説明

光合成微生物の培養方法及び装置

【課題】光合成微生物を捕食するミジンコ,ワムシ等微小動物の侵入とその繁殖を防げ、設置面積あたりの増殖量が大きく、より高濃度の懸濁液を得られ、工場で大量生産が可能で、現場での設置が簡単な、立設透明水槽方式による光合成微生物の培養方法及び装置を提供する。
【解決手段】光透過材質で形成された透明水槽1内に収容した光合成微生物懸濁液に太陽光を照射し、光合成微生物を増殖させる方法において、該透明水槽1内下方に通排気機構を備える気体溜り2を設置し、(A)該気体溜り2内の気体を排気し光合成微生物懸濁液を該気体溜り2内に満たし嫌気条件下ワムシ等光合成微生物捕食微小動物を死滅させる工程、及び(B)該気体溜り2内に気体を通気し水位を上昇させ光合成微生物懸濁液に太陽光を照射する工程、よりなることを特徴とする光合成微生物の培養方法及び装置。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は光合成細菌、微細藻類等光合成微生物を培養するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に屋外で太陽光を利用した光合成微生物の培養方式には、微細藻類の培養において見られるように、(1)浅い平面池で攪拌しながら培養するオープンポンド方式、(2)ループ状に設置された直径20cm程度の透明チューブ内を循環させながら培養するチュ−ブラ方式(3)直径およそ1m程度、水深およそ2mの上部開放透明水槽内で攪拌しながら培養する立設透明水槽方式等がある。
立設透明水槽方式は、チュ−ブラ方式と同様にオープンポンド方式に比べて設置面積あたりの受光面積が大きいので、設置面積当たりの収穫量が大きいという利点があるが、受光面に藻類や他の微生物や埃が付着するため、定期的にそれらを除去する必要があるという欠点がある。上部開放の透明水槽方式はチューブラ方式に比べてこの付着物除去が簡単にできる利点がある。また、チューブラ方式では水分の蒸発がほとんどないので、低緯度地域での培養では、過熱による藻類の死滅を防ぐため冷却設備が必要となる欠点があるが、立設透明水槽方式は、上部が開放されているので水分の蒸発があり、かつ受光面積に対する懸濁液量の割合を大きくとれ、冷却設備が必要ないという利点がある。
しかし、径を大きくすると、立設透明水槽方式は受光面積に対する懸濁液量の割合が大きくなるので、高濃度の懸濁液が得にくいという欠点もある。
また、立設透明水槽方式では、他の屋外培養方式と同様に、光合成微生物を捕食するミジンコ,ワムシ等微小動物の侵入とその繁殖を防ぐことが困難であり、これら捕食生物によって藻類が全滅することがあるという問題点もある。そこで、本発明者は、特許第3844365号(微細藻類培養装置)を考案し、オープンポンド方式における捕食生物発生の問題点を解決した。しかし、家畜の尿廃水を微細藻類で浄化処理する場合、前述のように設置面積あたりの増殖量が少ないため、広い敷地が必要となり、これが施設導入の障害となり、更に、掘削等現場施工が主体となり、地盤状態や気象状態により、施工期間や、ひいては施工費が読みきれないという問題点が残されている。
【特許文献1】特許第3844365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明は、前記問題点を解決すること、すなわち、光合成微生物を捕食するミジンコ,ワムシ等微小動物の侵入とその繁殖を防げ、設置面積あたりの増殖量が大きく、より高濃度の懸濁液を得られ、工場で大量生産が可能で、現場での設置が簡単な、立設透明水槽方式による光合成微生物の培養方法及び装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
即ち本発明は、第1に、光透過材質で形成された透明水槽内に収容した光合成微生物懸濁液に太陽光を照射し、光合成微生物を増殖させる方法において、該透明水槽内下方に通排気機構を備える気体溜りを設置し、(A)該気体溜り内の気体を排気し光合成微生物懸濁液を該気体溜り内に満たし嫌気条件下ワムシ等光合成微生物捕食微小動物を死滅させる工程、及び(B)該気体溜り内に気体を通気し水位を上昇させ光合成微生物懸濁液に太陽光を照射する工程、よりなることを特徴とする光合成微生物の培養方法であり、
第2に、(ア)収容した光合成微生物懸濁液に太陽光を照射し、光合成微生物を増殖させるための、光透過材質で形成された、透明水槽、(イ)該透明水槽内底部のやや上方に設置された、通排気機構を備える気体溜り、(ウ)気体溜り下端のやや上部と気体溜り上端の上方を連絡するほぼ鉛直に設けられた管、及び(エ)前記気体溜り内に気体を供給する気体圧入機を備えることを特徴とする光合成微生物の培養装置である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
以下、図面を参照しつつ本発明の一実施形態について詳細に説明する。図1及び図2は本発明の装置の一実施例を示す図面であり、図1は平面図、図2はA−A縦断面図である。本装置は、光透過材質で形成された円筒形の透明水槽1内に気体溜り2が設けられている。気体溜り2は上壁面3がほぼ水平で、側面は透明水槽1の側面に並行に下方にのび、側面の下端が透明水槽1の底面のやや上方に位置して設けられている。上壁面3のほぼ中央に上壁面3を貫通して、上壁面3上部と気体溜り2内下方を連絡する管4が設けられている。管4の下端は気体溜り2側面の下端よりもやや上方に位置させてある。
気体溜り2の上部には、気体溜り2内に空気等気体を圧入するための管5、気体溜り2内の気体を排気するための管20を開口させてある。管5は開閉弁6を介してブロワー7に連絡してある。また、管20は開閉弁8を介して大気に連絡してある。これにより通排気機構を構成してある。透明水槽1の側面には、気体溜り2の上壁面3のやや下方の位置に微細藻類懸濁液(以後懸濁液と記す。)を排出させるための排水口として、管9を設けてある。懸濁液は管9及び開閉弁10を介して貯留槽等(図示せず)に排出される。栄養液は開閉弁12を開け管11を介して栄養液槽(図示せず)から送られる。
次に本装置の運転方法について述べる。
夜間、懸濁液を気体溜り2の上壁面3のレベルまで収納する。この場合、開閉弁6、開閉弁8、開閉弁10及び開閉弁12は閉じておく(図3)。
朝には、開閉弁6を開け、ブロワー7を作動させる。空気を気体溜り2内に圧入すると、懸濁液は気体溜り2から押し出され、透明水槽1内水面が上昇する。空気の圧入を続けると気体溜り2内の水面は徐々に下降し、管4の下端に達し、さらに水面は水の表面張力により管4の下端よりやや下方まで下降し、やがて空気は管4の下端から管4内に一気に溢れ、管4内に空気層gを形成する。この空気層gが一気に上昇することにより、透明水槽1内に矢印の方向の旋回流が生じる。空気は透明水槽1内の水面から大気中へ逃げる。図2はこの時の様子を示している。空気の圧入の継続により、前記の噴出が一定の周期で間欠的に繰り返される。前述のように、この噴出により、透明水槽1内には循環流が形成され、懸濁液が撹拌される。このように撹拌された状態で懸濁液は光の照射を受け、液中の微細藻類は光を吸収し増殖する。
日の入りになれば、ブロワー7を止め、開閉弁6を閉め、開閉弁8を開け、気体溜り2内の空気を排出する。これに伴い透明水槽1内の懸濁液は気体溜り2内に移行する。この移行が終了したら、水または培養液を上壁面3のレベルまで投入し、開閉弁8を閉めておく(図3)。この様にして、気体溜り2内に格納された懸濁液は外気からの空気の供給がほとんどなく各微生物の呼吸による酸素消費により次第に嫌気状態となり、ワムシやミジンコなど光合成微生物を捕食する微小動物の生存や増殖が制限される。
懸濁液を収穫する場合は、開閉弁8および開閉弁10を開け、管9により上方の懸濁液を排出する。その後開閉弁10を閉め水または培養液を上壁面3のレベルまで投入し、開閉弁8を閉めておく。上記の操作を毎日繰り返しながら培養を続けると、ワムシやミジンコなど微小動物による微細藻類の捕食が制限され、微細藻類の培養を安定的かつ効率的に行なえる。また、昼間懸濁液は大気と接触するので、水蒸発が生じ、懸濁液は冷却されるので、高温期の過熱による微細藻類の死滅を防ぎ、微細藻類を健全に増殖させる事が出来る。
次に本発明の実施形態を更に詳しく示す。本発明の図1乃至図3に示した装置において、透明水槽1の直径0.87m、高さ1.8m、気体溜り2の直径0.79m、高さ0.95m、とすると、図3の状態で水深およそ0.95m、捜査容量がおよそ0.56m3となる。図2の状態で、水深およそ1.7mとなる。設置面積は0.87m×0.87m=0.76m2、受光面積は側面と水面合わせて5.2m2となる。これらから、設置面積に対する受光面積の割合は6.84、操作容量に対する受光面積の割合は9.29となる。
表1に本発明の立設透明水槽と及び平面池との比較を示した。
【表1】

設置面積に対する受光面積の割合は、単位設置面積当たりの増殖量に相当し、操作容量に対する受光面積の割合は、懸濁液の濃度に相当する。本発明の設置面積に対する受光面積の割合は、平面池のおよそ7倍である。本発明の操作容量に対する受光面積の割合は、平面池及び従来の立設透明水槽のおよそ1.8倍である。この様に、本発明によれば、単位面積当たりの収穫量が多く、得られる懸濁液の濃度がより高くなる。これは敷地面積の節約と懸濁液濃縮等の費用節約につながる。
管4を介した噴出に関して、噴出は気体圧入速度に関係なく、1回の噴出規模はほぼ一定であり、1回の噴出よる攪拌効果は一定である。このため気体圧入速度を小さく設定しても効果的な攪拌をすることが可能で、電力費の低下につながる。 さらに、管4の口径を一定とすると、気体溜り2の横断面積が大きいほど、また管4下端から水面までの距離が大きいほど、管4内に流入する空気の量が多く、その結果管4内に形成される空気層gの容積が大きくなり、噴出が激しくなる。また、管4と気体溜り2の横断面積の比は、
1:30から1:50 程度が適当である。
図4及び図5に示した装置は、本発明の別の実施形態を示す縦断面図である。
図4が図2に、図5が図3に相当する。本態様では、管4の上端に有孔管14を設け、その内部に球状の浮遊体15を備え、透明水槽1側面と気体溜り2の側面の間にドーナツ状の浮遊体13が設けられ、浮遊体13の浮上を阻止する突起物16を備えている点が、図1乃至図3に示した実施形態と異なる。管4で噴出が起こっている状態(昼間)では、浮遊体15は、有孔管14内上部に位置し、浮遊体13は突起物16の下方に位置し、矢印の様な旋回流が生じる。気体溜り2の気体を排出した状態(夜間)では、浮遊体15は、管4水面に位置し、浮遊体13も水面に位置し、気液接触面積がより小さくなり、ワムシやミジンコなど微小動物による生存や増殖がより制限され微細藻類の培養をより安定的かつより効率的に行なえる。
図6に示した装置は、本発明の別の実施形態を示す縦断面図であり、図2に相当する。本態様では、管4内下方に散気管17を設け、管18、ブロワー19によって、気体を散気管17を介して微細気泡として通気する点が、図1乃至図3に示した実施形態と異なる。この微細気泡の通気によって、旋回流が生じ、懸濁液は攪拌される。
培養液としては、家畜尿廃水、無機合成培養液、を用い、炭酸ガスを通気する場合は、通気管5を介して炭酸ガス強化空気を通気すればよい。
微細藻類の商業的生産では、この装置を多数連結して用いる。前述の大きさの装置であれば、2人で移動することも可能である。工場でこの装置を大量生産して、現場で短期間で設置する事が出来る。
また、本発明は、微細藻類以外の光合成微生物、例えば、光合成細菌の培養にも用いる事が出来る事は言うまでもない。
【発明の効果】
【0006】
本発明の効果として、まとめれば、下記の事項が挙げられる。
(1)装置設置面積当たりの増殖量が大きいので、設置面積を節約できる。
養豚場の廃水処理を兼ねて設置する場合、養豚場は広い敷地を持っていない所も多いので、設置面積が節約できる本発明は極めて重宝である。
(2)従来の立設透明水槽や平面池における培養と比べて高濃度の懸濁液を収穫できる。懸濁液の濃縮脱水の費用がより安価となり、有利である。
(3)ワムシやミジンコなど微小動物による生存や増殖が制限され微細藻類の培養を安定的かつより効率的に行なえる。懸濁液を収穫し、収穫した分だけ、水や培養液を投入して、培養を継続していく、いはゆる、連続培養が可能であり、操作が簡単で労力が少ない。
(4)高温期の過熱による微細藻類の死滅を防ぎ、微細藻類を健全に増殖させる事が出来る。
(5)工場で大量生産して、現場で短期間で設置する事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施形態を示す平面図である。
【図2】図1におけるA−A縦断面図である。
【図3】図1におけるA−A縦断面図である。
【図4】別の実施形態を示す縦断面図である。
【図5】別の実施形態を示す縦断面図である。
【図6】別の実施形態を示す縦断面図である。
【符号の説明】
1は透明水槽、2は気体溜り、3は上壁面、4は管、5は管、6は開閉弁、7はブロワー、8は開閉弁、9は管、10は開閉弁、11は管、12は開閉弁、13は浮遊体、14は有孔管、15は浮遊体、16は突起物、17は散気管、18は管、19はブロワー、20は管、gは空気層、実線矢印は微細藻類懸濁液の流れの方向を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過材質で形成された透明水槽内に収容した光合成微生物懸濁液に太陽光を照射し、光合成微生物を増殖させる方法において、該透明水槽内下方に通排気機構を備える気体溜りを設置し、(A)該気体溜り内の気体を排気し光合成微生物懸濁液を該気体溜り内に満たし嫌気条件下ワムシ等光合成微生物捕食微小動物を死滅させる工程、及び(B)該気体溜り内に気体を通気し水位を上昇させ光合成微生物懸濁液に太陽光を照射する工程、よりなることを特徴とする光合成微生物の培養方法。
【請求項2】
(ア)収容した光合成微生物懸濁液に太陽光を照射し、光合成微生物を増殖させるための、光透過材質で形成された、透明水槽、(イ)該透明水槽内底部のやや上方に設置された、通排気機構を備える気体溜り、(ウ)気体溜り下端のやや上部と気体溜り上端の上方を連絡するほぼ鉛直に設けられた管、及び(エ)前記気体溜り内に気体を供給する気体圧入機を備えることを特徴とする光合成微生物の培養装置。
【請求項3】
前記気体溜りが光合成微生物懸濁液のほぼ全てを収容できる容量を有することを特徴とする請求項1又は2記載の光合成微生物の培養装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−80864(P2012−80864A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244626(P2010−244626)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(591110849)
【Fターム(参考)】