは、経口投与によって標的病巣部に選択的に蓄積され、特定の励起波長の光で照射することによって病巣部を治療する光力学的治療法に使用するための光増感剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光力学的治療法(以下「PDT」と略す。)は、光増感剤が投与された病巣部、特に癌を光増感剤の励起波長を有する光で照射し、この照射により発生する一重項酸素(活性酸素)による細胞破壊を利用して癌治療を行う療法である。もし投与された光増感剤が選択的に病巣部に蓄積されずに正常組織にまで分布することになれば、近隣の正常細胞の破壊や皮膚に集積した光増感剤による光過敏症などの副作用が発生する。
【0003】
PDTに使用される光増感剤の多くは4個のピロール環を有するポルフィリン化合物である。ポリフィリン化合物は投与された場合本来腫瘍組織に局在されるといわれているが完全ではなく、ポリフィリン化合物自体の化学的修飾、リポソームへの組込み、特別の器具を使用して標的部位への局所投与などによって病変部位への選択的集積を高める工夫が必要である。
【0004】
また、光増感色素の生体内での分解を防止し、安定性を高めるため色素をナノサイズの酸化チタンに担持させて投与することが提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開平6−122628号公報
【特許文献2】特表平11−509834号公報
【特許文献3】特開2002−212455号公報
【特許文献4】特開2003−261787号公報
【特許文献5】特開2004−10565号公報
【特許文献6】特表2004−513948号公報
【特許文献7】特開2006−34375号公報
【特許文献8】特開2006−167046号公報
【特許文献9】特開2006−151927号公報
【0006】
特許文献9は、ポリフィリン化合物に代ってその前駆体である5−アミノレブリン酸(「5−ALA」と略称)をPDTに使用することを提案している。
【0007】
5−ALAは生体内においてグリシンとスクシニルCoAから生合成され、次にヘム生合成経路において光増感性のプロトポルフィリンIX(「Pp−IX」と略称される。)に変換される。体外で合成された5−ALAを投与すると体内でのPp−IXの生産が増加してその細胞内蓄積濃度が高まり、直接投与されたポルフィリン化合物と同様なメカニズムによってPDTにおいて癌細胞を破壊する。5−ALAは高濃度の溶液またはエマルジョンの形で皮膚に局所投与される。しかしながら標的細胞へ選択的に送達できる5−ALAの量は皮膚からの深さに依存し、すべての腫瘍組織に対して効果的に適用できない。
【0008】
もし局所投与ではなく、経口投与によって5−ALAを標的細胞へ送達することが可能になればそのような制限はなくなる。ところが5−ALAは中性ないし塩基性pH域では不安定な化合物であるため、経口投与された5−ALAが十二指腸および小腸から吸収される前に分解される。このため5−ALAを消化管内での分解から保護する一方で、他方使用前の貯蔵においても安定でなければならない。
【0009】
それ故、5−ALAを有効成分とするPDTに用いる光増感剤組成物であって、貯蔵中および投与後消化管からの吸収までの期間5−ALAの安定性が確保され、経口投与により選択的に標的腫瘍組織へ5−ALAを送達することができる組成物の提供が要望される。
【発明の開示】
【0010】
上記要望は本発明の組成物によって満たされる。本発明によれば、中性チタニアゾルの希釈液中に5−ALAを溶解してPDTのための光増感剤として用いる。5−ALAは中性チタニアゾル中のナノサイズのTiO粒子に担持(吸着)されて安定化され、これまでの経皮投与用の高濃度の5−ALA(少なくとも数%のオーダー)よりも遥かに低い濃度において有効量の5−ALAを選択的に標的組織へ送達することができる。
【0011】
好ましい具体例においては、中性チタニアゾルは一次粒子径50nm以下の水和リン酸チタン化合物で被覆された解膠酸化チタンのゾルであり、特開2000−290015号公報に開示され、テイカ(株)からTKS−203の銘柄で市販されている。
【0012】
好ましい具体例においては、5−ALA水溶液と中性チタニアゾル水分散液を超音波混合し、移動相の二層境界面に出現する親和性成分を向流クロマトグラフィーによって分画して用いる。
【0013】
このように調製された本発明の光増感剤組成物は、癌を移植したマウスに経口投与した後、腫瘍組織のラマン分光顕微鏡マッピング像により腫瘍組織内に分布した酸化チタンナノ粒子を確認することができる。
【0014】
PDTは本発明の光増感剤組成物を経口投与し、3〜4時間後635nm(5−ALAの励起波長)のレーザーで標的病巣部を照射する。レーザー照射と同時に超音波照射を併用することにより、単独照射よりも相加的抗腫瘍効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
通常チタニアゾルは、含水酸化チタンを塩酸または硝酸のような強酸で解膠して製造される。このものは解膠剤の酸を含むため強酸性であり、このものを単に中和して酸成分を除去すると分散粒子が凝集し、ゾルを形成しなくなる。ゾルへ安定剤を添加した後、アルカリ中和またはイオン交換によって中性化することができるが、好ましい中性チタニアゾルは特開2000−290015に記載されている、水和リン酸チタン化合物で被覆された解膠TiO粒子の中性ゾルである。このものは無色透明であり、波長400〜700nmにおいて高い光透過率を有するので、光増感剤のキャリヤーとして最適である。このTiO結晶子径6nm(名目値)を持つアナタース形のリン酸チタン化合物被覆中性チタニアゾルは、テイカ(株)からTKS−203の銘柄で市場において入手することができる。ベストではないが市場で入手でき、匹敵する結晶子径を有する他の中性チタニアゾルを使用することもできる。
【0016】
光増感剤組成物は、生理食塩水のような経口投与に適した担体中に中性チタニアゾルと5−ALAを溶解した溶液である。副作用を避けるため溶液の5−ALAおよびそれを担持するTiOナノ粒子の濃度は、正常組織と腫瘍組織との取り込みコントラストが得られる濃度であれば充分であり、中性チタニアゾルTKS−203の場合、例えば投与直前濃度において5−ALAは10μM、TiOは0.002wt%で充分である。しかしながら5−ALAとTiOとをこの比で含む高濃度ストック溶液として提供し、投与直前に生理食塩水で所望最終投与濃度に希釈して用いることもできる。
【0017】
5−ALAを担持したTiOナノ粒子の親和性成分を向流クロマトグラフィーによって分画して用いることもできる。これは5−ALA水溶液と中性チタニアゾル水分散液を超音波混合し、移動相のブタノール:酢酸:水混合溶媒(4:1:5)の二層境界面に出現する親和性成分を向流クロマトグラフィーにより分画することによって行うことができる。
【0018】
PDTは、投与直前濃度に調節された5−ALAとTiOナノ粒子を含む溶液を患者へ経口投与し、3〜4時間経過後、波長635nmのレーザーで病巣部を照射することによって実施される。毎回のレーザー照射線量は50〜200Jが適当である。この時レーザー照射と同時に例えば1MHzの超音波照射を併用することにより単独照射よりも抗腫瘍効果が向上する。光増感剤組成物溶液の投与と、レーザー単独または超音波併用照射は充分な抗腫瘍効果が得られるまで連続して又は間歇的に繰返すことができる。LDを使った波長635nmのレーザー照射に代えてパルスレーザーで照射しても良い。
【0019】
中性チタニアゾルのナノTiOに担持された5−ALAは、経口投与によってPp−IXの形で選択的に腫瘍細胞に蓄積される。この現象を利用して本発明の光増感剤組成物は癌の光力学的診断(PDD)に応用することができる。この場合は光増感剤組成物を経口投与した後、波長405nmのレーザーで照射し、励起したPp−IXから発射される蛍光スペクトルを自然蛍光波長(500nm)で基準化し、蛍光スペクトルの強度とPp−IXの蓄積量を相関させる。この蓄積量から腫瘍組織のサイズ、位置等を知ることができる。
【実施例】
【0020】
第I部 光増感剤組成物溶液
10mM 5−ALA水溶液100μLと、TiOとして0.2%の中性チタニアゾル(TKS−203)希釈液10μLとを合し、適量の生理食塩水を加えて全量を1mLとした。
【0021】
第II部 SCC移植マウスPDT実験
雄性C3H/Heマウス(7週令、体重約20g)の後背部を剃毛し、ヒト扁平上皮癌(SCC)細胞浮遊液0.1mL(細胞数10−10個)を皮下に注入し、SCCを移植した。
【0022】
SCC移植したマウスを1群5匹(n=5)よりなる4グループに分け、グループ1および2には第I部で調製した光増感剤組成物溶液を10μL/g体重の投与量で経口投与した。
【0023】
グループ3には10mM5−ALA溶液100μLを生理食塩水で全量1mLとした5−ALA溶液を10μL/g体重の投与量で経口投与した。
【0024】
グループ4(対照群)には生理食塩水を同じ投与量で経口投与した。
【0025】
投与4時間後、グループ1のマウスの病巣部を波長635nmのレーザーで照射し(線量150J)、同時に1MHzの超音波で照射した。
【0026】
グループ2,3および4のマウスに対しては、波長635nmのレーザーを線量150Jまで照射した。
【0027】
上の操作を経過日数21日まで繰り返し、3日毎に患部の大きさを測定し、初期値と比較して腫瘍の成長(増加)体積(cm)を算出した。結果を表1に示す。腫瘍の成長体積(cm)は各グループの平均値(n=5)である。
【0028】
【表1】

【0029】
表1の結果から、PDTにおいてグループ3の5−ALA単独投与に比較して5−ALA/TiOの投与(グループ1,2)が高い抗腫瘍効果を示すことが明らかであり、この抗腫瘍効果は超音波照射の併用によりレーザー単独照射よりも大きいことを示している。
【0030】
また、超音波照射併用による効果は、処置したマウスの生存率にも表れている。すなわちグループ1のマウスの80%が少なくとも40日まで生存したのに対し、グループ2のマウスの生存日数40日の生存率は50%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経口投与に適した液体担体中に、平均一次粒子径50nm以下の酸化チタン微粒子に担持させた5−アミノレブリン酸を溶解してなる癌の光力学的治療法に使用するための光増感剤組成物。
【請求項2】
平均一次粒子径50nm以下の酸化チタン微粒子は、リン酸チタン化合物で被覆した解膠酸化チタンである請求項1の光増感剤組成物。
【請求項3】
経口投与に適した液体担体は生理食塩水である請求項1または2の光増感剤組成物。
【請求項4】
液体担体中の5−アミノブリン酸の濃度は少なくとも1mMであり、酸化チタンの濃度は少なくとも0.002wt%である請求項1ないし3のいずれかの光増感剤組成物。
【請求項5】
励起波長が635nmである請求項1ないし4のいずれかの光増感剤組成物。
【請求項6】
励起波長が405nmである請求項1ないし4のいずれかの光増感剤組成物。

【公開番号】特開2008−208072(P2008−208072A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46640(P2007−46640)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)
【Fターム(参考)】