説明

光変調装置、光変調器の制御方法、及び光変調器の制御装置

【課題】光の通過損失が増大することを抑制しつつ、位相調整を行うことが可能な光変調装置を提供すること。
【解決手段】本発明は、第1出力光導波路38a及び第2出力光導波路38bに第2MMI34を介して第1光導波路32a及び第2光導波路32bが接続するマッハツェンダ型光変調器10と、第1光導波路32a及び第2光導波路32bに設けられた位相調整用電極40に対して位相制御信号を入力すると共に、位相制御信号を位相調整用電極夫々の間で切替える機能を有する位相調整回路12と、第1光導波路32a及び第2光導波路32bを伝搬する光を変調させる変調信号を、第1光導波路32a及び第2光導波路32bに設けられた変調用電極42に差動信号として入力する駆動回路14と、駆動回路14から出力される差動信号の極性を反転させる信号極性反転回路50と、を備える光変調装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調装置、光変調器の制御方法、及び光変調器の制御装置に関し、特に、マッハツェンダ型光変調器を有する光変調装置、光変調器の制御方法、及び光変調器の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光に信号を乗せて光ファイバで伝送する光通信システムにおいて、光源から出射されたレーザ光を強度変調して光信号を生成する光変調器が利用されている。光変調器として例えばマッハツェンダ型光変調器が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
マッハツェンダ型光変調器は、入力された光を分岐する分岐部と、分岐された光を伝搬させる2つの光導波路と、光導波路を伝搬した光を再び合波させる合波部と、の導波路構成を有し、光を合波させる時の干渉条件によって光のオン・オフを行う光変調器である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−49473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マッハツェンダ型光変調器の導波路を製造する際には、導波路の幅や長さ等に製造ばらつきが少なからず発生し、2つの光導波路を通過した光の位相差が設定値から外れてしまう場合がある。このような位相差のズレを調整するために、2つの光導波路夫々に設けられた電極に電圧を印加することで、位相調整を行うことがなされている。
【0006】
このような位相調整において、位相差のズレが大きい場合には、位相調整の幅も大きくなる。位相調整の幅を大きくするには、電極を長くするか、電極に印加する電圧を大きくすることで対処できるが、この場合、光の通過損失が増大してしまうという課題がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、光の通過損失が増大することを抑制しつつ、位相調整を行うことが可能な光変調装置、光変調器の制御方法、及び光変調器の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、2つの出力光導波路に合分波部を介して2つの光導波路が接続するマッハツェンダ型の光変調器と、前記2つの光導波路夫々に設けられた位相調整用電極に対して位相制御信号を入力するとともに、前記位相制御信号を前記位相調整用電極夫々の間で切替える機能を有する位相調整回路と、前記2つの光導波路を伝搬する光を変調させる変調信号を、前記2つの光導波路夫々に設けられた変調用電極に差動信号として入力する駆動回路と、前記駆動回路から出力される前記差動信号の極性を反転させる信号極性反転回路と、を備えることを特徴とする光変調装置である。本発明によれば、位相調整用電極に印加するDC電圧等が大きくなることの抑制が可能となるため、光の通過損失の増加を抑制しつつ、位相調整を行うことが可能となる。
【0009】
上記構成において、前記位相調整回路による切替えと、前記信号極性反転回路による前記差動信号の極性の反転と、は連動してなされる構成とすることができる。この構成によれば、位相調整用電極に印加するDC電圧等が大きくなることを抑制できるため、光の通過損失の増加を抑制しつつ、位相調整を行うことができる。
【0010】
上記構成において、前記位相調整回路は、前記位相調整回路による前記2つの光導波路のいずれか一方の位相調整量の絶対値が所定値を超える場合に、前記位相制御信号を入力する前記位相調整用電極を切替え、前記信号極性反転回路は、前記絶対値が前記所定値を超える場合に前記差動信号の極性を反転させる構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記位相調整量を判断して、前記位相調整量の絶対値が前記所定値を超える場合に前記位相調整回路及び前記信号極性反転回路に通知する位相調整量判断回路を備える構成とすることができる。この構成によれば、位相調整回路による位相制御信号を入力する位相調整用電極の切替えと、信号極性反転回路による差動信号の極性反転の有無と、を随時変更することができる。
【0012】
上記構成において、前記位相調整回路は、前記位相調整回路による前記2つの光導波路のいずれか一方の位相調整量の絶対値が所定値を超える場合に前記位相調整用電極に入力する前記位相制御信号を切替え、前記信号極性反転回路は、前記2つの出力光導波路を伝搬する光の強度の変動傾向に基づいて、前記差動信号の極性を反転させる構成とすることができる。この構成によれば、変調用光信号として利用する出力光信号の論理と変調信号の論理とを一致させることができる。
【0013】
上記構成において、前記位相調整量を判断して、前記位相調整量の絶対値が前記所定値を超える場合に前記位相調整回路に通知する位相調整量判断回路と、前記2つの出力光導波路における前記光の強度の変動傾向を判断して、前記信号極性反転回路に通知する光強度判断回路と、を備える構成とすることができる。この構成によれば、位相調整回路による位相制御信号を入力する位相調整用電極の切替えと、信号極性反転回路による差動信号の極性反転の有無と、を随時変更することができる。
【0014】
上記構成において、前記所定値は、0.5πである構成とすることができる。この構成によれば、位相調整の幅をより小さくすることができる。
【0015】
本発明は、2つの出力光導波路に合分波部を介して2つの光導波路が接続するマッハツェンダ型光変調器の制御方法であって、前記2つの光導波路夫々に設けられた位相調整用電極に対して入力される位相制御信号を前記位相調整用電極夫々の間で切替える制御と、前記2つの光導波路を伝搬する光を変調させる差動信号からなる変調信号の極性を反転させる制御と、をなすことを特徴とする光変調器の制御方法である。本発明によれば、位相調整用電極に印加するDC電圧等が大きくなることの抑制が可能となるため、光の通過損失の増加を抑制しつつ、位相調整を行うことが可能となる。
【0016】
上記構成において、前記切替える制御と前記反転させる制御とは、前記2つの光導波路のいずれか一方の位相調整量の絶対値が所定値を超える場合になされる構成とすることができる。
【0017】
上記構成において、前記切替える制御は、前記2つの光導波路のいずれか一方の位相調整量の絶対値が所定値を超える場合になされ、前記反転させる制御は、前記2つの出力光導波路を伝搬する光の強度の変動傾向に基づいてなされる構成とすることができる。この構成によれば、変調用光信号として利用する出力光信号の論理と変調信号の論理とを一致させることができる。
【0018】
本発明は、2つの出力光導波路に合分波部を介して2つの光導波路が接続するマッハツェンダ型光変調器の制御装置であって、前記2つの光導波路夫々に設けられた位相調整用電極に対して位相制御信号を入力するとともに、前記位相制御信号を前記位相調整用電極夫々の間で切替える機能を有する位相調整回路と、前記2つの光導波路を伝搬する光を変調させる変調信号を、前記2つの光導波路夫々に設けられた変調用電極に差動信号として入力する駆動回路と、前記駆動回路から出力される前記差動信号の極性を反転させる信号極性反転回路と、を備えることを特徴とする光変調器の制御装置である。本発明によれば、位相調整用電極に印加するDC電圧等が大きくなることの抑制が可能となるため、光の通過損失の増加を抑制しつつ、位相調整を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、位相調整用電極に印加するDC電圧等が大きくなることの抑制が可能となるため、光の通過損失の増加を抑制しつつ、位相調整を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、比較例1に係る光変調装置の上面模式図の例である。
【図2】図2(a)は、図1のA−A間の断面模式図の例であり、図2(b)は、図1のB−B間の断面模式図の例である。
【図3】図3は、実施例1に係る光変調装置の上面模式図の例である。
【図4】図4は、実施例1に係る光変調装置の制御について説明するフローチャートである。
【図5】図5は、ΦDC1とΦDC2との差が−0.5πである場合の出力光信号の論理と変調信号の論理との関係を説明する模式図である。
【図6】図6は、ΦDC1とΦDC2との差が+0.5π又は−1.5πである場合の出力光信号の論理と変調信号の論理との関係を説明する模式図である。
【図7】図7は、実施例2に係る光変調装置の上面模式図の例である。
【図8】図8は、実施例2に係る光変調装置の制御について説明するフローチャートである。
【図9】図9は、実施例3に係る光変調装置の上面模式図の例である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
まず、比較例1に係る光変調装置について説明する。図1は、比較例1に係る光変調装置の上面模式図の例である。図1のように、比較例1に係る光変調装置は、マッハツェンダ型光変調器10と、位相調整回路12と、駆動回路14と、を主として備える。
【0022】
マッハツェンダ型光変調器10は、半導体基板上のメサ状の光導波路の経路を組み合わせて構成される光変調器である。図2(a)は、図1のA−A間の断面模式図の例であり、図2(b)は、図1のB−B間の断面模式図の例である。
【0023】
図2(a)のように、光導波路は、半導体基板16上に形成されている。光導波路は、半導体基板16上において、下クラッド層18a、コア20、上クラッド層18bがこの順にメサ状に積層された構造を有している。半導体基板16の上面、光導波路の上面及び側面には、パッシベーション膜22及び絶縁膜24が順に積層されている。
【0024】
半導体基板16は、例えばInP等の半導体からなる。下クラッド層18a及び上クラッド層18bは、例えばInP等の半導体からなる。コア20は、下クラッド層18a及び上クラッド層18bよりもバンドギャップエネルギが小さい半導体からなり、例えばInGaAsP等からなる。これにより、コア20を通過する光が下クラッド層18a及び上クラッド層18bによって閉じ込められる。パッシベーション膜22は、例えばInP等の半導体からなる。絶縁膜24は、例えばSiN等の絶縁体からなる。
【0025】
図1のように、マッハツェンダ型光変調器10には、第1入力端26aに接続された第1入力光導波路28aが設けられ、第2入力端26bに接続された第2入力光導波路28bが設けられている。第1入力光導波路28a及び第2入力光導波路28bは、第1MMI(Multi Mode Interference)30で合流し、第1光導波路32a及び第2光導波路32bに分岐する。マッハツェンダ型光変調器10の長手方向を対称軸とした場合に、第1光導波路32aは第1入力端26aと同じ側に配置され、第2光導波路32bは第2入力端26bと同じ側に配置されている。
【0026】
第1光導波路32a及び第2光導波路32bは第2MMI34で合流し、第1出力端36aに接続された第1出力光導波路38aと、第2出力端36bに接続された第2出力光導波路38bと、に分岐する。第1光導波路32aを通過してきた光と第2光導波路32bを通過してきた光とには、第2MMI34によって位相差が付加されるが、この点については、以下において説明から省略する。マッハツェンダ型光変調器10の長手方向を対称軸とした場合に、第1出力端36aは第2光導波路32bと同じ側に配置され、第2出力端36bは第1光導波路32aと同じ側に配置されている。第1光導波路32aの光路長と第2光導波路32bの光路長との間には、あらかじめ差が設けられている。例えば、第1光導波路32aを伝搬する光と第2光導波路32bを伝搬する光とに−0.5πの位相差を付加させる光路長差が設けられている。言い換えると、例えば第1光導波路32aに、第1光導波路32aを伝搬する光と第2光導波路32bを伝搬する光とに−0.5πの位相差を付加させる位相シフタが設けられている。
【0027】
第1光導波路32a及び第2光導波路32bの夫々には、位相調整用電極40及び変調用電極42が設けられている。位相調整用電極40及び変調用電極42は、互いに離間している。位相調整用電極40及び変調用電極42の位置関係は特に限定されるものではないが、ここでは、位相調整用電極40は変調用電極42よりも光入力端側に配置されている。第1出力光導波路38a及び第2出力光導波路38bの夫々には、第1出力光導波路38aを伝搬する光及び第2出力光導波路38bを伝搬する光の光強度を検出する光強度検出電極44が設けられている。
【0028】
図2(b)のように、変調用電極42は、上クラッド層18b上において、コンタクト層46を介して配置されている。コンタクト層46は、例えばInGaAs等の半導体からなる。なお、上クラッド層18bとコンタクト層46との間には、パッシベーション膜22及び絶縁膜24は設けられていない。また、位相調整用電極40及び光強度検出電極44も同様に上クラッド層18b上にコンタクト層46を介して配置されている。位相調整用電極40、変調用電極42、及び光強度検出電極44は、例えばAu等の金属からなる。
【0029】
図1に戻り、各変調用電極42の一端には、第1光導波路32a及び第2光導波路32b夫々を伝搬する光を変調させる変調用の電圧が駆動回路14により印加される。各変調用電極42に印加される変調用の電圧には、逆バイアスのDCバイアス電圧がかけられている。各変調用電極42の他端には、終端抵抗48が接続されている。各変調用電極42に変調用の電圧が印加されると、第1光導波路32a及び第2光導波路32bにおいてコア20の屈折率が変化し、第1光導波路32a及び第2光導波路32bを通過する光の位相が変化する。
【0030】
駆動回路14は、第1光導波路32aに設けられた変調用電極42と、第2光導波路32bに設けられた変調用電極42と、に変調信号として差動信号を入力する。つまり、第1光導波路32aの変調用電極42にH(ハイ)にドライブさせる電圧を印加すると、第2光導波路32bの変調用電極42にはL(ロー)にドライブさせる電圧を印加する。反対に、第1光導波路32aの変調用電極42にL(ロー)にドライブさせる電圧を印加すると、第2光導波路32bの変調用電極42にはH(ハイ)にドライブさせる電圧を印加する。このように、第1光導波路32aの変調用電極42に印加される電圧と第2光導波路32bの変調用電極42に印加される電圧とに電位差があることで、第1光導波路32aを伝搬する光と第2光導波路32bを伝搬する光とにその電位差に応じた位相差が付加される。
【0031】
例えば、第1光導波路32aの変調用電極42にH(ハイ)にドライブさせる電圧を印加し、第2光導波路32bの変調用電極42にL(ロー)にドライブさせる電圧を印加した場合に、第1光導波路32aを伝搬する光と第2光導波路32bを伝搬する光とに+0.5πの位相差が付加される。また、例えば、第1光導波路32aの変調用電極42にL(ロー)にドライブさせる電圧を印加し、第2光導波路32bの変調用電極42にH(ハイ)にドライブさせる電圧を印加した場合に、第1光導波路32aを伝搬する光と第2光導波路32bを伝搬する光とに−0.5πの位相差が付加される。
【0032】
上述したように、第1光導波路32aには、第1光導波路32aを伝搬する光と第2光導波路32bを伝搬する光とに−0.5πの位相差を付加させる位相シフタがあらかじめ設けられている。したがって、第1光導波路32aの変調用電極42にH(ハイ)にドライブされる電圧が印加され、第2光導波路32bの変調用電極42にL(ロー)にドライブさせる電圧が印加されると、第1光導波路32aを通過した光と第2光導波路32bを通過した光との位相差は0になる。反対に、第1光導波路32aの変調用電極42にL(ロー)にドライブさせる電圧が印加され、第2光導波路32bの変調用電極42にH(ハイ)にドライブさせる電圧が印加されると、第1光導波路32aを通過した光と第2光導波路32bを通過した光との位相差は−πになる。このように、各変調用電極42に差動信号として変調用の電圧が印加されると、第1光導波路32aを通過した光と第2光導波路32bを通過した光との位相差は、0と−πとを交互に繰り返すことになる。
【0033】
第1光導波路32aを通過した光と第2光導波路32bを通過した光との位相差が0である場合は、第1入力端26aから入力された光は第1出力端36aから出力され、第2出力端36bからは出力されない。反対に、第1光導波路32aを通過した光と第2光導波路32bを通過した光との位相差が−πである場合は、第1入力端26aから入力された光は第2出力端36bから出力され、第1出力端36aからは出力されない。このように、第1光導波路32aを通過した光と第2光導波路32bを通過した光との位相差に応じて、第1入力端26aから入力された光が出力される出力端が第1出力端36aと第2出力端36bとの間で切り替る。これにより、第1出力端36a又は第2出力端36bからの出力光信号を変調光信号として利用することができる。ここでは、第1出力端36aからの出力光信号を変調光信号として利用する。
【0034】
マッハツェンダ型光変調器10の光導波路を製造する際には、導波路の幅や長さ等に製造ばらつきが少なからず発生し、第1光導波路32aの光路長と第2光導波路32bの光路長とが設定値から外れてしまうことがある。これにより、第1光導波路32aを通過した光と第2光導波路32bを通過した光との位相差が設定値から外れてしまうことがある。このような位相差のズレを補正するための位相調整を行う回路が位相調整回路12である。
【0035】
位相調整回路12は、各位相調整用電極40に位相制御信号となるDC電圧を印加して、第1光導波路32a及び第2光導波路32bにおいてコア20の屈折率を変化させ、第1光導波路32a及び第2光導波路32bを伝搬する光の位相を変化させることで位相調整を行う。具体的には、位相調整回路12は、各光強度検出電極44で検出される光強度に基づいて、各位相調整用電極40に印加するDC電圧をフィードバック制御する。第1光導波路32aを通過した光と第2光導波路32bを通過した光との位相差が0と−πとを交互に繰り返す場合には、第1出力端36aから出力される光の強度と第2出力端36bから出力される光の強度とは、一定の時間幅で同じ大きさとなる。そこで、位相調整回路12は、第1出力光導波路38aの光強度検出電極44で検出された光強度と、第2出力光導波路38bの光強度検出電極44で検出された光強度と、が同じ大きさとなるように、各位相調整用電極40に印加するDC電圧を調整する。これにより、第1光導波路32aを通過した光と第2光導波路32bを通過した光との位相差が0と−πとを交互に繰り返すようにでき、製造ばらつきによる位相差のズレを補正することができる。なお、位相制御の方法としては、上記したDC電圧による制御のほか、電流注入による制御も可能である。
【0036】
ここで、位相調整回路12による位相調整について詳しく説明する。まず、以下のように定義をする。
光導波路の製造ばらつきにより生じる位相シフト量を初期位相差ΔΦOSとする。
第1光導波路32aにあらかじめ設けられた位相シフタにより生じる位相シフト量をΦPSとする。言い換えると、第1光導波路32aの光路長と第2光導波路32bの光路長との間にあらかじめ設けられた光路長差による位相シフト量をΦPSとする。なお、光路長差(位相シフタ)は、例えば第1光導波路32aの導波路長と第2光導波路32bの導波路長とを物理的に変えることで設けることができる。また、導波路の幅を物理的に変えることでも設けることができる。
第1光導波路32aの位相調整用電極40に印加されたDC電圧で生じる位相シフト量をΦDC1Aとし、第2光導波路32bの位相調整用電極40に印加されたDC電圧で生じる位相シフト量をΦDC2Aとする。
各変調用電極42に印加される変調用の電圧には逆バイアスのDCバイアス電圧がかけられており、第1光導波路32aの変調用電極42に印加されたDCバイアス電圧で生じる位相シフト量をΦDC1Bとし、第2光導波路32bの変調用電極42に印加されたDCバイアス電圧で生じる位相シフト量をΦDC2Bとする。
【0037】
これにより、第1光導波路32aにおいてDC電圧による位相変化量ΦDC1は、ΦDC1=ΦPS+ΦDC1A+ΦDC1Bと表すことができる。同様に、第2光導波路32bにおいてDC電圧による位相変化量ΦDC2は、ΦDC2=ΔΦOS+ΦDC2A+ΦDC2Bと表すことができる。なお、通常、駆動回路14により各変調用電極42に印加されるDCバイアス電圧の大きさは同じであることから、ΦDC1B=ΦDC2Bとすることができ、ΦDC1とΦDC2との差は、ΦDC1−ΦDC2=(ΦPS+ΦDC1A)−(ΔΦOS+ΦDC2A)と表すことができる。
【0038】
ここで、初期位相差ΔΦOSは、−πから+πの間でばらつくことが考えられ、また、位相シフト量ΦPSは、例えば−0.5πであることから、このような場合における位相調整回路12による位相調整を表1により説明する。上述したように、第1光導波路32aの変調用電極42にH(ハイ)にドライブさせる電圧を、第2光導波路32bの変調用電極42にL(ロー)にドライブさせる電圧を印加することで、第1光導波路32aを伝搬する光と第2光導波路32bを伝搬する光とに+0.5πの位相差が付加される。反対に、第1光導波路32aの変調用電極42にL(ロー)にドライブさせる電圧を、第2光導波路32bの変調用電極42にH(ハイ)にドライブさせる電圧を印加することで、第1光導波路32aを伝搬する光と第2光導波路32bを伝搬する光とに−0.5πの位相差が付加される。このことから、第1光導波路32aにおいてDC電圧による位相変化量ΦDC1と、第2光導波路32bにおいてDC電圧による位相変化量ΦDC2と、の差((ΦPS+ΦDC1A)−(ΔΦOS+ΦDC2A))が−0.5πとなれば、第1光導波路32aを通過した光と第2光導波路32bを通過した光との位相差を0と−πとで交互に繰り返し変化させることができる。
【0039】
表1のように、初期位相差ΔΦOSが−πから0の間である場合は、位相調整回路12によって第1光導波路32aの位相調整用電極40に、初期位相差ΔΦOSを打ち消すような−πから0の位相シフトが生じるDC電圧が印加されることで、ΦDC1−ΦDC2を−0.5πとすることができる。また、初期位相差ΔΦOSが0から+πの間である場合は、位相調整回路12によって第2光導波路32bの位相調整用電極40に、初期位相差ΔΦOSを打ち消すような−πから0の位相シフトが生じるDC電圧が印加されることで、ΦDC1−ΦDC2を−0.5πとすることができる。このような位相調整回路12の制御により、第1光導波路32aを通過した光と第2光導波路32bを通過した光との位相差を0と−πとで交互に繰り返し変化させることができ、第1出力端36aからの出力光信号を変調光信号として利用できる。
【表1】

【0040】
しかしながら、上述のような位相調整回路12の制御では、初期位相差ΔΦOSが−π〜+πの間でばらつく場合には、位相調整回路12による位相調整の幅は0〜−πの範囲となる。位相調整回路12による位相調整の幅を大きくするには、位相調整用電極40を長くするか、位相調整用電極40に印加するDC電圧を大きくする必要があるが、共に光の通過損失が増大してしまう。そこで、光の通過損失が増大することを抑制しつつ、第1光導波路32aを通過した光と第2光導波路32bを通過した光との位相差を調整することが可能な実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0041】
図3は、実施例1に係る光変調装置の上面模式図の例である。図3のように、実施例1に係る光変調装置は、マッハツェンダ型光変調器10と、出力ポート切替え回路54を有する位相調整回路12と、駆動回路14と、信号極性反転回路50と、位相調整量判断回路52と、を主として備える。マッハツェンダ型光変調器10は、比較例1と同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0042】
位相調整回路12は、出力ポート切替え回路54で選択された位相調整用電極40に位相制御信号であるDC電圧を印加して、位相差のズレを補正するための位相調整を行う。具体的には、位相調整回路12は、各光強度検出電極44で検出される光強度が同じ大きさとなるように、出力ポート切替え回路54で選択された位相調整用電極40にDC電圧を印加する。出力ポート切替え回路54は、第1光導波路32aあるいは第2光導波路32bの何れか一方の位相調整量の絶対値が所定値を超える場合に、位相制御信号であるDC電圧を印加する位相調整用電極40を、第1光導波路32aの位相調整用電極40又は第2光導波路32bの位相調整用電極40のいずれか一方から他方に交換、すなわち切替え選択を実施する。
【0043】
駆動回路14は、第1光導波路32a及び第2光導波路32bに設けられた各変調用電極42に、DCバイアス電圧がかけられた変調用の電圧を印加する。駆動回路14は、第1光導波路32aの変調用電極42に入力する変調信号と第2光導波路32bの変調用電極42に入力する変調信号とを差動信号として入力する。
【0044】
信号極性反転回路50は、位相調整回路12による位相調整量の絶対値が所定値を超える場合に、駆動回路14から出力される差動信号の信号極性を反転させる。
【0045】
位相調整量判断回路52は、位相調整回路12による位相調整量の絶対値が所定値を超えるかを判断し、所定値を超えると判断した場合、その旨を位相調整回路12及び信号極性反転回路50に通知する。
【0046】
ここで、実施例1に係る光変調装置の制御について説明する。図4は、実施例1に係る光変調装置の制御方法を示すフローチャートである。表2は、初期位相差ΔΦOSを補正する位相調整を説明するための表である。図4のように、位相調整回路12は、位相差のズレを補正するために、第1光導波路32aの位相調整用電極40又は第2光導波路32bの位相調整用電極40のいずれか一方にDC電圧を印加して位相調整を行う(ステップS10)。
【0047】
位相調整回路12による位相調整は、第1光導波路32aの位相調整用電極40又は第2光導波路32bの位相調整用電極40のいずれか一方に印加するDC電圧をΔVのステップで変化させて行う。そして、第1出力光導波路38aを伝搬する光の強度と第2出力光導波路38bを伝搬する光の強度とが同じ大きさになった場合に、位相調整が完了する。なお、ΔVは任意の大きさを設定することができ、より精度の高い位相調整をするには、ΔVは小さい方が好ましい。また、位相調整は、印加するDC電圧を0Vから始める場合が好ましい。
【0048】
次いで、位相調整量判断回路52は、位相調整回路12による位相調整量の絶対値が所定値を超えるかを判断する(ステップS12)。なお、所定値は、0からπの間で任意に定めることができ、実施例1では、例えば0.5πとする。比較例1で述べたように、ΦDC1とΦDC2との差((ΦPS+ΦDC1A)−(ΔΦOS+ΦDC2A))を−0.5πとすれば、第1光導波路32aを通過した光と第2光導波路32bを通過した光との位相差を0と−πとで交互に繰り返し変化させることができる。このために、比較例1では、表1のように、初期位相差ΔΦOSが−πから0の間である場合は、第1光導波路32aの位相調整用電極40にDC電圧を印加して初期位相差ΔΦOSを打ち消すような−πから0の位相変化を生じさせている。また、初期位相差ΔΦOSが+πから0の間である場合は、第2光導波路32bの位相調整用電極40にDC電圧を印加して初期位相差ΔΦOSを打ち消すような−πから0の位相変化を生じさせている。しかしながら、この方法では、初期位相差ΔΦOSの絶対値が0.5πよりも大きい場合には、位相調整回路12による位相調整量の絶対値が0.5πを超えることから、実施例1では、このような場合に、位相調整量判断回路52は位相調整量が所定値を超えると判断して、位相調整回路12及び信号極性反転回路50にその旨を通知する。
【0049】
位相調整量の絶対値が所定値を超えることを通知された出力ポート切替え回路54は、DC電圧を印加する位相調整用電極40を、第1光導波路32aの位相調整用電極40又は第2光導波路32bの位相調整用電極40のいずれか一方から他方に切替えて選択する(ステップS14)。例えば、表2のように、初期位相差ΔΦOSの絶対値が0.5πよりも大きくて位相調整量の絶対値が0.5πを超える場合には、出力ポート切替え回路54は、DC電圧を印加する位相調整用電極40を他方に切替えて選択する。
【0050】
次いで、位相調整量の絶対値が所定値を超えることを通知された信号極性反転回路50は、駆動回路14から出力される差動信号の信号極性を反転させる(ステップS16)。例えば、表2のように、初期位相差ΔΦOSの絶対値が0.5πよりも大きくて位相調整量の絶対値が0.5πを超える場合は、信号極性反転回路50は、駆動回路14から出力される差動信号の信号極性を反転させる。
【0051】
次いで、位相調整回路12は、出力ポート切替え回路54によって切替えられた位相調整用電極40にDC電圧を印加して位相調整を行う(ステップS18)。位相調整は、ステップS10と同様に、印加するDC電圧を0VからΔVのステップで変化させて行い、第1出力光導波路38aを伝搬する光の強度と第2出力光導波路38bを伝搬する光の強度とが同じ大きさになった場合に、位相調整が完了する。ここで、信号極性反転回路50により駆動回路14から出力される差動信号は反転されている。このため、第1出力端36aから出力される出力光信号の論理を変調信号の論理に一致させるには、ΦDC1とΦDC2との差((ΦPS+ΦDC1A)−(ΔΦOS+ΦDC2A))を、−0.5πから±πずらした+0.5π又は−1.5πとする必要がある。
【0052】
図5及び図6を用いて、ΦDC1とΦDC2との差が±πずれることによって、出力光信号の論理と変調信号の論理とがどのような関係になるかを説明する。図5は、ΦDC1とΦDC2との差が−0.5πである場合の出力光信号の論理と変調信号の論理との関係を説明する模式図である。図6は、ΦDC1とΦDC2との差が+0.5π又は−1.5πである場合の出力光信号の論理と変調信号の論理との関係を説明する模式図である。図5のように、ΦDC1とΦDC2との差が−0.5πである場合は、第1出力端36aから出力される出力光信号の論理と変調信号の論理とが一致する。一方、図6のように、ΦDC1とΦDC2との差が+0.5π又は−1.5πである場合は、第1出力端36aから出力される出力光信号の論理は変調信号の論理に対して反転してしまう。
【0053】
このことから、信号極性反転回路50により駆動回路14から出力される差動信号を反転させた場合には、ΦDC1とΦDC2との差を+0.5π又は−1.5πとすることで、第1出力端36aから出力される出力光信号の論理を変調信号の論理に一致させることができる。
【0054】
表2のように、初期位相差ΔΦOSが−πから−0.6πの間である場合、DC電圧を印加する位相調整用電極40を、第1光導波路32aの位相調整用電極40から第2光導波路32bの位相調整用電極40に切替えることで、位相調整量が0から−0.4πの範囲内で、ΦDC1とΦDC2との差を+0.5πとできる。また、初期位相差ΔOSが+0.6πから+πの間である場合、DC電圧を印加する位相調整用電極40を、第2光導波路32bの位相調整用電極40から第1光導波路32aの位相調整用電極40に切替えることで、位相調整量が0から−0.4πの範囲内で、ΦDC1とΦDC2との差を−1.5πとできる。このように、実施例1に係る光変調装置では、初期位相差ΔΦOSが−πから+πの間でばらつく場合でも、位相調整回路12による位相調整の幅を0から−0.5πの範囲内にすることができる。
【表2】

【0055】
以上説明してきたように、実施例1に係る光変調装置は、マッハツェンダ型光変調器10と、位相調整回路12と、駆動回路14と、信号極性反転回路50と、を備える。位相調整回路12は、第1光導波路32a及び第2光導波路32bに設けられた位相調整用電極40に対して位相制御信号を入力するとともに、位相制御信号を、第1光導波路32a及び第2光導波路32bに設けられた位相調整用電極40の間で切替える機能を有する。即ち、位相調整回路12は、第1光導波路32a及び第2光導波路32bに設けられた位相調整用電極40の間で位相制御信号であるDC電圧を切替えて、第1光導波路32aを通過する光と第2光導波路32bを通過する光との位相差を調整する。信号極性反転回路50は、駆動回路14から出力される差動信号の極性を反転させる。このような位相調整回路12と信号極性反転回路50を備えることで、マッハツェンダ型光変調器10に対して、第1光導波路32a及び第2光導波路32bに設けられた位相調整用電極40に入力する位相制御信号を夫々の位相調整用電極40の間で切替える制御ができる。また、第1光導波路32a及び第2光導波路32bを伝搬する光を変調させる差動信号からなる変調信号の極性を反転させる制御ができる。これにより、表2で説明したように、位相調整回路12による位相調整の幅を比較例1に比べて小さくすることが可能となる。よって、位相調整用電極42に印加するDC電圧が大きくなることの抑制が可能となり、光の通過損失を抑制しつつ、位相調整を行うことが可能となる。また、図5及び図6で説明したように、変調光信号として利用する出力光信号の論理と変調信号の論理とを一致させることが可能となる。
【0056】
実施例1では、位相調整回路12による第1光導波路32a及び第2光導波路32bのいずれか一方の位相調整量の絶対値が0.5πを超える場合に、位相調整回路12は位相制御信号を入力する位相調整用電極40を切替え、信号極性反転回路50は差動信号の極性を反転させる場合を例に示したが、これに限られる訳ではない。位相調整用電極40を切替えるタイミングの位相調整量の絶対値及び差動信号の極性を反転させるタイミングの位相調整量の絶対値は、0からπの間で任意に定める所定値とすることができる。即ち、位相調整回路12は、第1光導波路32a及び第2光導波路32bのいずれか一方の位相調整量の絶対値が所定値を超える場合に位相制御信号を入力する位相調整用電極40を切替え、信号極性反転回路50は、位相調整量の絶対値が所定値を超える場合に差動信号の極性を反転させる場合とすることができる。つまり、位相調整回路12は、第1光導波路32a及び第2光導波路32bのいずれか一方の位相調整量の絶対値が所定値を超える場合に位相制御信号であるDC電圧を印加する位相調整用電極40を切替え、信号極性反転回路50は、位相調整量の絶対値が所定値を超える場合に差動信号の極性を反転させる場合とすることができる。しかしながら、位相調整回路12は、位相調整量の絶対値が0.5πを超える場合に位相制御信号を入力する位相調整用電極40を切替える場合が好ましく、信号極性反転回路50も、位相調整用電極40の切替えに連動して、位相調整量の絶対値が0.5πを超える場合に、差動信号の極性を反転させる場合が好ましい。これにより、位相調整回路12による位相調整の幅をより小さくすることができる。また、変調信号として利用する出力光信号の論理と変調信号の論理とを一致させることができる。
【0057】
また、実施例1のように、位相調整回路12による位相調整量を判断して、位相調整量の絶対値が所定値を超える場合に位相調整回路12及び信号極性反転回路50に通知する位相調整量判断回路52を備える場合が好ましい。これにより、位相調整回路12による第1光導波路32a及び第2光導波路32bのいずれか一方の位相調整量を随時判断することができ、位相調整回路12による位相制御信号を入力する位相調整用電極40の切替えと、信号極性反転回路50による差動信号の極性反転の有無と、を随時変更することができる。
【0058】
実施例1では、マッハツェンダ型光変調器10と、位相調整回路12と、駆動回路14と、信号極性反転回路50と、を備える光変調装置について説明した。ここで、位相調整回路12と、駆動回路14と、信号極性反転回路50とは、マッハツェンダ型光変調器10を制御する制御装置として機能する。
【0059】
実施例1では、第1光導波路32aの光路長と第2光導波路32bの光路長との間にあらかじめ差を設けて、−0.5πの位相シフト量ΦPSをあらかじめ設けた場合を例に示したが、この場合に限られる訳ではない。第1光導波路32aの光路長と第2光導波路32bの光路長とを同じ長さとして、位相シフト量ΦPSを0とする場合でもよい。しかしながら、あらかじめ位相シフト量ΦPSを設けておくことで、駆動回路14により変調用電極42に入力する変調信号のH(ハイ)とL(ロー)との電位差を小さくすることができる。
【0060】
実施例1では、マッハツェンダ型光変調器10は、入力光導波路が2本設けられている場合を例に示したが、これに限られる訳ではなく、入力光導波路が1本の場合でも同様の方法を適用することができる。また、実施例1では、位相調整回路12は、各光強度検出電極44で検出される光強度が同じ大きさとなるように、位相調整用電極40にDC電圧を印加して位相調整を行う場合を例に示したが、これに限らず、その他の方法により位相調整を行う場合でもよい。
【0061】
また、実施例1では、位相調整量が所定値を超える場合に、DC電圧を印加する位相調整用電極40を切替え、差動信号の極性を反転させる場合を例に示したがこれに限られる訳ではない。例えば、第1光導波路32aの位相調整用電極40と第2光導波路32bの位相調整用電極40とに印加する電圧をスイープさせ、第1出力光導波路38aを伝搬する光と第2出力光導波路38bを伝搬する光との光強度が同じになる電圧の絶対値の小さい方をとってもよい。
【実施例2】
【0062】
実施例1に係る光変調装置では、変調光信号として利用する出力光信号の論理が変調信号の論理と反転状態に合わせこまれる場合が起こり得る。そこで、実施例2に係る光変調装置は、変調光信号として利用する出力光信号の論理と変調信号の論理とを一致させることができる場合の例である。
【0063】
図7は、実施例2に係る光変調装置の上面模式図の例である。図7のように、実施例2に係る光変調装置は、各光強度検出電極44で検出された光強度を判断する光強度判断回路56をさらに備える。光強度判断回路56は、各光強度検出電極44で検出された光強度により、第1出力光導波路38aを伝搬する光の強度と第2出力光導波路38bを伝搬する光の強度とが同じ大きさであるかを判断する。また、光強度判断回路56は、位相調整回路12での位相調整によって、第1出力光導波路38aを伝搬する光及び第2出力光導波路38bを伝搬する光の強度がどのような変動傾向にあったかを判断して、信号極性反転回路50に通知する。その他の構成については、図3に示した実施例1に係る光変調装置と同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0064】
図8は、実施例2に係る光変調装置の制御方法を示すフローチャートである。図8のように、位相調整回路12は、第1光導波路32aの位相調整用電極40にDC電圧Vp1を印加し、第2光導波路32bの位相調整用電極40にはDC電圧Vp2を印加せずに位相調整を行う(ステップS20)。
【0065】
次いで、位相調整量判断回路52は、第1光導波路32aの位相調整用電極40に印加するDC電圧Vp1の絶対値が所定閾値Vthを超えるかを判断する(ステップS22)。ここで、所定閾値Vthは、位相調整回路12による位相調整量の絶対値が0.5πとなる電圧値と定めることができる。ステップS22でDC電圧Vp1の絶対値が所定閾値Vthを超えないと判断した場合(Noの場合)、光強度判断回路56は、第1出力光導波路38aを伝搬する光の強度と第2出力光導波路38bを伝搬する光の強度とが同じ大きさであるかを判断する(ステップS24)。
【0066】
ステップS24で光の強度が同じ大きさでないと判断した場合(Noの場合)、位相調整回路12は、第1光導波路32aの位相調整用電極40に印加するDC電圧Vp1を、ΔVだけ変化させて位相調整を行う(ステップS26)。ここで、ΔVは任意の大きさを設定することができ、より精度の高い位相調整をするにはΔVは小さい方が好ましい。例えば、ΔVは、0.1Vである場合が好ましく、0.05Vである場合がより好ましい。また、位相調整回路12による位相調整は、DC電圧Vp1を0Vから始める場合が好ましい。
【0067】
第1出力光導波路38aを伝搬する光の強度と第2出力光導波路38bを伝搬する光の強度とが同じ大きさになった場合は(ステップS24でYesの場合)、光強度判断回路56は、位相調整回路12による位相調整によって、第1出力光導波路38aを伝搬する光の強度が増加傾向にあったかどうかを判断する(ステップS28)。
【0068】
ステップS28で第1出力光導波路38aを伝搬する光の強度が増加傾向にあったと判断した場合は(Yesの場合)、信号極性反転回路50は、駆動回路14から出力される差動信号の極性を反転させる(ステップS30)。ステップS28で増加傾向になかったと判断された場合は(Noの場合)、信号極性反転回路50は、差動信号の極性を反転させない。
【0069】
ステップS22において、位相調整量判断回路52が、第1光導波路32aの位相調整用電極40に印加するDC電圧Vp1の絶対値が所定閾値Vthを超えると判断した場合(Yesの場合)、位相調整回路12は、第2光導波路32bの位相調整用電極40にDC電圧Vp2を印加し、第1光導波路32aの位相調整用電極40にはDC電圧Vp1を印加せずに位相調整を行う(ステップS32)。
【0070】
次いで、光強度判断回路56は、第1出力光導波路38aを伝搬する光の強度と第2出力光導波路38bを伝搬する光の強度とが同じ大きさであるかを判断する(ステップS34)。ステップS34で光の強度が同じ大きさでないと判断した場合(Noの場合)、位相調整回路12は、第2光導波路32bの位相調整用電極40に印加するDC電圧Vp2を、ΔVだけ変化させて位相調整を行う(ステップS36)。
【0071】
第1出力光導波路38aを伝搬する光の強度と第2出力光導波路38bを伝搬する光の強度とが同じ大きさになった場合は(ステップS34でYesの場合)、光強度判断回路56は、位相調整回路12による位相調整によって、第1出力光導波路38aを伝搬する光の強度が増加傾向にあったかどうかを判断する(ステップS38)。
【0072】
ステップS38で第1出力光導波路38aを伝搬する光の強度が増加傾向になかったと判断された場合は(Noの場合)、信号極性反転回路50は、駆動回路14から出力される差動信号の極性を反転させる(ステップS30)。ステップS28で増加傾向であったと判断された場合は(Yesの場合)、信号極性反転回路50は、差動信号の極性を反転させない。
【0073】
以上説明してきたように、実施例2に係る光変調装置によれば、位相調整回路12は、第1光導波路32a及び第2光導波路32bのいずれか一方の位相調整量の絶対値が所定値を超える場合に位相制御信号を入力する位相調整用電極40を切替える。そして、信号極性反転回路50は、第1出力光導波路38a及び第2出力光導波路38bを伝搬する光の強度の変動傾向に基づいて、駆動回路14から出力される差動信号の極性を反転させる。これにより、第1出力端36aから出力される変調光信号として利用する出力光信号の論理を変調信号の論理に一致させることができる。
【0074】
また、実施例2のように、位相調整回路12による位相調整量を判断して、位相調整量の絶対値が所定値を超える場合に位相調整回路12に通知する位相調整量判断回路52と、第1出力光導波路38a及び第2出力光導波路38bを伝搬する光の強度の変動傾向を判断して、信号極性反転回路50に通知する光強度判断回路56と、を備える場合が好ましい。これにより、位相調整回路12による第1光導波路32a及び第2光導波路32bのいずれか一方の位相調整量の判断と、第1出力光導波路38a及び第2出力光導波路38bを伝搬する光の強度の変動傾向の判断と、を随時行うことができる。よって、位相調整回路12による位相制御信号を入力する位相調整用電極40の切替と、信号極性反転回路50による差動信号の極性反転の有無と、を随時変更することができる。
【0075】
実施例2では、初めに、第1光導波路32aの位相調整用電極40に位相制御信号であるDC電圧を印加し、第2光導波路32bの位相調整用電極40には位相制御信号であるDC電圧を印加しない制御の場合を例に示したが、これに限られる訳ではない。初めに、第2光導波路32bの位相調整用電極40に位相制御信号であるDC電圧を印加し、第1光導波路32aの位相調整用電極40には位相制御信号であるDC電圧を印加しない制御の場合でもよい。
【実施例3】
【0076】
図9は、実施例3に係る光変調装置の上面模式図の例である。図9のように、実施例3に係る光変調装置は、位相調整量判断回路52が設けられていない点で、図3に示した実施例1に係る光変調装置と異なる。この点以外は、実施例1に係る光変調装置と同じである。
【0077】
実施例1に係る光変調装置では、製造ばらつきにより生じる初期位相差ΔΦOSを補正する位相調整を、位相調整の幅を小さくして行うことができることを説明した。ここで、初期位相差ΔΦOSは各デバイスで固有の値であることから、事前に位相調整量判断回路52を接続して、DC電圧を印加する位相調整用電極40及び差動信号の信号極性の反転の有無を、位相調整回路12及び信号極性反転回路50に設定することで、位相調整量判断回路52を設けなくても、位相調整の幅を小さくすることができる。実施例3に係る光変調装置は、このような場合の例である。
【0078】
つまり、実施例3に係る光変調装置は、第1光導波路32a及び第2光導波路32bに設けられた位相調整用電極40に対して位相制御信号を入力するとともに、位相制御信号を夫々の位相調整用電極40の間で切替える機能を有する位相調整回路12を備える。また、駆動回路14から出力される差動信号の極性を反転させる信号極性反転回路50を備える。このような位相調整回路12と信号極性反転回路50を備えることで、実施例3に係る光変調装置によっても、位相調整用電極42に印加するDC電圧が大きくなることの抑制が可能となるため、光の通過損失の増加を抑制しつつ、位相調整を行うことが可能となる。また、変調光信号として利用する出力光信号の論理と変調信号の論理とを一致させることが可能となる。
【0079】
位相調整回路12による位相制御信号を入力する位相調整用電極40の切替えと、信号極性反転回路50による差動信号の極性の反転と、は連動してなされる場合が好ましい。また、位相調整回路12による位相制御信号を入力する位相調整用電極40の切替えと、信号極性反転回路50による差動信号の極性の反転と、が同時になされる場合でもよい。これにより、小さな位相調整の幅により、第1光導波路32aを通過した光と第2光導波路32bを通過した光との位相差の調整を実現できる。
【0080】
実施例1から実施例3では、第1出力端36aから出力される出力光信号と第2出力端36bから出力される出力光信号とのクロスポイントの狙い値が50%である場合を例に示したが、これに限られる訳ではない。クロスポイントが50%以外の値を狙い値とする場合でもよい。
【0081】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0082】
10 マッハツェンダ型光変調器
12 位相調整回路
14 駆動回路
16 半導体基板
18a 下クラッド層
18b 上クラッド層
20 コア
22 パッシベーション膜
24 絶縁膜
26a 第1入力端
26b 第2入力端
28a 第1入力光導波路
28b 第2入力光導波路
30 第1MMI
32a 第1光導波路
32b 第2光導波路
34 第2MMI
36a 第1出力端
36b 第2出力端
38a 第1出力光導波路
38b 第2出力光導波路
40 位相調整用電極
42 変調用電極
44 光強度検出電極
46 コンタクト層
48 終端抵抗
50 信号極性反転回路
52 位相調整量判断回路
54 出力ポート切替え回路
56 光強度判断回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの出力光導波路に合分波部を介して2つの光導波路が接続するマッハツェンダ型の光変調器と、
前記2つの光導波路夫々に設けられた位相調整用電極に対して位相制御信号を入力するとともに、前記位相制御信号を前記位相調整用電極夫々の間で切替える機能を有する位相調整回路と、
前記2つの光導波路を伝搬する光を変調させる変調信号を、前記2つの光導波路夫々に設けられた変調用電極に差動信号として入力する駆動回路と、
前記駆動回路から出力される前記差動信号の極性を反転させる信号極性反転回路と、を備えることを特徴とする光変調装置。
【請求項2】
前記位相調整回路による切替えと、前記信号極性反転回路による前記差動信号の極性の反転と、は連動してなされることを特徴とする請求項1記載の光変調装置。
【請求項3】
前記位相調整回路は、前記位相調整回路による前記2つの光導波路のいずれか一方の位相調整量の絶対値が所定値を超える場合に、前記位相制御信号を入力する前記位相調整用電極を切替え、
前記信号極性反転回路は、前記絶対値が前記所定値を超える場合に前記差動信号の極性を反転させることを特徴とする請求項2記載の光変調装置。
【請求項4】
前記位相調整量を判断して、前記位相調整量の絶対値が前記所定値を超える場合に前記位相調整回路及び前記信号極性反転回路に通知する位相調整量判断回路を備えることを特徴とする請求項3記載の光変調装置。
【請求項5】
前記位相調整回路は、前記位相調整回路による前記2つの光導波路のいずれか一方の位相調整量の絶対値が所定値を超える場合に、前記位相制御信号を入力する前記位相調整用電極を切替え、
前記信号極性反転回路は、前記2つの出力光導波路を伝搬する光の強度の変動傾向に基づいて、前記差動信号の極性を反転させることを特徴とする請求項1記載の光変調装置。
【請求項6】
前記位相調整量を判断して、前記位相調整量の絶対値が前記所定値を超える場合に前記位相調整回路に通知する位相調整量判断回路と、
前記2つの出力光導波路における前記光の強度の変動傾向を判断して、前記信号極性反転回路に通知する光強度判断回路と、を備えることを特徴とする請求項5記載の光変調装置。
【請求項7】
前記所定値は、0.5πであることを特徴とする請求項3から6のいずれか一項記載の光変調装置。
【請求項8】
2つの出力光導波路に合分波部を介して2つの光導波路が接続するマッハツェンダ型光変調器の制御方法であって、
前記2つの光導波路夫々に設けられた位相調整用電極に対して入力される位相制御信号を前記位相調整用電極夫々の間で切替える制御と、
前記2つの光導波路を伝搬する光を変調させる差動信号からなる変調信号の極性を反転させる制御と、をなすことを特徴とする光変調器の制御方法。
【請求項9】
前記切替える制御と前記反転させる制御とは、前記2つの光導波路のいずれか一方の位相調整量の絶対値が所定値を超える場合になされることを特徴とする請求項8記載の光変調器の制御方法。
【請求項10】
前記切替える制御は、前記2つの光導波路のいずれか一方の位相調整量の絶対値が所定値を超える場合になされ、前記反転させる制御は、前記2つの出力光導波路を伝搬する光の強度の変動傾向に基づいてなされることを特徴とする請求項8記載の光変調器の制御方法。
【請求項11】
2つの出力光導波路に合分波部を介して2つの光導波路が接続するマッハツェンダ型光変調器の制御装置であって、
前記2つの光導波路夫々に設けられた位相調整用電極に対して位相制御信号を入力するとともに、前記位相制御信号を前記位相調整用電極夫々の間で切替える機能を有する位相調整回路と、
前記2つの光導波路を伝搬する光を変調させる変調信号を、前記2つの光導波路夫々に設けられた変調用電極に差動信号として入力する駆動回路と、
前記駆動回路から出力される前記差動信号の極性を反転させる信号極性反転回路と、を備えることを特徴とする光変調器の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−118272(P2012−118272A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267622(P2010−267622)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】