説明

光合成機能イメージングのための新規方法

【課題】 本発明においては、単一の植物体内における炭素の動態を経時的に追跡する方法を開発し、光合成における生理学的機能パラメータを明らかにすることを課題とする。
【解決手段】 本発明の発明者らは、11C標識化トレーサー動態に基づいて、試験をした葉の内部および外部の炭素化合物の交換を解析し、そして光合成プロセスにおける炭酸同化およびショ糖送り出し速度定数を、動態解析を用いて推定した。本発明の発明者らは、ポジトロン検出装置と炭素-11-標識化二酸化炭素(11CO2)とを使用することにより、植物の葉における光合成の間の炭素の移動を経時的に画像化することができ、そして11C動態により、その光合成プロセスにおける生理学的機能パラメータを推定することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の葉における光合成の間の炭素の移動をイメージングし、そしてその光合成プロセスにおける生理学的機能パラメータを推定するための、新規方法を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
近年PET(Positron Emission Tomography)に代表される生体内物質のイメージング技術が飛躍的に進歩を遂げている。植物研究においても様々なトレーサーが植物体内を移行し、分布していく様子が可視化されるようになった。確かに静止および動画像データは、植物が持つさまざま生理機能を定性的に映し出すが、植物研究者が真に必要とするデータは、可視化されたトレーサーの体内分布ではなく、生体の生理機能の分布である。高い定量性を持つトレーサーの体内分布画像データには、生体内の分子メカニズムに起因する生理的あるいは生化学的な機能を定量できる情報が内包されている。
【0003】
放射性核種に基づくイメージング技術は、植物中の水および栄養素の現在のイメージを知ることを可能にし、そして植物生理学を明らかにする能力を有する。特に、植物生理学および農業を研究するために設計されたポジトロンイメージング装置(PETIS)を使用することにより、栄養素の分布および移動をイメージングするための実験が、ポジトロン放出トレーサーを用いて可能となった。
【0004】
日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所イオン照射研究施設(Takasaki Ion Accelerators for Advanced Radiations Applications)(TIARA)の放射性同位体-生成研究施設により、AVFサイクロトロンから得られる加速ビームを使用して、放射性同位体を生成することができる(非特許文献1)。この施設は、照射装置、ターゲット集合体、そして標識化化合物合成機を含み、医学研究および植物生理学的研究において潜在的に有用な放射性同位体を研究および開発するために建設された(非特許文献2)。
【0005】
この施設を使用することにより、様々な植物実験用のキャリアを有する放射性同位体またはキャリアフリーの放射性同位体を生成する方法が開発された。そして、これまでに、植物研究のために使用するポジトロン放射核種が、日常的にそして安全に生成されている(非特許文献3〜7)。
【0006】
植物の分野における実験には、植物実験特有の多種多様な放射性同位体、そしてそれらの標識化化合物が必要とされる。その様な植物実験特有の放射性同位体そしてそれらの標識化化合物としては、主要な栄養素(CO2、NO3-、NH4+、N2)、水、アミノ酸(メチオニン、プロリン)、グルコース(FDG)、微量元素(Mn2+、Fe3+、Zn2+)および環境汚染物質(H2VO4-、Cd2+)が例として挙げられる。
【0007】
光合成は、一般的に、二酸化炭素と水から光エネルギーを用いてショ糖を合成するものであり、そして最も重要な生化学的経路の一つであり、そしてほぼすべての生物が、その生成物に依存している。上述した多数の放射性同位体の中でも、11Cの動態により、11Cが光合成における生理学的機能パラメータを推定するための潜在的な候補物質となる(非特許文献8)。
【0008】
しかしながら、従来の方法では、単一の植物体内における炭素の動態を経時的に追跡する方法は知られておらず、光合成における生理学的機能パラメータを明らかにすることができなかった。
【非特許文献1】K. Arakawa, et al., in Proc. 14th international conference on cyclotrons and their application, Cape Town, South Africa, 1995, pp. 57.60.
【非特許文献2】N. S. Ishioka, et al., J. Radioanal. Nucl. Chem., vol. 239, pp. 417.421, 1999.
【非特許文献3】N. Ohtake, et al., J. Exp. Bot., vol. 52, pp. 277.283, 2001.
【非特許文献4】S. Kiyomiya, et al., Plant Physiol., vol. 125, pp. 1743.1754, 2001.
【非特許文献5】N. Bughio, et al., Planta, vol. 213, pp. 708.715, 2001.
【非特許文献6】S. Kiyomiya, et al., Physiol. Plant., vol. 113, pp. 359.367, 2001.
【非特許文献7】T. Tsukamoto, et al., Soil Sci. Plant Nutr., vol. 50, pp. 1085.1088, 2004.
【非特許文献8】S. Matsuhashi, et al., Soil Sci. Plant Nutr., vol. 51, pp. 417.423, 2005.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明においては、単一の植物体内における炭素の動態を経時的に追跡する方法を開発し、光合成における生理学的機能パラメータを明らかにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者らは、11C標識化トレーサー動態に基づいて、試験をした葉の内部および外部の炭素化合物の交換を解析し、そして光合成プロセスにおける炭酸同化およびショ糖送り出し速度定数を、動態解析を用いて推定した。本発明の発明者らは、ポジトロン検出装置と炭素-11-標識化二酸化炭素(11CO2)とを使用することにより、植物の葉における光合成の間の炭素の移動を経時的に画像化することができ、そして11C動態により、その光合成プロセスにおける生理学的機能パラメータを推定することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
具体的には、本発明は、炭素-11(11C)の存在下にて単一の植物の葉をインキュベートし、ポジトロン検出装置を用いて、当該植物体内の11Cの動態を非侵襲的にリアルタイムに検出することを含む、植物体内における炭素の動態を調べる方法を提供する。
【0012】
本発明において、「炭素-11(11C)」は、半減期が約20分で、陽電子(ポジトロン、e+)を放出してβ+崩壊し、その崩壊に伴って511 keVのエネルギーを持った2本の消滅γ線を発生するという特徴を有する、炭素の放射性同位元素の一つである。11Cは、このように半減期が非常に短いことから、植物に投与してから数時間を経過すれば植物中の放射能は検出限界以下まで減衰するため、同一植物個体を用いて標識化合物の複数回投与を行うことができる。
【0013】
このような特徴を有する11Cを使用して、炭酸ガス、ブドウ糖、アミノ酸等のように動物や植物の生体内で重要な役割を果たしている物質を標識することができ、これらの標識物質の生体内動態を、例えばPET(陽電子放出断層撮影)での撮影、ポジトロンイメージング装置(PETIS)での撮影、イメージングプレートを使用するイメージアナライザでの測定、等により測定することによって、血流、薬物代謝、受容体動態など、生理学的生化学的機能を画像に描出することができる。
【0014】
11Cは、サイクロトロンを用いて、たとえば約10 MeVを有する窒素ガスを衝突させることにより、14N(p, α)11Cの反応から生成することができる。本発明において、日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所イオン照射研究施設(Takasaki Ion Accelerators for Advanced Radiations Applications)(TIARA)の放射性同位体-生成研究施設により、AVFサイクロトロンから得られる加速プロトンビームを使用して、放射性同位体11Cを生成することができる。
【0015】
本発明の一態様において、11C標識物質として、炭素-11-標識化二酸化炭素(11CO2)を使用することができる。この11CO2は、通常空気中の酸素と反応することにより作製され、液体窒素中でトラップに補修することができる。
【0016】
上述したように調製した11CO2を利用して、その存在下にて、単一の植物の葉をインキュベートして光合成を行わせることができる。この態様において、通常空気を継続的に流入させながら、一定期間11CO2を流入させることができるガス曝露チャンバーを用意し、このチャンバー中に試験を行う単一の植物の葉を収容する。ガス曝露チャンバー中には、当該植物の葉を植物体から切り離すことなく収容することができ、植物の葉はチャンバー内において通常の生理的反応のすべてを行うことができる。例えば、植物の葉にチャンバー内で光合成を行わせることにより、植物体内における炭酸同化の生理学的メカニズムを調べること、11Cの動態を検出することにより光合成時の炭酸同化速度を測定すること、および/または、11Cの動態を検出することにより植物の葉のショ糖送り出し能を測定すること、ができ、それにより植物体内における炭素の動態を調べることができる。
【0017】
本発明において、11Cの動態を、非侵襲的にリアルタイムに検出することを特徴とする。この際、11Cのβ+崩壊に伴って放出されるγ線を検出することにより、11Cの動態を検出することができる。
【0018】
本発明においては、非侵襲的にリアルタイムに検出することを、植物試料中のポジトロン放出核種のβ+崩壊に由来する一対の消滅γ線を、PET(陽電子放出断層撮影)または検出用素子を結合させた光電子増倍管に結合させたポジトロンイメージング装置(PETIS)を用いて計測することにより、またはイメージングプレート(IP)に蓄積した放射線エネルギーに関する情報の読み出しと画像解析を行うバイオイメージングアナライザ(例えば、BAS、富士写真フイルム)を用いて計測することにより、行うことができる。本発明においては、植物試料中のポジトロン放出核種のβ+崩壊に由来する一対の消滅γ線を、検出用素子を結合させた光電子増倍管を結合させたポジトロンイメージング装置(PETIS)を用いて検出することが好ましい。
【0019】
「非侵襲的」に検出という場合、植物の葉の生理学的機能に影響を与えることなく、検出することをいい、具体的には、試験される植物の葉は植物体から切り離されることなく、炭素元素が11Cである物質を供給されること以外は、通常の条件(水、栄養、空気)で葉をインキュベートしながら、γ線を検出することにより11Cの動態を検出することを意味する。
【0020】
また、「リアルタイム」に検出という場合、予め決められた測定時点でのγ線を検出することにより11Cの動態を状況を検出することを意味しており、「即時的」な検出などとも呼ばれることがある。
【0021】
本発明においては、検出したポジトロン放出核種のβ+崩壊に由来する一対の消滅γ線についての情報を、コンパートメントモデル法を用いて、1画素毎(すなわち、各検出用素子(各シンチレータ)毎)の動態解析を行うことができる。ここでコンパートメントモデル法は、図1において示すように、光合成システムを、3つのコンパートメントに単純化し、そして矢印により示される炭素化合物の流れの平衡化を仮定することにより、トレーサーバランスを、微分方程式:
【数1】

【0022】
〔式中、L(t)は、時間tでの放射能濃度の葉の反応時間-放射能曲線であり;Ci(t)は、周囲大気のトレーサー濃度の入力時間放射能曲線であり;λは、11Cの物理的崩壊定数(0.034 /min)であり;そして、K1およびk3はそれぞれ、L(t)およびCi(t)のデータを使用して推定された炭酸同化速度定数(/min)およびショ糖送り出し速度(/min)である〕として表し、各ピクセルに対する上記の式のK1およびk3推定パラメータを解析する方法である。
【0023】
本発明においては、このコンパートメントモデル法を1画素毎に適用し、1画素毎の11Cの動態解析を行うことにより、光合成機能を数値として表現することが可能になる。その結果、本発明においては、11Cの動態のリアルタイムな検出を、定量的に行うことができる。
【0024】
本発明においてはさらに、上述のコンパートメントモデル法を用いて得られた光合成機能に関するK1およびk3の定量的数値情報に基づいて、「光合成時の炭酸同化速度分布を示す機能画像」と「ショ糖の送り出し能の分布を示す機能画像」という二種類の光合成機能画像の撮像を同時に実現させることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の方法において、11CO2およびPETISを使用することにより、光合成を分析しそして1画素毎の11Cの動態解析を行ったところ、動態解析から得られる結果が、生理学的知見と一致していたため、本発明の方法は、非侵襲的にそして定量的に光合成機能の機能画像を生成することができた。このように、本発明の方法から得られた推定データは、合理的であるようであることから、本発明の方法は、植物生理学および農業的研究に関して光合成を検討するために重要なツールの一つとして使用することができる。さらに、本発明において提案された方法は、光合成機能の定量的な機能画像を、1画素毎の解析結果に基づいて生成し、その結果、植物の研究についての分子イメージングを行うことが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
ポジトロンイメージング装置(PETIS)
ポジトロンイメージング装置(PETIS)は、無処置植物における主要な栄養素、水、アミノ酸、グルコース、微量元素、および環境汚染物質の分布および移動をイメージングする植物研究のために設計された。このシステムは、3つの部分:植物研究用の放射性同位体生成;ポジトロン放射体標識化トレーサーについての二次元イメージング;および実験環境の統合型コントロール;から構成される。
【0027】
二次元型ポジトロンイメージング装置(H. Uchida, et al., Nucl. Instrum. Meth. A, vol. 516, pp. 564.574, Jan. 2004.)は、非侵襲的かつ定量的なトレーサー測定のために使用することができる。室内実験において使用される高等植物のほとんどは細くそして小型であるため、植物生理学的研究のためには、二次元イメージで十分である。そのため、このスキャナーの外観の一例は、図2に示される通りであり、そしてその仕様は、以下の通りである:2つの相対する検出ヘッドを保持する様に設計される。この検出器は、例えば、2.0mm×2.0mm×20mmのシンチレータ(検出用素子)を2.2mmのピッチで10×10個並べたシンチレータアレイのモジュールから構成され、位置検出型光電子増倍管と光学的に連結されている。これらのモジュールは、焦点面イメージを構築するために平面上に配置される。その結果、121 mm幅×187 mm長の視野を得ることができる。本発明においては、上述したシンチレータ(検出用素子)を結合させた光電子増倍管を用いて、試験される植物の葉における炭素の動態を、画像としてまたは映像として、連続的に取得することができる。たとえば、例えば連続的な画像として取得する場合、5〜360秒の間隔で撮像することができ、好ましくは10秒間隔で撮像することができる。
【0028】
その様な焦点面イメージングは、トモグラフィー再構成プロセスにおいてノイズ増幅を起こさない。したがって、データ収集のための時間が短期間であっても、あるいは低レベル放射性イメージングであっても、良好なS/N比を有する二次元イメージが得られる。言い換えれば、このスキャナーは、高い感度を有する。さらに、再構成プロセスを行わないため、トレーサー動力学を、リアルタイムでモニタリングすることができる。空間解像度のFWHM値は、1.6〜2.1 mmである。
【0029】
上述のようにして作成されたPETISは、使用の際に操作が簡便であると言う特徴もまた有する。そして、PETまたはSPECTのものとは異なり、検出器ヘッドがコンパクトであるという重要な特徴を有しており、この特徴のおかげで、検出器ヘッドを、試験する植物用の環境、すなわち、温度、光条件、湿度、そして大気、を調節する植物栽培チャンバーの内部に設置することができる。
【0030】
解析モデル
図1は、コンパートメントモデルの概略図を示す。光合成システムは、3つのコンパートメントに単純化され、そして矢印は炭素化合物の流れを示す(N. Kawachi, et al., IEEE Trans. Nucl. Sci., vol. 53, no. 5, pp. 2991-2997, Oct. 2006.)。この炭素の流れの平衡化を仮定することにより、トレーサーバランスを、微分方程式として表すことができる。葉-反応活性を解析したところ、
【数2】

【0031】
が得られる。この式中で、L(t)は、時間tでの放射能濃度の葉の反応時間-放射能曲線であり;Ci(t)は、周囲大気のトレーサー濃度の入力時間放射能曲線であり;そしてλは、11Cの物理的崩壊定数(0.034 /min)である。PETISイメージ上において解析したい葉の一部分をROI(Region of interest;関心領域)として円で囲み、そのROI内部のL(t)とC(t)の放射能度時間曲線を抽出(グラフ化)してその数値データを得る、ROI解析(TAC(Time-Activity Curve;時間-放射能曲線)解析ともいう)により得た。このようにして得たL(t)およびC(t)のデータを数(1)へ適合させて、炭酸同化速度定数、K1(/min)およびショ糖送り出し速度、k3(/min)を、推定した。
【0032】
光合成機能の機能画像を作成するため、このコンパートメントモデルを用いて、1画素毎の解析をPETISイメージに対して行った。炭酸同化イメージおよびショ糖送り出しイメージを、各ピクセルに対するK1およびk3推定パラメータを用いて構築した。およそ10000対の時間-放射能曲線を、非線形最小二乗法を用いてフィッティングした。
【0033】
これらのK1およびk3推定光合成パラメータは、葉の構造的成熟度、炭素バランス、“シンク-ソース(sink-source)”遷移のメカニズム、葉の篩部への「積み込み」や「積み下ろし」などを検討するために重要なパラメータである。数学的モデルは、コンパートメントモデルに基づくものであり、そして光合成の機能画像は、1画素毎の動態解析に基づくものである。本実験方法の利点を示すため、光合成イメージングの非侵襲的測定を、0(μmol光子/m2/s)と70(μmol光子/m2/s)環境下で、タバコ葉を使用して行った。
【実施例】
【0034】
実施例1:ポジトロンイメージング装置(PETIS)を使用した光合成機能画像の作成
本実施例においては、炭素源として11CO2を使用して、ポジトロンイメージング装置(PETIS)を使用した光合成機能画像を得ることを目的として行った。
【0035】
本実施例においては、植物構造が単純であり、そしてゲノム情報が入手可能な分子生物学のためのモデル植物としての典型的な、Nicotiana spp., L.(タバコ)(播種後3週間)を使用した。
【0036】
PETISの光合成イメージング実験用の設定を、図2に示す。試験をするタバコ葉を、ガス曝露セルでカバーし、そしてLED光を2つの相対する検出器ヘッドの間に位置あわせをした。この実験においては、放射熱を避け、そして均一な光強度をもたらすため、我々は、LEDを光源として使用した。このチャンバーは、25℃の温度、および60〜70%の湿度レベルに維持された。
【0037】
ポジトロン放射性11C-放射性同位体は、約10 MeVを有する窒素ガスを衝突させることにより、14N(p, α)11Cの反応から生成させた。結果的に、11CO2ガスを合成した;その放射能強度は、PETISがイメージを収集し始めたときに10 MBqであった。11CO2曝露を、ガス循環システムにより調節した。初めに、非放射性CO2ガスを含む室内大気を、曝露用セル中に供給した。PETISがイメージを収集し始めたのち、11CO2ガスを供給した。光強度を、環境中において、0μmol光子/m2/sにまで減少させ、その30分後に、10 MBqの11CO2を葉へ曝露すると同時に、入力イメージ用に90分間のPETIS動画像を収集した。次に、11CO2を用いた2回目のスキャンを、光条件を70μmol光子/m2/sに変更することにより得た。これらのスキャンは、バックグラウンドレベルに対する11C放射能の物理的崩壊を考慮するため、120分間を超える間隔でおこなった。
【0038】
図3は、70μmol光子/m2/s光条件のもと、10 MBqの曝露後に得られた連続的PETISイメージを示す。これらのイメージは、10秒間の6フレーム、2分間の6フレーム、そして10分間の6フレームを並べたものであり、そしてイメージは、11Cの放射能崩壊について既に補正したものである。11CO2ガスが曝露セル中に充填され、そして葉の細胞間隙中の気孔孔辺細胞を介して取り込まれたことが示された。11CO2同化の後、炭素-11-標識化ショ糖が、葉緑体中で生成され、そして葉脈を介して葉柄および茎へと輸送された。収集時間を長くした場合、葉の領域における11C放射能は低下し、対照的に、茎および植物体における11C放射能は増加したことが示された。
【0039】
本実験における光合成パラメータは、この動態解析によって、K1 = 21.7(%CO2 /mm2/min)およびk3 = 0.797(%炭素/mm2/min)であることが分かった。2つのパラメータは、葉の中心部に位置するROI(円形、約3000 mm2)から生成されたL(t)およびCi(t)を適合させることにより、推定された。葉の反応時間放射能曲線および式(1)を用いた非線形最小二乗法により得られた理論予測曲線は、十分に一致していた。このことは、この動態解析モデルが、簡便なモデルを使用するにも関わらず、光合成の間の炭素動態を適切に表現していることを示している。
【0040】
炭酸同化およびショ糖送り出しという光合成機能の機能画像が、図4において示される。K1イメージは、炭酸同化が葉全体にわたり均一的に分布することを示した。対照的に、k3イメージは、ショ糖送り出し速度定数が、均一的には分布していないことを示した。葉の先端部分では、葉の基部と比較して、より高いショ糖送り出し能力を有する。このことは、葉の基部が生長部であるという一般的事実に起因しているようである。葉の基部で生成されたショ糖は、おそらくは、生長のためにまさにその場で消費され、そして葉の先端部で生成されたショ糖は、主として植物体のその他の部分へと輸送された、ということを意味している。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の方法において、11CO2およびPETISを使用することにより、光合成を分析しそして1画素毎の11Cの動態解析を行ったところ、動態解析から得られる結果が、生理学的知見と一致していたため、本発明の方法は、非侵襲的にそして定量的に光合成機能の機能画像を生成することができた。このように、本発明の方法から得られた推定データは、合理的であるようであることから、本発明の方法は、植物生理学および農業的研究に関して光合成を検討するために重要なツールの一つとして使用することができる。さらに、本発明において提案された方法は、光合成機能の定量的な機能画像を、1画素毎の解析結果に基づいて生成し、その結果、植物の研究についての分子イメージングを行うことが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、光合成解析用のコンパートメントモデルの概略図を示す。光合成システムは、3つのコンパートメントに単純化され、そして矢印は炭素化合物の流れを示す。
【図2】図2は、PETIS実験用の設定を示す。試験をする葉を、ガス曝露セルでカバーし、そしてLED光源を2つの相対する検出ヘッドの間に位置あわせされる
【図3】図3は、10 MBqの11CO2曝露後の70μmol光子/m2/sの下でのPETIS連続画像を示す。画像は、左から右、そして上から下に、連続的に配置した。すべての画像は、11C放射能崩壊について補正した。
【図4】図4は、光合成機能の機能画像を示す。左の画像は、炭酸同化活性の能力分布を示し、右の画像は、葉のショ糖送り出し領域を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素-11(11C)の存在下にて単一の植物の葉をインキュベートし、ポジトロン検出装置を用いて、当該植物体内の11Cの動態を非侵襲的にリアルタイムに検出することを含む、植物体内における炭素の動態を調べる方法。
【請求項2】
ポジトロン検出装置が、ポジトロンイメージング装置(PETIS)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
11Cとして炭素-11-標識化二酸化炭素(11CO2)の存在下にて、単一の植物の葉をインキュベートして光合成を行わせ、植物の葉による炭酸同化を同化された11Cの動態を非侵襲的にリアルタイムに検出して、植物体内における炭酸同化を調べることを含む、請求項1または2に記載の植物体内における炭素の動態を調べる方法。
【請求項4】
11Cの動態を検出することにより、光合成時の炭酸同化速度を測定する、請求項3に記載の植物体内における炭素の動態を調べる方法。
【請求項5】
11Cの動態を検出することにより、植物の葉のショ糖送り出し能を測定する、請求項3または4に記載の植物体内における炭素の動態を調べる方法。
【請求項6】
11Cの動態のリアルタイムな検出が、定量的な検出である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の植物体内における炭素の動態を調べる方法。
【請求項7】
1画素毎の動態解析を行うことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の植物体内における炭素の動態を調べる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−304428(P2008−304428A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−154225(P2007−154225)
【出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】