説明

光周波数分割多重送信システムにおける同期プロセス

本発明は、光直交周波数分割多重(OOFDM)トランシーバの受信部において受信速度を向上させることのできる同期方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光直交周波数分割多重(OOFDM)トランシーバを用いた信号送信の分野に関し、さらに、受信プロセスを改善する同期方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光直交周波数分割多重(OFDM)変調技術を用いることで、マルチモードファイバ(MMF)伝送路における光モード分散を小さくする技術は公知であり、例えば、非特許文献1に開示されている。その効果と挙げられるのは、分散障害への耐性が大きいこと、チャネルスペクトル特性の効率的利用、成熟したデジタル信号処理(DSP)の活用によるコストの効率化、周波数領域および時間領域の両方におけるハイブリッド帯域割り当ての動的実施、そして、光ネットワークの複雑性を大幅に軽減できること、である。
【0003】
また、これは更に、シングルモードファイバ(SMF)を用いた長距離送信システムにおける分散補償およびスペクトル効率に関しても効果を有する。こうした効果については、例えば、非特許文献2または非特許文献3に記載されている。
OOFDMの送信性能については、長距離伝送を含む全ての光ネットワークシナリオに関する研究が行われ、報告がなされている。例えば、非特許文献4あるいは非特許文献5に記載されたもの。また、例えば、非特許文献6や非特許文献7に記載された大都市圏ネットワーク。あるいは、例えば、非特許文献8または非特許文献9に記載されたローカルエリアネットワーク。
【0004】
従来技術の既存システムは全て、オフライン信号処理生成波形を用いた任意波形発生器(AWG)からのOOFDM信号の送信が基礎となっている。受信機では、送信されたOOFDM信号がデジタル記憶オシロスコープ(DSO)で取り込まれ、取り込まれたOOFDMシンボルをオフライン処理して受信データが回復される。こうしたオフライン信号処理の手法では、リアルタイム送信を保証するのに必要な実際のDSPハードウェアの精度および速度により課せられる限界は考慮されない。
【0005】
例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3に記載された他の技術には、直交周波数分割多重(OFDM)符号化信号において受信されるデータシンボルのガードインターバルの境界の決定方法が開示されている。この方法では、データシンボルのアクティブインターバルの間隔だけ隔てられた時間信号がペアとして関連付けされ、差分信号が得られる。差分信号の第1および第2の比較ブロックの分散が比較される(ここで、第2の比較ブロックは第1の比較ブロックからnサンプルだけ離れた位置にある)。
【0006】
特許文献4および特許文献5には、OFDMで送信されるマルチキャリア信号用のデジタル受信機を、チップを1つだけ用いて実現することが開示されている。これには、信号のアクティブフレームと共に伝送されるガードインターバルの境界を定めるために、再サンプリング回路に連結された改良型のFFT窓同期回路が含まれている。
特許文献6には、受信機において、振幅差および位相差の両方を別々に考慮しながら行われる同期処理が開示されている。これによれば、ガード期間サンプルが処理される期間と処理されない期間とが明確に区別される。
【0007】
特許文献7では、信号はシンボルブロックにおいてフォーマットされており、そこでは各ブロックが冗長情報を有する。また、シンボルブロックを遅延させ、当該遅延させたシンボルブロックを対応するシンボルブロックから減算する、という処理を行う手段を有する。そして、クロック周波数で動作するローカル発振器を含むループを、差分信号を用いて制御する。
【0008】
特許文献8には、以下の構成を有する同期装置が開示されている。
(a)時間T1の間に入って来る入力複素信号の振幅を算出する信号振幅算出部;
(b)信号振幅算出部から受信した信号を遅延させる第1遅延部;
(c)入力複素信号から(b)の遅延信号を減算する第1加算部;
(d)(c)で得られる差分を対象に絶対値信号を生成する絶対値算出部;
(e)(d)の絶対値信号を遅延させる第2遅延部;
(f)(d)の絶対値信号から(e)の遅延信号を減算する第2加算部;
(g)時間T2の間に受信された信号の合計を算出する移動窓合計部;
(h)時間T1の間の集計部の値を比較して所定の点の探索を行う探索部;
(i)(h)で探索された位置を使用するガードインターバル除去部。
【0009】
特許文献9では、同期はフレーム同期パルスを用いて実現され、当該フレーム同期パルスは以下の手順で生成される。すなわち、OFDMシンボルの連続複素サンプルの絶対値を抽出し、これらの値と、OFDMシンボルの実部を示す期間だけ隔てられた他の値との差分を求め、複数シンボルにわたって差分を積分し、そして、当該積分した差分の値が実質的に変化した点であるサンプル位置を求める。
【0010】
特許文献10では、マルチキャリアシステムの受信機におけるシンボル境界タイミングを、以下の手順で検出する。
− 有線チャネル上で一連の受信トレーニング信号を受信し;
− これらの一連の信号のうち少なくとも3つをバッファに保存し;
− バッファに保存した連続する受信トレーニング信号の組について差分値を求め;
− 差分値のうち1つを選択し;
− 選択した差分値に基づいて受信シンボル境界タイミングを決定する。
【0011】
公知のシステムは、適応変調光OFDM(AMOOFDM)として知られる信号変調技術を導入することで改善され、以下の効果を実現するものとなっている。
− 柔軟性、頑丈さ、そして最適送信性能;
− 伝送路のスペクトル特性の有効利用、シンボル内の個々のサブキャリアを周波数領域での必要に応じて変更可能であること;
− 既存のマルチモードファイバが使用できること;
− 設置および保守のコストが低いこと。
【0012】
これらの点については、例えば、非特許文献10または非特許文献11に記載され、議論されている。また、それ以外の特性として、以下のものがある。
− アナログデジタル変換(ADC)に関連する信号量子化およびクリッピング効果の影響、および、最適ADCパラメータの決定;
− 送信性能の最大化。
【0013】
これらについては、非特許文献12に記載されている。
リアルタイムOOFDMトランシーバを実現するためには、ある程度の複雑性を有する高度な高速信号処理アルゴリズムを開発する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第98/19410号
【特許文献2】欧州特許公開第840485号明細書
【特許文献3】米国特許第5953311号明細書
【特許文献4】米国特許第6359938号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2003/0142764号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2004/0208269号明細書
【特許文献7】米国特許第5555833号明細書
【特許文献8】欧州特許公開第1296493号明細書
【特許文献9】英国特許公開第2353680号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開2005/0276340号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Jolley et al. (N.E. Jolley, H. Kee, R. Richard, J. Tang, K. Cordina, presented at the National Fibre Optical Fibre Engineers Conf., Annaheim, CA, March 11, 2005, Paper OFP3)
【非特許文献2】Lowery et al. (A.J. Lowery, L. Du, J. Armstrong, presented at the National Fibre Optical Fibre Engineers Conf., Annaheim, CA, March 5, 2006, paper PDP39)
【非特許文献3】Djordjevic and Vasic (I.B. Djordjevic and B. Vasic, in Opt. express, 14, no.9, 37673775, 2006)
【非特許文献4】Masuda et al.( H. Masuda, E. Yamazaki, A. Sano, T. Yoshimatsu, T. Kobayashi, E. Yoshida, Y. Miyamoto, S. Matsuoka, Y. Takatori, M. Mizoguchi, K. Okada, K. Hagimoto, T. Yamada, and S. Kamei, "13.5-Tb/s (135x111 -Gb/s/ch) no-guard-interval coherent OFDM transmission over 6248km using SNR maximized second-order DRA in the extended L-band," Optical Fibre Communication/National Fibre Optic Engineers Conference (OFC/NFOEC), (OSA, 2009), Paper PDPB5)
【非特許文献5】Schmidt et al. (B.J.C. Schmidt, Z. Zan, L.B. Du, and A.J. Lowery, "100 Gbit/s transmission using single-band direct-detection optical OFDM," Optical Fibre Communication/National Fibre Optic Engineers Conference (OFC/NFOEC), (OSA, 2009), Paper PDPC3)
【非特許文献6】Duong et al. (T. Duong, N. Genay, P. Chanclou, B. Charbonnier, A. Pizzinat, and R. Brenot, "Experimental demonstration of 10 Gbit/s for upstream transmission by remote modulation of 1 GHz RSOA using Adaptively Modulated Optical OFDM for WDM-PON single fiber architecture," European Conference on Optical Communication (ECOC), (Brussels, Belgium, 2008), PD paper Th.3. F.1 )
【非特許文献7】Chow et al. (C.-W. Chow, C.-H. Yeh, C.-H. Wang, F.-Y. Shih, C.-L. Pan and S. Chi, "WDM extended reach passive optical networks using OFDM-QAM," Optics Express, 16, 12096-12101, July 2008)
【非特許文献8】Qian et al. (D. Qian, N. Cvijetic, J. Hu, and T. Wang, "108 Gb/s OFDMA-PON with polarization multiplexing and direct-detection," Optical Fibre Communication/National Fibre Optic Engineers Conference (OFC/NFOEC), (OSA, 2009), Paper PDPD5)
【非特許文献9】Yang et al. (H. Yang, S.C.J. Lee, E. Tangdiongga, F. Breyer, S. Randel, and A.M.J. Koonen, "40-Gb/s transmission over 100m graded-index plastic optical fibre based on discrete multitone modulation," Optical Fibre Communication/National Fibre Optic Engineers Conference (OFC/NFOEC), (OSA, 2009), Paper PDPD8)
【非特許文献10】Tang et al. (J. Tang, P.M. Lane and K.A. Shore in IEEE Photon. Technol. Lett, 18, no.1, 205-207, 2006 and in J. Lightw. Technol., 24, no.1, 429-441, 2006)
【非特許文献11】Tang and Shore (J. Tang and K.A. Shore, in J. Lightw. Technol., 24, no.6, 2318-2327, 2006)
【非特許文献12】Tang and Shore (J. Tang and K.A. Shore, in J. Lightw. Technol., 25, no.3, 787-798, 2007)
【非特許文献13】Tang et al. (Tang J.M., Lane P.M., Shore A., in Journal of Lightwave Technology, 24, 429, 2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、伝送路の時間遅延によって生じるシンボルタイミングオフセットを補正することを目的とする。
また、本発明は、送信機と受信機との間のクロック不一致、または、ファイバおよび/またはレーザの影響に起因する受信信号の時間領域拡張によって生じるサンプリングクロックオフセットを補正することを目的とする。
【0017】
また、本発明は、伝送路条件の変化に対する耐性を向上させることを目的とする。
更に、本発明は処理速度を高めることを目的とする。
また、本発明はノイズに対する耐性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述の目的は、独立請求項に定義された本発明によって達成される。
【発明の効果】
【0019】
好適な実施の形態は従属請求項において定義されている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】トランシーバの受信側で用いられる同期システムを示す概略図である。
【図2】理論的に矩形の(theoretical square)プロファイルを、送信システムのインパルス応答を用いて畳み込み処理した結果として得られる同期プロファイルを示す図である。
【図3】ガウス窓を用いた処理を行った場合と行わなかった場合とで減算処理の結果を比較して示す図である。
【図4】ガウス窓を用いた処理を行った場合と行わなかった場合とで乗算処理の結果を比較して示す図である。
【図5】減算処理および乗算処理を用いた同期プロファイルの重心位置の確立において必要なサンプル数を比較して示す図である。
【図6】ガウス窓を用いた処理の前の正規化同期プロファイルを示す図である。
【図7】ガウス窓を用いた処理の後の正規化同期プロファイルを示す図である。
【図8】係数αの値の異なる複数のパターンで、受信光電力が−16dBmの場合の動的な重心(COG)の推移(evolution)を、秒単位の時間を横軸にして示す図である。
【図9】DQPSK、32−QAM、128−QAMの符号化OOFDM信号のそれぞれに関し、相対的なシンボルタイミングオフセット(STO)を横軸として、ビット誤り率(BER)性能を示す図である。
【図10】DQPSK、32−QAM、128−QAMの符号化OOFDM信号のそれぞれに関し、dBm単位の受信光電力を横軸としてBERを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、図1に示すOOFDMトランシーバの受信部で実行されるシンボル同期方法を開示するものであり、当該同期方法は以下のステップから成る;
(a)入力実数値サンプルを直列から並列に変換し、一方はオリジナルのシンボルを含み、他方は前記シンボルの時間遅延コピーを含む、という2つのOFDMシンボルグループとするステップと、
(b)Nをサンプルの総数とし、Lをサイクリックプレフィックスの長さとして、前記オリジナルのシンボルの位置xにおけるサンプルと前記時間遅延コピーの位置x+N−Lにおけるサンプルとの間で第1の減算を実行するステップと、
(c)位置xにおける減算結果の絶対値を同期レジスタに保存するステップと、
(d)前記オリジナルのシンボルの位置x+1におけるサンプルと対応する前記時間遅延コピーの位置x+1+N−Lにおけるサンプルとの間で第2の減算を実行するステップと、
(e)位置x+1における減算結果の絶対値を前記同期レジスタに保存するステップと、
(f)x=Nまでの減算を繰り返し、x=1として後続のサンプルを選択するステップと、
(g)前記同期レジスタが満杯になった時点で、αを算出値の増加幅を制御する係数、y(n−1)を前記同期レジスタに格納されていた同期ベクトル、x(n)を新たな同期ベクトルとして、y(n)=α.x(n)+(1−α).y(n−1)という式を用いて、新たな値の各々を格納されていた値と平均化することで、ランダムノイズおよび符号間干渉を最小化する、という形で前記同期レジスタの各スロットの再割り当てを行い、次の1周の減算を行うステップと、
(h)N個のシンボルを含むブロック多数にわたって演算を繰り返すことで整った(clean)同期プロファイルを生成するステップと、
(i)前記同期プロファイルを反転して窓を生成するステップと、
(j)前記窓の重心を算出して同期信号位置を決定するステップと、
(k)同期信号の位置に中心が位置づけられたガウス窓を用いてステップ(j)の窓の畳み込み処理を行うステップと、
(l)電圧制御発振器(VCO)を起動することで、受信機入力におけるサンプリングクロックを起動するステップと、
(m)クロックオフセットを補正するステップ。
【0022】
電圧制御発振器とは、電圧入力によって発振周波数が制御される発振回路であり、クロックジェネレータとして用いられる。電圧制御発振器はデジタル回路における演算の同期を取るためのタイミング信号を供給する。電圧制御水晶発振器VCXOクロックジェネレータの設計パラメータは、チューニング電圧範囲、中心周波数、周波数チューニング範囲、そして、出力信号のタイミングジッタである。ジッタは最小限としなければならない。VCXOのチューニング範囲は、通常は数ppm(parts per million)であり、この値は、通常0〜3ボルトの制御電圧範囲に対応している。
【0023】
本発明の属する分野で利用可能な送信機は、いかなるものでも、本発明の受信機と共に使用することができる。
本発明による好適な実施の形態では、送信機は、逆高速フーリエ変換の実部および虚部の両方を用いて2つの信号に関連した情報を伝達することで、光直交周波数分割多重(OOFDM)トランシーバの伝送容量を2倍にする。
【0024】
最も好適な実施の形態では、更に、半導体増幅器を用いて光波形を生成する。
この最も好適な2倍容量(double-capacity)送信機については、本出願と同じ日付で提出された2つの同時係属出願において詳細に開示されている。その方法は以下のステップから成る;
(a)入力バイナリデータ列を、異なる信号変調形式を用いて、連続した複素数に符号化するステップ;
(b)符号化した複素数データを直並列変換器で処理するステップ;
(c)2N並列データの2つの別個の集合({A}および{B})の和(sum)を生成するステップ(当該ステップにおいて、{A}および{B}は、nが1〜2N−1の範囲において、A2N-n=A*n、および、B2N-n=B*nの関係式を満たし(A*、B*はそれぞれAおよびBの複素共役である)、さらに、当該ステップにおいて、{A}および{B}は、Im{A0}=Im{AN}=Im{B0}=Im{BN}=0の関係式を満たす);
(d)現場プログラム可能ゲートアレイ(FPGA:Field Programmable Gate Array)を使用した変換論理(transform logic)関数アルゴリズムを用いて、時間領域から周波数領域への変換の逆の変換を、サブキャリアの2つの集合の和に適用して、並列の複素数OFDMシンボルを生成するステップであって、k番目のシンボルは以下の式で表すことができ、
kA+B(t)=Σn=0 to 2N-1kexp(i2πnΔft)+
Σn=0 to 2N-1kexp(i2πnΔft)
= Ik_A(t)+iQk_B(t)
上記の式において、Δfは隣接するサブキャリア同士の周波数間隔であり、IおよびQはそれぞれ同相成分、直交成分を表す;
(e)ステップ(d)の各シンボルの前にプレフィックスを挿入するステップ(当該プレフィックスは当該シンボルの終端部のコピーである)と;
(f)これら記号をシリアル化して長いデジタル列を生成するステップと;
(g)2つのデジタルアナログ変換器を用いて、デジタル列の実部および虚部をアナログ波形に変換するステップと;
(h)半導体増幅器システムに通すことで光波形を生成するステップと;
(i)光減衰器を通すステップ(必須ではない)と;
(j)シングルモードファイバ(SMF)、マルチモードファイバ(MMF)またはポリマ光ファイバ(POF)の伝送路に光信号を結合するステップと;
(k)光フィルタを用いるステップ(必須ではない)と、を有し、
前記送信機において、2つの複素信号Ak、Bkは逆変換への入力であること、を特徴とする方法。
【0025】
サイクリックプレフィックスは、上述したように、プロセスの送信部において導入される。
FPGAの各種構成要素については、本出願と同じ日付で提出された同時係属出願に詳細に記述されており、ここでは要約だけ述べる。
信号の変調フォーマットは、本技術分野において通常用いられるものであって、例えば、非特許文献13に記述されている。信号変調フォーマットは、差動バイナリ位相偏移変調(DBPSK)、差動4相位相偏移変調(DQPSK)、2p二次振幅変調(QAM)(pは3〜8の範囲であり、4〜6の間が好ましい)などがある。こうして情報は圧縮され、帯域幅を小さくすることができる。
【0026】
直並列コンバータは、符号化後の複素データシーケンスをトランケートして、間隔が密で均一な狭帯域データ(サブキャリア)の多数の集合とする。ここで、各集合は同数のサブキャリア2N(Nは8〜256の範囲)を含む。
本技術分野では通常、離散フーリエ変換又は高速フーリエ変換(DFT又はFFT)が用いられる。計算量が大幅に減るため、FFTを用いるのが好ましいが、それでも、必要な計算量が大きいことは変わらない。本発明では、2p点IFFT/FFT論理関数(pは4〜8の範囲の整数)を用いるのが好ましい。
【0027】
アナログデジタル変換器(ADC)は、連続的なアナログ信号を入力信号の強度に比例したデジタル値の流れに変換する電子装置である。
本発明で使用する光ファイバは、シングルモード光ファイバ、マルチモード光ファイバ、ポリマ光ファイバから選択することができる。
シングルモード光ファイバ(SMF)は、単一の光線だけを運ぶように設計されている。空間モードが複数であることから生じるモード分散が見られず、従って、長距離にわたって各々の光パルスの正確性が保持される。帯域幅の高さが特徴である。1Tb/sでは数十キロメートル伝送することが可能である。
【0028】
マルチモード光ファイバ(MMF)は、ほとんどの場合、より短い距離での通信に使用される。通常のマルチモード伝送路は、600メートル以下の長さにわたって、10Mb/sから10Gb/sのデータ信号速度を有する。集光能力はSMFよりも高いが、「速度×距離」の限界値はSMFに比べて低い。コアサイズはSMFより大きいため、複数の伝搬モードをサポートすることができる。しかしながら、モード分散による制限を受ける結果としてSMFよりもパルス拡散レートが高くなるため、情報伝送容量が制限される。これらは、コアおよびクラッドの径によって示される。
【0029】
ポリマ光ファイバ(POF)はプラスチック製であり、コアにはポリメチルメタクリレート(PMMA)または全フッ素置換ポリマを用い、クラッドにはフッ素化ポリマを用いる。大口径ファイバでは、光伝達を可能とするコアが断面積の96%を占める。その主要な特徴は、コスト効率であり、曲げ損失に対する高い耐性である。
シンボルの前にコピーされるサイクリックプレフィックスの長さは、(サイクリックプレフィックスの長さ)/(シンボルの全長)の比率が5〜40%の範囲となるように決定される。
【0030】
減算プロセスでは、サンプルxがサイクリックプレフィックスに位置する場合、サンプルxにおける振幅はサンプルx+N−Lにおける振幅に非常に近く、従って、減算結果は0に近くなる。ランダムノイズおよび信号間干渉(ISI)のために、シンボル毎にわずかな差異は生じることもありうるが、減算処理によってノイズおよびISIの影響は最小限に抑えられる。
【0031】
その反対に、サンプルxがサイクリックプレフィックス領域に入っていない場合、xにおけるサンプルとx+N−Lにおけるサンプルとの間にはランダムな振幅差が存在する。よって、減算処理実行後、算出結果にはランダムな振幅が残り、これは、サンプル毎、そして、シンボル毎に変化する。
パラメータαの最適値は、システムのノイズのレベルに依存し、ノイズが大きいほどαも大きくなり、前回の測定値よりも現在の測定値の重みづけ(weight)の方が大きい。パラメータαは、同期プロファイルが安定して充分な対称形状を有する状態になるまでαを変化させる、という方法で決定される。それは現場のシステムに依存する。安定したシステムでは、αは10-2〜10-3の範囲が好ましい。
【0032】
生成される同期プロファイルは、サイクリックプレフィックスの位置を再現しており、理論上は矩形のプロファイルとなる。実際の伝送路では、同期プロファイルは、前記理論上は矩形のプロファイルを伝送システムのインパルス応答を用いて畳み込み処理した結果である、図2に示すようになる。
同期信号位置は、同期プロファイルを2つの等しい面積に分割する位置として決定される。これは通常、整数のサンプル数にサンプリング位相誤差を示す分数が伴う形となる。つまり、同期信号の整数部分は変換窓の開始位置を示し、同信号の分数部分は、電圧制御発振器にサンプリング位相誤差を供給することで、サンプリングクロックの位相の調節に用いられる。
【0033】
ガウス窓は、中心を同期信号の中心に位置づけられ、その後、前記信号を用いて畳み込み処理される。ガウス窓の幅は、選択されたプレフィックスの長さに対して1〜1.6倍(好ましくは約1.3倍)の広さとするのが好ましい。
VCOの電圧は、図2に見られる同期プロファイルにおいて、計測されたサンプリング点と同期信号の理論上求められた位置との差分によって決定される。信号は、1ボルト未満であるVCO電圧に適したものとするために、数ワットまで増幅される。
【0034】
本方法は、以下のような、いくつかの技術的な効果を提供する。
− OFDMが伝送路条件の変化から受ける影響を小さくする。窓を効率的に用いることで窓の外に位置するノイズからの望ましくない影響が遮断され、それによって、同期プロファイルがより識別しやすくなるからである。
− 入力信号の効率的な認識に必要な「トレーニング」信号の数を、従来のシステムの場合の10000シンボルから500シンボル以下(本発明では300シンボル以下が望ましい)に減らす。
− 平均化によって同期プロファイル内のプレフィックス領域の外のノイズレベルを抑制する。
− 従来の方法に比べて、少なくとも1桁、サンプリングクロックオフセットの補償に必要な時間を短縮する。本発明において、サンプリングクロックオフセットの補償に必要な時間は10-5s以下である。
【0035】
例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3に記載された、通常使用されている従来技術と比較して、本発明は、無線分野ではなく高速光送信分野において動作する、という重要な効果を実現する。従って、本システムは、100Mb/s未満のビットレートに限定されることはない。最高12Gb/sのビットレートで実験的に評価したが、はるかに高い動作速度(40Gb/s超)での動作も可能である。加えて、従来技術のシステムは、クロック信号を受信機において同期させるために、複雑で特別な設計を用いているのに対し、本発明では、生成された同期信号を用いて、受信機でクロックを制御するため、こうした特別な設計は必要ない。その結果、本システムの受信機は、従来技術のものに比べて、より安定性が高く、設計もより単純にすることができる。また、従来技術の同期システムは、2つの並列の信号の減算に基づくのに対し、本システムはシンボル当たりのサンプルの総数よりも大きい数の並列信号を用いる。このことと、ガウス窓を用いた処理との組み合わせにより、システムの動作を大幅に高速化することができる。最後に、従来の同期技術と比較して、本発明は、デジタル信号処理演算の数を約3分の1に減らすことができる。シンボルタイミングオフセットやサンプリングクロックオフセットの影響まで考慮すれば、この減少率は更に大きくすることができる。
<実施例>
図3では、ガウス窓がある場合とない場合とにおいて減算で得られる同期プロファイルを比較して示しているが、ここに見られるように、ガウス窓を用いた処理は非常に効果的である。また、図3と図4とを比較すれば明らかなように、減算処理の方が乗算処理よりも効果的である。更に図5には、乗算を行う方法と比較して、減算を行う方法では「トレーニング」データの長さを大幅に短縮できることが示されている。減算を行う方法の場合、乗算を行う方法に比べて3倍以上(好ましくは4倍以上)早く、安定した重心位置を得ることができる。
【0036】
ここまでに示した、エンドツーエンドのリアルタイムOOFDMトランシーバアーキテクチャと、構成要素/システムパラメータとに基づいて、本発明によるシンボル同期技術を、最高6.56Gb/sの異なる信号ビットレートで動作する、直接変調DFBレーザ(DML)を用いた25kmのMetroCorシングルモードファイバ(SMF)強度変調・直接検知(IMDD)リンクにおいて実施した。ADC/DACのサンプリングレートは2GS/sであった。シンボル長はL=40サンプルまたは20nsであり、サイクリックプレフィックス長は8サンプルまたは4nsであった。共通の基準クロックに基づく複数のクロックシンセイザを用いて、シンボルタイミングオフセット(STO)の効果は強調し、送信機および受信機の両方で用いられるシステムクロックを生成した。
【0037】
重心(COG)精度の向上におけるガウス窓利用の重要性を、係数αの複数の値に関して調査し、その結果を図6、7にグラフ化した。これらの図は、25kmのMetroCorシングルモードファイバで送信した後に計測した場合の同期プロファイルを示しており、図6はガウス窓を適用する前、図7は適用した後の同期プロファイルをそれぞれ示す。ガウス窓を用いた場合の同期プロファイルの形状は、サイクリックプレフィックス領域で非常に整っていることが見て取れる。プロファイル外のランダムノイズは減少し、プロファイルエッジは、係数αの値が小さくなるにつれて、より鋭くなった。
【0038】
図8は、整った同期プロファイルと安定したCOGとを確立するための動的プロセスを示す。同図に示す結果は、−16dBmの受信光電力で通常動作している送信システムに、8サンプル分の遅延を追加で挿入して得られたものである。同図から見て取れるのは、αが小さい場合、COGの安定には長い時間が必要となるが、変化曲線は非常に滑らかなものとなった。一方、トラッキング速度は、αが大きくなるのに応じて上昇した。αが2.4×10-4から1.3×10-1へと大きくなるにつれ、対応する形で、COGの安定に要する時間は、2×10-4秒から8×10-6秒へと短くなっていった。これらはそれぞれ、10000および400のOOFDMシンボル期間に相当する。リアルタイムOOFDM送信システムの送信性能は、α=2.0×10-3で計測した場合に、精度とトラッキング速度とのトレードオフが最善となった。
【0039】
図9には、異なる信号変調フォーマットについて、相対STOを横軸にBERの計測結果を示しているが、同図からはSTOに関する情報がもたらされた。ここで、ゼロ相対STOはCOGの整数部分に対応する。10-3のBERでは、DQPSK、32−QAM、128−QAMの符号化OOFDM信号について、受信光電力はそれぞれ、−21.0、−14.2、−8.3dBであった。BER曲線は、相対STOがゼロの位置を挟んでほぼ対称となった。こうした点では、考慮対象の各信号変調フォーマットについて、BERは最も低くなったが、それは、本同期技術がSTOの影響を効率よく補償したことを示す。高変調フォーマットの場合、BER性能はSTOの影響を受けやすくなった。特定のBERを実現する場合には、高変調フォーマット符号化信号が高い信号ノイズ比(SNR)を有することとなり、それによって、不完全同期に起因するシンボル間干渉(ISI)効果に対する感度が高まった。
【0040】
本発明で提案する技術の精度を、図10に示すように、25kmのMetroCorシングルモードファイバIMDDリンクでのリアルタイムOOFDM伝送性能をグラフ化することで検証した。ここでは、1.88Gb/s、4.69Gb/s、6.56Gb/sの原信号(raw signal)ビットレートにそれぞれ対応する、DQPSK、32−QAM、128−QAMの符号化OOFDM信号についてのBERを、受信光電力を横軸として示している。図10からは、前方誤り訂正(FEC)のBER限界への到達に必要な受信光電力の最小値が、DQPSKの場合には−21.5dBmに、32−QAMの場合には−15.0dBmに、128−QAMの場合には−10.8dBmに下がったことが分かる。
【0041】
これらのシステム性能値から、本発明で提案する同期技術は、複数の異なるOOFDMシステムでの使用において精度が高いことが確認された。
システムノイズによる、計測サンプルクロックオフセット(SCO)の変動が±1ppmであり、実験で採用した真のSCO値であるゼロに非常に近い値である。このことは、本発明の同期技術の優れた安定性を立証している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
OOFDMトランシーバの受信機部分におけるシンボル同期方法であって、
(a)入力実数値サンプルを直列から並列に変換し、一方はオリジナルのシンボルを含み、他方は前記シンボルの時間遅延コピーを含む、という2つのOFDMシンボルグループとするステップと、
(b)Nをサンプルの総数とし、Lをサイクリックプレフィックスの長さとして、前記オリジナルのシンボルの位置xにおけるサンプルと前記時間遅延コピーの位置x+N−Lにおけるサンプルとの間で第1の減算を実行するステップと、
(c)位置xにおける減算結果の絶対値を同期レジスタに保存するステップと、
(d)前記オリジナルのシンボルの位置x+1におけるサンプルと対応する前記時間遅延コピーの位置x+1+N−Lにおけるサンプルとの間で第2の減算を実行するステップと、
(e)位置x+1における減算結果の絶対値を前記同期レジスタに保存するステップと、
(f)x=Nまでの減算を繰り返し、x=1として後続のサンプルを選択するステップと、
(g)前記同期レジスタが満杯になった時点で、αを算出値の増加幅を制御する係数、y(n−1)を前記同期レジスタに格納されていた同期ベクトル、x(n)を新たな同期ベクトルとして、y(n)=α.x(n)+(1−α).y(n−1)という式を用いて、新たな値の各々を格納されていた値と平均化することで、ランダムノイズおよび符号間干渉を最小化する、という形で前記同期レジスタの各スロットの再割り当てを行い、次の1周の減算を行うステップと、
(h)必要に応じ最多で500ブロックのシンボルにわたって演算を繰り返すことで同期プロファイルを生成するステップと、
(i)前記同期プロファイルを反転して窓を生成するステップと、
(j)前記窓の重心を算出して同期信号位置を決定するステップと、
(k)同期信号の位置に中心が位置づけられたガウス窓を用いてステップ(j)の窓の畳み込み処理を行うステップと、
を有することを特徴とするシンボル同期方法。
【請求項2】
前記サンプルの数Nが2Pであり、Pは6から10の範囲の整数であること、
を特徴とする請求項1に記載のシンボル同期方法。
【請求項3】
サイクリックプレフィックスは、前記トランシーバの送信機部分に導入され、(サイクリックプレフィックスの長さ)/(シンボルの全長)の比率が5%から40%の範囲となるように選択されること、
を特徴とする請求項1または2に記載のシンボル同期方法。
【請求項4】
αの範囲が10-2から10-3の間であること、
を特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシンボル同期方法。
【請求項5】
入力信号の認識に必要な「トレーニング」信号の数は最大でも300であること、
を特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のシンボル同期方法。
【請求項6】
OOFDMトランシーバの受信部は、受信機入力においてサンプリングクロックを起動してクロックオフセットを補正する電圧制御発振器(VCO)を有すること、
を特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のシンボル同期方法。
【請求項7】
サンプリングクロックのクロックオフセットの影響を、従来の方法に比べて振幅で1桁軽減する目的で、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のシンボル同期方法を用いる用法。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のシンボル同期方法を実施する受信機。
【請求項9】
請求項8に記載の受信機を有するトランシーバ。
【請求項10】
波長の異なる2つの信号に対して2つの別個のシンボル同期スキームを利用し、これら波長は、送信機の逆高速フーリエ変換の実部と虚部とに対応し、前記2つの信号に関する情報を運ぶものであること、
を特徴とする請求項9に記載のトランシーバ。
【請求項11】
送信機は半導体光増幅器を用いて光波形を生成すること、
を特徴とする請求項9または10に記載のトランシーバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2013−509770(P2013−509770A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535848(P2012−535848)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066471
【国際公開番号】WO2011/051448
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(512053107)バンガー ユニバーシティ (3)
【Fターム(参考)】