説明

光半導体装置

【目的】 炭化珪素発光素子中のp型炭化珪素に対して、金属膜をオーミック電極とするための熱処理工程において消失せず、またその熱処理工程によって球形化しない電極を形成する。
【構成】 IV族元素又は立方晶BNの光半導体素子のp型領域13に隣接して形成されるp型炭化珪素の電極22としてIII 族金属と該III 族金属との金属間化合物の融点が該III 族金属の融点以上となるPt,Cr,Ta,Ti,W,Mo,Sbから選ばれた一つの金属との金属間化合物を用いる。また、オーミック電極となり得る金属膜上に高い温度を融点として持つ物質を積層する。
【効果】 半導体素子製造工程に必要なボンディング工程を容易に行なえる。また、より高温で熱処理することができるため一層低抵抗の電極を形成できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は光半導体装置に係り、特にそのオーミック電極の構造に関する。
【0002】
【従来の技術】炭化珪素は熱的・化学的に非常に安定であり、またエネルギーギャップが2.7eV以上あるため、耐環境素子用材料および短波長発光素子用材料として注目されている。この炭化珪素にはさまざまな結晶構造が存在する。このうち六方晶系の炭化珪素は、エネルギーギャップが2.86eVあり、またpn接合が比較的容易に作製できるため、青色発光素子用材料として研究および素子の試作が行なわれている。
【0003】このような炭化珪素中でp型炭化珪素層に対するオーミック電極としては、特開昭64−020616号、特開昭1−268121号等に記載されている単一金属のAl、Al合金のAl−Siが多く用いられている。。次に、炭化珪素で構成される青色発光素子の一例の構造を図7に断面図で示す。図7の発光素子は、Nを1×1018cm-3含んだn型炭化珪素基板11と、この炭化珪素基板11上にNを1×1018cm-3、Alを1×1016cm-3夫々添加しエピタキシャル成長により形成されたn型炭化珪素層12と、このn型炭化珪素層12に積層しAlを1×1018cm-3添加し前記n型炭化珪素層12と同様のエピタキシャル成長により形成されたp型炭化珪素層13と、前記炭化珪素基板11に電子ビーム蒸着によりNiを膜厚5000オングストローム(以下オングストロームをAと略記する)に形成されたn側電極21と、前記p型炭化珪素層13に電子ビーム蒸着によりAlを膜厚3000Aに形成されたp側電極101を備えた構造である。叙上の半導体素子におけるオーミック電極形成プロセスは、炭化珪素素子に限らず電極膜を表面に形成した後、通常の熱処理が施される。この熱処理工程は炭化珪素素子においても例外ではなく、Alをp型炭化珪素層上に積層したのち、オーミック電極化するために熱処理を施すものである。そこで、これらの金属を用いて我々が鋭意検討したところ、Alのみでは熱処理工程においてAlが炭化珪素中に拡散し表面にAlが残存しないという結果を得た。また、Al−Siを用いた場合には、電極が表面に残存しないということはなかったものの、このAl−Siの融点はAlの融点よりも低いため、熱処理工程時に自己の凝縮能力によって電極が球形化してしまい、ワイヤーボンディングが困難になり、それ以後の製品製造工程に大きな障害となっていた。炭化珪素発光素子におけるこのような電極金属膜の球形化の対策として例えば、前記特開昭64−20616号に記載されているように、高濃度層を形成した上に金属を積層し低温で熱処理を施すという方策がある。しかしこのような手法では、表面近傍の高濃度層が発光素子において吸収層となり、外部量子効率の低下する原因となっていた。また、他の半導体材料、例えばGaAsなどにおいても熱処理時における電極金属の球形化という問題点が生じていたが、これらの材料系に対しては電極金属の変更、または熱処理温度の低温化といった対策で問題の解決が図られていた。しかしながら炭化珪素半導体においては、その熱的・化学安定性のために他の材料系で用いられてきたかかる対策が効果を示さず、オーミック電極を形成する上で大きな問題となっていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記従来の半導体素子では、電極用に形成された金属膜をオーミック電極とするための熱処理工程において、p型炭化珪素層中に拡散することによって表面から消失したり、用いた金属間化合物電極の融点が低いため電極が球形化するという問題点があった。
【0005】本発明は叙上の問題点に鑑み、オーミック電極構成の熱処理工程によって消失、球形化などを生じない電極構造を有する光半導体装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は上記目的を達成するために、p型炭化珪素層に対する電極材料として以下に述べる構造を提供する。
【0007】本発明に係る光半導体装置の第一は、IV族元素または立方晶BNの光半導体素子のp型領域と、このp型領域に隣接して形成され、III族金属との金属間化合物の融点が該III 族金属の融点より高いPt、Cr、Ta、Ti、W、Mo、Sbの中から選ばれた一つの金属で構成された金属間化合物でなるオーミック電極とを具備することを特徴とすることを特徴とする。
【0008】次に本発明に係る光半導体装置の第二は、IV族元素または立方晶BNの光半導体素子のp型領域と、熱処理によって前記p型領域とオーミック接続する金属膜と、この金属膜に積層して形成され融点が前記熱処理温度以上の膜とを具備したことを特徴とする。
【0009】
【作用】本発明に係る光半導体装置は、発明者が案出した多種の金属間化合物、またはオーミック電極体を用いた改良構造の電極を備えてなる。すなわち、前提として電極金属にIII 族金属を含むものを用いており、これがp型炭化珪素中に拡散した場合にはアクセプタとなり電極の接触抵抗を下げる働きをする。また、このIII 族金属との金属間化合物の融点が元のIII 族金属の融点以上であるために球形化しにくく、さらにIII 族金属の拡散をするとともにIII 族金属が仮に拡散してしまっても他方の金属が表面に残っているため電極が消失することもない。次に、半導体素子上に積層した金属膜に熱処理を施し形成される電極の構成に、その上層に熱処理時の温度を超える金属層を用いることにより、該熱処理による球形化を防止する。これにより半導体素子に施されるワイヤボンディング工程を容易にするとともに半導体装置の品質向上がはかられる。
【0010】
【実施例】(実施例1)以下、本発明の実施例につき図面を参照して説明する。
【0011】図1に断面図で示す一実施例の発光素子は、Nを1×1018cm-3含んだn型炭化珪素基板11と、この炭化珪素基板11上にNを1×1018cm-3、Alを1×1016cm-3添加し形成されたn型炭化珪素層12と、このn型炭化珪素層12に積層しAlを1×1018cm-3添加し形成されたp型炭化珪素層13と、前記炭化珪素基板11に電子ビーム蒸着によりNiを膜厚5000オングストローム(以下、オングストロームをAと略記する)に形成されたn側電極21と前記p型炭化珪素層13に電子ビーム蒸着により膜厚3000Aに形成されたPtを20%含むAlで形成された金属間化合物のp側電極22を備えた構造である。
【0012】上記実施例の電極は電子ビーム蒸着法によって蒸着し、膜厚は従来例と同じく3000Aである。これら二つの素子構造に対して、不活性雰囲気、例えば窒素雰囲気の中で900〜1200℃、例えば1000℃で約5分間熱処理を施した。この熱処理によって、従来例であるAl電極はp型炭化珪素層中に拡散し表面には電極が残らなかった。一方、本発明の上記実施例のAlとPtとの金属間化合物のp側電極22は球形化も起こさずに表面に残り、かつ良好なオーミック電極となった。
【0013】(実施例2)本実施例はオーミック電極の形成の熱処理工程での球形化を防止するために、最上層にオーミック電極膜よりも高い融点の金属膜を積層したものである。図に断面図で示す発光素子は、Nを1×1018cm-3含んだn型炭化珪素基板11と、この炭化珪素基板上にNを1×1018cm-3、Alを1×1016cm-3添加し形成されたn型炭化珪素層12と、このn型炭化珪素層12に積層しAlを1×1018cm-3添加し形成されたp型炭化珪素層13と、前記炭化珪素基板11に膜厚5000オングストローム(以下、オングストロームをAと略記する)に形成されたNi電極21と前記p型炭化珪素層13にAl膜23とこれに積層形成されたPt膜24からなるオーミック電極25を備えた構造である。
【0014】次に、上記炭化珪素発光素子の製造方法につき、図2(a),(b)および図3を参照して説明する。まず、図2(a)に示すように、n型炭化珪素基板11を用意し、該n型炭化珪素基板11の一主面上に、n型炭化珪素層12およびp型炭化珪素層13を周知のLPE法、CVD法等を用いて順次エピタキシャル成長させる。かかる後、図2(b)に示すように、p型炭化珪素層上にAl膜23(厚さ2μm)およびn型炭化珪素基板上にNi膜21(厚さ1μm)をそれぞれ真空蒸着する。その後、図3に示すようにAl膜23上にPt膜24(融点1769℃、厚さ1000A)を積層し、両面の電極をウエットエッチングなどで整形する。ここで、上記Pt膜24が本発明の特徴とするところである。そしてこの積層電極23および24を、900〜1200℃例えば1000℃で約5分熱処理を施し、p型炭化珪素層に対するオーミック電極とする。この時、Pt膜24が存在しなれけば、先の1000℃の熱処理を施した際にAl膜は球形化してしまう。然る後、Pt膜24を除去してもよいし、またはそのままPt膜の存在する状態で次工程のボンディング工程に進めることができる。
【0015】(実施例3)この実施例は、オーミック電極形成の熱処理工程での球形化を防止するために、電極膜の露出部をSiO2 膜で被覆して熱処理を施すことを特徴とする。
【0016】図4および図5に本発明の実施例に係る炭化珪素発光素子の工程別断面図を示す。本発光素子の基本構造は図4(a)に示すようにn型炭化珪素基板11の一主面上に順次エピタキシャル成長させたn型炭化珪素層12およびp型炭化珪素層13より成る。このp型炭化珪素層13に対するオーミック電極の材料として、図4(b)に示すように第1のTi膜31aおよび第2のTi31b(厚さ各500A)に挟まれたAl−Si膜32(Si/Al=15%、厚さ3000A)を電極材料として形成した。さらにこの電極の露出面、特に上面に本発明の主眼である球形化防止用のキャップ層としてSiO2 膜33(融点1600℃、厚さ2μm)を積層形成した。この状態を示したものが図5(a)である。これらを1000℃の温度で約5分間熱処理しオーミック電極とした。この熱処理の後、弗化アンモニウム水溶液を用いてSiO2 膜33を除去した。この状態を示したものが図5(b)であり、最終的な電極構造を示している。なお、n型炭化珪素基板に対するオーミック電極としては第1の実施例と同様にNi膜21(厚さ1μm)を用いている。
【0017】上記実施例2および同3は本発明の実施例である電極形成方法の単なる例示に過ぎず、上記のPtやSiO2 の代わりに、AuやW、窒化珪素などを用いることも可能である。また、炭化珪素半導体についても上記実施例ではp型のものについてのみ述べたが、本発明の炭化珪素半導体はp型のものに限られるものではなく、n型あるいはi層と呼ばれる真性状態にも適用できるものとする。
【0018】(実施例4)本発明の一実施例を図面を参照して説明する。図6は本発明の実施例である炭化珪素を用いた発光素子の構造を示した図である。この発光素子はn型の炭化珪素基板11の一主面上にNを1×1018cm-3およびAlを1×1016cm-3添加したn型炭化珪素層12をエピタキシャル成長させ、更にその上にAlを1×1018cm-3添加したp型の炭化珪素層13を同じくエピタキシャル成長させて作製したものである。この素子の電極は、n側にNi電極21を真空蒸着した。またp側には本発明に係るPt電極41を蒸着した。この時、Alをp型炭化珪素層に対する電極とした従来例と比較して、外部量子効率が約5倍増加した。また、電極による接触抵抗もAl電極の場合と比較して、約1/10に低下した。
【0019】以上の実施例では、SiCを用いた発光素子について説明したが、このSiCにかえて緑〜青色以上の短波長素子に使用する立方晶BNやダイヤモンド半導体材料を使用しても良い。なぜならば、以上述べてきたような電極金属の熱処理時における球形化といった問題点は、炭化珪素に限らず立方晶の窒化硼素(BN)半導体やダイヤモンドを用いた半導体素子においても生じるからである。本発明はこれらの材料系においても有効である。
【0020】
【発明の効果】本発明によれば、pn接合型炭化珪素発光素子中のp型炭化珪素に対して、熱処理工程時において電極金属をp型層中に拡散させず、そのためp型層の吸収係数を増加させることのない電極を形成することができるので、外部量子効率の高い発光素子を作製することができる。
【0021】また、p型の炭化珪素に対して消失しないとともに熱処理工程によって球形化しない良好な電極を形成することができる。従って、斯る電極に対するボンディングを容易に行なうことができる。
【0022】さらに、本発明により、より高温で熱処理することができるため一層低抵抗の電極を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1実施例に係る発光素子の断面図
【図2】 (a),(b)は本発明の第2実施例に係る発光素子の製造工程を説明するためのいずれも断面図
【図3】 本発明の第2実施例に係る発光素子の断面図
【図4】 (a),(b)は本発明の第3実施例に係る発光素子の製造工程の一部を説明するためのいずれも断面図
【図5】 (a)は本発明の第3実施例に係る発光素子の製造工程の一部を説明するための断面図、(b)は本発明の第3実施例に係る発光素子の断面図
【図6】 本発明の第4実施例に係る発光素子の断面図
【図7】 従来例の発光素子の断面図
【符号の説明】
11 Nを含んだn型炭化珪素基板
12 N、Alを添加したn型炭化珪素層
13 Alを添加したp型炭化珪素層
21 n側(Ni)電極
22 p側金属化合物(Al−Pt)電極
31a、31b Ti膜
32 Si−Al膜
33 SiO2
41 p側(Pt)電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】 IV族元素または立方晶BNの光半導体素子のp型領域と、このp型領域に隣接して形成され、III 族金属との金属間化合物の融点が該III 族金属の融点より高いPt、Cr、Ta、Ti、W、Mo、Sbの中から選ばれた一つの金属で構成された金属間化合物でなるオーミック電極とを具備することを特徴とする光半導体装置。
【請求項2】 IV族元素または立方晶BNの光半導体素子のp型領域と、熱処理によって前記p型領域とオーミック接続する金属膜と、この金属膜に積層して形成され融点が前記熱処理温度以上の膜とを具備したことを特徴とする光半導体装置。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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