説明

光回路及び波形整形方法

【課題】
データ伝送における伝送帯域を拡大するという課題を解決するための技術を提供する。
【解決手段】
本発明の光回路は、光信号を分岐する光分岐部と、光分岐部で分岐された光信号の少なくとも1つに第1の遅延及び位相変化を与える第1の光遅延部と、光分岐部で分岐された光信号と第1の光遅延部を通過した光信号とを結合させる第1の光結合部と、を備え、位相変化は、第1の光結合部において結合される少なくとも2つの分岐された光信号の間にφ+2nπ(π/2<φ<3π/2、nは0以上の整数)の位相差を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光データ信号の波形整形を行う光回路及び光データ信号の波形整形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サーバ筐体間やボード間通信の高速化と大容量化に伴い、電気伝送を光伝送に置き換えることで、広帯域、低消費電力、長距離の伝送が可能な光インターコネクションの導入が検討されている。このような光インターコネクションでは光モジュールを用いて電気信号を光信号に変換することで伝送が行われる。
【0003】
図11に光インターコネクション装置で一般的に用いられる送信用光モジュールの構成を示す。光インターコネクション装置7は、LSI(Large Scale Integration)1と光モジュール6とを備える。光モジュール6は送信用の光素子と駆動回路とで構成される。送信用の光素子としては面発光レーザー(Vertical Surface Cavity Emitting Laser:VCSEL)3が用いられる。光モジュール6は、面発光レーザー3、及びその駆動回路(Laser Diode Driver:LDD)2及び波形整形回路4を備える。駆動回路2と波形整形回路4とは、集積回路(Integrated Circuit:IC)として集積化される。
【0004】
光モジュール6が送信した光は、マルチモードファイバ(Multi Mode Fiber:MMF)5を用いて伝送される。以下に光モジュールの動作を示す。
【0005】
LSI1は、データ信号を光モジュール6に入力する。光モジュール6内の波形整形回路4は、入力されたデータ信号の波形整形を行い、駆動回路2に出力する。駆動回路2は、波形整形回路4から入力されたデータ信号の電圧電流変換を行い、電流に変換されたデータ信号を面発光レーザー3に出力する。面発光レーザー3は、LDD2から入力された電流で駆動され、光信号を光モジュール6から出力する。光信号はMMF5を伝搬した後、図示されない受信装置の光モジュールに入力される。受信側の光モジュールにおいて、光信号はフォトダイオードにより受光され電流電圧変換回路によって電圧信号に変換され、受信側のLSIで信号処理が行われる。
【0006】
光モジュールを構成する光素子やIC、それらを接続する電気配線、LSIから光モジュールまでの電気配線はいずれも有限の帯域を持つ。また、電気伝送路には反射が、光伝送路には分散が存在する。このため、伝送される信号の波形は振幅方向に小さくなるだけでなく時間方向にも広がる。このような原因による、波形の劣化は符号間干渉(Inter−Symbol Interference:ISI)の原因となり、伝送帯域の低下をもたらす。
【0007】
リンク全体の帯域を確保するために波形整形技術が用いられる。短距離の光通信である光インターコネクションにおいては、波形整形回路においてプリエンファシスを行うことで伝送信号の波形整形を行う技術が知られている。
【0008】
図9は波形劣化の概念を示す図である。図9では、ビット列「0100」のデータ信号の波形劣化について説明する。伝送前のパルス幅がΔTbであるデータ信号が、伝送による波形劣化により、そのパルス幅がΔTaに広がる。その結果、ビット列「0100」において3ビット、4ビット目の「0」の時間位置に電圧ΔV3、ΔV4が発生する。これにより、符号間干渉が起こる。
【0009】
送信側において電気伝送路の波形劣化を補償する技術として、例えば電気回路によるプリエンファシス、フィードフォワード(Feed Forward Equalizer:FFE)回路がある。
【0010】
送信側における波形整形について、図10を参照して説明する。図10は波形劣化を補償する波形整形の例を示す図である。図9においては、波形劣化により、ビット列「0100」において3ビット、4ビット目の「0」の時間位置に電圧ΔV3、ΔV4が発生する結果、符号間干渉が発生していた。これに対し、図10においては伝送前に波形整形によってデータ信号に「0」の時間位置に発生する電圧を打ち消すような、シンボル「0」における電位より低い電圧−ΔV5、−ΔV6をそれぞれ与えておく。これにより、伝送後のパルスの広がりが低減されるので、結果として符号間干渉の緩和が可能となる。
【0011】
光回路を用いた長距離光通信における波形整形技術として、特許文献1に記載された光信号のRZ(return−to−zero)、NRZ(non return−to−zero)変換のための技術がある。特許文献1に記載された光信号波形変換装置においては、RZ形式の光信号をNRZ形式へと変換する。特許文献1に記載された装置は、RZ形式の光信号を光波形整形部で整形し、光分岐部で2つの経路で分岐する。分岐されたRZ形式の光信号は、光遅延付加部によって遅延時間差が付加され、光強度調節部により2つの信号の最大強度が同じになるように強度が調整される。2つの信号を光合波器で結合することで、RZ形式の光信号はNRZ形式の光信号に変換される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−159522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、図10を用いて説明したような波形整形を電気回路で行う場合には、信号の高速化に伴い、波形整形回路内のトランジスタにも高速性が要求され、駆動回路の設計が困難になるという課題がある。
【0014】
また、特許文献1は、2分岐された一方のRZ光信号をT/2(Tは信号のシンボル幅)だけ遅延させた後に結合させ、NRZ信号に変換する構成を記載している。しかしながら、特許文献1に記載された装置は、分岐されたそれぞれの光信号の相対的な位相を調整する機能を備えていない。このため、特許文献1に記載された装置は、分岐された光信号を光合波器において結合させるように構成した場合でも、図10で説明したような光信号のシンボル「0」における光強度より低い光信号を生成することはできない。その結果、特許文献1に記載された装置には、データ伝送の伝送帯域を拡大することが困難であるという課題がある。
【0015】
本発明の目的は、データ伝送における伝送帯域を拡大するという課題を解決するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の光回路は、光信号を分岐する光分岐部と、光分岐部で分岐された光信号の少なくとも1つに第1の遅延及び位相変化を与える第1の光遅延部と、光分岐部で分岐された光信号と第1の光遅延部を通過した光信号とを結合させる第1の光結合部と、を備え、位相変化は、第1の光結合部において結合される少なくとも2つの分岐された光信号の間にφ+2nπ(π/2<φ<3π/2、nは0以上の整数)の位相差を与える。
【0017】
本発明の波形整形方法は、光信号を分岐し、分岐された光信号の少なくとも1つに遅延及び位相変化を与え、遅延及び位相変化が与えられた光信号を結合させるる波形整形方法であって、結合される少なくとも2つの分岐された光信号の間にφ+2nπ(π/2<φ<3π/2、nは0以上の整数)の位相差が与えられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の光回路及び波形整形方法は、伝送路における伝送帯域を拡大することを可能とするという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1の実施形態の光回路の構成を示すブロック図である。
【図2】第1の実施形態における波形整形の手順を説明する図である。
【図3】第2の実施形態の光回路の構成を示す図である。
【図4】第3の実施形態の光回路の構成を示す図である。
【図5】第4の実施形態の光回路の構成を示す図である。
【図6】第5の実施形態の光回路の構成を示す図である。
【図7】第6の実施形態の光回路の構成を示す図である。
【図8】第7の実施形態の光回路の構成を示す図である。
【図9】波形劣化の概念を示す図である。
【図10】波形劣化を補償する波形整形の例を示す図である。
【図11】光インターコネクション装置で一般的に用いられる送信用光モジュールの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態の光回路および波形整形の方法について、図面を参照して詳細に説明する。図1は第1の実施形態の光回路の構成を示す図である。本実施形態の光回路100は、光分岐部102、光遅延部103、光結合部104を備える。光分岐部102は分岐器111〜113、光結合部104は結合器121〜123で構成される。
【0021】
光分岐部102は入力された光データ信号101をN本(Nは自然数)の方路1〜Nに分岐して光データ信号105として出力する。図1はN=4の例を示す。光データ信号101は、有限の消光比を持つ。すなわち、光データ信号101は、シンボル「0」および「1」のそれぞれのビットにおいて0ではない光強度と電場振幅を持つ。従って分岐された光データ信号105もシンボル「0」のビットにおいて0ではない光強度と電場振幅を持つ。分岐器111〜113の分岐比は、それぞれの分岐器の設計により任意の値に設定できる。
【0022】
光分岐部102で分岐された光データ信号105はそれぞれ光遅延部103を通り、光結合部104に入力される。光遅延部103は、入力された光データ信号に対して遅延及び位相変化を独立に付加することができる。従って、光遅延部103は、光遅延部103を通過した光データ信号106に対して、方路ごとに異なる、相対的な時間差および相対的な光位相差を与えることができる。光遅延部103から出力された光データ信号106は結合器121〜123においてそれぞれの位相関係において干渉を伴って結合される。そして、光データ信号106は、光データ信号107として光結合部104から出力される。
【0023】
ここで、結合器121〜123においては、結合される光データ信号は、それぞれの光位相差による干渉を伴って結合される。すなわち、光結合部104において結合される光データ信号106の位相が同一である場合には、結合された光データ信号の振幅は結合される前の光データ信号の振幅の和となる。一方、結合される光データ信号106の位相がπ(180度)異なっている場合には、結合された光データ信号の振幅は結合される前の光データ信号の振幅の差となる。
【0024】
図2は本実施形態における波形整形の手順を説明する図である。図2は、図1に示した光回路100において、ビット列「0100」の光データ信号101が光分岐部1へ入力される場合の光データ信号の光強度を示す。図2において、水平方向の破線は光強度が0であるレベルを示す。光データ信号101の消光比は有限であり、シンボル「0」における光強度は0ではない。
【0025】
入力される光データ信号101は、シンボル「1」においてI01、シンボル「0」においてI00の強度を持つ。それぞれのシンボルの光強度は、それぞれの電場振幅をE01及びE00とするとI01=|E01|、I00=|E00|と表される。
【0026】
ここで、方路「m」(mは1〜4のいずれか)におけるシンボル「n」(nは0又は1)における電場振幅をEmnと記載する。また、m=0は、入力される光データ信号101を示すものとする。また、分岐器111から各方路への分岐比を、それぞれ方路1側をT1、方路2側をR1とする。分岐器112から各方路への分岐比は、方路2側をT2、方路3側をR2とする。この場合、方路1における電場E1はシンボル「1」ではE11=T1×E01となり、方路2においてはシンボル「1」ではE21=R1×T2×E01となる。同様に方路3におけるシンボル「1」の電場E31はE31=R1×R2×T3×E01、方路4におけるシンボル「1」の電場E41はE41=R1×R2×R3×E01である。
【0027】
光遅延部103は、方路2を伝搬する光データ信号に、方路1を伝搬する光データ信号に対して1ビットの遅延を与える。また、光遅延部103は、方路3を伝搬する光データ信号に、方路1を伝搬する光データ信号に対して2ビットの遅延を与える。なお、光遅延部103は、方路4を伝搬する光データ信号には、方路1を伝搬する光データ信号に対する遅延を与えない。
【0028】
また、光遅延部103は、方路1を伝搬する光データ信号105に対する光結合部104における位相差が方路2ではπ、方路3ではπ、そして方路4では0となるように各方路を伝搬する光データ信号105に位相変化を与える。図2には、光遅延部103を通過した後の方路1〜方路4における光強度が示される。ここで、1ビットあたりの遅延時間は、光データ信号のビットレートをf(ビット/秒)とすると、1/f(秒)である。
【0029】
上で述べたように、光遅延部103において、方路1及び方路4の光データ信号に対して、方路2及び方路3の光データ信号の光位相はπ異なっている。このため、結合器121〜123において、位相が同じ光データ信号が結合される際には、それらの振幅は加算される。一方、結合器121〜123において位相がπ異なる光データ信号同士が結合される際には、それらの振幅の差が出力される。このようにして、干渉を伴って光データ信号が結合される結果、光データ信号107が出力される。
【0030】
ここで、結合器121〜123の結合比は、分岐器111〜123と同様とする。すなわち、方路1〜方路4に接続されている結合器のポートの結合比はそれぞれT1〜T3及びR3である。また、結合器121及び結合器122の、結合器122及び結合器123と接続されたポートの結合比はそれぞれR1、R2とする。光データ信号107の電場をE5とすると、時刻t0における電場E5は、E5(t0)=T1×E10+T2×R1×E20+T3×R2×R1×E30+R3×R2×R1×E40となる。時刻t1における電場E5は、E5(t1)=T1×E11+T2×R1×E20+R3×T2×T1×E30+T3×T2×T1×E41である。そして、時刻t2における電場E5は、E5(t2)=T1×E10+T2×R1×E21+T3×R2×R1×E30+R3×R2×R1×E40である。さらに、時刻t3における電場E5は、E5(t3)=T1×E10+T2×T1×E20+T3×R2×R1×E31+R3×R2×R1×E40となる。光強度I5はI5=|E5|となる。
【0031】
そして、図2に示す光データ信号107のように波形整形された光が出力される。光回路100は、光結合部104において同位相あるいは逆位相の光データ信号同士を干渉させる。このため、入力する光データ信号のシンボル「0」における光強度を下回る光強度の波形を生成することが可能となる。
【0032】
本実施形態において、光データ信号101は有限の消光比をもつRZ符号またはNRZ符号の光データ信号であり、光回路の構成よりも十分長いコヒーレンス長をもつ。光分岐部102及び光結合部104としては、例えばマルチモード干渉計(Multi−mode Interferometer:MMI)、ファイバカプラ、ビームスプリッタなどを用いることができる。
【0033】
光遅延部103としては光ファイバ、シリコン、化合物、ポリマー、シリカなどで形成された光導波路、自由空間の光路などで構成することができる。位相差はこれら光遅延部の光路長を設計することで設定される。また、上記光遅延部に応力、張力、電圧、温度などを加えることで通過する光データ信号の位相調整を行うことができる。
【0034】
さらに、本実施形態の構成要素は例えばシリコンフォトニクスや化合物半導体光回路、シリカ平面光回路技術等を用いてモノリシックに作成されていてもよい。
【0035】
なお、第1の実施形態においては、光遅延部103が光データ信号に対して1ビット又は2ビットの遅延を与えるものとして説明した。しかし、これらの遅延が与えられる場所は光遅延部103である必要はない。例えば、各方路に所定の相対的な遅延量が与えられるように、分岐器111〜113の間の光路長を定めてもよい。
【0036】
また、図1では、第1の実施形態の光回路として、4本の方路及びそれぞれ3台の分岐器及び結合器を備える構成について説明した。しかし、方路の数は4本に限られない。しそして、所定の本数の方路を構成できるのであれば、分岐器及び結合器の台数も3台に限定されない。
【0037】
また、第1の実施形態の光回路100では、光遅延部103は、方路1及び方路4を伝搬する光データ信号105に対する方路2及び方路3の位相差がπであるとして説明した。しかしながら、入力する光データ信号のシンボル「0」における光強度を下回る光強度の波形を生成することが可能であれば、各方路間の位相差は、上記に限定されない。例えば、光遅延部103は、方路1〜方路4を伝搬する光データ信号105のうち少なくとも2つの光データ信号105の結合部104における位相差がπ/2を越え3π/2未満となるような位相変化を、光データ信号105に与えてもよい。このようにして、第1の実施形態の光回路100は、結合部104における干渉により方路1のシンボル「0」の光強度を下回る光データ信号を生成してもよい。
【0038】
以上のように、第1の実施形態の光回路100は、入力されたシンボル「0」において0ではない電場振幅をもつ光データ信号を、光分岐器によって複数の光データ信号に分岐する。そして、光回路100は、光遅延部により時間遅延及び位相差を与えた後、光データ信号同士を電場干渉を伴って結合させることで光データ信号の波形整形を行う。ここで、光回路100は、同位相又は逆位相の電場振幅をもった光データ信号同士を干渉させるため、入力する光データ信号のシンボル「0」における光強度を下回る光強度を波形整形として生成することが可能となる。すなわち、第1の実施形態の光回路100は、伝送路における波形の広がりを補償するような波形整形が可能という効果を奏する。また、第1の実施形態の光回路は遅延時間および分岐比の制御により波形整形を行うため、信号の帯域によらず波形整形を行うことが可能であるという効果も奏する。
【0039】
さらに、第1の実施形態の光回路100において、各方路における電場振幅と位相差を光分岐部と光遅延部により制御し、I01/I00 < I5(T1)/I5(T0)となるような条件を光回路に設定してもよい。I01/I00は、入力される光データ信号101の消光比であり、I5(T1)/I5(T0)は、出力される光データ信号107の消光比である。光回路100は、入力及び出力の光強度が上記の関係を満たすように制御を行うことで、入力した光データ信号の消光比を向上させる波形整形が可能となるという効果を奏する。
【0040】
また、光回路100は、各方路の光路長の設計ばらつきが充分に小さく、温度変化等の環境条件が安定している場合には、使用中に位相変化量を調整する必要がない。このため、光回路の制御のための電力を必要とせず、光回路100を受動部品として使用して波形整形を行うことが可能であるという効果もある。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図3は第2の実施形態の光回路の構成を示す図である。本実施形態の光回路300は、光分岐部302、光遅延部303、光結合部304を備える。すなわち、光回路300は、第1の実施形態で説明した光回路100を、方路1と方路2とのみで構成されるように変形した光回路である。なお、方路1を伝搬する光データ信号は、光遅延部303を通過しない。光回路300は、入力された光データ信号301に対する波形整形を行う。
【0041】
光回路300は、入力された光データ信号301を光分岐部302で2本の方路に分岐し、光遅延部303によって時間遅延及び位相差を与えた信号を光結合部304で電場干渉を伴って結合させる。ここで、光遅延部303は、入力された光データ信号に1ビットの時間遅延及びπの位相差を与える。従って、光結合部304に入力される光データ信号の波形は、図2の「方路1」及び「方路2」で示される。
【0042】
光データ信号301を分岐し、その一方に1ビットの遅延とπの位相差を与えることにより、第1の実施形態の光回路100と同様の作用により、光結合部304において、シンボル「0」よりも小さい振幅の信号を生成することができる。このようにして、光回路300は、伝送路における波形の広がりを補償するような波形整形が可能という第1の実施形態と同様の効果を奏する。
(第3の実施形態)
続いて、本発明の第3の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図4は第3の実施形態の光回路の構成を示す図である。第3の実施形態の光回路400は、第2の実施形態の光回路300を、マッハツェンダ型光干渉計を用いて構成した例である。光回路400は、第1の光スイッチ部402、位相変調部404、第2の光スイッチ部403を備える。第1の光スイッチ部402及び第2の光スイッチ部403はマッハツェンダ型光干渉計を用いた光スイッチであり、光スイッチの電極に電圧を印加することで各方路への分岐比を任意の値に制御することが可能である。また、位相変調部404は、マッハツェンダ型光干渉計を用いた光位相変調器であり、光位相変調器の電極に電圧を印加することで、透過する光の位相を制御することができる。
【0043】
光回路400において、光データ信号401は第1の光スイッチ部402に入力される。第1の光スイッチ部402は、入力された光データ信号401を分岐させて出力する。分岐された光データ信号はそれぞれ位相変調部404を通り、第2の光スイッチ部403で干渉を伴って結合される。ここで、第1の光スイッチ部から第2の光スイッチ部に至る2本の光路には、所定の遅延時間が与えられるように光路長差が設けられている。
【0044】
以上のように、第3の実施形態の光回路400は、入力された光データ信号を第1の光スイッチ部402によって分岐させる。そして、光遅延部404は、分岐された光データ信号に時間遅延及び位相差を与えた後、第2の光スイッチ部403で光データ信号間を干渉させて結合させる。このような構成を備えることで、光回路400は光データ信号の波形整形を行うことが可能である。
【0045】
また、第3の実施形態の光回路400は、第1及び第2の光スイッチ部402、403及び位相変調部404を、いずれもマッハツェンダ型光干渉計を用いて構成している。このため、光回路400は、光回路の設計が容易であり、また、光回路を作製する際の製造プロセスが単純化できるという効果も奏する。
【0046】
さらに、第3の実施形態の光回路400は、光回路の作成後にも第1及び第2の光スイッチ部402、403によって分岐比および結合比を自由に制御することが可能である。従って、第3の実施形態の光回路400には、光回路の作製後の結合比の調整や、使用中の波形整形パラメータの変更が可能であるという効果がある。
(第4の実施形態)
続いて、本発明の第4の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図5は第4の実施形態の光回路の構成を示す図である。図5に示す第4の実施形態の光回路は、第1の光スイッチ部502、光遅延部504、第2の光スイッチ部503を備える。光遅延部504は光路長の異なるN本(Nは自然数)の方路により構成される。図5はN=4の際の光回路を示す。第1の光スイッチ部は光遅延部504の各方路に応じたN本の出力ポートを備え、各出力ポートは光遅延部504の各方路と一対一で結合する。光遅延部504のN本の方路は第2の光スイッチ部503のN本の入力ポートと結合する。
【0047】
光データ信号501は、第1の光スイッチ部502に入力され、複数の方路への光データ信号として光遅延部504へ出力される。第1の光スイッチ部502の制御(例えば電圧)により、あらかじめ作成されたN本の光遅延部504の各方路を通る光データ信号の強度が任意に制御される。光遅延部504は方路ごとに異なる遅延量を与えるよう設計されている。光遅延部504を通った光データ信号は第2の光スイッチ部503において干渉をともない結合される。
【0048】
以上のように、第4の実施形態の光回路500は、入力された光データ信号を第1の光スイッチ部502によって分岐し、光遅延部504において時間遅延及び、位相差を与えた後、第2の光スイッチ部で光データ信号間の干渉を伴う結合を行うことで光データ信号の波形整形を行うことが可能である。
【0049】
さらに第1及び第2の光スイッチ部502、503と光遅延部504によって、方路数及び各方路の分岐比、遅延時間を任意に制御することが可能となるため、より自由度の高い波形整形が可能であるという効果もある。
(第5の実施形態)
さらに、本発明の第5の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図6は第5の実施形態の光回路の構成を示す図である。図6に示す光回路600は、光分岐部602、第1の光遅延部603、第1の光結合部604、第2の光遅延部606、第2の光結合部607、光伝送路608を備える。
【0050】
光回路600は、第2の光遅延部606及び第2の光結合部607を備える点で、第1の実施形態で説明した光回路100と異なっている。
【0051】
光回路600は、光データ信号601を光分岐部602で4本に分岐する。光分岐部602は、分岐器611〜613を備える。
【0052】
第1の光遅延部603は、分岐されたそれぞれの光データ信号に対して位相差と時間遅延を与える。第1の光結合部604は、結合器621〜623を備える。第1の光結合部604は、第1の光遅延部603から出力された光データ信号を干渉を伴って結合させる。第1の光結合部604における、各方路から入力された光データ信号を結合させる動作は、第1の実施形態で説明した光結合部104と同様である。結合器621〜623から出力される光データ信号609は、第2の光遅延部606によって時間遅延を与えられた後、光結合部607により光伝送路608と結合される。
【0053】
光回路600において、光結合部604を構成する結合器621〜623は、入力2ポート、出力2ポートのマルチモード干渉計である。ただし、結合器621〜623はマルチモード干渉計に限られず、例えば光方向性結合器でもよい。結合器621〜623としてマルチモード干渉計を用いた場合には、結合器の入力側の2ポートに入力された光データ信号の強度の和と、出力側の2ポートから出力される光データ信号の強度の和は等しくなる。すなわち、結合器621〜623としてマルチモード干渉計を用いることで、光結合部604における結合に伴う放射損失を低減される。
【0054】
第2の光遅延部606は、光結合部604から出力される光データ信号609のそれぞれの遅延量を設定する。図6に示すように、光データ信号609は、結合器622及び623の出力のうち、結合器621への光路を構成しない側のそれぞれの出力と、結合器621の2本の出力とで構成される。そして、第2の光遅延部606は、光データ信号601のシンボル「1」が方路2〜方路4上で遅延されて生成されたビットのうち少なくとも1つが、方路1を伝搬したシンボル「1」と同一のタイミングで光結合部607へ入力されるように各光データ信号609の遅延量を設定する。このような構成により、方路1を伝搬したシンボル「1」のビットと、方路2〜方路4上を伝搬した少なくとも1つのシンボル「1」のビットとが、同一のタイミングで光結合部607で合流されて光伝送路608に出力される。
【0055】
ここで、光伝送路608は例えばコア面積の比較的大きいマルチモードファイバである。第2の光遅延部606から出力された光データ信号がコア寸法の大きい光伝送路608に合流されるので、光結合部607においては干渉を伴わない。すなわち、光結合部607においては、第2の光遅延部から出力される光データ信号の光強度が加算された波形を持つ光データ信号が光伝送路608に出力される。
【0056】
以上のように、第5の実施形態の光回路600は入力された光データ信号を複数の光データ信号に分岐し、時間遅延及び位相差を与えた後、第1の光結合部で光データ信号間の干渉を伴う結合を行い、さらに、第2の光結合部で干渉を伴わない結合を行うことで波形整形を行っている。
【0057】
このような構成を備える光回路600は、第1の実施形態の光回路100が奏する効果に加えて、光結合部604における結合に伴う放射損失を低減できるという効果を奏する。
(第6の実施形態)
本発明の第6の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図7は第6の実施形態の光回路の構成を示す図である。
【0058】
図7に示した光回路700は、入力される光データ信号701に対し、光回路702を複数組み合わせることで波形整形を行う、光回路モジュールである。光回路702は、第1〜第5の実施形態で説明した光回路のいずれかであり、それぞれが異なる構成を備えていてもよい。
【0059】
光回路702としては、光結合部における分岐比や光遅延部の設計等の異なる既存の光回路を用いることができる。また、光回路702として、例えば図4及び図5に示すように2本の入力あるいは出力を備える光回路を用いることにより、光回路700は、光回路702が並列に配置された構成を備えることも可能である。
【0060】
このような光回路702を複数組み合わせて所望の特性が得られるように光回路700を構成することにより、第6の実施形態の光回路は、新しい光回路を作成することなく、所望の特性を備えた波形整形回路を容易に構成することが可能となるという効果を奏する。
(第7の実施形態)
本発明の第7の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図8は第7の実施形態の光回路の構成を示す図である。光回路800は、光回路802が光ファイバのコネクタ804内部に配置されている、光回路モジュールである。光回路802は、第1〜第6の実施形態で説明した光回路100、300〜700のいずれかである。
【0061】
図8においては、コネクタ804の両端から、入力側光ファイバ805の先端部と出力側光ファイバ803の先端部とが、光回路802を介して光路を形成するように挿入される。その結果、入力側光ファイバ801を伝搬してきた光データ信号801は光回路802に入力される。そして、光データ信号801は光回路802において波形整形される。波形整形された光データ信号806は、出力側光ファイバに入力されて伝搬する。このように、第1〜第6の各実施形態で説明した光回路を図8に示すようにコネクタ内部に配置することで、光コネクタの接続点において波形整形が可能となる。
【0062】
具体的には、入力側光ファイバ805及び出力側光ファイバ803のそれぞれの先端部を、光コネクタで用いられるフェルール807、808を備える構成としてもよい。そして、フェルール807、808と嵌合するスリーブの中心軸上に光回路802の入出力部分が位置するように、光回路802がスリーブ内に配置されてもよい。このような構成を備えることで、光回路802と接触するようにスリーブにフェルール807、808を挿入するだけで光回路800が容易に構成される。
【0063】
第7の実施形態の光回路800は、光回路802が備える波形整形に関する効果に加えて、光回路802を既存の光ファイバの接続部分に配置しているため運用中の装置やモジュールに容易に波形整形機能を導入できるという効果がある。
【0064】
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0065】
例えば、入力された光データ信号が分岐された方路の本数は、各実施形態で説明した本数に限定されず、2本以上であれば制限はない。また、第3の実施形態で説明したマッハツェンダ型光干渉計を用いた構成は、他の実施形態で説明した光回路にも適用可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 LSI
2 駆動回路
3 面発光ダイオード
4 波形整形回路
5 マルチモードファイバ
6 光モジュール
7 光インターコネクション装置
100、300、500、600、700、800 光回路
101、107,301、401、501、601、701、801、806 光データ信号
102、302、602 光分岐部
103、303、504 光遅延部
104、304、604 光結合部
105、305、605、609、801 光データ信号
111〜113、611〜613 分岐器
121〜123、621〜623 結合器
402、502 第1の光スイッチ部
404 光位相変調部
403、503 第2の光スイッチ部
603 第1の光遅延部
606 第2の光遅延部
607 光結合部
608 光伝送路
702 802 光回路
803 出力側光ファイバ
804 コネクタ
805 入力側光ファイバ
807、808 フェルール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光信号を分岐する光分岐部と、
前記光分岐部で分岐された前記光信号の少なくとも1つに第1の遅延及び位相変化を与える第1の光遅延部と、
前記光分岐部で分岐された前記光信号と前記第1の光遅延部を通過した前記光信号とを結合させる第1の光結合部と、を備え、
前記位相変化は、前記第1の光結合部において結合される少なくとも2つの前記分岐された前記光信号の間にφ+2nπ(π/2<φ<3π/2、nは0以上の整数)の位相差を与える、光回路。
【請求項2】
前記第1の遅延は前記光信号のシンボル幅の整数倍である、請求項1に記載された光回路。
【請求項3】
前記光分岐部は入力を2分岐する分岐器を複数備えて構成される、請求項1又は2に記載された光回路。
【請求項4】
前記分岐器は分岐比が可変である、請求項3に記載された光回路。
【請求項5】
前記光分岐部、前記光遅延部及び前記第1の光結合部はマッハツェンダ型光スイッチで構成される、請求項1乃至4のいずれかに記載された光回路。
【請求項6】
第2の光遅延部及び第2の光結合部をさらに備え、
前記第1の光結合部は2入力2出力の2×2結合器を複数備えて構成され、
前記第2の光遅延部は前記2×2結合器から出力される光信号に第2の遅延を与えて出力し、
前記第2の光結合部は前記第2の光遅延部から出力された光信号を結合して出力する、
請求項1乃至5のいずれかに記載された光回路。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載された光回路を複数備え、入力された光信号が複数の前記光回路を通過するように構成された光回路モジュール。
【請求項8】
光ファイバ伝送路の端部と嵌合する円筒状の空間を備えるコネクタ部と、請求項1乃至6のいずれかに記載された光回路または請求項7に記載された光回路モジュールとを備え、
前記光ファイバ伝送路の端部が前記コネクタ部と嵌合した際に、前記光回路の入力部及び出力部又は前記光回路モジュールの入力部及び出力部と、前記光ファイバ伝送路と、が光学的に結合される、光回路モジュール。
【請求項9】
光信号を分岐し、前記分岐された前記光信号の少なくとも1つに遅延及び位相変化を与え、前記遅延及び前記位相変化が与えられた光信号を結合させるる波形整形方法であって、
前記結合される少なくとも2つの前記分岐された前記光信号の間にφ+2nπ(π/2<φ<3π/2、nは0以上の整数)の位相差が与えられる、波形整形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−68853(P2013−68853A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208256(P2011−208256)
【出願日】平成23年9月23日(2011.9.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーンネットワーク・システム技術研究開発プロジェクト(グリーンITプロジェクト)/サーバの最適構成とクラウド・コンピューティング環境における進化するアーキテクチャーの開発/将来の進化を想定した低消費電力アーキテクチャーの開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】