説明

光化学反応装置、及び光化学反応装置を用いた同位体濃縮方法

【課題】本発明は、光化学反応におけるレーザ光の利用効率を高めることの可能な光化学反応装置、及び光化学反応装置を用いた同位体濃縮方法を提供することを課題とする。
【解決手段】プロセスガスが供給され、レーザ光によりプロセスガスを光化学反応させる光透過性反応用容器21と、光透過性反応用容器21の外側に、光透過性反応用容器21を囲むように配置され、レーザ光を反射する金属ミラー19と、光透過性反応用容器21、金属ミラー19、及び極低温液体12を収容可能な構成とされ、極低温液体12により、金属ミラー19の温度を極低温に保持するクライオスタット11と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を用いた光化学反応装置、及び光化学反応装置を用いた同位体濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光を用いる光化学反応装置は、大別して2種類ある。1つは光化学反応セルと呼ばれる光化学反応容器にレーザ光を1度だけ通過させるone−pass方式であり、もう1つはレーザ光を複数回反射させる多重反射(multi−reflection)方式である。
【0003】
多重反射方式は、反射ミラーを設置し、位置決めなど光学的に複雑かつ精密さを必要とするが、レーザ光を光化学反応に効率よく利用できる。ガス分析用の市販の多重反射セル(例えば、Whitecell;Whiteは人名)では、光路長が200〜300mのものがあり、200〜300回反射させている。
この場合の光吸収は、下記(1)式に示すようにLambert−Beerの法則で表される。
【数1】

上記(1)式において、Iは初期光量[W]、I(z)は光路長z[cm]における光量[W]、σは光吸収断面積[cm/molecule]、Nは分子密度[molecules/cm]を示している。上記(1)式では、光路長zが大きいほど光吸収が大きくなる。
【0004】
また、光利用率ηは、下記(2)式で表され(但し、σNz≪1の場合)、光路長zに比例して大きい。
【数2】

【0005】
特許文献1,2には、酸素同位体である17Oや18Oを含むオゾン分子にレーザ光を照射し、オゾン分子を選択的に分解して17Oや18Oを濃縮する方法が開示されている。
この場合、オゾンのwulf band(近赤外領域700〜1200nm)における比較的吸収が大きい波長での光吸収断面積σは、10−23cm/moleculeという小さな値(水の光吸収断面積より約4桁小さい)であり、光化学反応セルの光路長としては1000m以上が望まれる。
したがって、上記光吸収断面積が小さい光化学反応を行う場合、光化学反応セルは多重反射方式が有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4364529号公報
【特許文献2】特開2006−272090号公報
【特許文献3】特開平7−265669号公報
【特許文献4】特開平7−150270号公報
【特許文献5】特開平3−329885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、多重反射方式の光化学反応セルについて考えると、ミラーの反射率が0.90程度では、反射を10回(5往復)させると、最終光強度は0.9010=0.35であり、ミラーにおける光損失は65%となることから、光の利用効率をあまり大きくできないという問題がある。
【0008】
例えば、室温(例えば、20℃)において、波長1000nmにおける金ミラーの反射率は、0.98であり、室温では大きな反射回数をとれない(反射回数50回での最終光強度は、0.9850=0.36)。
また、反射回数が1000回以上でも光損失が小さいようにするためには、反射率は0.999以上を必要とする(この場合の最終光強度は、0.9991000=0.37)。例えば、反射率が0.9999で反射回数を10000回とした場合、最終光強度は0.999910000=0.37となり、1回反射するまでの平均光路長を1mとすると、全光路長は10000m以上となる。
【0009】
誘電体多層膜は、0.9999以上の高い反射率を有するが、入射角が大きいと反射率が低下する問題がある。そのため、多重反射方式の光化学反応装置に誘電体多層膜を適用するためには、レーザの入射方法や光軸調整など難しい課題を有する。
【0010】
例えば、キャビティーリングダウン分光分析に使用される誘電体多層膜は、0.9999以上の高い反射率を有する。しかし、初めに誘電体多層膜に光を透過させて入射させる方式をとる場合、透過率は数%以下であるため、透過損失が大きく、分光分析には使用できるが光化学反応には向いていない。
【0011】
このように、従来技術では高い反射率をもつミラーの種類が限られており、全光路長を長くする方法、すなわち光化学反応におけるレーザ光の利用効率を高める方法が限られていた。
【0012】
そこで、本発明は、光化学反応におけるレーザ光の利用効率を高めることの可能な光化学反応装置、及び光化学反応装置を用いた同位体濃縮方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明によれば、プロセスガスが供給され、レーザ光により該プロセスガスを光化学反応させる光透過性反応用容器と、前記光透過性反応用容器の外側に、該光透過性反応用容器を囲むように配置され、前記レーザ光を反射する金属ミラーと、前記光透過性反応用容器、前記金属ミラー、及び極低温液体を収容可能な構成とされ、前記極低温液体により、前記金属ミラーの温度を極低温に保持するクライオスタットと、を有する光化学反応装置が提供される。
【0014】
また、請求項2に係る発明によれば、前記金属ミラーの温度が、100K以下であることを特徴とする請求項1記載の光化学反応装置が提供される。
【0015】
また、請求項3に係る発明によれば、前記光透過性反応用容器と前記金属ミラーとの間に、第1の真空断熱空間を有することを特徴とする請求項1または2記載の光化学反応装置が提供される。
【0016】
また、請求項4に係る発明によれば、前記金属ミラーを構成する金属が、金、銀、銅、アルミニウムのうちのいずれか1つであることを特徴とする請求項1ないし3のうち、いずれか1項記載の光化学反応装置が提供される。
【0017】
また、請求項5に係る発明によれば、前記金属の純度が、99.9999以上であることを特徴とする請求項4記載の光化学反応装置が提供される。
【0018】
また、請求項6に係る発明によれば、前記金属ミラーが、金属膜であることを特徴とする請求項1ないし5のうち、いずれか1項記載の光化学反応装置が提供される。
【0019】
また、請求項7に係る発明によれば、前記光透過性反応用容器は、石英ガラスまたはアクリル樹脂よりなることを特徴とする請求項1ないし6のうち、いずれか1項記載の光化学反応装置が提供される。
【0020】
また、請求項8に係る発明によれば、前記プロセスガスに、前記レーザ光を照射するレーザ光導波部材を有することを特徴とする請求項1ないし7のうち、いずれか1項記載の光化学反応装置が提供される。
【0021】
また、請求項9に係る発明によれば、前記金属ミラーを構成する金属と同じ種類で、かつ前記金属ミラーを構成する金属よりも純度の低い金属よりなり、前記クライオスタットに収容されると共に、前記光透過性反応用容器を収容する金属容器を有し、前記金属ミラーを、前記金属容器の内面を覆うように配置したことを特徴とする請求項1ないし8のうち、いずれか1項記載の光化学反応装置が提供される。
【0022】
また、請求項10に係る発明によれば、前記クライオスタットに収容され、前記光透過性反応用容器を収容すると共に、前記レーザ光を透過する第1の石英ガラス容器を有し、前記金属ミラーを、前記第1の石英ガラス容器の内面、または前記第1の石英ガラス容器の外面を覆うように配置したことを特徴とする請求項1ないし8のうち、いずれか1項記載の光化学反応装置が提供される。
【0023】
また、請求項11に係る発明によれば、前記第1の石英ガラス容器は、純度99%以上、かつ光透過損失0.1dB/m以下の高純度の石英ガラスよりなることを特徴とする請求項10記載の光化学反応装置が提供される。
【0024】
また、請求項12に係る発明によれば、前記レーザ光導波部材を、前記光透過性反応用容器内に配置したことを特徴とする請求項8または9記載の光化学反応装置が提供される。
【0025】
また、請求項13に係る発明によれば、前記レーザ光導波部材を、前記第1の真空断熱空間に配置したことを特徴とする請求項8ないし11のうち、いずれか1項記載の光化学反応装置が提供される。
【0026】
また、請求項14に係る発明によれば、前記レーザ光導波部材は、光ファイバであることを特徴とする請求項8ないし13のうち、いずれか1項記載の光化学反応装置が提供される。
【0027】
また、請求項15に係る発明によれば、前記光透過性反応用容器の外壁に、ヒータ線を巻きつけたことを特徴とする請求項1ないし14のうち、いずれか1項記載の光化学反応装置が提供される。
【0028】
また、請求項16に係る発明によれば、前記光透過性反応用容器と前記金属ミラーとの間に、前記レーザ光を透過させ、かつ前記光透過性反応用容器を囲む第2の石英ガラス容器を設け、前記光透過性反応用容器と前記第2の石英ガラス容器との間に、前記第1の真空断熱空間を配置したことを特徴とする請求項9記載の光化学反応装置が提供される。
【0029】
また、請求項17に係る発明によれば、前記レーザ光導波部材を、前記第2の石英ガラス容器の外側に配置することを特徴とする請求項16記載の光化学反応装置が提供される。
【0030】
また、請求項18に係る発明によれば、前記第2の石英ガラス容器は、純度99%以上、かつ光透過損失0.1dB/m以下の高純度の石英ガラスよりなることを特徴とする請求項16または17記載の光化学反応装置が提供される。
【0031】
また、請求項19に係る発明によれば、前記光透過性反応用容器は、純度99%以上、かつ光透過損失0.1dB/m以下の高純度の石英ガラスよりなることを特徴とする請求項1ないし18のうち、いずれか1項記載の光化学反応装置が提供される。
【0032】
また、請求項20に係る発明によれば、前記クライオスタットは、前記極低温液体を収容する第1の容器と、該第1の容器を収容する第2の容器と、前記第1の容器と第2の容器との間に設けられた第2の真空断熱空間と、を有することを特徴とする請求項1ないし19のうち、いずれか1項記載の光化学反応装置が提供される。
【0033】
また、請求項21に係る発明によれば、前記第1の容器と接続され、前記極低温液体を再液化させる再液化装置を有することを特徴とする請求項20記載の光化学反応装置が提供される。
【0034】
また、請求項22に係る発明によれば、前記極低温液体が、液体ヘリウムであることを特徴とする請求項1ないし21のうち、いずれか1項記載の光化学反応装置を用いた同位体濃縮方法が提供される。
【0035】
また、請求項23に係る発明によれば、請求項1ないし22のうち、いずれか1項記載の前記光化学反応装置を用いた同位体濃縮方法であって、前記プロセスガスとしてOとCFとの混合ガスを、前記光透過性反応用容器内に供給し、その後、前記混合ガスに前記レーザ光を照射して光化学反応させることで、酸素同位体17Oまたは18Oを含む前記Oを選択的に光分解させることを特徴とする光化学反応装置を用いた同位体濃縮方法が提供される。
【0036】
また、請求項24に係る発明によれば、前記光分解させる際の前記レーザ光の波長領域が、500nm以上であることを特徴とする請求項23記載の光化学反応装置を用いた同位体濃縮方法が提供される。
【0037】
また、請求項25に係る発明によれば、前記光分解させる際の前記レーザ光の波長領域が、700〜1500nmであることを特徴とする請求項23記載の光化学反応装置を用いた同位体濃縮方法が提供される。
【発明の効果】
【0038】
本発明の光化学反応装置、及び光化学反応装置を用いた同位体濃縮方法によれば、極低温液体を用いて金属ミラーが極低温となるように冷却することで、金属ミラーのレーザ光の反射率を高めることが可能となる。これにより、光化学反応におけるレーザ光の利用効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】室温(例えば、20℃)における金、銀、銅の反射率と波長との関係を示す図である。
【図2】極低温における銅とアルミニウムとの比抵抗を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る光化学反応装置の概略構成を示す断面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る光化学反応装置の概略構成を示す断面図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態に係る光化学反応装置の概略構成を示す断面図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態の変形例に係る光化学反応装置の概略構成を示す断面図である。
【図7】本発明の第4の実施の形態に係る光化学反応装置の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
赤外及び近赤外(波長約800nm以上)における金属の反射率は、下記(3)式に示すHagen−Rubensの式で求められる。
【数3】

上記(3)式において、Rは反射率、εは真空の誘電率[F/m]、cは光速度[m/s]、λは光の波長[m]、ρは電気比抵抗[Ωm]である。
【0041】
ところで、波長λが一定のレーザ光について上記(3)式は、下記(4)式で表すことができる。
【数4】

ここで、上記(4)式において、右辺第2項は渦電流損(eddy current loss)に当り、比抵抗が小さいほど反射率は大きくなる。光は電磁波であり、金属表面で光の磁場変化を打ち消すように渦電流が発生し、電気抵抗(=比抵抗×長さ/断面積)によりエネルギー損失が起きる。完全伝導体(超伝導体ではなく仮想的な物質)では渦電流損はゼロで、全反射する(R=1)。
【0042】
例えば、純度の高い銅は、室温(例えば、20℃)で比抵抗ρ≒10−8Ωmであり、波長λを1000nmとすると上記(3)式の右辺第2項は、0.0364となる。ゆえに、反射率Rは、下記(5)式に示す値となる。
【数5】

【0043】
図1は、室温(例えば、20℃)における金、銀、銅の反射率と波長との関係を示す図である。なお、図1は、理科年表データを引用したものである。
図1を参照するに、波長が800nm以上の領域において、比抵抗は銀<銅<金の順であり、反射率は銀>銅>金の順となっており、上記(4)式が成立している。
【0044】
比抵抗ρは、下記(6)式で表され、Matthiessenの法則(Matthiessen’s rule)に従い、温度T[K]が下がるにつれて小さくなる。また、極低温液体である液体ヘリウムの温度(4.2K)では、残留抵抗ρ[Ωm]と呼ばれる一定値になる。ρrは金属中の不純物、格子欠陥などに起因した値をとり、高純度であるほど極低温で小さい値となる。
【数6】

上記式(6)において、ρph(T)は、phonon散乱による項であり温度依存性がある。
【0045】
図2は、極低温における銅とアルミニウムとの比抵抗を示す図である。なお、図2は、超伝導・低温工学ハンドブック(社団法人低温工学協会、(株)オーム社出版)から引用した(原出典はHandbook on Materials for Superconducting Machinary 1977)の1084ページ参照。
図2に示すRRR(Residual Resistivity Ratio)は、下記(7)式で表される。
【数7】

【0046】
図2に示すように、RRR=30000が報告されており、この値を上記(4)式及び上記(5)式に代入すると、上記(3)式の右辺第2項は、0.0364√(1/30000)=0.00021となる。したがって、反射率Rは、下記(8)式に示すように、0.99979となる。
【数8】

【0047】
このように、室温(例えば、20℃)で反射率Rが0.96の銅よりなる金属ミラーの温度が極低温となるように冷却することで、反射率Rを0.99979(0.9999に近い値)まで高めることができる。また、この反射率Rは、光の入射角に依存しない優れた特徴がある。
【0048】
さらに、金、銀、アルミニウムのうち、いずれかの材料よりなる金属ミラーについても、上記銅よりなる金属ミラーと同様に、室温(例えば、20℃)で反射率Rが0.9〜0.99の金属ミラーを極低温にすることにより、反射率Rを0.99〜0.999、或いはそれ以上に高めることが可能となるので、極低温とされた金属ミラーを光化学反応に用いることで、光化学反応における光の利用効率を高めることができる。
また、上記金属ミラーの材料となる金属は、銅、金、銀、及びアルミニウムのうち、いずれか1つを用いることができる。
また、金属ミラーの材料となる金属としては、純度が99.9999%以上とされた銅、金、銀、及びアルミニウム等が好ましい。
【0049】
ここでは、液体ヘリウム(温度4.2K)を用いて、高純度の銅よりなる金属ミラーを冷却する場合を例に挙げて説明したが、反射率Rが0.999程度で良い場合には、金属ミラーの温度が40K程度となるように冷却すればよい。
また、金属ミラーの温度が100K程度となるように冷却した場合、反射率Rは0.99に近い値となり、反射回数を100回程度確保することが可能となるので、100K程度に冷却された金属ミラーを光化学反応に用いることでも、光化学反応における光の利用効率を高めることができる。
【0050】
さらに、金属ミラーを極低温にする一方、光化学反応を行う光化学反応セルの温度は、光化学反応に適した温度にする必要がある。
すなわち、光化学反応はガス状態で行うが、液体ヘリウムの温度では、ほとんどのガスが固化する問題があるためである。また、光化学反応セルの材質は、レーザ光を損失無く透過するものでなければならない。
【0051】
上記問題を解決する手段として、光化学反応セル(後述する図3〜図7に示す光透過性反応用容器21)の材質としては、光ファイバで使用される、純度が99%以上、かつ光透過損失0.1dB/m以下の高純度の合成石英ガラス、或いはアクリル樹脂等を使用することができる。
光化学反応を行なう際は、高純度の石英ガラスで製作された容器(後述する図3〜図7に示す光透過性反応用容器21)内に、光化学反応を行うために必要なプロセスガスを封入し、金属ミラーと当該石英ガラス容器の間に第1の真空断熱空間を設けるとよい。また、第1の真空断熱空間に、熱伝導性の悪い希薄なガスを充填してもよい。
【0052】
特に、光ファイバに使用される石英ガラスの光損失は、1kmあたり数dBと極めて小さく、反射ミラーの多重反射による光損失よりも非常に小さいため、問題とならない大きさである。また、光透過性反応用容器21の表面(外面および内面の両方)においてレーザ光が数%反射(残りは光透過性反応用容器21を透過)するが、この反射光は続いて金属ミラー或いは光透過性反応用容器21で反射するなど、いずれは光透過性反応用容器22内のプロセスガスに照射されるので、レーザ光は無駄なく利用される。
【0053】
(第1の実施の形態)
図3は、本発明の第1の実施の形態に係る光化学反応装置の概略構成を示す断面図である。
図3を参照するに、光化学反応装置10は、クライオスタット11と、蓋体13と、環状部材15と、金属容器16と、フランジ17と、金属ミラー19と、光透過性反応用容器21と、第1の真空断熱空間23と、ヒータ線24と、レーザ光導波部材25と、再液化装置26と、管路27と、を有する。
【0054】
クライオスタット11は、第1の容器31と、第2の容器32と、第2の真空断熱空間33と、を有する。第1の容器31は、極低温液体12を収容する容器である。
第2の容器32は、第1の容器31に対して離間した状態で、第1の容器31の外壁を囲むように配置されている。第2の容器32は、第1の容器31を収容している。第2の容器32は、第1の容器31と一体に構成されている。
【0055】
第2の真空断熱空間33は、第1の容器31と第2の容器32との間に設けられた気密された空間である。第2の真空断熱空間33は、真空とされている。
このように、第1の容器31と第2の容器32との間に、真空とされた第2の真空断熱空間33を設けることにより、第1の容器31に収容された極低温液体12の温度が上昇すること抑制できる。
上記構成とされたクライオスタット11は、極低温液体12により、金属ミラー19の温度を極低温(100K以下)に冷却保持する。
【0056】
冷却された金属ミラー19の温度は、目的に応じて、100K以下の範囲内で適宜選択することができる。また、極低温液体12としては、例えば、液体ヘリウム(温度4.2K)を用いることができる。
【0057】
蓋体13は、クライオスタット11の上端に設けられている。これにより、第1の容器31内の空間31A(極低温液体12、及び金属容器16が収容される空間)は、気密されている。蓋体13は、環状部材15を貫通させるための貫通部13Aを有する。
環状部材15は、蓋体13を貫通するように、貫通部13Aに固定されている。環状部材15の上端は、光透過性反応用容器21を構成する後述する管状部35を貫通させるための貫通部15Aを有する。環状部材15の下端は、開放端とされている。環状部材15の材料としては、例えば、ステンレスを用いることができる。
【0058】
金属容器16は、その一部が極低温液体12に浸漬するように、第1の容器31内(空間31A)に収容されている。金属容器16の上端は、環状部材15の下端に対して、フランジ17により固定されている。フランジ17による固定方法としては、溶接フランジ、またはねじ込みフランジを用いることができる。フランジ17は、金属容器16と環状部材15との接合部に設けられている。
金属容器16は、光透過性反応用容器21との間に隙間を介在させた状態で、光透過性反応用容器21を収容している。
【0059】
金属容器16は、金属ミラー19を構成する金属と同じ種類で、かつ金属ミラー19を構成する金属よりも純度の低い金属により構成されている。金属容器16の材料となる金属としては、例えば、金、銀、銅、アルミニウムのうち、いずれか1つの金属を用いることができる。金属容器16の材料となる金属として、金、銀、銅、アルミニウム等を用いた場合、該金属の純度は、99.9999%以上の範囲内とすることができる。
【0060】
金属ミラー19は、金属容器16の内面16aを覆うように設けられている。金属ミラー19は、光透過性反応用容器21の外側に、光透過性反応用容器21を囲むように配置されている。金属ミラー19は、レーザ光導波部材25から照射されたレーザ光を反射することで、反射したレーザ光を光透過性反応用容器21内に封入されたプロセスガスに照射する。
【0061】
金属ミラー19の材料となる金属としては、高純度の金、銀、銅、及びアルミニウム等を用いることができる。
金属ミラー19を構成する金属として、金、銀、銅、アルミニウム等を用いる場合、金属ミラー19を構成する金属の純度は、例えば、99.9999以上とすることができる。
【0062】
例えば、液体ヘリウム(温度4.2K)により、純度が99.9999以上とされた銅よりなる金属ミラー19を冷却した場合、金属ミラー19の表面の反射率Rを0.9999以上にすることができる。
該反射率Rは、レーザ光の入射角に依存しない優れた特徴があるため、金属容器16内面の形状を自由に選択することができる。金属容器16内面の形状は、光路長を大きくする観点から球形が有利であるが、円筒形や角型(直方体等)でもよい。
また、レーザ光導波部材25から照射されたレーザ光の広がり角や光軸を気にする必要が無く、照射されたレーザ光の大半は、反射回数により減衰するため、極限まで多重反射させることで、光化学反応に利用できる。
【0063】
金属ミラー19としては、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition))法、めっき法、コーティング法、及び蒸着法等の方法により形成された金属膜(具体的には、金膜、銀膜、銅膜、アルミニウム膜等)を用いることができる。
金属ミラー19として金属膜を非金属表面にコーティングする場合、該金属膜の厚さは、例えば、0.02〜10μmとすることができる。また、金属ミラー19として金属膜を金属表面にコーティングする場合、該金属膜の厚さは、例えば、20nm〜1mm(或いは1mm以上)とすることができる、
【0064】
光透過性反応用容器21は、管状部35と、反応室36と、を有する。管状部35は、貫通部15Aに固定されており、金属容器16の内部に延在している。管状部35の内径は、反応室36の内径よりも狭くなるように構成されている。管状部35は、一方の端部は、プロセスガスを供給するプロセスガス供給装置(図示せず)と接続されており、他方の端部が反応室36と接続されている。
【0065】
反応室36は、金属ミラー19に対して隙間を介在させた状態で、金属容器16内に収容されている。反応室36は、管状部35と一体に構成されている。反応室36では、管状部35を介してプロセスガスが供給された際、レーザ光によりプロセスガスを光化学反応させる。光透過性反応用容器21の材料としては、純度99%以上、かつ光透過損失0.1dB/m以下の高純度の石英ガラス、或いは、アクリル樹脂を用いるとよい。
【0066】
第1の真空断熱空間23は、光透過性反応用容器21と金属ミラー19との間に設けられている。第1の真空断熱空間23は、真空とされた空間である。
このように、光透過性反応用容器21と金属ミラー19との間に、第1の真空断熱空間23を設けることで、極低温液体12により光透過性反応用容器21が冷却されにくくすることが可能となる。これにより、光透過性反応用容器21内に供給されたプロセスガスが固化することを抑制できる。
【0067】
ヒータ線24は、反応室36の外壁36aに巻きつけられている。このように、反応室36の外壁36aにヒータ線24を巻きつけることで、反応室36を加熱することが可能となるので、反応室36内の温度を光化学反応に適した温度に調整することができる。
【0068】
レーザ光導波部材25は、管状部35、及び反応室36の上部に配置されている。レーザ光導波部材25は、その先端25Aにレーザ光を照射するレーザ照射面25aを有する。
ここで、レーザ光導波部材25とは、レンズ・ミラー等により構成された光学システム機器であって、レーザ光を光透過性反応用容器21に導入するためのものである。また、このレーザ光導波部材25としては、光ファイバが好適である。
なお、図1では、一例として、レーザ照射面25aからレーザ光が広がった状態で照射される場合を図示したが、レーザ光導波部材25の先端25Aにレンズ(図示せず)を配置することで、レーザ光を平行光にしてもよい。
【0069】
再液化装置26は、クライオスタット11の外部に設けられている。再液化装置26は、クライオスタット11の側壁を貫通し、かつ第1の容器31内の空間31Aと接続された管路27と接続されている。再液化装置26は、蒸発した極低温液体12をパルスチューブ式冷凍機あるいはギフォード・マクマホン式冷凍機などで冷却して再液化して極低温液体12へ戻す装置である。
このように、第1の容器31内に収容された極低温液体12を再液化させる再液化装置26を設けることにより、連続して極低温液体12を冷却することが可能となるので、金属ミラー19の温度を安定して極低温に保つことができる。
【0070】
第1の実施の形態の光化学反応装置によれば、プロセスガスが供給され、レーザ光によりプロセスガスを光化学反応させる光透過性反応用容器21と、光透過性反応用容器21の外側に、光透過性反応用容器21を囲むように配置され、かつレーザ光を反射する金属ミラー19と、金属容器16、金属ミラー19、光透過性反応用容器21、及び極低温液体12を収容可能な構成とされ、極低温液体12により、金属ミラー19の温度を極低温(100K以下の温度)に保持するクライオスタット11と、を有することにより、金属ミラー19のレーザ光の反射率を高めることが可能となる。これにより、光化学反応におけるレーザ光の利用効率を高めることができる。
【0071】
また、極低温液体12として液体ヘリウム(温度4.2K)を用い、液体ヘリウムの温度に近い温度まで金属ミラー19を冷却することにより、0.9999以上の高い反射率Rを実現可能となるので、光化学反応におけるレーザ光の利用効率を極限まで高めることができる。
【0072】
ここで、図1を参照して、上記構成とされた光化学反応装置10を用いた同位体濃縮方法について説明する。
始めに、プロセスガスとしてCFとオゾン(O)との混合ガスを光透過性反応用容器21の反応室36に供給する。次いで、レーザ光導波部材25により、反応室36内に供給された混合ガスにレーザ光を照射して、光化学反応により、オゾン中に含まれる酸素同位体である17Oまたは18Oを含むオゾンのアイソトポローグを選択的に酸素に光分解させる。
【0073】
このとき、先に説明したように、極低温(100K以下)に冷却された金属ミラー19を用いてレーザ光を反射することで、レーザ光の反射率が高められるので、光化学反応におけるレーザ光の利用効率を高めることができる。
【0074】
光化学反応を行なう際に光ファイバを用いてレーザ光を導入する場合、レーザ光の波長領域は、光ファイバの光損失が小さい500〜1500nmが最適である。
また、光ファイバを使用しない場合は、反射鏡やレンズを用いてレーザ光を導入するが、この場合、レーザ光の波長領域は、金属ミラー19の反射率が高い800nm以上を用いる。
また、オゾンとCFとの混合ガスをプロセスガスとして光化学反応を行なう際のレーザ光の波長領域は、Wulf Bandと呼ばれる700〜1200nmが好ましい。このように、レーザ光の波長領域を700〜1200nmとすることで、酸素同位体17Oまたは18Oを含むオゾンを選択的に分解できるという効果を得ることができる。
【0075】
その後、混合ガス中の酸素を、未分解のオゾン及びCFから分離させ、分離させた酸素中に酸素同位体である17Oまたは18Oを濃縮させる。
【0076】
第1の実施の形態の光化学反応装置を用いた同位体濃縮方法によれば、極低温(100K以下)に冷却された金属ミラー19によりレーザ光を反射する光化学反応装置10を用いて、オゾン(O)とCFとを混合した混合ガスをプロセスガスとして光透過性反応用容器21の反応室36に供給し、その後、該混合ガスにレーザ光を照射して、酸素同位体17Oまたは18Oを含むオゾンを選択的に光分解させることで、光化学反応におけるレーザ光の利用効率を高めた上で、酸素同位体17Oまたは18Oを濃縮させることができる。
【0077】
(第2の実施の形態)
図4は、本発明の第2の実施の形態に係る光化学反応装置の概略構成を示す断面図である。図4において、図3に示す第1の実施の形態の光化学反応装置10と同一構成部分には同一符号を付す。
【0078】
図4を参照するに、第2の実施の形態の光化学反応装置40は、第1の実施の形態の光化学反応装置10の構成に、ガス供給管41を設けると共に、レーザ光導波部材25を第1の真空断熱空間23(光透過性反応用容器21と金属ミラー19との間)に配置し、さらに光化学反応装置10に設けられたヒータ線24を構成要素から除いた以外は、光化学反応装置10と同様に構成される。
【0079】
ガス供給管41は、鉛直方向に延在しており、光透過性反応用容器21内に配置されている。ガス供給管41は、プロセスガスを供給するプロセスガス供給源(図示せず)と接続されている。ガス供給管41の先端41A(反応室36内にプロセスガスを供給する部分)は、反応室36の底部に配置されている。
第2の実施の形態の光化学反応装置40では、ガス供給管41と管状部35との隙間からガスを排出する。これにより、第2の実施の形態では、プロセスガスを連続的に流通させることが可能であり、光化学反応の連続処理を行なうことができる。また、プロセスガスの導入時の温度を設定することにより、反応室36の温度を制御できる。
【0080】
第2の実施の形態の光化学反応装置によれば、光透過性反応用容器21と金属ミラー19との間に設けられた第1の真空断熱空間23にレーザ光導波部材25を配置することで、プロセスガスがレーザ光導波部材25と接触することがなくなるため、レーザ光導波部材25に起因するプロセスガスの汚染を防止できる。
【0081】
また、第2の実施の形態の光化学反応装置40は、第1の実施の形態の光化学反応装置10と同様な効果を得ることができる。具体的には、金属ミラー19のレーザ光の反射率を高めることが可能となるので、光化学反応におけるレーザ光の利用効率を高めることができる。
【0082】
また、第2の実施の形態の光化学反応装置40を用いた同位体濃縮方法は、第1の実施の形態で説明した光化学反応装置10を用いた同位体濃縮方法と同様な手法により行なうことができ、また、光化学反応装置10を用いた同位体濃縮方法と同様な効果を得ることができる。
なお、第2の実施の形態の光化学反応装置40において、図1に示すヒータ線24を設けてもよい。
【0083】
(第3の実施の形態)
図5は、本発明の第3の実施の形態に係る光化学反応装置の概略構成を示す断面図である。図5において、図4に示す第2の実施の形態の光化学反応装置40と同一構成部分には同一符号を付す。
【0084】
図5を参照するに、第3の実施の形態の光化学反応装置45は、第2の実施の形態の光化学反応装置40に設けられた金属容器16に替えて、第1の石英ガラス容器46を設けた以外は、光化学反応装置40と同様に構成される。
【0085】
第1の石英ガラス容器46は、クライオスタット11に収容されると共に、光透過性反応用容器21を収容している。第1の石英ガラス容器46は、レーザ光を透過し、かつ純度99%以上、かつ光透過損失0.1dB/m以下の高純度の石英ガラスよりなる。第1の石英ガラス容器46を構成する石英ガラスは、金属容器16を構成する金属(例えば、金、銀、銅、アルミニウム等)と比較して熱容量が小さくすることができる。
【0086】
金属ミラー19は、第1の石英ガラス容器46の内面46aを覆うように設けられている。本実施の形態の場合、金属ミラー19としては、コーティング法または蒸着法により形成された金属膜(例えば、純度が99.9999%以上とされた金膜、銀膜、銅膜、アルミニウム膜等)を用いることができる。該金属膜の厚さは、例えば、0.02〜10μmとすることができる。
【0087】
第3の実施の形態の光化学反応装置によれば、金属容器16に替えて、光透過性反応用容器21を収容する第1の石英ガラス容器46を設けることにより、石英ガラスは金属と比較して熱容量が小さいため、極低温液体12により金属ミラー19を効率よく冷却することができる。
また、第1の石英ガラス容器46の内面46aに金属ミラー19を設けることにより、第1の石英ガラス容器46と金属ミラー19との熱膨張係数の違いによる引張応力を小さくすることが可能となるので、金属ミラー19の反射率Rの低下を抑制できる。
【0088】
なお、第3の実施の形態の光化学反応装置45を用いた同位体濃縮方法は、第1の実施の形態で説明した光化学反応装置10を用いた同位体濃縮方法と同様な手法により行なうことができる。
また、第3の実施の形態の光化学反応装置45において、図1に示すヒータ線24を設けてもよい。
【0089】
図6は、本発明の第3の実施の形態の変形例に係る光化学反応装置の概略構成を示す断面図である。図6において、図5に示す第3の実施の形態の光化学反応装置45と同一構成部分には同一符号を付す。
【0090】
図6を参照するに、第3の実施の形態の変形例に係る光化学反応装置50は、第3の実施の形態の光化学反応装置45に設けられた金属ミラー19を、第1の石英ガラス容器46の外面46bを覆うように設けた以外は、光化学反応装置45と同様に構成される。
【0091】
このような構成とされた第3の実施の形態の変形例に係る光化学反応装置50は、光透過性反応用容器21を収容する第1の石英ガラス容器46を有することにより、極低温液体12により金属ミラー19を効率よく冷却することができる。
【0092】
なお、第3の実施の形態の変形例に係る光化学反応装置50を用いた同位体濃縮方法は、第1の実施の形態で説明した光化学反応装置10を用いた同位体濃縮方法と同様な手法により行なうことができる。
また、第3の実施の形態の変形例に係る光化学反応装置50において、図1に示すヒータ線24を設けてもよい。
【0093】
(第4の実施の形態)
図7は、本発明の第4の実施の形態に係る光化学反応装置の概略構成を示す断面図である。図7において、図4に示す第2の実施の形態の光化学反応装置40と同一構成部分には同一符号を付す。
【0094】
図7を参照するに、第4の実施の形態の光化学反応装置55は、第2の実施の形態の光化学反応装置40の構成に第2の石英ガラス容器57を設け、レーザ光導波部材25の一部を空間31Aに配置し、光化学反応装置40に設けられた金属容器16に替えて金属容器61を設け、さらに、光化学反応装置40に設けられた環状部材15及びフランジ17を構成要素から除いた以外は、光化学反応装置40と同様に構成される。
【0095】
第2の石英ガラス容器57は、光透過性反応用容器21と金属ミラー19との間に設けられている。第2の石英ガラス容器57は、光透過性反応用容器21を囲むように配置されている。第2の石英ガラス容器57は、レーザ光を透過させる。第2の石英ガラス容器57は、純度99%以上、かつ光透過損失0.1dB/m以下の高純度の石英ガラスにより構成されている。
【0096】
第4の実施の形態の光化学反応装置55では、光透過性反応用容器21と第2の石英ガラス容器57との間に、第1の真空断熱空間23が設けられている。また、第2の石英ガラス容器57と金属ミラー19との間の空間は、真空とされていない。
金属容器61は、第2の石英ガラス容器57を囲むように第1の容器31に固定されている(固定方法については図示せず)。金属容器61には、金属容器61の外側から第2の石英ガラス容器57と金属ミラー19との間に設けられた空間に、レーザ光導波部材25の先端25Aを配置するための貫通部62が設けられている。レーザ光導波部材25は、第2の石英ガラス容器57の外側に配置されている。金属容器61の材料としては、第2の実施の形態で説明した金属容器16と同じ金属を用いることができる。
【0097】
第4の実施の形態の光化学反応装置によれば、光透過性反応用容器21を囲む第2の石英ガラス容器57を設けると共に、光透過性反応用容器21と第2の石英ガラス容器57との間に第1の真空断熱空間23を配置することにより、金属容器61内を真空にする必要がなくなる。言い換えれば、金属容器61内を気密する必要がない。
これにより、複数の分割された部材を組み立てることで、金属容器61を構成することができる。
【0098】
なお、図7には、図示していないが、レーザ光導波部材25である光ファイバを一定の温度で使用するための断熱ジャケットを配置する空間を十分に確保することができる。
また、光ファイバを用いることなく、直接レーザ照射装置(図示せず)からのレーザ光を光透過性反応用容器21に照射することも可能である。この場合、金属容器61及びクライオスタット11に、レーザ光を照射するための窓(レーザ光を透過可能な窓)及びレーザ光を反射するミラー等を適宜設ける。
また、第4の実施の形態の光化学反応装置55において、図1に示すヒータ線24を設けてもよい。
【0099】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0100】
例えば、第1〜第4の実施の形態で説明した光化学反応装置10,40,45,50,55では、レーザ光導波部材25として1つの光ファイバを用いる場合を例に挙げて説明したが、複数本の光ファイバを設けてもよい。
【0101】
(実施例)
第4の実施の形態の光化学反応装置55(連続的に光化学反応を起こさせる装置)を用いると共に、プロセスガスとしてオゾン(O)とCFとを混合した混合ガスを用いてオゾン分子中の酸素同位体17Oを濃縮する際のプロセス計算例を表1に示す。
なお、表1に記載のプロセス計算例は、先に説明した特許文献2(特開2006−272090号公報)における酸素同位体濃縮プロセスについてのものである。
表1には、高純度酸素を原料として(16O、17O、18Oは天然存在比の濃度)、2度のレーザ光により光化学反応を行う2段濃縮を行ったときの1段目、2段目、及び総合結果を示す。
【0102】
【表1】

【0103】
原料酸素はオゾナイザーにより、オゾン−酸素系ガスに変換し、CFを導入した蒸留塔へ導入させた後、当該蒸留塔の底でオゾン−CF系ガスとして導出させた。このオゾン−CF系ガスが本発明のプロセスガスとなる。
光透過性反応用容器21では、17Oが濃縮され、最終的に製品となる酸素中の17Oは、10atom%以上に濃縮された。
【0104】
なお、17Oを含むオゾンアイソトポローグ161617Oのターゲット吸収波長は約1000nmにあり、レーザ光導波部材25である光ファイバが低損失で使用できる波長領域にある。これは使用する光ファイバが容易に入手可能であり、レーザ光の損失を極力小さくして光化学反応を行うことができる点で重要である。
【0105】
また、第2及び第3の実施の形態で説明した光化学反応装置40,45,50(連続的に光化学反応を起こさせる装置)を用いて、プロセスガスとしてオゾン(O)とCFとを混合した混合ガスを用いてオゾン分子中の酸素同位体17Oを濃縮した場合も表1に示すような結果となる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、レーザ光を用いた光化学反応装置、及び光化学反応装置を用いた同位体濃縮方法に適用可能である。
【符号の説明】
【0107】
10,40,45,50,55…光化学反応装置、11…クライオスタット、12…極低温液体、13…蓋体、13A,15A,62…貫通部、15…環状部材、16,61…金属容器、16a,46a…内面、17…フランジ、19…金属ミラー、21…光透過性反応用容器、23…第1の真空断熱空間、24…ヒータ線、25…レーザ光導波部材、25a…レーザ照射面、25A,41A…先端、26…再液化装置、27…管路、31…第1の容器、31A…空間、32…第2の容器、33…第2の真空断熱空間、35…管状部、36…反応室、36a…外壁、41…ガス供給管、46…第1の石英ガラス容器、46b…外面、57…第2の石英ガラス容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセスガスが供給され、レーザ光により該プロセスガスを光化学反応させる光透過性反応用容器と、
前記光透過性反応用容器の外側に、該光透過性反応用容器を囲むように配置され、前記レーザ光を反射する金属ミラーと、
前記光透過性反応用容器、前記金属ミラー、及び極低温液体を収容可能な構成とされ、前記極低温液体により、前記金属ミラーの温度を極低温に保持するクライオスタットと、
を有する光化学反応装置。
【請求項2】
前記金属ミラーの温度が、100K以下であることを特徴とする請求項1記載の光化学反応装置。
【請求項3】
前記光透過性反応用容器と前記金属ミラーとの間に、第1の真空断熱空間を有することを特徴とする請求項1または2記載の光化学反応装置。
【請求項4】
前記金属ミラーを構成する金属が、金、銀、銅、アルミニウムのうちのいずれか1つであることを特徴とする請求項1ないし3のうち、いずれか1項記載の光化学反応装置。
【請求項5】
前記金属の純度が、99.9999以上であることを特徴とする請求項4記載の光化学反応装置。
【請求項6】
前記金属ミラーが、金属膜であることを特徴とする請求項1ないし5のうち、いずれか1項記載の光化学反応装置。
【請求項7】
前記光透過性反応用容器は、石英ガラスまたはアクリル樹脂よりなることを特徴とする請求項1ないし6のうち、いずれか1項記載の光化学反応装置。
【請求項8】
前記プロセスガスに、前記レーザ光を照射するレーザ光導波部材を有することを特徴とする請求項1ないし7のうち、いずれか1項記載の光化学反応装置。
【請求項9】
前記金属ミラーを構成する金属と同じ種類で、かつ前記金属ミラーを構成する金属よりも純度の低い金属よりなり、前記クライオスタットに収容されると共に、前記光透過性反応用容器を収容する金属容器を有し、
前記金属ミラーを、前記金属容器の内面を覆うように配置したことを特徴とする請求項1ないし8のうち、いずれか1項記載の光化学反応装置。
【請求項10】
前記クライオスタットに収容され、前記光透過性反応用容器を収容すると共に、前記レーザ光を透過する第1の石英ガラス容器を有し、
前記金属ミラーを、前記第1の石英ガラス容器の内面、または前記第1の石英ガラス容器の外面を覆うように配置したことを特徴とする請求項1ないし8のうち、いずれか1項記載の光化学反応装置。
【請求項11】
前記第1の石英ガラス容器は、純度99%以上、かつ光透過損失0.1dB/m以下の高純度の石英ガラスよりなることを特徴とする請求項10記載の光化学反応装置。
【請求項12】
前記レーザ光導波部材を、前記光透過性反応用容器内に配置したことを特徴とする請求項8または9記載の光化学反応装置。
【請求項13】
前記レーザ光導波部材を、前記第1の真空断熱空間に配置したことを特徴とする請求項8ないし11のうち、いずれか1項記載の光化学反応装置。
【請求項14】
前記レーザ光導波部材は、光ファイバであることを特徴とする請求項8ないし13のうち、いずれか1項記載の光化学反応装置。
【請求項15】
前記光透過性反応用容器の外壁に、ヒータ線を巻きつけたことを特徴とする請求項1ないし14のうち、いずれか1項記載の光化学反応装置。
【請求項16】
前記光透過性反応用容器と前記金属ミラーとの間に、前記レーザ光を透過させ、かつ前記光透過性反応用容器を囲む第2の石英ガラス容器を設け、
前記光透過性反応用容器と前記第2の石英ガラス容器との間に、前記第1の真空断熱空間を配置したことを特徴とする請求項9記載の光化学反応装置。
【請求項17】
前記レーザ光導波部材を、前記第2の石英ガラス容器の外側に配置することを特徴とする請求項16記載の光化学反応装置。
【請求項18】
前記第2の石英ガラス容器は、純度99%以上、かつ光透過損失0.1dB/m以下の高純度の石英ガラスよりなることを特徴とする請求項16または17記載の光化学反応装置。
【請求項19】
前記光透過性反応用容器は、純度99%以上、かつ光透過損失0.1dB/m以下の高純度の石英ガラスよりなることを特徴とする請求項1ないし18のうち、いずれか1項記載の光化学反応装置。
【請求項20】
前記クライオスタットは、前記極低温液体を収容する第1の容器と、該第1の容器を収容する第2の容器と、前記第1の容器と第2の容器との間に設けられた第2の真空断熱空間と、を有することを特徴とする請求項1ないし19のうち、いずれか1項記載の光化学反応装置。
【請求項21】
前記第1の容器と接続され、前記極低温液体を再液化させる再液化装置を有することを特徴とする請求項20記載の光化学反応装置。
【請求項22】
前記極低温液体が、液体ヘリウムであることを特徴とする請求項1ないし21のうち、いずれか1項記載の光化学反応装置。
【請求項23】
請求項1ないし22のうち、いずれか1項記載の前記光化学反応装置を用いた同位体濃縮方法であって、
前記プロセスガスとしてOとCFとの混合ガスを、前記光透過性反応用容器内に供給し、その後、前記混合ガスに前記レーザ光を照射して光化学反応させることで、酸素同位体17Oまたは18Oを含む前記Oを選択的に光分解させることを特徴とする光化学反応装置を用いた同位体濃縮方法。
【請求項24】
前記光分解させる際の前記レーザ光の波長領域が、500nm以上であることを特徴とする請求項23記載の光化学反応装置を用いた同位体濃縮方法。
【請求項25】
前記光分解させる際の前記レーザ光の波長領域が、700〜1500nmであることを特徴とする請求項23記載の光化学反応装置を用いた同位体濃縮方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−170916(P2012−170916A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37045(P2011−37045)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】