説明

光吸収構造体とその製造方法、およびレンズ鏡筒

【課題】表面反射を抑制した光吸収構造体を提供する。
【解決手段】所定の波長以上の光反射を抑制する光吸収構造体の製造方法であって、溶媒に不溶の有機樹脂材料中に溶媒に可溶性を有するナノサイズの無機材料微粒子を分散させて複合材料を形成するステップ(S104、S105)と、複合材料を溶媒に浸漬して無機材料微粒子を溶解除去し、所定の光の波長以下のピッチを有する複数の微小凹部を形成するステップ(S107)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光吸収構造体とその製造方法に関し、特に、低屈折率の樹脂材料に分散された無機微粒子により形成された微小凹部を有し反射抑制作用を利用した光吸収構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、低屈折率物質を等価的に形成する方法として多孔性シリカ膜を用いることが知られている。例を挙げると、多孔性のシリカ中の空孔率を高めることで実質的に屈折率を低下させフレネル反射率を低減化する構成が特許文献1に開示されている。
【0003】
また、高分子樹脂材料の溶液を流延ベルト上でキャスティングする際に結露させ、有機溶媒と水の沸点の差を用いて多孔性のハニカム構造を付与する構成が特許文献2に開示されている。
【0004】
また、ポリマー材料に空孔形成の鋳型になるテンプレート剤と重合反応開始剤を混ぜたものを基板に塗布後硬化させ、テンプレート剤を有機溶媒で溶解除去し、実質的に屈折率を低下させてフレネル反射率を低減させる構成が特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−15309号公報
【特許文献2】特開2006−70254号公報
【特許文献3】特開2006−69207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示された多孔性シリカ膜を形成する際、密着性確保のためには基板の事前洗浄と表面処理が必要であることに加え、50〜2000nmの成膜厚みでは基本的に平板状の基板に塗布する工程が必要であり、厚みの制御が困難であるという問題があった。
【0007】
また、上記特許文献2に開示されたキャスティングによる多孔性のハニカム構造の形成方法は、脱溶媒処理が必要なため厚いフィルムの生産性に限界がある、また溶媒回収工程が必要など設備が大型化するという問題があった。
【0008】
また、上記特許文献3に開示された構成では、鋳型として用いるテンプレート剤の凝集を避けながらナノポア構造のポリマー膜の重合を進めるため、それぞれの材料の粘度、重量比などのパラメータに制約があり適用可能な材料が限られるという問題があった。
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、少なくとも表面に微小空孔を形成することにより表面反射を抑制した光吸収構造体とその製造方法、およびそれを用いたレンズ鏡筒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するために、本発明の光吸収構造体は、所定の波長以上の光反射を抑制する光吸収構造体であって、溶媒に不溶の樹脂材料からなる樹脂層と、樹脂層の少なくとも表面に形成された所定の波長以下のピッチを有する複数の微小凹部と、樹脂層の所定の深さ領域に分散させた溶媒に可溶性を有するナノサイズの無機材料微粒子とを備えている。
【0011】
また、本発明の光吸収構造体の製造方法は、所定の波長以上の光反射を抑制する光吸収構造体の製造方法であって、溶媒に不溶の有機樹脂材料中に溶媒に可溶性を有するナノサイズの無機材料微粒子を分散させて複合材料を形成するステップと、複合材料を溶媒に浸漬して無機材料微粒子を溶解除去し、所定の光の波長以下のピッチを有する複数の微小凹部を形成するステップとを備えている。
【0012】
また、本発明のレンズ鏡筒は、内面に光吸収構造体を有するレンズ鏡筒であって、光吸収構造体が、溶媒に不溶の樹脂材料からなる樹脂層と、樹脂層の少なくとも表面に形成された所定の波長以下のピッチを有する複数の微小凹部と、樹脂層の所定の深さ領域に分散させた溶媒に可溶性を有するナノサイズの無機材料微粒子とを備えている。
【0013】
これらの構成により、光吸収構造体表面に光の波長以下の大きさの複数の微小凹部が形成されるので、優れた表面反射抑制効果を発現し、同時に有機樹脂材料の屈折率と空孔率によって決まる等価屈折率を低下させ、より反射抑制効果に優れた光吸収構造体を実現することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、光の反射が少ない光吸収構造体を安価に、容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1、2、3における光吸収構造体の概要を示す図である。
【図2】図1に示す光吸収構造体の表面部の部分拡大断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1、2、3における光吸収構造体の製造方法を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態4におけるレンズ鏡筒を示す断面図である。
【図5】図4に示すレンズ鏡筒のA部の詳細を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施の形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
【0017】
(実施の形態1)
実施の形態1における光吸収構造体およびその製造方法について、図1、図2および図3を用いて説明する。
【0018】
図1は実施の形態1における光吸収構造体100の概要を示す図、図2は図1に示す光吸収構造体100の表面部101の詳細を示す部分拡大断面図、図3は実施の形態1における光吸収構造体100の製造方法を示すフローチャートである。
【0019】
実施の形態1における光吸収構造体100では、屈折率1.53以下の低屈折率の有機樹脂材料102として、屈折率1.52で、溶媒としての水に不溶の硬質塩化ビニル樹脂を用いている。溶媒である水に可溶性を有する無機材料微粒子103として塩化ナトリウムを用いている。
【0020】
図3を用いて、実施の形態1における光吸収構造体100を形成する製造方法について説明する。図3に示すように、有機樹脂材料102の硬質塩化ビニル樹脂と無機材料微粒子103の塩化ナトリウム微粒子とを準備する(ステップS101、ステップS102)。このとき、無機材料微粒子103の粒径としては、平均粒子径が100nmであり、可視光の短波長側波長400nmの1/3以下の粒径となるようにしている。なお、有機樹脂材料102が硬質塩化ビニル樹脂のような透明樹脂の場合は、予め染料または顔料により黒色に着色して用いている。
【0021】
次に、有機樹脂材料102の硬質塩化ビニル樹脂を加熱軟化して流動化させ(ステップS103)、これに無機材料微粒子103の塩化ナトリウムの微粒子を添加し(ステップS104)攪拌混練することで、ナノサイズの無機材料微粒子103を有機樹脂材料102中に均一に分散させて複合材料を形成する(ステップS105)。続いて、この複合材料を、例えばレンズ鏡筒の内面などに塗布することによって所定の形状に加工する(ステップS106)。
【0022】
実施の形態1では、無機材料微粒子103として、水に溶解する塩化ナトリウムを用いている。そのため、所定の形状に加工された複合材料を溶媒の水に浸漬させると、図2に示すように、表面側にある塩化ナトリウムの無機材料微粒子103は溶媒の水により溶解、除去され(ステップS107)、少なくとも表面側にはその空隙としての微小凹部104が形成される。このとき、無機材料微粒子103の粒径としては、平均粒子径が100nmであり、可視光の短波長側波長400nmの1/3以下の粒径となるようにしていることから、形成された微小凹部104は可視光の所定の波長以下のピッチを有している。そのため、表面反射が抑えられた光吸収構造体100が形成されることになる(ステップS108)。
【0023】
また、溶媒となる水は表面部から内部に浸透して表面近傍に存在する無機材料微粒子103を溶解し、有機樹脂材料102中で無機材料微粒子103が凝集している部分では表面から有機樹脂材料102の内部に向って微小凹部104が形成される。無機材料微粒子103が特にナノサイズの微粒子の場合には、有機樹脂材料102中に完全な単独粒子として分散しにくいため、凝集した微粒子によって表面側から有機樹脂材料102中の所定深さまで微小凹部104が形成される。その結果、図2に示すように、有機樹脂材料102の所定深さの領域からは無機材料微粒子103が溶解せずに存在することになる。
【0024】
したがって、等価的な屈折率が表面から中心部に向って小から大に変化し、光吸収構造体100の反射をより一層抑制することが可能になっている。
【0025】
なお、実施の形態1では、有機樹脂材料102として屈折率1.52の硬質塩化ビニルを用いている。そのため、有機樹脂材料102中で無機材料微粒子103が除去されて形成された微小凹部104の割合を示す空孔率が0.57であれば等価的な屈折率は1.26になり、微小凹部204の形成が十分でなくても反射が抑制される。なお、空孔率が0.64であれば等価的な屈折率は1.22になり、微小凹部104の形成が十分でなくても反射がさらに抑制される。したがって、有機樹脂材料102中に微小凹部104を形成することによって有機樹脂材料102の強度低下を起こすことなく、等価屈折率を低下させることが可能になる。
【0026】
なお、実施の形態1における光吸収構造体100は、有機樹脂材料102である硬質塩化ビニル樹脂を黒色に着色して用いている。そのため、光吸収構造体100内部に侵入した光は吸収減衰され再度表面から射出することが困難となる。
【0027】
さらに、実施の形態1における光吸収構造体100は、無機材料微粒子103の平均粒子径を所定の波長の1/3以下とすることで、光吸収構造体100の少なくとも表面の微小凹部204のピッチが所定の光の波長以下となった微細構造となり反射が抑制される。
【0028】
このとき、同時に、無機材料微粒子203と無機材料微粒子203が溶解除去された微小凹部204として形成された空孔による散乱を抑制する。
【0029】
なお、上述の説明では、溶媒に可溶性を有するナノサイズの無機材料微粒子103として、塩化ナトリウムを例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、塩化ナトリウムに代えてナノサイズの安価な塩化カリウム、臭化カリウム等の塩を用いても同様にして光吸収構造体100を得ることができる。
【0030】
また、溶媒として水を例に挙げて説明したが、水に代えて無機材料微粒子103に対して可溶性を有する各種の酸を用いることもできる。
【0031】
(実施の形態2)
実施の形態2における光吸収構造体およびその製造方法について、図1、図2および図3を用いて説明する。なお、実施の形態2における光吸収構造体およびその製造方法が実施の形態1と異なるのは、有機樹脂材料の材料組成と、無機材料微粒子の材料組成とが異なるのみである。そのため、実施の形態1と同様の図1〜図3を用いて説明する。
【0032】
すなわち、図1は実施の形態2における光吸収構造体200の概要を示す図、図2は図1に示す光吸収構造体200の表面部201の詳細を示す部分拡大断面図、図3は実施の形態2における光吸収構造体200の製造方法を示すフローチャートである。
【0033】
実施の形態2における光吸収構造体200では、有機樹脂材料202として、屈折率1.49で、溶媒としての酸に不溶のアクリル樹脂を用い、アクリル樹脂は顔料としてのカーボンブラックによって黒色になっている。また、溶媒である酸に可溶性を有する無機材料微粒子203として、平均粒子径が40nmで可視光の短波長側の波長400nmの1/10以下に微粒化されたフッ化マグネシウムを用いている。
【0034】
図3を用いて、実施の形態2における光吸収構造体200を形成する製造方法について説明する。図3に示すように、有機樹脂材料202のアクリル樹脂と無機材料微粒子203のフッ化マグネシウム微粒子とを準備する(ステップS101、ステップS102)。このとき、無機材料微粒子103の粒径としては、平均粒子径が40nmであり、可視光の短波長側波長400nmの1/10以下の粒径となるようにしている。なお、有機樹脂材料202のアクリル樹脂は、前述のように予めカーボンブラックにより黒色に着色されている。
【0035】
次に、有機樹脂材料202のアクリル樹脂を加熱軟化して流動化させ(ステップS103)、これに無機材料微粒子203のフッ化マグネシウムの微粒子を添加し(ステップS104)攪拌混練することで、ナノサイズの無機材料微粒子203を有機樹脂材料202中に均一に分散させて複合材料を形成する(ステップS105)。続いて、この複合材料を、例えばレンズ鏡筒の内面などに塗布することによって所定の形状に加工する(ステップS106)。
【0036】
実施の形態2では、無機材料微粒子203として、酸に溶解するフッ化マグネシウムを用いている。そのため、所定の形状に加工された複合材料を溶媒の酸である硝酸に浸漬させると、図2に示すように、表面側にあるフッ化マグネシウムの無機材料微粒子203は溶媒の酸により溶解、除去され(ステップS107)、少なくとも表面側にはその空隙としての微小凹部204が形成される。このとき、無機材料微粒子203の粒径としては、平均粒子径が40nmであり、可視光の短波長側波長400nmの1/10以下の粒径となるようにしていることから、形成された微小凹部204は可視光の所定の波長以下のピッチを有している。そのため、表面反射が抑えられた光吸収構造体200が形成されることになる(ステップS108)。
【0037】
また、溶媒となる酸は表面部から内部に浸透して表面近傍に存在する無機材料微粒子203を溶解し、有機樹脂材料202中で無機材料微粒子203が凝集している部分では表面から有機樹脂材料202の内部に向って微小凹部204が形成される。無機材料微粒子203が特にナノサイズの微粒子の場合には、有機樹脂材料202中に完全な単独粒子として分散しにくいため、凝集した微粒子によって表面側から有機樹脂材料202中の所定深さまで微小凹部204が形成される。その結果、図2に示すように、有機樹脂材料202の所定深さの領域からは無機材料微粒子203が溶解せずに存在することになる。
【0038】
したがって、等価的な屈折率が表面から中心部に向って小から大に変化し、光吸収構造体200の反射をより一層抑制することが可能になっている。
【0039】
なお、実施の形態2では、有機樹脂材料202として屈折率1.49のアクリル樹脂を用いている。そのため、有機樹脂材料202中で無機材料微粒子203が除去されて形成された微小凹部204の割合を示す空孔率が0.53であれば等価的な屈折率は1.25になり、微小凹部204の形成が十分でなくても反射が抑制される。なお、空孔率が0.6であれば等価的な屈折率は1.22になり、微小凹部204の形成が十分でなくても反射がさらに抑制される。したがって、有機樹脂材料202中に微小凹部204を形成することによって有機樹脂材料202の強度低下を起こすことなく、等価屈折率を低下させることが可能になる。
【0040】
なお、実施の形態2における光吸収構造体200は、有機樹脂材料202であるアクリル樹脂を黒色に着色して用いている。そのため、光吸収構造体200内部に侵入した光は吸収減衰され再度表面から射出することが困難となる。
【0041】
さらに、実施の形態2における光吸収構造体200は、無機材料微粒子203の平均粒子径を所定の波長の1/10以下とすることで、光吸収構造体200の少なくとも表面の微小凹部204のピッチを所定の光の波長以下とし、斜め入射に対する反射をより抑制することができる。
【0042】
なお、上述の説明では、硝酸に可溶性を有するナノサイズの無機材料微粒子203として、フッ化マグネシウム例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、フッ化マグネシウムの代わりにフッ化カルシウムを用いても同様にして光吸収構造体200を得ることができる。また、フッ化カルシウムを無機材料微粒子203として用いる場合は、溶媒として酸に代えて水を用いることもできる。
【0043】
(実施の形態3)
実施の形態3における光吸収構造体およびその製造方法について、図1、図2および図3を用いて説明する。なお、実施の形態3における光吸収構造体およびその製造方法が実施の形態1および実施の形態2と異なるのは、有機樹脂材料の材料組成と、無機材料微粒子の材料組成とが異なるのみである。そのため、実施の形態1および実施の形態2と同様の図1〜図3を用いて説明する。
【0044】
すなわち、図1は実施の形態3における光吸収構造体300の概要を示す図、図2は図1に示す光吸収構造体300の表面部301の詳細を示す部分拡大断面図、図3は実施の形態3における光吸収構造体300の製造方法を示すフローチャートである。
【0045】
実施の形態3における光吸収構造体300では、有機樹脂材料302として、屈折率1.36で、溶媒としての酸である塩酸に不溶のフッ素系ポリマー樹脂を用い、顔料としてのカーボンブラックによって黒色になっている。また、溶媒である塩酸に可溶性を有する無機材料微粒子303として、平均粒子径が10nmで可視光の短波長側の波長400nmの1/30以下に微粒化されたアルミニウムを用いている。
【0046】
図3を用いて、実施の形態3における光吸収構造体300を形成する製造方法について説明する。図3に示すように、有機樹脂材料302のフッ素系ポリマー樹脂と無機材料微粒子303のアルミニウム微粒子とを準備する(ステップS101、ステップS102)。このとき、無機材料微粒子303の粒径としては、平均粒子径が10nmであり、可視光の短波長側波長400nmの1/30以下の粒径となるようにしている。なお、有機樹脂材料302のフッ素系ポリマー樹脂は、前述のように予めカーボンブラックにより黒色に着色されている。
【0047】
次に、有機樹脂材料302のフッ素系ポリマー樹脂を加熱軟化して流動化させ(ステップS103)、これに無機材料微粒子303のアルミニウムの微粒子を添加し(ステップS104)攪拌混練することで、ナノサイズの無機材料微粒子303を有機樹脂材料302中に均一に分散させて複合材料を形成する(ステップS105)。続いて、この複合材料を、例えばレンズ鏡筒の内面などに塗布することによって所定の形状に加工する(ステップS106)。
【0048】
実施の形態3では、無機材料微粒子303として、塩酸に溶解するアルミニウムを用いている。そのため、所定の形状に加工された複合材料を溶媒である塩酸に浸漬させると、図2に示すように、表面側にあるアルミニウムの無機材料微粒子303は溶媒の塩酸により溶解、除去され(ステップS107)、少なくとも表面側にはその空隙としての微小凹部304が形成される。このとき、無機材料微粒子303の粒径としては、平均粒子径が10nmであり、可視光の短波長側波長400nmの1/30以下の粒径となるようにしていることから、形成された微小凹部304は可視光の所定の波長以下のピッチを有している。そのため、表面反射が抑えられた光吸収構造体300が形成されることになる(ステップS108)。
【0049】
また、溶媒となる塩酸は表面部から内部に浸透して表面近傍に存在する無機材料微粒子303を溶解し、有機樹脂材料302中で無機材料微粒子303が凝集している部分では表面から有機樹脂材料302の内部に向って微小凹部304が形成される。無機材料微粒子303が特にナノサイズの微粒子の場合には、有機樹脂材料302中に完全な単独粒子として分散しにくいため、凝集した微粒子によって表面側から有機樹脂材料302中の所定深さまで微小凹部304が形成される。その結果、図2に示すように、有機樹脂材料302の所定深さの領域からは無機材料微粒子303が溶解せずに存在することになる。
【0050】
したがって、等価的な屈折率が表面から中心部に向って小から大に変化し、光吸収構造体300の反射をより一層抑制することが可能になっている。
【0051】
なお、実施の形態3では、有機樹脂材料302として屈折率1.36のフッ素系ポリマー樹脂を用いている。そのため、有機樹脂材料302中で無機材料微粒子303が除去されて形成された微小凹部304の割合を示す空孔率が0.32であれば等価的な屈折率は1.26になり、微小凹部304の形成が十分でなくても反射が抑制される。なお、空孔率が0.42であれば等価的な屈折率は1.22になり、微小凹部304の形成が十分でなくても反射がさらに抑制される。したがって、有機樹脂材料302中に微小凹部304を形成することによって有機樹脂材料302の強度低下を起こすことなく、等価屈折率を低下させることが可能になる。
【0052】
なお、実施の形態3における光吸収構造体300は、有機樹脂材料302であるフッ素系ポリマー樹脂を黒色に着色して用いている。そのため、光吸収構造体300内部に侵入した光は吸収減衰され再度表面から射出することが困難となる。
【0053】
さらに、実施の形態3における光吸収構造体300は、無機材料微粒子303の平均粒子径を所定の波長の1/30以下とすることで、光吸収構造体300の少なくとも表面の微小凹部304のピッチを所定の光の波長以下とし、斜め入射に対する反射をより一層抑制して、微小凹部304による散乱を抑制することができる。
【0054】
なお、上述の説明では、硝酸に可溶性を有するナノサイズの無機材料微粒子303として、アルミニウムを例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、アルミニウムの代わりに鉄、銅、亜鉛などの金属でも各々に最適な酸を溶媒として用いることができる。
【0055】
(実施の形態4)
実施の形態4では、実施の形態1から実施の形態3で説明した光吸収構造体をレンズ鏡筒に適用した場合について説明する。図4は実施の形態4におけるレンズ鏡筒を示す断面図であり、図5は図4に示すレンズ鏡筒のA部の詳細を示す断面図である。
【0056】
レンズ鏡筒500は円筒形状を有し、外筒部501とその内面に形成された内筒部502とにより構成されている。このような構成は射出成形の2色成型法などを用いて形成され、レンズ鏡筒500の外筒部501を成形後、その内面に内筒部502を形成している。
【0057】
ここで、実施の形態4では、内筒部502が実施の形態1から実施の形態3で述べた光吸収構造体によって形成されている。すなわち、図5に示すように、内筒部502は溶媒に不溶の樹脂材料からなる樹脂層503と、樹脂層503の少なくとも表面、すなわちレンズ鏡筒500の中心側に形成された所定の波長以下のピッチを有する複数の微小凹部504と、樹脂層503の所定の深さ領域に分散させた溶媒に可溶性を有するナノサイズの無機材料微粒子505とを備えている。
【0058】
実施の形態1から実施の形態3で述べた光吸収構造体を製造する際の複合材料を、レンズ鏡筒500の内筒部502として形成し、その後、溶媒への浸漬処理によって、少なくとも内筒部502の表面側に微小凹部504を形成するようにしている。
【0059】
このように構成した内筒部502は、実施の形態1から実施の形態3で述べた光吸収構造体と同様の、反射抑制効果を有する。すなわち、レンズ鏡筒500の内面に入射する光が吸収され、撮像フィルムあるいは撮像素子にフレアとして入射することを抑制し、フレアのない高コントラストの撮像光学系を実現することができる。
【0060】
なお、上述の実施の形態1から実施の形態3においてそれぞれ例示した有機樹脂材料や無機材料微粒子は一例であって、レンズ鏡筒500に適用するに当たってこれらの材料に限定されることはなく、他の樹脂材料でも同様に扱うことができる。
【0061】
なお、上述の実施の形態1から実施の形態3で述べた光吸収構造体において、有機樹脂材料の屈折率xと、無機材料微粒子の溶解除去によって形成される光吸収構造体中の空孔率yとによる反射抑制効果を調べた。その結果、光吸収構造体の反射抑制効果を高めるために、以下の条件であることが望ましいことを見出している。
【0062】
すなわち、次式によれば等価屈折率を低下させ反射を抑制することができる。
【0063】
−0.05<y+0.025x−0.205x−0.14
また、さらに望ましくは、次式のようにすると、より等価屈折率を低下させ反射を抑制し、同時に光吸収構造体としての機械的特性の低下をも抑制することができる。
【0064】
−0.05<y+0.02x−0.17x−0.27
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明における光吸収構造体は、表面に入射する光の反射を抑制することができるため、レンズ鏡筒におけるフレアを低減することができるなど撮像光学系などに有用である。
【符号の説明】
【0066】
100,200,300 光吸収構造体
101,201,301 表面部
102,202,302 有機樹脂材料
103,203,303,505 無機材料微粒子
104,204,304,504 微小凹部
500 レンズ鏡筒
501 外筒部
502 内筒部
503 樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の波長以上の光反射を抑制する光吸収構造体であって、溶媒に不溶の樹脂材料からなる樹脂層と、前記樹脂層の少なくとも表面に形成された所定の波長以下のピッチを有する複数の微小凹部と、前記樹脂層の所定の深さ領域に分散させた前記溶媒に可溶性を有するナノサイズの無機材料微粒子とを備えたことを特徴とする光吸収構造体。
【請求項2】
前記樹脂材料と前記無機材料微粒子とで複合材料を構成し、前記複合材料における前記無機材料微粒子が前記溶媒で溶解除去された部分の空孔率が0.57以上であることを特徴とする請求項1に記載の光吸収構造体。
【請求項3】
前記無機材料微粒子が前記溶媒で溶解除去された部分の空孔率をy、前記樹脂材料の所定の波長における屈折率をxとしたとき、下記の式(1)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の光吸収構造体。
−0.05<y+0.025x−0.205x−0.14 ・・・ (1)
【請求項4】
前記微小凹部のサイズが100nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の光吸収構造体。
【請求項5】
前記樹脂材料が黒色であることを特徴とする請求項1に記載の光吸収構造体。
【請求項6】
所定の波長以上の光反射を抑制する光吸収構造体の製造方法であって、溶媒に不溶の有機樹脂材料中に前記溶媒に可溶性を有するナノサイズの無機材料微粒子を分散させて複合材料を形成するステップと、前記複合材料を前記溶媒に浸漬して前記無機材料微粒子を溶解除去し、所定の光の波長以下のピッチを有する複数の微小凹部を形成するステップとを備えたことを特徴とする光吸収構造体の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂材料と前記無機材料微粒子とで複合材料を構成し、前記複合材料における前記無機材料微粒子が前記溶媒で溶解除去された部分の空孔率を0.57以上としたことを特徴とする請求項6に記載の光吸収構造体の製造方法。
【請求項8】
前記無機材料微粒子が前記溶媒で溶解除去された部分の空孔率をy、前記樹脂材料の所定の波長における屈折率をxとしたとき、下記の式(2)を満たすことを特徴とする請求項6に記載の光吸収構造体の製造方法。
−0.05<y+0.025x−0.205x−0.14 ・・・ (2)
【請求項9】
前記無機材料微粒子が金属塩であることを特徴とする請求項6に記載の光吸収構造体の製造方法。
【請求項10】
前記無機材料微粒子がフッ化物であることを特徴とする請求項6に記載の光吸収構造体の製造方法。
【請求項11】
前記無機材料微粒子が金属であることを特徴とする請求項6に記載の光吸収構造体の製造方法。
【請求項12】
前記樹脂材料が黒色であることを特徴とする請求項6に記載の光吸収構造体の製造方法。
【請求項13】
前記樹脂材料中に分散させる前記無機材料微粒子の平均粒子径が100nm以下であることを特徴とする請求項6に記載の光吸収構造体の製造方法。
【請求項14】
内面に光吸収構造体を有するレンズ鏡筒であって、前記光吸収構造体が、溶媒に不溶の樹脂材料からなる樹脂層と、前記樹脂層の少なくとも表面に形成された所定の波長以下のピッチを有する複数の微小凹部と、前記樹脂層の所定の深さ領域に分散させた前記溶媒に可溶性を有するナノサイズの無機材料微粒子とを備えたことを特徴とするレンズ鏡筒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−59548(P2011−59548A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211391(P2009−211391)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】