説明

光合成微生物の付着培養方法

【課題】低コストで二酸化炭素を供給することができ、低エネルギーで液体培地を循環させることができる、省エネルギーで高効率に培養可能な光合成微生物の付着培養方法の提供。
【解決手段】基材表面に吸水性ポリマーを結合させた培養基材を形成する形成工程と、前記培養基材上に光合成微生物を付着させる付着工程と、前記培養基材上に培地及び水の少なくともいずれかを供給する供給工程と、光を照射して該光合成微生物を培養する培養工程と、光合成微生物を前記培養基材上から回収する回収工程とを含む光合成微生物の付着培養方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光合成微生物の付着培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光合成微生物から産生されるバイオマスには有用なものが多く、盛んに研究が行われている。例えば、微細藻類などの光合成微生物の中にはオイルを蓄積する種類も存在することから、光合成微生物を利用した石油の代替燃料を産生する方法の開発が期待されている。また、光合成生物は、基本的には光のエネルギーのみを用いて、地球温暖化の原因物質として注目されている二酸化炭素を固定化することでも注目されている。
しかしながら、光合成微生物は、大腸菌などの非光合成微生物と比較して増殖速度が非常に遅い点で問題である。例えば、大腸菌は数十分で1回分裂するのに対し、オイルを蓄積する微細藻類の1種であるBotryococcus Brauniiは、1回の分裂に要する日数が数日から数週間かかることが知られている。このことが原因のひとつとなって、光合成微生物を用いたバイオマス燃料は商業レベルの生産に至っていないのが現状である。
【0003】
光合成微生物を培養する方法として、液体浮遊培養が広く行われている。非光合成微生物と比較して、光合成微生物は培地中の藻体濃度が低いため、同等のバイオマス量を得るためにより多くの液体培地が必要となる。そのため、液体浮遊培養には、栄養素や二酸化炭素の供給、光量の均一化などのために大量の液体培地を循環させる設備及びエネルギーが必要であり、装置が複雑化し、高コスト化するという問題がある。また、液体浮遊培養には、光合成微生物のサイズが小さく、大量の液体培地中に分散しているために、培地から回収するコストが高いという問題がある。
【0004】
さらに、従来法による液体浮遊培養では、光合成の炭素源として二酸化炭素を供給するため、二酸化炭素を輸送して培養槽へ導入する必要があり、装置が複雑化し、高コスト化するという問題がある。一般的に、商業的規模でのバイオマスの産生は広大な面積を必要とするため、火力発電所や大規模工場などの二酸化炭素発生源から培養槽のすみずみにまで二酸化炭素を輸送するためには、長大な配管システムが必要であり、また、培養槽全体でほぼ均一に二酸化炭素を供給するためには、精度の高い制御を行う必要がある。
【0005】
一方、微細藻類などの光合成微生物の純菌化及び菌株の保存のために、シャーレ内や試験管内に形成させた寒天培地上で培養する方法が一般的に行なわれている。寒天培地上では、水分や栄養素などを寒天から供給可能であるため、液体培地がなくとも培養することができるが、寒天培地上で培養する方法には、密閉容器が必要で、大規模な培養には適さないという問題がある。また、寒天培地上で培養する方法には、寒天培地を地面に対して水平にする必要があるため、光量及びスペースの有効利用のために垂直もしくは垂直に近い角度で培養面を配置することが困難であるという問題がある。さらに、寒天培地上で培養する方法には、培養した光合成微生物を採取する際に、寒天培地も一緒に採取してしまうことになり、寒天培地の再利用が困難であるという問題がある。
【0006】
例えば、酸性化した保水性ポリマーゾルを塗布したコンクリート面に微細藻類の懸濁液を塗布したコンクリート面の緑化方法が開示されている(特許文献1〜2参照)。
しかしながら、これらの方法では、基材がコンクリートであり、微細藻類と比較して極めて大きな凹凸が存在していることから、微細藻類を保水性ポリマーゾルでコーティングされたコンクリート表面から回収することは極めて困難であるという問題がある。また、この方法には、コンクリートが一般的に重く、取扱いが困難であるため、そのバイオマス製造コストは非常に高いという問題がある。
【0007】
また、培養容器内の液体培地中に配管を導入し、配管からの気圧により、微細藻類を含む培地を弾き飛ばし、培養容器の内壁に微細藻類を付着させて培養する方法が開示されている(特許文献3参照)。
しかしながら、この方法には、エアレーションによって生じた飛沫の飛行距離は限られていることから、培養容器が必然的に小さくなり、したがって、商業的規模での培養への適用は困難であるという問題がある。また、この方法には、激しいエアレーションを行うための高性能のポンプが必要であり、装置が高コスト化するという問題がある。さらに、この方法には、付着培養した微細藻類を培養容器壁面から回収するためには、密閉した培養容器の開封を含め、極めて煩雑な操作が必要であると共に、コンタミ微生物の混入の機会を増やしてしまうという問題がある。
【0008】
したがって、商業的規模での光合成微生物の大量培養を行うためには、さらなる効率化が求められており、特に、低コストで二酸化炭素を供給する方法の開発、低エネルギーで液体培地を循環させる方法の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−131942号公報
【特許文献2】特開平6−136293号公報
【特許文献3】特開平7−008267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、低コストで二酸化炭素を供給することができ、低エネルギーで液体培地を循環させることができる、省エネルギーで高効率に培養可能な光合成微生物の付着培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記目的を解決すべく、鋭意検討した結果、光合成微生物を、吸水性ポリマーを結合した基材上に付着させて培養することにより、従来よりも、低コストで二酸化炭素を供給でき、低エネルギーで液体培地を循環できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0012】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 基材表面に吸水性ポリマーを結合させた培養基材を形成する形成工程と、
前記培養基材上に光合成微生物を付着させる付着工程と、
前記培養基材上に培地及び水の少なくともいずれかを供給する供給工程と、
光を照射して該光合成微生物を培養する培養工程と、
培養した光合成微生物を前記培養基材上から回収する回収工程とを含むことを特徴とする光合成微生物の付着培養方法である。
<2> 付着工程において、予め分散処理された光合成微生物を付着させる前記<1>に記載の光合成微生物の付着培養方法である。
<3> 培養基材上に光合成微生物を付着させる追加の付着工程を更に含む前記<1>から<2>のいずれかに記載の光合成微生物の付着培養方法である。
<4> 追加の付着工程において、予め分散処理された光合成微生物を噴霧により付着させる前記<3>に記載の光合成微生物の付着培養方法である。
<5> 分散処理が、高速振幅運動処理、及び超音波処理の少なくともいずれかである前記<2>及び<4>のいずれかに記載の光合成微生物の付着培養方法である。
<6> 供給工程が、培養基材上に培地及び水の少なくともいずれかを噴霧により供給する工程である前記<1>から<5>のいずれかに記載の光合成微生物の付着培養方法。
<7> 供給工程が、吸水性ポリマーの吸水量が飽和吸水量の50%以下となった場合に、培養基材上に水及び培地の少なくともいずれかが供給される工程である前記<1>から<6>のいずれかに記載の光合成微生物の付着培養方法である。
<8> 供給工程が、培養基材上に培地及び水の少なくともいずれかを複数回供給する工程である前記<1>から<7>のいずれかに記載の光合成微生物の付着培養方法。
<9> 供給工程が、培養基材上に少なくとも2種の培地を供給する工程である前記<1>から<8>のいずれかに記載の光合成微生物の付着培養方法である。
<10> 少なくとも2種の培地が、カルシウム濃度0.1mg/L〜3,000mg/Lの培地を含み、該培地が光合成微生物の付着期、及び増殖期のいずれかに供給される前記<9>に記載の光合成微生物の付着培養方法である。
<11> 結合が、共有結合である前記<1>から<10>のいずれかに記載の光合成微生物の付着培養方法である。
<12> 吸水性ポリマーの吸水能が、自重の10倍以上である前記<1>から<11>のいずれかに記載の光合成微生物の付着培養方法である。
<13> 基材が、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ガラス、ナイロン、ポリイミド、及びセルロースからなる群より選ばれる前記<1>から<12>のいずれかに記載の光合成微生物の付着培養方法である。
<14> 基材が、板状基材、フィルム状基材、糸状基材及び布状基材からなる群より選ばれる前記<1>から<13>のいずれかに記載の光合成微生物の付着培養方法である。
<15> 光合成微生物が、微細藻類である前記<1>から<14>のいずれかに記載の光合成微生物の付着培養方法である。
<16> 光合成微生物が、ボトリオコッカス属、シュードコリシスチス・エリプソイディア(Pseudochoricystis ellipsoidea)、珪藻、緑藻、クロレラ、スピルリナ、ドナリエラ、ポルフィリディウム、ヘマトコッカス、ナンノクロロプシス及び渦鞭毛藻からなる群より選ばれる少なくとも1種である前記<1>から<15>のいずれかに記載の光合成微生物の付着培養方法である。
<17> 培養基材が、農業用被覆材を被覆させたハウス内に設置される前記<1>から<16>のいずれかに記載の光合成微生物の付着培養方法である。
<18> 培養基材が、地面に対して垂直に設置される前記<1>から<17>のいずれかに記載の光合成微生物の付着培養方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、低コストで二酸化炭素を供給することができ、低エネルギーで液体培地を循環させることができる、省エネルギーで高効率に培養可能な光合成微生物の付着培養方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、吸水性ポリマーを結合したフィルム上での藻体数の変化を示すグラフである。図中、クローズド(黒)シンボル、オープン(白)シンボル及びグレーのシンボルは、それぞれ1×10個/mL、3×10個/mL及び10×10個/mLの付着用の藻懸濁液を示す。また、丸のシンボル及び三角のシンボルは、それぞれ吸水性ポリマーが結合したフィルム及び吸水性ポリマーが結合していないフィルムを示す。
【図2】図2は、吸水性ポリマーを結合したフィルムを培地に浸漬した場合の藻体数の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
(光合成微生物の付着培養方法)
本発明の光合成微生物の付着培養方法は、少なくとも、形成工程、付着工程、供給工程、培養工程、及び回収工程を含み、さらに、必要に応じて適宜選択した、その他の工程を含む。
【0017】
<形成工程>
前記形成工程は、培養基材を形成する工程である。
【0018】
−培養基材−
前記「培養基材」とは、基材表面に吸水性ポリマーを結合させた基材をいい、前記光合成微生物が付着でき、一定面積を有する。
【0019】
前記基材表面に前記吸水性ポリマーを結合させる方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、吸水性ポリマーと基材とを共有結合させる方法、基材表面でモノマーを重合させ、吸水性ポリマーが共有結合した基材を得る方法、ローラー、ワイヤーバー等を用いて吸水性ポリマーを含む塗布液を基材表面に転写させる方法、エアガン等で吸水性ポリマーを含む塗布液を基材表面に吹きつける方法、交互吸着法などが挙げられる。
【0020】
前記「結合」としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、共有結合であることが好ましい。
前記基材表面に前記吸水性ポリマーを共有結合する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、吸水性ポリマーと基材とを共有結合させる方法、基材表面でモノマーを重合させ、吸水性ポリマーが共有結合した基材を得る方法などが挙げられる。前者の吸水性ポリマーと基材とを共有結合させる方法としては、例えば、ローラー、ワイヤーバー等を用いて吸水性ポリマーを含む塗布液を基材表面に転写させる方法、エアガン等で吸水性ポリマーを含む塗布液を基材表面に吹きつける方法などが挙げられる。なお、前記の方法だけでは吸水性ポリマーが基材に共有結合しない場合には、紫外線照射、加熱法などにより共有結合を形成することができる。さらに、前記の吸水性ポリマー溶液には、重合開始剤などの重合を促進する薬品を添加しておいてもよい。後者の基材表面でモノマーを重合させ、吸水性ポリマーが共有結合した基材を得る方法としては、表面グラフト化法などが挙げられる。
【0021】
前記培養基材の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、板状、フィルム状、糸状、布状などが挙げられる。
前記培養基材が板状、フィルム状などの場合、その厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.001mm〜1,000mmが好ましく、0.01mm〜10mmがより好ましい。
【0022】
ここで、「一定面積」とは、前記培養基材上の面積をいい、前記培養基材の形状や培養形態などに応じて適宜選択することができるが、0.0001m〜1,000mが好ましく、0.0005cm〜100mがより好ましく、0.001m〜20mが特に好ましい。前記面積は、0.0001m未満であると、十分な量のバイオマス量を得ることができないことがあり、1,000mを超えると、基材のハンドリングが困難となることがある。
なお、前記一定面積は、個々の培養基材上の面積をいう。前記培養基材を、例えば、連結、整列させるなどにより、複数個同時に用いることができる。この場合、培養基板上の合計面積を培養基材の一定面積単位で調整することができ、光合成微生物の大量培養に好適に用いることができる。
【0023】
また、「培養基材上」とは、基材に結合した吸水性ポリマー上の、付着時乃至培養時に光合成微生物に接している面であり、光合成微生物が培養基材に付着して増殖することができる培養基材表面をいう。
例えば、基材表面の全体に吸水性ポリマーが結合している場合は、前記培養基材表面の全体を培養基材上とする。また、例えば、前記培養基材が板状であり、該板状の培養基材の一方の面のみに吸水性ポリマーが結合している場合は、前記一方の面を培養基材上という。
【0024】
前記培養基材の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記培養基材の表面が、平滑であってもよく、凹部を有するものであってもよい。これらの中でも、付着表面積が増加すると共に、光合成微生物の付着安定性が向上するという観点において、前記基材の構造は、凹部を有することが好ましい。
【0025】
前記培養基材の凹部を形成する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記培養基材に用いる基材上に凹部を形成する方法、平滑な基材上に凹部状に吸水ポリマーを結合させる方法などが挙げられる。
【0026】
前記培養基材の凹部の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、すり鉢状、円錐状、円柱状等の穴、溝の断面形状が半円形、四角形、すり鉢状等の溝などが挙げられる。
【0027】
前記培養基材の凹部の深さとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.001mm〜10mmが好ましく、0.01mm〜1mmがより好ましく、0.02mm〜0.5mmが特に好ましい。前記培養基材の凹部の深さが、0.001mm未満であると、付着量の向上効果が少なくなることがあり、10mmを超えると、基材の強度が低下することがある。一方、前記培養基材の凹部の深さが、0.02mm〜0.5mmであると、付着量の向上、光合成微生物回収性、基材強度の点で有利である。
ここで、前記「深さ」とは、各凹部における最大深さをいい、複数の凹部の最大深さの平均で表すことが好ましい。前記最大深さの平均としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10点以上の最大深さの平均であることが好ましく、20点以上の最大深さの平均であることがより好ましく、30点以上の最大深さの平均であることが特に好ましい。
なお、例えば、前記培養基材がフィルム状である場合、前記培養基材の凹部における最大深さは、培養基材の表面を平滑面に接して配置したときの凹部底面と該平滑面との最大距離を測定することにより求めることができる。
【0028】
−基材−
前記基材の材質としては、特に制限はなく、光合成微生物の種類、培養の形態などに応じて適宜選択することができ、例えば、プラスチック基材等の有機化合物、ガラス基材等の無機化合物などが挙げられる。
前記プラスチック基材に使用するプラスチック素材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、アリルジグリコールカーボネート、ポリイミド、エチレン−酢酸ビニル共重合体、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリプロピレン、ポリ乳酸、アクリル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体などが挙げられる。これらの中でも、耐熱性、寸法安定性、耐溶剤性、電気絶縁性、加工性、低通気性及び低吸湿性に優れているものが好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記ガラス基材に使用するガラス素材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、ほうけい酸ガラスなどが挙げられる。これらの中でも、耐熱性、寸法安定性、耐溶剤性、電気絶縁性、加工性及び低通気性に優れているものが好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
特に好ましい基材の材質としては、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ガラス、ナイロン、ポリイミド、セルロースなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
前記基材は、蛍光物質などの波長変換機能を有する化合物を含んでいてもよい。このような基材を用いることによって、光源からの光のみならず、基材内で、光合成微生物の光合成に有用な波長に変換した光をも、光合成微生物の生育にも用いることができるため、光合成微生物の増殖速度(増殖効率)が向上する点で好ましい。
【0030】
前記基材の表面、好ましくは吸水性ポリマーとの結合面に、凹部を有することが好ましい。前記基材の凹部の形成方法としては、特に制限なく、用いる素材に応じて、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、エッチング処理、ブラスト処理、熱圧などが挙げられる。前記基材の凹部の形状、深さ、幅、隣接する凹部の距離などとしては、前記培養基材の凹部を形成させるものであれば、特に制限なく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0031】
−吸水性ポリマー−
前記吸水性ポリマーの吸水能としては、自重の2倍〜10,000倍が好ましく、自重の10倍〜1,000倍がより好ましく、自重の50倍〜500倍が特に好ましい。ここで、吸水能とは、純水を用いてポリマーの乾燥重量に対する吸水重量を計測したものを指すが、本発明において吸水ポリマーが吸水する対象としては、純水に限定されず、以下に説明する培地、水などが意図される。一般に、純水の代わりに塩類を含む水溶液を用いた場合には、吸水能は低下する。
【0032】
前記吸水性ポリマーとしては、上記の吸水能を有すものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリ−α−ヒドロキシビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリ−α−ヒドロキシアクリル酸、ポリビニルピロリドン;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール;及びこれらのスルホン化物など、並びに、アルギン酸ナトリウム、デンプン、絹フィブロイン、絹セリシン、ゼラチン、各種タンパク質、多糖類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、多糖類を主成分とし、タンパク質などを含有する微生物が産生する細胞外マトリックスを吸水性ポリマーとして用いることもできる。この中には、微生物が存在していてもよく、また、細胞外マトリックスのみを取り出して使用してもよい。更に、微生物を含んでいる場合には、微生物は生きたまま使用してもよいし、死んだ状態で使用してもよい。
【0033】
前記吸水性ポリマーの分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、質量平均分子量で、1,000〜1,000,000が好ましく、2,000〜500,000がより好ましく、5,000〜100,000が特に好ましい。前記質量平均分子量が、1,000未満であると、吸水ポリマー層が安定しないことがあり、1,000,000を超えると、重合困難となることがある。一方、前記質量平均分子量が、5,000〜100,000であると、吸水ポリマー層の安定性の点で有利である。
【0034】
前記吸水性ポリマーを構成するモノマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アクリル酸、アクリル酸誘導体、酢酸ビニル、カルボキシメチルセルロース、エチレン、メタクリレート誘導体、ピロリドン、脂肪族グリコール、プロピレン、セルロース誘導体、アミノ酸などが挙げられる。前記アクリル酸誘導体としては、例えば、メタアクリル酸、及びそのエステル、カルシウム塩及びナトリウム塩、ヒドロキシエチルメタアクリル酸、ヒドロキシプロピルメタアクリル酸、アクリル酸2−ヒドロキシブチル、ジメチルアミノエチルメタアクリル酸、アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、アクリルアミド及びその誘導体(N−メチロールアクリルアミド及びそのアルキルエーテル化合物等)、オキシラン基を有するアクリル酸誘導体(グリシジルアクリレート、メタクリロニトリル等)、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸アセチル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸アセチル、メタクリル酸ドデシルなどが挙げられる。
【0035】
前記吸水性ポリマーは、架橋されていてもよく、架橋されていなくともよいが、吸水性ポリマーの基材からの脱離を防止する観点、光合成微生物を基材から脱離させる場合の吸水性ポリマー層の強度を維持し、繰返し使用するための観点などから、架橋されているものが好ましい。
吸水性ポリマーの架橋方法は、特に制限なく、用いる吸水性ポリマーに応じて、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、架橋剤を用いる方法、ラジカル開始剤を用いる方法、加熱により架橋させる方法、電子線、紫外線、放射線等を用いる方法などを挙げることができる。これらの中でも、架橋剤を用いる方法、紫外線を用いる方法が、簡便性、架橋効率の高さ、及び安全性の観点から好ましい。
【0036】
前記吸水性ポリマーとして、共重合体を用いてもよい。共重合体にすることで、架橋反応が容易になるという利点がある。
【0037】
前記基材に対する前記吸水ポリマーの結合量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、乾燥粉末での質量で、前記基材の面積当たり1mg/m〜100,000mg/mが好ましく、10mg/m〜10,000mg/mがより好ましく、100mg/m〜1,000mg/mが特に好ましい。前記吸水ポリマーの結合量が、1mg/m未満であると、吸水性ポリマー表面に付着した光合成微生物への水分供給が不足し、直ちに乾燥する可能性、又は水分供給間隔が短くなることにより煩雑性及び培養コストの増加につながる可能性があり、100,000mg/mを超えると、吸水性ポリマー層の安定性が悪くなり、吸水性ポリマーの使用量増加により培養コストが増加につながる可能性がある。一方、前記吸水ポリマーの含有量が、100mg/m〜1,000mg/mであると、光合成微生物への水分量の供給が最適であると共に、吸水性ポリマー層も安定し、吸水性ポリマー使用による培養コスト増加の影響が最小限に抑えられる点で有利である。
【0038】
<付着工程>
前記付着工程は、前記培養基材上に前記光合成微生物を付着させる工程である。
【0039】
−光合成微生物−
前記光合成微生物としては、光合成を行う光合成微生物であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸素発生型光合成を行う微細藻類、酸素非発生型光合成を行う光合成細菌などが挙げられる。
前記微細藻類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、藍藻、原緑藻等の原核生物;黄金藻、ハプト藻、黄緑藻、真眼点藻、珪藻、渦鞭毛藻、ラフィド藻、クリプト藻、緑虫藻、プラシノ藻等の真核生物;などが挙げられる。
前記光合成細菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、紅色細菌、緑色非硫黄細菌、緑色硫黄細菌、ヘリオバクテリアなどが挙げられる。
また、本発明では、光合成を行う能力とともに、別の能力、例えば、有機化合物を取り込んで、従属栄養的に生育する能力を有している生物についても、光合成微生物というものとする。
【0040】
前記光合成微生物としては、バイオマスを産生する光合成微生物であることが好ましい。前記バイオマスとは、化石資源を除いた再生可能な生物由来の有機性資源であり、例えば、生物由来の物質、食料、資材、燃料などが挙げられる。具体的には、ボトリオコッカス属、シュードコリシスチス・エリプソイディア(Pseudochoricystis ellipsoidea)等が産生する炭化水素、珪藻や緑藻等が産生するトリグリセリド、クロレラやスピルリナ等が産生するタンパク質、ドナリエラ等が産生するβ-カロテン、ポルフィリディウム等が産生する多糖、スピルリナ等が産生する色素、ヘマトコッカス等が産生するアスタキサンチン、ナンノクロロプシス等が産生するDHA、種々の渦鞭毛藻が産生する医薬品や医薬品中間体などが挙げられる。また本発明では、光合成微生物自身もバイオマスに含まれる。特に、本発明で使用される光合成微生物としては、バイオマス燃料などの工業化の観点から、オイルを含有するボトリオコッカス属が好ましい。
【0041】
これらの光合成微生物は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、1種以上の光合成微生物に加えて、それ以外の微生物を含んでいてもよい。1種単独を使用する場合では、得られるバイオマスの純度が高い利点がある。2種以上を併用する場合では、目的とする光合成微生物の基材表面上への付着が良好になる、共生などにより目的とする光合成微生物の生育が良好になるなどの利点がある。
【0042】
併用する微生物としては、例えば、窒素固定菌が挙げられる。窒素固定菌を併用することにより、光合成微生物の栄養源となる窒素を継続的に供給することが可能となると共に、高価な窒素化合物の使用を低減できるなどの利点があり、培養の効率化及び運用コストの観点から好適である。
【0043】
前記培養基材上に前記光合成微生物を付着させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記光合成微生物を含む培地をピペット等で前記培養基材に滴下する方法、前記光合成微生物を含む培地に前記培養基材を含浸させてから引き上げる方法、前記光合成微生物を含む培地を前記培養基材上にポンプを用いて供給する方法、前記光合成微生物を含む培地を前記培養基材上にスプレーなどを用いて噴霧により付着させる方法などが挙げられる。これらの中でも、前記光合成微生物を噴霧により付着させる方法が特に好ましい。
【0044】
また、前記培養基材上に「一定量」の前記光合成微生物を付着させることが好ましい。
ここで、前記「一定量」とは、特に制限はなく、培養形態や培養基材上の面積などに応じて適宜選択することができる。
【0045】
前記一定量の光合成微生物を含む培地における光合成微生物の濃度としては、特に制限はなく、光合成微生物の種類などに応じて適宜選択することができるが、1×10細胞/mL〜1×10細胞/mLが好ましく、1×10細胞/mL〜1×10細胞/mLがより好ましい。前記光合成微生物の濃度が、1×10細胞/mL未満であると、前記培養基材上に前記光合成微生物付着層を形成しづらいことや、前記光合成微生物付着層の形成に長時間を要することなどがあり、1×10細胞/mLを超えると、前記光合成微生物付着層が厚くなりすぎ、増殖率が低下してバイオマスの生産コストが増加することがある。
【0046】
−培地−
前記付着工程、及び後述する供給工程、培養工程などに用いる培地としては、液体培地であれば特に制限はなく、光合成微生物の種類などに応じて適宜選択することができ、例えば、窒素源、ビタミン、微量元素等の増殖に必要な栄養源を含む培地などが挙げられる。前記光合成微生物が前記微細藻類である場合、前記培地としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無機物及び水を含む培地などが挙げられる。前記微細藻類の付着培養に用いる培地の具体的な例としては、後述する実施例に記載の培地などを用いることができる。また、これらの培地は、有機物を含んでいてもよい。
【0047】
<供給工程>
前記供給工程は、前記培養基材上に培地及び水の少なくともいずれかを供給する工程である。
前記培養基材上に培地及び水の少なくともいずれかを供給する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記培地及び水の少なくともいずれかをピペット等で前記培養基材に滴下する方法、前記培地及び水の少なくともいずれかに前記培養基材を含浸させてから引き上げる方法、前記培地及び水の少なくともいずれかを前記培養基材上にポンプを用いて少しずつ供給する方法、培地及び水の少なくともいずれかを前記培養基材上にスプレーなどを用いて噴霧する方法などが挙げられる。また、湿潤箱内で前記培養基材を培養する方法を用いてもよい。これらの中でも、培地及び水の少なくともいずれかを前記培養基材上に噴霧により供給する方法が、ノズルなどを用いることにより噴霧する液量を制御することができ、後述する予め分散処理された光合成微生物を噴霧でき、本発明の付着培養方法の大規模化に有利である観点から好ましい。
【0048】
前記供給工程を行う時期としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記付着工程の前に行ってもよく、前記付着工程の後に行ってもよく、後述する培養工程と同時に行ってもよく、また、これらを組み合わせて行うことができる。
【0049】
前記培養基材に供給する培地の量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記培養基材に含まれる培地量が、前記吸水性ポリマーの飽和吸水量に対して50%以上となるように供給することが好ましく、90%以上となるように供給することがより好ましく、98%以上となるように供給することが特に好ましい。前記培養基材に含まれる培地量が、前記吸水ポリマーの飽和吸水量に対して50%未満であると、吸水性ポリマー表面に付着した光合成微生物への水分供給が不足し、直ちに乾燥する可能性、又は水分供給間隔が短くなることにより煩雑性及び培養コストの増加につながる可能性がある。一方、前記培養基材に含まれる培地量が、98%以上であると、光合成微生物への水分量の供給が最適であると共に、吸水性ポリマー層も安定し、吸水性ポリマー使用による培養コスト増加の影響が最小限に抑えられる点で有利である。
【0050】
前記供給工程としては、吸水性ポリマーの吸水量が飽和吸水量の50%以下となった場合に、培養基材上に水及び培地の少なくともいずれかを供給する工程であることが好ましい。
また、前記供給工程としては、前記培養基材上に培地及び水の少なくともいずれかを複数回供給する工程であることが好ましく、例えば、同一の組成の培地を複数回供給してもよく、また、異なる組成の培地を用い、各培地を1回乃至複数回供給してもよい。
また、前記供給工程としては、前記培養基材上に少なくとも2種の培地を供給する工程であることが好ましい。
【0051】
前記供給工程に用いる培地としては、液体培地であれば特に制限はなく、光合成微生物の種類などに応じて上述した培地を適宜選択することができるが、前記少なくとも2種の培地が、カルシウム濃度0.1mg/L〜3,000mg/Lの培地を含み、該培地が光合成微生物の付着期、及び増殖期のいずれかに供給されることが好ましい。
前記高カルシウム濃度培地が光合成微生物の付着期、及び増殖期のいずれかに供給されることにより、付着性の向上、及び付着量の向上の点で有利である。
【0052】
<培養工程>
前記培養工程は、光を照射して前記光合成微生物を培養する工程である。
【0053】
前記培養基材上に前記光合成微生物を培養する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、光合成微生物が付着した培養基材を空気中湿潤状態で培養する方法などが挙げられる。
【0054】
ここで、「空気中湿潤状態」とは、前記培養基材上の光合成微生物付着層が乾かない状態を表す。空気中の湿度が、前記光合成微生物付着層が乾かない程度であれば、前記培養基材上に補充した前記光合成微生物をそのままの環境で培養することができる。一方、前記光合成微生物付着層が乾く環境である場合は、必要に応じて、前記供給工程により培地及び水のいずれかを適宜補充して空気中湿潤状態を保持する。
【0055】
前記培養工程における培養温度としては、特に制限はなく、光合成微生物の種類などに応じて適宜選択することができるが、0℃〜100℃が好ましく、15℃〜40℃がより好ましい。前記培養温度が、0℃未満又は100℃を超えると、前記光合成微生物が育成できないことがある。
【0056】
前記培養工程を行う培養期間としては、特に制限はなく、光合成微生物の種類などに応じて適宜選択することができるが、1日間〜300日間が好ましく、2日間〜30日間がより好ましい。前記培養期間が、1日間未満であると、前記光合成微生物の細胞数を十分に得ることができないことがあり、300日間を超えると、栄養分の不足により、光合成微生物が死滅することがある。
【0057】
前記培養工程における二酸化炭素濃度としては、特に制限はなく、光合成微生物の種類などに応じて適宜選択することができるが、0.001%〜50%が好ましく、1%〜10%がより好ましい。前記二酸化炭素濃度が、0.001%未満であると、前記光合成微生物が光合成を十分に行うことができないことがあり、50%を超えると、pHの低下により、前記光合成微生物が育成できないこと、人が培養装置の中に入って作業する場合、保護服などの装備が必要であることがある。
空気中湿潤状態で培養する場合、空気中の二酸化炭素を効率的に使用することができるため、液体培養において通常行われている二酸化炭素や空気の培地中へのバブリングなどが不要となり、設備の稼動コストなどの観点から好ましい。
【0058】
前記光の照射は、連続的であってもよく、例えば、光照射あり12時間及び光照射なし12時間などの明暗サイクル下で行ってもよく、光の照度の強弱をつけたサイクル下で行ってもよく、用いる光合成微生物に応じて適宜選択できる。また、前記光として太陽光などを利用する場合には、前記培養基材に対して直接照射してもよく、該光と培養基材との間に農業用被覆フィルムなどを介在させて光の照度などを調節してもよい。
【0059】
前記培養工程における光照射に用いる光源としては、特に制限はなく、光合成微生物の種類などに応じて適宜選択することができ、例えば、太陽光、LED光、蛍光灯、白熱球、キセノンランプ光、ハロゲンランプなどが挙げられる。これらの中でも、太陽光が自然エネルギーである点で好ましく、LEDが発光効率の良い点で好ましく、蛍光灯が簡便に使用することのできる点で好ましい。
【0060】
前記培養工程における照度としては、特に制限はなく、光合成微生物の種類などに応じて適宜選択することができるが、1ルクス〜100万ルクスが好ましく、1,000ルクス〜10万ルクスがより好ましい。前記照度が、1ルクス未満であると、前記光合成微生物が光合成を十分に行うことができないことがあり、100万ルクスを超えると、光障害により、前記光合成微生物の増殖速度が低下したり、死滅したりすることがある。
前記照度を測定する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の照度計を用いて測定する方法などが挙げられる。
【0061】
前記培養基材は、光源に対してどの様な角度で設置されていてもよいが、培養面積を多く使用することができ、基材面積当たりの収量を多くする場合には、光に対して垂直が好ましく、培養面積を多く使用することができず、培養面積当たりの収量を多くする場合には、地面に対して垂直な角度90°に近い方が好ましい。
前記培養基材は、第1の光源に対して、一つ配置してもよいし、複数個配置してもよい。光合成微生物付着層が薄い場合には、一つの培養基材のみでは光量を有効に活用することができない場合があり、そのような場合には、各培養基材を透過した光を有効に活用するために、複数個重ねるように配置してもよい。
【0062】
前記付着培養に用いる培養装置として、農業用被覆材を用いることができる。前記培養基材を、農業用フィルムなどの農業用被覆材で被覆することによって、前記培養基材上の光合成微生物の乾燥を防ぐことができる。また、様々な機能が付与された農業用被覆材を用いることによって、光合成微生物の生育を阻害する環境因子を排除又は低減すことができる。
例えば、紫外線をカットする農業用フィルムを用いて紫外線をカットすることで、光合成微生物にとって有害な光を減らし、生育速度を向上させることができる。また、紫外線がないと昆虫などの生物は視界を確保することができないため、防虫効果、これらの昆虫などが媒介するウイルスや有害なバクテリアなどを防ぐ効果が得られ、光合成微生物の生育を向上できる点で好ましい。
また、赤外線を遮蔽する農業用フィルムも使用することができる。これによって、赤外線による温度上昇を防ぐことができ、光合成微生物の至適温度を保つことが容易になるため、光合成微生物の育成を向上できる点で好ましい。このようなフィルムとしては、特に制限なく、目的に応じて適時選択することができ、特開平5−184243号公報、特許3804987号公報、特開2001−61357号公報などが挙げられる。
【0063】
<回収工程>
前記回収工程は、培養した前記光合成微生物を前記培養基材上から回収する工程である。
【0064】
前記光合成微生物を前記培養基材上から回収する方法としては、特に制限なく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、セルスクレイパーなどにより光合成微生物を回収する方法、水流などにより光合成微生物を回収する方法などが挙げられる。
【0065】
<その他の工程>
また、本発明の光合成微生物の付着培養方法は、前記工程に加えて、必要に応じて、追加の付着工程、分散処理工程、基材形成工程、前培養工程などを含むことができる。
【0066】
<<追加の付着工程>>
前記追加の付着工程は、前記培養基材上に光合成微生物を付着させる工程である。本発明の光合成微生物の付着培養方法は、前記追加の付着工程を更に含むことが好ましく、前記追加の付着工程を更に備えることにより、前記付着工程おいて光合成微生物が付着した培養基材上に、追加で光合成微生物を付着させることができ、増殖速度向上の観点から有利である。
前記追加の付着工程における、前記培養基材上に光合成微生物を付着させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて、前記付着工程における前記培養基材上に光合成微生物を付着させる方法を適宜選択することができる。これらの中でも、前記光合成微生物を噴霧により付着させる方法が好ましく、また、予め分散処理された前記光合成微生物を付着させる方法が好ましく、両者の併用がより好ましい。
【0067】
<<分散処理工程>>
前記分散処理工程は、光合成微生物を分散処理する工程である。
前記光合成微生物を分散処理する方法としては、特に制限はなく、光合成微生物の種類などに応じて適宜選択することができるが、高速振幅運動処理や超音波処理などが挙げられる。
【0068】
ここで、「高速振幅運動処理」は、例えば、ビーズ式細胞破砕装置(株式会社トミー精工、Micro Smash MS−100)により、ビーズの添加なしで、例えば回転数4,200rpm、20秒間の条件で行うことができる。前記高速振幅運動処理の振幅速度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、500rpm〜10,000rpmが好ましく、1,500rpm〜6,000rpmがより好ましい。前記振幅速度が、500rpm未満であると、分散性が悪くなり、例えばノズルの目詰まりが発生することがあり、10,000rpmを超えると、振幅による細胞へのダメージ、振幅による光合成微生物含有溶液の温度が高温になることなどにより、光合成微生物の生存率、付着率、増殖率などが低下することがある。一方、前記振幅速度が、1,500rpm〜6,000rpmであると、分散性が良く、噴霧などの付着工程において、目詰まりが低減できる点で有利である。
【0069】
また、「超音波処理」とは、例えば、超音波処理装置(US−2R、アズワン株式会社製)により、28kHzの条件で行うことができる。前記超音波処理の処理条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1kHz〜100kHzが好ましく、10kHz〜50kHzがより好ましい。前記処理条件が、1kHz未満であると、分散性が悪くなることがあり、100kHzを超えると、細胞破砕が起こることがある。一方、前記振幅速度が、10kHz〜50kHzであると、分散性が良く、噴霧などの付着工程において、目詰まりが低減できる点で有利である。
【0070】
前記付着工程において、前記分散処理工程により予め分散処理された光合成微生物を付着させることが好ましい。
また、前記追加の付着工程において、前記分散処理工程により予め分散処理された光合成微生物を付着させることが好ましい。
分散処理によって、例えば、前記前培養工程により凝集していた光合成微生物を個々もしくはより小さな細胞集団にすることによって調製した試料を用いることができる。即ち、予め分散処理された光合成微生物を培養基材上に付着させて培養することで、基材表面を有効に使用することができ、前記分散処理を行わないものと比較して付着量を増加させることができると共に、付着後の増殖量を向上させることができる点で好ましい。
【0071】
<<基材形成工程>>
前記基材形成工程は、基材を形成する工程である。
前記基材を形成する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
【0072】
<<前培養工程>>
前記前培養工程は、光合成微生物を前培養する工程である。
前記光合成微生物を前培養する方法としては、特に制限はなく、光合成微生物の種類などに応じて適宜選択することができ、例えば、静置培養法、振盪培養法、静置若しくは振盪しながら二酸化炭素や空気をバブリングさせて培地を流動させながら培養する方法などが挙げられる。
前記光合成微生物は、凝集する性質を有するものも存在することから、前培養することにより光合成微生物凝集体を形成することがある。本発明において、「光合成微生物凝集体」とは、複数個の光合成微生物が集合した構造体のことをいい、その光合成微生物の構造体は、複数種の光合成微生物から構成されていてもよく、単一種の光合成微生物から構成されていてもよい。更に、光合成微生物同士が直接隣接していてもよく、ある種の物質、例えば、細胞間マトリックスのような物質を介して凝集していてもよい。また、群体といわれているものも、本発明では、凝集のことを意味するものとする。
【0073】
前記光合成微生物の前培養に用いる培地としては、特に制限はなく、光合成微生物の種類などに応じて適宜選択することができ、例えば、窒素源、ビタミン、微量元素等の増殖に必要な栄養源を含む培地などが挙げられる。前記光合成微生物が前記微細藻類である場合、その前培養に用いる培地としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無機物及び水を含む培地などが挙げられる。前記微細藻類の付着培養に用いる培地の具体的な例としては、後述する実施例に記載の培地などを用いることができる。また、これらの培地は、有機物を含んでいてもよい。
前記前培養に用いる培地種、培地のpH、培養温度、培養期間、二酸化炭素濃度、光量は、光合成微生物の培養条件に応じて公知の条件を用いることができる。
【0074】
本発明によれば、大気中に存在する二酸化炭素を効率的に利用でき、従来必要であった二酸化炭素を供給するための配管などの設備を用いることなく、低コストで二酸化炭素を供給することができる光合成微生物の付着培養方法を提供することができる。
また、本発明によれば、培養に用いる液体培地量を低減することができ、従来必要であった大量の培地を循環させるための循環装置を用いることなく、低エネルギーで液体培地を循環することができる光合成微生物の付着培養方法を提供することができる。
さらに、本発明によれば、培養した光合成微生物を容易に回収することができ、培養基材を再利用することができ、回収コストを低減した光合成微生物の付着培養方法を提供することができる。
【0075】
また、本発明の光合成微生物の付着培養方法は、光合成微生物の輸送にも使用することができる。例えば、培養用及び保存用の種株である光合成微生物をコンタミ微生物の混入の機会が原則ない密閉型培養容器で培養し、吸水性ポリマーを結合したフィルム状の基材に光合成微生物を付着させた後、巻き取ったフィルムを、別の場所に設置された培養装置に輸送及び設置して、引き続き増殖を行うこともできる。このようにすることで、広大な培養面積が必要な光合成微生物の商業的規模での培養において、種株である光合成微生物の前培養段階と、開放型培養装置での付着培養段階とを個別に行うことができ、培養設備及び稼動コストを低減することができる。
【0076】
また、本発明の光合成微生物の付着培養方法は、廃水処理と併用することもできる。廃水処理液中に含まれるリンや窒素などの栄養素を光合成微生物の培地成分として活用することにより、光合成微生物の栄養素を供給するためのコストを低減することができる。また、富栄養化状態の廃水が自然界に排出されると、赤潮や青潮などの原因となり、魚介類の死滅による環境への悪影響や漁業従事者の生活に対して多大の影響を与えることが懸念される。したがって、本発明の光合成微生物の付着培養方法を廃水処理と併用することは、富栄養化対策の観点からも好ましい。
【0077】
また、本発明の光合成微生物の付着培養方法によって形成される基材上の光合成微生物付着層(バイオフィルム)は、金属回収、オイル分解などに用いることができる。これらは、J. Appl. Phycol(2008) Vol.20,p.227−235に記述されており、本発明の光合成微生物の付着培養方法はこれらの方法に活用できる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0079】
(実施例1:吸水性ポリマー結合フィルムの作製)
アクリル酸モノマーを含む水溶液(50質量%、ナカライテスク)を水で希釈して1質量%に調製し、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布した。塗布後、80℃に保たれたオーブン中で2分間乾燥させ、水を除去した。乾燥後、UV露光機を用いてUV(254nm)を20秒間照射することによりラジカル重合を行い、アクリル酸重合体をフィルム表面に共有結合させたアクリル酸重合体結合フィルムを作成した。グラフト化膜作成後のアクリル酸重合体結合フィルムを7.6cm×2.6cmに切断して、以下の実施例2〜8に用いた。
【0080】
フィルム上でのアクリル酸重合体の形成は、フィルム表面の水との接触角を測定することにより確認した。アクリル酸重合体を結合させたフィルムの接触角(24°)は、塗布なしのフィルムの接触角(70°)に比べて大幅に小さくなった。したがって、フィルム表面に親水性の重合体が形成されたことが確認できた。
【0081】
また、得られたアクリル酸重合体結合フィルムの吸水量を乾燥前後の重量変化を測定することにより算出した結果、自重の約30倍であった。
【0082】
(実施例2:藻類培地の調製)
自然海水から採取し、純菌化処理を行うことで得られた珪藻を、オートクレーブ滅菌したf/2培地が200mL入った500mL三角フラスコ中に接種し、100rpm、20℃、2,000ルクス下で、振盪培養機(株式会社サンキ精機、Incubator Shaker Model RGS−20RL)を用いて増殖させた。
【0083】
用いたf/2培地の組成は以下のとおりである。なお、人工海水として、マリンアートSF−1(大阪薬研株式会社)をf/2培地1Lあたり38g添加した。
【表1】

【表2】

【0084】
次に、以下の手順で、培地中の藻を回収し、藻体数をカウントした。
得られた藻の培地をしばらく静置し、藻を三角フラスコの底に沈殿させた。沈殿した藻をピペットにより採取して5mLチューブの中に入れた。このチューブをビーズ式細胞破砕装置(株式会社トミー精工、Micro Smash MS−100)にセットし、ビーズの添加なしで4,200rpmで20秒間の分散処理を3回行い、藻を破砕することなく分散させた。分散処理後、5mLチューブをよく攪拌しながら50μLの藻の懸濁液を、予め950μLのf/2培地を入れておいた2mLのマイクロチューブ(株式会社トミー精工、TM−626S滅菌付)に加え、このマイクロチューブをMS−100にセットし、5,500rpmで20秒間、1回の分散処理を行った。分散処理後、前記のマイクロチューブから10μLの藻の希釈液を採取し、血球計数板上に滴下し、光学顕微鏡を用いて特定の領域に存在する藻体の数をカウントした。カウントの結果、5mLチューブ中の藻体濃度は、1.88×10個/mLの藻体濃度であることがわかった。
【0085】
(実施例3:微細藻類の付着前培養)
藻体濃度が1×10個/mL、3×10個/mL、10×10個/mLの藻の懸濁液をそれぞれ180mLずつ準備した。各藻体濃度の条件につき、実施例1で調製した吸水性ポリマー結合フィルムを21枚、吸水性ポリマーを結合させていない未処理のフィルムを21枚、スチロール角型ケース11型(アズワン株式会社、1−4698−11)を3枚個準備し、1ケース当たり14枚のフィルムを、各々のフィルムが重なり合わないようにケース内に等間隔に設置した。ただし、前記の14枚のフィルムの内、2枚は7.6cm×6cmのフィルムサイズであり、このフィルムは、湿潤培養スタート時の微細藻類の付着数をカウントするために使用した。なお、培地を注入した後にフィルムが浮遊しないように、予めフィルムをガラス製スライドガラス上に固定してケース内に設置した。ここへ、3種類の藻体濃度の藻の懸濁液(180mL/ケース)を各ケースに流し込み、ケースのフタをした後、30分間そのまま静置して藻をフィルム上に付着させた。その後、ケースを組立式照明培養棚プラントバイオシェルフ(株式会社池田理化、AV152261−12−2)に移し、地面に対して水平に設置した状態で、4,000ルクス、室温(約23℃)で1日間、静置培養を行った。二酸化炭素のバブリングなどの操作は行わなかった。
【0086】
(実施例4:微細藻類の付着培養)
染色バット金具(アズワン株式会社、1−4398−11)にガラス製スライドガラスを1cm間隔で挿入した。次に、ガラス製スライドガラスを挿入した位置に、実施例3で準備した藻を付着させたフィルムを挿入した。これは、フィルムの強度が比較的弱く、染色バット金具へ地面に対して垂直に挿入することでたわんでしまうのを防ぐためである。
TPX染色バット(アズワン株式会社、2−3029−01)の底面に合わせて、ろ紙を切断して底面に敷き、そこへ、バット内の急激な乾燥を防ぐために、オートクレーブ済みのf/2培地を2mL入れた。フィルムを挿入した準備した染色バット金具をTPX染色バットに入れて、フタをした。さらに、上面のみからの光を受光するために、染色バットの上面以外の部位を黒い紙で覆った。
この様にして準備したバットを、培養棚に移し、4,000ルクス、室温(約23℃)で静置培養を行った。また、バットでの培養を開始した時点を培養日数0日とし、一定期間ごとにバットからフィルムを抜き出し、各フィルム上に付着した珪藻の数を数えた。
【0087】
(実施例5:付着した珪藻のカウント方法)
6穴プレート(アズワン株式会社、1−8355−01)に1mLのf/2培地を入れ、6穴プレートの穴にスライドガラスとともにフィルムを斜めに挿入し、セルスクレイパー(住友ベークライト株式会社、MS−93100)を用いて、フィルムを6穴プレートに入れたf/2培地で洗うようにして、表面の藻を剥ぎ取った。
フィルム及びスライドガラスを6穴プレートから取り除き、よく攪拌させながらピペットを用いて50μLを分取し、予め950μLのf/2培地を入れておいた2mLのマイクロチューブ(株式会社トミー精工、TM−626S)の中に添加した。
このマイクロチューブをビーズ式細胞破砕装置(株式会社トミー精工、Micro Smash MS−100)にセットし、5,500rpmで20秒間、1回の分散処理を行った。分散処理後、前記のマイクロチューブから10μLの藻の分散液を採取し、血球計数板上に滴下し、光学顕微鏡を用いて特定の領域に存在する藻体の数をカウントし、そのカウントの結果から、フィルムの単位面積あたりに付着及び増殖した藻体数を計算した。
【0088】
(実施例6:珪藻からのオイル成分の抽出)
実施例5の方法を用いて、藻を6穴プレート内に集めた。この溶液を全量採取し、予め重量を測定しておいたマイクロチューブに全量入れた。遠心分離機(株式会社トミー精工、MX−300)を用いた遠心処理(15,000rpm、5分)を行って藻を沈降させた後、上澄みを捨てた。次いで、1/10濃度のf/2培地を用いて藻を再懸濁した後、再び遠心処理(15,000rpm、5分)を行って藻を沈降させ、上澄みを捨てた。この操作を二回行った。フタを開けた状態でマイクロチューブを100℃のオーブン中で加熱することで藻に含まれる水分などを除去し、乾燥藻体を得た。乾燥藻体の重量は、空のマイクロチューブの重さとの差から測定した。
次に、乾燥藻体を15mLの遠沈管(アズワン株式会社)に移し、そこへ2mLの5%塩酸−メタノール溶液を添加し、100℃で1時間反応を行った。反応後、ヘキサンを1.5mL、水を0.5mL添加し、遠心分離機を用いて遠心操作を行った。上層を分取し、純水1mLを加え、よく攪拌した後、遠心処理(15,000rpm、5分)を行った。上層のヘキサン層を分取し、溶媒をエバポレーションにより除去して、藻からのオイル成分を得た。予め測定しておいた空の遠沈管の重量との差から、得られたオイルの含有量を算出した。
【0089】
(実施例7:吸水性ポリマーによる藻の付着及び増殖効果)
実施例2〜5の手順により、吸水性ポリマーを結合させたフィルムと結合させていないフィルムとを用いた場合の珪藻の付着及び増殖に与える影響を調べた。その結果を、図1に示した。なお、実施例3において水平培養によりフィルム上に藻を付着させ、続いて、実施例4において液体培地からフィルムを取り出した後は、培養途中で一度も各フィルムに培地を交換することはしなかった。
図1中、クローズド(黒)シンボル、オープン(白)シンボル及びグレーのシンボルは、それぞれ1×10個/mL、3×10個/mL及び10×10個/mLの藻の懸濁液を藻の付着用懸濁液として用いたことを示す。また、丸のシンボル及び三角のシンボルは、それぞれ吸水性ポリマーが結合したフィルム及び吸水性ポリマーが結合していないフィルムを培養基材として用いたことを示す。
【0090】
(結果)
実施例3において3種類の藻の懸濁液(藻体濃度:1×10個/mL、3×10個/mL及び10×10個/mL)を用いて藻を付着させた際の、一日の水平培養後のフィルム単位面積当たりに付着及び増殖した藻体数(初期付着藻体密度:個/cm)を測定した結果、それぞれ1.5×10個/cm、2.2×10個/cm及び5.6×10個/cmとなり、水平培養に用いる懸濁液の藻体濃度が高ければ高いほどフィルムへの付着藻体数は多くなることが分かった。
また、水平培養時に用いた藻の濃度が高いほど、培養後のフィルムに付着及び増殖した藻体数は多くなった。これは、藻体バイオフィルム自体が吸水性ポリマーであり、付着及び増殖した藻体数が多いほど乾燥に対して強いためであると考えられる。
吸水性ポリマーの有無で比較すると、吸水ポリマーを結合したフィルムの方が付着及び増殖した藻体数が多く、より長期間フィルム上の藻体数の減少を抑制することができた。これは、吸水性ポリマーが結合している方が、水平培養から垂直湿潤培養に移行した際に、培養基材がより多くの培地を含み、藻に栄養分を供給することができ、そのためより藻の成長が促進されたためと推測できる。加えて、増殖した藻自体が吸水能を有することから、更に培養基材表面の保水能が高まったためと考えられる。
【0091】
(実施例8:途中で培地を添加した場合の藻の付着及び増殖効果)
実施例6と同様の実験を行った。ただし、実施例3において藻を付着させるために、藻体濃度10×10個/mLの藻の懸濁液を用い、2〜3日に一度、オートクレーブ済みのf/2培地に培養中のフィルムを1分間浸漬した。
結果を図2に示した。図2中、クローズド(黒)丸シンボル及びオープン(白)丸シンボルは、途中で培地に浸漬しなかったサンプル、及び、途中で培地に浸漬したサンプルをそれぞれ示す。吸水性ポリマーが結合したフィルムを藻の付着用の基材として用いた。
途中で培地に浸漬したサンプルは、途中で培地に浸漬しなかったサンプルと比較して、培養7日目以降も付着及び増殖し続け、最大付着及び増殖数は、約1.8倍となった。これは、培地に浸漬することで、増殖に必要な栄養素を新たに得ることができると共に、増殖を阻害する老廃物が基材上から減少したことが原因と考えられる。
1サンプル当たり20枚分のフィルムで付着培養した藻を用いて、実施例6の方法により培養7日目のサンプルからオイルを抽出し、オイル含有量を測定した。その結果、途中で培地に浸漬しなかったサンプル、及び、途中で培地に浸漬したサンプルも共に、乾燥藻体重量当り約20%のオイルを回収することができた。したがって、フィルム当たりのオイル量を比較すると、途中で培地に浸漬したサンプルでは、途中で培地に浸漬しなかったサンプルよりも、約1.8倍のオイルを回収できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の光合成微生物の付着培養方法は、光合成微生物を省エネルギーで高効率に培養する方法を提供することができるので、光合成微生物の大量培養、及び商業的規模での光合成微生物からのバイオマス生産に好適に利用できる。また、本発明の光合成微生物の付着培養方法は、光合成微生物の輸送、廃水処理、金属回収、オイル分解などに好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に吸水性ポリマーを結合させた培養基材を形成する形成工程と、
前記培養基材上に光合成微生物を付着させる付着工程と、
前記培養基材上に培地及び水の少なくともいずれかを供給する供給工程と、
光を照射して該光合成微生物を培養する培養工程と、
培養した光合成微生物を前記培養基材上から回収する回収工程とを含むことを特徴とする光合成微生物の付着培養方法。
【請求項2】
付着工程において、予め分散処理された光合成微生物を付着させる請求項1に記載の光合成微生物の付着培養方法。
【請求項3】
培養基材上に光合成微生物を付着させる追加の付着工程を更に含む請求項1から2のいずれかに記載の光合成微生物の付着培養方法。
【請求項4】
追加の付着工程において、予め分散処理された光合成微生物を噴霧により付着させる請求項3に記載の光合成微生物の付着培養方法。
【請求項5】
分散処理が、高速振幅運動処理、及び超音波処理の少なくともいずれかである請求項2及び4のいずれかに記載の光合成生物の付着培養方法。
【請求項6】
供給工程が、培養基材上に培地及び水の少なくともいずれかを噴霧により供給する工程である請求項1から5のいずれかに記載の光合成微生物の付着培養方法。
【請求項7】
供給工程が、吸水性ポリマーの吸水量が飽和吸水量の50%以下となった場合に、培養基材上に水及び培地の少なくともいずれかが供給される工程である請求項1から6のいずれかに記載の光合成微生物の付着培養方法。
【請求項8】
供給工程が、培養基材上に培地及び水の少なくともいずれかを複数回供給する工程である請求項1から7のいずれかに記載の光合成微生物の付着培養方法。
【請求項9】
供給工程が、培養基材上に少なくとも2種の培地を供給する工程である請求項8に記載の光合成微生物の付着培養方法。
【請求項10】
少なくとも2種の培地が、カルシウム濃度0.1mg/L〜3,000mg/Lの培地を含み、該培地が光合成微生物の付着期、及び増殖期のいずれかに供給される請求項9に記載の光合成微生物の付着培養方法。
【請求項11】
結合が、共有結合である請求項1から10のいずれかに記載の光合成微生物の付着培養方法。
【請求項12】
吸水性ポリマーの吸水能が、自重の10倍以上である請求項1から11のいずれかに記載の光合成微生物の付着培養方法。
【請求項13】
基材が、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ガラス、ナイロン、ポリイミド、及びセルロースからなる群より選ばれる請求項1から12のいずれかに記載の光合成微生物の付着培養方法。
【請求項14】
基材が、板状基材、フィルム状基材、糸状基材及び布状基材からなる群より選ばれる請求項1から13のいずれかに記載の光合成微生物の付着培養方法。
【請求項15】
光合成微生物が、微細藻類である請求項1から14のいずれかに記載の光合成微生物の付着培養方法。
【請求項16】
光合成微生物が、ボトリオコッカス属、シュードコリシスチス・エリプソイディア(Pseudochoricystis ellipsoidea)、珪藻、緑藻、クロレラ、スピルリナ、ドナリエラ、ポルフィリディウム、ヘマトコッカス、ナンノクロロプシス及び渦鞭毛藻からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1から15のいずれかに記載の光合成微生物の付着培養方法。
【請求項17】
培養基材が、農業用被覆材を被覆させたハウス内に設置される請求項1から16のいずれかに記載の光合成微生物の付着培養方法。
【請求項18】
培養基材が、地面に対して垂直に設置される請求項1から17のいずれかに記載の光合成微生物の付着培養方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−157274(P2012−157274A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18712(P2011−18712)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】