説明

光励起半導体及びそれを用いたデバイス

【課題】光照射により励起して、光触媒として機能できる光励起半導体を提供する。
【解決手段】本発明の光励起半導体は、ペロブスカイト型酸化物の半導体であって、一般式:BaZrx1-x3(式中、Mは、最高価数が4価をとるZr以外の元素から選択される少なくとも何れか1種の元素であり、xは0よりも大きく1未満の数値である。)で表される組成を有する。一般式:BaZr1-xx3において、xは、0よりも大きく0.5以下の数値であることが好ましい。Mは、例えばSn、Ge、Si及びPbからなる群から選択される少なくとも何れか1種が好ましく、Sn及びGeからなる群から選択される少なくとも何れか1種がより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光励起半導体と、それを用いたデバイスとに関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸ガス排出削減、エネルギーのクリーン化の観点から、水素エネルギーシステムが注目されている。水素をエネルギー媒体に使うことにより、燃料電池で電気や熱、直接燃焼で熱や動力として使用できる。この時、最終生成物は無害で安全な水となり、クリーンなエネルギー循環サイクルが創出できる。エネルギー媒体としての水素は、天然にも存在するが、ほとんどは、石油や天然ガスから触媒によるクラッキングにより製造される。また、水を電気分解することによって水素と酸素とを製造することも可能であるが、電気分解するための電気エネルギーが必要であり、根本的な解決策とはいえない。なお、太陽電池によって光エネルギーを電気に変え、その電力で電気分解するシステムも可能である。しかし、太陽電池の製造コスト、エネルギー消費量及び蓄電技術を考慮すると、このようなシステムを利用する水素の製造方法は、必ずしも有効な方法とはいえない。
【0003】
これに対し、光触媒を用いた水素生成は、水と太陽光とから直接水素を製造するシステムであり、太陽光エネルギーを有効に水素エネルギーに変換できる(特許文献1、2及び3参照)。ただし、代表的な光触媒のアナタース型の酸化チタンを用いても、太陽光変換効率は0.5%程度であり、まだまだ効率を向上させる必要がある。太陽光変換効率を向上させる手段の一つとして、材料の可視光励起化が挙げられる。したがって、材料の可視光励起化、すなわち可視光応答型光触媒材料の開発が待たれている。一方、効率良く水素を製造するセル、デバイス及び装置の検討もされつつある。これらを大きく分けると、粉末式と電極式とに分けられる。
【0004】
粉末式は、水溶液に直接粉末化した光触媒材料を分散させて、光触媒材料の粒子に光を照射することによって水素と酸素とを生成させ、一定量のガスが生成したところで、酸素と水素とを互いに分離して取り出す方式である。一方、電極式では、光触媒材料をITO(Indium Tin Oxide)膜や導電性基板上に塗布することによって成膜し、電極化したものを用いる。電極式では、この光触媒膜が設けられた電極と、対極として機能する白金板等の導電体とを導線で接続し、光触媒膜が設けられた電極に光を照射することによって当該電極で酸素を発生させ、酸素発生と同時に励起した電子を対極に導いて、対極で水素を発生させる。粉末式は構造が簡単で簡便であるが、水素と酸素との分離が困難であるため、効率が低下する。電極式では、水素と酸素とが別々の極で発生するので水素と酸素との分離は簡単であるが、光触媒材料を電極に成形するという制約が発生する。
【0005】
また、上記のような水素をエネルギー媒体に使うシステムと同様に、太陽光を直接電気に変換するデバイスである太陽電池も、エネルギーのクリーン化という観点から非常に注目されている。太陽電池は、通常、p型半導体とn型半導体とを貼り合わせ、p型半導体とn型半導体との間に生じる光起電力を電気として取り出す仕組みである。太陽電池では、中心となる半導体材料としてSi結晶体又はアモルファスSiが用いられ、これにドーパントを添加してn型半導体とp型半導体とが作製されていた。
【0006】
さて、現状、水を分解して水素及び酸素を生成できる光触媒性能を持ち合わせた化合物は少なく、稀である。可視光励起の光触媒に関しては、水分解可能な光触媒として、Ta35、Ag3VO4等が報告されているが、その数は非常に少なかった。そこで、太陽光(紫外光−可視光)を吸収して励起し、なおかつ、水を水素と酸素とに分解できる光触媒材料のさらなる開発が待たれていた。また、材料構造体別にみると、SrTiO3、BaTiO3、CaTiO3及びBaZrO3等のペロブスカイト型酸化物(例えば特許文献1〜5参照)、及び、WO3等の単純酸化物で、光触媒特性が見出されていた(例えば、非特許文献2参照)。しかし、これらの酸化物は、太陽光変換効率という点で充分ではなく、水分解可能でかつ可視光で励起する酸化物も少なかった。また、油脂や有機物を分解する、あるいは部分酸化又は部分還元する光触媒としても、太陽光や蛍光灯を利用して有機物を分解できる材料がほとんどないのが現状であった。また、太陽電池用の光励起半導体としても、CdS、CuInS、SiC、Te、Se、In、Ga等カルコゲナイドが使われてきたが、水分に強く、可視光を吸収励起できる酸化物半導体は見つけられていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−24329号公報
【特許文献2】特開平8−196912号公報
【特許文献3】特開平10−244164号公報
【特許文献4】特開2005−103496号公報
【特許文献5】特開2003−155440号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】光機能材料研究会、会報光触媒(第11回シンポジウム)、Vol.15,26−29(2004)
【非特許文献2】Yunpeng Yuanら、International J. of Hydrogen Energy、33、5941−5946(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
光を光触媒に照射して水から水素を生成させるデバイスにおいて、水の酸化還元分解が可能で、かつ太陽光を利用できる光触媒材料は非常に少なかった。また、有機物の分解や、有機物の部分酸化又は部分還元が可能な光触媒材料においても、太陽光や蛍光灯を利用できる光触媒材料がほとんどなかった。また、可視光応答型光触媒材料として今までに報告されているTa35やAg3VO4は、窒化物や銀を用いる材料であるため、コストの点で課題があった。光触媒として、高い吸光性のみならず、コストも考慮に入れた材料開発が必要であった。
【0010】
そこで、本発明は、上記従来の問題点に鑑み、太陽光によって効率良く励起して光触媒として機能できる材料を提供することを目的とする。さらに、本発明は、そのような材料を用いて、太陽光の利用が可能なデバイスを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ペロブスカイト型酸化物の半導体であって、
一般式:BaZr1-xx3
(式中、Mは、最高価数が4価をとるZr以外の元素から選択される少なくとも何れか1種の元素であり、xは0よりも大きく1未満の数値である。)
で表される組成を有する、光励起半導体を提供する。
【0012】
さらに、本発明は、上記本発明の光励起半導体を備えたデバイスを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光励起半導体は、紫外光−可視光(少なくとも254nm以上の波長を有する光)により励起して、光触媒として機能することが可能である。すなわち、本発明の光励起半導体は、太陽光を利用できる光触媒とできる。したがって、本発明の光励起半導体によれば、従来には無い、太陽光の利用効率の高い光触媒水素生成デバイス、有機分解デバイス及び有機物の部分酸化還元デバイス等のデバイスを提供できる。さらに、本発明の光励起半導体は、安価に作製できるため、コスト面でも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】水の酸化還元分解における光触媒特性を説明する模式図である。
【図2】従来物質のバンドギャップと、可視光励起により水の分解が可能な物質(期待される物質)のバンドギャップを示す図である。
【図3】水素生成実験装置の概略図である。
【図4】実施例1の光励起半導体のX線回折パターンを示す図である。
【図5】実施例1の光励起半導体の紫外光−可視光分光光度分析の結果を示す図である。
【図6】(a)は実施例1の光励起半導体について、420nm以上800nm以下の波長を有する光の照射による水素発生特性を示す図であり、(b)は実施例1の光励起半導体について、420nm以上800nm以下の波長を有する光の照射による酸素発生特性を示す図である。
【図7】(a)は、太陽光を利用した水素生成デバイスの一例を示す概略図であり、(b)は、太陽光を利用した水素生成デバイスの別の例を示す概略図である。
【図8】太陽電池の一例を示す概略図である。
【図9】抗菌及び脱臭デバイスの一例を示す概略図である。
【図10】(a)は、水質浄化デバイスの一例を示す概略図であり、(b)は、水質浄化デバイスの別の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施の形態は一例であり、本発明は以下の実施の形態に限定されない。
【0016】
(実施の形態1)
本発明の光励起半導体の実施の形態について説明する。
【0017】
本実施の形態の光励起半導体は、ペロブスカイト型酸化物の半導体であって、
一般式:BaZr1-xx3
(式中、Mは、最高価数が4価をとるZr以外の元素から選択される少なくとも何れか1種の元素であり、xは0よりも大きく1未満の数値である。)
で表される組成を有する。この光励起半導体は、紫外光−可視光によって励起して、光触媒として機能する。
【0018】
本実施の形態の光励起半導体は、ジルコン酸バリウム(BaZrO3)を母体として、Zrの一部を最高価数が4価をとる元素で置換した材料であり、基本的にペロブスカイト型酸化物の単相多結晶体である。この光励起半導体の結晶系は、立方晶、正方晶又は斜方晶である。
【0019】
本実施の形態の光励起半導体の母体であるBaZrO3は、従来、強誘電体母体や、高温焼成用のるつぼ等に使用されており、大気中及び水中で化学的にも機械的にも安定なペロブスカイト型酸化物である。BaZrO3の結晶系は、ほぼ立方晶をとり、3次元等方性に優れ、機械的強度に優れる。BaZrO3の光学的な性質としては、白色に近く、周囲の水分の影響で少し薄黄緑を帯びる。BaZrO3は、UV−Vis分光分析では420nm付近に吸収波長をもち、絶縁体に近い、ごく一般的なセラミックスである。
【0020】
本実施の形態の光励起半導体では、一般式:BaZr1-xx3において、xが0よりも大きく0.5以下であることが好ましい。このような、Mで置換されるZrの量が50%以下である(すなわち、Zrがリッチに存在する)光励起半導体は、バンド構造上、Zr4d軌道が伝導帯を支配している。また、Zrよりも大きいイオン半径をもつ元素(希土類元素など)でZrを置換すると、格子自体が膨張し、格子の結合が緩み、電子が非局在化するので、可視光励起を実現しやすいと考えられる。
【0021】
本実施の形態の光励起半導体では、Zrを置換する、最高価数が4価をとる元素(前記一般式:BaZr1-xx3中のM)は、Sn、Ge、Si及びPbからなる群から選択される少なくとも何れか1種が好ましい。MをSn、Ge、Si及びPbからなる群から選択される少なくとも何れか1種とすることで、バンドギャップが小さくなり、格子自体の膨張による電子の非局在化によって、可視光励起を実現しやすい。より好ましくは、MをSn及びGeからなる群から選択される少なくとも何れか1種とすることである。MをSn及び/又はGeとすることで、バンド構造の伝導帯位置の低減及び格子自体の膨張により、可視光励起をより実現しやすくなる。例えば、BaZr0.8Sn0.23及びBaZr0.8Ge0.23で表される組成を有する光励起半導体は、可視光励起が可能であり、高い太陽光変換効率を実現できる。
【0022】
本実施の形態の光励起半導体の大きさは、その用途に応じて選択すればよいため、特には限定されない。しかしながら、本実施の形態の光励起半導体であるペロブスカイト型酸化物が単相の焼結体である場合、当該焼結体の粒塊径が0.1μm以上45μm以下であることが好ましい。このような粒塊径の範囲を満たすことにより、耐水性に優れた光励起半導体を実現できる。
【0023】
また、本実施の形態の光励起半導体であるペロブスカイト型酸化物が単相の焼結体である場合、耐水性を向上させるために、密度が理論密度の96%以上であることが好ましい。
【0024】
本発明の光励起半導体の作製方法について、その一例を説明する。本発明の光励起半導体である、一般式:BaZr1-xx3で表される組成を有する半導体は、一般的な高温固相反応により合成できる。Mが例えばSnの場合、例えば、酢酸バリウムと、金属ジルコニウム、ジルコニア又は水酸化ジルコニウムと、酸化すずとの粉末原料を、それぞれ所定の量で混合し、メノウ乳鉢中でエタノール溶媒を用いて粉砕混合を行う。充分に混合した後、溶媒を除去し、更にバーナーで脱脂して、再度メノウ乳鉢中で粉砕混合を繰り返す。その後、得られた混合物を円柱状にプレス成形して、1200℃〜1500℃、10時間〜12時間焼成を行う。焼成したものを粗粉砕し、その後ベンゼン又はシクロヘキサン溶媒中で遊星ボールミル粉砕をして、3μm以下に造粒する。得られた粉末を150℃で真空乾燥させた後、2ton/cm2で一軸プレス及び静水圧プレスをして円柱に成形し、直ちに1500℃〜1800℃、6時間〜12時間焼成して、焼結体を合成する。この方法により得られる焼結体は単相のペロブスカイト型酸化物であり、充分緻密で、その密度を理論密度の96%以上とすることができる。上記のような方法で、前記一般式:BaZr1-xx3を満たす種々の組成の焼結体試料を作製し、例えばSEM(scanning electron microscope)による断面観察で確認したところ、粒塊粒径は1〜45μmの範囲であった。
【0025】
後に示す本発明の光励起半導体の実施例では、結晶構造、組成、紫外光−可視光吸収分光特性、光触媒特性等の諸物性を調べるため、上記のような方法で作製した焼結体試料を厚さ0.4〜0.6mm、直径13〜16mmのディスク状に加工し、各々分析調査を行った。物性の分析方法については、後述する。
【0026】
まず、光触媒特性について説明する。光触媒特性は、図1に示すように、絶縁体に近い半導体に外部から光4を照射することにより、半導体が、電子構造の伝導帯1と価電子帯3との間に存在する禁制帯(バンドギャップ)2の幅に相当する光を吸収し、まず価電子帯3の電子が励起する。励起した電子6は、伝導帯1に移る。この電子6が半導体のバルク表面に移動して、還元反応を起こす。水があれば水を還元して水素を生成し、酸素があれば酸素を還元してスーパーオキサイドアニオンが生成すると考えられている。一方、価電子帯3から電子が抜けた後は、正の電荷をもった正孔5が生成する。この正孔5が半導体のバルク表面に移動し、強い酸化反応を起こす。水があればOHラジカルを生成し、近くに有機物があれば有機物を強力に酸化して水とCO2とに分解する。また、水が周りにあれば水を酸化して、酸素を生成する。従来、光触媒として知られている酸化チタンでは、有機分解することも、水から水素と酸素を生成させることも確認されており、光触媒特性を有機物や水の分解により確認できる。一般に、有機物分解の光触媒特性では、特にOHラジカルの酸化力が検討され、価電子帯の上端(酸化電位)が真空準位で小さいほど(標準水素電極電位では大きいほど)、酸化力が大きいとされている。例えば、酸化チタンの酸化電位は、真空準位で−7.54eV、標準水素電極電位で3.1Vと計測されている(図2参照)。また、酸化チタンの伝導帯の下端(還元電位)は、真空準位で−4.34eV、標準水素電極電位で−0.1Vとなる。すなわち、酸化チタンのバンドギャップは3.2eVと計測されている。有機物分解では、標準水素電極電位で、特に酸化電位が水の酸化電位1.23Vよりも大きい材料であれば、問題なく使用できると考えられており、バンドギャップに相当する光を照射することで、光触媒反応を推進させることができる。例えば酸化チタンであると、バンドギャップは3.2eVであるので、光の波長にすると、1240nm/3.2eVで、波長λ:387.5nm以下の紫外光線を照射することで、酸化チタンの光触媒反応を起こすことができる。しかしながら、水を光触媒反応で分解し、水素と酸素とに分解する反応は、より物質エネルギーを高い状態、すなわちギプスの自由エネルギーを高くする方向の反応になるので、光エネルギーを水素等の化学エネルギーポテンシャルとして変換することに相当する。従って、太陽光等の可視光をたくさん含む光を利用するには、価電子帯の上端の準位(酸化電位)と伝導帯の下端の準位(還元電位)とが、水の酸化還元電位を挟むような電位であることが必要であり、さらには可視光吸収するバンドギャップを有することが望ましい。可視光吸収にするためにはバンドギャップを縮める必要があり、バンドギャップを縮めると、価電子帯の上端の準位が真空準位において上昇(酸化電位が縮小)し、トレードオフとなる。Si半導体のバンドギャップ(1.1eV)及び、価電子帯の上端の準位(酸化準位)、伝導帯の下端の準位(還元電位)を、図2に併せて示す。これによると、太陽電池で使われるSi半導体では、水の分解ができないことがわかる。いずれにせよ、従来の材料では、化合物半導体を除いて、バンドギャップの狭い、光触媒反応を起こすことができる酸化物半導体は非常に少なかった。また、バンドギャップの小さいCdS、CuInS等の化合物半導体のほとんどは、水中で光照射させると、自己酸化してしまい(SよりもOの結合が強いため)、物質自体が溶解してゆく。つまり、バンドギャップの小さい、水中で安定な半導体は非常に少ない。
【0027】
以上の説明で明らかなように、水中で、評価対象である材料に紫外光−可視光を照射し、水素及び酸素を発生させることができれば、その材料について光触媒反応が指向するものと判断できる。また、そのように可視光照射によって水を分解できる材料(光励起半導体)であれば、可視光照射による励起によって電子と正孔の流れが生じるので、太陽電池にも使用できる。特に、p型半導体として得られる材料は重要となる。光励起半導体が設けられた光触媒電極と、当該光触媒電極と電気的に接続された対極とを水中に配置して光を照射した際に、水素と酸素とが発生する反応式を次に示す。
【0028】
光触媒電極:4h(正孔)+4OH-→O2+2H2
対極:4e-+4H+→2H2
全体反応:4h+4e-+2H2O→2H2+O2
【0029】
前述のとおり、本発明の光励起半導体は、BaZrO3を母体として、Zrの一部を、Sn等の最高価数が4価をとる元素で置換した材料であり、基本的にペロブスカイト型酸化物の単相多結晶体である。このような材料の結晶構造をX線回折により調べた結果、結晶系は立方晶、正方晶又は斜方晶であった。また、本発明の光励起半導体は、その密度を、結晶格子から求められる理論密度の96%以上とすることができる。
【0030】
このようにして作られたBaZrx1-x3材料について、紫外−可視光分光光度分析を行った。その結果、Zrの一部をSn等の最高価数が4価をとる元素に置換することによって紫外−可視光吸収帯を発現することが、今回明らかになった。すなわち、このような材料は、狭いバンドギャップを持つ半導体であることが明らかになった。また、ZrのMによる置換量については、前記一般式:BaZrx1-x3においてxが0よりも大きく0.5以下を満たす化合物を選択すると、可視光吸収(より狭いバンドギャップ)を実現できることがわかった。例えば、BaZr0.8Sn0.23は、850nm以下の可視光を吸収でき(バンドギャップ:1.46eV)、電子励起することが明らかになった。
【0031】
電子励起は、水の光分解で実証される。光触媒反応でもあるが、水を水素と酸素とに分離するには、前述のとおり、その光触媒材料が一定の価電子帯上端準位(酸化電位)と伝導帯下端準位(還元準位)とを持ち合わせないと、光励起しても水分解が起こらない。そこで、本発明の光励起半導体の種々の材料について、水分解の実験を行った。ここでは、粉末材料に、紫外光−可視光を照射して、水素と酸素との発生反応を調べた。なお、この方法では、水素と酸素とが同時に発生した場合に、材料表面及び水中等で水素と酸素とが再結合し、正確な量が測定できない。そのため、犠牲試薬等を用いる方法で調べた。この結果、本発明の光励起半導体の構成要件を満たすいずれの材料(前記一般式:BaZrx1-x3の組成を有する材料)でも、水素と酸素の発生が確認された。すなわち、本発明の光励起半導体は、一定の価電子帯上端準位(酸化電位)と伝導帯下端準位(還元準位)とを持ち合わせた光触媒材料、つまり、価電子帯上端準位−5.67eV以下(酸化電位:NHE1.23V以上)の真空エネルギー準位(酸化電位)を持ち、伝導帯下端準位−4.44eV以上(還元準位:NHE0.0V以下)の真空エネルギー準位(還元準位)を持つことが実証され、太陽光等の光で、太陽電池の半導体材料としてのみならず、水分解の光触媒材料としても実用できることがわかった。
【0032】
触媒特性は、Zrの一部を最高価数が4価をとる元素に置換しないBaZrO3も発現することが以前に示唆されていたが(非特許文献2参照)、BaZrx1-x3については確認されていなかった。本発明の光励起半導体は、立方晶に近いペロブスカイト型構造を保ちながら、4価の元素が導入されることで化学量論組成をとり、置換元素が準安定価数、例えば2価をとる場合に酸素空孔、すなわち正孔が導入されることになる。Zr又は置換元素(M)の周りが酸素欠損し、その為、空の伝導帯軌道が生じたと考えられる。励起電子は、この伝導帯に収まることになるのではないかと推測される。
【0033】
後に示す本発明の光励起半導体の実施例について、結晶構造、組成、紫外光−可視光吸収分光特性、光触媒特性等の諸物性を調べるために、前記焼結体試料を用いて行った前記諸物性の分析方法は、以下のとおりである。
【0034】
(A)組成分析
蛍光X線を用いて組成分析を行った。装置は、株式会社島津製作所製のエネルギー分散型蛍光X線分析装置EDX−700を用い、前記焼結体試料の表面組成比を算出した。
【0035】
(B)結晶構造分析
結晶構造は、株式会社リガク製の粉末X線回折装置(CuKα)rint2100システムにより回折パターンを観察し、粉末X線回折パターン総合解析ソフトウェアJADE6.0によるリートベルト解析により、格子定数をフィティッング推算により求めた。試料には、前記焼結体試料を用いた。
【0036】
(C)密度
密度は、Heガス置換型のマルチボリュームピクノメーター(MICROMERITICS1305)を用い、体積を求め、別途質量を測量し、算出した。試料は、前記焼結体試料を用いた。
【0037】
(D)紫外光−可視光分光光度分析
吸光度分析は、日本分光株式会社製のU−650 Spectrophotometerを用い、Kubelka−Munk変換して、分析した。試料には、前記焼結体試料を用いた。
【0038】
(E)光触媒特性、光励起半導体
光触媒特性を調べる方法には、有機物の分解、接触角の測定等、いくつかある。本実施の形態では、直接的に試料に波長420nm〜800nmの連続スペクトルを持つキセノンランプ光(300W、20V)、又は紫外光励起する場合のための水銀灯(254nm)を照射し、最も酸化還元が困難な、水を直接分解する反応で調査した。水の分解が可能であるということは、同様に、有機物の分解も可能な材料であるといえる。さらに、水の分解が可能であるということは、有機物の部分酸化又は部分還元も可能な材料であることも意味する。もちろん、酸化還元が発生することは、試料からの電子の受供与があるという事実となるので、その試料が光励起半導体である証拠となる。
【0039】
水溶液中に粉末状の試料を分散させ、光照射したときの水素及び酸素の発生量で評価した。なお、水素及び酸素の発生反応は、試料の材料表面で同時に進行すると考えられるので、材料表面の水素と酸素との再結合、及び、液中、気体捕集上での再結合を考慮して、酸化反応及び還元反応のどちらか一方をコンペンサイトする犠牲試薬を用い、水素及び酸素の生成量を別々に測量した。水素発生を観るときの犠牲試薬としては0.01M(mol/L)のEDTA(エチレンジアミン四酢酸)を用い、酸素発生を観るときの犠牲試薬としては0.01M(mol/L)のAgNO3水溶液を用いた。
【0040】
水素生成用の粉末状試料には、前記焼結体試料を乳鉢で約1時間乾式粉砕して作製した、粒径10μm以下程度の粉末(約0.4g)を用いた。
【0041】
実験は、図3に示す実験装置を用いて行った。
【0042】
酸素発生を観るときは、200mLの蒸留水に0.01M(mol/L)のAgNO3水溶液10mL及びpH調整剤La230.2gを加えた水溶液を使用した。この水溶液と約0.4gの粉末状試料とを混合して調製した分散液7を、密閉できる石英セル8に投入し、攪拌機(マグネティックスターラー)14で攪拌できるようにした。また、水素発生を観るときは、200mLの蒸留水に0.01M(mol/L)のEDTAを0.58g加えた水溶液を使用した。
【0043】
図3に示すように、実験は、石英セル8の横側から分散液7に光源11(前記キセノンランプ(紫外光励起を観る場合は水銀灯))を用いて光4を照射し、1時間おきに、生成する水素量又は酸素量を、ガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製GC−14b)10を用いてTCD(Thermal Conductivity Detector)検出器により定量した。なお、石英セル8内部で生成した水素又は酸素は、それぞれ、ガスライン9によってガス分析機であるガスクロマトグラフィー10に送られる。また、水温を一定に保つために、石英セル8自体を冷却装置13が設けられた恒温槽12で冷却した。
【0044】
[実施例]
以下に、実施例を挙げて本発明の光励起半導体を説明するが、本発明の光励起半導体はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
実施例1では、BaZr0.8Sn0.23の組成を有する材料を合成した。作製方法としては、前述の高温固相反応により合成した。酢酸バリウム、金属ジルコニウム及び酸化すずの粉末原料を、Ba:Zr:Snの組成比が1:0.8:0.2になるように混合し、メノウ乳鉢中でエタノール溶媒を用いて粉砕混合を行った。充分に混合した後、溶媒を除去し、更にバーナーで脱脂してから、再度メノウ乳鉢中での粉砕混合を繰り返した後、円柱状にプレス成形して、1500℃で12時間焼成を行った(仮焼成)。焼成したものを粗粉砕し、その後ベンゼン溶媒中で遊星ボールミル粉砕をして、粒径が3μm以下(実際に粒度分布計により測定)となるように造粒した。得られた粉末を150℃で真空乾燥させた後、2ton/cm2で一軸プレスと静水圧プレスとをかけて円柱に成形し、直ちに1775℃で10時間焼成して(本焼成)、焼結体を作製した。
【0046】
(実施例2)
実施例2では、BaZr0.5Sn0.53の組成を有する材料を合成した。酢酸バリウム、金属ジルコニウム及び酸化すずの粉末原料を、Ba:Zr:Snの組成比が1:0.5:0.5になるように混合したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の材料を合成した。
【0047】
(実施例3)
実施例3では、BaZr0.9Sn0.13の組成を有する材料を合成した。酢酸バリウム、金属ジルコニウム及び酸化すずの粉末原料を、Ba:Zr:Snの組成比が1:0.9:0.1になるように混合したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3の材料を合成した。
【0048】
(実施例4)
実施例4では、BaZr0.8Ge0.23の組成を有する材料を合成した。酢酸バリウム、金属ジルコニウム及び酸化ゲルマニウムの粉末原料を、Ba:Zr:Geの組成比が1:0.8:0.2になるように混合したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4の材料を合成した。
【0049】
(実施例5)
実施例5では、BaZr0.8Pb0.23の組成を有する材料を合成した。酢酸バリウム、金属ジルコニウム及び酸化鉛の粉末原料を、Ba:Zr:Pbの組成比が1:0.8:0.2になるように混合したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5の材料を合成した。
【0050】
(実施例6)
実施例6では、BaZr0.9Si0.13の組成を有する材料を合成した。酢酸バリウム、金属ジルコニウム及びシリコンの粉末原料を、Ba:Zr:Siの組成比が1:0.9:0.1になるように混合したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例6の材料を合成した。
【0051】
(実施例7)
実施例7では、BaZr0.8Si0.23の組成を有する材料を合成した。酢酸バリウム、金属ジルコニウム及びシリコンの粉末原料を、Ba:Zr:Siの組成比が1:0.8:0.2になるように混合し、本焼成温度を1750℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例7の材料を合成した。
【0052】
(実施例8)
実施例8では、BaZr0.2Sn0.83の組成を有する材料を合成した。酢酸バリウム、金属ジルコニウム及び酸化すずの粉末原料を、Ba:Zr:Snの組成比が1:0.2:0.8になるように混合し、仮焼成温度を1300℃とし、本焼成温度を1500℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例8の材料を合成した。
【0053】
(実施例9)
実施9では、BaZr0.7Sn0.33の組成を有する材料を合成した。酢酸バリウム、金属ジルコニウム及び酸化すずの粉末原料を、Ba:Zr:Snの組成比が1:0.7:0.3になるように混合し、仮焼成温度を1400℃とし、本焼成温度を1700℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例9の材料を合成した。
【0054】
(実施例10)
実施10では、BaZr0.9Ge0.13の組成を有する材料を合成した。酢酸バリウム、金属ジルコニウム及び酸化ゲルマニウムの粉末原料を、Ba:Zr:Geの組成比が1:0.9:0.1になるように混合したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例10の材料を合成した。
【0055】
実施例1〜10の材料を、前述の(A)組成分析、(B)結晶構造分析、(C)密度、(D)紫外光−可視分光光度分析、(E)光触媒特性、の方法でそれぞれ分析した。
【0056】
(1)組成分析(蛍光X線表面組成分析)の結果
実施例1〜10について、仕込組成と合成組成とを調べた結果、全ての試料について、仕込組成と合成組成との間に組成ずれがほとんどなく、5%以内のずれであった。
【0057】
(2)結晶構造分析と密度の結果
実施例1のX線回折パターンを図4に示す。また、結晶型、密度、平均粒塊径の測定結果を表1に示す。なお、平均粒塊径は、各実施例で得られた少なくとも30個以上の光励起半導体の粒塊径を、電子顕微鏡を用いて測定し、その値の平均値を算出することによって求めた。平均粒塊径は、全ての実施例で30μm以下であった。
【0058】
(3)紫外光−可視光分光光度分析の結果
図5に、実施例1の材料についての紫外光−可視光分光光度分析の結果を示す。図5において、縦軸(KM)は、吸光度の対数値をKubelka−Munk変換して得られた値を示している。実施例1〜10の吸収波長端を、表2に示す。
【0059】
(4)光触媒特性についての結果
実施例1〜10の材料について、光照射時の水分解による水素及び酸素の生成量を調べることにより、光触媒特性を明らかにした。まずは、光源に水銀灯(波長254nm)を用い、実施例1〜10の材料が全て触媒活性を示し、光励起半導体であることを確認した。さらに、実施例1〜10の材料について、420nm以下の波長をカットした420nm〜800nmの連続スペクトルを有するキセノンランプ光(300W、20V)を用いて、水素及び酸素の発生特性を調べた。図6(a)及び図6(b)に、実施例1の材料について、キセノンランプ光を用いた場合の水素及び酸素の発生特性の結果を示す。また、表2に、実施例1〜10の材料について、キセノンランプ光を用いた場合の水素と酸素との生成率も示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
以上の結果より、本発明の構成要件を満たす材料の場合、紫外光及び可視光を照射することで、水素及び酸素が発生する反応が確認された。これにより、実施例1〜10の材料が、光(紫外光及び可視光を含む)照射により原理的に電子移動が発生していることが実証され、光触媒としても機能する光励起半導体であることが確認された。特に、実施例1〜10の材料は、キセノンランプ(波長:420nm〜800nm)による可視光応答性が実証され、可視光励起光触媒、可視光励起半導体であることが検証された。
【0063】
前記(1)〜(4)に示した結果より、ペロブスカイト型酸化物の半導体であって、一般式:BaZr1-xx3(式中、Mは、最高価数が4価をとるZr以外の元素から選択される少なくとも1種の元素であり、xは0よりも大きく1未満の数値である。)で表される組成を有する材料は、紫外光−可視光の照射によって触媒活性及び光励起半導体特性を示すことが確認された。また、吸収波長端の結果及びキセノンランプの照射による水素及び酸素の生成結果から、これらの材料は、特に太陽光や蛍光灯等の可視光領域(400nm以上)の光を有効に利用できる材料であることがわかった。
【0064】
なお、本実施例では、ジルコニウムバリウム酸化物を母体として、ジルコニウムの一部をSn、Ge又はPbの4価の元素で置換した材料として、置換量(一般式:BaZr1-xx3におけるxの値)が、Sn:0.1、0.2、0.5、Ge:0.2、Pb:0.2の事例を示したが、置換量は0<x<1を満たせばよく、これらの事例に限定されない。また、最高価数が4価をとる置換元素Mとしては、Sn、Ge及びPbの他に、Si及びEr等が考えられる。本発明の材料は、基本的にはBa、Zr、M及びOの4元素で構成されることを示しているが、不純物としてAl又はNaを含む組成、あるいは、副成分の4価の置換元素をさらに含む組成も考えられる。この場合、不純物等として含まれる成分は、5原子%以下であることが望ましく、より望ましくは1原子%以下である。基本的にジルコニアバリウム酸化物のジルコニウムの一部を4価の元素に置換した系であって、組成の条件を満たしていれば、同様の効果を出現させる。また、本実施例では、材料合成は、基本的に焼成を繰り返し、焼結体として合成する方法を示したが、例えば、スパッタ、蒸着、溶射、イオンプレーティング、塗布、メッキ及びCVD等の気相法を用いて作製された膜でもよいし、共沈法、ゾルゲル法及び有機金属化合物を用いた溶液法等によって作製されたものでもよい。焼成温度、圧力も規定するものでなく、水熱合成法を用いてもよい。また、本発明の光励起半導体の形状は、粒塊径が0.1〜30μmの範囲内であることが、耐水性の観点から好ましいが、これに限定されない。本発明の光励起半導体は、粒塊径がこの範囲外の粒子(例えばナノ粒子)でもよいし、膜状(厚膜、薄膜)であってもよい。
【0065】
(実施の形態2)
本発明のデバイスの一実施形態について説明する。本実施の形態では、本発明の光励起半導体を含む粉末又は膜を備えたデバイスであり、前記光励起半導体に光を照射することによって水を分解して水素及び酸素の少なくとも何れか一方を生成するデバイスの例について説明する。
【0066】
本実施の形態のデバイスは、実施の形態1で説明した本発明の光励起半導体を用いた、高性能な水素生成デバイスである。太陽光を利用した水素生成デバイスの例について、その概略図を図7(a)及び図7(b)に示す。
【0067】
図7(a)に示す水素生成デバイスは、少なくとも254nm以上の波長を有する光を発する光源(例えば、水銀灯、太陽光、蛍光灯)と、前記光源から発せられた光4を吸収して触媒反応を示す本発明の光励起半導体の粉末を、水素及び酸素源となる水に分散させた分散液7と、分散液7を保持する石英セル8と、発生する気体を分離する分離膜15と、気体を捕集するタンク(図示せず)と、石英セル8と各タンクとを連結するガス管16,17と、を備えている。石英セル8は、光源から発せられた光4を透過させる材料によって形成されている。本実施の形態の水素生成デバイスは、光4を石英セル8中の分散液7(本発明の光励起半導体)に照射することで、分散液7中の光励起半導体によって水を分解して水素及び酸素を生成する。生成した水素及び酸素は、分離膜15で、水素と酸素とに分離されて各々タンクに貯蔵される。
【0068】
図7(b)に示す水素生成デバイスは、本発明の光励起半導体を電極として備えた例である。このような電極は、ITOやFTO(Fluorine-doped Tin Oxide)等の導電性を有する集電体が予め設けられた酸化物やガラス等からなる基板上、もしくは金属基板上に、本発明の光励起半導体を膜化して配置することによって形成できる。図7(b)に示す水素生成デバイスは、本発明の光励起半導体を含む電極(光触媒電極)19と、電極19と導線21によって電気的に接続された対極20と、水素及び酸素源となる水18と、電極19と対極20との間に配置された塩橋22と、これらを収容する石英セル8と、気体を捕集するタンク(図示せず)と、石英セル8と各タンクとを連結するガス管16,17と、を備えている。対極20には白金等が使われるが、水素を発生できるのであれば、他の金属でも問題ない。
【0069】
(実施の形態3)
本実施の形態では、実施の形態1で説明した本発明の光励起半導体を用い、前記光励起半導体に光を照射することによって発電させるデバイスである、太陽電池の例について説明する。
【0070】
太陽電池は、通常、p型半導体とn型半導体とを接合させた構造を有する。本発明の光励起半導体はp型半導体として使用できるので、他のn型半導体と接合させて、外部回路の導線を繋げることによって、太陽電池を構成できる。この太陽電池に太陽光や蛍光灯を照射することで、外部回路に電流を取り出せる。
【0071】
図8に、本実施の形態の太陽電池の構成例について、その概略図を示す。図8に示す太陽電池は、本発明の光励起半導体からなるp型半導体層23と、p型半導体層23と接合されたn型半導体層24と、n型半導体層24の光照射側の表面上に配置された反射防止膜25と、p型半導体層23上に配置された電極(正極)26と、反射防止膜25上に配置された電極(負極)27と、を備えており、外部回路28に接続されている。なお、図示されていないが、反射防止膜25には部分的に貫通部が設けられており、当該貫通部を介してn型半導体層24と負極27とが電気的に接続されている。また、本実施の形態の太陽電池では、光源として蛍光灯29を利用することも可能である。
【0072】
(実施の形態4)
本実施の形態では、実施の形態1で説明したような本発明の光励起半導体を用い、前記光励起半導体に光を照射することによって有機物を分解するデバイスの例について説明する。
【0073】
図9に、本実施の形態の有機物分解デバイスである、抗菌及び脱臭デバイスの一例を示す。この抗菌及び脱臭デバイスは、本発明の光励起半導体からなる粉末をガラス基板上に塗布固着させることによって形成された光励起半導体フィルタ30を、光透過筐体32における処理前の空気・気体の吸入面側に設けることによって形成されている。光透過筐体32における処理後の空気・気体の排気面側には、送風機31が設けられている。処理空気・気体は、光透過筐体32に吸入される際にフィルタ30を通過する。このフィルタ30に光を照射することによって、フィルタ30に設けられた本発明の光励起半導体による光触媒作用により、フィルタ30通過時に空気・気体中の有機物が分解される。
【0074】
実際に、一定容積のボックス中に本発明の光励起半導体の塗布膜を入れ、アセトアルデヒド等の臭気成分を封入し、一定時間光照射した後の臭気を嗅いでみると、臭気が低減されていることがわかった。また、検知管等で光照射前後の濃度を測定すると、濃度が低減していることが確認された。また同様のデバイスを用いて、アセトアルデヒドから酢酸が生成していることも確認されていることから、有機物の部分酸化又は部分還元反応も観察された。
【0075】
(実施の形態5)
本実施の形態では、実施の形態1で説明した本発明の光励起半導体を用い、前記光励起半導体に光を照射することによって有機物を分解するデバイスのさらに別の例について説明する。
【0076】
本実施の形態のデバイスは、水中の有機物を分解することによって水を浄化する水質浄化デバイスである。図10(a)は、実施の形態4の抗菌及び脱臭デバイスに用いられた光励起半導体フィルタ30を利用する水質浄化デバイスの概略図である。光透過筐体32の内部に送られた汚水中の有機物は、光透過筐体32内に配置された光励起半導体フィルタ30の光触媒作用によって分解され、送液ポンプ33によって光透過筐体32の外部に排液される。図10(b)は、光励起半導体フィルタ30の代わりに、本発明の光励起半導体の粉末を水に分散させた分散液7を利用する水質浄化デバイスの概略図である。
【0077】
実際に、本発明の光励起半導体の粉末を水に分散させた分散液を用いて、BTB液の退色試験を行った。まずビーカーに光励起半導体の分散液を入れ、さらにこれにBTB液を滴下して分散液に色(黄色から青色)をつけた。ビーカー外から光を照射したところ、色が退色するのを観察した。この結果から、本発明の光励起半導体が光照射されることによってBTB液を分解し、その結果、BTB液が退色したと判断される。このように、本発明の光励起半導体によれば、水中の有機物、汚物を浄化することが可能であることを確認した。
【0078】
なお、実施の形態1では、本発明の光励起半導体の粉末を水素生成用の試料として用いた実施例として、粒径10μm以下程度の粉末試料を用いた例を説明したが、粉末の粒径は特には限定されず、試料はナノ粒子でもよい。また、粉末でなく、膜であってもよい。また、水素生成用の試料には、より触媒活性を促進させるPt助触媒を含浸固着させて用いてもよいし、助触媒を用いる場合にその量は限定されない。また、助触媒はPtでなく、例えばNi、Ru、Ag、Pd等でもよい。固着法も特に限定されず、光還元法でも含浸法でもよい。また、実施の形態1〜5で説明した石英セル8は、光の透過しやすい他の材質のセルであってもよく、パイレックス(登録商標)やガラスでもよい。また、水を分解する評価方法では、蒸留水にAgNO3、EDTA、pH調整剤のLa23を添加した溶液を用いているが、もちろん蒸留水だけでもよいし、重炭酸ナトリウム及び硫化カリウム等の緩衝剤をさらに添加してもよい。水溶液も、KOHやHClが微量に含まれていてもよい。
【0079】
また、実施の形態2〜5で説明したデバイスの各構成の寸法は特に限定されない。例えば、各層を形成する際の成膜方法は、塗布法でも電解析出法でもよく、その膜厚や寸法も限定されない。また、本発明の光励起半導体を水素生成用の電極として用いる場合、対極として白金膜を用いた例を説明したが、対極の材料としては銀や銅でも可能であり、寸法も限定されない。さらに、実施の形態1〜5では、光源に、疑似太陽光としてのキセノンランプ、太陽光、蛍光灯を用いた例を示したが、可視光を含む光であればLEDの使用も可能であり、その光強度も規定するものではない。もちろん水銀灯のような紫外光ランプ、ブラックライトを用いても、デバイス上問題はない。また、水素生成の評価方法では、室温又は恒温槽を用いた事例を示しているが、実際のデバイスでは、周囲温度を規定しない。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の光励起半導体は、例えば太陽光から水素を生成するデバイス、太陽電池、空質浄化装置等の脱臭デバイス、抗菌膜、防汚膜、超親水性膜、防曇膜、水質浄化デバイス及びCO2と水からのメタノール合成等の、光触媒関連技術及び太陽電池関連技術に有用である。
【符号の説明】
【0081】
1 伝導帯
2 禁制帯
3 価電子帯
4 光
5 正孔
6 電子
7 光励起半導体の分散液
8 光透過セル
9 ガスライン
10 ガスクロマトグラフィー
11 光源
12 恒温槽
13 冷却装置
14 攪拌機
15 ガス分離膜
16 ガス管(水素)
17 ガス管(酸素)
18 水
19 電極
20 対極
21 導線
22 塩橋
23 p型半導体層(光励起半導体)
24 n型半導体層
25 反射防止膜
26 電極(正極)
27 電極(負極)
28 外部回路
29 蛍光灯
30 光励起半導体フィルタ
31 送風機
32 光透過筐体
33 送液ポンプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト型酸化物の半導体であって、
一般式:BaZr1-xx3
(式中、Mは、最高価数が4価をとるZr以外の元素から選択される少なくとも何れか1種の元素であり、xは0よりも大きく1未満の数値である。)
で表される組成を有する、光励起半導体。
【請求項2】
前記一般式:BaZr1-xx3において、xが0よりも大きく0.5以下の数値である、請求項1に記載の光励起半導体。
【請求項3】
前記一般式:BaZr1-xx3において、MがSn、Ge、Si及びPbからなる群から選択される少なくとも何れか1種である、請求項1又は2に記載の光励起半導体。
【請求項4】
前記一般式:BaZr1-xx3において、MがSn及びGeからなる群から選択される少なくとも何れか1種である、請求項3に記載の光励起半導体。
【請求項5】
前記一般式:BaZr1-xx3が、BaZr0.8Sn0.23又はBaZr0.8Ge0.23である、請求項4に記載の光励起半導体。
【請求項6】
前記ペロブスカイト型酸化物が単相の焼結体であって、密度が理論密度の96%以上である、請求項1〜5の何れか1項に記載の光励起半導体。
【請求項7】
前記ペロブスカイト型酸化物が単相の焼結体であって、前記焼結体の粒塊径が0.1μm以上45μm以下である、請求項1〜6の何れか1項に記載の光励起半導体。
【請求項8】
前記光励起半導体が光触媒である、請求項1〜7の何れか1項に記載の光励起半導体。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項に記載の光励起半導体を備えたデバイス。
【請求項10】
前記光励起半導体が粉末又は膜の状態で設けられている、請求項9に記載のデバイス。
【請求項11】
前記光励起半導体が電極として設けられている、請求項9に記載のデバイス。
【請求項12】
前記光励起半導体に光を照射することによって発電させる、請求項9に記載のデバイス。
【請求項13】
前記光励起半導体に光を照射することによって水を分解し、水素及び酸素の少なくとも何れか一方を生成する、請求項9に記載のデバイス。
【請求項14】
前記光励起半導体に光を照射することによって有機物を分解する、請求項9に記載のデバイス。
【請求項15】
前記光励起半導体に光を照射することによって有機物の部分還元又は部分酸化を行う、請求項9に記載のデバイス。
【請求項16】
前記光励起半導体が、太陽光を透過させるセル内に収容されている、請求項9に記載のデバイス。
【請求項17】
前記光励起半導体に光を照射する際に、蛍光灯が用いられる、請求項9に記載のデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−148216(P2012−148216A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6902(P2011−6902)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】