説明

光取り出し構造の形成方法、光取り出し構造を有する発光基板及び画像表示装置の製造方法

【課題】光取り出し構造として必要な、互いに屈折率の異なる材料を周期的に配列した構造を、高分子材料を残留させることなく容易に形成することができるようにする。
【解決手段】高分子を含む捕捉層21上に、無機粒子12を液体分散媒22中に分散させた無機粒子分散液の塗膜を形成し、前記液体分散媒22を揮発させて、前記捕捉層21上に前記無機粒子12の堆積層を形成する。次いで、前記捕捉層21を加熱して、前記堆積層の最下層の無機粒子12を前記捕捉層21中に埋め込んで捕捉し、捕捉されていない余剰の無機粒子12を除去してから焼成し、前記捕捉層21を除去すると共に前記捕捉層21に捕捉されていた前記無機粒子12を前記透明基板8へ接着し、前記無機粒子12とは屈折率の異なる無機バインダー13で埋め込んで光取り出し構造9とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光によって画像を表示する画像表示装置の輝度向上のために、光源から生じた光を表示面側外方へ取り出しやすくするために用いられる光取り出し構造の形成方法に関する。また、本発明は、光取り出し構造を有する発光基板及び画像表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光取り出し構造は、互いに屈折率の異なる材料を周期的に配列した構造であり、通常、一般的半導体微細加工に用いられるフォトリソグラフィー工程によって微細な凹凸パターンを形成することで構成している。しかし、微細な凹凸パターンのピッチが2μm程度以下になると、高価な露光装置や複雑なプロセスが必要となり、製造コストが非常に高くなってしまう。
【0003】
そこで、従来、光取り出し構造として用いられる微細凹凸パターンを容易に形成できる方法として、特許文献1に記載の方法が提案されている。即ち、この特許文献1に記載の方法では、液体分散媒中に粒子が分散された粒子分散液を準備する一方、基板上に高分子を含有する捕捉層を形成し、この捕捉層上に前記粒子分散液の塗膜を形成する。この塗膜から前記液体分散媒を揮発させて、前記捕捉層上に前記粒子の堆積層を形成した後、前記捕捉層をガラス転移点以上に加熱することのみにより前記堆積層の最下層の粒子のみを毛細管現象により前記捕捉層中に埋め込む。そして、前記粒子の堆積層を液体に浸漬して前記捕捉層中に埋め込まれていない粒子を除去し、前記最下層の粒子が前記捕捉層に配置されてなる単粒子層を形成して微細凹凸パターンとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4068578号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の方法は、光取り出し構造として必要な、互いに屈折率の異なる材料を周期的に配列した構造を、粒子を配列させることで形成しているので、フォトリソグラフィー工程を用いる場合に比して容易に形成することができる利点がある。しかし、上記従来の方法で得られる微細凹凸パターンは、高分子材料で構成された捕捉層が残存していることから、高真空が要求される画像表示装置には利用することができない問題がある。例えば蛍光体の電子線励起によって画像を表示する画像表示装置においては、電子源の性能及び寿命の維持等のために内部が高真空であることが要求される。しかし、真空雰囲気下における高分子材料からは多量のガスが生じてしまうことから、必要な真空度が維持できなくなり、機能を維持することができなくなる。
【0006】
本発明は、光取り出し構造として必要な、互いに屈折率の異なる材料を周期的に配列した構造を、高分子材料を残留させることなく容易に形成することができるようにすることを目的とする。また、併せて、輝度の高い画像表示装置を容易に製造できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一は、透明基板上に捕捉層を形成する工程と、
前記捕捉層上に、無機粒子を分散媒中に分散させた無機粒子分散液を付与し、前記分散媒を揮発させて、前記捕捉層上に前記粒子の堆積層を形成する工程と、
前記堆積層の最下層の無機粒子を前記捕捉層の中に埋め込んで捕捉する工程と、
前記捕捉層に捕捉されていない無機粒子を除去し、前記捕捉層に捕捉された前記無機粒子が前記捕捉層に配置されてなる無機粒子層を形成する工程と、
前記無機粒子層を有する前記透明基板を加熱し、前記捕捉層を除去すると共に前記無機粒子層を構成する前記無機粒子を前記透明基板へ接着する工程と、
前記透明基板へ接着された前記無機粒子を、前記無機粒子とは屈折率の異なる無機バインダーで埋め込む工程と
を有することを特徴とする光取り出し構造の形成方法である。
【0008】
また、本発明の第二は、発光体層から生じた光を取り出すための光取り出し構造を有する発光基板の製造方法において、前記光取り出し構造を上記本発明の第一に係る光取り出し構造の形成方法で形成することを特徴とする発光基板の製造方法である。
【0009】
更に、本発明の第三は、発光により画像を表示する発光体層から生じた光を取り出すための光取り出し構造を有する画像表示装置の製造方法において、前記光取り出し構造を上記本発明の第一に係る光取り出し構造の形成方法で形成することを特徴とする画像表示装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、光取り出し構造として必要な、互いに屈折率の異なる材料を周期的に配列した構造を、無機粒子を配列させることで形成しているので、フォトリソグラフィー工程を用いる場合に比して形成が容易で、製造コストを抑えることができる。また、本発明では、捕捉層は焼成により除去されるので、捕捉層が高分子を含んでいても、高真空が要求される画像表示装置の光取り出し構造の形成に用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】光取り出し構造を有する画像表示装置の一例を示す図で、(a)は一部切欠した模式的斜視図、(b)は電子源基板の模式的平面図、(c)はフェースプレートの模式的拡大断面図である。
【図2】本発明に係る光取り出し構造の形成方法の手順の説明図である。
【図3】光取り出し効率の評価方法の説明図で、(a)は評価対象である光取り出し構造を有する透明基板の平面図、(b)は評価装置の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の製造対象の一つである画像表示装置としては、例えば電界放出ディスプレイ(FED)、陰極線管ディスプレイ(CRT)、プラズマディスプレイ(PDP)等のように、蛍光体層の発光により画像を表示する画像表示装置の他、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(EL)、ライトエミッティングダイオードディスプレイ(LED)等を挙げることができる。本発明は、これらの中でも、輝度の向上のために光取り出し構造を設けることが好ましいFED、ELについて好ましく適用することができるが、以下、FEDを例に、本発明の実施の形態について具体的に説明する。
【0013】
図1は光取り出し構造を有する画像表示装置(FED)の一例を示す図で、図1において、1はリアプレート、2は発光基板であるフェースプレートである。
【0014】
リアプレート1は、m本の走査配線3と、n本の変調配線4と、それぞれ走査配線3及び変調配線4に接続された複数の電子放出素子5を内面側に備えた電子源基板6と、この電子源基板6の外面側に設けられた背面基板7とで構成されている。m本の走査配線3は、端子Dx1,Dx2,…Dxmと接続されている。n本の変調配線4は、端子Dy1,Dy2,…Dynと接続されている。これらm本の走査配線3とn本の変調配線4との間には、不図示の層間絶縁層が設けられており、両者を電気的に絶縁している。電子放出素子5は、端子Dx1,Dx2,…Dxmと端子Dy1,Dy2,…Dynとから入力される電気信号によりマトリクス駆動されるものとなっている。
【0015】
フェースプレート2は、画像の表示面側を構成する部材で、透明基板8の内面側に、光取り出し構造9、アノード電極10及び蛍光体層11を順次形成した構成となっている。発光基板は、SED、CRT、PDPにおいては発光体層である蛍光体層11を含む基板構成である。EL、LEDにおいてはエレクトロルミネッセンス効果を用いて発光する層が発光体層で、これをを含む基板構成が発光基板である。透明基板としては、例えば青板ガラス、無アルカリガラス等のフロートガラス等の基板を使用することができる。光取り出し構造9は、単層状に配列された無機粒子12と、この無機粒子とは屈折率が異なり、無機粒子12が埋め込まれている無機バインダー13とから構成されている。アノード電極10は、ITO等の透明導電材料で構成されている。蛍光体層11は、リアプレートが有する電子放出素子5からの電子の照射によって発光するもので、多数の蛍光体粒子を含有している。アノード電極10には高圧端子14が接続されており、例えば数kVの直流電圧が供給されるようになっている。この電圧は、電子放出素子5から放出される電子に蛍光体粒子を励起するのに十分なエネルギーを付与するための加速電圧である。なお、アノード電極10と蛍光体層11の位置は入れ換えることができ、アノード電極10を最も内側にした場合、透明ではない金属電極とすることができる。
【0016】
リアプレート1とフェースプレート2は、両者の外周部間に枠体15を挟み込み、内面同士を間隔を開けて向き合わせて配置されている。リアプレート1とフェースプレート2は、それぞれ枠体15にフリットガラス等を介して密閉状態で接合されて、パネル状の密閉容器を構成しており、内部は真空雰囲気になっている。背面板7は主に電子源基板6の強度を補強する目的で設けられるため、電子源基板6自体で十分な強度を持つ場合には、別体の背面基板7は省略することができる。また、枠体15の内側のリアプレート1とフェースプレート2との間に、スペーサとよばれる支持体(図示されていない)を設置することにより、大気圧に対する強度を向上させた構成とすることもできる。
【0017】
画像表示装置が高精細化するに従い、一画素を構成する蛍光体層11の面積も小さくなってきている。小さな面積の蛍光体層11を形成しやすくするために、蛍光体層11を構成する蛍光体粒子の平均粒径は、1000nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。蛍光体粒子の平均粒径は、動的光散乱法によりナノ粒子のストークス径を見積もることによって測定することができる。具体的には、ゼータサイザーナノZS[シスメックス(株)製]を用いて測定することができる。上記のような粒子径の蛍光体粒子を用いると、大きな粒子径の蛍光体粒子を用いる場合に比して、表示面側に取り出される光量が減り、画像の輝度が低下する。光取り出し構造9は、蛍光体粒子の発光により生じた光をより多くフェースプレート2の外側に取り出すことができるようにし、高い輝度の画像表示ができるようにするためのものである。
【0018】
次に、光取り出し構造9の形成方法、フェースプレート2及び画像表示装置の製造方法について説明する。
【0019】
〔1〕捕捉層の形成[図2(a)]
図2(a)に示すように、透明基板8上に捕捉層21を形成する。透明基板8としては、ガラス製の基板を好ましく用いることができる。捕捉層21としては高分子化合物を含むものを好ましく用いることができる。捕捉層21は、通常、画素の大きさ及び形状に応じてパターニングされ、しかも加熱することで無機粒子12を接着するものであることから、熱可塑性の感光性樹脂を好ましく用いることができる。また、本発明の製造方法においては、後述する分散媒22[図2(b)参照]に対して、捕捉層21の表面電荷を制御することが好ましい。このため、捕捉層21の構成材料としては、表面電荷を制御しやすい材料を選択することが好ましい。具体的には−OH、−COOH等の極性官能基を有している高分子を選択することが好ましい。更に、捕捉層21の膜厚は、後述する単粒子層を形成しやすくするために、無機粒子12の中位径(粒度分布の中央値)以下から中位径の1/4以上の範囲に設定することが好ましい。
【0020】
捕捉層21の形成方法は、特に限定されない。一般的には、捕捉層21の構成材料の溶液を透明基板8上に塗布することによって形成することができる。当該溶液の塗布方法も特に限定されるものではない。例えば、スピンコーティング法、ディッピング法、スリットコート法等広く公知の塗布方法を用いることができる。中でも大面積で所定のパターンの薄膜を形成できることから、スリットコート法が好ましい。
【0021】
透明基板8の全面に光取り出し構造9を形成する場合や、印刷等により所定のパターンで捕捉層21を形成した場合は不要であるが、通常、画像表示装置の画素パターンに対応するようにパターンニングする。ここでパターンニングの方法としては、特に限定されないが、一般的なフォトリソグラフィー法を用いることができる。この場合、捕捉層21の構成材料としては感光性樹脂を用いる。
【0022】
〔2〕捕捉層の表面処理
次に示す無機粒子分散液を塗布する直前に、捕捉層21に表面処理(下地処理)を施し、後述する無機粒子分散液の分散媒22[図2(b)参照]との親和性を高めることが好ましい。つまり、分散媒22に対して、捕捉層21の表面電位を高くしておくことが好ましい。具体的には、分散媒22が水の場合には、捕捉層21の表面の水接触角が15°以下となるように表面処理することが好ましく、水接触角が10°以下となるように表面処理することがより好ましい。捕捉層21の表面処理方法としては、紫外線照射やプラズマ処理を用いることができる。ここで捕捉層21の構成材料が、−OH基や−COOH基等の極性官能基を有する高分子の場合は、紫外線照射やプラズマ処理により表面極性をより増加させ、水接触角を15°以下にすることができる。
【0023】
〔3〕無機粒子分散液の塗布[図2(b)]
次に、無機粒子12と分散媒22とからなる無機粒子分散液を準備し、この無機粒子分散液を捕捉層21上に塗布する。以下、無機粒子12、分散媒22、これらを混合した無機粒子分散液及びその塗布について説明する。
【0024】
−無機粒子−
無機粒子分散液に含まれる無機粒子12は、後述する焼成時に変形又は付着し合うことがないよう、透明基板8のガラス転移点よりガラス転移点又は融点が高い材料の粒子となっている。また、透光性で、後述する無機バインダー13とは屈折率が異なっており、無機バインダー13と共に互いに屈折率の異なる材料を周期的に配列した構造を形成する。無機粒子12は、無機バインダー13との屈折率の差が大きい材料であることが好ましい。従って、無機材料の中でも、屈折率が大きいか小さい材料であることが好ましい。屈折率が大きい材料としては酸化チタン、屈折率が小さい材料としてはシリカを挙げることができる。また、無機粒子12の形態としては、屈折率が大きい材料と小さい材料を規則性高く配列した構造を形成できるよう、球状で真円度が高い状態であって、その粒子径分布が狭いことが望ましい。ここで粒子径分布は、下記式(1)で定義される。
【0025】
粒子径分布(%)=(粒子径標準偏差/平均粒子径)×100 ・・・(1)
【0026】
式(1)において、平均粒子径は、無作為に抽出した100個の粒子の直径を測定した平均値を表す。また、粒子径標準偏差は、上記100個についての標準偏差を表す。式(1)によって求められる粒子径分布は、好ましくは5%以下であり、より好ましくは2%以下である。無機粒子分散液に含まれる無機粒子12の粒子径は、具体的には、電子顕微鏡で撮影した無機粒子12のうち、無作為に100個を選択して、その100個の無機粒子12を画像解析することにより得られる。なお、粒子径は、後述する光取り出し構造(微細凹凸パターン)のピッチに相当する。画像表示装置を作製する際に使用される無機粒子12の粒子径は、3000nm以下が好ましく、200nm〜2000nmであることがより好ましい。
【0027】
本発明の形成方法において、無機粒子12を捕捉層21上に規則正しく配列させるためには、分散媒22に分散させた状態における無機粒子12のゼータ電位を考慮することが好ましい。具体的には、無機粒子12を規則正しく並べる条件として、分散媒中における無機粒子12の表面電荷と、捕捉層21の表面電荷とが、いずれも負電位であることが好ましい。この電位は、その絶対値が互いに高いほどより好ましい。このようにすると透明基板8上で静電気的反発により個々の無機粒子12が滑りやすくなり、分散媒22による毛管力にて配列する。静電気的反発が弱いと、透明基板8との相互作用により、透明基板8に無機粒子12が吸着しやすい状態になり、毛管力による配列が妨げられやすくなり、これが無機粒子12の配列のムラや、規則性の劣化に繋がる。
【0028】
無機粒子12のゼータ電位は、市販のゼータ電位測定装置で測定することができる。水を分散媒22とした場合において、無機粒子12の平均ゼータ電位の絶対値は、80mV以上であることが好ましい。分散媒22が水のような極性分散媒の場合、無機子12のゼータ電位の値を高める方法としては、無機粒子12の表面に極性を有する官能基を多くすることや、無機粒子12の表面を極性分子で修飾するという方法が挙げられる。
【0029】
−分散媒−
分散媒22は、特に限定されるものではない。例えば水、各種有機溶媒又はこれらの混合物を用いることができる。無機粒子12をより規則正しく捕捉層21上に配列させるためには、分散媒22として表面張力が大きい液体を用いることが好ましい。また、分散媒22は、捕捉層21を溶解もしくは膨潤させない液体が好ましい。本発明においては、水が最も好ましい。
【0030】
−無機粒子の分散濃度−
捕捉層21上に無機粒子12を規則正しく配列させるためには、分散媒22中の無機粒子12の分散濃度も重要となる。本発明においては、無機粒子12の分散濃度は、30重量%〜40重量%であることが好ましい。
【0031】
−無機粒子分散液の付与(塗布)−
無機粒子分散液の付与方法は特に限定されず、ディッピング法、スプレー塗布法、スキャン塗布法等、任意の方法で付与することができる。仮に付与時の液量を多くしすぎると、それに伴い分散媒22の量が増し、分散媒22が無機粒子12を押し流す力が増す。この力が大きすぎると、捕捉層21上に載置される無機粒子12の配列が悪くなる。このため、本発明ではスプレー塗布法のような少量の液量にて広範囲に付与できる手法が好ましい。具体的には、付与時の液量が0.005ml/cm2〜0.02ml/cm2の範囲にすることが好ましい。なお、無機粒子12の表面電位と捕捉層21の表面の電位を同じ電荷(負電荷)としておくと、高分子層16と粒子17との間で静電反発を起こすことで、無機粒子12の配列状態が向上する。
【0032】
〔4〕無機粒子堆積層の形成[図2(c)]
次に、上記無機粒子分散液の塗膜を乾燥させ、分散媒22[図2(b)参照]を揮発させることで、無機粒子12の堆積層を形成する。分散媒22が塗膜中から除去されていく過程で、無機粒子12が捕捉層21上に載置・配列される。上述したように、無機粒子12と捕捉層21との間には静電反発が生じているが、それにも拘わらず無機粒子12が捕捉層21上に載置・配列されるのは、上記静電反発による静電反発力よりも強い力、即ち、分散媒22が有する毛管力が働くからである。塗布後の乾燥方法は特に限定されないが、透明基板8を100℃程度で20分程度放置することによって適度な乾燥が得られるまた、スプレーで適度に塗布した場合には、特に透明基板8を加熱することなく自然乾燥にて乾燥することもできる。塗膜の乾燥が進み、分散媒22が完全に除去されると、図2(c)に示されるように、捕捉層21上に無機粒子12の堆積層が形成される。
【0033】
〔5〕捕捉層への無機粒子の捕捉[図2(d)]
次に、捕捉層21を、その構成材料である高分子のガラス転移点又は融点以上に加熱する。すると、捕捉層21の流動化に伴って、無機粒子12の堆積層の最下層の無機粒子12が捕捉層21中に沈み込み、捕捉層21中に埋め込まれて捕捉される。捕捉層21に捕捉された無機粒子12が捕捉層21に配置されてなる無機粒子層は、上記堆積層の最下層の無機粒子12のみが捕捉層21中に沈み込んで捕捉された単粒子層であることが好ましい。捕捉層21への無機粒子12の沈み込み深さと加熱温度にはほぼ線形関係が得られる。このため、上記単粒子層を得やすくするためには、適切な加熱温度を選択することで、各無機粒子12の径の1/4〜1/3が捕捉層21へ埋め込まれるようにすることが好ましい。無機粒子12の埋め込み深さが浅すぎると、後の洗浄時に無機粒子12の脱落を生じやすくなる。また、埋め込み深さが深すぎると、堆積層の最下層の無機粒子12のみではなく、2層目以上の無機粒子12も捕捉層21に捕捉され、後の洗浄工程後に単粒子層が得にくくなる。
【0034】
〔6〕余剰無機粒子の除去[図2(e)]
次に、捕捉層21に捕捉された無機粒子12以外の無機粒子12を除去する。除去の具体的方法は特に限定されない。例えば、超音波洗浄法や、高圧シャワーによる洗浄を用いることができる。洗浄後は、図2(d)に示されるように、捕捉層21に捕捉された無機粒子12が捕捉層21に配置されてなる無機粒子層のみが残る。
【0035】
〔7〕加熱(焼成)による捕捉層の除去[図2(f)]
上記無機粒子層を有する透明基板8を、当該透明基板8のアニール点以下の温度で加熱し、捕捉層21を除去すると共に、無機粒子層を構成する無機粒子12を透明基板8へ接着する。捕捉層21を除去することで、例えば真空中で電子ビームが当たってもガス放出のない光取り出し構造9の形成が可能となる。加熱をアニール点を超える温度で行うと、透明基板8に不規則なゆがみが生じてしまい、特に大型の画像表示装置の製造が困難となる。加熱温度の下限は、透明基板8に接着性を生じさせ得る温度であれば足る。具体的には、透明基板8の歪み点−20℃以上の温度である。透明基板8の歪み点−20℃未満の温度では、透明基板8への無機粒子12の十分な接着力が得にくくなる。この加熱の下限温度は、捕捉層21にフリットガラスを添加しておくことにより下げることができる。即ち、0.1〜5重量%のフリットガラスを含有させておくことで、透明基板8の加熱を、このフリットガラスの軟化点以上の温度で行えば、無機粒子12を透明基板8へ十分接着することが可能となる。フリットガラスの添加量が0.1w%未満では、フリットガラスの軟化点程度では必要な接着力が得にくく、フリットガラスの添加量が5重量%を超えると、光の透過率が落ちたり、着色が生じて十分な光取り出し効率が得にくくなる。通常、フリットガラスの軟化点は、透明基板8の歪み点−20℃より低いことから、加熱の下限温度を下げることができる。
【0036】
〔8〕無機バインダーによる埋め込み[図2(g)]
続いて、透明基板8へ接着した無機粒子12とは屈折率の異なる透光性の無機バインダー13で無機粒子12を埋め、光取り出し構造9を形成する。この無機バインダー13による埋め込みは、無機バインダー13の前駆体溶液を塗布し焼成することで行うことができる。無機バインダー13は無機粒子12とは屈折率が異なる材料で、無機粒子12の屈折率が低い場合には屈折率の高い材料が選択され、無機粒子12の屈折率が高い場合には屈折率の低い材料が選択される。屈折率の高い無機バインダー13としては、例えばペルオキソチタン酸溶液を塗布焼成することによって得られるTiO2膜(屈折率が2.0〜2.3)を挙げることができる。逆に屈折率が低い無機バインダー13としては、例えばポリシラザンのジブチルエーテル溶液を塗布焼成することによって得られるSiO2等のガラス材料の膜(屈折率が1.2〜1.5)を挙げることができる。
【0037】
〔9〕フェースプレートの製造[図2(h),(i)]
上記のようにして光取り出し構造9を形成した後、その上に透明なアノード電極10を形成する。透明なアノード電極10は、ITO膜、ZnO膜、SnO膜等の透明導電膜を堆積して形成する。上記した透明導電膜の屈折率は典型的には1.8〜2.2の範囲である。その後、アノード電極10の上に更に発光体層としての蛍光体層11を形成することでフェースプレート2を得ることができる。
【0038】
〔10〕画像表示装置の製造
図1で説明した画像表示装置は、上記のようにして製造したフェースプレート2を用いて容易に製造することができる。まず、上述したプロセスによって作製されたフェースプレート2と、リアプレート1とを、閉ループ状の枠体15を間に挟んで、蛍光体層11と電子放出素子5とが対向するように配置する。次に、フェースプレート2とリアプレート1とを枠体15に接着する。次に、高圧端子14を、透明基板8を貫通してアノード電極10と電気的に接続する。最後に、フェースプレート2とリアプレート1と枠体15とで囲まれる空間を真空に排気する。このようにして、画像表示装置を作製することができる。尚、リアプレート1の製造方法は特に限定されない。
【実施例】
【0039】
実施例1〜3、比較例1,2
(捕捉層の形成)
透明基板として100mm×94mmの高歪点ガラス[旭硝子(株)製PD200、歪点570℃、アニール点620℃]を用いた。この透明基板をよく洗浄し、JSR(株)製のアクリル系のネガ型フォトレジスト(型番TR2009)をスピンコート法にて塗布し、乾燥後膜厚1.5μmのレジスト膜とした(塗布時膜厚8μm、乾燥温度60℃、乾燥時間12分)。次にプロキシ露光装置を用い、透明基板とマスク間の距離100μmの大気中にて超高圧水銀灯の光を500mJ/cm2照射(照度:11mW/cm2)した。続いてTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)の0.5%水溶液を常温シャワー散布(散布量88.5L/min、透明基板搬送速度4m/min)した。その後、水でリンスして、膜厚1.3μm、100×250μmの領域が複数存在するようにレジストパターンを捕捉層として形成した。
【0040】
(捕捉層の表面処理)
捕捉層を形成した透明基板の上方5mmの位置にエキシマUVランプを設置し、大気雰囲気にて波長172nmの光を1.5J/cm2照射した。この処理により捕捉層表面の水接触角が10°まで減少した。
【0041】
(無機粒子分散液の塗布及び無機粒子堆積層の形成)
無機粒子として、宇部日東化成(株)製の平均粒径1.7μmφのシリカ粒子である「ハイプレシカSS(N7N)」を用い、このシリカ粒子の40重量%水分散液を無機粒子分散液として用いた。捕捉層の表面処理を施した透明基板をホットプレート上で70℃に熱し、上記シリカ粒子の水分散液である無機粒子分散液をスポイトで透明基板全面に散布した。分散媒である水はおよそ15分で乾燥し、透明基板全面がシリカ粒子の堆積層で満遍なく被覆された。
【0042】
(捕捉層への無機粒子の捕捉及び余剰無機粒子の除去)
続いて、透明基板を再びホットプレートで230℃に20分保持して、シリカ粒子堆積層の最下層のシリカ粒子を捕捉層に埋め込み、透明基板を室温に戻してから、超音波洗浄機で1〜5分間処理することによって余分なシリカ粒子を除去した。この状態で透明基板の断面をSEM観察すると、捕捉層にシリカ粒子が500nm程沈み込んだ状態で保持されており、捕捉層上のみにシリカ粒子が単層で6方最密充填配置をベースにして規則正しく配列している状態が得られた。
【0043】
シリカ粒子の捕捉層への埋め込み深さは、捕捉層の熱可塑性特性に依存しており、加熱温度と時間で調整することができる。具体的には、透明基板の加熱温度と時間を振って埋め込みを行い、サンプルの断面観察により埋め込み深さを測定し、2層目以降の粒子の捕捉や、余剰の粒子の除去時の脱落を生じにくい埋め込み深さを求めた。その結果、粒子の直径の1/4〜1/3程度が埋め込まれている状態であれば、2層目以降の粒子の捕捉や、余剰のシリカ粒子の除去時の脱落を生じにくいことが確認された。上記捕捉層へのシリカ粒子の沈み込み量は、これに基づいて定めた。
【0044】
(捕捉層の除去)
続いて、余分なシリカ粒子を除去した透明基板を焼成炉(タバイエスペック社製スーパーハイテンプオーブン)でレート5℃/minで昇温し、最高温度を450℃、500℃、560℃、580℃、600℃とした5種類のサンプルを作製した。なお、最高温度での保持時間はいずれも90分とした。
【0045】
(無機バインダーによる埋め込み)
続いて、上記焼成後の透明基板上に付着しているシリカ粒子の無機バインダーによる埋め込みを行った。ペルオキソチタン酸水溶液[鯤(コン)コーポレーション製「PTA−170」]を用い、スピンコート法により透明基板上に200nm程度塗布と、ホットプレートでの200℃乾燥を繰り返して、約1.3μmの膜を形成した。その後、580℃で一括焼成を行ない、前述のシリカ粒子を埋め戻した。580℃で焼成した後の酸化チタン膜の屈折率は2.1であった。
【0046】
(光取り出し効果の評価)
以上のようにして、図3(a)に示されるように、光取り出し構造9が100×250μmエリアで複数パターン化されて設けられた透明基板8を得、その光取り出し効率を直接的に比較評価するために、この透明基板8を10mm角サイズに切り出した。図3(a)において、31は光取り出し構造が形成されていない領域である。そして、エチルセルロースと蛍光体粒子を含有したIPA溶液をスピンコーティングして乾燥させ、透明基板8上に蛍光体含有エチルセルロース膜を蛍光体層11として形成した。蛍光体層11の形成後、図3(b)のような構成にて、UV(254nm波長)で蛍光体を励起させて輝度評価を行った。図3(b)において、32はアズワン(株)社製のハンディUVランプ「SLUV−6」であり、波長254nmのUV光により透明基板8に形成した蛍光体を励起発光させる。33は(株)トプコンテクノハウス社製の分光放射計「SR−UL1」、34は(株)トプコンテクノハウス社製のアタッチメントレンズ「AL−11」である。この両者を組み合わせることにより、70μmφ程の領域に焦点を絞り、光取り出し構造9が形成されている領域と、そうでない領域31とについて、それぞれ10箇所づつ輝度を測定しその倍率を比較した。その結果を表1に示す。なお、輝度倍率とは、(光取り出し構造が形成されている領域の輝度)/(光取り出し構造が形成されていない領域の輝度)で求められる倍率である。
【0047】
(無機粒子の付着状態の評価)
焼成後、無機バインダーによる埋め込み前に、保護粘着フィルムNo702[ニチバン(株)製、粘着力0.4N/10mm]で剥離テストを行い、シリカ粒子の剥離状態を観察し、剥離が認められないものを良好とした。なお、この評価方法で剥離を生じない場合、その後の無機バインダーの前駆体溶液の塗布のためのスピンコートの条件が変動してもシリカ粒子の剥離を生じないことが分かっている。また、この評価方法で剥離を生じた場合でも、ダイコーターのように、シリカ粒子と透明基板へシェアーがかからない塗布方法を採用すれば剥がれはほぼ発生しない。おおむね、焼成後の付着力が0.1N/10mm程度以上であれば、埋め込みプロセスによって粒子が剥がれることは無いことも分かっている。
【0048】
【表1】

【0049】
透明基板として用いた高歪点ガラス[旭硝子(株)製「PD200」]の歪点は570℃であり、それより10°低い560℃で焼成した場合でも無機粒子の付着状態が良い良好な光取り出し構造が得られることが分かる。しかし、焼成温度が歪点より70°以上低くなると、無機粒子の一部が剥がれてしまい、輝度倍率の低い欠陥の多き光取り出し構造になってしまった。
【0050】
実施例4
透明基板として通常のSLガラス(歪点511℃、アニール点554℃)を用い、捕捉層の形成から焼成までを実施例1と同様に行ったところ、焼成温度が500℃でもビーズの剥がれはほとんどなく、良好な輝度倍率と無機粒子の良子な付着力を得ることができることが確認された。
【0051】
比較例3
実施例1と同様の透明基板と、実施例4と同様の透明基板を用い、捕捉層の形成から焼成までを、焼成温度を各透明基板のアニール点を超える温度とした以外は実施例1と同様にして行った。その結果、焼成後に透明基板に不規則なゆがみが生じてしまい、大型ディスプレイの製造には適さないことが確認された。
【0052】
実施例5
無機粒子として酸化チタンの粒子[テイカ(株)製「JR−1000」]、無機バインダーとしてポリシラザンのジブチルエーテル溶液[AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製「アクアミカNN120‐20」]を用いた。それ以外の工程は実施例2とまったく同様な方法で光取り出し構造パターンを形成し輝度倍率を評価した。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
実施例6〜8、比較例4
実施例1で用いたJSR(株)製のアクリル系のネガ型フォトレジスト(型番TR2009)にBi系ガラスフリット(軟化点450℃)を0.01wt〜1wt%添加した。また、焼成温度を500℃に設定した以外は前述の実施例5と同様の条件とし、無機粒子の付着状体、輝度倍率を求めた。結果を表3に示す。表3に示されるように、いずれも輝度倍率が1.4倍以上の特性が得られたが、無機粒子の付着性を向上させるためには、フリットの添加量は0.1重量%以上とすることが好ましいことが分かる。
【0055】
【表3】

【符号の説明】
【0056】
1:リアプレート、2:フェースプレート、3:走査配線、4:変調配線、5:電子放出素子、6:電子源基板、7:背面基板、8:透明基板、9:光取り出し構造、10:アノード電極、11:蛍光体層、12:無機粒子、13:無機バインダー、14:高圧端子、15:枠体、21:捕捉層、22:分散媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に捕捉層を形成する工程と、
前記捕捉層上に、無機粒子を分散媒中に分散させた無機粒子分散液を付与し、前記分散媒を揮発させて、前記捕捉層上に前記粒子の堆積層を形成する工程と、
前記堆積層の最下層の無機粒子を前記捕捉層の中に埋め込んで捕捉する工程と、
前記捕捉層に捕捉されていない無機粒子を除去し、前記捕捉層に捕捉された前記無機粒子が前記捕捉層に配置されてなる無機粒子層を形成する工程と、
前記無機粒子層を有する前記透明基板を加熱し、前記捕捉層を除去すると共に前記無機粒子層を構成する前記無機粒子を前記透明基板へ接着する工程と、
前記透明基板へ接着された前記無機粒子を、前記無機粒子とは屈折率の異なる無機バインダーで埋め込む工程と
を有することを特徴とする光取り出し構造の形成方法。
【請求項2】
前記捕捉層が高分子化合物を含有し、前記堆積層の最下層の無機粒子を前記捕捉層の中に埋め込んで捕捉する工程を、前記捕捉層を前記高分子化合物のガラス転移点又は融点以上に加熱することにより行うことを特徴とする請求項1に記載の光取り出し構造の形成方法。
【請求項3】
前記透明基板がガラス製で、前記無機粒子が前記透明基板のガラス転移点よりガラス転移点又は融点が高い材料であり、前記捕捉層を除去すると共に前記無機粒子層を構成する前記無機粒子を前記透明基板へ接着する工程を、前記透明基板のアニール点以下の温度で焼成することで行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の光取り出し構造の形成方法。
【請求項4】
前記透明基板の焼成を、前記透明基板の歪み点−20℃以上の温度で行うことを特徴とする請求項3に記載の光取り出し構造の形成方法。
【請求項5】
前記捕捉層に、0.1〜5重量%のフリットガラスを含有させておくことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光取り出し構造の形成方法。
【請求項6】
前記透明基板の焼成を、前記フリットガラスの軟化点以上の温度で行うことを特徴とする請求項5に記載の光取り出し構造の形成方法。
【請求項7】
前記捕捉層への前記無機粒子の捕捉を、前記各無機粒子の粒子径の1/4〜1/3を前記捕捉層に埋め込むことで行うことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光取り出し構造の形成方法。
【請求項8】
発光体層から生じた光を取り出すための光取り出し構造を有する発光基板の製造方法において、前記光取り出し構造を請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光取り出し構造の形成方法で形成することを特徴とする発光基板の製造方法。
【請求項9】
発光により画像を表示する発光体層から生じた光を取り出すための光取り出し構造を有する画像表示装置の製造方法において、前記光取り出し構造を請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光取り出し構造の形成方法で形成することを特徴とする画像表示装置の製造方法。
【請求項10】
前記画像表示装置が電界放出ディスプレイであることを特徴とする請求項9に記載の画像表示装置の製造方法。
【請求項11】
前記画像表示装置がエレクトロルミネッセンスディスプレイであることを特徴とする請求項9に記載の画像表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−64347(P2012−64347A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205676(P2010−205676)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】