説明

光合成生物

【課題】有用な光合成生物の提供。当該光合成生物の有効な利用方法の提供。
【解決手段】少なくとも1のコヘシンドメインC1及び少なくとも1のコヘシンドメインC2を含む骨格蛋白質と、当該骨格蛋白質の前記コヘシンドメインC1の一部又は全部に結合した、ACC合成酵素及び前記コヘシンドメインC1と結合するドックリンドメインD1を含むACC合成酵素サブユニットと、当該骨格蛋白質の前記コヘシンドメインC2の一部又は全部に結合した、ACC酸化酵素及び前記コヘシンドメインC2と結合するドックリンドメインD2を含むACC酸化酵素サブユニットと、を含む人工酵素複合体を産生するように形質転換した光合成生物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光合成生物に関する。詳しくは、エチレン産生に有用な人工酵素複合体を産生する光合成生物に関する。また、当該光合成生物の利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気などへのエネルギー変換やポリマー材料の調製等、石油等の化石資源の使用用途は多様であり、化石資源は幅広く利用されている。
【0003】
一方で、化石資源の枯渇とともに化石資源の使用による環境への負荷が問題となっている。例えば、化石資源の採掘による化石資源産出地の汚染、化石資源の使用による温室効果ガスの発生等がある。
【0004】
化石資源の使用により発生する二酸化炭素(CO)は地球温暖化を引き起こすとされるが、近年ではアジア等で急速に排出量が増加している。そして、化石資源の使用量の増加に対し、二酸化炭素を固定できる植物、微生物は減少しており、地球規模で砂漠化が進行している。
【0005】
このような状況に鑑み、多様な生物から物質循環のメカニズムを見出して利用する試みが進められている。例えば、微生物の発酵を利用して資源を生産/廃棄物を無毒化する方法や、光合成系を利用してエネルギーや有用物質を取得する方法、酵素を利用して難分解性廃棄物から資源を得る方法等が開発されている。
【0006】
難分解性廃棄物から資源を得る方法の一つに、植物細胞壁であるセルロースの分解がある。セルロース分解性嫌気性細菌が細胞表層や菌体外にセルロソームというセルロース分解蛋白質複合体を備えることが知られている。セルロソームはドックリン、コヘシンという非常に強い結合親和性と高い結合特異性を有するドメインを含む。コヘシンとドックリンはカルシウム依存的に結合することが知られている。セルロソームはドックリン及びコヘシンを利用してセルラーゼ及びヘミセルラーゼを配向させ逐次的な反応が行えるようになっている。また、下記の特許文献に開示されているように、セルロソームを応用する技術が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−142125号公報 上記特許文献1はセルロース分解酵素−骨格蛋白質複合蛋白質を細胞表層に保持する酵母を開示する。セルロースを分解し、グルコースを得ることができる。
【特許文献2】特開2010−252789号公報 上記特許文献2はビオチン結合部位を有するストレプトアビジン等のキャリアと、複数のビオチン化されたセルロース分解酵素を備える複合体を開示する。
【特許文献3】特表2011−516029号公報 上記特許文献3は、光合成にフォーカスし、核酸を操作した光合成細胞について開示する。
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Sakai et al. Photosynthetic Conversion of Carbon Dioxide to Ethyleneby the Recombinant Cyanobacterium, Synechococcus sp. PCC 7942, Which Harbors aGene for the Ethylene-Forming Enzyme of Pseudomonas syringae1997年 上記非特許文献1では、シャトルベクター(プラスミド)を用いて、シアノバクテリアを形質転換させた組換え体でエチレンを発生させた。プロモーター(転写制御系)にシアノバクテリアのゲノム由来産物を使用したため、その制御下に置かれた微生物由来のefe(エチレンフォーミングエンザイム)遺伝子が欠損あるいは遺伝子置換されてしまう問題がある。結果的に20世代目で10分の1以下の活性になってしまった。また、プラスミドのコピー数が多く、そのためefe遺伝子の転写量が多く、生育に影響が出てしまった。
【非特許文献2】Talahama et al. 2003年Construction and Analysis of a Recombinant Cyanobacterium Expressinga Chromosomally Inserted Gene for an Ethylene-Forming Enzyme at the psbAILocus 上記非特許文献2は、微生物由来のefe遺伝子をゲノムに組み込み、クエン酸回路中の重要な中間体のα−ケトグルタル酸を基質に用いる、微生物由来のエチレン合成プロセスを開示する。しかし、当該「クエン酸回路中の重要な中間体のα−ケトグルタル酸を基質に用いる、微生物由来のエチレン合成プロセス」が上記非特許文献1と同様にシアノバクテリアに生育阻害を引き起こす程の代謝ストレスを与え、3世代目でエチレン生成活性を失ってしまう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以下、1−アミノシクロプロパンカルボン酸をACCとも称する。S−アデノシル−L−メチオニンをSAMとも称する。
【0010】
上記したセルロースの分解は、難分解性の植物細胞壁から糖であるグルコースを得ることができる点で有用である。しかし、グルコースは酸素を多く含んでおり(即ち、一定程度酸化が進んでいる。)エネルギー変換への応用には必ずしも好適でないこと、また、化石資源を利用したポリマー材料分野への応用がしにくいこと等、物質循環の観点から改善すべき点があった。
【0011】
化石資源を利用したポリマー材料として、エチレン(C)を利用するポリマーがある。光合成により二酸化炭素を固定できる点に着目し、微生物由来のefeを利用し、シアノバクテリアにエチレンを産生させる試みが行われてきたが、改善の余地があった。
【0012】
第一に、α−ケトグルタル酸を利用するため、エチレンを産生するように形質転換されたシアノバクテリアの継代が困難であるという課題があった。従来の技術では、継代を重ねるにつれてエチレン産生能力が大幅に低下したり、エチレン産生能力が失われた。更には、エチレン産生能力を維持したまま形質転換体を継代するには、エチレン産生にどのような物質を利用することが有用であるか不明であった。
【0013】
本願発明者は、光合成による二酸化炭素固定とエチレン産生の両立、及び、エチレン合成の手間の観点から、細胞内に存在する基質を利用することが有用であると考えた。更に、植物においてエチレンは植物ホルモンであり、植物が生産可能な物質であることにも着目した。鋭意研究を重ねた結果、本願発明者は、細胞内でメチル基供与体として働くSAMが有用な基質であることを見出した。基質となるSAMは光合成生物内の存在比は大きくはないと考えられるが、効率的な酵素反応の実現のため、エチレン産生に関わる酵素をセルロソーム同様に局在化させればよいと考えた。鋭意研究を重ねた結果、ドックリン及びコヘシンを利用してエチレン合成に関わる酵素を複合体化することが有用であることを見出した。更には当該複合体をシアノバクテリアに産生させることに成功し、当該シアノバクテリアを培養してエチレンを得た。即ち、光合成生物を用い、二酸化炭素からエチレンを産生するという物質循環を構築したと考えられる。
【0014】
後述する実施例では、セルロソームシステム実現に必須なドックリンとコヘシンは大腸菌では可溶性に発現した。よって、異物として認識された結果であるところの封入体にはなっていないと考えられた。そして大腸菌の生育がドックリンとコヘシンの発現中にも確認できることから毒性は無いと考えられた。したがって、過剰に発現させてもドックリンとコヘシンは組換え体への細胞毒性を示さないものと考えられた。代謝ストレスを引き起こす原因となる、クエン酸回路中の中間体を利用する代わりに、細胞内でメチル基供与体として働くSAMを基質に用いる植物由来のエチレン合成プロセスをシアノバクテリアに導入することに成功した。
【0015】
この点、上記特許文献3では、例えば請求項36にSAM利用オキシゲナーゼをエチレンの合成でなくクロロフィルの生合成に利用することが記載されている。請求項55には炭素ベース産物としてエチレンが記載されているが、多くの物質が列挙された中の選択肢の1つに過ぎない。特許文献3の実施例には光合成細胞によるエチレンの合成試験の開示がなく、具体的にどのような光合成細胞、どのような培養条件でエチレンが得られるか開示がない。
【0016】
よって、有用な光合成生物を提供することを本発明が解決すべき課題とする。更には、当該光合成生物の有効な利用方法を提供することを本発明が解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
(第1発明)
上記課題を解決するための本願第1発明の構成は、
少なくとも1のコヘシンドメインC1及び少なくとも1のコヘシンドメインC2を含む骨格蛋白質と、
当該骨格蛋白質の前記コヘシンドメインC1の一部又は全部に結合した、ACC合成酵素及び前記コヘシンドメインC1と結合するドックリンドメインD1を含むACC合成酵素サブユニットと、
当該骨格蛋白質の前記コヘシンドメインC2の一部又は全部に結合した、ACC酸化酵素及び前記コヘシンドメインC2と結合するドックリンドメインD2を含むACC酸化酵素サブユニットと、
を含む人工酵素複合体を産生するように形質転換した光合成生物である。
【0018】
(第2発明)
上記課題を解決するための本願第2発明の構成は、
前記人工酵素複合体に含まれるACC合成酵素サブユニット数に対するACC酸化酵素サブユニット数の比率(ACC酸化酵素サブユニット数/ACC合成酵素サブユニット数)が1を超える第1発明に記載の光合成生物である。
【0019】
(第3発明)
上記課題を解決するための本願第3発明の構成は、
第1発明又は第2発明に記載の光合成生物を培養する工程を含むことを特徴とするエチレン産生方法である。
【0020】
(第4発明)
上記課題を解決するための本願第4発明の構成は、
前記光合成生物の培養において、二酸化炭素(CO)を排出する設備の排気を利用する第3発明に記載のエチレン産生方法である。
【0021】
(第5発明)
上記課題を解決するための本願第5発明の構成は、
前記光合成生物の培養において、光合成生物を担体に担持する第3発明又は第4発明に記載のエチレン産生方法である。
【0022】
(第6発明)
上記課題を解決するための本願第6発明の構成は、
前記光合成生物の培養において、培地が海水を含む第3発明〜第5発明のいずれかに記載のエチレン産生方法である。
【発明の効果】
【0023】
(第1発明)
上記第1発明により、有用な光合成生物が提供される。当該光合成生物は、エチレン産生に有用な人工酵素複合体を産生する。当該光合成生物は、二酸化炭素を取り込み、SAMを産生し、光合成生物の体内に存在する前記人工酵素複合体によってエチレン(C)を産生すると考えられる。よって、光合成可能な細菌や藻類に化石資源の使用等により排出された二酸化炭素を有用な資源であるエチレンに変換させるという、環境への負荷を軽減する物質循環を構築したと考えられる。
【0024】
コヘシンとドックリンの非常に強い結合親和性と高い結合特異性を利用することで、人工酵素複合体に含まれるACC合成酵素及びACC酸化酵素を逐次的な反応に適した配向とすることが可能であると考えられる。逐次的な反応に適した配向とすることで、少ないSAM量であっても効率よくエチレンを産生することができると考えられる。また、SAMからエチレンまでの反応が逐次的に起こると考えられるので、光合成生物の体内でACCが過剰に蓄積されないと考えられる。即ち、光合成生物の恒常的な代謝系統が維持可能であると考えられ、従来の光合成生物の培養方法が利用可能であると考えられる。
【0025】
発現ベクターの構築の段階でACC合成酵素/ACC酸化酵素へのドックリンドメインの結合部位を決定できるので、触媒部位の配向制御が簡便かつ確実である点、リンカーを用いた場合等に酵素の自由度が確保できる点で有利であると考えられる。
【0026】
本発明の光合成生物は、安価な培地で大量培養させることが可能であると考えられえる。また、世代を重ねてもエチレンを生産できると考えられる。
【0027】
(第2発明)
上記第2発明により、エチレン産生により有用な光合成生物が提供される。本発明の人工酵素複合体に含まれる「ACC酸化酵素サブユニット/ACC合成酵素サブユニット」の比率を「1を超える」とすることで、効率的なエチレン産生を実現することができると考えられる。
【0028】
(第3発明)
上記第3発明により、上記光合成生物の有効な利用方法が提供される。上記光合成生物の培養は、エチレンの産生を伴う。よって、上記光合成生物の培養は、有用なエチレン産生方法である。
【0029】
(第4発明)
上記第4発明により、より有用なエチレン産生方法が提供される。発電所や化学プラントなど二酸化炭素排出設備の排気を、バブリング等の方法で上記光合成生物の培養に利用することで、環境への負荷を低減しつつ有用な資源であるエチレンを得ることが可能となる。
【0030】
(第5発明)
上記第5発明により、より有用なエチレン産生方法が提供される。上記光合成生物は一定の間隔を持って世代が交代する。よって、継続的なエチレンの産生(継続的な上記光合成生物の培養)を行う場合、上記光合成生物を培地から取り除く作業が必要となる場合がある。菌体が担体に担持されていれば、培地からの菌体の除去作業は当該担体を取り除くことでよく、集菌作業等の手間・時間を省略できる。即ち、コスト面で優れたエチレン産生方法とすることができると考えられる。
【0031】
(第6発明)
上記第6発明により、より有用なエチレン産生方法が提供される。海水は容易に取得できるので、培地調製の手間・時間を軽減できる。
培地を海水とした場合は、エチレン産生のために培地を特段に調製しなくてよい。よって、従来の培地に使用される物質の合成・精製等の作業が不要となり、より環境への負荷が少ないエチレン産生方法とすることができると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例で使用した人工酵素複合体Aの概念図を示す。
【図2】実施例で使用した大腸菌形質転換ベクターの概念図を示す。
【図3】In vitroのエチレン合成試験の結果を示す。
【図4】シアノバクテリア発現用ベクターの概念図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、本発明を実施するための形態を、最良の形態を含めて説明する。
【0034】
<人工酵素複合体>
光合成生物に産生させる本発明の人工酵素複合体は、骨格蛋白質と、当該骨格蛋白質に結合するACC合成酵素サブユニット及びACC酸化酵素サブユニットを含む。当該人工酵素複合体は、光合成生物の体内に存在するSAMを利用してエチレンを産生すると考えられる。
【0035】
〔骨格蛋白質〕
本発明の人工酵素複合体に含まれる骨格蛋白質は少なくとも1のコヘシンドメインC1及び少なくとも1のコヘシンドメインC2を含む。本発明の光合成生物によるエチレンの産生が阻害されない限り、形質転換やベクターの構築等に利用した配列が残っていても良い。
【0036】
当該骨格蛋白質に含まれるコヘシンドメインの数は、本発明の光合成生物によるエチレンの産生が阻害されない限り特に限定されないが、2〜10であることが好ましく、2〜7であることがより好ましく、2〜5であることが更に好ましく、2〜3であることが特に好ましい。骨格蛋白質に含まれるコヘシンドメインC1とコヘシンドメインC2の組み合わせは適宜選択可能である。コヘシンドメインC2数がコヘシンドメインC1数より多いことが好ましい。また、後述するACC合成酵素サブユニット数に対するACC酸化酵素サブユニット数の好ましい比率を実現するコヘシンドメインC1及びコヘシンドメインC2の組み合わせも好ましい。
【0037】
コヘシンドメインはセルロソームのスキャホールディンに含まれているドメインとして知られており、上述のように、コヘシンとドックリンは非常に強い結合親和性と高い結合特異性を有する。よって、例えば、異なる属や種の菌のセルロソームに由来するコヘシンドメインを組み合わせて利用するなどして、コヘシンドメインC1とドックリンドメインD1の結合特異性、コヘシンドメインC2とドックリンドメインD2の結合特異性を実現可能である。当該コヘシンドメインC1とコヘシンドメインC2の配列の態様が、ACC合成酵素及びACC酸化酵素による逐次的な反応の実現に寄与すると考えられる。
【0038】
本発明のコヘシンドメインは特に限定されず、公知のセルロソームに由来するもの、将来明らかにされるセルロソームに由来するもの、及びこれらの修飾/改変体であってコヘシン−ドックリンの特異的結合性を維持する物を利用することができる。嫌気性細菌、嫌気性糸状菌が生産するセルロソームに由来するコヘシンドメインが好ましい。嫌気性細菌として、Acetivibrio cellulolyticus、Bacteroides cellulosolvens、Butyrivibrio fibrisolvens、Clostridium acetobutylicum、Clostridium cellulovorans、Clostridium cellobioparum、Clostridium cellulolyticum、Clostridium josui、Clostridium papyrosolvens、Clostridium thermocellum、Ruminococcus albus、Ruminococcus flavefaciens、Ruminococcus succinogenesを例示することができる。嫌気性糸状菌としてNeocallimastrix frontalis、Neocallimastrix particiarum、Orpomyces sp.、Piromyces sp.を例示することができる。嫌気性細菌が生産するセルロソームに由来するコヘシンドメインがより好ましく、Acetivibrio cellulolyticus、Ruminococcus flavefaciensが生産するセルロソームに由来するコヘシンドメインが特に好ましい。
【0039】
各コヘシンドメインは直接連結されて良いし、各コヘシンドメイン間にリンカーを介在させても良い。リンカーを介在させる場合、リンカーは、人工酵素複合体によるACC合成酵素及びACC酸化酵素の逐次的な反応を維持できる物であることが好ましい。例えば、アミノ酸配列が好ましい。リンカーをアミノ酸配列とし、骨格蛋白質の一部としてコヘシンドメインと共に翻訳させる実施形態がより好ましい。リンカーがアミノ酸配列で構成される場合、リンカーを構成するアミノ酸数は4〜20個であることが好ましく、7〜13個であることがより好ましく、9〜11個であることが特に好ましい。
【0040】
〔ACC合成酵素サブユニット〕
本発明の人工酵素複合体に含まれるACC合成酵素サブユニットはACC合成酵素(以下、ACCSとも称する。)及び前記コヘシンドメインC1と結合するドックリンドメインD1を含む。本発明の光合成生物によるエチレンの産生が阻害されない限り、形質転換やベクターの構築等に利用した配列が残っていても良い。
【0041】
ACC合成酵素サブユニットに含まれるACC合成酵素の数は本発明の光合成生物によるエチレンの産生が阻害されない限り特に限定されないが、1〜3であることが好ましく、1〜2であることがより好ましく、1であることが更に好ましい。また、ACC合成酵素サブユニットに含まれるドックリンドメインD1は1つである。
【0042】
本発明のACC合成酵素は、SAMを基質とし、ACCを生成する酵素である限り特に限定されない。公知のACC合成酵素、将来明らかにされるACC合成酵素、及びこれらの修飾/改変体であってSAMを基質とし、ACCを生成する酵素を利用することができる。また、SAMを基質としACCを生成する反応以外の反応を触媒する多機能酵素も利用することができる。植物に由来するACC合成酵素が好ましく、トマト、ポプラ、ヤエナリ、シロイヌナズナ、イネ、ジャガイモ、エンドウ、コムギ、タバコ、メロン、セイヨウナシ、キウイフルーツ、カーネーション、ゼラニウム、ラン、ペチュニア又はヒマワリに由来するACC合成酵素がより好ましく、トマトに由来するACC合成酵素が特に好ましい。
【0043】
本発明のドックリンドメインD1は前記コヘシンドメインC1と特異的に非共有結合にて結合する。ドックリンドメインはセルロソームに含まれているドメインとして知られている。コヘシンドメインC1とドックリンドメインD1の結合特異性を実現するために、ドックリンドメインD1としてコヘシンドメインC1と同種の菌等に由来するドックリンドメインを採用することが好ましい。公知のセルロソームに由来するもの、将来明らかにされるセルロソームに由来するもの、及びこれらの修飾/改変体であってコヘシン−ドックリンの特異的結合性を維持する物を利用することができることは、上述のコヘシンドメインと同様である。更に、Ruminococcus flavefaciensに由来するドックリンドメインを採用することが特に好ましい。
【0044】
ACC合成酵素サブユニットにおける、ACC合成酵素とドックリンドメインD1は直接連結されて良いし、ACC合成酵素−ドックリンドメインD1間にリンカーを介在させても良い。ACC合成酵素サブユニットにACC合成酵素が複数含まれる場合、ACC合成酵素どうしはリンカーを介して連結することが好ましい。リンカーを介在させることでACC合成酵素の自由度が確保できると考えられる。リンカーを介在させる場合、リンカーは、人工酵素複合体のACC合成酵素及びACC酸化酵素の逐次的な反応を維持できる物であることが好ましい。リンカーはアミノ酸配列が好ましい。リンカーをアミノ酸配列とし、ACC合成酵素サブユニットの一部としてACC合成酵素及びドックリンドメインD1と共に翻訳させる実施形態がより好ましい。リンカーがアミノ酸配列で構成される場合、リンカーを構成するアミノ酸数は5〜15個であることが好ましく、6〜12個であることがより好ましく、7〜9個であることが特に好ましい。また、セルロソームに含まれるドックリンネイティブのリンカーを使用することも好ましい。また、ACC合成酵素がN末端側となっても良いし、ドックリンドメインD1がN末端側となっても良いが、ACC合成酵素がN末端側となることが好ましく、ドックリンドメインD1がC末端側となることが好ましい。
【0045】
本発明のACC合成酵素サブユニットは上記骨格蛋白質が供えるコヘシンドメインC1の一部又は全部に結合してよい。コヘシンドメインC1の全部にACC合成酵素サブユニットが結合していることは必ずしも必要でなく、本発明の人工酵素複合体がACC合成酵素及びACC酸化酵素の逐次的な反応を実現できるようにACC合成酵素サブユニットが骨格蛋白質に結合していることが重要である。
【0046】
〔ACC酸化酵素サブユニット〕
本発明の人工酵素複合体に含まれるACC酸化酵素サブユニットはACC酸化酵素(以下、ACCOとも称する。)及び前記コヘシンドメインC2と結合するドックリンドメインD2を含む。本発明の光合成生物によるエチレンの産生が阻害されない限り、形質転換やベクターの構築等に利用した配列が残っていても良い。
【0047】
ACC酸化酵素サブユニットに含まれるACC酸化酵素の数は本発明の光合成生物によるエチレンの産生が阻害されない限り特に限定されないが、1〜3であることが好ましく、1〜2であることがより好ましく、1であることが更に好ましい。また、ACC酸化酵素サブユニットに含まれるドックリンドメインD2は1つである。
【0048】
本発明のACC酸化酵素は、ACCを基質とし、エチレンを生成する酵素である限り特に限定されない。公知のACC酸化酵素、将来明らかにされるACC酸化酵素、及びこれらの修飾/改変体であってACCを基質とし、エチレンを生成する酵素を利用することができる。また、ACCを基質としエチレンを生成する反応以外の反応を触媒する多機能酵素も利用することができる。植物に由来するACC酸化酵素が好ましく、トマト、キュウリ、バナナ、パッションフリーツ、カーネーション、又はセイヨウナシナシに由来するACC酸化酵素がより好ましく、トマトに由来するACC酸化酵素が特に好ましい。
【0049】
本発明のドックリンドメインD2は前記コヘシンドメインC2と特異的に非共有結合にて結合する。ドックリンドメインはセルロソームに含まれているドメインとして知られている。コヘシンドメインC2とドックリンドメインD2の結合特異性を実現するために、ドックリンドメインD2としてコヘシンドメインC2と同種の菌等に由来するドックリンドメインを採用することが好ましい。公知のセルロソームに由来するもの、将来明らかにされるセルロソームに由来するもの、及びこれらの修飾/改変体であってコヘシン−ドックリンの特異的結合性を維持する物を利用することができることは、上述のコヘシンドメインと同様である。更に、Acetivibrio cellulolyticusに由来するドックリンドメインを採用することが特に好ましい。
【0050】
ACC酸化酵素サブユニットの構成に関して、リンカー、及びN末端側からの配列順序についての好ましい構成は、上述のACC合成酵素サブユニットと同様である。
【0051】
本発明のACC酸化酵素サブユニットは骨格蛋白質が供えるコヘシンドメインC2の一部又は全部に結合してよい。コヘシンドメインC2の全部にACC酸化酵素サブユニットが結合していることは必ずしも必要でなく、人工酵素複合体がACC合成酵素及びACC酸化酵素の逐次的な反応を実現できるようにACC酸化酵素サブユニットが骨格蛋白質に結合していることが重要である。効率的なエチレンの産生を実現するために、人工酵素複合体に含まれるACC酸化酵素サブユニット数はACC合成酵素サブユニット数より多いことが好ましい。
【0052】
〔DBの参照〕
既に、多数のセルロソーム生産微生物においてコヘシンドメイン及びドックリンドメインのアミノ酸配列及びDNA配列が決定されている。また、多数のACC合成酵素及びACC酸化酵素においてアミノ酸配列及びDNA配列が決定されている。それらの配列は例えばGenBank、EBI、DDBJ等で確認することができる。解読された配列についてはライブラリークローンを利用することができるものもある。
【0053】
〔改変体〕
本発明の人工酵素複合体に含まれるコヘシンドメイン、ドックリンドメイン、ACC合成酵素、ACC酸化酵素は、公知の天然由来の物の他、上述した本発明の人工酵素複合体に必要な機能を維持した改変体を含む概念である。当該改変体はアミノ酸配列の改変体を含む。例えば、後述の実施例で使用したコヘシンドメイン、ドックリンドメイン、ACC合成酵素、ACC酸化酵素と比較して80%配列が保持された改変体であり、好ましくは90%配列が保持された改変体であり、より好ましくは95%配列が保持された改変体であり、更に好ましくは99%配列が保持された改変体である。当該改変体は、糖鎖などによって修飾されて良い。
【0054】
アミノ酸配列の保持率は、種々の方法により算出され得るが、本願においてはアラインメントを利用するBLASTの配列相同性検索により算出する。BLASTの設定はデフォルトとする。
【0055】
〔ACC合成酵素サブユニット数に対するACC酸化酵素サブユニット数の比率〕
本発明の人工酵素複合体に含まれる、ACC合成酵素サブユニット数に対するACC酸化酵素サブユニット数の比率は限定されないが、1を超えることが好ましい。言い換えれば、ACC酸化酵素サブユニット数を(A)とし、ACC合成酵素サブユニット数を(B)とした場合、(A)/(B)>1であることが好ましい。より好ましくは1.3以上であり、更に好ましくは1.5以上であり、更に好ましくは2以上であり、特に好ましくは3以上である。
【0056】
本発明の人工酵素複合体には、ACC合成酵素サブユニット及び/又はACC酸化酵素サブユニットが2以上含まれてもよい。例えば、人工酵素複合体に含まれるACC合成酵素サブユニット数に対するACC酸化酵素サブユニット数の比率を2とした場合、当該人工酵素複合体はACC合成酵素サブユニット1個及びACC酸化酵素サブユニット2個を含んでも良いし、ACC合成酵素サブユニット2個及びACC酸化酵素サブユニット4個を含んでも良い。即ち、上記比率を維持するように複数のACC合成酵素サブユニット及びACC酸化酵素サブユニットを含んでよい。
【0057】
また、本発明の人工酵素複合体に含まれるACC合成酵素サブユニットとACC酸化酵素サブユニットの配列順序は特に限定されない。人工酵素複合体に含まれる各サブユニットの個数にあわせ、順列組み合わせを利用してさまざまな配列順序を採用することができる。
【0058】
一例を示すと、上記比率が2でありACC合成酵素サブユニット2個及びACC酸化酵素サブユニット4個を含む場合において、ACC合成酵素サブユニット1個とACC酸化酵素サブユニット2個の単位を2つ並べても良いし、ACC合成酵素サブユニット2個の単位とACC酸化酵素サブユニット4個の単位を並べても良いし、ACC酸化酵素サブユニット2個の単位をACC合成酵素サブユニット2個の単位を挟むように並べても良い。
【0059】
<光合成生物>
本発明において形質転換され得る光合成生物は、光合成細菌及び藻類である。
【0060】
本発明の光合成生物は上述した本発明の人工酵素複合体を産生するように形質転換したものである。好ましくは、発現ベクター等を用いて上述した本発明の人工酵素複合体を産生するように形質転換した光合成生物である。
【0061】
上述した本発明の人工酵素複合体を産生するように形質転換され得る光合成細菌として、シアノバクテリア、紅色細菌、緑色硫黄細菌、緑色非硫黄細菌、ヘリオバクテリア等を例示することができる。当該光合成細菌はシアノバクテリアであることが好ましい。シアノバクテリアとして、Synechococcus,Dactylococcopsis,Merismopedia,Chroococcus,Gloeocapsa,Aphanothece,Microcystis,Aphanocapsa,Coelosphaerium,Gomphosphaeria,Myxosarcina,Oscillatoria,Phormidium,Lyngbya,Spirulina,Anabaena,Anabenopsis,Nostoc,Cylindrospermum,Scytonema,Gloeotrichia,Dichothrix,Hapalosiphon,Fischerella,Stigonema等に属する菌を例示することができ、Synechococcus属の菌が好ましい。
【0062】
上述した本発明の人工酵素複合体を産生するように形質転換され得る藻類として、原核生物であるシアノバクテリア(藍藻)(cyanobacteria)から、真核生物である灰色植物門(灰色藻)(Glaucophyta)、紅色植物門(紅藻)(Rhodophyta)、緑色植物門(クロレラ、緑藻を含む)(Chlorophyta)、クリプト植物門(クリプト藻)(Cryptophyta)、ハプト植物門(ハプト藻)(Haptophyta)、不等毛植物門(珪藻を含む不等毛藻)(Heterokontophyta)、渦鞭毛植物門(渦鞭毛藻)(Dinophyta)、ユーグレナ植物門(ユーグレナ藻)(Euglenophyta)、クロララクニオン植物門(クロララクニオン藻)(Chlorarachniophyta)に分類される様々な単細胞生物及び多細胞生物を例示することができる。好ましくはシアノバクテリア、緑藻、紅藻、灰色藻であり、より好ましくはシアノバクテリアである。好ましいシアノバクテリアは上述と同様である。
【0063】
本発明において、従来の分類の通り、シアノバクテリアは光合成細菌に該当し、かつ、藻類にも該当する。
【0064】
上述した本発明の人工酵素複合体の産生は光合成生物が備える蛋白質生産機能を利用することで実現される。上述した本発明の人工酵素複合体を産生するように光合成生物を形質転換する方法は特に限定されず、公知の方法を利用できる。例えば、ファージやプラスミド等のベクターを用いる方法、ヒートショック法、パーティクルガン法、エレクトロポーレーション法等を利用することができる。形質転換は、例えば、ゲノムに上記人工酵素複合体をコードする遺伝子を導入しても良い。本発明の光合成生物を、エチレン産生能力を維持したまま継代できるように形質転換することが好ましい。生物由来のDNA配列、上記した改変体をコードするDNA配列、cDNA等を適宜使用することができる。ベクターを使用する場合、その種類は特に限定されないが、pNS2ベクターが好ましい。
【0065】
形質転換の際、例えば、骨格蛋白質、ACC合成酵素サブユニット、ACC酸化酵素サブユニットをコードする遺伝子を一連に連結して光合成生物に導入しても良いし、骨格蛋白質、ACC合成酵素サブユニット、ACC酸化酵素サブユニットをコードする各遺伝子を独立したプロモーター配置下、あるいは別々の手法やベクターを利用してそれぞれ導入しても良い。形質転換における導入する遺伝子と手法の組み合わせは限定されない。
【0066】
〔光合成生物の培養〕
本発明の光合成生物は、二酸化炭素を取り込み、エチレンを産生する。即ち、本発明の光合成生物を培養することでエチレンを産生することができる。
【0067】
上記形質転換され得る光合成生物は原核生物、真核生物の別を問わず自らの代謝においてSAMを生産すると考えられる。よって、当該光合成生物は本願発明者が発案した物質循環を実現するのに適切な生物である。本発明の光合成生物の体内に存在するSAMを利用し、人工酵素複合体によってエチレンが産生されると考えられる。
【0068】
本発明の光合成生物の培養においては、上記形質転換され得る光合成生物について公知の各種の培地、培養方法を採用することができる。培地形状としては液体培地が好ましい。培地としては、例えば、BG−11培地、海水が好ましい。淡水を培地とする場合、排水等から転用される無機栄養素を含む培地でもよい。
【0069】
また、培地への添加物として、例えば、アスコルビン酸、ACC、SAM、メチオニンが好ましい。
【0070】
例えば、培地のpHは6.5〜9.5であることが好ましく、7.0〜8.5であることが好ましく、7.0〜8.0であることがより好ましい。
【0071】
例えば、本発明の光合成生物の培養においては、二酸化炭素を培地に供給することが好ましい。供給の態様は培地の形状に合わせて適宜選択可能であり限定されないが、気体又は二酸化炭素を含有する液体による供給が好ましく、バブリングによる供給がより好ましい。二酸化炭素を排出する設備からの排気を用いることも好ましい。二酸化炭素を排出する設備として例えば化学プラント、発電所等がある。
【0072】
継続的に本発明の光合成生物を培養する場合、当該光合成生物の継代には公知の各種の手法を採用することができる。
【0073】
また、本発明の光合成生物の古い世代を培地から回収する場合、当該光合成生物が担体に担持されていると回収が容易となる。当該担体として、例えば、鉄鋼スラグ、ハニカム、ビーズ等を使用することができる。担体への本発明の光合成生物の担持は、当該担体と光合成生物の組み合わせに応じて公知の各種の手法を採用することができる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明の実施例を説明する。本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されない。万が一、以下の実施例の記載と配列表で配列の記載に齟齬が生じる場合、本実施例の配列の記載が優先する。DNA配列は5’末端から3’末端に向けて記載する。アミノ酸配列はN末端からC末端に向けて記載する。
図1に、後述する人工酵素複合体Aの概念図を示す。
【0075】
<大腸菌用ベクターの構築法と形質転換>
〔実施例1:Hisタグ+ACC合成酵素+リンカー部+ドックリンRfの発現ベクター(pET−ACCS−Rfdoc)の構築〕
トマト(Solanum lycopersicum)由来cDNAクローン〔アクセッション番号AK323740:GenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore)、EBI(http://www.ebi.ac.uk/)、DDBJ(http://www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome-j.html)において同じアクセッション番号で登録。)〕をテンプレートDNAとし、下記配列番号1及び配列番号2に記載のプライマーを用いてPCR法によりACC合成酵素を含む遺伝子断片を増幅させた。
配列番号1:AATGGGTCGCGGATCCGGATTTGAGATTGCAAAGAC(以下、ACCS-RfAdoc-Fwd1とも称する。)
配列番号2:CGAGCTTTGTGCCGGGACGAACTAATGGTGAGG(以下、ACCS-RfAdoc-Rev2とも称する。)
【0076】
PCR条件は、ホットスタート96℃2分1サイクル、その後、熱変性96℃15秒、アニーリング52℃30秒、伸長反応72℃2分を25サイクルとした(PCR条件1)。
【0077】
Ruminococcus flavefaciens strain 17株由来ゲノムDNAをテンプレートDNAとし、下記配列番号3及び配列番号4に記載のプライマーを用いてPCR法によりリンカー配列+ドックリンを含む遺伝子断片(アクセッション番号AJ278969:GenBank、EBI、DDBJ)を増幅させた。このドックリンは、上記Ruminococcusにおいて、スキャフォルディンタンパク質A(ScaA)という唯一のタンパク質がもっている唯一のドックリンである。
配列番号3:CCTCACCATTAGTTCGTCCCGGCACAAAGCTCG(以下、ACCS-RfAdoc-Fwd2とも称する。)
配列番号4:GCTCGAATTCGGATCCTTACGCTTGAGGAAGTGTGATG(以下、ACCS-RfAdoc-Rev1とも称する。)
【0078】
PCR条件は、ホットスタート96℃2分1サイクル、その後、熱変性96℃15秒、アニーリング55℃30秒、伸長反応72℃30秒を25サイクルとした(PCR条件2)。
【0079】
上記によって得られた2つの遺伝子断片(すなわち、ACC合成酵素を含む遺伝子断片とリンカー配列+ドックリンを含む遺伝子断片)とACCS-RfAdoc-Fwd1およびACCS-RfAdoc-Rev1を用いて、PCR法により当該2つの遺伝子断片をACC合成酵素遺伝子が5’側になるように結合(キメラ化)、増幅させた。キメラ化PCR条件は、ACC合成酵素を含む遺伝子断片とリンカー配列+ドックリンを含む遺伝子断片を連結させるため上記プライマー抜きで、ホットスタート96℃2分1サイクル、その後、熱変性96℃15秒、アニーリング60℃30秒、伸長反応72℃2分を5サイクル行った(当該キメラ化PCRでは、互いに、一方の遺伝子断片が他方の遺伝断片のプライマーとなった)。続いて、ACCS-RfAdoc-Fwd1およびACCS-RfAdoc-Rev1を加え、上記PCR条件1によりキメラ化したDNA断片を増幅した。
【0080】
当該キメラ化したDNA断片を、pET28a(Novagen社製)のBamHI部位へIn−Fusion法を用いて導入し、発現ベクターであるpET−ACCS−Rfdocを得た。
【0081】
pET−ACCS−Rfdocから発現する蛋白質(以下、キメラACC合成酵素とも称する。本発明のACC合成酵素サブユニットに該当する。)のアミノ酸配列は下記配列番号24の通りであった。N末端側の最初の下線部分がpET28a由来の配列、続く下線なしの部分がACC合成酵素、続く第2の下線部分がリンカー、続く第2の下線なしの部分(C末端まで)がドックリンを示す。
配列番号24:MGSSHHHHHHSSGLVPRGSHMASMTGGQQMGRGSGFEIAKTNSILSKLATNEEHGENSPYFDGWKAYDSDPFHPLKNPNGVIQMGLAENQLCLDLIEDWIKRNPKGSICSEGIKSFKAIANFQDYHGLPEFRRAIAKFMEKTRGGRVRFDPERVVMAGGATGANETIIFCLADPGDAFLVPSPYYPAFNRDLRWRTGVQLIPIHCESSNNFKITSKAVKEAYENAQKSNIKVKGLILTNPSNPLGTTLDKDTLKSVLSFTNQHNIHLVCDEIYAATVFDTPQFVSIAEILDEQEMTYCNKDLVHIVYSLSKDMGLPGFRVGIIYSFNDDVVNCARKMSSFGLVSTQTQYFLAAMLSDEKFVDNFLRESAMRLGKRHKHFTNGLEEVGIKCLKNNAGLFCWMDLRPLLRESTFDSEMSLWRVIINDVKLNFSPGSSFECQEPGWFRVCFANMDDGTVDIALARIRRFVGVEKSGDKSSSMEKKQQWKKNNLRLSFSKRMYDESVLSPLSSPIPPSPLVRPGTKLVPTWGDTNCDGVVNVADVVVLNRFLNDPTYSNITDQGKVNADVVDPQDKSGAAVDPAGVKLTVADSEAILKAIVELITLPQA*
配列末尾の「*」はストップコドンの位置を表す。下記配列番号25及び配列番号27においても同様である。
【0082】
〔実施例2:Hisタグ+ACC酸化酵素+リンカー部+ドックリンAcの発現ベクター(pET−ACCO−Acdoc)の構築〕
トマト(Solanum lycopersicum)由来cDNAクローン(アクセッション番号AK324411:GenBank、EBI、DDBJ)をテンプレートDNAとし、下記配列番号5及び配列番号6に記載のプライマーを用いてPCR法によりACC酸化酵素を含む遺伝子断片を増幅させた。PCR条件は、上記PCR条件1とした。
配列番号5:AATGGGTCGCGGATCCGAGAACTTCCCAATTATCAAC(以下、ACCO-AcBdoc-Fwd1とも称する。)
配列番号6:TGGCGGTGTTATTAAAGCACTTGCAATTTGATCAAC(以下、ACCO-AcBdoc-Rev2とも称する。)
【0083】
Acetivibrio cellulolyticus由来ゲノムDNAをテンプレートDNAとし、下記配列番号7及び配列番号8に記載のプライマーを用いてPCR法によりリンカー配列+ドックリンを含む遺伝子断片(アクセッション番号AY221112:GenBank、EBI、DDBJ)を増幅させた。このドックリンは、上記Acetivibrioにおいて、スキャフォルディンタンパク質B(ScaB)という唯一のタンパク質がもっている唯一のドックリンである。
配列番号7:CAAATTGCAAGTGCTTTAATAACACCGCCAGGTACC(以下、ACCO-AcBdoc-Fwd2とも称する。)
配列番号8:GCTCGAATTCGGATCCTTATTCTTCTTTCTCTTCAACAGG(以下、ACCO-AcBdoc-Rev1とも称する。)
【0084】
PCR条件は、ホットスタート96℃2分1サイクル、その後、熱変性96℃15秒、アニーリング53℃30秒、伸長反応72℃30秒を25サイクルとした(PCR条件3)。
【0085】
上記によって得られた2つの遺伝子断片(すなわち、ACC酸化酵素を含む遺伝子断片とリンカー配列+ドックリンを含む遺伝子断片)とACCO-AcBdoc-Fwd1およびACCO-AcBdoc-Rev1を用いて、PCR法によりACC酸化酵素遺伝子が5’側になるように結合(キメラ化)、増幅させた。キメラ化PCR条件は実施例1に記載のキメラ化PCR条件とし、ACC酸化酵素を含む遺伝子断片とリンカー配列+ドックリンを含む遺伝子断片を連結させるため上記プライマー抜きで行った。続いて、ACCO-AcBdoc-Fwd1およびACCO-AcBdoc-Rev1を加え、上記PCR条件1によりキメラ化したDNA断片を増幅した。
【0086】
当該キメラ化したDNA断片を、pET28aのBamHI部位へIn−Fusion法を用いて導入し、発現ベクターであるpET−ACCO−Acdocを得た。
【0087】
pET−ACCO−Acdocから発現する蛋白質(以下、キメラACC酸化酵素とも称する。本発明のACC酸化酵素サブユニットに該当する。)のアミノ酸配列は下記配列番号25の通りであった。N末端側の最初の下線部分がpET28a由来の配列、続く下線なしの部分がACC酸化酵素、続く第2の下線部分がリンカー、続く第2の下線なしの部分(C末端まで)がドックリンを示す。
配列番号25:MGSSHHHHHHSSGLVPRGSHMASMTGGQQMGRGSENFPIINLENLNGDERAKTMEMIKDACENWGFFELVNHGIPHEVMDTVEKLTKGHYKKCMEQRFKELVASKGLEAVQAEVTDLDWESTFFLRHLPTSNISQVPDLDEEYREVMRDFAKRLEKLAEELLDLLCENLGLEKSYLKNAFYGSKGPNFGTKVSNYPPCPKPDLIKGLRAHTDAGGIILLFQDDKVSGLQLLKDEQWIDVPPMRHSIVVNLGDQLEVITNGKYKSVMHRVIAQTDGTRMSLASFYNPGNDAVIYPAPSLIEESKQVYPKFVFDDYMKLYAGLKFQPKEPRFEAMKAMEANVELVDQIASALITPPGTKFIYGDVDGNGSVRINDAVLIRDYVLGKINEFPYEYGMLAADVDGNGSIKINDAVLVRDYVLGKIFLFPVEEKEE*
【0088】
〔実施例3:Hisタグ+コヘシンAc+CtCipA由来リンカー部+コヘシンRfの発現ベクター(pET−Cip2)の構築〕
Ruminococcus flavefaciens strain 17株由来ゲノムDNAをテンプレートDNAとし、下記配列番号9及び配列番号10に記載のプライマーを用いてPCR法によりコヘシンRfを含む遺伝子断片(アクセッション番号AJ278969:GenBank、EBI、DDBJ)を増幅させた。このコヘシンRfは上記Ruminococcusにおいて唯一のタンパク質である、スキャフォルディンタンパク質B(ScaB)に含まれるコヘシンドメイン1(Coh1)である。また、配列番号10に記載のプライマーは、下記配列番号26に記載のClostridium thermocellumのスキャフォルディンタンパク質A(CipA)由来のリンカー配列を増幅できるように設計した。PCR条件は、上記PCR条件3とした。
配列番号9:AATGGGTCGCGGATCCGATTTACAGGTTGACATTGGAAG(以下、ScaAcRf-Fwd-InFとも称する。)
配列番号10:CGGTGTGTTTGTCGGTGTGTTTGTCGGTACCGATGCAATTACCTCAA(以下、ScaAcRf-chimRevとも称する。)
配列番号26:VPTNTPTNTP
【0089】
Acetivibrio cellulolyticus由来ゲノムDNAをテンプレートDNAとし、下記配列番号11及び配列番号12に記載のプライマーを用いてPCR法によりコヘシンAcを含む遺伝子断片(アクセッション番号AY221113:GenBank、EBI、DDBJ)を増幅させた。このコヘシンAcは、上記Acetivibrioにおいて、スキャフォルディンタンパク質C(ScaC)という唯一のタンパク質がもっているコヘシン3である。また、配列番号11に記載のプライマーは、上記配列番号26に記載のClostridium thermocellumのスキャフォルディンタンパク質A(CipA)由来のリンカー配列を増幅できるように設計した。PCR条件は、上記PCR条件2とした。
配列番号11:GTACCGACAAACACACCGACAAACACACCGGGAACAGTTGAATGGCTTAT(以下、ScaAcRf-chimFwdとも称する。)
配列番号12:GCTCGAATTCGGATCCTTAGATAGCGCCATCAGTAAGAG(以下、ScaAcRf-Rev-InFとも称する。)
【0090】
上記によって得られた2つの遺伝子断片(すなわち、コヘシンRfを含む遺伝子断片とコヘシンAcを含む遺伝子断片)とScaAcRf-Fwd-InFおよびScaAcRf-Rev-InFを用いて、PCR法によりコヘシンAc遺伝子が5’側になるようにし、コヘシンAc+CtCipA由来リンカー部+コヘシンRfとなるように結合(キメラ化)、増幅させた。キメラ化PCR条件は、コヘシンRfを含む遺伝子断片とコヘシンAcを含む遺伝子断片を連結させるため上記プライマー抜きで、ホットスタート96℃2分1サイクル、その後、熱変性96℃15秒、アニーリング60℃30秒、伸長反応72℃1分を5サイクル行った。続いて、ScaAcRf-Fwd-InFおよびScaAcRf-Rev-InFを加え、上記PCR条件1によりキメラ化したDNA断片を増幅した。
【0091】
当該キメラ化したDNA断片を、pET28aのBamHI部位へIn−Fusion法を用いて導入し、発現ベクターであるpET−Cip2を得た。
【0092】
当該pET−Cip2から発現する蛋白質(以下、キメラ骨格蛋白質Cip2とも称する。本発明の骨格蛋白質に該当する。)のアミノ酸配列は下記配列番号27におけるN末端側の最初の下線部分(pET28a由来の配列)及び第2の下線なし部分以降(コヘシンAc+リンカー部+コヘシンRf)に相当する。
【0093】
以上、実施例1〜実施例3で作製したpET−ACCS−Rfdoc、pET−ACCO−Acdoc、及びpET−Cip2の概念図を図2に示す。
【0094】
〔実施例4:Hisタグ+コヘシンAc+リンカー部+コヘシンAc+リンカー部+コヘシンRfの発現ベクター(pET−Cip3)の構築〕
上記方法により作成したpET−Cip2をテンプレートDNAとして、下記配列番号13及び配列番号14に記載のプライマーを用いて上記PCR条件1により、コヘシンAc+リンカー部を含む遺伝子断片を増幅させた。
配列番号13:CTAGCTAGCGATTTACAGGTTGACATTGGAAG(以下、pET-Cip3-Fwd3とも称する。)
配列番号14:CTCGAGCGGTGTGTTTGTCGGTGTGT(以下、pET-Cip3-R-Int2とも称する。)
【0095】
また、上記方法により作成したpET−Cip2をテンプレートDNAとして、下記配列番号15及び配列番号16に記載のプライマーを用いて上記PCR条件1により、コヘシンAc+リンカー部+コヘシンRfを含む遺伝子断片を増幅させた。
配列番号15:CTCGAGGATTTACAGGTTGACATTGG(以下、pET-Cip3-F-Int2とも称する。)
配列番号16:GGATCCTTAGATAGCGCCATCAGTAAG(以下、pET-Cip3-Revとも称する。)
【0096】
上記によって得られた2種類のコヘシン遺伝子断片をXhoIで連結し、その後pET28aのNheI−BamHI部位へライゲーションし、発現ベクターであるpET−Cip3を得た。
【0097】
pET−Cip3から発現する蛋白質(以下、キメラ骨格蛋白質Cip3とも称する。本発明の骨格蛋白質に該当する。)のアミノ酸配列は下記配列番号27の通りであった。N末端側の最初の下線部分がpET28a由来の配列、続く下線なしの部分がコヘシンAc、続く第2の下線部分がリンカー、続く第2の下線なしの部分がコヘシンAc、続く第3の下線部分がリンカー、続く第3の下線なしの部分(C末端まで)がコヘシンRfを示す。
配列番号27:MGSSHHHHHHSSGLVPRGSHMASDLQVDIGSTSGKAGSVVSVPITFTNVPKSGIYALSFRTNFDPQKVTVASIDAGSLIENASDFTTYYNNENGFASMTFEAPVDRARIIDSDGVFATINFKVSDSAKVGELYNITTNSAYTSFYYSGTDEIKNVVYNDGKIEVIASVPTNTPTNTPLEDLQVDIGSTSGKAGSVVSVPITFTNVPKSGIYALSFRTNFDPQKVTVASIDAGSLIENASDFTTYYNNENGFASMTFEAPVDRARIIDSDGVFATINFKVSDSAKVGELYNITTNSAYTSFYYSGTDEIKNVVYNDGKIEVIASVPTNTPTNTPGTVEWLIPTVTAAPGQTVTMPVVVKSSSLAVAGAQFKIQAATGVSYSSKTDGDAYGSGIVYNNSKYAFGQGAGRGIVAADDSVVLTLAYTVPADCAEGTYDVKWSDAFVSDTDGQNITSKVTLTDGAI*
【0098】
〔実施例5:形質転換体における組換えタンパク質発現と精製〕
実施例1〜実施例4にて構築した上記4種の各発現ベクターで発現用大腸菌Rosetta2(DE3)株を形質転換させた。形質転換はすべてのベクターにおいてヒートショック法で行った。
【0099】
形質転換後、IPTGによる組換えタンパク質の発現誘導を行い、集菌を行った。最終濃度50μg/mlになるようにカナマイシンを添加したLB液体培地15mlに白金耳でかきとった複数のコロニーを植菌し37℃、125rpmで一晩振とう培養した。TB(Terrific Broth)液体培地1.5Lに最終濃度50μg/mlになるようにカナマイシンを添加後、上記前培養液15mlを接種し37℃、125rpmにて2時間半振とう培養し、本培養とした。その後、OD600nm=0.25になったところでイソプロピル‐β‐チオガラクトピラノシド(IPTG)を最終濃度0.1mMになるように添加し、16℃、180rpmで一晩振とう培養した。
【0100】
超音波破砕後、遠心分離により得た上清画分を用いてHisタグアフィニティー精製をおこなった。即ち、遠心分離(4℃、5000×g、20分間遠心分離)により得た菌体1g当たりにsonication buffer(50mM Na−Phosphate(pH8)、300mM NaCl)を4ml加え、ボルテックスにより懸濁し、−80℃にて急速凍結後融解させた。超音波破砕機で菌体を破砕した後、4℃、15000×g、15分で遠心分離し可溶性画分を得た。0.5mLのNiキレート アガロースレジン(COSMOGEL His−Accept)を当該可溶性画分に添加し、4℃、70rpm、一晩反応させた。そして、4℃、3000×g、5分間遠心分離し上清を素通り画分とした。50mlのwash buffer(50mM Na−Phosphate(pH6)、300mM NaCl、10%(v/w)グリセロール)を用いてペレットを再けん濁し、4℃、3000×g、5分間遠心分離した。上清は洗浄画分とした。これを4回繰り返し、レジンの洗浄を行った。最後にelution buffer(WashBuffuerに最終濃度300mMのイミダゾールを加えた物)を500μl添加し懸濁後、4℃、3000×g、5分間遠心分離し上清を溶出画分とした。これを5回繰り返した。
【0101】
上記精製により各目的タンパク質が単一バンドとして精製されたことをSDS−PAGE〔チューブに2×SDSサンプルBuffer 10μlとサンプルを10μl入れ撹拌後、98℃で10分間タンパク質を変性させた。アクリルアミドゲル濃度は9%(w/v)を用いた。滅菌水2.25ml、セパレーティングbuffer(pH8.8)1.25mL、30%(w/v)アクリルアミド1.5mL、10%APS 25.0μl、TEMED 2.5μlを混合後(Running gel)ゲル板に添加し、純水にてゲルと空気を遮断した。30分後、Running gelが固まっていることを確認し、Running gel上の純水を取り除いた。次に、滅菌水1.85ml、スタッキングbuffer(pH6.8)750μl、30%(w/v)アクリル アミド400μl、10%APS 25μl、TEMED 5μlを混合し(Stacking gel)Running gelの上に添加後、コームを装着した。SDS−PAGE泳動用の緩衝液として10×SDS−PAGE泳動緩衝液45mlを純水で450mlに定容したものを用いた。上記調製したサンプル、SDS−PAGE用分子量マーカーを各レーンに添加し、200V定電圧、40分間、電気泳動した。電気泳動後、ゲルを取り出し、タッパーにゲルを入れ、純水中で5分間振とうさせ洗浄した。これを3回繰り返し、クマシーブリリアントブルーG250を添加し1時間染色した。染色後純水で脱色、保存した。(Bio−Rad社のプロトコールに従った。)〕および抗Hisタグ抗体を用いたウェスタンブロッティング解析により確認した。
【0102】
pET−ACCS−Rfdocを導入した形質転換体から得たキメラACC合成酵素は分子量67.3kDaであった。pET−ACCO−Acdocを導入した形質転換体から得たキメラACC酸化酵素は分子量48.4kDaであった。pET−Cip2を導入した形質転換体から得たキメラ骨格蛋白質Cip2は分子量33.1kDaであった。pET−Cip3を導入した形質転換体から得たキメラ骨格蛋白質Cip3は分子量48.8kDaであった。
【0103】
<エチレンガス合成試験>
〔実施例6〕
キメラACC合成酵素及びキメラACC酸化酵素のみ(即ち、骨格蛋白質無し)、キメラACC合成酵素、キメラACC酸化酵素及びキメラ骨格蛋白質Cip2を供える人工酵素複合体A、キメラACC合成酵素1つ、キメラACC酸化酵素2つ及びキメラ骨格蛋白質Cip3を供える人工酵素複合体Bを用いてエチレンガスの合成試験を行った。下記の条件のガスクロマトグラフィーにより合成されたエチレン量を測定した。なお、検量線はエチレン量0ppm〜2.5ppm(0〜1μl)まで良好な直線性(R=0.99)を示した。
【0104】
−ガスクロマトグラフィー条件−
機器 : GC−17A(島津製作所)
検出器 : FID
検出器温度 : 250℃
カラム : キャピラリーカラムRt−Q−BOND(株式会社島津ジーエルシー社製)
カラム温度 : 100℃固定
注入口温度 : 250℃
線速度 : 42cm/sec
キャリアガス: Ar
【0105】
(人工酵素複合体Aの調製)
キメラACC合成酵素、キメラACC酸化酵素及びキメラ骨格蛋白質Cip2を下記人工酵素複合体形成用反応溶液に等モル比となるように加え、室温で15分間インキュベートし結合させた。以上のように人工酵素複合体Aを形成させた後、これを後述する酵素反応の反応溶液へ添加し酵素反応を観察した。
【0106】
(人工酵素複合体Bの調製)
キメラACC合成酵素、キメラACC酸化酵素及びキメラ骨格蛋白質Cip3を下記人工酵素複合体形成用反応溶液にモル比が1:2:1となるように加え、室温で15分間インキュベートし結合させた。以上のように人工酵素複合体Bを形成させた後、これを後述する酵素反応の反応溶液へ添加し酵素反応を観察した。
【0107】
−人工酵素複合体形成用反応溶液の組成−
50mM Na−Phosphate(pH6)、300mM NaCl、10%(v/w)グリセロール、1mM CaClを含む水溶液。
【0108】
(SAMを基質としたエチレンガスの合成)
キメラACC合成酵素及びキメラACC酸化酵素のみ(モル比換算で1:1になるようにした)又は人工酵素複合体Aを、10μg、20μg、もしくは40μgを含む酵素溶液50μl、又は、人工酵素複合体B5μgもしくは10μgを含む酵素溶液50μlを、反応溶液950μl〔20mM Tris−HCl(pH7.5)、1mMジチオスレイトール、20mM ピリドキサールリン酸、30mM L−アスコルビン酸ナトリウム、20mM 炭酸水素ナトリウム、20mM 硫酸鉄(II)、20%(v/w)グリセロール、1mM 塩化カルシウム、5mM S−アデノシル−L−メチオニン(基質)〕と混合し2mlバイアルビンに封入した。30℃で1時間インキュベートした後、各バイアルビンのヘッドスペースからガスタイトシリンジを用いて500μlの気体を採取し、全量をインジェクトして上述の条件のガスクロマトグラフィーでエチレン量を測定した。各試験は3連行い、結果は平均値にて記載する。キメラACC合成酵素及びキメラACC酸化酵素のみの試験区、及び人工酵素複合体Aの試験区のエチレン合成量の測定結果のグラフは図3に示す。
【0109】
キメラACC合成酵素及びキメラACC酸化酵素のみの試験区(図3中■のプロットで示す。)は、酵素量10μgで28.6nmole/ml、酵素量20μgで77.6nmole/ml、酵素量40μgで504.0nmole/mlであった。
【0110】
人工酵素複合体Aの試験区(図3中◆のプロットで示す。)は酵素量10μgで72.2nmole/ml、酵素量20μgで129.4nmole/ml、酵素量40μgで462.6nmole/mlであった。図示を省略した、人工酵素複合体Bの試験区は、酵素量5μg〜10μgで同量の人工酵素複合体Aの約2.5倍量のエチレンを合成した。
【0111】
以上の実験結果より、骨格蛋白質を用いる人工酵素複合体において高効率でエチレンが合成された。特に、酵素量が低濃度である場合に効率よくエチレンが合成された。人工酵素複合体Bでは人工酵素複合体Aに比べて多量のエチレンを合成した。
【0112】
また、実験結果は省略するが、ACCを基質とした場合でもエチレンの合成が確認された。ACCを基質とした場合は、SAMを基質とした場合よりもエチレン合成量が多かった。
【0113】
<シアノバクテリアの形質転換>
〔実施例7:シアノバクテリア用ベクターの構築〕
(イ)エチレンを産生する人工酵素複合体を構成する各キメラ酵素をコードする遺伝子およびキメラ骨格蛋白質遺伝子をIPTGによる誘導発現用のtrcプロモーター下流に配置する。また、(ロ)3つのORFの各上流にはリボソーム結合部位を配置させる。以上を目的に、Ptrc::ACCS−Rfdoc−ACCO−Acdoc−Cip2あるいはPtrc::ACCS−Rfdoc−ACCO−Acdoc−Cip3を含む2種のpBR322−pTrcプラスミドを作製した。
【0114】
(1)既に作製したpET−ACCS−RfdocをテンプレートDNAとして、下記配列番号17及び配列番号18に記載のプライマーを用いてPCR法によりHisタグ+ACC合成酵素+リンカー部+ドックリンRfを含む遺伝子断片を増幅させた。
【0115】
PCR条件は、ホットスタート96℃2分1サイクル、その後、熱変性96℃15秒、アニーリング54℃30秒、伸長反応72℃2分を25サイクルとした(PCR条件4)。
配列番号17:GCATGTCATGAGCAGCAGCCATCATC(以下、ACCS-BsSa-FWDとも称する。)
配列番号18:ACGCGTCGACTTACGCTTGAGGAAGTGTG(以下、ACCS-BsSa-REVとも称する。)
【0116】
(2)既に作成したpET−ACCO−AcdocをテンプレートDNAとして、下記配列番号19及び配列番号20に記載のプライマーを用いてPCR法によりHisタグ+ACC酸化酵素+リンカー部+ドックリンAcを含む遺伝子断片を増幅させた。PCR条件は、上記PCR条件4とした。
配列番号19:ACGCGTCGACCACAGGAAACAGATCATGG(以下、ACCO-SaHi-FWDとも称する。)
配列番号20:CCCAAGCTTTTATTCTTCTTTCTCTTCAACAGGG(以下、ACCO-SaHi-REV2とも称する。)
【0117】
(3)既に作成したpET−Cip2をテンプレートDNAとして、下記配列番号21及び配列番号22に記載のプライマーを用いてPCR法によりHisタグ+コヘシンAc+リンカー部+コヘシンRfを含む遺伝子断片を増幅させた。
【0118】
PCR条件は、ホットスタート96℃2分1サイクル、その後、熱変性96℃15秒、アニーリング54℃30秒、伸長反応72℃1分を25サイクルとした(PCR条件5)。
配列番号21:CCCAAGCTTCACAGGAAACAGACCATGGGC(以下、Cip2-HiXb-FWDとも称する。)
配列番号22:GCTCTAGATTAGATAGCGCCATCAGTAAG(以下、Cip2-HiXb-REVとも称する。)
【0119】
上記(1)、(2)及び(3)で得た遺伝子断片、並びにpBR322−pTrcベクターを任意の制限酵素で消化後、連結させPtrc::ACCS−Rfdoc−ACCO−Acdoc−Cip2(以下、「pBRTrc−ACCS−ACCO−Cip2」とも称する。)を得た。
【0120】
pBRTrc−ACCS−ACCO−Cip2に含まれるPtrcプロモーターからターミネーターまでの領域をBamHIと同じ突出末端を形成するBglII制限酵素消化した。また、Neutral SiteIIを有するシアノバクテリア用発現ベクターpNS2ベクターをBamHIで消化した。これらをライゲーションし、発現ベクターであるpNS2−SOC2ベクターを構築し形質転換に用いた。1つの発現単位として構築した当該ベクターの概念図を図4に示す。
【0121】
PCC7942Neutral Site IIとは、外来のDNA断片を挿入しても、挿入自体の影響がみられないゲノム上の座位である。
【0122】
(4)既に作成したpET−Cip3をテンプレートDNAとして、下記配列番号23に記載のプライマー及びCip2-HiXb-REVを用いてPCR法によりHisタグ+コヘシンAc+リンカー部+コヘシンAc+リンカー部+コヘシンRfを含む遺伝子断片を増幅させた。PCR条件は、上記PCR条件5とした。
配列番号23:CCCAAGCTTCACAGGAAACAGACCATGGGCAGCAGCCATCATC(以下、Cip3-HiXb-FWDとも称する。)
【0123】
上記(1)、(2)及び(4)で得た遺伝子断片、並びにpBR322−pTrcベクターを任意の制限酵素で消化後、連結させ発現ベクターであるPtrc::ACCS−Rfdoc−ACCO−Acdoc−Cip3(以下、「pBRTrc−ACCS−ACCO−Cip3」とも称する。)を得た。pNS2−SOC2ベクターと同様の方法を用いて、発現ベクターであるpNS2−SOC3ベクターを構築した。
【0124】
〔実施例8:Synechococcus elongatus PCC7942の形質転換〕
Synechococcus elongatus PCC7942(容易に入手可能な公知の藻株)の培養液(培地はBG−11培地)10mLを25℃、5,000rpm、5分間遠心し上清を捨て、残渣を1.25mLの10mM NaClで洗浄した。ボルテックスで撹拌後、25℃、5,000rpm、5分間遠心し上清を捨て1mlのBG−11培地を加えた。2μgのpNS2−SOC2ベクターを菌体懸濁液に加え、光を照射せず30℃で一晩振とう培養した。その後菌体培養液をBG−11プレート(BG−11培地に1%アガーを添加して作製した。)に塗布植藻し、形質転換効率を上げるために当該プレートをキムワイプで包み、30℃、弱明条件下で約24時間培養した。その後、最終濃度50μg/mLとなるようにカナマイシン(150μg/ml)を、1mlずつプレート下に一様に流し込んだ。その後30℃、通常の光条件下で培養した。当該培養開始から7日後、抗生物質を含む他のBG−11プレートに菌体の植え継ぎを行った。当該植え継ぎを3回繰り返したところで、プレートに生育している細胞を以降の実験に用いた。
【0125】
次に、抗生物質を含む液体BG−11液体培地にて当該細胞の培養、植え継ぎを行い抗生物質耐性能の確認をした。即ち、上記抗生物質を含むBG−11プレートに生育したコロニーを1白金耳でかきとり、カナマイシン(最終濃度12.5、25.0又は50.0μg/ml)を含んだ100mLのBG−11液体培地に植菌した。OD730nm=1.0まで培養したところで当該培養液を1mlとり、抗生物質を含んだ新しいBG−11液体培地に植藻した。
【0126】
当該BG−11液体培地へのカナマイシンの添加量と吸光度の関係について述べる。形質転換体はカナマイシン12.5μg/mlで最も吸光度が大きくなった。この条件では、野生株(Synechococcus elongatus PCC7942の非形質転換体)のカナマイシン添加なしの培養とほぼ同様の増殖カーブを示した。菌体の増殖率はカナマイシン添加量12.5μg/mlの条件で最も良好であり、次いで25.0μg/mlの条件が良好であった。
【0127】
〔実施例9:エチレン合成試験〕
実施例8の操作により最終的に得た形質転換されたシアノバクテリアを含むBG−11液体培地を培養し、O.D.が0.4になったところでその液体培地を2ml、容積4mlのガスクロマトグラフィー用のサンプルバイアルに移し密栓後、30℃で一晩振とうさせながら反応させ、当該反応後上方の気相部から生成ガスを500μlをシリンジで抜き取り、実施例6に記載の条件のガスクロマトグラフィーにてエチレン生成活性を測定した。試験は3連行い、結果の平均値は0.0045nl/ml/hrであった。
【0128】
次に、BG−11液体培地に終濃度1mMとなるようにACCを添加し、その後の工程は上記と同じようにしてエチレン生成活性を測定したところ、約5倍のエチレン合成活性である0.022nl/ml/hrであった。
【0129】
実施例8の操作により最終的に得た形質転換されたシアノバクテリアは、エチレン産生能力を維持して4代継代できた。継代するとき、植え継ぎの際、添加する前培養液の量を加減させることにより更に継代が可能であると考えられる。
【0130】
実施例8においてはpNS2−SOC2ベクターを用いたが、実施例6の実験結果より、pNS2−SOC3ベクターを用いてもエチレン産生能力を有するシアノバクテリアが得られると合理的に推測された。また、当該シアノバクテリアはエチレン産生能力を維持して継代できると合理的に推測された。当該シアノバクテリアの培養条件を適宜調整することで、よりエチレン産生活性が上昇すると推測された。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明により有用な光合成生物が提供される。更には、当該光合成生物の有効な利用方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1のコヘシンドメインC1及び少なくとも1のコヘシンドメインC2を含む骨格蛋白質と、
当該骨格蛋白質の前記コヘシンドメインC1の一部又は全部に結合した、ACC合成酵素及び前記コヘシンドメインC1と結合するドックリンドメインD1を含むACC合成酵素サブユニットと、
当該骨格蛋白質の前記コヘシンドメインC2の一部又は全部に結合した、ACC酸化酵素及び前記コヘシンドメインC2と結合するドックリンドメインD2を含むACC酸化酵素サブユニットと、
を含む人工酵素複合体を産生するように形質転換したことを特徴とする光合成生物。
【請求項2】
前記人工酵素複合体に含まれるACC合成酵素サブユニット数に対するACC酸化酵素サブユニット数の比率(ACC酸化酵素サブユニット数/ACC合成酵素サブユニット数)が1を超えることを特徴とする請求項1に記載の光合成生物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−74814(P2013−74814A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215487(P2011−215487)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(599002043)学校法人 名城大学 (142)
【Fターム(参考)】