説明

光反射板の光強度分布シミュレーション装置、シミュレーション方法、および該方法を実行させるプログラム

【課題】拡散反射と鏡面反射を伴う光拡散性の強い光反射板を高精度に模擬可能な光強度分布シミュレーション装置、シミュレーション方法、該方法を実行させるプログラムおよび該プログラムを格納した記録媒体を提供する。
【解決手段】光反射板模擬部122では、鏡面反射成分と拡散反射成分とを分離して模擬する構成としており、それぞれの反射成分を算出するための鏡面/拡散反射成分算出手段122aを備えている。また、鏡面/拡散反射成分算出手段122aは、鏡面反射成分を複数のピークフィッティング関数を用いてフィッティングしたものを用いるように構成されており、これにより鏡面反射成分を高精度に評価することが可能となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を反射させる光反射板の光強度分布シミュレーション装置、シミュレーション方法、および該方法を実行させるプログラムに関し、特に熱可塑性樹脂発泡体光反射板の光強度分布シミュレーション技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光源から出射された光が、物体に反射されたり吸収されることにより所定の位置で得られる光強度分布を評価するシミュレーション手法が従来から知られている。特許文献1では、画像読取装置の再反射光分布を評価するシミュレーション装置等が開示されている。
【0003】
また、ファザード看板、LCDなどの透過型ディスプレイユニットに用いられるバックライトユニットとして、従来は導光板などを用いるエッジライト方式のものが用いられてきたが、その設計開発には幾何光学をベースとする解析的シミュレーション手法、もしくはモンテカルロ法をベースとするシミュレーション手法が用いられてきた。
【0004】
中でも、モンテカルロ法を用いたシミュレーション手法は、光強度分布を高精度に評価する方法として知られている。モンテカルロ法を用いたシミュレーション手法では、光源から出射される光を光子の集合として扱い、光子1つずつに対し、その反射・吸収を逐次計算することで光強度分布を評価している。
【0005】
近年、透過型ディスプレイユニットの大型化にともない、直下型と呼ばれる方式のバックライトが一般化してきている。直下型方式のバックライトにおいては、白色の光拡散性の強い光反射板を光出射面の裏面側に設けるのが一般的である。このようなバックライトユニットの設計開発では、光学系の解析学的な手法による評価は困難であり、モンテカルロ法をベースとしたシミュレーションがより好適な手法となる。白色の光拡散性の強い反射板として、熱可塑性樹脂発泡体光反射板が知られている。
【特許文献1】特開2008−65647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のシミュレーション手法では、評価対象を構成する部材の光学特性を、完全拡散面、もしくは反射光をガウス関数等のピークフィッティング関数でフィッティングした反射面等からなるものとして模擬していた。これに対し、熱可塑性樹脂発泡体光反射板のような白色の光拡散性の強い光反射板では、鏡面反射に加えて拡散反射も大きな割合で生じている。そのため、上記従来の模擬方法ではこのような光反射板の光学特性を十分に模擬することができず、熱可塑性樹脂発泡体光反射板を用いたバックライトのシミュレーション結果が実測値から大きく乖離していた。このように、従来のシミュレーション手法は、白色の光拡散性の強い光反射板の評価用として実用に供することはできない、といった問題があった。
【0007】
そこで、本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、拡散反射と鏡面反射を伴う光拡散性の強い光反射板を高精度に模擬可能な光強度分布シミュレーション装置、シミュレーション方法、および該方法を実行させるプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光反射板の光強度分布シミュレーション装置の第1の態様は、光源の一方に光反射板を配置し他方に受光面を配置した構成において、前記光源から出射された光子が前記受光面に前記光反射板で反射されて入射するかあるいは前記光源から直接入射する個数から光強度分布を算出する光反射板の光強度分布シミュレーション装置であって、前記光子が前記光反射板に入射したときにその反射方向を決定する光反射板模擬部と、前記光子が前記光源に入射したときにその吸収の判定または反射方向の決定を行う光源模擬部と、前記光子を発生させ、前記光子が前記光反射板に入射する場合には前記光反射板模擬部を用いて前記光子の反射方向を決定し、前記光源に入射する前記光子を前記光源模擬部を用いて前記光子の吸収または反射方向を決定し、前記受光面に入射する前記光子の個数から前記光強度分布を算出する追跡計算を、前記光子の発生回数が所定数に達するまで行う光子追跡計算部と、を備え、前記光反射板模擬部は、前記光反射板に入射した前記光子が鏡面反射するか拡散反射するかを所定の確率で決定していることを特徴とする。
【0009】
本発明の光反射板の光強度分布シミュレーション装置の他の態様は、前記光反射板模擬部は、前記鏡面反射による光強度分布を2以上の所定の関数を用いて模擬し、前記光強度分布に基づいて反射する光子の反射方向の決定を行うことを特徴とする。
【0010】
本発明の光反射板の光強度分布シミュレーション装置の他の態様は、前記所定の関数は、ガウス関数、ルジャンドル関数、ピアソン関数のいずれか1つ、あるいは2以上を組み合わせた関数であることを特徴とする。
【0011】
本発明の光反射板の光強度分布シミュレーション装置の他の態様は、前記鏡面反射するか拡散反射するかの確率は、前記光子の入射角に対する前記鏡面反射の反射率がフレネル則に従うように決定されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の光反射板の光強度分布シミュレーション装置の他の態様は、前記光反射板は、熱可塑性樹脂発泡体光反射板であることを特徴とする。
【0013】
本発明の光反射板の光強度分布シミュレーション方法の第1の態様は、光源の一方に光反射板を配置し他方に受光面を配置した構成において、前記光源から出射された光子が前記受光面に前記光反射板で反射され入射するかあるいは前記光源から直接入射する個数から光強度分布を算出する光反射板の光強度分布シミュレーション方法であって、前記光源から光子を出射させる光子発生ステップと、前記光子が前記光反射板に入射したときにその反射方向を決定する光反射板模擬ステップと、前記光子が前記光源に入射したときにその吸収の判定または反射方向の決定を行う光源模擬ステップと、前記光子が前記受光面に入射したときに前記光強度分布を算出する光強度分布算出ステップと、を有し、前記光子発生ステップを実行して前記光子を発生させ、前記光反射板に入射する前記光子を前記光反射板模擬ステップを実行して前記光子の反射方向を決定し、前記光源に入射する前記光子を前記光源模擬ステップを実行して前記光子の吸収または反射方向を決定し、前記受光面に入射する前記光子数から前記光強度分布算出ステップを実行する追跡計算を、前記光子の発生回数が所定数に達するまで行い、前記光反射板模擬ステップでは、前記光反射板に入射した前記光子が鏡面反射するか拡散反射するかを決定することを特徴とする。
【0014】
本発明の光反射板の光強度分布シミュレーション方法の他の態様は、前記光反射板模擬ステップでは、前記鏡面反射による光強度分布を2以上の所定の関数を用いて模擬し、前記光強度分布に基づいて前記反射する光子の反射方向の決定を行うことを特徴とする。
【0015】
本発明の光反射板の光強度分布シミュレーション方法の他の態様は、前記所定の関数は、ガウス関数、ルジャンドル関数、ピアソン関数のいずれか1つ、あるいは2以上を組み合わせた関数であることを特徴とする。
【0016】
本発明の光反射板の光強度分布シミュレーション方法の他の態様は、前記鏡面反射するか拡散反射するかの確率は、測定データとフレネル則に基づいて事前にモデル化された鏡面反射率と、拡散反射率との比率に基づいて決定されていることを特徴とする。
【0017】
本発明の他の態様は、コンピュータにより、上記の光反射板の光強度分布シミュレーション方法を実行させるプログラムである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、拡散反射と鏡面反射を伴う光拡散性の強い光反射板を高精度に模擬可能な光強度分布シミュレーション装置、シミュレーション方法、および該方法を実行させるプログラムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の好ましい実施の形態における光反射板の光強度分布シミュレーション装置、シミュレーション方法、および該方法を実行させるプログラムについて、図面を参照して詳細に説明する。同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。
【0020】
以下では、拡散反射と鏡面反射を伴う光拡散性の強い光反射板の一例として、熱可塑性樹脂発泡体光反射板を用いたときの実施形態について説明する。熱可塑性樹脂発泡体光反射板は、微細発泡を有して白色の光拡散性の強い光反射板であり、図2に示すような構造を有している。図2(a)は、熱可塑性樹脂発泡体光反射板(以下では単に光反射板という)10の平面図を、図2(b)は光反射板10の側面図を、図2(c)は光反射板10の断面の一部を拡大した部分断面図を、それぞれ示している。
【0021】
図2(c)では、光反射板10の上部に光源20を1つだけ配置した例を示している。光反射板10は、最表面(以下では第1表面とする)11から所定厚さの未発泡層13と、それより内側の発泡層14とで構成されており、未発泡層13と発泡層14との間に界面(以下では第2表面とする)12が形成されている。第2表面12は、第1表面11と略平行に形成されているものとする。
【0022】
光源20から光反射板10に入射するときの入射角は、第1表面11の法線と入射光とのなす角度αである。また、光反射板10の法線方向を0度とし水平方向を90度とする緯度θ(図2(b))と、光反射板10の水平面上の方位角である経度φ(図2(a))とを定義して以下で用いるものとする。
【0023】
図2のように構成された光反射板10では、入射光の一部が第1表面11または第2表面12で鏡面反射されるとともに、残りの入射光は発泡層14まで達して拡散反射される。鏡面反射される入射光と拡散反射される入射光との割合は、光反射板10への入射角αによって異なっており、一例として入射角が60°のときには、鏡面反射が約17%となり拡散反射が約83%となる。
【0024】
本発明の第1の実施の形態に係る光強度分布シミュレーション装置およびシミュレーション方法を、図1に示すブロック図を用いて説明する。図1は、本実施形態の光強度分布シミュレーション装置100の構成を示すブロック図である。本実施形態の光強度分布シミュレーション装置およびシミュレーション方法は、上記の熱可塑性樹脂発泡体光反射板10のような拡散反射と鏡面反射とを伴う光拡散性の強い光反射板を対象に、これを用いたときの光強度分布を高精度に評価することが可能となっている。
【0025】
以下では、図3に示す光源20および光反射板10を評価対象の一例として、本実施形態の光強度分布シミュレーション装置100およびシミュレーション方法を説明する。図3では、光反射板10の一辺に略等しい長さの線状の光源20が、光反射板10の上部に複数本平行に配列されている。光反射板10は、図2に示した熱可塑性樹脂発泡体光反射板と同じ構造のものとしている。また、光強度分布を算出する位置を、光反射板10の上部の所定高さの位置に設定しており、以下ではこれを受光面30としている。なお、ここでは簡単化のために評価対象として光反射板10および光源20のみを表示しているが、その他の部材として、たとえばアクリル板、光学フィルム、プリズムシート、偏光フィルム等を含めることができる。
【0026】
本実施形態の光強度分布シミュレーション装置100は、入出力装置110、演算処理装置120、および記憶装置130を備えている。入出力装置110は、シミュレーション計算を実行させるための各種条件等を入力するとともに、シミュレーション計算の結果を出力する手段を有している。入力する各種条件として、シミュレーション対象の光学部材である光反射板10、光源20等の配置データや光学特性データ等がある。また、光強度分布を評価する受光面30の位置もここで設定することができる。入力された各種条件は、演算処理装置120を介して記憶装置130に記憶させ、必要に応じて記憶装置130から読み込んで用いている。
【0027】
演算処理装置120は、光子追跡計算部121、光反射板模擬部122、および光源模擬部123を有している。さらに別の光学部材を有するときは、それを模擬する模擬部を追加することができる。たとえば、別の光学部材としてアクリル板、光学フィルム、プリズムシート、および偏光フィルムを有するときは、それぞれを模擬するアクリル板模擬部、光学フィルム模擬部、プリズムシート模擬部、および偏光フィルム模擬部を追加する。光子追跡計算部121は、たとえばモンテカルロ法を用いて任意の光源20から光子を出射させ、これが光反射板10や別の光源20に入射して反射したり吸収される軌跡を追跡計算する。
【0028】
光反射板模擬部122は、入出力装置110から入力された光反射板10の配置データや光学特性データ等に基づいて、光反射板10に入射した光子の軌跡を決定するのに用いられる。光源模擬部123は、入出力装置110から入力された光源20の配置データや光学特性データ等に基づいて、光源20からの光子の出射や入射してきた光子の軌跡等を決定するのに用いられる。
【0029】
光反射板模擬部122および光源模擬部123を用いて光子追跡計算部121でシミュレーション計算された光強度分布等の結果は、記憶装置130に保存されるとともに入出力装置110に適宜表示させることができる。
【0030】
本実施形態の光反射板模擬部122は、拡散反射と鏡面反射を伴う光拡散性の強い光反射板10を高精度に模擬できるように構成されている。従来は、光反射板による反射光の光強度を所定の関数を用いて近似するように構成されていた。すなわち、光強度の測定データを所定の関数でフィッティングし(以下では従来フィッティングと呼ぶ)、これをシミュレーション計算に用いていた。ここで、光強度の測定データは、例えば1つの光源から光反射板に光を照射して反射される光強度を測定したデータである。なお、フィッティングに用いられる関数は、光強度のピークをフィッティングするのに好適な関数(ピークフィッティング関数)であり、たとえばガウス関数、ルジャンドル関数、ピアソン関数等を用いることができる。
【0031】
しかしながら、このような従来フィッティングでは、光反射板による反射が経度に依存しない拡散反射成分を有しているときには、これを適切に模擬することができなかった。そのため、測定データと従来フィッティングで算出した光強度とに大きな乖離が見られた。
【0032】
これに対し、本実施形態の光反射板模擬部122では、鏡面反射成分と拡散反射成分とを分離して模擬する構成としており、それぞれの反射成分の確率を算出するための鏡面/拡散反射成分算出手段122aを備えている。また、鏡面/拡散反射成分算出手段122aは、鏡面反射成分を複数の所定の関数を用いてフィッティングしたものを用いるように構成されており、これにより鏡面反射成分を高精度に評価することが可能となっている。所定の関数として、たとえばガウス関数、ルジャンドル関数、ピアソン関数等のピークフィッティング関数を用いることができる。あるいは、これらのピークフィッティング関数を2以上組み合わせて用いるようにしてもよい。
【0033】
予め測定されたデータを上記のように高精度にフィッティングして用いる本実施形態の鏡面/拡散反射成分算出手段122aによれば、鏡面反射成分および拡散反射成分のそれぞれの割合を高精度に算出してシミュレーション計算に用いるようにすることができる。鏡面反射成分および拡散反射成分のそれぞれの割合は光の入射角によって異なることから、0〜90°の全ての入射角で光強度を測定し、鏡面/拡散反射成分算出手段122aではこの測定データをフィッティングしたピークフィッティング関数を用いるのが好ましい。しかしながら、入射角全体で測定データを取得することは難しく、特に高い入射角の測定データが得られないことが多い。
【0034】
そこで、本実施形態では、鏡面反射がフレネル則に従うことを利用して、測定された所定の入射角までの光強度データをもとに、測定できない入射角に対する反射成分をフレネル則に基づいて補間して用いるようにしている。すなわち、測定可能な入射角に対しては、鏡面反射成分および拡散反射成分のそれぞれの割合を測定データから求め、測定できない入射角に対しては、鏡面反射成分の割合をフレネル則を用いて算出している。一例として、0〜60°の入射角の反射成分割合が測定データから得られる場合には、60〜90°間の鏡面反射成分割合をフレネル則に従って算出している。このようにして得られた0〜90°の光強度のデータを、複数のピークフィッティング関数を用いてフィッティングしている。
【0035】
入射角αで反射板に入射した入射光は、図4に示すように、反射面において反射角αで鏡面反射する成分と屈折角βで透過する成分とに分けられる。このとき、フレネル則は次式で表される。












ここで、r、rがそれぞれp偏光、s偏光の反射率、t、tがそれぞれp偏光、s偏光の透過率を表し、n、nが図4に示す第1層21、第2層22のそれぞれの屈折率を表す。但し、p偏光およびs偏光は、それぞれ入射面内方向で入射方向に垂直方向の偏光、および入射面に垂直方向の偏光を表している。
【0036】
熱可塑性樹脂発泡体光反射板10では、上記の透過率で第1表面11を透過した光は、第2表面12で再びフレネル則に基づいて鏡面反射するか、あるいは第2表面12を透過して発泡層14に達する。発泡層14に達した光は、ここで拡散反射される。熱可塑性樹脂発泡体光反射板10の各層における入射角に対する反射率の変化の一例を図5に示す。同図では、第1表面11および第2表面12におけるそれぞれの鏡面反射率をR1、R2で示している。また、第1表面11での反射分を除いた第2表面での実質的な鏡面反射率をR2で示し、第1表面11での鏡面反射率R1と第2表面での実質的な鏡面反射率R2とを加算した全鏡面反射率をRで示している。
【0037】
図5では、さらに発泡層14における拡散反射の反射率をRで示している。同図より、入射角が50°を超えたあたりから90°に近づくにつれて、鏡面反射の反射率Rが大きくなることがわかる。それに伴って、拡散反射の反射率Rが急激に低下している。高緯度の光強度は、大きな入射角の光が鏡面反射した影響を強く受けることから、高緯度の光強度の測定データが得られない場合には、フレネル則に基づく反射率で高緯度の光強度を補間するのが好ましい。
【0038】
一方、発泡層14における拡散反射成分については、理論ランバート拡散〔完全拡散〕を模擬することにより、拡散反射による光強度Iを次式で比較的良好に近似することができる。
=cos(θ)
ここで、θは緯度を表す。
【0039】
上記説明の本実施形態の光強度分布シミュレーション装置100で行われるシミュレーション計算の方法を、図6に示す流れ図を用いてさらに詳細に説明する。本実施形態のシミュレーション方法は、図6に示す流れ図に基づいて作成されたプログラムを図1に示した演算処理装置120に装荷して実行される。このプログラムは、FD等の記録媒体に保存することができる。
【0040】
本実施形態のシミュレーション方法では、モンテカルロ法を用いて受光面30における光強度分布を算出している。モンテカルロ法では、一つ一つの光子の軌跡をランダムに決定しているが、多数の光子全体で見たときは、所定の光学特性に従うように決定している。以下の説明では、このような光子の軌跡の決定方法を「所定の条件に従ってランダムに決定する」と表現する。
【0041】
まずステップS1において、シミュレーション計算に必要な初期値設定を行う。すなわち、シミュレーション評価の対象となる光反射板10や光源20等の寸法、配置、光学特性等を設定する。光反射板10の光学特性の一つとして、鏡面反射成分のフィッティング式がある。また、別の光学部材としてアクリル板、光学フィルム、プリズムシート、偏光フィルム等を有するときは、それぞれの寸法、配置、光学特性等を設定する。初期値設定では、光強度分布を評価する受光面30の位置設定も行う。さらに、モンテカルロ法の初期値設定として、光子の数nを0に初期化する。
【0042】
ステップS2では、光子の数nに1を加算して光子数を積算する。続くステップS3では、1つの光子(以下ではP1とする)について、これを出射させる光源20の位置および出射方向を所定の条件に従ってランダムに決定する。
【0043】
ステップS4では、ステップS3で発生させた光子P1の入射先を、光子P1の出射位置(光源20の位置)及び出射方向から算出する。その結果、光子P1が受光面30に入射するかそれ以外の光反射板10等に入射するかをステップS5で判定し、受光面30に入射せずに反射板10またはその他部材に入射する場合には、次のステップS6で光子P1の追跡計算を行う。
【0044】
ステップS6の光子追跡計算では、光子P1が光反射板10に入射したと判定されると、光反射板模擬部122を用いて光子P1が反射される方向を上記説明のピークフィッティング関数で模擬した鏡面反射と拡散反射の確率に従ってランダムに決定する。また、光子P1が光源20に入射したと判定されると、光源模擬部123を用いて光子P1が吸収されるか反射されるかを決定し、反射される場合にはその方向を鏡面反射の条件に従ってランダムに決定する。さらに別の光学部材を有するときには、光子P1が入射した部材に対応する模擬部を用いて吸収または反射方向を決定する。
【0045】
ステップS7において、ステップS6の光子追跡計算の結果光子P1がいずれかの方向に反射されたと判定される場合には、再びステップS4に戻ってステップS6までの処理を繰り返し行い、光子P1の軌跡を評価していく。またステップS7において、光子P1がいずれかで吸収されると判定されると、次のステップS9に進む。
一方、ステップS5で光子P1が受光面30に入射したと判定されると、ステップS8において受光面30での光強度分布を算出する。
【0046】
ステップS8までの処理により、光子P1がいずれかの部材に吸収されると、ステップS9において、ステップS3でそれまでに発生させた光子数nが所定の数Nmaxに達したか否かを判定し、Nmaxに達していない場合にはステップS2に戻って光子数nを1だけ加算し、次のステップS3で別の光子を発生させてシミュレーション計算を継続する。一方、光子数nが所定の数Nmaxに達すると、シミュレーション計算を終了する。光子数Nmaxの光子を発生させたときにステップS8で算出される受光面30での光強度分布が、シミュレーション結果として記憶装置130に記憶されるとともに、入出力装置110に出力される。
【0047】
シミュレーション結果の一例を図7に示す。同図は、横軸を光反射板10に沿った位置、縦軸を光反射板10による反射光の輝度としたときのシミュレーション結果の一例を示しており、隣接する2つの光源20近傍の輝度を示している。同図では、本実施形態のシミュレーション装置100によるシミュレーション結果を符号41で示しており、これに加えて実測データを符号42、従来のシミュレーション結果を符号43で示している。従来のシミュレーション結果は、光反射板10による反射光の光強度を、拡散反射成分と鏡面反射成分とに分離せずに1つのガウス関数でフィッティングしたものを用いたときのシミュレーション結果である。
【0048】
図7に示すように、従来フィッティングを用いた従来のシミュレーション結果43では、輝度が実測データ42から大きく乖離している位置が多数見られるのに対し、本実施形態のシミュレーション装置100によるシミュレーション結果41は、実測データ42と全体的によい一致を示している。特に、光源と光源との間における輝度については、本実施形態のシミュレーション結果41が従来のシミュレーション結果43に比べて大幅に改善されており、拡散反射による光強度への寄与が適切にシミュレーションされていることが示されている。
【0049】
本発明の第2の実施の形態に係る光強度分布シミュレーション装置およびシミュレーション方法について、以下に説明する。本実施形態の光強度分布シミュレーション装置では、光反射板模擬部122において光反射板10による反射光を拡散反射成分と鏡面反射成分とに分離し、鏡面反射成分のピークを1つのピークフィッティング関数を用いてフィッティングしたものを用いている。本実施形態でも、ピークフィッティング関数として、たとえばガウス関数、ルジャンドル関数、ピアソン関数等を用いることができる。
【0050】
上記の第1の実施形態では、光反射板模擬部122が鏡面反射成分を複数のピークフィッティング関数を用いてフィッティングしたものを用いるように構成されていたが、本実施形態では1つのピークフィッティング関数だけで鏡面反射成分をフィッティングするように構成されている。この場合でも、光反射板10による反射光を拡散反射成分と鏡面反射成分とに分離して評価するようにしていることから、従来フィッティングを用いた場合に比べて光強度分布を高精度に評価することが可能となっている。とくに、光源と光源との間の位置における輝度については、本実施形態によるシミュレーション結果が、従来のシミュレーション結果に比べて大幅に改善されている。
【0051】
上記説明のように本発明によれば、拡散反射と鏡面反射を伴う光拡散性の強い光反射板を高精度に模擬可能な光強度分布シミュレーション装置、シミュレーション方法、該方法を実行させるプログラムおよび該プログラムを格納した記録媒体を提供することができる。上記では、シミュレーション対象として熱可塑性樹脂発泡体光反射板を用いて説明したが、これに限らず、鏡面反射に加えて拡散反射を伴う光反射板を対象にシミュレーションを行うのに好適なシミュレーション装置およびシミュレーション方法を提供することができる。
【0052】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係る反射板の光強度分布シミュレーション装置、シミュレーション方法、該方法を実行させるプログラムおよび該プログラムを格納した記録媒体の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態における光強度分布シミュレーション装置等の細部構成及び詳細な動作等に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る光反射板の光強度分布シミュレーション装置の構成を示すブロック図である。
【図2】熱可塑性樹脂発泡体光反射板の構造の一例を示す図である。
【図3】シミュレーション対象の光源および光反射板の配置構成を示す図である。
【図4】フレネル則の説明に用いる反射面での反射成分、透過成分を示す図である。
【図5】入射角に対する鏡面反射の反射率及び拡散反射の反射率の変化の一例を示す図である。
【図6】第1の実施形態の光強度分布シミュレーション方法の処理を示す流れ図である。
【図7】シミュレーション結果の一例として、輝度の分布を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
10 熱可塑性樹脂発泡体光反射板
11 第1表面
12 第2表面
13 未発泡層
14 発泡層
20 光源
21 第1層
22 第2層
30 受光面
100 光強度分布シミュレーション装置
110 入出力装置
120 演算処理装置
121 光子追跡計算部
122 光反射板模擬部
122a 鏡面/拡散反射成分算出手段
123 光源模擬部
130 記憶装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源の一方に光反射板を配置し他方に受光面を配置した構成において、前記光源から出射された光子が前記受光面に前記光反射板で反射されて入射するかあるいは前記光源から直接入射する個数から光強度分布を算出する光反射板の光強度分布シミュレーション装置であって、
前記光子が前記光反射板に入射したときにその反射方向を決定する光反射板模擬部と、
前記光子が前記光源に入射したときにその吸収の判定または反射方向の決定を行う光源模擬部と、
前記光子を発生させ、前記光子が前記光反射板に入射する場合には前記光反射板模擬部を用いて前記光子の反射方向を決定し、前記光源に入射する前記光子を前記光源模擬部を用いて前記光子の吸収または反射方向を決定し、前記受光面に入射する前記光子の個数から前記光強度分布を算出する追跡計算を、前記光子の発生回数が所定数に達するまで行う光子追跡計算部と、を備え、
前記光反射板模擬部は、前記光反射板に入射した前記光子が鏡面反射するか拡散反射するかを所定の確率で決定している
ことを特徴とする光反射板の光強度分布シミュレーション装置。
【請求項2】
前記光反射板模擬部は、前記鏡面反射による光強度分布を2以上の所定の関数を用いて模擬し、前記光強度分布に基づいて反射する光子の反射方向の決定を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の光反射板の光強度分布シミュレーション装置。
【請求項3】
前記所定の関数は、ガウス関数、ルジャンドル関数、ピアソン関数のいずれか1つ、あるいは2以上を組み合わせた関数である
ことを特徴とする請求項2に記載の光反射板の光強度分布シミュレーション装置。
【請求項4】
前記鏡面反射するか拡散反射するかの確率は、前記光子の入射角に対する前記鏡面反射の反射率がフレネル則に従うように決定されている
ことを特徴とする請求項1乃至3に記載の光反射板の光強度分布シミュレーション装置。
【請求項5】
前記光反射板は、熱可塑性樹脂発泡体光反射板である
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光反射板の光強度分布シミュレーション装置。
【請求項6】
光源の一方に光反射板を配置し他方に受光面を配置した構成において、前記光源から出射された光子が前記受光面に前記光反射板で反射されて入射するかあるいは前記光源から直接入射する個数から光強度分布を算出する光反射板の光強度分布シミュレーション方法であって、
前記光源から光子を出射させる光子発生ステップと、
前記光子が前記光反射板に入射したときにその反射方向を決定する光反射板模擬ステップと、
前記光子が前記光源に入射したときにその吸収の判定または反射方向の決定を行う光源模擬ステップと、
前記光子が前記受光面に入射したときに前記光強度分布を算出する光強度分布算出ステップと、
を有し、
前記光子発生ステップを実行して前記光子を発生させ、前記光反射板に入射する前記光子を前記光反射板模擬ステップを実行して前記光子の反射方向を決定し、前記光源に入射する前記光子を前記光源模擬ステップを実行して前記光子の吸収または反射方向を決定し、前記受光面に入射する前記光子数から前記光強度分布算出ステップを実行する追跡計算を、前記光子の発生回数が所定数に達するまで行い、
前記光反射板模擬ステップでは、前記光反射板に入射した前記光子が鏡面反射するか拡散反射するかを決定する
ことを特徴とする光反射板の光強度分布シミュレーション方法。
【請求項7】
前記光反射板模擬ステップでは、前記鏡面反射による光強度分布を2以上の所定の関数を用いて模擬し、前記光強度分布に基づいて前記反射する光子の反射方向の決定を行う
ことを特徴とする請求項6に記載の光反射板の光強度分布シミュレーション方法。
【請求項8】
前記所定の関数は、ガウス関数、ルジャンドル関数、ピアソン関数のいずれか1つ、あるいは2以上を組み合わせた関数である
ことを特徴とする請求項6に記載の光反射板の光強度分布シミュレーション装置。
【請求項9】
前記鏡面反射するか拡散反射するかの確率は、測定データとフレネル則に基づいて事前にモデル化された鏡面反射率と、拡散反射率との比率に基づいて決定されている
ことを特徴とする請求項6乃至8に記載の光反射板の光強度分布シミュレーション方法。
【請求項10】
コンピュータにより、請求項6乃至9のいずれか1項に記載の光反射板の光強度分布シミュレーション方法を実行させるプログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−20528(P2010−20528A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180197(P2008−180197)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】