説明

光子ビーム走査装置及び光子ビーム走査方法

【課題】電子ビームとレーザ光との衝突を簡単に実現させる。
【解決手段】発生させた電子ビームE及びレーザ光Rの経路を制御して電子ビームEとレーザ光Rとを衝突させる。電子ビームEの経路を制御して仮想的に設定された楕円10の第1焦点11に電子ビームEを入射させると共に当該第1焦点11への入射角度を変化させる電子ビーム制御部7と、楕円10の第2焦点12から当該楕円10の一部へと向かうレーザ光Rの進行方向を変化させるレーザ光制御部8と、楕円10の一部に沿った反射面19を有し、第2焦点12から当該反射面19に入射したレーザ光Rを反射させて電子ビームEの反対側から第1焦点11に入射させる楕円面ミラー9とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光子ビーム走査装置及び光子ビーム走査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加速器によって発生させた高エネルギー電子ビームとレーザ光とを衝突させることにより、レーザコンプトン散乱によるγ線(光子ビーム)を発生させることができ、発生させた準単色のγ線は、例えば貨物コンテナのような大型物品の内部(収容物)の非破壊検査を行う上で有用である。
このような非破壊検査を行う場合、検査対象となる対象物全体を走査(スキャン)するためには、γ線源と対象物との位置関係を変化させつつ走査する必要がある。
【0003】
上記のような走査を行う装置として、例えば、特許文献1に記載のものがある。この走査装置は、衝突点に入射する電子ビームの入射角度を変化させるビーム入射角度制御装置と、衝突点に入射するレーザ光の入射角度を変化させるレーザ入射角度制御装置と、これら装置を制御する制御装置とを備えている。レーザコンプトン散乱では、電子ビームの衝突点への入射方向と同じ方向に光子ビームが放出されることから、前記走査装置によれば、電子ビームの衝突点への入射角度を変化させることにより、発生させる光子ビームの放射方向を変化させることができる。これにより、対象物を所定の範囲にわたって走査することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−187725号公報(図2参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に記載の走査装置によれば、電子ビームの衝突点への入射角度に応じて、レーザ光の衝突点への入射角度を制御することにより、電子ビームとレーザ光とを正面衝突させることができる。
しかし、対象物を所定の範囲にわたって走査することを目的として、電子ビームの衝突点への入射角度を変化させても、実際では、この電子ビームに対して衝突点でレーザ光を正面衝突させることは困難である。すなわち、特許文献1のように平面ミラーを用いればレーザ光の経路を変化させることは可能ではあるが、その平面ミラーで反射させたレーザ光を、例えば元の衝突点に入射させるためには、複雑な制御が必要となる。
【0006】
本発明は、電子ビームとレーザ光との衝突を簡単に実現することが可能となる光子ビーム走査装置及び光子ビーム走査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の光子ビーム走査装置は、電子ビームを発生させる電子ビーム発生装置と、レーザ光を発生させるレーザ発生装置と、発生させた電子ビーム及びレーザ光の経路を制御して電子ビームとレーザ光とを衝突させるための経路制御装置とを備え、前記経路制御装置は、前記電子ビームの経路を制御して仮想的に設定された楕円の第1焦点に電子ビームを入射させると共に当該第1焦点への入射角度を変化させる電子ビーム制御部と、前記楕円の第2焦点から当該楕円の一部へと向かう前記レーザ光の進行方向を変化させるレーザ光制御部と、前記楕円の前記一部に沿った反射面を有し、前記第2焦点から当該反射面に入射したレーザ光を反射させて前記電子ビームの反対側から前記第1焦点に入射させる楕円面ミラーとを有している。
【0008】
本発明によれば、電子ビーム制御部は、電子ビームの経路を制御して仮想的に設定された楕円の第1焦点に電子ビームを入射させる。また、楕円の一部に沿った反射面を有している楕円面ミラーによって、楕円の第2焦点から前記反射面に入射したレーザ光を反射させることにより、電子ビームの反対側からレーザ光を第1焦点に入射させる。これにより、レーザ光と電子ビームとが第1焦点において衝突し、光子ビームを発生させる。
そして、光子ビームの発生方向を変化させるために、電子ビーム制御部が、電子ビームの第1焦点への入射角度を変化させると、これに応じて、レーザ光制御部は、第2焦点から楕円の一部(楕円面ミラーの反射面)へと向かうレーザ光の進行方向を変化させればよい。すなわち、第2焦点から楕円面ミラーの反射面へのレーザ光の進行方向を変化させても、この楕円面ミラーで反射したレーザ光は必ず第1焦点に入射し、しかも、楕円面ミラーの反射面へのレーザ光の進行方向を変化させることにより、この楕円面ミラーで反射したレーザ光の第1焦点への入射角度を変えることができる。このため、光子ビームの発生方向を変化させる場合でも、電子ビームとレーザ光との衝突を簡単に実現することが可能となる。
【0009】
(2)また、前記レーザ光制御部は、前記第2焦点に入射したレーザ光を当該第2焦点で反射させ、かつ、その反射方向を変更可能とする可動ミラーを有している構成とすることができる。この場合、発生させたレーザ光を第2焦点に入射させれば、可動ミラーによる反射方向の変更により、楕円の一部に沿った楕円面ミラーの反射面へのレーザ光の進行方向を変化させることができる。この結果、この楕円面ミラーで反射したレーザ光の第1焦点への入射角度を変えることができる。
【0010】
(3)また、前記(2)の光子ビーム走査装置において、前記可動ミラーは、前記第2焦点に反射面を有し当該第2焦点を通過する中心線回りに回転する回転ミラーとするのが好ましい。この場合、第2焦点から楕円面ミラーの反射面へのレーザ光の入射方向を変化させるために、回転ミラーを第2焦点を通過する中心線回りに回転させればよい。
【0011】
(4)また、前記(1)の光子ビーム走査装置において、前記レーザ光制御部は、前記第2焦点を焦点とする放物線の一部に沿った反射面を有し前記レーザ光が前記第2焦点を通過するように反射させる放物面ミラーを有している構成とすることができる。
この場合、発生させたレーザ光を、放物面ミラーの反射面に入射させれば、反射したレーザ光は第2焦点を通過することができる。したがって、放物面ミラーの反射面に入射させるレーザ光の入射点を変更することにより、第2焦点を通過して楕円の一部に沿った楕円面ミラーの反射面へ向かうレーザ光の進行方向を変化させることができる。この結果、この楕円面ミラーで反射したレーザ光の第1焦点への入射角度を変えることができる。
【0012】
(5)また、本発明は、電子ビーム及びレーザ光の経路を制御して電子ビームとレーザ光とを衝突させ、光子ビームを発生させて行う光子ビーム走査方法であって、前記電子ビームの経路を制御して仮想的に設定された楕円の第1焦点への電子ビームの入射角度を変化させる電子ビーム制御ステップと、前記楕円の第2焦点から、当該楕円の一部に沿った反射面を有する楕円面ミラーへと向かう前記レーザ光の進行方向を変化させるレーザ光制御ステップとを備えていることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、光子ビームの発生方向を変化させるためには、電子ビームの第1焦点への入射角度を変化させればよいが(電子ビーム制御ステップ)、これに応じて、第2焦点から楕円の一部に沿った反射面を有する楕円面ミラーへと向かうレーザ光の進行方向を変化させればよい(レーザ光制御ステップ)。すなわち、レーザ光制御ステップにおいて、第2焦点から楕円面ミラーの反射面へのレーザ光の進行方向を変化させても、この楕円面ミラーで反射したレーザ光は必ず第1焦点に入射し、しかも、楕円面ミラーの反射面へのレーザ光の進行方向を変化させることにより、この楕円面ミラーで反射したレーザ光の第1焦点への入射角度を変えることができる。このため、光子ビームの発生方向を変化させる場合でも、電子ビームとレーザ光との衝突を簡単に実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、楕円の第1焦点への電子ビームの入射角度を変化させるのに応じて、第2焦点から楕円の一部に沿った反射面を有する楕円面ミラーへと向かうレーザ光の進行方向を変化させれば、楕円面ミラーで反射させたレーザ光を入射角度を変えて第1焦点に入射させることができる。このため、光子ビームの発生方向を変化させる場合においても、電子ビームとレーザ光との衝突を簡単に実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の光子ビーム走査装置を平面的に見た概略構成図である。
【図2】図1の経路制御装置の機能を説明する説明図である。
【図3】図1の経路制御装置の機能を説明する説明図である。
【図4】本発明の光子ビーム走査装置の他の実施形態を平面的に見た概略構成図である。
【図5】図4の経路制御装置の機能を説明する説明図である。
【図6】図4の経路制御装置の機能を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の光子ビーム走査装置を平面的に見た概略構成図である。本実施形態では、光子ビーム走査装置(以下、走査装置という)を、例えば貨物コンテナのような大型物品(以下、走査対象物13という)の内部(収容物)の非破壊検査を行う検査装置に適用した場合を説明する。
この走査装置は、電子ビームEを発生させる電子ビーム発生装置1と、レーザ光Rを発生させるレーザ発生装置2と、発生させた電子ビームEの経路(軌道)及び発生させたレーザ光Rの経路(軌道)を制御して電子ビームEとレーザ光Rとを所定の衝突点で衝突させるための経路制御装置3とを備えている。この走査装置では、電子ビームEとレーザ光Rとを衝突させコンプトン散乱による光子ビームを発生させる。なお、本実施形態では、発生させる光子ビームをγ線として説明する。
【0017】
電子ビーム発生装置1は、電子ビームEを発生させる電子銃1aと、発生した電子ビームEを高エネルギーに加速する線形加速管1bとを有し、高エネルギーの電子ビームEを後述する真空容器20に入射させる。また、走査装置は、電子ビームダンプ31を有しており、前記真空容器20から出射した電子ビームEを補足する。
【0018】
レーザ発生装置2は、レーザ光Rを発生させ、発生したレーザ光Rを後述する可動ミラー16へ入射させる。なお、後述する第2実施形態(図4)では、平面ミラー43へ入射させる。レーザ発生装置2及び電子ビーム発生装置1は、従来知られているものを採用することができる。
【0019】
本発明の走査装置が備えている各装置及び前記衝突点の配置は、仮想的に設定された楕円10に基づく。本実施形態では、楕円10は水平面上に設定されている。楕円10は、第1焦点11と第2焦点12とからの距離の和が一定となる点の集合から作られる曲線であり、第1焦点11が衝突点となる。各装置及びその機能について、以下説明する。
【0020】
図1において、経路制御装置3は、発生した電子ビームEの経路を制御する電子ビーム制御部7と、発生したレーザ光Eの経路を制御するレーザ光制御部8と、前記楕円10の一部に沿って設けられた反射面19を有している楕円面ミラー9とを備えている。さらに、この経路制御装置3は、電子ビーム制御部7(の機能)及びレーザ光制御部8(の機能)を制御する制御本体装置(コンピュータ)15を有している。
【0021】
電子ビーム制御部7は、真空容器20と、入射偏向用の第1偏向磁石21及び第2偏向磁石22と、出射偏向用の第3偏向磁石23及び第4偏向磁石24とを有している。第1から第4の偏向磁石21〜24それぞれは、磁場により電子ビームEの経路を曲げることができる。
また、制御本体装置15は、偏向磁石21〜24それぞれの出力を制御することにより、電子ビームEの曲がりの大小を変化させ(調整し)、第1焦点11への電子ビームEの入射角度を変化させることができる。なお、入射角度を変化させても、電子ビームEは必ず第1焦点11を通過するように制御する。
【0022】
図2及び図3は、経路制御装置3の機能を説明する説明図である。図2に示すように、電子ビームEの第1焦点11への入射角度はθ1であるが、偏向磁石21〜24それぞれにおいて電子ビームEの偏向角度を小さくすることにより、図3に示すように、入射角度をθ2に変化させることができる。なお、第1焦点11における入射角度θ1,θ2は、第1焦点11と、走査対象物13の中心13aとを結んだ直線Aを基準としている。
以上のように、電子ビーム制御部7は、電子ビームEの経路を制御して、楕円10の第1焦点11に電子ビームEを入射させると共に第1焦点11への入射角度を変化させることができ、真空容器20内において、楕円10の第1焦点11を必ず通過する経路を有した電子ビームEを得ることができる。
【0023】
さらに、制御本体装置15は、第1偏向磁石21と第4偏向磁石24とを連係させて制御し、つまり、同じ駆動源から同じ特性を第1偏向磁石21と第4偏向磁石24とに与え、第1偏向磁石21と第4偏向磁石24とのそれぞれにおいて、電子ビームEを偏向させる角度を同じとするが、偏向させる方向を反対としている。これと同様に、第2偏向磁石22と第3偏向磁石23との間で、電子ビームEを偏向させる角度を同じとするが、偏向させる方向を反対としている。これにより、真空容器20における電子ビームEの入射及び出射を定点とすることが可能となる。なお、偏向させる方向は、真空容器20の入射側から出射側へと進む電子ビームEの進行方向を基準としている。
【0024】
図1に示すように、楕円面ミラー9は、固定された反射鏡であり、その反射面19が、楕円10の一部に沿って設けられている。すなわち、反射面19は、楕円10の全周に設ける必要はなく一部のみでよく、楕円10の一部(円弧)を含む楕円面からなる。そして、レーザ発生装置2によって発生させたレーザ光Rは、楕円10の第2焦点12を経て、楕円面ミラー9に入射する。
楕円面ミラー9の反射面19は、楕円10の一部に沿って設けられていることから、第2焦点12から反射面19に入射したレーザ光Rを、当該反射面19で反射させると、電子ビームEの入射方向と反対側から、第1焦点11に入射させることができる。これは、楕円の一方の焦点から放射され当該楕円上のミラーで反射した光は、当該楕円の他方の焦点に到達するという特性を利用したものである。
そして、電子ビームEの入射方向と反対側から、レーザ光Rを第1焦点11に入射させることにより、第1焦点11をレーザ光Rと電子ビームEとの衝突点とすることができ、レーザコンプトン散乱によるγ線を発生させる。
【0025】
レーザ光制御部8は、楕円10の第2焦点12から当該楕円10の一部へと向かうレーザ光Rの進行方向を変化させる機能を有している。具体的に説明すると、図2に示すように、第2焦点12からのレーザ光Rが向かう先である楕円10の一部には、上記のとおり、楕円面ミラー9が設置されている。そして、本実施形態のレーザ光制御部8は、可動ミラー16を有しており、可動ミラー16は、第2焦点12に入射するレーザ光Rを当該第2焦点12で反射させ、かつ、その反射方向を変更可能とする。可動ミラー16は、第2焦点12に反射点16aを有しており、第2焦点12を通過する中心線C回りに回転する回転ミラーである。中心線Cは、楕円10を含む平面に直交する線であり、本実施形態では、第2焦点12を通過する鉛直線である。前記反射点16aは可動ミラー16の反射面16b上の点であり、この可動ミラー16の反射面16bは平面であって、反射面16bに対してレーザ光Rの入射角と出射角とは同じとなる。
【0026】
レーザ光制御部8は、楕円面ミラー9を前記中心線C回りに正逆回転させる駆動部(図示せず)を有している。この駆動部は、例えば減速器付きモータを備えており、前記制御本体装置15が、モータの回転数を制御して、可動ミラー16の中心線C回りの回転位置(回転角)を調整することができる。
【0027】
図2に示すように、レーザ発生装置2によって発生させたレーザ光Rは、可動ミラー16の反射面16bに入射し、反射したレーザ光Rは楕円面ミラー9の反射面19に入射する。第2焦点12から楕円面ミラー9に入射するレーザ光Rの経路はV1である。
レーザ発生装置2によって発生させたレーザ光Rは、一定の直線経路で第2焦点12に入射することから、前記駆動部によって楕円面ミラー9を所定角度について回転させると、図3に示すように、可動ミラー16の反射点16aにおけるレーザ光Rの入射角度が、図2の場合と比べて変化し、これに応じて反射角度も変化し、第2焦点12から楕円面ミラー9へと入射するレーザ光Rの経路がV2となる。
【0028】
以上のように、レーザ光制御部8は、楕円10の第2焦点12から、楕円面ミラー9へと向かうレーザ光Rの進行方向を、V1とV2との間で変化させることができる。
したがって、発生させたレーザ光Rを第2焦点12に入射させれば、可動ミラー16によって反射方向を変更することにより、楕円面ミラー9へのレーザ光Rの進行方向を変化させることができ、この結果、この楕円面ミラー9で反射したレーザ光Rの第1焦点11への入射角度を、電子ビームEの入射角度に応じて(合わせて)変えることができる。
【0029】
本実施形態の走査装置によって行われる光子ビーム(γ線)走査方法について説明する。この走査方法は、電子ビームE及びレーザ光Rの経路を制御して電子ビームEとレーザ光Rとを、衝突点である前記楕円10の第1焦点11で衝突させ、γ線を発生させて、前記走査対象物13についてのγ線走査を行う方法である。
【0030】
図2に示すように、γ線の放射方向をK1とする場合、電子ビーム制御部7の機能により、楕円10の第1焦点11に電子ビームEを入射角度θ1で入射させる。そして、可動ミラー16が所定の回転位置となるように制御され、可動ミラー16によって反射させたレーザ光Rの進行方向をV1とする。
そして、このレーザ光Rを楕円面ミラー9で反射させると、レーザ光Rは第1焦点11に入射角度θ11で入射する。電子ビームEとレーザ光Rとの第1焦点11における入射角度は、対向角で同じであり(θ1=θ11)、これにより、電子ビームEとレーザ光Rとは正面衝突し、電子ビームEの入射方向の延長線上、つまり、放射方向をK1としてγ線を放射することができる。このγ線の放射先に、走査対象物13の左右方向一方側が位置する。
【0031】
そして、この検査対象物13の左右方向他方側に向かって走査するために、図3に示すように、電子ビーム制御部7が、電子ビームEの経路を制御して、電子ビームEの第1焦点11への入射角度をθ1からθ2へと変化させる(電子ビーム制御ステップ)。この変化に追従するようにして(この変化と同期して)、楕円10の第2焦点12から楕円面ミラー9へと向かうレーザ光Rの進行方向(経路)をV1からV2へと変化させる(レーザ光制御ステップ)。つまり、本実施形態のレーザ光制御ステップでは、第2焦点12に設けられている可動ミラー16の回転位置を変化させる。
【0032】
進行方向がV2となるレーザ光Rを楕円面ミラー9で反射させると、レーザ光Rは第1焦点11に入射角度θ12で入射する。電子ビームEとレーザ光Rとの第1焦点11における入射角度は、対向角で同じであり(θ2=θ12)、これにより、電子ビームEとレーザ光Rとは正面衝突し、電子ビームEの入射方向の延長線上、つまり、放射方向をK2としてγ線を放射することができる。このγ線の放射先に、走査対象物13の左右方向他方側が位置する。
【0033】
このようにレーザ光制御ステップにおいて、電子ビームEの第1焦点11への入射角度をθ1からθ2へと変化させても、第2焦点12から入射し楕円面ミラー9で反射したレーザ光Rは、必ず第1焦点11に入射する。しかも、入射角度がθ1からθ2へと変化した電子ビームEと正面衝突させる入射角度θ12となるように、レーザ光Rを第1焦点11に入射させることができる。これは、上記のとおり、楕円の一方の焦点から放射され当該楕円上のミラーで反射した光は、当該楕円の他方の焦点に到達するという特性楕円面ミラーの特性による。
【0034】
したがって、γ線の放射方向を変化させるためには、電子ビームEの第1焦点11への入射角度をθ1とθ2との間で変化させればよいが、これに応じて、上記のとおり、第2焦点12から楕円面ミラー9へと向かうレーザ光Rの進行方向をV1とV2との間で変化させればよい。このように、本実施形態の走査装置によれば、γ線の放射方向を変化させる場合であっても、電子ビームEとレーザ光Rとの正面衝突を簡単に実現することが可能となる。
【0035】
また、本実施形態では、レーザ光制御部8は、可動ミラー16を有しており、この可動ミラー16は、第2焦点12に反射点16aを有しており、この第2焦点12を通過する中心線C回りに回転する回転ミラーとしている。このため、第2焦点12から楕円面ミラー9へのレーザ光Rの入射方向を変化させるためには、可動ミラー16を中心線C回りに回転させればよく、その構成は簡単である。
【0036】
図4は、本発明の光子ビーム走査装置の他の実施形態を平面的に見た概略構成図である。図4に示す走査装置は、レーザ光制御部8の構成に関して、図1に示した走査装置と異なるが、仮想的に設定された楕円10に基づく配置等その他は同じである。このため、同じ構成についての説明はここでは省略する。
【0037】
図4に示すレーザ光制御部8の機能は、図1の場合と同じであり、楕円10の第2焦点12から当該楕円10の一部へと向かうレーザ光Rの進行方向を変化させる機能を有している。さらに、図1の場合と同じように、第2焦点12からのレーザ光Rが向かう先である前記楕円10の一部には、楕円面ミラー9が設置されている。
【0038】
図4に示すレーザ光制御部8は、前記可動ミラー16(図1参照)を有していないが、第2焦点12を焦点とする仮想的に設定した放物線40の一部に沿った反射面42を有する放物面ミラー41を有している。さらに、本実施形態では、レーザ光制御部8は、レーザ発生装置2が発生させたレーザ光Rを平行移動させる光学装置(本実施形態ではペリスコープ29)を備えている。また、レーザ光制御部8は、ペリスコープ29から入射したレーザ光Rを反射させて放物面ミラー41に入射させる平面ミラー43を有している。放物面ミラー41及び平面ミラー43は、固定状態として設置されている。
【0039】
放物面ミラー41は、レーザ発生装置2によって発生させ平面ミラー43を介して入射させたレーザ光Rを、第2焦点12を通過させるように反射させる。なお、前記仮想的に設定した放物線40は、前記楕円10と同じ面上に設定されており、本実施形態では、水平面上に設定されている。この放物面ミラー41は、軸外し放物面鏡である。また、放物線40は(放物線40の準線44)の位置及び方向については特に制限はないが、放物線40に沿ってその一部に設けられる放物面ミラー41は、楕円面ミラー9と第2焦点12とを結ぶ直線の延長線と交差する位置に、設けられる。
【0040】
図1の走査装置では、レーザ発生装置2が発生させたレーザ光Rは常に第2焦点12へ入射させていたが、図4の走査装置では、ペリスコープ29によって、レーザ光Rを平行移動させ、平面ミラー43への入射点を変化させている。平面ミラー43の反射面は平面であって、この反射面に対してレーザ光Rの入射角と出射角とは同じとなる。
【0041】
図5及び図6は、経路制御装置3の機能を説明する説明図である。前記実施形態と同様に、電子ビーム制御部7は、電子ビームEの経路を制御して、楕円10の第1焦点11に電子ビームEを入射させると共に第1焦点11への入射角度を変化させることができ、真空容器20内において、楕円10の第1焦点11を必ず通過する経路を有した電子ビームEを得ることができる。
【0042】
図5に示すように、レーザ発生装置2によって発生させたレーザ光Rが、ペリスコープ29によって第1の経路G1で平面ミラー43に入射すると、その反射光は放物面ミラー41に入射する。放物面ミラー41で反射したレーザ光Rは第2焦点12を通過して、楕円面ミラー9の反射面19に入射する。なお、放物面ミラー41で反射したレーザ光Rが第2焦点12を通過するのは、放物線上の一部で反射した光は、当該放物線の焦点に集まるという特性によるものである。
そして、第2焦点12から楕円面ミラー9に入射するレーザ光Rの経路はV11である。楕円面ミラー9で反射したレーザ光Rは、第1焦点11に入射角θ11で入射し、入射角θ1である電子ビームEと正面衝突することができる。
【0043】
図6に示すように、ペリスコープ29の機能により、レーザ光Rを平行移動させ、第2の経路G2で平面ミラー43に入射させると、その反射光は放物面ミラー41に入射する。なお、この入射点は、レーザ光Rが前記経路G1を進んだ場合と異なる位置である。そして、放物面ミラー41で反射したレーザ光Rは第2焦点12を通過して、楕円面ミラー9の反射面19に入射する。第2焦点12から楕円面ミラー9に入射するレーザ光Rの経路はV12である。
以上のように、レーザ光制御部8は、楕円10の第2焦点12から、楕円面ミラー9へと向かうレーザ光Rの進行方向を、V11とV12との間で変化させることができる。
【0044】
したがって、発生させたレーザ光Rを、放物面ミラー41の反射面42に入射させれば、その反射したレーザ光Rは第2焦点12を通過することができる。そして、放物面ミラー41の反射面42に入射させるレーザ光Rの入射点を、ペリスコープ29によって変更することにより、第2焦点12を通過して楕円面ミラー9へ向かうレーザ光Rの進行方向を変化させることができる。この結果、この楕円面ミラー9で反射したレーザ光Rの第1焦点11への入射角度を、電子ビームEの入射角度に応じて(合わせて)変えることができる。
【0045】
図4に示す走査装置によって行われる走査方法は、図1に示す走査装置の場合と同様であるが、図1の場合では、電子ビームEの第1焦点11への入射角度をθ1からθ2へと変化させるのと同期させて、可動ミラー16を制御することで、第2焦点12から楕円面ミラー9へと向かうレーザ光Rの進行方向(経路)をV1からV2へと変化させていた。しかし、図4の場合では、電子ビームEの第1焦点11への入射角度をθ1からθ2へと変化させるのと同期させて、放物面ミラー41へのレーザ光Rの入射点を変更することにより、第2焦点12から楕円面ミラー9へと向かうレーザ光Rの進行方向(経路)をV11からV12へと変化させている。つまり、図4の走査装置は、光源(第2焦点12を通過させるまでのレーザ光Rの経路)を動かす実施形態である。
この図4の実施形態は、第2焦点12に図1のような可動ミラー16を(例えばレイアウトの問題により)配置できない場合に有効となる。
【0046】
また、図1及び図4の実施形態それぞれにおいて、第2焦点12からのレーザ光Rの経路を変更しても、この第2焦点12から楕円面ミラー9における反射点を経由した第1焦点11までのレーザ光Rの経路長は、一定であるため(変化しないため)、第1焦点11への入射角を変化させたとしても、平行ビームであるレーザ光Rを第1焦点11の一点に収束させることができる。つまり、光源側のフォーカスの調整は不要である。
また、各実施形態において、経路制御装置3は、電子ビームEの第1焦点11への入射角を合計10°の幅で調整することが可能となり(θ1=5°、θ2=5°)、この調整に追従するようにして、レーザ光Rの第1焦点11への入射角を合計10°の幅で調整することが可能である(θ11=5°、θ12=5°)。これにより、幅広い方向にγ線を放射することが可能となり、走査対象物13に対して広範囲(幅広)の走査が可能となる。
【0047】
前記各実施形態それぞれにおいて、光子ビームの放射方向に楕円面ミラー9が存在していることから、楕円面ミラー9は、光子ビーム(γ線)が透過可能な部材(透過率の高い部材)からなり、例えば、プラスチック、ガラス、又は透過率の高い金属(アルミニウム等)で構成されている。
また、発生させた光子ビーム(そのエネルギー)を部分的にカットするために、走査対象物13と第1焦点11との間に、可動コリメータ28が設けられていてもよい。
また、レーザ発生装置2が発生させるレーザ光Rのビーム直径を変化させてもよく、これにより、光子のエネルギーの広がりを変化させることが可能となる。
【0048】
また、図1の可動ミラー16及び図4の放物面ミラー41は、レーザ光を反射させる材質であればよい。
なお、図4の実施形態において、平面ミラー43は、レーザ発生装置2及びペリスコープ29の配置を考慮して、設けられたものであるが、省略することもできる。
また、図4の実施形態では、真空容器20及び複数の偏向磁石を有する電子ビーム制御部7が、直列配置で二つ設けられている。そして、二つの電子ビーム制御部7はそれぞれ反対の偏向動作を行う。つまり、第1(図4の右側)の電子ビーム制御部7では偏向角度を大きくする場合、第2(図4の左側)の電子ビーム制御部7では偏向角度を小さくし、光源(レーザ発生装置2)側から終端(電子ビームダンプ31)側までの経路長が一定となるようにしている。
【0049】
また、本発明の走査装置は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。
前記各実施形態では、電子ビームとレーザ光とを第1焦点11で正面衝突させる場合を説明したが、相対的に傾斜した方向から第1焦点11に入射させ、第1焦点11で衝突させてもよい。これにより、電子によって散乱される光子のエネルギーを変化させることが可能となる。
【0050】
また、走査装置は、非破壊検査装置以外にも画像診断装置としても適用することができる。また、走査装置によって発生させる高エネルギーな光子ビームは、γ線以外にX線であってもよい。
また、準単色の(エネルギーがほぼそろった)γ線・X線ではなく、ある程度のエネルギー幅を有したγ線・X線であってもよく、この場合、レーザ光エキスパンダにより、レーザ光の直径を変化させることで、エネルギーの広がりを制御することができる。
また、走査装置をエネルギー回収型のシステム又は電子蓄積リング型のシステムに導入することもできる。この場合、上記のとおり、本実施形態の電子ビーム制御部7によれば、真空容器20における電子ビームEの入射及び出射を定点とすることが可能であるため、例えば電子蓄積リング型の装置に走査装置を導入する際に、電子ビームの軌道に与える影響を小さくすることが可能となる。
【符号の説明】
【0051】
1:電子ビーム発生装置、 2:レーザ発生装置、 3:経路制御装置、 7:電子ビーム制御部、 8:レーザ光制御部、 9:楕円面ミラー、 10:楕円、 11:第1焦点、 12:第2焦点、 13:走査対象物、 16:可動ミラー、 16b:反射面、 19:反射面、 40:放物線、 41:放物面ミラー、 42:反射面、 C:中心線、 E:電子ビーム、 R:レーザ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを発生させる電子ビーム発生装置と、
レーザ光を発生させるレーザ発生装置と、
発生させた電子ビーム及びレーザ光の経路を制御して電子ビームとレーザ光とを衝突させるための経路制御装置と、を備え、
前記経路制御装置は、
前記電子ビームの経路を制御して仮想的に設定された楕円の第1焦点に電子ビームを入射させると共に当該第1焦点への入射角度を変化させる電子ビーム制御部と、
前記楕円の第2焦点から当該楕円の一部へと向かう前記レーザ光の進行方向を変化させるレーザ光制御部と、
前記楕円の前記一部に沿った反射面を有し、前記第2焦点から当該反射面に入射したレーザ光を反射させて前記電子ビームの反対側から前記第1焦点に入射させる楕円面ミラーと、
を有していることを特徴とする光子ビーム走査装置。
【請求項2】
前記レーザ光制御部は、前記第2焦点に入射したレーザ光を当該第2焦点で反射させ、かつ、その反射方向を変更可能とする可動ミラーを有している請求項1に記載の光子ビーム走査装置。
【請求項3】
前記可動ミラーは、前記第2焦点に反射面を有し当該第2焦点を通過する中心線回りに回転する回転ミラーである請求項2に記載の光子ビーム走査装置。
【請求項4】
前記レーザ光制御部は、前記第2焦点を焦点とする放物線の一部に沿った反射面を有し前記レーザ光が前記第2焦点を通過するように反射させる放物面ミラーを有している請求項1に記載の光子ビーム走査装置。
【請求項5】
電子ビーム及びレーザ光の経路を制御して電子ビームとレーザ光とを衝突させ、光子ビームを発生させて行う光子ビーム走査方法であって、
前記電子ビームの経路を制御して仮想的に設定された楕円の第1焦点への電子ビームの入射角度を変化させる電子ビーム制御ステップと、前記楕円の第2焦点から、当該楕円の一部に沿った反射面を有する楕円面ミラーへと向かう前記レーザ光の進行方向を変化させるレーザ光制御ステップとを備えていることを特徴とする光子ビーム走査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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