説明

光半導体装置用リードフレーム及びその製造方法

【課題】硫化速度が従来の銀皮膜の半分以下であり、初期の光の反射率に優れる光半導体装置用リードフレームを提供する。また、硫化速度が従来の銀皮膜の半分であることから長期信頼性が従来の銀皮膜よりも倍以上に優れ、かつワイヤボンディング性は従来の銀皮膜と同等であり、さらに外部に露出した箇所における半田付け性に優れるため外装めっきを必要としない、光半導体用リードフレームを提供する。
【解決手段】基体1上に銀−インジウム合金、銀−錫合金、又は銀−インジウム−錫合金からなる反射層2が形成されており、該反射層2上にインジウム及び/又は錫の酸化物層3が厚さ0.0004〜0.001μmで最表層に形成されていることを特徴とする、光半導体装置用リードフレーム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光半導体装置用リードフレーム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光半導体装置用リードフレームは、従来より、LED(Light Emitting Diode)素子等の光半導体素子である発光素子を光源に利用した各種表示用・照明用光源として広く使用されている。光半導体装置は、例えば、基板にリードフレームを配し、リードフレーム上に発光素子を搭載した後、熱、湿気、酸化などによる光源素子やその周辺部位の劣化を防止するため、前記光源とその周囲を樹脂で封止して製造されている。
【0003】
光半導体装置用リードフレームとしては、半導体発光素子の装着される反射板付近に、光の反射特性、すなわち光の反射率に優れた銀めっき層を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、銀は大気中や封止樹脂中の硫黄成分と反応して黒色変色し、反射率を低下させることがある。
【0004】
そこで、耐食性を向上させるために、リードフレームの被覆層に銀を用いずに、ニッケル下地層上にパラジウムを0.005〜0.15μm、最表層にロジウムを0.003〜0.05μm形成するという方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、この構成の被覆層は、銀を被覆層に用いた場合と比べて可視光域の反射率が大幅に低下する場合があり、高輝度を要求される用途に適用することは困難である。また、ロジウムはワイヤボンディング性や半田濡れ性が悪く、接続信頼性が高いとはいえない。さらにロジウムは、貴金属の中でも特に高価であるとともに、供給安定性に不安があり、光半導体装置を廉価で供給しにくい。
【0005】
そこで、銀又は銀合金の上にごく薄い耐食性に優れた皮膜を設けて、光半導体装置用リードフレームを製造する方法が提案されている。例えば特許文献3や特許文献4では、銀又は銀合金の上層に、金と銀の合金めっき層や特性維持層を設けて耐食性を向上させる手法が提案されている。
【0006】
しかしながら、金を最表層に被覆すると、例えば青色発光波長である450nmなどの比較的短波長側の反射率が大幅に低下する場合がある。また、銀と金は非常に拡散しやすいため、金と銀の合金めっき層から、リードフレームの最表面に銀が容易に露出されることが多い。特に光半導体装置を製造する工程において、樹脂を硬化させる際に、例えば大気中で150℃で3時間などの加熱処理工程を経ることや、リードフレームに光半導体素子を搭載して発光した際に生じる熱によって、金と銀の合金めっき層から、容易に銀が表面に露出し、銀と同様に変色し、反射率が低下することがある。また、金は高価な貴金属であるため、金よりも安価な金属の活用が望まれる。
また、特性維持層として有機皮膜やシリコーン系皮膜を形成すると、発光素子搭載後のワイヤボンディング性の確保が難しい。また、ワイヤボンディング後にドライプロセスを利用して耐食性に優れる酸化膜等を被覆する手法も、特許文献5によって提案されているが、この方法では工程が煩雑になり、安価に製造することができない。
さらに、封止樹脂の外側に露出した箇所は、半田付けにより、配線基板に接続される。この際、光半導体装置を形成した際の熱によって銀の拡散が進行し、最表面の銀の酸化や硫化によって、半田付けができない場合がある。このため、光半導体装置を製造後に、製品の端子部分に新たに錫めっきなどの処理を行う、外挿めっきを行う必要がある。この方法では、製造工程が増えるために、光半導体装置を廉価で提供するのに障害となるだけでなく、外挿めっき時に光半導体装置を故障させてしまう可能性があり、改善が望まれていた。
そこで本発明者は、特許文献6に示すような錫または錫合金、インジウムまたはインジウム合金を活用する発明提案を行っている。これは、銀または銀合金上に最表層皮膜を形成後、固溶体を形成させて耐食性を高める方法である。この場合は、硫化試験前後における反射率の低下が非常に小さいために大変有効であるが、近年は被覆樹脂の改良により硫化進行速度が抑制されつつあり、反射率の低下する割合が従来の銀皮膜の半分程度であれば十分であるという要求が生まれつつある。そこで、従来の銀皮膜と比べて硫化速度が半分程度であり、かつ光半導体用リードフレームに要求される初期反射率70%以上、ワイヤボンディング性が従来の銀皮膜と同等、さらには半田濡れ性が良好で、安価に処理が可能であるような方法が望まれてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−148883号公報
【特許文献2】特開2005−129970号公報
【特許文献3】特開2008−91818号公報
【特許文献4】特開2009−135355号公報
【特許文献5】特開2008−072013号公報
【特許文献6】国際公開番号WO2010−074184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、硫化速度が従来の銀皮膜の半分以下であり、初期の光の反射率に優れる光半導体装置用リードフレーム及びその製造方法を提供することを課題とする。また本発明は、硫化速度が従来の銀皮膜の半分であることから長期信頼性が従来の銀皮膜よりも倍以上に優れ、かつワイヤボンディング性は従来の銀皮膜と同等であり、さらに外部に露出した箇所における半田付け性に優れるため外装めっきを必要としない、光半導体用リードフレーム及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に鑑み鋭意検討した結果、基体上に特定の銀合金からなる反射層が固溶体組成で濃度勾配無く形成され、該反射層上に特定の金属からなる酸化物層を最表層に特定の被覆厚で形成させることで、従来の銀皮膜の硫化速度を半分以下にすることができ、初期の反射率が70%以上を確保しつつ、ワイヤボンディング性及び半田付け性に優れることを見出した。また本発明の製造方法として、初期に形成された耐食成分層が光半導体装置の製造工程を経ることで、銀からなる反射層中に均一に拡散されて消滅し、最表層には該耐食成分の酸化物層を形成させることで、優れた耐食性及び反射率を示す製造方法であることを見出した。本発明は、これらの知見に基づきなされたものである。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)基体上に銀−インジウム合金、銀−錫合金、又は銀−インジウム−錫合金からなる反射層が形成されており、該反射層上にインジウム及び/又は錫の酸化物層が厚さ0.0004〜0.001μmで最表層に形成されていることを特徴とする、光半導体装置用リードフレーム、
(2)前記基体と前記反射層との間に、ニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金、銅、銅合金、パラジウム、パラジウム合金、ロジウム及びロジウム合金からなる群から選ばれた金属又は合金からなる中間層が少なくとも1層形成されていることを特徴とする、(1)記載の光半導体装置用リードフレーム、
(3)基体上に銀からなる反射層を湿式めっき法で形成し、該反射層上にインジウムまたは錫からなる耐食成分層を1層以上、湿式めっき法で形成後、光半導体装置を製造する工程を経た後に、該耐食成分層を該反射層内に拡散させ、該耐食成分の酸化物層を厚さ0.0004〜0.001μmで最表層に形成させることを特徴とする、光半導体装置用リードフレームの製造方法、
(4)初期に形成された該耐食成分層の厚さは、0.0025〜0.008μmであることを特徴とする、(3)記載の光半導体装置用リードフレームの製造方法、及び
(5)前記基体と前記反射層との間に、ニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金、銅、銅合金、パラジウム、パラジウム合金、ロジウム及びロジウム合金からなる群から選ばれた金属又は合金からなる中間層を少なくとも1層、湿式めっき法により形成することを特徴とする、(3)または(4)記載の光半導体装置用リードフレームの製造方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光半導体装置用リードフレームは、基体上に特定の金属との銀合金からなる反射層が形成され、該反射層上に特定の金属の酸化物層が極薄い被覆厚で形成されていることで、銀の優れた反射特性を生かしつつ従来の銀皮膜よりも硫化速度を半分以下に抑制することができ、かつ銀が最表層に出現しないことから銀のマイグレーションを抑制できる。また、最表面には酸化物層が形成されているものの、その被覆厚が0.0004〜0.001μmと極めて薄いため、最表層にワイヤボンディング用の皮膜を被覆しなくても従来の銀と同等のワイヤボンディング性を確保し、またリード部において外装めっきを施さなくても優れた半田付け性を維持することができる。
また、本発明の製造方法によれば、各被覆層を湿式めっき法によって形成するので、厚さを容易に制御することができ、生産性に優れるので、所望の被覆層の厚さを有する光半導体装置用リードフレームを製造することができる。また、本発明の製造法によれば、初期の耐食成分被覆厚を制御することにより、従来の光半導体装置の製造工程中で最表面に該耐食成分層の酸化物層を必要なだけ形成させることができる。このため、別途に熱処理工程等の必要がなく、後処理により耐食層を形成する工程も不要なため、従来の製造工程のみで安価に製造できる。本発明の製造方法により、LED、フォトカプラ、フォトインタラプタなどに使用される光半導体装置用リードフレームとして好適な、光の波長が400nmから近赤外域の800nmにおける反射特性が良好で、さらには従来の銀皮膜の硫化速度が半分以下であり、反射率の長期安定性、ワイヤボンディング性に優れたリードフレームを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る光半導体装置用リードフレームの第1の実施態様の概略断面図である。
【図2】本発明に係る光半導体装置用リードフレームの第2の実施態様の概略断面図である。
【図3−1】図1に示した光半導体装置用リードフレームを製造するにあたり、初期に形成された被覆形態を示す概略断面図である。
【図3−2】本発明の製造方法に基づき形成された光半導体装置の一実施態様を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の光半導体装置用リードフレームの第1の実施態様の概略断面図である。
図1に示すように、第1の実施態様のリードフレームは、本発明における被覆形態を示しており、基体1上に銀−インジウム合金、銀−錫合金、銀−インジウム−錫合金のうちいずれかからなる反射層2が形成され、その反射層2上に、インジウム、錫、またはこれら両者の酸化物層3が全面に形成されている。本発明においては、可視光域の波長400〜800nmにおける反射特性に優れ、従来の銀皮膜よりも硫化速度が半分以下であり、かつ耐マイグレーション性、ワイヤボンディング性、半田付け性に優れた光半導体装置用リードフレームを提供することができる。
【0014】
本発明の光半導体装置用リードフレームの基体1としては、例えば銅又は銅合金、鉄又は鉄合金、アルミニウム又はアルミニウム合金などが好適に用いられる。
基体のうち、銅合金の例としては、CDA(Copper Development Association)規格合金の例として、C19400(Cu−Fe系合金材料:例えば、Cu−2.3Fe−0.03P−0.15Zn)、C26000(黄銅:Cu−30Zn)、C26800(黄銅:Cu−35Zn)、C52100(リン青銅:Cu−8Sn−P)、C77000(洋白:Cu−18Ni−27Zn)、が挙げられる。また、CDA規格合金のC14410(Cu−0.15Sn:古河電気工業(株)製EFTEC−3)、C18045(Cu−0.3Cr−0.25Sn−0.2Zn系合金:同社製EFTEC−64T)、C52180(Cu−8Sn−0.1Fe−0.05Ni−0.04P:同社製F5218)、C70250(Cu−3.0Ni−0.65Si−0.15Mg:同社製EFTEC−7025)なども好適な例として挙げられる。
また、基体のうち、鉄合金の例としては、日本工業規格(JIS G 4305:2005)規定のステンレス鋼(SUS301、SUS304、SUS401)や、Fe−Ni合金である42アロイ(Fe−42%Ni)などが挙げられる。
また、基体のうち、アルミニウム合金例としては、日本工業規格(JIS H 4000:2006 など)に規定されるA1100、A2014、A3003、A5052などが挙げられる。
【0015】
これら基体上には、反射層や最表層皮膜を形成するのが容易であり、生産性のよいリードフレームを提供できる。また、これらの金属を基体とするリードフレームは放熱特性に優れ、発光素子が発光する際に発生する熱エネルギーを、リードフレームを介して円滑に外部に放出することができ、発光素子の長寿命化及び長期にわたる反射率特性の安定化が見込まれる。これは、基体の導電率に依存するため、例えば10%IACS(International Annealed Copper Standard)以上であるものが好ましく、50%IACS以上であるものがさらに好ましい。なお、鉄合金系のSUS304などや42アロイなどは、一般に10%IACS未満であるが、リードフレームとしての強度が要求される用途、放熱性が強く要求されない用途や汎用LED用途であれば、好適に用いることができる。
【0016】
また図1において、銀−インジウム合金、銀−錫合金、銀−インジウム−錫合金のうちいずれかからなる反射層2が形成されている。この反射層2の厚さに特に制限は設けないが、好ましくは0.2〜10μm、さらに好ましくは0.5〜5.0μm、より好ましくは1.0〜3.0μmである。厚さが薄すぎると反射率に寄与する厚さが十分ではなく、かつ基材成分の拡散により反射率が早期に低下し始める可能性があるため、長期信頼性の観点からも0.2μm以上が好ましい。一方、厚さが厚くなりすぎると効果が飽和し、コスト高になるだけでなく、プレス時に割れが発生しやすくなる。このため、反射層2の被覆厚を上記範囲内とすることで、必要以上の貴金属を使用することなく廉価で光半導体装置用リードフレームを製造できる。
【0017】
なお、銀−インジウム合金、銀−錫合金、銀−インジウム−錫合金のうちいずれかからなる反射層2は、インジウム及び/又は錫が固溶体成分濃度であることが好ましい。これは、固溶体成分濃度以上にインジウムまたは錫が含有されると銀との金属間化合物が形成されるが、金属間化合物になると反射率が急激に低下するため好ましくない。固溶体成分濃度であるために、銀合金中に含有される最大濃度は、インジウムの場合は20質量%未満、錫の場合は10質量%未満、インジウムと錫の双方を含有する場合は合計で10質量%未満である必要があるが、反射率低下を最低限にするためにもより好ましくはインジウムでも錫でも双方でも含有量は1質量%未満、さらには0.5質量%未満である。
【0018】
また反射層2は、内部に濃度勾配を持たずに均一な成分になっていることが好ましい。濃度勾配を持つ場合は、例えば耐食皮膜を最表層に残す場合においては密着性の改善効果が得られるが、本発明のように耐食成分を残存させないことが必要な場合は、成分の濃度勾配によって反射率にムラが生じてしまうことがあるため、均一組成であることが好ましい。
【0019】
また図1において、最表層には前記耐食皮膜成分の酸化物層3が形成されている。この酸化物層3は、インジウム、錫、または両者の酸化物からなる層であり、反射層の光の反射率が低下するのを極力抑制し、かつ反射層の変色を従来の反射層の変色速度の半分以下に低減できる層となる。この層は、厚さが0.0004μm未満であると耐食性が従来の反射層の半分以下に低減できず、一方0.001μmを超えるとワイヤボンディング性及び半田濡れ性が劣化してしまうため、0.0004〜0.001μmで最表層に形成される必要がある。酸化物層3の厚さは好ましくは0.0005〜0.0008μmである。
【0020】
さらに図1における酸化物層3を形成する工程としては、光半導体装置が形成される工程で必然的に形成されることが大変重要である。このことは、酸化物層を形成するための余計な工程を経ることなく自然と効率よく形成できるので、生産性に優れる。酸化物層3の厚さは初期に形成される耐食皮膜成分層の厚さで調整できる。酸化物層を上記の層厚に制御するためには、初期に形成される耐食皮膜成分層の厚さは0.0025〜0.008μmである必要があり、ワイヤボンディング性・反射率・耐食性のすべてを兼ね備えるのに最適な製造範囲ということができる。
【0021】
図2は、本発明に係る光半導体装置用リードフレームの第2の実施態様の概略断面図である。図2に示す実施形態のリードフレームが、図1に示すリードフレームと異なる点は、基体1と反射層2との間に、中間層4が形成されていることである。その他の点については、図1に示すリードフレームと同様である。
図2に示すように、基体1と銀又は銀合金からなる反射層2との間に、ニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金、銅、銅合金、パラジウム、パラジウム合金、ロジウム及びロジウム合金からなる群から選ばれた金属又は合金からなる中間層4が少なくとも1層以上形成されている。これにより、発光素子が発光する際に発生する熱によって基体を構成する材料が反射層へ拡散することによる反射率の低下をより一層防ぎ、反射率特性を長期にわたって安定させることができる。また、中間層4を設けることにより、基体と銀又は銀合金からなる反射層との密着性を向上させることができる。中間層4の厚さは、製造する際のプレスのしやすさをはじめとする生産性のほか、耐熱性(耐拡散性)やコストを考慮して決定される。中間層4の厚さの合計は、ニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金、銅、銅合金の場合は0.2〜5.0μmであることが好ましく、さらには0.2〜2.0μmが好ましく、特に好ましくは0.5〜2.0μmである。また中間層6がパラジウム、パラジウム合金、ロジウム及びロジウム合金である場合は、耐熱性がさらに優れることと貴金属であるために使用量低減することが望ましいため、0.005〜0.2μm、さらに好ましくは0.005〜0.05μmである。なお、パラジウム、パラジウム合金、ロジウム及びロジウム合金を下地層として形成する場合、これら中間層が基材へ拡散するのを防止するため、ニッケルまたはニッケル合金を基材との間に1層以上設け、2層以上の構造として使用することが好ましい。
【0022】
図3−1は、本発明の製造方法において、図1に示した本発明に係る光半導体装置用リードフレームを製造するにあたり、初期に形成された被覆形態を示す概略断面模式図である。図3−1において、初期に形成されたリードフレームの構成は、基体1に銀からなる初期反射層12が形成されており、さらにその上層にインジウム、錫、またはこれら両者からなる耐食成分層13が形成されている。この耐食成分層13は、被覆厚が0.0025〜0.008μmで形成されている。初期の被覆厚が0.0025μm未満であると、光半導体装置を製造する工程を経た後における該耐食成分の酸化膜厚が薄くなるため、硫化速度を半分以下にすることができなくなる一方、0.008μmを超えて被覆した場合、光半導体装置を製造する工程におけるワイヤボンディング性が損なわれてしまう。より一層の耐食性保持、及びワイヤボンディング性と半田濡れ性確保の観点から、初期に形成される耐食成分層の被覆厚は、0.003〜0.005μmがさらに好ましい。
【0023】
なお、これらの初期反射層12、耐食成分層13は、湿式めっき法で形成されることが好ましい。この方法により、1製造工程での層構成形成が容易であり、蒸着法やスパッタ法などの乾式めっき法を使用するよりもリードタイムが短く、生産性に優れる光半導体装置用リードフレームが形成できる。
【0024】
図3−2は、本発明の製造方法に基づき形成された光半導体装置であり、初期に図3−1で形成された光半導体装置用リードフレームに、光半導体素子を搭載して光半導体装置を製造する工程を経た後の概略断面模式図を示している。本発明のリードフレームは、必要な諸形状にプレスされた後、光半導体素子5を搭載し、適宜、外部から光半導体チップ5に対して電力が供給されるようにワイヤボンディング6で外部配線を接続し、光半導体チップ5とその周囲をモールド樹脂7および封止樹脂8で封止されて、光半導体装置が形成されている。
また図3−2は、図3−1で示された初期反射層12中に、耐食成分からなる層13が拡散し、最表層には該耐食皮膜成分の酸化物層3が形成されている。一方の反射層2は、初期反射層12に形成されていた銀と、耐食皮膜成分からなる合金層になっている状態を示しており、前記図1と同様に示す構成となっていることが分かる。
【0025】
光半導体装置の製造方法としては、リードフレーム上に光半導体素子5を搭載し、ワイヤボンディングにて回路を形成した後、外郭をモールド樹脂7で形成して封止樹脂8で封止される工程を経るのが一般的であるが、その工程中の随所で加熱工程が必要である。例えばダイボンド工程で150℃−2時間、ワイヤボンディング工程において150℃−15分、さらに外郭モールド樹脂硬化工程に130℃−3時間、半田接合に260℃−5分などが代表的であるが、本発明の着眼点は、これら工程における必要不可欠な熱であることから、これらの熱を、耐食成分を反射層へ拡散させるための駆動力として有効利用し、工程を増やさずして最終形のリードフレーム皮膜構造となるように設計されているところにある。つまり、従来技術によって検討されてきた金などの特性維持層では、初期の耐食皮膜を形成したとしてもそれが製造工程で消滅してしまうことがあるため、その現象を逆に利用しているのが本発明の製造方法である。このため、酸化物層3を形成する工程としては、光半導体装置が形成される工程で必然的に形成されることが大変重要である。このことは、酸化物層を形成するための余計な工程を経ることがないので、効率よく該酸化物層を形成できるので、生産性に優れる。また、酸化物層をこの層厚に制御するためには、初期に形成される耐食皮膜の厚さは0.0025〜0.008μmである必要があり、ワイヤボンディング性・反射率・耐食性のすべてを兼ね備えるのに最適な製造範囲として有効である。
【0026】
また図3−2に示すように、樹脂モールドされない領域(例えば図3−2中領域A)は、耐食成分の酸化物層3が最表面に出現しており、銀の変色が抑えられ、かつ被覆厚が非常に薄いため、下層の良好な半田濡れ性を持つため優れた半田濡れ性を長期に渡り維持することができる。このため、外挿めっき等の別途半田付け用の工程を実施することなく光半導体装置を提供できるので、生産性に優れた光半導体装置用リードフレームを提供することが出来る。
【0027】
なお、図3−2の符号9で示す部分にプレスにより破面での基材露出部が形成されているが、この場所は樹脂モールドにより覆われており、光半導体装置の輝度に影響は与えない。また、本発明のリードフレームでは、プレス後に初期の構成によって被覆層を形成後、光半導体装置製造工程を経ることで、プレス破面による基材露出部が形成されない光半導体装置を形成することも勿論可能である。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
厚さ0.15mm、幅30mmの表1に示す基体に下記前処理を行った後、下記電気めっき処理を基体全面に実施することにより、表1に示す初期の被覆状態となる本発明例1〜17、従来例1〜3及び比較例1、2のリードフレームを得た。
【0030】
また、基体に用いられた材料のうち、「C18045(EFTEC−64)」、「C19400」、「C14410(EFTEC−3)」は銅または銅合金基体を表し、Cの後の数値はCDA(Copper Development Association)規格による種類を示す。また、「C18045(EFTEC−64T)」および「C14410(EFTEC−3)」は古河電気工業(株)製の銅合金である。
【0031】
前処理としては、下記電解脱脂、次いで下記酸洗を行った。なお、銀めっき層を形成する前に銀ストライクめっきを厚さ0.01μmで施した。
【0032】
前処理条件を下記に示す。
(前処理条件)
[電解脱脂]
脱脂液:NaOH 60g/リットル
脱脂条件:2.5 A/dm、温度60℃、脱脂時間60秒
[酸洗]
酸洗液:10%硫酸
酸洗条件:30秒 浸漬、室温
[Agストライクめっき]被覆厚0.01μm
めっき液:KAg(CN) 5g/リットル、KCN 60g/リットル、
めっき条件:電流密度 2A/dm、めっき時間 4秒、温度 25℃
【0033】
使用した各めっきのめっき液組成およびめっき条件は下記に示す。
(中間層)
[Niめっき]
めっき液:Ni(SONH・4HO 500g/リットル、NiCl 30g/リットル、HBO 30g/リットル
めっき条件:電流密度 5A/dm、温度 50℃
[Coめっき]
めっき液:Co(SONH・4HO 500g/リットル、CoCl 30g/リットル、HBO 30g/リットル
めっき条件:電流密度 5A/dm、温度 50℃
[Cuめっき]
めっき液:CuSO・5HO 250g/リットル、HSO 50g/リットル、NaCl 0.1g/リットル
めっき条件:電流密度 6A/dm、温度 40℃
[Pdめっき]
めっき液:Pd(NH)2Cl 45g/リットル、NHOH 90ミリリットル/リットル、(NHSO 50g/リットル
めっき条件:電流密度 1A/dm、温度 30℃
[Rhめっき]
めっき液:RHODEX(商品名、日本エレクトロプレイティングエンジニヤース(株)製)
めっき条件:1.3A/dm、温度 50℃
【0034】
(反射層)
[Agめっき]
めっき液:AgCN 50g/リットル、KCN 100g/リットル、KCO 30g/リットル
めっき条件:電流密度 1A/dm、温度 30℃
(従来例2の反射層)
[Rhめっき]
めっき液:RHODEX(商品名、日本エレクトロプレイティングエンジニヤース(株)製)
めっき条件:1.3A/dm、温度 50℃
【0035】
(耐食皮膜)
[Inめっき]
めっき液:InCl3 45 g/リットル、KCN 150g/リットル、KOH 35g/リットル、デキストリン 35g/リットル
めっき条件:電流密度 2A/dm、温度 20℃
[Snめっき]
めっき液:SnSO 80g/リットル、HSO 80g/リットル
めっき条件:電流密度 2A/dm、温度 30℃
(従来例3の最表層)
[Auめっき]
めっき液:KAu(CN) 14.6g/リットル、C 150g/リットル、K 180g/リットル
めっき条件:電流密度 1A/dm、温度 40℃
【0036】
得られた初期構成の本発明例、比較例、および従来例のリードフレームについて、実装ラインを模擬した熱処理を行った。熱処理は、光半導体モジュール製造工程を想定した熱履歴として150℃で3時間の条件で、高温槽を用いて実施した。その後、下記試験を行い、その性能を下記の基準により評価した。
(1)反射率:分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ製、商品名:U−4100)において、全反射率を400nm〜800nmにかけて連続測定を実施した。このうち、400nm、600nm、および800nmにおける反射率(%)を表2に示す。ここで、波長400nm〜800nmの反射率が70%以上を実用レベルと判断した。なお、連続測定の結果から、各波長間で反射率が急落することはないことを確認している。
(2)硫化速度:硫化試験(JIS H 8502記載)、HS 3ppm、24h後の反射率変化について評価を実施し、その代表値として波長600nmにおける反射率を示した。その後、その反射率が初期の反射率に対する低下の割合を算出し、「硫化速度=(波長600nmにおける初期の反射率−硫化試験後の反射率)/24時間」として示した。その結果を表2に示す。ここで、従来例1の最表層が銀皮膜のみの場合の反射率低下速度(硫化速度=2.92%/時間)を基準とし、その半分以下である「1.46%/時間」以下であることが必須条件とすることで、従来銀皮膜品と比較して硫化速度が半分以下であり、長期信頼性に優れると判断した。
(3)ワイヤボンディング試験(ワイヤボンディング性):下記のワイヤボンディング条件において、10点テスト後に接合強度測定を行い、その(強度−3σ)の値が29.4mN以上のものを「優」と判定して表に「◎」印を付し、29.4mN未満であるがエラー無く接合可能なものを「良」と判定して表に「○」印を付し、1点でもエラーが発生したりまったく接合しなかったりしたものを「不可」と判定して表に「×」印を付して、それぞれ表2に示した。
ワイヤボンダ:SWB−FA−CUB−10、(株)新川製
ワイヤ:25μm 金ワイヤ
ボンディング温度:150℃
キャピラリ:1570−15−437GM
1st条件:10msec.、45Bit、45g
2nd条件:10msec.、100Bit、130g
実用レベルとしては「○」以上の評価結果として判断した。
(4)半田濡れ試験(半田濡れ性):上記硫化試験を24時間実施後に、ソルダーチェッカー(SAT−5100(商品名、(株)レスカ製))を用いて半田濡れ時間を評価した。測定条件詳細は以下の条件とし、半田濡れ時間が3秒未満であると「優」であると判定し、「◎」印を付し、3秒以上10秒以下であるものを「良」であると判定し、「○」印を付し、10秒浸漬しても接合しなかったものを「不可」と判定し「×」印を付して、それぞれ表2に示した。
半田の種類:Sn−3Ag−0.5Cu
温度:250℃
試験片サイズ:10mm×30mm
フラックス:イソプロピルアルコール−25%ロジン
浸漬速度:25mm/sec.
浸漬時間:10秒
浸漬深さ:10mm
実用レベルとしては「○」以上の評価結果として判断した。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
表1に示す、初期に形成された下地層、反射層、および耐食成分層の各厚さは、蛍光X線膜厚測定装置(SFT9450:製品名、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて測定した平均値(任意の10点の測定値の算術平均)である。また加熱後に形成された酸化物層厚は、オージェ電子分析装置(Model−680(商品名、アルバック・ファイ社製))において深さ方向分析を実施し、そのスパッタレートを厚さに換算して厚さを算出した。なお、発明例、比較例および従来例3に記載されている合金層は、同じくオージェ電子分析装置にて濃度勾配がなく均一に反射層が合金化されていることを確認した。
表2に示される結果から明らかなように、例えばC18045、C19400等の銅又は銅合金上に銀−インジウム合金、銀−錫合金、銀−インジウム−錫合金のうちいずれかからなる反射層が形成されており、該反射層上にインジウムまたは錫または両者の酸化物層が厚さ0.0004〜0.001μmで最表層に形成されているものは、400nmから800nmにおける反射率が、硫化試験前の状態で全領域が70%以上を維持するとともに、硫化試験後においても従来銀皮膜の硫化速度の半分以下となっていることが分かる。また、ワイヤボンディング性及び半田濡れ性も優れている様子が分かる。
なお、発明例1においては、酸化物層厚が薄い下限値であるため、硫化速度がやや速くワイヤボンディング性及び半田濡れ性が「可」のレベルとなっている。一方発明例3においては、酸化物層厚が厚い上限値であるため、硫化速度は優れているが酸化物層厚の影響でワイヤボンディング性および半田濡れ性が「可」のレベルになっている。
【0040】
これに対して、従来例1に示すように、耐食成分層と酸化物層からなる最表層を設けない場合は、初期の反射率は非常に高く優れた特性を示しているが、硫化試験後は波長600nmにおいて22%の反射率となり、硫化速度が3%近くであることから、本発明例と比較すると長期信頼性に欠けることが分かる。また、ワイヤボンディング試験や半田濡れ試験において、従来例1の場合は、硫化変色のため半田濡れが確保できなかった。
また、耐食皮膜成分として金を施した従来例3では、酸化膜が最表層に形成されておらず、かつ加熱により下層の銀が最表層に到達してしまい、硫化変色を起こした。このため、波長600nmにおいて反射率が低下し、硫化速度は本発明例ほど効果を奏していないことが分かる。また従来例3では、硫化変色によりワイヤボンディング性および半田濡れ性を確保することができなかった。
さらに、反射層としてロジウムめっきを施し、耐食皮膜と最表層を設けなかった従来例2では、反射率は初期及び硫化試験後において400nm〜800nmの全領域で反射率70%以上を確保でき、長期信頼性に優れることが分かるが、ワイヤボンディング性に劣り、半田濡れ性が確保できないことがわかった。
【0041】
一方、酸化膜が本発明における下限値を下回る厚さの比較例1では、硫化試験後の変色が抑制しきれずに反射率が低下し、硫化試験後の波長600nmにおける反射率が55%まで低下してしまい、硫化速度が従来例1の半分以下にならず、また硫化変色のためワイヤボンディング性及び半田濡れ性が確保できなかった。
酸化膜が本発明における上限値を上回る厚さの比較例2では、初期の反射率が波長400nmにおいて70%を下回り、反射層の反射率を十分生かせないことがわかる。また、酸化膜が厚く形成されているため硫化速度は優れているが、逆にワイヤボンディング性及び半田濡れ性が確保できなくなってしまった。
【0042】
これらからわかるように、本発明の光半導体装置用リードフレームは、初期の反射率が波長400nm〜800nmで70%以上を確保しつつ、かつ反射層の耐食性に優れるため輝度の劣化がほとんどなく、ワイヤボンディング性、さらには半田濡れ性に優れていることがわかる。
【0043】
また本実施例では、光半導体装置の製造工程に必須な熱処理工程を模擬した熱処理によって、容易に光半導体装置用リードフレームを提供することができることは明白であり、本発明における初期の皮膜形成厚で製造することで、例えば外装めっき工程や別途耐食皮膜を形成する工程を経ることなく、長期信頼性及びワイヤボンディング性、さらには半田濡れ性にも優れた光半導体装置用リードフレームの製造方法を提供できることが分かる。
【符号の説明】
【0044】
1 基体
2 反射層
3 耐食皮膜成分からなる酸化物層
4 中間層
5 光半導体チップ
6 ワイヤボンディング
7 モールド樹脂
8 封止樹脂
9 プレス破面での基材露出部
12 初期反射層
13 耐食成分層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に銀−インジウム合金、銀−錫合金、又は銀−インジウム−錫合金からなる反射層が形成されており、該反射層上にインジウム及び/又は錫の酸化物層が厚さ0.0004〜0.001μmで最表層に形成されていることを特徴とする、光半導体装置用リードフレーム。
【請求項2】
前記基体と前記反射層との間に、ニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金、銅、銅合金、パラジウム、パラジウム合金、ロジウム及びロジウム合金からなる群から選ばれた金属又は合金からなる中間層が少なくとも1層形成されていることを特徴とする、請求項1記載の光半導体装置用リードフレーム。
【請求項3】
基体上に銀からなる反射層を湿式めっき法で形成し、該反射層上にインジウムまたは錫からなる耐食成分層を1層以上、湿式めっき法で形成後、光半導体装置を製造する工程を経た後に、該耐食成分層を該反射層内に拡散させ、該耐食成分の酸化物層を厚さ0.0004〜0.001μmで最表層に形成させることを特徴とする、光半導体装置用リードフレームの製造方法。
【請求項4】
初期に形成された該耐食成分層の厚さは、0.0025〜0.008μmであることを特徴とする、請求項3記載の光半導体装置用リードフレームの製造方法。
【請求項5】
前記基体と前記反射層との間に、ニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金、銅、銅合金、パラジウム、パラジウム合金、ロジウム及びロジウム合金からなる群から選ばれた金属又は合金からなる中間層を少なくとも1層、湿式めっき法により形成することを特徴とする、請求項3または4記載の光半導体装置用リードフレームの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3−1】
image rotate

【図3−2】
image rotate


【公開番号】特開2013−26427(P2013−26427A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159512(P2011−159512)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】