説明

光学ガラス、プリフォーム及び光学素子

【課題】屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、色収差の補正に好ましく用いられる光学ガラスと、これを用いたレンズプリフォームを提供する。
【解決手段】光学ガラスは、酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でB成分を1.0〜31.0%及びLn成分を40.0〜65.0%を含有し、TiO成分の含有量が30.0%以下、Nb成分の含有量が30.0%以下である。レンズプリフォームは、この光学ガラスを母材とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、プリフォーム及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラやビデオカメラ等の光学系は、その大小はあるが、収差と呼ばれるにじみを含んでいる。この収差は単色収差と色収差に分類されるが、特に色収差は、光学系に使用されるレンズの材料特性に強く依存している。ここで、色収差を改善するために、高屈折率低分散領域の光学ガラスに部分分散比(θg,F)が小さいことが望まれている。
【0003】
部分分散比(θg,F)は、下式(1)により示される。
θg,F=(n−n)/(n−n)・・・・・・(1)
【0004】
光学ガラスには、短波長域の部分分散性を表す部分分散比(θg,F)とアッベ数(ν)との間に、およそ直線的な関係がある。この関係を表す直線は、部分分散比(θg,F)を縦軸に、アッベ数(ν)を横軸に採用した直交座標上で、NSL7とPBM2の部分分散比及びアッベ数をプロットした2点を結ぶ直線で表され、この直線はノーマルラインと呼ばれている(図1参照)。ノーマルラインの基準となるノーマルガラスは、光学ガラスメーカー毎によっても異なっているが、各社ともほぼ同等の傾きと切片で定義している。(NSL7とPBM2は株式会社オハラ社製の光学ガラスであり、PBM2のアッベ数(ν)は36.3,部分分散比(θg,F)は0.5828、NSL7のアッベ数(ν)は60.5、部分分散比(θg,F)は0.5436である。)
【0005】
ここで、1.80以上の高い屈折率(n)と、30以下の低いアッベ数(ν)とを有するガラスとしては、例えば特許文献1〜6に示されるような、La成分等の希土類元素成分を多く含有する光学ガラスが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−033229号公報
【特許文献2】特開2005−179142号公報
【特許文献3】特開昭60−131845号公報
【特許文献4】特開2006−137645号公報
【特許文献5】特開2007−022846号公報
【特許文献6】特開2007−112697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1〜6の光学ガラスは、高屈折率を有するガラスの中でも低分散を有している一方で、部分分散比が大きく、前記二次スペクトルを補正するレンズとして使用するには十分でなかった。すなわち、高い屈折率(n)及び大きなアッベ数(ν)を有しながらも、部分分散比(θg,F)の小さい光学ガラスが求められている。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、色収差の補正に好ましく用いられる光学ガラスと、これを用いたレンズプリフォームを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、B成分及び希土類元素成分(Ln成分で表される)にTiO成分及びNb成分を併用することで、高屈折率及び低分散を有しながらも部分分散比が小さく、可視光に対する透明性が高く、且つ、液相温度の低いガラスが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0010】
(1) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でB成分を1.0〜31.0%及びLn成分を18.0〜65.0%を含有し、TiO成分の含有量が30.0%以下、Nb成分の含有量が30.0%以下である光学ガラス。
【0011】
(2) 酸化物換算組成の質量比Ln/TiOが3.00以上である(1)記載の光学ガラス(式中、LnはLa、Gd、Y、Yb、Luからなる群より選択される1種以上)。
【0012】
(3) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でLa成分を18.0〜60.0%含有する(1)又は(2)記載の光学ガラス。
【0013】
(4) 酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量和(TiO+Nb)が8.0%以上35.0%以下である(1)から(3)のいずれか記載の光学ガラス。
【0014】
(5) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
SiO成分 0〜20.0%及び/又は
ZrO成分 0〜15.0%
である(1)から(4)のいずれか記載の光学ガラス。
【0015】
(6) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でSiO成分を1.0%以上含有する(5)記載の光学ガラス。
【0016】
(7) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でZrO成分を3.0%以上含有する(5)又は(6)記載の光学ガラス。
【0017】
(8) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
GeO成分 0〜10.0%及び/又は
Ta成分 0〜20.0%
である(1)から(7)のいずれか記載の光学ガラス。
【0018】
(9) 酸化物換算組成における質量比(GeO+Ta)/(TiO+Nb)が1.00以下である(8)記載の光学ガラス。
【0019】
(10) 酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量和(Nb+Ta)が3.0%以上30.0%以下である(1)から(9)のいずれか記載の光学ガラス。
【0020】
(11) 酸化物換算組成における質量比TiO/(Nb+Ta)が0.80以上である(1)から(10)のいずれか記載の光学ガラス。
【0021】
(12) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
WO成分 0〜10.0%及び/又は
SnO成分 0〜5.0%
である(1)から(11)のいずれか記載の光学ガラス。
【0022】
(13) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、WO成分を0.5%より多く含有する(12)記載の光学ガラス。
【0023】
(14) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
Gd成分 0〜30.0%及び/又は
成分 0〜20.0%及び/又は
Yb成分 0〜6.0%及び/又は
Lu成分 0〜6.0%
である(1)から(13)のいずれか記載の光学ガラス。
【0024】
(15) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
MgO成分 0〜15.0%及び/又は
CaO成分 0〜15.0%及び/又は
SrO成分 0〜15.0%及び/又は
BaO成分 0〜35.0%及び/又は
ZnO成分 0〜15.0%
である(1)から(14)のいずれか記載の光学ガラス。
【0025】
(16) 酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の質量和が35.0%以下である(15)記載の光学ガラス。
【0026】
(17) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
LiO成分 0〜15.0%及び/又は
NaO成分 0〜15.0%及び/又は
O成分 0〜15.0%
である(1)から(16)いずれか記載の光学ガラス。
【0027】
(18) 酸化物換算組成のガラス全質量に対するRnO成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の質量和が10.0%以下である(17)記載の光学ガラス。
【0028】
(19) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
成分 0〜10.0%及び/又は
Bi成分 0〜10.0%及び/又は
TeO成分 0〜10.0%及び/又は
Al成分 0〜10.0%及び/又は
Ga成分 0〜10.0%及び/又は
Sb成分 0〜1.0%
である(1)から(18)のいずれか記載の光学ガラス。
【0029】
(20) 1.80以上の屈折率(n)を有し、22以上30以下のアッベ数(ν)を有する(1)から(19)のいずれか記載の光学ガラス。
【0030】
(21) 0.615以下の部分分散比(θg,F)を有する(1)から(20)のいずれか記載の光学ガラス。
【0031】
(22) (1)から(21)のいずれか記載の光学ガラスからなるプリフォーム材。
【0032】
(23) (22)記載のプリフォーム材をプレス成形して作製する光学素子。
【0033】
(24) (1)から(21)のいずれか記載の光学ガラスを母材とする光学素子。
【0034】
(25) (23)又は(24)のいずれか記載の光学素子を備える光学機器。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、色収差の補正に好ましく用いられ、且つ耐失透性の高い光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】部分分散比(θg,F)が縦軸でアッベ数(νd)が横軸の直交座標に表されるノーマルラインを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の光学ガラスは、酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でB成分を1.0〜31.0%及びLn成分を40.0〜65.0%を含有し、TiO成分の含有量が30.0%以下、Nb成分の含有量が30.0%以下である。B成分及び希土類元素成分(Ln成分)を所定の含有量の範囲で含有することによって、ガラスの部分分散比が小さくなり、且つ可視光に対する透明性が高められる。また、分散を大きくする作用のあるTiO成分及びNb成分を含有する場合であっても、分散を小さくする作用の強い希土類元素成分を含有することで、高屈折率及び低分散を有する光学ガラスが得られ、且つ、ガラスの液相温度が低くなる。このため、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、色収差の補正に好ましく用いることができ、且つ耐失透性が高い光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を得ることができる。
【0038】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0039】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中において、各成分の含有量は、特に断りがない場合、全て酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0040】
<必須成分、任意成分について>
成分は、ガラス内部で網目構造を形成し、安定なガラス形成を促す成分である。特に、B成分の含有量を1.0%以上にすることで、ガラスの液相温度を下げて失透し難くし、安定なガラスを得易くすることができる。一方、B成分の含有量を31.0%以下にすることで、屈折率が低下し難くなるため、所望の屈折率を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するB成分の含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは3.0%、最も好ましくは5.0%を下限とし、好ましくは31.0%、より好ましくは25.0%、さらに好ましくは20.0%、最も好ましくは14.0%を上限とする。B成分は、原料として例えばHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0041】
本発明の光学ガラスは、Ln成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Yb、Luからなる群より選択される1種以上)の含有量の質量和が、18.0%以上65.0%以下であることが好ましい。ここで、この質量和を18.0%以上にすることで、所望の高い屈折率及び低い部分分散比を得易くし、且つ着色を少なくすることができる。一方、この質量和を65.0%以下にすることで、ガラスの分散の低下を抑えつつ、これら成分の過剰な含有によるガラスの失透を低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLn成分の含有量の質量和は、好ましくは18.0%、より好ましくは30.0%、さらに好ましくは40.0%、最も好ましくは45.0%を下限とし、好ましくは65.0%、より好ましくは62.0%、最も好ましくは60.0%を上限とする。
【0042】
TiO成分は、ガラスの屈折率及び分散を高め、且つガラスの耐失透性を向上する成分である。特に、TiO成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの部分分散比の上昇を抑え、且つ、可視短波長(500nm以下)の光線透過率を悪化し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTiO成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは25.0%、さらに好ましくは22.0%、最も好ましくは20.0%を上限とする。TiO成分は、原料として例えばTiO等を用いてガラス内に含有することができる。一方で、TiO成分を含有することで、所望の光学恒数及び耐失透性を得ることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTiO成分の含有量は、好ましくは5.0%、より好ましくは6.6%、さらに好ましくは8.0%、最も好ましくは10.0%を下限とする。
【0043】
Nb成分は、ガラスの屈折率及び分散を高め、且つガラスの耐失透性を向上する成分である。特に、Nb成分の含有量を30.0%以下にすることで、Nb成分の過剰な含有による失透を抑え、且つガラスの部分分散比の上昇を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するNb成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは25.0%、さらに好ましくは20.0%、最も好ましくは15.0%を上限とする。一方で、Nb成分を含有することで、所望の光学恒数及び耐失透性を得ることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するNb成分の含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは2.0%、さらに好ましくは3.0%、最も好ましくは3.8%を下限とする。Nb成分は、原料として例えばNb等を用いてガラス内に含有することができる。
【0044】
本発明の光学ガラスは、TiO成分の含有量に対するLn成分の含有量の比率が3.00以上であることが好ましい。これにより、高い屈折率を維持しながらも、ガラスの液相温度を下げて安定性を高め、且つガラス着色を低減することができる。従って、酸化物換算組成の質量比Ln/TiOは、好ましくは3.00、より好ましくは3.20、最も好ましくは3.40を下限とする。一方、この質量比の上限は、例えば10.00以下、より具体的には8.00以下、さらに具体的には6.00以下であることが多い。
【0045】
La成分は、ガラスの屈折率を高めて分散を小さくする成分である。特に、La成分の含有量を18.0%以上にすることで、高い屈折率及び低い部分分散比を有し、且つ、可視光に対する透過率の高いガラスを得易くすることができる。一方、La成分の含有量を60.0%以下にすることで、必要以上のガラスの分散の低下を抑制し、且つ、La成分の過剰な含有による液相温度の上昇を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLa成分の含有量は、好ましくは18.0%、より好ましくは25.0%を下限とし、さらに好ましくは28.0%、最も好ましくは31.0%を下限とし、好ましくは60.0%、より好ましくは58.0%、最も好ましくは55.0%を上限とする。La成分は、原料として例えばLa、La(NO・XHO(Xは任意の整数)等を用いてガラス内に含有することができる。
【0046】
また、本発明の光学ガラスは、TiO成分及びNb成分の質量和が8.0%以上35.0%以下であることが好ましい。特に、この質量和を3.0%以上にすることで、所望の高屈折率を得易くすることができる。一方で、この質量和を35.0%以下にすることで、これらの成分の過剰な含有による分散の上昇が抑えられながらも、ガラスの安定性の低下が抑えられ、ガラスの耐失透性をより一層高めることができる。また、ガラスの部分分散比の上昇が抑えられるため、所望の低い部分分散比を有するガラスを得ることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量和(TiO+Nb)は、好ましくは8.0%、より好ましくは11.5%、最も好ましくは15.0%を下限とし、好ましくは35.0%、より好ましくは30.0%、最も好ましくは25.0%を上限とする。
【0047】
SiO成分は、溶融ガラスの粘度を高め、且つガラスの液相温度を低くして失透(結晶物の発生)を抑制する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、SiO成分の含有量を20.0%以下にすることで、高温での溶解を回避することができ、且つガラスの屈折率の低下を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSiO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは14.0%、さらに好ましくは10.0%、最も好ましくは7.0%を上限とする。なお、SiO成分を含有しなくてもよいが、SiO成分を含有することで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSiO成分の含有量は、好ましくは0%より多くし、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは3.0%を下限とし、最も好ましくは4.0%より多くする。SiO成分は、原料として例えばSiO、KSiF、NaSiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0048】
ZrO成分は、ガラスの屈折率を高め、ガラスの液相温度を低くして耐失透性を向上する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、ZrO成分の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスのアッベ数の低下を抑えるとともに、ガラスの製造時における高温での溶解を回避し、ガラス製造時のエネルギー損失を低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するZrO成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは8.0%を上限とする。なお、ZrO成分の含有量は0%であってもよいが、ZrO成分を含有することで、ガラスの液相温度が低くなることで、耐失透性を向上し易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するZrO成分の含有量は、好ましくは0%よりも多くし、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは3.0%、最も好ましくは4.2%を下限とする。ZrO成分は、原料として例えばZrO、ZrF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0049】
GeO成分は、ガラスの屈折率を高め、耐失透性を向上させる効果を有する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。しかしながら、GeO成分は原料価格が高いことから、その量が多いと材料コストが高くなるため、得られるガラスが実用的でなくなる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するGeO成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%、最も好ましくは2.0%を上限とする。GeO成分は、原料として例えばGeO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0050】
Ta成分は、ガラスの屈折率を高めつつ、ガラスの液相温度を下げて耐失透性を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Ta成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの材料コストを低減するとともに、高温での溶解を回避してガラス製造時のエネルギー損失を低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTa成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Ta成分は、原料として例えばTa等を用いてガラス内に含有することができる。
【0051】
また、本発明の光学ガラスは、TiO成分及びNb成分の質量和に対する、GeO成分及びTa成分の質量和の比率が、1.00以下であることが好ましい。これにより、屈折率を高める成分の中でも高価なGeO成分及びTa成分の含有量が低減されるため、光学ガラスの材料コストを低減することができる。従って、酸化物換算組成における質量比(GeO+Ta)/(TiO+Nb)は、好ましくは1.00、より好ましくは0.80、最も好ましくは0.50を上限とする。
【0052】
また、本発明の光学ガラスは、Nb成分及びTa成分の質量和が3.0%以上30.0%以下であることが好ましい。これら成分の質量和を3.0%以上30.0%以下の範囲内にすることで、ガラスの液相温度が低くなるため、より耐失透性の高い光学ガラスを得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量和(Nb+Ta)は、好ましくは3.0%、より好ましくは3.5%、最も好ましくは3.8%を下限とし、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは15.0%を上限とする。
【0053】
また、本発明の光学ガラスは、Nb成分及びTa成分の含有量の和に対する、TiO成分の含有量の比率が0.80以上であることが好ましい。これにより、ガラスの安定性を高めながらも、より高い屈折率を得ることができる。従って、酸化物換算組成の質量比TiO/(Nb+Ta)は、好ましくは0.80、より好ましくは1.20、さらに好ましくは1.78を下限とする。特に、1160℃以下の低い液相温度を実現し易くできる点では、2.05を下限とすることがより一層好ましい。一方、この質量比の上限は、例えば10.00以下、より具体的には8.00以下、さらに具体的には5.00以下であることが多い。
【0054】
WO成分は、ガラスの液相温度を下げて耐失透性を高める成分であるとともに、ガラスの屈折率及び分散を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、WO成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの部分分散比の上昇を抑え、且つ、可視短波長(500nm以下)の光線透過率を悪化し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するWO成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは7.0%、さらに好ましくは5.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。一方、酸化物換算組成のガラス全質量に対するWO成分の含有量は、好ましくは0%より多くし、より好ましくは0.1%、さらに好ましくは0.5%、最も好ましくは0.6%を下限とすることが好ましい。WO成分は、原料として例えばWO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0055】
SnO成分は、溶融ガラスの酸化を低減して溶融ガラスを清澄する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、SnO成分の含有量を5.0%以下にすることで、溶融ガラスの還元によるガラスの着色や、ガラスの失透を生じ難くすることができる。また、SnO成分と溶解設備(特にPt等の貴金属)との合金化が低減されるため、溶解設備の長寿命化を図ることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSnO成分の含有量は、好ましくは5.0%、より好ましくは3.0%、最も好ましくは1.5%を上限とする。なお、SnO成分の含有量は0%であってもよいが、SnO成分を0.1%以上含有することで、ガラスの可視光に対する透過率を悪化し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSnO成分の含有量は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.3%を下限とし、さらに好ましくは0.5%より多く含有してもよい。SnO成分は、原料として例えばSnO、SnO、SnF、SnF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0056】
本発明の光学ガラスは、SnO成分の含有量に対するWO成分の含有量の比率が0.1以上3.0以下であることが好ましい。この比率を所定の範囲内にすることで、低いガラスの液相温度を得ながらも、ガラスの着色を抑えて可視光の透過性を高めることができる。従って、酸化物換算組成における質量比WO/SnOは、好ましくは0.1、より好ましくは0.3、最も好ましくは0.5を下限とし、好ましくは3.0、より好ましくは2.5、最も好ましくは2.0を上限とする。
【0057】
Gd成分は、ガラスの屈折率を高めて分散を小さくする成分である。特に、Gd成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの分相を抑制し、且つ、ガラスを作製する際にガラスを失透し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するGd成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは28.0%、最も好ましくは25.0%を上限とする。Gd成分は、原料として例えばGd、GdF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0058】
成分、Yb成分及びLu成分は、ガラスの屈折率を高めて分散を小さくする成分である。ここで、Y成分の含有量を20.0%以下にすること、又は、Yb成分若しくはLu成分の含有量を6.0%以下にすることで、ガラスを失透し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するY成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは10.0%、さらに好ましくは9.0%、さらに好ましくは8.0%、さらに好ましくは4.0%を上限とし、最も好ましくは2.0%未満とする。また、酸化物換算組成のガラス全質量に対するYb成分及びLu成分の含有量は、それぞれ好ましくは6.0%、より好ましくは2.0%、さらに好ましくは1.5%、最も好ましくは1.0%を上限とする。Y成分、Yb成分及びLu成分は、原料として例えばY、YF、Yb、Lu等を用いてガラス内に含有することができる。
【0059】
MgO成分、CaO成分、SrO成分及びBaO成分は、ガラスの溶融性を改善して耐失透性を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、MgO成分、CaO成分若しくはSrO成分のうち1種以上の含有量を各々15.0%以下にすること、及び/又は、BaO成分の含有量を35.0%以下にすることで、ガラスの屈折率を低下し難くし、且つガラスの液相温度を上昇し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するMgO成分、CaO成分及びSrO成分の含有量は、それぞれ好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは6.0%を上限とする。また、酸化物換算組成のガラス全質量に対するBaO成分の含有量は、好ましくは35.0%、より好ましくは20.0%、さらに好ましくは10.0%、最も好ましくは6.0%を上限とする。MgO成分、CaO成分、SrO成分及びBaO成分は、原料として例えばMgCO、MgF、CaCO、CaF、Sr(NO、SrF、BaCO、Ba(NO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0060】
ZnO成分は、ガラスの化学的耐久性を改善し、ガラス転移点を低くし、且つ安定なガラスを形成し易くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、ZnO成分の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスの液相温度の上昇を抑えて耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するZnO成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.5%を上限とする。特に、光学ガラスの光弾性定数を低く抑えて、光学素子に用いたときの演色性が高いガラスを得ようとする場合、酸化物換算組成のガラス全質量に対するZnO成分の含有量は0.08%以下であってもよい。ZnO成分は、原料として例えばZnO、ZnF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0061】
本発明の光学ガラスでは、RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選択される1種以上)の含有量の質量和が、35.0%以下であることが好ましい。これにより、RO成分の過剰な含有によるガラスの失透を低減し、且つガラスの屈折率を低下し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分の含有量の質量和は、好ましくは35.0%、より好ましくは25.0%、さらに好ましくは15.0%、よりさらに好ましくは8.0%、最も好ましくは4.7%を上限とする。
【0062】
LiO成分は、ガラスの部分分散比を低くする成分であるとともに、ガラスの溶融性を改善し、且つガラス転移点を下げる成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、LiO成分の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスの屈折率の低下を抑えつつ、LiO成分の過剰な含有による失透等を生じ難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLiO成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%、さらに好ましくは2.0%を上限とする。LiO成分は、原料として例えばLiCO、LiNO、LiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0063】
NaO成分は、ガラスの溶融性を改善し、且つガラス転移点を下げる成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、NaO成分の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスの屈折率を低下し難くしつつ、ガラスの安定性を高めて失透等を生じ難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するNaO成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%、最も好ましくは2.0%を上限とする。NaO成分は、原料として例えばNaCO、NaNO、NaF、NaSiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0064】
O成分は、ガラスの溶融性を改善し、且つガラス転移点を下げる成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、KO成分の含有量を15.0%にすることで、ガラスの部分分散比の上昇を抑えることができる。また、KO成分の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスの屈折率を低下し難くして、ガラスの安定性を高めて失透等を生じ難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するKO成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%、最も好ましくは2.0%を上限とする。KO成分は、原料として例えばKCO、KNO、KF、KHF、KSiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0065】
本発明の光学ガラスでは、RnO成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の合計含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの屈折率を低下し難くし、ガラスの安定性を高めて失透等の発生を低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するRnO成分の質量和は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。
【0066】
また、本発明の光学ガラスでは、B成分、ZnO成分、WO成分及びLiO成分の質量和が3.0%以上30.0%以下であることが好ましい。これらの質量和を3.0%以上にすることで、ガラス転移点が低くなるため、プレス成形を行い易いガラスを得ることができる。一方、この質量和を30.0%以下にすることで、ガラスの液相温度の上昇が抑えられるため、より耐失透性の高いガラスを得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量和(B+ZnO+WO+LiO)は、好ましくは3.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは7.0%を下限とし、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは18.0%を上限とする。
【0067】
また、本発明の光学ガラスでは、SiO成分、GeO成分、Ta成分及びNb成分の質量和に対する、B成分、ZnO成分、WO成分及びLiO成分の質量和の比率が0.50以上5.00以下であることが好ましい。この比率を0.5以上にすることで、ガラス転移点を高くする成分に対してガラス転移点を低くする成分の含有量が増加するため、よりガラス転移点の低いガラスを得易くすることができる。一方、この比率を5.00以下にすることで、ガラスの耐失透性を高め易くすることができる。従って、酸化物換算組成における質量比(B+ZnO+WO+LiO)/(SiO+GeO+Ta+Nb)は、好ましくは0.50、より好ましくは0.55、最も好ましくは0.60を下限とし、好ましくは5.00、より好ましくは4.00、さらに好ましくは3.00、最も好ましくは2.00を上限とする。
【0068】
成分は、ガラスの液相温度を下げて耐失透性を向上させる効果を有する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、P成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの化学的耐久性、特に耐水性の低下を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するP成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。P成分は、原料として例えばAl(PO、Ca(PO、Ba(PO、BPO、HPO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0069】
Bi成分は、ガラスの屈折率を高め、且つガラス転移点を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Bi成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性の悪化や部分分散比の上昇を抑えつつ、可視短波長(500nm以下)の光線透過率を悪化し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するBi成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。Bi成分は、原料として例えばBi等を用いてガラス内に含有することができる。
【0070】
TeO成分は、屈折率を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。しかしながら、TeOは白金製の坩堝や、熔融ガラスと接する部分が白金で形成されている熔融槽でガラス原料を熔融する際、白金と合金化しうることで、坩堝や熔融槽の強度や耐熱性が悪化しやすくなる問題がある。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTeO成分の含有率は、好ましくは10.0%を上限とし、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。TeO成分は、原料として例えばTeO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0071】
Al成分は、安定なガラスを形成し易くし、且つガラスの化学的耐久性を高める成分である。特に、Al成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性の悪化を抑制することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するAl成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは2.0%を上限とする。Al成分は、原料として例えばAl、Al(OH)、AlF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0072】
Ga成分は、安定なガラスを形成し易くし、且つ屈折率を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Ga成分の含有量をそれぞれ10.0%以下にすることで、ガラスのアッベ数の低下を抑制し、且つガラスの材料コストを低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するGa成分の含有量は、それぞれ好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは2.0%を上限とする。Ga成分は、原料として例えばGa、Ga(OH)等を用いてガラス内に含有することができる。
【0073】
Sb成分は、溶融ガラスを脱泡する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Sb成分の含有量を1.0%以下にすることで、ガラス溶融時における過度の発泡を生じ難くすることができ、Sb成分が溶解設備(特にPt等の貴金属)と合金化し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSb成分の含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは0.8%、最も好ましくは0.5%を上限とする。Sb成分は、原料として例えばSb、Sb、NaSb・5HO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0074】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSb成分に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤、脱泡剤或いはそれらの組み合わせを用いることができる。このとき、Sb成分やCeO成分等の脱泡剤の含有量の合計は、好ましくは1.0%、より好ましくは0.8%、最も好ましくは0.5%を上限とする。特に環境への負荷の少ないガラスを得易くできる観点では、脱泡剤の含有量の合計を0.1%未満としてもよい。
【0075】
<含有すべきでない成分について>
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0076】
本発明の光学ガラスには、他の成分を本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、GeO成分はガラスの分散性を高めてしまうため、実質的に含まないことが好ましい。
【0077】
また、Ti、Zr、Nb、W、La、Gd、Y、Yb、Luを除く、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0078】
さらに、PbO等の鉛化合物及びAs等のヒ素化合物、並びに、Th、Cd、Tl、Os、Be、Seの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、これらを実質的に含有しないことが好ましい。これにより、光学ガラスに環境を汚染する物質が実質的に含まれなくなる。そのため、特別な環境対策上の措置を講じなくとも、この光学ガラスを製造し、加工し、及び廃棄することができる。
【0079】
本発明のガラス組成物は、その組成が酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で表されているため直接的にモル%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たすガラス組成物中に存在する各成分のモル%表示による組成は、酸化物換算組成で概ね以下の値をとる。
成分 2.0〜55.0mol%、
TiO成分 0mol%超〜55.0mol%及び
Nb成分 0mol%超〜20.0mol%
並びに
La成分 0〜30.0mol%及び/又は
SiO成分 0〜50.0mol%及び/又は
ZrO成分 0〜20.0mol%及び/又は
GeO成分 0〜10.0mol%及び/又は
Ta成分 0〜7.0mol%及び/又は
WO成分 0〜7.0mol%及び/又は
SnO成分 0〜5.0mol%及び/又は
Gd成分 0〜12.0mol%及び/又は
成分 0〜20.0mol%及び/又は
Yb成分 0〜3.0mol%及び/又は
Lu成分 0〜3.0mol%及び/又は
MgO成分 0〜45.0mol%及び/又は
CaO成分 0〜35.0mol%及び/又は
SrO成分 0〜30.0mol%及び/又は
BaO成分 0〜50.0mol%及び/又は
ZnO成分 0〜30.0mol%及び/又は
LiO成分 0〜55.0mol%及び/又は
NaO成分 0〜40.0mol%及び/又は
O成分 0〜30.0mol%及び/又は
成分 0〜15.0mol%及び/又は
Bi成分 0〜3.0mol%及び/又は
TeO成分 0〜10.0mol%及び/又は
Al成分 0〜20.0mol%及び/又は
Ga成分 0〜10.0mol%及び/又は
Sb成分 0〜0.5mol%
【0080】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有量の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して粗溶融した後、金坩堝、白金坩堝、白金合金坩堝又はイリジウム坩堝に入れて1200〜1500℃の温度範囲で3〜5時間溶融し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1200℃以下の温度に下げてから仕上げ攪拌を行って脈理を除去し、成形型を用いて成形することにより作製される。
【0081】
[物性]
本発明の光学ガラスは、所定の高屈折率を有しながらも低い分散(高いアッベ数)を有することが好ましい。より具体的には、本発明の光学ガラスの屈折率(n)は、好ましくは1.80、より好ましくは1.85、さらに好ましくは1.90、最も好ましくは1.95を下限とする。一方、本発明の光学ガラスの屈折率(n)の上限は、特に限定されないが、概ね2.20以下、より具体的には2.10以下、さらに具体的には2.05以下であることが多い。また、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)は、好ましくは22、より好ましくは24、最も好ましくは26を下限とする。一方、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)の上限は、特に限定されないが、概ね30以下であることが多い。これらにより、光学設計の自由度が広がり、さらに素子の薄型化を図っても大きな光の屈折量を得ることができる。
【0082】
また、本発明の光学ガラスは、低い部分分散比(θg,F)を有する。より具体的には、本発明の光学ガラスは、0.615以下の部分分散比(θg,F)を有する。これにより、高屈折率低分散の領域にありながらも部分分散比が小さい光学ガラスが得られるため、この光学ガラスから形成される光学素子の色収差を低減することができる。ここで、光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、好ましくは0.615、より好ましくは0.610、最も好ましくは0.605を上限とする。一方で、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)の下限は、特に限定されないが、概ね0.585以上、より具体的には0.588以上、さらに具体的には0.590以上であることが多い。
【0083】
本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS01−2003に基づいて測定する。なお、本測定に用いるガラスは、徐冷降温速度を−25℃/hrとして、徐冷炉にて処理を行ったものを用いる。
【0084】
また、本発明の光学ガラスは、着色が少ないことが好ましい。特に、本発明の光学ガラスは、ガラスの透過率で表すと、厚み10mmのサンプルで分光透過率70%を示す波長(λ70)が520nm以下であり、より好ましくは500nm以下であり、最も好ましくは480nm以下である。また、本発明の光学ガラスは、厚み10mmのサンプルで分光透過率5%を示す波長(λ)が420nm以下であり、より好ましくは400nm以下であり、最も好ましくは380nm以下である。これにより、ガラスの吸収端が紫外領域の近傍に位置するようになり、可視域におけるガラスの透明性が高められるため、この光学ガラスをレンズ等の光学素子の材料として用いることができる。
【0085】
本発明の光学ガラスの透過率は、日本光学硝子工業会規格JOGIS02に準じて測定する。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200〜800nmの分光透過率を測定し、λ70(透過率70%時の波長)及びλ(透過率5%時の波長)を求める。
【0086】
また、本発明の光学ガラスは、耐失透性が高いことが好ましい。特に、本発明の光学ガラスは、1240℃以下の低い液相温度を有することが好ましい。より具体的には、本発明の光学ガラスの液相温度は、好ましくは1240℃、より好ましくは1200℃、さらに好ましくは1180℃、最も好ましくは1160℃を上限とする。これにより、ガラスの安定性が高められて結晶化が低減されるため、溶融状態からガラスを形成したときの耐失透性を高めることができ、ガラスを用いた光学素子の光学特性への影響を低減することができる。一方、本発明の光学ガラスの液相温度の下限は特に限定しないが、本発明によって得られるガラスの液相温度は、概ね500℃以上、具体的には550℃以上、さらに具体的には600℃以上であることが多い。
本発明の光学ガラスの液相温度は、50mlの容量の白金製坩堝に30ccのカレット状のガラス試料を白金坩堝に入れて1350℃で完全に熔融状態にし、1300℃〜1000℃まで10℃刻みで設定したいずれかの温度まで降温して12時間保持し、炉外に取り出して冷却した後直ちにガラス表面及びガラス中の結晶の有無を観察したときの、結晶が認められない一番低い温度から求められる。
なお、本発明の光学ガラスの耐失透性は、上述の液相温度の他、ガラス原料を50ccの白金製の坩堝に入れて1200℃〜1400℃の炉内で120分程度溶解し、攪拌し均質化した後、得られたガラスを1000〜1150℃に設定された炉内に10時間保持して、ガラスの表面及び内部、並びに坩堝の内壁との接触面に析出する結晶を観察する保温試験によっても求めることができる。
【0087】
[プリフォーム及び光学素子]
作製された光学ガラスから、例えばリヒートプレス成形や精密プレス成形等のモールドプレス成形の手段を用いて、ガラス成形体を作製することができる。すなわち、光学ガラスからモールドプレス成形用のプリフォームを作製し、このプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、例えば研磨加工を行って作製したプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりすることができる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0088】
このようにして作製されるガラス成形体は、様々な光学素子に有用であるが、その中でも特に、レンズやプリズム等の光学素子の用途に用いることが好ましい。これにより、光学素子が設けられる光学系の透過光における、色収差による色のにじみが低減される。そのため、この光学素子をカメラに用いた場合は撮影対象物をより正確に表現でき、この光学素子をプロジェクタに用いた場合は所望の映像をより高精彩に投影できる。
【実施例】
【0089】
本発明の実施例(No.1〜No.63)及び参考例(No.1〜No.3)の組成、並びに、これらのガラスの屈折率(n)及びアッベ数(ν)、部分分散比(θg,F)、透過率70%時の波長(λ70)[nm]、透過率5%時の波長(λ)[nm]及び液相温度[℃]の値を表1〜表9に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。
【0090】
本発明の実施例(No.1〜No.63)及び参考例(No.1〜No.3)のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を選定し、表1〜表9に示した各実施例及び参考例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1200〜1500℃の温度範囲で3〜5時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、金型に鋳込み徐冷してガラスを作製した。
【0091】
ここで、実施例(No.1〜No.63)及び参考例(No.1〜No.3)のガラスの屈折率(n)及びアッベ数(ν)及び部分分散比(θg,F)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS01−2003に基づいて測定した。なお、本測定に用いたガラスは、徐冷降温速度を−25℃/hrとして、徐冷炉にて処理を行ったものを用いた。
【0092】
また、実施例(No.1〜No.63)及び参考例(No.1〜No.3)のガラスの透過率については、日本光学硝子工業会規格JOGIS02に準じて測定した。なお、本発明においては、ガラスの透過率を測定することで、ガラスの着色の有無と程度を求めた。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200〜800nmの分光透過率を測定し、透過率70%時の波長(λ70)及びλ(透過率5%時の波長)を求めた。
【0093】
また、実施例(No.1〜No.63)及び参考例(No.1〜No.3)のガラスの液相温度は、50mlの容量の白金製坩堝に30ccのカレット状のガラス試料を白金坩堝に入れて1350℃で完全に熔融状態にし、1300℃〜1000℃まで10℃刻みで設定したいずれかの温度まで降温して12時間保持し、炉外に取り出して冷却した後直ちにガラス表面及びガラス中の結晶の有無を観察したときの、結晶が認められない一番低い温度から求めた。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】

【0096】
【表3】

【0097】
【表4】

【0098】
【表5】

【0099】
【表6】

【0100】
【表7】

【0101】
【表8】

【0102】
【表9】

【0103】
本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもアッベ数(ν)が30以下であるとともに、このアッベ数(ν)は22以上、より詳細には28以上であり、所望の範囲内であった。
【0104】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、部分分散比(θg,F)が0.615以下、より具体的には0.604以下であった。そのため、本発明の実施例の光学ガラスは、低分散を有しながらも部分分散比(θg,F)が小さく、光学素子を形成したときの色収差を小さくできることが明らかになった。
【0105】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも屈折率(n)が1.90以上、より詳細には1.98以上であるとともに、この屈折率(n)は2.20以下、より詳細には2.01以下であり、所望の範囲内であった。
【0106】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもλ70(透過率70%時の波長)が520nm以下、より詳細には487nm以下であった。また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもλ(透過率5%時の波長)が420nm以下、より詳細には379nm以下であり、所望の範囲内であった。一方で、参考例(No.1)のガラスは、λ70が501nmであった。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、参考例(No.1)のガラスに比べて可視光に対する透過率が高く、着色も少ないことが明らかになった。
【0107】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも液相温度が1240℃以下、より詳細には1220℃以下であるとともに、この液相温度は500℃以上であり、所望の範囲内であった。一方で、参考例(No.2〜No.3)のガラスは、液相温度が1300℃であり、特に参考例(No.2)のガラスは失透していた。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、参考例(No.2〜No.3)のガラスに比べて耐失透性が高いことが明らかになった。
【0108】
従って、本発明の実施例の光学ガラスは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、色収差が小さく、可視領域の波長の光に対する透明性が高く、且つ耐失透性が高いことが明らかになった。
【0109】
さらに、本発明の実施例で得られた光学ガラスを用いて、リヒートプレス成形を行った後で研削及び研磨を行い、レンズ及びプリズムの形状に加工した。また、本発明の実施例の光学ガラスを用いて、精密プレス成形用プリフォームを形成し、精密プレス成形用プリフォームを精密プレス成形加工した。いずれの場合も、加熱軟化後のガラスには乳白化及び失透等の問題は生じず、安定に様々なレンズ及びプリズムの形状に加工することができた。
【0110】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でB成分を1.0〜31.0%及びLn成分を40.0〜65.0%を含有し、TiO成分の含有量が30.0%以下、Nb成分の含有量が30.0%以下である光学ガラス。
【請求項2】
酸化物換算組成の質量比Ln/TiOが3.00以上である請求項1記載の光学ガラス(式中、LnはLa、Gd、Y、Yb、Luからなる群より選択される1種以上)。
【請求項3】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でLa成分を18.0〜60.0%含有する請求項1又は2記載の光学ガラス。
【請求項4】
酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量和(TiO+Nb)が8.0%以上35.0%以下である請求項1から3のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項5】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
SiO成分 0〜20.0%及び/又は
ZrO成分 0〜15.0%
の各成分をさらに含有する請求項1から4のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項6】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でSiO成分を1.0%以上含有する請求項5記載の光学ガラス。
【請求項7】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でZrO成分を3.0%以上含有する請求項5又は6記載の光学ガラス。
【請求項8】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
GeO成分 0〜10.0%及び/又は
Ta成分 0〜20.0%
である請求項1から7のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項9】
酸化物換算組成における質量比(GeO+Ta)/(TiO+Nb)が1.00以下である請求項8記載の光学ガラス。
【請求項10】
酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量和(Nb+Ta)が3.0%以上30.0%以下である請求項1から9のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項11】
酸化物換算組成における質量比TiO/(Nb+Ta)が0.80以上である請求項1から10のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項12】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
WO成分 0〜10.0%及び/又は
SnO成分 0〜5.0%
である請求項1から11のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項13】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、WO成分を0.5%より多く含有する請求項12記載の光学ガラス。
【請求項14】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
Gd成分 0〜30.0%及び/又は
成分 0〜20.0%及び/又は
Yb成分 0〜6.0%及び/又は
Lu成分 0〜6.0%
である請求項1から13のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項15】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
MgO成分 0〜15.0%及び/又は
CaO成分 0〜15.0%及び/又は
SrO成分 0〜15.0%及び/又は
BaO成分 0〜35.0%及び/又は
ZnO成分 0〜15.0%
である請求項1から14のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項16】
酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の質量和が35.0%以下である請求項15記載の光学ガラス。
【請求項17】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
LiO成分 0〜15.0%及び/又は
NaO成分 0〜15.0%及び/又は
O成分 0〜15.0%
である請求項1から16いずれか記載の光学ガラス。
【請求項18】
酸化物換算組成のガラス全質量に対するRnO成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の質量和が10.0%以下である請求項17記載の光学ガラス。
【請求項19】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
成分 0〜10.0%及び/又は
Bi成分 0〜10.0%及び/又は
TeO成分 0〜10.0%及び/又は
Al成分 0〜10.0%及び/又は
Ga成分 0〜10.0%及び/又は
Sb成分 0〜1.0%
である請求項1から18のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項20】
1.80以上の屈折率(n)を有し、22以上30以下のアッベ数(ν)を有する請求項1から19のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項21】
0.615以下の部分分散比(θg,F)を有する請求項1から20のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項22】
請求項1から21のいずれか記載の光学ガラスからなるプリフォーム材。
【請求項23】
請求項22記載のプリフォーム材をプレス成形して作製する光学素子。
【請求項24】
請求項1から21のいずれか記載の光学ガラスを母材とする光学素子。
【請求項25】
請求項23又は24のいずれか記載の光学素子を備える光学機器。

【図1】
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【公開番号】特開2012−162448(P2012−162448A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−8274(P2012−8274)
【出願日】平成24年1月18日(2012.1.18)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】