説明

光学ガラス、プリフォーム、及び光学素子

【課題】高屈折率及び高分散の特性を得ながらも、モールドプレス成形時における金型の消耗を低減し、且つ表面の曲面が滑らかで均一な光学素子を得ることが可能な光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を提供する。
【解決手段】光学ガラスは、酸化物換算組成の全質量に対する質量%で、Bi成分を50.0〜80.0%及びB成分を5.0〜30.0%含有し、屈折率(nd)が1.90以上であり、液相温度における粘性が0.25Pa・s以上である。プリフォーム及び光学素子は、この光学ガラスからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、プリフォーム、及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学系を用いた機器の高集積化及び高機能化が急速に進められたことで、光学系に対する高精度化、軽量化及び小型化の要求がますます強まっている。この要求を実現するために、高屈折率高分散ガラスを用いて作製した非球面レンズを用いた光学設計が行われている。
【0003】
非球面レンズ等の光学素子を研削や研磨法で作製する場合、光学素子の製造コストが高くなり生産効率も悪くなる。そのため、光学素子の作製は、ゴブ或いはガラスブロックを切断・研磨したプリフォーム材を加熱軟化させ、これを高精度な面を持つ金型で加圧成形させるモールドプレスによることが多い。
【0004】
モールドプレスを行うことにより、研削及び研磨工程が省略されることで、光学素子を低コストで作製でき、且つ大量生産を実現できる。しかし、光学素子の低コスト化及び大量生産を実現するためには、モールドプレスに用いられる金型を繰り返し使用できることが重要である。金型を繰り返し使用するには、プリフォーム材を加熱軟化させる際の加熱温度をできるだけ低く設定することで、金型の表面酸化を抑える必要がある。
【0005】
ここで、モールドプレス時の加熱温度と、ガラス転移点やガラスの屈伏点との間には相関性があり、ガラス転移点や屈伏点を低くすることで、モールドプレス時の加熱温度が低くなるため、金型の表面酸化の進行を抑えることができる。
【0006】
さらに、光学素子を低コストで作製するには、モールドプレスを行う前のプリフォームの製造コストも低いことが望まれる。
【0007】
プリフォームの製造方法としては、ガラス融液を滴下して冷却する方法が挙げられる。この方法を用いることで、プリフォームの量産性を高めることができ、プリフォームの製造コストを低くすることができる。さらに、この方法にて得られたプリフォームは、球形又は両凸のレンズ形状に近いため、特に球形や両凸のレンズを形成する場合におけるモールドプレスによる形状変化量を小さくでき、光学素子の量産性を高めることもできる。
【0008】
このようなモールドプレスに用いられるガラスとして、特許文献1及び2にはPを主成分としたガラスが開示されている。また、特許文献3にはBiを主成分としたガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平07−097234号公報
【特許文献2】特開2002−173336号公報
【特許文献3】特開2009−040647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、高屈折率及び高分散のガラスは、ガラス成形酸化物の量が相対的に少ないため、溶解したガラス材料や加熱軟化したガラスの粘性が低くなる傾向にある。特に、ガラス転移点や屈伏点の低いガラスは、その傾向が強い。
【0011】
そのため、溶解したガラス材料からなるガラス融液を滴下してプリフォームを作製する場合、滴下される融液が細長くなり、得られるプリフォームの形状も細長くなることで、球形等の所望の形状を得ることが困難である。
【0012】
また、このようなガラスからなるプリフォームをモールドプレスに用いた場合、成形型の内部でガラスが必要以上に軟化されるため、所望の形状の光学素子を得ることが困難になり易い。
【0013】
しかも、ガラスを成形する際、ガラス融液の加熱温度を液相温度(失透温度)よりも高温にしなければならない。例えば、プリフォームを作製する際にはガラス融液の温度を液相温度より高くしなければならない。ガラス融液の加熱温度を液相温度より低くした場合には、得られるプリフォームや光学素子が失透する。一方で、ガラス融液の加熱温度を液相温度より高くした場合には、プリフォームの成形が困難になる。
【0014】
この点、特許文献1及び2のガラスは、プレス成形を行う際に結晶が析出し難いため、プリフォームや光学素子の成形は可能である。しかし、特許文献1及び2のガラスは、ガラス転移点や屈伏点が高いため、ガラスの金型への焼き付きや金型の表面酸化による早期消耗等の問題点があった。
【0015】
また、特許文献3のガラスは、液相温度が高く、液相温度における粘性も低いため、ガラスを失透させずに成形することが困難である問題点があった。
【0016】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、高屈折率及び高分散の特性を得ながらも、モールドプレス成形時における金型の消耗を低減し、且つ表面の曲面が滑らかで均一な光学素子を得ることが可能な光学ガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、Bi成分及びB成分を併用し、他の各成分の含有量を調整することによって、ガラス転移点や屈伏点が低くなり、且つガラスの液相温度における粘性が高められることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0018】
(1) 酸化物換算組成の全質量に対する質量%で、Bi成分を50.0〜80.0%及びB成分を5.0〜30.0%含有し、屈折率(nd)が1.90以上であり、液相温度における粘性が0.25Pa・s以上である光学ガラス。
【0019】
(2) 酸化物換算組成のガラス全質量に対するLn成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和が0.1%以上である(1)記載の光学ガラス。
【0020】
(3) 酸化物換算組成の全質量に対する質量%で、
La成分 0〜20.0%及び/又は
Gd成分 0〜20.0%及び/又は
成分 0〜15.0%及び/又は
Yb成分 0〜6.0%
をさらに含有する(1)又は(2)記載の光学ガラス。
【0021】
(4) 酸化物換算組成の全質量に対する質量%で、SiO成分の含有量が20.0%以下である(1)から(3)のいずれか記載の光学ガラス。
【0022】
(5) 酸化物換算組成における質量比(SiO/B)が0.80以下である(4)記載の光学ガラス。
【0023】
(6) 酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で
TiO成分 0〜20.0%及び/又は
ZrO成分 0〜13.0%及び/又は
Nb成分 0〜15.0%及び/又は
Ta成分 0〜15.0%及び/又は
WO成分 0〜15.0%
である(1)から(5)のいずれか記載の光学ガラス。
【0024】
(7) 酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量和(TiO+ZrO+Nb+Ta+WO)が0.1%以上である(6)記載の光学ガラス。
【0025】
(8) 酸化物換算組成における質量比Ln/(TiO+ZrO+Nb+Ta+WO)が0.30以上4.00以下である(6)又は(7)記載の光学ガラス。
【0026】
(9) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
MgO成分 0〜8.0%及び/又は
CaO成分 0〜15.0%及び/又は
SrO成分 0〜15.0%及び/又は
BaO成分 0〜30.0%及び/又は
ZnO成分 0〜30.0%
である(1)から(8)のいずれか記載の光学ガラス。
【0027】
(10) 酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群より選択される1種以上)の質量和が30.0%以下である(9)記載の光学ガラス。
【0028】
(11) 酸化物換算組成における質量比RO/Lnが0.82以下である(9)又は(10)記載の光学ガラス。
【0029】
(12) 酸化物換算組成における質量比RO/(TiO+ZrO+Nb+Ta+WO)が1.90以下である(9)から(11)のいずれか記載の光学ガラス。
【0030】
(13) 酸化物換算組成の全質量に対する質量%で、
LiO成分 0〜15.0%及び/又は
NaO成分 0〜15.0%及び/又は
O成分 0〜15.0%
である(1)から(12)のいずれか記載の光学ガラス。
【0031】
(14) 酸化物換算組成のガラス全質量に対するRnO成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の質量和が15.0%以下である(13)記載の光学ガラス。
【0032】
(15) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
成分 0〜15.0%及び/又は
GeO成分 0〜20.0%及び/又は
TeO成分 0〜20.0%及び/又は
Al成分 0〜5.0%及び/又は
Ga成分 0〜5.0%及び/又は
SnO成分 0〜3.0%及び/又は
CeO成分 0〜3.0%及び/又は
Sb成分 0〜3.0%
である(1)から(14)のいずれか記載の光学ガラス。
【0033】
(16) アッベ数(νd)が15以上30以下である(1)から(15)のいずれか記載の光学ガラス。
【0034】
(17) 分光透過率が70%を示す波長(λ70)が490nm以下である(1)から(16)のいずれか記載の光学ガラス。
【0035】
(18) 液相温度が900℃以下である(1)から(17)のいずれか記載の光学ガラス。
【0036】
(19) (1)から(18)いずれか1項の光学ガラスからなる研磨加工用及び/又は精密プレス成形用のプリフォーム。
【0037】
(20) (19)のプリフォームを研磨してなる光学素子。
【0038】
(21) (19)のプリフォームを精密プレス成形してなる光学素子。
【0039】
(22) (1)から(21)いずれか1項の光学ガラスからなる光学素子。
【0040】
(23) (20)から(22)のいずれかに記載の光学素子を有する光学機器。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、高屈折率及び高分散の特性を得ながらも、モールドプレス成形時における金型の消耗を低減し、且つ表面の曲面が滑らかで均一な光学素子を得ることが可能な光学ガラスを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明の光学ガラスは、酸化物換算組成の全質量に対する質量%で、Bi成分を50.0〜80.0%及びB成分を5.0〜30.0%含有し、屈折率(nd)が1.90以上であり、液相温度における粘性が0.25Pa・s以上である。Bi成分及びB成分を併用し、他の各成分の含有量を調整することによって、ガラス転移点や屈伏点が低くなり、且つ、ガラスの液相温度が低くなり、且つガラスの粘性が高められることで、ガラスの液相温度における粘性が高められる。このため、高屈折率及び高分散の特性を得ながらも、モールドプレス成形時における金型の消耗を低減し、且つ表面の曲面が滑らかで均一な光学素子を得ることが可能な光学ガラスを得ることができる。
【0043】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0044】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中において、各成分の含有率は特に断りがない場合は、全て酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で表示されるものとする。ここで「酸化物換算組成」は、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0045】
<必須成分、任意成分について>
Bi成分は、ガラスの屈折率(nd)を高め、アッベ数を低くする効果がある成分である。また、ガラス転移点や屈伏点を低くし、耐水性を向上する成分である。ここで、Bi成分の含有量を50.0%以上にすることで、高屈折率及び高分散を有し、且つガラス転移点及び屈伏点の低いガラスを得ることができる。一方で、Bi成分の含有量を80.0%以下にすることで、ガラスの液相温度を低くでき、且つガラスの着色を低減できる。従って、Bi成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは50.0%、より好ましくは55.0%を下限とし、最も好ましくは63.0%より多くする。一方で、Bi成分の含有量は、好ましくは80.0%、より好ましくは78.0%、最も好ましくは75.0%を上限とする。Bi成分は、原料として例えばBiを用いることができる。
【0046】
成分は、ガラスの液相温度を下げて失透を低減する成分である。ここで、B成分の含有量を5.0%以上にすることで、耐失透性の高いガラスを得ることができる。しかしながら、B成分の含有量が多すぎると、かえってガラスの液相温度が高くなる。また、B成分の含有量が多すぎると、ガラスの屈折率が高くなり、アッベ数が低くなる。従って、B成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは5.0%、より好ましくは9.3%を下限とし、最も好ましくは11.0%より多くする。一方で、B成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは30.0%、より好ましくは25.0%、最も好ましくは20.0%を上限とする。B成分は、原料として例えばHBO、Na、Na・10HO、BPOを用いることができる。
【0047】
La成分、Gd成分、Y成分及びYb成分は、ガラスの液相温度における粘性を高める成分である。ここで、Ln成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)のうち少なくともいずれかを含有することで、液相温度において高い粘性を得ることができる。一方で、Ln成分の含有量が多すぎると、ガラスのアッベ数が高くなり、且つガラスの液相温度が上昇する。従って、Ln成分の質量和は、酸化物基準の質量%で、好ましくは0.1%、より好ましくは0.2%、さらに好ましくは1.0%、最も好ましくは3.6%を下限とする。一方で、Ln成分の質量和は、酸化物基準の質量%で、好ましくは25.0%、より好ましくは20.0%を上限とし、最も好ましくは12.0%未満とする。
【0048】
このうち、La成分及びGd成分の各々の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。また、Y成分の各々の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。また、Yb成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは6.0%、より好ましくは4.0%、最も好ましくは2.0%を上限とする。なお、Ln成分のうちY成分及びYb成分は、ガラスの液相温度を高める作用が強いため、液相温度における粘性をより高くする観点では、Y成分及びYb成分の含有量を低減することがより好ましく、Y成分及びYb成分を含有しないことがさらに好ましい。La成分、Gd成分、Y成分及びYb成分は、原料として例えばLa、La(NO・XHO(Xは任意の整数)、Gd、GdF、Y、YF、Ybを用いることができる。
【0049】
SiO成分は、ガラスの液相温度を下げ、且つ液相温度における粘性を高める成分であり、且つ、ガラスの可視光透過率を高める効果のある成分である。しかしながら、SiO成分の含有量が多すぎると、ガラスの屈折率が低下し易い。従って、SiO成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは10.0%を上限とし、最も好ましくは6.0%未満とする。なお、SiO成分は含有しなくてもよいが、液相温度において高い粘性を得易くできる観点では、SiO成分の含有量は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、最も好ましくは0.7%を下限とする。SiO成分は、原料として例えばSiO、KSiF、NaSiFを用いることができる。
【0050】
本発明の光学ガラスは、B成分の含有量に対するSiO成分の含有量の比率が0.80以下であることが好ましい。これにより、より液相温度の低いガラスを得ることができる。従って、酸化物換算組成における質量比(SiO/B)は、好ましくは0.80、より好ましくは0.50、を上限とし、最も好ましくは0.20未満とする。なお、(SiO/B)は0であってもよいが、より液相温度が低く可視光透過率の高いガラスを得る観点では、質量比(SiO/B)は、好ましくは0.01、より好ましくは0.03、最も好ましくは0.05を下限とする。
【0051】
TiO成分は、ガラスの液相温度を下げ、且つ液相温度における粘性を高める成分である。しかし、その含有量が多すぎると、かえってガラスの液相温度が高くなり、且つガラスが着色する。従って、TiO成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。TiO成分は、原料として例えばTiO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0052】
ZrO成分は、ガラスの液相温度を下げ、液相温度における粘性を高め、且つガラスの化学的耐久性や機械的強度を向上する成分である。しかし、ZrO成分の含有量が多すぎると、かえってガラスの液相温度が高くなり、ガラス転移点や屈伏点も高くなる。従って、ZrO成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは13.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。なお、ZrO成分は含有しなくてもよいが、耐失透性を高め、且つ液相温度において高い粘性を得易くできる観点では、ZrO成分の含有量は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、最も好ましくは1.0%を下限とする。ZrO成分は、原料として例えばZrO、ZrFを用いることができる。
【0053】
Nb成分は、ガラスの液相温度における粘性を高め、且つガラスのアッベ数を小さくする成分である。しかし、Nb成分の含有量が多すぎると、ガラスの液相温度やガラス転移点が高くなる。従って、Nb成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは15.0%、より好ましくは12.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。なお、Nb成分は含有しなくてもよいが、アッベ数を小さくし、且つ液相温度において高い粘性を得易くできる観点では、Nb成分の含有量は、好ましくは0.1%、より好ましくは1.0%、最も好ましくは2.0%を下限とする。Nb成分は、原料として例えばNbを用いることができる。
【0054】
Ta成分は、ガラスの液相温度における粘性を高める成分である。しかし、Ta成分の含有量が多すぎると、ガラスの液相温度やガラス転移点が高くなり、且つガラスの原料コストが大幅に上昇する。従って、Ta成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。Ta成分は、原料として例えばTaを用いることができる。
【0055】
WO成分は、ガラスの液相温度における粘性を高め、且つガラス転移点や屈伏点を下げる成分である。しかし、その含有量が多すぎると、ガラスの液相温度やガラス転移点が高くなり、且つガラスが着色する。従って、WO成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは15.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。WO成分は、原料として例えばWOを用いることができる。
【0056】
本発明の光学ガラスは、TiO成分、ZrO成分、Nb成分、Ta成分及びWO成分の質量和が0.1%以上であることが好ましい。これにより、ガラスのアッベ数を低くでき、且つガラスの液相温度を下げることができる。特に、Ln成分とこれらの成分を併用することで、より液相温度における粘性の高いガラスを得ることができる。従って、酸化物換算組成における質量和(TiO+ZrO+Nb+Ta+WO)は、好ましくは0.1%、より好ましくは1.0%、最も好ましくは3.0%を下限とする。一方で、これらの成分の過剰な含有による液相温度の上昇や、ガラス転移点や屈伏点の上昇を低減できる観点では、この質量和は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは12.0%を上限とする。
【0057】
また、本発明の光学ガラスは、質量和(TiO+ZrO+Nb+Ta+WO)に対するLn成分の含有量の比率が0.30以上4.00以下であることが好ましい。この比率を0.30以上4.00以下の範囲内にすることで、液相温度における粘性をより高め、ガラスの着色を抑制することができる。従って、酸化物換算組成での質量比Ln/(TiO+ZrO+Nb+Ta+WO)は、好ましくは0.30、より好ましくは0.40、最も好ましくは0.50を下限とする。一方で、この質量比は、好ましくは4.00、より好ましくは3.00、最も好ましくは2.00を上限とする。
【0058】
MgO成分、CaO成分、SrO成分及びBaO成分は、適度に含有することでガラスの液相温度を下げる成分である。しかし、これらの成分の含有量が多すぎると、かえって液相温度が高くなる。従って、MgO成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは8.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。また、CaO成分及びSrO成分の各々の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。BaO成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは30.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。MgO成分、CaO成分、SrO成分及びBaO成分は、原料として例えばMgO、MgCO、MgF、CaCO、CaF、Sr(NO、SrF、BaCO、Ba(NOを用いることができる。
【0059】
ZnO成分は、ガラスの液相温度を低くし且つ着色を低減する成分であり、本発明の光学ガラスの任意成分である。しかし、ZnO成分の含有量が多すぎると、アッベ数(νd)が高くなり、液相温度が上昇する。従って、ZnO成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは30.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは10.0%、最も好ましくは7.0%を上限とする。なお、ZnO成分は含有しなくてもよいが、ZnO成分を含有することで耐失透性を高め、着色を低減できる。従って、ZnO成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは0.1%、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは2.3%、最も好ましくは3.0%を下限とする。ZnO成分は、原料として例えばZnO、ZnFを用いることができる。
【0060】
本発明の光学ガラスでは、RO成分(RはMg、Ca、Sr、Ba、Znから選ばれる1種以上)の合計含有量が30.0%以下であることが好ましい。これにより、これら成分の過剰な含有による液相温度の上昇を抑えることができる。従って、RO成分の合計含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。
【0061】
本発明の光学ガラスでは、Ln成分の質量和に対する、RO成分の質量和の比率が0.82以下であることが好ましい。これにより、屈折率の低下を抑制しながらもガラスの液相温度の上昇を抑えることができる。従って、酸化物基準での質量比RO/Lnは、好ましくは0.82、より好ましくは0.75、最も好ましくは0.70を上限とする。
【0062】
また、本発明の光学ガラスでは、質量和(TiO+ZrO+Nb+Ta+WO)に対する、RO成分の質量和の比率が1.90以下であることが好ましい。これにより、高屈折率を維持しながらもガラスの液相温度における粘性を高めることができる。従って、酸化物基準での質量比RO/(TiO+ZrO+Nb+Ta+WO)は、好ましくは1.90、より好ましくは1.50、最も好ましくは1.00を上限とする。
【0063】
LiO成分、NaO成分及びKO成分は、ガラスの屈折率及びアッベ数を調整し、ガラス転移点や屈伏点を低くする成分である。しかし、これらの成分を含有すると液相温度における粘性が大きく低下する。従って、LiO成分、NaO成分及びKO成分の各々の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは1.0%を上限とする。また、RnO成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の質量和は、酸化物基準の質量%で、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%を上限とし、さらに好ましくは5.0%未満とする。特に液相温度における粘性の高いガラスを得る観点では、RnO成分の質量和は、酸化物基準の質量%で、好ましくは1.0%未満、より好ましくは0.4%未満、最も好ましくは0.1%未満とする。LiO成分、NaO成分及びKO成分は、原料として例えばLiCO、LiNO、LiF、NaCO、NaNO、NaF、NaSiF、KCO、KNO、KF、KHF、KSiFを用いることができる。
【0064】
成分は、ガラスの透過率を向上する成分である。しかしながら、P成分の含有量が多すぎると、ガラス材料が溶解し難くなり、液相温度が上昇する。従って、P成分の含有量の上限は、酸化物基準の質量%で、好ましくは15.0%、より好ましくは4.0%、さらに好ましくは1.0%を上限とし、最も好ましくは含有しない。P成分は、原料として例えばAl(PO、Ca(PO、Ba(PO、Na(PO)、BPO、HPOを用いることができる。
【0065】
GeO成分は、ガラスの耐失透性を向上するために有用な任意成分である。しかしながら、GeO成分の含有量が多すぎると、ガラスの溶融性が低下し易くなり、且ガラス原料コストが大幅に上がる。従って、GeO成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。また、GeO成分は高価な成分であるため、ガラスの材料コストを低減する観点で、GeO成分の含有量を、好ましくは3.0%未満、より好ましくは2.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満にしてもよい。GeO成分は、原料として例えばGeOを用いることができる。
【0066】
TeO成分はガラスの液相温度を下げ、且つガラス融液の脱泡及び清澄を促す成分である。しかし、その含有量が多すぎると、かえってガラスの液相温度が高くなる。従って、TeO成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは10.0%を上限とする。特に耐失透性の高いガラスを得る観点では、TeO成分の含有量を2.9%以下にしてもよい。一方で、TeO成分は含有しなくてもよいが、TeO成分を含有することで、液相温度が低く泡の少ないガラスを得ることができる。従って、TeO成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは0.1%、より好ましくは0.3%、最も好ましくは0.5%を下限とする。TeO成分は、原料として例えばTeOを用いることができる。
【0067】
Al成分及びGa成分は、ガラスの化学的耐久性や機械的強度を向上するために有用な任意成分である。しかしながら、Al成分やGa成分の含有量が多すぎると、ガラスの溶融性が低下し易くなる。従って、Al成分及びGa成分の各々の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは5.0%を上限とし、より好ましくは4.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満とする。特に、Al成分はガラスの液相温度における粘性を大きく下げる成分であるため、液相温度における粘性を高める観点では、Al成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは1.0%未満、より好ましくは0.8%未満、より好ましくは0.5%未満、さらに好ましくは0.3%未満とする。Al成分及びGa成分は、原料として例えばAl、Al(OH)、AlF、Ga、Ga(OH)を用いることができる。
【0068】
SnO成分は、ガラスの化学的耐久性を高める成分である。しかし、その含有量が多すぎると、熔融性が悪化し、ガラスの着色が強くなる。従って、SnO成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは3.0%、より好ましくは2.0%、最も好ましくは1.0%を上限とする。SnO成分は、原料として例えばSnO、SnOを用いることができる。
【0069】
CeO成分は、ガラスの清澄を促す成分である。しかし、その含有量が多すぎると、ガラスが着色する。従って、CeO成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは3.0%、より好ましくは1.0%を上限とし、最も好ましくは含有しない。CeO成分は、原料として例えばCeOを用いることができる。
【0070】
Sb成分は、ガラスの清澄を促す成分である。しかし、その含有量が多すぎると、ガラスの着色が強くなる。従って、Sb成分の含有量は、酸化物基準の質量%で、好ましくは3.0%、より好ましくは1.0%、最も好ましくは0.1%を上限とする。Sb成分は、原料として例えばSb、Sb、NaSb・5HOを用いることができる。
【0071】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSb成分に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤や脱泡剤、或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0072】
<含有させるべきでない成分について>
本発明においては、他の成分を本発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、Ti、Zr、Nb、Ta、W、La、Gd、Y、Ybを除くV、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Ag、Mo、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びLu等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合においても、ガラスが着色して可視域の特定の波長に吸収を生じる。従って、本発明の光学ガラスは、上記成分を実質的に含まないことが好ましい。ここで、「実質的に含まない」とは、不純物として混入される場合を除いて、人為的に含有させないことを意味する。
【0073】
さらに、PbO等の鉛化合物及びAs等のヒ素化合物、並びに、Th、Cd、Tl、Os、Be、Seの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、これらを実質的に含有しないことが好ましい。
【0074】
本発明の光学ガラスとして好ましく用いられるガラスは、その組成が酸化物基準の質量%で表されているため直接的にモル%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たすガラス組成物中に存在する各成分のモル%表示による組成は、酸化物基準で概ね以下の値をとる。
Bi成分 20.0〜40.0モル%及び
成分 15.0〜60.0モル%
並びに
La成分 0〜13.0モル%、及び/又は
Gd成分 0〜13.0モル%、及び/又は
成分 0〜10.0モル%、及び/又は
Yb成分 0〜4.0モル%、及び/又は
SiO成分 0〜60.0モル%、及び/又は
TiO成分 0〜40.0モル%、及び/又は
ZrO成分 0〜25.0モル%、及び/又は
Nb成分 0〜10.0モル%、及び/又は
Ta成分 0〜12.0モル%、及び/又は
WO成分 0〜15.0モル%、及び/又は
MgO成分 0〜25.0モル%、及び/又は
CaO成分 0〜40.0モル%、及び/又は
SrO成分 0〜35.0モル%、及び/又は
BaO成分 0〜50.0モル%、及び/又は
ZnO成分 0〜60.0モル%、及び/又は
LiO成分 0〜60.0モル%、及び/又は
NaO成分 0〜45.0モル%、及び/又は
O成分 0〜35.0モル%、及び/又は
成分 0〜30.0モル%、及び/又は
GeO成分 0〜30.0モル%、及び/又は
TeO成分 0〜20.0モル%、及び/又は
Al成分 0〜10.0モル%、及び/又は
Ga成分 0〜5.0モル%、及び/又は
SnO成分 0〜4.0モル%、及び/又は
CeO成分 0〜2.0モル%、及び/又は
Sb成分 0〜2.0モル%
【0075】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有率の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を石英坩堝又は金坩堝に入れて750〜1000℃の温度範囲で2〜3時間溶融して攪拌均質化を行い、850〜650℃程度の温度に下げてから1時間程度経過した後、金型に鋳込んで徐冷することにより作製される。
【0076】
<物性>
本発明の光学ガラスは、液相温度において高い粘性を有する。より具体的には、本発明の光学ガラスの液相温度における粘性は、好ましくは0.25Pa・s、より好ましくは0.4Pa・s、最も好ましくは0.6Pa・sを下限とする。これにより、ガラスを液相温度に加熱しても粘性の大きなガラス融液が得られるため、プリフォームの失透や脈理を低減しつつ、ガラス融液から所望の形状のプリフォームに成形し易い均一な光学ガラスを得ることができる。また、これによりガラスを加熱軟化してもガラスの粘性が損なわれ難くなるため、プリフォームから光学素子等への成形を行い易く、表面の曲面が滑らかで均一な光学素子を作製し易い光学ガラスを得ることができる。なお、本発明の光学ガラスの液相温度における粘性の上限は特に限定されないが、概ね2.0Pa・s以下、より具体的には1.8Pa・s以下、さらに具体的には1.5Pa・s以下であることが多い。
【0077】
また、本発明の光学ガラスは、液相温度(失透温度)が低いことが好ましい。すなわち、本発明の光学ガラスの液相温度は、好ましくは900℃、より好ましくは880℃、最も好ましくは860℃を上限とする。これにより、より低い温度でガラス融液を流出しても、作製されたガラスの結晶化が低減されるため、ガラス融液からプリフォームを形成したときの耐失透性を高めることができる。また、液相温度が低くなることでガラス融液の粘性の基準となる温度が低くなるため、液相温度における粘性を高めることもできる。一方、本発明の光学ガラスの液相温度の下限は特に限定しないが、本発明によって得られるガラスの液相温度は、概ね500℃以上、具体的には550℃以上、さらに具体的には600℃以上であることが多い。なお、本明細書中における「液相温度」とは、50mlの容量の白金製坩堝に30ccのカレット状のガラス試料を白金坩堝に入れて950℃で完全に熔融状態にし、所定の温度まで降温して12時間保持し、炉外に取り出して冷却した後直ちにガラス表面及びガラス中の結晶の有無を観察し、結晶が認められない一番低い温度を表す。ここで所定の温度とは、860℃〜650℃まで10℃刻みで設定した温度を表す。
【0078】
また、本発明の光学ガラスは、高屈折率及び高分散(低アッベ数)を有することが好ましい。より具体的には、本発明の光学ガラスの屈折率(n)は、好ましくは1.90、より好ましくは1.95、最も好ましくは1.97を下限とする。ここで、本発明の光学ガラスの屈折率(n)の上限は特に限定されないが、概ね2.30以下、より具体的には2.20以下、さらに具体的には2.10以下であることが多い。一方、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)は、好ましくは30、より好ましくは28、最も好ましくは25を上限とする。一方、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)の下限は特に限定されないが、概ね15以上、より具体的には16以上、さらに具体的には17以上であることが多い。これらにより、光学設計の自由度が広がり、さらに素子の薄型化を図っても大きな光の屈折量を得ることができる。また、光学系における素子の点数を削減できるため、光学系全体の小型化を図ることができる。
【0079】
また、本発明の光学ガラスは、低いガラス転移点(Tg)を有することが好ましい。すなわち、本発明の光学ガラスのガラス転移点(Tg)は、好ましくは560℃、より好ましくは520℃、最も好ましくは500℃を上限とする。これにより、ガラスがより低い温度で軟化するため、より低い温度でガラスをプレス成形し易くできる。そのため、プレス成形に用いる金型の酸化による消耗を低減して金型の長寿命化を図ることもできる。なお、本発明の光学ガラスのガラス転移点(Tg)の下限は特に限定されないが、本発明によって得られるガラスのガラス転移点(Tg)は、概ね100℃以上、具体的には150℃以上、さらに具体的には200℃以上であることが多い。
【0080】
また、本発明の光学ガラスは、低い屈伏点(At)を有することが好ましい。すなわち、本発明の光学ガラスの屈伏点(At)は、好ましくは600℃、より好ましくは560℃、最も好ましくは520℃を上限とする。屈伏点(At)は、ガラス転移点(Tg)と同様にガラスの軟化性を示す指標の一つであり、プレス成形温度に近い温度を示す指標である。そのため、屈伏点(At)が600℃以下のガラスを用いることにより、より低い温度でのプレス成形が可能になるため、よりプレス成形を行い易くすることができる。なお、本発明の光学ガラスの屈伏点(At)の下限は特に限定されないが、本発明によって得られるガラスの屈伏点(At)は、概ね150℃以上、具体的には200℃以上、さらに具体的には250℃以上であることが多い。
【0081】
また、本発明の光学ガラスは、着色が少ないことが好ましい。特に、本発明の光学ガラスは、ガラスの透過率で表すと、厚み10mmのサンプルで分光透過率70%を示す波長(λ70)が490nm以下であり、より好ましくは470nm以下であり、最も好ましくは450nm以下である。また、分光透過率5%を示す波長(λ)が460nm以下であり、より好ましくは440nm以下であり、最も好ましくは420nm以下である。これにより、ガラスの吸収端が紫外領域の近傍に位置するようになることで、可視光線に対するガラスの透明性が高められるため、光学ガラスをレンズ等の可視光を透過する光学素子に好ましく用いることができる。
【0082】
[プリフォーム及び光学素子]
作製された光学ガラスから、例えばリヒートプレス成形や精密プレス成形等の手段を用いて、ガラス成形体を作製することができる。すなわち、光学ガラスからモールドプレス成形用のプリフォームを作製し、このプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、例えば研磨加工を行って作製したプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりすることができる。本発明の光学ガラスからなるガラス成形体は、例えばレンズ、プリズム、ミラー等の光学素子の用途に用いることができ、典型的にはデジタルカメラやプロジェクタ等に用いることができる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【実施例】
【0083】
本発明の実施例(No.1〜No.40)及び比較例(No.A〜No.C)の組成、並びに、これらのガラスの屈折率(n)、アッベ数(ν)、ガラス転移点(Tg)、屈伏点(At)、液相温度、液相温度における粘性、及び分光透過率が5%及び70%を示す波長(λ及びλ70)の結果を表1〜表7に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。
【0084】
本発明の実施例(No.1〜No.40)及び比較例(No.A〜No.C)のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物等の通常の光学ガラスに使用される高純度の原料を選定し、表1〜表10に示した各実施例及び比較例の組成で、ガラス重量が400gになるように秤量して均一に混合した後、石英坩堝又は金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で750℃〜1000℃の温度範囲で2〜3時間溶融して攪拌均質化を行い、850〜650℃程度の温度に下げてから1時間程度経過した後、金型に鋳込んで徐冷することにより作製した。
【0085】
ここで、実施例(No.1〜No.40)及び比較例(No.A〜No.C)のガラスの屈折率(n)及びアッベ数(ν)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS01―2003に基づいて測定した。なお、本測定に用いたガラスは、徐冷降温速度を−25℃/hrとして、徐冷炉にて処理を行ったものを用いた。
【0086】
また、実施例(No.1〜No.40)及び比較例(No.A〜No.C)のガラスの液相温度は、50mlの容量の白金製坩堝に30ccのカレット状のガラス試料を白金坩堝に入れて950℃で完全に熔融状態にし、860℃〜650℃まで10℃刻みで設定したいずれかの温度まで降温して12時間保持し、炉外に取り出して冷却した後直ちにガラス表面及びガラス中の結晶の有無を観察し、結晶が認められない一番低い温度を求めた。
【0087】
また、実施例(No.1〜No.40)及び比較例(No.A〜No.C)のガラスの液相温度における粘性は、球引上げ式粘度計(有限会社オプト企業社製 型番BVM−13LH)を用いて粘度(粘性)η(Pa・s)を求めた。
【0088】
また、実施例(No.1〜No.40)の光学ガラス及び比較例(No.A〜No.C)のガラスのガラス転移点(Tg)及び屈伏点(At)は、横型膨張測定器を用いた測定を行うことで求めた。ここで、測定を行う際のサンプルはφ4.8mm、長さ50〜55mmのものを使用し、昇温速度を4℃/minとした。
【0089】
また、実施例(No.1〜No.40)及び比較例(No.A〜No.C)のガラスの透過率は、日本光学硝子工業会規格JOGIS02に準じて測定した。なお、本発明においては、ガラスの可視光に対する透過率を測定することで、ガラスの着色の有無と程度を求めた。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200〜800nmの分光透過率を測定し、λ及びλ70(透過率5%時及び70%時の波長)を求めた。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
【表3】

【0093】
【表4】

【0094】
【表5】

【0095】
【表6】

【0096】
【表7】

【0097】
表1〜表7に表されるように、本発明の実施例(No.1〜No.40)の光学ガラスは、いずれも液相温度における粘性が0.25Pa・s以上、より詳細には0.6Pa・s以上であり、所望の範囲内であった。一方の比較例(No.C)は、液相温度が0.25Pa・sを下回っていた。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、液相温度における粘性が高いことが明らかになった。
【0098】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも液相温度が900℃以下、より詳細には840℃以下であり、所望の範囲内であった。一方の比較例(No.C)は、液相温度が900℃を上回っており、比較例(No.A、No.B)は、失透したため液相温度は900℃より高いものと推察される。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例(No.A〜No.C)のガラスに比べて低い液相温度を有することが明らかになった。
【0099】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、λ70(透過率70%時の波長)がいずれも490nm以下、より詳細には470nm以下であった。また、本発明の実施例の光学ガラスは、λ(透過率5%時の波長)がいずれも460nm以下、より詳細には410nm以下であった。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、着色し難いことが明らかになった。
【0100】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもガラス転移点(Tg)が560℃以下、より詳細には480℃以下であり、所望の範囲内であった。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、ガラス転移点(Tg)が低いことが明らかになった。また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも屈伏点(At)が600℃以下、より詳細には510℃以下であり、所望の範囲内であった。
【0101】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも屈折率(n)が1.90以上、より詳細には1.99以上であり、所望の範囲内であった。また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもアッベ数(ν)が30以下、より詳細には22以下であり、所望の範囲内であった。
【0102】
従って、本発明の実施例の光学ガラスは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にあり、且つ低いガラス転移点及び屈伏点を有しながらも、液相温度が低く、液相温度における粘性が高く、且つ、着色が少ないことが明らかになった。このことから、本発明の実施例の光学ガラスは、高屈折率及び高分散の特性を有しがらも、モールドプレス成形時における金型の消耗を低減でき、且つ表面の曲面が滑らかで均一な光学素子を得られることが推察される。
【0103】
さらに、本発明の実施例の光学ガラスを用いて、研磨加工用プリフォームを形成した後で研削及び研磨を行い、レンズ及びプリズムの形状に加工した。また、本発明の実施例の光学ガラスを用いて、精密プレス成形用プリフォームを形成し、精密プレス成形用プリフォームを精密プレス成形加工してレンズ及びプリズムの形状に加工した。いずれの場合も、所望のレンズ及びプリズムの形状に加工することができた。
【0104】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算組成の全質量に対する質量%で、Bi成分を50.0〜80.0%及びB成分を5.0〜30.0%含有し、屈折率(nd)が1.90以上であり、液相温度における粘性が0.25Pa・s以上である光学ガラス。
【請求項2】
酸化物換算組成のガラス全質量に対するLn成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和が0.1%以上である請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
酸化物換算組成の全質量に対する質量%で、
La成分 0〜20.0%及び/又は
Gd成分 0〜20.0%及び/又は
成分 0〜15.0%及び/又は
Yb成分 0〜6.0%
をさらに含有する請求項1又は2記載の光学ガラス。
【請求項4】
酸化物換算組成の全質量に対する質量%で、SiO成分の含有量が20.0%以下である請求項1から3のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項5】
酸化物換算組成における質量比(SiO/B)が0.80以下である請求項4記載の光学ガラス。
【請求項6】
酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で
TiO成分 0〜20.0%及び/又は
ZrO成分 0〜13.0%及び/又は
Nb成分 0〜15.0%及び/又は
Ta成分 0〜15.0%及び/又は
WO成分 0〜15.0%
である請求項1から5のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項7】
酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量和(TiO+ZrO+Nb+Ta+WO)が0.1%以上である請求項6記載の光学ガラス。
【請求項8】
酸化物換算組成における質量比Ln/(TiO+ZrO+Nb+Ta+WO)が0.30以上4.00以下である請求項6又は7記載の光学ガラス。
【請求項9】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
MgO成分 0〜8.0%及び/又は
CaO成分 0〜15.0%及び/又は
SrO成分 0〜15.0%及び/又は
BaO成分 0〜30.0%及び/又は
ZnO成分 0〜30.0%
である請求項1から8のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項10】
酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群より選択される1種以上)の質量和が30.0%以下である請求項9記載の光学ガラス。
【請求項11】
酸化物換算組成における質量比RO/Lnが0.82以下である請求項9又は10記載の光学ガラス。
【請求項12】
酸化物換算組成における質量比RO/(TiO+ZrO+Nb+Ta+WO)が1.90以下である請求項9から11のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項13】
酸化物換算組成の全質量に対する質量%で、
LiO成分 0〜15.0%及び/又は
NaO成分 0〜15.0%及び/又は
O成分 0〜15.0%
である請求項1から12のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項14】
酸化物換算組成のガラス全質量に対するRnO成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の質量和が15.0%以下である請求項13記載の光学ガラス。
【請求項15】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
成分 0〜15.0%及び/又は
GeO成分 0〜20.0%及び/又は
TeO成分 0〜20.0%及び/又は
Al成分 0〜5.0%及び/又は
Ga成分 0〜5.0%及び/又は
SnO成分 0〜3.0%及び/又は
CeO成分 0〜3.0%及び/又は
Sb成分 0〜3.0%
である請求項1から14のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項16】
アッベ数(νd)が15以上30以下である請求項1から15のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項17】
分光透過率が70%を示す波長(λ70)が490nm以下である請求項1から16のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項18】
液相温度が900℃以下である請求項1から17のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項19】
請求項1から18いずれか1項の光学ガラスからなる研磨加工用及び/又は精密プレス成形用のプリフォーム。
【請求項20】
請求項19のプリフォームを研磨してなる光学素子。
【請求項21】
請求項19のプリフォームを精密プレス成形してなる光学素子。
【請求項22】
請求項1から21いずれか1項の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項23】
請求項20から22のいずれかに記載の光学素子を有する光学機器。

【公開番号】特開2012−224496(P2012−224496A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92538(P2011−92538)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】