説明

光変調制御方法、制御プログラム、制御装置、及びレーザ光照射装置

【課題】 レーザ光の集光制御での歪み補正を好適に実現することが可能な光変調制御方法、制御プログラム、制御装置、及びレーザ光照射装置を提供する。
【解決手段】 空間光変調器を用いたレーザ光の集光照射の制御において、レーザ光の波長数、各波長の値、及びレーザ光の入射条件を取得し(ステップS101)、集光点数、及び各集光点での集光位置、波長、集光強度を設定し(S104)、各集光点について、レーザ光に空間光変調器を含む光学系で付与される歪み位相パターンを導出する(S107)。そして、歪み位相パターンを考慮して空間光変調器に呈示する変調パターンを設計する(S108)。また、変調パターンの設計において、1画素での位相値の影響に着目した設計法を用いるとともに、集光点での集光状態を評価する際に、歪み位相パターンを加えた伝搬関数を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間光変調器に呈示する変調パターンによって、集光点へのレーザ光の集光照射を制御する光変調制御方法、制御プログラム、制御装置、及びそれを用いたレーザ光照射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザ光を所定の集光条件で対象物へと照射するレーザ光照射装置は、例えばレーザ加工装置、あるいは、レーザ光の散乱、反射を観察するレーザ顕微鏡などの様々な光学装置として用いられている。また、このようなレーザ光照射装置において、位相変調型の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)を用いて、対象物に対するレーザ光の集光照射条件を設定、制御する構成がある。
【0003】
空間光変調器を用いたレーザ光照射装置では、例えば、数値計算により求められたホログラム(CGH:Computer Generated Hologram)を空間光変調器に呈示することで、照射対象物に対するレーザ光の集光位置、集光強度、集光形状などの集光照射条件を制御することができる(例えば、特許文献1〜5、非特許文献1〜7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−58128号公報
【特許文献2】特開2010−75997号公報
【特許文献3】特許第4300101号公報
【特許文献4】特許第4420672号公報
【特許文献5】特開2005−84266号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. Bengtsson, "Kinoformsdesigned to produce different fan-out patterns for two wavelengths", Appl.Opt. Vol.37 No.11 (1998) pp.2011-2020
【非特許文献2】Y. Ogura et al.,"Wavelength-multiplexing diffractive phase elements: design, fabrication,and performance evaluation", J. Opt. Soc. Am. A Vol.18 No.5 (2001)pp.1082-1092
【非特許文献3】J. Bengtsson, "Kinoformdesign with an optimal-rotation-angle method", Appl. Opt. Vol.33 No.29(1994) pp.6879-6884
【非特許文献4】J. Bengtsson, "Design offan-out kinoforms in the entire scalar diffraction regime with anoptimal-rotation-angle method", Appl. Opt. Vol.36 No.32 (1997) pp.8435-8444
【非特許文献5】N. Yoshikawa et al., "Phaseoptimization of a kinoform by simulated annealing", Appl. Opt. Vol.33 No.5(1994) pp.863-868
【非特許文献6】N. Yoshikawa et al., "Quantizedphase optimization of two-dimensional Fourier kinoforms by a genetic algorithm",Opt. Lett. Vol.20 No.7 (1995) pp.752-754
【非特許文献7】J. Leach et al.,"Observation of chromatic effects near a white-light vortex", NewJournal of Physics Vol.5 (2003) pp.154.1-154.7
【非特許文献8】S. W. Hell et al.,"Breaking the diffraction resolution limit by stimulated emission:stimulated-emission-depletion fluorescence microscopy", Opt. Lett. Vol.19No.11 (1994) pp.780-782
【非特許文献9】D. Wildanger et al., "ASTED microscope aligned by design", Opt. Express Vol.17 No.18 (2009)pp.16100-16110
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように位相変調型の空間光変調器を利用したレーザ光の集光照射では、空間光変調器に呈示する位相パターンにより、任意の集光位置に任意の集光形状でレーザ光を照射することが可能である。さらに、空間光変調器として、呈示する変調用の位相パターンを動的に切り替えることが可能なLCOS(Liquid Crystal on Silicon)−SLMなどのSLMを用いた場合、レーザ光の集光制御の自由度を大きくして、様々な形での集光照射条件の設定、制御が実現可能となる。
【0007】
一方、上記したLCOS−SLMなどの空間光変調器では、空間光変調器を構成する基板の歪みなどによって生じる位相ずれが問題となる場合がある。また、空間光変調器以外のレーザ光導光光学系においても、同様に位相ずれが発生する可能性がある。このような位相ずれが集光制御において問題となる場合、その影響を解消する方法として、SLMに呈示するCGHパターンφCGHに対し、位相ずれを補正する歪み補正パターンφcorを加えた位相パターンφSLM
φSLM=φCGH+φcor
を空間光変調器に呈示する方法が提案されている(特許文献4参照)。このような方法では、光学系で付与される位相ずれ等による歪み位相パターンをφdisとすると、歪み補正パターンφcorは、理想的には歪み位相パターンの逆の位相パターン
φcor=−φdis
となる。
【0008】
しかしながら、このような方法では、レーザ光の集光制御における歪み補正の精度が充分には得られない場合がある。そのような例として、複数の波長の光成分を含むレーザ光に対して単一の空間光変調器で集光制御を行う場合、上記した方法では、各波長のレーザ光成分に対して同一の歪み補正パターンが作用するが、レーザ光に付与される位相ずれは波長によって異なるため、このような方法では、充分な精度で歪み補正を行うことができない。このような集光制御での歪み補正の精度の問題は、複数の波長のレーザ光の集光照射以外の構成においても同様に生じる。
【0009】
本発明は、以上の問題点を解決するためになされたものであり、空間光変調器を用いたレーザ光の集光制御における歪み補正を充分な精度で好適に実現することが可能な光変調制御方法、光変調制御プログラム、光変調制御装置、及びそれを用いたレーザ光照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、本発明による光変調制御方法は、(1)レーザ光を入力し、レーザ光の位相を変調して、位相変調後のレーザ光を出力する位相変調型の空間光変調器を用い、空間光変調器に呈示する変調パターンによって、設定された集光点へのレーザ光の集光照射を制御する光変調制御方法であって、(2)レーザ光の照射条件として、空間光変調器へと入力するレーザ光の波長の個数x(xは1以上の整数)、x個の波長λ(x=1,…,x)、及び空間光変調器への各波長のレーザ光の入射条件を取得する照射条件取得ステップと、(3)レーザ光の集光条件として、空間光変調器からのレーザ光を集光照射する集光点の個数s(sは1以上の整数)、及びs個の集光点s(s=1,…,s)のそれぞれについての集光位置、集光させるレーザ光の波長λ、集光強度を設定する集光条件設定ステップと、(4)s個の集光点sについて、波長λのレーザ光に対して光学系で付与される空間光変調器での歪みによる位相ずれを含む歪み位相パターンを導出する歪みパターン導出ステップと、(5)歪みパターン導出ステップで導出された歪み位相パターンを考慮して、空間光変調器に呈示する変調パターンを設計する変調パターン設計ステップとを備え、(6)変調パターン設計ステップは、空間光変調器において2次元配列された複数の画素を想定し、複数の画素に呈示する変調パターンの1画素での位相値の変更が集光点におけるレーザ光の集光状態に与える影響に着目して、その集光状態が所望の状態に近づくように位相値を変更し、そのような位相値の変更操作を変調パターンの全ての画素について行うことで変調パターンを設計するとともに、集光点での集光状態を評価する際に、空間光変調器における画素jから集光点sへの波長λの光の伝搬について、歪みパターン導出ステップで導出された歪み位相パターンφjs−dis,xを波動伝搬関数φjs,xに加えた伝搬関数φjs,x
φjs,x’=φjs,x+φjs−dis,x
を用いることを特徴とする。
【0011】
また、本発明による光変調制御プログラムは、(1)レーザ光を入力し、レーザ光の位相を変調して、位相変調後のレーザ光を出力する位相変調型の空間光変調器を用い、空間光変調器に呈示する変調パターンによって、設定された集光点へのレーザ光の集光照射を制御する光変調制御をコンピュータに実行させるための制御プログラムであって、(2)レーザ光の照射条件として、空間光変調器へと入力するレーザ光の波長の個数x(xは1以上の整数)、x個の波長λ(x=1,…,x)、及び空間光変調器への各波長λのレーザ光の入射条件を取得する照射条件取得処理と、(3)レーザ光の集光条件として、空間光変調器からのレーザ光を集光照射する集光点の個数s(sは1以上の整数)、及びs個の集光点s(s=1,…,s)のそれぞれについての集光位置、集光させるレーザ光の波長λ、集光強度を設定する集光条件設定処理と、(4)s個の集光点sについて、波長λのレーザ光に対して光学系で付与される空間光変調器での歪みによる位相ずれを含む歪み位相パターンを導出する歪みパターン導出処理と、(5)歪みパターン導出処理で導出された歪み位相パターンを考慮して、空間光変調器に呈示する変調パターンを設計する変調パターン設計処理とをコンピュータに実行させ、(6)変調パターン設計処理は、空間光変調器において2次元配列された複数の画素を想定し、複数の画素に呈示する変調パターンの1画素での位相値の変更が集光点におけるレーザ光の集光状態に与える影響に着目して、その集光状態が所望の状態に近づくように位相値を変更し、そのような位相値の変更操作を変調パターンの全ての画素について行うことで変調パターンを設計するとともに、集光点での集光状態を評価する際に、空間光変調器の変調パターンにおける画素jから集光点sへの波長λの光の伝搬について、歪みパターン導出処理で導出された歪み位相パターンφjs−dis,xを波動伝搬関数φjs,xに加えた伝搬関数φjs,x
φjs,x’=φjs,x+φjs−dis,x
を用いることを特徴とする。
【0012】
また、本発明による光変調制御装置は、(1)レーザ光を入力し、レーザ光の位相を変調して、位相変調後のレーザ光を出力する位相変調型の空間光変調器を用い、空間光変調器に呈示する変調パターンによって、設定された集光点へのレーザ光の集光照射を制御する光変調制御装置であって、(2)レーザ光の照射条件として、空間光変調器へと入力するレーザ光の波長の個数x(xは1以上の整数)、x個の波長λ(x=1,…,x)、及び空間光変調器への各波長λのレーザ光の入射条件を取得する照射条件取得手段と、(3)レーザ光の集光条件として、空間光変調器からのレーザ光を集光照射する集光点の個数s(sは1以上の整数)、及びs個の集光点s(s=1,…,s)のそれぞれについての集光位置、集光させるレーザ光の波長λ、集光強度を設定する集光条件設定手段と、(4)s個の集光点sについて、波長λのレーザ光に対して光学系で付与される空間光変調器での歪みによる位相ずれを含む歪み位相パターンを導出する歪みパターン導出手段と、(5)歪みパターン導出手段で導出された歪み位相パターンを考慮して、空間光変調器に呈示する変調パターンを設計する変調パターン設計手段とを備え、(6)変調パターン設計手段は、空間光変調器において2次元配列された複数の画素を想定し、複数の画素に呈示する変調パターンの1画素での位相値の変更が集光点におけるレーザ光の集光状態に与える影響に着目して、その集光状態が所望の状態に近づくように位相値を変更し、そのような位相値の変更操作を変調パターンの全ての画素について行うことで変調パターンを設計するとともに、集光点での集光状態を評価する際に、空間光変調器の変調パターンにおける画素jから集光点sへの波長λの光の伝搬について、歪みパターン導出手段で導出された歪み位相パターンφjs−dis,xを波動伝搬関数φjs,xに加えた伝搬関数φjs,x
φjs,x’=φjs,x+φjs−dis,x
を用いることを特徴とする。
【0013】
上記した光変調制御方法、制御プログラム、及び制御装置においては、空間光変調器を用いた集光点へのレーザ光の集光照射について、レーザ光の波長数x、波長λの値、及び各波長λのレーザ光の空間光変調器への入射条件(例えば入射振幅、入射位相)の情報を取得するとともに、レーザ光の集光点数s、及び各集光点sでの集光位置、集光させるレーザ光の波長λ、集光強度を含む集光条件を設定する。そして、各集光点sについて、波長λのレーザ光に対して光学系で付与される歪み位相パターン、具体的には空間光変調器での歪みによる位相ずれを少なくとも含む歪み位相パターンを導出し、その歪み位相パターンを考慮して変調パターンを設計する。これにより、各集光点sに集光される波長λのレーザ光に対する歪み補正を好適に実行することができる。
【0014】
さらに、変調パターンの設計について、具体的に、空間光変調器において複数の画素による画素構造を想定する。そして、変調パターンの1画素での位相値の変更が集光点sにおけるレーザ光の集光状態に与える影響に着目した設計方法を用いるとともに、波長λのレーザ光の集光状態の評価において、空間光変調器の画素jから集光点sへの伝搬関数φjs,xをそのまま用いるのではなく、導出された歪み位相パターンφjs−dis,xを加えた伝搬関数φjs,x’を用いて集光状態を評価している。
【0015】
このような構成によれば、波長λのレーザ光の集光点sへの集光制御について、空間光変調器を含む光学系で付与される歪み位相パターンの影響を解消する歪み補正用の位相パターンが、最終的に得られる変調パターンに確実に組み込まれることとなり、したがって、空間光変調器を用いたレーザ光の集光制御における歪み補正を充分な精度で好適に実現することが可能となる。
【0016】
なお、空間光変調器として、2次元配列された複数の画素を有し、複数の画素それぞれにおいてレーザ光の位相を変調する空間光変調器を用いる場合には、その画素構造をそのまま変調パターンの設計に適用することができる。また、歪み位相パターンについては、レーザ光を集光照射する集光点sによらず波長λのみに依存して決まる場合には、各波長λについて導出すれば良い。
【0017】
ここで、上記した光変調制御方法、制御プログラム、及び制御装置では、照射条件の取得において、レーザ光の波長の個数xを複数個として設定する構成を用いることができる。上記したように、光学系で付与される歪み位相パターンを加えた伝搬関数を用いて変調パターンを設計する方法は、このように複数の波長成分を含むレーザ光の集光照射条件の制御において、特に有効である。
【0018】
また、上記のように複数の波長成分を含むレーザ光の集光照射を行う場合、光変調制御方法、制御プログラム、及び制御装置は、変調パターンの設計において、空間光変調器における屈折率の波長分散を考慮して変調パターンを設計する構成を用いることができる。これにより、各集光点sにおける波長λのレーザ光の集光照射条件を、互いに異なる各波長λについて、より精度良く制御することができる。
【0019】
また、上記構成において、レーザ光の集光制御に用いられる空間光変調器については、呈示する変調パターンを動的に切り替えることが可能に構成された空間光変調器を用いることができる。このような空間光変調器は、通常、変調パターンを静的に呈示するような変調器に比べて、構造上、歪みによる位相ずれ等の影響が大きく、したがって、上記した方法による歪み補正が特に有効である。
【0020】
また、光変調制御方法、制御プログラム、及び制御装置は、変調パターンの設計において、空間光変調器の画素jへの波長λのレーザ光の入射振幅をAj−in,x、位相をφj−in,x、画素jでの波長λのレーザ光に対する位相値をφj,xとして、下記式
s,x=As,xexp(iφs,x
=Σj−in,xexp(iφjs,x’)
×exp(i(φj,x+φj−in,x))
によって、集光点sにおける波長λのレーザ光の集光状態を示す複素振幅を求める構成を用いることができる。これにより、集光点sにおけるレーザ光の集光状態を好適に評価することができる。
【0021】
変調パターンの設計における具体的な構成については、変調パターンの画素jでの位相値の変更において、集光点sにおける波長λのレーザ光の集光状態を示す複素振幅の位相φs,x、伝搬関数φjs,x’、画素jでの変更前の位相値φj,x、及びレーザ光の入射位相φj−in,xに基づいて解析的に求められた値によって、位相値を変更する構成を用いることができる。このように解析的に位相値を更新する設計方法としては、例えばORA(Optimal Rotation Angle)法がある。
【0022】
あるいは、変調パターンの設計について、変調パターンの画素jでの位相値の変更において、山登り法、焼きなまし法、または遺伝的アルゴリズムのいずれかの方法を用いて探索で求められた値によって、位相値を変更する構成を用いても良い。
【0023】
また、光変調制御装置は、空間光変調器を駆動制御して、変調パターン設計手段によって設計された変調パターンを空間光変調器に呈示する光変調器駆動制御手段を備える構成としても良い。また、このような光変調器駆動制御手段については、変調パターンの設計を行う光変調制御装置とは別装置として設けられる構成としても良い。
【0024】
本発明によるレーザ光照射装置は、(a)x個(xは1以上の整数)の波長λのレーザ光を供給するレーザ光源と、(b)レーザ光を入力し、レーザ光の位相を変調して、位相変調後のレーザ光を出力する位相変調型の空間光変調器と、(c)空間光変調器に呈示する変調パターンによって、設定されたs個(sは1以上の整数)の集光点sへの各波長λのレーザ光の集光照射を制御する上記構成の光変調制御装置とを備えることを特徴とする。
【0025】
このような構成によれば、光変調制御装置によって、空間光変調器を含む光学系で付与される歪み位相パターンの影響を解消する歪み補正パターンを最終的に得られる変調パターンに確実に組み込むことで、レーザ光の集光制御における歪み補正を充分な精度で好適に実現して、照射対象物で設定された集光点sに対するレーザ光の集光照射、及びそれによる対象物の加工、観察等の操作を好適に実現することが可能となる。このようなレーザ光照射装置は、例えばレーザ加工装置、レーザ顕微鏡などとして用いることができる。なお、空間光変調器としては、2次元配列された複数の画素を有し、複数の画素それぞれにおいてレーザ光の位相を変調する構成の空間光変調器を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の光変調制御方法、制御プログラム、制御装置、及びそれを用いたレーザ光照射装置によれば、空間光変調器を用いた集光点へのレーザ光の集光照射について、レーザ光の波長数、波長の値、及び各波長のレーザ光の空間光変調器への入射条件を取得し、レーザ光の集光点数、及び各集光点での集光位置、集光させるレーザ光の波長、集光強度を設定し、各集光点について、集光させる波長のレーザ光に対して空間光変調器を含む光学系で付与される歪み位相パターンを導出し、その歪み位相パターンを考慮して変調パターンを設計するとともに、変調パターンの設計において、変調パターンの1画素での位相値の変更が集光点でのレーザ光の集光状態に与える影響に着目した設計方法を用い、レーザ光の集光状態の評価において、歪み位相パターンを加えた伝搬関数を用いることにより、レーザ光の集光制御での歪み補正を充分な精度で好適に実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】レーザ光照射装置の一実施形態の構成を示す図である。
【図2】光変調制御装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図3】光変調制御方法の一例を示すフローチャートである。
【図4】変調パターンの設計方法の一例を示すフローチャートである。
【図5】確認実験に用いたレーザ光照射装置の構成を示す図である。
【図6】レーザ光照射装置によるレーザ光の集光制御の一例を示す図である。
【図7】変調パターンの設計方法の他の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面とともに本発明による光変調制御方法、制御プログラム、制御装置、及びレーザ光照射装置の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0029】
まず、光変調制御の対象となる、空間光変調器を含むレーザ光照射装置の基本的な構成について、その構成例とともに説明する。図1は、光変調制御装置を含むレーザ光照射装置の一実施形態の構成を示す図である。本実施形態によるレーザ光照射装置1Aは、照射対象物42に対してレーザ光を集光照射する装置であって、レーザ光源ユニット10と、空間光変調器20と、可動ステージ40とを備えている。
【0030】
図1に示す構成において、照射対象物42は、X方向、Y方向(水平方向)、及びZ方向(垂直方向)に移動可能に構成された可動ステージ40上に載置されている。また、本装置1Aでは、この照射対象物42に対して観察、加工等を行うための集光点が所定位置に設定され、その集光点に対してレーザ光の集光照射が行われる。
【0031】
レーザ光源ユニット10は、x個(xは1以上の整数)の波長λのレーザ光(λ=λ,…,λxt)を供給するレーザ光源として機能している。本実施形態では、レーザ光の波長の個数はx=2に設定されている。また、この波長数に対応して、レーザ光源ユニット10は、波長λのレーザ光を供給する第1レーザ光源11と、波長λのレーザ光を供給する第2レーザ光源12とによって構成されている。
【0032】
レーザ光源11からの波長λのレーザ光は、ビームエキスパンダ13によって広げられた後、ダイクロイックミラー15を透過する。また、レーザ光源12からの波長λのレーザ光は、ビームエキスパンダ14によって広げられ、ミラー16によって反射された後、ダイクロイックミラー15によって反射される。これにより、ダイクロイックミラー15においてレーザ光源11、12からの光ビームが合波されて、波長λ、λの波長成分を含むレーザ光となる。ダイクロイックミラー15からのレーザ光は、プリズム18の第1反射面18aを介して、空間光変調器(SLM)20へと入力される。
【0033】
空間光変調器20は、位相変調型の空間光変調器であり、例えばその2次元の変調面の各部においてレーザ光の位相を変調して、位相変調後のレーザ光を出力する。ここで、空間光変調器20に入力されるレーザ光の位相をφin、空間光変調器20において付与される位相値をφSLMとすると、出力されるレーザ光の位相φoutは、
φout=φSLM+φin
となる。
【0034】
この空間光変調器20としては、好ましくは、2次元配列された複数の画素を有し、複数の画素それぞれにおいてレーザ光の位相を変調する空間光変調器が用いられる。このような構成において、空間光変調器20には例えばCGHなどの変調パターンが呈示され、この変調パターンによって、設定された集光点へのレーザ光の集光照射が制御される。また、空間光変調器20は、光変調器駆動装置28を介して、光変調制御装置30によって駆動制御されている。光変調制御装置30の具体的な構成等については後述する。また、空間光変調器20としては、上記した画素構造を有していないものを用いても良い。
【0035】
この空間光変調器20は、反射型のものであってもよいし、透過型のものであってもよい。図1では、空間光変調器20として反射型のものが示されている。また、空間光変調器20としては、屈折率変化材料型SLM(例えば液晶を用いたものでは、LCOS(Liquid Crystal on Silicon)型、LCD(LiquidCrystal Display))、Segment Mirror型SLM、Continuous Deformable Mirror型SLMなどが挙げられる。これらのSLMは、呈示する変調パターンを動的に切り替えることが可能な構成を有している。また、変調パターンを静的に呈示する空間光変調器20としては、DOE(Diffractive Optical Element)などが挙げられる。なお、DOEには、離散的に位相を表現したもの、あるいは後述する方法を用いてパターンを設計し、スムージングなどにより連続的なパターンに変換したものが含まれる。
【0036】
変調パターンとして設計されたCGHは、空間光変調器20の構成に応じて、例えば、電子ビーム露光とエッチングとを用いてDOEにて表現する、あるいは、位相パターンを電圧分布に変えて画素構造を有するSLMに表示することが行われる。なお、複数波長のレーザ光を1つのSLMで変調する場合には、従来例では、固定パターンとして利用できるDOEが主に用いられている。
【0037】
空間光変調器20で所定のパターンに位相変調されて出力された波長λ、λの波長成分を含むレーザ光は、プリズム18の第2反射面18bで反射され、ミラー21、及びレンズ22、23から構成される4f光学系によって、単一のレンズまたは複数のレンズからなる対物レンズ25へと伝搬される。そして、この対物レンズ25によって、ステージ40上の照射対象物42の表面または内部に設定された単一または複数の集光点にレーザ光が集光照射される。
【0038】
また、本実施形態のレーザ光照射装置1Aは、上記構成に加えて、検出部45と、レンズ46と、ダイクロイックミラー47とをさらに備えている。ダイクロイックミラー47は、レーザ光照射光学系において、4f光学系を構成しているレンズ23と、対物レンズ25との間に設けられている。また、ダイクロイックミラー47で反射された照射対象物42からの光は、レンズ46を介して検出部45に入射する構成となっている。
【0039】
これにより、図1のレーザ光照射装置1Aは、照射対象物42である観察試料にレーザ光を照射し、検出部45によって試料からの反射光、散乱光、あるいは蛍光等の観察を行うレーザスキャニング顕微鏡として構成されている。なお、試料に対するレーザスキャンについては、図1では可動ステージ40によって照射対象物42を移動させる構成としているが、例えばこのステージを固定とし、光学系側に可動機構、ガルバノミラー等を設ける構成としても良い。また、レーザ光源11、12としては、例えばフェムト秒レーザ光源など、パルスレーザ光を供給するパルスレーザ光源を用いることが好ましい。また、レーザ光源11、12として、CW(Continuous Wave)レーザ光源を用いても良い。
【0040】
また、レーザ光照射装置1Aにおける光学系の構成については、具体的には図1に示した構成に限らず、様々な構成を用いることが可能である。例えば、図1では、ビームエキスパンダ13、14によってレーザ光を広げる構成としているが、スペイシャルフィルタとコリメートレンズとの組合せを用いる構成としても良い。また、駆動装置28については、空間光変調器20と一体に設けられる構成としても良い。また、レンズ22、23による4f光学系については、一般には、複数のレンズで構成された両側テレセントリック光学系を用いることが好ましい。
【0041】
また、レーザ光の供給に用いられるレーザ光源ユニット10については、それぞれ波長λ、λのレーザ光を出力するレーザ光源11、12による構成を例示しているが、レーザ光源の構成については、具体的には様々な構成を用いて良い。例えば、レーザ光の波長数xについては、3以上に設定しても良い。また、レーザ光を単一波長(x=1)として、単一のレーザ光源を用いても良い。
【0042】
また、上記実施形態では、細胞観察等に用いられるレーザスキャニング顕微鏡の構成を例示しているが、本レーザ光照射装置は、レーザスキャニング顕微鏡などのレーザ顕微鏡以外にも、例えば、照射対象物42に対するレーザ光の集光照射によって対象物42の内部のレーザ加工を行うレーザ加工装置など、様々な装置に適用することが可能である。また、レーザ光の集光照射によって対象物42の加工を行う場合、その例としては、ガラスの内部加工による光集積回路の作製等があるが、対象物42の材質については、ガラス媒体に限らず、例えばシリコン内部やSiCなど様々な材質を加工対象とすることが可能である。上記構成では、単一波長でのレーザ加工、あるいは複数波長同時でのレーザ加工等が実現可能である。
【0043】
図1に示すように空間光変調器20を用いたレーザ光照射装置1Aでは、空間光変調器20を構成する基板の歪みなどに起因して、対象物42に集光照射されるレーザ光において、所望の位相パターンからの位相ずれ(収差)が生じる場合がある。このような位相ずれの影響は、特に、空間光変調器20において呈示する変調パターンを動的に切り替えることが可能な構成を用いた場合に大きくなる傾向がある。
【0044】
このような位相ずれの影響について、空間光変調器20としてLCOS−SLMを用いた場合を例として説明する。LCOS−SLMは、シリコン基板と、ITOが蒸着されたガラス基板との間に液晶が封入された構造を有する。シリコン基板は画素構造を有し、画素に電圧を印加すると、画素上にある液晶が電圧に応じて回転する。このような構成において、画素に印加する電圧vを場所毎に変えると、以下の式(1)
【数1】


に示すような位相分布φSLMを与えることができる。ここで、(x,y)は画素jの位置、λは波長、nLCは液晶の屈折率、dは液晶層の厚みである。
【0045】
LCOS−SLMにおいて、シリコン基板は、光を反射させるミラーの役割を兼ねている。また、このシリコン基板は、基板自体が例えば約600μmと薄いため、製造時に最大で数μm程度、歪む場合がある。このように基板が歪んだ場合、例えばSLMの全画素に一定電圧vを印加し、屈折率nLCを全画素にわたって一定にしたとしても、液晶層の厚みdが歪みの影響で位置によって異なるために、以下の式(2)
【数2】


に示すような歪みによる位相分布(位相パターン)が発生する。このような歪み位相パターンがあると、集光制御の対象となるレーザ光に対し、SLMによって所望の位相パターンを付与することができない。また、このような歪み位相パターンは、レーザ光導光光学系において、SLM以外の光学系部分でも同様にレーザ光に付与される場合がある。
【0046】
このような歪み位相パターンφSLM−disの影響を打ち消す方法として、SLMに呈示する所望の位相パターンφCGHに対して、歪み補正パターンφSLM−corを付加する方法がある。この場合、SLMに呈示する位相パターンφSLM
【数3】


となる。また、歪み補正パターンφSLM−corは、理想的には
【数4】


である。なお、αは、計測に含まれる誤差値などであり、必要に応じて考慮される。
【0047】
ここで、図1に示すレーザ光照射装置1Aにおいては、2波長λ、λの光成分を含むレーザ光を、単一の空間光変調器20を介して対象物42に集光照射する構成を例示している。このような構成では、上記の式からわかるように、レーザ光に光学系で付与される歪み位相パターンφSLM−disは波長によって異なり、したがって、歪み補正パターンφSLM−corも波長毎に異なる。
【0048】
一方、上記した従来の歪み補正方法では、複数波長のレーザ光の各波長成分に対して、同一の歪み補正パターンが作用する。このため、複数波長のレーザ光のそれぞれに対して適切に歪み補正を行うことができないなど、歪み補正の精度が充分に得られない場合がある。また、このような歪み補正の精度の問題は、複数の波長のレーザ光の集光照射以外の構成においても生じる場合がある。
【0049】
これに対して、図1のレーザ光照射装置1Aは、駆動装置28を介して空間光変調器20に呈示する変調パターンのCGHを、光変調制御装置30において適切に設定することで、歪み補正の精度を向上して、集光点におけるレーザ光の集光照射条件を好適に制御するものである。また、本実施形態によるレーザ光照射装置1A及び光変調制御装置30によれば、後述するように、複数の波長のレーザ光の集光照射を行う場合でも、各波長のレーザ光の歪み補正を含む集光制御を好適に実現することが可能である。
【0050】
図2は、図1に示したレーザ光照射装置1Aに適用される、光変調制御装置30の構成の一例を示すブロック図である。本構成例による光変調制御装置30は、照射条件取得部31と、集光条件設定部32と、歪み位相パターン導出部33と、変調パターン設計部34と、光変調器駆動制御部35とを有して構成されている。なお、このような光変調制御装置30は、例えばコンピュータによって構成することができる。また、この制御装置30には、光変調制御について必要な情報、指示等の入力に用いられる入力装置37、及び操作者に対する情報の表示に用いられる表示装置38が接続されている。
【0051】
照射条件取得部31は、照射対象物42に対するレーザ光の照射条件に関する情報を取得する照射条件取得手段である。具体的には、照射条件取得部31は、レーザ光の照射条件として、空間光変調器20へと入力するレーザ光の波長の個数x(図1に示した例ではx=2)、x個の波長λ(x=1,…,x)のそれぞれの値、及び空間光変調器20への各波長λのレーザ光の入射条件(例えば入射強度分布、入射位相分布)を取得する(照射条件取得ステップ)。波長数xは、1以上の整数として設定され、また、複数波長同時照射の場合には2以上の整数として設定される。
【0052】
集光条件設定部32は、照射対象物42に対するレーザ光の集光条件を設定する集光条件設定手段である。具体的には、集光条件設定部32は、レーザ光の集光条件として、空間光変調器20から出力されたレーザ光を集光照射する集光点の個数s、及びs個の集光点s(s=1,…,s)のそれぞれについての集光位置、集光させるレーザ光の波長λ、集光強度を設定する(集光条件設定ステップ)。集光点数sは、1以上の整数として設定され、また、多点同時照射の場合には2以上の整数として設定される。
【0053】
歪みパターン導出部33は、設定されたs個の集光点sについて、波長λのレーザ光に対してレーザ光導光光学系で付与される歪み位相パターンを導出する歪みパターン導出手段である。ここでは、具体的には、波長λのレーザ光に光学系で付与される、空間光変調器20での歪みによる位相ずれ(収差)を少なくとも含む歪み位相パターンを導出する(歪みパターン導出ステップ)。
【0054】
この導出部33では、レーザ光導光光学系のうちで、空間光変調器20以外の光学系部分で生じる位相ずれが小さく、集光制御において問題にならない場合には、空間光変調器20での歪みによる位相ずれに対応する歪み位相パターンのみを導出しても良い。この歪み位相パターンの導出は、各集光点、各波長について必要に応じて行われる。また、歪み位相パターンについては、レーザ光を集光照射する集光点sによらず波長λのみに依存して決まる場合には、集光点sによらず各波長λについて導出すれば良い。
【0055】
なお、取得部31による照射条件の取得、設定部32による集光条件の設定、及び導出部33による歪み位相パターンの導出は、光変調制御装置30にあらかじめ用意された情報、入力装置37から入力される情報、あるいは外部装置から供給される情報等に基づいて、自動で、もしくは操作者により手動で行われる。
【0056】
変調パターン設計部34は、歪みパターン導出部33で導出された歪み位相パターンを考慮して、空間光変調器20に呈示する変調パターンとなるCGHを設計する変調パターン設計手段である。具体的には、変調パターン設計部34は、取得部31で取得された照射条件、設定部32で設定された集光条件、及び導出部33で導出された歪み位相パターンを参照し、それらの条件に基づいて、所望の集光点へと所望の波長のレーザ光を集光照射させる変調パターンを設計する(変調パターン設計ステップ)。
【0057】
特に、本実施形態における変調パターン設計部34では、空間光変調器20に呈示する変調パターンの設計において、空間光変調器20について2次元配列された複数の画素を想定するとともに、複数の画素に呈示する変調パターンの1画素(空間光変調器20において想定された1画素、空間光変調器20が2次元配列の複数の画素による画素構造を有する場合には、その1画素に対応)での位相値の変更が集光点sにおけるレーザ光の集光状態に与える影響に着目した設計方法を用いる。そして、その集光状態が所望の状態に近づくように1画素の位相値を変更するとともに、そのような位相値の変更操作を変調パターンの全ての画素(少なくとも光が入射する全ての画素)について行うことで最適な変調パターンを設計する。
【0058】
また、この変調パターン設計部34では、上記した各画素での位相値の変更操作において、集光点でのレーザ光の集光状態を評価する際に、空間光変調器20の変調パターンにおける画素jから集光点sへの波長λの光の伝搬について、波動伝搬関数φjs,xをそのまま用いるのではなく、伝搬関数φjs,xに対して、歪みパターン導出部33で導出された歪み位相パターンφjs−dis,xを加えた伝搬関数φjs,x
φjs,x’=φjs,x+φjs−dis,x
を用いる。これにより、各集光点、各波長に対して導出された歪み位相パターンについて補正を行う歪み補正パターンφjs−cor,xが変調パターンに組み込まれ、変調パターンによるレーザ光の集光制御に反映される。
【0059】
光変調器駆動制御部35は、駆動装置28を介して空間光変調器20を駆動制御して、変調パターン設計部34によって設計された変調パターンを空間光変調器20の複数の画素に呈示する駆動制御手段である。このような駆動制御部35は、光変調制御装置30がレーザ光照射装置1Aに含まれている場合に、必要に応じて設けられる。
【0060】
図2に示した光変調制御装置30において実行される制御方法に対応する処理は、光変調制御をコンピュータに実行させるための光変調制御プログラムによって実現することが可能である。例えば、光変調制御装置30は、光変調制御の処理に必要な各ソフトウェアプログラムを動作させるCPUと、上記ソフトウェアプログラムなどが記憶されるROMと、プログラム実行中に一時的にデータが記憶されるRAMとによって構成することができる。このような構成において、CPUによって所定の制御プログラムを実行することにより、上記した光変調制御装置30を実現することができる。
【0061】
また、空間光変調器20を用いた光変調制御、特に、空間光変調器20に呈示する変調パターンの設計のための各処理をCPUによって実行させるための上記プログラムは、コンピュータ読取可能な記録媒体に記録して頒布することが可能である。このような記録媒体には、例えば、ハードディスク及びフレキシブルディスクなどの磁気媒体、CD−ROM及びDVD−ROMなどの光学媒体、フロプティカルディスクなどの磁気光学媒体、あるいはプログラム命令を実行または格納するように特別に配置された、例えばRAM、ROM、及び半導体不揮発性メモリなどのハードウェアデバイスなどが含まれる。
【0062】
本実施形態による光変調制御方法、光変調制御プログラム、光変調制御装置30、及びレーザ光照射装置1Aの効果について説明する。
【0063】
図1、図2に示した光変調制御方法、制御プログラム、及び制御装置30においては、空間光変調器20を用いたレーザ光の集光照射について、レーザ光の波長数x、x個の波長λのそれぞれの値、及び各波長λのレーザ光の空間光変調器20への入射条件(例えば入射振幅、入射位相)の情報を取得するとともに、レーザ光の集光点数s、及び各集光点sでの集光位置、集光させるレーザ光の波長λ、集光強度を含む集光条件を設定する。そして、歪みパターン導出部33において、各集光点sについて、波長λのレーザ光に対して空間光変調器20を含む導光光学系で付与される歪み位相パターンを導出するとともに、変調パターン設計部34において、その歪み位相パターンを考慮して変調パターンを設計する。これにより、各集光点sに集光される波長λのレーザ光に対する歪み補正を好適に実行することができる。
【0064】
さらに、このような構成での変調パターンの設計について、具体的に、空間光変調器20において、2次元配列された複数の画素による画素構造を想定する。そして、変調パターンの1画素での位相値の変更が集光点sにおけるレーザ光の集光状態に与える影響に着目した設計方法を用いるとともに、波長λのレーザ光の集光状態の評価において、空間光変調器の画素jから集光点sへの伝搬関数φjs,xをそのまま用いるのではなく、導出された歪み位相パターンφjs−dis,xを加えた伝搬関数φjs,x’を用いて集光状態を評価している。
【0065】
このような構成によれば、波長λのレーザ光の集光点sへの集光制御について、空間光変調器20を含む光学系で付与される歪み位相パターンの影響を解消する歪み補正用の位相パターンが、波長毎に異なる適切な歪み補正パターンとして、最終的に得られる変調パターンに確実に組み込まれることとなる。これにより、空間光変調器20を用いたレーザ光の集光制御での歪み補正を充分な精度で好適に実現することが可能となる。
【0066】
なお、空間光変調器20において想定される画素構造については、空間光変調器20として、2次元配列された複数の画素を有し、複数の画素それぞれにおいてレーザ光の位相を変調する空間光変調器を用いる場合には、その画素構造をそのまま、変調パターンの設計に適用することができる。
【0067】
また、図1に示したレーザ光照射装置1Aでは、x個の波長λのレーザ光を供給するレーザ光源として機能するレーザ光源ユニット10と、位相変調型の空間光変調器20と、上記構成の光変調制御装置30とを用いてレーザ光照射装置1Aを構成している。このような構成によれば、制御装置30によって、各集光点s、波長λに対して導出された歪み位相パターンを打ち消す補正パターンを最終的に得られる変調パターンに確実に組み込むことで、レーザ光の集光制御における歪み補正を充分な精度で好適に実現して、照射対象物42において設定された集光点sに対するレーザ光の集光照射、及びそれによる対象物42の加工、観察等の操作を好適に実現することが可能となる。また、このようなレーザ光照射装置は、上記したように、例えばレーザ加工装置、レーザ顕微鏡などとして用いることができる。
【0068】
上記構成の光変調制御装置30、及びレーザ光照射装置1Aにおいて、取得部31での照射条件の取得については、レーザ光の波長の個数xを複数個として設定する構成を用いることができる。上記したように、光学系で付与される歪み位相パターンを加えた伝搬関数φjs,x’を用いて変調パターンを設計する方法は、このように複数の波長λ,λ,…,λxtの光成分を含むレーザ光の集光照射条件の制御において、波長毎に適切に歪み補正を行うことができるなどの点で特に有効である。
【0069】
また、上記のように複数の波長成分を含むレーザ光の集光照射を行う場合、設計部34での変調パターンの設計において、空間光変調器20における屈折率の波長分散を考慮して変調パターンを設計する構成を用いることができる。これにより、各集光点sにおける波長λのレーザ光の集光照射条件を、互いに異なる各波長λについて、より精度良く制御することができる。
【0070】
また、上記構成において、レーザ光の集光制御に用いられる空間光変調器20については、呈示する変調パターンを動的に切り替えることが可能に構成された空間光変調器を用いることができる。このような空間光変調器は、LCOS−SLMに関して上述したように、通常、変調パターンを静的に呈示するような変調器に比べて、構造上、歪みによる位相ずれ等の影響が大きく、したがって、上記した方法による歪み補正が特に有効である。また、上記した集光制御は、変調パターンを静的に呈示するDOEなどの空間光変調器に対しても必要に応じて適用可能である。ここで、DOEは、電子露光を用いて作成することがあるが、ラスタスキャン方式の露光装置では、電子ビームの偏向の各軸について独立した歪みが生じ、結果として非点収差が発生する場合がある。
【0071】
また、設計部34での変調パターンの設計については、空間光変調器20の画素jへの波長λのレーザ光の入射振幅をAj−in,x、位相をφj−in,x、画素jでの波長λのレーザ光に対する位相値をφj,xとして、下記式
s,x=As,xexp(iφs,x
=Σj−in,xexp(iφjs,x’)
×exp(i(φj,x+φj−in,x))
によって、集光点sにおける波長λのレーザ光の集光状態を示す複素振幅Us,xを求めることが好ましい。これにより、集光点sにおける各波長λのレーザ光の集光状態を好適に評価することができる。
【0072】
ここで、画素jへの波長λのレーザ光の入射振幅Aj−in,xは、入射強度Ij−in,xに対して、
j−in,x=|Aj−in,x
の関係にある。また、複素振幅Us,xにおいて、As,xは振幅、φs,xは位相である。また、空間光変調器20に入射するレーザ光が平面波の場合には、入射位相φj−in,xは無視することができる。
【0073】
また、上記の式より、伝搬後の集光点sにおける複素振幅Us,xは、各画素jの複素振幅に伝搬関数をかけたものの総和であり、その振幅As,xは変調パターンの1画素毎に独立して影響を受けると考えられる。すなわち、SLMに呈示される変調パターンの1画素毎の位相値を変化させることにより、振幅As,xを変化させることができる。このことを利用すれば、上述した1画素での位相値の変更の影響に着目した設計方法により、変調パターンに用いるCGHを好適に設計することができる。
【0074】
変調パターンの設計における具体的な構成については、変調パターンの画素jでの位相値の変更において、集光点sにおける波長λのレーザ光の集光状態を示す複素振幅の位相φs,x、伝搬関数φjs,x’、画素jでの変更前の位相値φj,x、及びレーザ光の入射位相φj−in,xに基づいて解析的に求められた値によって、位相値を変更する構成を用いることができる。このように解析的に位相値を更新する設計方法としては、例えばORA(Optimal Rotation Angle)法がある。
【0075】
あるいは、変調パターンの設計について、変調パターンの画素jでの位相値の変更において、山登り法、焼きなまし法、または遺伝的アルゴリズムのいずれかの方法を用いて探索で求められた値によって、位相値を変更する構成を用いても良い。ここで、遺伝的アルゴリズムでは、ある1画素を選んでその画素の値を変更する突然変異、また、2画素を選んでその画素の値を交換する交叉などの操作が行われるが、上記した変調パターンの1画素での位相値の変更が集光点におけるレーザ光の集光状態に与える影響に着目した設計方法は、このような操作を行う方法を含むものとする。なお、変調パターンの設計手法については、具体的には後述する。
【0076】
また、図2に示した光変調制御装置30においては、変調パターンを設計するための構成に加えて、空間光変調器20を駆動制御して、設計部34によって設計された変調パターンを空間光変調器20に呈示する光変調器駆動制御部35を設けている。このような構成は、図1に示したように、制御装置30をレーザ光照射装置1Aに組み込んだ形で用いる場合に有効である。また、このような駆動制御部35については、光変調制御装置30とは別装置として設けられる構成としても良い。
【0077】
また、例えばレーザ光照射によってガラス媒体を加工して光集積回路を作製するような場合には、1回または複数回のレーザ光照射の後に新たな1枚または複数枚のCGHの設計を行って、空間光変調器20に呈示する変調パターンを切り換えても良い。あるいは、加工内容が決まっている場合には、レーザ加工に必要な複数の変調パターンをあらかじめ設計しておいても良い。また、DOEを単独に用いる場合には、DOEは静的なパターンであるので駆動装置は無くても良い。また、複数個のDOEを用いて動的にパターンの切り替えを行う場合には、駆動装置の代わりに切替装置が用いられる。
【0078】
なお、図1に示すレーザ光照射装置1Aでは、上記したようにレーザスキャニング顕微鏡の構成を例示している。このようなレーザ顕微鏡は、例えば、2以上の波長のレーザ光源を用いるSTED(stimulated emission depletion)顕微鏡、あるいはPALM(photoactivatedlocalization microscopy)顕微鏡などの、回折限界を超えるとされる超解像度顕微鏡に好適に適用することができる。
【0079】
例えば、STED顕微鏡では、蛍光分子を基底状態から特定の励起状態へと遷移させる励起光源と、特定の励起状態から他準位へと遷移させる制御光源との2波長の光源が用いられる(特許文献5、非特許文献8、9参照)。また、この場合、制御光源からの制御レーザ光は、集光の内部の暗部の直径が励起光の回折限界よりも小さくなるようなリング状の集光形状となるように集光照射される。このような構成では、制御光のリング状の集光形状の内部にある励起光のみが蛍光観測に寄与することとなり、蛍光を発する領域が制限され、結果として回折限界以下の超解像度を得ることができる。
【0080】
このようなSTED顕微鏡における問題点としては、励起光と制御光との高NA対物レンズ下での光軸方向も含めた位置調整、長い計測時間、波長可変レーザ等から出力される多様な波長に対して、それぞれリング状の制御光を生成するための位相変調、複雑な構成による光学系の大型化などが挙げられる。これに対して、レーザ光の集光制御、及び歪み補正を各集光点、波長に対して個別に行うことが可能な上記構成のレーザ光照射装置1Aによれば、光源の数よりも少ない数のSLMを用いて光学系を構築することができ、超解像度顕微鏡の構成の簡単化、操作性の向上などの効果が得られる。また、このような効果は、レーザ加工装置等においても同様に得られる。
【0081】
図1、図2に示したレーザ光照射装置1A及び光変調制御装置30において実行される光変調制御方法、及び変調パターンの設計方法について、その具体例とともにさらに説明する。図3は、図2に示した光変調制御装置30において実行される光変調制御方法の一例を示すフローチャートである。
【0082】
図3に示す制御方法では、まず、レーザ光源ユニット10から供給されるレーザ光の対象物42への照射条件についての情報を取得する(ステップS101)。具体的には、レーザ光の波長の個数x、及びx個の波長λ=λ,…,λxtのそれぞれの値を含むレーザ光の情報を取得する(S102)。波長の個数xは、波長毎に個別のレーザ光源を用いる場合には、レーザ光源の個数である。また、上記以外にも、例えば対物レンズ25のNA、焦点距離f、歪み位相パターンを導出するために用いられる空間光変調器20での基板の歪みの情報等、CGHの導出において必要な情報があれば、レーザ光の情報に加えて取得しておく。
【0083】
また、レーザ光源ユニット10から供給されるレーザ光の空間光変調器20への入射条件を、各波長λについて取得する(S103)。この場合の入射条件としては、例えば波長λのレーザ光の空間光変調器20への入射パターンがある。入射パターンは、空間光変調器20の2次元配列された複数の画素での位置(x,y)の画素jに対する入射レーザ光強度
in(x,y,λ)=Ij−in,x
による入射光強度分布として与えられる。あるいは、振幅Aj−in,xによる入射光振幅分布として、レーザ光の入射パターンを取得しても良い。また、必要な場合には、レーザ光の入射位相φj−in,xについても同様に取得する。
【0084】
次に、照射対象物42に対するレーザ光の集光条件を設定する(S104)。まず、空間光変調器20で位相変調されたレーザ光を照射対象物42に対して集光照射する単一または複数の集光点の個数sを設定する(S105)。ここで、上記構成によるレーザ光照射装置1Aでは、空間光変調器20に呈示する変調パターンにより、必要に応じて複数の集光点を得ることが可能である。
【0085】
また、対象物42に対するs個の集光点s=1,…,sのそれぞれについて、レーザ光の集光位置γ=(u,v,z)、集光させるレーザ光の単一または複数の波長λ、及び所望の集光強度Is−des,xを設定する(S106)。なお、集光させるレーザ光の波長については、各集光点sに対して単一の波長を対応させる場合には、その波長をλとして、集光パラメータγ=(u,v,z,λ)を設定しても良い。また、各集光点へのレーザ光の集光強度については、強度の絶対値による設定に限らず、例えば強度の相対的な比率によって設定しても良い。
【0086】
続いて、設定されたs個の集光点sについて、空間光変調器20の構成、性能等に関する情報、あるいはさらに空間光変調器20を含むレーザ光導光光学系の構成に関する情報を参照し、波長λのレーザ光に対して光学系において付与される歪み位相パターンを導出する(S107)。そして、ステップS107で導出された歪み位相パターンを考慮し、ステップS101、S104で取得、設定されたレーザ光の照射条件、集光条件を参照して、空間光変調器(SLM)20に呈示する変調パターンとなるCGHを、歪み位相パターンを加えた伝搬関数を用いて設計する(S108)。
【0087】
なお、ステップS107での歪み位相パターンの導出に必要な情報については、あらかじめ別の光学系、例えばマイケルソン干渉計やマッハツェンダ干渉計を用いてSLMでの歪みによる位相ずれ(収差)を計測しておく方法を用いることができる。あるいは、レーザ光照射装置で使用予定の光学系の適切な位置にシャックハルトマンセンサなどの波面計測装置を適用して、位相ずれを計測する方法を用いても良い。シャックハルトマンセンサを用いた場合では、センサの位置によっては、SLMだけでなくSLMを含む導光光学系の歪みを計測することも可能である。このように、歪み位相パターンの導出に用いられる歪みによる位相ずれについては、SLMを含む光学系全体について計測しても良い。
【0088】
図3のフローチャートのステップS108において実行される変調パターンの設計方法について、具体的に説明する。以下においては、SLM20の複数の画素に呈示される変調パターンの1画素での位相値の影響に着目した設計方法の例として、ORA法を用いた設計方法について説明する(特許文献3、非特許文献1〜4参照)。
【0089】
ここで、一般に、SLMでの変調パターンとして用いられるCGHの設計方法は、複数あり、例えば反復フーリエ法などが挙げられる。まず、反復フーリエ変換法は、SLM面と回折面との2つの面を用意し、各面の間でフーリエ変換及び逆フーリエ変換にて光を伝搬させる。そして、伝搬ごとに各面の振幅情報を置き換え、最終的に位相分布を取得する方法である。
【0090】
また、別のCGH設計法としては、光線追跡法及び1画素の影響に着目した設計方法の2つが挙げられる。光線追跡法としては、レンズの重ね合わせ法(S法:Superposition of Lens)がある。この方法は、集光点からの波面の重なりが少ない場合には有効であるが、波面の重なりが増えると、SLMに入射するレーザ光強度のうちで集光点に伝搬する光の強度が著しく低下し、あるいは制御できなくなる場合がある。そのために、S法を改良した反復S法がある。
【0091】
一方、CGHの1画素の影響に着目する設計法は、CGHの1画素を適宜選択し、1画素毎に位相値を変更してCGHの設計を行っていく方法であり、1画素の位相の決定方法によって探索型の方法と解析型の方法とがある。
【0092】
この設計法では、CGHのある1画素の位相値をパラメータとして変更し、フレネル回折等による波動伝搬関数を用いて変調レーザ光を伝搬させ、所望の集光点における集光状態を示す値(例えば振幅、強度、複素振幅の値)がどのように変化するかを調べる。そして、集光点での集光状態が所望の結果に近づくような位相値を採用する。このような操作を1画素ずつ、少なくとも光が入射する全ての画素で行う。
【0093】
全ての画素で操作が終わった後に、解析型の方法では、全ての画素を位相変調した結果で、所望の位置の位相がどのように変化するか確認した後に、はじめの1画素目に戻って所望の位置の位相を用いて、1画素ずつ位相の変更を行う。また、探索型の方法では、確認は行わずにはじめの1画素目に戻る。探索型の方法としては、例えば、山登り法、焼きなまし法(SA:Simulated Annealing)、遺伝的アルゴリズム(GA:GeneticAlgorithm)などがある(非特許文献5、6参照)。
【0094】
以下に説明するORA(Optimal Rotation Angle)法は、解析型の方法を用いた最適化アルゴリズムである。この方法では、変調パターンの各画素における位相値の変更、調整は、集光点sでの集光状態を示す複素振幅の位相φs,x、伝搬関数の位相φjs,x、画素jでの変更前の位相値φj,x、及びレーザ光の入射位相φj−in,xに基づいて、解析的に求められた値によって行われる。特に、本実施形態における設計方法では、波動伝搬関数として、通常のφjs,xに代えて、歪み位相パターンを加えた伝搬関数φjs,x’が用いられる。
【0095】
図4は、図2に示した光変調制御装置30において実行される変調パターンの設計方法の一例を示すフローチャートである。まず、空間光変調器20を介して行われる照射対象物42へのレーザ光の集光照射について、設定された集光条件の情報を取得する(ステップS201)。ここで取得される集光条件としては、集光点の個数s、各集光点sの集光位置γ=(u,v,z)、集光させるレーザ光の波長λ、及び所望の集光強度Is−des,xがある。
【0096】
次に、SLM20に呈示する変調パターンとして用いられるCGHの設計の初期条件となる位相パターンを作成する(S202)。この位相パターンは、例えば、CGHの画素jにおける位相値φをランダム位相パターンとする方法によって作成される。この方法は、ORAによるCGH設計が最適化手法であるため、ランダム位相によって特定の極小解に陥ることを防ぐ目的で用いられる。なお、特定の極小解に陥る可能性を無視しても良い場合には、例えば均一な位相パターン等に設定しても良い。また、複数波長のレーザ光の集光照射を行う場合には、レーザ光の波長λ〜λxtのうちの所定の波長λを基準波長に設定し、この基準波長λに対する位相値φj,aを設定する。
【0097】
続いて、集光点の個数が複数(s≧2)に設定されている場合、それらの集光点s=1〜s間の集光強度比を調整するためのパラメータであるウエイトws,xを、その初期条件としてws,x=1に設定する(S203)。なお、このウエイトws,xは、波長の個数x分(レーザ光源の個数分)存在し、それぞれ1×sの配列となる。また、集光点が単一(s=1)の場合には、ウエイトws,xの設定は不要である。また、波長の個数が複数(x≧2)に設定されている場合、複数の波長間の光量比を調整するためのパラメータであるウエイトWを、その初期条件としてW=1に設定する。
【0098】
CGHの位相パターンφj,a、及びウエイトws,x、Wの設定を終了したら、集光点sにおけるレーザ光の集光状態を示す複素振幅Us,xを算出する(S204)。具体的には、波長λのレーザ光について、光波伝搬を表す下記の式(5)
【数5】


によって、波長λのレーザ光が集光点sに対して及ぼす複素振幅Us,x=As,xexp(iφs,x)を求める。
【0099】
ここで、Aj−in,xはSLM20の画素jへの波長λのレーザ光の入射振幅であり、φj−in,xは波長λのレーザ光が画素jに入射する初期位相である。また、φj,xは画素jでの波長λのレーザ光に対する位相値である。この位相値φj,xは、上記した基準波長λに対する位相値φj,aから下記の式(6)
【数6】


によって求められる。
【0100】
なお、この式(6)において、τ(λ,λ)は波長分散等を考慮した補正式(補正係数)である。例えば、SLM20を、液晶を用いたLCOS−SLMとした場合、液晶の複屈折特性を用いてレーザ光の位相の変調を行うが、液晶の複屈折率は、波長λに対して線形ではない。そこで、位相値の変換において、液晶の複屈折特性等を考慮した補正式として、上記したτ(λ,λ)が用いられる。
【0101】
また、式(5)において、φjs,x’は、波長λのレーザ光に対して導出された歪み位相パターンφjs−dis,xを加えた伝搬関数であり、
【数7】


によって求められる。なお、歪み位相パターンφjs−dis,xとしては、例えば、SLM20がLCOS−SLMである場合に、式(2)に示したSLMの歪みによる収差条件の位相が用いられる。
【0102】
このように、歪み位相パターンを加えた伝搬関数φjs,x’を用いることにより、各集光点s、波長λのレーザ光に対する歪み位相パターンを打ち消す歪み補正パターンを、最終的に得られる変調パターンに確実に反映させることができる。この場合、例えば、SLMが歪みを持っていても、波長毎に所望の集光結果を与えることが可能なCGHを得ることができる。また、φjs,xは、自由伝搬を仮定した場合の有限遠領域での伝搬関数である。この伝搬関数φjs,xとしては、例えば下記の式(8)
【数8】


で与えられる波動伝搬関数の近似式であるフレネル回折を用いることができる。ここで、上記の式(8)において、nは空気や水、油などの雰囲気媒質の屈折率、fは焦点距離である。また、この式(8)から、理想的な伝搬関数φjs,xが波長λによって異なることがわかる。また、歪み位相パターンφjs−dis,xについても、同様に、波長λによって異なる。
【0103】
なお、自由伝搬の伝搬関数φjs,xとしては、例えば、上記したフレネル回折の近似式やフラウンホーファー回折の近似式、あるいはヘルムホルツ方程式の解など、様々な表現式を用いることができる。また、上記した複素振幅の式(5)、伝搬関数の式(7)において、波動伝搬関数に加える歪み位相パターンをφjs−dis,x=0とすれば、伝搬関数はφjs,x’=φjs,xとなって、従来のORA法で用いられている、通常の複素振幅の算出式が得られる。
【0104】
続いて、上記方法によるCGHの設計において、所望の結果が得られているかどうかを判定する(S205)。この場合の判定方法としては、例えば、各集光点sで波長λの光によって得られた集光強度Is,x=|As,xと、所望の強度Is−des,xとを、下記の式(9)
【数9】


によって比較し、全ての集光点s、波長λについて、強度比が所定の値ε以下となっているかによって判定する方法を用いることができる。また、集光強度Is,xではなく、振幅As,x、複素振幅Us,x等によって判定を行っても良い。
【0105】
あるいは、図4のフローチャートにおいて、位相値の変更、及び複素振幅の算出等のループが規定の回数行われたかどうか、などの条件によって判定する方法を用いても良い。設定された集光条件に対し、設計されたCGHが必要な条件を満たしていると判定された場合には、ORAによるCGHの設計アルゴリズムを終了する。また、条件を満たしていない場合には、次のステップS206に進む。
【0106】
設計終了に必要な条件を満たしていないと判定された場合、まず、集光点s間の集光強度比を調整するためのウエイトws,x、及び複数の波長λ間の光量比を調整するためのウエイトWの値を、下記の式(10)、(11)、(12)
【数10】


【数11】


【数12】


によって変更する(S206)。
【0107】
ここで、式(11)のWは、基準波長λでのウエイトである。また、式(10)においてウエイトws,xの更新に用いられているパラメータη、及び式(12)においてウエイトWの更新に用いられているパラメータqは、ORAアルゴリズムが不安定になるのを防ぐために、通常、慣習的にη=0.25〜0.35程度、q=0.25〜0.35程度の値が用いられている。また、式(12)において、Iaveは、波長λでの全ての点の強度の平均である。
【0108】
次に、集光点sにおけるレーザ光の集光状態が所望の状態に近づくように、CGHの画素毎に位相値の変更操作を行う(S207)。解析型のORA法では、集光状態を所望の状態に近づけるために画素jの位相値φj,aに加える位相の変化量Δφj,aを、式(5)で得られた複素振幅の位相φs,x、伝搬関数の位相φjs,x’、更新前の位相値φj,x、及びレーザ光の入射位相φj−in,xを用いて、下記の式(13)
【数13】


と判定とによって解析的に求める。ここで、
【数14】


【数15】


【数16】


である。このように解析的に位相値を求める方法では、探索によって位相値を求める山登り法等の方法に比べて、演算に要する時間が短くなるという利点がある。
【0109】
なお、位相の変化量Δφj,aの決定に用いられるΦjs,xについては、通常のORA法では、下記の式(17)
【数17】


が用いられるが、ここで説明する改良ORA法では、上記した伝搬関数の変更に加えて、位相値の更新におけるこのΦjs,xの算出においても、歪み位相パターンφjs−dis,xを付与した式(16)を用いている。
【0110】
上記のように、位相の変化量Δφj,aが求められたら、下記の式(18)
【数18】


によって、CGHのj番目の画素における位相値φj,aを変更、更新する。また、このとき、各波長λに対する位相値φj,xは式(6)によって求められる。
【0111】
そして、位相値の変更操作が全ての画素で行われたかどうかを確認し(S208)、変更操作が終了していなければ、j=j+1として、次の画素について、位相値の変更操作を実行する。一方、全ての画素について変更操作が終了していれば、ステップS204に戻って複素振幅Us,xの算出、及びそれによるレーザ光の集光状態の評価を行う。このような操作を繰り返して実行することにより、設定された集光条件に対応する変調パターンのCGHが作成される。
【0112】
上記のように、SLM20での歪みによる位相ずれ等に起因する歪み位相パターンを加えた伝搬関数を用いてCGHを設計すると、波長毎、あるいはさらに必要があれば集光点毎に対応する歪み位相パターンを適用して、それぞれについて異なる適切な補正条件での歪み補正を高精度に行うことができる。
【0113】
また、呈示する変調パターンを動的に切り替えることが可能な空間光変調器を用いる場合には、集光点の奥行き方向の位置などについても、フィードバック制御等を行うことにより、位置合わせが容易である。また、例えば、空間光変調器を用いて単一の光源から複数個の集光点を作成させ、それに対応して複数の検出器を用意することにより、計測時間の短縮を図ることも可能である。さらに、歪み位相パターン導出のための計測において、光学系内の収差を計測する構成とすれば、SLMにて収差補正を実現することにより、収差の影響を全体的に低減して、レーザ光の良好な集光形状を得ることができる。
【0114】
なお、上記した具体例では、画素jの位相値に加える変化量Δφj,aを、式(13)〜式(16)によって解析的に求めているが、この位相変化量の算出については、具体的には上記以外の方法を用いても良い。例えば、下記の式(19)
【数19】


によって、波長λ毎に位相変化量Δφj,xを求める方法を用いても良い。ここで、
【数20】


【数21】


である。また、Φjs,xについては、式(16)に示したものを用いる。
【0115】
また、この場合、位相値φj,aは、下記の式(22)
【数22】


によって変更、更新される。なお、この式(22)において、κ(λ,λ)は波長毎に異なる位相変化量Δφj,xを調整するためのパラメータである。このパラメータについては、不要であれば用いなくても良い。
【0116】
上記実施形態の光変調制御装置30、及びレーザ光照射装置1Aによるレーザ光の集光制御の効果について、その具体例とともに説明する。ここでは、図5に示す光学系によってレーザ光照射装置1Bを構成し、このレーザ光照射装置1Bを用いて集光制御についての確認実験を行った。
【0117】
図5に示す構成において、レーザ光源ユニット10は、波長532nmのレーザ光を供給するレーザ光源11と、波長633nmのレーザ光を供給するレーザ光源12とによって構成されている。レーザ光源11からのレーザ光は、スペイシャルフィルタ51、コリメートレンズ53によって広げられ、ミラー55によって反射された後、ダイクロイックミラー56によって反射される。また、レーザ光源12からのレーザ光は、スペイシャルフィルタ52、コリメートレンズ54によって広げられた後、ダイクロイックミラー56を透過する。これにより、ダイクロイックミラー56においてレーザ光源11、12からのレーザ光ビームが合波される。
【0118】
ダイクロイックミラー56からのレーザ光は、ハーフミラー57を透過して、反射型の空間光変調器20によって位相変調される。そして、空間光変調器20からの反射レーザ光は、ハーフミラー57によって反射され、レンズ58を介してカメラ60によってその集光像が撮像される。このレーザ光の集光像により、空間光変調器20による集光制御を確認することができる。
【0119】
また、空間光変調器20においてレーザ光に付与する位相パターンによる集光制御条件については、波長532nmのレーザ光と波長633nmのレーザ光とで、視認性を良くするために集光位置(再生位置)をずらすとともに、波長532nmのレーザ光をガウス状に集光し、波長633nmのレーザ光をリング状に集光する条件を用いる。なお、レーザ光をリング状に集光するためにSLMに表示する集光制御用の位相パターンとしては、例えば、ラゲールガウシアン(LG)ビームの位相パターンを用いることができる。
【0120】
図6は、このような構成、設定によって得られたレーザ光の集光像を示している。この図6に示すように、上記した方法で設計された変調パターンにより、波長532nmのレーザ光のガウス状の集光スポットと、波長633nmのレーザ光のリング状の集光スポットとを、それぞれ好適に再生することができる。また、このような集光制御条件は、集光位置を一致させることにより、STED顕微鏡に適用することが可能である。
【0121】
図3のフローチャートのステップS108において実行される変調パターンの設計方法について、さらに説明する。図4のフローチャートでは、CGHの1画素の影響に着目した設計法の例として、解析型のORA法を用いた設計方法を示した。これに対して、変調パターンの設計方法としては、上述したように、山登り法、焼きなまし法、遺伝的アルゴリズムなどの探索型の設計方法を用いることも可能である。
【0122】
図7は、図2に示した光変調制御装置30において実行される変調パターンの設計方法の他の例を示すフローチャートである。このフローチャートでは、探索型の設計方法の例として、山登り法を用いた場合の設計方法を示している。この方法では、まず、上記したORA法と同様に、SLM20を介して行われる照射対象物42へのレーザ光の集光照射について、設定された集光条件の情報を取得する(ステップS301)。次に、SLM20に呈示するCGH設計の初期条件の位相パターンを、例えばランダム位相パターンとして作成する(S302)。
【0123】
続いて、CGHの1画素の位相値の変更操作を行う(S303)。さらに、歪み位相パターンφjs−dis,xを加えた波動伝搬関数φjs,x’を含む式(5)を用いて、集光点sにおけるレーザ光の集光状態を示す複素振幅Us,x=As,xexp(iφs,x)を算出する(S304)。複素振幅Us,xを算出したら、得られた集光状態について、判定を行う(S305)。
【0124】
ここでは、変調パターンの1画素の位相値の切換えにより、振幅As,x、強度Is,x=|As,x、または複素振幅Us,xが所望の値に近づいていれば、そのときの位相値を採用する。山登り法では、例えば、CGHの1画素毎の位相値を0.1π(rad)ずつ0π(rad)から所定の位相値まで、例えば2π(rad)まで切り換えて、切り換えたごとに式(5)を用いて、伝搬を行う。そして、集光点sの強度が最も増加する位相値を探索にて求める。
【0125】
続いて、1画素の位相値の切換えを、全ての条件で確認したかどうかを判定し(S306)、行っていなければステップS303に戻る。さらに、1画素の位相値の変更、及び集光状態の判定等の操作を全ての画素で行ったかどうかを判定し(S307)、行っていなければ画素番号をj=j+1としてステップS303に戻り、次の画素について必要な操作を行う。
【0126】
全ての画素について必要な操作を終了していれば、CGHの設計において、所望の結果が得られているかどうかを判定する(S308)。この場合の判定方法としては、ORA法の場合と同様に、例えば、各集光点で得られた集光強度、振幅、複素振幅等の値が許容範囲内に収まっているかどうかによって判定する方法を用いることができる。あるいは、図7のフローチャートにおいて、位相値の変更、及び集光状態の判定等のループが規定の回数行われたかどうか、などの条件によって判定する方法を用いても良い。必要な条件を満たしている場合には、CGHの設計アルゴリズムを終了する。条件を満たしていない場合には、ステップS303に戻って1画素目から探索を繰り返す。
【0127】
本発明による光変調制御方法、制御プログラム、制御装置、及びレーザ光照射装置は、上記実施形態及び構成例に限られるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、レーザ光源、及び空間光変調器を含む光学系の構成については、図1に示した構成例に限らず、具体的には様々な構成を用いて良い。
【0128】
また、上記実施形態では、集光制御を行うレーザ光の波長の個数が複数である場合を主に説明したが、単一波長のレーザ光を集光照射する場合においても、上記構成による光変調制御方法を好適に適用することが可能である。この場合、例えば上記したORA法において、複数の波長間の光量比を調整するためのパラメータWは、W=1として更新されない。また、レーザ光源の個数については、例えば、単一のレーザ光源から複数の波長のレーザ光を供給する構成など、具体的には様々な構成を用いて良い。
【0129】
また、空間光変調器に呈示する変調パターン(CGH)の設計についても、具体的には上記した例以外にも様々な方法を用いて良い。一般には、変調パターンの設計において、変調パターンの1画素での位相値の変更が集光点におけるレーザ光の集光状態に与える影響に着目して、その集光状態が所望の状態に近づくように位相値を変更し、そのような位相値の変更操作を変調パターンの全ての画素について行うことで変調パターンを設計するとともに、集光点での集光状態を評価する際に、空間光変調器の変調パターンでの画素jから集光点sへの波長λの光の伝搬について、歪み位相パターンを加えた伝搬関数を用いていれば良い。
【0130】
また、複素振幅Us,xの導出において、その式に伝搬関数
φjs,x’=φjs,x+φjs−dis,x
を代入すると、
s,x=Σj−in,xexp{i(φjs,x
+φjs−dis,x+φj,x+φj−in,x)}
=Σj−in,xexp{i(φjs,x
+φj,x+φj−in,x+φjs−dis,x)}
となる。この式からわかるように、計算上は(+φjs−dis,x)を入射位相φj−in,xに加えることによっても、同様の結果が得られる。このような方法は、伝搬関数φjs,xに(+φjs−dis,x)を加える方法と等価であり、したがって、本発明は、このような構成をも含む。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明は、空間光変調器を用いたレーザ光の集光制御における歪み補正を充分な精度で好適に実現することが可能な光変調制御方法、制御プログラム、制御装置、及びレーザ光照射装置として利用可能である。
【符号の説明】
【0132】
1A、1B…レーザ光照射装置、10…レーザ光源ユニット、11…レーザ光源、12…レーザ光源、13、14…ビームエキスパンダ、15…ダイクロイックミラー、16…ミラー、18…プリズム、20…空間光変調器、21…ミラー、22、23…4f光学系レンズ、25…対物レンズ、28…光変調器駆動装置、40…可動ステージ、42…照射対象物、45…検出部、46…レンズ、47…ダイクロイックミラー、
51、52…スペイシャルフィルタ、53、54…コリメートレンズ、55…ミラー、56…ダイクロイックミラー、57…ハーフミラー、58…レンズ、60…カメラ、
30…光変調制御装置、31…照射条件取得部、32…集光条件設定部、33…歪み位相パターン導出部、34…変調パターン設計部、35…光変調器駆動制御部、37…入力装置、38…表示装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を入力し、前記レーザ光の位相を変調して、位相変調後のレーザ光を出力する位相変調型の空間光変調器を用い、前記空間光変調器に呈示する変調パターンによって、設定された集光点への前記レーザ光の集光照射を制御する光変調制御方法であって、
前記レーザ光の照射条件として、前記空間光変調器へと入力する前記レーザ光の波長の個数x(xは1以上の整数)、x個の波長λ、及び前記空間光変調器への各波長の前記レーザ光の入射条件を取得する照射条件取得ステップと、
前記レーザ光の集光条件として、前記空間光変調器からの前記レーザ光を集光照射する前記集光点の個数s(sは1以上の整数)、及びs個の集光点sのそれぞれについての集光位置、集光させる前記レーザ光の波長λ、集光強度を設定する集光条件設定ステップと、
前記s個の集光点sについて、波長λの前記レーザ光に対して光学系で付与される前記空間光変調器での歪みによる位相ずれを含む歪み位相パターンを導出する歪みパターン導出ステップと、
前記歪みパターン導出ステップで導出された前記歪み位相パターンを考慮して、前記空間光変調器に呈示する前記変調パターンを設計する変調パターン設計ステップと
を備え、
前記変調パターン設計ステップは、前記空間光変調器において2次元配列された複数の画素を想定し、前記複数の画素に呈示する前記変調パターンの1画素での位相値の変更が前記集光点における前記レーザ光の集光状態に与える影響に着目して、その集光状態が所望の状態に近づくように前記位相値を変更し、そのような位相値の変更操作を前記変調パターンの全ての画素について行うことで前記変調パターンを設計するとともに、
前記集光点での前記集光状態を評価する際に、前記空間光変調器の前記変調パターンにおける画素jから前記集光点sへの波長λの光の伝搬について、前記歪みパターン導出ステップで導出された前記歪み位相パターンφjs−dis,xを波動伝搬関数φjs,xに加えた伝搬関数φjs,x
φjs,x’=φjs,x+φjs−dis,x
を用いることを特徴とする光変調制御方法。
【請求項2】
前記照射条件取得ステップは、前記レーザ光の前記波長の個数xを複数個として設定することを特徴とする請求項1記載の光変調制御方法。
【請求項3】
前記空間光変調器は、呈示する前記変調パターンを動的に切り替えることが可能に構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の光変調制御方法。
【請求項4】
前記変調パターン設計ステップは、前記空間光変調器の前記画素jへの波長λの前記レーザ光の入射振幅をAj−in,x、位相をφj−in,x、前記画素jでの波長λの前記レーザ光に対する位相値をφj,xとして、下記式
s,x=As,xexp(iφs,x
=Σj−in,xexp(iφjs,x’)
×exp(i(φj,x+φj−in,x))
によって、前記集光点sにおける波長λの前記レーザ光の前記集光状態を示す複素振幅を求めることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の光変調制御方法。
【請求項5】
前記変調パターン設計ステップは、前記変調パターンの前記画素jでの位相値の変更において、前記集光点sにおける波長λの前記レーザ光の前記集光状態を示す複素振幅の位相φs,x、前記伝搬関数φjs,x’、前記画素jでの変更前の位相値φj,x、及び前記レーザ光の入射位相φj−in,xに基づいて解析的に求められた値によって、前記位相値を変更することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の光変調制御方法。
【請求項6】
前記変調パターン設計ステップは、前記変調パターンの前記画素jでの位相値の変更において、山登り法、焼きなまし法、または遺伝的アルゴリズムのいずれかの方法を用いて探索で求められた値によって、前記位相値を変更することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の光変調制御方法。
【請求項7】
レーザ光を入力し、前記レーザ光の位相を変調して、位相変調後のレーザ光を出力する位相変調型の空間光変調器を用い、前記空間光変調器に呈示する変調パターンによって、設定された集光点への前記レーザ光の集光照射を制御する光変調制御をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記レーザ光の照射条件として、前記空間光変調器へと入力する前記レーザ光の波長の個数x(xは1以上の整数)、x個の波長λ、及び前記空間光変調器への各波長の前記レーザ光の入射条件を取得する照射条件取得処理と、
前記レーザ光の集光条件として、前記空間光変調器からの前記レーザ光を集光照射する前記集光点の個数s(sは1以上の整数)、及びs個の集光点sのそれぞれについての集光位置、集光させる前記レーザ光の波長λ、集光強度を設定する集光条件設定処理と、
前記s個の集光点sについて、波長λの前記レーザ光に対して光学系で付与される前記空間光変調器での歪みによる位相ずれを含む歪み位相パターンを導出する歪みパターン導出処理と、
前記歪みパターン導出処理で導出された前記歪み位相パターンを考慮して、前記空間光変調器に呈示する前記変調パターンを設計する変調パターン設計処理と
をコンピュータに実行させ、
前記変調パターン設計処理は、前記空間光変調器において2次元配列された複数の画素を想定し、前記複数の画素に呈示する前記変調パターンの1画素での位相値の変更が前記集光点における前記レーザ光の集光状態に与える影響に着目して、その集光状態が所望の状態に近づくように前記位相値を変更し、そのような位相値の変更操作を前記変調パターンの全ての画素について行うことで前記変調パターンを設計するとともに、
前記集光点での前記集光状態を評価する際に、前記空間光変調器の前記変調パターンにおける画素jから前記集光点sへの波長λの光の伝搬について、前記歪みパターン導出処理で導出された前記歪み位相パターンφjs−dis,xを波動伝搬関数φjs,xに加えた伝搬関数φjs,x
φjs,x’=φjs,x+φjs−dis,x
を用いることを特徴とする光変調制御プログラム。
【請求項8】
前記照射条件取得処理は、前記レーザ光の前記波長の個数xを複数個として設定することを特徴とする請求項7記載の光変調制御プログラム。
【請求項9】
前記空間光変調器は、呈示する前記変調パターンを動的に切り替えることが可能に構成されていることを特徴とする請求項7または8記載の光変調制御プログラム。
【請求項10】
前記変調パターン設計処理は、前記空間光変調器の前記画素jへの波長λの前記レーザ光の入射振幅をAj−in,x、位相をφj−in,x、前記画素jでの波長λの前記レーザ光に対する位相値をφj,xとして、下記式
s,x=As,xexp(iφs,x
=Σj−in,xexp(iφjs,x’)
×exp(i(φj,x+φj−in,x))
によって、前記集光点sにおける波長λの前記レーザ光の前記集光状態を示す複素振幅を求めることを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項記載の光変調制御プログラム。
【請求項11】
前記変調パターン設計処理は、前記変調パターンの前記画素jでの位相値の変更において、前記集光点sにおける波長λの前記レーザ光の前記集光状態を示す複素振幅の位相φs,x、前記伝搬関数φjs,x’、前記画素jでの変更前の位相値φj,x、及び前記レーザ光の入射位相φj−in,xに基づいて解析的に求められた値によって、前記位相値を変更することを特徴とする請求項7〜10のいずれか一項記載の光変調制御プログラム。
【請求項12】
前記変調パターン設計処理は、前記変調パターンの前記画素jでの位相値の変更において、山登り法、焼きなまし法、または遺伝的アルゴリズムのいずれかの方法を用いて探索で求められた値によって、前記位相値を変更することを特徴とする請求項7〜10のいずれか一項記載の光変調制御プログラム。
【請求項13】
レーザ光を入力し、前記レーザ光の位相を変調して、位相変調後のレーザ光を出力する位相変調型の空間光変調器を用い、前記空間光変調器に呈示する変調パターンによって、設定された集光点への前記レーザ光の集光照射を制御する光変調制御装置であって、
前記レーザ光の照射条件として、前記空間光変調器へと入力する前記レーザ光の波長の個数x(xは1以上の整数)、x個の波長λ、及び前記空間光変調器への各波長の前記レーザ光の入射条件を取得する照射条件取得手段と、
前記レーザ光の集光条件として、前記空間光変調器からの前記レーザ光を集光照射する前記集光点の個数s(sは1以上の整数)、及びs個の集光点sのそれぞれについての集光位置、集光させる前記レーザ光の波長λ、集光強度を設定する集光条件設定手段と、
前記s個の集光点sについて、波長λの前記レーザ光に対して光学系で付与される前記空間光変調器での歪みによる位相ずれを含む歪み位相パターンを導出する歪みパターン導出手段と、
前記歪みパターン導出手段で導出された前記歪み位相パターンを考慮して、前記空間光変調器に呈示する前記変調パターンを設計する変調パターン設計手段と
を備え、
前記変調パターン設計手段は、前記空間光変調器において2次元配列された複数の画素を想定し、前記複数の画素に呈示する前記変調パターンの1画素での位相値の変更が前記集光点における前記レーザ光の集光状態に与える影響に着目して、その集光状態が所望の状態に近づくように前記位相値を変更し、そのような位相値の変更操作を前記変調パターンの全ての画素について行うことで前記変調パターンを設計するとともに、
前記集光点での前記集光状態を評価する際に、前記空間光変調器の前記変調パターンにおける画素jから前記集光点sへの波長λの光の伝搬について、前記歪みパターン導出手段で導出された前記歪み位相パターンφjs−dis,xを波動伝搬関数φjs,xに加えた伝搬関数φjs,x
φjs,x’=φjs,x+φjs−dis,x
を用いることを特徴とする光変調制御装置。
【請求項14】
前記照射条件取得手段は、前記レーザ光の前記波長の個数xを複数個として設定することを特徴とする請求項13記載の光変調制御装置。
【請求項15】
前記空間光変調器は、呈示する前記変調パターンを動的に切り替えることが可能に構成されていることを特徴とする請求項13または14記載の光変調制御装置。
【請求項16】
前記変調パターン設計手段は、前記空間光変調器の前記画素jへの波長λの前記レーザ光の入射振幅をAj−in,x、位相をφj−in,x、前記画素jでの波長λの前記レーザ光に対する位相値をφj,xとして、下記式
s,x=As,xexp(iφs,x
=Σj−in,xexp(iφjs,x’)
×exp(i(φj,x+φj−in,x))
によって、前記集光点sにおける波長λの前記レーザ光の前記集光状態を示す複素振幅を求めることを特徴とする請求項13〜15のいずれか一項記載の光変調制御装置。
【請求項17】
前記変調パターン設計手段は、前記変調パターンの前記画素jでの位相値の変更において、前記集光点sにおける波長λの前記レーザ光の前記集光状態を示す複素振幅の位相φs,x、前記伝搬関数φjs,x’、前記画素jでの変更前の位相値φj,x、及び前記レーザ光の入射位相φj−in,xに基づいて解析的に求められた値によって、前記位相値を変更することを特徴とする請求項13〜16のいずれか一項記載の光変調制御装置。
【請求項18】
前記変調パターン設計手段は、前記変調パターンの前記画素jでの位相値の変更において、山登り法、焼きなまし法、または遺伝的アルゴリズムのいずれかの方法を用いて探索で求められた値によって、前記位相値を変更することを特徴とする請求項13〜16のいずれか一項記載の光変調制御装置。
【請求項19】
前記空間光変調器を駆動制御して、前記変調パターン設計手段によって設計された前記変調パターンを前記空間光変調器に呈示する光変調器駆動制御手段を備えることを特徴とする請求項13〜18のいずれか一項記載の光変調制御装置。
【請求項20】
個(xは1以上の整数)の波長λのレーザ光を供給するレーザ光源と、
前記レーザ光を入力し、前記レーザ光の位相を変調して、位相変調後のレーザ光を出力する位相変調型の空間光変調器と、
前記空間光変調器に呈示する変調パターンによって、設定されたs個(sは1以上の整数)の集光点sへの各波長λの前記レーザ光の集光照射を制御する請求項13〜19のいずれか一項記載の光変調制御装置と
を備えることを特徴とするレーザ光照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−92688(P2013−92688A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235245(P2011−235245)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】