説明

光回折構造

【課題】電子線露光装置等の二値デバイスを用いても階調表現が簡便に実現でき、また、複製工程においても成形性がよく、より簡便な複製を行うことが可能な回折格子パターンを有するディスプレイを提供する技術があるが、三次元的に階調を表現する光回折構造を提供するものではない。そこで、本発明は、回折格子の格子ピッチと格子角度を同時に、かつ、連続的に変化させ、三次元的に階調を表現する光回折構造を提供する。
【解決手段】回折格子の集合により形成された光回折構造1であって、回折格子の集合の少なくとも一部に、回折格子の格子ピッチPと格子角度αが同時に、かつ、連続的に変化する領域を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光回折構造に関し、詳しくは、回折格子によってグラデーション効果を表現する手法において、回折格子の格子ピッチと格子角度を同時に、かつ、連続的に変化させた光回折構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ホログラムや回折格子などは、特殊な装飾像や立体像を表現できることから、意匠性を高めた印刷物等に利用されている。また、製造のために高度な技術を要することから、偽造防止手段として利用されている。
意匠性を高めるために使用される分野としては、高額な商品の包装材,パンフレット,POP,書籍の表紙等で、偽造防止手段として使用される分野としては、例えば、クレジットカード,IDカード等のカード類や、商品券,小切手,手形,株券,入場券等の金券類,各種証明書等である。
また、これら、ホログラムや回折格子などを対象物に貼付する方法として、熱転写によって貼付する方法や、ラベルにして貼付する方法がある。
熱転写による方法は、長期間使用され、平坦な貼付面を有する前述のカード類,金券類に多く利用され、ラベルによる方法は、貼付される対象物が平坦な面を持たない場合等に利用される。
【0003】
前述の意匠性を高めるために使用される回折格子として、「回折格子パターンを有するディスプレイ」が提供されている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に紹介されている技術は、平面状の基板の表面に、微小な回折格子(グレーティング)からなるセルを複数個配設することにより形成されるディスプレイにおいて、ディスプレイ本体を作製するための第一の元データに基づいて、各回折格子セルを構成する回折格子の線幅と格子間隔との比を適切に変化させることにより再生時の各回折格子のセルの回折光強度を抑制するものであるとしている。
【0004】
【特許文献1】特開平7−84110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている技術は、電子線露光装置等の二値デバイスを用いても階調表現が簡便に実現でき、また、複製工程においても成形性がよく、より簡便な複製を行うことが可能な回折格子パターンを有するディスプレイを提供することが目的であるとしており、三次元的に階調を表現する光回折構造を提供するものではない。
そこで本発明は、回折格子の格子ピッチと格子角度を同時に、かつ、連続的に変化させ、三次元的に階調を表現する光回折構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明の光回折構造の第一の態様は、回折格子の集合により形成された光回折構造であって、回折格子の集合の少なくとも一部に、回折格子の格子ピッチと格子角度が同時に、かつ、連続的に変化する領域を有することを特徴とするものである。
【0007】
また、第二の態様は、第一の態様において、回折格子の格子ピッチと格子角度が同時に、かつ、連続的に変化する領域において、回折格子の格子角度が連続的に変化する方向が円周方向に定義され、回折格子の格子ピッチが連続的に変化する方向がその法線方向で定義されたことを特徴とするものである。
【0008】
また、第三の態様は、第一,第二何れかの態様において、回折格子の格子ピッチが0.4〜5.0μmの範囲であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
1)本発明の光回折構造の第一の態様のように、回折格子の集合により形成された光回折構造であって、回折格子の集合の少なくとも一部に、回折格子の格子ピッチと格子角度が同時に、かつ、連続的に変化する領域を有することによって、その領域は格子ピッチの変化する方向と、格子角度が変化する方向の、質感を持った三次元図柄が得られ、従来にないグラデーション効果を得ることができる。
2)また、第二の態様のように、第一の態様において、回折格子の格子ピッチと格子角度が共に、連続的に変化する領域において、回折格子の格子角度が連続的に変化する方向が円周方向に定義され、回折格子の格子ピッチが連続的に変化する方向がその法線方向で定義されたことによって、その扇形領域内は円周方向にも、中心方向にもグラデーション効果が発生し、あたかも円の中心に向かって光が流れ込んでゆくかのような視認性を有する光回折構造を得ることができる。
3)また、第三の態様のように、第一,第二何れかの態様において、回折格子の格子ピッチが0.4〜5.0μmの範囲であることによって、回折格子ピッチを2.0μm以上とした領域は、回折する割合が減り、あたかも光を吸収しているように見え、例えば、第二の態様において回折格子のピッチを連続的に変化させる際に2.0μm以上のピッチを使用すれば、あたかも2.0μm以上の格子ピッチの領域に向かって光が吸い込まれていくかのような光回折構造を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の光回折構造について説明する。
図1は、本発明の光回折構造について説明するための図,図2は、格子ピッチを連続的に変化させた場合の階調について説明するための図,図3は、格子角度を連続的に変化させた場合の階調について説明するための図,図4は、従来の光回折構造の一例について説明するための図,図5は、本発明の光回折構造の一例について説明するための図,である。
【0011】
ホログラムには、物体光と参照光との光の干渉による干渉縞で表現された三次元画像のレリーフホログラムや、二次元画像による回折格子が多く使用される。
意匠性を高める手段として、また、偽造防止手段として、白色光再生ホログラムであるレインボーホログラム,カラーホログラム,さらに、これらのホログラムに文字,図形,記号等を結合させて作製される合成ホログラム等が多く使用される。
【0012】
ホログラムの使用形態として、基材上に転写された状態で使用される場合と、基材上に形成された状態でラベル化して使用される場合に大別される。
ホログラムを転写された状態で使用する場合は、耐熱性を有する基材フィルム上に剥離層を形成し、その上に、例えば、熱硬化性の樹脂層を形成し、熱硬化性の樹脂層に凹凸構造を形成し、反射層を形成し、その上に感熱接着剤層を形成して転写用フィルムと成し、熱せられた金属の型等によって、接着剤層を含めた極めて薄いホログラム層を紙などの印刷物上に転写して使用する。
ホログラムをラベル状態で使用する場合は、基材フィルム上に熱硬化性の樹脂層を形成し、熱硬化性の樹脂層に凹凸構造を形成し、凹凸構造の上に反射層を形成し、その上に粘着剤層を形成し、粘着剤面を剥離紙で被覆して、基材フィルムを剥離紙と一緒に所定の大きさに打ち抜いてラベルとし、剥離紙を剥がして対象物に貼付して使用する。
【0013】
ホログラムの反射層は、前述のホログラム形成層の凹凸面に反射性を与えるために設けられる。
反射層には、不透明な反射層と、透明性を有する反射層とがあるが、意匠効果を高める手段として使用する場合は、アルミニウムや、ニッケルなどの金属による不透明な反射層を形成する。
反射層を形成する方法としては、真空蒸着法,スパッタリング法,イオンブレーティング法等があり、目的によって使い分ける。
また、剥離層,熱硬化性樹脂層,接着剤層,粘着剤層等の形成手段として、グラビアコート,ダイコート,ナイフコート,ロールコート等の一般的なコーティング方法、および、シルクスクリーン等の印刷方法の中から選択して使用する。
【0014】
図1を参照して、本発明の光回折構造について説明する。
図1のa図において、本発明の光回折構造は、図に示すように、縦軸を格子ピッチの連続的変化の度合とし,横軸を格子角度の連続的変化の度合(以下、明るさに置き換えて表現する)とした場合、縦軸と横軸を同時に変化させた場合は、左下に向かうほど明るい領域となり、右上に向かうほど暗い領域となる。
その結果、a図に示す複数の正方形のセルで構成される長方形の領域は、左下から右上に向って明るさの連続(実際には、同一の格子ピッチのセルが所定数埋め込まれた領域の連続であるために、厳密的には一部階段状になっているのであるが、以下の説明では「連続」と表現する。)階調を有する領域になっている。
【0015】
図1において、連続的に変化する長方形の領域は、連続的な階調を有する縦軸が横軸に向かって90°右方向に回転した結果形成された軌跡領域である。
即ち、長方形の領域は、所定の幅を有し、格子ピッチ1.4μmから0.8μmに連続的に変化する所定の形状を有する帯が、格子角度45°からスタートし、左下隅を軸として格子角度を変化させながら回転し、横軸に到達する部分で格子角度が135°になるように設定した結果、形成された領域である。
また、長方形の領域は、回折格子の格子角度が右回転で円周方向に変化する時に、回折格子の格子ピッチが前述の帯の法線方向で連続的に変化した軌跡領域であると言い換えることができる。
【0016】
図1のb図は、a図のセル10の一部を拡大した図で、セルは、所定の格子角度α,所定の格子ピッチPで形成された複数のドット100で構成されている。
ここでは、格子角度α(の数字)が小さいほど明るく,格子ピッチP(の数字)が大きいほど明るい。
格子ピッチの値は、格子角度を連続的に変化させて円を形成した時に、回折格子の格子ピッチは0.4〜5.0μmの範囲内で設定することによって、なだらかな階調が得られることが実験的に確認されている。
特に、回折格子ピッチを2.0μm以上とした領域は、入射光を反射,回折する割合が減り、あたかも光を吸収しているように見える。
その結果、回折格子のピッチを連続的に変化させる際に2.0μm以上のピッチを使用すれば、あたかも2.0μm以上の格子ピッチの領域に向かって光が吸い込まれていくかのような、グラデーション効果を有する光回折構造が得られる。
【0017】
図2を参照して、格子ピッチを連続的に変化させた場合の階調について説明する。
回折格子を形成するドットの格子密度、格子角度を一定にし、格子ピッチを連続的に変化させると、図2のようになる。
光回折構造1cの明るい領域は格子ピッチが1.4μmに近い回折格子で、暗い領域は格子ピッチが0.8μmに近い回折格子で形成されている。
【0018】
図3を参照して、格子角度を連続的に変化させた場合の階調について説明する。
回折格子を形成するドットの格子密度、格子ピッチを一定にし、格子角度を連続的に変化させると、図3のようになる。
光回折構造1dの明るい領域は格子角度が45°に近い回折格子で、暗い領域は格子角度が135°に近い回折格子で形成されている。
【0019】
図4を参照して、従来の光回折構造の一例について説明する。
図2,図3で説明した回折格子を構成するドットの格子密度,格子ピッチ,格子角度の何れか二つを固定して、残りの要素だけを変化させてグラデーション図柄を作成すると図のようになる。
光回折構造2が濃淡のある背景図柄で構成され、その前方にやはり濃淡のある前景図柄を重ねると、一応の立体図柄を表現することができるが、図柄全体が静的な感じになってしまい、動きがある感じを表現することが難しい。
【0020】
図5を参照して、本発明の光回折構造の一例について説明する。
図5に示す光回折構造3の例は、回折格子を構成するドットの格子密度,格子ピッチ,格子角度の中の格子密度を固定して、残りの要素である格子ピッチ,格子角度を変化させて正方形を描写したものである。
光回折構造3の例は、正方形に内接する円の外側の格子ピッチを、例えば、1μm以下とし、内接する円の内側に向けて格子ピッチを広げ、中心付近の格子ピッチを、例えば、3.5μmとした例である。
図1のa図で説明したセルの集合を4個寄せ合わせて形成することもできるが、正方形の中心から同一の距離にあるセルを、格子ピッチを共通にして、格子角度を変えて形成することもできる。
【0021】
図5のc図と、表1を参照して、上述の内容ついて詳細に説明する。
格子ピッチと格子角度が同時に、連続的に変化する領域において、回折格子の格子角度が連続的に変化する方向を外周方向に定義し、回折格子の格子ピッチが連続的に変化する方向を外周から中心に向かう方向で定義することで、その扇形領域内は、中心に向かう方向にグラデーション効果が発生し、あたかも、円の中心に向かって光が流れ込んでゆくような光回折構造が得られる。
c図において、正方形の中心から正方形の上辺に直交する線分上の、座標「A1」のセルの回折格子を、表1に示すように、格子角度90度,格子ピッチ1.7μmで作成する。そして、正方形の中心から座標「A1」の距離上に存在する円周上のセル「A2」、「A3」,「A4」,「A5」,「A6」、「A7」,「A8」を、1.7μm(共通)の格子ピッチで、格子角度を連続的に変化させたセルとする。
同様に、正方形の中心から座標「B1」の距離上に存在する円周上のセル「B2」、「B3」,「B4」,「B5」,「B6」、「B7」,「B8」を、2.5μm(共通)の格子ピッチで、格子角度を連続的に変化させたセルとする。
前記、座標「A1」,「A2」、「A3」,「A4」,「A5」,「A6」、「A7」,「A8」、および、「B1」,「B2」、「B3」,「B4」,「B5」,「B6」、「B7」,「B8」のセルの格子角度は、表に記載の数値の如く変化させる。
ちなみに、「A1」,「B1」、「A5」,「B5」は正方形を縦に二分する線分上の座標,「A3」,「B3」、「A7」,「B7」は正方形を横に二分する線分上の座標,「A2」,「B2」,「A6」,「B6」、および、「A4」,「B4」、「A8」,「B8」は正方形の対角線上の座標,である。
【0022】
試作データによれば、回折格子ピッチを2.0μm以上とした領域は、入射光を反射,回折する割合が減り、あたかも光を吸収しているように見える。
その結果、回折格子のピッチを連続的に変化させる際に、格子のピッチを2.0μm以上とすれば、あたかも2.0μm以上の格子ピッチの領域に向かって光が吸い込まれていくかのような、グラデーション効果を有する光回折構造を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
特殊印刷物向けとして、高額な商品の包装材,パンフレット,POP、書籍の表紙等に貼付して使用する分野がある。
また、偽造防止向けとして、例えば、クレジットカード,IDカード等のカード類や商品券,小切手,手形,株券,入場券等の金券類、各種証明書等に貼付して使用する分野がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の光回折構造について説明するための図である。
【図2】格子ピッチを連続的に変化させた場合の階調について説明するための図である。
【図3】格子角度を連続的に変化させた場合の階調について説明するための図である。
【図4】従来の光回折構造の一例について説明するための図である。
【図5】本発明の光回折構造の一例について説明するための図である。
【符号の説明】
【0025】
1,1c,1d 光回折構造
2 従来の光回折構造の一例
3 本発明の光回折構造の一例
10 セル
21 背景図柄
22 前景図柄
100 ドット
P 格子ピッチ
α 格子角度


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回折格子の集合により形成された光回折構造であって、
回折格子の集合の少なくとも一部に、回折格子の格子ピッチと格子角度が同時に、かつ、連続的に変化する領域を有することを特徴とする光回折構造図。
【請求項2】
請求項1に記載の光回折構造において、
回折格子の格子ピッチと格子角度が共に、連続的に変化する領域において、回折格子の格子角度が連続的に変化する方向が円周方向に定義され、回折格子の格子ピッチが連続的に変化する方向がその法線方向で定義されたことを特徴とする光回折構造図。
【請求項3】
請求項1,2何れか一項に記載の光回折構造において、回折格子の格子ピッチが0.4〜5.0μmの範囲であることを特徴とする光回折構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−334076(P2007−334076A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−166884(P2006−166884)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】