説明

光合成物品および光合成塗工液

【課題】大きな負担を必要とせずに二酸化炭素の量を低減させることができる物品を提供する。
【解決手段】光合成物品10は、ベース材12と、ベース材12上に形成された塗工膜14と、を有している。塗工膜内には、気生藻類や地衣類に属する生物20が保持されている。この光合成物品10は例えば生活消費材に適用され、この場合、一般市民の生活において二酸化炭素の量を低減することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光合成によって二酸化炭素を吸収することができる物品および塗工液に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、地球温暖化は周知の問題となっている。地球温暖化は、異常気象による気象災害や、海水面の上昇等といった極めて深刻な事態を引き起こすと想定されている。このため、政府レベルにおいて、地球温暖化の主原因となる温室効果ガス、とりわけ二酸化炭素の排出量を低下させる取り組みが行われている。このような取り組みの例として、1997年の地球温暖化防止会議で決議された京都議定書に基づく取り組みや、2008年の洞爺湖G8サミット(主要国首脳会議)での温室効果ガス削減の合意が、挙げられる。
【0003】
また、今般においては、政府だけでなく、民間企業、さらには一般市民にまで、温暖化防止の意識が浸透しつつある。一例として、民間企業が、環境に配慮した商品(環境配慮型商品やエコプロダクト等とも呼ばれる)を提案し、一般市民が、この環境配慮型商品を好んで求めようとする傾向が生じつつある。この傾向は、企業の経済活動および一般市民の消費生活が環境維持という課題に共同して貢献することを可能にしており、非常に理想的であると言える。
【0004】
環境に配慮した商品として、特許文献1や特許文献2に開示された商品が例示される。特許文献1および特許文献2に開示された商品によれば、緑化によって、すなわち植物の光合成により、二酸化炭素を吸収することができる。具体的には、特許文献1は、緑化のための施工用パネルを開示している。一方、特許文献2は、携帯可能な観葉植物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】公開特許公報:特開2002−364130号
【特許文献2】登録実用新案公報:第3120389号
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示された環境配慮型商品においては、水分や栄養分を植物に頻繁に与えなければ、二酸化炭素を吸収し続けることができない。したがって、これらの商品は、植物の育成を負担に考える人々には普及しない。
【0007】
また、特許文献1および特許文献2に開示された商品は、それ自体がその需要を大きく喚起するといった商品ではないし、一般市民の生活に必ずしも必要な商品でもない。したがって、特許文献1および特許文献2に開示された発明では、環境配慮型商品を一般市民が繰り返し購入する又は継続的に使用することによって、二酸化炭素の量を効果的に低減させていくことを期待することはできない。
【0008】
本発明はこのような点を考慮してなされたものであり、大きな負担を必要とせずに二酸化炭素の量を効果的に低減することができる物品を提供することを目的とする。また、本発明は、大きな負担を必要とせずに二酸化炭素の量を効果的に低減させることができる塗工液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による第1の光合成物品は、ベース材と、前記ベース材上に形成された塗工膜と、気生藻類または地衣類に属する生物であって、前記塗工膜内に保持された生物と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明による第1の光合成物品において、前記塗工膜は、前記生物を含んだ塗工液を前記ベース材に塗工することによって、形成されていてもよい。
【0011】
また、本発明による第1の光合成物品において、前記塗工膜は多孔質の膜であってもよい。
【0012】
さらに、本発明による第1の光合成物品において、前記塗工膜は、前記生物を担持した多孔質片を含んだ塗工液を前記ベース材に塗工することによって、形成され、前記塗工膜内において、前記生物は前記多孔質片に担持されていてもよい。
【0013】
さらに、本発明による第1の光合成物品において、前記塗工膜は通気性を有するようにしてもよい。
【0014】
さらに、本発明による第1の光合成物品において、前記ベース材は多孔質体であるようにしてもよい。
【0015】
さらに、本発明による第1の光合成物品において、前記ベース材は紙、樹脂、金属、コンクリート、木材、セラミックス、または、不織布からなっていてもよい。
【0016】
さらに、本発明による第1の光合成物品が、前記塗工膜と重ねて配置された保護層をさらに備え、前記塗工膜は、前記ベース材と前記保護層との間に配置されているようにしてもよい。このような本発明による第1の光合成物品が、前記塗工膜および前記保護層の間に配置され、前記塗工膜および前記保護層を互いに接合する接合層をさらに備えるようにしてもよい。
【0017】
本発明による第2の光合成物品は、多孔質体からなるベース材と、気生藻類または地衣類に属する生物であって、前記ベース材に保持された生物と、を備えることを特徴とする。
【0018】
本発明による第2の光合成物品が、前記ベース材と重ねて配置された保護層をさらに備えるようにしてもよい。このような本発明による第2の光合成物品が、前記ベース材および前記保護層の間に配置され、前記ベース材および前記保護層を互いに接合する接合層をさらに備えるようにしてもよい。
【0019】
本発明による第1または第2の光合成物品において、前記保護層は通気性を有するようにしてもよい。また、本発明による第1または第2の光合成物品において、前記保護層および前記接合層は通気性を有するようにしてもよい。
【0020】
また、本発明による第1または第2の光合成物品において、前記保護層は多孔質の層であるようにしてもよい。
【0021】
さらに、本発明による第1または第2の光合成物品において、前記ベース材は通気性を有するようにしてもよい。
【0022】
本発明による光合成塗工液は、溶媒と、気生藻類または地衣類に属する生物であって、前記溶媒中の分散された生物と、を備えることを特徴とする。
【0023】
また、本発明による光合成塗工液は、前記溶媒中に分散された多孔質片をさらに備え、前記生物は、前記多孔質片に担持されているようにしてもよい。
【0024】
さらに、本発明による光合成塗工液は、多孔質体を形成するようになる材料を、さらに備えるようにしてもよい。
【0025】
本発明による第3の光合成物品は、ケースと、前記ケース内に設けられた保水剤と、前記保水剤に保持されたCAM植物と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明による光合成物品および光合成塗工液は、例えば生活消費材や建材等の生活に密着した商品に適用し得る。この光合成物品および光合成塗工液が適用された商品によれば、生物の光合成による二酸化炭素の吸収を期待することができる。したがって、光合成物品および光合成塗工液が適用された商品を使用することにより、二酸化炭素量の低減に貢献することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明による光合成物品の第1の実施の形態を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明による光合成物品の第2の実施の形態を示す斜視図である。
【図3】図3は、図2のIII−III線に沿った断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の第1の実施の形態および第2の実施の形態について説明する。
【0029】
〔第1の実施の形態〕
第1の実施の形態においては、本発明による光合成物品を、シート状の物品に適用した例について説明する。
【0030】
図1は、シート状物品として形成された第1の実施の形態による光合成物品10の断面図である。図1に示すように、光合成物品10は、ベース材12と、ベース材12上に形成された塗工膜14と、塗工膜14上に設けられた保護層18と、を有している。このうち、ベース材12は通気性を有した紙や樹脂フィルムから構成され得る。
【0031】
塗工膜14は、母材14aと、母材14a中に分散された生物20と、を含んでいる。すなわち、生物20は、母材14aを介してベース材12に保持されている。母材14aは、後述するように、溶媒を乾燥してなる物質である。一方、本実施の形態において、この生物20は、気生藻類の属する生物および地衣類に属する生物の少なくともいずれか一方を含んでいる。
【0032】
ここで気生藻類とは、藻類のうち、陸上の岩や樹皮表面などの水中以外で生育する生物の総称である。この気生藻類は、直接的に水分が供給されなくても、大気中に存在する湿気(水分)が結露した水分等によって、或る程度の長期間(例えば、1年)にわたって、生息することができる。また、このような気生藻類には、防カビ効果および防腐効果を期待することもできる。具体的な例としては、藍藻、クロレラ、アパトコックス、スミレモ等が挙げられる。
【0033】
一方、地衣類とは、光合成をしない菌類と、光合成をする下等植物と、が細胞外で共生してなる共生生物である。菌類としては、例えば、子嚢菌(カビ)が挙げられる。光合成をする下等植物としては、例えば、シアノバクテリアや藻類(とりわけ気生藻類)等が挙げられる。地衣類に属する共生体では、藻類等の下等植物は、菌類の菌糸上に生息することによって、乾燥からさらに守られやすくなる。一方、菌類は、藻類が光合成することによって生成した糖類に依存して生存している。このような地衣類は、通常、樹木、岩、壁等の表面等の、養分や水分が直接的に得られない過酷な環境下に生息している。地衣類は、直接的に水分が供給されなくても、大気中に存在する湿気(水分)が結露した水分等によって、或る程度の長期間(例えば、1年)にわたって、生息することができる。また、気生藻類と同様に、このような地衣類には、防カビ効果および防腐効果を期待することもできる。
【0034】
このような生物20を含む塗工膜14は、一方の側から通気性を有したベース材12によって保護されている。同時に、この塗工膜14は、他方の側から保護膜18によって保護されている。このベース材12および保護膜18によって、光合成物品10からの生物20の脱落や、外部との接触等に起因した生物20の損傷を防止することができる。
【0035】
ここで、保護膜18は、例えば、透光性を有した樹脂フィルムによって形成され得る。保護膜18が透光性を有することにより、生物20は、少なくとも保護膜18を介して光を吸収して光合成を行うことができる。また、上述したように、ベース材12が通気性を有することから、生物20は、光合成の際に、二酸化炭素を吸収することができるとともに酸素を排出することもできる。
【0036】
なお、図1に示すように、本実施の形態において、保護膜18は、接合層16を介して、塗工膜14に積層されている。この接合層16は、でんぷん糊等、生物20の生育に悪影響を与え難い接着剤から好適に形成され得る。接合層16が多糖類からなる接着剤によって形成されている場合、生物20は、接合層16から栄養分を吸収することができる。
【0037】
次に、以上のような光合成物品10を製造する方法の一例について説明する。以下の例においては、生物20を含んだ光合成塗工液を用い、光合成物品10を作製する。
【0038】
まず、ベース材12の表面に、例えばグラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷等の公知の印刷手段を用い、光合成塗工液を塗工する。ここで、光合成塗工液は、溶媒と、溶媒中に分散された生物20と、を含んだインクや塗料等である。溶媒は、生物20に好適な生存環境をもたらすため、水性溶媒であることが好ましい。ただし、生物20が生存可能であれば、有機物を含む混合溶媒や有機触媒を用いてもよい。また、光合成塗工液は、必要に応じて、その他の添加物、例えば、界面活性剤、消泡剤、バインダーを含んでいてもよい。
【0039】
さらには、光合成塗工液が、多孔質体を形成し得る材料、例えば多孔質体を形成し得る粒子や樹脂等を含んでいてもよい。また、光合成塗工液が、多孔質体の小片(多孔質片)を含んでいてもよい。これらの場合、光合成塗工液を塗工してなる塗工膜14は、生物20を担持する多孔質体の膜となる。多孔質体を形成するようになる塗工膜14に吸湿性を持たせれば、塗工膜14が、生物20の生育や光合成に必要となる水分を大気中から吸収することができるようになる。さらには、多孔質体からなる塗工膜14に、生物20の生育や光合成に寄与し得る水分や栄養分を積極的に保持させておくこともできる。なお、多孔質体の吸湿性に起因したこれらの効果を期待する観点からは、生物20が予め固定された多孔質片を塗工液内に分散させておくことが好ましい。
【0040】
なお、光合成塗工液は、顔料または染料によって着色されていてもよいし、あるいは、着色されていなくてもよい。生物20自体で目的とする色が得られる場合は、顔料や染料で着色せずにそのまま使用可能である。また、光合成塗工液は、ベース材12の表面の一部分のみに塗工されてもよいし、あるいは、ベース材12の表面の全領域に塗工されていてもよい。光合成塗工液が着色されていれば、所定のパターンでベース材12の表面に光合成塗工液を塗工することによって、光合成物品の意匠性を向上させることができる。その一方で、光合成塗工液がベース材12の表面の全領域に塗工されていれば、光合成物品10がより多くの生物20を保持することになり、光合成物品10が、後述する二酸化炭素の吸収機能をより効果的に発揮することができるようになる。
【0041】
次に、ベース材12の表面に塗工された光合成塗工液を乾燥させる。この乾燥は、自然乾燥で行われ得る。また、この乾燥は、光合成塗工液中の生物20が死滅することのない条件、例えば10℃〜100℃程度の温風を10秒〜600秒間にわたって光合成塗工液に吹き付けることによっても、行われ得る。光合成塗工液の溶媒は、乾燥硬化して、上述した塗工膜14の母材(溶媒乾燥物)14aを形成するようになる。このようにして、母材14aと母材14a中に分散された生物20とからなる塗工膜14が、ベース材12の表面に形成されるようになる。
【0042】
その後、でんぷん糊を介して保護フィルムを塗工膜14上に積層(例えば、ロールコート)することにより、上述した接合層16および保護膜18が、母材14a上に形成される。このようにして、シート状の光合成物品10が得られる。これらの接合工程は、同時でも良い。
【0043】
次に、以上のような構成からなる光合成物品10の作用について説明する。上述したように、光合成物品10のベース材12上には、生物20が担持されている。ベース材12は、通気性を有する紙や樹脂等からなっている。したがって、生物20は、ベース材12を介し、空気中の二酸化炭素と、結露水や塗布された水分と、を取り込むことができる。また、保護層18が透光性を有しているため、生物20は、十分な量の照明等の環境光や太陽光を浴びることができる。この結果、光合成物品10に含まれる生物20は、光合成を行い、周囲から取り込んだ二酸化炭素と水分を酸素および栄養分に変換する。このようにして、シート状からなる光合成物品10は、二酸化炭素を吸収可能な素材として機能することができる。
【0044】
なお、光合成物品10に含まれた生物20は、気生藻類の属する藻類または地衣類に属する生物である。したがって、生物20は、週に1回程度の霧吹き等による水分供給で生存することができる。このため、大きな負担を強いられることなく、光合成物品20の二酸化炭素吸収作用を長期間にわたって確保することができる。
【0045】
また、生物20は、或る程度の期間であれば、積極的に水分を与えられなくとも生存することができる。このため、光合成物品10が適用された商品のライフサイクルによっては、使用者が、全く負担を強いられることなく一つの光合成物品10を使用し続けることができる。その後、使用者は、次の光合成物品10を購入して使用することによって、絶えず、二酸化炭素の吸収に寄与することになる。また、企業は、単に光合成物品10を生産するのではなく、使用済みの光合成物品10を回収し、使用済みの光合成物品10に含まれていた生物20を、新たな光合成物品において、再利用するようにしてもよい。
【0046】
さらに、本実施の形態において、生物20を含む塗工膜14は、ベース材12および保護膜18によって、両側から覆われている。したがって、生物20は、ベース材12および保護膜18によって保護され得る。これにより、生物20が光合成物品10から脱落してしまうことや、生物20が外部との接触により損傷を受けてしまうことを防止することができる。
【0047】
さらに、本実施の形態において、生物20を含む塗工膜14は、例えばでんぷん糊からなる接合層16を介し、保護膜18をなす保護フィルム18と接合されている。このでんぷん糊が栄養供給源となり、生物20に生存しやすい環境を提供することができる。
【0048】
ところで、光合成物品10は、シート状に形成されており、種々の商品や、種々の商品の包装材料として用いることができる。したがって、このような光合成物品10を、一般市民から絶えず需要がある商品の包装材料、一具体例として生活必需用品の詰め替え容器等に、適用することができる。この場合、一般市民は、この環境配慮型商品(エコ・プロダクト)を購入しさえすれば、その他の大きな負担を強いられることなく、二酸化炭素の削減活動に参加することができる。今般、地球の将来に漠然と不安を感じ、何らかの形で環境保全に貢献したいと願っている人々が多数存在する。この人々は、光合成物品10が適用された商品自体の商品力だけでなく光合成物品10の二酸化炭素吸収機能に大きな魅力を感じ、結果として、この光合成物品10が適用された環境配慮型商品(エコ・プロダクト)が広く普及していくことを期待することができる。このような環境配慮型商品(エコ・プロダクト)の普及は、企業の経済活動(供給)および一般市民の消費生活(需要)を土台として成立しており、理想的な循環サイクルに基づいた永久的な環境保全活動の創出を意味する。とりわけ、一般市民を巻き込む活動となることから、莫大な量での二酸化炭素の削減を期待することができる。加えて、一般市民に対して環境保全の重要性をさらに強く認識させることができ、これにより、全員参加型の環境保全活動が効果的に推進されていくことを期待することもできる。
【0049】
以上のような第1の実施の形態によれば、一般市民に広く使用される用品に適用され得る光合成物品10によって、大きな負担を必要とせずに二酸化炭素の量を低減させることができる。
【0050】
なお、上述した第1の実施の形態に対して様々な変更を加えることが可能である。以下、変形の一例について説明する。
【0051】
まず、上述した第1の実施の形態において、シート状の光合成物品10が包装用材料に適用される例を説明したが、これに限られない。包装用材料に限られず種々の物品、例えば、カード、ポスター、カレンダー等の生活消費材(生活必需品等、人間の生活において消費されていく物品)や、建材(例えば壁紙)等に、光合成物品10を適用することができる。
【0052】
また、上述した実施の形態において、光合成物品10がシート状に形成される例を示したが、これに限られず、種々の形状を有するようにしてもよい。例えば、特定の立体形状を有した生活用品の本体に生物を担持させ、これにより、特定の立体形状を有した生活用品自体が光合成物品20をなすようにしてもよい。この場合、生活用品の本体が、特定の立体形状を有したベース材をなすようになる。
【0053】
さらに、上述した実施の形態において、光合成塗工液を、インクとして、シート状のベース材12に塗工することによって光合成物品を作製する例を示したが、これに限られない。例えば、光合成塗工液を、インクまたは塗料として、特定の形状を有した生活消費材(家具、ブラインド、造花、照明、家電製品)の本体に、あるいは、屋内外の建造物、屋外用木材、擬木、看板、コンクリート等に直接塗工して、生活用品からなる光合成物品を形成するようにしてもよい。
【0054】
また、生物20を紙に漉くことによって、紙からなるベース材と、ベース材内に漉き込まれて保持された生物20と、からなる光合成物品を形成するようにしてもよい。
【0055】
さらに、多孔質体からなるベース材に対して、生物20を含んだ液体(光合成塗工液の一態様)を含浸させ、多孔質体からなるベース材に対して生物20が保持されるようにしてもよい。多孔質体からなるベース材は、一例として、二酸化ケイ素、酸化チタン、セラミックス、シリカ、アルミナ、ゼオライト、活性炭、メンブランフィルム(例えば、MF膜、UF膜、RO膜)等から構成され得る。
【0056】
〔第2の実施の形態〕
次に、図2および図3を参照して、本発明による第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態においては、本発明による光合成物品をカードに適用した例について、説明する。なお、図2は、カードとした形成された第2の実施の形態による光合成物品20の斜視図である。図3は、図2のIII−III線に沿った断面図である。
【0057】
図2に示すように、光合成物品30は、ケース32と、ケース32内に設けられた保水剤34と、保水剤34に保持されたCAM植物40と、を有している。ケース32は、凹部として形成された収容部32aを有している。また、光合成物品30は、収容部32aを通気可能に覆う透光性を有した蓋材36をさらに有している。この蓋材36は、ケース32に対して取り外し可能に固定されている。ケース32および蓋材36は、例えば、樹脂によって形成され得る。図3に示すように、ケース32にはICチップ等を含む回路38が内蔵されている。このICチップ等を含む回路38により、カード状の光合成物品30は、外部装置(リーダ・ライタ)と接触または非接触にて通信可能な情報記録媒体(例えば、定期や社員証)として機能し得るようになっている。
【0058】
保水剤34は、収容部32aの底に配置されている。この保水剤34は、例えば高分子吸水ゲル、綿やスポンジ等からなり、一定期間にわたって水分を保持することができるように構成されている。
【0059】
この保水剤34上には、CAM植物40が設けられている。CAM植物40は、砂漠等の乾燥地域によく見られ、少ない水分を有効に利用して特殊な方法で光合成を行う植物である。具体的には、CAM植物40は、気温が低下して水分を失うことの少ない夜間に気孔を開き、二酸化炭素を吸収して内部に貯蔵する。その一方で、CAM植物40は、気温が上昇する昼間に気孔を開くことなく、光合成する。また、CAM植物は、比較的に生育の速い植物としても知られている。このようなCAM植物として、サボテンやラン等の多肉植物が挙げられる。図2および図3に示す例においては、ランのカルスが、CAM植物40として、ケース32内に収容され、さらに、このカルス40から芽が出た状態が示されている。
【0060】
次に、以上のような構成からなる光合成物品30の作用について説明する。上述したように、光合成物品30の保水剤34上には、CAM植物40が担持されている。保水剤34およびCAM植物40は、ケース32の収容部32a内に配置され、収容部32aは透光性の蓋材36によって通気可能に閉じられている。このため、CAM植物40は、ケース32内で光合成を行いながら生育することができる。この結果、光合成物品30は、二酸化炭素を吸収可能なカードとして機能することができる。
【0061】
また、蓋材36を取り外して保水剤34に水分を供給することもできる。さらに、保水剤34に栄養分を吸収させるようにすることもできる。したがって、このカード30が情報記録媒体として使用される長い期間にわたって、CAM植物40を生息させ二酸化炭素を吸収させることができる。
【0062】
さらに、CAM植物40の成長は比較的に速い。したがって、光合成物品30の使用者は、CAM植物40を育てる楽しみを光合成物品30から得ることができるとともに、CAM植物40の成長から、やすらぎやゆとり等を与えられ得る。
【0063】
また、第2の実施の形態による光合成物品30も、第1の実施の形態のよる光合成物品10と同様に、環境保全活動に参加したいと願う一般市民の関心を呼ぶことによって、理想的な環境保全活動の創出を期待することができる。また、一般市民を巻き込む活動となることから、莫大な量での二酸化炭素の削減を期待することができる。加えて、一般市民に対して環境保全の重要性をさらに浸透させることができ、これにより、環境保全活動が今以上に盛り上がっていくことを期待することもできる。
【0064】
以上のような第2の実施の形態によれば、一般市民に広く使用される用品に適用され得る光合成物品30によって、大きな負担を必要とせずに二酸化炭素の排出量を低減させることができる。
【0065】
なお、上述した第2の実施の形態に対して様々な変更を加えることが可能である。以下、変形の一例について説明する。
【0066】
上述した第2の実施の形態において、カード状の光合成物品30が情報記録媒体に適用される例を示したが、これに限られず、例えば、ポスター、カレンダー、建材(例えば壁紙)等に、光合成物品30を適用することができる。
【0067】
また、上述した実施の形態において、光合成物品30がカード状に形成される例を示したが、これに限られず、種々の形状を有するようにしてもよい。例えば、特定の立体形状を有した生活消費材(芳香剤、ティッシュケース、雑誌の付録)の本体が、保水剤34と、保水剤34に保持されたCAM植物40と、を収容するケースとして機能するようにしてもよい。
【実施例】
【0068】
第1の実施の形態において説明した光合成塗工液を、以下のようにして作製した。その後、作製された光合成塗工液を用いて、シート状の光合成物品を作製した。
【0069】
最初に、気生藻類に属するスミレモを、光合成物品に保持される生物として、以下のようにして用意した。まず、墓石に付着していたスミレモを採取した。採取したスミレモを、培養液約15Lに接種して、25℃で3日間、Jar Fermentor内で培養した。次に、連続遠心分離機により、スミレモを洗浄し回収を行った。
【0070】
回収されたスミレモからすぐに光合成塗工液を作製せず、いったん、スミレモを凍結乾燥させて保存した。なお、スミレモを凍結乾燥させる際に、蛋白保護剤をスミレモと混合した。凍結乾燥されたスミレモを、10℃で10日間保存した。
【0071】
その後、凍結乾燥させたスミレモをシリカに固定した。次に、シリコーン系消泡材、アクリル系エマルジョン、および、スミレモを予め固定したシリカを、水に混合して、光合成塗工液を調整した。また、光合成塗工液には、界面活性剤等の添加剤を適宜加えた。
【0072】
得られた光合成塗工液を、フレキソ印刷によって、紙に印刷した。紙は、包装用材料として通常用いられているもとした。印刷後、紙に塗工された光合成塗工液を乾燥させた。光合成塗工液の乾燥は、塗工液を塗工された紙を、65℃の乾燥ゾーンを通過させて行った。
【符号の説明】
【0073】
10 光合成物品
12 ベース材
14 塗工液
14a 母材
16 接合層
18 保護膜
20 生物
30 光合成物品
32 ケース
32a 収容部
34 保水剤
36 蓋材
40 生物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース材と、
前記ベース材上に形成された塗工膜と、
気生藻類または地衣類に属する生物であって、前記塗工膜内に保持された生物と、を備える
ことを特徴とする光合成物品。
【請求項2】
前記塗工膜は、前記生物を含んだ塗工液を前記ベース材に塗工することによって、形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の光合成物品。
【請求項3】
前記塗工膜は多孔質の膜である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の光合成物品。
【請求項4】
前記塗工膜は、前記生物を担持した多孔質片を含んだ塗工液を前記ベース材に塗工することによって、形成され、
前記塗工膜内において、前記生物は前記多孔質片に担持されている
ことを特徴とする請求項1に記載の光合成物品。
【請求項5】
前記塗工膜は通気性を有する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の光合成物品。
【請求項6】
前記ベース材は多孔質体である
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の光合成物品。
【請求項7】
前記ベース材は紙、樹脂、金属、コンクリート、木材、セラミックス、または、不織布からなる
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の光合成物品。
【請求項8】
前記塗工膜と重ねて配置された保護層をさらに備え、
前記塗工膜は、前記ベース材と前記保護層との間に配置されている
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の光合成物品。
【請求項9】
前記塗工膜および前記保護層の間に配置され、前記塗工膜および前記保護層を互いに接合する接合層をさらに備える
ことを特徴とする請求項8に記載の光合成物品。
【請求項10】
多孔質体からなるベース材と、
気生藻類または地衣類に属する生物であって、前記ベース材に保持された生物と、を備える
ことを特徴とする光合成物品。
【請求項11】
前記ベース材と重ねて配置された保護層をさらに備える
ことを特徴とする請求項9に記載の光合成物品。
【請求項12】
前記ベース材および前記保護層の間に配置され、前記ベース材および前記保護層を互いに接合する接合層をさらに有する
ことを特徴とする請求項11に記載の光合成物品。
【請求項13】
前記保護層は通気性を有する
ことを特徴とする請求項8,9,11または12に記載の光合成物品。
【請求項14】
前記保護層および前記接合層は通気性を有する
ことを特徴とする請求項9または12に記載の光合成物品。
【請求項15】
前記保護層は多孔質の層である
ことを特徴とする請求項8,9,11,12,13または14に記載の光合成物品。
【請求項16】
前記ベース材は通気性を有する
ことを特徴とする請求項1〜15のいずれか一項に記載の光合成物品。
【請求項17】
溶媒と、
気生藻類または地衣類に属する生物であって、前記溶媒中の分散された生物と、を備える
ことを特徴とする光合成塗工液。
【請求項18】
前記溶媒中に分散された多孔質片をさらに備え、
前記生物は、前記多孔質片に担持されている
ことを特徴とする請求項17に記載の光合成塗工液。
【請求項19】
多孔質体を形成するようになる材料を、さらに備える
ことを特徴とする請求項17または18に記載の光合成塗工液。
【請求項20】
ケースと、
前記ケース内に設けられた保水剤と、
前記保水剤に保持されたCAM植物と、を備える
ことを特徴とする光合成物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−233518(P2010−233518A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86132(P2009−86132)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】