説明

光回折素子及び光学ローパスフィルタ

【課題】光学ローパスフィルタとして、水晶板に代わる実用的なものを提供する。
【解決手段】透明な基板と、基板の一方の面に形成され、配向方向の第1パターンが基板の主面に沿った第1の方向に周期的に配列された第1配向層とを備え、第1パターンは、第1配向層に含まれる高分子の配向の方向が互いに異なる3以上の小領域が第1の方向に配列されて形成され、3以上の小領域を透過した光の相互の干渉により回折光を生じる光回折素子を発明した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光回折素子及びこれを用いた光学ローパスフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
光学ローパスフィルタは、撮像素子を用いたデジタルカメラ又はデジタルムービーにおいて、撮像素子の画素ピッチよりも高い空間周波数を有する光学像が入射することによって発生するモアレ縞を防止するために用いられる。光学ローパスフィルタとしては材料の複屈折性を利用した水晶板が用いられている(特許文献1を参照)。
特許文献 国際公開第2008/004570号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、水晶板を用いた光回折素子の厚みが大きくなり、小型化することが難しかった。また、水晶板は高価であり、帯電し易いことによる埃の付着の問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の態様における光回折素子は、透明な基板と、基板の一方の面に形成され、配向方向の第1パターンが基板の主面に沿った第1の方向に周期的に配列され、異方性を有する高分子を含む第1配向層を備え、第1パターンは、第1配向層に含まれる高分子の配向の方向が互いに異なる3以上の小領域が前記第1の方向に配列されて形成され、3以上の小領域を透過した光の相互の干渉により回折光を生じる。
【0005】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】撮像装置を模式的に示す。
【図2】第1の実施形態の光回折素子の模式図である。
【図3】図2の領域Aの拡大図である。
【図4】第2の実施形態の光回折素子に係る領域Aの拡大図である。
【図5】第3の実施形態の光回折素子の模式図である。
【図6】図5の領域Aの拡大図の模式図である。
【図7】第4の実施形態の光回折素子の模式図である。
【図8】図7の光回折素子に入射した光の回折の概要を示す。
【図9】第1液晶層及び第2液晶層に入射する光の偏光状態と回折方向の関係を示す。
【図10】光回折素子の製造方法を示す図である。
【図11】光回折素子の製造方法を示す図である。
【図12】第5の実施形態の光回折素子の模式図である。
【図13】第1液晶層及び第2液晶層に入射する光の偏光状態と回折方向の関係を示す。
【図14】図12の光回折素子304に入射した光の回折の概要を示す。
【図15】小領域の幅を説明する図である。
【図16】図15の幅aの条件を変えた結果を示すグラフである。
【図17】第1パターンを10の小領域で分割した場合の回折光強度を示すグラフである。
【図18】第1パターンを6の小領域で分割した場合の回折光強度を示すグラフである。
【図19】第1パターンを4の小領域で分割した場合の回折光強度を示すグラフである。
【図20】第1パターンを3の小領域で分割した場合の回折光強度を示すグラフである。
【図21】第1パターン分割数と1次回折効率の関係を示すグラフである。
【図22】図7の光回折素子に円偏光を入射させた場合の回折光強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0008】
図1は、デジタルカメラ等の撮像装置を模式的に示す。当該撮像装置は、物点100からの光を結像する光学系102と、当該光学系102により結像した像光を電気的信号に変換して出力する撮像素子106とを備える。撮像素子106には、複数のイメージセンサーが二次元的に周期的に配列されている。撮像素子106と光学系102との間には、ローパスフィルタの一例としての光回折素子104が配置されている。
【0009】
図2は、光回折素子104の第1の実施形態を示す模式図である。光回折素子104は、透明な基板200と、当該基板200の一方の面に配された第1配向層202と、第1配向層202の上面に配された第1液晶層204とを有する。
【0010】
基板200は、面全体で略均一な厚みを有する。例えば、基板200は、2mm〜5mm×2mm〜5mmの四角形状に形成されている。基板200として、可視光の波長で透過率の高い透明なガラス板を用いることができる。尚、基板200を樹脂製の板、樹脂製のフィルムまたはガラス繊維を含む樹脂材料等の透明な材料によって構成してもよい。
【0011】
第1配向層202は、異方性の高分子により形成される。第1配向層202において、当該高分子の配向パターンである第1パターン212を単位として、当該第1パターンが基板200の主面に沿った±x方向に周期的に複数配置されている。各第1パターン212における±x方向の幅は、入射光に対してあらかじめ定められた回折光が生じるように、任意に設定することができ、例えば、0.5μm〜1000μmとすることができる。なお、ここで異方性とは、光学的な屈折率が異方性を有すること、光学的な吸収率が異方性を有すること、等を含む。
【0012】
図3は、図2の領域Aにおける第1パターン212の高分子の配向の状態を示す。1つの第1パターン212に注目すると、第1パターン212は、±x方向に沿って配置された3つの小領域214に区分される。3つの小領域214の並ぶ方向が、第1パターン212の並ぶ方向と同じであることで、高分子の配向方向が周期的に変化する複数の小領域214が、±x方向に沿って周期的に繰り返される。図3において、小領域214の±x方向に沿った幅d1、d2、d3は等しい。
【0013】
小領域214内において高分子は一定の配向方向220に配向しているとともに、隣り合う小領域214同士では高分子の配向方向220が異なっている。図3に示す例において、隣り合う小領域214同士は配向方向が60度ずつ異なっている。
【0014】
小領域214の高分子は、配向を制御することが可能な材料であれば特に制限はないが、例えば、偏光によって配向制御することができる光分解型、光二量子化型、光異性化型等の光配向性化合物及び光反応性液晶化合物が用いられる。これらの化合物を予め定められた方向に配向した後、光又は熱で固化し、その配向方向を固定してもよい。なお、小領域214の高分子は、第1配向層202の全体で同一の材料を用いてもよいし、小領域214ごとに異なる高分子を用いてもよい。
【0015】
上記小領域214上の第1液晶層204は、当該小領域214の配向方向220に沿って配向する。すなわち、第1液晶層204は、その直下に存在する第1配向層202の配向方向に倣って配向される。これにより、第1液晶層204は、第1配向層202の配向状態に対応して、複屈折の遅相軸の方向が周期的に配列されたパターンを有する。第1液晶層204は、遅相軸の方向が場所により周期的に変化することで、位相型回折格子として機能する。第1液晶層204には、例えば、熱又は光により重合する重合性液晶などが用いられる。第1液晶層204は、例えば約0.01μm〜1μmの厚みを有する。なお、液晶は、第1液晶層204の全体で同一の材料を用いてもよいし、小領域214に対応する領域ごとに異なる液晶を用いてもよい。
【0016】
また、第1配向層202のリタデーションと、第1液晶層204のリタデーションの合計は、例えば1/2波長である。
【0017】
上記光回折素子104において、図2の+z方向から入射した入射光400は、当該光回折素子104を通過することにより、±z方向に対して±x方向に角度を有する1次回折光404を生じる。なお、図2では1次回折光のみを示しているが、0次回折光及び2次以上の高次回折光が生じる態様を除くものではない。
【0018】
上記の通り、光回折素子104は、第1配向層202が互いに配向方向が異なる小領域214を有するとともに、第1液晶層204が当該小領域214に対応する領域を有するので、複数の小領域214を透過した光が互いに干渉することにより、回折光が生じる。また、第1配向層202において当該小領域214からなる第1パターン212が繰り返し配されるとともに、第1液晶層204が当該第1パターン212の繰り返しに対応する領域を有するので、回折光の強度を向上させることができる。さらに、隣り合う小領域214ごとに配向方向220の角度差を同じにすることで、1次回折光の強度比を向上させることができる。さらに、第1パターン212ごとに、この配向方向220を基板200の主面内で1回転又はほぼ1回転させると、1次回折光の強度比を向上させることができる。また、各小領域214の幅d1、d2、d3を等しくとすることで1次回折光の強度比を向上させることができる。
【0019】
また、第1配向層202のみで回折光を生じることができる場合は、第1液晶層204を設けなくともよい。この場合には、小領域214内の高分子の遅相軸又は吸収軸が小領域214内において一定の方向に配向することにより、面内の屈折率異方性又は厚み方向の屈折率異方性を発現する。なお図2の例において第1配向層202の膜厚はナノレベルなので、第1配向層202自体では異方性を発現しないか、発現しても小さいが、第1配向層202の膜厚を大きくすることで、異方性を発現させることができる。これにより、その遅相軸又は吸収軸の配向方向が場所により周期的に変化することで、第1配向層202自体を回折格子として機能させることができる。
【0020】
また、図3において、小領域214の形状は矩形であるが、これに限られない。他の例として、三角形、六角形等としてもよい。図3において、第1パターン212内において複数の小領域214は互いに同一の幅を有するが、それぞれ異なる幅を有してもよい。
【0021】
なお、図3における小領域214の高分子の配向方向220を基板200の主面内で回転させることにより、小領域214の領域ごとの配向方向を変化させているが、小領域214の領域ごとに厚みを変えてもよい。さらに他の例として、小領域214ごとに、高分子のチルト角を変化させてもよい。さらに他の例として、小領域214上に形成される第1液晶層204の厚みを領域ごとに変えたり、液晶分子のチルト角を領域ごとに変化させてもよい。
【0022】
上記実施形態によれば、光回折素子104は、第1配向層202および第1液晶層204を用いているので、小型化することができる。さらに、基板200等に凹凸を形成する必要がないので、光回折素子104の平坦性を向上させることができる。この結果、光回折素子104は、カバーガラス等を設けることなく、充分な透過波面収差を得ることができる。また、基板200に凹凸を形成する必要がないので、塵等のゴミによる影響を少なくできる。この結果、光回折素子104は、メンテナンスが容易になり作業性が向上するとともに、塵等による光学性能の劣化を抑制できる。
【0023】
図4は、光回折素子104の第2の実施形態を示す。この実施形態においては、第1パターン212の配向パターン以外は、第1の実施形態と同様である。第1の実施形態と同一の構成には同一の参照番号を付して説明を省略する。
【0024】
図4には、第1パターン212が、±x方向に沿って2つ配置された領域Aが示されている。1つの第1パターン212に注目すると、±x方向に沿って、連続的に高分子の配向方向が異なるように第1配向層202が設けられている。±x方向と主面内で直交する±y方向に沿った位置の高分子の配向方向を略同じ方向に配向させている。
【0025】
高分子の配向方向が変化する方向は、第1パターン212の配列方向と同じ±x方向である。さらに当該配向方向は、第1パターン同士の境界で滑らかにつながっている。本態様の光回折素子104は、全体として、高分子の配向方向が±x方向に沿って周期的に連続して変化する。
【0026】
高分子の配向方向は、1つの第1パターン212内で180°回転している。この配向方向を1つの第1パターンごとに基板200の主面内で180°回転させることにより、1次回折光の強度比を向上させることができる。これは、光の干渉作用により効率よく1次回折光を取り出すことができるためである。
【0027】
また、この実施形態では、図4における第1パターン212の高分子の配向方向を基板200の主面内で回転させることにより、第1パターン212内において配向方向を変化させているが、第1パターン212内において厚みを変えてもよい。さらに他の例として、第1パターン212内において、高分子のチルト角を変化させてもよい。
【0028】
本実施形態において、第1配向層202のリタデーションと、第1液晶層204のリタデーションの合計は、例えば1/2波長である。
【0029】
図5は、光回折素子104の第3の実施形態を示す模式図である。光回折素子104は、透明な基板200と、当該基板200の一方の面に配された第1配向層202と、第1配向層202の上面に配された第1液晶層204とを有する。図5の光回折素子104は、図1から図3の光回折素子104とは、第1配向層202および第1液晶層204の配向パターンが異なるが、他の構成は同一であるので、説明を省略する。
【0030】
図5における第1配向層202および第1液晶層204の配向パターンは、基板の主面に沿った±x方向及び±y方向に沿って周期的に複数配置されている。±x方向と±y方向は、同一の方向でなければ制限されない。この場合、入射光400は4方向以上に分離した1次回折光404となる。
【0031】
図6は、図5の領域Aにおける第1配向層202の第1パターン212の高分子の配向の状態を示す。図6には第1パターン212が±x方向及び±y方向に2×2配置されている。1つの第1パターン212に注目すると、第1パターン212は、±x方向及び±y方向に沿って配置された2×2の4つ小領域214に区分されている。当該4の小領域214が第1パターン212の配列方向と同じ±x方向及び±y方向に沿って配列されることで、本態様の光回折素子104は、全体として複数の小領域214が、±x方向及び±y方向に沿って高分子の配向方向が周期的に繰り返される。
【0032】
1つの第1パターン212において、隣り合う小領域214ごとに配向方向220が異なっている。例えば、1つの第1パターン212内に含まれる4つの小領域214同士で、配向方向220が1回転するように配置されている。図6の例では、4つの小領域214の配向方向220が時計回り(又は反時計回り)する方向に沿って、45°ずつ回転し、第1パターン212内で180°回転している。配向方向220は、基板200の主面方向に沿っている。
【0033】
配向方向220は、±y方向に時計回り又は反時計回りに隣り合う小領域214ごとに角度差が同じになるように変化させることで、1次回折光の強度比を向上させることができる。
【0034】
第1液晶層204は、その直下に存在する第1配向層202の配向方向に倣って配向される。つまり、第1液晶層204に含まれる液晶分子は、第1配向層202の第1パターン212に対応して、マトリクスパターン状に配置された領域ごとに配向する。
【0035】
上記光回折素子104において、図5の+z方向から入射た入射光400は、当該光回折素子104を通過することにより、±z方向に対して±x方向に角度を有する1次回折光404、および、±z方向に対して±y方向に角度を有する1次回折光404、の4方向に分離した1次回折光404を生じる。なお、図5では1次回折光のみを示しているが、0次回折光及び2次以上の高次回折光が生じる態様を除くものではない。また、第1配向層202のみで回折光を生じることができる場合は、第1液晶層204を設けなくともよい。
【0036】
図6の例では、1つの第1パターン212あたり4種類の配向を有する小領域214を4個ずつ配置したが、3種類又は5種類以上の配向を有する小領域214を配置してもよい。また、小領域214の大きさおよび形状を適宜変更してよいことは図3の光回折素子104の場合と同様である。
【0037】
また、図6では配向方向220を基板200の主面内で回転させることにより、小領域214の領域ごとの面内複屈折率を変化させているが、小領域214の領域ごとに厚み方向に異方性を持たせる態様であってもよい。
【0038】
上記実施形態によれば、光回折素子104は、±x方向及び±y方向に周期的に配向方向が変化する第1配向層202および第1液晶層204を用いているので、光回折素子104は全体の厚みを小さくして、小型化しつつ、基板200の面内において互いに直交する方向へ分離した回折光を出力することができる。
【0039】
図7の左側は、光回折素子104の第4の実施形態を示す模式図である。図7の右側には、説明のため、左側に示された光回折素子104の各部材を層別に離間させた模式図を示す。
【0040】
図7の光回折素子104は、図2および図3の光回折素子104と同様に、透明な基板200と、当該基板200の一方の面に配された第1配向層202と、第1配向層202の上面に配された第1液晶層204とを有する。図7の光回折素子104において、第1液晶層204の上面に位相差層206が配され、位相差層206の上面に第2配向層208が配され、さらに第2配向層208の上面には第2液晶層210が配される。位相差層206は単層でなく、配向膜などを含む複数の層であってもよい。
【0041】
第1配向層202は、異方性を有する高分子を含んでいる。第2配向層208には、第1配向層202に含まれるものと同一の又は異なる、異方性を有する高分子を含んでいる。この異方性を有する高分子は、第1配向層202及び第2配向層208において、周期的なパターン状に配向されている。第1から第3の実施形態と同様に、この配向パターンの最小単位領域を規定する複数の小領域からなる第1パターン212が第1配向層202に形成され、基板200の主面に沿った第1の方向である±x方向に沿って周期的に複数配置されている。第2配向層208には、第1の方向と交差し基板の主面に沿った第2の方向である±y方向に沿って、この配向パターンの最小単位領域を規定する複数の小領域からなる第2パターン216が周期的に複数形成されている。
【0042】
±x方向と±y方向は、同一の方向でなければ限定されず、例えばこれらを直交させることができる。±x方向と±y方向を直交させることで、1次回折光を4点方向以上に分離させることができる。
【0043】
第1配向層202の第1パターン及び第2配向層208の第2パターンは、上記第1から第3の実施形態において説明した第1パターン212と同一の構成とすることができる。第2パターンについては、上記で説明した実施形態1から3における第1パターンにおいて、第1の方向と第2の方向を反対に読み換えた構成とすることができる。
【0044】
第1液晶層204は、その直下に存在する第1配向層202の配向方向に倣って配向される。第1液晶層204は第1配向層202の第1パターンに対応してパターン状に配向されている。また、第1配向層202のリタデーションと、第1液晶層204のリタデーションの合計は、例えば1/2波長である。
【0045】
位相差層206は、第2パターン216から出射させる円偏光回折光を直線偏光に変換する。位相差層206として、例えば1/4波長位相差層を用いることができる。1/4波長板は、直線偏光を円偏光に変換するとともに、円偏光を直線偏光に変換する。1/4波長板は、色による回折光強度分布の影響を低減するため、正の波長分散性を備えていることが望ましい。例えば、光学軸及び位相差が異なる層を複数積層することにより、正の波長分散性(逆分散性)を備えた位相差層206を構成することができる。位相差層206は、例えば約0.01μm〜5μmの厚みを有することができる。
【0046】
位相差層206は、種々の液晶を所定の方向に配向させることにより形成することができる。例えば、予めラビング又は光配向による方法で配向膜を形成した後に複屈折性を有する液晶(例えば、上記第1液晶層の説明であげた材料)を塗布することで液晶層を形成して、位相差層206とすることができる。液晶に重合性液晶を用いた場合には、熱又は光により重合反応を進行させ、液晶を固化することができる。
【0047】
また、予め用意されたシート状の1/4波長板を、第1配向層又はその上に設けられた液晶に、ラミネート等の方法により転写して貼り合わせることにより、位相差層としてもよい。
【0048】
第2液晶層210は、その直下に存在する第2配向層208の配向方向に倣って配向される。第2液晶層210は第2配向層208の第2パターンに対応してパターン状に配向されている。また、第2配向層208のリタデーションと、第2液晶層210のリタデーションの合計は、例えば1/2波長である。異なる第1パターン212上に存在する第1液晶層204、又は異なる第2パターン216上に存在する第2液晶層210は、配向方向のみ異なる同じ組成の液晶を含むことができる。
【0049】
図8(a)〜(d)は、図7の光回折素子104に入射した光の回折の概要を示す。また、図9は、第1液晶層204および第2液晶層210が1/2波長のリタデーションを有する場合における、第1液晶層204および第2液晶層210に入射する光の偏光状態と回折方向の関係をそれぞれ示す。
【0050】
図8(a)は、図7の光回折素子104に対して、+z方向(紙面手前方向)から−z方向(紙面奥方向)へ入射する入射光400を示す。入射光400は、例えば、±y方向の偏光方向を有する直線偏光であって、単一の光束である。入射光400は、xy平面内において他の偏光方向を有する直線偏光であってもよい。入射光400は、光回折素子104の第2液晶層210及び第2配向層208に入射する。
【0051】
図8(b)は、入射光400が、第2液晶層210及び第2配向層208を通過した後の光を示す。第2液晶層210に入射した直線偏光の光束は、図9に示すように、互いに偏光の回転方向が異なる円偏光に変換されて、パターンの繰り返し方向すなわち図中の±y方向に2つに分離される。2点に分離された円偏光は、光回折素子104の位相差層206に入射する。
【0052】
図8(c)は、2点に分離された円偏光が、位相差層206を通過した後の光を示す。1/4波長位相差板は、円偏光を直線偏光に変換する。従って、位相差層206に入射した光は2点の円偏光は、2点の直線偏光に変換される。
【0053】
図8(d)は、2点の直線偏光が、第1液晶層204及び第1配向層202を通過した後の光を示す。第1液晶層204に入射した直線偏光は、図9に示すように、互いに偏光の回転方向が異なる円偏光に分離される。従って、第1液晶層204及び第1配向層202に入射した2点の直線偏光は、パターンの繰り返し方向すなわち図中の±x方向にそれぞれ分離された4点の円偏光となる。4点に分離された円偏光は、基板200から出射する。
【0054】
このように、入射光400は、第2液晶層210、第2配向層208、位相差層206、第1液晶層204、第1配向層202を透過することで、±x方向と±y方向に回折光を生じる光回折素子として機能する。なお、図7から図9では1次回折光のみを示しているが、0次回折光及び2次以上の高次回折光が生じる態様を除くものではない。第1配向層202のみで回折光を生じることができる場合は、第1液晶層204を設けなくともよい。また、第2配向層208のみで回折光を生じることができる場合は、第2液晶層210を設けなくともよい。
【0055】
本実施形態においては、第1液晶層204の第1パターン212の第1の方向に沿った幅と、第2液晶層210の第2パターン216の第2の方向に沿った幅が等しい。第1パターン及び第2パターンの幅と1次回折光同士が分離される距離はほぼ反比例関係にあるので、光回折素子104は、略正方形の各頂点に位置するように分離した回折光を出射することができる。
【0056】
なお、光回折素子104に位相差層206を設けない場合は、第2液晶層210と第2配向層208を通過した円偏光回折光が第1液晶層204と第1配向層202で十分に分離されず、主として2点に分離された回折光が出射されることになるが、このような態様であっても光回折素子として機能する。
【0057】
図7から図9に示す形態において、入射光400が図面における+z方向から第2配向層208に照射され、出射光402が第1配向層202から−z方向に出射する場合を説明したが、入射光400と出射光402はその方向が反対であっても同様の効果を奏する。また、上記の説明では、基板200上に第1配向層202、第1液晶層204、位相差層206、第2配向層208、第2液晶層210をこの順に積層しているが、基板200の一方側に第1配向層202と第1液晶層204を設けて、他方側に第2配向層208と第2液晶層210をそれぞれ形成してもよい。この場合、位相差層206は、第1配向層202と第2配向層208の間に存在するように、基板200のいずれかの面に形成することができる。
【0058】
上記実施形態によれば、簡便な構成で、図5に示す形態と同様の効果を得ることができる。さらに、第1液晶層204と第2配向層208との間に位相差層206を設けたので、4点にほぼ均一な強度で分離された1次回折光を出射することができる。なお、上記図2から図7で示した実施形態では、±x方向を第1の方向とし、±x方向と直交する±y方向を第2の方向としているが、第1の方向と第2の方向は直交しなくてもよい。
【0059】
図10は、図7の光回折素子104の製造工程を説明する模式図である。まず、基板200の一面に、ロールコーター、スピンコーター、スリットダイコーター等により、光配向性化合物を塗布し、適度に乾燥させて第1配向層202を形成した。図10(a)には、このようにして得た基板200と基板200上に形成された第1配向層202が示されている。
【0060】
次に、適度に乾燥させた第1配向層202を、紫外線偏光露光機でマスクを使ってプロキシミティ方式で露光した。図10(b)に図示するように、±x方向に延伸した開口が一定のピッチで±y方向に配されたマスク500を用いて、±y方向に偏光方向を有する偏光502で、複数の第1パターン212内の小領域214のうち特定の小領域214を露光した。小領域214の光配向性化合物のうち、露光された部分は、偏光方向に平行となるように配向された。
【0061】
次に、マスク500を小領域214の幅だけ+y方向にずらして、複数の第1パターン212のうち直前に露光した小領域214と隣の小領域214に対して、偏光方向を図10(b)に対してxy平面内で60°回転した偏光502で露光を行った。同様にマスク500を小領域214だけ+y方向にずらして、偏光方向を図10(b)に対してxy平面内で120°回転した偏光502で露光を行った。図10(c)に示すように、このように露光することで、隣り合う小領域214が60°ずつ回転した方向に液晶規制力を持つ配向膜がストライプ状に周期的に形成された位相型回折格子を得た。
【0062】
図10(d)に示すように、この第1配向層202が形成された基板200上に、ロールコーター、スピンコーター、スリットダイコーターなど公知の塗布手段で光重合性液晶組成物を塗布した。この光重合性液晶組成物に含まれる液晶分子は、第1配向層202の規制力に従い、小領域214ごとに所定の方向に配列する。その後に光重合性液晶組成物を紫外線で硬化させて、第1液晶層204を形成した。
【0063】
図11(e)に示すように、第1配向層202と同じ方法で、光配向性化合物を第1液晶層204上に塗布した。さらに塗布面を所定の直線偏光で全面露光し、一様な配向方向を有する配向膜205が得られた。その後、この配向膜205の上に光重合性液晶組成物を塗布し、配向膜205の配向に沿って液晶を配向させた。この後、液晶を紫外線で硬化し、配向膜205および当該配向膜205の配向に沿った液晶層207からなる位相差層206を形成した。
【0064】
図11(f)に示すように、光配向性化合物をロールコーター、スピンコーター、スリットダイコーターなど公知の塗布手段により、位相差層206の一面に塗布した。その後、塗布面を適度に乾燥させて、位相差層206上に第2配向層208を形成した。
【0065】
第2配向層208を適度に乾燥して、紫外線偏光露光機でマスクを使ってプロキシミティ方式で露光した。この場合に、±y方向に延伸した開口が一定のピッチで±x方向に配されたマスク500を用いて、±y方向に偏光方向を有する偏光で、複数の第2パターン内の小領域のうち特定の小領域を露光した。小領域の光配向性化合物のうち、露光された部分は、偏光方向に平行となるように配向された。
【0066】
次に、図10(c)の場合と同様に、偏光方向をxy平面内で60°ずつ回転して、複数の第2パターンのうちの他の2つの小領域を露光した。これにより隣り合う小領域が60°ずつ回転した方向に液晶規制力を持つ第2配向層208がストライプ状に周期的に形成された。
【0067】
さらに、図11(g)に示すように、第2配向層208上に、ロールコーター、スピンコーター、スリットダイコーターなど公知の塗布手段で光重合性液晶組成物を塗布した。この光重合性液晶組成物に含まれる液晶分子は、第2配向層208の規制力に従い、小領域ごとに所定の方向に配列する。その後に光重合性液晶組成物を紫外線で硬化させて、第2液晶層210を形成した。
【0068】
このようにして、入射光を2次元的に4点に分離することができる光回折素子104を製造した。第2液晶層210上には、さらに反射防止膜及び保護膜等を形成することができる。これにより、内部反射を防止することができ、透過率が向上する。さらに、波長が800nm以上の近赤外線を反射する近赤外反射膜及び、400nm以下の波長を反射することができる短波長反射膜を設けても良い。
【0069】
上記光回折素子104の製造方法では、配向膜として機能する第1配向層202及び第2配向層208、回折素子として機能する第1液晶層204及び第2液晶層210及び1/4波長板として機能する位相差層206を同じ基板200上に形成している。これにより、1/4波長板と回折格子とを別々の部品として製造した後に組み立てる場合に比べて、塗布によって形成される各層の厚みを小さくすることができる。これにより、光回折素子を薄型化することができる。また、第1液晶層204及び第2液晶層210の組み立て工程及び位置合わせ工程が不要となるので、製造工程を簡略化できる。
【0070】
図12の左側は、光回折素子304の第5の実施形態を示す模式図である。図12の右側には、説明のため、左側に示された光回折素子304の各部材を層別に離間させた模式図を示す。光回折素子304は、基板200、第1配向層202、第1液晶層306、第2配向層308、及び第2液晶層310を有する。
【0071】
このように、第5の実施形態に係る光回折素子304は、第4の実施形態の光回折素子104において第1液晶層204と第2配向層208の間に配置された位相差層206が設けられず、第2配向層308の第2パターン316が第1パターン312に対して傾いて配置されている。基板200及び第1配向層202については、第4の実施形態に係る光回折素子104とほぼ同一なので説明を省略する。
【0072】
第1液晶層306は、その直下に存在する第1配向層202の配向方向に倣って配向される。第1液晶層306は第1配向層202の第1パターン312に対応したパターンに配向されている。第1液晶層306のパターンは第1の方向である±x方向に周期的に配列されている。また、第1配向層202のリタデーションと、第1液晶層306のリタデーションの合計は、例えば1/4波長である。
【0073】
第2配向層308は、第1液晶層306上に設けられ、第2液晶層310の液晶を配向させる。第2配向層308には、第1配向層202に含まれるものと同一の又は異なる、異方性を有する高分子を含んでいる。この異方性を有する高分子は、第2配向層308において、周期的なパターン状に配向されている。
【0074】
第2配向層308には、基板の主面に沿った第2の方向に沿って、この配向パターンの最小単位領域を規定する複数の小領域からなる第2パターンが周期的に複数形成されている。図12に示す形態において第2の方向は、xy平面内で±x方向に対して45°となる方向である。よって第1の方向と第2の方向のなす角度が45°となる。これに代えて、第1の方向と第2の方向は、0°よりも大きく90°よりも小さい他の角度をなしてもよい。
【0075】
第2パターン316は、第1配向層202の第1パターン312と同様に、複数の小領域に区分される。第2パターン316内の複数の小領域は、第2の方向に沿って配列される。複数の小領域の並ぶ方向が、第2パターン316の並ぶ方向と同じであることで、高分子の配向方向が周期的に変化する複数の小領域が、第2の方向に沿って周期的に繰り返される。例えば、第2パターン316は、図3に記載された第1パターン212を、xy平面内で反時計回りに45°回転させたものでよい。
【0076】
また、第2パターン316は、第2の実施形態に係る第1パターン212と同様に、配向の方向が第2の方向に沿って変化するものであってもよい。この場合、第2パターン316は、図4に記載された第1パターン212を、xy平面内で反時計回りに45°回転させたものとなる。
【0077】
第2液晶層310は、その直下に存在する第2配向層308の配向方向に倣って配向される。第2液晶層310は第2配向層308の第2パターンに対応したパターンに配向されている。第2配向層308のリタデーションと、第2液晶層310のリタデーションの合計は、例えば1/2波長である。
【0078】
図13(a)および図13(b)は、第1液晶層306が1/4波長のリタデーションを有する場合における、第1液晶層306に入射する光の偏光状態と回折方向の関係をそれぞれ示す。図13(a)に示すように、第1液晶層306に入射した左円偏光は、偏光の回転方向が変わらずかつ主光線の方向が変わらず透過する左円偏光と、上記第1の方向の一方(図では−x方向)のみに回折される右円偏光に分離される。また、第1液晶層306に入射した右円偏光は、図13(b)に示すように、偏光の回転方向が変わらずかつ主光線の方向が変わらず透過する右円偏光と、左円偏光の回折方向と反対の一方向(図では+x方向)のみに回折される左円偏光に分離される。
【0079】
図14(a)〜(c)は、図12の光回折素子304に入射した光の回折の概要を示す。図14(a)は、図12の光回折素子304に対して、+z方向(紙面手前方向)から−z方向(紙面奥方向)へ入射する入射光400を示す。入射光400は、例えば、±y方向の偏光方向を有する直線偏光であって、単一の光束である。入射光400は、xy平面内において他の偏光方向を有する直線偏光であってもよい。入射光400は、光回折素子304の第2液晶層310及び第2配向層308に入射する。
【0080】
図14(b)は、入射光400が、第2液晶層310及び第2配向層308を通過した後の光を示す。1/2波長の位相差を有する第2液晶層310に入射した光は、図9と同じ光学的性質により、互いに偏光の回転方向が異なる円偏光に変換されて、上記第2の方向、すなわちxy平面内で±x方向に対して45°となる方向に分離される。従って、第2液晶層210及び第2配向層208を通過した入射光400は、第2の方向に分離された2点の円偏光となる。2点に分離された円偏光は、第1液晶層306に入射する。
【0081】
図14(c)は、2点の円偏光が、第1液晶層306及び第1配向層202を通過した後の光を示す。第1液晶層306に入射した左円偏光は、上記図13(a)に示すように、主光線の方向が変わらず透過する左円偏光と、上記第1の方向の一方(図では−x方向)のみに回折される右円偏光に分離される。また、第1液晶層306に入射した右円偏光は、上記図13(b)に示すように、主光線の方向が変わらず透過する右円偏光と、左円偏光の回折方向と反対の一方向(図では+x方向)のみに回折される左円偏光に分離される。
【0082】
従って、第1液晶層306に入射した左回りの円偏光は、そのまま直進する左回りの円偏光と下側に回折される右回りの円偏光に分離される。また、第1液晶層306に入射した右回りの円偏光は、そのまま直進する右回りの円偏光と上側に回折される左回りの円偏光に分離される。従って、第1液晶層306及び第1配向層202に入射した2点の円偏光は、上記第1の方向である±x方向にそれぞれ分離された4点の円偏光となる。4点に分離された円偏光は、基板200から出射する。
【0083】
本実施形態においては、第1液晶層306のパターン配列方向である第1の方向と第2液晶層310のパターン配列方向である第2の方向がなす角度をθとしたときに、第2パターンの第2の方向に沿った幅を、第1パターンの第1の方向に沿った幅の2cosθ倍としてもよい。第1パターン及び第2パターンの幅と1次回折光同士が分離される距離はほぼ反比例関係にあるので、この場合、光回折素子304は、略長方形の各頂点に位置するように分離した回折光を出射することができる。
【0084】
例えば、本実施形態においてはθが45°であるので、第2パターンの小領域の第2の方向に沿った幅は、第1パターンの小領域の第1の方向に沿った幅の21/2倍としてよい。すると、光回折素子304は、回折光を正方形の各頂点に分離するように出射させることができる。
【0085】
このように、入射光400は、第2液晶層310、第2配向層308、第1液晶層306、第1配向層202を透過することで、±x方向と±y方向に回折光を生じる光回折素子として機能する。なお、図12では1次回折光のみを示しているが、0次回折光及び2次以上の高次回折光が生じる態様を除くものではない。第1配向層202及び第2配向層308のみで回折光を生じることができる場合は、第1液晶層306及び第2液晶層310を設けなくともよい。また、第2配向層208のみで回折光を生じることができる場合は、第2液晶層310を設けなくともよい。
【0086】
なお、本実施形態に代えて、第1配向層のリタデーションと第1液晶層のリタデーションの合計を1/2波長とし、第2配向層のリタデーションと第2液晶層のリタデーションの合計を1/4波長としてもよい。
【0087】
(実験例1)
次に、第1パターン内の隣り合う小領域同士の第1の方向に沿った幅と、光回折素子の1次回折光効率の関係について考察した実験例を示す。
本実験では、図7に示す態様の光回折素子について考察を行った。つまり、この例における光回折素子は少なくとも基板200、第1配向層202、位相差層206、第2配向層208を含む。
【0088】
図15には、この例における第1パターン212が記載されている。図15の1つの第1パターン212は、3つの小さい小領域222、及び3つの大きい小領域224と交互に配されている。それぞれの小領域の配向方向は、矢印及び数値で示されているように、隣り合う領域ごとに30°ずつ左向きに回転している。小領域222の第1の方向の幅aと小領域224の第1の方向に沿った幅(10−a)との合計を一定(10)とした。
【0089】
第2パターン216に含まれる小領域の幅も、図15と同様にaと10−aの比で表される形状とした。第2パターンと第1パターンは、同一のパターンとした。また、第1配向層202及び第2配向層208は1/2波長のリタデーションを有し、位相差層206は1/4波長のリタデーションを有している。
【0090】
以上の条件により実験を行ったところ、小領域の幅aと、この光回折素子の1次回折光効率(4点に分離した1次回折光の合計が素子全体の出射光に占める割合)は、図16に示す結果となった。ここで1次回折光効率は、4点に分離した1次回折光の合計が素子全体の出射光に占める割合で表される。
【0091】
図16によると、1次回折光効率は、幅aの値が5前後となるとき、つまり、隣り合う小領域の幅が等しいときに最大となり、0.85程度である。この場合は、第1パターンの小領域の第1の方向に沿った幅の長さが互いに等しく、かつ第2パターンの小領域の第2の方向に沿った幅の長さが互いに等しくなっている。光回折素子を実用的なローパスフィルタとして用いるためには、例えば1次回折光効率が0.7以上であることが望ましいが、そのためにはaの値が、2.5<a<7.5を満たしていることが望ましいことがこの結果から分かった。
【0092】
(実験例2)
次に、1つの第1パターン内の設けられる小領域の数と、光回折素子の1次回折光効率の関係について考察した実験例を図17から図21に示す。
本実験では、図7に示す態様の光回折素子について考察を行った。つまり、この例における光回折素子は少なくとも基板200、第1配向層202、位相差層206、第2配向層208を含む。
【0093】
ここで、第1配向層202内の各小領域は同じ長さの幅を持ち、隣り合う領域の高分子の配向方向の差は均一とした。第2配向層208は第1配向層202と同一のパターンを持つものとした。また、第1配向層202及び第2配向層208の1/2波長のリタデーションを有し、位相差層206は1/4波長のリタデーションを有している。
【0094】
図17(a)には、1つの第1パターンを10の小領域に分割した場合の例を示す。つまり、小領域内の高分子の配向の向きは、それぞれ18°、36°、54°、72°、90°、108°、126°、144°、162°、180°となっている。
以上の条件により実験を行ったところ、この光回折素子の1次回折光効率は、0.93となった。この結果を図17に示す。
【0095】
(実験例3)
1つの第1パターンを6の小領域に分割した以外は、実験例2と同様に条件を設定した。つまり、小領域内の高分子の配向の向きは、それぞれ30°、60°、90°、120°、150°、180°となっている。
以上の条件により実験を行ったところ、この光回折素子の1次回折光効率(4点に分離した1次回折光の合計が素子全体の出射光に占める割合)は、0.83となった。この結果を図18に示す。
【0096】
(実験例4)
1つの第1パターンを4の小領域に分割した以外は、実験例2と同様に条件を設定した。つまり、小領域内の高分子の配向の向きは、それぞれ45°、90°、135°、180°となっている。
以上の条件により実験を行ったところ、この光回折素子の1次回折光効率(4点に分離した1次回折光の合計が素子全体の出射光に占める割合)は、0.66となった。この結果を図19に示す。
【0097】
(実験例5)
1つの第1パターンを3の小領域に分割した以外は、実験例2と同様に条件を設定した。つまり、小領域内の高分子の配向の向きは、それぞれ60°、120°、180°となっている。
以上の条件により実験を行ったところ、この光回折素子の1次回折光効率(4点に分離した1次回折光の合計が素子全体の出射光に占める割合)は、0.47となった。この結果を図20に示す。
【0098】
図21に、光回折素子の1次回折効率と第1パターンの分割数との関係を示す。光回折素子を実用的なローパスフィルタとして用いるためには、例えば1次回折光効率が0.7以上であることが望ましい。そのためには、1つの第1パターンを、5つ以上の等しい幅を有する小領域に分割することが望ましいことがこの結果から分かった。
【0099】
(実験例6)
次に、光回折素子に円偏光が入射した実験例を図22に示す。
本実験では、図7に示す態様の光回折素子について考察を行った。つまり、この例における光回折素子は少なくとも基板200、第1配向層202、位相差層206、第2配向層208を含む。
【0100】
ここで、第1配向層202内の各小領域は同じ長さの幅を持ち、隣り合う領域の高分子の配向方向の差は均一とした。第2配向層208は第1配向層202と同一のパターンを持つものとした。また、第1配向層202及び第2配向層208の1/2波長のリタデーションを有し、位相差層206は1/4波長のリタデーションを有している。また、実験例4と同様に、第1パターンは4つに分割され、小領域は隣に移動するごとに45°ずつ配向方向が回転している。
【0101】
図22に示すように、円偏光が入射した光回折素子は、4点の1次回折光のうち2点の強度が減少し、2点の強度が増加した。これは、第1パターンに入射した円偏光は、第1の方向に沿って2つの1次回折光を均等の強度で出射せず、いずれか一方の1次回折光を高強度で出射するためであると考えられる。
【0102】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0103】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0104】
100 物点
102 光学系
104 光回折素子
106 撮像素子
200 基板
202 第1配向層
204 第1液晶層
205 配向膜
206 位相差層
207 液晶層
208 第2配向層
210 第2液晶層
212 第1パターン
214 小領域
216 第2パターン
220 配向方向
222 小領域
224 小領域
304 光回折素子
306 第1液晶層
308 第2配向層
310 第2液晶層
312 第1パターン
316 第2パターン
400 入射光
402 出射光
404 1次回折光
500 マスク
502 偏光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な基板と、
前記基板の一方の面に形成され、配向方向の第1パターンが前記基板の主面に沿った第1の方向に周期的に配列され、異方性を有する高分子を含む第1配向層と、
を備え、
前記第1パターンは、前記第1配向層に含まれる高分子の配向の方向が互いに異なる3以上の小領域が前記第1の方向に配列されて形成され、前記3以上の小領域を透過した光の相互の干渉により回折光を生じる光回折素子。
【請求項2】
透明な基板と、
前記基板の一方の面に形成され、配向方向の第1パターンが前記基板の主面に沿った第1の方向に周期的に配列され、異方性を有する高分子を含む第1配向層と
を備え、
前記第1パターンは、配向の方向が前記第1の方向に沿って変化して形成され、前記第1パターンを透過した光の相互の干渉により回折光を生じる光回折素子。
【請求項3】
前記第1配向層は液晶であり、
前記第1パターンは、前記基板の主面の面内における前記液晶の配向方向が互いに異なる小領域からなる
請求項1又は2に記載の光回折素子。
【請求項4】
前記第1配向層は固化された光配向性化合物であり、
前記第1パターンは、前記基板の主面の面内における前記光配向性化合物の配向方向が互いに異なる小領域からなる
請求項1又は2に記載の光回折素子。
【請求項5】
前記第1配向層の配向方向に倣って周期的に配向した液晶を含む第1液晶層を、前記第1配向層上に有し、
前記第1液晶層を透過した光の相互の干渉により回折光を生じる
請求項4に記載の光回折素子。
【請求項6】
前記第1パターンの前記小領域の前記第1の方向に沿った幅の長さが互いに等しい請求項1又は請求項3から5のいずれか1項に記載の光回折素子。
【請求項7】
前記第1パターンは、矩形形状の前記小領域を前記第1の方向に配置したストライプパターンを含む
請求項1又は請求項3から6のいずれか1項に記載の光回折素子。
【請求項8】
前記第1配向層は、
前記第1の方向及び前記第1の方向に交差し、前記基板の主面に沿った第2の方向に周期的にマトリクス状に配置される複数の前記第1パターンを有し、
前記第1パターンは、前記第1配向層に含まれる高分子の配向の方向が互いに異なる前記3以上の小領域が前記第1の方向及び前記第2の方向にマトリックス状に配列されるマトリックスパターンを含む
請求項1又は請求項3から6のいずれか1項に記載の光回折素子。
【請求項9】
前記3以上の小領域の前記基板の主面内の配向方向は、
前記第1の方向に沿って隣り合う前記小領域ごとに徐々に回転する
請求項1又は請求項3から8のいずれか1項に記載の光回折素子。
【請求項10】
前記第1の方向に沿って隣り合う前記小領域の、前記主面内の配向方向の角度差が同じである
請求項9に記載の光回折素子。
【請求項11】
前記第1配向層上に設けられた、前記第1配向層の配向方向に倣って周期的に配向した液晶を含む第1液晶層と、
前記第1液晶層の上面に形成され、配向方向の第2パターンが前記基板の主面に沿った第2の方向に周期的に配列され、異方性を有する高分子を含む第2配向層と、
前記第2配向層上に設けられた、前記第2配向層の配向方向に倣って周期的に配向した液晶を含む第2液晶層と、を備え、
前記第2パターンは、前記第2配向層に含まれる高分子の配向の方向が互いに異なる3以上の小領域が前記第2の方向に配列されて形成され、
前記第1の方向と前記第2の方向は交差し、
前記第1配向層及び前記第1液晶層を透過した光の相互の干渉により入射光を前記第1の方向に沿って回折し、
前記第2配向層及び前記第2液晶層を透過した光の相互の干渉により入射光を前記第2の方向に沿って回折する
請求項1又は2に記載の光回折素子。
【請求項12】
前記第1配向層上に設けられた、前記第1配向層の配向方向に倣って周期的に配向した液晶を含む第1液晶層と、
前記第1液晶層の上面に形成され、配向方向の第2パターンが前記基板の主面に沿った第2の方向に周期的に配列され、異方性を有する高分子を含む第2配向層と、
前記第2配向層上に設けられた、前記第2配向層の配向方向に倣って周期的に配向した液晶を含む第2液晶層と、を備え、
前記第2パターンは、配向の方向が前記第2の方向に沿って変化して形成され、
前記第1の方向と前記第2の方向は交差し、
前記第1配向層及び前記第1液晶層を透過した光の相互の干渉により入射光を前記第1の方向に沿って回折し、
前記第2配向層及び前記第2液晶層を透過した光の相互の干渉により入射光を前記第2の方向に沿って回折する
請求項1又は2に記載の光回折素子。
【請求項13】
前記第1液晶層と前記第2配向層の間に設けられた1/4波長位相差層を有する
請求項11又は12に記載の光回折素子。
【請求項14】
前記第1配向層のリタデーションと、前記第1液晶層のリタデーションの合計が1/2波長であり、
前記第2配向層のリタデーションと、前記第2液晶層のリタデーションの合計が1/2波長である
請求項13に記載の光回折素子。
【請求項15】
前記第1の方向と前記第2の方向が直交する
請求項13又は14に記載の光回折素子。
【請求項16】
前記第1パターンの前記第1の方向に沿った幅は、前記第2パターンの前記第2の方向に沿った幅と等しい、
請求項13から15のいずれか1項に記載の光回折素子。
【請求項17】
前記第1配向層のリタデーションと、前記第1液晶層のリタデーションの合計が1/4波長であり、
前記第2配向層のリタデーションと、前記第2液晶層のリタデーションの合計が1/2波長である
請求項11又は12に記載の光回折素子。
【請求項18】
前記第1の方向と前記第2の方向のなす角度が45°である
請求項17に記載の光回折素子。
【請求項19】
前記第2パターンの前記第2の方向に沿った幅は、前記第1パターンの前記第1の方向に沿った幅の21/2倍である
請求項18に記載の光回折素子。
【請求項20】
前記第1配向層のリタデーションと、前記第1液晶層のリタデーションの合計が1/2波長であり、
前記第2配向層のリタデーションと、前記第2液晶層のリタデーションの合計が1/4波長である
請求項11又は12に記載の光回折素子。
【請求項21】
前記第2配向層は固化された光配向性化合物である
請求項11から20のいずれか1項に記載の光回折素子。
【請求項22】
前記第2パターンの前記小領域の前記第2の方向に沿った幅の長さが互いに等しい請求項11に記載の光回折素子。
【請求項23】
前記第2パターンは、前記小領域を前記第2の方向に配置したストライプパターンを含む
請求項11に記載の光回折素子。
【請求項24】
請求項1から23のいずれか1項に記載の光回折素子を用いた光学ローパスフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−215794(P2012−215794A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129762(P2011−129762)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000155698)株式会社有沢製作所 (117)
【Fターム(参考)】