説明

光回路部品

【課題】 光導波路間の熱分離性能が高く、光導波路間の距離を小さくでき、小型化及び高集積化が可能な光回路部品を提供する。
【解決手段】 基板1上にクラッド層2を設け、このクラッド層2中に2本のコア3a及び3bを設ける。また、クラッド層2の表面上におけるコア3a及び3bの直上域を含む領域に薄膜ヒータ5a及び5bを設ける。更に、クラッド層2の表面上にラジエータ8を設ける。ラジエータ8の形状は、薄膜ヒータ5a及び5bを囲むような櫛状形状とし、その一部はコア3a及とコア3bとの間の領域9に形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、基板上に少なくとも1の熱光学位相シフタが設けられた光回路部品に関し、特に、熱分離の向上を図った光回路部品に関する。
【0002】
【従来の技術】光通信分野における多チャンネル化は、波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)通信方式の出現により急速に促進されている。波長分割多重通信方式の開発当初である1990年前後には、波長多重数は4波長乃至16波長程度であったが、現在では、研究レベルではあるが、300波長に達する勢いで波長多重数が増え続けている。波長多重数が増加することにより、通信容量は飛躍的に増大するが、これらの多重化された波長ごとに機能的な制御、例えば各波長のパワーを一定に揃えたり、波長変換を行ったりという制御を実施しようとすると、波長数に応じた数の光素子が必要となってくる。このため、従来行っていたように、各波長の光に対して夫々個別の機器を用意する方法では、装置の設置面積及びトータルの価格が増大する等の問題が発生する。
【0003】従って、近時、相互に波長が異なる複数の光を制御する光回路部品の開発が進められており、また、このような光回路部品への複数の光の入出力を制御する高密度集積が可能な光スイッチの必要性が高まっている。
【0004】従来より、単体の光スイッチが実現されている。また、この単体の光スイッチを多数備え、複数の入出力ポートを持つマトリックススイッチも実用化されている。光スイッチを実現する技術としては、熱光学位相シフタを利用する方法、入力ポート及び出力ポートを機械的に動かして接続する方法、可動式のミラーを所望の角度に回転させて入力ポートと出力ポートとを接続する方法、並びに交差接続された導波路の交差点で泡を発生させる等の手段により光の反射を制御して入力・出力ポート間の接続を変更する方法等、多岐に渡る技術が開発されている。これらの従来技術は、例えば、特開平9−5653号公報、特開昭62−187826号公報、特開2001−255474号公報に開示されている。
【0005】これらの従来技術のうち、熱光学位相シフタを利用した平面光波回路(PLC)型デバイスは、その作製プロセスに半導体回路作製技術を利用できることから、作製が容易であると共に集積性が極めて優れており、光スイッチの高機能化及び大規模化にも有利であるという特長をもつ。
【0006】通常、熱光学位相シフタは次のようにして実現される。クラッド層とコアからなる光導波路を作製し、この光導波路上に金属薄膜等を成膜し、この金属薄膜を光導波路に沿った細線形状に加工し、通電できるようにする。そして、この金属薄膜に外部から電力を投入すると、金属薄膜の電気抵抗により熱が発生して、光導波路のヒータとして機能する。このヒータにおいて発生した熱は光導波路のクラッド層を伝導してコアに達し、コアを形成する材料の屈折率を変化させる。例えば、光導波路が石英ガラスにより形成されている場合は、石英ガラスの屈折率の温度係数(dn/dT)は約1×10−5(/℃)であるため、コアを加熱すると、このコアの屈折率が大きくなる。これにより、光導波路の実効導波路長が長くなり、出力端における光の位相がシフトする。前記ヒータの出力を変化させることにより、出力端における光の位相シフト量を任意に制御することができる。
【0007】このような熱光学位相シフタを2組設け、これらの熱光学位相シフタの入力端を例えば3dBカップラにより相互に接続すると共に、これらの出力端を同様に相互に接続することにより、マッハ・ツェンダ型干渉計を作製することができる。マッハ・ツェンダ型干渉計においては、入力された光を前記2組の熱光学位相シフタの光導波路に分岐し、これらの分岐された光の間に任意の位相差をつけることにより、出力端のカップラにおいて各々の光導波路を通過してきた光を干渉させて、位相差に応じた出力強度を得ることができる。例えば、位相差をつけない場合(位相差0)には、光は相互に強めあうように干渉するため、入力光と出力光との間に差異は現れない。これに対して、位相差を入力光波長の半波長分(位相差π)に設定すると、出力端において光は相互に打ち消しあい、出力光を消すことができる。即ち、マッハ・ツェンダ型干渉計は、分岐された光の位相差を0とπとの間で変化させることにより、光スイッチとして動作させることができる。このマッハ・ツェンダ型干渉計スイッチを多数使用することにより、複数の入出力端を有するマトリックススイッチが実現されている。このようなマトリクススイッチは、例えば、「T. Goh, "High-Extinction Ratio and Low-Loss Silica-Based 8x8 Strictly Nonblocking Thermooptic Matrix Switch", IEEE J. Lightwave Technol. Vol.17, p.1192 (1999)」に記載されている。
【0008】しかしながら、マッハ・ツェンダ型干渉計においては、一方の熱光学位相シフタで生じる熱が、他方の熱光学位相シフタの動作に影響を与えてしまうという問題点がある。また、同一基板上に複数のマッハ・ツェンダ型干渉計が設けられている場合、並びに同一基板上にマッハ・ツェンダ型干渉計及び他の光回路が設けられている場合においては、マッハ・ツェンダ型干渉計の熱光学位相シフタで生じる熱が、隣接するマッハ・ツェンダ型干渉計及び他の光回路の動作に影響を与えてしまうという問題点がある。更に、熱光学位相シフタの近傍に例えばこの熱光学位相シフタのヒータを制御するLSI、又はレーザ発振器等が設けられていると、ヒータから発せられる熱がLSIの動作に影響を与えたり、レーザ発振器から発せられる熱が熱光学位相シフタの動作に影響を与えたりするという問題点がある。
【0009】そこで従来、熱光学位相シフタのヒータから生じる熱が、他の熱光学位相シフタの光導波路、隣接するマッハ・ツェンダ型干渉計の光導波路及び他の光回路の動作に影響を与えないように、これらの光導波路間の距離を十分に大きくすることにより、熱分離を実現する簡便な方法が採用されてきた。
【0010】また、より能動的な方法としては、(姫野明ら「石英系導波路を用いた単一モード光導波ゲートマトリクススイッチ」、電子情報通信学会論文誌C、Vol.J71−C、No.5、第685〜691頁(1988年))に開示されている方法がある。図19はこの従来のリッジ型導波路を使用したマッハ・ツェンダ型干渉計を示す斜視図である。図19に示すように、このマッハ・ツェンダ型干渉計においては、基板101上に光導波路102が設けられている。光導波路102には、入力端子103及び出力端子104が設けられており、入力端子103と出力端子104との間は2本の光導波路105a及び105bに分岐されている。また、基板101上における光導波路105aから見て光導波路105bの反対側にはヒータ106が設けられている。更に、基板101上における光導波路105aと105bとの間、及び光導波路105bから見て光導波路105aの反対側には放熱用金属膜107が設けられている。これにより、ヒータ106が光導波路105aを加熱する際に、この熱を放熱用金属膜107によって放熱することにより、光導波路105bが加熱されることを抑制できる。
【0011】更に、例えば、「A. Sugita et al., "Bridge-Suspended Silica-Waveguide Thermo-Optic Phase Shifter and Its Application to Mach-Zender Type Optical Switch", Trans. IEICE, 73 (1990) p.105」には、基板上に2本のアーム導波路を設け、この2本のアーム導波路間の基板にドライエッチング等により溝を設け、この溝の内部を大気等の熱伝導率が低い気体により満たす技術が開示されている。これにより、2本のアーム導波路間の熱分離性を向上させることができる。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述の従来の技術には、以下に示すような問題点がある。光導波路間の距離を大きくする技術においては、光導波路の数が増えると、トータルの光回路部品のサイズが極めて大きくなってしまうという問題がある。光回路部品のサイズを小さくしようとすると、光導波路間の間隔を狭めなければならず、光導波路間の熱クロストークを何らかの方法で低減する必要が生じる。上述の如く、近時、チャンネル数が飛躍的に増加しており、このチャンネル数の増加に伴って、光回路部品における光導波路数が増大しているため、光導波路間の距離を大きくする方法は実用的ではない。
【0013】また、図19に示す分岐された光導波路の外側にヒータを設け、導波路間に放熱用金属膜を設ける方法においては、ヒータが光導波路の外側に配置されているため、隣接する光素子への熱伝達が大きくなってしまい、アレイ化及び小型化には適さないという問題点がある。即ち、図19に示すマッハ・ツェンダ型干渉計においては、ヒータ106で生じた熱が、光導波路105bに到達することはある程度防止できるものの、ヒータ106から見て光導波路105aの反対側に配置される光素子(図示せず)への熱伝達が大きくなってしまい、この光素子の動作に影響を与える。また、ヒータ106は基板101上に直に形成されているため、ヒータ106が発する熱が直接基板101へ逃げてしまい、光導波路105aの加熱効率が低いという問題点もある。
【0014】更に、光導波路の周辺に断熱溝を設けて熱分離を図る方法は、光導波路間に例えば大気等の熱伝導率が低い物質が配置されるために、光導波路間の距離を大幅に狭めることができる。しかし、基板を例えば石英ガラス等の熱伝導率が低い材料により形成する場合、熱光学位相シフタに設けられたヒータから発生した熱が、基板を通して他の光導波路に伝達され、このとき、基板の断熱性が高いために、伝達された熱が基板に蓄積されてしまい、基板全体の温度が上昇してしまう。この結果、前記他の光導波路の温度が上昇し熱分離が取れない状態となってしまう。また、このような断熱溝構造は、その原理上、スラブ型の導波路等においてコア内に温度分布を設けたい場合及び基板をエッチングが困難な材料により形成する場合等には、適用できないという問題点もある。
【0015】本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、光導波路間又は隣接する光回路等との間の熱分離性能が高く、光導波路間又は隣接する光回路等との間の距離を小さくでき、小型化及び高集積化が可能な光回路部品を提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】本発明に係る光回路部品は、基板と、この基板上に設けられたクラッド層と、このクラッド層内に前記クラッド層の表面に平行な方向に相互に離隔して設けられ前記クラッド層と共に複数の光導波路を構成する複数のコアと、少なくとも1の前記コアの直上域又は直下域を含む領域に設けられ発熱することにより前記光導波路の光の位相を変化させる薄膜ヒータと、前記コアの間の領域又はこの領域の直上域若しくは直下域に設けられ前記薄膜ヒータが放出する熱を吸収するラジエータと、を有することを特徴とする。
【0017】本発明においては、薄膜ヒータがこの薄膜ヒータの直上域又は直下域に設けられたコアを加熱し、このコア及びクラッド層から構成される光導波路の光の位相を変化させることができる。このとき、薄膜ヒータはコアの直上域又は直下域を含む領域に設けられているため、薄膜ヒータの熱が他のコアに漏洩することを抑制でき、この薄膜ヒータの直上域又は直下域に設けられているコアを効率よく加熱することができる。また、コア間の領域又はこの領域の直上域若しくは直下域に設けられたラジエータが、薄膜ヒータから生じた熱を吸収することにより、この熱がコア間の領域を伝達することを抑制でき、薄膜ヒータがこの薄膜ヒータの直上域又は直下域にないコアを加熱することを防止できる。これにより、コア間の熱分離を向上させることができる。この結果、コア間の距離を小さくすることができ、光回路部品の小型化、高集積化及び大規模化を図ることが可能となる。
【0018】また、前記コアの数が2であり、前記コアの入力端同士が相互に結合されていると共に前記コアの出力端同士が相互に結合されていてもよい。これにより、マッハ・ツェンダ型光干渉計を形成することができる。このマッハ・ツェンダ型光干渉計においては、1の光導波路の光の位相と他の光導波路の光の位相との差を調整することにより、前記出力端における光の干渉を制御し、前記出力端から出力される光の強度を、前記入力端に入力される光の強度の0乃至100%の範囲で、任意に調節することができる。これにより、例えば、VOA(Variable Optical Attenuator)のように、出力光の強度を調整する素子を形成することができる。また、このようなマッハ・ツェンダ型光干渉計において、1の前記光導波路の光の位相と他の前記光導波路の光の位相とを相互に等しくすることにより、前記出力端において光を強め合わせ、前記入力端に入力された光と同じ光を前記出力端より出力することができる。又は、前記光の位相を相互に180°異ならせることにより、前記出力端において光を打ち消し合わせ、前記出力端から出力される光を消すことができる。これにより、光スイッチを実現することができる。
【0019】更に、前記クラッド層における前記コアの間の領域の少なくとも一部に溝が形成されていてもよい。これにより、薄膜ヒータからこの薄膜ヒータの直上域又は直下域にないコアへの直接的な熱伝達を防ぎつつ、基板を介した間接的な熱伝達も抑制することができるため、熱分離の一層の向上を図ることができると共に、薄膜ヒータの消費電力を抑えることができる。また、コア及びクラッド層に印加される応力を開放することにより、光学特性を向上させることもできる。
【0020】本発明に係る他の光回路部品は、デバイスに隣接して配置される光回路部品において、基板と、この基板上に設けられたクラッド層と、このクラッド層内に設けられ前記クラッド層と共に光導波路を構成するコアと、このコアの直上域又は直下域を含む領域に設けられ発熱することにより前記光導波路の光の位相を変化させる薄膜ヒータと、前記コアと前記デバイスとの間の領域又はこの領域の直上域若しくは直下域に設けられ前記薄膜ヒータ又はデバイスが放出する熱を吸収するラジエータと、を有することを特徴とする。
【0021】本発明においては、薄膜ヒータがコアを加熱し、光導波路を伝送する光の位相を変化させることができる。このとき、薄膜ヒータはコアの直上域又は直下域を含む領域に設けられているため、薄膜ヒータの熱が前記デバイスに伝達することを抑制でき、前記コアを効率よく加熱することができる。また、ラジエータがコアとデバイスとの間の領域又はその直上域若しくは直下域に設けられているため、このラジエータが薄膜ヒータから生じた熱を吸収することにより、薄膜ヒータから生じる熱がデバイスを加熱すること及びデバイスから生じる熱がコアを加熱することを防止できる。これにより、コアとデバイスとの間の熱分離を向上させることができる。この結果、コアとデバイスとの間の距離を小さくすることができ、光回路部品の小型化、高集積化及び大規模化を図ることが可能となる。
【0022】本発明に係る更に他の光回路部品は、基板と、この基板上に設けられたクラッド層と、このクラッド層内に設けられ前記クラッド層と共に光導波路を構成するスラブ形のコアと、前記コアの直上域又は直下域における前記クラッド層の表面に平行な方向に相互に離隔して設けられ発熱することにより前記コアをその幅方向に不均一に加熱する1又は複数の薄膜ヒータと、前記薄膜ヒータの間の領域又はこの領域の直上域若しくは直下域に設けられ前記薄膜ヒータが放出する熱を吸収するラジエータと、を有することを特徴とする。
【0023】本発明においては、薄膜ヒータがコアをその幅方向に不均一に加熱し、光導波路の光の位相を局所的に変化させることができる。このとき、薄膜ヒータはコアの直上域又は直下域に設けられているため、前記コアを効率よく加熱することができる。また、ラジエータが薄膜ヒータの間の領域又はその直上域若しくは直下域に設けられているため、薄膜ヒータから生じる熱がその直上域又は直下域に相当する部分以外の部分を加熱することを防止できる。これにより、コアの部分間の熱分離を向上させることができる。この結果、コア内において、制御性よく微細な屈折率分布を形成することができるため、光回路部品の高機能化及び小型化が可能となる。
【0024】また、前記クラッド層は、前記基板上に形成された下側クラッド層と、その下面が前記下側クラッド層の上面に接するように形成された上側クラッド層と、を有し、前記コアは前記下側クラッド層と前記上側クラッド層との界面に接していることが好ましい。これにより、コア近傍におけるクラッド層の対称性を高めることができ、光学特性の偏光依存性を抑えることができる。このため、コアに入力する光の偏向を考慮する必要がなくなると共に、光学特性を劣化させること無く光回路部品の高機能化、小型化及び大規模化が可能となる。
【0025】更に、前記薄膜ヒータが前記クラッド層上に形成されていてもよい。これにより、薄膜ヒータが発する熱が基板に逃げることを抑制でき、コアの加熱効率を向上させることができる。また、光回路部品の作製が容易になり、収率の向上を図ることができる。
【0026】又は、前記薄膜ヒータが前記クラッド層中に形成されていてもよい。これにより、薄膜ヒータの安定化を図れると共に、薄膜ヒータとラジエータとの距離を大きくとることができ、薄膜ヒータからラジエータへ直接伝達する熱量を減少させることができるため、光回路部品の消費電力を抑えることができる。
【0027】更にまた、前記ラジエータが、前記薄膜ヒータが放出する熱を吸熱する吸熱部分と、この吸熱部分に連結され前記吸熱部分が吸熱した熱を放熱する放熱部分と、を有していてもよく、吸熱部分が前記クラッド層に埋め込まれており、ラジエータの放熱部分が前記クラッド層の外部に対して露出していてもよい。これにより、ラジエータの配置位置の自由度が高くなると共に、ラジエータの放熱効率を向上させることができる。
【0028】更にまた、本発明の光回路部品は、クラッド層の内部に形成されラジエータの吸熱部分と放熱部分とを熱的に連結するビアを有していてもよい。これにより、ラジエータの吸熱部分及び放熱部分を柔軟に配置することができ、光回路部品の設計の自由度がより一層増加する。
【0029】更にまた、本発明の光回路部品は、前記ラジエータの放熱部分の少なくとも一部に連結されたヒートシンクを有していてもよい。これにより、ラジエータによる放熱効率をより一層高めることができる。
【0030】更に、前記コア及び前記クラッド層が石英を含むガラス材料により形成されており、前記基板が石英を含むガラス材料又はシリコンにより形成されていることが好ましい。これにより、伝搬損失が小さく安定性が優れた光回路部品の実現が可能となる。
【0031】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施例について添付の図面を参照して具体的に説明する。先ず本発明の第1の実施例について説明する。図1(a)は本実施例に係る光回路部品を示す平面図であり、(b)は(a)の1B−1B線による断面図である。
【0032】図1(a)及び(b)に示すように、本実施例に係る光スイッチにおいては、基板1上にクラッド層2が設けられており、このクラッド層2中には相互に平行に延びる2本のコア3a及び3bが形成されている。基板1は、例えばシリコン若しくはInP等の半導体又は石英ガラス等の絶縁物質により形成されており、例えば厚さが0.8mmのシリコン基板により形成されている。クラッド層2並びにコア3a及び3bは半導体又はガラス等により形成されており、例えば、石英ガラスにより形成されている。クラッド層2は基板1上に形成された下側クラッド層2a及びこの下側クラッド層2a上に形成された上側クラッド層2bから構成されている。下側クラッド層2aの厚さは例えば15μmであり、上側クラッド層2bの厚さは例えば10μmであり、従って、クラッド層2全体の厚さは例えば25μmである。コア3a及び3bは上側クラッド層2bの下部に埋め込まれるように、クラッド層2の表面に平行な方向に相互に離隔して形成されており、コア3aとコア3bとの間の距離は例えば60乃至100μmである。コア3a及び3bの厚さは例えば5μmであり、幅は例えば5μmである。クラッド層2はコア3a及び3bよりも屈折率が小さくなっており、両者の間の比屈折率差Δは0.65%となっている。クラッド層2及びコア3aにより1の光導波路が構成され、クラッド層2及びコア3bにより他の光導波路が構成されている。この光導波路は光を伝送するものである。
【0033】クラッド層2の表面上におけるコア3aの直上域を含む領域及びコア3bの直上域を含む領域には、例えばCrからなる薄膜ヒータ5a及び5bが形成されている。薄膜ヒータ5a及び5bはコア3a及び3bが延びる方向に平行に延びる長方形状を有しており、その厚さは例えば0.2μmであり、幅は例えば20μmであり、長さは例えば4mmである。クラッド層2の表面上にはヒータ給電用電極6a及び6bが形成されており、薄膜ヒータ5a及び5bの長さ方向における一方の端部に夫々接続されている。このヒータ給電用電極6a及び6bはボンディング等により夫々ヒータ電極端子7a及び7bに接続され、このヒータ電極端子7a及び7bを介して外部電源(図示せず)に接続されている。薄膜ヒータ5a及び5bは、クラッド層2を介して夫々コア3a及び3bを加熱するものである。なお、ヒータ給電用電極6a及び6bは、薄膜ヒータ5a及び5bよりも電気抵抗値が小さい材料により形成されており、例えば、厚さが0.1μmのTi膜上に厚さが0.5μmのAu膜が形成された2層膜により形成されている。この場合、Au膜はCr膜よりも電気抵抗値が小さいため、ヒータ給電用電極6a及び6bによる電力損失を抑えることができる。Ti膜はAu膜とクラッド層2との間の接着層として機能する。また、ヒータ電極端子7a及び7bは例えば金属ワイヤからなる。
【0034】また、クラッド層2の表面上には、ラジエータ8が形成されている。ラジエータ8は熱伝導率が高い材料により形成された薄膜であり、例えば、ヒータ給電用電極6a及び6bと同様に、(Ti/Au)2層膜により形成されている。ラジエータ8の形状は、薄膜ヒータ5a及び5bを囲むような櫛状形状であり、その一部はコア3aと3bとの間の領域の直上域9に形成されている。ラジエータ8は薄膜ヒータ5a及び5bが発した熱を吸熱して外部に放熱するものであり、薄膜ヒータ5a及び5bの近傍が吸熱部分となっており、それ以外の部分が放熱部分となっている。
【0035】薄膜ヒータ5a及び5bの長さ方向における夫々ヒータ給電用電極6a及び6bに接続されていない側の端部は、ラジエータ8に接続されており、ラジエータ8はヒータ電極端子7cに接続されている。このヒータ電極端子7cは接地電極(図示せず)に接続されている。即ち、ラジエータ8は薄膜ヒータ5a及び5bのヒータ給電用電極を兼ねている。クラッド層2、コア3a、ヒータ5a、ヒータ給電用電極6a、ヒータ給電用電極としてのラジエータ8、並びにヒータ電極端子7a及び7cにより、1個の熱光学位相シフタが形成されており、クラッド層2、コア3b、ヒータ5b、ヒータ給電用電極6b、ヒータ給電用電極としてのラジエータ8、並びにヒータ電極端子7b及び7cにより、他の熱光学位相シフタが形成されている。
【0036】次に、本実施例に係る光回路部品の製造方法について説明する。先ず、基板1として厚さが例えば0.8mmのシリコン基板を用意する。次に、この基板1上に、常圧化学気相成膜法(AP−CVD法)により、石英を主成分とするガラス膜を厚さが例えば15μmになるように成膜し、下側クラッド層2aを形成する。次に、同様にAP−CVD法により厚さが例えば5μmのガラス膜を成膜し、このガラス膜をフォトリソグラフィ及び反応性イオンエッチング(RIE:Reactivity Ion Etching)によりパターニングし、例えばその断面形状が、厚さが5μmであり幅が5μmである矩形のコア3a及び3bを形成する。このとき、下側クラッド層2a並びにコア3a及び3bに混入させる不純物量を制御し、下側クラッド層2aとコア3a及び3bとの間の比屈折率差Δが例えば0.65%となるようにする。その後、コア3a及び3bを埋め込むように、AP−CVD法により、下側クラッド層2a上に膜厚が例えば10μmの上側クラッド層2bを成膜する。これにより、埋め込み型導波路を作製する。
【0037】次に、電子ビーム蒸着法により、クラッド層2上に膜厚が例えば0.2μmのCr膜を成膜し、このCr膜をフォトリソグラフィ及びウェットエッチングにより、幅が例えば20μm、長さが例えば4mmの矩形状にパターニングし、薄膜ヒータ5a及び5bを形成する。このとき、薄膜ヒータ5aはコア3aの直上域を含む領域に形成し、薄膜ヒータ5bはコア3bの直上域を含む領域に形成する。また、電子ビーム蒸着法により、クラッド層2上にTi及びAuを連続して成膜して、厚さが例えば0.1μmのTi膜及び厚さが例えば0.5μmのAu膜からなる2層膜を形成する。そして、この2層膜をフォトリソグラフィ及びウェットエッチングによりパターニングし、ヒータ給電用電極6a及び6b並びにラジエータ8を形成する。このとき、ラジエータ8の一部は、コア3a及び3b間の領域の直上域9に形成する。そして、ヒータ給電用電極6a及び6b並びにラジエータ8に夫々金属ワイヤをボンディングすることにより、ヒータ電極端子7a、7b及び7cを形成する。ヒータ電極端子7a及び7bは外部電源に接続し、ヒータ電極端子7cは接地電極に接続する。
【0038】次に、本実施例に係る光回路部品の動作について説明する。外部電源(図示せず)がヒータ電極端子7a、7b及び7c並びにヒータ給電用電極6a及び6bを介して薄膜ヒータ5a又は5bに電力を投入する。これにより、ヒータ5a又は5bは抵抗加熱により発熱し、クラッド層2及びコア3a又は3bの温度を上昇させる。この結果、クラッド層2及びコア3a又は3bを形成する材料の屈折率を変化させて、光導波路の実効長を制御することにより、各々の導波路に入射された光の出力端における位相を変化させる。
【0039】このとき、ラジエータ8におけるヒータ5a及び5bの近傍に位置する部分は吸熱部分として機能し、それ以外の部分は放熱部分として機能する。ヒータ5a及び5bが発した熱は前記吸熱部分により吸熱され、一部は外部に放熱され、残部は放熱部分に伝導される。放熱部分は吸熱部分から熱が伝導され、この熱を外部へ放熱する。なお、熱がヒータ5a及び5bの近傍に位置する部分において外部に放熱されることにより、十分にラジエータとしての機能を果たす場合には、それ以外の部分は設けなくてもよい。
【0040】本実施例に係る光回路部品においては、薄膜ヒータ5aがコア3aの直上域を含む領域に形成され、薄膜ヒータ5bがコア3bの直上域を含む領域に形成されているため、薄膜ヒータ5a及び5bが発する熱が基板1に伝達することを抑制でき、夫々コア3a及びコア3bを効率よく加熱することができる。
【0041】また、薄膜ヒータ5aが発した熱は、ラジエータ8のコア3aと3bとの間の領域上に配置された部分に吸収されるため、コア3aには伝達されるが、コア3bにはほとんど伝達されない。同様に、薄膜ヒータ5bから発生した熱は、ラジエータ8の前記部分により吸収されるため、コア3bには伝達されるが、コア3aにはほとんど伝達されない。この結果、薄膜ヒータ5aはその直下にあるコア3aの屈折率を効率的に制御し、薄膜ヒータ5bはその直下にあるコア3bの屈折率を効率的に制御することが可能となる。即ち、コア3aとコア3bとの間において、良好な熱分離性を実現することができる。また、薄膜ヒータ5a及び5bから発した熱は、ラジエータ8に吸収されるため、この熱が光回路部品の外部に漏洩することを抑制することができる。同様に、外部から流入した熱もラジエータにより吸収されるため、この熱がコア3a及び3bに伝導することを抑制することができる。
【0042】このため、本実施例に光回路部品においては、光導波路間の間隔を小さくすることができ、小型化を図ることができる。また、この光回路部品を同一基板上に複数個形成しアレイ化する等の集積化を行う際に、光回路部品間及び周辺に存在する他の光導波路等との間の熱分離を図り、装置の小型化及び高集積化を図ることができる。本実施例に係る光回路部品は、マッハ・ツェンダ型干渉計又はAWG(Array Wave-guide Grating:アレイ導波路格子形合分波回路)等に適用することができる。
【0043】また、本実施例の光回路部品においては、ヒータ給電用電極6a及び6b並びにラジエータ8が、あらゆる物質中で最も電気抵抗率が低いAuからなる膜を含み、薄膜ヒータ5a及び5bをAuよりも電気抵抗率が高いCrにより形成しているため、薄膜ヒータ5a及び5bの加熱効率が良好である。更に、ヒータ給電用電極6a及び6b並びにラジエータ8において、Au膜とクラッド層2との間にTi膜を設けているため、Au膜とクラッド層2との間の密着性が良好である。更にまた、Au膜は熱伝導度が高いため、ラジエータ8の吸熱・放熱効率が高い。
【0044】更に、本実施例の光回路部品においては、ラジエータ8を電子ビーム蒸着法により金属薄膜を成膜し、この金属薄膜をフォトリソグラフィ及びウェットエッチングによりパターニングすることにより形成しているため、作製が容易である。更に、ラジエータ8をヒータ給電用電極6a及び6bと同時に形成しているため、ラジエータ8を形成することによる光回路部品の形成コストの増加がほとんどない。更にまた、本実施例の光回路部品の光導波路はコアがクラッド層に埋め込まれている埋込型であるため、コアの周囲に配置されたクラッド層の特性を均一化できる。このため、伝送する光の偏向依存性が小さい。
【0045】なお、本発明においては、ラジエータの位置は本実施例の位置に限定されず、より小型な素子を実現するために、コア3a及び3bの入射端及び出射端側の上方にあってもよい。また、本実施例においては、ヒータ給電用電極6a及び6bとラジエータ8とを同時に形成するが、本発明はこれに限定されず、ヒータ給電用電極とラジエータとを別々に作製してもよい。このとき、本実施例と同様に、ラジエータはヒータ給電用電極を兼ねていてもよい。更に、ヒータ給電用電極及びラジエータは、必ずしも(Ti/Au)2層膜により形成する必要はなく、例えば、Cu又はAlからなる単層膜であってもよい。更にまた、薄膜ヒータをCr以外の金属又は非金属により形成することも可能である。更にまた、この光回路部品の用途によっては、コアを3本以上形成し、光導波路を3本以上設けてもよい。
【0046】次に、本発明の第2の実施例について説明する。図2は本実施例に係る光回路部品を示す平面図である。本実施例は、前述の第1の実施例に係る光回路部品をマッハ・ツェンダ型干渉計に適用した例である。図2に示すように、本実施例の光回路部品においては、コア3a及び3bの入力端及び出力端に夫々カップラ4a及び4bが設けられ、コア3a及び3bの入力端同士がカップラ4aにより結合され、コア3a及び3bの出力端同士がカップラ4bにより結合されている。これにより、マッハ・ツェンダ型干渉計13が形成されている。マッハ・ツェンダ型干渉計13における上記以外の構成は、前述の第1の実施例に係る光回路部品の構成と同様である。
【0047】本実施例においては、薄膜ヒータ5a又は5bが発熱することにより、コア3a又はコア3bを加熱することができる。これにより、コア3aの屈折率とコア3bの屈折率とを相互に異ならせることができ、カップラ4bにおいて、コア3a及び3bを伝送する光の位相を相互に異ならせることができる。これにより、前記光を互いに干渉させることができる。この結果、カップラ4bから出力される光の強度を、カップラ4aに入力される光の強度に対して0乃至100%の範囲で、任意に制御することができる。これにより、例えば、VOAのような出力光の強度を調整する素子を形成することができる。また、例えば、コア3a及び3bを伝送する光の位相差を0とし、両者を互いに強め合わせることにより、カップラ4aに入力した光と同じ光をカップラ4bから出力することができる。また、両者の位相差をπ(180°)とし、両者を互いに打ち消し合わせることにより、カップラ4bの出力を0とすることができる。これにより、光スイッチを実現することができる。本実施例における上記以外の効果は、前述の第1の実施例の効果と同じである。
【0048】次に、本発明の第3の実施例について説明する。図3(a)は本実施例に係る光回路部品の構成を示す平面図であり、(b)は(a)の3B−3B線による断面図である。本実施例の光回路部品は、クラッド層に溝が形成されている点に特徴がある。図3(a)及び(b)に示すように、本実施例の光回路部品においては、コア3a及び3bの直上域及び直下域以外の領域においてクラッド層12の一部が除去され、溝30a及び30b並びに除去部分31が形成されている。クラッド層12において、溝30aはコア3aから見てコア3bの反対側の領域に形成されており、溝30bはコア3aとコア3bとの間の領域に形成されており、除去部分31はコア3bから見てコア3aの反対側に形成されている。そして、この溝30a及び30b並びに除去部分31の底部に、ラジエータ38が形成されている。本実施例の光回路部品における上記以外の構成は、前述の第1の実施例に係る光回路部品の構成と同じである。なお、本実施例の光回路部品を使用して、前述の第2の実施例と同様に、マッハ・ツェンダ型干渉計を構成することもできる。
【0049】本実施例に係る光回路部品は、前述の第1及び第2の実施例と同様に、コアコア3a及び3b並びにクラッド層2からなる導波路構造を形成し、薄膜ヒータ5a及び5b並びにヒータ給電用電極6a、6b、6cを形成した後に、フォトリソグラフィ及びRIEにより、クラッド層2におけるコア3a及び3bの直上域及び直下域の両側の領域を部分的に除去することにより、容易に作製することができる。クラッド層の除去を、ドライエッチングの一種であるRIEにより行うことにより、エッチング端面の垂直性が確保でき、特に、幅が数μmから数十μmである狭い領域に深い溝を形成する場合には有利である。なお、エッチングにおいては、RIE以外にICP又はウェットエッチング等を組み合わせても同様の構造を形成できる。
【0050】本実施例においては、コア3a及び3bの間及び周囲に溝30a及び溝30b並びに除去部分31を設けることにより、コア3aと3bとの間の直接的な熱伝導を防ぐことができると共に、外部との間の熱伝導を防ぐことができるため、特に、下側クラッド層又は基板を介した熱伝導が問題になる場合、例えば、下側クラッド層が厚く、基板までエッチングすることが困難な場合、及び基板が石英ガラス等の熱伝導が低い材料により形成されている場合に効果的な手法である。また、本実施例においては、導波路間における確実な熱アイソレーションを実現できるだけでなく、基板とクラッド層との熱膨張係数の違いによってクラッド層に印加される応力を開放できる。このため、光の伝送に対する偏光依存性を低減することもできる。
【0051】次に、本発明の第4の実施例について説明する。図4は本実施例に係る光回路部品を示す斜視図である。本実施例は、デバイスの近傍に配置され、光導波路が1本である光回路部品の例である。なお、デバイスには集積回路、レーザ発振器、AWG等の他、光導波路も含まれる。図4に示すように、本実施例の光回路部品においては、例えばシリコンからなる基板1が設けられ、基板1上には例えば石英ガラスからなるクラッド層2が設けられている。クラッド層2の内部には、一方向に延びる1本のコア3が設けられている。コア3は例えば石英ガラスにより形成されており、コア3の屈折率はクラッド層2の屈折率よりも大きく、両者の間の比屈折率差Δは例えば0.65%である。クラッド層2及びコア3により光導波路が形成されている。
【0052】クラッド層2の上面におけるコア3の直上域には、例えばCrからなる薄膜ヒータ5が設けられている。薄膜ヒータ5は厚さが例えば0.2μm、幅が例えば20μm、長さが例えば4mmであり、コア3が延びる方向に延びている。また、クラッド層2の上面における薄膜ヒータ5の両側には、ラジエータ8が設けられている。更に、薄膜ヒータ5の長手方向の両端部には夫々ヒータ給電用電極6a及び6bが設けられ、このヒータ給電用電極6a及び6bには夫々ヒータ電極端子7が接続されている。ヒータ電極端子7は外部電源(図示せず)に接続されている。ラジエータ8はヒータ給電用電極6bには接続されているが、ヒータ給電用電極6aには接続されていない。このため、ラジエータ8が吸収した熱はヒータ給電用電極6bを介して光回路部品の外部に放出されるが、ヒータ給電用電極6a及び6bに供給された電流はラジエータ8を流れず、全て薄膜ヒータ5を流れるようになっている。本実施例の光回路部品における上記以外の構成は、前述の第1の実施例に係る光回路部品の構成と同様である。
【0053】本実施例に係る光回路部品においては、薄膜ヒータ5がコア3の直上域に形成されているため、薄膜ヒータ5が発する熱が基板1に伝達することを抑制でき、コア3を効率よく加熱することができる。また、薄膜ヒータ5が発した熱は、ラジエータ8に吸収されるため、コア3には効率よく伝達されるが、この光回路部品の外部への漏洩は抑制される。また、外部から伝達する熱は、ラジエータ8に吸収されるため、コア3にはほとんど伝達されない。この結果、コア3と外部との間において、良好な熱分離性を実現することができる。これにより、本光回路部品と隣接するデバイスとの間の熱分離を図ることができ、この光回路部品が搭載される装置の小型化及び高集積化を図ることができる。本実施例の上記以外の効果は、前述の第1の実施例における効果と同様である。また、本実施例においては、前述の第3の実施例に示すように、クラッド層2におけるコア3の両側の領域に溝を形成してもよい。
【0054】次に、本発明の第5の実施例について説明する。図5は本実施例に係る光回路部品を示す断面図である。本実施例は、前述の第4の実施例に係る光回路部品を、デバイスとしての薄膜ヒータを制御するLSI(large scale integrated circuit:大規模集積回路)の近傍に配置した例である。図5に示すように、本実施例においては、前述の第4の実施例に係る光回路部品におけるクラッド層2上に、表面にLSI14aが形成されたチップ14が搭載されている。LSI14aは薄膜ヒータ5を制御するものである。クラッド層2の表面におけるチップ14と薄膜ヒータ5との間には、ラジエータ8が設けられている。
【0055】本実施例においては、薄膜ヒータ5から発した熱がラジエータ8により吸収されるため、この熱がLSI14aに伝導してLSI14aの動作に影響を与えることを防止できる。また、LSI14aから発せられた熱がラジエータ8により吸収されるため、この熱がコア3に伝導して、コア3を伝送する光の位相に影響を与えることを防止できる。本実施例に係る上記以外の効果は、前述の第4の実施例における効果と同じである。
【0056】なお、本実施例においては、クラッド層2におけるチップ14とラジエータ8との間に溝を設けてもよい。これにより、薄膜ヒータ5とチップ14との間の熱分離を一層向上させることができる。
【0057】次に、本発明の第6の実施例について説明する。図6は本実施例に係る光回路部品を示す断面図である。本実施例は、前述の第5の実施例において、チップ14の代わりにレーザ発振器15を設けた例である。図6に示すように、クラッド層2上にレーザ発振器15が搭載されており、本実施例に係る光回路部品はこのレーザ発振器15の近傍に配置されている。この光回路部品においては、クラッド層2の表面におけるレーザ発振器15と薄膜ヒータ5との間にはラジエータ8が設けられており、クラッド層2におけるレーザ発振器15とこのレーザ発振器15に近い側のラジエータ8との間に溝30cが設けてられている。
【0058】本実施例においては、レーザ発振器15から発せられた熱がラジエータ8により吸収されるため、この熱がコア3に伝導してコア3を伝送する光の位相に影響を与えることを防止できる。また、薄膜ヒータ5から発した熱がラジエータ8により吸収されるため、この熱がレーザ発振器15に伝導してレーザ発振器1の動作に影響を与えることを防止できる。また、クラッド層2に溝30cが設けられているため、薄膜ヒータ5及びコア3とレーザ発振器15との間の熱分離性を一層向上させることができる。本実施例に係る上記以外の効果は、前述の第4の実施例の効果と同じである。
【0059】次に、本発明の第7の実施例について説明する。図7(a)は本実施例に係る光回路部品の構成を示す平面図であり、(b)は(a)の7B−7B線による断面図である。本実施例の光回路部品は、コアが1本であり、スラブ形状を有している点に特徴がある。
【0060】図7(a)及び(b)に示すように、本実施例の光回路部品においては、基板1上にクラッド層2が設けられており、このクラッド層2中に1本のスラブ形状のコア13が設けられている。コア13の厚さは例えば5μmであり、幅は例えば250μmである。コア13及びクラッド層2により光導波路が構成されている。また、クラッド層2の表面におけるコア13の直上域には、薄膜ヒータ5a及び5bが相互に離隔して設けられている。本実施例の光回路部品における上記以外の構成は、前述の第1の実施例に係る光回路部品の構成と同じである。
【0061】光カップラ等の複数の導波路がコアの形状がスラブ形状である導波路(以下、スラブ導波路という)に接続されている素子において、素子の小型化等を目的としてスラブ導波路内で光の位相を調整したい場合がある。例えば、入射光をアレイ導波路格子形合分波回路(AWG)等により周波数分離し、この分離された光の各周波数成分の位相をスラブ導波路において個別に調整する場合等である。このような場合に、図7(a)及び(b)に示すようなスラブ形状のコア13の上部に薄膜ヒータ5a及び5bからなるヒーターアレイを形成した光回路部品が有効である。本実施例の光回路部品においては、薄膜ヒータ5a及び5bの夫々に任意の電力を投入することにより、コア13をその幅方向に不均一に加熱することができ、コア13の内部において幅方向に不均一な屈折率分布を形成することができる。
【0062】このとき、スラブ導波路の幅を可及的に小さくしようとすると、薄膜ヒータ5aと5bとの間隔を狭めていく必要があり、隣接する薄膜ヒータからの熱伝達により熱アイソレーションが悪化して、個別の屈折率変化量の調整が困難となる。この点は、前述の第1乃至第6の実施例において説明したことと同様である。本実施例においては、クラッド層2の表面上において、コア13の直上に相当する領域の一部に薄膜ヒータ5a及び5bを設け、この薄膜ヒータ5a及び5bが設けられた領域以外の領域の一部にラジエータ8を設けている。これにより、熱アイソレーションを改善することができる。
【0063】なお、ラジエータは、クラッド層の内部に形成してもよい。例えば、コア13の下方にラジエータを設ける場合は、先ず、ラジエータを下側クラッド層の内部に形成し、次いでコア13及び上側クラッド層を形成した後に、ドライエッチング(RIE)によりラジエータの放熱部分上に相当する領域のクラッド層2をエッチングして選択的に除去する。また、ラジエータを上側クラッド層の表面及び下側クラッド層の内部の双方に配置することにより、さらに熱アイソレーションを確実にすることもできる。更に、本実施例においては、薄膜ヒータを2本形成したが、必要に応じて1本又は3本以上形成することも可能である。
【0064】次に、本発明の第8の実施例について説明する。図8は本実施例に係る光回路部品を示す断面図である。本実施例の光回路部品は、前述の第1の実施例に係る光回路部品と比較して、薄膜ヒータ5aが分割ヒータ16a及び16bにより形成され、薄膜ヒータ5bが分割ヒータ16c及び16dにより形成されている点に特徴がある。薄膜ヒータ5a及び5bは夫々コア3a及び3bの直上域を含む領域に形成されている。分割ヒータ16aと16bとは相互に平行に設けられており、分割ヒータ16a及び16bはコア3aの直上域の両側のこの直上域からずれた領域に形成されている。同様に、分割ヒータ16cと16dとは相互に平行に設けられており、分割ヒータ16c及び16dはコア3bの直上域の両側のこの直上域からずれた領域に形成されている。即ち、薄膜ヒータ5a及び5bは、全体としては夫々コア3a及び3bの直上域を含む領域に形成されているが、各分割ヒータは、コア3a又は3bの直上域を含む領域には形成されていない。本実施例における上記以外の構成及び効果は、前述の第1の実施例と同様である。
【0065】次に、本発明の第9の実施例について説明する。図9は本実施例に係る光回路部品を示す断面図である。本実施例の光回路部品は、前述の第1の実施例に係る光回路部品と比較して、薄膜ヒータ5a及び5bがクラッド層2内に設けられている点に特徴がある。図9に示すように、本実施例の光回路部品においては、クラッド層2内におけるコア3a及び3bの上方に、薄膜ヒータ5a及び5bが夫々設けられている。本実施例の光回路部品における上記以外の構成は、前述の第1の実施例に係る光回路部品の構成と同様である。
【0066】本実施例の光回路部品においては、前述の第1の実施例と比較して、薄膜ヒータ5a及び5bが夫々コア3a及び3bのより近くに設けられているため、コア3a及び3bをより効率よく加熱することができる。本実施例の上記以外の効果は、前述の第1の実施例と同様である。なお、本実施例の光回路部品も、前述の第2の実施例に示すように、マッハ・ツェンダ型干渉計に適用することができる。また、クラッド層2におけるコアが形成されていない領域に溝を設けてもよく、クラッド層2上にLSI又はレーザ発振器を搭載してもよい。更に、本実施例に示すクラッド層中に薄膜ヒータを設ける技術は、前述の第7の実施例に示すスラブコアを有する光回路部品に適用することができる。
【0067】次に、本発明の第10の実施例について説明する。図10(a)は本実施例に係る光回路部品の構成を示す平面図であり、(b)は(a)の10B−10B線による断面図である。本実施例の光回路部品は、前述の第1の実施例に係る光回路部品と比較して、ラジエータ18の吸熱部分がクラッド層22内に埋め込まれている点に特徴がある。
【0068】図10(a)及び(b)に示すように、ラジエータ18はクラッド層22内に埋め込まれた吸熱部分18a及びクラッド層22の外部に露出した放熱部分18bから構成されている。吸熱部分18aはクラッド層22内におけるコア3a及び3bの直上域及び直下域以外の領域に形成され、コア3aとコア3bとの間の領域にも形成されている。本実施例においては、吸熱部分18aはコア3a及び3bよりも低い位置に配置されている。また、ラジエータ18の放熱部分18bは、吸熱部分18aと同じ高さに配置されており、放熱部分18b上にはクラッド層が存在していない。放熱部分18b上のクラッド層は、一旦形成された後、ドライエッチング又はウェットエッチングにより除去されている。このため、放熱部分18bの表面はクラッド層22の外部に露出している。本実施例の光回路部品における上記以外の構成は、前述の第1の実施例に係る光回路部品の構成と同じである。
【0069】次に、本実施例に係る光回路部品の製造方法について説明する。例えば、ラジエータ18の吸熱部分18aを、コア3a及び3bの下方5μmであり、コア3aと3bとの中間位置に配置する場合について説明する。先ず、AP−CVD法により、基板1上に膜厚が10μmである第1の下側クラッド層を成膜し、その後、例えばCrからなり厚さが0.5μmの金属膜を電子ビーム蒸着法により成膜する。この金属膜をフォトリソグラフィ及びウェットエッチングにより所望のパターンに加工して、ラジエータ18を形成する。その後、さらにAP−CVD法により、膜厚が5μmである第2の下側クラッド層を全面に成膜する。これにより、パターニングされたラジエータ18が埋め込まれている下側クラッド層が形成される。その後、第1の実施例と同様に、コア3a及び3bを形成し、上側クラッド層を形成する。次に、ラジエータ18の放熱部分18b上のクラッド層をRIEにより除去し、放熱部分18bを露出させる。
【0070】本実施例においては、ヒータ5a及び5bとラジエータ18とを離して配置することができるため、薄膜ヒータ5a及び5bから発せられた熱が直接ラジエータ18に流入することを抑制できる。このため、コア3a及び3bの加熱効率が向上し、消費電力を低減することができる。また、放熱部分18bはクラッド層12の外部に露出しているため、放熱効率が高い。更に、光回路部品を埋め込み構造とすることにより、コアの位置にとらわれず、ラジエータを3次元的に配置できるため、光回路部品の設計の自由度が向上する。この結果、より良好な熱アイソレーション設計が可能となる。また、本実施例に係る光回路部品においては、前述の第1の実施例と比較して、下側クラッド層からの熱の回りこみを抑えることができる。
【0071】なお、前述の第1の実施例に示したクラッド層上に形成したラジエータと、本実施例に示したクラッド層内に形成したラジエータの双方を設けることもできる。これにより、隣接する光導波路への熱の伝達を十分低く抑えることができ、熱アイソレーションをより一層確かなものとすることができる。
【0072】なお、本実施例の光回路部品は、前述の第2の実施例と同様に、マッハ・ツェンダ型干渉計に適用することができる。また、クラッド層22上にLSI又はレーザ発振器等のデバイスを搭載してもよい。更に、本実施例に示すラジエータを吸熱部分と放熱部分とから構成し、吸熱部分をクラッド層内に形成する技術は、前述の第1乃至第9の各実施例に適用することができる。
【0073】次に、本発明の第11の実施例について説明する。図11(a)は本実施例に係る光回路部品の構成を示す平面図であり、(b)は(a)の11B−11B線による断面図である。本実施例の光回路部品は、ラジエータの吸熱部分がクラッド層内に埋め込まれており、ラジエータの放熱部分がクラッド層上に形成されており、吸熱部分と放熱部分とがビアによって熱的に接続されている点に特徴がある。
【0074】図11(a)及び(b)に示すように、本実施例の光回路部品においては、クラッド層32内にコア3a及び3bが形成されており、クラッド層32内におけるコア3a及び3bの直上域及び直下域以外の領域にラジエータ28の吸熱部分28aが形成されている。本実施例においては、この吸熱部分28aはコア3a及び3bと同じ高さに形成されている。また、クラッド層32上には、ラジエータ28の放熱部分28bが形成されており、吸熱部分28aと放熱部分28bとは、ビア11によって熱的に接続されている。本実施例の光回路部品における上記以外の構成は、前述の第1の実施例に係る光回路部品の構成と同じである。
【0075】本実施例においては、前述の第10の実施例と同様に、クラッド層32の内部にラジエータ28の吸熱部分28aを埋め込んだ導波路構造を作製し、RIE等のエッチングにより吸熱部分28aの直上に相当するクラッド層の一部を除去してビアホールを形成し、このビアホールに金属等の熱伝導率が高い材料を埋め込んでビア11を形成する。その後、クラッド層22の表面にラジエータ28の放熱部分28bを形成する。これにより、ラジエータ28の吸熱部分28a及び放熱部分28bを任意の位置に配置できるため、光回路部品の設計の自由度がより一層向上する。本実施例における上記以外の効果は前述の第1の実施例と同様である。
【0076】なお、前述の第10の実施例と同様に、ラジエータの放熱部分をコアの下方に配置し、この放熱部分を吸熱部分とビアを介して熱的に接続し、ラジエータの放熱部分上方のクラッド層を除去して、この放熱部分を露出させてもよい。また、本実施例の光回路部品は、前述の第2の実施例と同様に、マッハ・ツェンダ型干渉計に適用することができる。更に、クラッド層32上にLSI又はレーザ発振器等のデバイスを搭載してもよい。
【0077】次に、本発明の第12の実施例について説明する。図12(a)は本実施例に係る光回路部品を示す平面図であり、(b)は(a)の12B−12B線による断面図である。本実施例の光回路部品は、前述の第1の実施例に係る光回路部品と比較して、ラジエータの放熱部にヒートシンク10が取り付けられている点に特徴がある。ヒートシンクには一般に利用されている製品を幅広く使用することができる。例えば、アルミニウム製のブロックから削り出して作製されたような簡便で利用しやすいものであってもよく、送風ファンを備えたものであってもよく、ペルチェ素子であってもよい。放熱量の制御は、ヒートシンクの大きさ、送風ファンの送風量、ペルチェ素子へ流す電流の大きさ等を制御することにより容易に行うことができる。本実施例の光回路部品における上記以外の構成は、前述の第1の実施例に係る光回路部品の構成と同じである。
【0078】光回路部品の高密度集積化に伴い、熱光学位相シフタの間隔を狭めてゆくと、隣接する熱光学位相シフタのヒータからの熱干渉が大きくなってくる。このとき、ラジエータの吸熱量を最適に設定することにより、光回路部品内の温度分布を制御することが可能となり、最適な熱分離設計を実現することができる。所望の熱分布を得るために吸熱量を多くする必要が生ずる場合があり、熱分離設計を確実に行うために、ヒートシンクのような強制的な熱放出手段が必要となる場合がある。本実施例においては、ヒートシンク10を設けることにより、ラジエータ8の吸熱量を増加させ、光回路部品の熱分離をより確実に行うことができる。また、送風ファンを備えたヒートシンク又はペルチェ素子からなるヒートシンクを使用すれば、ラジエータの吸熱量を任意に制御することができる。
【0079】なお、本実施例においては、光回路部品の基本構造を第1の実施例に係る光回路部品の構造と同じとし、ヒートシンクを上側クラッド層の表面に形成されているラジエータ上に配置したが、本発明はこれに限定されない。例えば、本実施例において示したラジエータの放熱部分にヒートシンクを取り付ける技術を、前述の第2乃至第11の各実施例に適応してもよい。この場合も本実施例と同様な効果が得られ、光回路部品の高集積化及び小型化設計を確実に行うことができる。但し、ラジエータのみで十分な熱放出が可能な場合には、ヒートシンクはなくてもよい。
【0080】前述の第1乃至第12の実施例においては、埋め込み型導波路について述べたが、本発明の光回路部品に設けられる導波路構造はこれに限定されず、例えばリッジ型の導波路が複数配置されていてもよく、この場合においても、上述の各実施例と同様な効果が得られる。また、薄膜ヒータの形状も矩形に制限されるものではなく、導波路のコアを所望の温度に上昇させることができ、屈折率変化を誘起できる形状であれば、いかなる形状であってもよい。
【0081】
【実施例】以下、本発明の効果について、その特許請求の範囲から外れる比較例と比較して具体的に説明する。光回路部品において、コアの直上域を含む領域に薄膜ヒータを設け、更にコアの直上域から外れた領域にラジエータを設けることにより、どの程度隣接導波路への熱伝達を抑制して小型化を図ることができるかを、有限要素法(FEM:finite element method)によりシミュレーションを行い評価した。
【0082】図13は本シミュレーションにおける本発明の実施例の熱光学位相シフタを示す斜視図である。図13に示すように、この本発明の実施例である熱光学位相シフタにおいては、基板1上にクラッド層2を設け、このクラッド層2中にコア3を設けた。コア3の形状は直方体とし、その厚さは5μmとし、幅は20μmとした。また、クラッド層2の膜厚は合計で25μmとし、コア3の上方及び下方の膜厚を夫々10μmとした。また、クラッド層2の上面におけるコア3の直上に相当する領域には薄膜ヒータ5を設け、この薄膜ヒータ5の幅を20μm、長さを4mm、膜厚を0.2μmとした。更に、クラッド層2の上面における薄膜ヒータ5の両側に、薄膜ヒータ5から夫々5μmの距離を隔てて2個のラジエータ8を設けた。このラジエータ8の幅は30μm、長さは4mmとし、その吸熱量は45mWとした。更にまた、クラッド層2上にはヒータ給電用電極6a及び6bを設け、夫々薄膜ヒータ5の両端に接続した。そして、ヒータ給電用電極6a及び6bには夫々ヒータ電極端子7を接続した。
【0083】一方、図14は本シミュレーションにおける比較例の熱光学位相シフタを示す斜視図である。図14に示すように、この比較例の熱光学位相シフタは、図13に示す本発明の実施例に係る熱光学位相シフタから、ラジエータ8を除いている。この熱光学位相シフタにおける上記以外の構成は、図13に示す本発明の実施例の熱光学位相シフタと同一である。
【0084】前述のような熱光学位相シフタにおいて、300mWの電力を薄膜ヒータ5に投入する場合をシミュレートした。図15は横軸に熱光学位相シフタにおける水平方向の位置をとり、縦軸に垂直方向の位置をとって、図13に示す本発明の実施例の熱光学位相シフタにおける断面温度分布を示すグラフ図である。なお、前述の水平方向及び垂直方向の位置は、コアの中心を0としている。また、図中の曲線は等温線を示し、図中の数字は各等温線の絶対温度を示し、各等温線の間隔は1Kである。図15に示す領域32は、大きさがコア3と等しく、中心がX=20μm、Y=0μmである領域であり、薄膜ヒータ5がコアの直上域を含む領域から外れた領域に形成されている場合のコアの位置を仮想的に示す。また、図16は、横軸に前記水平方向の位置をとり、縦軸にコアの中心の温度に対する各位置の温度をとって、本実施例の熱光学位相シフタにおける水平方向の温度分布を示すグラフ図である。なお、図16の縦軸に示されている値y(dB)は、前記水平方向の位置Xにおける温度をTX=X(K)とするとき、下記数式1により与えられる。
【0085】
【数1】


【0086】更に、図17は横軸に熱光学位相シフタにおける水平方向の位置をとり、縦軸に垂直方向の位置をとって、比較例の熱光学位相シフタにおける断面温度分布を示すグラフ図である。図中の曲線は等温線を示し、図中の数字は各等温線の絶対温度を示す。等温線は1Kごとに示されている。また、図18は、横軸に前記水平方向の位置をとり、縦軸にコアの中心の温度に対する各位置の温度y(数式1参照)をとって、比較例の熱光学位相シフタにおける水平方向の温度分布を示すグラフ図である。
【0087】図16に示すように、本発明の実施例の熱光学位相シフタにおいては、コア中心の温度を基準とすると、コア中心から20μmの距離の位置(領域32)における熱アイソレーションは−2dBであった。従って、コアの直上域を含む領域に薄膜ヒータが配置されている場合は、コアの直上域を含む領域から外れた領域に薄膜ヒータが配置されている場合よりも、コアの加熱効率が優れていた。また、コア中心から50μmの距離の位置における熱アイソレーションは−25dBであった。これに対して、図18に示すように、比較例の熱光学位相シフタにおいては、コア中心からの距離が300μmである位置における熱アイソレーションは−19dBであり、コア中心からの距離が1mmである位置における熱アイソレーションは−25dBであった。従って、ラジエータ8を有する熱光学位相シフタにおいては、コア中心から50μmの距離の位置において、ラジエータを有しない熱光学位相シフタにおけるコア中心から1mmの距離の位置に相当する熱アイソレーションが得られた。このように、本発明の実施例においては、比較例と比較して明らかに薄膜ヒータから隣接する光導波路に向かう方向(水平方向)における熱伝達が抑制されており、アイソレーションが改善されていた。このため、熱光学位相シフタにおいて、コアの直上域を含む領域に薄膜ヒータを設け、更にラジエータを設ければ、十分な特性を保ったまま小型化を図ることができる。
【0088】なお、図18に示すように、コア中心からの距離が100μmである位置付近において、熱アイソレーションが一部悪化する部分があった。これは下側クラッド層の熱伝導率が低いために、薄膜ヒータからの熱が下側から回りこむことによりにより、クラッド層の温度が上昇しているものと理解できる。
【0089】また、前述の実施例及び比較例に係る熱光学位相シフタにおけるラジエータの効果を確認するためには、前述の熱光学位相シフタを使用したマッハ・ツェンダ型光干渉計を作製し、最大消光比が得られる投入電力量を比較してもよい。同じ長さの薄膜ヒータが導波路コア上方に形成してあれば、片側の薄膜ヒータを加熱して最大消光比が得られる電力量が低い方が、薄膜ヒータで発生した熱が隣接導波路に伝わることで隣接導波路コアの屈折率変化を誘起していないといえ、隣接導波路との熱クロストークが少ないことになる。実験の結果、ラジエータを設けたマッハ・ツェンダ型光干渉計の方が、ラジエータを設けていないマッハ・ツェンダ型光干渉計よりも、最大消光比が得られる電力量が少なかった。
【0090】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明によれば、マッハ・ツェンダ型干渉計又は熱光学シフトアレイ等の光回路部品において、光導波路のコアの直上域又は直下域を含む領域に薄膜ヒータを配置し、コア間の領域にラジエータを配置することにより、熱アイソレーションを改善し、光回路部品内及び光回路部品の外部との間において、熱が相互に干渉しあうことを防ぎ、導波路の位相調整を個別に独立に行うことができる。また、ラジエータの形成はフォトリソグラフィ及びウェットエッチング又はドライエッチングといった大規模電子集積回路に一般に利用されている手法によって簡便に形成することができるため、光回路部品の収率に影響を与えることなく、光学特性が優れた光回路部品を作製することができる。従って、本発明によれば、光回路部品の小型化、高機能化及び大規模化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は本発明の第1の実施例に係る光回路部品を示す平面図であり、(b)は(a)の1B−1B線による断面図である。
【図2】本発明の第2の実施例に係る光回路部品を示す平面図である。
【図3】(a)は本発明の第3の実施例に係る光回路部品を示す平面図であり、(b)は(a)の3B−3B線による断面図である。
【図4】本発明の第4の実施例に係る光回路部品を示す斜視図である。
【図5】本発明の第5の実施例に係る光回路部品を示す断面図である。
【図6】本発明の第6の実施例に係る光回路部品を示す断面図である。
【図7】(a)は本発明の第7の実施例に係る光回路部品を示す平面図であり、(b)は(a)の7B−7B線による断面図である。
【図8】本発明の第8の実施例に係る光回路部品を示す断面図である。
【図9】本発明の第9の実施例に係る光回路部品を示す断面図である。
【図10】(a)は本発明の第10の実施例に係る光回路部品を示す平面図であり、(b)は(a)の10B−10B線による断面図である。
【図11】(a)は本発明の第11の実施例に係る光回路部品を示す平面図であり、(b)は(a)の11B−11B線による断面図である。
【図12】(a)は本発明の第12の実施例に係る光回路部品を示す平面図であり、(b)は(a)の12B−12B線による断面図である。
【図13】本発明の実施例の熱光学位相シフタを示す斜視図である。
【図14】比較例の熱光学位相シフタを示す斜視図である。
【図15】横軸に熱光学位相シフタにおける水平方向の位置をとり、縦軸に垂直方向の位置をとって、本発明の実施例の熱光学位相シフタにおける断面温度分布を示すグラフ図である。
【図16】横軸に前記水平方向の位置をとり、縦軸にコアの中心の温度に対する各位置の温度をとって、本実施例の熱光学位相シフタにおける水平方向の温度分布を示すグラフ図である。
【図17】横軸に熱光学位相シフタにおける水平方向の位置をとり、縦軸に垂直方向の位置をとって、比較例の熱光学位相シフタにおける断面温度分布を示すグラフ図である。
【図18】横軸に前記水平方向の位置をとり、縦軸にコアの中心の温度に対する各位置の温度をとって、比較例の熱光学位相シフタにおける水平方向の温度分布を示すグラフ図である。
【図19】従来のリッジ型導波路を使用したマッハ・ツェンダ型干渉計を示す斜視図である。
【符号の説明】
1;基板
2、12、22、32;クラッド層
2a;下側クラッド層
2b;上側クラッド層
3、3a、3b、13;コア
4a、4b;カップラ
5、5a、5b;薄膜ヒータ
6a、6b;ヒータ給電用電極
7、7a、7b、7c;ヒータ電極端子
8、18、28、38;ラジエータ
9;領域
10;ヒートシンク
11;ビア
13;マッハ・ツェンダ型干渉計
14;チップ
14a;LSI
15;レーザ発振器
16a、16b、16c、16d;分割ヒータ
18a、28a;吸熱部分
18b、28b;放熱部分
30a、30b、30c;溝
31;除去部分
32;領域
101;基板
102;光導波路
103;入力端子
104;出力端子
105a、105b;光導波路
106;ヒータ
107;放熱用金属膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基板と、この基板上に設けられたクラッド層と、このクラッド層内に前記クラッド層の表面に平行な方向に相互に離隔して設けられ前記クラッド層と共に複数の光導波路を構成する複数のコアと、少なくとも1の前記コアの直上域又は直下域を含む領域に設けられ発熱することにより前記光導波路の光の位相を変化させる薄膜ヒータと、前記コアの間の領域又はこの領域の直上域若しくは直下域に設けられ前記薄膜ヒータが放出する熱を吸収するラジエータと、を有することを特徴とする光回路部品。
【請求項2】 前記コアの数が2であり、前記コアの入力端同士が相互に結合されていると共に前記コアの出力端同士が相互に結合されていることを特徴とする請求項1に記載の光回路部品。
【請求項3】 1の前記光導波路の光の位相と他の前記光導波路の光の位相とを相互に等しくするか又は180°異ならせることにより、前記出力端から光を出力するか否かを選択することを特徴とする請求項2に記載の光回路部品。
【請求項4】 前記クラッド層における前記コアの間の領域の少なくとも一部に溝が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光回路部品。
【請求項5】 デバイスに隣接して配置される光回路部品において、基板と、この基板上に設けられたクラッド層と、このクラッド層内に設けられ前記クラッド層と共に光導波路を構成するコアと、このコアの直上域又は直下域を含む領域に設けられ発熱することにより前記光導波路の光の位相を変化させる薄膜ヒータと、前記コアと前記デバイスとの間の領域又はこの領域の直上域若しくは直下域に設けられ前記薄膜ヒータ又はデバイスが放出する熱を吸収するラジエータと、を有することを特徴とする光回路部品。
【請求項6】 前記デバイスが前記薄膜ヒータを制御する集積回路であることを特徴とする請求項5に記載の光回路部品。
【請求項7】 前記デバイスがレーザ発振器であることを特徴とする請求項5に記載の光回路部品。
【請求項8】 前記クラッド層における前記コアと前記デバイスとの間の領域の少なくとも一部に溝が形成されていることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の光回路部品。
【請求項9】 基板と、この基板上に設けられたクラッド層と、このクラッド層内に設けられ前記クラッド層と共に光導波路を構成するスラブ形のコアと、前記コアの直上域又は直下域における前記クラッド層の表面に平行な方向に相互に離隔して設けられ発熱することにより前記コアをその幅方向に不均一に加熱する1又は複数の薄膜ヒータと、前記薄膜ヒータの間の領域又はこの領域の直上域若しくは直下域に設けられ前記薄膜ヒータが放出する熱を吸収するラジエータと、を有することを特徴とする光回路部品。
【請求項10】 前記薄膜ヒータが複数の分割ヒータからなることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の光回路部品。
【請求項11】 前記クラッド層は、前記基板上に形成された下側クラッド層と、その下面が前記下側クラッド層の上面に接するように形成された上側クラッド層と、を有し、前記コアは前記下側クラッド層と前記上側クラッド層との界面に接していることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の光回路部品。
【請求項12】 前記薄膜ヒータが前記クラッド層上に設けられていることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の光回路部品。
【請求項13】 前記薄膜ヒータが前記クラッド層中に設けられていることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の光回路部品。
【請求項14】 前記ラジエータが、前記薄膜ヒータが放出する熱を吸熱する吸熱部分と、この吸熱部分に連結され前記吸熱部分が吸熱した熱を放熱する放熱部分と、を有することを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載の光回路部品。
【請求項15】 前記ラジエータの吸熱部分が前記クラッド層に埋め込まれており、前記ラジエータの放熱部分が前記クラッド層の外部に対して露出していることを特徴とする請求項14に記載の光回路部品。
【請求項16】 前記クラッド層の内部に形成され、前記ラジエータの吸熱部分と放熱部分とを熱的に連結するビアを有することを特徴とする請求項15に記載の光回路部品。
【請求項17】 前記ラジエータの放熱部分の少なくとも一部に連結されたヒートシンクを有することを特徴とする請求項14乃至16のいずれか1項に記載の光回路部品。
【請求項18】 前記コア及び前記クラッド層が石英を含むガラス材料により形成されていることを特徴とする請求項1乃至17のいずれか1項に記載の光回路部品。
【請求項19】 前記基板が石英を含むガラス材料又はシリコンにより形成されていることを特徴とする請求項1乃至18のいずれか1項に記載の光回路部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2003−228031(P2003−228031A)
【公開日】平成15年8月15日(2003.8.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−26076(P2002−26076)
【出願日】平成14年2月1日(2002.2.1)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】