説明

光変調制御方法、制御プログラム、制御装置、及びレーザ光照射装置

【課題】 集光点におけるレーザ光の集光状態を好適に制御することが可能な光変調制御方法、制御プログラム、制御装置、及びレーザ光照射装置を提供する。
【解決手段】 空間光変調器を用いたレーザ光の集光照射の制御において、レーザ光の入射パターン、及び伝搬経路上の第1、第2伝搬媒質それぞれの屈折率を取得し(ステップS101)、集光点の個数、及び各集光点についての集光位置、集光強度を設定し(S104)、レーザ光の伝搬で第1、第2伝搬媒質によって生じる収差条件を導出する(S107)。そして、収差条件を考慮して、空間光変調器に呈示する変調パターンを設計する(S108)。また、変調パターンの設計において、1画素での位相値の影響に着目した設計法を用いるとともに、集光点での集光状態を評価する際に、収差条件を考慮した伝搬関数を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間光変調器の複数の画素に呈示する変調パターンによって集光点へのレーザ光の集光照射を制御する光変調制御方法、制御プログラム、制御装置、及びそれを用いたレーザ光照射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラス内部に導波路、光分岐器、方向性結合器などの光集積回路を3次元に作製する研究が盛んに行われている。このような光集積回路の作製方法の1つとして、フェムト秒レーザ光を用いる方法がある。この方法では、例えば、フェムト秒レーザ光の集光点において2光子吸収等により衝撃が誘起され、それによって局所的にガラスの屈折率を変化させる加工を行うことができる。また、このような照射対象物へのレーザ光の集光照射は、光集積回路の作製以外にも、様々なレーザ加工装置、あるいは、レーザ光の散乱、反射を観察するレーザ顕微鏡などにおいて広く用いられている(例えば、特許文献1〜3、非特許文献1〜6参照)。
【0003】
ここで、レーザ光源から出射された1本のレーザ光ビームを用いて、複雑な3次元構造の加工などのレーザ光照射を行う場合、その加工工程に莫大な時間を要するという問題がある。この場合の加工時間の短縮方法としては、複数の集光点による多点同時加工を行う方法が考えられる。このような方法を実現する最も簡単な構成は、複数のレーザ光源から供給される複数本のレーザ光ビームを用いる構成である。しかしながら、このような構成は、複数のレーザ光源を用意するコスト、設置スペース等を考えれば現実的ではない。
【0004】
これに対して、位相変調型の空間光変調器(SLM:Spatial LightModulator)、及び数値計算により求められたホログラム(CGH:Computer GeneratedHologram)を用いて、多点同時加工を実現する方法が検討されている。CGHが呈示された空間光変調器にレーザ光を入力すると、CGHの変調パターンに応じて入力光の位相が変調される。そして、光変調器から出力された変調レーザ光の波面をフーリエ変換レンズにて集光させると、1本のレーザ光ビームから複数の集光点を作り出すことができ、多点同時照射による同時加工、同時観察等のレーザ操作が可能となる。
【0005】
空間光変調器を用いた照射対象物(加工対象物)の内部における多点同時加工では、光軸に対して垂直な1面内において、任意の位置にレーザ光を集光させることができる。また、このような多点同時加工では、レンズ効果を持つフレネルレンズパターンを空間光変調器に呈示するなどの方法を用いることにより、光軸方向も含めた3次元の任意の位置にレーザ光を集光させることも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−058128号公報
【特許文献2】特開2010−075997号公報
【特許文献3】特許第4300101号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Bengtsson, "Kinoformdesign with an optimal-rotation-angle method", Appl. Opt. Vol.33 No.29(1994) pp.6879-6884
【非特許文献2】J. Bengtsson, "Design offan-out kinoforms in the entire scalar diffraction regime with anoptimal-rotation-angle method", Appl. Opt. Vol.36 No.32 (1997) pp.8435-8444
【非特許文献3】N. Yoshikawa et al., "Phaseoptimization of a kinoform by simulated annealing", Appl. Opt. Vol.33 No.5(1994) pp.863-868
【非特許文献4】N. Yoshikawa et al., "Quantizedphase optimization of two-dimensional Fourier kinoforms by a genetic algorithm",Opt. Lett. Vol.20 No.7 (1995) pp.752-754
【非特許文献5】C. Mauclair et al., "Ultrafastlaser writing of homogeneous longitudinal waveguides in glasses using dynamicwavefront correction", Opt. Exp. Vol.16 No.8 (2008) pp.5481-5492
【非特許文献6】A. Jesacher et al., "Paralleldirect laser writing in three dimensions with spatially dependent aberrationcorrection", Opt. Exp. Vol.18 No.20 (2010) pp.21090-21099
【非特許文献7】久保田広、「光学」、岩波書店、1967年、pp.128〜131、pp.300〜301
【非特許文献8】Y. Ogura et al., "Wavelength-multiplexing diffractive phaseelements: design, fabrication, and performance evaluation", J. Opt. Soc. Am.A Vol.18 No.5 (2001) pp.1082-1092
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した照射対象物へのレーザ光の集光照射において、空間光変調器から照射対象物へのレーザ光の伝搬経路上に収差物体が存在する場合、伝搬するレーザ光が収差の影響を受けることになる。例えば、レーザ光照射によってガラス内部の加工を行う場合、対物レンズから出射された収束光において、雰囲気媒質である空気と、加工対象物であるガラス媒体との間での屈折率の違いにより、焦点位置ずれ(収差)が発生する。
【0009】
このような収差が発生すると、レーザ光の集光点の形状が光軸方向に伸び、集光点における集光密度が低下する。この場合、対象物を加工する際に、集光点におけるレーザ光強度を加工閾値に到達させるために入射レーザ光強度を高くしなければならず、あるいは、集光形状が伸張したために微細加工が出来なくなるなどの問題が生じる。このような収差の影響の問題は、多点同時照射の場合に限らず、単一の集光点にレーザ光を集光照射する場合にも同様に生じる。
【0010】
本発明は、以上の問題点を解決するためになされたものであり、集光点におけるレーザ光の集光状態を好適に制御することが可能な光変調制御方法、光変調制御プログラム、光変調制御装置、及びそれを用いたレーザ光照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するために、本発明による光変調制御方法は、(1)レーザ光を入力し、レーザ光の位相を変調して、位相変調後のレーザ光を出力する位相変調型の空間光変調器を用い、空間光変調器に呈示する変調パターンによって、設定された集光点へのレーザ光の集光照射を制御する光変調制御方法であって、(2)レーザ光の照射条件として、空間光変調器へのレーザ光の入射パターン、空間光変調器から集光点へのレーザ光の伝搬経路上にある第1伝搬媒質の第1屈折率n、及び第1伝搬媒質よりも集光点側にある第2伝搬媒質の第1屈折率とは異なる第2屈折率nを取得する照射条件取得ステップと、(3)レーザ光の集光条件として、空間光変調器からのレーザ光を集光照射する集光点の個数s(sは1以上の整数)、及びs個の集光点sのそれぞれについての集光位置、集光強度を設定する集光条件設定ステップと、(4)空間光変調器から集光点sへのレーザ光の伝搬において、互いに屈折率が異なる第1伝搬媒質、及び第2伝搬媒質によって生じる収差条件を導出する収差条件導出ステップと、(5)収差条件導出ステップで導出された収差条件を考慮して、空間光変調器に呈示する変調パターンを設計する変調パターン設計ステップとを備え、(6)変調パターン設計ステップは、空間光変調器において2次元配列された複数の画素を想定し、複数の画素に呈示する変調パターンの1画素での位相値の変更が集光点におけるレーザ光の集光状態に与える影響に着目して、その集光状態が所望の状態に近づくように位相値を変更し、そのような位相値の変更操作を変調パターンの全ての画素について行うことで変調パターンを設計するとともに、集光点での集光状態を評価する際に、空間光変調器の変調パターンにおける画素jから集光点sへの光の伝搬について、伝搬媒質が均質な状態の自由伝搬の波動伝搬関数φjsに収差条件を加えて変換した伝搬関数φjs’を用いることを特徴とする。
【0012】
また、本発明による光変調制御プログラムは、(1)レーザ光を入力し、レーザ光の位相を変調して、位相変調後のレーザ光を出力する位相変調型の空間光変調器を用い、空間光変調器に呈示する変調パターンによって、設定された集光点へのレーザ光の集光照射を制御する光変調制御をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、(2)レーザ光の照射条件として、空間光変調器へのレーザ光の入射パターン、空間光変調器から集光点へのレーザ光の伝搬経路上にある第1伝搬媒質の第1屈折率n、及び第1伝搬媒質よりも集光点側にある第2伝搬媒質の第1屈折率とは異なる第2屈折率nを取得する照射条件取得処理と、(3)レーザ光の集光条件として、空間光変調器からのレーザ光を集光照射する集光点の個数s(sは1以上の整数)、及びs個の集光点sのそれぞれについての集光位置、集光強度を設定する集光条件設定処理と、(4)空間光変調器から集光点sへのレーザ光の伝搬において、互いに屈折率が異なる第1伝搬媒質、及び第2伝搬媒質によって生じる収差条件を導出する収差条件導出処理と、(5)収差条件導出処理で導出された収差条件を考慮して、空間光変調器に呈示する変調パターンを設計する変調パターン設計処理とをコンピュータに実行させ、(6)変調パターン設計処理は、空間光変調器において2次元配列された複数の画素を想定し、複数の画素に呈示する変調パターンの1画素での位相値の変更が集光点におけるレーザ光の集光状態に与える影響に着目して、その集光状態が所望の状態に近づくように位相値を変更し、そのような位相値の変更操作を変調パターンの全ての画素について行うことで変調パターンを設計するとともに、集光点での集光状態を評価する際に、空間光変調器の変調パターンにおける画素jから集光点sへの光の伝搬について、伝搬媒質が均質な状態の自由伝搬の波動伝搬関数φjsに収差条件を加えて変換した伝搬関数φjs’を用いることを特徴とする。
【0013】
また、本発明による光変調制御装置は、(1)レーザ光を入力し、レーザ光の位相を変調して、位相変調後のレーザ光を出力する位相変調型の空間光変調器を用い、空間光変調器に呈示する変調パターンによって、設定された集光点へのレーザ光の集光照射を制御する光変調制御装置であって、(2)レーザ光の照射条件として、空間光変調器へのレーザ光の入射パターン、空間光変調器から集光点へのレーザ光の伝搬経路上にある第1伝搬媒質の第1屈折率n、及び第1伝搬媒質よりも集光点側にある第2伝搬媒質の第1屈折率とは異なる第2屈折率nを取得する照射条件取得手段と、(3)レーザ光の集光条件として、空間光変調器からのレーザ光を集光照射する集光点の個数s(sは1以上の整数)、及びs個の集光点sのそれぞれについての集光位置、集光強度を設定する集光条件設定手段と、(4)空間光変調器から集光点sへのレーザ光の伝搬において、互いに屈折率が異なる第1伝搬媒質、及び第2伝搬媒質によって生じる収差条件を導出する収差条件導出手段と、(5)収差条件導出手段で導出された収差条件を考慮して、空間光変調器に呈示する変調パターンを設計する変調パターン設計手段とを備え、(6)変調パターン設計手段は、空間光変調器において2次元配列された複数の画素を想定し、複数の画素に呈示する変調パターンの1画素での位相値の変更が集光点におけるレーザ光の集光状態に与える影響に着目して、その集光状態が所望の状態に近づくように位相値を変更し、そのような位相値の変更操作を変調パターンの全ての画素について行うことで変調パターンを設計するとともに、集光点での集光状態を評価する際に、空間光変調器の変調パターンにおける画素jから集光点sへの光の伝搬について、伝搬媒質が均質な状態の自由伝搬での波動伝搬関数φjsに収差条件を加えて変換した伝搬関数φjs’を用いることを特徴とする。
【0014】
上記した光変調制御方法、制御プログラム、及び制御装置においては、空間光変調器を用いた集光点へのレーザ光の集光照射について、レーザ光の入射パターン、及び伝搬経路上の第1、第2伝搬媒質に関する情報を取得するとともに、レーザ光の集光点の個数、及び各集光点での集光位置、集光強度を含む集光条件を設定する。そして、屈折率が異なる第1、第2伝搬媒質が伝搬経路上にあることによって生じる収差条件を導出し、その収差条件を考慮して、空間光変調器に呈示する変調パターンを設計する。これにより、設定された単一または複数の集光点に対し、各集光点でのレーザ光の集光状態において、第1、第2伝搬媒質による収差の影響を低減することができる。
【0015】
さらに、このような構成での変調パターンの設計について、具体的に、空間光変調器において、2次元配列された複数の画素による画素構造を想定する。そして、変調パターンの1画素での位相値の変更が集光点におけるレーザ光の集光状態に与える影響に着目した設計方法を用いるとともに、集光点での集光状態の評価において、自由伝搬を仮定した場合の波動伝搬関数φjsを用いるのではなく、収差条件が考慮された伝搬関数φjs’に変換した上で集光状態を評価している。このような構成によれば、集光点におけるレーザ光の集光状態を好適かつ確実に評価、制御することが可能となる。なお、空間光変調器として、2次元配列された複数の画素を有する空間光変調器を用いる場合には、その画素構造をそのまま変調パターンの設計に適用することができる。
【0016】
ここで、上記した光変調制御方法、制御プログラム、及び制御装置は、収差条件の導出において、画素jから集光点sへの光の伝搬についての収差条件として、その伝搬での光路長差を与える位相Φj−OPDを求め、変調パターンの設計において、変換式
φjs’=φjs+Φj−OPD
によって、収差条件が考慮された伝搬関数φjs’を求めることが好ましい。このような構成によれば、自由伝搬の伝搬関数φjsを、収差条件が考慮された伝搬関数φjs’に好適に変換することができる。
【0017】
また、光変調制御方法、制御プログラム、及び制御装置は、変調パターンの設計において、空間光変調器の画素jへのレーザ光の入射振幅をAj−in、位相をφj−in、画素jでの位相値をφとして、下記式
=Aexp(iφ
=Σj−inexp(iφjs’)exp(i(φ+φj−in))
によって、集光点sにおける集光状態を示す複素振幅Uを求めることが好ましい。これにより、集光点におけるレーザ光の集光状態を好適に評価することができる。
【0018】
変調パターンの設計の具体的な構成については、変調パターンの画素jでの位相値の変更において、集光点sにおける集光状態を示す複素振幅の位相φ、収差条件が考慮された伝搬関数φjs’、及び画素jでの変更前の位相値φに基づいて解析的に求められた値によって、位相値を変更する構成を用いることができる。このように解析的に位相値を更新する方法としては、例えばORA(Optimal Rotation Angle)法がある。あるいは、変調パターンの画素jでの位相値の変更において、山登り法、焼きなまし法、または遺伝的アルゴリズムのいずれかの方法を用いて探索で求められた値によって、位相値を変更する構成を用いても良い。
【0019】
また、レーザ光の伝搬経路上にある第1、第2伝搬媒質については、例えば、第2伝搬媒質が、集光点が内部に設定される照射対象物であり、第1伝搬媒質が、空間光変調器と照射対象物との間にある雰囲気媒質である構成を用いることができる。なお、雰囲気媒質については、空気などの他、水、オイル等であっても良い。また、空間光変調器と集光点との間に3つ以上の媒質があっても良い。
【0020】
また、光変調制御装置は、空間光変調器を駆動制御して、変調パターン設計手段によって設計された変調パターンを空間光変調器に呈示する光変調器駆動制御手段を備えていても良い。また、このような光変調器駆動制御手段については、変調パターンの設計を行う光変調制御装置とは別装置として設けられる構成としても良い。
【0021】
本発明によるレーザ光照射装置は、(a)レーザ光を供給するレーザ光源と、(b)レーザ光を入力し、レーザ光の位相を変調して、位相変調後の変調レーザ光を出力する位相変調型の空間光変調器と、(c)空間光変調器に呈示する変調パターンによって、設定された集光点への変調レーザ光の集光照射を制御する上記構成の光変調制御装置とを備えることを特徴とする。
【0022】
このような構成によれば、光変調制御装置によって、集光点におけるレーザ光の集光状態を好適かつ確実に制御して、照射対象物において設定された単一または複数の集光点に対するレーザ光の集光照射、及びそれによる対象物の加工、観察等の操作を好適に実現することが可能となる。このようなレーザ光照射装置は、例えばレーザ加工装置、レーザ顕微鏡などとして用いることができる。なお、空間光変調器としては、2次元配列された複数の画素を有し、複数の画素それぞれにおいてレーザ光の位相を変調する構成の空間光変調器を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の光変調制御方法、制御プログラム、制御装置、及びそれを用いたレーザ光照射装置によれば、空間光変調器を用いた集光点へのレーザ光の集光照射について、レーザ光の入射パターン、及び伝搬経路上の第1、第2伝搬媒質の屈折率を取得し、レーザ光の集光点の個数、及び各集光点での集光位置、集光強度を設定し、第1、第2伝搬媒質によって生じる収差条件を導出し、その収差条件を考慮して、空間光変調器に呈示する変調パターンを設計するとともに、変調パターンの設計において、変調パターンの1画素での位相値の変更が集光点でのレーザ光の集光状態に与える影響に着目した設計方法を用い、集光点での集光状態を評価する際に、収差条件が考慮された伝搬関数を用いることにより、集光点におけるレーザ光の集光状態を好適かつ確実に制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】レーザ光照射装置の一実施形態の構成を示す図である。
【図2】レーザ光の伝搬過程における収差の発生について示す図である。
【図3】光変調制御装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図4】光変調制御方法の一例を示すフローチャートである。
【図5】レーザ光の伝搬において生じる収差条件の導出について示す図である。
【図6】変調パターンの設計方法の一例を示すフローチャートである。
【図7】レーザ光照射装置によるレーザ光の照射パターンの例を示す図である。
【図8】レーザ光照射装置によるレーザ光の照射パターンの例を示す図である。
【図9】レーザ光照射装置によるレーザ光の照射パターンの例を示す図である。
【図10】変調パターンの設計方法の他の例を示すフローチャートである。
【図11】レーザ光照射装置の他の実施形態の構成を示す図である。
【図12】照射対象物へのレーザ光の集光照射の一例について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面とともに本発明による光変調制御方法、制御プログラム、制御装置、及びレーザ光照射装置の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0026】
まず、本発明による光変調制御の対象となる、空間光変調器を含むレーザ光照射装置の基本的な構成について、その構成例とともに説明する。図1は、本発明による光変調制御装置を含むレーザ光照射装置の一実施形態の構成を示す図である。本実施形態によるレーザ光照射装置1Aは、照射対象物15に対してレーザ光を集光照射する装置であって、レーザ光源10と、空間光変調器20と、可動ステージ18とを備えている。
【0027】
図1に示す構成において、照射対象物15は、X方向、Y方向(水平方向)、及びZ方向(垂直方向)に移動可能に構成された可動ステージ18上に載置されている。また、本装置1Aでは、この照射対象物15に対し、その内部に対象物15の加工、観察等を行うための集光点が設定され、その集光点に対してレーザ光の集光照射が行われる。
【0028】
レーザ光源10は、ステージ18上の照射対象物15に対して集光照射するためのパルスレーザ光などのレーザ光を供給する。レーザ光源10から出力されたレーザ光は、ビームエキスパンダ11によって広げられた後、反射ミラー12、13を介して、空間光変調器(SLM)20へと入力される。
【0029】
空間光変調器20は、位相変調型の空間光変調器であり、例えばその2次元の変調面の各部においてレーザ光の位相を変調して、位相変調後のレーザ光を出力する。この空間光変調器20としては、好ましくは、2次元配列された複数の画素を有し、複数の画素それぞれにおいてレーザ光の位相を変調する空間光変調器が用いられる。このような構成において、空間光変調器20には例えばCGHなどの変調パターンが呈示され、この変調パターンによって、設定された集光点へのレーザ光の集光照射が制御される。また、空間光変調器20は、光変調器駆動装置28を介して、光変調制御装置30によって駆動制御されている。光変調制御装置30の具体的な構成等については後述する。また、空間光変調器20としては、上記した画素構造を有していないものを用いても良い。
【0030】
この空間光変調器20は、反射型のものであってもよいし、透過型のものであってもよい。図1では、空間光変調器20として反射型のものが示されている。また、空間光変調器20としては、屈折率変化材料型SLM(例えば液晶を用いたものでは、LCOS(Liquid Crystal on Silicon)型、LCD(LiquidCrystal Display))、Segment Mirror型SLM、Continuous Deformable Mirror型SLM、DOE(Diffractive Optical Element)などが挙げられる。なお、DOEには、離散的に位相を表現したもの、あるいは後述する方法を用いてパターンを設計し、スムージングなどにより連続的なパターンに変換したものが含まれる。
【0031】
空間光変調器20で所定のパターンに位相変調されて出力されたレーザ光は、レンズ21、22から構成される4f光学系によって対物レンズ25へと伝搬される。そして、この対物レンズ25によって、照射対象物15の表面または内部に設定された単一または複数の集光点にレーザ光が集光照射される。
【0032】
なお、レーザ光照射装置1Aにおける光学系の構成については、具体的には図1に示した構成に限らず、様々な構成を用いることが可能である。例えば、図1では、ビームエキスパンダ11によってレーザ光を広げる構成としているが、スペイシャルフィルタとコリメートレンズとの組合せを用いる構成としても良い。また、駆動装置28については、空間光変調器20と一体に設けられる構成としても良い。また、レンズ21、22による4f光学系については、一般には、複数のレンズで構成された両側テレセントリック光学系を用いることが好ましい。
【0033】
また、照射対象物15を移動させる可動ステージ18については、例えばこのステージを固定とし、光学系側に可動機構、ガルバノミラー等を設ける構成としても良い。また、レーザ光源10としては、例えばNd:YAGレーザ光源、フェムト秒レーザ光源など、パルスレーザ光を供給するパルスレーザ光源を用いることが好ましい。
【0034】
図1に示すレーザ光照射装置1Aにおいて、空間光変調器20から照射対象物15内の集光点へのレーザ光の伝搬経路上に収差物体が存在する場合、レーザ光は伝搬過程において収差の影響を受ける。ここで、図2は、レーザ光の伝搬過程における収差の発生について示す図である。例えば、上記したように照射対象物15の内部に集光点が設定される場合、対物レンズ25から出力された収束レーザ光は、対物レンズ25から集光点までの伝搬経路上にある雰囲気媒質(第1伝搬媒質)である空気の屈折率nと、ガラス媒体などの照射対象物(第2伝搬媒質)15の屈折率nとの違いにより、近軸光線と、最外縁の光線とで、雰囲気媒質と、ガラス媒体などの照射対象物15との境界面での屈折角が異なることとなり、それによって焦点ずれ(球面収差)が発生する。
【0035】
例えば、図2に示すように、対物レンズ25による焦点Oが、照射対象物15の内部の深さdの位置にある場合を考える。この場合、この焦点Oが、屈折率nの空気と、屈折率nの対象物15との境界面での屈折角により、焦点O’へと焦点ずれ量δだけずれることとなる。また、この焦点ずれ量δは、対物レンズ25に入射する光の入射高さhによって変化する。このような入射高さhに依存する焦点ずれδによる球面収差により、対象物15においてレーザ光の集光点の形状が光軸方向に伸び、集光密度が低下する。
【0036】
また、このような伝搬媒質による収差の発生は、照射対象物15の内部に複数の集光点を設定し、対象物15に対して多点同時照射(例えば、多点同時加工)を行う場合にも問題となる。すなわち、上記の球面収差は、レーザ光の光軸方向での集光位置(光軸深さ)によって収差量が異なり、光軸深さが深くなると球面収差量が大きくなる傾向がある。この場合、対象物15に対して3次元多点同時照射を行う際には、集光点毎に、それぞれの集光位置の光軸深さに応じて異なる球面収差量を補正する必要がある。
【0037】
また、多点同時照射を行う場合、各集光点に対するレーザ光の集光強度の調整の問題もある。例えば、フェムト秒レーザ光を用いたガラス内部加工では、集光点でのレーザ光の集光強度により、対象部位で加工によって発生する屈折率変化量が異なることが知られている。したがって、屈折率分布が等しい複数の導波路をレーザ光の多点同時照射によって一度に作製する場合には、空間光変調器に呈示される変調パターンにより、複数の集光点での集光強度が高い均一性で再生されることが望ましい。また、逆に複数の集光点での集光強度を互いに異なる強度に設定することで、屈折率分布が異なる複数の導波路を作製することも可能である。これらのいずれの場合においても、複数の集光点が設定された場合に、各集光点でのレーザ光の集光強度を任意に制御できることが望ましい。
【0038】
これに対して、図1のレーザ光照射装置1Aは、駆動装置28を介して空間光変調器20に呈示する変調パターンのCGHを、光変調制御装置30において適切に設計することで、伝搬経路上の屈折率が異なる伝搬媒質による収差の影響を低減して、集光点におけるレーザ光の集光状態を好適に制御するものである。また、本実施形態によるレーザ光照射装置1A及び光変調制御装置30によれば、複数の集光点が設定された場合での、3次元多点のレーザ光照射、及び集光点間での集光強度の調整も好適に実現可能である。
【0039】
図3は、図1に示したレーザ光照射装置1Aに適用される、光変調制御装置30の構成の一例を示すブロック図である。本構成例による光変調制御装置30は、照射条件取得部31と、集光条件設定部32と、収差条件導出部33と、変調パターン設計部34と、光変調器駆動制御部35とを有して構成されている。なお、このような光変調制御装置30は、例えばコンピュータによって構成することができる。また、この制御装置30には、光変調制御について必要な情報、指示等の入力に用いられる入力装置37、及び操作者に対する情報の表示に用いられる表示装置38が接続されている。
【0040】
照射条件取得部31は、照射対象物15に対するレーザ光の照射条件に関する情報を取得する照射条件取得手段である。具体的には、照射条件取得部31は、レーザ光の照射条件として、空間光変調器20へのレーザ光の入射パターン(例えば強度分布、位相分布情報)、光変調器20から集光点へのレーザ光の伝搬経路上にある第1伝搬媒質(例えば雰囲気媒質)の第1屈折率n、及び第1伝搬媒質よりも集光点側にある第2伝搬媒質の第1屈折率とは異なる第2屈折率nを取得する(照射条件取得ステップ)。
【0041】
集光条件設定部32は、照射対象物15に対するレーザ光の集光条件を設定する集光条件設定手段である。具体的には、集光条件設定部32は、レーザ光の集光条件として、空間光変調器20からの変調レーザ光を集光照射する集光点の個数s、及びs個の集光点s(s=1〜s)のそれぞれについての集光位置、集光強度を設定する(集光条件設定ステップ)。集光点の個数sは、1以上の整数として設定され、また、多点同時照射の場合には2以上の整数として設定される。なお、取得部31による照射条件の取得、及び設定部32による集光条件の設定は、制御装置30にあらかじめ用意された情報、入力装置37から入力される情報、あるいは外部装置から供給される情報等に基づいて、自動で、もしくは操作者により手動で行われる。
【0042】
収差条件導出部33は、空間光変調器20から照射対象物15に対して設定された集光点sへのレーザ光の伝搬において、その伝搬経路上で生じる収差に関する収差条件を導出する収差条件導出手段である。ここでは、収差条件導出部33は、図2に関して上述したように、レーザ光の伝搬経路上にあって互いに屈折率が異なる光学系側の第1伝搬媒質、及び集光点側の第2伝搬媒質について、それらの伝搬媒質によって生じる収差条件を導出する(収差条件導出ステップ)。また、伝搬経路上に伝搬媒質が3つ以上ある場合には、収差条件導出部33は、それらの全ての伝搬媒質による収差条件を導出する。
【0043】
変調パターン設計部34は、収差条件導出部33で導出された伝搬経路上での収差条件を考慮して、空間光変調器20に呈示する変調パターンとなるCGHを設計する変調パターン設計手段である。具体的には、変調パターン設計部34は、取得部31で取得された照射条件、設定部32で設定された集光条件、及び導出部33で導出された収差条件を参照し、それらの条件に基づいて、所望の単一または複数の集光点へとレーザ光を集光照射させる変調パターンを設計する(変調パターン設計ステップ)。
【0044】
特に、本実施形態における変調パターン設計部34では、空間光変調器20に呈示する変調パターンの設計において、空間光変調器20について2次元配列された複数の画素を想定するとともに、複数の画素に呈示する変調パターンの1画素(空間光変調器20において想定された1画素、空間光変調器20が2次元配列の複数の画素による画素構造を有する場合には、その1画素に対応)での位相値の変更が集光点におけるレーザ光の集光状態に与える影響に着目した設計方法を用いる。そして、その集光状態が所望の状態に近づくように1画素の位相値を変更するとともに、そのような位相値の変更操作を変調パターンの全ての画素(少なくとも光が入射する全ての画素)について行うことで最適な変調パターンを設計する。
【0045】
また、この変調パターン設計部34では、上記した各画素での位相値の変更操作において、集光点でのレーザ光の集光状態を評価する際に、空間光変調器20の変調パターンにおける画素jから集光点sへの光の伝搬について、伝搬媒質が均質な状態での自由伝搬を仮定した場合における波動伝搬関数φjsをそのまま用いるのではなく、伝搬関数φjsに対して、収差条件導出部33で求められた収差条件を加えて変換した伝搬関数φjs’を用いる。これにより、レーザ光の集光状態は、伝搬経路上での収差条件を考慮して制御される。
【0046】
光変調器駆動制御部35は、駆動装置28を介して空間光変調器20を駆動制御して、変調パターン設計部34によって設計された変調パターンを空間光変調器20の複数の画素に呈示する駆動制御手段である。このような駆動制御部35は、光変調制御装置30がレーザ光照射装置1Aに含まれている場合に、必要に応じて設けられる。
【0047】
図3に示した光変調制御装置30において実行される制御方法に対応する処理は、光変調制御をコンピュータに実行させるための光変調制御プログラムによって実現することが可能である。例えば、光変調制御装置30は、光変調制御の処理に必要な各ソフトウェアプログラムを動作させるCPUと、上記ソフトウェアプログラムなどが記憶されるROMと、プログラム実行中に一時的にデータが記憶されるRAMとによって構成することができる。このような構成において、CPUによって所定の制御プログラムを実行することにより、上記した光変調制御装置30を実現することができる。
【0048】
また、空間光変調器20を用いた光変調制御、特に、空間光変調器20に呈示する変調パターンの設計のための各処理をCPUによって実行させるための上記プログラムは、コンピュータ読取可能な記録媒体に記録して頒布することが可能である。このような記録媒体には、例えば、ハードディスク及びフレキシブルディスクなどの磁気媒体、CD−ROM及びDVD−ROMなどの光学媒体、フロプティカルディスクなどの磁気光学媒体、あるいはプログラム命令を実行または格納するように特別に配置された、例えばRAM、ROM、及び半導体不揮発性メモリなどのハードウェアデバイスなどが含まれる。
【0049】
本実施形態による光変調制御方法、光変調制御プログラム、光変調制御装置30、及びレーザ光照射装置1Aの効果について説明する。
【0050】
図1〜図3に示した光変調制御方法、制御プログラム、及び制御装置30においては、空間光変調器20を用いた集光点へのレーザ光の集光照射について、レーザ光の入射パターン、及び伝搬経路上の第1、第2伝搬媒質に関する屈折率を含む情報を取得するとともに、レーザ光の集光点の個数s、及び各集光点での集光位置、集光強度を含む集光条件を設定する。そして、収差条件導出部33において、屈折率が異なる第1、第2伝搬媒質がレーザ光の伝搬経路上にあることによって生じる収差条件を導出するとともに、変調パターン設計部34において、その収差条件を考慮して、空間光変調器20に呈示する変調パターンを設計する。これにより、集光条件設定部32において設定された単一または複数の集光点に対し、各集光点でのレーザ光の集光状態において、第1、第2伝搬媒質による収差の影響を低減することができる。
【0051】
さらに、このような構成での変調パターンの設計について、具体的に、空間光変調器20において、2次元配列された複数の画素による画素構造を想定する。そして、変調パターンの1画素での位相値の変更が集光点におけるレーザ光の集光状態に与える影響に着目した設計方法を用いるとともに、集光点での集光状態の評価において、伝搬媒質が均質な状態での自由伝搬を仮定した場合の波動伝搬関数φjsを用いるのではなく、収差条件が考慮された伝搬関数φjs’に変換した上で集光状態を評価している。このような構成によれば、集光点におけるレーザ光の集光状態を好適かつ確実に評価、制御することが可能となる。
【0052】
なお、空間光変調器20において想定される画素構造については、空間光変調器20として、2次元配列された複数の画素を有する空間光変調器を用いる場合には、その画素構造をそのまま変調パターンの設計に適用することができる。また、自由伝搬については、ここでは、真空ないしは大気中における伝搬のみではなく、上記したように一般に、伝搬媒質が均質な状態での伝搬、例えば、第2伝搬媒質が存在せず、第1伝搬媒質のみが均質に存在する場合における伝搬を含むものとする。
【0053】
また、図1に示したレーザ光照射装置1Aでは、レーザ光源10と、位相変調型の空間光変調器20と、上記構成の光変調制御装置30とを用いてレーザ光照射装置1Aを構成している。このような構成によれば、制御装置30によって、集光点におけるレーザ光の集光状態を好適かつ確実に制御して、照射対象物15において設定された単一または複数の集光点に対するレーザ光の集光照射、及びそれによる対象物の加工、観察等の操作を好適に実現することが可能となる。また、このようなレーザ光照射装置は、例えばレーザ加工装置、レーザ顕微鏡などとして用いることができる。
【0054】
ここで、導出部33での収差条件の導出については、空間光変調器20の複数の画素のうちで画素jから、設定された集光点sへの光の伝搬を考えたときに、光の伝搬についての収差条件として、その伝搬での光路長差OPDを与える位相Φj−OPDを求めることが好ましい。また、この場合、設計部34での変調パターンの設計については、上記のように導出された収差条件の位相Φj−OPDを用いて、変換式
φjs’=φjs+Φj−OPD
によって、収差条件が考慮された伝搬関数φjs’を求めることが好ましい。このような構成によれば、自由伝搬の伝搬関数φjsを、収差条件が考慮された伝搬関数φjs’に好適に変換することができる。
【0055】
また、設計部34での変調パターンの設計については、空間光変調器20の画素jへのレーザ光の入射振幅をAj−in、画素jでの位相値をφとして、下記式
=Aexp(iφ
=Σj−inexp(iφjs’)exp(iφ
によって、集光点sにおける集光状態を示す複素振幅Uを求めることが好ましい。あるいはさらに、空間光変調器20の画素jへのレーザ光の入射振幅をAj−in、入射位相をφj−in、画素jでの位相値をφとして、下記式
=Aexp(iφ
=Σj−inexp(iφjs’)exp(i(φ+φj−in))
によって、集光点sにおける集光状態を示す複素振幅Uを求めることが好ましい。これにより、集光点におけるレーザ光の集光状態を好適に評価することができる。
【0056】
ここで、画素jへのレーザ光の入射振幅Aj−inは、入射強度Ij−inに対して、
j−in=|Aj−in
の関係にある。また、複素振幅Uにおいて、Aは振幅、φは位相である。また、入射レーザ光が平面波の場合には、その入射位相φj−inは無視することができる。
【0057】
変調パターンの設計の具体的な構成については、変調パターンの画素jでの位相値の変更において、集光点sにおける集光状態を示す複素振幅の位相φ、収差条件が考慮された伝搬関数φjs’、及び画素jでの変更前の位相値φに基づいて解析的に求められた値によって、位相値を変更する構成を用いることができる。このように解析的に位相値を更新する方法としては、例えばORA(Optimal Rotation Angle)法がある。
【0058】
あるいは、変調パターンの画素jでの位相値の変更において、山登り法、焼きなまし法、または遺伝的アルゴリズムのいずれかの方法を用いて探索で求められた値によって、位相値を変更しても良い。ここで、遺伝的アルゴリズムでは、ある1画素を選んでその画素の値を変更する突然変異、また、2画素を選んでその画素の値を交換する交叉などの操作が行われるが、上記した変調パターンの1画素での位相値の変更が集光点におけるレーザ光の集光状態に与える影響に着目した設計方法は、このような操作を行う方法を含むものとする。なお、変調パターンの設計手法については、具体的には後述する。
【0059】
レーザ光の伝搬経路上にある屈折率が異なる第1、第2伝搬媒質については、図2においては、集光点側の第2伝搬媒質が、集光点が内部に設定される照射対象物15であり、光学系側の第1伝搬媒質が、空間光変調器20と照射対象物15との間(対物レンズ25と対象物15との間)にある雰囲気媒質である構成を例示している。この場合、雰囲気媒質については、空気などの他、水、オイル等を雰囲気媒質としても良い。
【0060】
また、空間光変調器と集光点との間の伝搬経路上に3つ以上の媒質があっても良い。そのような構成としては、例えば、レーザ光が、雰囲気媒質とは屈折率が異なる媒体を通過し、その通過後にレーザ光を集光させる構成が考えられる。また、例えば、屈折率が異なる複数種類のガラス同士が張り合わされている構成、シリコンの上にガラスが張り合わされている構成、また、顕微鏡での生体試料や細胞内部の観察においてカバーガラスが伝搬経路上に存在する構成など、レーザ光の伝搬経路上の媒質については様々な構成が考えられる。また、複数の媒体に対して、同時にレーザ光の集光照射を行う構成も考えられる。このような場合においても、上記と同様に、収差条件の導出、及び変調パターンの設計を実行することが可能である。
【0061】
また、図3に示した光変調制御装置30においては、変調パターンを設計するための構成に加えて、空間光変調器20を駆動制御して、設計部34によって設計された変調パターンを空間光変調器20に呈示する光変調器駆動制御部35を設けている。このような構成は、図1に示したように、制御装置30をレーザ光照射装置1Aに組み込んだ形で用いる場合に有効である。また、このような駆動制御部35については、光変調制御装置30とは別装置として設けられる構成としても良い。
【0062】
また、例えばレーザ光照射によってガラス媒体を加工して光集積回路を作製するような場合には、1回または複数回のレーザ光照射の後に新たな1枚または複数枚のCGHの設計を行って、空間光変調器20に呈示する変調パターンを切り換えても良い。あるいは、作製したい光集積回路の形状が決まっている場合には、レーザ加工に必要な複数の変調パターンをあらかじめ設計しておいても良い。
【0063】
また、DOEを単独に用いる場合には、DOEは静的なパターンであるので、駆動装置は無くても良い。また、複数個のDOEを用いて、動的にパターンの切り替えを行う場合には、駆動装置の代わりに切替装置が用いられる。
【0064】
図1、図3に示したレーザ光照射装置1A及び光変調制御装置30において実行される光変調制御方法、及び変調パターンの設計方法について、その具体例とともにさらに説明する。図4は、図3に示した光変調制御装置30において実行される光変調制御方法の一例を示すフローチャートである。
【0065】
図4に示す制御方法では、まず、レーザ光源10から供給されるレーザ光の照射対象物15への照射条件についての情報を取得する(ステップS101)。具体的には、空間光変調器20から集光点sへのレーザ光の伝搬経路について、伝搬経路上にある第1伝搬媒質(例えば雰囲気媒質)の第1屈折率nと、第2伝搬媒質(例えば照射対象物)の第2屈折率nとを取得する(S102)。また、ここでは、必要であれば、第1、第2伝搬媒質の屈折率以外の情報、例えば媒質の厚さ、形状、位置等についての情報も取得する。また、伝搬媒質以外にも、例えば対物レンズ25のNA、焦点距離f等、収差条件の導出において必要な情報があれば、伝搬媒質の情報に加えて取得しておく。
【0066】
また、レーザ光源10から供給されるレーザ光の空間光変調器20への入射パターンを取得する(S103)。このレーザ光の入射パターンは、空間光変調器20の2次元配列された複数の画素での位置(x,y)の画素jに対する入射レーザ光強度
in(x,y)=Ij−in
による入射光強度分布として与えられる。あるいは、振幅Aj−inによる入射光振幅分布として、レーザ光の入射パターンを取得しても良い。また、必要な場合には、レーザ光の入射位相φj−inについても取得する構成としても良い。
【0067】
次に、照射対象物15に対するレーザ光の集光条件を設定する(S104)。まず、空間光変調器20で位相変調されたレーザ光を照射対象物15に対して集光照射する単一または複数の集光点の個数sを設定する(S105)。ここで、上記構成によるレーザ光照射装置1Aでは、空間光変調器20に呈示する変調パターンにより、必要に応じて複数の集光点を得ることが可能である。
【0068】
また、対象物15に対するs個の集光点s=1〜sのそれぞれについて、レーザ光の集光位置γ=(u,v,z)、及び所望の集光強度Is−desを設定する(S106)。なお、各集光点へのレーザ光の集光強度については、強度の絶対値による設定に限らず、例えば強度の相対的な比率によって設定しても良い。
【0069】
続いて、空間光変調器20から集光点sへのレーザ光の伝搬において、屈折率が異なる第1、第2伝搬媒質によって生じる収差条件を導出する(S107)。そして、ステップS107で導出された収差条件を考慮し、ステップS101、S104で取得、設定されたレーザ光の照射条件、集光条件を参照して、空間光変調器20の複数の画素に呈示する変調パターンとなるCGHを設計する(S108)。
【0070】
図4のフローチャートのステップS107において実行される収差条件の導出方法について、具体的に説明する。図1に示した構成において空間光変調器20をミラーに置き換えると、レーザ光源10から供給されたレーザ光に位相変調が施されないために、理想的には平行光が対物レンズ25に入射し、対物レンズ25によって球面波に変換される。レーザ光の伝搬経路(集光経路)に収差物体が存在しない場合には、対物レンズ25からの光は、焦点距離fと等しい集光深さに1点で集光される。
【0071】
一方、伝搬経路に屈折率が異なる第1、第2伝搬媒質が存在すると、屈折角の変化によって収差が発生し、対物レンズ25からの光は1点には集光しない。これに対して、空間光変調器20に呈示される変調パターンを適切に設計し、対物レンズ25に伝搬される光の波面を変形することにより、設定された集光点sに対して収差の影響無く、レーザ光を集光させることができる。
【0072】
所望の集光点にレーザ光を集光させるための波面の導出には、例えば、所望の集光位置からの逆光線追跡による導出方法を用いることができる。以下においては、平行平面基板の内部で光軸上にある集光点に、収差の影響無く集光するための波面の導出方法を例として説明する(特許文献2参照)。なお、波面の導出、及びそれによる収差条件(例えば、後述する収差条件を表す位相Φj−OPD)の導出については、逆光線追跡による方法以外にも、例えば最適化補正方法(非特許文献5)、近軸光線における収差の解析法(非特許文献7)など、具体的には様々な方法を用いることができる。
【0073】
図5は、レーザ光の伝搬において生じる収差条件の導出について示す図である。まず、雰囲気媒質の屈折率nと、照射対象物15の屈折率nとが等しい場合を考える。対象物15の端面P上の位置に光が集光するときの対物レンズ25の位置を基準とし、対物レンズ25を距離dだけ対象物15側へ移動させると、光は端面Pから距離dだけ離れた位置の点Oに集光する。理想的な平面波として入射する光は、対物レンズ25にて変換された直後には球面波となり、その球面波における点Rからの光線は、図5に実線で示す光路をとって点Oに到達する。このとき、点Rから点Oまでの光路長はfであり、どの光軸高さでも同じ光路長となる。
【0074】
一方、屈折率n、nが異なる場合には、対物レンズ25からの光は点Oには集光しない。そこで、対物レンズ25の移動量は同じ距離dであるが、レーザ光の波面を空間光変調器20で変調することにより、端面Pからz離れた位置の点O’に集光するようにする。この場合、点O’からの光線は、対象物15と雰囲気媒質との境界面上の点Qを経て点Rに到達することになり、O’QとQRとの合計が光路長となる。このような光路長(OPL:Optical Path Length)を光軸高さh毎に導出する。
【0075】
まず、図5に示すように、波面補正前の光線の対象物15への入射角をθ、波面補正後の光線の対象物15への入射角をθ、屈折角をθとすると、光軸高さh、h、hはそれぞれ下記の式(1)、(2)、(3)によって表される。
【数1】


【数2】


【数3】

【0076】
ここで、入射角θと屈折角θとは、スネルの法則によって一意に関係付けられる。また、関係式h=h+hと、上記の式(1)〜(3)により、角度θ、θ、θが一意的に関係付けられる。例えば、ある特定のθまたはθが与えられた場合には、上記式(1)、(2)を関係式h=h+hに代入し、式(3)を解くことで容易にθを決定することができる。
【0077】
ただし、逆にある特定のθが与えられた場合に、θ及びθを解析的に求めることは困難である。特定の角度θについて対応するθ、θを求める際には、探索を行う。例えば、θあるいはθの値を徐々に変化させて、その都度θの値を求める。そして、θが所望の値となるθ、θが得られるまで、θあるいはθを変化させることで、その探索及び角度の導出を行う。
【0078】
上記したように、式(1)〜(3)により、所望のθに対応するθ、θを求める。そして、入射角θ毎に、照射対象物15によって生じる光の伝搬の光路長OPLを下記の式(4)によって求める。
【数4】


なお、この式(4)中の「−f−(n−n)×d」は定数項であり、OPLの値が大きくなり過ぎるのを防ぐために付加した項である。
【0079】
この式(4)は、入射角θ毎の光路長を示しているが、式(3)及び式(4)より、光軸高さh毎の光路長として、下記の式(5)のように表すこともできる。
【数5】


これにより、光軸高さhに対応するOPLを求めることができる。
【0080】
このOPLの差、すなわち光路長差(OPD:Optical PathDifference)を与える位相ΦOPDを空間光変調器(SLM)20で与えることにより、対象物15の内部における所望の位置にレーザ光を集光することができる。この位相ΦOPDは、式(5)から
【数6】


によって求めることができる。この位相ΦOPDを、3次元多点照射のために距離dを固定した状態で、z毎に導出する。なお、光軸高さhの範囲は、0〜hmaxまでである。また、hmaxは0〜NA×fまでの範囲であり、すなわち、対物レンズ25の開口が光軸高さのhmaxの最大である。
【0081】
また、上記した光軸高さhと、SLM20の画素jの位置(x,y)とは次のような関係がある。SLM20と対物レンズ25とが、図1に示した光学系のように4f光学系で結像されている場合には、対物レンズの瞳の波面がSLMに伝搬される。このとき、4f光学系のレンズ21の焦点距離をf1、レンズ22の焦点距離をf2とすると、横倍率MはM=f2/f1となる。したがって、対物レンズの射出瞳からの光は、SLM上において光軸高さがh=0〜hmax/Mとなる。
【0082】
また、対物レンズ25の射出瞳からの光の中心位置が、SLM上で座標(x,y)にあることがわかれば、下記の式(7)
【数7】


によって、光軸高さhと、SLMの画素座標(x,y)とを変換することができる。これにより、座標(x,y)の画素j毎の収差条件となる位相Φj−OPDを求めることができる。
【0083】
次に、図4のフローチャートのステップS108において実行される変調パターンの設計方法について、具体的に説明する。以下においては、SLM20に呈示される変調パターンの1画素での位相値の影響に着目した設計方法の例として、ORA法を用いた設計方法について説明する(特許文献3、非特許文献1、2参照)。
【0084】
ここで、一般に、SLMでの変調パターンとして用いられるCGHの設計方法は、複数あり、例えば反復フーリエ法などが挙げられる。まず、反復フーリエ変換法は、SLM面と回折面との2つの面を用意し、各面の間をフーリエ変換及び逆フーリエ変換にて伝搬させる。そして、伝搬ごとに各面の振幅情報を置き換え、最終的に位相分布を取得する方法である。
【0085】
一方、別のCGH設計法としては、光線追跡法及び1画素の影響に着目した設計方法の2つが挙げられる。光線追跡法としては、レンズの重ね合わせ法(S法:Superposition of Lens)がある。この方法は、集光点からの波面の重なりが少ない場合には有効であるが、波面の重なりが増えると、SLMに入射するレーザ光強度のうちで集光点に伝搬する光の強度が著しく低下し、あるいは制御できなくなる場合がある。そのために、S法を改良した反復S法がある。
【0086】
一方、CGHの1画素の影響に着目する設計法は、CGHの1画素を適宜選択し、1画素毎に位相値を変更してCGHの設計を行っていく方法であり、1画素の位相の決定方法によって探索型の方法と解析型の方法とがある。
【0087】
この設計法では、CGHのある1画素の位相値をパラメータとして変更し、フレネル回折等による波動伝搬関数を用いて変調レーザ光を伝搬させ、所望の集光点における集光状態を示す値(例えば振幅、強度、複素振幅の値)がどのように変化するかを調べる。そして、集光点での集光状態が所望の結果に近づくような位相値を採用する。このような操作を1画素ずつ、少なくとも光が入射する全ての画素で行う。
【0088】
全ての画素で操作が終わった後に、解析型の方法では、全ての画素を位相変調した結果で、所望の位置の位相がどのように変化するか確認した後に、はじめの1画素目に戻って所望の位置の位相を用いて、1画素ずつ位相の変更を行う。また、探索型の方法では、確認は行わずにはじめの1画素目に戻る。探索型の方法としては、例えば、山登り法、焼きなまし法(SA:Simulated Annealing)、遺伝的アルゴリズム(GA:GeneticAlgorithm)などがある(非特許文献3、4参照)。
【0089】
以下に説明するORA(Optimal Rotation Angle)法は、解析型の方法を用いた最適化アルゴリズムである。この方法では、変調パターンの各画素における位相値の変更、調整は、集光点sにおける集光状態を示す複素振幅の位相φ、伝搬関数の位相φjs、及び画素jでの変更前の位相値φに基づいて解析的に求められた値によって行われる。特に、本実施形態における設計方法では、伝搬関数として、φjsに代えて、第1、第2伝搬媒質による収差条件が考慮された伝搬関数φjs’が用いられる。
【0090】
図6は、図3に示した光変調制御装置30において実行される変調パターンの設計方法の一例を示すフローチャートである。まず、空間光変調器20を介して行われる照射対象物15へのレーザ光の集光照射について、設定された集光条件の情報を取得する(ステップS201)。ここで取得される集光条件としては、集光点の個数s、各集光点sの集光位置γ=(u,v,z)、及び所望の集光強度Is−desがある。
【0091】
次に、SLM20に呈示する変調パターンとして用いられるCGHの設計の初期条件となる位相パターンを作成する(S202)。この位相パターンは、例えば、CGHの画素jにおける位相値φをランダム位相パターンとする方法によって作成される。この方法は、ORAによるCGH設計が最適化手法であるため、ランダム位相によって特定の極小解に陥ることを防ぐ目的で用いられる。なお、特定の極小解に陥る可能性を無視しても良い場合には、例えば均一な位相パターン等に設定しても良い。
【0092】
続いて、集光点の個数が複数(s≧2)に設定されている場合、それらの集光点s=1〜s間の集光強度比を調整するためのパラメータであるウエイトwを、その初期条件としてw=1に設定する(S203)。なお、このウエイトwは、1×sの配列となる。また、集光点が単一(s=1)の場合には、ウエイトの設定は不要である。
【0093】
CGHの位相パターンφ、及びウエイトwの設定を終了したら、集光点sにおけるレーザ光の集光状態を示す複素振幅Uを算出する(S204)。具体的には、光波伝搬を表す下記の式(8)
【数8】


によって、複素振幅U=Aexp(iφ)を求める。ここで、Aj−inはSLM20の画素jへのレーザ光の入射振幅であり、φは画素jでの位相値である。また、φj−inは画素jに入射するレーザ光の位相である。
【0094】
また、式(8)において、φjs’は、第1、第2伝搬媒質(図5に示した例では雰囲気媒質、照射対象物15)による収差条件が考慮された伝搬関数であり、
【数9】


によって求められる。この式(9)において、Φj−OPDは、式(6)に示した画素jに対する収差条件の位相である。
【0095】
このように、収差条件が考慮された伝搬関数φjs’を用いることにより、zが異なるどの集光点においても、所望の結果を与えることが可能なCGHを得ることができる。また、φjsは、自由伝搬を仮定した場合の有限遠領域での伝搬関数である。この伝搬関数φjsとしては、例えば下記の式(10)
【数10】


で与えられる波動伝搬関数の近似式であるフレネル回折を用いることができる。ここで、上記の式(10)において、kは波数である。
【0096】
なお、自由伝搬の伝搬関数φjsとしては、例えば、上記したフレネル回折の近似式やフラウンホーファー回折の近似式、あるいはヘルムホルツ方程式の解など、様々な派生式を用いることができる。また、上記した式(8)、(9)において、収差条件の位相を、Φj−OPD=0とすれば、伝搬関数はφjs’=φjsとなって、従来のORA法で用いられている、収差が考慮されない複素振幅の算出式が得られる。
【0097】
また、式(10)の伝搬関数を用いてORA法によるCGH設計を行うと、対物レンズの焦点距離fのレンズ効果も付加されたCGHが設計される。ただし、通常、SLMでの画素サイズが大きいため、その対物レンズのレンズ効果を表現することができない。このため、実際には、焦点距離fではなく、焦点距離L(例えば、浜松ホトニクス製LCOS−SLM X10468であればL=1m程度)という値を用いている。
【0098】
続いて、上記方法によるCGHの設計において、所望の結果が得られているかどうかを判定する(S205)。この場合の判定方法としては、例えば、各集光点sで得られた集光強度I=|Aと、所望の強度Is−desとを、下記の式(11)
【数11】


によって比較し、全ての集光点sにおいて、強度比が所定の値ε以下となっているかによって判定する方法を用いることができる。また、集光強度Iではなく、振幅A、複素振幅U等によって判定を行っても良い。
【0099】
あるいは、図6のフローチャートにおいて、位相値の変更、及び複素振幅の算出等のループが規定の回数行われたかどうか、などの条件によって判定する方法を用いても良い。設定された集光条件に対し、設計されたCGHが必要な条件を満たしていると判定された場合には、ORAによるCGHの設計アルゴリズムを終了する。また、条件を満たしていない場合には、次のステップS206に進む。
【0100】
設計終了に必要な条件を満たしていないと判定された場合、まず、集光点s間の集光強度比を調整するためのウエイトwの値を下記の式(12)
【数12】


によって変更する(S206)。ここで、式(12)においてウエイトwの更新に用いられているパラメータηは、ORAアルゴリズムが不安定になるのを防ぐために、通常、慣習的にη=0.25〜0.35程度の値が用いられている。
【0101】
次に、集光点sにおけるレーザ光の集光状態が所望の状態に近づくように、CGHの画素毎に位相値の変更操作を行う(S207)。解析型のORA法では、集光状態を所望の状態に近づけるために画素jの位相値φに加える位相の変化量Δφを、式(8)で得られた複素振幅の位相φ、収差条件Φj−OPDを考慮した伝搬関数の位相φjs’、及び更新前の位相値φを用いて、下記の式(13)
【数13】


と判定とによって解析的に求める。ここで、
【数14】


【数15】


【数16】


である。このように解析的に位相値φを求める方法では、探索によって位相値を求める山登り法等の方法に比べて、演算に要する時間が短くなるという利点がある。
【0102】
なお、位相の変化量Δφの決定に用いられるΦjsについては、通常のORA法では、下記の式(17)
【数17】


が用いられるが、ここで説明する改良ORA法では、上記した伝搬関数の変更に加えて、位相値の更新におけるこのΦjsの算出においても、収差条件の位相Φj−OPDを加味した式(16)を用いている。
【0103】
上記のように、位相の変化量Δφが求められたら、下記の式(18)
【数18】


によって、CGHのj番目の画素における位相値φを変更、更新する。そして、位相値の変更操作が全ての画素で行われたかどうかを確認し(S208)、変更操作が終了していなければ、j=j+1として、次の画素について位相値の変更操作を実行する。一方、全ての画素について変更操作が終了していれば、ステップS204に戻って複素振幅Uの算出、及びそれによる集光状態の評価を行う。このような操作を繰り返して実行することにより、設定された集光条件に対応する変調パターンのCGHが作成される。
【0104】
以上の方法によって設計されるCGHには、上記したように、対物レンズの焦点距離fのレンズ効果が付与されている。したがって、焦点距離fの対物レンズを使用する場合には、ORA法による設計結果として得られたCGHの位相値φj−resに対し、
【数19】


を行えば良い。ただし、
【数20】


である。なお、fobjの代わりに上述した焦点距離Lを用いた場合には、式(20)についてもfobjからLに変更する。
【0105】
ここで、屈折率が異なる媒質が伝搬経路上に存在する場合の収差の補正では、従来、収差補正用のパターンを求めて、設計されたCGHの変調パターンに補正パターンを足し合わせる方法が用いられている(例えば、非特許文献5参照)。この場合の補正パターンの導出方法としては、例えば最適化補正法、近軸近似を用いた解析法、逆光線追跡を用いた解析法がある。これらの手法から導出した収差条件の逆の位相が、収差補正用のパターンとなる。しかしながら、このようなパターンの足し合わせによる方法は、下記のように適切に機能しない場合がある。
【0106】
すなわち、上記したORA法などのCGHの1画素の影響に着目する設計法では、1枚のCGHによって、複数の集光点によるレーザ光の3次元多点照射を行うことができる。このようなCGHに対して従来のように補正パターンを足し合わせた場合、CGHによって再生される全ての集光点において、同一の収差補正パターンの効果が与えられる。しかしながら、実際には、設定される複数の集光点は、光軸方向の位置(光軸深さ)が異なる場合がある。この場合、収差の影響は光軸深さによって異なることから、集光点毎に異なる収差補正パターンの効果を与える必要がある。すなわち、補正パターンをCGHに足し合わせる方法では、単一の光軸深さでの収差補正しか加えることができず、光軸深さが異なる収差の補正が不充分になる恐れがある。
【0107】
一方、非特許文献6には、反復フーリエ法を用いた設計法が開示されている。このような方法では、3次元多点照射のためには、CGH設計に追加の処理を行う必要がある。通常の反復フーリエ法にて設計されたCGHを再生するためには、SLMの後段にレンズが必要となる。これは、設計の段階では伝搬距離は無限遠であり、光軸深さ(光軸方向の集光位置)毎の制御ができないためである。
【0108】
この方法では、光軸深さを変えるには、反復フーリエ法で設計されたCGHにフレネルレンズパターンを別途加える必要がある。さらに、3次元多点照射を実現するためには、まず集光点が設定された集光面(回折面)毎に反復フーリエ法にてCGHを求め、それぞれのCGHに深さ方向を制御するフレネルレンズパターンの位相を加える。そして、その後、複数の集光面のCGHを複素振幅の形で足し合わせて、位相のみを取り出し、この操作によって3次元多点照射のためのCGHが設計される。
【0109】
また、各集光面用のCGHにフレネルレンズパターンを加える際に、伝搬経路上の媒体による影響を補正する収差補正パターンをも加えることで、集光面毎の球面収差補正が可能となる。しかしながら、このような方法では、複素振幅演算を行った後に、位相のみを取り出すために、振幅分布情報が欠落し、各集光点への振幅の分配が極めて難しいという問題がある。
【0110】
これに対して、上記したCGHの設計方法によれば、このような収差補正、及び各集光点への振幅の分配を好適に実現することができる。また、このような設計方法では、例えば、雰囲気媒質である空気(あるいは水、オイル等)と屈折率が異なる媒体が伝搬経路上に存在する影響の補正、3次元多点照射、及び複数の集光点の間での強度調整の3つを同時に実現するCGHを設計することが可能である。
【0111】
上記実施形態の光変調制御装置30、及びレーザ光照射装置1Aによる収差補正等の効果について、その具体例とともに説明する。図7〜図9は、それぞれ、レーザ光照射装置1Aによるレーザ光の照射パターンの例(CGHの再生像の例)を示す図である。ここでは、レーザ光をスペイシャルフィルタによって広げ、空間光変調器20であるLCOS−SLMにて位相変調を行った光を、f=800mmのレンズで集光する。このとき、集光レンズから700mm離れた位置にf=200mmのシリンドリカルレンズが配置されている。この例では、シリンドリカルレンズが集光光学系に挿入された収差物体である。
【0112】
収差物体についての補正を行わない変調パターンを用いた場合、図7に示すように、シリンドリカルレンズの収差の影響によってCGHが正しく表示されない。一方、上記したCGHの設計方法によって収差物体についての補正を行うと、図8に示すように、集光レンズからz=850mmの位置で、収差が補正された像が観察される。
【0113】
なお、シリンドリカルレンズについての収差補正は、上記した平行平面基板の場合とはOPDの導出方法等が若干異なる。すなわち、平行平面基板の場合には、軸対称であるため、2次元の計算を用いることができる。一方、シリンドリカルレンズの場合、あるいは対象物に傾きが存在する場合などには、それに対応した適切なOPDの導出方法を行うことが必要となる。
【0114】
また、上記したCGHの設計方法では、光軸深さを含む集光位置、屈折率、空間光変調器での画素ピッチなどの情報を正確に持っているため、所望の位置に対してレーザ光の集光照射、レーザ加工等を行うことができる。ここで、図9は、通常の反復フーリエ法で設計した「HPK」パターンを再生するCGHを、伝搬経路に対象物が存在しないときに再生させた結果を示している。一方、図8は、光軸上の(0,0,z)の位置に集光するようにORA法で設計したCGHと、「HPK」パターンのCGHとを足し合わせたものを再生、表示させた結果である。
【0115】
図8、図9を比較すると、紙面横方向の再生位置が異なることがわかる。集光点の形状は良好となっているが、図8で変調パターンとして用いたCGHは、シリンドリカルレンズによって屈折した横方向の回折についての補正がなされていない。これに対して、横方向の回折も改善するためには、次の2つの方法がある。
【0116】
すなわち、第1の方法は、再生点の1点1点について、光軸方向に対して垂直な面の位置も含めて、それぞれOPDを導出する方法である。この場合には、Φj−OPDに点sの位置情報が含まれるために、φjsが全ての点sについて共通であり、Φj−OPDが点の位置ごとに異なる。
【0117】
第2の方法は、光軸方向に対して垂直な面の位置は含めず、光軸深さによって異なるOPDを導出する方法である。この場合には、Φj−OPDには点sの位置情報が含まれないため、φjsが光軸方向に対して垂直な面の位置の調整を行う、つまり、φjsが点の位置ごとに異なる。
【0118】
なお、後者の方法を適用し、かつ、上述したように実際の焦点距離fではなく、焦点距離Lを用いる場合には、(u,v)を変更する必要がある。なお、fを用いた場合でもLを用いた場合でも、最終的にはレンズ効果を除去するため、(u,v)の設計を正しく行っていれば問題はない。そこで、焦点距離Lを用いる場合には、変更後の(u’,v’)は、(u’,v’)=(βu,βv)とする。なお、βはレンズの焦点距離を変更したことを補正するパラメータであり、光軸と(u,v)との距離が短い場合には、β=L/fとなる。
【0119】
これらの方法を用いてCGHの設計を行う。そうすることにより、各集光点をそれぞれ所定の位置に再生することができる。
【0120】
このように、収差量を正しく導出してCGHを設計することは、レーザ光の照射位置精度に大きな影響を及ぼす。なお、媒体の屈折率がわからない場合のレーザ光照射などにおいては、まずレーザ光照射を行い、その集光位置(例えば加工位置)を確認してから、屈折率を変えてフィードバックを行う方法も考えられる。
【0121】
図4のフローチャートのステップS108において実行される変調パターンの設計方法について、さらに説明する。図6のフローチャートでは、CGHの1画素の影響に着目した設計法の例として、解析型のORA法を用いた設計方法を示した。これに対して、変調パターンの設計方法としては、上述したように、山登り法、焼きなまし法、遺伝的アルゴリズムなどの探索型の設計方法を用いることも可能である。
【0122】
図10は、図3に示した光変調制御装置30において実行される変調パターンの設計方法の他の例を示すフローチャートである。このフローチャートでは、探索型の設計方法の例として、山登り法を用いた場合の設計方法を示している。この方法では、まず、ORA法と同様に、SLM20を介して行われる照射対象物15へのレーザ光の集光照射について、設定された集光条件の情報を取得する(ステップS301)。次に、SLM20に呈示するCGH設計の初期条件の位相パターンφを、例えばランダム位相パターンとして作成する(S302)。
【0123】
続いて、CGHの1画素の位相値φの変更操作を行う(S303)。さらに、収差条件が考慮された伝搬関数φjs’を含む式(8)を用いて、集光点sにおけるレーザ光の集光状態を示す複素振幅U=Aexp(iφ)を算出する(S304)。複素振幅を算出したら、得られた集光状態について判定を行う(S305)。
【0124】
ここでは、1画素の位相値φの切換えにより、振幅A、強度I=|A、または複素振幅Uが所望の値に近づいていれば、そのときの位相値を採用する。山登り法では、例えば、CGHの1画素毎の位相値を0.1π(rad)ずつ0π(rad)から所定の位相値まで、例えば2π(rad)まで切り換えて、切り換えたごとに式(8)を用いて、伝搬を行う。そして、集光点sの強度が最も増加する位相値を探索にて求める。
【0125】
続いて、1画素の位相値φの切換えを全ての条件で確認したかどうかを判定し(S306)、行っていなければステップS303に戻る。さらに、1画素の位相値の変更、及び集光状態の判定等の操作を全ての画素で行ったかどうかを判定し(S307)、行っていなければ画素番号をj=j+1としてステップS303に戻り、次の画素について必要な操作を行う。
【0126】
全ての画素について必要な操作を終了していれば、CGHの設計において、所望の結果が得られているかどうかを判定する(S308)。この場合の判定方法としては、ORA法の場合と同様に、例えば、各集光点で得られた集光強度、振幅、複素振幅等の値が許容範囲内に収まっているかどうかによって判定する方法を用いることができる。あるいは、図10のフローチャートにおいて、位相値の変更、及び集光状態の判定等のループが規定の回数行われたかどうか、などの条件によって判定する方法を用いても良い。必要な条件を満たしている場合には、CGHの設計アルゴリズムを終了する。条件を満たしていない場合には、ステップS303に戻って1画素目から探索を繰り返す。
【0127】
ここで、上述した変調パターンの設計方法の例では、いずれも照射対象物15を平行平面基板とした場合について説明したが、実際には、対象物15などの光の伝搬経路上の媒体が光軸に対して角度αの傾きを持つ場合も考えられる。この傾きαが大きい場合には、球面収差に加えて非点収差が発生する。そのような場合には、対物レンズのNA、焦点距離f、雰囲気媒質の屈折率n、照射対象物15の屈折率n、及びSLMに対するレーザ光の入射光強度分布Ij−inに加えて、対象物15の傾きαを求める。
【0128】
上記した設計例では、逆光線追跡を用いた解析手法で、2次元での収差条件の導出を行ったが、これは、球面収差が軸対称な収差のためである。これに対して、媒体の傾きαなどによって非点収差が発生して収差が軸対称ではなくなる等の場合には、それに対応した適切な方法で収差条件の導出を行い、得られた収差条件φOPDを用いてCGHの設計を行えば良い。
【0129】
また、集光点として任意の位置にレーザ光を集光させるため、レーザ光ビームが光軸とは異なる位置に集光する場合も考えられる。ビームの回折角が小さい場合は問題ないが、大きい場合には、球面収差に加えて非点収差が発生する。このような場合には、ビームの傾きβを求め、上記と同様にそれに対応した適切な方法で収差条件の導出を行い、得られた収差条件φOPDを用いてCGHの設計を行えば良い。
【0130】
各集光点sでのレーザ光の所望の集光強度Is−desについては、照射対象物15等での材質の光の透過率を考慮し、照射深さに応じて強度Is−desを調整、すなわち、照射深さzに応じて強度Is−desを変えて、CGHの設計を行っても良い。
【0131】
また、SLMは周期的な画素構造を有しているために、その複数の画素に表示するCGHが空間周波数によって回折した光の強度が異なる。したがって、このような回折強度を考慮し、照射位置(u,v)、照射深さzに応じて強度Is−desを変えて、CGHの設計を行っても良い。
【0132】
また、上記のように強度Is−desの調整を行っても、なお強度にバラツキが生じる場合も考えられる。このような場合には、レーザ光の照射結果、例えば照射部位において発生した屈折率変化量などの加工結果を観察し、その観察結果を参照してフィードバックによって強度Is−desを変えて、CGHの設計を行っても良い。
【0133】
また、レーザ光の集光照射によって、その集光点において照射対象物15の加工を行う場合、上記ではガラスの内部加工による光集積回路の作製を例示したが、レーザ加工を行う場合の加工対象物15の材質については、ガラス媒体に限らず、例えばシリコン内部やSiCなど様々な材質を加工対象とすることが可能である。
【0134】
また、上記実施形態では、主に照射対象物15に対するレーザ光の集光照射による対象物15の内部のレーザ加工を想定して説明しているが、上記した光変調制御装置、及び変調パターンの設計方法を用いたレーザ光照射装置は、レーザ加工装置以外にも、例えば細胞観察用のレーザスキャニング顕微鏡等のレーザ顕微鏡など、様々な装置に適用することが可能である。
【0135】
図11は、本発明による光変調制御装置を含むレーザ光照射装置の他の実施形態の構成を示す図である。本実施形態によるレーザ光照射装置1Bは、レーザ光源10、可動ステージ18、空間光変調器20、駆動装置28、及び光変調制御装置30を含む図1に示した構成と同様の構成を有しているが、それらに加えて、検出部40と、レンズ41と、ダイクロイックミラー42とをさらに備えている。
【0136】
ダイクロイックミラー42は、レーザ光照射光学系において、4f光学系を構成しているレンズ22と、対物レンズ25との間に設けられている。また、ダイクロイックミラー42で反射された照射対象物15からの光は、レンズ41を介して検出部40に入射する構成となっている。
【0137】
これにより、図11のレーザ光照射装置1Bは、照射対象物である観察試料15にレーザ光を照射し、検出部40によって試料15からの反射光、散乱光、あるいは蛍光等の観察を行うレーザスキャニング顕微鏡として構成されている。なお、試料15に対するレーザスキャンについては、図11では可動ステージ18によって試料15を移動させる構成としているが、光学系側に可動機構、ガルバノミラー等を設ける構成としても良い。
【0138】
図12は、図11に示したレーザ光照射装置1Bにおける照射対象物(観察試料)15へのレーザ光の集光照射の一例について示す図である。例えば、細胞を試料15とする細胞観察等においては、図12に示すように、観察位置によって細胞の形状が異なることも考えられる。このような場合には、それぞれの形状に応じた収差条件の位相φOPDを求める必要がある。
【0139】
また、レーザスキャニング顕微鏡においては、レーザ光の収束過程だけでなく、観察時には発散過程でも屈折率ミスマッチングが発生する。この場合、発散過程を考慮して収差条件φOPDを導出してCGHの設計を行い、さらに別のSLMを用いて反射光、散乱光、蛍光等の補正を行うことも考えられる。これにより、例えばコンフォーカル顕微鏡などにおいて、試料観察の精度の向上が期待できる。
【0140】
また、上記実施形態では、単一波長のレーザ光の位相変調についての実施形態を説明しているが、SLMに波長の異なる複数の光源からの複数のレーザ光成分を入射させ、SLMに波長の異なる複数の光成分を変調させる変調パターンを表示して、それぞれの位相を変調させてもよい。波長の異なる複数の光成分を同時に変調する変調パターンの設計方法については、例えば非特許文献8に記載がある。
【0141】
上記実施形態の構成を用いて、複数波長の制御をする場合について具体的に説明する。集光条件情報を取得する際に、点sの集光位置と集光させる波長の情報とを取得する。そして、点sごとに収差条件φOPDを求め、波長と位置によって異なる伝搬関数φjsを、φjs’に変換して用いればよい。
【0142】
本発明による光変調制御方法、制御プログラム、制御装置、及びレーザ光照射装置は、上記実施形態及び構成例に限られるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、レーザ光源、及び空間光変調器を含む光学系の構成については、図1、図11に示した構成例に限らず、具体的には様々な構成を用いて良い。
【0143】
また、空間光変調器に呈示する変調パターン(CGH)の設計についても、具体的には上記した例以外にも様々な方法を用いて良い。一般には、変調パターンの設計において、変調パターンの1画素での位相値の変更が集光点におけるレーザ光の集光状態に与える影響に着目して、その集光状態が所望の状態に近づくように位相値を変更し、そのような位相値の変更操作を変調パターンの全ての画素について行うことで変調パターンを設計するとともに、集光点での集光状態を評価する際に、空間光変調器の変調パターンでの画素jから集光点sへの光の伝搬について、自由伝搬の波動伝搬関数φjsに収差条件を加えて変換した伝搬関数φjs’を用いていれば良い。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明は、集光点におけるレーザ光の集光状態を好適に制御することが可能な光変調制御方法、制御プログラム、制御装置、及びレーザ光照射装置として利用可能である。
【符号の説明】
【0145】
1A、1B…レーザ光照射装置、10…レーザ光源、11…ビームエキスパンダ、12…反射ミラー、13…反射ミラー、15…照射対象物、18…可動ステージ、20…空間光変調器、21…4f光学系レンズ、22…4f光学系レンズ、25…対物レンズ、28…光変調器駆動装置、40…検出部、41…レンズ、42…ダイクロイックミラー、
30…光変調制御装置、31…照射条件取得部、32…集光条件設定部、33…収差条件導出部、34…変調パターン設計部、35…光変調器駆動制御部、37…入力装置、38…表示装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を入力し、前記レーザ光の位相を変調して、位相変調後のレーザ光を出力する位相変調型の空間光変調器を用い、前記空間光変調器に呈示する変調パターンによって、設定された集光点への前記レーザ光の集光照射を制御する光変調制御方法であって、
前記レーザ光の照射条件として、前記空間光変調器への前記レーザ光の入射パターン、前記空間光変調器から前記集光点への前記レーザ光の伝搬経路上にある第1伝搬媒質の第1屈折率n、及び前記第1伝搬媒質よりも前記集光点側にある第2伝搬媒質の前記第1屈折率とは異なる第2屈折率nを取得する照射条件取得ステップと、
前記レーザ光の集光条件として、前記空間光変調器からの前記レーザ光を集光照射する前記集光点の個数s(sは1以上の整数)、及びs個の集光点sのそれぞれについての集光位置、集光強度を設定する集光条件設定ステップと、
前記空間光変調器から前記集光点sへの前記レーザ光の伝搬において、互いに屈折率が異なる前記第1伝搬媒質、及び前記第2伝搬媒質によって生じる収差条件を導出する収差条件導出ステップと、
前記収差条件導出ステップで導出された前記収差条件を考慮して、前記空間光変調器に呈示する前記変調パターンを設計する変調パターン設計ステップと
を備え、
前記変調パターン設計ステップは、前記空間光変調器において2次元配列された複数の画素を想定し、前記複数の画素に呈示する前記変調パターンの1画素での位相値の変更が前記集光点における前記レーザ光の集光状態に与える影響に着目して、その集光状態が所望の状態に近づくように前記位相値を変更し、そのような位相値の変更操作を前記変調パターンの全ての画素について行うことで前記変調パターンを設計するとともに、
前記集光点での前記集光状態を評価する際に、前記空間光変調器の前記変調パターンにおける画素jから前記集光点sへの光の伝搬について、伝搬媒質が均質な状態の自由伝搬の波動伝搬関数φjsに前記収差条件を加えて変換した伝搬関数φjs’を用いることを特徴とする光変調制御方法。
【請求項2】
前記収差条件導出ステップは、前記画素jから前記集光点sへの光の伝搬についての前記収差条件として、その伝搬での光路長差を与える位相Φj−OPDを求め、
前記変調パターン設計ステップは、変換式
φjs’=φjs+Φj−OPD
によって、前記収差条件が考慮された前記伝搬関数φjs’を求めることを特徴とする請求項1記載の光変調制御方法。
【請求項3】
前記変調パターン設計ステップは、前記空間光変調器の前記画素jへの前記レーザ光の入射振幅をAj−in、位相をφj−in、前記画素jでの位相値をφとして、下記式
=Aexp(iφ
=Σj−inexp(iφjs’)exp(i(φ+φj−in))
によって、前記集光点sにおける前記集光状態を示す複素振幅Uを求めることを特徴とする請求項1または2記載の光変調制御方法。
【請求項4】
前記変調パターン設計ステップは、前記変調パターンの前記画素jでの前記位相値の変更において、前記集光点sにおける前記集光状態を示す複素振幅の位相φ、前記収差条件が考慮された前記伝搬関数φjs’、及び前記画素jでの変更前の位相値φに基づいて解析的に求められた値によって、前記位相値を変更することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の光変調制御方法。
【請求項5】
前記変調パターン設計ステップは、前記変調パターンの前記画素jでの前記位相値の変更において、山登り法、焼きなまし法、または遺伝的アルゴリズムのいずれかの方法を用いて探索で求められた値によって、前記位相値を変更することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の光変調制御方法。
【請求項6】
前記第2伝搬媒質は、前記集光点が内部に設定される照射対象物であり、前記第1伝搬媒質は、前記空間光変調器と前記照射対象物との間にある雰囲気媒質であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の光変調制御方法。
【請求項7】
レーザ光を入力し、前記レーザ光の位相を変調して、位相変調後のレーザ光を出力する位相変調型の空間光変調器を用い、前記空間光変調器に呈示する変調パターンによって、設定された集光点への前記レーザ光の集光照射を制御する光変調制御をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記レーザ光の照射条件として、前記空間光変調器への前記レーザ光の入射パターン、前記空間光変調器から前記集光点への前記レーザ光の伝搬経路上にある第1伝搬媒質の第1屈折率n、及び前記第1伝搬媒質よりも前記集光点側にある第2伝搬媒質の前記第1屈折率とは異なる第2屈折率nを取得する照射条件取得処理と、
前記レーザ光の集光条件として、前記空間光変調器からの前記レーザ光を集光照射する前記集光点の個数s(sは1以上の整数)、及びs個の集光点sのそれぞれについての集光位置、集光強度を設定する集光条件設定処理と、
前記空間光変調器から前記集光点sへの前記レーザ光の伝搬において、互いに屈折率が異なる前記第1伝搬媒質、及び前記第2伝搬媒質によって生じる収差条件を導出する収差条件導出処理と、
前記収差条件導出処理で導出された前記収差条件を考慮して、前記空間光変調器に呈示する前記変調パターンを設計する変調パターン設計処理と
をコンピュータに実行させ、
前記変調パターン設計処理は、前記空間光変調器において2次元配列された複数の画素を想定し、前記複数の画素に呈示する前記変調パターンの1画素での位相値の変更が前記集光点における前記レーザ光の集光状態に与える影響に着目して、その集光状態が所望の状態に近づくように前記位相値を変更し、そのような位相値の変更操作を前記変調パターンの全ての画素について行うことで前記変調パターンを設計するとともに、
前記集光点での前記集光状態を評価する際に、前記空間光変調器の前記変調パターンにおける画素jから前記集光点sへの光の伝搬について、伝搬媒質が均質な状態の自由伝搬の波動伝搬関数φjsに前記収差条件を加えて変換した伝搬関数φjs’を用いることを特徴とする光変調制御プログラム。
【請求項8】
前記収差条件導出処理は、前記画素jから前記集光点sへの光の伝搬についての前記収差条件として、その伝搬での光路長差を与える位相Φj−OPDを求め、
前記変調パターン設計処理は、変換式
φjs’=φjs+Φj−OPD
によって、前記収差条件が考慮された前記伝搬関数φjs’を求めることを特徴とする請求項7記載の光変調制御プログラム。
【請求項9】
前記変調パターン設計処理は、前記空間光変調器の前記画素jへの前記レーザ光の入射振幅をAj−in、位相をφj−in、前記画素jでの位相値をφとして、下記式
=Aexp(iφ
=Σj−inexp(iφjs’)exp(i(φ+φj−in))
によって、前記集光点sにおける前記集光状態を示す複素振幅Uを求めることを特徴とする請求項7または8記載の光変調制御プログラム。
【請求項10】
前記変調パターン設計処理は、前記変調パターンの前記画素jでの前記位相値の変更において、前記集光点sにおける前記集光状態を示す複素振幅の位相φ、前記収差条件が考慮された前記伝搬関数φjs’、及び前記画素jでの変更前の位相値φに基づいて解析的に求められた値によって、前記位相値を変更することを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項記載の光変調制御プログラム。
【請求項11】
前記変調パターン設計処理は、前記変調パターンの前記画素jでの前記位相値の変更において、山登り法、焼きなまし法、または遺伝的アルゴリズムのいずれかの方法を用いて探索で求められた値によって、前記位相値を変更することを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項記載の光変調制御プログラム。
【請求項12】
前記第2伝搬媒質は、前記集光点が内部に設定される照射対象物であり、前記第1伝搬媒質は、前記空間光変調器と前記照射対象物との間にある雰囲気媒質であることを特徴とする請求項7〜11のいずれか一項記載の光変調制御プログラム。
【請求項13】
レーザ光を入力し、前記レーザ光の位相を変調して、位相変調後のレーザ光を出力する位相変調型の空間光変調器を用い、前記空間光変調器に呈示する変調パターンによって、設定された集光点への前記レーザ光の集光照射を制御する光変調制御装置であって、
前記レーザ光の照射条件として、前記空間光変調器への前記レーザ光の入射パターン、前記空間光変調器から前記集光点への前記レーザ光の伝搬経路上にある第1伝搬媒質の第1屈折率n、及び前記第1伝搬媒質よりも前記集光点側にある第2伝搬媒質の前記第1屈折率とは異なる第2屈折率nを取得する照射条件取得手段と、
前記レーザ光の集光条件として、前記空間光変調器からの前記レーザ光を集光照射する前記集光点の個数s(sは1以上の整数)、及びs個の集光点sのそれぞれについての集光位置、集光強度を設定する集光条件設定手段と、
前記空間光変調器から前記集光点sへの前記レーザ光の伝搬において、互いに屈折率が異なる前記第1伝搬媒質、及び前記第2伝搬媒質によって生じる収差条件を導出する収差条件導出手段と、
前記収差条件導出手段で導出された前記収差条件を考慮して、前記空間光変調器に呈示する前記変調パターンを設計する変調パターン設計手段と
を備え、
前記変調パターン設計手段は、前記空間光変調器において2次元配列された複数の画素を想定し、前記複数の画素に呈示する前記変調パターンの1画素での位相値の変更が前記集光点における前記レーザ光の集光状態に与える影響に着目して、その集光状態が所望の状態に近づくように前記位相値を変更し、そのような位相値の変更操作を前記変調パターンの全ての画素について行うことで前記変調パターンを設計するとともに、
前記集光点での前記集光状態を評価する際に、前記空間光変調器の前記変調パターンにおける画素jから前記集光点sへの光の伝搬について、伝搬媒質が均質な状態の自由伝搬の波動伝搬関数φjsに前記収差条件を加えて変換した伝搬関数φjs’を用いることを特徴とする光変調制御装置。
【請求項14】
前記収差条件導出手段は、前記画素jから前記集光点sへの光の伝搬についての前記収差条件として、その伝搬での光路長差を与える位相Φj−OPDを求め、
前記変調パターン設計手段は、変換式
φjs’=φjs+Φj−OPD
によって、前記収差条件が考慮された前記伝搬関数φjs’を求めることを特徴とする請求項13記載の光変調制御装置。
【請求項15】
前記変調パターン設計手段は、前記空間光変調器の前記画素jへの前記レーザ光の入射振幅をAj−in、位相をφj−in、前記画素jでの位相値をφとして、下記式
=Aexp(iφ
=Σj−inexp(iφjs’)exp(i(φ+φj−in))
によって、前記集光点sにおける前記集光状態を示す複素振幅Uを求めることを特徴とする請求項13または14記載の光変調制御装置。
【請求項16】
前記変調パターン設計手段は、前記変調パターンの前記画素jでの前記位相値の変更において、前記集光点sにおける前記集光状態を示す複素振幅の位相φ、前記収差条件が考慮された前記伝搬関数φjs’、及び前記画素jでの変更前の位相値φに基づいて解析的に求められた値によって、前記位相値を変更することを特徴とする請求項13〜15のいずれか一項記載の光変調制御装置。
【請求項17】
前記変調パターン設計手段は、前記変調パターンの前記画素jでの前記位相値の変更において、山登り法、焼きなまし法、または遺伝的アルゴリズムのいずれかの方法を用いて探索で求められた値によって、前記位相値を変更することを特徴とする請求項13〜15のいずれか一項記載の光変調制御装置。
【請求項18】
前記第2伝搬媒質は、前記集光点が内部に設定される照射対象物であり、前記第1伝搬媒質は、前記空間光変調器と前記照射対象物との間にある雰囲気媒質であることを特徴とする請求項13〜17のいずれか一項記載の光変調制御装置。
【請求項19】
前記空間光変調器を駆動制御して、前記変調パターン設計手段によって設計された前記変調パターンを前記空間光変調器に呈示する光変調器駆動制御手段を備えることを特徴とする請求項13〜18のいずれか一項記載の光変調制御装置。
【請求項20】
レーザ光を供給するレーザ光源と、
前記レーザ光を入力し、前記レーザ光の位相を変調して、位相変調後のレーザ光を出力する位相変調型の空間光変調器と、
前記空間光変調器に呈示する変調パターンによって、設定された集光点への前記レーザ光の集光照射を制御する請求項13〜19のいずれか一項記載の光変調制御装置と
を備えることを特徴とするレーザ光照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−226268(P2012−226268A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96268(P2011−96268)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】