光変調器
【課題】光変調特性が高性能であるとともに、安定性について改善された光変調器を提供する。
【解決手段】基板1と、第1および第2の光導波路3a、3bからなる光導波路3と、基板上に形成されたバッファ層2と、バッファ層の上方に配置された中心導体4aおよび中心導体を挟むよう配置される第1および第2の接地導体4b、4cからなる接地導体により構成された進行波電極とを具備し、基板におけるバッファ層が形成される側の表面が平坦である光変調器において、第1の光導波路の上方に中心導体を、第2の光導波路の上方に第1の接地導体を有し、第1の接地導体が、第2の光導波路直上ではない位置に光導波路の光軸方向に延在する第1の位置を有し、第2の接地導体が、中心導体の中心線に対して第1の位置と対称となる位置に光導波路の光軸方向に延在する第2の位置を有し、第1の位置および第2の位置に導体が欠落した部位11a、11bを具備する。
【解決手段】基板1と、第1および第2の光導波路3a、3bからなる光導波路3と、基板上に形成されたバッファ層2と、バッファ層の上方に配置された中心導体4aおよび中心導体を挟むよう配置される第1および第2の接地導体4b、4cからなる接地導体により構成された進行波電極とを具備し、基板におけるバッファ層が形成される側の表面が平坦である光変調器において、第1の光導波路の上方に中心導体を、第2の光導波路の上方に第1の接地導体を有し、第1の接地導体が、第2の光導波路直上ではない位置に光導波路の光軸方向に延在する第1の位置を有し、第2の接地導体が、中心導体の中心線に対して第1の位置と対称となる位置に光導波路の光軸方向に延在する第2の位置を有し、第1の位置および第2の位置に導体が欠落した部位11a、11bを具備する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学効果を利用して、光導波路に入射した光を高周波電気信号で変調して光信号パルスとして出射する光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速、大容量の光通信システムが実用化されている。このような高速、大容量の光通信システムに組込むための高速、小型、低価格、かつ高安定な光変調器の開発が求められている。
【0003】
このような要望に応える光変調器として、リチウムナイオベート(LiNbO3)のように電界を印加することにより屈折率が変化する、いわゆる電気光学効果を有する基板(以下、LN基板と略す)に光導波路と進行波電極を形成した進行波電極型リチウムナイオベート光変調器(以下、LN光変調器と略す)がある。このLN光変調器は、その優れたチャーピング特性から2.5Gbit/s、10Gbit/sの大容量光通信システムに適用されている。最近はさらに40Gbit/sの超大容量光通信システムにも適用が検討されている。
【0004】
以下、従来、実用化され、又は提唱されてきたリチウムナイオベートの電気光学効果を利用したLN光変調器について説明する。
【0005】
(第1の従来技術)
図25は、z−カットLN基板を用いて構成した特許文献1に開示された第1の従来技術のLN光変調器(あるいは、プレーナ型LN光変調器)についての斜視図であり、図26は図25のA−A´線における断面図である。
【0006】
z−カットLN基板1に光導波路3が形成されている。この光導波路3は、金属Tiを1050℃で約10時間熱拡散して形成した光導波路であり、マッハツェンダ干渉系(あるいは、マッハツェンダ光導波路)を構成している。従って、光導波路3の電気信号と光が相互作用する部(相互作用部と言う)には2本の相互作用光導波路(あるいは、光導波路)3aと3b、つまりマッハツェンダ光導波路の2本のアームが形成されている。
【0007】
この光導波路3の上面にSiO2バッファ層2が形成され、このSiO2バッファ層2の上面に進行波電極4が形成されている。進行波電極4としては、1つの中心導体4aと2つの接地導体4b、4cを有するコプレーナウェーブガイド(CPW)を用いている。なお、通常、進行波電極4はAuにより形成されている。5はz−カットLN基板1を用いて製作したLN光変調器に特有の焦電効果に起因する温度ドリフトを抑圧するためのSi導電層である。なお、説明の簡単のために、図26においては図25には図示したSi導電層5を省略している。
【0008】
変調用の高周波(RF)電気信号をこの光変調器の高周波電気信号給電線6を介して中心導体4aと接地導体4bに供給すると、中心導体4aと接地導体4bの間に電界が印加される。z−カットLN基板1は電気光学効果を有するので、この電界により屈折率変化を生じ、2本の相互作用光導波路3a、3b(あるいは、光導波路3a、3bという)を伝搬する光の位相にずれが発生する。このずれがπになった場合、光導波路3のマッハツェンダ光導波路としての合波部において、高次モードを励振し、光はOFF状態になる。なお、7は高周波電気信号出力線であり、終端抵抗で置き換えても良い。
【0009】
図26からわかるように、図25に示した特許文献1の光変調器の特徴としては、1)中心導体4aの幅Sを相互作用光導波路3a、3bの幅とほぼ同じ6μm〜12μm程度としている、2)中心導体4aと接地導体4b、4c間のギャップWを例えば15μmと広くしている、さらに3)相互作用光導波路3a、3bを伝搬する光の中心導体4aと接地導体4b、4cからなる進行波電極4を構成する金属による吸収を抑えるためにのみ使用されてきたSiO2バッファ層2の比誘電率が4〜6と比較的低いことを利用して、SiO2バッファ層2の厚みDを400nm〜1.5μm程度と厚くすることにより、高周波電気信号のマイクロ波等価屈折率nmを低減して、相互作用光導波路3a、3bを導波する光の等価屈折率noに近づけるとともに、特性インピーダンスをなるべく50Ωに近づけている。また、図26に示した第1の従来技術では、特許文献2に開示された進行波電極4の厚みを場合によっては約30μmと厚くすることによりマイクロ波等価屈折率nmをよりいっそう低減して、光の等価屈折率noに近づけている。このように厚い進行波電極4は例えば10Gbit/s、あるいは40Gbit/sのような高速光変調には必須となる。この第1の従来技術は50Ω系の特性インピーダンスを有するLN光変調器としてブレークスルーとなり、広く使用されている。
【0010】
ところが、進行波電極4が例えば30μmと極めて厚い場合には、この第1の従来技術は焦電効果に起因する温度ドリフトの対策であるSi導電層5を具備していても、z−カットLN基板1と進行波電極4の熱膨張係数の差による応力に起因する温度ドリフトについて問題があることがわかった。
【0011】
以下にその原因について詳しく説明する。図26からわかるように、中心導体4aの直下の光導波路3bについては、接地導体4b、4cとは独立しているので、z−カットLN基板1の表面に平行な方向の応力は左右で均衡している。従って光導波路3bについて屈折率の変化を引き起こす実質的な応力は発生していないと考えてよい。
【0012】
ところが、相互作用光導波路3aについては、前述のように約30μmの厚い接地導体4bが相互作用光導波路3aの上方のみでなく、相互作用部から数十〜100μm以上離れた距離にある外周部10b(そして、外周部10aにも)とともに形成されている。そして、接地導体4bを構成するAuとz−カットLN基板1の熱膨張係数は互いに大きく異なる。さらに、z−カットLN基板1の幅は数ミリメートル(例えば、1mm〜5mm)と広い。一方、相互作用光導波路3a、3bのギャップは約15μm程度と狭いので、接地導体4bや4cの幅は各々z−カットLN基板1の幅の約半分と言えるくらいに広い(換言すると、外周部10aや10bが広い)。つまり、図26の接地導体4bの幅も広いので環境変化に起因する熱膨張や熱収縮などの応力が積み重なり、相互作用光導波路3aへかなり大きな応力がかかる。そしてこの応力は接地導体4bの厚みが厚いほど(つまり、接地導体4bの上面がz−カットLN基板1の上面から離れるほど)、モーメントとしてより大きな応力を作用する。
【0013】
(第2の従来技術)
この第1の従来技術の問題点を解決するために、特許文献3に開示された第2の従来技術に基づいて実際にLN光変調器を試作した。その試作したLN光変調器についてその上面図を図27に、またそのB−B´における断面図を図28に示す。これらの図からわかるように、この第2の従来技術では第1の従来技術として示した図26における接地導体4bをその厚みが厚い接地導体4b´、4b´´と約300nmと薄い接地導体4b´´´の3分割する構成としている。いわば、厚い接地導体4b´と4b´´を薄い接地導体4b´´´により接続する構造と言える。また、図28において中心線Vは相互作用光導波路3aと3bの中間に設けた中心線である。相互作用光導波路3aと3bは中心線Vに対して対称であり、中心線Vは中心導体4aと接地導体4b´に対して対称となっている。以下において、相互作用光導波路3aと3bが中心線Vに対称とは、相互作用光導波路3aと3bの中心線が、光導波路3bの上の中心導体4aと相互作用光導波路3aの上の接地導体(ここでは4b´)の対称軸であることを意味している。
【0014】
このように接地導体4b´´´の厚みを薄くすることにより接地導体4b´´´の上面とz−カットLN基板1の上面との距離が近くなる。従って、広い接地導体4b´´からの応力のモーメントを接地導体4b´に伝えることが少なくなり、相互作用光導波路3aに与える応力が小さくなる。その結果、温度ドリフトを改善できるという考え方である。
【0015】
図29には実際に試作したLN光変調器の環境温度Tを20℃から80℃まで変化させた場合のこの第2の従来技術による温度ドリフト改善の効果を環境温度Tに対するDCバイアス電圧の変化ΔVとして点線で示す。なお、相互作用部(前述のように、相互作用光導波路3aと3bを伝搬する光と高周波電気信号が相互作用する部位)の長さは3cmとした。図中、比較のために第2の従来技術の工夫を施さない第1の従来技術で製作したLN光変調器の温度ドリフト特性を破線で示している。なお、両者とも進行波電極4の厚みは30μmとした。
【0016】
図29からわかるように、環境温度Tを20℃から80℃まで変化させると、第1の従来技術では約4Vと大きな温度ドリフトを発生する。そして、第2の従来技術では1V弱の温度ドリフトに抑圧することができた。しかしながら、この第2の従来技術の工夫をしているにも関わらずLN光変調器に要求される温度ドリフトとしては1Vという値は実用の観点からまだ大きいと言わざるを得ず、解決すべき問題である。この大きな温度ドリフトは以下の要因により引き起こされていると考えられる。
【0017】
まず、第1の要因は高周波電気信号と相互作用光導波路3a、3bを伝搬する光とが速度整合に近づくようにと30μmまで厚くしたことにより発生した熱膨張や熱収縮に起因する大きな応力(モーメント)である。熱膨張や熱収縮に起因する応力は進行波電極4の厚みが厚いほど大きくなる。しかしながら、この厚い進行波電極4は高性能な光変調器を実現する上で必要なことであり、避けることはできない。
【0018】
次に、2つめの要因は接地導体側の相互作用光導波路に関連している。環境温度が変化したことにより面積が広くて厚い接地導体4b´´に生じた応力により、接地導体4b´´´は薄いながらも相互作用の長手方向全体にわたって接地導体4b´´の側面全体を押す。そのため、相互作用光導波路3aに応力を加えることになるので、その屈折率を変化させてしまう。
【0019】
そして、第3の要因は中心導体側の相互作用光導波路に関連している。つまり、接地導体4cが発生する応力の影響を中心導体4aの下方にある相互作用光導波路3bが受ける。そしてこの応力に起因する応力複屈折率により相互作用光導波路3bを伝搬する光の等価屈折率が変化し、熱ドリフトを生じる。
【0020】
さらに、高周波電気信号の低損失で安定な伝搬の観点からこの第2の従来技術は以下のように問題を有していることがわかる。図25に示すように、マイクロ波である高周波電気信号は高周波電気信号給電線6や不図示のコネクタを伝搬した後、進行波電極4に印加されるが、高周波電気信号給電線6と不図示のコネクタの電磁界分布は各々の中心導体に対して軸対称である。また、高周波電気信号給電線6に接続される不図示のコネクタと進行波電極4との接続部(入力用フィードスルー部と呼ばれる)においても高周波電磁界の電磁界分布は進行波電極4の中心導体(相互作用部の中心導体4aを不図示のコネクタの芯線との接続部まで延長した部位)に対して左右対称(つまり、基板表面方向に対して対称)である。
【0021】
しかしながら、この第2の従来技術では図28の中心導体4aの中心線に対して進行波電極の基本的な構成要素である接地導体4b´及び4b´´の組み合わせと接地導体4cが構造的に互いに左右非対称である。構造が左右非対称ということは電磁界分布も左右非対称となるので、入力用フィードスルー部における左右対称な電磁界分布と整合性が良くない。その結果、高周波電気信号が中心導体4a、接地導体4b´、4b´´´、4b´´、4cで構成される進行波電極4を伝搬する際に、対称な電磁界分布から非対称な電磁界分布に変換せねばならず、電磁界分布が安定しない、あるいは放射損失(または伝搬損失)が生じるなどの不都合が生じてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開平2−51123号公報
【特許文献2】特開平1−91111号公報
【特許文献3】特許第3660529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
以上のように、プレーナ型LN光変調器として提案された第1の従来技術では電極を構成するAuとz−カットLN基板との熱膨張係数の差に起因する接地導体からの応力が温度とともに最適DCバイアス点を変化させる温度ドリフトを生じた。この温度特性を改善するために提案された第2の従来技術においても、環境温度が変化したことにより面積が広くて厚い接地導体4b´´に生じた応力を接地導体4b´´´はその厚みが薄いながらも相互作用の長手方向全体にわたって接地導体4b´´の側面全体を押すので、結果的に相互作用光導波路3aに応力を加え、その屈折率を変化させてしまっていた。さらに、相互作用光導波路3a、3bが形成されていない接地導体4cが発生する応力が中心導体4aの下方にある相互作用光導波路4bに作用することによっても熱ドリフトが生じていた。さらに、第2の従来技術では進行波電極の相互作用部における進行波電極の構造が中心導体の中心線に対して非対称であった。従って、相互作用部における高周波電気信号の電磁界分布も非対称となった。その結果、入力用フィードスルー部の対称モードから相互作用部の非対称モードへの高周波電気信号のモード変換における安定な伝搬と低損失な伝搬という観点から不利であった。また、第1及び第2の従来技術とも厚くて広い接地導体を有するので、高価なAuの使用量が多く、LN光変調器としてのコストが上昇する一因となっていた。つまり、光変調器として温度安定化を実現でき、かつコストが低い光変調器の開発が急務となっていた。
【0024】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、光変調特性が高性能であるとともに、安定性とコストについて改善された光変調器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1の光変調器は、電気光学効果を有する基板と、前記基板に形成された第1の光導波路と第2の光導波路からなる光導波路と、前記基板の上に形成されたバッファ層と、該バッファ層の上方に配置された中心導体および該中心導体を挟むよう配置される第1の接地導体と第2の接地導体からなる接地導体により構成された進行波電極とを具備し、前記基板における前記バッファ層が形成される側の表面が平坦である光変調器において、前記第1の光導波路の上方に前記中心導体を、前記第2の光導波路の上方に前記第1の接地導体をそれぞれ有し、前記第1の接地導体が、前記第2の光導波路直上ではない位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第1の位置を有し、前記第2の接地導体が、前記中心導体の中心線に対して前記第1の位置と対称となる位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第2の位置を有し、前記第1の位置および前記第2の位置に導体が欠落した部位を具備することを特徴とする。
【0026】
本発明の請求項2の光変調器は、電気光学効果を有する基板と、前記基板に形成された第1の光導波路と第2の光導波路からなる光導波路と、前記基板の上に形成されたバッファ層と、該バッファ層の上方に配置された中心導体および該中心導体を挟むよう配置される第1の接地導体と第2の接地導体からなる接地導体により構成された進行波電極とを具備し、前記基板における前記バッファ層が形成される側の表面が平坦である光変調器において、前記第1の光導波路の上方に前記中心導体を、前記第2の光導波路の上方に前記第1の接地導体をそれぞれ有し、前記第1の接地導体が、前記第2の光導波路直上ではない位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第1の位置を有し、前記第2の接地導体が、前記中心導体の中心線に対して前記第1の位置と対称となる位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第2の位置を有し、前記第1の位置および前記第2の位置のうちのいずれか一方の位置に導体が欠落した部位を具備し、他方の位置に前記接地導体が前記中心導体の厚みよりも薄い厚さで全面に形成されていることを特徴とする。
【0027】
本発明の請求項3の光変調器は、電気光学効果を有する基板と、前記基板に形成された第1の光導波路と第2の光導波路からなる光導波路と、前記基板の上に形成されたバッファ層と、該バッファ層の上方に配置された中心導体および該中心導体を挟むよう配置される第1の接地導体と第2の接地導体からなる接地導体により構成された進行波電極とを具備し、前記基板における前記バッファ層が形成される側の表面が平坦である光変調器において、前記第1の光導波路の上方に前記中心導体を、前記第2の光導波路の上方に前記第1の接地導体をそれぞれ有し、前記第1の接地導体が、前記第2の光導波路直上ではない位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第1の位置を有し、前記第2の接地導体が、前記中心導体の中心線に対して前記第1の位置と対称となる位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第2の位置を有し、前記第1の位置および前記第2の位置のうちのいずれか一方の位置に導体が欠落した部位を具備し、他方の位置に前記接地導体が前記中心導体の厚みよりも薄い厚さで少なくとも一部に形成されていることを特徴とする。
【0028】
本発明の請求項4の光変調器は、電気光学効果を有する基板と、前記基板に形成された第1の光導波路と第2の光導波路からなる光導波路と、前記基板の上に形成されたバッファ層と、該バッファ層の上方に配置された中心導体および該中心導体を挟むよう配置される第1の接地導体と第2の接地導体からなる接地導体により構成された進行波電極とを具備し、前記基板における前記バッファ層が形成される側の表面が平坦である光変調器において、前記第1の光導波路の上方に前記中心導体を、前記第2の光導波路の上方に前記第1の接地導体をそれぞれ有し、前記第1の接地導体が、前記第2の光導波路直上ではない位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第1の位置を有し、前記第2の接地導体が、前記中心導体の中心線に対して前記第1の位置と対称となる位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第2の位置を有し、前記第1の位置および前記第2の位置に前記接地導体が前記中心導体の厚みよりも薄い厚さで全面に形成されていることを特徴とする。
【0029】
本発明の請求項5の光変調器は、高周波電気信号の電磁界が小さくなった領域における前記接地導体の少なくとも一部の厚みを、当該領域以外の領域における接地導体の厚みよりも少なくとも一部で薄くしたことを特徴とする。
【0030】
本発明の請求項6の光変調器は、前記中心導体に相対向する接地導体が前記中心導体もしくは前記接地導体の少なくとも一部とほぼ同じ厚みを持つことを特徴とする。
【0031】
本発明の請求項7の光変調器は、前記中心導体に相対向する接地導体に隣接する前記接地導体が前記中心導体もしくは前記接地導体の少なくとも一部とほぼ同じ厚みを持つことを特徴とする。
【0032】
本発明の請求項8の光変調器は、高周波電気信号の電磁界が小さくなった領域における前記接地導体の少なくとも一部の厚みを薄くした領域における前記接地導体の体積と面積の比を、前記厚みが厚い部位における前記接地導体の体積と面積の比よりも小さくしたことを特徴とする。
【0033】
本発明の請求項9の光変調器は、前記基板がリチウムナイオベートからなることを特徴とする。
【0034】
本発明の請求項10の光変調器は、前記基板が半導体からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係る光変調器では、LN光変調器の環境温度が変化した際に、2本の相互作用光導波路の上には各々ほぼ同様の構造からなる中心導体と接地導体の一部が形成されており、対称性の観点から温度ドリフト特性が良い。また、電極とLN基板の材料としての熱膨張係数の差に起因する応力が接地導体の下方にある相互作用光導波路のみならず、相互作用光導波路が形成されていない側の接地導体が中心導体側の光導波路に及ぼす応力をも緩和することにより、熱ドリフトが小さなLN光変調器を提供することが可能となるという優れた効果がある。そして、中心導体と接地導体からなる進行波電極を中心導体の中心線に対して対称とすることにより、高周波電気信号が安定で低損失に伝搬することが可能となる。さらに、接地導体において高周波電気信号の電磁界が小さくなった領域の導体の厚みを薄くすることにより、貴金属である高価なAuの使用量が少なくて済むのでLN光変調器としてのコストを抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1の実施形態に係わる光変調器の概略構成を示す上面図
【図2】図1のC−C´における断面図
【図3】本発明の第1の実施形態の効果を説明する図
【図4】本発明の第2の実施形態に係わる光変調器の概略構成を示す上面図
【図5】図4のD−D´における断面図
【図6】図4のE−E´における断面図
【図7】本発明の第2の実施形態の効果を説明する図
【図8】本発明の第3の実施形態に係わる光変調器の概略構成を示す上面図
【図9】図8のF−F´における断面図
【図10】図8のG−G´における断面図
【図11】本発明の第4の実施形態に係わる光変調器の概略構成を示す上面図
【図12】図11のH−H´における断面図
【図13】図11のI−I´における断面図
【図14】本発明の第5の実施形態に係わる光変調器の概略構成を示す断面図
【図15】本発明の第5の実施形態に係わる光変調器の概略構成を示す断面図
【図16】本発明の第6の実施形態に係わる光変調器の概略構成を示す上面図
【図17】図16のJ−J´における断面図
【図18】図16のK−K´における断面図
【図19】本発明の第7の実施形態に係わる光変調器の概略構成を示す上面図
【図20】図19のL−L´における断面図
【図21】図19のM−M´における断面図
【図22】本発明の第8の実施形態に係わる光変調器の概略構成を示す上面図
【図23】本発明の第8の実施形態に係わる光変調器の構造を説明する図
【図24】本発明の第9の実施形態に係わる光変調器の概略構成を示す上面図
【図25】第1の従来技術の光変調器についての概略構成を示す斜視図
【図26】図25のA−A´における断面図
【図27】第2の従来技術の光変調器についての概略構成を示す上面図
【図28】図27のB−B´における断面図
【図29】第1の従来技術と第2の従来技術についての温度ドリフト特性を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態について説明するが、図25から図28に示した従来技術と同一の符号は同一機能部に対応しているため、ここでは同一の符号を持つ機能部の説明を省略する。
【0038】
(第1の実施形態)
図1に本発明の第1の実施形態についてその上面図を示す。また、C−C´における断面図を図2に示す。ここで、4b(4)、4b(6)、及び4c(4)、4c(6)はそれらの厚みが約30μmと厚い接地導体である。また、接地導体4b(5)と4c(5)はそれらの厚みが300nmと薄い接地導体(あるいは、接続用接地導体とも言う)である。接地導体4b(5)の厚みが薄い理由は第2の従来技術と同じであり、図26における厚みが厚い接地導体4bが相互作用光導波路3aに与える応力を緩和するためである。
【0039】
本実施形態では、中心導体4aに相対向する接地導体4b(4)、4c(4)が中心導体4aや接地導体4b(6)、4c(6)とほぼ同じ厚みを有しているが、本発明の原理はこの限りではない場合にも適用可能である。
【0040】
さらに、本実施形態では相互作用光導波路が形成されていない側の接地導体(図26に示す第1の従来技術や図28に示す第2の従来技術における4c)に厚みが薄い接地導体4c(5)を形成している。つまり、厚くて広い接地導体4c(6)が中心導体4aの下方にある相互作用光導波路3bへ及ぼす応力の影響を小さくするために接地導体4c(5)の厚みを薄くしている。ここで、接地導体4b(5)と4c(5)の幅Wwは中心導体4aと接地導体4b、4c間のギャップWと同じ15μmとした。4b(5)と4c(5)は各々厚い接地導体4b(4)と4b(6)、及び厚い接地導体4c(4)と4c(6)を接続しているので広い意味で接続用接地導体と考えることができる。
【0041】
ここで、中心線Vは相互作用光導波路3aと3bに対する対称軸であり(先に述べたように、中心導体4aと接地導体4b(4)が中心線Vに対し対称であると解釈する)、中心導体4aの中心線VIは進行波電極の対称軸である。
【0042】
図3には環境温度Tを20℃から80℃まで変化させた場合における本発明の第1の実施形態についての実験結果を示す。比較のために、図には第1の従来技術と第2の従来技術についての測定結果も示している。図からわかるように、本実施形態を採用することにより、第2の従来技術よりも温度ドリフトを抑えることができた。
【0043】
また、進行波電極が中心導体4aの中心線VIに対して厳密に対称でないと本発明の効果を発揮できないかというとそれは正しくない。接地導体4b(4)と4c(4)の幅はその少なくとも一方が中心導体4aの幅と異なっていても良く、これを含めて進行波電極に関する構造を中心線VIに対して対称(あるいは、実質的にほぼ対称)としている。そしてこの実質的な対称性については本発明の全ての実施形態について言える。つまり、中心導体4aと接地導体4b(4)の幅が異なっていても、相互作用光導波路3aと3bにとっては実質的にほぼ対称とみなすことができる。
【0044】
(第2の実施形態)
図4に本発明の第2の実施形態についての上面図を示す。ここで、図4のD−D´とE−E´における断面図を図5と図6に示す。また、11aと11bは接地導体4b(7)と4b(9)、あるいは4c(7)と4c(9)の間に設けた幅Wwで長さLwの空隙部であり、導体が欠落している。また、接地導体4b(7)と4b(9)を電気的に接続する接地導体(あるいは、接続用接地導体)4b(8)の幅と長さは各々幅Wwと長さLeである。
【0045】
接地導体4b(9)はその厚みが例えば30μmと厚く、かつその幅も数百ミクロンから数ミリメートルのオーダーと広い。従って、前述のようにLN光変調器の環境温度が変化した場合には接地導体4b(9)とz−カットLN基板1の大きな熱膨張係数の差に起因して応力が発生する。ここで、中心線Vは相互作用光導波路3aと3bに対する対称軸であり(つまり、中心導体4aと接地導体4b(7)が中心線Vに対し対称であることを意味している)、中心導体4aの中心線VIは進行波電極の対称軸である。
【0046】
さて、本実施形態では図4や図5に示すように空隙部11a、11bを設けている。従って、第2の従来技術や本発明における第1の実施形態と異なり、相互作用部の長手方向全域にわたって厚みが薄い接地導体(あるいは、接続用接地導体)4b(8)が厚い接地導体4b(7)を押すことはない。さらに、相互作用光導波路3aが形成されていない側の接地導体4c(9)に発生した応力が相互作用光導波路3bに加わることも抑圧できる。なお、本発明としての効果はやや薄れるものの導体の欠落部11bはなくても良い(つまり、11bの箇所には底面全面に厚みが薄い接地導体4c(8)があっても良い)。
【0047】
ここで、空隙部11aと11bの幅Wwが15μmで、それらの長さLwと接地導体4b(8)の長さLeが各々1mmと100μmの場合について環境温度Tを20℃から80℃まで変化させた場合における本発明の第2の実施形態についての実験結果を図7に示す。同じく比較のために、図7には第1の従来技術と第2の従来技術についての測定結果も示している。図7からわかるように、本実施形態を採用することによりDCバイアスの変化が僅か0.1V以下となり、温度ドリフト特性を大幅に改善することができた。
【0048】
なお、空隙部11aと11bの長さLwと接地導体4b(8)の長さLeは各々30μm〜3mm、及び5μm〜500μm程度まで変化させても効率よく温度ドリフトを抑圧できた。
【0049】
先に述べたように図28に示した第2の従来技術の相互作用部においては、中心導体4aの中心線に対して中心導体4aと接地導体4b´4b´´4b´´´からなる進行波電極は非対称に配置されていたため、高周波電気信号はコネクタや入力用フィードスルー部の対称モードから相互作用部の非対称モードにモード変換されねばならず、電磁界の安定性と伝搬損失の観点から問題があった。
【0050】
一方、本実施形態における進行波電極は中心導体4aの中心線VIを対称軸とする構造対称性を有しているのでその問題は解決された。つまり、進行波電極の構造が対称であるということは、進行波電極を伝搬する高周波電気信号の電磁界分布も対称であることを意味している。従って、前述の第2の従来技術では必要であったコネクタや入力用フィードスルー部の対称な高周波電気信号の対称モードから進行波電極の非対称モードへの変換が不要となるので、高周波電気信号を安定、かつ低損失に伝搬することが可能となる。
【0051】
以上のように、本実施形態では進行波電極に関する構造を中心導体の中心線(あるいは対称軸)VIについて対称とすることにより、第2の従来技術のような非対称な場合と比較して、高周波電気信号のモードを安定させ、かつ低損失に伝搬させている。
【0052】
(第3の実施形態)
図8に本発明の第3の実施形態についての上面図を示す。また、F−F´、G−G´における断面図を図9と図10に示す。同様に、中心線Vは相互作用光導波路3aと3bに対する対称軸であり(即ち、中心導体4aと接地導体4b(7)が中心線Vに対して対称であり)、中心導体4aの中心線VIは進行波電極の対称軸である。図9において厚みが薄い接地導体4c(5)があることからわかるように、本実施形態は第2の実施形態ほどには効果的ではないものの、本発明としての効果を発揮することができる。なお、4b(8)は接続用接地導体である。また、4c(5)も厚い接地導体4c(4)と4c(6)を接続しているので広い意味で接続用接地導体と考えることもできる。
【0053】
次に、これまでの実施形態と同様に、高周波電気信号の電磁界分布の観点から考察する。進行波電極において重要となる基本的な構成要素は中心導体4aと接地導体4b(7)、4b(9)、4c(4)、4c(6)である。そして、図9からわかるように、接地導体4c(5)の厚みは薄い。中心導体4aと接地導体4b(7)、4b(9)、4c(4)、4c(5)、4c(6)からなる進行波電極は中心導体4aの中心に引いた中心線VIに対して実質的にほぼ対称となっており、この中心線は進行波電極の対称軸と言える。なお、本実施形態の図10では、この対称性はさらに接地導体4b(8)と4c(5)を含めて考えても成り立っている。このように、本実施形態では進行波電極が中心導体4aの中心線VIを対称軸とする構造対称性を有しているので、その構造対称性を有しない図28に示した第2の従来技術よりも、コネクタや入力用フィードスルー部の対称な電磁界を安定、かつ低損失に伝搬することができる。
【0054】
(第4の実施形態)
図11に本発明の第4の実施形態についてその上面図を示す。また、H−H´、I−I´における断面図を各々図12と図13に示す。ここで、11aと11bは空隙部である。なお、4b(34)、4b(35)、4b(36)、4c(34)、4c(35)、4c(36)は接地導体である。接地導体4b(35)は接地導体4b(34)と4b(36)を、また接地導体4c(35)は接地導体4c(34)と4c(36)を接続している(接地導体4b(35)と4c(35)は接続用接地導体とも呼ばれる)。
【0055】
本実施形態において重要な点は、高周波電気信号としての表皮効果の影響を受けにくいように、接続用接地導体である接地導体4b(35)と4c(35)の厚みを厚くしていることである。また、10aと10bは接地導体において高周波電気信号の強度が小さくなった部位であり、外周部と呼ぶ。空隙部11aと11bは接地導体において導体が欠落した部位(あるいは、接地導体に開けた窓)とも言える。本実施形態では接続用接地導体である接地導体4b(35)と4c(35)の厚みを中心導体4aの程度まで厚くしているが、本発明の原理はこれに限るものではない。
【0056】
ここで、図12においてVは相互作用光導波路3aと3bの中間に設けた中心線であり、相互作用光導波路3aと3bはこの中心線Vに対して対称な構造となっている。従って、中心線Vは光導波路についての対称軸と言える(つまり、先に述べたように、中心線Vは中心導体4aと4b(34)に対する対称軸となっている)。これにより、焦電効果による電荷分布、即ち電界分布も中心線Vに対して対称となるので、環境変化に伴う温度ドリフトについては極めて安定な特性を実現できる。
【0057】
そして、実際に本実施形態において、空隙部11aと11bの幅Wwと長さLw、及び接地導体4b(35)の長さLeを第2の実施形態と同じにした場合(Ww=15μm、Lw=1mm、Le=100μm)、図7に示した本発明の第2の実施形態と同等の優れた温度ドリフト特性を実現できた。なお、空隙部11aと11bの長さLwと接地導体4b(35)の長さLeは各々30μm〜3mm、及び5μm〜500μm程度まで変化させても効率よく温度ドリフトを抑圧できることも第2の実施形態とほぼ同じであった。
【0058】
次に、高周波電気信号の電磁界分布の観点から考察する。図12と図13からわかるように、中心導体4aの中心に引いた中心線VIは中心導体4aと接地導体4b(34)、4b(36)、4c(34)、4c(36)からなる進行波電極の対称軸となっている。なお、本実施形態では、この対称性はさらに接続用接地導体4b(35)と4c(35)を含めて考えても成り立っている。つまり、本実施形態における進行波電極は中心導体4aの中心に引いた中心線VIに対して完全に対称となっている。なお、接続用接地導体4b(35)と4c(35)が図11において、相互作用光導波路3a、3bの長手方向に互いにずれていても良いことは言うまでもなく、そのような非対称性を有する構造については後で議論する。
【0059】
このように、本実施形態における進行波電極は中心導体4aの中心線VIを対称軸とする構造対称性を有している。進行波電極の構造が対称であるということは、進行波電極を伝搬する高周波電気信号の電磁界分布も対称であることを意味している。従って、図28に示した第2の従来技術では必要であったコネクタや入力用フィードスルー部の対称な高周波電気信号の対称モードから進行波電極の非対称モードへの変換が不要となるので、高周波電気信号を安定、かつ低損失に伝搬することが可能となる。
【0060】
さらに、本実施形態では接続用接地導体である接地導体4b(35)と4c(35)の厚みを厚くしているので、高周波電気信号としての表皮効果の影響を受けにくい。従って、図1と図2に示した本発明の第1の実施形態や図4から図6に示した本発明の第2の実施形態、あるいは図8〜図10に示した本発明の第3の実施形態よりも高速光変調が可能であった。
【0061】
以上のように、本実施形態では2本の相互作用光導波路に対する中心導体と、接地導体側の光導波路に直近の接地導体を2本の相互作用光導波路の中間に設けた中心線Vについて対称とするとともに、進行波電極に関する構造を中心導体の中心線VIについて対称とすることにより、それらの対称性を有しない場合と比較して、環境温度変化に伴う温度ドリフトを抑圧し、かつ高周波電気信号のモードを安定に、かつ低損失に伝搬させている。さらに第2の実施形態よりも高速変調が可能となり、本実施形態により優れた光変調器を実現できた。
【0062】
さて、進行波電極が相互作用光導波路3aと3bの中間に設けた中心線Vに対して厳密に対称でないと本発明の効果を発揮できないかというとそれは正しくない。接地導体4b(34)の幅は中心導体4aの幅と数μm異なっていても良く、これを含めて相互作用光導波路3a、3bの中間に設けた中心線Vに対して相互作用光導波路3a、3bの上にある中心導体と接地導体が対称である(あるいは、実質的にほぼ対称)としている。また、同様に進行波電極の構造が中心線VIに対して厳密に対称でなくても本発明の効果を発揮できる。そしてこれらのことは本発明の全ての実施形態について言える。
【0063】
(第5の実施形態)
本発明の第5の実施形態について、図12や図13の断面図と同様の断面図を図14と図15に示す。ここで、11aは空隙部である。なお、4b(34)、4b(35)、4b(36)、4c(4)、4c(5)、4c(6)は接地導体である。接地導体4b(35)は接地導体4b(34)と4b(36)を、また接地導体4c(35)は接地導体4c(4)と4c(6)を接続する接続用接地導体である。進行波電極において重要となる基本的な構成要素は中心導体4aと接地導体4b(34)、4b(36)、4c(4)、4c(6)である。従って、本実施形態においても図14において相互作用光導波路3aと3bは中心線Vに対して対称であり(つまり、中心線Vは中心導体4aと接地導体4b(34)に対して対称)、進行波電極は中心導体4aの中心線VIに対してほぼ対称である。なお、接地導体4c(35)も厚い接地導体4c(4)と4c(6)を接続しているので、接続用接地導体とも言える。なお、図14において接地導体4c(5)はその厚みが薄いとは言え、その材料は電気抵抗の小さなAuであるので、高速光変調の観点からは図11〜図13に示した第4の実施形態よりやや有利である。以上のように、この第5の実施形態においても、温度ドリフトを抑圧しつつ、高周波特性の優れたLN光変調器を実現できる。
【0064】
(第6の実施形態)
図16には本発明における第6の実施形態の上面図を示す。また、図16のJ−J´とK−K´での断面図を各々図17と図18に示す。これらの図からわかるように、この第6の実施形態では第1から第5の実施形態での工夫に加え、使用する貴金属であるAuの量を減らしている。
【0065】
つまり、高周波電気信号の伝搬ロスの増加を防ぐという観点からは、厚みが厚い接地導体4b(12)や4c(12)の幅は数十〜100μm程度あれば充分である。従って、それ以上広い領域に相当する外周部10aや10bの上方にある接地導体4b(13)や接地導体4c(13)の厚みを薄くしている。
【0066】
そして、外周部10aや10bの上方にある接地導体4b(13)や4c(13)の厚みを薄くすることにより、2つの利点が生じる。まず、接地導体4b(13)や4c(13)からの応力が著しく減るので、温度ドリフトの観点から有利である。次に、高価なAuの使用量を減らし、LN光変調器の原価を低減することができる。なお、厚みは薄いものの面積が広い接地導体4b(13)と4c(13)は高周波電気信号の観点からしっかりとした電気的アースの確立と電気的アースである筐体とのワイヤやリボンによる接続の観点から有利である。そして、このことは本発明の全ての実施形態について言える。
【0067】
この時、外周部10a、10bにおける接地導体の体積と面積の比がその他の領域における接地導体の体積と面積の比よりも小さくなるようにすれば、高価なAuの使用量を著しく低減できるのでLN光変調器の原価を低減する効果が著しい。なお、接地導体4b(13)と接地導体4c(13)のどちらか一方のみの厚みを薄くしても良いことは言うまでもない。そして、上記の厚みが厚い接地導体の幅や外周部における接地導体の体積と面積の比についての考え方は本発明の全ての実施形態に当てはまる。
【0068】
(第7の実施形態)
図19には本発明における第7の実施形態の上面図を示す。また、図19のL−L´とM−M´での断面図を各々図20と図21に示す。ここで、4b(44)、4b(45)、4b(46)、4b(47)、4c(44)、4c(45)、4c(46)、4c(47)は接地導体である。また、この中で4b(45)は接地導体4b(44)と4b(46)を接続し、4c(45)は接地導体4c(44)と4c(46)を接続する接続用接地導体である。
【0069】
これらの図からわかるように、この第7の実施形態では第6の実施形態と同様に、外周部10aや10bの上方にある接地導体4c(47)や接地導体4b(47)の厚みを薄くしている。そして、これにより第6の実施形態と同じ効果、即ちまず、接地導体4b(47)や4c(47)からの応力が著しく減ることによる温度ドリフトの改善と、高価なAuの使用量を減らすことによる原価の低減である。
【0070】
この時、外周部10a、10bにおける接地導体の体積と面積の比がその他の領域における接地導体の体積と面積の比よりも小さくなるようにすれば、高価なAuの使用量を著しく低減できるのでLN光変調器の原価を低減する効果が著しい。なお、接地導体4c(47)と接地導体4b(47)のどちらか一方のみの厚みを薄くしても良いことは言うまでもない。そして、上記の厚みが厚い接地導体の幅や外周部における接地導体の体積と面積の比についての考え方は本発明の全ての実施形態に当てはまる。
【0071】
(第8の実施形態)
図22には本発明における第8の実施形態の上面図を示す。なおこの図22は図1に示した第1の実施形態、図4に示した第2の実施形態、図8に示した第3の実施形態、図11に示した第4の実施形態などを含むが、これら以外の構造も示しているので、ここでは第8の実施形態として説明する。図23(a)には図22における2つの領域4b(51)と11fを(a)〜(d)として示している。図23(a)からわかるように、4b(51)は厚い接続用接地導体もしくは薄い接続用接地導体を、また11fは薄い接地導体もしくは空隙部を示している。一方、図23(b)には図22における2つの領域4c(51)と11gの形態を(e)〜(h)として示している。図23(b)からわかるように、4c(51)は厚い接続用接地導体もしくは薄い接続用接地導体を、また11fは薄い接地導体もしくは空隙部を示している。
【0072】
つまり、この第8の実施形態は4b(51)と11fを図23(a)における(a)〜(d)の中の(少なくとも)1つから選択し、4c(51)と11gを図23(b)における(e)〜(h)の中の(少なくとも)1つから選択し、互いに組み合わせたものである。但し、前述のように第8の実施形態は前述の実施形態を含んでいる。ちなみに、図1〜図3で説明した第1の実施形態は図23(a)の(a)と図23(b)の(e)の組み合わせ、図4〜図6で説明した第2の実施形態は図23(a)の(c)と図23(b)の(g)の組み合わせ、図8〜図10で説明した第3の実施形態は図23(a)の(c)と図23(b)の(e)の組み合わせ、図11〜図13で説明した第4の実施形態は図23(a)の(d)と図23(b)の(h)の組み合わせ、図14、図15で説明した第5の実施形態は図23(a)の(d)と図23(b)の(f)の組み合わせである。
【0073】
勿論、図23(a)の(a)〜(d)と図23(b)の(e)〜(h)が位置的に入れ替わっても良い(つまり、例えば図9と図10において、中心導体4aの中心線VIを対称軸として、進行波電極の構造を左右入れ替えても良い)。また、図23(a)の(a)〜(d)の2種類以上と図23(b)の(e)〜(h)の2種類以上を組み合わせても良いことは言うまでもない。
【0074】
そして、第8の実施形態は接続用接地導体、空隙部、あるいは薄い接地導体などが中心導体4aの中心線VIに対して左右が非対称な構造も含んでいる。但し、進行波電極において重要となる基本的な構成要素は中心導体4aと接地導体4b(4)、4b(6)、4c(4)、4c(6)である。従って、本実施形態においても進行波電極の基本的な構成要素は中心導体4aの(図22では不図示の)中心線に対して対称な構造となっている。従って、温度ドリフトを抑圧しつつ、高周波特性の優れたLN光変調器を実現できる。
【0075】
また、以上の説明においては、本発明の原理の説明を簡単にするために、薄い接地導体もしくは空隙部11fの幅Wwと長さLwが、薄い接地導体もしくは空隙部11gの幅Ww´と長さLw´と各々等しく、また厚い接続用接地導体もしくは薄い接続用接地導体4b(51)の長さLeと厚い接続用接地導体もしくは薄い接続用接地導体4c(51)の長さLe´も等しいと仮定したが、本発明はこれに限るものではない。
【0076】
さらに、薄い接地導体もしくは空隙部11fや厚い接続用接地導体もしくは薄い接続用接地導体4b(51)の個数と、薄い接地導体もしくは空隙部11gや、厚い接続用接地導体もしくは薄い接続用接地導体4c(51)の個数が各々異なっていても良い。そして、このことは本発明の全ての実施形態について言える。なお、以上に述べた接地導体(あるいは、接続用接地導体)や空隙部の長さや幅は相互作用光導波路3a、3bの長さ方向に対するものとする。
【0077】
また、第6の実施形態や第7の実施形態と同じく、不図示の外周部10aや10bの上方にある接地導体の厚みを薄くすることにより、これらの実施形態と同じ効果、即ち温度ドリフトの改善と、高価なAuの使用量を減らすことによる原価の低減を得ることができる。
【0078】
この時、不図示の外周部10a、10bにおける接地導体の体積と面積の比がその他の領域における接地導体の体積と面積の比よりも小さくなるようにすれば、高価なAuの使用量を著しく低減できるのでLN光変調器の原価を低減する効果が著しい。
【0079】
(第9の実施形態)
図24は本発明における第9の実施形態の上面図を示している。図22に示した第8の実施形態と比較するとわかるように、本実施形態では薄い接地導体もしくは空隙部11fと薄い接地導体もしくは空隙部11gとが、また厚い接続用接地導体もしくは薄い接続用接地導体4b(51)と4c(51)とが相互作用光導波路3a、3bの方向に互いにずれている。
【0080】
なお、この第9の実施形態のように、中心導体4aの不図示の中心線VIに対して進行波電極の薄い接地導体や空隙部、あるいは接続用接地導体などの電極構成要素が相互作用光導波路3a、3bの長手方向にずれても良いという考え方は本発明の全ての実施形態について言うことができる。ここで、相互作用光導波路3a、3bの長手方向にずれても良い進行波電極の構成要素とは、例えば第9の実施形態では薄い接地導体もしくは空隙部11f、11g、あるいは厚い接続用接地導体もしくは薄い接続用接地導体4b(51)と4c(51)であるが、本実施形態に限らず本発明では薄い接地導体、空隙部、厚い接続用接地導体、あるいは薄い接続用接地導体などを指すものとする。
【0081】
また、本発明のその他の実施形態と同じく、この第9の実施形態においても、図24における中心導体4aの(図24では不図示の)中心線の左右で、薄い接地導体もしくは空隙部11f、11gとを互いに入れ替える、あるいは厚い接続用接地導体もしくは薄い接続用接地導体4b(51)と4c(51)とを互いに入れ替えても良いことは言うまでもない。
【0082】
(各実施形態)
分岐光導波路の例としてマッハツェンダ光導波路を用いたが、方向性結合器などその他の分岐合波型の光導波路にも本発明を適用可能であることは言うまでもなく、考え方は3本以上の光導波路にも適用可能である。また光導波路の形成法としてはTi熱拡散法の他に、プロトン交換法など光導波路の各種形成法を適用できるし、バッファ層としてAl2O3等のSiO2以外の各種材料も適用できる。
【0083】
また、z−カットLN基板について説明したが、x−カットやy−カットなどその他の面方位のLN基板でも良いし、リチウムタンタレート基板、さらには半導体基板など異なる材料の基板でも良い。
【0084】
また、図13に示した第4の実施形態、図15に示した第5の実施形態、あるいは図21に示した第7の実施形態では、接続用接地導体が中心導体の厚み程度に厚いとして説明したが、接続用接地導体の厚みが一様でなくても良いことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上のように、本発明に係る光変調器は、プレーナ型の光変調器において、中心導体と光導波路に直近の接地導体を光導波路に対称に配置するとともに、進行波電極を中心導体の中心線に対して対称とすることにより、さらには広い面積の接地導体の厚みを薄くすることにより、温度ドリフト特性と高速光変調特性が優れた、またコストを低減した光変調器として有用である。
【符号の説明】
【0086】
1:z−カットLN基板(LN基板)
2:SiO2バッファ層(バッファ層)
3:マッハツェンダ光導波路(光導波路)
3a、3b:マッハツェンダ光導波路を構成する相互作用光導波路
4:進行波電極
4a:中心導体
4b、4b´、4b´´、4b´´´、4b(4)、4b(5)、4b(6)、4b(7)、4b(8)、4b(9)、4b(10)、4b(11)、4b(12)、4b(13)、4b(34)、4b(35)、4b(36)、4b(44)、4b(45)、4b(46)、4b(47)、4b(51)、4c、4c(4)、4c(5)、4c(6)、4c(7)、4c(8)、4c(9)、4c(10)、4c(11)、4c(12)、4c(13)、4c(34)、4c(35)、4c(36)、4c(44)、4c(45)、4c(46)、4c(47)、4c(51):接地導体
5:Si導電層
6:高周波(RF)電気信号給電線
7:高周波(RF)電気信号出力線
10a、10b:外周部
11a、11b:空隙部(導体が欠落した部位)
11f、11g:薄い接地導体もしくは空隙部(導体が欠落した部位)
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学効果を利用して、光導波路に入射した光を高周波電気信号で変調して光信号パルスとして出射する光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速、大容量の光通信システムが実用化されている。このような高速、大容量の光通信システムに組込むための高速、小型、低価格、かつ高安定な光変調器の開発が求められている。
【0003】
このような要望に応える光変調器として、リチウムナイオベート(LiNbO3)のように電界を印加することにより屈折率が変化する、いわゆる電気光学効果を有する基板(以下、LN基板と略す)に光導波路と進行波電極を形成した進行波電極型リチウムナイオベート光変調器(以下、LN光変調器と略す)がある。このLN光変調器は、その優れたチャーピング特性から2.5Gbit/s、10Gbit/sの大容量光通信システムに適用されている。最近はさらに40Gbit/sの超大容量光通信システムにも適用が検討されている。
【0004】
以下、従来、実用化され、又は提唱されてきたリチウムナイオベートの電気光学効果を利用したLN光変調器について説明する。
【0005】
(第1の従来技術)
図25は、z−カットLN基板を用いて構成した特許文献1に開示された第1の従来技術のLN光変調器(あるいは、プレーナ型LN光変調器)についての斜視図であり、図26は図25のA−A´線における断面図である。
【0006】
z−カットLN基板1に光導波路3が形成されている。この光導波路3は、金属Tiを1050℃で約10時間熱拡散して形成した光導波路であり、マッハツェンダ干渉系(あるいは、マッハツェンダ光導波路)を構成している。従って、光導波路3の電気信号と光が相互作用する部(相互作用部と言う)には2本の相互作用光導波路(あるいは、光導波路)3aと3b、つまりマッハツェンダ光導波路の2本のアームが形成されている。
【0007】
この光導波路3の上面にSiO2バッファ層2が形成され、このSiO2バッファ層2の上面に進行波電極4が形成されている。進行波電極4としては、1つの中心導体4aと2つの接地導体4b、4cを有するコプレーナウェーブガイド(CPW)を用いている。なお、通常、進行波電極4はAuにより形成されている。5はz−カットLN基板1を用いて製作したLN光変調器に特有の焦電効果に起因する温度ドリフトを抑圧するためのSi導電層である。なお、説明の簡単のために、図26においては図25には図示したSi導電層5を省略している。
【0008】
変調用の高周波(RF)電気信号をこの光変調器の高周波電気信号給電線6を介して中心導体4aと接地導体4bに供給すると、中心導体4aと接地導体4bの間に電界が印加される。z−カットLN基板1は電気光学効果を有するので、この電界により屈折率変化を生じ、2本の相互作用光導波路3a、3b(あるいは、光導波路3a、3bという)を伝搬する光の位相にずれが発生する。このずれがπになった場合、光導波路3のマッハツェンダ光導波路としての合波部において、高次モードを励振し、光はOFF状態になる。なお、7は高周波電気信号出力線であり、終端抵抗で置き換えても良い。
【0009】
図26からわかるように、図25に示した特許文献1の光変調器の特徴としては、1)中心導体4aの幅Sを相互作用光導波路3a、3bの幅とほぼ同じ6μm〜12μm程度としている、2)中心導体4aと接地導体4b、4c間のギャップWを例えば15μmと広くしている、さらに3)相互作用光導波路3a、3bを伝搬する光の中心導体4aと接地導体4b、4cからなる進行波電極4を構成する金属による吸収を抑えるためにのみ使用されてきたSiO2バッファ層2の比誘電率が4〜6と比較的低いことを利用して、SiO2バッファ層2の厚みDを400nm〜1.5μm程度と厚くすることにより、高周波電気信号のマイクロ波等価屈折率nmを低減して、相互作用光導波路3a、3bを導波する光の等価屈折率noに近づけるとともに、特性インピーダンスをなるべく50Ωに近づけている。また、図26に示した第1の従来技術では、特許文献2に開示された進行波電極4の厚みを場合によっては約30μmと厚くすることによりマイクロ波等価屈折率nmをよりいっそう低減して、光の等価屈折率noに近づけている。このように厚い進行波電極4は例えば10Gbit/s、あるいは40Gbit/sのような高速光変調には必須となる。この第1の従来技術は50Ω系の特性インピーダンスを有するLN光変調器としてブレークスルーとなり、広く使用されている。
【0010】
ところが、進行波電極4が例えば30μmと極めて厚い場合には、この第1の従来技術は焦電効果に起因する温度ドリフトの対策であるSi導電層5を具備していても、z−カットLN基板1と進行波電極4の熱膨張係数の差による応力に起因する温度ドリフトについて問題があることがわかった。
【0011】
以下にその原因について詳しく説明する。図26からわかるように、中心導体4aの直下の光導波路3bについては、接地導体4b、4cとは独立しているので、z−カットLN基板1の表面に平行な方向の応力は左右で均衡している。従って光導波路3bについて屈折率の変化を引き起こす実質的な応力は発生していないと考えてよい。
【0012】
ところが、相互作用光導波路3aについては、前述のように約30μmの厚い接地導体4bが相互作用光導波路3aの上方のみでなく、相互作用部から数十〜100μm以上離れた距離にある外周部10b(そして、外周部10aにも)とともに形成されている。そして、接地導体4bを構成するAuとz−カットLN基板1の熱膨張係数は互いに大きく異なる。さらに、z−カットLN基板1の幅は数ミリメートル(例えば、1mm〜5mm)と広い。一方、相互作用光導波路3a、3bのギャップは約15μm程度と狭いので、接地導体4bや4cの幅は各々z−カットLN基板1の幅の約半分と言えるくらいに広い(換言すると、外周部10aや10bが広い)。つまり、図26の接地導体4bの幅も広いので環境変化に起因する熱膨張や熱収縮などの応力が積み重なり、相互作用光導波路3aへかなり大きな応力がかかる。そしてこの応力は接地導体4bの厚みが厚いほど(つまり、接地導体4bの上面がz−カットLN基板1の上面から離れるほど)、モーメントとしてより大きな応力を作用する。
【0013】
(第2の従来技術)
この第1の従来技術の問題点を解決するために、特許文献3に開示された第2の従来技術に基づいて実際にLN光変調器を試作した。その試作したLN光変調器についてその上面図を図27に、またそのB−B´における断面図を図28に示す。これらの図からわかるように、この第2の従来技術では第1の従来技術として示した図26における接地導体4bをその厚みが厚い接地導体4b´、4b´´と約300nmと薄い接地導体4b´´´の3分割する構成としている。いわば、厚い接地導体4b´と4b´´を薄い接地導体4b´´´により接続する構造と言える。また、図28において中心線Vは相互作用光導波路3aと3bの中間に設けた中心線である。相互作用光導波路3aと3bは中心線Vに対して対称であり、中心線Vは中心導体4aと接地導体4b´に対して対称となっている。以下において、相互作用光導波路3aと3bが中心線Vに対称とは、相互作用光導波路3aと3bの中心線が、光導波路3bの上の中心導体4aと相互作用光導波路3aの上の接地導体(ここでは4b´)の対称軸であることを意味している。
【0014】
このように接地導体4b´´´の厚みを薄くすることにより接地導体4b´´´の上面とz−カットLN基板1の上面との距離が近くなる。従って、広い接地導体4b´´からの応力のモーメントを接地導体4b´に伝えることが少なくなり、相互作用光導波路3aに与える応力が小さくなる。その結果、温度ドリフトを改善できるという考え方である。
【0015】
図29には実際に試作したLN光変調器の環境温度Tを20℃から80℃まで変化させた場合のこの第2の従来技術による温度ドリフト改善の効果を環境温度Tに対するDCバイアス電圧の変化ΔVとして点線で示す。なお、相互作用部(前述のように、相互作用光導波路3aと3bを伝搬する光と高周波電気信号が相互作用する部位)の長さは3cmとした。図中、比較のために第2の従来技術の工夫を施さない第1の従来技術で製作したLN光変調器の温度ドリフト特性を破線で示している。なお、両者とも進行波電極4の厚みは30μmとした。
【0016】
図29からわかるように、環境温度Tを20℃から80℃まで変化させると、第1の従来技術では約4Vと大きな温度ドリフトを発生する。そして、第2の従来技術では1V弱の温度ドリフトに抑圧することができた。しかしながら、この第2の従来技術の工夫をしているにも関わらずLN光変調器に要求される温度ドリフトとしては1Vという値は実用の観点からまだ大きいと言わざるを得ず、解決すべき問題である。この大きな温度ドリフトは以下の要因により引き起こされていると考えられる。
【0017】
まず、第1の要因は高周波電気信号と相互作用光導波路3a、3bを伝搬する光とが速度整合に近づくようにと30μmまで厚くしたことにより発生した熱膨張や熱収縮に起因する大きな応力(モーメント)である。熱膨張や熱収縮に起因する応力は進行波電極4の厚みが厚いほど大きくなる。しかしながら、この厚い進行波電極4は高性能な光変調器を実現する上で必要なことであり、避けることはできない。
【0018】
次に、2つめの要因は接地導体側の相互作用光導波路に関連している。環境温度が変化したことにより面積が広くて厚い接地導体4b´´に生じた応力により、接地導体4b´´´は薄いながらも相互作用の長手方向全体にわたって接地導体4b´´の側面全体を押す。そのため、相互作用光導波路3aに応力を加えることになるので、その屈折率を変化させてしまう。
【0019】
そして、第3の要因は中心導体側の相互作用光導波路に関連している。つまり、接地導体4cが発生する応力の影響を中心導体4aの下方にある相互作用光導波路3bが受ける。そしてこの応力に起因する応力複屈折率により相互作用光導波路3bを伝搬する光の等価屈折率が変化し、熱ドリフトを生じる。
【0020】
さらに、高周波電気信号の低損失で安定な伝搬の観点からこの第2の従来技術は以下のように問題を有していることがわかる。図25に示すように、マイクロ波である高周波電気信号は高周波電気信号給電線6や不図示のコネクタを伝搬した後、進行波電極4に印加されるが、高周波電気信号給電線6と不図示のコネクタの電磁界分布は各々の中心導体に対して軸対称である。また、高周波電気信号給電線6に接続される不図示のコネクタと進行波電極4との接続部(入力用フィードスルー部と呼ばれる)においても高周波電磁界の電磁界分布は進行波電極4の中心導体(相互作用部の中心導体4aを不図示のコネクタの芯線との接続部まで延長した部位)に対して左右対称(つまり、基板表面方向に対して対称)である。
【0021】
しかしながら、この第2の従来技術では図28の中心導体4aの中心線に対して進行波電極の基本的な構成要素である接地導体4b´及び4b´´の組み合わせと接地導体4cが構造的に互いに左右非対称である。構造が左右非対称ということは電磁界分布も左右非対称となるので、入力用フィードスルー部における左右対称な電磁界分布と整合性が良くない。その結果、高周波電気信号が中心導体4a、接地導体4b´、4b´´´、4b´´、4cで構成される進行波電極4を伝搬する際に、対称な電磁界分布から非対称な電磁界分布に変換せねばならず、電磁界分布が安定しない、あるいは放射損失(または伝搬損失)が生じるなどの不都合が生じてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開平2−51123号公報
【特許文献2】特開平1−91111号公報
【特許文献3】特許第3660529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
以上のように、プレーナ型LN光変調器として提案された第1の従来技術では電極を構成するAuとz−カットLN基板との熱膨張係数の差に起因する接地導体からの応力が温度とともに最適DCバイアス点を変化させる温度ドリフトを生じた。この温度特性を改善するために提案された第2の従来技術においても、環境温度が変化したことにより面積が広くて厚い接地導体4b´´に生じた応力を接地導体4b´´´はその厚みが薄いながらも相互作用の長手方向全体にわたって接地導体4b´´の側面全体を押すので、結果的に相互作用光導波路3aに応力を加え、その屈折率を変化させてしまっていた。さらに、相互作用光導波路3a、3bが形成されていない接地導体4cが発生する応力が中心導体4aの下方にある相互作用光導波路4bに作用することによっても熱ドリフトが生じていた。さらに、第2の従来技術では進行波電極の相互作用部における進行波電極の構造が中心導体の中心線に対して非対称であった。従って、相互作用部における高周波電気信号の電磁界分布も非対称となった。その結果、入力用フィードスルー部の対称モードから相互作用部の非対称モードへの高周波電気信号のモード変換における安定な伝搬と低損失な伝搬という観点から不利であった。また、第1及び第2の従来技術とも厚くて広い接地導体を有するので、高価なAuの使用量が多く、LN光変調器としてのコストが上昇する一因となっていた。つまり、光変調器として温度安定化を実現でき、かつコストが低い光変調器の開発が急務となっていた。
【0024】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、光変調特性が高性能であるとともに、安定性とコストについて改善された光変調器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1の光変調器は、電気光学効果を有する基板と、前記基板に形成された第1の光導波路と第2の光導波路からなる光導波路と、前記基板の上に形成されたバッファ層と、該バッファ層の上方に配置された中心導体および該中心導体を挟むよう配置される第1の接地導体と第2の接地導体からなる接地導体により構成された進行波電極とを具備し、前記基板における前記バッファ層が形成される側の表面が平坦である光変調器において、前記第1の光導波路の上方に前記中心導体を、前記第2の光導波路の上方に前記第1の接地導体をそれぞれ有し、前記第1の接地導体が、前記第2の光導波路直上ではない位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第1の位置を有し、前記第2の接地導体が、前記中心導体の中心線に対して前記第1の位置と対称となる位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第2の位置を有し、前記第1の位置および前記第2の位置に導体が欠落した部位を具備することを特徴とする。
【0026】
本発明の請求項2の光変調器は、電気光学効果を有する基板と、前記基板に形成された第1の光導波路と第2の光導波路からなる光導波路と、前記基板の上に形成されたバッファ層と、該バッファ層の上方に配置された中心導体および該中心導体を挟むよう配置される第1の接地導体と第2の接地導体からなる接地導体により構成された進行波電極とを具備し、前記基板における前記バッファ層が形成される側の表面が平坦である光変調器において、前記第1の光導波路の上方に前記中心導体を、前記第2の光導波路の上方に前記第1の接地導体をそれぞれ有し、前記第1の接地導体が、前記第2の光導波路直上ではない位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第1の位置を有し、前記第2の接地導体が、前記中心導体の中心線に対して前記第1の位置と対称となる位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第2の位置を有し、前記第1の位置および前記第2の位置のうちのいずれか一方の位置に導体が欠落した部位を具備し、他方の位置に前記接地導体が前記中心導体の厚みよりも薄い厚さで全面に形成されていることを特徴とする。
【0027】
本発明の請求項3の光変調器は、電気光学効果を有する基板と、前記基板に形成された第1の光導波路と第2の光導波路からなる光導波路と、前記基板の上に形成されたバッファ層と、該バッファ層の上方に配置された中心導体および該中心導体を挟むよう配置される第1の接地導体と第2の接地導体からなる接地導体により構成された進行波電極とを具備し、前記基板における前記バッファ層が形成される側の表面が平坦である光変調器において、前記第1の光導波路の上方に前記中心導体を、前記第2の光導波路の上方に前記第1の接地導体をそれぞれ有し、前記第1の接地導体が、前記第2の光導波路直上ではない位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第1の位置を有し、前記第2の接地導体が、前記中心導体の中心線に対して前記第1の位置と対称となる位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第2の位置を有し、前記第1の位置および前記第2の位置のうちのいずれか一方の位置に導体が欠落した部位を具備し、他方の位置に前記接地導体が前記中心導体の厚みよりも薄い厚さで少なくとも一部に形成されていることを特徴とする。
【0028】
本発明の請求項4の光変調器は、電気光学効果を有する基板と、前記基板に形成された第1の光導波路と第2の光導波路からなる光導波路と、前記基板の上に形成されたバッファ層と、該バッファ層の上方に配置された中心導体および該中心導体を挟むよう配置される第1の接地導体と第2の接地導体からなる接地導体により構成された進行波電極とを具備し、前記基板における前記バッファ層が形成される側の表面が平坦である光変調器において、前記第1の光導波路の上方に前記中心導体を、前記第2の光導波路の上方に前記第1の接地導体をそれぞれ有し、前記第1の接地導体が、前記第2の光導波路直上ではない位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第1の位置を有し、前記第2の接地導体が、前記中心導体の中心線に対して前記第1の位置と対称となる位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第2の位置を有し、前記第1の位置および前記第2の位置に前記接地導体が前記中心導体の厚みよりも薄い厚さで全面に形成されていることを特徴とする。
【0029】
本発明の請求項5の光変調器は、高周波電気信号の電磁界が小さくなった領域における前記接地導体の少なくとも一部の厚みを、当該領域以外の領域における接地導体の厚みよりも少なくとも一部で薄くしたことを特徴とする。
【0030】
本発明の請求項6の光変調器は、前記中心導体に相対向する接地導体が前記中心導体もしくは前記接地導体の少なくとも一部とほぼ同じ厚みを持つことを特徴とする。
【0031】
本発明の請求項7の光変調器は、前記中心導体に相対向する接地導体に隣接する前記接地導体が前記中心導体もしくは前記接地導体の少なくとも一部とほぼ同じ厚みを持つことを特徴とする。
【0032】
本発明の請求項8の光変調器は、高周波電気信号の電磁界が小さくなった領域における前記接地導体の少なくとも一部の厚みを薄くした領域における前記接地導体の体積と面積の比を、前記厚みが厚い部位における前記接地導体の体積と面積の比よりも小さくしたことを特徴とする。
【0033】
本発明の請求項9の光変調器は、前記基板がリチウムナイオベートからなることを特徴とする。
【0034】
本発明の請求項10の光変調器は、前記基板が半導体からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係る光変調器では、LN光変調器の環境温度が変化した際に、2本の相互作用光導波路の上には各々ほぼ同様の構造からなる中心導体と接地導体の一部が形成されており、対称性の観点から温度ドリフト特性が良い。また、電極とLN基板の材料としての熱膨張係数の差に起因する応力が接地導体の下方にある相互作用光導波路のみならず、相互作用光導波路が形成されていない側の接地導体が中心導体側の光導波路に及ぼす応力をも緩和することにより、熱ドリフトが小さなLN光変調器を提供することが可能となるという優れた効果がある。そして、中心導体と接地導体からなる進行波電極を中心導体の中心線に対して対称とすることにより、高周波電気信号が安定で低損失に伝搬することが可能となる。さらに、接地導体において高周波電気信号の電磁界が小さくなった領域の導体の厚みを薄くすることにより、貴金属である高価なAuの使用量が少なくて済むのでLN光変調器としてのコストを抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1の実施形態に係わる光変調器の概略構成を示す上面図
【図2】図1のC−C´における断面図
【図3】本発明の第1の実施形態の効果を説明する図
【図4】本発明の第2の実施形態に係わる光変調器の概略構成を示す上面図
【図5】図4のD−D´における断面図
【図6】図4のE−E´における断面図
【図7】本発明の第2の実施形態の効果を説明する図
【図8】本発明の第3の実施形態に係わる光変調器の概略構成を示す上面図
【図9】図8のF−F´における断面図
【図10】図8のG−G´における断面図
【図11】本発明の第4の実施形態に係わる光変調器の概略構成を示す上面図
【図12】図11のH−H´における断面図
【図13】図11のI−I´における断面図
【図14】本発明の第5の実施形態に係わる光変調器の概略構成を示す断面図
【図15】本発明の第5の実施形態に係わる光変調器の概略構成を示す断面図
【図16】本発明の第6の実施形態に係わる光変調器の概略構成を示す上面図
【図17】図16のJ−J´における断面図
【図18】図16のK−K´における断面図
【図19】本発明の第7の実施形態に係わる光変調器の概略構成を示す上面図
【図20】図19のL−L´における断面図
【図21】図19のM−M´における断面図
【図22】本発明の第8の実施形態に係わる光変調器の概略構成を示す上面図
【図23】本発明の第8の実施形態に係わる光変調器の構造を説明する図
【図24】本発明の第9の実施形態に係わる光変調器の概略構成を示す上面図
【図25】第1の従来技術の光変調器についての概略構成を示す斜視図
【図26】図25のA−A´における断面図
【図27】第2の従来技術の光変調器についての概略構成を示す上面図
【図28】図27のB−B´における断面図
【図29】第1の従来技術と第2の従来技術についての温度ドリフト特性を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態について説明するが、図25から図28に示した従来技術と同一の符号は同一機能部に対応しているため、ここでは同一の符号を持つ機能部の説明を省略する。
【0038】
(第1の実施形態)
図1に本発明の第1の実施形態についてその上面図を示す。また、C−C´における断面図を図2に示す。ここで、4b(4)、4b(6)、及び4c(4)、4c(6)はそれらの厚みが約30μmと厚い接地導体である。また、接地導体4b(5)と4c(5)はそれらの厚みが300nmと薄い接地導体(あるいは、接続用接地導体とも言う)である。接地導体4b(5)の厚みが薄い理由は第2の従来技術と同じであり、図26における厚みが厚い接地導体4bが相互作用光導波路3aに与える応力を緩和するためである。
【0039】
本実施形態では、中心導体4aに相対向する接地導体4b(4)、4c(4)が中心導体4aや接地導体4b(6)、4c(6)とほぼ同じ厚みを有しているが、本発明の原理はこの限りではない場合にも適用可能である。
【0040】
さらに、本実施形態では相互作用光導波路が形成されていない側の接地導体(図26に示す第1の従来技術や図28に示す第2の従来技術における4c)に厚みが薄い接地導体4c(5)を形成している。つまり、厚くて広い接地導体4c(6)が中心導体4aの下方にある相互作用光導波路3bへ及ぼす応力の影響を小さくするために接地導体4c(5)の厚みを薄くしている。ここで、接地導体4b(5)と4c(5)の幅Wwは中心導体4aと接地導体4b、4c間のギャップWと同じ15μmとした。4b(5)と4c(5)は各々厚い接地導体4b(4)と4b(6)、及び厚い接地導体4c(4)と4c(6)を接続しているので広い意味で接続用接地導体と考えることができる。
【0041】
ここで、中心線Vは相互作用光導波路3aと3bに対する対称軸であり(先に述べたように、中心導体4aと接地導体4b(4)が中心線Vに対し対称であると解釈する)、中心導体4aの中心線VIは進行波電極の対称軸である。
【0042】
図3には環境温度Tを20℃から80℃まで変化させた場合における本発明の第1の実施形態についての実験結果を示す。比較のために、図には第1の従来技術と第2の従来技術についての測定結果も示している。図からわかるように、本実施形態を採用することにより、第2の従来技術よりも温度ドリフトを抑えることができた。
【0043】
また、進行波電極が中心導体4aの中心線VIに対して厳密に対称でないと本発明の効果を発揮できないかというとそれは正しくない。接地導体4b(4)と4c(4)の幅はその少なくとも一方が中心導体4aの幅と異なっていても良く、これを含めて進行波電極に関する構造を中心線VIに対して対称(あるいは、実質的にほぼ対称)としている。そしてこの実質的な対称性については本発明の全ての実施形態について言える。つまり、中心導体4aと接地導体4b(4)の幅が異なっていても、相互作用光導波路3aと3bにとっては実質的にほぼ対称とみなすことができる。
【0044】
(第2の実施形態)
図4に本発明の第2の実施形態についての上面図を示す。ここで、図4のD−D´とE−E´における断面図を図5と図6に示す。また、11aと11bは接地導体4b(7)と4b(9)、あるいは4c(7)と4c(9)の間に設けた幅Wwで長さLwの空隙部であり、導体が欠落している。また、接地導体4b(7)と4b(9)を電気的に接続する接地導体(あるいは、接続用接地導体)4b(8)の幅と長さは各々幅Wwと長さLeである。
【0045】
接地導体4b(9)はその厚みが例えば30μmと厚く、かつその幅も数百ミクロンから数ミリメートルのオーダーと広い。従って、前述のようにLN光変調器の環境温度が変化した場合には接地導体4b(9)とz−カットLN基板1の大きな熱膨張係数の差に起因して応力が発生する。ここで、中心線Vは相互作用光導波路3aと3bに対する対称軸であり(つまり、中心導体4aと接地導体4b(7)が中心線Vに対し対称であることを意味している)、中心導体4aの中心線VIは進行波電極の対称軸である。
【0046】
さて、本実施形態では図4や図5に示すように空隙部11a、11bを設けている。従って、第2の従来技術や本発明における第1の実施形態と異なり、相互作用部の長手方向全域にわたって厚みが薄い接地導体(あるいは、接続用接地導体)4b(8)が厚い接地導体4b(7)を押すことはない。さらに、相互作用光導波路3aが形成されていない側の接地導体4c(9)に発生した応力が相互作用光導波路3bに加わることも抑圧できる。なお、本発明としての効果はやや薄れるものの導体の欠落部11bはなくても良い(つまり、11bの箇所には底面全面に厚みが薄い接地導体4c(8)があっても良い)。
【0047】
ここで、空隙部11aと11bの幅Wwが15μmで、それらの長さLwと接地導体4b(8)の長さLeが各々1mmと100μmの場合について環境温度Tを20℃から80℃まで変化させた場合における本発明の第2の実施形態についての実験結果を図7に示す。同じく比較のために、図7には第1の従来技術と第2の従来技術についての測定結果も示している。図7からわかるように、本実施形態を採用することによりDCバイアスの変化が僅か0.1V以下となり、温度ドリフト特性を大幅に改善することができた。
【0048】
なお、空隙部11aと11bの長さLwと接地導体4b(8)の長さLeは各々30μm〜3mm、及び5μm〜500μm程度まで変化させても効率よく温度ドリフトを抑圧できた。
【0049】
先に述べたように図28に示した第2の従来技術の相互作用部においては、中心導体4aの中心線に対して中心導体4aと接地導体4b´4b´´4b´´´からなる進行波電極は非対称に配置されていたため、高周波電気信号はコネクタや入力用フィードスルー部の対称モードから相互作用部の非対称モードにモード変換されねばならず、電磁界の安定性と伝搬損失の観点から問題があった。
【0050】
一方、本実施形態における進行波電極は中心導体4aの中心線VIを対称軸とする構造対称性を有しているのでその問題は解決された。つまり、進行波電極の構造が対称であるということは、進行波電極を伝搬する高周波電気信号の電磁界分布も対称であることを意味している。従って、前述の第2の従来技術では必要であったコネクタや入力用フィードスルー部の対称な高周波電気信号の対称モードから進行波電極の非対称モードへの変換が不要となるので、高周波電気信号を安定、かつ低損失に伝搬することが可能となる。
【0051】
以上のように、本実施形態では進行波電極に関する構造を中心導体の中心線(あるいは対称軸)VIについて対称とすることにより、第2の従来技術のような非対称な場合と比較して、高周波電気信号のモードを安定させ、かつ低損失に伝搬させている。
【0052】
(第3の実施形態)
図8に本発明の第3の実施形態についての上面図を示す。また、F−F´、G−G´における断面図を図9と図10に示す。同様に、中心線Vは相互作用光導波路3aと3bに対する対称軸であり(即ち、中心導体4aと接地導体4b(7)が中心線Vに対して対称であり)、中心導体4aの中心線VIは進行波電極の対称軸である。図9において厚みが薄い接地導体4c(5)があることからわかるように、本実施形態は第2の実施形態ほどには効果的ではないものの、本発明としての効果を発揮することができる。なお、4b(8)は接続用接地導体である。また、4c(5)も厚い接地導体4c(4)と4c(6)を接続しているので広い意味で接続用接地導体と考えることもできる。
【0053】
次に、これまでの実施形態と同様に、高周波電気信号の電磁界分布の観点から考察する。進行波電極において重要となる基本的な構成要素は中心導体4aと接地導体4b(7)、4b(9)、4c(4)、4c(6)である。そして、図9からわかるように、接地導体4c(5)の厚みは薄い。中心導体4aと接地導体4b(7)、4b(9)、4c(4)、4c(5)、4c(6)からなる進行波電極は中心導体4aの中心に引いた中心線VIに対して実質的にほぼ対称となっており、この中心線は進行波電極の対称軸と言える。なお、本実施形態の図10では、この対称性はさらに接地導体4b(8)と4c(5)を含めて考えても成り立っている。このように、本実施形態では進行波電極が中心導体4aの中心線VIを対称軸とする構造対称性を有しているので、その構造対称性を有しない図28に示した第2の従来技術よりも、コネクタや入力用フィードスルー部の対称な電磁界を安定、かつ低損失に伝搬することができる。
【0054】
(第4の実施形態)
図11に本発明の第4の実施形態についてその上面図を示す。また、H−H´、I−I´における断面図を各々図12と図13に示す。ここで、11aと11bは空隙部である。なお、4b(34)、4b(35)、4b(36)、4c(34)、4c(35)、4c(36)は接地導体である。接地導体4b(35)は接地導体4b(34)と4b(36)を、また接地導体4c(35)は接地導体4c(34)と4c(36)を接続している(接地導体4b(35)と4c(35)は接続用接地導体とも呼ばれる)。
【0055】
本実施形態において重要な点は、高周波電気信号としての表皮効果の影響を受けにくいように、接続用接地導体である接地導体4b(35)と4c(35)の厚みを厚くしていることである。また、10aと10bは接地導体において高周波電気信号の強度が小さくなった部位であり、外周部と呼ぶ。空隙部11aと11bは接地導体において導体が欠落した部位(あるいは、接地導体に開けた窓)とも言える。本実施形態では接続用接地導体である接地導体4b(35)と4c(35)の厚みを中心導体4aの程度まで厚くしているが、本発明の原理はこれに限るものではない。
【0056】
ここで、図12においてVは相互作用光導波路3aと3bの中間に設けた中心線であり、相互作用光導波路3aと3bはこの中心線Vに対して対称な構造となっている。従って、中心線Vは光導波路についての対称軸と言える(つまり、先に述べたように、中心線Vは中心導体4aと4b(34)に対する対称軸となっている)。これにより、焦電効果による電荷分布、即ち電界分布も中心線Vに対して対称となるので、環境変化に伴う温度ドリフトについては極めて安定な特性を実現できる。
【0057】
そして、実際に本実施形態において、空隙部11aと11bの幅Wwと長さLw、及び接地導体4b(35)の長さLeを第2の実施形態と同じにした場合(Ww=15μm、Lw=1mm、Le=100μm)、図7に示した本発明の第2の実施形態と同等の優れた温度ドリフト特性を実現できた。なお、空隙部11aと11bの長さLwと接地導体4b(35)の長さLeは各々30μm〜3mm、及び5μm〜500μm程度まで変化させても効率よく温度ドリフトを抑圧できることも第2の実施形態とほぼ同じであった。
【0058】
次に、高周波電気信号の電磁界分布の観点から考察する。図12と図13からわかるように、中心導体4aの中心に引いた中心線VIは中心導体4aと接地導体4b(34)、4b(36)、4c(34)、4c(36)からなる進行波電極の対称軸となっている。なお、本実施形態では、この対称性はさらに接続用接地導体4b(35)と4c(35)を含めて考えても成り立っている。つまり、本実施形態における進行波電極は中心導体4aの中心に引いた中心線VIに対して完全に対称となっている。なお、接続用接地導体4b(35)と4c(35)が図11において、相互作用光導波路3a、3bの長手方向に互いにずれていても良いことは言うまでもなく、そのような非対称性を有する構造については後で議論する。
【0059】
このように、本実施形態における進行波電極は中心導体4aの中心線VIを対称軸とする構造対称性を有している。進行波電極の構造が対称であるということは、進行波電極を伝搬する高周波電気信号の電磁界分布も対称であることを意味している。従って、図28に示した第2の従来技術では必要であったコネクタや入力用フィードスルー部の対称な高周波電気信号の対称モードから進行波電極の非対称モードへの変換が不要となるので、高周波電気信号を安定、かつ低損失に伝搬することが可能となる。
【0060】
さらに、本実施形態では接続用接地導体である接地導体4b(35)と4c(35)の厚みを厚くしているので、高周波電気信号としての表皮効果の影響を受けにくい。従って、図1と図2に示した本発明の第1の実施形態や図4から図6に示した本発明の第2の実施形態、あるいは図8〜図10に示した本発明の第3の実施形態よりも高速光変調が可能であった。
【0061】
以上のように、本実施形態では2本の相互作用光導波路に対する中心導体と、接地導体側の光導波路に直近の接地導体を2本の相互作用光導波路の中間に設けた中心線Vについて対称とするとともに、進行波電極に関する構造を中心導体の中心線VIについて対称とすることにより、それらの対称性を有しない場合と比較して、環境温度変化に伴う温度ドリフトを抑圧し、かつ高周波電気信号のモードを安定に、かつ低損失に伝搬させている。さらに第2の実施形態よりも高速変調が可能となり、本実施形態により優れた光変調器を実現できた。
【0062】
さて、進行波電極が相互作用光導波路3aと3bの中間に設けた中心線Vに対して厳密に対称でないと本発明の効果を発揮できないかというとそれは正しくない。接地導体4b(34)の幅は中心導体4aの幅と数μm異なっていても良く、これを含めて相互作用光導波路3a、3bの中間に設けた中心線Vに対して相互作用光導波路3a、3bの上にある中心導体と接地導体が対称である(あるいは、実質的にほぼ対称)としている。また、同様に進行波電極の構造が中心線VIに対して厳密に対称でなくても本発明の効果を発揮できる。そしてこれらのことは本発明の全ての実施形態について言える。
【0063】
(第5の実施形態)
本発明の第5の実施形態について、図12や図13の断面図と同様の断面図を図14と図15に示す。ここで、11aは空隙部である。なお、4b(34)、4b(35)、4b(36)、4c(4)、4c(5)、4c(6)は接地導体である。接地導体4b(35)は接地導体4b(34)と4b(36)を、また接地導体4c(35)は接地導体4c(4)と4c(6)を接続する接続用接地導体である。進行波電極において重要となる基本的な構成要素は中心導体4aと接地導体4b(34)、4b(36)、4c(4)、4c(6)である。従って、本実施形態においても図14において相互作用光導波路3aと3bは中心線Vに対して対称であり(つまり、中心線Vは中心導体4aと接地導体4b(34)に対して対称)、進行波電極は中心導体4aの中心線VIに対してほぼ対称である。なお、接地導体4c(35)も厚い接地導体4c(4)と4c(6)を接続しているので、接続用接地導体とも言える。なお、図14において接地導体4c(5)はその厚みが薄いとは言え、その材料は電気抵抗の小さなAuであるので、高速光変調の観点からは図11〜図13に示した第4の実施形態よりやや有利である。以上のように、この第5の実施形態においても、温度ドリフトを抑圧しつつ、高周波特性の優れたLN光変調器を実現できる。
【0064】
(第6の実施形態)
図16には本発明における第6の実施形態の上面図を示す。また、図16のJ−J´とK−K´での断面図を各々図17と図18に示す。これらの図からわかるように、この第6の実施形態では第1から第5の実施形態での工夫に加え、使用する貴金属であるAuの量を減らしている。
【0065】
つまり、高周波電気信号の伝搬ロスの増加を防ぐという観点からは、厚みが厚い接地導体4b(12)や4c(12)の幅は数十〜100μm程度あれば充分である。従って、それ以上広い領域に相当する外周部10aや10bの上方にある接地導体4b(13)や接地導体4c(13)の厚みを薄くしている。
【0066】
そして、外周部10aや10bの上方にある接地導体4b(13)や4c(13)の厚みを薄くすることにより、2つの利点が生じる。まず、接地導体4b(13)や4c(13)からの応力が著しく減るので、温度ドリフトの観点から有利である。次に、高価なAuの使用量を減らし、LN光変調器の原価を低減することができる。なお、厚みは薄いものの面積が広い接地導体4b(13)と4c(13)は高周波電気信号の観点からしっかりとした電気的アースの確立と電気的アースである筐体とのワイヤやリボンによる接続の観点から有利である。そして、このことは本発明の全ての実施形態について言える。
【0067】
この時、外周部10a、10bにおける接地導体の体積と面積の比がその他の領域における接地導体の体積と面積の比よりも小さくなるようにすれば、高価なAuの使用量を著しく低減できるのでLN光変調器の原価を低減する効果が著しい。なお、接地導体4b(13)と接地導体4c(13)のどちらか一方のみの厚みを薄くしても良いことは言うまでもない。そして、上記の厚みが厚い接地導体の幅や外周部における接地導体の体積と面積の比についての考え方は本発明の全ての実施形態に当てはまる。
【0068】
(第7の実施形態)
図19には本発明における第7の実施形態の上面図を示す。また、図19のL−L´とM−M´での断面図を各々図20と図21に示す。ここで、4b(44)、4b(45)、4b(46)、4b(47)、4c(44)、4c(45)、4c(46)、4c(47)は接地導体である。また、この中で4b(45)は接地導体4b(44)と4b(46)を接続し、4c(45)は接地導体4c(44)と4c(46)を接続する接続用接地導体である。
【0069】
これらの図からわかるように、この第7の実施形態では第6の実施形態と同様に、外周部10aや10bの上方にある接地導体4c(47)や接地導体4b(47)の厚みを薄くしている。そして、これにより第6の実施形態と同じ効果、即ちまず、接地導体4b(47)や4c(47)からの応力が著しく減ることによる温度ドリフトの改善と、高価なAuの使用量を減らすことによる原価の低減である。
【0070】
この時、外周部10a、10bにおける接地導体の体積と面積の比がその他の領域における接地導体の体積と面積の比よりも小さくなるようにすれば、高価なAuの使用量を著しく低減できるのでLN光変調器の原価を低減する効果が著しい。なお、接地導体4c(47)と接地導体4b(47)のどちらか一方のみの厚みを薄くしても良いことは言うまでもない。そして、上記の厚みが厚い接地導体の幅や外周部における接地導体の体積と面積の比についての考え方は本発明の全ての実施形態に当てはまる。
【0071】
(第8の実施形態)
図22には本発明における第8の実施形態の上面図を示す。なおこの図22は図1に示した第1の実施形態、図4に示した第2の実施形態、図8に示した第3の実施形態、図11に示した第4の実施形態などを含むが、これら以外の構造も示しているので、ここでは第8の実施形態として説明する。図23(a)には図22における2つの領域4b(51)と11fを(a)〜(d)として示している。図23(a)からわかるように、4b(51)は厚い接続用接地導体もしくは薄い接続用接地導体を、また11fは薄い接地導体もしくは空隙部を示している。一方、図23(b)には図22における2つの領域4c(51)と11gの形態を(e)〜(h)として示している。図23(b)からわかるように、4c(51)は厚い接続用接地導体もしくは薄い接続用接地導体を、また11fは薄い接地導体もしくは空隙部を示している。
【0072】
つまり、この第8の実施形態は4b(51)と11fを図23(a)における(a)〜(d)の中の(少なくとも)1つから選択し、4c(51)と11gを図23(b)における(e)〜(h)の中の(少なくとも)1つから選択し、互いに組み合わせたものである。但し、前述のように第8の実施形態は前述の実施形態を含んでいる。ちなみに、図1〜図3で説明した第1の実施形態は図23(a)の(a)と図23(b)の(e)の組み合わせ、図4〜図6で説明した第2の実施形態は図23(a)の(c)と図23(b)の(g)の組み合わせ、図8〜図10で説明した第3の実施形態は図23(a)の(c)と図23(b)の(e)の組み合わせ、図11〜図13で説明した第4の実施形態は図23(a)の(d)と図23(b)の(h)の組み合わせ、図14、図15で説明した第5の実施形態は図23(a)の(d)と図23(b)の(f)の組み合わせである。
【0073】
勿論、図23(a)の(a)〜(d)と図23(b)の(e)〜(h)が位置的に入れ替わっても良い(つまり、例えば図9と図10において、中心導体4aの中心線VIを対称軸として、進行波電極の構造を左右入れ替えても良い)。また、図23(a)の(a)〜(d)の2種類以上と図23(b)の(e)〜(h)の2種類以上を組み合わせても良いことは言うまでもない。
【0074】
そして、第8の実施形態は接続用接地導体、空隙部、あるいは薄い接地導体などが中心導体4aの中心線VIに対して左右が非対称な構造も含んでいる。但し、進行波電極において重要となる基本的な構成要素は中心導体4aと接地導体4b(4)、4b(6)、4c(4)、4c(6)である。従って、本実施形態においても進行波電極の基本的な構成要素は中心導体4aの(図22では不図示の)中心線に対して対称な構造となっている。従って、温度ドリフトを抑圧しつつ、高周波特性の優れたLN光変調器を実現できる。
【0075】
また、以上の説明においては、本発明の原理の説明を簡単にするために、薄い接地導体もしくは空隙部11fの幅Wwと長さLwが、薄い接地導体もしくは空隙部11gの幅Ww´と長さLw´と各々等しく、また厚い接続用接地導体もしくは薄い接続用接地導体4b(51)の長さLeと厚い接続用接地導体もしくは薄い接続用接地導体4c(51)の長さLe´も等しいと仮定したが、本発明はこれに限るものではない。
【0076】
さらに、薄い接地導体もしくは空隙部11fや厚い接続用接地導体もしくは薄い接続用接地導体4b(51)の個数と、薄い接地導体もしくは空隙部11gや、厚い接続用接地導体もしくは薄い接続用接地導体4c(51)の個数が各々異なっていても良い。そして、このことは本発明の全ての実施形態について言える。なお、以上に述べた接地導体(あるいは、接続用接地導体)や空隙部の長さや幅は相互作用光導波路3a、3bの長さ方向に対するものとする。
【0077】
また、第6の実施形態や第7の実施形態と同じく、不図示の外周部10aや10bの上方にある接地導体の厚みを薄くすることにより、これらの実施形態と同じ効果、即ち温度ドリフトの改善と、高価なAuの使用量を減らすことによる原価の低減を得ることができる。
【0078】
この時、不図示の外周部10a、10bにおける接地導体の体積と面積の比がその他の領域における接地導体の体積と面積の比よりも小さくなるようにすれば、高価なAuの使用量を著しく低減できるのでLN光変調器の原価を低減する効果が著しい。
【0079】
(第9の実施形態)
図24は本発明における第9の実施形態の上面図を示している。図22に示した第8の実施形態と比較するとわかるように、本実施形態では薄い接地導体もしくは空隙部11fと薄い接地導体もしくは空隙部11gとが、また厚い接続用接地導体もしくは薄い接続用接地導体4b(51)と4c(51)とが相互作用光導波路3a、3bの方向に互いにずれている。
【0080】
なお、この第9の実施形態のように、中心導体4aの不図示の中心線VIに対して進行波電極の薄い接地導体や空隙部、あるいは接続用接地導体などの電極構成要素が相互作用光導波路3a、3bの長手方向にずれても良いという考え方は本発明の全ての実施形態について言うことができる。ここで、相互作用光導波路3a、3bの長手方向にずれても良い進行波電極の構成要素とは、例えば第9の実施形態では薄い接地導体もしくは空隙部11f、11g、あるいは厚い接続用接地導体もしくは薄い接続用接地導体4b(51)と4c(51)であるが、本実施形態に限らず本発明では薄い接地導体、空隙部、厚い接続用接地導体、あるいは薄い接続用接地導体などを指すものとする。
【0081】
また、本発明のその他の実施形態と同じく、この第9の実施形態においても、図24における中心導体4aの(図24では不図示の)中心線の左右で、薄い接地導体もしくは空隙部11f、11gとを互いに入れ替える、あるいは厚い接続用接地導体もしくは薄い接続用接地導体4b(51)と4c(51)とを互いに入れ替えても良いことは言うまでもない。
【0082】
(各実施形態)
分岐光導波路の例としてマッハツェンダ光導波路を用いたが、方向性結合器などその他の分岐合波型の光導波路にも本発明を適用可能であることは言うまでもなく、考え方は3本以上の光導波路にも適用可能である。また光導波路の形成法としてはTi熱拡散法の他に、プロトン交換法など光導波路の各種形成法を適用できるし、バッファ層としてAl2O3等のSiO2以外の各種材料も適用できる。
【0083】
また、z−カットLN基板について説明したが、x−カットやy−カットなどその他の面方位のLN基板でも良いし、リチウムタンタレート基板、さらには半導体基板など異なる材料の基板でも良い。
【0084】
また、図13に示した第4の実施形態、図15に示した第5の実施形態、あるいは図21に示した第7の実施形態では、接続用接地導体が中心導体の厚み程度に厚いとして説明したが、接続用接地導体の厚みが一様でなくても良いことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上のように、本発明に係る光変調器は、プレーナ型の光変調器において、中心導体と光導波路に直近の接地導体を光導波路に対称に配置するとともに、進行波電極を中心導体の中心線に対して対称とすることにより、さらには広い面積の接地導体の厚みを薄くすることにより、温度ドリフト特性と高速光変調特性が優れた、またコストを低減した光変調器として有用である。
【符号の説明】
【0086】
1:z−カットLN基板(LN基板)
2:SiO2バッファ層(バッファ層)
3:マッハツェンダ光導波路(光導波路)
3a、3b:マッハツェンダ光導波路を構成する相互作用光導波路
4:進行波電極
4a:中心導体
4b、4b´、4b´´、4b´´´、4b(4)、4b(5)、4b(6)、4b(7)、4b(8)、4b(9)、4b(10)、4b(11)、4b(12)、4b(13)、4b(34)、4b(35)、4b(36)、4b(44)、4b(45)、4b(46)、4b(47)、4b(51)、4c、4c(4)、4c(5)、4c(6)、4c(7)、4c(8)、4c(9)、4c(10)、4c(11)、4c(12)、4c(13)、4c(34)、4c(35)、4c(36)、4c(44)、4c(45)、4c(46)、4c(47)、4c(51):接地導体
5:Si導電層
6:高周波(RF)電気信号給電線
7:高周波(RF)電気信号出力線
10a、10b:外周部
11a、11b:空隙部(導体が欠落した部位)
11f、11g:薄い接地導体もしくは空隙部(導体が欠落した部位)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する基板と、前記基板に形成された第1の光導波路と第2の光導波路からなる光導波路と、前記基板の上に形成されたバッファ層と、該バッファ層の上方に配置された中心導体および該中心導体を挟むよう配置される第1の接地導体と第2の接地導体からなる接地導体により構成された進行波電極とを具備し、前記基板における前記バッファ層が形成される側の表面が平坦である光変調器において、
前記第1の光導波路の上方に前記中心導体を、前記第2の光導波路の上方に前記第1の接地導体をそれぞれ有し、
前記第1の接地導体が、前記第2の光導波路直上ではない位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第1の位置を有し、
前記第2の接地導体が、前記中心導体の中心線に対して前記第1の位置と対称となる位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第2の位置を有し、
前記第1の位置および前記第2の位置に導体が欠落した部位を具備することを特徴とする光変調器。
【請求項2】
電気光学効果を有する基板と、前記基板に形成された第1の光導波路と第2の光導波路からなる光導波路と、前記基板の上に形成されたバッファ層と、該バッファ層の上方に配置された中心導体および該中心導体を挟むよう配置される第1の接地導体と第2の接地導体からなる接地導体により構成された進行波電極とを具備し、前記基板における前記バッファ層が形成される側の表面が平坦である光変調器において、
前記第1の光導波路の上方に前記中心導体を、前記第2の光導波路の上方に前記第1の接地導体をそれぞれ有し、
前記第1の接地導体が、前記第2の光導波路直上ではない位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第1の位置を有し、
前記第2の接地導体が、前記中心導体の中心線に対して前記第1の位置と対称となる位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第2の位置を有し、
前記第1の位置および前記第2の位置のうちのいずれか一方の位置に導体が欠落した部位を具備し、他方の位置に前記接地導体が前記中心導体の厚みよりも薄い厚さで全面に形成されていることを特徴とする光変調器。
【請求項3】
電気光学効果を有する基板と、前記基板に形成された第1の光導波路と第2の光導波路からなる光導波路と、前記基板の上に形成されたバッファ層と、該バッファ層の上方に配置された中心導体および該中心導体を挟むよう配置される第1の接地導体と第2の接地導体からなる接地導体により構成された進行波電極とを具備し、前記基板における前記バッファ層が形成される側の表面が平坦である光変調器において、
前記第1の光導波路の上方に前記中心導体を、前記第2の光導波路の上方に前記第1の接地導体をそれぞれ有し、
前記第1の接地導体が、前記第2の光導波路直上ではない位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第1の位置を有し、
前記第2の接地導体が、前記中心導体の中心線に対して前記第1の位置と対称となる位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第2の位置を有し、
前記第1の位置および前記第2の位置のうちのいずれか一方の位置に導体が欠落した部位を具備し、他方の位置に前記接地導体が前記中心導体の厚みよりも薄い厚さで少なくとも一部に形成されていることを特徴とする光変調器。
【請求項4】
電気光学効果を有する基板と、前記基板に形成された第1の光導波路と第2の光導波路からなる光導波路と、前記基板の上に形成されたバッファ層と、該バッファ層の上方に配置された中心導体および該中心導体を挟むよう配置される第1の接地導体と第2の接地導体からなる接地導体により構成された進行波電極とを具備し、前記基板における前記バッファ層が形成される側の表面が平坦である光変調器において、
前記第1の光導波路の上方に前記中心導体を、前記第2の光導波路の上方に前記第1の接地導体をそれぞれ有し、
前記第1の接地導体が、前記第2の光導波路直上ではない位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第1の位置を有し、
前記第2の接地導体が、前記中心導体の中心線に対して前記第1の位置と対称となる位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第2の位置を有し、
前記第1の位置および前記第2の位置に前記接地導体が前記中心導体の厚みよりも薄い厚さで全面に形成されていることを特徴とする光変調器。
【請求項5】
高周波電気信号の電磁界が小さくなった領域における前記接地導体の少なくとも一部の厚みを、当該領域以外の領域における接地導体の厚みよりも少なくとも一部で薄くしたことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の光変調器。
【請求項6】
前記中心導体に相対向する接地導体が前記中心導体もしくは前記接地導体の少なくとも一部とほぼ同じ厚みを持つことを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の光変調器。
【請求項7】
前記中心導体に相対向する接地導体に隣接する前記接地導体が前記中心導体もしくは前記接地導体の少なくとも一部とほぼ同じ厚みを持つことを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の光変調器。
【請求項8】
高周波電気信号の電磁界が小さくなった領域における前記接地導体の少なくとも一部の厚みを薄くした領域における前記接地導体の体積と面積の比を、前記厚みが厚い部位における前記接地導体の体積と面積の比よりも小さくしたことを特徴とする請求項7に記載の光変調器。
【請求項9】
前記基板がリチウムナイオベートからなることを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の光変調器。
【請求項10】
前記基板が半導体からなることを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の光変調器。
【請求項1】
電気光学効果を有する基板と、前記基板に形成された第1の光導波路と第2の光導波路からなる光導波路と、前記基板の上に形成されたバッファ層と、該バッファ層の上方に配置された中心導体および該中心導体を挟むよう配置される第1の接地導体と第2の接地導体からなる接地導体により構成された進行波電極とを具備し、前記基板における前記バッファ層が形成される側の表面が平坦である光変調器において、
前記第1の光導波路の上方に前記中心導体を、前記第2の光導波路の上方に前記第1の接地導体をそれぞれ有し、
前記第1の接地導体が、前記第2の光導波路直上ではない位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第1の位置を有し、
前記第2の接地導体が、前記中心導体の中心線に対して前記第1の位置と対称となる位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第2の位置を有し、
前記第1の位置および前記第2の位置に導体が欠落した部位を具備することを特徴とする光変調器。
【請求項2】
電気光学効果を有する基板と、前記基板に形成された第1の光導波路と第2の光導波路からなる光導波路と、前記基板の上に形成されたバッファ層と、該バッファ層の上方に配置された中心導体および該中心導体を挟むよう配置される第1の接地導体と第2の接地導体からなる接地導体により構成された進行波電極とを具備し、前記基板における前記バッファ層が形成される側の表面が平坦である光変調器において、
前記第1の光導波路の上方に前記中心導体を、前記第2の光導波路の上方に前記第1の接地導体をそれぞれ有し、
前記第1の接地導体が、前記第2の光導波路直上ではない位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第1の位置を有し、
前記第2の接地導体が、前記中心導体の中心線に対して前記第1の位置と対称となる位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第2の位置を有し、
前記第1の位置および前記第2の位置のうちのいずれか一方の位置に導体が欠落した部位を具備し、他方の位置に前記接地導体が前記中心導体の厚みよりも薄い厚さで全面に形成されていることを特徴とする光変調器。
【請求項3】
電気光学効果を有する基板と、前記基板に形成された第1の光導波路と第2の光導波路からなる光導波路と、前記基板の上に形成されたバッファ層と、該バッファ層の上方に配置された中心導体および該中心導体を挟むよう配置される第1の接地導体と第2の接地導体からなる接地導体により構成された進行波電極とを具備し、前記基板における前記バッファ層が形成される側の表面が平坦である光変調器において、
前記第1の光導波路の上方に前記中心導体を、前記第2の光導波路の上方に前記第1の接地導体をそれぞれ有し、
前記第1の接地導体が、前記第2の光導波路直上ではない位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第1の位置を有し、
前記第2の接地導体が、前記中心導体の中心線に対して前記第1の位置と対称となる位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第2の位置を有し、
前記第1の位置および前記第2の位置のうちのいずれか一方の位置に導体が欠落した部位を具備し、他方の位置に前記接地導体が前記中心導体の厚みよりも薄い厚さで少なくとも一部に形成されていることを特徴とする光変調器。
【請求項4】
電気光学効果を有する基板と、前記基板に形成された第1の光導波路と第2の光導波路からなる光導波路と、前記基板の上に形成されたバッファ層と、該バッファ層の上方に配置された中心導体および該中心導体を挟むよう配置される第1の接地導体と第2の接地導体からなる接地導体により構成された進行波電極とを具備し、前記基板における前記バッファ層が形成される側の表面が平坦である光変調器において、
前記第1の光導波路の上方に前記中心導体を、前記第2の光導波路の上方に前記第1の接地導体をそれぞれ有し、
前記第1の接地導体が、前記第2の光導波路直上ではない位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第1の位置を有し、
前記第2の接地導体が、前記中心導体の中心線に対して前記第1の位置と対称となる位置に前記光導波路の光軸方向に延在する第2の位置を有し、
前記第1の位置および前記第2の位置に前記接地導体が前記中心導体の厚みよりも薄い厚さで全面に形成されていることを特徴とする光変調器。
【請求項5】
高周波電気信号の電磁界が小さくなった領域における前記接地導体の少なくとも一部の厚みを、当該領域以外の領域における接地導体の厚みよりも少なくとも一部で薄くしたことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の光変調器。
【請求項6】
前記中心導体に相対向する接地導体が前記中心導体もしくは前記接地導体の少なくとも一部とほぼ同じ厚みを持つことを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の光変調器。
【請求項7】
前記中心導体に相対向する接地導体に隣接する前記接地導体が前記中心導体もしくは前記接地導体の少なくとも一部とほぼ同じ厚みを持つことを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の光変調器。
【請求項8】
高周波電気信号の電磁界が小さくなった領域における前記接地導体の少なくとも一部の厚みを薄くした領域における前記接地導体の体積と面積の比を、前記厚みが厚い部位における前記接地導体の体積と面積の比よりも小さくしたことを特徴とする請求項7に記載の光変調器。
【請求項9】
前記基板がリチウムナイオベートからなることを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の光変調器。
【請求項10】
前記基板が半導体からなることを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の光変調器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【公開番号】特開2012−141634(P2012−141634A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−67059(P2012−67059)
【出願日】平成24年3月23日(2012.3.23)
【分割の表示】特願2008−226222(P2008−226222)の分割
【原出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月23日(2012.3.23)
【分割の表示】特願2008−226222(P2008−226222)の分割
【原出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】
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