説明

光変調器

【課題】構成が簡単で低コスト、かつ制御が容易で低損失な光変調器を提供する。
【解決手段】入力された電気信号を多値光信号に変換する光変調器であって、入射信号光を分岐する光分岐回路102と、光分岐回路102の出力側に接続され、電気信号に応じて伝搬光の位相を変調する位相変調器104a,104bと、位相変調器104a,104bからの出力を合流させる光合流回路106とを備え、さらに、光分岐回路102と光合流回路106のうち少なくとも一方が非対称な分岐比又は合流比を有し、位相変調器104a,104bから光合流回路106を経て出力側に導かれる信号光の強度が互いに異なるように設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気信号を光信号に変換して送信する光変調器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
WDM光通信システムの大容量化を実現するには、1波長あたりの伝送レートを上げることが有用である。ここで、変調方式を変えることなく光伝送路に送出するシンボルレートを上げた場合には、許容残留分散量がシンボルレートの2乗に反比例するので、光伝送路の波長分散耐力が低下するという問題点があった。また、電気信号処理を高速に実行することが必要となり、アナログ電気部品のコストが増加するという問題点もあった。
【0003】
このため、近年では、シンボルレートを上げることなく、1シンボルあたりの信号多重度を上げることで、システムの大容量化を実現するための研究が盛んに行われている。
信号多重度を上げる方式として、例えば、1シンボルに2値(多重度2)を割り当てることで伝送容量を2倍にするQPSK方式や、1シンボルに4値(多重度4)を割り当てることで伝送容量を4倍にする16QAM方式、16APSK方式等の多値変調方式が知られている。
【0004】
通常、これらの多値変調を実行する場合には、光変調器としてI/Q変調器が用いられる。I/Q変調器は、別名直交変調器とも呼ばれ、直交する光電界成分(Iチャンネル、Qチャンネル)を独立して生成可能な変調器であり、マッハツェンダー(MZ:Mach−Zehnder)変調器を並列接続した特殊な構成をとるものである。
【0005】
例えば、QPSK変調を実行する場合には、MZ変調器を2個並列に接続したDual Parallel MZ変調器(DPMZM:Dual Parallel Mach−Zehnder Modulator)が用いられる(例えば、下記特許文献1参照)。
また、16QAM変調を実行する場合には、DPMZMを電気多値信号で駆動する方式が用いられる(例えば、下記非特許文献1参照)。
【0006】
ここで、従来のDPMZMの動作について説明する。
図11は、従来のDPMZMの構成を示した模式図である。
図11中、1101は入力導波路、1102は光分岐回路、1103a,1103bは接続導波路、1104a,1104bは光分岐回路、1105a,1105b,1105c,1105dは位相変調器、1106a,1106bは光合流回路、1107a,1107bは位相調整領域、1108は光合流回路、1109は出力導波路をそれぞれ示している。
【0007】
また、図11中、波線で囲まれた構造1110a,1110bはそれぞれマッハツェンダー変調器を示している。図11に示す構成は、2つのマッハツェンダー変調器1110a,1110bが並列に配置され、さらに2つのマッハツェンダー変調器1110a,1110bをアームの一部に組み込んだ、いわゆる親マッハツェンダー干渉計が形成されており、Dual Parallel MZ Modulator(DPMZM)と呼ばれている。
【0008】
信号光は、まず入力導波路1101から入射し、光分岐回路1102により分岐比1:1で2分岐され接続導波路1103a及び接続導波路1103bを介してマッハツェンダー変調器1110a及びマッハツェンダー変調器1110bに導かれる。マッハツェンダー変調器1110aは、分岐比が1:1の対称な分配比を有する第2の光分岐回路1104a、位相変調器1105a,1105b、光合流回路1106aから構成されている。
【0009】
光合流回路1106aの光合流比率は、位相変調器1105a及び位相変調器1105bから入射した光の強度の比がそのまま出力強度の比となるように、すなわち、位相変調器1105a及び位相変調器1105bから入射した信号光強度が等しい場合には、等しい強度比で合流回路から出力されるような特性を有している。以下、このような特性を「1:1の合流比」と呼ぶこととする。
【0010】
マッハツェンダー変調器1110bは、分岐比が1:1の光分岐回路1104b、位相変調器1105c,1105d、合流比が1:1の光合流回路1106bから構成されている。マッハツェンダー変調器1110a,1110bは、それぞれがプッシュプル駆動されている。
【0011】
マッハツェンダー変調器1110a,1110bで変調された信号光は、位相調整領域1107a,1107bに入射し、位相関係を調整された後、光合流回路1108で合流され、出力導波路1109から出力される。光合流回路1108としては、通常は光合流比が1:1の光合流回路が用いられる。この際の位相調整領域1107a,1107bでは、光合流回路1108で合流された際の両信号光の位相差がπ/2となるように位相が相対的に調整される。
【0012】
光多値変調の例として、まず4値のQPSK変調を例にコンスタレーション(constellation)を説明する。
図12は、従来の光変調器のコンスタレーションを説明するための図である。なお、図12(a)はプッシュプル駆動のマッハツェンダー変調器1110aにより変調された光電界の軌跡を、図12(b)はDPMZMのコンスタレーションをそれぞれ示している。
【0013】
マッハツェンダー変調器1110aでは、位相変調器1105a,1105bが差動信号により駆動されている。位相変調器の場合、信号光は、強度が一定で位相角が印加電圧に応じて変化する。QPSK信号の場合を考えると、駆動電気信号は、振幅が半波長電圧Vπの2値信号となる。
【0014】
このため、位相変調器1105aから出射される信号光の電界は、図12(a)の半円の上半分をトレースする形でI0点とI1点の間を駆動電気信号に応じて往復する。一方、位相変調器1105bについて考えると、マッハツェンダー変調器1110aは、プッシュプル駆動されるため、位相変調器1105bは位相変調器1105aの差動信号で駆動されることになる。
【0015】
したがって、位相変調器1105bから出射される信号光の電界は、図12(a)の半円の下半分をトレースする形でI0点とI1点の間を駆動電気信号に応じて往復する。そこで、光合流回路1106aから出力される信号光の電界は、位相変調器105a,105bからの出力の合成となるため、図12(a)において原点0を通り直線状にI0点とI1点の間を駆動電気信号に応じて往復する形となる。
【0016】
マッハツェンダー変調器1110bについても同様に差動信号によりプッシュプル駆動されるため、出力信号のトレースは原点0を通る直線となる。2つのマッハツェンダー変調器1110a及びマッハツェンダー変調器1110bから出力された信号光は、位相調整領域1107a,1107bにおいて互いの相対的な位相差がπ/2となるように調整されて光合流回路1108により足し合わされる。
【0017】
したがって、マッハツェンダー変調器1110aから出力された信号光の電界のトレースと、マッハツェンダー変調器1110bから出力された信号光の電界のトレースは、直交する形で足し合わされることになり、出力導波路1109から出力される信号光の最終的なコンスタレーションは図12(b)に示されるような互いに90度ずつ角度の異なる4つの点となる。これが4値変調におけるQPSKのコンスタレーションである。互いの相対的な位相差がπ/2となるように調整されて光合流回路1108により足し合わされる際には原理損失3dBが発生する。
【0018】
次に、16値の変調について説明する。
DPMZMを用いて16値変調を行う場合、駆動電気信号は、最大振幅が半波長電圧Vπの4値信号となる。このとき、位相変調器1105aから出射される信号光の電界は、位相角0からπの間を3分割する形になるため、図12(c)の半円の上半分をトレースする形でa,b,c,d点の間を駆動電気信号に応じて往復する。
【0019】
位相変調器1105bについても上述のQPSKの議論と同様に図12(c)の半円の下半分をトレースする。光合流回路1106aから出力される信号光の電界は、図12(c)において原点0を通り直線状にI0,I1,I2,I3点の間を駆動電気信号に応じて直線状にトレースする形となる。
【0020】
これらの各点で原点0からの距離が異なるということは、それぞれの状態で電界振幅、又は光強度がそれぞれ異なっているということを表している。ここで、I0,I1,I2,I3各点の間隔を一定間隔にするためには、位相角の間隔、すなわち∠a0b,∠b0c,∠c0dが一定ではない点に注意を要する。つまり、4値電気駆動波形は、不等間隔の4値であることが要求される。
【0021】
マッハツェンダー変調器1110bについても、同様に差動信号によりプッシュプル駆動されるため、出力信号のトレースは、4点の間を通直線状にトレースする形となる。2つのマッハツェンダー変調器1110a及びマッハツェンダー変調器1110bから出力された信号光は位相調整領域1107a,1107bにおいて互いの相対的な位相差がπ/2となるように調整されて光合流回路1108により足し合わされる。
【0022】
このため、マッハツェンダー変調器1110aから出力された信号光の電界のトレースと、マッハツェンダー変調器1110bから出力された信号光の電界のトレースは、直交する形で足し合わされることになり、出力導波路1109から出力される信号光の最終的なコンスタレーションは図12(d)に示されるような互いに直交する格子状に配置された16個の点となる。これが16値変調である16QAMのコンスタレーションである。
【0023】
この場合も互いの相対的な位相差がπ/2となるように調整されて光合流回路1108により足し合わされる際には原理損失3dBが発生する。また、マッハツェンダー変調器1110aの出力とマッハツェンダー変調器1110bの出力はそれぞれビットとビットの変わり目において光強度が変化しているため、その足しあわせである光合流回路1108からの出力もビットの変わり目で大きく変化するという特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特表2004−516743号公報
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】Lutz Molle、外4名、“Polarization Multiplexed 20 Gbaud Square 16QAM Long−Haul Transmission over 1120 km using EDFA Amplification”、ECOC2009、2009年、p.Paper8.8.4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
しかしながら、従来のDPMZM変調器を用いた場合、MZ変調器の数が増えることによって、コストが増加するとともに、バイアス制御箇所が増加するという問題点があった。
また、多値電気信号の多値の間隔を不等間隔に設定しなければならず、分解能の高いデジタル−アナログコンバータ(DAC)を使用しなくてはならないため、コストが上昇するという問題があった。
【0027】
さらに、2つのマッハツェンダー変調器の位相を直交させて合流させるDPMZM構成に起因する原理損失3dBが発生するという問題もあった。
また、ビットの変わり目において出力光強度が変動するため、相互位相変調等いわゆる伝送ファイバの非線形性の問題があった。
【0028】
以上のことから、本発明は、構成が簡単で低コスト、かつ制御が容易で低損失な光変調器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
上記の課題を解決するための第1の発明に係る光変調器は、
入力された電気信号を多値光信号に変換する光変調器であって、
入射信号光を分岐する光分岐手段と、
前記光分岐手段の出力側に接続され、前記電気信号に応じて伝搬光の位相を変調する少なくとも2つの位相変調手段と、
前記少なくとも2つの位相変調手段からの出力を合流させる光合流手段と
を備え、
さらに、前記光分岐手段と前記光合流手段のうち少なくとも一方が非対称な分岐比又は合流比を有し、
前記少なくとも2つの位相変調手段から前記光合流手段を経て出力側に導かれる信号光の強度が互いに異なるように設定される
ことを特徴とする。
【0030】
上記の課題を解決するための第2の発明に係る光変調器は、
入力された電気信号を多値光信号に変換する光変調器であって、
入射信号光を分岐する光分岐手段と、
分岐された信号光を合流する光合流手段と、
マッハツェンダー干渉計を構成する前記光分岐手段と前記光合流手段を結ぶ少なくとも2本の導波路と、
前記少なくとも2本の導波路にそれぞれ位相変調手段と
を備え、
さらに、前記光分岐手段と前記光合流手段のうち少なくとも一方が非対称な分岐比又は合流比を有し、
前記位相変調手段を通過し、前記光合流手段を経て出力側に導かれる信号光の強度が信号光の伝搬経路に応じて互いに異なるように設定される
ことを特徴とする。
【0031】
上記の課題を解決するための第3の発明に係る光変調器は、第1の発明又は第2の発明において、
前記出力側に導かれる信号光の強度が互いに1/4倍ずつ異なる
ことを特徴とする。
【0032】
上記の課題を解決するための第4の発明に係る光変調器は、
入力された電気信号を多値光信号に変換する光変調器であって、
入射信号光を2:1の分岐比により2分岐する光分岐手段と、
前記第1の光分岐手段の出力側に接続され、前記電気信号に応じて伝搬光の位相を変調する2つの位相変調手段と、
前記2つの位相変調手段からの出力を2:1の合流比により合流させる光合流手段と
を備え、
前記2つの位相変調手段から前記光合流手段を経て出力側に導かれる信号光の強度が4:1となるように前記光分岐手段と前記光合流手段が接続される
ことを特徴とする。
【0033】
上記の課題を解決するための第5の発明に係る光変調器は、第1の発明から第4の発明のいずれかひとつに係る光変調器において、
前記少なくとも2つの位相変調手段の全て、又は前記少なくとも2つの位相変調手段のうち1つの位相変調手段を除いた残りの位相変調手段に、伝搬するレーザ発振光の位相を調整する位相調整手段が接続される
ことを特徴とする。
【0034】
上記の課題を解決するための第6の発明に係る光変調器は、第1の発明から第5の発明のいずれかひとつに係る光変調器において、
前記少なくとも2つの位相変調手段の全て、又は前記少なくとも2つの位相変調手段のうち1つの位相変調手段を除いた残りの位相変調手段に、前記少なくとも2つの位相変調手段から前記光合流手段を経て出力側に導かれる信号光の位相差が0度又は90度の整数倍となるように伝搬する信号光の位相を調整する位相調整手段が接続される
ことを特徴とする。
【0035】
上記の課題を解決するための第7の発明に係る光変調器は、第1の発明から第6の発明のいずれかひとつに係る光変調器において、
前記少なくとも2つの位相変調手段の全て、又は前記少なくとも2つの位相変調手段のうち1つの位相変調手段を除いた残りの位相変調手段に、伝搬するレーザ発振光の強度を調整する強度調整手段が接続される
ことを特徴とする。
【0036】
上記の課題を解決するための第8の発明に係る光変調器は、第7の発明に係る光変調器において、
前記強度調整手段として、伝搬する信号光を吸収する吸収手段又は伝搬する信号光を増幅する増幅手段が接続される
ことを特徴とする。
【0037】
上記の課題を解決するための第9の発明に係る光変調器は、第7の発明に係る光変調器において、
前記強度調整手段として、マッハツェンダー干渉計が接続される
ことを特徴とする。
【0038】
上記の課題を解決するための第10の発明に係る光変調器は、第1の発明から第9の発明に係る光変調器において、
前記光分岐手段が多モード干渉型カプラ、ファネル型カプラ、方向性結合器、Y字型光合流器のいずれかである
ことを特徴とする。
【0039】
上記の課題を解決するための第11の発明に係る光変調器は、第1の発明から第10の発明に係る光変調器において、
前記光合流手段が多モード干渉型カプラ、ファネル型カプラ、方向性結合器、Y字型光合流器のいずれかである
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、構成が簡単で低コスト、かつ制御が容易で低損失な光変調器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1の実施例に係る光変調器の構成を示した模式図である。
【図2】本発明の第1の実施例に係る光変調器のコンスタレーションを説明するための図である。
【図3】本発明に係る非対称分岐比を有する光分岐手段又は非対称合流比を有する光合流手段の構成例を示した模式図である。
【図4】本発明の第2の実施例に係る光変調器の構成を示した模式図である。
【図5】本発明の第2の実施例に係る光変調器のコンスタレーションを説明するための図である。
【図6】本発明の第3の実施例に係る光変調器の構成を示した模式図である。
【図7】本発明の第4の実施例に係る光変調器の構成を示した模式図である。
【図8】本発明の第4の実施例に係る光変調器のコンスタレーションを説明するための図である。
【図9】本発明の第5の実施例に係る光変調器の構成を示した模式図である。
【図10】本発明の第6の実施例に係る光変調器の構成を示した模式図である。
【図11】従来のDPMZMの構成を示した模式図である。
【図12】従来の光変調器のコンスタレーションを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明に係る光変調器を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0043】
以下、本発明に係る光変調器の第1の実施例について説明する。
本実施例に係る光変調器は、位相変調器を2個並列に接続したMZ変調器をベースに多値変調を実現することを特徴としている。
【0044】
ここで、本実施例に係る光変調器について説明をする前に、光分岐回路の分岐比、光合流回路の合流比について定義する。
今、光分岐回路に光が入射し、複数の出力ポート(例えばn本)にp1%、p2%、・・・Pn%がそれぞれ出力されたとするとき、p1:p2:・・・:Pnを分岐比と定義する。n=2の場合、両ポートに50%ずつ出力されれば分岐比は50:50=1:1の対称分岐であり、また第1のポートに20%、第2のポートに80%であれば分岐比は20:80=1:4の非対称分岐となる。
【0045】
一方、合流比については、複数の入力ポートがあり、1番目の導波路に入射した光のp1%が出力され、2番目の導波路に入射した光のp2%が出力され、・・・n番目の導波路に入射した光のpn%が出力されるとき、p1:p2:・・・:Pnを合流比と定義する。したがって、ある光分岐回路を逆方向から使用して光合流回路とした場合にはその分岐比と合流比は一致する。
【0046】
図1は、本実施例に係る光変調器の構成を示した模式図である。
図1中、101は入力導波路、102は非対称な分岐比を有する光分岐手段である光分岐回路、103a,103bは接続導波路、104a,104bは位相変調器、105a,105bは接続導波路、106は非対称な合流比を有する光合流手段である光合流回路、107は出力導波路をそれぞれ示している。
【0047】
信号光は、まず入力導波路101から入射し、光分岐回路102により2分岐され接続導波路103a及び導波路103bを介して位相変調器104a及び位相変調器104bに導かれる。
【0048】
光分岐回路102の分岐比は、2:1となるように設定されており、入力信号光は、接続導波路104aに強度で2/3(電界では√(2/3))が、接続導波路103bに強度で1/3(電界では√(1/3))が出力される。位相変調器104a,104bは、それぞれが独立な電気駆動信号により駆動される。そこで、ここでは、差動信号によるプッシュプル駆動の変調器と区別してデュアルドライブマッハツェンダー変調器(DDMZM:Dual Drive MZM)と呼ぶことにする。
【0049】
ここで、DDMZMの多値変調動作について説明する。
図2は、本実施例に係る光変調器のコンスタレーションを説明するための図である。
DDMZMを用いて16値の変調を行う場合、駆動電気信号は、最大振幅が半波長電圧の1.5倍の4値の信号となる。いま、位相変調器104aが4値の電気信号により変調されているとすると、位相変調器104aから出射される信号光の電界は位相角0から1.5πの間を3分割する形になるため、図2(a)の円周上をトレースする形で90度ずつ角度の異なるA,B,C,D点の間を駆動電気信号に応じて往復する。
【0050】
ここで、図2(a)では、IQ座標に対し45度傾いた位置、すなわちA点を基準点、すなわち位相角0に対応させた。本実施例に係る光変調器においては、A,B,C,D角点の間隔を等間隔にするために必要な位相角の差分は、全て90度一定であるため、必要な4値の電気駆動信号の振幅の差分も等間隔となっている。
【0051】
位相変調器104bについても同様に、半波長電圧の1.5倍の4値の電気信号により変調されているとすると、位相変調器104bから出射される信号光の電界は、位相角0から1.5πの間を3分割する形になるため、図2(a)のような、位相変調器104aからの出力と同様な電界の軌跡が得られる。
【0052】
位相変調器104a,104bから出力された信号光は、接続導波路105a,105bを経て光合流回路106において合流される。光合流回路106の光合流比は2:1となるように設定されており、その接続方法は、接続導波路105aから入射した信号光強度の2/3(電界では√(2/3))が、また接続導波路105bから入射した信号光強度の1/3(電界では√(1/3))が出力導波路107から出力されるように接続されている。
【0053】
その結果、入力導波路101から光分岐回路102、接続導波路103a、位相変調器104a、接続導波路105a、光合流回路106という第1の経路を経た信号光の電界は、入力導波路101に入射した信号光と比較して、√(2/3)×√(2/3)=2/3となる。
【0054】
一方、入力導波路101から光分岐回路102、接続導波路103b、位相変調器104b、接続導波路105b、光合流回路106という第2の経路を経た信号光の電界は、√(1/3)×√(1/3)=1/3となるため、光合流回路106から出力される信号光は、第1の経路を経由した信号光と第2の経路を経由した信号光の電界振幅の差が3dB、すなわち強度差が6dBとなる。
【0055】
このとき、位相変調器104aを含む第1の経路から出力された信号光の電界のトレースと、位相変調器104bを含む第2の経路から出力された信号光の電界のトレースは、出力導波路107から出力される際に強度差6dBが生じる状態になるように足し合わされることになるため、出力導波路107から出力される信号光の最終的なコンスタレーションは図2(b)に●で示されるような、大きな円周上に配置された4つの点A,B,C,Dをそれぞれ中心として、大きな円の半分の半径を有する小さな円周上に4つの点が配置された16個の点となる。
【0056】
例えば、位相変調器104aから出力された信号光のコンスタレーションが図2(b)に示されるB点であるとした時、位相変調器104bから出力された信号光が足し合わされた場合の電界のトレースはB点を中心とした小さな半径の円周上をa,b,c,dの間で往復する。これは電界のベクトルの足し算を考えると理解しやすい。
【0057】
ここで、小さな円の半径が大きな円の半径の1/2となる理由について簡単に説明する。
上述のように位相変調器104aを経由した信号光と、位相変調器104bを経由した信号光は、光合流回路106で合流され、出力導波路107から出力される時の強度差は6dBとなっている。図2のコンスタレーションの図は光の電界のトレースを示した図であるため、光強度差6dBに対応する電界強度差3dB、すなわち大きな円の半径の1/2が小さい円の半径となる。
【0058】
ここで、再びコンスタレーションの説明にもどると、図2(b)のA点、C点、D点についても上述のB点に関する議論と同様な議論が成り立つ。したがって、本実施例におけるコンスタレーションは図2(b)のA,B,C,Dをそれぞれ中心として、大きな円の半分の半径を有する小さな円周上に4つの点が配置された16個の点となることが理解できる。
【0059】
本実施例におけるコンスタレーションを図12(d)に示した従来例のコンスタレーションと比較すると、本実施例において従来の直交変調器を用いた場合と同様な16値変調である16QAMのコンスタレーションが得られていることがわかる。すなわち、本実施例に示される構成を用いることにより、構成が簡単で低コスト、かつ制御が容易で低損失な光多値変調用の光変調器を実現することが可能となる。
【0060】
ここで、本実施例においては、従来の直交変調器を用いた場合に本質的に生じていた3dBの過剰損が生じないことを指摘しておく。
上述の通り、入力導波路101から光分岐回路102、接続導波路103a、位相変調器104a、接続導波路105a、光合流回路106という第1の経路を経た信号光の電界振幅は、√(2/3)×√(2/3)=2/3となる。
【0061】
一方、入力導波路101から光分岐回路102、接続導波路103b、位相変調器104b、接続導波路105b、光合流回路106という第2の経路を経た信号光の電界振幅は、√(1/3)×√(1/3)=1/3となる。
【0062】
この2つの信号光の電界が同位相で足し合わされたとき、電界振幅は、2/3+1/3=1となり、また光強度も電界振幅の2乗することにより12=1となるため、入力導波路101に入射した信号光の電界、又は光強度が損失無く出力導波路107に出力されることが理解できる。
【0063】
また、本実施例に係る光変調器の構成では、第1の経路を経た信号光、第2の経路を経た信号光ともに光強度は一定であるため、その足しあわせである光合流回路106からの出力光も、従来の直交変調器を用いた場合に比べ、変調出力光信号の強度変動が少なくなるために、本実施例に係る光変調器の構成により発生した変調光信号は、ファイバの非線形性による弊害を受けにくいといった利点がある。
【0064】
本実施例で用いる光分岐手段である光分岐回路102、及び光合流手段である光合流回路106については特にその構成を限定するものではなく、Y分岐回路、方向性結合器、ファネル型カプラ、多モード導波路の干渉効果を用いたMMIカプラ等、どのような構成のものを用いても同様な効果を得ることが可能である。
【0065】
例えば、図3(a)に示した形状のMMIカプラは非対称な分岐動作が可能である。図3(a)中、301a,301bは入力導波路、302は多モード干渉領域、303a,303bは分岐出力用導波路をそれぞれ示している。
【0066】
図3(a)に示すように、多モード干渉領域302の形状を矩形から変形させることにより、分岐比を調整することが可能である。このため、本発明に係る光変調器における非対称分岐比/合流比を有する光分岐手段/光合流手段として使用することが可能である。
【0067】
また、分岐比が対称な通常の光分岐回路/光合流回路を用い非対称分岐比を有する光分岐手段を構成することも可能である。一例を図3(b)に示す。
図3(b)中、304は入力導波路、305は分岐比が1:1の対称光分岐回路、306は接続導波路、307は位相調整領域、308は2入力2出力で分岐比が1:1の対称合分器回路、すなわち、通常の3dBカプラを、また、309,310は分岐出力用導波路をそれぞれ示している。
【0068】
入力導波路304、対称光分岐回路305、接続導波路306、位相調整領域307、対称合分器回路308、分岐出力用導波路309,310まででマッハツェンダー干渉計を構成しているため、入力導波路304から入射した信号光は、位相調整領域307における位相状態に応じて、出力用導波路309もしくは出力用導波路310又は出力用導波路309及び出力用導波路310の両方に出力される。
【0069】
したがって、位相調整領域307において位相を適切に制御することにより所望の分岐比で光を分岐出力用導波路309及び分岐出力用導波路310に分岐することが可能となり、非対称分岐比を有する光分岐手段として使用することができる。
【0070】
さらに、若干の損失を許容すれば、簡易な方法で非対称分岐比を有する光分岐手段を提供することも可能である。図3(c)にその構成を示す。
図3(c)中、311は入力導波路、312,313は分岐比が1:1の対称光分岐回路、314,315は分岐出力用導波路、316は導波路をそれぞれ示している。
【0071】
入力導波路311から入射した信号光は、対称光分岐回路312で2分岐され1/2の光パワーが分岐出力用導波路314へ、残り1/2の光パワーが対称光分岐回路313に導かれる。
【0072】
対称光分岐回路313に入射した信号光は、対称光分岐回路313で2分岐され1/2の光パワーが分岐出力用導波路315へ、残り1/2の光パワーが導波路316に導かれる。
【0073】
今、分岐出力用導波路315へ出力された信号光強度について考えると、入力導波路311から入射した信号光に比較して1/2×1/2=1/4の強度となっており、1/2の光パワーが出力された分岐出力用導波路314と比較すると、分岐出力用導波路314と分岐出力用導波路315の分岐比は2:1となっていることがわかる。このとき、導波路316から出力される信号光は使用しない。
【0074】
したがって、導波路316から出力される信号光を損失として考えると、図3(c)の構成は分岐出力用導波路314と分岐出力用導波路315に対して非対称分岐比を有する光分岐手段と考えることができる。
【0075】
なお、光分岐手段は、入口と出口を逆にすれば光合流手段として動作するため、図3(b)及び図3(c)において説明した構成は全てそのまま非対称な分岐比を有する光合流手段106として使用可能なことはいうまでもない。
【0076】
さらに、図3(c)に示した構成を光分岐手段101及び光合流手段106として用いた場合でも、導波路316から出力される信号光を捨ててしまうことによる損失は、従来の直交変調器の原理損失3dBよりは小さいため、本発明に係る光変調器の特徴である低損失な光多値変調用の変調器は実現される。
【0077】
本実施例に係る光変調器の構成において用いるマッハツェンダー変調器の構造及び材質に関しては、特に制約を設けるものではなく、LiNbO3に代表されるような誘電体材料、InP系、GaAs系に代表されるような化合物半導体材料、Si等の半導体材料、ポリマー系材料等、通常変調器として使用可能なすべての材料系、言い換えれば電圧印加、電流注入、加熱、冷却、光照射、その他、外部制御により屈折率が可変できるすべての材料系について本実施例に係る光変調器の構成をとることにより上述したような効果が期待できる。
【0078】
また、導波路構造に関しても、特に制約を設けるものではなく、埋め込み構造、リッジ構造、ハイメサ構造等を信号光が伝搬可能な導波構造であれば本構成をとることにより同様な効果が期待できる。
【実施例2】
【0079】
以下、本発明に係る光変調器の第2の実施例について説明する。
図4は、本実施例に係る光変調器の構成を示した模式図である。
図4中、401は入力導波路、402は非対称な分岐比を有する光分岐手段である光分岐回路、403a,403bは接続導波路、404a,404bは位相変調器、405a,405bは接続導波路、406は非対称な合流比を有する光合流手段である光合流回路、407は出力導波路、408a,408bは位相調整手段である位相調整領域をそれぞれ示している。
【0080】
本実施例に係る光変調器の動作原理は、位相調整領域408a,408bの動作に関する点を除けば、図1に示した第1の実施例に係る光変調器と同様であり、入力導波路401、光分岐回路402、接続導波路403a,403b、位相変調器404a,404b、接続導波路405a,405b、光合流回路406、出力導波路407を、それぞれ入力導波路101、光分岐回路102、接続導波路103a,103b、位相変調器104a,104b、接続導波路105a,105b、光合流回路106、出力導波路107と読み替えることにより、その動作を説明することができる。
【0081】
すなわち、信号光は、まず入力導波路401から入射し、光分岐回路402により2分岐され接続導波路403a及び接続導波路403bを介して位相変調器404a及び位相変調器404bに導かれる。位相変調器404a,404bはそれぞれが独立な電気駆動信号により駆動される。
【0082】
第1の実施例と同様、駆動電気信号は、最大振幅が半波長電圧の1.5倍の4値の信号となる。今、位相変調器404aが4値の電気信号により変調されているとすると、位相変調器404aから出射される信号光の電界は、位相角0から1.5πの間を3分割する形になるため第1の実施例に係る光変調器と同様に、図2(a)の円周上をトレースする形で90度ずつ角度の異なるA,B,C,D点の間を駆動電気信号に応じて往復する。
【0083】
本実施例に係る光変調器においても、A,B,C,D角点の間隔を等間隔にするために必要な位相角の差分は、全て90度一定であるため、必要な4値の電気駆動信号の振幅の差分も等間隔となっている。
【0084】
位相変調器404bについても同様に、半波長電圧の1.5倍の4値の電気信号により変調されているとすると、位相変調器404bから出射される信号光の電界は、位相角0から1.5πの間を3分割する形になるため、位相変調器404aからの出力と同様な電界の軌跡が得られる。
【0085】
位相変調器404a,404bから出力された信号光は、接続導波路405a,405bを経て光合流回路406において合流される。光合流回路406の光合流比は、2:1となるように設定されており、その接続方法は、接続導波路405aから入射した信号光強度の2/3(電界では√(2/3))が、また接続導波路405bから入射した信号光強度の1/3(電界では√(1/3))が、出力導波路407から出力されるように接続されている。
【0086】
その結果、入力導波路401から光分岐回路402、接続導波路403a、位相変調器404a、接続導波路405a、光合流回路406という第1の経路を経た信号光の電界は、入力導波路401に入射した信号光と比較して、√(2/3)×√(2/3)=2/3となる。
【0087】
一方、入力導波路401から光分岐回路402、接続導波路403b、位相変調器404b、接続導波路405b、光合流回路406という第2の経路を経た信号光の電界は、√(1/3)×√(1/3)=1/3となるため、光合流回路406から出力される信号光は、第1の経路を経由した信号光の電界振幅と、第2の経路を経由した信号光の電界振幅の差が3dB、すなわち強度差が6dBとなる。
【0088】
このとき、位相変調器404aを含む第1の経路から出力された信号光の電界のトレースと、位相変調器404bを含む第2の経路から出力された信号光の電界のトレースは、出力導波路407から出力される際に強度差6dBが生じる状態になるように足し合わされることとなる。
【0089】
このため、図1に示した第1の実施例に係る光変調器と同様に、出力導波路407から出力される信号光の最終的なコンスタレーションは図2(b)に●で示されるような、大きな円周上に配置された4つの点A,B,C,Dをそれぞれ中心として、大きな円の半分の半径を有する小さな円周上に4つの点が配置された16個の点となる。すなわち、本実施例に係る光変調器の構成をもちいることにより、構成が簡単で低コスト、かつ制御が容易で低損失な光多値変調用の変調器を実現することが可能となる。
【0090】
ここで、位相調整領域408a,408bの働きについて説明する。
素子が理想的に作製されていれば第1の実施例において説明した構成で光多値変調用の変調器を実現することが可能である。しかしながら、実際に素子を作製した場合、接続導波路403a又は接続導波路403bから接続導波路405a又は接続導波路405bまででそれぞれ構成されるマッハツェンダー干渉計のアーム領域を構成する導波路のわずかな作製誤差が両アームの光路長差となり、上述した第1の経路と第2の経路の間に光路長差が発生し、位相変調器404a及び位相変調器404bをそれぞれを経由した信号光が光合流回路406において足し合わされる際に位相差が発生してしまう可能性がある。
【0091】
本実施例に係る光変調器においては、マッハツェンダー干渉計のアームに位相調子領域408a,408bを設けることにより、この位相差を調整可能として素子の作製トレランス、歩留まりを向上することが可能となる。
【0092】
すなわち、位相調整領域408a,408bがない場合は、位相変調器104a又は位相変調器404aを経由した信号光のコンスタレーションと、位相変調器104b又は位相変調器404bを経由した信号光のコンスタレーションの相対的な位相角がずれてしまい、トータルなコンスタレーションマップが図5(a)のように16個の●が格子状に並ばずに傾いてしまう可能性がある。
【0093】
そこで、図4に示した本実施例に係る光変調器においては、位相調整領域408aもしくは位相調整領域408bのどちらか、又は位相調整領域408a及び位相調整領域408b両方により光合流回路406に入射する信号光の相対的な位相差を調整することにより、図5(b)に示したような格子状のコンスタレーションマップを実現することを可能としている。
【0094】
すなわち、作製誤差等により、マッハツェンダー干渉計の複数のアーム間に相対的な光路長差又は位相差が生じてしまった場合にも、本実施例に係る光変調器の構成によれば安定して多値変調動作を行うことが可能となる。
【0095】
位相調整領域408a,408bにおける位相の調整法は、図5(b)に示したA点とa点がともに右下にくるような相対位相が一致する位相の揃え方以外にも、図5(c)〜(e)に示したように、大きな円と小さな円の方向が90度、180度、270度それぞれ異なるような場合、すなわち互いの相対位相差が90度の整数倍になるような場合でも、16個の●は同様に格子状にきれいに配置されており、同様な動作が可能であることが理解できる。
【0096】
位相調整領域408a及び位相調整領域408bの構造としては特に制約を設けるものではない。位相変調器404a及び位相変調器404bと同様であっても構わない。また、位相が変化する構造であればどのような構造であっても本発明の効果は実現可能である。位相調整手段としては、電流注入、ヒーターによる局部的な温度調整、電界印加、光照射等のいずれかの手段を用いることが可能である。
【0097】
以上説明してきたように、本実施例に係る光変調器の構成により、素子作成上の作製誤差が生じた場合においても、構成が簡単で低コスト、かつ制御が容易で、なおかつ従来の直交変調器で本質的に生じていた3dBの原理損失の生じない低損失な光多値変調用の変調器を実現する事が可能となる。
【0098】
本実施例では、全ての位相変調手段である位相変調器に位相調整領域が接続された場合について説明したが、位相変調手段からの出力のうち1つは位相調整しないで用いることが可能である。
【0099】
例えば、位相変調器404bに接続された位相調整領域408bでは位相変化が生じない状態で使用し、位相変調器404aに接続された位相調整領域408aにおいて、光合流手段406に入射する信号光の相対的な位相関係を調整することが可能である。すなわち、位相調整領域408bは原理上必要ではない。つまり、原理上は位相変調手段のうち1つを除いた残りに位相調整領域408aが設けられていれば本実施例に係る光変調器の動作には十分である。
【0100】
しかし、本実施例で示したような、全ての位相変調手段にそれぞれ位相調整領域が接続された構成は、光回路の幾何学的な対称性が優れているため、マッハツェンダー干渉計の両アームに光路長差が生じにくく、波長特性に優れ、また光回路を構成する各個別要素のレイアウトが容易で回路が配置しやすいという特徴があることも指摘しておく。
【0101】
本実施例では、信号光の伝搬方向に対し、位相変調手段、位相調整領域の順で配置された構成について説明してきたが、配置順はこれに限定されるものではなく、順序が入れ替わっても差し支えなく、まったく同様な動作が実現可能である。またその順序は、マッハツェンダー干渉計を構成するアーム全てについて同一の順序である必要もなく、それぞれが異なった順序で配置されていても構わない。
【0102】
本実施例に係る光変調器における光分岐回路402、及び光合流回路406についても、第1の実施例に係る光変調器の場合と同様に、特にその構成を限定するものではなく、Y分岐回路、方向性結合器、ファネル型カプラ、多モード導波路の干渉効果を用いたMMIカプラ等、どのような構成のものを用いても同様な効果を得ることが可能である。
【0103】
なお、本実施例に係る光変調器の構成において用いるマッハツェンダー変調器の構造及び材質に関しては、特に制約を設けるものではなく、LiNbO3に代表されるような誘電体材料、InP系、GaAs系に代表されるような化合物半導体材料、Si等の半導体材料、ポリマー系材料等、通常変調器として使用可能なすべての材料系、言い換えれば電圧印加、電流注入、加熱、冷却、光照射その他、外部制御により屈折率が可変できるすべての材料系について本実施例に係る光変調器の構成をとることにより上述したような効果が期待できる。
【0104】
また、導波路構造に関しても、特に制約を設けるものではなく、埋め込み構造、リッジ構造、ハイメサ構造等を信号光が伝搬可能な導波構造であれば、本実施例に係る光変調器の構成をとることにより同様な効果が期待できる。
【実施例3】
【0105】
以下、本発明に係る光変調器の第3の実施例について説明する。
図6は、本実施例に係る光変調器の構成を示した模式図である。
図6中、601は入力導波路、602は光分岐回路、603a,603bは接続導波路、604a,604bは位相変調器、605a,605bは接続導波路、606は光合流回路、607は出力導波路、608a,608bは位相調整領域、609a,609bは光強度調整手段である電界吸収領域をそれぞれ示している。
【0106】
本実施例に係る光変調器の動作原理は、光強度調整手段である電界吸収領域609a,609bの動作に関する点を除けば、図4に示した第2の実施例に係る光変調器と同様であり、入力導波路601、光分岐回路602、接続導波路603a,603b、位相変調器604a,604b、接続導波路605a,605b、光合流回路606、出力導波路607、位相調整領域608a,608bを、それぞれ入力導波路401、光分岐回路402、接続導波路403a,403b、位相変調器404a,404b、接続導波路405a,405b、光合流回路406、出力導波路407、位相調整領域408a,408bと読み替えることによりその動作を説明することができる。
【0107】
本実施例に係る光変調器の構成では、第2の実施例に係る光変調器の構成に加え、マッハツェンダー干渉計を構成する両アームに強度調整手段である電界吸収領域609a,609bが配置されている。その働きは、作製誤差等による光分岐手段である光分岐回路602又は光合流手段である光合流回路606の分岐比、合流比のばらつきや、接続導波路603a,603b、位相変調器604a,604b、位相調整領域608a,608bにおける損失のばらつきにより、入力導波路601から光分岐回路602、接続導波路603a、位相変調器604a、位相調整領域608a、強度調整手段である電界吸収領域609a、接続導波路605a、光合流回路606という第1の経路を経た信号光と、入力導波路601から光分岐回路602、接続導波路603b、位相変調器604b、位相調整領域608b、強度調整手段である電界吸収領域609b、接続導波路605b、光合流回路606という第2の経路を経由した信号光の電界振幅の差が3dB、すなわち強度差が6dBからずれてしまった場合でも、強度調整手段である電界吸収領域609a,又は電界吸収領域809bにより強度調整することにより、所望の強度差6dBに設定することを可能にするものである。
【0108】
したがって、本実施例に係る光変調器の構成により、第1又は第2の実施例に係る光変調器の特徴である、構成が簡単で低コスト、かつ制御が容易で、なおかつ従来の直交変調器で本質的に生じていた3dBの原理損失の生じない低損失という効果を維持したまま、作製トレランスを拡大することが可能となる。
【0109】
さらに、若干の過剰損失を許容すれば、光分岐回路602又は光合流回路606のうちどちらかのみが非対称な光分岐比又は光合流比、他方が対称な光分岐比又は光合流比を有するような構成を用いた場合でも、強度調整手段である電界吸収領域609a又は電界吸収領域609bにより強度調整することにより、所望の強度差6dBに設定することが可能となるため、所望の動作を実現することが可能である。
【0110】
本実施例では、信号光の伝搬方向に対し、位相変調手段、位相調整領域、強度調整手段の順で配置された構成について説明してきたが、配置順はこれに限定されるものではなく、順序が入れ替わっても差し支えなく、全く同様な動作が実現可能である。また、その順序は、マッハツェンダー干渉計を構成するアーム全てについて同一の順序である必要もなく、それぞれが異なった順序で配置されていても構わない。
【0111】
本実施例では、全ての位相変調手段である位相変調器604a,604bに位相調整領域608a,608bが接続された場合について説明したが、第2の実施例において説明したように、位相変調手段からの出力のうち1つは位相調整しないで用いることが可能である。
【0112】
例えば、位相変調器604bに接続された位相調整領域608bでは位相変化が生じない状態で使用し、位相変調器604aに接続された位相調整領域608aにおいて、光合流手段606に入射する信号光の相対的な位相関係を調整することが可能である。すなわち、位相調整領域608bは原理上必要ではない。つまり、原理上は位相変調手段のうち1つを除いた残りに位相調整領域608aが設けられていれば本実施例に係る光変調器の動作には十分である。
【0113】
しかし、本実施例で示したような、全ての位相変調手段にそれぞれ位相調整領域608a,608bが接続された構成は、光回路の幾何学的な対称性が優れているため、マッハツェンダー干渉計の両アームに光路長差が生じにくく、波長特性に優れ、また光回路を構成する各個別要素のレイアウトが容易で回路が配置しやすいという特徴があることも、第2の実施例に係る光変調器の場合と同様である。
【0114】
本実施例に係る光変調器で用いる光分岐回路602及び光合流回路606についても、第1及び第2の実施例に係る光変調器の場合と同様に、特にその構成を限定するものではなく、Y分岐回路、方向性結合器、ファネル型カプラ、多モード導波路の干渉効果を用いたMMIカプラ等、どのような構成のものを用いても同様な効果を得ることが可能であることは自明である。
【0115】
なお、本実施例に係る光変調器の構成において用いるマッハツェンダー変調器の構造及び材質に関しては、特に制約を設けるものではなく、LiNbO3に代表されるような誘電体材料、InP系、GaAs系に代表されるような化合物半導体材料、Si等の半導体材料、ポリマー系材料等、通常変調器として使用可能なすべての材料系、言い換えれば電圧印加、電流注入、加熱、冷却、光照射、その他、外部制御により屈折率が可変できるすべての材料系について本実施例に係る光変調器の構成をとることにより上述したような効果が期待できる。
【0116】
また、導波路構造に関しても、特に制約を設けるものではなく、埋め込み構造、リッジ構造、ハイメサ構造等を信号光が伝搬可能な導波構造であれば本構成をとることにより同様な効果が期待できる。
【実施例4】
【0117】
以下、本発明に係る光変調器の第4の実施例について説明する。
本実施例に係る光変調器は、図4に示した第2の実施例に係る光変調器において、マッハツェンダー干渉計のアームの数、又は位相変調手段の数が3の場合を示している。
【0118】
図7は、本実施例に係る光変調器の構成を示した模式図である。
図7中、701は入力導波路、702は光分岐回路、703a,703b,703cは接続導波路、704a,704b,704cは位相変調器、705a,705b,705cは接続導波路、706は光合流回路、707は出力導波路、708a,708b,708cは位相調整領域、709a,709b,709cは光強度調整手段である電界吸収領域をそれぞれ示している。
【0119】
本実施例では、光分岐手段702の分岐比は非対称で、接続導波路703a,703b,703cへの分岐比はそれぞれ4:2:1となるように設定される。また、光合流手段706の合流比は非対称で、接続導波路705a,705b,705cからの合流比はそれぞれ4:2:1となるように設定される。
【0120】
本実施例に係る光変調器の動作原理は、マッハツェンダー干渉計のアーム及びアーム上に配置されている位相変調手段である位相変調器704a,704b,704c、強度調整手段である電界吸収領域709a,709b,709c、位相調整領域708a,708b,708cが、アーム1本分、すなわち各1つずつ多い点を除けば、図6に示した第3の実施例に係る光変調器と同様であり、図6における入力導波路601、光分岐回路602、接続導波路603a,603b、位相変調器604a,604b、接続導波路605a,605b、光合流回路606、出力導波路607、位相調整領域608a,608b、電界吸収領域609a,609bを、それぞれ入力導波路701、光分岐回路702、接続導波路703a,703b,703c、位相変調器704a,704b,704c、接続導波路705a,705b,705c、光合流回路706、出力導波路707、位相調整領域708a,708b,708c、電界吸収領域709a,709b,709cと読み替えることにより、その動作を理解することが可能である。
【0121】
すなわち、第1〜3の実施例同様、最大振幅が半波長電圧Vπの1.5倍なる4値の信号で駆動した場合の動作を考えると、入力導波路701、光分岐回路702、接続導波路703a、位相変調器704a、位相調整領域708a、電界吸収領域709a、接続導波路705a、光合流回路706、出力導波路707を経由する第1の経路で出力される信号光のコンスタレーションは、図6に示した第3の実施例に係る光変調器と同様な原理により図8(a)に示したような半径r1の大きな円周上に等間隔に配置された○のようになる。
【0122】
光分岐回路702の分岐比は4:2:1であるため、第1の経路に分岐される比率と、入力導波路701、光分岐回路702、接続導波路703b、位相変調器704b、位相調整領域708b、電界吸収領域709b、接続導波路705b、光合流回路706、出力導波路707を経由する第2の経路に分岐される比率は、4:2=2:1となり、図6に示した第3の実施例に係る光変調器と同様となっている。
【0123】
また、光合流回路706の合流比も4:2:1であるため、第1の経路及び第2の経路からの合流比も4:2=2:1となり、図6に示した第3の実施例に係る光変調器と同様となっているため、第1の経路を経由した信号光と、第2の経路を経由した信号光は、強度差6dBで出力導波路707に出録されることになる。
【0124】
したがって、第1の経路で出力される信号光と、第2の経路で出力される信号光が足し合わされたときのコンスタレーションは、上述した第1の経路で出力されるコンスタレーションを配置する半径r1の円の1/2の半径r2を有する小さな円周上に配置された等間隔のコンスタレーションとなるため、第1の経路を経由した信号光と、第2の経路を経由した信号光の位相差が、0度、90度、180度、270度のいずれか、すなわち互いの相対位相差が90度の整数倍になるように位相調整領域708a又は位相調整領域708bにおいて調整し、両者を足し合わすことにより合成された信号光のコンスタレーションは図8(b)の◎で示されるような、○を中心とした半径r2の円周上に配置された16個の点となることは図6に示した第3の実施例に係る光変調器と同様である。
【0125】
本実施例では、ここにさらに入力導波路701、光分岐回路702、接続導波路703c、位相変調器704c、位相調整領域708c、電界吸収領域709c、接続導波路705c、光合流回路706、出力導波路707を経由する第3の経路で出力される信号光が足し合わされる。
【0126】
接続導波路703c、位相変調器704c、位相調整領域708c、電界吸収領域709c、接続導波路705cの働きは接続導波路703a、位相変調器704a、位相調整領域708a、電界吸収領域709a、接続導波路705a及び接続導波路703b、位相変調器704b、位相調整領域708b、電界吸収領域709b、接続導波路705bと同様であるため、第3の経路を経由した信号光のコンスタレーションもある半径r3なる円周上に等間隔に配置された4つの点となることは容易に理解できる。
【0127】
ここで、光分岐回路702の分岐比は4:2:1であるため、第1の経路に分岐される比率と、第3の経路に分岐される比率は4:1となり、また、光合流回路706の合流比も4:2:1であるため、第1の経路及び第3の経路からの合流比も4:1となるため、第3の経路を経由した信号光は、第1の経路を経由した信号光と比較して1/16、すなわち強度差12dBで出力導波路707に出力されることになる。
【0128】
したがって、第3の経路を経由した信号光のコンスタレーションの半径r3は、強度差12dBに対応する電界で6dBダウン、すなわちr1の1/4となることが理解できる。さらに、位相調整領域708cにおいて第1の経路を経由した信号光と、第3の経路を経由した信号光の位相差が、0度、90度、180度、270度のいずれか、すなわち互いの相対位相差が90度の整数倍となるように調整することにより、3つの経路をそれぞれ経由した信号光の合成された信号光のコンスタレーションは、図8(c)の●で示されるような、原点を中心とした半径r1の円周上に配置された4つの点○をそれぞれ中心とした、半径r2の円周上に配置された16個の点◎をそれぞれ中心とした、半径r3の編集上に配置された64個の点で示されることが理解できる。
【0129】
ここで、第1の経路を経由した信号光と、第3の経路を経由した信号光の位相差が、90度の整数倍となるように調整することにより、自動的に第2の経路を経由した信号光と、第3の経路を経由した信号光の位相差も90度の整数倍となっていることは言うまでもない。したがって、第3の経路を経由した信号光の相対位相差の調整は、第1の経路又は第2の経路を経由した信号光のどちらかに対して行えばよいことになる。
【0130】
図8(c)に示したコンスタレーションは、64個の点が等間隔で格子状に配置された64QAMのコンスタレーションであり、本実施例に係る光変調器の構成により、64QAM変調が可能であることがわかる。
【0131】
なお、本実施例では、マッハツェンダー干渉計の各アームに光強度調整手段である電界吸収領域709a,709b,709cが配置されているため、光分岐手段である光分岐回路702並びに光合流手段である光合流回路706の分岐比及び合流比が、作製誤差等により設定からずれてしまった場合や、マッハツェンダー干渉計のアームの伝搬損失差により、各アームを伝搬する信号光の強度差が所定の比からずれてしまった場合に、強度調整手段である電界吸収領域709a,709b,709cにより強度比を所望の値に設定することが可能であるため、作製トレランスの高いQAM変調器を提供することが可能となる。なお、理想的に作製できている場合には、光強度調整手段である電界吸収領域709a,709b,709cは原理的には必要ないことは第1〜第3の実施例に係る光変調器の場合と同様である。
【0132】
本実施例では、マッハツェンダー干渉計のアーム数が3本で信号光の経路が3の場合について説明してきたが、アーム数がさらに増えても同様な議論が成り立ち、同様な動作が可能である。アーム数がn(n≧2)の場合について一般化すると、k番目(2≦k≦n)の経路を経由した信号光の強度が、(k−1)番目の経路を経由した信号光の1/4の強度(電界で1/2)となるように光分岐回路702の分岐比及び光合流回路706の合流比が設定されていればよい。
【0133】
すなわち、分岐比及び合流比を、2n-1:2n-2:・・・:1となるように設定すれば、出力導波路707に出力される信号光の強度比は、(2n-12:(2n-22:・・・:(1)2となり、k番目の経路を経由した信号光の強度が(k−1)番目の経路を経由した信号光の1/4となる。
【0134】
このような状況の下、k番目の経路を経由した信号光の位相が、他の経路を経由した信号光に対し、90度の整数倍となるように位相調整領域708a,708b,708cにおいて位相調整することにより、4n値の多値変調である4nQAM変調が実現可能である。
【0135】
すなわち、本実施例に係る光変調器の構成を用いることにより、アーム数がn(n≧2)のマッハツェンダー干渉計のアームに任意の順で番号をふったとき、各アームにそれぞれ配置された位相変調手段である位相変調器704a,704b,704cを最大振幅が半波長電圧の1.5倍となるような4値の駆動信号でそれぞれ駆動し、i番目(1≦i≦n)の経路を経由した信号光の強度が、1番目のアームを経由した信号光強度の4i-1となるように、光分岐手段である光分岐回路702並びに光合流手段である光合流回路706の光強度で定義した分岐比及び合流比を、2n-1:2n-2:・・・:1のように設定し、また、i番目の経路を経由した信号光の位相が、他の経路を経由した信号光に対し、90度の整数倍となるように、位相調整領域708a,708b,708cにおいて位相調整することにより4n値の多値変調である4nQAM変調が実現可能である。
【0136】
本実施例では、強度調整手段として、位相変調手段である位相変調器704a,704b,704cに接続された電界吸収領域709a,709b,709cを用いた場合について説明したが、強度変調手段は電界吸収領域709a,709b,709cに限定されるものではなく、電流注入による光吸収を利用するものでも良く、また、光増幅器であってもよく、さらに、マッハツェンダー型の光アッテネータ回路が接続されていてもよい。
【0137】
本実施例に係る光変調器の構成を用いれば、アーム数が2の場合と同様な議論により、直交変調器を用いた場合に本質的に生じていた3dBの過剰損失が発生しないことは容易に理解できる。
【0138】
本実施例に係る光変調器において用いる光分岐回路702については、特にその分岐数を限定するものではなく、必ずしも1入力n出力(n>2)である必要もない。例えば、1入力2出力の光分岐回路を用いた場合でも、必要な分岐数が得られるまで光分岐回路を多段に接続すればよい。また、光合流回路707についても、同様である。
【実施例5】
【0139】
以下、本発明に係る光変調器の第5の実施例について説明する。
図9は、本実施例に係る光変調器の構成を示した模式図である。
図9中、901は入力導波路、902は光分岐回路、903a,903b,903cは接続導波路、904a,904b,904cは位相変調器、905a,905b,905cは接続導波路、906は光合流回路、907は出力導波路、908a,908b,908cは位相調整領域、909a,909b,909cは光強度調整手段である電界吸収領域をそれぞれ示している。
【0140】
本実施例に係る光変調器の構成においては、光分岐回路902が、光分岐回路910及び光分岐回路911の多段接続により構成されており、また、光合流回路906が、光分岐回路912及び光分岐回路913の多段接続により構成されていることを除けば、図7に示した第4の実施例に係る光変調器と同様である。
【0141】
したがって、本実施例に係る光変調器の構成の動作原理は、図7に示した第4の実施例に係光変調器と同様であり、図7における入力導波路701、光分岐回路702、接続導波路703a,703b,703c、位相変調器704a,704b,704c、接続導波路705a,705b,705c、光合流回路706、出力導波路707、位相調整領域708a,708b,708c、電界吸収領域709a,709b,709cを、それぞれ入力導波路901、光分岐回路902、接続導波路903a,903b,903c、位相変調器904a,904b,904c、接続導波路905a,905b,905c、光合流回路906、出力導波路907、位相調整領域908a,908b,908c、電界吸収領域909a,909b,909cと読み替えることにより、その動作を理解することが可能である。
【0142】
本実施例では、光分岐手段である光分岐回路902における、接続導波路903a,903b,903cへの分岐比が4:2:1となるように、また、光合流手段である光合流回路906における、接続導波路905a,905b,905cからの合流比が、4:2:1となるように設定するため、光分岐回路910及び光分岐回路911の分岐比は、それぞれ4:3、2:1となるように設定されており、また、光分岐回路912及び光分岐回路913の合流比も、それぞれ4:3、2:1となるように設定されている。
【0143】
これは、1入力3出力の光分岐手段を、1入力2出力の光分岐手段の2段接続で構成した場合、1段目の光分岐手段の分岐比は、23-1:(22-1+21-1)=4:3、2段目の光分岐手段の分岐比は、22-1:21-1=2:1と表すことができ、マッハツェンダー干渉計のアーム数がn(n≧2)の場合について一般化すると、入力導波路901側から数えてi段目の分岐比が下記式(1)となるように設定し、(i+1)段目の光分岐手段を分岐比が下記式(2)側の導波路に接続すればよいことになる。
【0144】
【数1】

【数2】

【0145】
光合流手段についても同様に、出力導波路907に近い順にi段目とすると、i段目の合流比が上記式(1)となるように設定し、(i+1)段目の光合流手段を合流比が上記式(2)側の導波路に接続すればよい。
【0146】
本実施例に係る光変調器の構成を用いた場合も、直交変調器を用いた場合に本質的に生じていた3dBの過剰損失が発生しないことはいうまでもない。
本実施例に係る光変調器で用いる光分岐回路及び光合流回路については、特にその構成を限定するものではなく、Y分岐回路、方向性結合器、ファネル型カプラ、多モード導波路の干渉効果を用いたMMIカプラ等、どのような構成のものを用いても同様な効果を得ることが可能である。
【0147】
なお、本実施例に係る光変調器の構成においても、用いるマッハツェンダー変調器の構造及び材質に関しては、特に制約を設けるものではなく、LiNbO3に代表されるような誘電体材料、InP系、GaAs系に代表されるような化合物半導体材料、Si等の半導体材料、ポリマー系材料等、通常変調器として使用可能なすべての材料系について本構成をとることにより、上述したような効果が期待できる。また、導波路構造に関しても、特に制約を設けるものではなく、埋め込み構造、リッジ構造、ハイメサ構造等を信号光が伝搬可能な導波構造であれば、本実施例に係る光変調器の構成をとることにより同様な効果が期待できる。
【実施例6】
【0148】
以下、本発明に係る光変調器の第6の実施例について説明する。
本実施例に係る光変調器は、図9に示した第5の実施例に係る光変調器における光分岐回路902の構成の例を示している。本実施例に係る光変調器の構成では、作製が容易な分岐比1:1の対称光分岐回路を用いながら、過剰損失が従来の直交変調器を用いた場合よりも小さくなる構成を示す。
【0149】
図10は、本実施例に係る光変調器の構成を示した模式図である。
図10中、1001は入力導波路、1002,1003,1004は分岐比1:1の対称光分岐回路、1005a,1005b,1005c,1005dは対称光分岐回路1002,1003,1004の出力導波路をそれぞれ示している。
今、入力導波路1001から入射した信号光は、分岐比1:1の対称分岐回路1002で2分岐され、1/2のパワーが出力導波路1005aへ、残りの1/2のパワーが2段目の分岐回路1003に入射する。
【0150】
2段目の分岐回路1003も対称分岐回路なので、信号光はさらに2分岐され、結果として1/2×1/2=1/4のパワーが出力導波路1005bへ、残りの1/2×1/2=1/4のパワーが3段目の分岐回路1004に入射する。
3段目の分岐回路1004も対称分岐回路なので、信号光はさらに2分岐され、結果として1/4×1/2=1/8のパワーが出力導波路1005cへ、残りの1/4×1/2=1/8のパワーが出力導波路1005dへ導かれる。
【0151】
今、出力導波路1005a,1005b,1005c,1005dのうち、出力導波路1005a,1005b,1005cのみに注目すると、その分岐比は1/2:1/4:1/8=4:2:1となっていることがわかる。したがって、出力導波路1005a,1005b,1005cのみを使用し、出力導波路1005dから出力される信号光を損失分として取り扱うと、図10に示した本実施例に係る光変調器の構成は、図7に示した第4の実施例に係る光変調器における光分岐回路702、及び図9に示した第5の実施例に係る光変調器における光分岐回路902として使用可能な非対称分岐比を有する光分岐手段として使用できることがわかる。
【0152】
図10に示した本実施例に係る光変調器の構成における光分岐手段は、左右反転することによりそのまま光合流手段として使用可能であるため、図9に示した第5の実施例に係る光変調器における光合流回路906として使用可能であることはいうまでもない。
【0153】
ここで、図10に示した本実施例に係る光変調器の構成を用いた場合の過剰損失について議論する。
光分岐手段において出力導波路1005a,1005b,1005cに出力されるパワーの合計は、1/2+1/4+1/8=7/8となる。一方、本構成を光合流手段として使用した場合、いわゆる光線逆行の定理により分岐の場合と同様に最大で7/8となる。これは、3本の導波路から同位相で信号光が入射した際に成り立つ。このときの変調器トータルの透過パワーは、7/8×7/8=49/64となり、過剰損失は約1.2dBとなるため、従来の直交変調器を用いた場合の過剰損失3dBと比較して1.8dBも低損失化が図れることがわかる。
【0154】
以上説明したように、光分岐手段もしくは光合流手段の一方、又は光分岐手段及び光合流手段の両方を、対称光分岐回路又は対称光合流回路の多段接続で構成し、出力ポート又は入力ポートのうち1つを使用しない構成を用いた場合でも、従来の直交変調器を用いた構成に比べ、構成が簡単で低コスト、かつ制御が容易で低損失な光多値変調用の変調器を提供することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明は、例えば、電気信号を光信号に変換して送信する光変調器に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0156】
101 入力導波路
102 光分岐回路
103a,103b 接続導波路
104a,104b 位相変調器
105a,105b 接続導波路
106 光合流回路
107 出力導波路
301a,301b 入力導波路
302 多モード干渉領域
303a,303b 分岐出力用導波路
304 入力導波路
305 対称光分岐回路
306 接続導波路
307 位相調整領域
308 対称合分器回路
309,310 分岐出力用導波路
311 入力導波路
312,313 対称光分岐回路
314,315 分岐出力用導波路
316 導波路
401 入力導波路
402 非対称な分岐比を有する光分岐手段である光分岐回路
403a,403b 接続導波路
404a,404b 位相変調器
405a,405b 接続導波路
406 光合流回路
407 出力導波路
408a,408b 位相調整領域
601 入力導波路
602 光分岐回路
603a,603b 接続導波路
604a,604b 位相変調器
605a,605b 接続導波路
606 光合流回路
607 出力導波路
608a,608b 位相調整領域
609a,609b 電界吸収領域
701 入力導波路
702 光分岐回路
703a,703b,703c 接続導波路
704a,704b,704c 位相変調器
705a,705b,705c 接続導波路
706 光合流回路
707 出力導波路
708a,708b,708c 位相調整領域
709a,709b,709c 電界吸収領域
901 入力導波路
902 光分岐回路
903a,903b,903c 接続導波路
904a,904b,904c 位相変調器
905a,905b,905c 接続導波路
906 光合流回路
907 出力導波路
908a,908b,908c 位相調整領域
909a,909b,909c 電界吸収領域
910,911 光分岐回路
912,913 光合流回路
1001 入力導波路
1002,1003,1004 対称光分岐回路
1005a,1005b,1005c,1005d 出力導波路
1101 入力導波路
1102 光分岐回路
1103a,1103b 接続導波路
1104a,1104b 光分岐回路
1105a,1105b,1105c,1105d 位相変調器
1106a,1106b 光合流回路
1107a,1107b 位相調整領域
1108 光合流回路
1109 出力導波路
1110a,1110b マッハツェンダー変調器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された電気信号を多値光信号に変換する光変調器であって、
入射信号光を分岐する光分岐手段と、
前記光分岐手段の出力側に接続され、前記電気信号に応じて伝搬光の位相を変調する少なくとも2つの位相変調手段と、
前記少なくとも2つの位相変調手段からの出力を合流させる光合流手段と
を備え、
さらに、前記光分岐手段と前記光合流手段のうち少なくとも一方が非対称な分岐比又は合流比を有し、
前記少なくとも2つの位相変調手段から前記光合流手段を経て出力側に導かれる信号光の強度が互いに異なるように設定される
ことを特徴とする光変調器。
【請求項2】
入力された電気信号を多値光信号に変換する光変調器であって、
入射信号光を分岐する光分岐手段と、
分岐された信号光を合流する光合流手段と、
マッハツェンダー干渉計を構成する前記光分岐手段と前記光合流手段を結ぶ少なくとも2本の導波路と、
前記少なくとも2本の導波路にそれぞれ位相変調手段と
を備え、
さらに、前記光分岐手段と前記光合流手段のうち少なくとも一方が非対称な分岐比又は合流比を有し、
前記位相変調手段を通過し、前記光合流手段を経て出力側に導かれる信号光の強度が信号光の伝搬経路に応じて互いに異なるように設定される
ことを特徴とする光変調器。
【請求項3】
前記出力側に導かれる信号光の強度が互いに1/4倍ずつ異なる
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光変調器。
【請求項4】
入力された電気信号を多値光信号に変換する光変調器であって、
入射信号光を2:1の分岐比により2分岐する光分岐手段と、
前記第1の光分岐手段の出力側に接続され、前記電気信号に応じて伝搬光の位相を変調する2つの位相変調手段と、
前記2つの位相変調手段からの出力を2:1の合流比により合流させる光合流手段と
を備え、
前記2つの位相変調手段から前記光合流手段を経て出力側に導かれる信号光の強度が4:1となるように前記光分岐手段と前記光合流手段が接続される
ことを特徴とする光変調器。
【請求項5】
前記少なくとも2つの位相変調手段の全て、又は前記少なくとも2つの位相変調手段のうち1つの位相変調手段を除いた残りの位相変調手段に、伝搬するレーザ発振光の位相を調整する位相調整手段が接続される
ことを特徴とする請求項1から請求項4項のいずれか1項に記載の光変調器。
【請求項6】
前記少なくとも2つの位相変調手段の全て、又は前記少なくとも2つの位相変調手段のうち1つの位相変調手段を除いた残りの位相変調手段に、前記少なくとも2つの位相変調手段から前記光合流手段を経て出力側に導かれる信号光の位相差が0度又は90度の整数倍となるように伝搬する信号光の位相を調整する位相調整手段が接続される
ことを特徴とする請求項1から請求項5項のいずれか1項に記載の光変調器。
【請求項7】
前記少なくとも2つの位相変調手段の全て、又は前記少なくとも2つの位相変調手段のうち1つの位相変調手段を除いた残りの位相変調手段に、伝搬するレーザ発振光の強度を調整する強度調整手段が接続される
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の光変調器。
【請求項8】
前記強度調整手段として、伝搬する信号光を吸収する吸収手段又は伝搬する信号光を増幅する増幅手段が接続される
ことを特徴とする請求項7に記載の光変調器。
【請求項9】
前記強度調整手段として、マッハツェンダー干渉計が接続される
ことを特徴とする請求項7に記載の光変調器。
【請求項10】
前記光分岐手段が多モード干渉型カプラ、ファネル型カプラ、方向性結合器、Y字型光合流器のいずれかである
ことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の光変調器。
【請求項11】
前記光合流手段が多モード干渉型カプラ、ファネル型カプラ、方向性結合器、Y字型光合流器のいずれかである
ことを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の光変調器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−155238(P2012−155238A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15965(P2011−15965)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】